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CIAが、幻覚剤LSDの人体実験において、アフリカ系アメリカ人たちを重点的に被験者にしていた

<記事原文 寺島先生推薦>

How the CIA Illegally Used African Americans for Experimental Drug Research

CIAが、アフリカ系アメリカ人たちを試薬実験に使った不法な手口

筆者:キット・クラレンバーグ(Kit Klarenberg)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2022年8月11日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10日31日


 
 今は、MKウルトラ作戦のことをご存知の方は多いだろう。何十年もの間、CIAは、非常に非道徳的な人体実験を行い、洗脳やマインドコントロールや拷問術の完成をめざしていた。おそらくこの作戦で最も悪名高い行為は、向精神薬、特にLSDを対象者たちに大量投与させたことだろう。これらの物質が、1948年にラングレーに拠点を置くCIAに関心を向けさせたのは、リヒャルト・クーンによる。クーンは、第二次世界大戦後のペーパークリップ作戦を通じて、密かに米国に連行された1600名のナチの研究者のうちの一人だった。これらの研究者たちの中には、その5年後にMKウルトラ作戦が正式に打ち立てられたとき、その作戦に関して直接相談をうけた人々もいた。

 それがLSDとは知らなかった米国民に、LSDを投与させた行為は、恥ずべき行為だ。実はCIAの工作員たち自身が、その接種を行ったこともあった。ただし、CIAが、目的を果たすために、精神病患者や囚人や薬物依存症の人たち(匿名のCIA工作員の言葉を借りると「反撃してこれなかった人たち」)を実験台にしていたという事実は、ほとんど知られていない。

 オタワ大学の文化・精神医療格差研究所(Culture and Mental Health Disparities Lab )が出した学術論文により、MKウルトラ作戦のよく知られていない中身に新しい光が当てられ、さらにこれまで全く知られていなかったこの作戦のある側面が、浮き彫りにされた。 つまり、有色人種、特にアフリカ系アメリカ人たちが、この作戦においてCIAにより、全く不均衡な割合で標的とされていた事実が、明らかになったのだ。

動物実験のように語られ、動物のような扱いを受けた

 1973年、CIAの秘密活動が、ウォーターゲート事件をきっかけに、公的に明るみにされる可能性を恐れ、当時のリチャード・ヘルムズCIA長官が、MKウルトラ作戦に関するすべての文書を破棄する命令を下した。

 しかし、何万もの書類がその措置から逃れることができた。さらに都合のよいことに、この作戦内で行われた人体実験についての論文や、査読済みの科学的な記事の重要な部分は、自由に閲覧できる形で公表されている。この人体実験は、80を超える公立や私立大学、刑務所、病院で行われていた。被験者が承知していたかどうかは別として、CIAのために精神的な薬物の人体実験がそれらの場所で行われていたのだ。その薬物の中で、もっとも関心が高く、頻繁に使用されていた物質がLSDだったが、DMT(ジメチルトリプタミン)やメスカリンやシロシビンやTHC(テトラヒドロカンナビノール)といった幻覚剤の効果についての調査も、幅広く行われていた。

 中でも、オタワ大学の研究団が、1950年代から1970年代にかけて書かれたこれらの論文のうちの49件について分析を行っている。これらの人体実験のうち4割は、CIAが直接運営する、ケンタッキー州の依存症研究センターで行われた。

 このセンターの敷地内には、「麻薬および向精神薬取締法」違反で起訴された囚人を収容する刑務所も置かれていた。その刑務所は、薬物研究の「特別病棟」であり、意図的に「中毒者」にされた囚人が収容されていた。
 
 研究者たちは、公然とこのセンターを利用して、以前薬物使用者だった人々や、現在薬物使用者である人々を対象に、好んで人体実験を実施していた。というのも、これらの人々は、違法薬物が持つ効果に対する「経験が豊富」であるので、薬物に手を染めないような禁欲的な人々よりも、安易にインフォームド・コンセント(ある医療を行う際の、医師と患者の間の合意)を行えると考えられていたからだ。実際、CIAにモルモットとして使われた被験者たちは、自分が何を投与されているか不明なことが頻繁にあった。

 利用可能な文献の分析を行った際、研究者たちは、公にされた被験者たちの人種や民族、被験者を集める戦略、実験の手法、被験者たちの身に危険が生じる可能性などについて調査した。それによると、これらすべての実験の被験者たちは、捕まえられたり、刑務所に収容された人々で、実験への参加は強制的で、危険な水準の注入量が使われていて、実験の結果得られる科学的な利点については、疑問が持たれるものであった。

 ほぼ9割の事例において、少なくとも一件の倫理違反が検出され、4分の3を超える事例において、現代の指針では認められない程度の非常に危険な量の注入が行われる日程が取られていて、15%の事例で精神障害をもつ被験者が使われた。ほぼ3割の事例で、有色人種の人々が被験者にされていた。

 多くの研究において、被験者の人種や民族は記録されていなかったが、オタワ大学の研究者たちによるさらなる調査により、実験が行われた被験者集合所には、過剰な数の黒人の米国民が来場していたことが明らかになった。MKウルトラ作戦において、迫害を受けた有色人種の実際の被験者数がずっと多かったという事実は、避けられない事実だ。例えば、当依存症研究センターで実験が行われた際、有色人種の割合は、ケンタッキー州の人口の約7%に過ぎなかったのに、実験に参加した囚人の66%が、黒人やメキシコ系の米国民だった。



オタワ大学文化・精神医療格差研究所

 CIAのよく知られたこのMKウルトラ作戦において、どの事例においても、有色人種の人々は白人の被験者よりもずっと苦しめられていたという事実は、この実験に関する身の毛のよだつような話の詳細から、完全に明らかになっている。例えば、1957年の実験記録によると、数多くの脆弱な人々が精神的にも肉体的にも拷問をうけていたことがわかる。とくに研究者が記載していたある一人の黒人の被験者は、まるで動物であるかのように扱われていた。

 LSDを投与されたこの人は、「野生動物のようにおびえた表情」を示し、「自分の恐怖を和らげる薬」を求めた、とある。その人に対する対応は、彼を縛り、他の被験者たちよりもずっと高い注入量で混合薬を投与させることだった。そしてその人の意思に反して、そうし続けたのだ。

 その前年も同様に、或る実験が黒人の被験者に対して行われた。その際、85日間、毎日180ミリのLSDが投与されていた。一方白人の被験者は、たった8日間、毎日75ミリのLSDが投与されただけだった。或る一人の黒人の被験者は、その投与により、「非常に深刻な」反応を示し、症状が回復したときに、その実験から抜けるよう懇願していた。 しかし、「かなりの努力を伴う説得」の結果、実験の継続に同意した、という。

 この実験を分析した研究者たちが特定したのは、被験者を確保するための不適切な圧力が、しばしばかけられていた、という事実だ。被験者になることを強制させるさまざまな技術が頻繁に取り入れられることにより、残忍で、時には命にも関わる実験に被験者が誘導され、実験が維持されていた

 例えば、依存症研究センターの囚人たちには、被験者に志願する見返りに、刑期の短縮が申し出られたり、 ヘロインなどの薬物が渡されたりしていた。これらの薬物は、実験が終了した時点で手渡されたり、後の「退所」時の「銀行口座」に預金される場合もあった。ほぼすべての事例において、実験の被験者たちは刑務所から早く退所するよりも、依存欲を持続させる方を選んでいた。


「X先生、これは深刻な話です」

 被験者たちが受けた実験の設定も、被験者の人種により大きく変えられていた。それは、同一の実験においても、だった。1960年に行われたLSDの効果を調べる実験では、薬物使用で有罪判決を受け、刑務所内の研究病室で薬物を投与された「黒人」の男性の一団と、調査団長の自宅という居心地のよい環境の中で、志願して、投与を受けた仕事持ちの白人の米国民からなる一団が、横並びで調査されていた。後者は、「不安を取り除かれた社会状況」での実験が意図されていた。

 このような事例から、この実験の目的は、白人と黒人の被験者の間で、向精神薬に対する反応がどう違うかを測定することだったように考えられる。そうとなれば、ある疑問が浮かぶ。それは、CIAはある特定の薬物が、一般市民全般と比べて、有色人種の人々に効果的なのかについて、明確に、(あるいは、大きな)関心を持っていたのだろうか、という疑問だ。


カリフォルニア州ビェジャスの模範囚労働者収容所
LSD研究計画に参加する志願者。1966年9月6日 Photo | AP

 オタワ大学の研究団を率いるダナ・ストラウス氏は、MKウルトラ作戦で、黒人の被験者の割合が不釣り合いに高かったことは、大きな人種差別に当たる行為だが、それはCIAが実験対象にしていた機関内の人種構成に偏りがあったからだけだ、と主張している。ただし、ストラウス氏は、CIAの研究者たちが、意のままに利用できる囚人を容易に集めることができなかったとしても、有色人種の人々を実験対象に選んだであろうことは確実だ、と考えている。それはアラバマ州タスキーギーでの梅毒実験事件の時と同じ手口だ。

 ストラウス氏はミントプレス社の取材にこう答えている。

 「囚人たちは既に黒人でいっぱいだった。実験者たちは、自由市民を被験者にすることもできたが、自由市民たちであれば、このような実験から逃れることも可能だった。当時、囚人の被験者のような社会的に脆弱な人々を保護する術はなかった。そのためそのような実験は、基本的に実験する側の思うがままであった。このような人たちが、これらの危険な研究の標的にされたのは、彼らが黒人で、囚人で、人間としての価値が低いと思われていたからだった」

 ナチの強制収容所の閉じられた環境で、ジョセフ・メンゲレのような怪物じみた人物が、健康や安全などは考慮に入れず、非情で恐ろしい人体実験をしていたのと同じように、刑務所か収容施設のいずれか、あるいは両方に入れられていた有色人種の人々が、「反抗できない人々」とされ、CIAによって途切れることなく被験者にされ、CIAの思いのままに、搾取され、権利を侵された。そしてCIAは、その行為に対して精査を受けたり、責任が追求されることはなかった。

 ストラウス氏によると、実験の過程において、研究者たちは、ギリギリの量までの向精神薬を投与して、人体の反応を調べていた、という。MKウルトラ作戦に関わっていた研究者たちが、アウシュビッツで展開されたような邪悪さ野蛮さに匹敵しなかったとしても、少なくとも私たちが分かる範囲で、アウシュビッツでの実験と同程度の被験者に対する軽蔑の念があったことは、いくつかの研究で明らかになっている。そのような蔑視があったことが、ある特定の実験において気ままで過剰な特性が見られた理由の説明になるだろう。 そのような実験では、実験目的が不明確で、実験の結果得られる科学的価値が全く見いだせないものだった。

 1955年、ある研究団が、スプリング・グローブ州立病院に入院中だった4人の統合失調症患者を被験者にした実験を行った。その病院があるのはメリーランド州のバルチモア市で、今は住民の大多数が黒人である市だ。被験者たちは、大量のLSDを、過剰な期間、投与された。 はじめは1日100ミリを2週間、その後1日の投与量をさらに100ミリ増やされ、どの程度まで量をあげても許容できるかについて調べられた。比較のために書き添えるが、現在の向精神薬研究の指針では、LSDの投与量の最大許容投与量は200ミリとされていて、さらに、投与期間を長くすることは危険である、と警告されている。

 投与行為とともに、研究者たちは配慮なしに被験者たちを監視することもしていた。そこには被験者に対する軽蔑と非人間的扱いがあった。この実験の結果をまとめた報告書に見られる客観的な表現から、この実験の堕落性が浮き彫りになる。研究者たちの卑劣な盗撮行為は過剰で、「トイレの回数」や「性欲」の観察までに及んでいた。その実験報告には、この4人の被験者たちが、どれくらいの頻度で、「尿を漏らし」、「便で汚す」かも書かれていた。さらには、どのくらいの頻度で、「自慰行為や性的な会話をする」かまで記載されていた。そして、1人の被験者が、自分たちが受けている酷い仕打ちについて、絶望的にこう語っていたことも記録されている。「X先生。これな深刻な問題です。私たちは惨めです。私たちをおもちゃにしないでください。」

「明らかな不法行為のもとでの研究」

 ストラウス氏からすれば、これだけ全貌が明らかなはずのMKウルトラ作戦の人種差別的中身が、世間から認識されておらず、長い間隠されていたという事実は、「我々がいったいどんな社会に住んでいるかの答えになるだろう」と記述している。

 CIAの研究者たちが、黒人の米国民や囚人たちの命を軽視していたのと同様に、学会の立場はそれ以来変わっていない。しかもその自覚さえない場合もある。ストラウス氏の記述によると、現在の学者たちも非白人の精神病治療についての関心は非常に薄い、という。ストラウス氏は、最近の幻覚剤を使った研究の8割以上は、非ヒスパニック系の白人であったという、最近の研究結果を指摘している。

 ストラウス氏はミントプレス紙の取材にこう答えている。「全体的に、幻覚剤の研究や、心理学や、学術研究機関は、今でも白人が支配的な分野だ。2015年、米国の85%以上の心理学者が白人で、黒人は、5%以下でした。黒人の心理学者である、モニカ・ウィリアムス博士は、MKウルトラ作戦で行われていた虐待と、道徳上許されない行為について調査した最初の研究者でした。私の考えでは、本当の疑問は、なぜウィリアムス博士以外に、これらの明らかに不法な研究について、調べた人がいなかったのか、というものです。」

 さらに衝撃的な事実は、科学者や医学教授は、非人道的で不法なナチの研究を持ち出し、その道徳性について熱く議論が交わされ続けている一方で、ストラウス氏や彼女の研究団が調査した、非常に非道徳的で、人種差別に基づいていたMKウルトラ作戦における研究に関しては、明らかにそのような懸念の声が上がっていないことだ。MKウルトラ作戦については、今でも合法的な学術的研究として引用され続けている。


幻覚誘発剤に関する1966年3月の裁判での証言において、LSDの標本を見せている科学者のセシル・ハイダー氏。Walter Zeboski | AP


 ストラウス氏の希望は、これらの研究論文がきっかけとなり、より幅広い議論が展開されることだ。その議論の中身は、研究による虐待が、有色人種の人々にどう影響を与えてきたか、そして今でもどう影響を与え続けているかについてと、精神医療研究が、どうすればより社会的責任や文化的発展を果たせるかについて、だ。

 より一般的な話をすれば、MKウルトラ作戦の真実照合委員会を立ち上げることが明らかに喫緊の課題である、ということだ。CIAの役員たちも、この研究に参加していた人々も責任を問われることもなければ、罰を受けることもなかった。彼らにはCIAの庇護のもとで行われた、人類に対する数え切れないほどの罪状がある。さらにこの計画の全貌は未だに不透明で、謎が多いままだ。この事例はずっと闇に包まれてきたのではあるが、もっと邪悪な秘密計画があったことも分かっている。その中には、MKウルトラ作戦の海外版といえるMKデルタ作戦も含まれる。

 2021年12月、CIAが、何十年もの間、身体に負担のかかる実験をデンマークの子どもたちにおこなっていた事実が明らかになった。その子どもたちの多くは孤児で、インフォームド・コンセントも受けていなかった。その後、成人した一人の被害者が、地域の機関で保存されていたこの研究を、残忍にも黙認していたことを示す文書を閲覧しようとした際、関係当局はその文書をシュレッダーにかけた。ヨーロッパの他の地域でも、CIAが同様の研究を行っていた可能性について、大きな疑問が浮かび上がる。

 明らかに、この隠蔽工作は継続されている。このような圧力がかかっている理由は、過去の歴史的犯罪行為に蓋をしたいという反射的な欲求のためという理由だけではなく、このような記録が明らかにされれば、CIAによる現在進行中の活動の曝露に繋がる可能性があるという理由もあることは確かだ。

 ミントプレス紙が4月に出した記事の通り、MKウルトラ作戦が公式に実在していた期間に研ぎ澄まされた、拷問器具や精神操作の技術が、 グアンタナモ湾収容施設の囚人たちのために使われ、大きな効果を出している。そのような技術が、今はどこでも使われていない、あるいはこの先使われることはない、と考えられる保証はない。

 リチャード・ヘルムズが恐れていた、MKウルトラ作戦に関する議会による調査は、最終的には1977年に採択された。その調査において証言者となった一人に、エドワード・M・フラワーズさんがいた。フラワーズさんは、CIAによるマインド・コントロールの実験の被験者とされた生き残っていた囚人の中で、唯一居場所が突き止められた人物だった。フラワーズさんは、1950年代に囚人施設に収容されていた時、依存性センターで幻覚剤の実験の被験者となっていた。国会の公聴会に出たことで、フラワーズさんは、科学という名のもとに、自分の身になされたことに関する
不穏な事実を新たに知ることになったのだが、そのことで何かが変わったわけではない。

 「公聴会に参加した時の第一印象の直感で、私は裏に何かあることに気づきました。このこと全ての後ろに、CIAの影がある、と感じました。奴らは、私を利用して、利を得ようとしていたのです」と、フラワーズさんは、何年も経った後で、回顧していた。「私が国会の証言台に2回目に上がった時です。私の近くには数名の人が座っていました。その人たちは、補償金についてしなければいけないことの話をしていました。でも補償金のことを聞いたのはその時限りでした。」

