新旧4作品を一挙独占ハイレゾ配信──Hiroshi Watanabe a.k.a Kaitoの新レーベルに注目せよ
ジャーマン・テクノ・シーンの老舗〈KOMPAKT〉からリリースするKaito名義、本名名義ではギリシャの〈KLIK〉、そして、新たにデトロイト・テクノの伝説的レーベル〈TRANSMAT〉からもアルバム・リリースが決定しているHIROSHI WATANABE。ある種ストーリー・テリングに満ちた繊細な電子音表現のテクノ / ハウス~ビートレスなアンビエント・トラックで、ダンスフロアはもちろん、リスニング作品としても世界中から高い支持を受けてきたアーティストだ。その彼が自らのリリースのプラットフォームとして、このたび、自主レーベル〈Music in the deep cosmos〉を設立した。
新レーベル〈Music in the deep cosmos〉のこけら落としとなる第一弾リリースは、本名名義にて〈KLIK〉からリリースした2007年の『Genesis』、2011年『Sync Positive』をハイレゾ・リマスタリング、さらには昨年末にデジタルのみでリリースされた超尺2曲のKaito作品「Snow Flow / Light Stones」。そして2013年のアルバム『Until The End Of Time』収録楽曲の別ヴァージョンを中心に編成された『Another Stories』がデジタル・リリースされる。OTOTOYでは、この4作品のハイレゾ版を独占配信!
世界的に、その繊細な音色やスペーシーな空間処理、そしてドラマチックな展開を持つトラックは高い評価を受けている。繊細な電子音の表現と広がりのある空間処理はぜひともハイレゾにて体感して欲しい作品。
Another Stories(24bit/48kHz)
2013年の『Until The End Of Time』収録楽曲をメインに、新たに録り下ろしたヴァージョンを収録したアルバム。
【Track List】
01. Dear Friends (AS mix)
02. Behind My Life (AS silence mix)
03. Inner Space (AS mix)
04. I'm Leaving Home (AS beatless version)
05. Smile (AS mix)
06. Star of Snow (AS original mix)
07. Until The End of Time (AS acoustic mix)
08. Another Stories
09. Sky Is The Limit (AS mix)
【配信形態 / 価格】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
Mastering : 24bit 44.1k > 48k up sampling
単曲 300円(税込) / アルバム 2,300円(税込)
Kaito / Snow Flow/Light Stones - digital(24bit/48kHz)
10分を超える、まるでドラマチックな映画のような展開を持つ2曲を収録した作品。
【Track List】
01. Snow Flow
02. Light Stones
【配信形態 / 価格】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
Mastering : 24bit 44.1k > 48k up sampling
単曲 300円(税込) / アルバム 500円(税込)
Hiroshi Watanabe / GENESIS (Complete Remasterd Edition)(24bit/48kHz)
ギリシャ〈KLIK〉からリリースされた2007年のアルバムを自らハイレゾ・リマスタリング
【Track List】
01. Suisei
02. Illumination
03. Your Smile Tears
04. Genesis
05. Omega
06. Sight
07. Grace
08. Genesis (beatless version)
09. The First Existence
10. Illumination (first mix)
11. Your Smile Tears (beatless version)
【配信形態 / 価格】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
Mastering : 24bit 44.1k > 48k up sampling
単曲 300円(税込) / アルバム 2,500円(税込)
Sync Positive (Complete Remasterd Edition)(24bit/48kHz)
こちらも自ら“Complete Remasterd”を施したギリシャ〈KLIK〉からリリースされた2011年のアルバム
【Track List】
01. Days
02. Light To Bright
03. Photon
04. Soul Traveler
05. Sublime Scenery
06. Message From The Sky
07. Sleepless Dream
08. Gemini
09. Happiness Sadness
10. Scent Of Tomorrow
11. Beginning Of The End
12. Scent Of Tomorrow (beatless version)
【配信形態 / 価格】
24bit/48kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
Mastering : 24bit 44.1k > 48k up sampling
単曲 300円(税込) / アルバム 2,500円(税込)
INTERVIEW : Hiroshi Watanabe a.k.a Kaito
1990年代初頭からの長いキャリアのなかで海外の名だたるレーベルでリリースを重ねながらも、ついにこのたび自身のレーベル〈Music in the deep cosmos〉を立ち上げるHIROSHI WATANABE。とはいえ、完全なる独立独歩というわけではなく、デトロイト・テクノの伝説、デリック・メイのレーベル〈TRANSMAT〉から今春アルバム・リリースも控えており、インタヴューにもあるようにマイペースでフレキシブルなプラットフォームとして設立したという意味合いが強いようである。今後は廃盤などの理由で入手困難になっている音源などの再発も行われるようで、テクノ、クラブ・ミュージック・ファンは見逃せないレーベルとなるだろう。
インタヴュー・文 : 河村祐介
編集補助 : 木本日菜乃、角萌楓
自身が運営するレーベルを設立した意図とは?
