インディペンデントな音楽コミュニティーの支援団体〈SustAim〉とは?──発起人のひとり、starRoに訊く
もはや音楽シーンにおいて、新型コロナ・ウィルス感染拡大に影響を受けていない者はほとんどいないと言っていいだろう。特にライヴ〜イベント分野において、ベニューやイベンター、さらには音響・照明などの裏方スタッフに、もちろんアーティストやレーベルにいたるまで、影響は日に日に深刻さをましていると言えるだろう。そんななかで、インディペンデントなアーティスト、または音楽のシーンで働く人々が集まり、ある種の相互扶助のサポートなどを目指す団体〈SustAim〉がこのたび立ち上がった。
著者がこの存在を知ったのは、コロナウィルス影響下で4月初旬に思いついたちょっとしたTwitterでのつぶやきからだ。フリーランスの多い職業で、なぜ同業者の相互扶助を行うような労働組合のようなものがないのかというものだ。このつぶやきに反応してくれたのが、starRo、その人だ。ご存知のようにプロデューサー / トラックメイカーとして活躍、2019年のグラミー「Best Remixed Recording」にノミネートされるなど、ワールドワイドで活躍しているアーティストだ。そのリプライとは、彼とその周辺がそうした団体〜組合を立ち上げようと準備しているというものであった。そして1ヶ月ほどたった5月初旬に、公式SNSなどをオープンし、活動を始動した。すでにSIRUPが〈SustAim〉に共鳴し、後述の「ホテルシェルター(HOTEL SHE/LTER)」プロジェクトへの寄付につながるなど、徐々にその輪も広がりつつある。
まずはなぜこのような組織を思いついたのか、発起人のひとりである、starRoに話を訊いた。
取材・文 : 河村祐介
INTERVIEW : starRo
──まずは、こういった組織を立ち上げようと思った経緯をお教えください。
もともとは新型コロナ・ウィルス流行の前から考えていたことでした。2019年1月に拠点をLAから日本に移しました。それまで13年間アメリカにいたんですが、この13年間というのは同時にアメリカをはじめ世界的にみるとサブスクリプションサービスが定着した時期でもあります。日本においては2010年代後半になって遅れて入ってきたという認識ですが。こうした時期だったので、自分のstarRoというキャリア自体がアメリカの音楽業界のデジタル革命にシンクして進んできたプロジェクトなんですね。それは同時にインディーズのアーティストが大手のレーベルの力を借りずとも力を持てることができた時代だと思います。ただ日本に帰ってきてみると日本は状況が違っていて。
──具体的にそれはどういうことでしょうか?
わりと自分がやっているジャンル的に比較的若い10代や20代のアーティストと話すことがあるんですが、そのキャリアパスのイメージはやっぱり大手のレーベルと契約して、という感じなんですよね。もちろんそれは選択肢のなかのひとつとしては悪いわけではないんですが、別の見方をすれば、それは活動の選択肢を狭めてしまっているところもあるわけでもったいなくて。インディ・アーティストとしての意識の部分で、人生観も含めて活動にはいろいろなスタイルがあるということを伝えたいと、コロナの前から思っていて。そしてこの新型コロナの状況の危機的状況がきたという。
──なるほど。
そしてこういう状況においては、ライヴハウスもそうですがやはり中小のところから真っ先に影響とか被害をかぶってしまっているわけです。さらに言えば、インディ・アーティストの存在、彼らは事務所やレーベルといったある種のセーフティーネットがない人たちが多い。今回のコロナの影響でそういう人たちがいるということが一般的にも認識されたタイミングでもあると思うんですよね。音源だけではなかなかマネタイズが難しく、いまパフォーマンスの部分がなくなると大変という。もちろん、まず自分自身が困っっているという。そんななかで〈SaveOurSpace〉のような動き、国に補償を求めるというのは当然のこととしてあります。もちろん自分も賛同しています。だけれども、そこで世の中から出てくる声としては「好きで音楽をやってたんだろ」という話なんです。
──社会のある種のリスク回避のために休業しているのに一方的ですよね。
「好きでやっている」というのは、ある部分では、そのとおりなんですけどね。まずは国に補償してもらうというのは正当性があると思うんですが、そういう風に言われてしまうのは、そもそも社会的な認識として音楽に関わる仕事がちゃんとした仕事として認識されていないということだと思うんですよ。言ってみれば、イメージにおいては仕事をしてない人になかに入ってしまうという。
──社会的な地位が認識されていないという。