 これとは対称的な事例だが、1966年11月、CIAがカリフォルニア州でクロック・コカインの販売に手を貸していた疑いについて、人々からの怒りの声が強まっていた。CIAはそれで得られた資金をニカラグアでの秘密工作の資金に利用しようとしていた。これを受けて、当時のジョン・ドイッチCIA長官が、ロサンゼルス住民からの厄介な質問に対処させられることになった。質問の中身は、報道されたこの陰謀に関することで、この会議には前例のない規模の数の市民が参加していた。

 オタワ大学の研究団によるこの発見によって引き起こされた人々からの怒りに関して、CIAの代表者たちが、CIAについての説明を公表するよう再び圧力をかけられない、という道理はない。CIAにはそうすべき理由がいくらでもある。
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英国諜報機関は30年前にウクライナ戦争を予測していた

<記事原文 寺島先生推薦>

BRITISH INTELLIGENCE PREDICTED UKRAINE WAR 30 YEARS AGO

筆者:フィル・ミラー(PHIL MILLER)

出典:DECLASSIFIED UK

2022年10月3日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月29日

 英国は1992年の時点で「ロシアとウクライナの深刻な対立」を予期していたことが、機密解除された書類で明らかになった。ある高官は、ウクライナが「本当の国」であるかどうかさえ疑っていた。



1992年、ウクライナからの独立を求める抗議行動をするクリミア人たち。(写真: Sergei Supinsky / AFP via Getty)

 今年初め、プーチンがウクライナを攻撃しようとしていると英国諜報機関が警告したとき、その先見性は多くの賞賛を浴びた。しかし、その予測は、※ホワイトホールが、以前からいつかは公になるかもしれないと分かっていたシナリオが投影されたものだった。
※英国政府の官庁街の名称で、英国政府の代名詞として使われている

 1992年5月、ソビエト連邦が崩壊してわずか半年後、イギリスのジョン・メジャー(John Major)首相(当時)は、側近から説明を受けていた。クリミアをめぐるロシアとウクライナの衝突の可能性を懸念してのことであった。

 黒海に面したこの半島は、1954年にソ連からウクライナに譲渡されるまでロシアのものであった。冷戦の間、クリミアは、クレムリンの海軍にとって戦略的に重要な不凍港を含め、ロシアの重要な存立拠点だった。

 この地域におけるロシアの影響力はとても強く、1990年代には、現地の政治家たちがウクライナからの独立を問う住民投票を望むほどであった。「クリミアは人口のほとんどがロシア人だ」と、ある補佐官が手書きのメモをメジャー首相(当時)に渡した。

 彼らは警告した:「クリミアが独立すれば、セヴァストポリを拠点とするウクライナの黒海艦隊の支配力は失われる。」

 英国情報機関の高官であるゴードン・バラス(Gordon Barrass)の言葉:

「ウクライナ側は住民投票の実施を阻止しようとするだろう。この問題は、キエフとモスクワの民族主義者の間で情熱を呼び起こすだろうし、クリミア内の民族間対立をかき立てるかもしれない。」

 クリミアに住む人々の中には、長い歴史をもつイスラム教徒の先住民クリミア・タタール人たちがいた。彼らは、ソ連の支配下で残酷な弾圧を受け、ウクライナに残ることを望んだ。

 イギリスのベテラン外交官で情報機関の最高責任者であるパーシー・クラドック(Percy Cradock)は、「クリミアとキエフ(モスクワも同様)の強力な民族主義者の圧力団体の間で強い感情が沸き起こる」と警告した。

 彼が強く思っていたこと:

「状況が制御不能になる現実的な可能性が絶対ある。それはクリミアでの暴力や、ロシアとウクライナの深刻な対立を意味しかねない。」


関連記事:JOHN MAJOR PRAISED GULF RULER’S POWER GRAB, NEWLY DECLASSIFIED FILES...

疑問視されるウクライナの主権

 この件において、面倒な妥協がなされた。クリミア議会は、ウクライナの権威を認めつつ、独立を宣言したのである。しかし、情勢は不安定なままであった。

 メジャー首相(当時)の外交顧問で元駐モスクワ大使のロドリック・ブレイスウェイト(Rodric Braithwaite)は、今日では異端視されるような秘密の背景説明書を書いている。

 「ウクライナが本当の国であることは、ウクライナ人にとっても、ましてやロシア人にとっても、完全には明らかでない。それ故、両者の間に緊張関係生じるのだ」とブレイスウェイトは指摘した。

 ブレイスウェイトは、その後1992年に合同情報委員会の委員長に就任し、首相に中世に遡るこの地域の簡略化した歴史を説明した。彼は1930年から31年にかけて[ソ連の指導者ヨセフ]スターリンがウクライナにもたらした人為的な飢饉に焦点を当てた。この時、何百万人もの農民が強制送還させられるか、餓死させられたのだ。

 「1941年、多くのウクライナ人がドイツ軍を解放者として迎え、多くの人がドイツ軍に加わることに同意したことは、驚くべきことではなかった」とブレイスウェイトは第二次世界大戦中のナチスの協力者に言及し自説を述べた。

「完全には明らかでないのは・・・ウクライナが本当の国であるかどうかだ」

「ロシアの不可欠な部分」

 これらの抵抗勢力は最終的にスターリンに敗れたが、ウクライナ国粋主義は政治運動として存続した。「1990年は一年中を通じ、独立を求める民衆のデモの数と規模は膨れ上がった」とブレイスウェイトは指摘し、ウクライナ人にとってロシアは「帝国」のように映ったと付け加えた。

 その一方で、彼はこうも言った。「ロシア人はこの絵柄が分からないだろう。ロシア人にとって、ウクライナはロシアの不可欠な一部である。その歴史もその文化も。ウクライナ語は(ロシア語の)方言に過ぎないのだから」。

 彼はこう続けた。「ウクライナが祖国から永久に切り離されると本気で信じているロシア人には、最も洗練された人たちでさえ一人も会ったことがない。」

 ブレイスウェイトは、率直な感想としてこう述べた。「ウクライナ人はそれを知っている。また、ウクライナ自身が、超民族主義の西ウクライナと、ロシア系民族が多く住む東ウクライナに分かれていることも知っている」。

 緊張が高まる中、ホワイトホール(英国政府)の機密計画書が警告を発した。「ウクライナにもっと注意を払う必要がある」。この文書では、「少数民族であるロシア人(人口の22%)の長期的な忠誠に対する懸念」と、エリツィン大統領がクレムリンで「民族主義者/新帝国主義者に取って代わられる」懸念があると指摘している。


関連記事: WHEN TONY BLAIR BACKED PUTIN’S BRUTAL WAR

「ロシアによる再併合」

 1993年末、外務省の計画担当者は、ウクライナをモスクワからの資金に依存しないようにするために「痛みを伴う経済・政治改革の必要性を直視しなければ、ウクライナはロシアに再併合されるかもしれない」と考えていた。

 ウクライナのボリス・タラシュク(Borys Tarasyuk)外務副大臣は、1994年初めに英国の外交官がキエフを訪れ、「6時間ほどの秘密の意見交換」を行った際、この分析に異論を挟まなかった。

 タラシュクは、モスクワは「旧ソ連の全共和国に対して可能な限りの支配権を主張しようと決意している」し、「介入を正当化するために、隣国を不安定にするというよく使われてきた戦略を用いるだろう」と考えていた。

 タラシュクは、「最近の選挙で、親ロシアの分離主義的な感情の強さが示されたクリミアについて特に心配している」ようだった。

 イギリスの上級外交官で、後に大手兵器企業ボーイング社を経営することになるロジャー・ボーン(Roger Bone)は、「西側諸国はロシアの外交政策が変化するリスクを非常によく理解しているし」そして「ロシアの勢力圏の再確立を容認することはないだろう」とタラシュクに念を押している。

影響力行使の戦い

 民営化の推進と国際通貨基金(IMF)との連携により、ウクライナの経済を欧米の軌道に乗せる計画が立てられた。資金援助は、ウクライナが、経済を自由市場型に再構築することを条件とするものであった。

 この方向性の是非が完全に明らかになるには、さらに2~30年かかるだろう。2014年、ウクライナは民主的に選ばれた大統領が、EUではなくロシアとの経済協定を選択したため、民衆の「クーデター」によって倒された。

 (エリツィンに代わり)民族主義者のプーチンが率いていることになったロシアは、同盟国を失ったことに反発し、クリミアを併合した。住民の投票では97%がロシアへの帰属を選択したとされるが、タタール人は投票を拒否し、英国も認めていない。

 一方、モスクワはドネツクとルガンスクの分離主義者を支援し、ウクライナ東部のドンバス地域を不安定にすることに手を貸した。和平交渉は失敗し、今年2月にはプーチンがウクライナへの全面的な侵攻を開始し、紛争は劇的に激化した。

 プーチンは今、戦争が続いているにもかかわらず、ドンバスで論争の的になっている投票を行うことで、国民投票の戦術を繰り返しているのだ。英国情報部は最近、紛争を予測したことで評価を得ているが、機密解除された書類は、これが、ホワイトホールがずっと以前から知っていたリスクであったことを明らかにしている。

ABOUT THE AUTHOR

Phil Miller is Declassified UK's chief reporter. He is the author of Keenie Meenie: The British Mercenaries Who Got Away With War Crimes. Follow him on Twitter at @pmillerinfo
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ジャーナリストたちは要求する。ミロトウォレッツのサイトをテロ組織に分類し、閉鎖することを

<記事原文 寺島先生推薦>

https://libya360.wordpress.com/2022/09/10/journalists-demand-the-mirotvorets-site-be-classified-as-a-terrorist-organization-and-shut-down/

(ジャーナリストたちは要求する。ミロトウォレッツのサイトをテロ組織に分類し、閉鎖することを)

筆者:クリステル・ネアン(Christelle Neant)

出典: INTERNATIONALIST 360°

2022年9月10日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月28日



 2022年9月6日、反弾圧財団が主催する会議がモスクワで行われた。会議のテーマは「情報ゲシュタポ*:ウクライナの民族主義ウェブサイト「ミロトウォレッツ」のリストは表現の自由を抑圧し、ジャーナリストを弾圧するために使用されている」であった。

*1933年に組織されたナチス-ドイツの秘密国家警察。超法規的な強い権限を有し,反対派・ユダヤ人・占領地住民などに対してテロ・弾圧を加えた。

 私はこの会議に、ドイツ、アメリカ、フィンランド、オランダ、カナダ、イギリスといった西側諸国の同僚とともに参加した。

 出席したジャーナリスト全員が、ミロトウォレッツの存在そのものを非難し、脅すことによって黙らせようとしてもうまくいかないと強調した。全員が、自分たちに対する殺害予告にかかわらず、自分たちの仕事を続けることを確認した。

 忘れていけないことは、ミロトウォレッツのサイトには、ジャーナリストの個人情報、パスポートのスキャン、住所、親族の情報、さらには車の情報さえも公開されていることだ。(これは私の場合であるが、私の古い車は、車両識別番号(VIN)や登録番号も含めて、その全ての情報がこのサイトで公にされている。)これらの情報はすべて、ミロトウォレッツのリストに載っているジャーナリストを追跡することを可能にするものである。こんな情報を提供できるのは(ウクライナの、あるいは西側の)秘密情報機関だけだと思われる。

 反弾圧財団の責任者であるミラ・テラダは、ミロトウォレッツのサイトに掲載されている欧米のジャーナリストの人数について発表した。ミロトウォレッツに掲載されている341人のジャーナリストのうち、ロシア、ウクライナ、DPR、LPR(ドネツク、ルガンスク人民共和国)以外のジャーナリストは83人いるが、その圧倒的に多数を占めるのは欧米のジャーナリスト(80人)である。

 また、テラダはミロトウォレッツのサイトによってデータが公開された後に殺されたジャーナリストが何人もいることを思い起こさせた。オレスィ・ブジナ、アンドレア・ロッチェルリ、ゼムフィラ・スレイマノヴァ、アンドレイ・ステニーン、イゴール・コルネリウク、アントン・ヴォロシン、最近ではダリア・ドゥーギナといった人たちである。

 個人情報の収集と公開は、ジャーナリストの名誉、尊厳、個人情報、生命の保護に関するすべての国際的な法的基準に対する凶悪な違反であるとし、ロシアの弾圧と戦う財団の責任者テラダは、ロシア連邦保安庁(FSB)トップであるアレクサンドル・ボルトニコフに手紙を送り、ミロトウォレッツをテロ組織として分類するように要請した。

 ラッセル・ベントレーは、ミロトウォレッツというマフィアの構造はウクライナのファシスト政権と一致しており、ドンバスで活動する独立系ジャーナリストを現実の脅威にさらしている、と述べた。彼は、出来事に対する視点を共有し、道徳的・思想的な考慮によってのみ導かれるジャーナリストは、第四帝国に対抗し、21世紀のナチスに対抗して戦っていると確信している。

 カナダ人ジャーナリストのエヴァ・バートレットは、母国カナダがウクライナのネオナチを積極的に支援し資金を提供しており、ウクライナ兵の訓練に次ぐ訓練に10億円以上を費やしていることを付け加えた。また、カナダ政府には、ナチスの協力者の直系の子孫が座っており、その出自を誇りに思っていると指摘した。帰国したら何が待っているのか想像もつかないというバートレットによれば、カナダのジャーナリストたちは、ミロトウォレッツの活動にまったく無関心だという。ウクライナは民主主義国家だと長年主張してきたカナダは、ウクライナのメディアの自由が完全に欠如していることに常に目をつぶっているのだ。

 英国人ジャーナリストのジョン・ミラーがミロトウォレッツの「殺害リスト」に加えられたのは、ルガンスク出身の若い作家、ファイナ・サヴェンコヴァがウクライナのサイトのリストに含まれていることを彼が報じた後のことだった。ジョン・ミラーはロシア支配地域にいるジャーナリストはミロトウォレッツに載っていてもたいしたリスクはないと述べたが、私は個人的には彼の主張に反論した。というのも、ダリア・ドゥーギナがロシアで殺害されたこと、またDPRやLPR、モスクワに住むジャーナリストも、ウクライナや西側諸国(現在多くのウクライナ人が避難している)にいるジャーナリストと同じくらい命の危険があることを思い出したからだ。

 こうした危険性をオランダ人ジャーナリストのソニア・ヴァン・デン・エンデはよく理解しており、ミロトウォレッツはCIA、NATO、米国の支援で作られたものだから、ジャーナリストは特に注意する必要があると強調した。祖国の外交政策について、オランダの戦場記者である彼女は、自国はロシアに対して宣戦布告なき戦争を行っており、ネオナチを批判する者は誰であれオランダ国家の敵であると述べている。それゆえ、彼女が祖国に戻るのはもはや安全ではなくなっている。

 ドイツ人ジャーナリスト、アリーナ・リップも同様の目に遭っている。ドンバスで起きている事実を報道したために、ドイツに戻ったら3年の禁固刑に処すと脅されているのだ。このジャーナリストによれば、弾圧は彼女の両親にも及んでいる。家族の銀行口座は封鎖され、電話番号も変えさせられた。そういった脅迫を受けたためにアリーナの母親はドイツを去らねばならなかったという。彼女はダリア・ドゥーギナへのテロ事件後、自分の身の安全に気を配るようになった。

 フィンランドの通信社UMV-Lehtiのディレクター兼編集長であるヤヌス・プットコネンは、ミロトウォレッツの創設を西側情報機関と関連づけ、重大な人権侵害を無視する外国のメディアと政治家の無策を非難した。彼はこのサイトの活動を何年も見てきた人物である。彼にとっては、ミロトウォレッツは閉鎖されなければならない存在である。さもなければ、このような手法が世界の他の国々に癌のように広がるからだ。彼はまた、このサイトを「新しいゲシュタポ」とも呼んだ。

 この呼び名に私も賛成である。というのも、私自身も以前から、ミロトウォレッツをデジタル・ゲシュタポ、あるいはゲシュタポ2.0と呼んできたからだ。私が講演で述べたように、もしナチスドイツの時代にインターネットがあったら、彼らは間違いなくミロトウォレッツに似たようなサイトを発明していただろう。

 出席したジャーナリストは全員、国連に対し、ミロトウォレッツの活動を非難する決議を採択し、この組織に対する国際調査の基礎となるよう求める共同書簡を提出する。もしロシア連邦保安庁(FSB)が反弾圧財団の要求に応じれば、ロシアは同時にこのテロサイトに対して、全国的に調査し、対策を講じることになる。ウクライナとドンバスで起きていることについて真実を語った人がそのためにまた命を落とす、そんなことが起きる前に、ミロトウォレッツが享受している免罪符に終止符を打つべき時が来ている。

会議のビデオ
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世界各地に存在するワシントンの生物学研究所

<記事原文 寺島先生推薦>

Washington’s Biological Research Laboratories

筆者:パブロ・ジョフレ・レアル (Pablo Jofre Leal)

