こだま和文 x 高橋一(思い出野郎Aチーム)──特別対談:日々の生活、そして音楽
この国のダブのオリジネイターにして、ミュート・ビートやソロ、プロデューサー、そして現在では“THE DUB STATION BAND”を中心とした活動を続けるこだま和文。そしてメッセージ性とポップスとしての力強さを兼ね備えた、唯一無二のファンク・グルーヴを紡ぎ出す、思い出野郎Aチーム。この2アーティストの対談を組んでみようと思ったの昨年末のことだ。2019年後半に入ってリリースされた、それぞれの作品がどこか同じ響きを根底で持っていることを感じたときだった。詳しくは後述するが、ともかく彼らを引き合わせた記事を作ってみたい…… 本稿はそんな編集部の思いが結実したものだ。相も変わらず世の中は混乱している、でも音楽を聴き続ける、そして音楽を作り、演奏し続ける人たちがいる、日々の暮らしを送るために。
取材・文 : 河村祐介
写真 : 小原泰広
LPリリースも2020年初夏に決定!本格始動14年目にして初のオリジナル・フル・アルバム
結成10周年を経てたどり着いた、日々の生活を歌う芳醇なグルーヴ
KODAMA AND THE DUB STATION BANDワンマン・ライヴ、3月3日開催
「かすかなきぼうMarch」
2020年3月3日
OPEN 7PM / START 8PM
@渋谷CLUB QUATTRO
出演 : KODAMA AND THE DUB STATION BAND
こだま和文(Trumpet, Vo)、ARIWA(Trombone, Vo)、HAKASE-SUN(Keyboard)、AKIHIRO(Guitar)、コウチ(Bass)、森俊也(Drums)
前売:4000YEN+1DRINK / 当日:4500YEN+1DRINK
前売り、当日券ともに詳しい情報は下記バンド公式WEBまで
https://dubstationband.weebly.com/
対談 : こだま和文 x 高橋一(思い出野郎Aチーム)
話は年末に遡る、2019年に後半に最も聴いた邦楽のアルバムはダントツで、KODAMA AND THE DUB STATION BAND『かすかな きぼう』、そして思い出野郎Aチーム『Share the Light』だった。前者は、日々の生活の力強さ、その根底にあるグルーヴをそのままスカ、ロックステディ、ルーツ・ロック・レゲエのリディムへと描き直し、こだま和文のトランペット、そして新たに加入したアリワのトロンボーンとのアンサンブルが生活の営みを時に鼓舞し、ときに癒やす、そんなアルバムだった。そしてかたや『Share the Light』は、彼らしい言葉使いと、豊かなファンク~R&Bサウンドで日常の楽しみをひとつの光源としながら、不寛容と不正に「やられている」、この浮世で生きる人々をエンパワメントするそんな作品だった。前者のタイトルにおける「きぼう」、そして後者の「the Light」は僕にとって、別の表現でいながらどこか、この日常を力強く生きるためのヒントとして共鳴しているように聞こえたのだ。と、そんな話をとある現場で会った思い出野郎Aチーム、高橋一にしたところ、彼らは他のメンバー含めて、こだま和文の大ファンだという。自分が抱いた感感は、妄想ではなく、これは音楽から生まれる必然だったと言えるのではないだろうか、このふたつのアーティストを引き合わせた記事を作ってみたい…… その気持ちはより強くなった。思えばリリースから数ヶ月前、七夕の下北沢〈シェルター〉にて行われて主催イベント〈ウルトラソウルピクニック〉にて、KODAMA AND THE DUB STATION BANDを招いている。2019年末にリリースされた2枚のすばらしいアルバムの共鳴感もふくめて、そういえばトランペッターでもあるこのふたりに対談を申し込んだのだ、そして実現した。
311以降、意味が強まった音楽というのが、こだまさんの音楽だった
──マコイチ(高橋一)さんがこだまさんの音楽を最初に認識したのはいつでしょうか?
