2015年ブライテスト・ホープ、Albino Soundを紹介&2014年OTOTOY配信クラブものまとめ! ――More Beats + Peacies Vol.6
さて、来てしまいました2015年。もはや未来感しかない西暦。みなさん、もうこの時代に最新のサウンド聴かなきゃなに聴くの? ということでOTOTOYで現在配信中のクラブものを、毎月特選してご紹介する当コーナー、今年もよろしくお願いいたします。今月は新年一発目ということで、2015年の注目新人アーティストを独占配信とともに紹介しつつ、後半では、OTOTOY配信中のクラブもの2014年ベスト・アルバムをご紹介。
INTERVIEW : アルビノ・サウンド
クラウト・ロック発、ベース・ミュージック経由のワールド・オブ・エコー
Albino Sound / Airports / Jump Over
【配信フォーマット / 価格】
ALAC / FLAC / WAV(24bit/96kHz) : 単曲 324円 / まとめ購入 540円
【Track List】
01. Airports
02. Jump Over
初のリリースとは思えないほどのクオリティ。ノイ! の疾走するサイケデリアがアーサー・ラッセルのダブ処理とともに、ベース・ミュージックのリズム・デリヴァーの上に降り注ぐ。電子音の喜悦と、生演奏の欲望が交差するスリリングなトリップ。 2015年は、アルビノ・サウンドに注目せよ! もちろん荒削りな部分もあるが、そのサウンドが今後タイトに、それとともに世に広がっていくことは間違いないだろう。
昨年10月半ばから11月半ばにかけて、東京で開催された〈Red Bull Muic Academy〉。 あのエナジー・ドリンクが主催する移動型の音楽学校で、毎年さまざまな都市で開催されている。フライング・ロータスやドリアン・コンセプトといったアーティストがその卒業生に名を連ねる。そこには毎回、若きアーティストたちが約50人ほど、パーティシパント=生徒として集められ、文字通り音楽を学ぶのだ。今回紹介するのは、90ヵ国、のべ約6000人という狭き門のなかから選ばれた日本のアーティストだ。そのアーティストとはアルビノ・サウンドこと梅谷裕貴。今回OTOTOYが配信するのは、彼のはじめての作品にして、その〈Red Bull Muic Academy〉 の切符を掴んだ2曲だ (もちろんハイレゾ)。
インタヴュー&文 : 河村祐介
死の匂いがする音楽は好きかもしれない
――まずバック・グラウンドとしては、ダンス・ミュージックというよりもバンドの方なんですよね?
梅谷裕貴(以下、梅谷) : まず高校生のときに楽器をはじめて、その後、ファッションの専門学校に入っ て、でもミシンと友だちになれなくて……。ミシンよりもエフェクターのペダルを踏んでる方が楽しかったんです。 もう、課題もやらないでシンセばっかり触ってて、泣く泣く卒業できたという状態。その後、アパレルで働きはじめて。で、そのときにちょっとプライベートな問題ですごく自分の人生自体が混乱してしまって。なにをしていいのかわからないような状態になってたんですが、当時は仕事をしながら音楽をやる機会も減って。そんな生活に腑に落ちてない部分が多々あったんですよ。
――音楽を作ることがすごく好きだったのに止まっていること?
梅谷 : そういうこと“も”ですね。あとはもっと広い部分でも自分がなにをすればいいのかよくわかってなかったというか。音楽を聴く量も減って、新譜もあまり買わなくなって。でも、その頃たまたま〈SonarSound Tokyo〉でマウント・キンビーのライヴを観たんですよ。その後、知り合いの縁で、2日間彼らが東京に滞在している間、彼らに東京を案内することになって。普通に一緒に酒を飲んで、観光しただけなんですけど。英語もしゃべれないので、そこまでコミニケーションできないんですけど。でも、彼らと話しているうちに、なぜかやっぱり「音楽を作りたい」と思うようになったんです。
――なるほど、そのときから音楽作りを再開したと。ちなみに、制作方法もいまと一緒? ギターと打ち込みみたいな制作の方向性はどこから?
