生活が宿る「僕らのソウルミュージック」──思い出野郎Aチームの1st EP『楽しく暮らそう』
昨年、15周年を迎えた〈カクバリズム〉への移籍から約1年、思い出野郎Aチームが初の5曲入りEPをリリースする。『楽しく暮らそう』と、彼ららしいスッキリとストレートなタイトルの作品。彼ららしいファンキーな「楽しく暮らそう」「去った!」、レゲエ・ディスコな「無許可のパーティー」、夏の終わりにしっくりと来そうなメロウ&メランコリックな「サマーカセット」「僕らのソウルミュージック」と、現在の彼らの勢いをそのまま象徴するような抜群な5曲を搭載したEPとなった。
思い出野郎Aチーム、初のEP作品
INTERVIEW : 思い出野郎Aチーム
胸のすく思い、この作品を聴いたときの感想はまさにそんな言葉。
本作は思い出野郎Aチームの、そのガヤガヤとした楽しさを、そして彼らが考える“生活”の風通しの良さをまるでコンパクトにまとめた作品と言えるだろう。そしてタイトルは『楽しく暮らそう』、これである。そこには彼らしい、パーティ・ピープルの連帯の楽しさもあれば、「楽しく“暮らせていない”」人たちにたいして手を差し伸べる優しい眼差しもある。そんな音楽を、彼らは「僕らのソウルミュージック」と呼んでいる。そんなの最高に決まってるじゃないですか。
インタヴュー&文 : 河村祐介
写真 : 沼田 学
(プロフィールのアーティスト写真を除く)
バンドが楽曲を作るモードになっていて
──今回、移籍後のアルバムからの、このシングルというタイミングはなにか意図はあったんでしょうか?
高橋一 : ちょうど2ndから1年が経ったんですけど、このタイミングで所属レーベルの〈カクバリズム〉から「なにか出せない?」という話があったんです。そこで、7インチのAB面で新曲2曲という感じでもなく、もうちょっと曲の入ったミニ・アルバムを出そうということになって。僕らはレーベル提案で締め切りを決めてもらわないとなかなか作りはじめないこともあって(笑)。「これ作らないとまたアルバム3年かかるでしょ」とレーベルから言われて「はい…… そうなりそうですね」としか言えなくて。とはいえタイミング的にはlyrical school(『WORLD’S END』収録の「オレンジ」)とかNegicco(『MY COLOR』収録の「スマホに写らない」)のプロデュースとか楽曲提供の仕事がちょうどあった後だったので、バンドが楽曲を作るモードになっていて、それが高まっていた状態でもあったのでちょうどよかったということもありますね。
──山入端さんは、そのぐらいのタイミングで加わったという感じなんですかね?
高橋 : そうですね。まずサポートとして大きく関わってもらったのが、去年の初のWWWのフル・ワンマンのライヴのときで、そのままなし崩し的に、だましだましスタジオに呼び続けて…… ついに正式に入ってもらったという(笑)。加入の経緯はそんな感じなんですけど、実はやまさん(山入端)は、オリジナル・メンバーでもあるんですよ。大学時代に彼と俺が思い出野郎Aチームを作ったんです。でも、やまさんは本格的な活動に入る前に失踪してしまって……。
山入端 : そう、ちょっと自分探しに行ってしまってね(笑)。
高橋 : それでトロンボーンがいなくなったので、その分の音の厚みを出そうということになったんですけど、なぜか源ちゃん(松下源:パーカッション)が加入して。
山入端 : トロンボーンが抜けた分の音の厚みを補充したいっていう話なのに、管楽器を増強するんじゃなくて、リズムを強化するという(笑)。
高橋 : もともと源ちゃんはジャズ研の後輩の友だちで、他のバンドでドラマーをやっていて。最初期のやまさんがいたときの思い出のライヴでは、彼はお客さんとして見に来ていて、最前列で一番盛り上がって、誰よりも褒めてくれてたんです。そんな事もあってパーカッションの経験もないのに、安いボンゴを渡して、パーカッションできそうな顔とキャラだったのでノリで入ってもらいました(笑)。
──山入端さんが新加入といいつつも、元々の要素がやっと揃ったということなんですね。
高橋 : そうなんですよ。やまさんは、初期の思い出から失踪した後に、バンドには参加しなかったんですけど、友人としては戻ってきていて。ここ数年は普通にライヴに遊びにきてくれていて。
山入端 : 単純にファンというか、いちばん好きなバンドは思い出野郎という感じで応援してたんですよ。そうやって会うし、飲みに行ったりはするけど、僕自体は音楽から離れていて。
高橋 : 2ndの曲をライヴで再現するのに、ヴォーカルの後ろにホーンが結構重なって入る曲が多くて。そうなるとライヴでは自分が歌いはじめると、単純にトランペットがなくなって、ホーンがサックス一管になってしまうので。ライヴでもアルバムと同じようにホーンの厚みが欲しいよねというところで、「そうだ、やまさんがいた!」と思い立って、メンバー満場一致で誘いました。
──2ndをライヴで再現するという部分がひとつ、契機になっているんですね。
高橋 : そうですね。
──なるほど、山入端さんの加入を経てというのがバンドのキャリアとしてはターニング・ポイントがありましたが、今回の作品の曲作りに関してはどうでしたか?