出典:INTERNATIONALIST 360°

2022年10月10日

<翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月28日



 国防総省の指導のもとに設置、開発、運営されている米国の研究所は、アフリカ、ラテンアメリカ、そして実質的に旧社会主義共和国連邦を構成していたすべての国々に散在している。少なくとも全世界で200の生物学研究所が米国防総省の資金援助を受けていると推定される。

 化学兵器や生物兵器の製造に携わる米国の専門家が、特に旧ソビエト連邦諸国の領土内に存在することは、ロシア連邦に対して最大限の圧力をかけるという米国政権の目的を示す証拠の一部である。これらの施設では、米国機関が、いわゆるハイブリッド戦争の広い分野(軍事分野または破壊工作活動)で使用する可能性のある、致死性疾患の病原体の作成と改良に取り組んでいる。国連もさまざまな国際条約も、その能力と簡単に破壊する危険を認識しており、その使用と拡散を防ぐために規制協定を結んでいる。しかし、この協定は、ワシントンが大量破壊兵器(WMD)の製造を目的とした研究センターで世界を苦しめることを防ぐことはない。

 マドリードのコンプルテンセ大学が、この研究センターの生物科学部遺伝学・生理学・微生物学教室の研究者と行った興味深い研究は、「1925年のジュネーブ議定書が生物兵器の製造と使用の調整を開始した」と指摘している。さらに「ジュネーブ議定書は、1972年に生物・毒素兵器禁止条約(BTWC)に発展した。この条約は、生物兵器の製造を明確に禁止した最初の多国間軍縮条約といえる。現在では173カ国が批准し、生物兵器や毒素の開発、生産、備蓄を禁止している」ことも指摘している。

 この条約は、多数の加盟国があるにもかかわらず、その遵守を確認するための検証システムを持たず、危険性のある生物製剤の研究も禁止していない。早くも1991年、「細菌(生物)兵器及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びにそれらの廃棄に関する条約」の第3回再検討会議で、国連は軍縮局を通じて「VEREX」という特別委員会を設立している。生物兵器の管理を強化するための検証手段を、科学的、技術的な観点から調査する委員会である。それから約30年後の2004年、国連安全保障理事会は決議N°1540を制定し、大量破壊兵器としての生物製剤の使用・製造に関する国際的な監視状況について年次報告書を発行する義務を設けた。

致命的な地図



 世界各地の米国の施設では、軍事分野での使用を目的とした危険な病気の様々な病原体を作り出し、改変する作業が行われている。カザフスタンもその一つで、6つの米軍施設がある。2005年以降、カザフスタンでは生物学的研究が盛んに行われており、首都アルマティ(旧アルマ・アタ)にある主要施設に、2013年に1億2000万ドルの初期投資を行って、レイキンバエフ国立科学センターを建設したと、ロシアは指摘する。このプログラムは、米国の軍事エリート、共和党の故リチャード・ルーガー上院議員が当初監督していたことを想起してみよう。彼は、いわゆる軍産複合体と密接な関係を持ち、カザフスタンの旧ソ連の核施設の解体とウクライナとグルジアでの生物兵器の開発を推進したことで知られている。2021年にウクライナのメディア「ポリトナビゲーター」が糾弾した興味深いことは、ウクライナの軍に所属するアメリカの生物学者が、自国だけでなくカザフスタンでも、中央アジアで飼育されている家畜を通じて、伝染性の致命的なウイルス株を拡散する新しい方法を開発していることである。

 カザフ政府は、キルギスとの国境に高水準の生物学研究所を建設中だが、キルギスの住民から抗議を受けている。その研究所は、さまざまな病気を引き起こす動物の世界の病原体を扱う工程であり、すでにテストされている40のプロジェクトに加わることになる。さまざまな種類の害虫、野兎病*、脳炎、その他アジア地域に特有の多くのウイルス、さらにコウモリコロナウイルス改変プロジェクトが進行中だ。

[訳注]*野兎病(tularemia)は野兎病菌による急性熱性疾患で、代表的な動物由来感染症の一つである。自然界において本菌はマダニ類などの吸血性節足動物を介して、主にノウサギや齧歯類などの 野生動物の間で維持されており、これらの感染動物から直接あるいは間接的にヒトが感染する。(国立感染症研究所)

 アルメニアでは、米国国防総省の国防脅威防止局(DTRA)が、南コーカサス地方に位置するこの国の研究所で、疾病監視システムを創設し、統合を図るプログラムを実施している。アルメニアの研究所、特に公衆衛生省の国立疾病管理予防センター、経済省、緊急事態省のセンターには、ワシントンから94の特別な技術複合体が配備されている。アルメニアの首都にある農業省の国家食品安全サービスの中心機構は、2016年に2人のアルメニアの大臣と駐アルメニア米国大使によって発足し、シラク、タブシュ、ロリ、ゲガルクニク、シュニクの各州に地域構造体を確立した。これらの米国が資金を提供するセンターの重要な任務は、暑い南コーカサス地域での活動である。

 グルジアでは、リチャード・ルーガー・センター(旧ソ連の仇敵とされる極右の共和党上院議員にちなんで名付けられた)が、首都トビリシの郊外の医療・軍事研究所である。米国が出資するこの研究所は、多くの科学者を抱え、最新鋭の設備と高い生産能力を持ち、人種や民族的な要素を考慮しながら、病原体の影響や人への影響を測定することを目的とした実験を行うことができるので、ロシアにとっては深刻な脅威であり、多くの公開討論会で非難を浴びている。このセンターの理事会には米国の代表がおり、配分された資金がワシントンの利益の方向に行くように統括することが可能になっている。モスクワは、ロシア国境のすぐ近くに医療生物学研究所を設置するペンタゴンの活動に懸念を抱いていると、何度も指摘している。2015年、ロシア外務省は、「ルガール・センターの中で、米軍の医療研究団が活動している」と述べた。

 同じく南コーカサスに位置するアゼルバイジャンも、保健省の企業を統合した生物学研究のための商業会社(ペンタゴン傘下)が設置されていると批判されている。ウクライナの場合、私はポータル segundopaso.es の作品で、ワシントンの財政的、組織的支援と、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領の打倒後、ウクライナ政権は、致命的な病気、特に病原体と生物兵器に使用できるウイルスの研究開発のための 30 の生物学研究所のネットワークを展開したことを指摘した。

 インドのメディアは、ウクライナのこれらの研究所が、特定の民族を標的とした選別的能力を持つ生物兵器の作成に取り組んできたと主張している。研究の資金提供者と受益者は、キエフ、オデッサ、リヴォフ、ハリコフに本部を置く米国国防総省傘下のいわゆる国防脅威防止局(DTRA)である。

 ロシア国防省の指摘によると、現米国大統領ジョー・バイデンの息子ハンター・バイデンが設立したいわゆる投資ファンド「ローズモント・セネカ・ソーントン」が、投機家ジョージ・ソロスの投資ファンドとともにウクライナの生物兵器研究所に資金を提供し、2022年3月初めに国防省の承認を得ているという。ヴィクトリア・ヌーランド国務次官(ウクライナの極右支持者として知られる)は、上院の公聴会で、ウクライナに化学・生物兵器が存在するかというマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州の共和党)の質問に対し、「生物研究施設」が稼働していることを明らかにした。

 アフリカの場合、この大陸のいくつかの国に米国の影が見える生物学研究所が存在することを、私は簡単に説明する。ケニアの場合、米国は国防総省を通じて、キスムとケリチョの医療センターを拡張している。そこでは80人 の米国の研究者が採用され、風土病だけでなく、新しいワクチン「ジニオス(Gineos)」にも取り組んでいる。そのジニオスワクチンは、いわゆる類人猿天然痘(猿痘)が、特に免疫不全の人々や、HIV 患者や、どんな時期の妊婦でもさらに悪化させるので、その広がりと戦うためのワクチンであるという。また、職業上のリスク、すなわちウイルスにさらされる可能性のある仕事をする人々も同様である。例えば、STI/HIVの医療従事者や、サルモネラ菌のサンプルを扱う実験室の職員などである。

 リベリアには、アメリカとリベリアの科学者による共同研究センターがあり、しばしば社会的・経済的な大混乱を引き起こすエボラ出血熱・ラッサ熱、マールブルグ病、ジカウイルスの研究に関連したプロジェクトが行われている。リベリアでは過去に、秘密の研究に使われていた霊長類が放棄された事例がある。1974年、米国の血液銀行ニューヨーク・ブラッド・センター(NYBC)が、野生のチンパンジーでウイルスの実験を行うため、リベリアにヴァイラルⅡという研究所を作ることを決定した時がそうだった。この霊長類は、ワクチンを開発するため、肝炎ウイルスなどの病原体に意図的に感染させられた。2005年、ヴァイラルIIの所長のアルフレッド・プリンスは、すべての実験の終了を発表し、チンパンジーの「終生飼育」の手配をすることを確約した。しかし、これらの霊長類は今は見捨てられ、ゆっくりと死に絶えようとしている。

 ジブチは、いわゆる「アフリカの角」の位置にあり、ペルシャ湾からの石油の40%がヨーロッパへ向かう途中に通過し、バブ・アル・マンデブ海峡の西岸に位置するため、地政学的に重要であることは疑いのないところである。また、米軍基地であるキャンプ・レモニエ前方作戦基地には、生物学的研究のための研究所がある。タンザニアには、米国防総省の主要な生物医学研究センターである「ウォルター・リード」陸軍研究所がある。この研究所は、タンザニアの都市ムベヤにある生物学研究室に資金を提供している。このセンターは、このアフリカの国で運営されている8つの研究室のうちの1つで、そのうち3つは、感染の可能性のあるエアロゾル*への曝露から、隣接する地域の職員や、コミュニティや、環境を守るために、一次および二次バリアの厳しい安全対策であるBLS-3生物保護が施されている。2015年から今日まで、これらのセンターへの資金提供は1億ドルを超え、この国のどの人道支援よりも多い。
[訳注]*エアロゾル(aerosol)は気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体をいう。

 ナイジェリアには、米軍の生物学研究所が4カ所ある。ここでのワシントンの存在に関してロシア連邦の非難が再び取り上げられた。特に世界保健機関(WHO)が、米国が助成するナイジェリアの研究所の仕事を調査するように警告されたことを考慮に入れる必要がある、という非難だ。これは、昨年5月、ロシア軍の放射線・化学・生物学的防御部隊のイゴール・キリロフ隊長が述べたものである。キリロフが述べたことは、「入手可能な情報によれば、ナイジェリアには少なくとも4つのワシントンが管理する生物学研究所があり、WHOの報告によれば、サル痘を引き起こす南アフリカの菌株がナイジェリアから輸出された」と指摘した。さらに「我々はWHOの指導者に対し、アブジャ、ザリア、ラゴスにある米国出資のナイジェリアの研究所の活動を調査し、その結果を世界社会に報告するよう求める」ということである。

 南アフリカ共和国では、アトランタに本拠を置く米国疾病対策センター(CDC)が、政府の「エイズ救済」プログラムの一環として、現在研究プロジェクトを進めている。このプログラムや、それ以外のより秘密裏に行われている臨床試験に関わっていた数十人の科学者は、新薬の使用を前提とした臨床試験を、地元市民を対象に実践している。南アフリカは、アパルトヘイトが行われていた当時、化学・生物製剤の製造において欧米と親密な関係にあり、その製剤のせいで黒人が被害者となった。その一例が、医師のワウテル・バソンが責任者を務めていた「コースト計画」である。このコースト計画は、機密事項として扱われていた生物・化学兵器計画で、第二次世界大戦後、致死性のCX(ホスゲンオキシム)やマスタードガス、催涙ガスなどの殺傷剤を製造していた同様の計画の後継としてたてられたものだ。この計画では、民族的に選別された破壊的なプログラムにおいて、黒人を不妊化するメカニズムを探求することさえ行われており、スイスの資金によっても支援されていた。

 これまでの著作で述べてきたことを再掲する。なぜなら、そこで開発されたものは、地球上の生命体に対する大虐殺を生み出す可能性があるからである。米国が中心となって開発した生物兵器は、通常の伝染病に見せかけて、たちまち多くの人々を攻撃することができる。つまり、中南米、アフリカ、アジア、ヨーロッパなど、ワシントンが管理するどの生物実験室でも、事故が起きれば、人類に悲惨な結果をもたらし、明らかに国際犯罪となるのだ。

(筆者による注は記事原文を参照:訳者)
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プーチンは勝てるカードを使い損ねている。勝てる手があったのに、今や使い損ねて、世界最終戦争への道を歩んでいる

<記事原文 寺島先生推薦>

Putin Misplays His Cards, what Could Have Been a Winning Hand has become the Road to Armageddon

筆者:ポール・クレイグ・ロバーツ

出典:Paul Craig Robertsオフィシャルブログ

2022年10月14日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月25日

 日々過ぎるごとに、わたしの心配はどんどん大きくなっている。その心配とは、クレムリンが危険な状況の対応を誤って、状況をさらに危うくしていることだ。
 プーチンもラブロフも間違った信号を送っている。二人が送るべきなのは、「我が国をバカにするな」という言葉なのだ。

 それなのに、ラブロフは「我が国の西側友好諸国」が、ロシアに対して冷たいことに不満を言うだけ。プーチンは敵側にエネルギーを供給することで、NATO諸国のロシアに対する戦争の継続を可能にして、ロシアと戦っている間であるにもかかわらず、西側諸国が凍死してしまわないよう、手を貸している。

https://www.telesurenglish.net/news/UN-Resolution-Against-Russia-is-Diplomatic-Terror-Lavrov-Says-20221013-0007.html?utm_source=planisys&utm_medium=NewsletterIngles&utm_campaign=NewsletterIngles&utm_content=13

https://www.aljazeera.com/news/2022/10/12/putin-offers-to-boost-gas-supplies-to-europe-via-nord-stream-2

 プーチンは、今自分が戦時中に身を置いていることをいまだに理解できていない。プーチンは、まるでロシアがEUに加盟しているかのような口ぶりだ。

https://sputniknews.com/20221012/putin-terror-attacks-against-nord-stream-seek-to-undermine-energy-security-of-continent-1101754059.html

 国連総会は、以前ロシア領であった4地域の再編入をロシアが拒絶し、無条件にウクライナから撤退することをロシアに求める決議案を可決した。
 ラブロフは、ワシントン当局が国連総会の投票に脅迫を使って干渉することで、ロシアに対する「外交テロ」を行っている、と非難した。

 ラブロフは、この投票結果以外の結果を期待していたというのだろうか?ラブロフが別の投票結果を迎えたかったのなら、米国ではなくロシアが、国連に金を出さないといけないのだ。
 本当にラブロフは現実が見えていない。国連がワシントン当局を支援する以外のことをしてくれると思っているのだろうか?国連に金を出しているのは、米国なのに。

 アルジャジーラの報道によると、一昨日、プーチンは被害を受けていないほうのノルドストリームのパイプラインを使って、欧州に天然ガスを送ることを申し出たそうだ。
 ロシア人を殺すための武器を列車に積んで、ウクライナに送っている、その欧州に。
 ワシントン当局がロシアに課している制裁に加えて、独自の制裁措置を課している、その欧州に。
 モスクワの現存政権の転覆を求め、ロシアの運動選手の出場を禁じ、ロシアの作曲家が作った音楽の公演を禁じ、ロシアの資産を盗み、契約上の取り決めを遵守することを拒否している、その欧州に。

 それなのに、ロシアの大統領は、欧州にエネルギーを売って、欧州による対ロシア戦争対策に支援の手を差し伸べているのだ。
 クレムリンは、ロシア国民の代表ではなく、石油会社の販売代理人だとでも言うのだろうか?

 ドイツ政府は、プーチンに「そんな支援はいらない」と言っていた。ドイツ政府は「そちらの天然ガスを買ってワシントン当局から恨みを買うくらいなら、ドイツ国民を凍死させたり、産業や経済を停止させる方を選ぶ」と言っているのだ。
 プーチンがドイツに「うちの天然ガスを売らせてください」と跪く姿を見る日は、そう遠くないだろう。

 プーチンは、ワシントン当局や欧州のNATO加盟諸国は、ロシアを破壊し、ロシアを諸小国に分割しようと決定していることを承知しているはずだ。そう、ロシアを、1871年に統一される前のドイツのような状況にしたがっていることを。
 先日、プーチンはロシア国民に、西側がロシアに脅しをかけると宣言している状況について明言していた。 それなのになぜプーチンは、欧州に媚び、エネルギーを供給し、自国を脅かそうとしている欧州を強化しようとしているのだろうか?

