サイレント・ポエツ『dawn』ハイレゾ配信、そして映像であの伝説の一夜が蘇る
今春、12年間の沈黙をやぶりリリースされたサイレント・ポエツの新作『dawn』。その美意識はそのままにアップデートされたダウンテンポ〜ダブを響かせた。フィーチャンリグにはこれまでの本プロジェクトを踏襲するような海外アーティストの参加に加えて、5lackやD.A.N.櫻木大悟といった若手、そして過去にもコラボレートしているNIPPS、さらにはサイレント・ポエツのルーツとも言えるこだま和文が参加となった。本作のリリースから約半年、各所ですでに高い評価を受けているが、このたびリリース後の6月に、豪華メンバーで行われ、即ソールドアウトとなった一夜限りのフルバンド・セットでのライヴが、映画『SAVE THE DAY -SILENT POETS SPECIAL DUB BAND LIVE SHOW the MOVIE』として蘇ることになった。こちらはクラウドファンディング・プロジェクトとして映画制作資金を集め、東京、大阪での映画館での上映が予定されている。またこの発表に合わせて、本日『dawn』のハイレゾ配信も開始される。
12年ぶりのアルバム『dawn』ついに待望のハイレゾ配信開始
『SAVE THE DAY -SILENT POETS SPECIAL DUB BAND LIVE SHOW the MOVIE』
一夜限りの伝説のライヴをクラウドファンディングで映像作品化&映画館上映
2018年6月24日(日)渋谷〈WWW〉にて行われたサイレント・ポエツ25周年を記念したフル・バンドセットのライヴ。これまでの代表曲から『dawn』の楽曲を、リトルテンポやポート・オブ・ノーツ、ダブル・フェイマスといったバンドでも活躍する豪華ミュージシャンの演奏によって再現。さらにはNIPPS、5lack、そしてこだま和文など『dawn』参加ゲスト陣なども参加した。チケットは即日ソールドアウトとなったため、再公演や映像化の声があがっていたが、このたびこの日のライヴが映画として蘇ることとなった。『SAVE THE DAY -SILENT POETS SPECIAL DUB BAND LIVE SHOW the MOVIE』と題され、CAMPIREにてクラウドファンディング・プロジェクトとして本日9月28日よりスタートする。本映画を収録したブルーレイ・ディスクや映画館上映時のチケット、さらにはここでしか手に入らないグッズなども含めたさまざまなリターンが予定されている。
さまざまなリターン・グッズなど詳細は下記クラウドファンディング実施中のページにて
https://camp-fire.jp/projects/view/99350
INTERVIEW : SILENT POETS
地上数センチで響くダビーな低音とブレイクビーツ、エコーの海を泳ぐ哀愁とメランコリアが支配する旋律、サイレント・ポエツの約12年ぶりの新作はこうしたサウンドを待ちわびた、そのファンたちにあたたく迎え入れられた。ある意味で2000年前後のブレイクビーツ色の強い作品よりも、初期の感覚にも似た、レゲエ / ダブ・フィーリングの強い作品は逆にそのルーツへと立ち戻り再出発、そして新たな段階へと足を踏み込んだ宣言のような感覚もある。それゆえにこだま和文の参加は一層大きな意味を持つような感覚がある。さらには5lackやD.A.N.櫻木大悟といった新世代の邂逅は少なからず、サイレント・ポエツのサウンドをこれまで知らなかった人々に対して、そのサウンドを届ける良いきっかけとなったのではないだろうか。前述のように、即日ソールドアウトとなった錚々たるメンバーによる6月24日(日)公演がここで映像作品として新たな道を歩むことになった、そして待望の『dawn』のハイレゾ配信もここにはじまる。12年の沈黙を経て、新たな活動期をへと移行したかに見えるサイレント・ポエツ=下田法晴に話を訊いた。
インタヴュー・文 : 河村祐介
12年間のつっかえが取れました
──まずは『dawn』をリリースされて、約半年という感じだと思いますが、反響としてはどうでしたか?
反響は、とにかく単純によかったですね。長いこと出してなかったので「帰ってきてくれてありがとう」というような反響がひとつと。あとは内容的なところで、昔とは全然変わってない良さがありつつ、そこに新しいことをやっているという評価をしていただいたのは結構うれしかったですね。
─その間、音源は作り続けていたわけではないんですか?