梅谷 : 元々は即興でギターを弾いたり、ドローンをやったりというところがスタート で。どちらかといえば、楽曲を作るというよりも、空気を音楽で作るということが好きで。だから、曲として1曲にまとめるのはまだまだ苦手で。で、楽曲を制作するというところで、音楽としての要素、プロダクションを取り入れるとしたらなにかなと思ったときに出てきたのが、やっぱり当時すごく聴いていた……。ちょうどポスト・ダブステップとかジュークとかが出てきたときで、そういう音楽かなと。当時の雰囲気として、いろんな人たちがああいう電子音楽に参入してきた感覚もあったじゃないですか?
——チルウェイヴ的なものとか、ポスト・ダブステップ、あとはそれこそマウント・キンビーとかも、そういうバンドと打ち込みの間を埋めるサウンドだよね。
梅谷 : そうですね。そうやって、バックグランドが違う人間が入ってきたりとか。ハードコアとかノイズよりの人がDJやってたりとか。背景が違っても自分をぶち込んでいける領域ができたなと思って。そこで機材を揃えていって。でも、だからと言って自分は“トラック”が作りたいわけじゃなくて。
――DJツールではなくてってところだよね。
梅谷 : そうですね。それは自分が好きな音楽に対する姿勢とリンクしていて。音楽を聴いて知りたいことは、そいつがなにを考えて、なにを音楽で表現しようとしているのかっていうことだったりするんですよ。それを深読みするのが好きで。
――音楽を作るのに、いわゆるダンス・ミュージック的な方法論は使ってはいるけど、DJカルチャーとかに対して作ってるわけではないと。
梅谷 : そうですね。もちろん、使ってくれたり、リミックスしてくれたら逆にうれしいですけどね。(ジェームス)ホールデンとか、マウント・キンビーとかクラブ・ミュージックとかのアーティストは、ダンス・ミュージックの方法論を使って、どうやって自分の世界観を発表するのかという部分があると思うんですが、そこがすごく好きなんですよね。クラブ・ミュージックという制約があるからこそ、やり過ぎずに済む部分もあるから、そこのレベルがおもしろいですね。そういうのをいつも考えてますね。音楽制作を再開したその頃に、友だちの映像に音楽をつける仕事がきて。そのあたりから逆に自分の想像したヴィジュアルを音楽を通して表現するのがおもしろいんじゃないのかとか、そうやっていろいろ考えたら素直に音楽を作れはじめて。それで、2014年の冬、Red Bull Music Academy(以下、RBMA)の応募が始まった時にまだ持ち曲がなかったので、1ヶ月ぐらいで2曲作って応募したんですよ。それが今回配信される2曲で。
――早っ。
梅谷 : 正直、自分が想像していたもの以上の音楽が2曲できたんですよ。いろいろなタイミングが合ってたというか。「Air Ports」は、イメージのスポーツみたいなコンセプトがあってできた曲で。アルビノ・サウンドもヴィジュアルを音楽で表現するというところがあるので。自分のサウンドクラウドには”Cloud Sports”ってタグをつけているんですが、あれは自分の音楽を表現するジャンルですね。テクノでもエレクト ロニカでもなく、イメージのスポーツというテーマがまずあるというか。
――あと前に話したときに、すごくいろいろな音楽の話をしたよね。例えばさっき出たようなエレクトロニック・ミュージックから、クラウト・ロック、アーサー・ラッセル、あとは実験音楽なんかも含めて、ディープ・リスナーじゃないですか? わりとその部分っていうのは音楽にすごく影響が出てるんじゃないかなと。クラブっぽい音とインプロとか、そのあたりのバランス感とかも含めて。
梅谷 : とにかく、さっき言ったようにいろんな人間がなにを考えて作ってるか知りたいんですよ。それが感じられない音楽はつまらないと思ってて。そういう音楽を聴くと、やっぱり自分でもなにか作りたくなりますね。例えば、クラブ・ミュージックを聴いてて「このキックはどんな世界をイメージしているんだろう」って思ったり。最近聴いてるのは…… リヴィティ・サウンドとかのブリストルのベース・ミュージックとか、あとはテッセラの、感情を排したようなマシナリーなノイズ、 ビート。そういうサウンドを聴いても「こういうこと考えて作ってるな」って考えるがのすごい好きで。
――でも、そういう意図のある音楽はやっぱりかっこいよね。それがなくて、なんとなく真似してるサウンドっていうのよりかは説得力あるし。ちなみに、ずっとこの人だけは1番っていうアーティストは?
