ニヤつくほど中毒性高しなシンセポップ——もう、あなたはZOMBIE-CHANGの音から逃れられない!
モデルとしても活躍しているメイリンのプロジェクト、ZOMBIE-CHANG。80年代のニューウェイヴ・シンセ・ポップを彷彿とさせるローファイ・エレクトロ・サウンドと、脱力ラップ、歌謡曲などなど、声色の表現もゆたかな彼女の歌声がのる……、いやはやなんだかこれではその音楽のおもしろさをちょっとも語っていない。とにかく、これがなんだか、とてもとても中毒性のあるメロディと言葉のセンス、そして音色も含めてそのサウンドが頭をぐるぐると駆け回っていくのだ。1年ぶりにリリースした彼女の新作『GANG!』もまた、そんな彼女の音楽の魅力がしっかりとつまった作品となっている。OTOTOYは『GANG!』を配信するとともに、インタヴューを行った。
ZOMBIE-CHANG / GANG!
【Track List】
01. I CAN’T GET TO SLEEP
02. TARINAI
03. TOKIDOKI
04. KOURAKUEN
05. KABENOMUKOU
06. WEEKEND
07. KAWAII BABY
【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 270円(税込) / アルバムまとめ購入 1,620円(税込)
INTERVIEW : メイリン
鼻歌まじりのクラフトワークというか、その朴訥とした歌声、どう考えても「わかってる」隙間のポップなエレクトロ・ビート、ナンセンスな言葉使いがのる中毒性の高いメロディはどこか電気グルーヴすらも彷彿とせる。そんな、「I CAN’T GET TO SLEEP」からスタートする本作。1度目で、アレ? 2度目で、え? 3度目は聴かずとも脳内で、それぞれの歌がループしはじめる。グライムスばりの、ドリーミー・ポップ「TARINAI」、ナンセンスな歌詞とお菓子で固められたゲットー・エレクトロのようなサウンドが転げ回る「TOKIDOKI」と思ったら、どこか1980年代の大貫妙子を彷彿とさせる、歌声の、泣きの「KOURAKUEN」。な、なんだ、これは……ということで、興味を持った小生はずずずいっと、ZOMBIE-CHANGこと、メイリンにインタヴューしたのであった。
インタヴュー & 文 : 河村祐介
写真 : 小原秦広
漫画喫茶でよく作っています!
——いまって制作環境はどんな感じなんですか? 家で全部?
家というよりは、パソコンひとつでどこでもできるので。漫画喫茶でよく作っています。
——集中ができるってことですか?
そうなんですよ。私、塾とかにあるような自習室がすごい好きなんですよ。それで自習室みたいな空間が唯一あるのが漫画喫茶じゃないですか?
——大人が入れる自習室ってことですね(笑)。DAWはなにを使ってるんですか?
LOGICです。あとは音源でKOMPLTE 10を入れてあります。
——そのふたつを使ってほぼPC上で制作しているんですか?
そうですね。あとはiPhoneで録音した音とかと一緒にビートをかましたりとかはしてます。
——自習室って話が出ましたけど、思いついたら作るというよりも、自主的に「作るぞ」ってこもってつくるタイプってことですか?
なんかつねに音楽は作ってないとダメな気がして。ずっと夏休みの宿題が終わらない感じ。ずっとそうなんですよ。一週間とか作らないと、気持ち悪いなと思ってきちゃって。「もう、漫画喫茶行かなきゃ」って。
——作らなきゃっていう、でも音楽作るのは楽しいんですよね?
楽しいけど、う~ん、やっぱり夏休みの宿題なんですよね。
——ってことは、宿題って……若干、ちょっと嫌なもの?
ちょっと嫌かも(笑)。でも、できたときの達成感とか、あとは集中しているとき、没頭しているときの感覚とかはすごい好きで。やりはじめるまでが時間かかるっていう感じですね。
——でも、家だとできない。
犬が膝とか乗ってきて……。邪魔なんで家だとできないんですよ(笑)。
——そこなんだ(笑)。もともとは弾き語りのスタイルだったそうですが、なぜ電子音と歌というスタイルに?