高橋 : 先程話したとおりリリスク、Negiccoで楽曲を作るモードになってたので、新曲のストックはなかったんですが、その続きで作りはじめてという感じでしたね。春先に、今回は珍しく3日連続でプリプロに入って。普段も毎週1回は練習するんですけど、そうではなくて毎日、昼から夜まで曲を練って、そのあとひたすら飲んでということを3日連続で繰り返して。
──内臓の方が疲れそうっすね。
高橋 : 3日目は僕の家で、スタジオで録ったデモを聞いて、いろいろアイディアを出したりして。そこで大体の曲は固まった感じですね。でも、ずっと皆で一緒にいたんで、最終日には話すことがなくなっちゃって。
──熟年夫婦みたいな感じで(笑)。
高橋 : もう、ビートルズとか流しちゃったりして(笑)。わりと前回のアルバムは元ネタありきというか、もってきたネタのオマージュをやるというのがひとつの方法論だったんですけど。今回は同じようにそうやって作った曲もありつつ、それとは別にそれぞれのメンバーのアイディアをメールでやりとりして、それを形にした曲もありました。今回はミニ・アルバムということもあって、いろんな色のあるものにしたいということもあって。
ジャッキー・ウィルソン歌謡曲を作ろうというのがあって
──2ndアルバムは夜からはじまって朝に、みたいな時間軸のストーリーがあったかと思うんですけど、今回はわりとバラエティ重視で、いまのバンドのスタイルを全部出すみたいな感じですかね。
高橋 : そうですね。アルバムの流れだと綺麗に見せられるかもしれませんけど、5曲だとなかなか流れっていうわけにはいかないですから、メンバーがそれぞれアイディアを持ち寄りながらいまの状態をそのまま音にしようと。
──それぞれの曲のキーマンがいるというようなのが、ざっくりしたイメージですか?
高橋 : そこまでがっつりしたキーマンが1曲=1人でいるわけではないんですけど。5曲目の『僕らのソウルミュージック』は長岡がコード進行やアイデアを持ってきていて、まさにキーマンという感じでしたね。バンドとしてなんとなく話していたイメージは、前半2曲はいままでのやりたい路線を踏襲した感じで、例えば「去った!」はジャッキー・ウィルソン歌謡曲を作ろうというのがあって。斎藤(録音:ギター)くんに、コード進行もそういう感じで作ってもらって。1曲目もわりかし、シカゴ・ソウル、〈ブラウンズ・ウィック〉とかのサウンド、歌詞に関してもそういうテイストを取り入れていて。3曲目は増田(薫:サックス)くんが「こういうディスコをやりたい」と持って来た元ネタ曲があって、それを意識して作り始めたらあまりにそのままの曲になってしまって(笑)。なのでレゲエのテイストを入れたら曲としてようやくまとまってきて、最終的に面白いバランスになったと思います。ディスコ・レゲエみたいな感じというか。
──たしかに、なんかインナー・サークルのやるディスコとかそういう感じありますね。
高橋 : あとはザ・クラッシュの後期の感じというか、『サンディニスタ』というか。リフは増田くんが作って、歌のサビのところは僕なんで、そのテイストの違いが意外に出ていて(笑)。
──ガチャガチャ感はでもおもしろいですよね。
高橋 : そうそう、そういう感覚でおもしろがっていて。2回目のホーンのリフはどこかエチオピアの、謎の民族感というか、黒沢清の映画感というか。
──エスノ・ファンク感というか。
高橋 : そのガチャガチャ感もあっていいなという曲。マッドネスとかザ・クラッシュとか、あの“整っていない”感とか、いなたさとかがいいなと思って。
最初は「長岡のいい曲」っていう仮タイトルがあって
──わりとメランコリックな後半2曲はどうだったんでしょうか?