梅谷 : ずっとトップ3は変わってなくて、CANとクラスターとアーサー・ラッセル。
——クラウト・ロックとアーサー・ラッセル。
梅谷 : でもポポル・ヴーとかはそんな好きじゃない。
——そこはね(笑)。ちょっと違うのはわかるよ。
梅谷 : それぞれCANの『Future Days』、クラスターの『Großes Wasser』、それとアーサー・ラッセルの『World of Echo』が好きなんですよ。で、どれも死後の世界というか涅槃の音楽ですよね。世界観的に彼岸に近いというか、死というのをある意味で想像力の部分でポジティヴにとらえているところがあると思ってて。
——死の匂いたしかにあるね。
梅谷 : 死の匂いがする音楽は好きかもしれない。「死の匂いのする音楽」ってプレイリスト作りたい(笑)。さっき出た“Cloud Sports”とかも、死じゃないけど、肉体のない魂だけのスポーツみたいなイメージでいえばちょっと近い部分もある。でもそれって、イメージでしかないから誰もみたことのない世界の誰もみたことないスポーツっていうことで描いている感覚がありますね。
ようやく自分のことをアーティストって呼んでもいいかなって
——アルビノ・サウンドって、スティーヴィ・アルビニの“アルビニ・サウンド”にかけてるんだよね。
梅谷 : はじめてKATAでライヴをやるというときに、Bo Ningenのコウヘイくんと名義を考えなきゃいけないってなって。その頃、ちょうどスティーヴ・アルビニの話をしていて、間違えてアルビノ・サウンドって言ってしまって、「それいいね」って話になってアルビノ・サウンドに。それはたまたまタイミングもあったり、突然変異とかそういう部分もあって。あとその名前だけだったら、どういう音のユニットなのかって想像しづらいじゃないですか? それもいいかなと思って。
——たしかに。そういえばBo Ningenとは仲が良いみたいだけど、どこで知り合ったの?
梅谷 : まず、ボーカルのタイゲンくんが高校の先輩で、部活で彼からベース教わったんですよ。でも、そのあとでロンドン行ってBo Ningenやってるって知らなかったんですけど、あるとき、友だちが「このバンド知ってる?」ってYouTube見せてくれて、そしたら「あ、この人、高校の先輩!」って感じで。その後で、その友だちがシェアしている家にメンバーのコウヘイくんが、東京にときに泊まってて。それで遊んだらすごく音楽の趣味もあって仲良くなって。
——話はちょっと戻るけど、さっきのクラブとか、自分の立ち位置とかバランス感覚みたいなものってどう考えてます?
梅谷 : サウンド的な部分では、ボトムとしてはUK的なクラブ・ミュージックの部分があると思うんですけど、そこにUSのサイケデリックなロックとか、あとはニューエイジ、 クラウト・ロックのレイヤーが上の方に重なっている形だと思ってて。それは自分の音楽経験がそこには反映されているのでしっくりきてると思ってて。だからロッ ク的な部分 もクラブ的な部分も、両方、それぞれの部分を強くしていきたいというのがあって。硬いビート、地を這うベースラインの上で、上の方のレイヤーがふわっとサイケデリックに降り注いだら、やばそうだなっていうのをずっと妄想してます。
——サウンドに対して、明確なヴィジョンはあって、自分をそこにどう近づけるかみたい な のが今後の課題って感じみたいですね。
梅谷 : それはみんなにも言われますね、アーティストの友だちにも。そこまで固まっ て るのはそんなにいないって。RBMAに応募するときも、技術的な部分での不足はあるけど、だからこそ学びたいって。みんな日本のアーティストって10代からトラックメイクしてたり、キャリアあるじゃないですか。
——RBMAは“スタジオ・サイエンス”とか、そのあたりに特化したレクチャーもあったみたいだけど、学べた?
