ダンスフロアのテクノ・リアリズム──onomono a.k.a O.N.O、2ndアルバムをハイレゾ・リリース
目の前に広がるモノトーンの景色、色のないストロボだけが空間を刻む真っ暗闇のフロア。そこに規則正しく振り落とされる漆黒のキック、時を無表情に刻むハイハット。シンセの咆哮が、そしてノイズがそこで揺れる人々を釘付けにする。onomonoの新作は、「そこ」に居続けるアーティストだけが説得力を持って作れる、そんな音が詰まった、ダンスフロアから生まれた紛うことなきテクノ・アルバムだ。
THA BLUE HERB(以下、TBH)のトラック・メイカーとしても知られるO.N.O。そのソロ・プロジェクトの「もうひとつの顔」として始動させたonomono。そのスタイルはミニマル・テクノの強烈なる一撃である。そしてここに2013年発表の1stアルバム『unifys』から2年、待望の2ndアルバム『outcome』がリリースされる。OTOTOYでは本作をハイレゾ配信する。
繊細な電子音の表現にいたるまで、その“鳴り”の部分にまで神経を尖らせたその作品はハイレゾ音源で、奥深く楽しめる。またCDJなど、24bit音源対応のDJ機器も増えていることを考えれば、フロアでの使用ということに関してもハイレゾ音源で買う、フロア・ユースのテクノの価値は高いはずだ。
onomono / outcome(24bit/48kHz)
【Track List】
01. sastra / 02. dimline / 03. configg / 04. synonim / 05. faint / 06. unicast / 07. static / 08. emit / 09. convex / 10. static
【配信形態 / 価格】
【ハイレゾ版(左)】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 250円 アルバム 2,000円
>>ハイレゾとは?
INTERVIEW : onomono a.k.a O.N.O
2000年代後半から、ベルリンなどを中心としたハード・ミニマル・テクノ・リヴァイヴァルがあり、そこに2010年を回る頃にはUKからのベース・ミュージックとの邂逅があり、そしてここ数年でインダストリアルの風が吹いた。いや、しかしそれでも2015年現在でもざらついたヘヴィーな電子音の列、ハード・ミニマル・テクノは、いわゆるテクノ・シーンにおいて、そのモノトーンで力強いグルーヴを響かせていることに変わりはない。
「フロアで純粋に踊りに没頭出来る作品を目指して制作しました。あと、今回はアルバム単位の制作だったので10曲を通してじっくり楽しめる内容になっていると思います」 (以下、本稿の「」内の発言は今回メール・インタヴューによるO.N.O本人の発言)
そして冒頭で書いたように『outcome』は、まさにそこで鳴らさられるための楽曲を集めたアルバムと言っていいだろう。
「今回はアルバム単位という作品ですけど、結局ミニマル・テクノは“フロアのためのDJツール”だと思うんですよね。細かくツールを組み合わせて流れを作るっていう、DJでもライヴに近い感覚です。ライヴと(DJプレイが)違うのは他のアーティストが作ったツールだというところで、そこに足りなかった物やもっとほしかった要素(曲)を自分で補っていく感覚でonomonoをやっています。現場はつねにスリリングで興奮しますからね。どの作品もクラブ・ミュージックである限りそこに繋がっていると思います」
ミニマル・テクノには、この言葉に集約されるようなDJカルチャーに立脚した音楽に特有の、記名の作家性を超えたツールとしての存在感、ある種の「機能美」ともいえる感覚がある程度必要とされる。そこに「機能美」ですら隠しきれない楽曲の作家性、オリジナリティ、DJの力量、こうしたものが現場で融合し大きなダイナミズムを生む。そこから新たなジャンルさえ生まれることもある。ある種フォーマット化したイーヴンキックのリズム・デリヴァーというものが、DJカルチャーによってある程度固定化されている以上、ここにサウンドで記名の作家性を出すには、DJの側によって要求される構造やフロアでの音の鳴りを理解することが逆説的に重要となる。