高橋一(以下、高橋) : 高校生のときですね。ミュート・ビートの4枚のアルバムが紙ジャケットで再発されて(『Flower』『Lover's Rock』『March』『Live』の2002年の再発)、同時にこだまさんと屋敷豪太さんのライヴ・アルバム(『Live (12.21.96)』)もリリースされたタイミングだったんです。そのときに店頭展開してあったのを見たときですね。当時、吹奏楽部でトランペットをやっていたのもあって、日本のトランペッターという情報と『Flower』のジャケット・デザインにひかれて買ったのが最初です。もちろんレゲエとかダブとか知らないし、当時、スカというえばスカコアが流行っていてそちらの方が先にイメージにあったので、『Flower』を聴いたときは衝撃的で。こだまさんのトランペットのトーンも、ものすごくオリジナリティを感じて、そこからずっと聴き続けてますね。その後でミュートの作品やソロも買い集めるようになって。他の思い出野郎Aチームのメンバーもこだまさんの音楽がとても好きなんですが、メンバーも自分も、こだまさんの音楽に向き合うということで言えば、ひとつ転機があったんです。それは2011年の東日本大震災。当時すでにバンドは結成していたんですが、まだ大学を卒業してすぐとかメンバーによってはまだ学生だった時期。あのとき音楽を作ったりすることの意味を問われるような瞬間があったと思うんですよ。
──続けていくのかどうなのかみたいなところまで踏み込んでいくアーティストもいらっしゃいましたね。
高橋 : そんななかで聴いていた音楽も311以降と以前で、その感じ方が変わってしまって。311以降、それまで聴いていた音楽でも、過去のノスタルジックなモノになってしまうのと、よりその強さや現代性を感じるようになった音楽に分かれていって。自分たちにとって後者の意味が強まった音楽というのが、こだまさんだったり、それこそじゃがたらだったり。そうした音楽がすごく響いて、より深く聴きこむようになったんですよ。それはバンドのメンバーが共有している感覚で。ちなみに、こだまさんたちを7月に呼んだ〈ソウルピクニック〉というイベントは、もともと僕らが〈TOKYO SOY SOURCE〉に憧れがあってスタートしたイベントなんですよ。世代的には、記事でしか読んだことのないイベントですが、似たジャンルではないアーティストが集まっていて、なれ合いでやっている感じもなくて。ストリート感もあって、でもどこか一貫した姿勢のアーティストたちが集まっていてという。当初は「都市生活者の夜」(じゃがたら『ニセ予言者ども』収録の曲名)というイベントにしようとかいう話もあったぐらいで。とにかく僕らは勝手にこだまさんにずっと影響を受けてきたんですよ。
──そして昨年はその〈ウルトラソウルピクニック〉で念願の対バンを果たしたわけですね。
高橋 : なので、2012年にイベントをスタートしたときからこだまさんはずっと呼びたいアーティストだったんですよ。でも、こだまさんに対して思い出野郎Aチームが列ぶことができるのかという問題があって…… もちろんいまもそんな自信は全然ないんですけど、10周年でご褒美のようなブッキングとして。
こだま和文(以下、こだま) : 対バン以前に、〈TOYOTA ROCK FESTIVAL〉に出たときに、彼らはわざわざ自分たちの作品を持って、楽屋へ挨拶に尋ねてきていただいことがあったんです。そこから作品は聴いたりしていました。マコイチくんがいま話してくれた話、最初に僕の音楽を学生のときにピックアップしてくれたときの話、そして311を境に僕の音楽を別の受け止め方をしてくれているという話、さらには僕らを誘ってくれた。それは、とても良いイベントでした。その3つのことが、僕にとってはどれもとてもありがたい話です。僕はこれを聞けただけでも本当にうれしいです。
高橋 : いやいや(笑)。
本当に次々とうれしい話ばかりで、ありがとう
──せっかくなのでいろいろ話しましょう(笑)。昨年末にリリースされたそれぞれの2枚『かすかな きぼう』と『Share the Light』を愛聴するなかで、どうしてもどこかなにか共通する感覚を感じてしまって。
こだま : ありがとう。
──たしかマコイチさんは『ミュージック・マガジン』での個人チャートでも『かすかな きぼう』を上げられてましたよね。
高橋 : 本当、ことあるごとにこだまさんの作品は聴いていて。セカンド・アルバムには“マジック・ナンバー”という曲があるんですけど、「音楽は無力かもしれないけど、音楽は希望なんだ」というようなテーマの曲なんですが、これを作ったときに聴いていたのがこだまさんの『A Silent Prayer』なんですよ。歌詞を書くのに煮詰まってしまって、あのアルバムを聴きながら書いていました。今回のこだまさんのタイトルを見て「なにかつながれたかも」と勝手に思っていて。でもとにかく、ダブ・ステーション・バンドの現在のフル・アルバムを聴きたかったので、とにかくそれがうれしいですね。外に向いているような作品に思えて、復活した〈TOKYO SOY SOURCE〉のライヴなども観させていただいているんですが、ベテランの人が昔の音をやっているんじゃなくて、いまのフレッシュな音楽をやっているという感じがして。
こだま : 本当に次々とうれしい話ばかりで、ありがとう。ありがたいことですよ。作品を出したり、ライヴをやったりすることで気がついてくれる人たちがいるっていうことが一番のことなんですよ。
──こだまさんの音楽に対して具体的に影響を受けたというのはどこでしょうか?