──まず、最初のトピックとして、Kaito名義の『Another Stories』を中心に過去作を含め、自身が設立した新レーベル〈Music in the deep cosmos〉からリリースを行うということですが。
自分自身のレーベルを持つことで、より自由に自分自身の表現を突き詰めて行くことは間違いないです。先駆けてそういうことをやっているアーティストもたくさんいて、それを見て、近年自分ももうやらないといけないと思って。いままでのルーティーンからなかなか離れられずにいたところがあるというか。とはいえ、もちろん自分のレーベルを立ち上げたからといって完全に独立するのではなく、連動していくのは大事だと思っていますから、引き続きいろいろなレーベルからも出し続けようと思っています。
──では、すべてセルフ・コントロールが可能な、より自由な表現の場を持つということですね。
やはりレーベル側も、レーベル・カラーをシビアに考えてリリースする楽曲を選ぶというか、判断基準がありますからね。アーティスト本人からしたら、「いや、自分の表現としてはこうなんだけど」というスタンスで作っていても、そのレーベルの基準ではリリースされないこともあります。もちろん、そうやって選び抜かれている楽曲だから、クオリティー・コントロール的な部分ではより良いものがリリースされているとは思うんですけどね。しっかりプロダクトとしてリリースするレーベルの場合それは当然だとも思います。だからこそ、その自分にとってのスウィート・スポットを自分のレーベルで表現していくのが本来はベストだろうな……ともちろん前々から感じていたので、いよいよ、やっと重い腰を上げたというところでしょうか。bandcampを使って少し前から個人名で出したりはしていたんですけど、ここでケジメというか、過去作品を出すにしても一番良い形で、出すべきだと思いレーベル名を決めて、宣言しようと。
──レーベルの発足とともに、そこで過去の音源の管理もしっかりするということですね。
そうですね。これはダンス・ミュージック界の良いところでも悪いところでもあると思うんですけど、特に海外は全レーベルがしっかり契約書を作ってサインするという感じでもないわけなんですよ。そういうなかで自分の楽曲はもっとしっかり管理したいという意識が当然強くなりますしね。なぜかというと、例えば「このレーベルからのリリースだからOK」と提供した楽曲があるとして、Beatportで検索したら、アーティスト本人の知らない内にもともと許可したレーベルから他所のレーベルに使用許可が出ていて、『~サマー・トラック』とか『アンビエント~』みたいなコンピに収録されていたりするんです。そういう管理のされ方はあんまり気持ちの良いものではないですから。自分自身でコントロールできるというのが明確になっている作品は、やっぱり、しっかり自分のもとから必ず出す、ちゃんと管理するという形をとるべきだろうなと思いまして。あとは自己表現だけでなく、自分の作品を守るという意味でも、自分のレーベルを作るというのは最終手段というか。
──そうするためのプラットフォームを作ったっていうことですよね。
もちろん今後すべての楽曲を最終的に他のレーベルから引き上げるということではないですし、やっぱり関係性というものは大事にしながら、極めて自由なプラットフォームを自分で持つという感覚ですね。
──フットワークを軽く、なおかつ、すみずみまで管理ができるようにしたということですね。そういえばレーベル名を決めるのに結構悩まれたという話を聞きましたが。
ある意味で、子供の名前を考えるのと一緒ですからね。もともはわかりやすいキーワードみたいなところで考えていたんです。でも、楽曲名やアルバム・タイトルを決めるより何倍も僕にとっては難しかったんですよ。例えば楽曲名の場合は音が先にあるから、タイトルはわりと探し当て易いんです。プロジェクト名も音の指向性があると打ち出せる。でも、レーベル名は違ったんです。レーベルでは本名で出すかもしれないし、Kaitoで出すかもしれない。もしくはもっと全然違う名義や形態で出す可能性もある。
──未来のことだから、それこそ「バンドをはじめる」みたいなことも絶対にないとは言い切れませんからね。
そう。他のアーティストをリリースすることももちろんあるかもしれない。そうなると、どうやって名前をひとつに絞ればよいのかと悩んじゃったわけですよ。「これで決まり」となったあるキーワードも、1日経って次の日にそのネーミングをみると「あれ?」となってしっくり来ないわけです。それで、悩みすぎて気持ち悪くなってきて(笑)。そうやって、ギリギリになりながら考えていたいろいろなワードの下に、副題的に自分が添えていた言葉というのがまさしくこの言葉〈Music in the deep cosmos〉だったんです。自分の目の付けどころが間違っていたということに突然気づいたんです。自分が副題として添えていた説明文的なものがまさにレーベルそのものだったと。要するに、ひとつの言葉では収まりきらないことを、無理やりなにかに集約させようとしていたという間違いにやっと気付けたんです。
