残暑にキク! Keisuke Kondoのクールなミニマル・ダブ・テクノ――独占ハイレゾ音質で聴く緻密なるエコーの表現
エレクトロニック・ミュージック、とくにリスニングに特化したスタイルの作品はハイレゾと相性が良いはず。「グリッジ」と呼ばれる微細な電子ノイズの響きすらも表現としてしてしまう、そんな繊細な電子音の表現と高解像度のフォーマットがあわないはずがないでしょう。
ということで、ここでオススメしたいのがKeisuke Kondoによるミニマル・ダブなファースト・アルバム『A Small fish in the water』だ。ダウンテンポと電子音の“間”が生み出す、まさに“空間の美学”とも言えるクールな作品。新たなチルアウトのマスターピースの誕生でしょう。また本作のなかから1曲をフリー・ダウンロードでお届け。ぜひとも、本人も語るように、その微細なエコーやディレイの減退、そして電子音と電子音の“間”に横たわる表現としての“空間”の美しさは、ぜひともOTOTOY独占のハイレゾ(24bit/48kHz)で。
>>『A Small fish in the water』収録曲「grow up」のフリー・ダウンロードはこちらから(2014年8月14日〜2014年8月28日まで)
Keisuke Kondo / A Small fish in the water(24bit/48kHz)
【配信形態】
alac / flac / wav(24bit/48kHz) : 単曲 200円 まとめ購入 1,500円
【Track List】
01. do pure
02. ever green dub
03. deep breath
04. grow up
05. mini cube garden
06. balance
07. daydream forest
INTERVIEW : Keisuke Kondo
ダンスフロアから、一歩退いたところからクールにたたずむチルアウトなミニマル・ダブ。仏の〈Frankie rec〉や国内の〈o.p.disc〉など、国内外の名門ミニマル・レーベルからかつてリリースしていたこともあるKeisuke Kondoが、このたびファースト・アルバムを完成させた。そのサウンド・スタイルは、いわゆるベーシック・チャンネル以降、20年近くにも渡ってシーンにおいて、多くのアーティストが試み、そしてひとつの流れとなっているミニマル・ダブの手法を、ダウンテンポ的な感性でひとつのアルバムとして洗練させた、そんな作品だ。文中で本人が語るように、J・ディラ的チルアウトなダウンビートを、ミニマル・ダブなアンビエントへ寄せたというのは、まさに納得といったところ。
また、そのグルーヴの心地よさや空間への意識、そして海外音源とのシームレスな同時代性という部分で、DJとしての鋭敏な臭覚も感じさせる。 それもそのはずで、彼のそのキャリアのはじまりは、DJであり、現在、本場ベルリンなど、国内外でレジデントDJとして活躍し、いまや国内のミニマル・ハウス系パーティの代表格ともいえる〈Cabaret〉(現在は代官山UNITを中心に開催)の立ち上げメンバーのひとりだという(現在は脱退、その理由は文中で)。
インタヴュー&文 : 河村祐介
完全にチルアウトしたい
——まず、トラック制作はもう10年以上やってるわけじゃないですか。アルバムをまとめてみようと思ったのはなぜですか?
keisuke : アルバムは初めてなんですけど、アルバムって単曲でぽこぽこ出すのではなくて、数曲を物語として聴かせられるじゃないですか。それをやってみたかったというのがあって、基本ダンス・ミュージックを作ってきたんですけど、家でもリラックスして聴けるような曲を作りたいっていうのが、このアルバムを作るそもそもの理由ですね。
——こういうものを作るのにあたって、クラブ・トラック的なものが入ってもアリだったりするじゃないですか。今回は極力排除してるのかなあと。
keisuke : 排除してますね。ダンスものは今でも作ってはいるんですけど、クラブにあまり行かなくなってしまったというのが1番大きいです(笑)。
——なるほど。
keisuke : 家で音楽聴きたいなと思うことが…。なんでしょうね、めちゃくちゃ遊んで、家に帰ってから聴く音楽というものを作りたかったんですかね。ものすごく家でリラックスしたいみたいな。
——いわゆるチルアウトというか。
keisuke : そうですね。完全にチルアウトしたい、家でクールダウンしたいという気持ちですかね。
——でも、いわゆるグリッチ、アンビエントっぽいエレクトロニカとかにはいかないで、実は今作はリズムが重要な要素なのかなと思ったんですけど。
keisuke : そうですね。基本リズムが大好きなので、リズムがないようなアンビエントっぽい曲も考えれたと思うんですけど、やっぱりリズムが欲しくなってくるんですよね。作るときも最初は上ものから、もこもこ作っていくんですけど、タイトなリズムをぱしっと入れたくなっちゃうんですよね。それも踊りたくなるようなものじゃなくて、もっと柔らかいものというか。
——“曲の進行としてのリズム”が重要みたいな。
keisuke : そうですそうです。力を入れてブレイクを作るみたいなダンス・ミュージックではないものが作りたかったのかな(笑)。
——一応、初登場ということでプロフィールの部分を埋めていければと思うのですが、もともとは、いまベルリンで活動されているYone-koさん、So Inagawaさんとかが在籍しているパーティ〈Cabaret〉を名古屋で立ちあげたというのが1番最初なんですよね?