それはしてなくて。自分の性格上「アルバムを作るぞ」とならないとなかなか動けなくて。今回に関しては『dawn』が出たちょうど1年前から作業をはじめて。それから作り出したという感じでしたね。その前にひさびさにやった、NTTのCMの曲はあったんですけど。
──ひささびにやって苦労されたことは?
苦労ってほどの苦労はそんなにないのかな。それよりも作品が出せたことの高揚感の方が上回っていて。例えば制作の予算面とか、ところどころで困ったところはあったんですけど、終わってみてこの作品ができたことを考えたら、結果がよかったんでそんな苦労も大したことなかったなという感じですね。変な悪い感情はもう残ってないですね。
──リリースを行なったことの気持ち良さの方が上回ったという。
12年間のつっかえが取れました。
──5lackさんとか、D.A.N.の櫻木大悟さんの参加というのは良い意味でサイレント・ポエツを知らなかった若い世代に対しても良い意味で「ひき」になったんじゃないかと思うんですが。
そこはすごい良いリアクションとしてあって。まずは5lackとの曲は、CMそのものの反響もあったし、もちろん5lackとは世代も全く違うから、全然世代の違う人にも聞かれるきっかけになって。それは音楽やっていく上で大事なことだったんで、すごいうれしかったですね。
──5lackさんと櫻木大悟さんの起用、わりと海外のシンガーなんかをフィーチャーするというのは、それこそトイズ・ファクトリー時代の作品などでも毎回あったので違和感はないのかなと思うんですが、どういう意図だったんでしょうか? こだまさんはまた別格、NIPPSさんは過去にもコラボレーションしていますが。
サイレント・ポエツの作品で、日本語というのがまずなかったんですよね。NIPPSさんとの「HIBAHIHI + SILENT POETS」もありますけど、あれは独立したコラボ作品という感じで。オリジナル・アルバムの音楽性のなかに日本語の歌を入れたというのははじめてなんですよね。いままでの入れてこなかったというのには理由があって、プロジェクトの歴史もありつつ、でもそれをひとつ超えて冒険してみたというところですね。日本語詞が乗っているところで、最初は結構戸惑いが実はあって。だから曲自体を仕上げても「果たしてこれがサイレント・ポエツの作品としてどうなのか」というのはいままでの流れから葛藤はありました。でも結果的には納得してますね。
──2人はどんな経緯で?
5lackは厳密にいうと、CM制作の段階で提案された部分があったんですけど、いまのアーティストのなかでも、好きなタイプのラッパーだったのでスムースに進んで。D.A.N.はサウンド的に好きで、センスが若手のバンドのなかで抜きん出ているという印象で「おっ」と引っかかるところがあったんで、声をかけてみようというのは頭のなかにあったというか。
──海外勢はデータのやりとりで?
ほぼほぼそうですね。現地行ってというのはできなかったので。
共演はじめてだったんですけど感動しましたね
──NIPPSさんとの再演はどうでしたか?
さすがですよね。いい意味でも悪い意味でも変わってない(笑)。でも「NIPPS」感は増してましたね。声も渋くなった感じもあるし。
──リリックはお任せですよね。
あれは指示してできるもんじゃないでしょう(笑)。
─そうですよね…… 。
好きにやってもらった方が意味があるのかなと。
──そしてこだまさんという。サイレント・ポエツはミュート・ビートがひとつ大きなルーツとしてあるプロジェクトだと思うので特別な意味を持つんじゃないかと。
共演はじめてだったんですけど感動しましたね。最初期に声をかけたこともあったんですが、そのときは実現できずで。憧れているミュート・ビートという存在があって。さらに今回制作しているときも「やっぱり影響を受けていたんだな」と当たり前ですけど改めて思ったところもありました。
──少し前にnewdubhallというレーベルから出た、こだまさんの作品に関して取材をさしてもらう機会があったんですけど、その作品とそして本作へのオファーがほぼ同時期で、それでいて両方ともこだまさんにとってひさびさのオリジナルの新録になるということに対して、非常に喜ばれていた印象がありましたね。
ちょうど同じ頃だったんですよね。レコーディングのときも「他でも声がかかってて、うれしいよ」って言われてましたね。ザ・ダブ・ステーション・バンドも活発で、たぶんテンションが上がってきたところだと思うので、すごくいいタイミングだったみたいですね。
──そうですね。こだまさんはやはりバンドも大事に活動されていますが、その表現とは別に、ご自身が2000年前後やっていたエレクトロニクスのダブとご自身のトランペットというミニマルな表現も大事にされている方なので、その部分をある意味で継承しているサイレント・ポエツとnewdubhallの作品への参加は非常にうれしいというような印象を受けました。
newdubhallの方もすぐに連絡をくれて、アナログを送ってきていただいて、という交流がありましたよ。
──この作品が世に出て、そしてあのスペシャル編成のライヴというのが今年の流れだと思うのですが。ああいう形式って、90年代活発にリリースされていたときでもやられていませんでしたよね?