──音楽的な部分でいうと、〈Music in the deep cosmos〉という言葉はワタナベさんのこれまでの作品とすごく合致しますよね。ある種のワタナベさんのなかのコスモロジーみたいなものの表現が作品全体を貫いていますから。
すごくストレート、それ以上でもそれ以下でもない、自分にとっての説明文であったので、着飾ることもなく、すっと腑に落ちたんです。表現方法として、自分の音のイメージとして、十二分にリンクしたというか。宇宙のイメージといってもSci-fi的なものではなくて、もっとシンプルに「僕らはなぜここにいるのか」というところです。ひとつの言葉に例えられないって考えたときに、このタイトルになった。これは今後アコースティックなサウンドであっても、エレクトロであっても、どんな音でもなんでもシンクロするわけじゃないですか。
──ひとつの言葉で縛るのではなく、このセンテンス全体が含むものということですね。そのようにして名前が決まった新レーベル〈Music in the deep cosmos〉ですが、まずは未発表音源のリリースからですね。
いまの段階として宙ぶらりんになっている音源、聴いてもらいたい音源がたくさんありまして。作り上げた自分の責任としてアウトプットしないといけないと思いました。でも、過去作品を順番に出しつつも、ゼロからリアルタイムでこのレーベルから出そうと思うようなものも作ってリリースするつもりです。
新録『Another Stories』の源泉
──直でリスナーと繋がれるというか、レーベルという第三者の意思の介在をなしに、アーティストとリスナーが直接繋がれる。“新レーベルの立ち上げ”、“過去作の再提示”、そして、その流れの中にKaito名義の新録『Another Stories』もリリースされますが。
レーベル名を決めるその前の段階から話しますと、Kaitoに関しては『Until The End Of Time』を作ったあとに、Kaito作品を世に出てないものも含めて振り返る時間がありました。「自分はどういう過程で最終音源に辿り着いていったんだろう」というのを、デモ音源やらいろいろ聴いていたら「あ、これいまだったら絶対出せるな」という曲があったんです。そのひとつ、「Star of Snow」という曲は、『Trust』リリース後のドイツ・ツアーの頃にすでに作っていて、ライヴでは演奏していた曲でした。最終的にはアレンジを加えてよりシンプルなスタイルに改良したテイクが『Until The End Of Time』に収録はしたんですけど、「自分のなかではこの曲の本当のオリジナルはこうだった」というなにか心残りみたいなところが実はずっとあったので、ライヴで演奏していた元のヴァージョンで出したいと思っていたんです。なのでこの曲のオリジナル・ミックスが一番の太い軸となって、この『Another Stories』というパッケージになりました。この曲こそがこの作品のできあがった全ての動機と言っても良いです。
──では、「Star of Snow」を本来の姿でリリースしたい、という気持ちが源にあるアルバムなんですね。
正にそうですね。『Another Stories』の6曲目「Star of Snow (AS original mix)」に関しては、その当時に僕が作り上げたままの姿です。それを今回のリリースのために綺麗にマスタリングし直しただけで、手を加えてません。それ以外の曲も、「当時の僕はどんなヴァージョンでどんなもの作ってたんだろう」とデータを掘り下げて聴いてみて、「あー、これかー」「こういう表現もありじゃん!」と新たな感覚でテイクをミックスし直したりして。とにかく無理やりに前作のリメイクみたいなものを作る気はなくて、あくまでも「このヴァージョンだから聴かせられる」というものを選別したんですよ。当時のシーケンス・データの中から、最終ミックス時にはミュートしていたトラックも聴き直して、「このフレーズ、今だったらアリだな」というのを厳選して、もう一度再構築して作り上げた。当時の僕が作り上げたデータを軸に作り上げたのでパッケージ・タイトルが『Another Stories』なんです。そしてそこにあのときといまとを結ぶ新曲「Another Stories」があるんです。
──なんか、『Until The End Of Time』の双子の弟じゃないですけど。
そうですね。
ライヴから生まれた『Snow Flow / Light Stones』
──さらにKaito名義の別パッケージ『Snow Flow / Light Stones』も、ある意味では新たな楽曲ですよね。