理由はまず弾き語りだけだと、表現として限られちゃうというか。若い女の子とか男の子は、わざわざ弾き語りを観にライヴハウスには来ないと思ってて。
——なるほど。
私はやっぱり、同世代の人たちとか、若い女の子のエキス……エキスじゃない(笑)。若い女の子を会場で見たかったり。そこで、ということは弾き語りではなく、電子音かなと思って。
——もっと単純に自分の表現として、弾き語りのときは手狭というのもあったんですか?
それプラス、本当に成長という感じですかね。そのときはがむしゃらに弾き語りをしていることがかっこいいと思ってたんですけど、でもそうやって制限を作ってしまってはもったいないなと思って。「こうだから、こう!」っていう人よりも、もっと柔軟にいろんなことに対応できる人になりたいなと。本当、成長っていう感じなんですよ。
制限を作ってしまってはもったいないなと
——例えば同じようなスタイルのひとで「あの人はかっこいいな」って思うような人はいますか?
それは全然なくて、自分のアーティストの好みとしては、バンド・サウンドとか弾き語りの人が好きなんですよ。なんかそういった自分みたいな真逆の人が、電子音をいじったらどうなるんだろうって思って、はじめたんですよね。
——安直な言い方で申し訳ないけど、やっぱり音楽性にしても、ZOMBIE-CHANGのスタイルを表現するときにグライムスってアイコンは出てきてしまうんだけど。
なんか知ってる曲はあるんですけど……そういってもらえるとありがたいんですけど。そのぐらいなんですよ。
——なるほど、そのぐらいの感じなんですね(笑)。
ほとんど電子音って自分では聴かないんですけど。でも、あえて好きなのでいうとダイ・アントワードが好きです。ラップじゃないところで好きだったりするんですけど。でも、私の場合、「ラップやってるんでしょ?」って言われかねないスタイルなのですよね。やっぱりラップっていま大きいから、トラック作って、ちょっと韻を踏んだら「あ、ラップの人」って言われて、そうするうと、本当にラップをやっている人に申し訳ないというか。
——生き辛いですね……。
自分を確立しないとなかなか大変ですね。
——でもそれだけオリジナリティがあるということじゃないですかね。そして!年ぶりの新作ということで、作るきっかけはなにかあったんですか?
きっかけというか、さっきもいったけどつねに“夏休みの宿題”の感覚なんで、音楽はずっと作り続けてはいて。1stのときは「ローファイな音がいい」って言われたんですけど。でも、ローファイになってしまうのって、私の家のなかで低コストで作ると、結果としてローファイになってしまうというか。でも、そうやって表現していただけるのはありがたいんですけど、逆に言うと「ロー・クオリティだね」って言われている気もしてしまった部分もあって。だから、今回のアルバムでは音数を減らしてレコーディング・スタジオで録って、高音質で作ろうというのはありました。
——でも、音色とか歌の感じとか、ZOMBIE-CHANGのスタイルのオリジナリティみたいなものは引き継がれているというか、やっぱり今作にも変わらない魅力として存在していて。
結局、好きな音が一緒だから、まぁ、そこまで「変わっちゃったな」って言われる変化はないと思いますけど。
——ちなみに一番古い曲は?
え、覚えてない……でも「かわいいベイビー」はだいぶ前にトラックだけは作ってあった感じで。
——これはなんでカヴァーを?
これはお母さんがカラオケでしつこく歌ってて、すごい耳に残ってて。当時はすごい嫌だったんだけど。でも、原曲聴いたらすごいよくて、かわいらしい歌なんだなんっていう。お母さんも喜ぶとおもうしいいかなと思ってカヴァーしました(笑)。
——曲を作るときのきっかけがあるわけでない?