シンプルなものほど難しい、生半可な態度では探究することもできないダンスフロアのリアリズムというものが存在し、そうした要件をクリアしたサウンドは圧倒的な存在感を持ってフロアで鳴らされる。ダンスフロアで鍛えられた感性がそこには大抵存在する。
「テクノのDJカルチャーに影響を受けてるのはTBHの1st以降なのでもう15年くらいです。フロアで感じる音響的な部分に変則的な組み方を実験しながら制作したのが前作『unifys』です。『unifys』はその後のonomono名義での活動の基軸になった作品でもありますね。『unifys』以降のここ2年間は全国各地(70箇所ほど)でonomono名義でDJをやってきて、気付いたらMachineLiveと同じくらいになってきました。そのDJ活動をする中で固まってきた自分のプレイスタイルに合わせて今作『outcome』を制作していきました。なので今の“現場”のonomonoのDJに近い作品になりましたね」
年々強まる“鳴り”という価値基準
本作はまさにこうした活動において培ってきた、ダンスフロアにおけるリアリズムによって構成されていると言っていいだろう。最適化と作家性の間の葛藤、これがリアルにダンスフロアで響かせることのできるひとつのポイントといえるだろう。もちろん、ダンスフロアにおいてのマナーにはこれ以外にもさまざまなポイントもある。onomono名義の作品はこうしたなかで、どのような“しばり”を持って作られたのだろうか。
「onomonoに関してはプレイスタイルに合わせて作るのでBPM124~128位で作ってます。他の名義と比べてツールとしての進行や展開は意識しますけど、あとは自由に制作していますね。テクノ・フォーマットとしての約束部分は音響的な面だと思いますね。システムを把握して常にいい鳴りを出せるように意識して制作しています。DJの選曲でも鳴りを一番重視してますしね」
ここ10年で音の良いクラブ、という会話で現場のDJやアーティストと話をして、よく出てくるのはこの“鳴り”という言葉だ。Function-OneというPAシステムの登場以降、ベースラインの表現やサウンドの透明感などなど、そのシステムの解像度の良さが話題となりある種の基調になっていく。Function-Oneの他にも、高い解像度やベースラインの表現に秀でた、さまざまなシステムがその後も登場しているが、ここにDTMや機材など、音楽機材 / ソフトウェア / 録音技術の向上も相まって、相互補完的に切磋琢磨され、音響の質感を変えてきている。リフや音色といった部分もそうだが、ダンスフロアにいると、いまやこうした“鳴り”の部分でその楽曲の時々の音の流行り廃りを感じることもあるほどと言っていいだろう。O.N.O名義でのMachineLiveでのツアーも含めて、本作にも彼のそうした現場での活動がダイレクトに反映された“鳴り”を獲得しているといえるだろう。フィジカルな体感からくるサウンドが、まさにそれだろう。
「MachineLiveでのツアーはわりとテクノのイベントが多いので各地の格好良いDJを聴けてインプットがたくさんできました。音楽は現場でしか聴かないので常に影響は受けます。今作の方向性は決まっていたので半年もかからずにほぼ完成していたと思います。あとはプレイを重ねて改良するスタイルです。それはO.N.O名義とも変わらないいつもの制作方法です」
順番的には2014年のO.N.O名義のアルバム『Ougenblick』をリリース後の作品となるが、やはりミニマル・テクノというメインのコンセプトが大きく作用し、作風にしても、その受け止められ方にしてもそのイメージは大きく違う。
ちなみにDJやアーティストで、「おもしろい」と思うミニマル・テクノ・アーティストはいるのかという質問に対して。
「A.MochiとTAKAAKI ITOHがとても好きです。あとonomonoを始めるのにYuta Tsushimaという札幌のDJにとても影響を受けました」
という答えが返ってきた。A.Mochiはドイツはレン・ファキにも認められたハード・ミニマリスト、TAKAAKI ITOHもまた世界各国でリリース、活動し、また東北を代表するテクノ・アーティストと言ってもいいだろう。そしてYuta Tsushimaは、彼の地元でもある札幌の〈プレシャスホール〉などで活動しているアーティストだ。おそらく「音楽は現場でしか聴かない」というその言葉、そのまま、彼が現場でその才能を体感したアーティストたちといったところだろう。