高橋 : 「サマーカセット」はサビのベースとリフの動きのところが、みんな最初は拍が取れないって言ってて。今回の作品は最近買った自転車でサイクリングしながら作ってた曲が多くて、「サマーカセット」もそうやってスタジオ行くまでのサイクリングでペダルを漕ぐリズムに合わせてリフを頭のなかで鳴らしながら作って、そのままスタジオに入ってやって。
長岡 : 30分くらいずっとベースラインやってたんだけど、なかなかできなくて(笑)。
山入端:じゃあ「他のにしよう」っていうのを長岡が「ま、待ってくださいもうできるんで」っていう(笑)。
高橋 : 自分の中で自転車に乗ってイメージしてた段階ではなにも難しくなくできると思ってたんですけど。実際にやってみたら意外と難しかった(笑)
長岡 : でもすごいいいと思って、絶対使いたいと思って。
高橋 : でも、そのへんもあってかジャンルが一番わからない謎の曲になったかなと。謎のフィッシュマンズ感もあったり。
──そして最後は長岡さんの曲。
山入端 : 最初は「長岡のいい曲」っていう仮タイトルがあって。
高橋 : 歌詞ができるまでずっとそのタイトルで作業してたよね。
長岡 : もともとアルバム全体で、コーラスを入れたいよねという話はしていて。
高橋 : 最近のソウルの人たちのゴスペル・ライクな感じをちょっと入れたいみたいな話があって。それを長岡が特に意識してくれていてそういうコード進行で書いてくれて。ただやってみたら最終的にその感じがあんま出なくて合唱曲みたいになったんですけど(笑)。
長岡 : それこそPJモートンのスタジオ・ライヴなんかの感じを出せたらいいなと思って。ソウルあるあるな進行ではあるんですけど。
──モダンなR&Bの意識というのがあったという。
高橋 : そうですね。ネオ・ヴィンテージ感というか。それにシュギー・オーティスとかスライみたいなリズムマシンのチャカポコ感を入れつつという。斎藤くんと随分前にヤフオクで買ったやつですね。前から使ってみたかったんですけど、ようやく使えて。
──キーマンのモチーフはありつつ、わりとそういった感じでアイディアを出しつつで構築していったと。
高橋 : そうですね。岡島とか源ちゃんも随所に「こうなんじゃないか?」とか「こうしたい」とか、いろいろ出してくれて曲を作りましたね。そんななからジャッジをして進めていくという。
──山入端さんは曲作りっていうのはどうでしょうか?
山入端 : 僕が以前にいたときは、「Time is Over」とかの曲はすでにあったんですけど、今よりもっとセッション的にはじまって作って行くという感じだったので、こうしてちゃんと「曲作りする」というのは、じつははじめての体験なんですよね。
高橋 : 山さんがいた結成時は、わりといまみたいな歌があるソウルというよりも、JB的なワンコード・ファンクのバンドだったんですよ。だからそこまで歌ものの曲をしっかり作るというのでもなくて。「Time is Over」が、はじめて歌メロを作った曲という感じだったんですけど。だから、山さんが復帰後にはじめて曲作りに参加したのはNegiccoとlyrical schoolのレコーディングっていう。いきなりアイドルっていう(笑)。
──アイドルに曲を提供っていうのはどうなんですか? アイドルのキャラクターとかコンセプトとかいろいろあるじゃないですか。
高橋 : 正直悩んだ部分はありましたね。Negiccoとlyrical schoolは有名なアイドルだし、「俺らがやって平気なの?」という恐れはありつつ。でも結局、僕らにオファーが来ているということは、いわゆる職人的なアイドル・ソングを求められてはいないんじゃないかなと思ったので。そこで自分たちの持ち味はどこで、何を求められているのかを考えるきっかけにはなったのかなと。
世の中が悪くなっていると考えたらそういうことを歌詞にするんです
──新しい作品に戻りますが、歌詞に関して。とにかく良くて。「楽しく暮らそう」の「誰でもここに居て良いだろ / 誰もが 許しあえるだろ」というラインと「無許可のパーティ」の「野放しになってるヘイト / よりも禁止されたダンスビート」なんかは共鳴する、思い出野郎Aチームのある種のスタンスの表明的な部分があったり、この2曲と、その先にあるような「去った!」の音楽のポジティヴな感覚、さらにある種のラヴ・ストーリーっぽいことを想起させる甘く切ない「サマーカセット」があって、そしてこういう音楽の表現、この作品の感覚、全てをひっくるめて「僕らのソウルミュージック」と言っているような流れがあって。ある意味でバンドのテーマ性みたいなものをそのままコンパクトにまとめているように感じていて。