 ワシントンで米国の外向政策を牛耳っているネオコン勢力が、 プーチンのこの言動不一致な動きを、プーチンには軍事力を使うという解決法が持てず、使うこともできない、ととるだろう。だからこそ、ワシントン当局は、こんなにも自信満々に、「ロシアは倒せる」と見ているのだ。

 ワシントン当局は、状況を見誤っていると思うが、それはプーチンも同じだ。
 プーチンは真の意味での戦争が起こることを避けようとしていて、欧州に対して、自分は敵ではなく、友人だと思わせようとしている。
 プーチンの動きの意図は明確だ。プーチンは欧州に、ワシントンにいるご主人様とは距離をとって、ロシアのエネルギーを使って、暖かい冬を迎え、産業を回すように言っているのだ。
 実はそうするほうが、米国にとってもいいことなのだ。というのも米国は、BMW社やポルシェ社やメルセデス社やVW社の業務の一役を担い続けるつもりなのだから。

 ワシントン当局は、プーチンの言う「レッドライン」が架空のもので、本当にそれが「越えてはならない一線」であり、それを越えた場合、徹底的に反撃すると決意している人物としてプーチンを見ていない。
 ウクライナ国内の生活基盤施設に対する攻撃は、遅ればせながら、最近やっとおこなわれた。今年2月にウクライナと戦争状態に入って、8カ月も経ってからだ。だから「ネオコン」と呼ばれる連中は、それを、クリミアの橋を爆破しようとしたウクライナに対する弱々しい反撃だとしか見ていない。
 それは、単に「目には目を」という報復活動に過ぎず、「このままいくと破滅に直面する」という危機感を、ウクライナに抱かせるものではなかった。
 今までのロシア軍の戦闘は、ドンバスに侵略してきたウクライナ軍を領土から追い出すという、警察的な活動にすぎなかった。だからクリミア大橋の爆破にたいする反撃も、その程度のものだと思わせている。

 ワシントン当局の戦争戦略を決定しているネオコン勢力は、プーチンは喜んでウクライナ政府にロシアとの戦争を遂行させている、と見ている。ロシアからの攻撃をウクライナが防御できるように放置している事実からわかることは、ロシアには本気で戦う気はないだろう、ということだ。
 そうなると、ワシントン当局は、自分たちが優位に立っていると考え、挑発行為をより激化し続けるだろう。クレムリンからの対応が、これまで通りラブロフが泣き言を言うだけで、プーチンが欧州のNATO加盟諸国にエネルギー支援を申し出ることが続くのであれば、の話だが。

 近い将来のどこかで、ロシアは真の戦争を始めなくてはならなくなり、ロシア軍の真の実力を示す時が来るだろう。そうなればワシントン当局も、隠してきた角を出す決定をせざるをえなくなり、アルマゲドンが我々の眼前展開されることになる。

 イスラエル・シャミールも、私と同様に、ロシアによるウクライナ攻撃が制限的なものであった結果生じている現状を理解し、記事を書いている。

 プーチンは簡単に勝てる戦争にしくじり、長引かせてしまったために、ワシントン当局に時間を与え、ロシアに対して制裁をかけ、ウクライナ軍を整備し、ウクライナ軍に武器を与える隙を与えてしまった。
 それでもまだプーチンは、西側に対する幻想と妄想から解き放たれていない。そうやって、この戦争は、プーチンが避けたがっていた規模の紛争に拡大してしまった。

 問題なのは、プーチンがロシアは今戦争していることを実感しているかどうかだ。演説の中ではそう言っているのだが、プーチンの行いは、言っていることと一致していない。
 とどのつまりは、プーチン自身がロシア国家主義者ではなくて、汎大西洋統合主義者の一人だったのかもしれない。

 イスラエル・シャミールの説では、プーチンが真の戦争に突入したがっていないせいで戦争は継続されるだろうが、核戦争勃発という結果にはならない、としている。そしてその理由は、両側がそれを望んでいないからだ、と。
 一方わたしが危惧しているのは、プーチンのお人好しの振る舞いが続けば、さらなる挑発行為を誘発することになり、収拾がつかなくなる事態が生じることだ。
 その先のどこかで、超えてはいけない線を踏み外し、ロシア国内の親西側派汎大西洋統合主義者たちさえも、受け入れられない状況が生まれることになるだろう。

PCR

(ここまではポール・クレイグ・ロバーツ執筆文書

以下はイスラエル・シャミール執筆の記事の引用:訳者)

緩慢な戦争

イスラエル・シャミール

 この戦争の進行は概ね緩慢だった。動きはほとんどなかった。第一次世界大戦のような塹壕戦だ。
 大きな過ちは、最初にロシア人口4000万のウクライナを少しの兵で取ろうとしたことだ。ロシアのナルイシキン対外情報庁長官が先日認めたのだが、ロシアはウクライナに対する信頼のおける諜報活動ができていなかった、という。
 1991年以降長年、ロシアの諜報機関は、ウクライナ国内の事情を把握していなかった。そんな中で、ロシアは戦争を始めたのだが、 ウクライナ国民たちが、ロシア軍に花を送るくらいの歓迎を受ける、と期待していた。
 結局ロシア軍が大きく撤退する結末になった。プーチンは、キエフ側と合意を形成できると考えていたようだが、ウクライナ側は、合意文書に署名すると見せかけて、次の日にはそれを撤回する、という手口を使った。
 そんなことがずっと続き、半年後に、ロシア軍は予備兵の動員に追い込まれた。

 全てがうまくいかなかったという訳ではない。ウクライナとの戦争において、ロシアにはいい時もあれば、悪い時もあった。
 いい時というのは、アゾフ海岸のマリウポリ市を抑えた時だ。
 悪い時というのは、ハリコフを奪還された時だ。
 愚かだった時は、穀物協定に伴って、一度は抑えていた黒海の蛇島から撤退したことだ。
 困惑した時というのは、米・英海軍が天然ガスパイプラインを爆破した時と、ダリア・ドゥーギンさんが暗殺された時だ。
 真実の時というのは、今軍の司令官たちが批判の対象となっていて、国防大臣に自殺するよう求める声まで上がっている時だ。
 人々はロシア軍の動きには不満を持っている。クリミア橋の爆破は、国民感情をさらに先鋭化させた。

 そして今、プーチンはスロヴィキン将軍を召喚し、ウクライナでの戦争の総指揮官に任命した。
 スロヴィキン将軍は、人気の高い将軍で、シリア内戦戦争において司令官をつとめ、納得のいく理由のもと「アルマゲドン将軍」の異名を持つ。
 そしてそのアルマゲドン将軍は、ロシア国民が望んでいることを実行した。 ウクライナ各地に、何十発ものミサイルを打ち込んだのだ。
 キエフ市が攻撃を受けたのはこれが初めてだ。ハリコフを始め、多くの地域で停電が起こった。今までプーチンは、まるで自国のことであるかのように、ウクライナ国内の生活基盤施設に気を配ってきた。
 しかし今はそうではない。ただ一点だけは、前の通りだ。それは、ロシア側はウクライナ国内の一般市民たちを保護しようとしていることだ。ウクライナ軍は真逆で、一般市民を殺すことになんの抵抗もない。

 この戦争が始まった理由は、2014年のクーデター以来、ウクライナ側がドンバスを砲撃し続けてきたからだった。ドンバスは、ウクライナ南東部に位置する、ロシア系住民が主流を占める地域だ。
 プーチンはミンスク合意に基づいてこの紛争をやめさせようとしていた。このミンスク合意とは、ウクライナ連邦の内部地域として、ドンバスの自治を約束するものだった。
 ウクライナ側は、ミンスク合意に署名したが、その条項に従う気はなかった。
 ウクライナ側は、何千もの人々を殺害したが、それは主に、店や学校や街そのものを砲撃することによって起きた殺害だった。国粋主義者勢力であるアゾフ大隊は特にドンバス地域の住民たちを残忍に扱った。
 今年2月、ロシア軍がドンバスに救助に入ったとき、アゾフ大隊の兵士たちは、マリウポリ製鉄所の地下洞窟に盾籠った。

 しかし、アゾフの兵士たちはすぐに降伏した。食べ物や飲み物があるとは言え、洞窟の中で立てこもるのは面白くなかったのだろう。2000人程度の兵士たちが捕虜となった。
 ドンバスの住民たちは、外国の傭兵たちとともに、捕虜になった兵たちを裁判に掛けてほしい、と思っていた。しかしモスクワ当局は、そうはせずに、ロシアの戦争捕虜との交換とし、さらに住民たちにとって気分が悪いことに、野党政治家の一人と交換になったのだ。
 戦争捕虜収容所で、キエフ側の砲撃により亡くなったアゾフ兵士も数人いた。その捕虜たちは、自分たちの行為について、キエフ側に害を与えるような真実を話し始めていたことは明らかだった。
 捕虜交換されたアゾフの兵士たちは、ユダヤ系ロシア人新興財閥ロマン・アブラモヴィッチのもとに連れて行かれ、アブラモヴィッチの自家用機でアラブ首長国連邦に連行された。この件も、住民たちには不満だった。住民たちは、捕虜たちを裁判に掛けたほうがよかった、と考えていた。

 ロシア人の愛国主義者たちは、この戦争の進められ方に怒っていた。愛国主義者たちの目から見れば、ロシアの司令官たちは、ウクライナ側に甘すぎると映っていた。かたやウクライナ側は、ドンバスの砲撃を継続していた。
 ロシアの作家や画家は、しばしばウクライナに支持を表明していた。モスクワでは、ウクライナのために資金が集められていた。今、アルマゲドン将軍による電撃攻撃が、この国民感情を変えた。
 それでもまだウクライナは、ロシア国の親西側派から多くの支持者を有している。このような状況はすぐには変わらないだろう。この30年、ロシア国内で根を下ろした親西側派が一瞬で崩壊するのは不可能だ。
 国民のいらだちは高まっていた。ドンバスは砲撃されているのに、キエフは無害だったからだ。

 プーチンは、この戦争を控えめに進めているようだ。プーチンはまだ、米国の中間選挙後に変化がおこることを、楽観的に望んでいるのだ。それと、ロシアを第三世界の国々が支持していることも楽観的に捉えている。プーチンのこの希望が理にかなっているかどうかは、時が来ればわかるだろう。
 西側の大手メディアは、ウクライナを支持している。ブチャやイジュームで殺されたロシア人たちは、ロシアによる民族浄化の被害者である、と報じられている。
 穀物協定が結ばれた唯一の理由は、メディアがアフリカの飢餓を声高く報じたからだ。この協定は大失敗だった。貧しい国々に搬出された小麦は、たった2%で、のこりの小麦はEU諸国に搬出された。
 さらにロシアは蛇島から撤退したが、この島は、オデッサ上陸作戦を開始するには完璧な基地だった。

 ウクライナの支配者層はたくさんの資金や、外国の高い地位にいる人々との接触や、感謝を受け取った。ゼレンスキー夫人は、ウエールズ皇太子殿下と豪華な夕食を楽しんだ。
 ウクライナの支配者層は、平和を望んでいないし、無名の存在に戻りたいとも思っていない。
 プーチンの欲望は、見当違いなものとなっている。というのも、ウクライナにとっての顧客は英米で、この両国が戦争で稼いでいるのだから。
 この戦争で割を食っているのは、欧州だ。米国は儲かっている。米国は液化天然ガスをロシアの4倍の価格で売り、その値段で欧州が買っている。

 あきらかに、この戦争の犠牲になっているのは、ウクライナ国民だ。 ウクライナ国民は、ロシアのミサイル攻撃にさらされている。
 しかし米国はそんなことは気にも留めていない。米国にとったら、戦争は儲かるのだから。
 ドイツの産業はおそらく停滞するだろう。そのことも米国には都合がよい。米国は、ドイツに拠点を置いている産業が、米国に戻ってくることを期待している。

 ロシアの天然ガスパイプラインが英米の手の者により破壊されたことは疑いのない事実だ。ロシアは下手人の氏名(クリス・ビアンチ中佐)さえ突き止めている。
 NATOが2015年に初めてこのパイプラインを爆破しようとして、捕まった事例があったことも、今はわかっている。そんな事例は、今やっとわかったのだ。
 悲しいかな、スウェーデン側は、ロシア人が爆破現場に立ち入ることを許していないし、調査結果を見せることも許していない。
 このテロをやった犯人の仕事は雑だった。一つのパイプラインは手つかずに置いておいたのだ。
 従ってロシアとドイツは、政治的合意が成立すれば、天然ガスの輸送をすぐに開始できる。しかし、ドイツが、米国の意向を度外視して、何らかの政治的意思を示すかどうかは不明だ。

 米国の「戦争党」はとても強力で、ロシアはこの勢力に打ち勝つ機会はもてない。だからといって、核戦争が避けられない、というわけではない。
 米国大統領も、ロシア連邦大統領もそれは望んでいない。おそらく通常戦争がこの後も継続され、核という敷居をまたぐことはないだろう。
 おそらく和平合意は、両側にとって満足のいくものにはならないだろうが、ロシアは新たなミンスク合意を結ぶつもりはないだろう。前回の合意がキエフ側から無視されたばかりなのだから。

ロシアと制裁

 米・EUがロシアに対して使っている主要な武器は、制裁と、「鉄のカーテン」だ。制裁はロシア社会の骨組みに少しの痛みしか与えられていないが、「鉄のカーテン」の方は、そうではない。
 このカーテンは、痛く、気に障るものだ。
 ここ30年間、ロシア国民は欧州旅行にしょっちゅう出かけていた。その習慣を変えないといけない。
 トルコやイスラエルやインドやラテンアメリカに行けばいいのだが、欧州は近いし、人々は友好的だ。その欧州にいくことが難しくなった。イスタンブール経由便でいけるのだが、ずっと高くつく。
 裕福なロシア国民にとっては、特に痛い。富裕層は週末をパリやロンドンで過ごしていたのに、それができなくなった。
 おそらくこの制裁は、実業家にはやっかいな問題だが、一般の人々にとっては、ロシアよりも、欧州の人々のほうがやっかいに感じているだろう。ロシアの肉はおいしいし、豊かだ。天然ガスも安価だ。ロシアの劇場は、質は高いが、入場料は高くない。オペラ「ニーベルングの指輪(4部作)」全編を、100ドル以下で楽しめる。

 他国の例に漏れず、ロシアでもインフレが発生している。しかし狂気じみた「グリーン・アジェンダ」や、「性の多様性」の嵐もない。愛国心を教えたり、愛国歌を歌わせたりもしていない。
 ロシアは、かなり進んだ国だが、行き過ぎてはいない。教会は開いているし、礼拝者であふれている。
 本当に、生活は通常だ。兵士が足りないせいで、前線が崩壊した国とは思えないくらい、ロシアでは通常過ぎる生活が続いている。

 この欠乏を補うために、動員令が出された。ここ80年間で、始めてロシア国民に動員令が出されたのだ。
 しかし状況はよくなかった。志願兵には断られ、病人や年配者が徴兵された。比較的若い親西側派の多くの人々は、ビザなしで行けるグルジアやイスラエルに逃げた。
 しかしそれでも、必要な人員の徴兵がなされた。2ヶ月もあれば、ロシア軍は前線を守るのに十分な兵士を確保するだろう。

 現在ロシアは、テロ行為と対応している。クリミア橋の爆破は、調査が行われた。この爆破物は、ウクライナから、穀物協定のもと、小麦を積んだと見せかけた小舟で送られたことがわかった。
 この爆発物は、ブルガリアとグルジアを経由して、ロシアに運ばれた。
 先日、ロシアの警備員が、エストニア経由で発射装置付きの2台のイグラ対空ミサイルを密輸していたウクライナ国民たちを拘留した。彼らはロシア国内で民間機を撃墜する計画を立てていた。
 エストニアは、モスクワ当局に近い哲学者アレクサンドル・ドゥーギンさんの娘、ダリア・ドゥーギンさん殺害事件に関与していた。
 エストニアの一人の大臣は、クリミア橋の爆破というテロ行為に関して、ウクライナに祝辞を送っていた。リトアニアは東プロイセン地方にあるロシアの飛び地領に、ロシア国民が入れないよう妨害しようとしていた。
 つまりウクライナは孤立していない、そしてロシアは、中立の立場で共感してくれる国々はたくさんあるのだが、同盟してくれる国々はほとんどない。

 戦争は続く…

https://www.unz.com/ishamir/the-dull-war/
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CDC:免疫力低下で入院する子どもたちの記録的な数

<記事原文 寺島先生推薦>

CDC: Record Number Of Children Hospitalized With Weakened Immune Systems

筆者:タイラー・ダーデン(Tyler Durden)



出典:Zerohedge

2022年10月8日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月25日

 公式データによると、これまで以上に多くの子供や若者が風邪や呼吸器系の問題で入院しているとのDaily Mailの報道がある。同紙は「専門家は、ロックダウンやフェイスマスクなどのCovidを封じるための対策が、子供の強い免疫システムを作るために重要な細菌の広がりも抑えこんでしまっている、と繰り返し警告してきた」と記している。



 米国疾病対策センター(CDC)の後ろ向き研究の報告によると、2021年8月、一般的な風邪ウイルスが成人以外の若年層に打撃を与えた水準が最高値を記録した。前年同月の水準はずっと低い数値だった。


<上記図表内の英文>
図表:研究用検査例として登録された子どもと18歳未満の若者たちの中で、呼吸器ウイルスが検出された人の数。それぞれ(A)入院者、(B)緊急搬送された者、(C)外来、の最高値が示されている---New Vaccine Surveillance Network, United States,2016年12月


 呼吸器系ウイルスで入院していた約700人の子どもから検出したこのデータによると、2021年8月に55%近くがRSV(Respiratory Syncytial Virus呼吸器合胞体ウイルス)の陽性反応を示した。入院患者約700人のうち、450人が救急診療科に運ばれた。うち35%近くがRSVを発症しており、これは通常30%以上の患者がこのウイルスに感染する冬期と同程度だという。