2014年リリースのO.N.O.『Ougenblick』ティザー映像、onomono名義と大きくビートの感覚は違う
「O.N.O」というサウンドの刻印
こうして作られたサウンドはやはり、ある種の説得力を持って海外のミニマル・テクノとも地つづきの迫力を持ちつつ、それでいて彼の音というのを伴って響いている。そして聴き込むうちに、ツールと表現の間を絶妙なところで行き来する「彼の表現」をそこかしこに見つけることができる。アルバムをスタートさせる「sastra」や「synonim」などの変拍子的なリズム感、「configg」で見せるカット・アップ・ノイズとリズムのグルーヴィーな共演。もっと大きなところで言えば、すべての曲においてリズムの裏側で渦巻く、ダブワイズされたノイズや電子音、パーカッションなどサウンドの細かなテクスチャーはアルバム全体の空気感を決定している。それこそ、彼がさまざまな活動で培ってきたサウンドの片鱗と共通のバイブスを発揮している。このあたりは24bit音源、いわゆるハイレゾ音源の強みという部分が、聴覚に与える影響もあるのかもしれない。こうした彼のアーティストとしての素養を、onomonoがonomonoたるミニマル・テクノの感覚が支配をすることで本作は成立している。
今後は、リミックスを含めた12インチなどのリリースを予定しているという。 「リリース・ツアーはライヴを主体に各地まわりますので是非踊りに来てください」という本人の言葉通り、本作が気にいったのであればぜひともダンスフロアで生で、体感すべきだろう。本作がどこから来たのか? 本作のサウンドの由来を考えるのであれば、間違いなくダンスフロアでこそ、その作品の肝がわかるはずだ。
text by 河村祐介
RECOMMEND
ここ数年のアンダーグラウンド・テクノの流れを知るのにこれほど極上のサンプルはない。ヨーロッパでも認められたアンダーグラウンド・テクノ・スタイルの金字塔的作品。インダストリアル〜ロウハウス〜アヴァン・テクノまで盛りだくさん。
テクノではないものの、ヘヴィー&インダストリアルなその音像は本作にも通じる感覚はあり。グライムとダブステップ、インダストリアル、そしてテクノの最新ミュータント。
こちらも国産テクノ / ハウスのなかで、そこれそ”鳴り”も含めて世界レベルの作品。美麗なウクライナ人DJ、ニーナ・クラヴィッツのレーベルからリリース予定とか。
onomono "outcome" release tour
2015年12月19日(土)@大阪COMPUFUNK RECORDS BACKROOM
2015年12月20日(日)@静岡BLUE NOTE 1988
2016年1月17日(金)岡山DELETE
2016年1月16日(土)神戸troop cafe
2016年1月22日(金)水戸CLUB VOICE
2016年1月23日(土)宇都宮SOUND A BASE NEST
2016年1月29日(金)中目黒solfa
2016年1月30日(土)つくばOctBaSS
2016年2月13日(土)京都West Harlem
2016年3月5日(土)函館stone love
2016年3月18日(金)広島Mugen5610
and more... to be announced !!!
PROFILE
onomono a.k.a O.N.O
O.N.Oによるミニマル・テクノ・プロジェクト:onomono。THA BLUE HERBの全トラックメイクを手掛け、その手ひとつで独自のサウンドを展開し続けているO.N.O。現在までにソロプロジェクトあわせて10枚のアルバムを発表し、シーンの中枢を鋭く抉る独自の楽曲群を生み出し続けている。独自に編み出したドラミング理論の再解釈やBPM、グリッドの制約から解放されたトラックは新たなフィールドへの挑戦をし続ける。そしてよりストイックにミニマリズムを追求し、叩き出された音圧と強度、それらが織りなす比類のないグルーヴは、反復し変質し続ける音の連続体"onomono"プロジェクトを完成させた。
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