高橋 : そういうところはありますね。同じ様なことを2ndでも書いている部分はあるんですが、さらにそのときよりも僕は世の中が更に悪くなっている思っていて。自分は身の回りで起きていること、感じたことをそのまま歌詞として出すタイプなので。ヘイトみたいなことにしても、それは例えば猛暑だったら「暑ちい」って書くのと同じで、世の中が悪くなっていると考えたらそういうことを歌詞にするんです。そういうのを聴きたくない人がいるのも理解していて、そういう意味では葛藤は絶えずあるんですよ。例えば、せっかくミニ・アルバムというフォーマットで、シングルよりかは曲が多いけど、シングルに近いニュアンスのもので、がっちり自分のパーソナルな主張を出すよりかもっとバンドの魅力をキャッチーにわかりやすく作った方がいいんじゃないか?という思いもあったんですけど。でもやっぱり、率直に思うことを歌わざるを得なかったです。そこで、なにもなかったかのように振る舞うことができるような世の中の状況ではないと僕は思います。
──でも、押し付けがましい説教的なものではなく、言葉のおもしろさなんかも含めて、ポップソングとして成り立っているから、日常生活の音楽としてある意味で正しい形なんじゃないかなと思います。しかも、ある種、普遍的なことを歌っているわけで、むしろこれがある種の政治性だと思われるような世の中の方がやばいと思います。
高橋 : それがある意味でソウル・ミュージックの伝統でもあると思うので。ソウルに限らずダンス・ミュージックをやる以上、多くの表現は被差別者の人たちが勝ち取ってきたものという側面もあると思うので、その上澄みの音だけを享受して、スピリットみたいなものを継承しないというのは僕はちょっと違うかなと思っていて。シカゴ・ソウルとかもそうだし、だから僕らはある意味で伝統を踏まえているだけといえばそれだけなんですよね。批判するというよりも、歌詞のあり方としては「俺もそういうことがあることに対して心配しているよ」という感じ。もし僕らの音楽を好きになってくれた人がヘイトの対象になってしまったときに、なにもそんなことがないように振舞ったら加担しているのと同じだと思うし、もちろん自分たちも他人事じゃなくいつでも被害者 / 加害者になりえると思います。そういう意味でも、この姿勢をSNSとかだけでなく、歌詞として録音物で出した方がいいなと思っています。ミュージシャンの使命とか正義とか、そこまでのことではないし、もちろんやらなくても全然良いとは思いますが、誰もやらないのもおかしいのかなと。別にそういうことをなにも入れ込まない甘いだけのラヴ・ソングがあってもいいと思うし、それぞれのスタンスというところなんですが、自分が音楽をやるということであればちゃんと発していきたいなと。
「誰でもここに居て良いだろ」
──「僕らのソウル・ミュージック」というところで、思い出野郎Aチームの“ソウル・ミュージック”は、単なるコピーではなく、ある種の翻訳という感じがして。内容を理解した上で、意図をある種大事にして、オリジナリティを持って、自分たちの日常の文化のなかに伝える、溶け込ませるみたいな感覚というか。でも、反差別とか、別に普遍的なメッセージですからね。
高橋 : そう、この前、ユニットのイベントの後に、下北沢スリーの店長のスガナミ(ユウ)くんと話してたんですけど。俺らが言っている主張って実は保守的だよねっていう話をしていて。過激なことじゃなくて、誰でも人権あるでしょ?とか、それくらいの話。普遍的というか、人としてそもそも思想以前の問題でしょうっていう。
山入端 : でも「誰でもここに居て良いだろ」という歌詞は僕もすごい良い歌詞だと思ってて、とにかくその通りだなと。
──でも、さっきもいいましたけど、これミニ・アルバムなんだけど、この曲順がいいなと。
高橋 : 最後に僕らも曲順考えて、並べてみたらいいなと思いましたね。最初はアルバムと違って、曲のインパクトでっていうことだったんですけど、出来上がったみたらいいなと。
PROFILE
思い出野郎Aチーム
2009年の夏、多摩美術大学にて結成された8人組のソウルバンド。2015年、mabanuaプロデュースによる1stアルバム『WEEKEND SOUL BAND』をリリース。2017年、カクバリズムに移籍し、2ndアルバム『夜のすべて』をリリース。メンバーは、VIDEOTAPEMUSIC、chelmico、G.Rinaなどのミュージシャンのライヴサポート、レコーディングへの参加、Negicco、lyrical school、NHKの子供番組「シャキーン!」への楽曲提供や、それぞれがDJ活動を行うなど、多岐にわたって精力的な活動をしている。
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