keisuke : そうなんですよ。学生の時にsackrai君とSo Inagawa君と、あと数人で2000年ぐらいにテクノ、ハウス、ニューウェイヴぽいものをかけて楽しむパーティを始めたのがきっかけです。DJを最初にやりました。
——そのパーティの繋がりのなかで、suffragettes(※1)がトラックメイクするクルーとして浮かび上がるみたいな。
※1 : So Inagawa、sackrai、Keisuke Kondo、Yone-koによるテクノ・クリエイター集団。〈Cabaret〉は彼らがオーガナイズを行うパーティ。
keisuke : そうですね。皆曲作ってたので、「なにかやろう」ってなったんですよね。So Inagawa君は名古屋にいるときから海外のレーベルから出してて。音は、僕らも作ってはいたんですけど、suffragettesの曲のほとんどはSo Inagawa君が作った曲です。So Inagawa君がいないけど、ライヴではSo Inagawaくんの曲を僕らでやるっていうよくわからないことが起こったり(笑)。
——ある意味テクノっぽいというか、中心がないというか。
keisuke : ライヴでは、自分がどんなものを出すのかも誰にも相談せずに、音源と素材だけを持っていって、その場で曲を作っていく、ということをやってました。
——その活動を経て個人名義の作品を出しはじめたのが、2000年後半ですよね?
keisuke : そうですね、2005年か2007年かな。
——名古屋から東京にきて、そのあとに個人名義で出すんですよね。それは自分で満足いくものが出来てきたからですか?
keisuke : 皆それぞれ個人でもやってたので、自分のカラーが濃い、suffragettesぽくない曲は、個人で出しました。
——今出てきましたけど、自分の特色はなんだと思いますか?
keisuke : 特色は自分でははっきり分かりませんが、作りはじめた頃はグリッジーなミニマル・ハウスというか、クリック・ハウス全盛の頃で。
——そうですよね。2003年から2008年とか。
keisuke : そう、レーベルもものすごくたくさん出来たんですよね。田中フミヤさんのパーティ〈CHAOS〉とかによく遊びに行ってて、すごく衝撃を受けたというか。こんな音で踊るんだなあみたいな。
——スッカスッカの(笑)。
keisuke : それ以前はがっしりとしたミニマル・テクノとか、
——さっきも言ってましたけど、名古屋ではニューウェイヴ的なものを掛けてたって仰ってましたもんね。
keisuke : そのころはそういう感じだったんですけど、田舎者だったので、「東京出てきて最先端のダンス・ミュージックってこうなんだ」って洗礼を受けたというか。
——田中フミヤさんの〈CHAOS〉が1つのきっかけだったのですね。
keisuke : めちゃめちゃ遊んでましたね。
——その時に自分の好きな音が探し出せたんですね。
keisuke : そうですね。ああいう音って、ベースのグルーヴはハウスなんですよね。ずんどこしてたり、隙間があったりして。どちらかというとハウスが好きだったのでデリック・カーターとかルーク・ソロモンみたいな〈CLASSICS〉(※2)の音は、名古屋にいるときからすごく好きでしたね。
※2 : 96年頃に設立されたデリック・カーターとかルーク・ソロモンによるハウスの名門レーベル
——ある意味で2000年前半のクリック・ハウスがアンダーグラウンドの中心になっていく時期じゃないですか。昔からのディープ・ハウスもミニマルに近づくし、wireみたいな大きい流れにもディープ・ミニマルが入ってくるし、そういう流れの時期ですよね。ちなみに、その後、〈Cabaret〉を脱退されたのは?
keisuke : 仕事が忙しくなっちゃって、運営自体に携われなくなってしまったので、申し訳ない気持ちで抜けました。ラインナップにDJで入ってたんですけど、当日行けないこともあったりしていたので。
——それはいつですか?
keisuke : 2010年ぐらいかなあ。
——ここ3、4年なんですね。それも含めてさっきの話に戻ると、ダンスフロアから自分が遠ざかった時期の要素が今作に出てきているというか。
keisuke : そうですね。
——1つまとめると、2000年代後半のディープ・ミニマルだとかクリック・ハウスがそのとき好きで、そこから思いっきりダンスフロアの要素を引いていくと、今作のようになるということですかね。
keisuke : そうですかね。
ミニマル・ダブ、ベーシックチャンネルとの出会い
——もう少し音楽的なバックボーンを聞いていきたいのですが。
keisuke : やっぱり、ずっと好きなのはベーシックチャンネル周辺。始まりは石野卓球さんの『Mix-Up』に入ってたのを聴いた時で、 「なんだこれ?」と思い、その周辺を聴きました。学生の頃はベーシックチャンネルをすごく聴いてましたね。
——最終的にそこだけが残ったんですね(笑)。
keisuke : そこだけが残りました。
——その周辺の音楽の魅力はどこだと思いますか?