これはもっと言えば、国に助けてもらう=国民の理解を得る形じゃないとやっぱり税金が配分されづらいということだと思うんですが、これは同時に社会における音楽の重要性が理解されないといけないことではないかと。補償を求める声を上げ続けるのはもちろんやりつつ、自助努力も続けないといけないと思うんですよね。さらにインディーズの自助努力というのは特殊で、いままでの日本の音楽業界のなんとなく共有されてきたマニュアルは通用しないのかなと思っていて。そこの部分をみんなでクリエイティヴに考えなくてはいけないと、これが良い機会なんでそれをやる集まりを作ろうというのがひとつですね。でももっと長期的な話で、いま目の前のこととしてまず食っていかないといけないというのがある。国の補償に声を上げつつだけど現状、すぐに入ってくる気配もないし、ダメだったときのことも考えなくてはいけないと思うんです。
──補償はひとつ正当なものとして声をあげつつも、他の活動も並行するという。
例えば海外では大きな企業がアーティストの支援プログラムなどをやっています。それは外資系の多国籍企業がやっているのがほとんどなんですが、その給付先はだいたいMusiCares(Grammyなどを主催するナショナル・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツ・アンド・サイエンスによるアーティスト支援団体)とか欧米にある団体なんですね。企業側が支援して、実際の配布オペレーションはそういう団体がやるという。お金ではない形で企業から出てきたものを分配するという場合ももちろんあります。でも、その恩恵を受けるためには団体に入らないといけないとか、そもそもそこにはアメリカでの納税証明とか社会保障番号が必要とか、そういう条件ががあるんですね。現状、突然申し込んでも日本のアーティストが恩恵を受けられるところはないんです。そこで日本にMusiCaresみたいな団体ないのかなと調べると、日本にはないんですよ。
参考:MusiCares : Grammyなどを主催するナショナル・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツ・アンド・サイエンスによるアーティスト支援団体
https://www.grammy.com/musicares
──なるほど、受け皿としての団体ですね。
あとは日本国内の企業でそういう支援をしているところはあまりないんですね。それはもちろんコロナの前からで、音楽系のイベントのスポンサードの状況なんかみててもそうなんですけど。それはさっき言った音楽の社会的地位の低さ、その理解というところにもつながっていることでもあるんですが。まず目先のこととして、すでにやっている音楽やカルチャーに理解のある海外の支援を引っ張ってくるとか、そういう団体が必要なんじゃないかという。
──それが今回設立した〈SustAim〉。
そうですね、それはいわゆる業界団体というよりも、アーティストの組合に近いというか、それでいてフラットな組織。それはインディーズ・アーティストのスタンスがそういうものだと思うので。中央集権ではなく、自律分散の集団という。インディーズでいる欠点というのは、みんなそれぞれやっているのでこういうときに困ってしまうと言う。それをまとめられて、情報などを集められて、さらに支援の受け皿になるようなプラットフォームができたらと思ってます。ある種の自治体みたいなコミニティが必要なんじゃないかという。その軸になるものとして、この団体を作りたかったという感じです。
気づいたらコミニティになっていたというのが理想像ではありますね
──なるほど今後は参加してもらうというのをまずは増やすということだと思うのですが。
リクルーティングは「こういう団体をはじめます」といって申し込んでもらうのはちょっと違うのかなって。例えば、それぞれアーティストさん各自の音楽性っていろいろあると思うんですけど、その音楽性が壁になってしまってはいけないと。そうではなく、ある意味でインディーズの精神性で結束できればと思います。例えば自分が手を上げた場合、なんとなく特定のジャンルでしか集まってこなさそうじゃないですか。
なので、どちらかと言えば、もうちょっとアクションを起こしていって「よくこの団体の名前をみるよね」というところで自然にフォローしてもらう。そして気づいたらコミニティになっていたというのが理想像ではありますね。まずは、情報発信をしていこうと思ってて。具体的にアメリカのアーティストなんかにインタヴューをすでにしていて、新型コロナの状況下でなにをしているのかとか、今後はどうするのかとかそういうものを掲載できればと思っています。そういうのは参考になると思うので。もちろん「こういう支援プログラムがあって申し込むと予算が出るらしい」とかそいうい情報の発信ですね。さらにはメンタルヘルスとか、いろんな情報出しをやっていきたいと思っています。
──まずは有益な情報を出しているところだぞというのを印象づけると。