梅谷 : もちろん。あとは直接的に教わってなくても2週間、つねにいろいろな人のアプ ローチを見たり聴いたりしていたので、自然と耳が覚えていたり音の出し方が変わっていたりというのが最近よくあってそれを自分でも面白がっています。本当に無意識なんですけど、RBMAの前後で確かに変化しているんです。
——そういえばRBMAはどうだった? 仲良くなったパーティシパントはいた?
梅谷 : UKから来ていたmumdanceとLAから来ていたCat500はアカデミーの後も遊んだりしていたので仲良くなって。みんなで鎌倉行ったりゴールデン街行ったり、音楽的な部分よりも人間的に距離が近くなりましたね。あとファースト・タームに参加していたAngelもよき友人になりました。共通の友だちがいたこともあったり音楽の趣味も近かったりで。
——mumdanceは今回のパーティシパントで唯一、すでにピンチやディプロのレーベルから出してる、すでに評価のあるアーティストだよね。思い出に残ってるレクチャーとかは?
梅谷 : 自分の英語力もあって、日本人になっちゃうんですが、まずは池田亮司さんのレクチャー。一見ロジカルな話の裏に実は凄く人間味や精神的な意味合いが隠されていて。それは他のレクチャーにも共通する事なんですけど、音楽を出発点に、人間の精神だったり感情が、1コマ2時間とかあるんでどんどん浮き彫りになってくるんです。そこが興味深くて。本来は、音を作っている人間の内側が重要ですよね。RBMAは そこをとて も重要視していて。カッコいいとか先端の音楽を作っている人々だけ、ということでは済まさない。あとはKORGで回路設計を長く手がけている西島裕昭さんのレクチャーで、彼が「僕にとって設計図は絵画に等しい」というような事を話していたんですけど、それは音楽を作る人間として、イメージという部分の重要性が開発者 にとっても同じだということがわかり感動して。単純に物を作る上での情熱とか姿勢の部分で感化されましたね。
——さっき無意識の部分での変化というのがあったけど、他の変化は?
梅谷 : 非常に心もちが穏やになりました。改めて自分が音楽とどう向き合っていくかをこの機会で気づかされたので1つ1つクリアにしていこうと思ったり、2015年の目標を考えたり。でも、いい意味で変わっていないのかもしれません。RBMAは、有名人を育てる学校ではないんです。もちろん世界にでていく人たちも多くいますし自分もそこを目標にはしていますけど、もっと人間として大切なこと、音楽でよろこぶとか楽しむ、わかち 合うとか、そういった繋がりを与えてくれた気がします。なので世界中に家族が増えたことが自分にとっては一番変わったことです。
——ちなみに、来年はフランスのパリで行われて、もちろん日本からの応募も1月14日からはじまるみたいだけど、実際にパーティシパントになった人から、その良さを。
梅谷 : 曲を作るきっかけになったのがRBMAでした。応募する動機は人それぞれ違うし、背景やもちろん国も言語も違います。コミュニケーションは全て英語で行われますが上手い必要もないと思います、自分も得意ではないですし会話が理解できない時も多々ありました。それでも音楽というひとつの器を通じて色々な人間と関わり合う2週間という時間と体験。それが1番レコメンドする部分です。いい状況もたくさんありますがそれ以上に魔法がかかった機会をRBMAは与えてくれました。
――でも本当に、RBMAをひとつ機会として、自分をアーティストとして自分で呼べるようになったというかそんな感じみたいだね。
梅谷 : 本当その通りですね。これでようやく自分のことをアーティストって呼んでもいいかなって。RBMA受かってから作った曲と、それ以前の曲って聴き返してみるとちょっと違うんですよね。本当に転機ですね。
——今後は?
梅谷 : レーベルをやろうと思ってて。RBMA以降のライヴにはサポートで友だちに入ってもらおうと思ってるんですが、彼と一緒にやろうかと思っています。彼はどちらかといえば僕がミュージシャンだとしたら、もっとテクニカルなところが得意な人間なんですが。彼ととともに自分たちのレーベルをと思ってます。引き続き映像に音をつける仕事とかはやっていきたいなと思ってます。
2014年まとめ、いま聴くべきOTOTOYのクラブ・サウンド10枚+α
ということで、2014年はこの手のジャンルでもハイレゾがみっちりと広がってまいりましたな。まさに“音”そのものを聴くという意味では、このジャンルほど相当しいものもないかもしれません。ということで行ってみましょう、OTOTOTY配信中のクラブもの、まとめ10枚!