高橋 : 僕は、歌詞も自分で書くんですけど課していることがひとつあるんです。そこで描かれている自分が生きている世界を物語化しないということ、別の言い方をすればドラマチックに自己演出しないということ。それはこだまさんの本からも影響を受けていて。あのなかには葛藤もありながら、生きていてそれを繰り返しているというような姿がある。それがインストの曲にも投影されている気がして。その部分がリアリティとして僕らには響いてるんじゃないかと思っていて。ドラマチックではない、日々の反復、そいういうものがすごく投影されている音楽だと思っていて。
こだま : 思い出野郎もCDを聴いたとき、ライヴの印象もとても強いバンドなんだけど、そこで感じたことは、いま僕の音楽についていまマコイチくんが語ってくれたこと、それが全く当てはまると思いますよ。
高橋 : ありがとうございます。
こだま : はじめにCDをもらったときは、「名前からしてファンキーなバンドなんだろう」というのは思っていたんですよ。でも実際はそうじゃないなにか、日々の感じがあって、過度な演出をしないというかさ。まさしくそいういうグループになっていると思う。
高橋 : 311以降、勝手にこだまさんの作品やなんかで思っていたことを、自分の作品に投影して作ってたので。本当に、世の中がハードになればなるほど、普通の生活を繰り返すことが奇跡的なこと。しかもそのなかで音楽をやれているというのはすばらしいというか。
こだま : 対バンのときに、思い出野郎Aチームのライヴで感じたことはね。なかなか出そうとしても出せない感覚ですよ。あの編制だと、それなりにタッチの強い演奏もするわけだけど、全体的に醸し出すものはいまの若い人たちの気持ちをどっかで救っていくような感覚。それは「優しさ」とか「温かさ」という言葉ともちょっと合わないんだけど、そういうなんとも言えない…… 穏やかさかな、工夫されたサウンド、そして曲のバラエティのなかで全体的に醸し出しているものがある。これはね、言葉で言うと軽くなってしまう。ライヴのときは、観客の方たちの間にも間違いなくそういうものを共有している感覚があった。
高橋 : こだまさんにそんな風に言ってもらえるのは、本当にうれしいですね。
こだま : いま「優しい」とか「温かい」という言葉はものすごく軽くなってしまっているだろ? これだけ大変な時代、思い出野郎のライヴに来る若い人たちにとって、自分の吸いたい空気を吸いに来ているような、そんな感覚をリスナーとバンドの間に感じたんだよね。これを出せる音楽というのはなかなかないだろうなと思っていて。
自由を阻む存在は、本当にどんどんより強くなっていると思うので
──ちょっと話をかわりますが、個人的には『かすかなきぼう』の“きぼう”、『Share The Light』の“Light”の部分はひとつ突き詰めると、僕には“自由”という言葉が浮かびあがってくるんですが、「自由」と言ったときに浮かぶものはなんでしょう。
こだま : 自由とはなにかというと、すごく大きな話になってしまうけど、やっぱりいまは「自由にさせないものはなにか?」と考えるのがいいと思うんだよね。端的に言えばそれは例えば、差別とか政治の不具合とか。そんなことを思えば、自由であること、というのが見えてくる。
高橋 : そうですね。
こだま : あっけらかんと楽しいことばっかりにつながりそうなニュアンスもあるけど、決してそれだけではないしね。厳しい状況にあるなかで、そこから悪影響を受けずに自分の暮らしや音楽をキープする、そこには金銭面もあると思う。それはひとそれぞれですよね。そういえば僕のTwitterアカウントのプロフィール欄には「くらべない」ということが書いてある。それは自分にとって大事な言葉なんですよ。差別でも人のことを妬んでしまったりというのは、くらべるから出てくるんですよね。「くらべる」ことのないくらし、それが僕にとって自由のひとつだと思いますね。
高橋 : 自由を阻む存在は、本当にどんどんより強くなっていると思うので。