そうですね。あとはいまアメリカでやっている配信フェス、〈アンキャンセルド・フェス〉。ここに月2回程度、ジャパン・ウィークというような感じの時間を作ってもらって、ライヴハウスやクラブのブッキングにキュレーターになってもらって、そこでアーティストたちに演奏してもらう。その橋渡しをするようなこととかもできればと思っています。もともと海外のものなので、海外のオーディエンスにも見てもらえると思うので良いチャンスにもなるかと。もう、クラウドファンディングや投げ銭的なものも飽和状態になっていると思うので、国内だけで回すというのは限界が見えてきているというのが状況です。国内でうまくやるだけではなく、海外のリソースもそこにプラスして、日本のインディーズ・コミニティに生かしてもらうというのが必要だと思いました。自分自身もいっぱいですけど、使えるところはみんなで使っていきたいなと思っていて。
あとはツールというところで、AudiusというSoundCloudに近いサービスがあって、それが盛り上がりつつあるんですね。アメリカでサンクラが普及した理由のひとつにリーマンショックがひとつあったんですよ。音楽業界にどこにもお金が回っていないというような状況で、お金と関係ないところでアーティスト同士が交流して、経済の回復とともに、そこがひとつの経済圏になったという話。これと同じようなことが“オーディエンス”を介してできるかもしれない、ツールとしてひとついいと思っていてその使い方を広めるとか。具体的なアクションを通してこの団体をアピールできればと思っています。ブランディングもできればという。
参考:starRoによる「Audius」内で公開している日本のアーティストのプレイリスト「StraightOuttaJapan Vol.1」
https://audius.co/starro75/playlist/straightouttajapan-vol.1--6754
参考:ブロックチェーンを用いた音楽ストリーミングサービス「Audius」がスタート(『engadget』日本版より)
https://japanese.engadget.com/2019/09/25/audius/
──音楽の地位向上など、具体的にはどんなことがありそうでしょうか?
例えば社会問題として、音楽業界に限らず、仕事が無くなったり、さまざまな理由で家にいれない人たちがいるわけですが、例えば音楽の力で得た支援金をそういう方の、一時的なシェルターを作るとかできればいいかなと。もしくはSustAimがそういった団体──まず具体的には、Hotel Shelterといった団体を支援するということが決まっています。音楽をやっている人たちが社会貢献をするというのを社会に見せるというのは、すごく重要かなと思っていています。
参考 : 「ホテルシェルター」が寄付専用プラットフォームを開設 支援団体「SustAim」と携わるSIRUPが寄付先に認定、継続的な支援を表明]]
https://www.lngglobiz.com/news/4015
取材を終えて
まだスタート段階で、今後さまざまな動きへと波及していきそうな〈SustAim〉。いわゆる業界団体というものよりも一歩進んだ、アーティストたちによる新たな社会への取り組み方となるのではないかと。ある種の職業として、音楽を選んだ人々がなにをしているのか、まだまだ音楽業界の仕事に対して、社会的な理解が進んでいないこの国で、いま、国に補償も求めながらも、そこにある危機と今後のために集まり、発信していくことになるようだ。個人的には、こういうときには、ある種のフリーランスを束ねた労働組合──相互補助の補償(医療保険や休職手当など)や各種の国への働きかけ、未払いの交渉などの法律的サポート(顧問弁護士など)、そして職業の社会的地位の向上に向けたアピールをする団体──があればとも思う(たとえばフリーランスの多い建築業界にはそうした団体がある)。そうした団体にいたるにはかなりの時間を要すると思うが(もちろん〈SustAim〉がそういった団体になるかどうかは別として)、この危機から、これが新たな一歩となればとも思う。まずは彼らの動きには注目を、最新情報は各種SNSで。(河村)
SustAim
インディペンデント音楽コミュニティー支援団体。マーケット・業界の変化に縛られない永続的な音楽文化の創出を目指し、インディペンデントな音楽従事者へ、物心両面において環境・知識・活動のサポートを提供し、安心かつ健全な活動の支援を目標とする。(公式noteの概要より)
SustAim note
https://note.com/sustaim/n/nff4c03883a36
SustAim twitter
https://twitter.com/SustAimJapan
SustAim Instagram
https://www.instagram.com/sustaimjapan
PROFILE
starRo
音楽アーティスト、プロデューサー。 プロデュース、リミックス、DJ、執筆など活動は多岐にわたる。グラミー賞「最優秀リミックス・レコーディング部門」ノミネート。現在別名義POPS研究会でも精力的に活動中。
Official Twitter
https://twitter.com/starRo75
Official SoundCloud
https://soundcloud.com/starro