「Snow Flow」って曲に関しては、「Star of Snow」のまさしく兄弟曲でもあります。「Snow Flow」は2013年の暮れに〈UNIT〉で行ったリリース・パーティーを、そこに集まったお客さんと共に完成させるために作った曲なんです。「Snow Flow」はすごく大切に作った大事な曲ですので、その後の活動、DJやライヴでも特別な場所でしか披露していませんでした。この曲は2014年の11月にケルンで行われた、WDR(ケルンWDR放送局が持つ交響楽団 - WDRSinfonieorchester Koln)オーケストラと〈KOMPAKT〉が主催したコンサートに出演した際にも演奏したんですが、その後リリースの予定が見えていなかったんですね。だから、これこそもう自分の出したいときに出してしまおうと。
───自分が出したい時期があるのに、レーベルの意向でその時期を過ぎてしまうことはよくありますよね。
ありますね。それを過ぎちゃうのが僕はちょっと嫌だったんです。なので、まず「Snow Flow」と「Light Stones」をカップリングにして、デジタルで年末に出しました。この動きが多分、僕の中でレーベル発足への最初の一歩、スタートになったんです
───『Another Stories』の前段階ということですね。『Another Stories』とレーベル〈Music in the deep cosmos〉は、ある意味この「Snow Flow」と「Star of Snow」という2曲が軸になってはじまったレーベルというか、この2曲をリリースしたいという熱意から生まれたといえるかもしれませんね。
これらの楽曲は、徹底して「自分がやりたいことはこれだ」というものを作ってライヴで演奏していたとき、お客さんも好きでいてくれた作品で、自分が信じたものを表現した楽曲たちです。「Light Stones」も、Kaitoのライヴ・パフォーマンスから生まれた曲でして、因みにあれはライヴ・レコーディングなんですよ。
ギリシャとのコネクションから生まれた本名名義2作品
──なるほど。この『Snow Flow / Light Stones』と『Another Stories』が一対になって、レーベルの設立を押し上げたというとですね。そして今回はHIROSHI WATANABE名義の過去作品2作も新装リリースされますね。リリース名義の線引きはよく聞かれると思うのですが、今回はHIROSHI WATANABEとkaitoの同時リリースにあたり、改めて聴き直して、名義の違いによる差は感じましたか?
自分のなかでしか解釈できない微妙な差になりかねないんですけど、言ってみれば本名名義のほうがずっと素なんですよ。Kaitoというプロジェクトは、「息子や家族」というものがタイトルやプロジェクトストーリーの軸になっている。そこに対しての、僕の中にある独自の解釈によるKaitoサウンドはじっくり作り上げられていきました。そして勿論多少そこにも被る可能性があると思いますが、素になって作るためのHIROSHI WATANABE名義もあって。
──なるほど。HIROSHI WATANABEのなかの、ある種コンセプチャルな一部分がKaitoの表現だということでしょうか。
そうですね。しっかり固めてあるのがKaitoというプロジェクトなので、HIROSHI WATANABEはもっと素直に自由なんです。だからQUADRA名義だとか、HIROSHI WATANABEプロジェクトのなかには、自分が好きないろいろな要素が散りばめられている筈なんです。あくまでもベースはダンス・ミュージックですけどね。
──ということは、ご本人名義に関しては、割と自然にできるものということでしょうか。
そうですね。『Sync Positive』と『Genesis』を作ったときも、制作秘話じゃないんですがいまだから言えることは、じつは物凄く早く作ったんです。製作期間が短かったということです。いままであまりここの部分をフォーカスすると簡単に作ってると思われてしまうとそれはまるで違うのでそうは伝えませんでしたが…… 要するにエネルギーの質量としては、物凄い質量でアウトプットしているんですけど、それを放出することにほとんど悩まなかったというか。名義という囲いが無いから、すごいスピードでバンバン曲を作っていけた。それが正にこの2作品なんです。
──なるほど。それを考えると、本名名義では今後レーベル的な制約もないので、さらにすごくフットワークの軽い活動ができそうですよね。
そうですね。多分ここから先は自分の住み分けというか、感覚上のバランスじゃないですけど、そういうものだと思います。例えば4月終わりに〈TRANSMAT〉からもアルバムとして作品を出しますが、あの作品に関しては、本名名義でもまた全然違う僕の思考レベルがあって、本名で今面と向かって正に勝負しようというアルバムだったりします。あれはまさしく僕の情熱というか、このシーンとこの音楽で僕が一生を掛けて挑んでいくための賭けごとじゃないですけど、自分の思いをすべてぶつけたアルバムになっていると思うんですね。