こだま : 子供のときに「これは不自由だな」と思ったこと。例えば、何十年も前から、「これはおかしい、こんなものは長く続かないだろう」という校則がある。でもそれが無くなるどころか…… という話だよ。得体の知れない嫌なものが、そこかしこにあるんですよ。もちろん、長い歴史を考えれば人間とは、ずっとそういう存在だという風に考えることもできるんだけど。でも、いまは白い紙と黒い紙とがあってだよ、自分が白い紙だと思っていたものを「黒だ」って言われちゃうような世の中なんですよ。そのわからなさ、怖さを日々感じるわけですよ。
高橋 : そういうものに脅かされないように日々を暮らして、音楽をやっていくというのがカウンターになってしまうという。たとえばこだまさんがTwitterで料理を上げることが、ある人にとってみればひとつ心が軽くなるような救いになったりということはあると思いますね。ミュート・ビートの頃から、例えば原子力だったり、差別だったり、戦争だったり、そういうことに対して異を唱えてこだまさんは音楽をやられていたというイメージがああります。当時はバブルで、世の中的には裕福だった。そのなかで当時の時代の日本の音楽にはそういうことをおくびにも出さない音楽もあったと思うんですけど、僕らは後から聴いて、そういう音楽ではなくこだまさんやじゃがたらのような音楽に惹きつけられました。で、厳しい時代になるなかで、ある意味で当時の音楽がいまリヴァイヴァルしていると思うんですけど、差別みたいなことに対してあまりにも無自覚な音楽が多くて。もちろんそういう音楽があること自体は良いんですが。そういうメッセージがありながら、圧倒的に踊れる音楽というのが僕は好きなんです。
──例えば「それはかつてあって」という曲で、思い出野郎Aチームは関東大震災直後の在日コリアンの方たちへの虐殺事件を、ある種、自分も同じところで生活する地続きのできごとして歌ってます。でもちゃんとある種のポップ・ミュージックとして成立もしている。そういうところではないかなと。歴史と日常が地続きだということ。
こだま : 本当にそうだよね。何年経っても、何年生きてきてもとんでもないもの、自由を脅かすものがすぐ隣にあるんだよ。そこでどう生きていくのかという。僕らは音楽を人に聴いていただくというのが日々の基盤になっているわけだけど、例えば他にも絵を描く、文章を書くという表現をするというのがものすごく厳しい時代になってしまったわけですよね。大工さん、水道工事のかた、畑を耕したりと、なにか自分のことをアピールするような仕事ではなく地に足が着いた職業で日々を過ごしていけているならば……それはそれで大変なことだと思いますよ。でも、僕はそれをしてこなかった。よりにもよって音楽ですからね。しかも何人かの人間が集まって、リハーサルをして、しんどい思いをして作り上げて、それに対してお金を払ってくれるひとたちがいて成り立っていくという。音楽で成り立っているというのが、正直もうなにかわからないんだよね。
高橋 : いやいや(苦笑)。
こだま : そのなかで自分のことはいつも矛盾している存在だと思っていて。表現ということで言えば過度な演出はしないという話。それは思い出野郎Aチームにもあるけど、僕も心がけてきたことだよ。ところがさ、聴いて欲しいんだ。
高橋 : たしかに。
こだま : 「今日は良かったです」ってやっぱり言われたいし、それと同じことがTwitterなんかにも言えていてさ。なにも自分の食い物を写真に出すことはないと思うんだよ、料理研究家なら別だけどさ。そういうことをやってしまうという。311の震災以降で言葉を亡くしていった自分もいながら、同時に「僕はこうなんです」ってわかって欲しいというのがつきまとう、その矛盾もあるんですよ。坦々と自由に、日々の暮らしをできたらいいんですけどね。そういうはわけにはいかないんだよな、それは音楽やってるからだと思う。でもそこにはメンバーもいてくれて、メンバーは大きいよ。
自分がやる音楽のいちばんのリスナーはメンバーなんだよ
高橋 : メンバーは大事ですね。こだまさんはバンドとソロというのは明確に頭のなかで分けて曲を作るんですか?