1位 : ARCA / Xen(24bit/44.1kHz)+THE SIGN BOOK VOL.2
エレクトロニック・ミュージックとして、2014年という年の象徴ということで言えばやはりこの人でしょう、アルカのメジャー・デビュー・アルバム。エイフェックスもフライローも、あの作品を出さなければ彼によって過去の人に追いやられたなんてことは十分に考えられること。ベース・ミュージックからノイズ、インダストリアルと、カオスティックな出世作ミクステ・アルバム『&&&&&』から一転、すっきりと美しく淫靡な世界を、まるで呪術の様に描く。相棒のジェシー・カンダの映像世界とともに、音楽シーンはもとより、現代アートまでも飲み込み話題となった。インダストリアルな意匠やそのフリーキーなビート感覚は現在のエレクトロニック・ミュージック・シーンのある種の流れそのものでもある。歌姫、FKAツイッグスのブレイクの突端を作ったのもアルカとジェシーのタッグ。2014年リリースされたFKAツイッグスのデビュー・アルバム『LP1』とともに、恐らく後年に至っても、2014年はアルカの年として印象付けられるのではないだろうか。(text by 河村祐介)
2位 : FLYING LOTUS / You're Dead!(24bit/44.1kHz)
今年のハイレゾ音源の注目作であると同時に、エレクトロ、そしてジャズ・シーンにおいても重要作であるフライング・ロータスの『You're Dead!』。彼史上、もっともジャズに向き合った作品であり、まわりを固める参加ミュージシャンも、60年代からジャズ・シーンを牽引してきたピアニスト、ハービー・ハンコックや、気鋭の若手ドラマー、ジャスティン・ブラウン、そして参加したラッパー陣もスヌープ・ドッグやケンドリック・ラマーと、まさにベテランとホープが入り交じった人選。そしてこれは、彼が拠点とするLAの音楽シーンのリアリティーを象徴したものでもある。その世代を度外視したミュージシャンとともに作られた本作は、えぐみたっぷりの音像と、先鋭的な演奏でかたどられた、まさにミュータント・サウンド。この地獄絵図のような音世界は、ぜひハイレゾで聴いていただきたい。(text by 浜公氣)
3位 : APHEX TWIN / Syro(24bit/44.1kHz)
突如のリリース発表を経て、“本当に”リリースされたエイフェックス・ツインによる13年ぶりのアルバム。そんな希代のトリック・スターが生み出したのは、驚くほどにポップで、そして洗練されたサウンド。彼によるこれまでの音楽性を凝縮させたかのような曲群、そして「これぞエイフェックス!」と思わずハっとさせる独特な音像には、喜びを隠せずにいられなかったかたも多いはず。立体的な電子音のレイヤーが非常に心地よい本作は、大変ハイレゾ向きの作品となった。13年ぶりの次は、3ヶ月ぶりの新作と、2015年も彼に踊らされる1年になりそうだ。(text by 浜公氣)
4位 : INNER SCIENCE / Assembles 1-4
4月リリースの『Self Figment』も、サン・エレクトリックの名盤『30.74.94 Live』あたりを彷彿とさせる享楽的な電子音が舞う、すばらしいアンビエント・テクノ・アルバムだったが、世界を含めた電子音の流れを考えても本作のなんともな過小評価がはなはだしいので、ここでは本作をランク・イン。いわゆるインナー・サイエンス名義のなかでも、そのメイン・プロジェクトから少し離れた、実験的な電子音~コラージュ音源ということだが、その気負いなさゆえか、リラックスした電子音の戯れがマッサージのようにじわじわ効いてくる、極上の電子音響。これがすばらしい。ヒップホップのトラック・メイカーとしての出自を持っていながら、辿り着いたこの音の世界観!(text by 河村祐介)
5位 : Clark / Clark(24bit/44.1kHz)