そもそも当時もライヴというのはほぼほぼやってないんですよ。数回はあるんですけど…… それもちょこっとやったりという感じなので、今回の形式のようなフルセットでのライヴは初なんですよね。大変でしたけど、僕よりも周りで調整とかしてくれているスタッフの方が大変だったと思いますけどね(笑)。
──アーティストの編成に関しては下田さんがすべて?
そうですね。ひとつあったのが、アルバム内で海外の人がやっている部分をどうしようかなというのがあって。でもメンバー的には本当におもしろいアーティストの方たちに参加してもらったので、事なきを得たという感じで。
──編成的には完全に生バンドという感じなんですか?
曲によっては、一部ループ素材というかサンプリング・ネタを残してて、そこに演奏を重ねてみたいな形もありましたね。それは本当に曲によりけりという部分が大きくて。「ピアノは2本あるんで、1本はループで、1本は生で弾く感じで」というようなことがあったりとか。そうやって置き換えたりとか、どこを原曲のまま残すのか、みたいな部分はちょっと大変で。それはリハが何回かできたのでその部分で修正できたのが良かったですね。
──バンドのなかで、もちろん下田さんがバンマスになると思うんですけど、ミュージシャンのなかでアレンジなんかをする方はいらっしゃったんですか?
バンドの音楽的な部分、コード進行もあるので、ギターの小島(DSK / Port Of Notes)くんにお願いしました。でも、やりはじめたらベースのセイジ・ビッグバード(Little Tempo)がわりとキャラも含めてみんなをまとめる感じになってきてて(笑)。音楽的にもみんなの輪をつなぐような感じになってくれて。もともとみんな仲が良いんですけど、よりバンドとしてのまとまりを作ってくれたという感じかな。
──リハは何回やったんですか? みなさんのスケジュール合わせるだけでも一苦労という感じな気がしますけど。
3回か4回やったのかな。あのメンバーはみんな忙しくて。YOSSYさんも自身のアルバムがあったり、ハナレグミのツアーに参加したりとか。本当に合うところ、合うところのギリギリのところでやったという感じで。
そして映画へ
──そして今回クラウドファンディングで映画化し、最終的には映画館での上映というところがあるようですが。
あのライヴの2時間を作り上げるために相当がんばったし、いいものができたというのは自分たちも思いましたね。もともとはスペースシャワーの「DAX」用に記録映像を撮っていて、それをチェックしたときに、これはなんとしてでも映像作品にしたいという思いも出てきて。そこで特別なこと、映画館で大きな音で上映したいなと。自分も映画という表現がすごく好きなので、映画として自分たちが作った特別な2時間をみてみたいなと。劇場上映以外にもクラウドファンディングのプロジェクトのなかには、ブルーレイ・ディスク化というのもあって。映像作品にして、出資していただいた方には、ブルーレイと映画館の招待チケットという感じで。出資されていない方でも、上映会期中は、映画館で普通の映画料金で見れるんです。クラウドファンディングのオプションとしては、7インチとかカセットテープをつけるみたいなことも考えてますね。
──7インチはどんな内容なんですか?
ライヴで武田カオリさんのヴォーカルで、過去に出した「Save The Day」という曲をやったんですが、これをスタジオで録り直して作ろうかと。あと今回の映画のタイトルも「Save The Day」にしようと思っているので、一応、タイトル曲というような扱いですね。これを7インチで出そうかと。
──これもクラウドファンディングのみってことは相当貴重ですね。ライヴ映像の上映っておもしろそうですよね。
実際、映画館でまだ観てないですが、非常に楽しみですね。東京、大阪で予定していますが好評だったら他の映画館とかでもイベント上映みたいにできればなというのはありますね。
──ひさびさに一区切り作品を出されていかがですか? 制作モードに火がついた感じだったりすんですか?