こだま : それはどちらも僕自身だから、生み出すものは変わらないと思う。絶対的に違うのはメンバーがいま6人いて、集まって音を出しているということなんですよ。ある日僕らは集まって、自分がやりたい音楽をやるために集まるという。それはものすごく大きいことだと思います。これまで僕はメンバーと呼べる人間を亡くしてきたことも大きいですね。続けていけばいくほど、見送った人もいっぱいいて。そうすると、一緒に音を出せるというのは厳しいけど、ありがてえなと思いますよ。それもまた日々のうち。それにしても思い出野郎は人数いるから大変だよな。でも、そこは恵まれた状況にあるよな。
高橋 : 大所帯でフル・バンドでできるというのはありがたいですね。
こだま : 僕はつねに思うんだけど、自分がやる音楽のいちばんのリスナーはメンバーなんだよ。お客さんはゼロでも、徹底的に聴いてくれている。そこからはじまっていくということを考えれば、これはすごいことなんですよ。
高橋 : いま、メンバーにデモを送るのがリリースよりもドキドキするかもしれない。
こだま : それはあるね。嫌われたくないなんて思ったりするよね。その逆もあるしね、「これはわからないかな…… 新しい俺なんだけど伝わるかな」という。
高橋 : こだまさんでもあるんですね、そういうこと。
こだま : もちろんあるよ。そういえば、最近、僕らのバンドを見てて思ったことがあって、このバンドは口数が少ないんですよ。ここ何回かリハーサルでドラマーの森俊也と挨拶だけはじめにして、その後、会話せずにリハーサルが終わってということがあって。その日、夜中になって思い出して「そういえば森俊と今日なにも話さなかったな」って。でもそれは音を一緒に出してるから、話さなくてもいいんだよね。それが音楽なのかなって思うよ。
高橋 : 家に帰るまで気づかないくらい、ちゃんと音を出すというコミュニケーションをしているからということですよね。
こだま : シンプルですよね。
高橋 : でもやっぱりダブ・ステーション・バンドは手練れ集団なんで、特にそうなりそうですよね。僕らはすごいしゃべりますね。「ここ違う、あそこが違う」みたいなことは絶えずやっていて。
こだま : それはそれでいいですよ。
こだまさんの音色って、どういう会場で聴いてもわかる、唯一無二の音
高橋 : 僕もトランペッターなんで気になるんですけど、いままでこだまさんがあまりトランペッターとしてインタヴューされている記事がないなと気づいて。ひとつ訊いてみたかったことなんですが、こだまさんの音色って、どういう会場で聴いてもわかる、唯一無二の音だと思っています。こだまさんのなかで音のイメージがあって、その音になるように練習してきたのか、それともいまの音に自然になったのかどっちなのかすごく気になっていて。
こだま : いろいろな音楽をやってきたなかで、楽器はずっとトランペットで。自分のトランペットの音ということよりも、結局レゲエを知ったことが大きいと思う。オーガスタス・パブロ(編注)の鍵盤ハーモニカとか、そういったものの影響、そこから自然にこの音に落ち着いたんだと思いますよ。あとはさまざまな形で、自分の音楽を人が聴いてくれるようになって、いまみたいになにかを自分の音楽に対して言ってくれることが出てきた、それで「俺はそういう音を出しているのか」と客観的に意識するようになっていってというのはあります。でも、やっぱりそれ以前に聴いてきた音楽に、いまの自分の音につながる要素があったんですよ。それはマイルスもあるし。例えばマイルスが「ビブラートはかけるな」という言葉があって、それを心に留めていた。その後、パブロの音源なんかにも出会うわけだけど、まさしくそれを裏付けるような演奏に出会うわけだよ。例えばジャマイカンのミュージシャンの音はことごとくストレートでなんの演出もない。そういうものが寄せ集まって、自分の出せる音になったのかなと。
編注 : オーガスタス・パブロ (Augustus Pablo)
主にルーツ・レゲエで活躍した鍵盤ハーモニカの奏者。ジャマイカで、1960年代末から活動を開始。音楽教育用の“教材”であった鍵盤ハーモニカをひとつ“楽器”として昇華させた。哀愁を帯びたメランコリックな鍵盤ハーモニカから生み出されるメロディは、そのキャリアの開始と同時期に勃興しはじめたルーツ・ロック・レゲエと融合し“ファー・イースト・サウンド”と呼ばれる独自のサウンドを生み出した。また1970年代初頭より、自身のプロダクションにキング・タビーのダブ・ミックスを積極的に取り入れている。代表作にしてルーツ・ダブのクラシック中のクラシック『King Tubbys Meets Rockers Uptown』がある。1999年5月18日没。(河)