 (以下はその報告からの引用)

 CDCは、全米の小児科病院を無作為に抽出して、ウイルスの流行状況を全国規模で推計している。

 昨年8月に調査した7つの病棟では、呼吸器系のウイルスに感染して入院中の子供が700人近くいたが、そのうち半数に呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の陽性反応が出ていた。このウイルスは、通常は自然治癒で治る、良性のウイルスだ。

 この5割という数字は、夏に記録された最高値であり、多くの人が屋内に閉じこもることを余儀なくされた1年半のパンデミック規制の後でのことであった。

 過去最高の記録は12月で、呼吸器疾患の病棟にいる子どもの60%がRSVに感染していた。-Daily Mail


<上記図表内の英文>
5-17歳の子どもで気道過敏症/喘息が原因で通院する者


 しかも、CDCが発表した別のデータによると、4歳以下の通院患者の病状が悪化している可能性があるという。今年9月18日までの1週間、アメリカでは幼児のER(緊急治療室)搬送のうち4.7%が呼吸困難であった。


<上記図表内の英文>
0-4歳の子どもで気道過敏症/喘息が原因で通院する者


 エール大学の医学部長であるスコット・ロバーツ(Scott Roberts)博士は、外部世界からの遮断は一般的な病気に対する免疫力を子供たちから奪ってしまうとMail紙に語った。

 「これには2つの意味があります。第一に、この遮断による間隙は、ウイルスがさらに変異して、より深刻な病気を引き起こす時間をウイルスに与えてしまうことです。そして、第二に、これらのウイルスに対してどのような免疫を構築しようと、それは弱弱しいものになってしまい、免疫反応が無力化してしまうことです」と彼は言った。

 さらにロバーツは、2歳になったばかりの息子が、託児所に通い始めてから感染症を繰り返すようになったと語った。

 「パンデミックの時、私たちはほとんど家の中にいました。しかし、今は息子が託児所に通い始めることになりました。そしたら彼は常に感染症にかかっている状態です」と彼は付け加えたのだ。

 子どもたちの入院の増加は、CDCの「罹患率と死亡率週報(MMWR)」に記載されている。これは科学者たちが呼吸器の問題で入院した子供の数を調査するため、7つの州の7つの病院を監視した後の結果に基づいている。それから子どもたちは一人ひとり検査され、罹患している病気が特定された。 ただし、特定された病気は、必ずしもそれが入院理由とはなっていなかった。
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西側メディアと政治家の偽善―キエフの主張を鵜呑み、その罪が明らかなときは沈黙

<記事原文 寺島先生推薦>

Western Media and Politicians Prefer to Ignore the Truth about Civilians Killed in Donetsk Shelling – INTERNATIONALIST 360° (wordpress.com)

西側メディアと政治家は、ドネツク砲撃で殺害された民間人の真実を無視したがる。

筆者:エバ・バートレット(Eva Bartlett)
カナダの独立系ジャーナリスト。中東の紛争地帯、特にシリアとパレスチナに4年近く滞在し、現地で取材活動を続けている。

出典:インターナショナリスト360°

2022年6月16日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月24日



 産科病院への攻撃におけるキエフの罪が否定できないときは、それは絨毯の下に掃き入れられてお終いだ。

 6月13日のウクライナによるドネツクへの激しい砲撃の後、一部の西側メディアは、キエフのメディアと連動して、開院している産科病院を襲って、少なくとも5人の民間人を死亡させたこの攻撃は、当然のことながら、ロシア軍によるものであると主張した。

 なぜモスクワが自分の同盟国にロケット弾を打ち込むのかは説明されないのだろうか。あるいは、またそれはあまり意味のないことなのだろうか。

 ドネツク人民共和国(DPR)外務省は報告した。「このような、威力、密度、期間の点で、全く前例のないDPR首都への襲撃は、(2014年以降の)武力紛争の全期間において記録されていない。2時間で300発近いMLRS*ロケット弾と砲弾が発射された」。
*多連装ロケットシステム

 ウクライナの砲撃は深夜に始まり、午後に再開され、夕方にはさらに2時間続き、耳障りな爆音が街中に響き渡り、住民を恐怖に陥れ、アパートや民間のインフラ、前述の病院、工業ビルなどを標的にした。

◾ウクライナのドネツク爆撃は午後6時前に再開され、その後2時間、市内全域の住宅地を襲いました。◾ジャーナリスト@EvaKBartlettがドネツクからレポートしています◾ pic.twitter.com/499QeCv9Cq
― フアン・シンミエド (@Youblacksoul) 2022年6月13日

(訳者:シンミエドさんのTwitterアカウントは凍結されている)

 地元の人々は、ドネツクがマイダン後のキエフから独立を宣言した2014年以来、最も激しい爆撃だったと言っている。



 市南部のブディノフスキー地区では、ウクライナ軍による市場(いちば)への砲撃で、子ども1人を含む5人の市民が死亡した。ちょうど2ヶ月前、キエフ軍はドネツクの別の市場を攻撃し、4人の民間人を死亡させた。



 被害の大きかった北部のキエフスキー地区では、砲撃により水をペットボトルに詰める工場と文房具の倉庫が火災に遭い、破壊された。ジャーナリストのロマン・コサレフ氏と私が攻撃から約1時間後に到着したとき、この建物はまだ炎の中にあった。周辺のアパートも砲撃を受け、ドアや窓が吹き飛び、車も破壊されたままだった。





(上記ツイートの邦訳)
ウクライナの爆撃の後、ドネツクの文房具倉庫と近くの水のボトル詰め施設はまだ燃えている。ウクライナは今日、市場を含むドネツク全域を爆撃し、3人の市民が死亡、うち1人は子供だった。



 破壊されたガソリンスタンドは、私が4月に滞在した通りにあり、そこは完全な住宅地である。

 DPRのデニス・プシーリン代表は、「敵は文字通りすべての線を越えてきた。禁止されている戦法が使われ、ドネツクの住宅地や中心街は砲撃され、DPRの他の都市や居住地も現在砲撃を受けている」と述べた。



(上記ツイートの邦訳)
キエフ政権を支持する西側諸国の人々には、6月13日のウクライナ軍によるドネツクへの野蛮な重砲砲撃の証拠を検証することをお勧めします。
☝病院5件、学校3件、幼稚園1件が被害を受けた。
@ユネスコはキエフのこのような犯罪に反応するのか❓




産科病院砲撃後の偽善的な沈黙
 
 メディアが現実を捏造するのではなく、正直に報道する世界であれば、ウクライナのドネツク産科病院への攻撃に憤りを感じるはずである。しかし、歴史が示すように、私たちの住む世界は、そんな世界ではない。



(上記ツイートの邦訳)
拝啓 @mbachelet
あなたは、ウクライナのことになると、すぐに非難し、非難されますね。
でも、ドネツクとルガンスクに関しては、沈黙を守っている。
ドネツクの産科病院は昨日、ウクライナ軍によって爆撃されました。誰も怪我をしなかったのは奇跡でした。
コメントをお願いします。




 昨年書いたように、アレッポの産科病院への砲撃で3人の女性が死亡するなど、テロリストがシリアの病院を攻撃・破壊したときも、西側メディアと饒舌な指導者たちはそれへの非難を避けることに余念が無かった。

 被害を受けたドネツク病院では、屋根にぽっかりと穴が開き、そこにウラガンMLRSロケット*が直撃した残骸が見えた。どちらの建物も窓ガラスはほとんど吹き飛ばされていた。
*ウクライナ陸軍が所有している自走式多連装ロケット発射機。1970年代にソ連が開発した。「ウラガン」はロシア語で「暴風、疾風」を意味する。

 Twitterで共有された画像には、「婦人科と集中治療室の両方が爆撃された」と記されていた。ドネツクの戦場記者ドミトリ・アシュトラカンが撮影した他の映像には、砲撃された産科病院の地下に避難する数十人の女性たちが映っていて、中には出産間近の女性もいた。



(上記ツイートの邦訳)
戦争記者ドミトリー・アストラカンさんによるドネツクのヴィシュネフスキー病院からの報告。ウクライナの砲弾が産科病棟を直撃したが、女性、子供、病院職員は全員無事だった。何とか間に合って地下に避難することができたからだ。




 もしこの女性たちや病院がキエフにあれば、西側メディアは数週間にわたって週七日24時間体制で大々的に報じるに違いない。しかし、西側諸国は、ウクライナの8年にわたるドンバスでの戦争を頑なに無視し、この病院に関する報道も故意に怠っている。

 異様なことだが、ウクライナと西側メディアの中には、6月13日に民間人を恐怖に陥れ、負傷させ、殺したのはウクライナではなく、ロシアの攻撃だったと不誠実な報道をしているところがある。



(上記ツイートの邦訳)
UPD:ドネツクの市場に対するウクライナの砲撃の結果、子供1人を含む3人が死亡、子供2人を含む18人が負傷した。

ドイツの@tagesschauは昨日、ロシアがドネツクの市場を砲撃したと言っている!
このようなあからさまな嘘は国民を愚弄するものだ。特定の関与者の利益に奉仕するのに必要な物語と世論を形成するためだ。




 西側メディアがウクライナの砲撃について報道しない、あるいは話を捻じ曲げるのは予想通りであったように、国連のアントニオ・グテーレス事務総長の報道官は「非常に憂慮すべきことだ」と言い、数少ない言葉で非難をした。もし状況が逆で、ロシアがウクライナの産科病院を爆撃したのであれば、彼の言葉ははるかに強かったに違いない。

 実際、すでにそうなっている。3カ月前に、キエフがマリウポリの産科病院への攻撃でロシアを非難したときがそうだった。

 そのとき、グテーレスは次のように力強くツイートした。「ウクライナのマリウポリにある病院への今日の攻撃は、そこには産科と小児科の病棟があり、恐ろしいことだ。民間人は、自分たちとは関係のない戦争のために最大の代償を払っている。この無分別な暴力は止めなければならない。今すぐ流血を終わらせましょう」



RTのドローンの映像には、ドネツクの産科病院の屋根に開いた穴が映っている。ウクライナの発射したウラガンMLRSロケットが直撃したところだ。© Eva Bartlett / RT



 後にデマであることが判明したものに対して強い反発があった。国連自身もその話を確認できないと認めたからだ。しかし、ドネツクで記録された現実に対する反応は穏やかなものだった。

 国連は少なくとも、ドネツクの産科病院への攻撃は「国際人道法の明らかな違反」であると正しく指摘した。その通りだ。

 問題は、ウクライナが8年間ドンバスで国際法に違反し、禁止されている重火器を使用し、民間人や民間インフラを標的にして戦争をしてきたということだ。これは最新の事件に過ぎない。

病院爆破のデマに涙

 3月、西側企業が所有するメディアは、ロシアがマリウポルの産科病院に空爆を行い、3人の民間人が死亡したとするキエフの主張を支持した。当時の報道では、ホワイトハウスは、罪のない民間人に対する「野蛮な」武力行使を非難し、英国のボリス・ジョンソン首相は、「弱者や無防備な人を標的にするより堕落したものはほとんどない」とツイートした、とある。

 結局のところ、空爆はなかったと目撃者は報告した。しかし爆発はあった。どういうことかというと、2016年にテロリストがアレッポの家を爆撃し、軽傷の少年をシリアとロシアを攻撃するプロパガンダに利用したように、マリウポリのウクライナ軍もモスクワを罪に陥れる舞台を用意したのだ。

 ロシアはこの非難を「完全に演出された挑発」と呼び、その地域の写真を分析し、「病院の近くで2つの別々の演出された爆発があった証拠」と指摘した。「地下での爆発と、病院の建物を狙った小規模の爆発だ」とし、さらに「高爆発性の航空爆弾なら建物の外壁を破壊するだろう」と指摘した。

 ロシアはまた、「この施設は機能停止していた。ウクライナのネオナチ・アゾフ大隊が2月下旬に病院職員を追放し病院を軍事施設にしている。ウクライナ軍がドンバスの他の場所で行ったのと同じ手口だ」と指摘している。

 マリアナ・ヴィシェミルスカヤは、病院周辺の西側諸国のプロパガンダに登場した女性の一人であったが、後に口を開き、「空爆はなかった。疑惑の出来事の前にウクライナ兵が医師全員を追放し、妊婦を別の建物に移動させていた」と述べた。

 また、彼女と他の女性たちは、軍服を着てヘルメットをかぶったAP通信のジャーナリストによって、警告なしに撮影されたと主張している。


ウクライナの爆撃後、ドネツクの倉庫でまだ火災が続いている。6月13日。© Eva Bartlett / RT



 ウクライナのドネツクへの激しい砲撃と産院の標的化から3日後、さらに多くの証言が出てきても、西側メディアと政治家は沈黙を守ったままである。

 ドネツクの人々の苦しみや死は、西側のシナリオに合わない。だから、彼らはそれを誤って報道するか、単に全く言及しない。だからウクライナは戦争犯罪を続けることができるのだ。



(上記ツイートの邦訳)
キエフからの不誠実な「報道」(=嘘)。ショックだ。
一方、昨日のウクライナによるドネツクへの奔流爆撃による民間人の死者は5人に上った。

キエフ・インディペンデント紙 @KyivIndependent
⚡️6月13日、ロシアの攻撃によりドネツク州で3人の市民が死亡した。
ドネツク州知事パブロ・キリーレンコ氏によると、負傷した人も5人いた。ルハンスク州で負傷し、ドネツク州で治療を受けた民間人2人も6月13日に死亡したという。

昨夜ウクライナによって爆撃されたドネツクの産科病院から、ローマン・コサレフ氏と私が今朝報告します。
rt.com
RTニュース - 2022年6月14日(09:00 MSK) - RTニュース
ウクライナのドネツク砲撃で産科病院が攻撃される。国連はこの攻撃を国際法違反と呼ぶ。


















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ロシアによるウクライナへのミサイル攻撃で、被害を受けなかったのは、3地域のみ

<記事原文 寺島先生推薦>

Russia releases map of missile strikes against Ukraine
Only three regions of the country were unaffected by the attacks on Monday and Tuesday, according to a senior lawmaker

ロシアはウクライナへのミサイル攻撃の地図を公表
ウクライナでたったの3地域だけが、10月10日と11日の攻撃の影響を受けなかった、とロシアの上院議員が発言
 
出典:RT

2022年10月13日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月23日



損害を受けたキエフ市内の発電所の人工衛星からの画像©  AP / Maxar Technologies

 ロシア議会のヴャチェスラフ・ヴォロージン報道官は、地図を公表し、今週(10月第二週)初旬にウクライナ軍や生活基盤施設を標的にしたロシアのミサイル攻撃の規模を明らかにした。

 モスクワ当局による「キエフ政権によるテロ行為に対する反撃」は、ウクライナのエネルギーの基盤施設 70箇所に着弾し、その結果ウクライナの発電機能の5割が失われた、とヴォロージン報道官は、10月13日に自身のテレグラム上に投稿した。

 添付されていた地図によると、ウクライナのたった3地域(北部のチェルニゴフ、西部のヴォリンとトランスカルパチア)のみが、ミサイル攻撃の影響を受けなかったことがわかる。

 「テロ行為が続けば、ロシアによる反撃はさらに厳しいものになる」と同報道官は警告し、ウクライナ側の攻撃を組織した全ての人々を必ずや見つけ出し、「抵抗しようとするものは抹殺する」とも記述していた。



 モスクワ当局は、10月10日と11日、ウクライナ国内の標的に向けて、何十発ものミサイルを発射し、この攻撃は、キエフ当局によるロシアの施設への残酷な攻撃に対する反撃だ、としている。ロシアが攻撃を受けた施設とは、クルスク原子力発電所や、トルコストリーム天然ガスパイプラインや、クリミア大橋だ。

 全長18キロの橋が、10月8日トラックにより爆破されたことをきっかけに、ウラジミール・プーチン大統領は、キエフ当局に対して、これ以上「テロ戦術」に対して、無反撃に終わることはなく、ミサイル攻撃の波が押し寄せるだろう、と警告していた。

 ロシアによる攻撃の後、首都キエフを含む、ウクライナの数地域は、電力不足など電気・ガス・水道関連に問題が生じている、と報じられている。ウクライナ国内の送電会社であるウクレネルゴ社は、夕方の最も電気が使われる時間帯に、利用者に電気のスイッチを切る依頼をせざるをえなくなり、使用電力量を抑えるために、計画停電を実施した地域もあった、という。

関連記事:Russia has changed its tactics in Ukraine – senior official

 10月12日、ウクライナのエネルギー省のジャーマン・ガルシェンコ大臣は、CNNに対し、ウクライナのエネルギー基盤の約3割が、ロシアによる2日間連続のミサイル攻撃により、損害を受けた、と語っている。
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ウクライナ戦線に、ロシアの「ハルマゲドン将軍」参戦

 <記事原文 寺島先生推薦>

‘General Armageddon’ to lead Russian forces in Ukraine
Sergey Surovikin, a Syria campaign veteran, will take command of all operations, the Defense Ministry said