keisuke : やっぱりテクノなんですけど、音はレゲエみたいな異質な感じで、乾いた音にディレイやリバーブがかかってる感じがすごくかっこ良く感じましたね。
——なるほど。そこからモーリッツ周辺だと、もっとレゲエに軸足があるリズム&サウンド周辺のレゲエ再発とかもやってたじゃないですか。
keisuke : 全部好きですね。ワッキーズの再発とか、Burial Mixとかも。ジャマイカのダブとかと比べるともこもこしてて。
——そうですね、変に陽気じゃないし。
keisuke : それが断然かっこ良かったですね。
——ミニマル・ダブってずっとあるものではあるんですけど、突然リヴァイバルが起きたりするじゃないですか。ここ数年はインダストリアルで、 ちょっと前だとエコースケープとか。ベーシックチャンネル・フォロワーっていわれるようなアーティストも好きですか?
keisuke : 好きですね。DJでもよくかけてました。デトロイト系のダブとかも全然好きです。
——その辺は自分のなかで大きいと。まさに今回のアルバムはそこにあって、ダンス的な部分を後退させるとこうなると思うんですけど、リズム的な面でさっき言ってましたが、ヒップホップだったりレゲエの部分があるじゃないですか。そのへんはテクノとは別のものを出したかったからですか? それとも単純に出てきたのですか?
keisuke : 4つ打ち以外のものが作りたいと思ったんですよね。J・ディラとかのヒップホップも聴いてたので、その感じをもっとダブみたいな感じというか。もっと質感的にアンビエントっぽい感じのものを作りたかったんです。
——なるほど、それはすごくわかりやすい説明だと思います(笑)。とはいえ、もろに音響的な部分でベーシックチャンネル・フォロワーとも違った隙間がすごくあると思うんですけど。
keisuke : そうですね。ベーシックチャンネルとかはもっと白いというか、ヨーロッパの香りがするんですけど、リズムはヒップホップみたいで気持ちいいなぁみたいな…。そんなノリなんですよね(笑)。深い狙いとかはないです(笑)。
——逆に言うとトーマス・フェルマンの作品の近い感覚があるのかなあと思いました。テクノっぽい感じもあるんですけど、もっとダウンビート寄りな。それでいてベーシックチャンネル直系の淡いエフェクトというか。ちなみに今作の音響の質感で目指したところはありますか?
keisuke : ベーシック・チャンネルは結構ざらざらしてるんですけど、もうちょいクリアで空間的というか、かといってデジタルな感じにはしたくなかったので、基本的には温かい感じ。家のベッドでよだれ垂らしながら寝てる時みたいな感じの(笑)。
——今回ハイレゾでのリリースで、この手の音って相性が良いので僕自身ももっと増えてほしいと思うのですが、音楽を作ってる側からして24bitでリリースされるというのはどうですか? 今は大体の人がDTMでは24bitで作業してると思うんですけど。
keisuke : 断然24bitの方がいいですね。
——アーティストさんよく言われるのが、自分の手元で作業してて「いい」と思った時は24bitだから、それをわざわざ16bitにするのが忍びないと。
keisuke : 特に僕は細かいところにリヴァーブやディレイをかけて残響、減退を楽しむタイプなんですけど、そういうところが16bitだと、がつんとなくなってたりして。アンビエンス感がなくなるのを感じちゃいますね。ずんどこ鳴ってる音楽だったらあまり気にならないのかもですけど、僕は揺れみたいなものをキレイに出したいので。ちなみにマスタリングはMANTISのMossくんが担当してくれています。
RECOMMEND
本文でも登場したベーシックチャンネルのモーリッツ・フォン・オズワルドを中心にマックス・ローダーバウアー(サン・エレクトリック)、ヴラディスラフ・ディレイ(LUOMO)が集ったスーパー・グループによる2012年作。深いエコーとダブを軸に繰り出されるアンサンブルはとにかくクール。彼らが生み出す音世界にひたすら身を委ねたくなる作品である。
モントリオールが誇る、近年のドローン / アンビエント界の重要人物、ティム・ヘッカーによる7作目。ピアノがフィーチャーされた気が遠のくほど壮大なサウンド・スケープ、ドローンを軸にノイズとチルアウトを行き来する音のレイヤード。この2つの要素で構成された今作は彼の代表作と言っても過言ではない。
PROFILE
Keisuke Kondo
学生時代にグラフィック・デザインを学ぶ傍ら、エレクトロニック・ミュージックに興味を持ち、名古屋で友人らとともに、テクノ / ハウス系のパーティ〈cabaret〉を主宰。レジデントDJとしてキャリアをスタートした後、東京に拠点を移しトラック制作を開始する。2007年頃から、〈Frankierec〉(仏)、〈o.p. disc〉(日)など国内外様々なダンス・ミュージック系のレーベルよりリリースを重ねる。〈cabaret〉を脱退後は、よりリスニングに重点を置いた音楽性にシフト。ディープで空間的な、永遠に聴いていられるようなサウンドを志向し、よりシンプルで普遍的な音楽制作を実践 / 展開している。