そうですね。この火を消さないで、いまのうちにやんないと。また間が空くとどうなるかわからないので(笑)。制作自体はやっぱり「アルバムを作る」ってならないとできないタイプなので、まだ手はつけてないですけど、このクラウドファンディングのプロジェクトが終わってからと考えてますね。これで盛り上がったら「サイレント・ポエツってライヴやるんだ」とか。もっと手前で「サイレント・ポエツっていたんだ」っていうことでもいいんですが、知ってもらって盛り上がったら、もうちょっと大きいところでライヴやるというのもアリかなと。
──自分も含めて、結構まわりでもチケット探している人もいましたね、即完だったんで。
大変でしたけど、1度やってどんなものかはわかったんでまたやりたいですね。
──そういえばリリース後のトピックとしては、世界的なゲームクリエイターの小島秀夫監督作のゲーム「DEATH STRANDING」のトレイラー映像に「Asylums for the feeling feat. Leila Adu」が使用されましたね。
あるときに『dawn』を小島さんに渡すチャンスがあったんで。そうしたら普通に気にいってくれて。あの曲を聴いたらゲームのあるシーンがすごい見えたということを言ってくださって、直接小島さんから「使っていいですか?」という感じオファーがきたんです。それはもちろんぜひと快諾して。本当に、クオリティとか、もう映画みたいな映像ですよね。というかそのへんの映画を超えてますよ。
──ライヴにしろ、その後に控える映像作品、そしてゲームへの起用にしろ、やっぱり1枚作ったことによって広がった部分はすごく大きかったですね。
そうなんですよ。出さなきゃダメなんですよね。アルバム出すっていうと「これが何枚売れると採算が取れて…… 」ということを考えてしまうんですけど、それじゃなにもできなくなってしまうんですよね。でも、今回はそれを考えずに、赤字にならなきゃいいなぐらいで突き進んだら、結果としてうれしいオファーとか、今回のクラウドファウンディングのプロジェクトとかに繋がったから、間違ってなかったんだなと。あそこで中途半端なものを作ってたら、こじんまり終わってたんじゃないかと思うので。そこは大事にしたいですね。ライヴも結局そうなんですよね、これだけのすばらしいメンバーを集めて採算考えずにやったから、むちゃくちゃいいものができたという。それがまた他のところに良い方向に転んでいってくれればいいと思っています。大事ですね、本当にこうやって動くということが、25周年やってきて、いまさらながら学びました…… って、その間の半分ぐらい、12年間はやってないですけどね(笑)。
──最後に今回はハイレゾも出ますがいかがでしたか?
今回のマスタリングは、ランディ・メリルというトム・コインのお弟子さんというすごい方にやってもらいました。サウンドの部分はすごいこだわってやったので。ハイレゾに関しても「こんなにいい音なのに、なんでハイレゾ出さないんですか」って言われてたんですが、ここでやっと出せました。1回聴いて、自分の作品を聴いてもらって、新たに良い音で聴いてもらうというのもいいかなと思っています。
PROFILE
SILENT POETS
東京在住のDJ/プロデューサーである下田法晴のソロ・ユニット。1992年のデビュー以来、長きに渡る活動を通じて、メランコリックでエモーショナルなDUBサウンドを育んできた。 これまでにフランスのYellow Productions、ドイツの99 Records、USのAtlanticといったレーベルからアルバムがリリースされ、イビサ・チルアウトの歴史的名作『Cafe del Mar』をはじめ、世界各国の40作品を超えるコンピレーション・アルバムに楽曲が収録された。 2013年に自身のレーベル、ANOTHER TRIPを設立。再構築DUBアルバム『Another Trip from the SUN』を発表し、エンジニアの渡辺省二郎とSILENT POETS LIVE DUB SETとしてリキッドルームなどでライヴを行った。 2016年にラッパーの5lackをフィーチャーしたNTTドコモStyle20’ CMソング「東京」が ACC TOKYO CREATIVE AWARDS クラフト賞サウンドデザインを受賞。 2017年、FUJI ROCK FESTIVAL出演を果たし、7インチシングル「SHINE feat. Hollie Cook」のリリースを皮切りに、デビュー25周年プロジェクトを始動。2018年、12年ぶりのオリジナルアルバム”dawn”をリリース。
【公式アーティスト・ページはこちら】
https://www.silentpoets.net/