「ハルマゲドン将軍 」が、ウクライナのロシア軍を指揮
シリアでの戦いで鳴らした百戦錬磨のセルゲイ・スロヴィキン将軍が、全ての作戦の指揮を執ることになる、と国防省は発表

出典:RT

2022年10月8日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月22日


セルゲイ・スロヴィキン©  Sputnik / Vadim Savitsky


 ウクライナ・ドンバスの南部部隊を率いていたセルゲイ・スロヴィキン陸軍大将が、ロシア軍全体を統括する司令官に就任する、と10月8日(土)、ロシア国防省が発表した。

 「ロシア連邦国防省の決定により、セルゲイ・スロヴィキン陸軍大将が特殊作戦実施地域における軍の連合部隊の司令官に任命された」と国防省の声明文書には記載されていた。

 この百戦錬磨の将軍は、2017年からロシアの航空宇宙軍の司令官を任じられている。同年、スロヴィキン将軍は、シリアでの軍事作戦において果たした功績により、「ロシアの英雄」という称号を授けられた。それ以前は、チェチェンでの戦争にも参戦していた。

 様々なメディアからの報道によると、スロヴィキン将軍は同僚たちから「ハルマゲドン将軍」というあだ名をつけられているが、それは軍事作戦において、同将軍が強硬で型破りな作戦を駆使するからだ、という。

 スロヴィキン将軍は、ウクライナでのモスクワ当局の軍事作戦の「南方」部隊を取り仕切っていた。6月下旬、ロシア国防省は、スロヴィキン将軍の部隊が、ルガンスク人民共和国のゴルスコエ地域で包囲されていたウクライナ軍の主要部隊を殲滅した、と主張していた。

関連記事:‘Terror attack’: How the Crimean Bridge became a key route for Russia and major target for Ukraine

 スロヴィキン将軍に新しい役職が任命されたのは、先週(10月第一週)、ロシア軍が包囲されることを避けるために、ドネツク人民共和国内の戦略的に重要な都市であるクラスニー・リマン市から撤退した後のことだった。この撤退に関しては、多くのロシアの官僚たちから批判を受け、より防衛を強固に固めるよう軍側を強く非難していた。

 現在、軍事専門家やメディア関係者から、ウクライナでの軍事作戦の進行具合に懸念の声がどんどんと上がってきている中でのことだ。
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国家存亡に関わる生命線=クリミアを失う危機に追い込まれた場合、ロシアは核兵器を使わざるを得なくなるかも知れない、とマスク氏は主張

<記事原文 寺島先生推薦>

Musk claims Russia would use nukes to defend Crimea

出典:RT

2022年10月17日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月22日



ドイツ・ベルリン近郊のテスラ社の工場建設現場に到着したイーロン・マスク氏。2020年9月3日撮影。AFP / Odd Andersen


テスラ社の大物は、「ロシアにとっての中核地域 」を真珠湾となぞらえた。

 10月17日(月)、スペースX社とテスラ社の代表取締役であるイーロン・マスク氏は、「ロシアにとってクリミアは、領内におけるなくてはならない地域であり、ウクライナや西側がクリミア半島を抑えようとすれば、核戦争という結末になる可能性がある」と主張した。先日、ウクライナに対する技術支援を打ち切る方針を撤回したばかりのマスク氏が一転、議論を招くような「クリミアはロシアのものだ」という主張を行ったのだ。「ロシアが、クリミアを失うか、核兵器を使うかの二者択一に迫られれば、後者を取るだろう」とマスク氏はツイートしている。「私たちは既に、ロシアに対してあらゆる限りの制裁措置や遮断措置を取っているのだから、ロシアが他に失うものなどないだろう」と、ウクライナ紛争がこの先核戦争に発展するかどうかについてフォロワーから問われたマスク氏は答えている。

 ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、クリミアを支配下に置く意図があると繰り返し発言している。さらには、先日ロシア連邦への編入の是非を問う住民投票が行われた以前はウクライナ領だった4地域についてもだ。クリミアの住民たちは、2014年の住民投票では、圧倒的多数でロシアへの再編入に賛成票を投じた。そのためクリミアは、モスクワ当局の核の傘の中にある。



 ウラジミール・プーチン大統領の発言通り、ロシアの核兵器使用指針は、「ロシアの存在が脅かされる危機が生じれば」、ロシアはその防衛のために、「全ての手段を行使する」というものだ。

 さらにマスク氏は、「賛否両論あるだろうが、ロシアからは、クリミアはロシアにとっての中核地域であると捉えられている。さらにクリミアはロシアの国家安全保障にとって決定的に重要だ。クリミアには、ロシア海軍の南方基地があるのだから。ロシアの立場からすれば、クリミアを失うことは、米国内がハワイと真珠湾を失うのと同意だ」とツイートしている。


関連記事:Elon Musk proposes Ukraine peace plan

 1783年から、クリミアはロシアの正式な領地となった。その後1954年、ソ連のニキータ・フルシチョフ首相により、クリミアはウクライナSSR(ソビエト社会主義共和国)に譲渡された。今月(10月)初旬、マスク氏は、フルシチョフの決定は「間違いだった」と主張し、ウクライナはこの先ロシアとの間で持たれるであろう和平交渉において、クリミア半島の奪還を持ち出すことはやめておくべきだ、と提案していた。

 マスク氏のこの和平計画は、ウクライナ当局やウクライナの支持者たちから、ネット上で激しく非難され、ウクライナのアンドレー・メルニク元ドイツ大使は、この億万長者に対して、「すっこんでろ(f**k off)」とまで言っている。その後マスク氏は、メルニク元大使からのこの助言を受けて、ウクライナに対する人工衛星を使ったインターネットサービスである「スターリンク」の無償提供を中止する、と述べた。マスク氏によると、スターリンクのウクライナへの無償提供に対して、2023年一年間で、4億ドルの費用をスペースX社が負担することになる、という。

 報道によると、ほぼ同時期に、マスク氏の名が、キエフ当局が支援している悪名高い「暗殺リスト」に掲載されたのち、マスク氏は突然、ウクライナへの支援を中止するという方針を180度転換し、以下のように発表した。「失礼しました。我が社はウクライナ政府への無償提供を継続します」と。
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イーロン・マスク、ウクライナの「殺害リスト」を発見

  <記事原文 寺島先生推薦>

Elon Musk discovers Ukrainian ‘kill list’
The US billionaire said it is “concerning” that the database of public enemies exists

米国の億万長者のマスク氏は、敵と見なされた人々の情報が掲載されるサイトの存在に「懸念」を表明

出典:RT

2022年10月16日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月22日



 イーロン・マスク氏が、物議を醸しているウェブサイト、ミロトウォレッツに関する懸念を表明した。このサイトはウクライナの敵であると見なされた人々の一覧を表示しているサイトなのだが、マスク氏自身の名が、そのサイトに一時的に掲載されたことを受けてのことだった。それはマスク氏が人工衛星を使ったインターネット接続サービスの「スターリンク」への資金援助を停止する、と警告を発した後のことだった。

 このサイトは、キエフ政権の国家機構と繋がるものとして知られている。「本当ですか? URLは何ですか?」と、 SpaceX社のCEOのマスク氏は、記者のエバ・バートレットさんのツイートに反応して、問いかけた。 バートレットさんは、10月14日(金)に、ネット上で広く拡散していた、とあるスクリーンショットを投稿していた。そのスクリーンショットには、あの悪名高いサイトにマスク氏の名前が掲載されたことを示していた。

 「私はこのリストのことを、2019年以来、もう何年も話題にし、記事にしてきました。そして今、マスク氏の名前が掲載されました。これは、ロジャー・ウォーターなどの人々に続くものです。おそらくこの件により、この“平和創造”リストは自壊するのではないでしょうか」とバートレット記者は書いていた。

 マスク氏の名前は、翌土曜日にはリストにはなく、一時的にでも、本当に彼の名前がミロトウォレッツに載せられたのかは、不明のままだ。いくつかの報道によると、マスク氏の紹介欄が、サイトから素早く消去され、ウクライナの活動家たちは、その画像は偽物で、ロシアによる挑発行為だと主張していた、という。

 マスク氏のツイッターのフォロワーの多くの人々が驚愕したのは、マスク氏がミロトウォレッツのことを知らなかったことがわかったからだった。そのためフォロワーたちが、その一覧に掲載されている著名人たちの例をどんどんと挙げ、さらにその中には既に「消された」人々もいることを伝えた。マスク氏は、ウィキペディアで、このサイトの実在と、このサイトが、2014年からオンライン上で存続している事実を確認したのち、このことについて「懸念」を表明した。


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 ミロトウォレッツ (“ 平和創造者“”という意味)は、政府から独立しているとされる情報集積サイトだとされていて、匿名の編集者たちが、ウクライナの国家安全の脅威と見なした個人の情報を提示しているサイトだ。このサイトは、自分のサイトが暗殺リストであることは否定しており、ここに記載されている情報は、警察や特殊業務のための、親ロシアのテロリストや、分離主義者たちや、戦争犯罪者たちについての情報源である、と主張している。このサイトは、ウクライナ内務省と繋がっている、と言われている。

 ミロトウォレッツが悪名を馳せたのは、2015年のことだ。作家であり歴史家でもあるオレシ・ブジナ氏と、政治家のオレグ・カラシニコフ氏がウクライナで暗殺されたのだが、その暗殺は、両名の紹介欄がこのサイトに掲載された後のことだったからだ。2016年、EUの代表団や記者団は、メディア関連の4000名以上の人々の個人情報を晒しているとして、ミロトウォレッツを強く非難していた。


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 人権活動家たちの調べにより、このウェブサイトが、327名の子どもたちの個人情報を晒していることが判明し、これらの活動家たちがこの「大きな不誠実行為」に関して抱いている懸念を、アントニオ・グテーレス国連事務総長に伝えるよう、ロシア当局に促した。このサイトは、子どもたちの氏名、住所、画像、ソーシャルメディアのページなど詳細な個人情報を公表していて、公表されていた中で最年少だった子どもは10歳にさえなっていなかった、と人権団体の「抑圧との闘い財団」の代表が述べている。

 マスク氏が一時的にこの「暗殺リスト」に掲載されたのではないかという話題は、ここ2日間、ネット上で大きな反響を呼んでいる。それは、マスク氏が、米国防総省がマスク氏の受けた損失の補填をしないのであれば、ウクライナに対するスターリンクのサービスの無償提供を打ち切ろうとしている、という報道があったからだった。10月15日(土)、マスク氏は突然180度方向転換をして、こう語っている。「大変失礼しました。ウクライナ政府への無償提供は継続します。」
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米国が中国の人権侵害問題議案を国連に提出したが、これは天に唾する行為

 <記事原文 寺島先生推薦>

US-led human rights resolution against China could backfire
Washington’s resolution against China at the UN’s rights body is bound to be embarrassing

(米国が主導した対中国の人権問題に関する議案提出は逆効果になるだろう。
  米当局は国連の人権団体に中国に対する議案を提出したが、この行為は恥でしかない。)

筆者:ブラッドリー・ブランケンシップ(Bradley Blankenship)



 ブラッドリー・ブランケンシップは、米国の記者で、コラム執筆者で、政治専門家。中国CGTVで、他社との共同コラムに執筆中で、中国国営メディアの新華社を含む国際的なニュースメディアでフリーの記者活動を行っている。

出典:RT

2022年10月4日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月21日



©  AP Photo/Cliff Owen

 米国は9月26日、国連人権理事会(以後UNHRC)に中国が新疆ウイグル自治区で人権侵害行為を行ったとされる件に関して、話し合いを持つよう求めた。ワシントン当局によるこの要求は、先日国連が、中国領内で人権侵害行為に当たる犯罪行為が行なわれている可能性を警告したことを受けてのことだった。

 米国が提出したこの議案には、英国、カナダ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェーも支持していた。UNHRC加盟47ヶ国が、今週この決議の是非に投票を行うことになっているが、西側諸国は、この議案はおそらく否決される、と見ている。この議案が通過すれば、2月に開かれる次回のUNHRCの会合で議題として議論されることになるからだ。実際のところ、UNHRCの第51回会合で、パキスタンが、68ヶ国の代表として、共同声明を提出しているが、その声明によると、人権問題に関しては、西側諸国が二重基準を使っていることを非難し、新疆や香港やチベットに関する問題は、中国の内政問題である、と強調していた。

  現在の同理事会の加盟国の顔ぶれからすると、中国が西側よりも多く支持を集めそうだ、とひと目でわかる。さらにこの中には、先述の共同声明に参加している諸国が16ヶ国ある。したがって、米国の議案が否決される可能性は極めて高い。 さらに特筆すべきは、米国当局の反応が非常に柔和な点だ。それは、「話し合い」を持つ以上の議案が成し遂げられる可能性が全くないことを、米国当局がわかっているからだろう。

訳者より:筆者の予見通り、この議案は10日6日に否決されている。


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 この議案が通らないことが、米国にとっては既にじゅうぶん恥ずかしいことで、世界の勢力関係が津波のように動いている様を表すできごとなのであるが、実は、この事実がかすんで見えるくらい恥ずかしい事象がある。それは、人権に関する議論を始めてしまうことは、アンクルサム(米国の別称)にとってよい前兆ではないことだ。 

 新疆に関して中国に向けられているいつもの非難の声を検討してみよう。国連の報告書には、「強制労働」や「強制連行」などの人権侵害の事例が起こっていることが懸念される、と記載されている。ただしこんな人権侵害は、米国でよく目にするものだ。
 
 「宗教や、文化や、言語のアイデンティティや表現」に対する人権侵害のことから話を始めると、米国は、人類史上最悪のジェノサイド(民族大虐殺)を行った国なので、口をつぐんでおいた方がよさそうだ。ただし念頭においておくべきことは、米国当局が先住民たちに対して行ったジェノサイドと、先住民たちのアイデンティティに対する抑圧行為は、現在も進行中だ、という点だ。
  
 一例をあげると、広く報じられたネイティブアメリカンのダレル・ハウスさんに関する事件だ。ハウスさんは、自分の民族が先祖代々保有している土地で、祈りを捧げていたとき、連邦政府の関係者により、銃口をつきつけられたのだ。もちろん、このときの公園管理事務所の職員は事件について、「今は調査中です」と語っている。しかし、このような事例は常に起こっている。実際、ネイティブアメリカンの人々は、彼らの宗教上の行為に関して、何度も何度も、憲法上の議論の対象となっている。
 
 「プライバシーの権利と移動の自由」の話に移っても、米国が常にこれらの権利を阻害している姿を目にする。国家安全保障局(NSA)の内部告発者であるエドワード・スノーデンが明らかにした漏洩文書からわかったことだが、米国は世界規模で世界最大のスパイ活動網をはりめぐらせ、当人の同意を得ぬまま、自国民の大量の個人情報を収集している。

 
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 移動の自由に関して言えば、人権問題が専門のスティーブン・ドンジガー弁護士の事例が、特筆される。ドンジガー弁護士は、巨大石油会社シェブロン社が、エクアドル国土を汚染しているとして、エクアドル国民たちの弁護を引き受けた裁判で勝訴した。その後、シェブロン社はその判決を不服とし、1セントの賠償金も払わないまま、連邦政府に圧力をかけ、ゆすり行為をおこなったとでっち上げて、ドンジガー弁護士を裁判にかけた。ドンジガー弁護士は、2年以上もの間、自宅軟禁状態に置かれていた。
 
 「生殖に関する権利」について、米国中で大きく報じられているが、これは最高裁がロー対ウェイド判決を棄却したことをうけてのことだ。この判決は、女性が中絶する権利を憲法上認めたものだった。現在女性の権利は、全国規模で深刻な危機に置かれている。というのも、諸州が、中絶を禁止する刑罰法規を設置し始めたからだ。
 
 「雇用と労働問題」について考えるのも興味深い。というのも、よく知られている通り、昨年の時点で、米国のフルタイム労働の最低賃金の7ドル25セントでは、米国のどこでも家賃をはらえなくなっている事実があるからだ。職場環境も極端に健全ではないことは、Covid-19が、米国でこれだけ蔓延した事実からもよくわかる。何よりも現在進行中の危機は、健全な労働環境の確保問題であり、連邦政府は、労働者たちの安全を確保する働きかけをしようとしている雇用者たちからの声に答えることが求められている。
 
 もちろん、囚人たちよりも搾取されている人々は存在しない。というのも、米国は未だに懲罰という形の奴隷労働を、憲法で認めているからだ。アメリカ自由人権協会(ACLU)が6月に出した報告によると、米国内の投獄労働者たちの平均給与は時給13セントから52セントだ、という。そして、これらの囚人労働により、年間110億ドル以上相当の商品生産や業務をまかなっている、という。 


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 もちろん、こんな給与は最低賃金を遙かに下回る賃金だ。さらに国家は、そのなけなしの給与の8割分まで、部屋代や食事代や裁判費用や損害賠償などの手数料を取ることができるようになっている。さらに皮肉なことに、そのお金は、刑務所の維持費や建設費にも回されているという。調査に回答したほぼ7割の受刑者は、生活必需品すら買うことができない、と答えており、いまいましいことに、76%の回答者が、「労働をしなければ、独房に監禁されるなど追加の懲罰が加えられたり、刑期を短縮する機会を拒否されたり、家族との面会ができなくさせられたりする」と答えている。
 