エイフェックス・ツインやフライング・ロータスの新作ラッシュ、さらには新世代のアルカなどのリリースで、少々影に隠れてしまった感のあるクラークだが、現在の〈WARP〉の主力としてすばらしい作品をしっかり出していた。本作は、さまざまなシーンの動きに目配せなしの直球でストレートなテクノ~ディープ・エレクトロのアルバムと言えるだろう。特有のノイジーなサウンドは後退し、驚くほどストレートなテクノ・サウンドは、逆に彼のありあまるエレクトロニック・ミュージックのクリエイターとしての才能を際だたせている。とはいえ、電子音の質感はアルカのアルバムとも共時性を持っており、そのあたりはやはりトップ・クリエイターたちの集まる場所といったところだろうか。恐らく、それこそエイフェックスがリリースされていなければ…… とちょっと思ってしまうほど、内容としてはすばらしい。こちらもハイレゾでぜひ。本作にはその価値があります。(text by 河村祐介)
6位 : Eno ・ Hyde / High Life(24bit/44.1kHz)
アンダー・ワールドのカール・ハイドと、ブライアン・イーノのプロジェクト。今年はまさかの2枚連続リリース。アフロ・ビートを取り入れ、ロックのエッセンスの強い、ある種トーキング・ヘッズ的なファースト『Someday World』に続いて、セカンドはほぼアフロ度高め、デヴィット・バーンとの共作『My Life in the Bush of Ghosts』を彷彿とさせる、アフロ・ポップなセカンド・アルバムがこちら。さまざまな局面で、ここ数年アフロ・ポップが注目(今年日本ではディスク・ガイドも出てましたな)されてますが、元祖のイーノが乗り出したといった感覚も。フェラ・クティの息子であるショウン・クティとイーノの共同プロデュース作である、2011年『From Africa With Fury : Rise』のチームが参加。で、ショウンといえばロバート・グラスパーをプロデュースに迎えたアルバムを今年出していて、そちらもやはり例のジャズの……。ということで、老いも若きも時代は動いて繋がっている。(text by 河村祐介)
7位 : RICHARD SPAVEN / Whole Other
ホセ・ジェイムズやフライローなどの大物にも起用されているジャズ・ドラマー、リチャード・スペイヴンによるリーダー・アルバム。本作は、今ランキングでランク・インしている現代ジャズ作のなかでは、もっともジャズらしい、プレイヤビリティが押し出されているが、内容としては一番ジャズから遠い作品であろう。同じテーマがひたすらに繰り返される曲や、深いリヴァーブを用いたサイケデリックな音響デザイン、静かに展開されるインプロヴィゼーションなど、ジャズ・アルバムとしてはきわめて歪な形を作品。もはやジャズ・ドラマーが作り出したアルバムとは思えない本作が、現代ジャズ・シーン、またはその周辺ミュージシャンの、音楽に対しての寛容さ、柔軟さを教えてくれるようにも思う。(text by 浜公氣)
8位 : TODD TERJE / It's Album Time
トッド・テリエ、そういえばアルバム出してなかったわね、ということでこれがファースト・アルバム。2000年代中頃のニュー・ディスコ・リヴァヴィアルに、リンスドストローム、プリンス・トーマスの弟分として、エディットに、自作曲にとで、ネオ・バリアリック勢の若手筆頭としてディスコ / ハウス・シーンの顔となった。さらにはポップ・フィールドでもリミックスも手がけまくり、あれよあれよと苦節10年…… ではなく、フランツ・フェルディナンドのプロデュースや、本作ではなんとブライアン・フェリーを引っ張り出すなど着実にキャリアを重ねてのファースト・アルバム。そのキャリアを包括したような、トロピカルで享楽的な、彼らしいディスコ・フュージョンに。(text by 河村祐介)
9位 : Taylor McFerrin / Early Riser