曲によってかな。例えば「KOURAKUEN」とかは、とある映画を見て、私は結構、映画を見ると、わりと影響されて、しばらく主人公になりきっちゃう感覚があって。それである映画を観て、この曲はサラリーマンの不倫しちゃった人が、手紙を書いているという設定で。
——ああ、それでこの歌の歌詞の第一人称が男なんだ。
だから、その歌を作ってるときはグレーのスーツを着て、悲しい感じで書いてました。あ、グレーのスーツを着てるって心のなかで。
——わかってますよ(笑)。あとは全体的に声の使いかたというか歌い方がそれぞれ曲によって全然違うじゃないですか? そういうのも全部含めて表現として考えたいってことなんですか?
ひとつのことにこだわりたいというよりも、いろんなことに挑戦してみたいっていうのが大きくて、できる限りのことはすべてやりたい。だから、自分のアルバムのなかでは、自分の表現を見つけて挑戦してみたくて。それがさらに他の表現にも繋がっていったらうれしいなと思ってて。
「ゾンビーチャング、ギャング」って言いたくないですか?
——他に曲を作るときになにかきっかけになった経験ってありますか?
どうだろうな……なんの曲があったかしら……。
——出し切って忘れた?(笑)。
いや、そういうことでもないんですけど「WEEKEND」とかは、私、家に帰るときとかひとりごとが多いので、サビをそこで歌ってたりしたところからできて。それを録っといて、そこに合わせてコードひろって、あとは打ち込んで、そこからAメロ、Bメロで作っていこうみたいな。
——そのなかで音色も決めていくって感じですか?
そうですね。共通しているのは、夕方、雨が降って、道路の湿気た匂いとかが好きなんで、そういうのがひとつイメージにあって、そういう音を作りたいというのはあるかも。
——なんか郷愁みたいなのはなにかありますよね。それこそ歌謡曲的な。
そうですね。自分が曲作る限りは意気込んで作るとダメなんですよ。それよりも自分フィルターを信じて作ろうと思ってて。自分フィルターを濾過してできるものというか。「こういうの作りたいな」って選んだコヒー豆を入れて、自分のフィルターを通して落としてできたものというか。
——今回の作品で一番、気に入っている曲ってなんですか?
え! 一番? 2曲でもいいですか?
——気に入った曲ってことで。いいですよ。
やっぱり1曲目「I CAN’T GET TO SLEEP」と5曲目の「KABENOMUKOU」かな。1曲目はキャッチーな曲で、それでいろんなメッセージを忍ばせているという感じで、それができたからすごく良いかなと思って。「KABENOMUKOU」は、訴えかけるような歌詞をストレートに歌ったというながあって。それを電子音のトラックで一緒に表現できたのでうれしかったです。
――ちなみにメッセージとは?
ええ、そういうの説明した方がいいんですか……はずかしいかも。
——じゃあ、ヒントぐらいで!
ヒント! 例えば「I CAN’T GET TO SLEEP」は“現代版白雪姫”って感じのもので…… でも、りんごを食べても最近の女の人は強いから死なないぜっていう(笑)。
——全然違うんですけど、ナンセンスな感じの歌詞とか、なんか初期の電気グルーヴとか、エレポップ感とかおもしろいなと思って。
あ、でもそれ言われるんですけど。ポンキッキーズ世代なので、全部ポンキッキーズなんだと思います。小さいときに、刷り込まれて。
——『GANG』ってタイトルは?
えへへ(笑)。
——そこで笑い。
それは、恥ずかしいんですけど、「ゾンビーチャング、ギャング」って言いたくないですか?
——言いたいだけ案件ですね笑)。
はい! 言いたい言葉が好きなんですよ。
——覚えやすいし、言いたいだけの言葉、大事ですよね。
はい! それで『GANG』にしました(笑)。
——ちなみに今回のミキシングはKohhさんの作品なんかも手がけられているJIGGさんが手がけられてますが。これは自分で人選も?