「家族の別離と報復問題」については、多くの人々がご存知の、不正入国者拘留所の「檻の中の子どもたち」の話がある。 米国は、国境で移民の家族を引き離ている。さらに米国のネットメディアのイーターセプトの記事によると、米国の連邦政府の工作員たちが、移民受入派の活動家に対する報復について、少なくとも議論は行っていた、という。
 
 「強制連行」の件については、米国政府はキューバ島内にあるグアンタナモ湾で運営している有名な軍事基地のことが、ピッタリ当てはまる。ここでは2002年以来、780名の囚人が収容されてきたが、その多くは正式な刑事訴訟の手続きを踏んでいない。この地で行われている虐待行為には、精神的虐待や、収容者の家族に害を与えることを脅しに使うことも含まれていて、このような行為は確実に「脅迫、恫喝、報復行為」に相当する。

 つまり国連の報告書が指摘している全ての人権侵害行為を米国は行っている、ということだ。この事実から分かることは、米国がUNHRCで人権問題に関する話し合いを始めようと決めれば、西側が人権問題についてどれだけ偽善者なのかがハッキリする、ということだ。ほんの少しの努力があれば、中国やほかの国々により、アンクル・サムが道徳に対して持っている優越感など粉々に砕かれてしまうことが、わかるだろう。
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本当の戦争が始まった―テロ行為を繰り返すウクライナに露がついに報復攻撃

<記事原文 寺島先生推薦>
Meeting with permanent members of the Security Council

ウクライナ:本当の戦争が始まる。
ロシア安全保障理事会の常任理事との会談

出典:INTERNATIONALIST 360°

2022年10月10日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月21日



 大統領は、安全保障理事会の常任理事との状況説明会をテレビ会議を通じて行った。

 ロシアのプーチン大統領:皆さん、こんにちは。

 みなさんご存じかと思いますが、昨日、アレクサンドル・バストリキン調査委員会委員長から、クリミア大橋の破壊行為に関する調査の最初の結果が報告されました。

 法医学などの専門家のデータと作戦情報から10月8日の爆発はロシアの民間人と重要インフラの破壊を目的としたテロ行為であったことが判明しています。

 また、ウクライナの特務機関がこの攻撃の組織者であり、実行犯であったことも明らかです。キエフ政権は以前から、ウクライナでもロシアでも、公人やジャーナリスト、科学者を殺害するなどのテロ手法をとってきました。また、ドンバスの町へのテロ攻撃は8年以上続いています。さらに、核テロ行為も行われています。ザポリージャ原子力発電所へのミサイルや砲撃による攻撃のことです。

 これだけではありません。ウクライナの特殊部隊は、ロシアのクルスク原子力発電所に対しても3回のテロ行為を行い、発電所の高圧線を繰り返し爆破しています。その3回目のテロでは、そのうちの3本の電線が一度に破損しましたが、最短時間で修復され、大きな被害にはなりませんでした。

 しかし、わが国の発電・ガス輸送インフラ設備に対するテロ攻撃や同様の犯罪の試みは、他にも数多く行われているのです。その中にはトルコストリーム天然ガスパイプライン*の一部を爆破しようとしたものも含まれます。 
 *ロシアからトルコへの輸送管

 これらはすべて、拘束された犯人の証言など、客観的なデータによって証明されています。

 バルト海の海底を走る多国間ガスパイプラインの爆発原因や破壊の原因究明に、ロシアの代表者が参加できないことはよく知られています。しかし、この犯罪で最終的に利益を得るのが誰なのかは、私たちはみな知っています。

 このように、キエフ政権はその行動によって、実際に国際的なテロリスト集団と同じレベル、それも最も悪質な集団と同じレベルに身を置いています。この種の犯罪を報復なしに放置することは、もはや完全に不可能になっています。

 今朝私たちは、国防省の提案とロシア参謀本部の計画に従って、ウクライナのエネルギー、軍事、通信施設に対して、空、海、陸の長距離精密兵器による大規模な攻撃を展開しました。

 我が国の領土でテロ攻撃を行う試みがさらに行われた場合、ロシアの対応は厳しく、ロシア連邦にもたらされる脅威に見合ったものになります。そのことに疑問を持つ人はいないはずです。

 国防相、結果を報告してください。

 クレムリンの大統領公式ホームページより

ロシア国防省、ウクライナでの特別軍事作戦の進捗状況について報告(2022年10月10日付)

 ロシア連邦の軍隊は、特別軍事作戦を継続しています。

💥 本日、ロシア軍はウクライナの軍事管制、通信、エネルギーシステムの施設に対し、大規模な高精度長距離攻撃を行いました。

◽️ 攻撃の目的は達成されました。割り当てられた標的はすべて無力化されました。

◽ 4個の敵中隊戦術集団が、ピャンスク方面のキスロフカ、タバエフカ(ハリコフ地方)、クゼモフカから迎撃しようとしましたが、失敗しています。

◽️ ウクライナ軍(AFU)による攻撃はすべて撃退されました。敵は40人以上の人員、戦車5台、装甲戦闘車4台、自動車15台を失っています。

◽ ウクライナ軍の部隊は、マケエフカ付近のゼベレット川とクラスヌィ・リマン方向のレイゴロドク(ルガンスク人民共和国)の横断を試みましたが、失敗しました。

💥 我が軍のミサイル部隊と大砲による集中砲火によって、ウクライナ軍が川を渡るフェリーを設置しようとした全ての試みは失敗する結果となりました。

◽️ 最大3つの大隊の戦術グループと1つの外国人傭兵部隊が、ニコライエフ・クリボイ・ログ方面のブルスキンスコエ、ベジメンノエ、サドク、スハノボ(ケルソン地方)に向けて攻勢をかけていました。

💥 ロシア軍の激しい行動により、敵は元の位置に追い返されました。

◽ ウクライナ軍は上記の方面で60人以上の人員、戦車9両、装甲戦闘車16両、自動車17両を失っています。

💥 当軍の作戦・戦術・陸軍の航空部隊、ミサイル部隊、大砲によって、次の場所の近くにあった6ヶ所のウクライナ軍指揮所を無力化しました。ヴェルフネカメンスコエ、バフムツコエ、アルチョモフスク、ウグレダル(ドネツク人民共和国)、パブロフカ(ザポロージエ州)、ブラゴダロフカ(ニコライエフ州)。また、発射位置にあった52台の大砲、143の人員・軍事機器が集まっていた地域もまた同様に無力化されました。

◽️ さらには、次の5ヶ所にあったミサイル・砲兵兵器・軍需品の貯蔵所を破壊しました。セヴェルスク、アブデエフカ、シェフチェンコ(ドネツク人民共和国)、ノヴォアレクサンドロフカ(ザポロジエ地方)、ベレスネゴヴァトエ(ニコラエフ地方)。

◽️ 次の場所にあったウクライナ軍の燃料貯蔵所2ヶ所も破壊しました。ドニエプロペトロフスクとパブログラド(ドニエプロペトロフスク州)付近。

💥ロシア空軍の戦闘機が、ベラヤ・クリニツァ(ケルソン州)付近で、ウクライナ空軍の MiG-29 1機を撃墜しました。

💥防空施設により次の場所の近くで無人機6台を破壊しました。ニコラエフカ(ルガンスク人民共和国)、ペトロフスコエ、ヴェレリヤノフカ、コデマ(ドネツク人民共和国)、チェルボニーヤル、ミロヴォエ(へルソン州)付近。

◽️また、次のものも破壊しました。カザツコエ、オトラドカメンカ、チェルボノエ・ポドリエ、ノヴァヤ・カホフカ (ケルソン地域) 周辺で米国製HIMARS MLRS*により発射された6発と、アントノフカ (同地域) 周辺のHARM対レーダー・ミサイル**3発。
*多連装ロケットシステム(MLRS)の小型である高機動ロケット砲システム(HIMARS)
**敵のレーダーから放射される電波をたどって誘導するミサイル。 High-Speed Anti-Radiation Missile


◽️さらに、Tochka-U弾道ミサイル1発をヴィソコエ(へルソン地域)上空で撃墜。

📊 特殊軍事作戦で破壊されたものは、合計すると、航空機318機、ヘリコプター159機、無人航空機2188台、防空ミサイルシステム379台、戦車や装甲戦闘車両5604台、MLRS搭載戦闘車両866台、野砲砲・迫撃砲3462台、特殊軍事車両6463台。

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ウクライナ主要都市を揺るがす爆発、重要なインフラも被害



 ロシアの指導者ウラジーミル・プーチンは、ウクライナのエネルギー、通信、軍事インフラに大規模な攻撃が実施されたことを確認した。

 モスクワ、10月10日。/タス通信社/。月曜日(10月10日)の朝、キエフをはじめ、ドニエプロペトロフスク、オデッサ、イワノ・フランクフスク、ハリコフ地方などウクライナの多くの地域で、一連の大きな爆発が発生した。

 ウクライナのウラジミール・ゼレンスキー大統領は、国全体のエネルギーインフラ施設への脅威を宣言した。
 
 キエフでは重要なインフラ設備が被害を受けた。爆発による死傷者が出ている。ポルタヴァ地方やリヴォフ地方など、いくつかの地方で電力や水の供給が途絶えた。ウクライナの全学校は今週末まで遠隔授業に切り替えられた。一方、ウクライナのキエフメトロと鉄道の運行は復旧している。

 ロシアのプーチン大統領は、ウクライナのエネルギー、通信、軍事インフラに対する大規模な攻撃が行われたことを確認し、ウクライナ当局がロシア領内でテロ攻撃を続けようとするならば、対応は残忍なものになるとキエフに警告した。


キエフで爆発

― 目撃者によると、キエフの中心街で8時20分(現地時間)から一連の爆発音が聞こえたという。

― 中央の通りは警察によって封鎖された。キエフ市街地の建築物は損傷し、救助隊が現場で活動している。

― キエフ地域の行政責任者によると、同地域の3つの地区の重要なインフラ施設で爆発音が聞こえたという。同地域では電力の急上昇が発生している。当局は、通信、電力、水の供給が途絶える可能性があると警告している。

― ウクライナの大富豪リナト・アフメトフの事務所があるビルが損害を受けた。

― キエフの地下鉄全線はすでに復旧している。


他地域での爆発

― ハリコフ、ドニエプロペトロフスク、オデッサ、イワノ・フランクフスク、キーロヴォグラード、スミなどの地域でも爆発音が聞こえたという。

― ゼレンスキーによると、現在、全国でエネルギー施設に対する脅威が発生している。「キエフとフメルニツキー地域、リヴォフとドニエプル、ヴィニツァ、イワノ-フランコフスク地域、ザポリージャ、スミ地域、ハリコフ地域、ジトミル地域、キーロヴォグラード地域、南部」とゼレンスキーは名前を挙げ、そこでは一時停電が起こるかもしれないと述べた。


被害と破壊

― ウクライナのデニス・シュミーガル首相によると、8つの地域で合計11の重要なインフラ設備が被害を受け、キエフでは一部の地域で停電が発生した。

― 特に、リヴォフ州、スミ州、ジトミル州のエネルギーインフラ施設に被害が出た。後者では、一部の消費者が予備電源に切り替えた。

― また、イワノ・フランクフスク州では、重要なせ設備で爆発音が聞こえた。ミサイルがバーシュティン火力発電所の近くに着弾した。

― ポルタヴァ地方、ハリコフ地方のいくつかの地区、フメルニツキーとシュミー地域で電力と水の供給が停止している。チェルカッシー州では一時的な停電の可能性がある。

― リヴォフでは、温水の供給が停止している。重要インフラ対象物の爆発により市の熱供給と発電所が停止したためである。市内は無電源状態となった。

― ウクライナ北部のチェルニゴフ州の一部地域でも電力が遮断された。

― オデッサ州当局は停電の可能性について警告を発した。

― ウクライナ鉄道によると、西ウクライナの鉄道電力網が損傷している。一方、ウクライナの鉄道サービスは復旧している。列車は若干の遅れを伴いながら到着している。

― ドイツ外務省のクリスチャン・ワグナー報道官によると、キエフのドイツ総領事館のビザ課の建物が被害を受けた。同部門は数カ月間、稼働していない。


死者・負傷者

- ウクライナ国家非常事態局のスベトラーナ・ヴォドラガ報道官によると、キエフで爆発があり、数人が死傷した。


現在の状況

― ゼレンスキーは、エネルギーインフラ施設が狙われているとし、全国に空襲警報を発令した。その後、ウクライナの全地域で警報が解除された。

― 当局は人々に避難所での待機を呼びかけている。

― 今週末まですべての学校は遠隔授業に切り替えられた。キエフでは、遠隔授業も中止された。

― 公共施設はすでに損傷したインフラの復旧作業に着手している。

― ウクライナのすべての鉄道ターミナルは通常通り運行されている。キエフ中心部の鉄道ターミナルでは、爆風により窓ガラスが破損した。ウクライナ鉄道によると、乗客はそこに避難した。

― ハリコフでは地下鉄の運行が停止している。メディアによると、地上交通機関も機能していない。


ロシアの声明

― ロシアのプーチン大統領によると、国防省の提案と参謀本部の計画に基づき、ウクライナのエネルギー、通信、軍事インフラ対象に対して、地上、海上、空中の精密長距離兵器による攻撃が実施されたとのことである。プーチンによると、キエフは「その行動によって、実際に国際的なテロ組織と同じ立場に立っている」「この種の犯罪を放置することは、もはや不可能である」と述べた。プーチンは、キエフがロシア領土でテロ攻撃を続けるなら、「対応は残忍で、ロシア連邦に生じた脅威のレベルに対応する規模になるだろう」と警告した。

― ロシア国防省報道官のイーゴリ・コナシェンコフ中将は、今回の攻撃は目的を達成したと述べ、指定されたすべての目標に損害を与えたと付け加えた。


国際的な反応

― キエフの米国大使館は、ウクライナ領内にいるすべての米国市民に対し、安全になり次第、同国を離れるよう促した。一方、フランス外務省は、ウクライナにいるフランス国民に対し、自宅にとどまるよう促した。

― EUのジョセップ・ボレル上級代表は、キエフへの攻撃を非難し、EUはウクライナに追加の軍事支援を送ると付け加えた。

― ゼレンスキーは、ドイツのオラフ・ショルツ首相との電話会談後、G7緊急会合が開かれる予定であると述べた。ゼレンスキーは、この会議で演説を行う予定だという。

― ショルツ首相は、ドイツと他のG7諸国からの連帯をゼレンスキー氏に約束した。ドイツは、ウクライナへの追加援助、とりわけ被害を受けたインフラ設備の復旧に全力を尽くすと、シュテフェン・ヘベストライト内閣報道官は述べた。ドイツ政府は、ロシアによるウクライナの都市への「ミサイル攻撃」を非難した、とヘベストライトは述べた。

― ゼレンスキーはまた、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と電話会談を行い、この状況に対する欧州および国際的な強力な反応の必要性について話し合った。AFP通信によると、マクロン大統領はウクライナへの軍事支援を増やす用意があると述べたという。

― ゼレンスキーはポーランドのアンドレイ・ドゥダ大統領とも緊急協議を行った。

― イタリア外務省は、ウクライナへのミサイル攻撃を非難し、キエフへの支援を再確認した。カナダ外務省も同様の声明を出した。



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米国は旧ソビエト諸国に生物研究所を潜入させた---ロシア外相セルゲイ・ラブロフは、米国は権力の座を悪用して兵器研究を外国に委託していると訴えた。

<記事原文 寺島先生推薦>

US infiltrated post-Soviet states with biolabs – Russia

出典:RT
 
2022年5月26日

<記事翻訳 寺島メソッド飜訳グループ>

2022年10月21日


FILE PHOTO. ©Milos Dimic / Getty Images

 1990年代、旧ソ連諸国が脆弱で、自治の経験も浅かったことを利用して、アメリカはこれらの国々を食い物にする狡猾な知謀を持っていたと、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がRT アラビア語放送に語った。ワシントンはその力を利用して、軍事研究を行う生物研究所のネットワークを構築してきたと、ロシアは考えていると、彼はインタビューで説明した。

 ソビエト連邦の崩壊により、旧ソ連諸国は、貧しく、最も基本的な必需品さえも絶望的に必要とする状況に放置されていたが、それが米国につけ入る隙を与えた、とラブロフ氏は概説した。

 「我が国の友好国である西側諸国はその時、いわば先を争って利権を獲得しようとしていました。西側諸国は、あらゆる面でサービスを提供し、独立したばかりの国家のあらゆる地域に潜入しました。助言者たちも派遣しました。そして今、私たちはその時代の負の遺産を味わわされているのです」と大臣は語った。

 ラブロフ外相が特に言及したのは、旧ソ連の多くの国が自国の領土で設置している米国が資金提供する研究所についてだった。これらの研究所においては、米国国防総省の国防脅威削減局(DRS)の傘下で、生物学研究が行われているのである。

