“うしろから”ライナーノーツ Vol.1 : URBAN VOLCANO SOUNDS『Blue Hour』(2020年11月7日リリース)
OTOTOY “うしろから”ライナーノーツ 001
URBAN VOLCANO SOUNDS『Blue Hour』
2021年11月7日リリース / レーベル : URBAN VOLCANO SOUNDS
文 : 河村祐介
「OTOTOY うしろからライナーノーツ」は、その名の通り、リリースしてから少し経った(すごく経つこともあります)作品にスポットを当て、リリース当時にあまり語られていない、いやむしろいまだからこそ語ることができる、書ける、そんな、ピッチピチの新譜ではないけど、ひとつ記事を残しておきたい、そんな作品にOTOTOYが“うしろから”ライナーノーツ的な記事をはさみ込んでいく、そんな連載を予定しています。
第1回目は、2020年11月7日リリースのアルバム、URBAN VOLCANO SOUNDS『blue hour』。そのリリース資料の推薦コメントには、坂本慎太郎やVIDEOTAPEMUSIC、asuka ando、KONCOS 佐藤寛、HALFBY、さらには音楽ライターの松永良平など蒼々たる豪華メンツがならぶ作品。しかしながら、いまだまとまった記事がインターネットにはなく……。ということで、「OTOTOYの後ろからライナーノーツ」第1回はこの作品を。今回、新たに撮り下ろしたインタヴューとともに取り上げます。
URBAN VOLCANO SOUNDS 『Blue Hour』の“うしろから”ライナーノーツ
スムースでエレクトロニックなブギー〜ディスコ
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URBAN VOLCANO SOUNDS(以下UVS)は、それぞれのプロジェクトで活躍するアーティスト、トロンボーンとヴォーカルなどを担当するKEN KEN(ベーシストの方とは別ですよ)、プログラミングやその他のサウンド全般を担当するHacchiのふたりによるユニットで、そのサウンドは大まかに言えばポップに彩られたエレクトロニックなディスコ〜ブギー、そこには1980年代テイストなクリアでチルなAOR感が漂っている。いわゆるヴィンテージでアナログな“汚し”のあるサウンドではない。
楽曲的にはクラブ・サウンドを基礎にしながら、いわゆるDJツールとも、いわゆる歌謡〜J-POPでもない、絶妙なラインを描く、スムースでグルーヴィーなサウンド。強いていえばここ数年、世界規模で話題となっている“シティ・ポップ・リヴァイヴァル”にもどこか通じる音楽性になじむものもなきにしもあらずとも言えるが、いやむしろ、一部でもりあがりつつあるバレアリックなディスコ・レゲエを想起させるサウンドと言ってしまいたい(それは例えば、〈Jamwax〉や〈Emotional Rescute〉のようなレーベルからのリリースされるレゲエやディスコという感じ)。その印象的なユニット名は、いくつかのKEN KENからの提案からはじまったようだが、彼らが目指すサウンドの「アーバン」な質感と、しかし出てくる「どこかにボルケーノがあるというか」というイメージから決定したようだ。そのあたりがもともとのサウンド・コンセプトだということでもある。
その発起人もKEN KENの方で、彼に誘われる形で、Hacchiが参加し結成というのが成り立ちの模様だ。
KEN KEN : ブギーとかAORとか、それまではあんまり聴いてこなかったったんだけどLOS APSON?とかでそういうコンピを買うようになったんだよね。それは個人的にはDJをやるようになって、特にCocktail BoyzでのDJも大きいかな。俺も無性にそういうことやりたくなって、ハッチがそういうサウンドを好きだったのは知ってたから、それで誘ったんだよね。
KEN KENは、本ユニットではトロンボーンとヴォーカルを主に担当、いくつかのユニットやバンドを経て、2000年代から現在にいたるまで、ギターのガリバー、トラックメイク / ダブワイズなIchihashi-dubwiseの3人よるパンキッシュなエレクトロニック・ダンスホールなトロンボーン・ダブ・トリオ、KEN2D SPECIALをメインに活動。そして東高円寺Grassroots店主、Q a.k.a. INSIDEMANとのDJユニット、Cocktail Boyzなど、DJとしての活動もある。対してHacchiは、本プロジェクトではトラック制作(その他、ギターなどいくつかの楽器もこなしている)、そしてミックス・マスタリングなどのエンジニアリングまで手がけている。これまでタイジ・タカハシとのプロジェクト、Deavid Soulを中心に活動。自身のレーベル〈Twilight Tone Tracks〉を立ち上げ、複数の7インチとともに、初期のディスコ・ハウスから幾分ブレイクビーツ寄りにその音楽性を変化させた2ndアルバム『The Other Side』を2013年にリリースしている。ちなみにここにKEN KENも参加している。
Hacchi : はじめに誘われて話したのは、ケンケンのソロのサポートなのか、それともプロダクション・チーム的なユニットなのかということ。それによって参加とか提案の仕方も変わってくるかなと。UVSは後者ということになって、ワンオフにならないように最初に最低でも7インチを3枚出すというのが、まずは決まったんだよね。
ちなみにふたりの結びつきはもう少し古く、出会いは1990年代末~2000年代初頭。その接点となったのは永田一直主宰のレーベル〈Transonic〉だ。レーベルの初期カタログには、この国のテクノ・シーンの黎明期を捉えた貴重なアルバム作品が多数リリースされている。いまや海外からもそのカタログへの注目度は高い(2021年にはすばらしいリイシュー・コンピ『TRANSONIC RECORDS FROM 1994 TO 1995』をリリースしているので気になるかたはそちらを)。その後、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、そのレーベルのサウンド・カラーはテクノからブレイクビーツやジャングル、当時のラウンジ・リヴァイヴァルなどなど多様な音楽性へと変遷していた。前述のHachiのユニット、Deavid Soulの1st『Sparkling Music』は同レーベルから2000年にリリース。またKEN KENの方もいくつかのプロジェクトで当時の〈Transonic〉作品やライヴに参加していた。主立ったモノとしては、鈴木新とのユニット、Tigris And Euphrates、またはその少し後には、橋本“KIDS”剛秀(現在在日ファンクなどで活躍)、西内徹(最近では坂本慎太郎のソロ / ライヴ・バンドでのサックス / フルートが印象的だが、最近リリースのリーダー作セカンドも)、KOYO(現在はアフロビート・バンド、ODODO AFROBEATで活動)、前述のガリバーらが在籍、圧巻の管楽器アンサンブルがブロウする迫力のダブ・サウンドを展開するバンド、Trial Productionsがある。またレーベル主宰の永田一直らのグループ、Fantastic Explosionにも参加している。こうした活動のなかで、当時ふたりはレーベルメイトとしてツアー~イベントなどで共演し、交友をスタートさせたのだという。
Hacchi : 実は、ぜんぜん覚えてないんだけど、1990年代前半の六本木〈Jungle Base〉で対バンしてるんだよね。俺がHi-Speedでケンケンが“市松サウンド細工”ってバンドやってたとき(註)。
註 : Hi-Speedは佐々木敦の〈Unknown Mix〉や小林弘幸の〈Hot-Cha〉、また市松サウンド細工は円盤などを主宰する田口 史人のレーベル〈OZディスク〉から作品をリリースしている。