高橋 : 楽器はずっとシルキー(Schilke)ですよね。
こだま : そうですね。シルキーになる前は、中学生時代にお袋が買ってくれたヤマハの楽器をずっと使ってたんだよ。
高橋 : 著書で読みましたよ、新聞配達のくだりを。
こだま : そうそう。それを使っていて、いまの楽器になったんですね。これは「音楽で生きていこう」と決めたきっかけかもしれないな。当時、無理してお金をかき集めて買ったものでもあるから。
高橋 : いつみても綺麗な楽器ですね。僕みたいなトランペットやってる人間には憧れでもある。本当にトランペッターとしてのこだまさんの記事、あまり読んだことがなかったので。
こだま : そういうところから弾かれてるんじゃないかな。でも、そうやって捉えられないというのが僕も半ば望んでいたところはあるよ。たまたま手にしてまったツールという感じもあるんだよね。ギターもベースもドラムも本当は好きだし。
高橋 : でも本当にこだまさんにとってトランペットは声なんだなと、いまのお話を聞いて思いました。音色で「これはこだまさん」みたいに判別できるようなトランペットは、本当に日本で数えるほどしかいないと思うんですよ。
こだま : でも僕は不器用なんだよ。あるとき開き直って、不器用なままでそれはそれで良しとしようと決めたからね。だからこそやってこられたとは思うんですよ。また自由みたいなところと重なるけど、僕はトランペッターとか、そういう世の中の固定概念、それが嫌だったんだ。鍵盤ハーモニカを演奏していたパブロ、自分にはたまたまトランペットだったという、その程度のことなんだと思います。
高橋 : レゲエとかダブで、トランペットがメインになる感じのインストってあまりないですよね。
──たしかにトロンボーンとサックス・プレイヤーは結構インストのアルバム出してるイメージありますが、あまりないですよね。
高橋 : パブロの前に鍵盤ハーモニカをレゲエで使ってた人間がいなかったようのと同じ様なイメージかも。
こだま : レゲエのシンガーたちの歌も含めて、とにかく僕はレゲエとの出会いが表現をする上ではとにかく大きかったんだな。ブラック・ミュージック全般に言えることではあるんだけど、やっぱりカリビアンはちょっと自分にとって特別なんだよ。それはずっと言い続けるよ。
強いて言えば嘘をつかないということだよ
高橋 : あとタイトルはどうやって決めてるのか気になります。インストというのもあるんですが、主題があってメロディを作るのか浮かんできたメロディを分析して後からタイトルをつけるのか。
こだま : タイトルはね、タイトルをつけなくてはいけないというところからつけてるんだな。
高橋 : ということは先に曲があって、タイトルをつけるんですね。
こだま : 1曲の作品になったからタイトルをつけようと。
高橋 : インストなのにすごく腑に落ちるタイトルが多くて。ミュート・ビートの頃から絶妙に曲のイメージが連動したタイトルになってると思ってて。
こだま : そう言ってくれたからあえて答えるとすると。タイトルは文字通りとても象徴的なものだよね。そこに対して自分のなかで決めていることがあって、パフォーマンスにも通じることなんだけど、アピールしない、過度に演出しない、嘘をつかないというのは絶対的にある。それは言葉を使うときの鉄則なんだよ。でも、少しはさ…… 音楽を聴いて欲しいからな…… この言葉で聴いて欲しいという欲がないわけじゃない、これもさっき言った矛盾なんだけど。強いて言えば嘘をつかないということだよ。
高橋 : そこに対してアートワークもやっぱり連動していて。今日も話のネタになるかと思って、持っているものを全部持ってきたんですけど。最初に買った『Flower』のジャケットは、引っ越すたびに壁に飾ってたせいでちょっと日焼けしちゃってるんですけど。あとあとレコード版も買いました。
こだま : ありがたいね。僕もこのジャケットはいまだに好きですよ。これを見てくだされば、こだまのなにかがわかるんですよ。不器用な部分というか。器用じゃなかったから、いまの自分があるのかな。
高橋 : こだまさんが出す作品に、こだまさんが見ている世界が反映されているんだと思います。僕らはそれに心を打たれるんだと思います。