──今回、レーベルの発足とともにリリースされる過去作とKaitoの新しい作品、ある意味で対照的ですよね。こう、出したくても出せなかったKaitoの作品と、すっと世に出てしまった本名名義の作品と。
本名名義の作品だと、ギリシャの〈KLIK〉と僕の、おもしろい運命的な繋がりとしか言えないエネルギーもあるんですけどね。例えば〈KLIK〉からリリースしたアルバム『Genesis』ですが、当時はタイトルの“Genesis”という言葉自体が、そもそもギリシャから派生した言葉だと僕は間抜けな事にしっかり認識せずに付けてたりとか。でも実は後に古典ギリシャ語から派生した事を知り心の中では「あれ、勝手に凄い導かれてたんだな」と、表向きは、だから『Genesis』であって曲名にもOmegaとかもあってね!と知ってた風に装って(笑)。ともかくそういう、意識しないで素でやっていたことが、どんどんシンクロしていくというおもしろさがあるんです。ギリシャで当時巻き起こったシンクロは自分にとってとても大きい事でしたね。
──そういう熱量とか縁もあって、すぽんと出てしまったというか。
だからKaitoってプロジェクトはより綿密なんですよ。コンセプトに沿うものを編み出す作業というか。
──なるほど。では最後になりますが、今作はハイレゾ音質でのリリースですが、ハイレゾで自分の楽曲が聴かれることについてはいかがでしょうか?
ハイレゾ配信をすることの意図とか、僕自身のなかで認識することで、感じてもらいたいレベルとかが変わってくると思うんですよね。今後、ゼロから作る音源に対してすごく楽しみというか。改めて今後のゼロから作り上げるものに関して、楽しみでしょうがないです。そしてその違いを感じてくれる人がどこまでいるのか。
──例えばちょっとしたディレイの減衰の感覚で大きく曲の感じが変わったりするダンス・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックですが、特にワタナベさんの楽曲はそういう繊細な部分の表現まで作りこんでいるものですので、そういう部分までリスナーが聞き取れるようになる、知覚しやすくなるのはおもしろいと思います。ある種コミニケーションというか。
そうですね。
──新たに〈TRANSMAT〉からは本名名義の作品がリリースされますが、新レーベル〈Music in the deep cosmos〉では今後どうされるのでしょうか? 資料にはKaitoの新録の予定も書いてありましたが。
はい、いろいろ考えてますよ! まずは廃盤になってる音源でユーザーが今は入手できなくなってしまってるものを、もう一度しっかりマスタリングして出そうと思っています。マスタリングってまさにお化粧じゃないですか。メイクアップ・アーティストによって見事に変わると思うので、もう一度ここで自分の作品、素材を綺麗にメイクアップしてあげて、いま思う一番良い形で届けたい音源がたくさんあるので、まずはそこから順番にしっかりやって行きつつです。そして、新しいものもどんどん出していきたいなと思っています。是非楽しみにしてて下さい!
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インタヴュー中にでてきている2013年リリースのアルバム『Until The End Of Time』のビートレス・ヴァージョン。ビートレス・ヴァージョンは、Kaitoのアナザー・サイドとしてアルバム・リリースごとに恒例となっている。そのアーティストとしての多彩なアレンジの力はオリジナル・アルバム、そして『Another Stories』とともに味わうべし。
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Kaitoともレーベル・メイトなドイツ〈KOMPAKT〉を象徴するアーティストのひとり。美しく壮大で物語を紡ぐようなサウンドは、共通の感覚もあるかも。シューゲイズ・テクノと呼ばれることもあるスウェーデンのアーティストによるレコーディングにコンピューターを用いず、全てハードウェア機材を用いて制作さらた1枚。
PROFILE
Hiroshi Watanabe aka Kaito
ドイツ最大のエレクトロニック・ミュージックのレーベル〈Kompakt〉唯一の日本人アーティストとしてKaito名義の作品を発表する傍ら、ギリシャの〈Klik Records〉を拠点としても活動を続けるHiroshi Watanabe。ニューヨーク在住時代に出会ったグラフィック・デザイナー、北原剛彦とのダウンテンポ・プロジェクトTreadなどさまざまな名義でも活躍。2016年春に自身のレーベル〈Music In The Deep Cosmos〉を設立。また、デリック・メイの伝説的レーベル〈Transmat〉と契約し、さきごろシングル「Multiverse」をリリース、今春4月には同レーベルからのアルバムを控えている。