そうなんですよ。前にTOKYO HEALTH CLUBの曲にフューチャリングで参加させていただいたときにお会いして。話しやすい……人はたくさんいるんだけど、それだけじゃなくて。気持ちが重なる……?
——共感しやすい?
というか、えっとテンション……テンションってどうやったら、丁寧な言葉になりますか?
――へぇ?(笑)。感情の起伏とか?
う~ん。いまどきの若者の言葉で言うと「一緒に音を作ってるとテンションがあがるし、ヴァイブスが合う」っていう。そういう言葉で表現したくないですけど、そういうことです。
――それでいいじゃないですか、いまどきの若者だし。えっと、わりと音を作るときにコミニケーションがとりやすいってこと
そう! コミニケーションがものすごくとりやすい! コミニケーションは、ちょっと私がアホっぽい……アホなのかな。
――いやいや、今日もちゃんと話できてますし。
えっと、でもアホ設定で相手から話されることが多いので、対等に話してくれるというか。いや、でもやっぱり対等よりちょっとアホ設定なのかな……。
――アホだったらあんな音楽できないですよ!
え、本当ですか。ありがたいですよ。えー、やだー!(笑)。とにかくスタジオで作業しているときは対等に話してくれて、終始笑って作業ができる感じのレコーディングで。
――そのときの経験として音を一緒に作るのがやりやすかったから今回もお願いしたと。
そうです!
――音質的なところは、コミニケーションをしっかりとれた。
そうですね。JIGGさんには絶対的な信頼があったから、絶対によくしてくれるし、もうそこら辺はJIGGさんにお願いしてて。でも、最初は私、丸投げしすぎちゃって。もっとめっちゃポップにしたいと思って、声とかもなにもいじらない方向でやってたんですけど。そしたらJIGGさんに「もうちょっと自分を出した方がいいんじゃない?」って言われて。それで声とかエフェクトかけたりして。もともとはいまのトラックに生声がのっているというだけの不思議な状態だったんですけど。
――そしてできたのが本作だと。
そうです!
ワイヤーに吊るされて、私も吊るされて
――リリースしたあとで、こういうことやってみたいとか、野望みたいなのってあります?
えっと……舞台演出でもいいですか?
――ええ(笑)。
ワイヤーに吊るされて、私も吊るされて、シンセも吊るされて、サンプラーとかも吊るされて、ライヴをこうやって空中を泳いでツツツーってボタンを押して、空中でやりたいです!
――それが野望!
タッキー(滝沢秀明)さんみたいにやりたいです!
――もうちょっと活動の目標とか……。
あ、文章書きたいです。でもどうやって書くんだろうって。
――でも「KOURAKUEN」とかある意味で小説的じゃないですか? 主人公になって情景を描くとか。あ、そうやって作って音楽を引いてみればいいんじゃないですか。
たしかに。そうしようかな、でも文章書きたいです。
――歌詞を書いてて、同世代の人の共感みたいなのって考えたことってありますか?
そこはあまり考えてなくて、なんだろう……弾き語りとかで「これを伝えたいです」っていう提示するよりも、「こうだよね?」って遠まりした方が話って聞いてもらえるじゃないですか? それを学んで、いまはそういう歌詞の作り方をしているところはありますね。
――音も歌も作れるんですから、人のプロデュースとかもありでは?
へ? 人の? そんな偉そうなことできないですよ~(笑)。
――だはは(笑)。でも言われたらうれしそうですよ。
自分でいっぱいっぱい、責任とれないですよ。やりたいといえばやりたいけど……自分より歌、うまく歌えてたりしたらショックだし……。どうだろう……。
PROFILE
ZOMBIE-CHANG
ニューウェーヴ女性アーティスト。ローファイな音源に、なんともクセになるヴォイス。そのアンバランスさが魅力の、ZOMBIE-CHANG(ゾンビーチャング)。ボーカル、トラック、パフォーマンス全てMeirin Yung一人で行う。
ZOMBIE-CHANG