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こだま和文(from DUB STATION)
1982年9月、ライブでダブを演奏する日本初のダブバンド「MUTE BEAT」結成。通算7枚のアルバムを発表。1990年からソロ活動を始める。
ファースト・ソロアルバム「QUIET REGGAE」から2003年発表の「A SILENT PRAYER」まで、映画音楽やベスト盤を含め通算8枚のアルバムを発表。
2005年にはKODAMA AND THE DUB STATION BANDとして「IN THE STUDIO」、2006年には「MORE」を発表している。
プロデューサーとしての活動では、FISHMANSの1stアルバム「チャッピー・ドント・クライ」等で知られる。また、DJ KRUSH、UA、EGO-WRAPPIN'、LEE PERRY、RICO RODRIGUES等、国内外のアーティストとの共演、共作曲も多い。
近年、DJ YABBY、KURANAKA a.k.a 1945、DJ GINZI等と共にサウンドシステム型のライブ活動を続けている。
2015年12月、KODAMA AND THE DUB STATION BANDを再始動。2019年現在のメンバーは、こだま和文(Trumpet)、ARIWA(Trombone,Vocal,Chorus)、HAKASE-SUN(Keyboards)、AKIHIRO(Guitar)、コウチ(Bass)、森俊也(Drums)と日本のダブ、レゲエシーンを代表するメンバーが揃っている。
2016年10月、KODAMA AND THE DUB STATION BANDが自らのレーベル「KURASHIレーベル」より、12inch アナログ『ひまわり』発売。2018年3月、同レーベルより、KODAMA AND THE DUB STATION BAND、CD『ひまわり / HIMAWARI-DUB』リリース。2018年2月、SILENT POETSのアルバム『dawn』に「Rain feat. こだま和文」収録。2018年4月、Kazufumi Kodama & Undefinedの10inch「New Culture Days」リリース。2019年11月、KODAMA AND THE DUB STATION BANDのオリジナル・フルアルバム『かすなかな きぼう』をリリース。
また水彩画、版画など、絵を描くアーティストでもある。
著書に「スティル エコー」(1993)、「ノート・その日その日」(1996)、「空をあおいで」(2010)。ロングインタビュー書籍「いつの日かダブトランペッターと呼ばれるようになった」(2014) がある。
こだま和文Twitter
https://twitter.com/Kazufumi_Kodama
こだま和文情報を発信する公式ブログ【echo-info】
https://echoinfo.exblog.jp/
KODAMA AND THE DUB STATION BAND公式
https://dubstationband.weebly.com/
思い出野郎Aチーム
メンバー
宮本直明(ナオアキさん / Key)、増田薫(マスダ / Sax)、岡島良樹(オカジ / Drums)、斎藤録音(サイトウくん / Guitar)、高橋一(マコイチ / Trumpet, Vocal)、山入端祥太(ヤマさん / Trombone)、長岡智顕(ナガオカ / Bass)、松下源(ゲンちゃん / Percussion)
2009年の夏、多摩美術大学にて結成された8人組のソウルバンド。
2015年、mabanuaプロデュースによる1stアルバム「WEEKEND SOUL BAND」を、2017年に2ndアルバム「夜のすべて」、2018年には初のEP「楽しく暮らそう」をリリース。
そして2019年、待望の3rdアルバム「Share the Light」をリリース。
Negicco、lyrical school、NHKの子供番組「シャキーン!」への楽曲提供、ドラマ「デザイナー 渋井直人の休日」のオープニングテーマ担当や、キングオブコント2018王者のハナコの単独ライブにジングルと、エンディングテーマ「繋がったミュージック」を提供、メンバーそれぞれがDJ活動を行うなど、多岐にわたって精力的な活動をしている。
思い出野郎Aチーム Official Web
https://oyat.jp/