ロバート・グラスパー、フライング・ロータス筆頭に、更なる盛り上がりを見せた現代ジャズ・シーン。ヒップホップ、R&B、ブロークン・ビーツなどのあらゆる音楽要素が目まぐるしいスピードで展開するこのジャンルで、2014年もっとも現代ジャズの柔軟さを、聴きやすい形で作品に落とし込んだのが、このテイラー・マクファーリンであろう。今作の最大の面白さは、自宅の一室でひっそりと作られているような宅録感と、ジャズやR&Bなどの楽器演奏による激しいフィジカル感が相殺しあい、独特の温度感を保っているところであろう。そのためか、フライング・ロータスの片腕とも言えるベーシスト、サンダー・キャットや、若くしてハービー・ハンコックなどの大物との共演を果たしているドラマー、マーカス・ギルモアなどの超絶演奏が、プレイヤビリティをいやに感じさせない、大変洗練された音として聴こえてくる。ヒップホップが音楽的ルーツだという彼の、トラックメイカー的なデザイン・センスと、多彩な音楽性が全面に出た快心作となった。(text by 浜公氣)
10位 : THE BUG / Angels & Devils
インダストリアル・ダブ・ダンスホールの大将が放った、意外なゴシック・ダウンテンポとなった“天使”の前半と、もはや横綱相撲、ラガ・ベースの“悪魔”な後半の新作『Angels & Devils』。特に前半のサウンドの感覚は、年頭のアクトレスの新作あたりにはじまったダウンテンポ、トリップホップ・リヴァイヴァルの感覚と、ベース・ミュージックとインダストリアルの蜜月時代となった2014年を匂わすものでもある。前者はアンディ・ストット、後者はアントールドのアルバムなどがある意味で象徴していたようにも。とはいえ、どちらもUKのポップ・ミュージックのお家芸といえばお家芸、ということで本家本元、トリッキーの新作も。(text by 河村祐介)
ベスト・コンピレーション3選
V.A / CO.LD (Computer Output Loop Dance)
ブリストル・ダブステップの雄、ピンチが新たに立ち上げたレーベル〈CO.LD〉。その音楽性はテクノとインダストリルとベース・ミュージックの交点。カッティング・エッジな2014年のダンスフロアをある種、象徴する音を聴きたければこのコンピを。
Nightmare On Wax / N.O.W. Is The Time
これをコンピと言っていいものか…… というわけでナイトメアーズ・オン・ワックスの25周年ベスト盤。ベース・ハウスの元祖、そしてダビー・チルアウト・ブレイクビーツの元祖。春先に日曜の午後にダラダラしながら聞いたらきもちいいいよ。
V.A / NEXT LIFE
コンピといえば〈Hyperdub〉の10周年シリーズもなんですが、こちらの泣かせるシカゴ・ミュークのコンピを。急逝したDJラシャドの追悼盤。その売り上げは彼の息子へ。その内容といえば、彼と彼のクルーが作り上げたジュークのいまを伝える。
まとめ : インダストリアルとジャズの2014年
ジャズに関して言えば、ロバート・グラスパー以降の流れ――ジャズ・シーンからヒップホップやクラブ・ジャズを取り込み、新たなサウンドを作り出した、いわゆる『Jazz The New Chapter』(現代ジャズを紹介したムック本『Jazz The New Chapter』著者、柳樂光隆へのインタヴューはこちら)な流れが顕在化したというよりも、すばらしいプレゼンでリスニングの道筋が作られたというべきだろう。OTOTOYのフライング・ロータスの記事にも登場いただいた、ライターの柳樂光隆氏監修によるムック『Jazz The New Chapter』によってまとめられることで、ここ日本でもブレイクした。とはいえ、それはドメスティックな部分ではなく、件のフライング・ロータスの新作が象徴するように世界的な流れとして、今回の10枚のチャートには、現代ジャズの作品が何枚か入っております。
なんとなく昨年のOTOTOYの対談で「インダストリアルが… 」とか言っていた動きが本格化し、さまざまなところにその手のを音を見出しせた2014年。で、冒頭でちょっと触れたインダストリアルですが、アルカあたりを筆頭に、もはやある種の音楽シーンの既定路線的に、エレクトロニック・ミュージックのさまざまなジャンルに侵入、テクノに、ベースに、とにかくダンスフロアにはそっちの音が入り込んでいた印象を受けた。