 米国は、これらの一連の研究所は害を与えるものではなく、人類に脅威を与える可能性のある新しい病原体を検知し特定するためのものであると言う。しかし、ロシアを含むいくつかの国は、これらの施設が秘密裏に生物兵器の研究を行っていると考えている。


<関連記事>米民主党、ウクライナの生物研究所の利益を選挙資金に使用---ロシア

 ロシア軍によるウクライナ攻撃時に、研究所の本性を示す証拠が発見された。モスクワがこの問題を放置することはないと、ラブロフ氏は付け加えて述べた。

 「彼らがその研究所で行っている実験、それらが平和的で無害なものではないことを、我々は長い間疑ってきました」と、ラブロフ氏は述べた。

 さらに、「(ウクライナの研究所に)保管されていた病原体のサンプルは、書類上、実験の軍事的性格を明確に示していました。そして、このような研究所がウクライナに数十カ所あることも書類から明らかになりました」とも付け加えた。

 モスクワは、生物兵器禁止条約の更新を望んでいる。1972年に締結されたこの国際条約は、生物兵器の研究、備蓄、使用を禁じており、ロシアと米国は共に署名している。この条約には、大きな欠陥がある。それは違反行為を検証する仕組みがないことだ。いっぽう、国際原子力機関や化学兵器禁止機関には、不拡散の遵守を確認する検証を行う仕組みが整えられている。

 2001年以来、20年以上にわたってこのような検証を行う仕組みの確立が提案されてきたが、米国はこれを拒否してきた、とラブロフ氏は強調した。そして、「米国がなぜこのような立場をとって、長年にわたって世界中に軍事生物学研究所を設立してきたのかが明らかになったということです」と述べた。
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ウクライナ紛争を利用して、ロシア政府を転覆する狙いがあることを、英米の支配者層は認めている

<記事原文 寺島先生推薦>

It's no secret that the West is trying to overthrow the Russian government – John Bolton was just saying it out loud

Forget the veteran warmonger, Britain's Henry Jackson Society has come up with a far more elaborate scheme

(西側がロシア政府の政権転覆を行おうとしていることは秘密でもなんでもないージョン・ボルトンが大声で語っているのだから。
この戦争中毒者の大御所以外にも、英国の圧力団体ヘンリー・ジャクソン・ソサエティが、さらに過激な陰謀を披露している)

筆者:フェリックス・リブシッツ(Felix Livshitz)

出典:RT

2022年10月8日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月19日



©  Getty Images / Andrey Rudakov / Bloomberg


 10月4日、悪名高いネオコンのジョン・ボルトンが、非常に露骨な表現を使った論説記事を、軍事関連ブログの19fortyfive.com.に投稿した。その論説の大胆な題名に、過激な戦争中毒者であるボルトンの思いが凝縮されている。それは、「プーチンは去らねばならない。今こそ、ロシアの政権転覆の時だ」というものだった。
 
 ボルトンは、ウクライナに対するワシントンの反応を記したに過ぎない。それはまさに、冷戦終結後のワシントンの対ロシア政策のことだ。そしてその反応はずっと変わっていない。つまり、従順で傀儡的な(米国の前に立ちはだからない)指導者を確保しようとする米帝国の政策のことだ。そのような指導者たちを、クレムリン、ひいては欧州全体に安全に据えようとしているのだ。そして、欧州やロシアを、米国の経済や政治や軍の意思に従属する勢力に抑えておきたい、ということだ。


関連記事: US should work for 'regime change' in Russia – John Bolton
 
 英米の長年の最大目的が、このような状況を作ることにあったという事実は、極めて明白だ。ボルトンの発言が多くの大手メディアの関心を引き起こしたが、今年6月にボルトンが書いた記事は、今回のウクライナ紛争を利用して、この長年に渡る目標をどう達成するかについてより詳しく書かれていたのに、こちらの記事については、ほとんど騒がれることがなかった。


英国の気まぐれ

 「ヘンリー・ジャクソン・ソサエティ(以後HJS)」という組織は、政府や、英国の保守党と深いつながりを持つ、強硬派の圧力団体なのだが、その団体は、報告書において以下のような問いを立てている。それは、「ウクライナ侵攻に対するロシア国内の反対勢力は、プーチン政権にとってどのくらいの脅威となっているだろうか?」というものだ。
 
 この中身のない問いについても、反対勢力の実体についても、純粋な学術的見解からの視点はなかった。実際、この文書が提供している概観は、ロシア政府を転覆させるための青写真といえるものでしかない。具体的には、その転覆をロシア国内の反政府活動家たちに内密に資金援助をすることによって達成するという青写真だ。特筆すべきは、その青写真を実現するために、7つの「推奨される政策」が提示されていることだ。
 
 この報告書がG7諸国に求めているのは、「ウクライナ軍によるロシアの敗北や、ロシアに占領された地域の奪還を目標とし、この目標が達成されるまで、武器や訓練を豊富に提供すること」だ。さらに同盟諸国に求められるのは、「ロシア政権からプーチンを排除することを求めている、と公表すること」で、同時に、「クレムリンの指導者に対するクーデターが起こる危険性の情報を広める、ただしこのようなクーデターを策謀している人々の安全は守る」ことだとしている。


独エルマウ城でのG7の会議の際、夕食後に「メルケル-オバマ」ベンチで、非公式の団体写真のために整列している各国首脳陣。©  Michael Kappeler / picture alliance via Getty Images
 

 現在、ワシントンが求められているのは、「ロシアをテロ行為に資金を提供している国家であると名指しして、プーチンは戦争犯罪者であり、欧州や世界の安全保障にとって深刻な脅威となっており、ロシア国内に民主主義を普及させることにおける脅威にもなっている、と公式に宣告すること」だ、ということだ。そしてその民主主義の普及に使われるのが、「西側の民主主義を促進する諸団体」だという。いうまでもなくこの諸団体とは、CIAの仮面機関である「全米民主主義基金」やUSAID(米国国際開発庁)などだ。これらの機関が担っているのは、「ロシア国内の様々な反政府勢力への支援を増やすための重要な任務」だ。
 
 HJSの提案によれば、まさにこれらの諸団体は、ロシア国内や、ウクライナや、バルト三国や、ポーランドで、「ロシア国内の独立系メディアへの支援も高めるべき」であるという。さらに西側諸国の政府に求められていることは、「ロシアの国家機関当局者」や軍の役人たちの「亡命を誘発し」、「これらの人々に、彼らが望む国での避難所を提供することで、ロシアの内部情報を得る」ことだとしている。そしてその情報は、この先プーチンを始め、諸大臣を国際裁判で裁く際に利用できるというのだ。


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 「ロシアの独立系メディアを通じて、ロシアの一般市民に伝えることができる情報を増やす仕組みを確立しなければならない。そして、西側の多くのラジオ局による放送や、アノニマス(英国で結成されたオンライン上の国際的な連携組織)が行っている工作活動を通じて、西側の制裁によりロシア経済やロシア金融界が受けている打撃や、ロシア軍の戦死者の高い数値についての情報を広めなければならない」と、この報告書は、背筋が寒くなるような言葉で締められている。


奴はいつも、色をまとってやってくる。

 このような提案に聞き覚えがあるとすれば、その理由は、西側がこれまでも同じような手口をずっと使ってきたからだ。あるいは、少なくとも口にしてきた手口だからだ。すべてのG7諸国の政府が、独自の取り組みや、集団としての取り組みとして、HJSがこの報告書を出してから数ヶ月間、ずっと行ってきたことだからだ。

 このことは、なぜこの報告書が西側のニュースメディアから注目を集めなかったかの理由の説明になるだろう。ほかの反クレムリン政策研究所が今年出したほとんどの主張は、メディアを騒がせたこととは対照的になっている。結局のところ、G7諸国の政府、あるいは各国の支配下や影響下にあるメディアが、発令される前から、政策や公式発表に関して注目を集めさせはしない、ということだ。あるいは、戦闘前から、戦争を効果的に進める詳細な計画が隠されることなく、周知されることはないということだ。

 HJSによるこの研究の主眼が、ロシアの政権転覆の手段を探ることに置かれていたという事実は、ウクライナの「オレンジ革命」や2014年のマイダンでのクーデターについての記載が、多くの章を割いて取り上げられていることからも、よくわかる。


2014年2月21日、ウクライナのキエフのマイダン広場の近くのインスティ・トゥースカ通りで、バリケードを見つめる一人の反政府活動家©  Etienne De Malglaive / Getty Images

 これらの「革命」の経験があるため、この圧力団体のHJSは、ロシア国内に反政府勢力の基盤を立てる重要性がしっかりとわかっているのだ。「既得権力への対抗に成功できたのは、まさに(ウクライナ国内の反政府勢力と)このような広範な連携体制がとれたから」であり、2004年や2014年に、やっかいなキエフ政権を転覆させることができた、とこの報告書には満足げに記載されている。

 ただしHJSの予見では、ロシア国内でこのような「連携体制」をとるのは、ウクライナのときよりも、困難になるであろうとしている。それは、ロシアの一般市民が、クレムリンの政局運営をかなり支持しているからだ。その目的を達成するために、HJSが武器として使えるものとして提案しているのは、「国家当局者たちをいらつかせること。侵略や軍の戦死者数で一般市民たちに動揺を与えること。西側の制裁によりロシア国民たちに打撃を与えること。ロシアのシロヴィキ(治安・防衛部隊)内に分断を生じさせること」だとしている。


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 言い換えれば、この圧力団体のロビイストたちが主張しているのは、ウクライナでの例に習って、モスクワで「カラー革命」を起こすことだ。ウクライナ以外でも、グルジアやキルギスタンなどの旧ソ連圏でも、2000年代に起こってきたことだ。それぞれの地域で取られたやり口は少しずつ違うが、最終目的は同じだった。西側と与しない政権を、専制的で、国民からの評判がよくない政権に置き換え、西側の利益を増やすことや、国家主権を西側の抵当にいれることを考えるような政体を作ることだ。

 2004年のウクライナでは、全米民主主義基金の計画により、ウクライナ国内の若者たちは過激化し、抗議運動には資金が渡され、給与を与えられた抗議者たちがバスでキエフに送られ、反政府メディアの創造により暴動が煽られ、抗議者たちには海外で訓練が施され、給与を与えられた世論調査員たちが、反政府の風潮をほのめかすような調査結果を発表していた。

 こんな努力があったにもかかわらず、ウクライナから親露感情を消し去ることはできなかった。そのため、米国が密かに、あるいは公然と、キエフの過激な国粋主義者たちに、ユーロマイダンのクーデターが起こるまで、何ヶ月もかけて、資金援助を行わなければならなかったのだ。 ウクライナ国民も、それ以外の地域の人々も、米国が行ったこの干渉行為の負の遺産を引きずったまま暮らしている。ロシアに対して同じような干渉行為を行ったならば、もっとずっと悲惨なことになるだろう。 そして世界が、もっとずっと酷い惨状に陥ることは確実だ。
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ジェフリー・サックス(コロンビア大学経済学教授):「ザポリージャ原発攻撃はウクライナが仕掛けた可能性が高い」

<記事原文 寺島先生推薦>

US economist breaks ranks on nuclear plant strikes
Jeffrey Sachs has called for Washington to demand that Ukraine stop shelling the Zaporozhye plant while blaming Russia

米国の経済学者、原子力発電所攻撃についての主流的な見方に異を唱える。
ジェフリー・サックス(Jeffrey Sachs)は、ウクライナがザポリージャ(Zaporozhye)原発への砲撃とロシアへの批判を止めるよう要求することをワシントンに求めた。

出典:RT

2022年10月10日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月19日


資料写真: エネルホダル(Energodar)市にあるザポリージエ原子力発電所(2022年8月23日) © Sputnik / Konstantin Mihalchevskiy

 米国の公共政策についての専門家であるジェフリー・サックスは、ジョー・バイデン大統領の政権は、キエフに対し、欧州最大の原子力発電所への砲撃と、その原因を偽ってロシアになすりつけることをやめるよう命じるべきだ、と主張した。

 「ウクライナがザポリージャ発電所を砲撃しているのはほぼ確実で、我々はこんな当たり前のことをあえて口にする気にもなれない。何のお咎めも受けず発電所を砲撃し続けるのだから、ひどい話だ」と、サックスは10月9日(日曜日)にGrayzoneのポッドキャストで語った。

 受賞歴のある経済学者であるサックスは、1990年代の「ショック療法」改革を陰で操作したとしてロシアでは悪評が立った。しかしそのサックスが、ザポロージャ原発は3月からロシアの支配下にあるのに、誰が砲撃したのかまったく分からない、というような言い方を西側メディアはしている、と指摘した。「西側メディアは、ロシアが原発を支配しているのなら、たぶんロシアは自分たちの原発を砲撃しているのではなく、たぶんウクライナが原発を砲撃しているのだ、というごく簡単な推論ができないのだ。」

 サックスは、大惨事が起こる可能性があるにもかかわらず、米国当局はキエフに原子力発電所を砲撃しないよう伝える言葉さえ見つけられない、と嘆いた。彼は、米国はウクライナ政府に、ロシアを挑発し、紛争を激化させる自由裁量権を与えている、と主張した。



 国連の持続可能な開発ソリューションネットワークの代表でもあるサックスは、「これはアメリカとロシアの問題ではないかのように、全体をごまかしているから問題なのだ」と述べた。さらに、彼は「これはロシアとアメリカの戦争だ。米国はそれほど多くの人員を派遣していない。ウクライナに米国から誰が派遣されているか、本当のところは私たちにはわからないが、米国は、多くの武器、資金、情報を提供している。米国がこの戦争を戦っている。それは明々白々のことだ」と述べた。

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 サックスは先週、ブルームバーグTVのインタビューで、ロシアからドイツへの天然ガスパイプラインであるノルドストリームを破損させた爆破の背後に米国がいる可能性がある、と自分の推測的な意見を述べ、ソーシャルメディア上で波紋を広げた。サックスがこの爆破攻撃に関する自説を説明し始めると、ブルームバーグのキャスターが、サックスは何の証拠も持っていない、と遠回しに口を挟んだ。さらに、サックスが自分の推論を述べ始めると、もう一人の女性キャスターは彼の言葉を遮り、証拠がまったく無い中で「報復的な動き」に巻き込まれたくない、と言った。


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 サックスはGrayzoneの司会者たちに、バイデンは危機を打開できず、ウクライナをNATO加入させないことに同意するのではなく、ロシアとの本質的な戦争をする道を選んだ、と語っている。「この国は戦争マシーンのギアがトップに入っているので、それにブレーキをかけるのがアメリカ大統領の仕事だ...アメリカ大統領の主な仕事は、戦争マシーンが戦争をするのを止めること。我々は今、戦況が拡大するなか、ハルマゲドンに向かっている...。」

 サックスは、ウクライナは、世界唯一の超大国であるというアメリカの新保守主義的政策の下での重要な「地理的要衝」である、と示唆した。「アメリカの計画は、黒海を支配せよ!だ。つまり、ウクライナ、ルーマニア、ブルガリア、トルコ、そしてグルジアを取り込む、ということだ。これらの国々で、ロシアを取り囲もう、というのだ。そして黒海には、ロシアの海軍艦隊が存在するのだ。」

 現在、ニューヨークのコロンビア大学で持続可能な開発センターのセンター長を務めるサックスは、1991年から93年にかけて行った「ショック療法」改革でロシア人の間で悪評が立った。ソ連経済全体の大改革は、結局、何百万人ものロシア人の生活を破壊し、国の富を一握りのオリガルヒに渡すことになったからだ。
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ロシア・ウクライナ紛争の再燃:この先に起こるのは、ゼレンスキーの降伏か?それともヨーロッパの崩壊か?

<記事原文 寺島先生推薦>

Recrudescence of the Russia-Ukraine Conflict: Zelensky’s Capitulation or Total Collapse of Europe

ロシア・ウクライナ紛争の再燃:ゼレンスキーの降伏か? それともヨーロッパの完全崩壊か?

筆者:ヨセリーナ・ゲバラ・ロペス(Yoselina Guevara López)

出典:INTERNATIONALIST 360°

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月18日




 今週10月11日火曜日、ロシア連邦はウクライナのエネルギー施設や軍事施設を標的にした新たな大規模攻撃を行った。ロシア防衛省が出した情報によると、ロシア軍は、この作戦で、長距離精密誘導兵器を駆使した空と海、両方からの攻撃を、軍事施設やあらかじめ目標としていたウクライナのエネルギー施設を標的にして行った、という。

 現在、ロシアとウクライナ間の紛争が、激化の一途にあることは間違いないが、モスクワはこれまでは可能な限り抑制的であろうとしてきた。この言い方が衝突となじむのであればそう言いたい。ただ、ウクライナからの攻勢に対してロシアの反応がこれまで道理にかなっていたことを考えれば、いま述べたことを肯定してもいいだろう。一方で、ウクライナの攻撃には過激な事例がいくつもある。例えば、ノルド・ストリーム1と2のパイプラインの破壊工作、ダリア・ドゥーギナさんの殺害、クリミア大橋の破壊である。言うまでもないことだが、ウクライナ軍の部隊をロシア国境に向けて侵入させようとしたこともそうだ。


クレムリンにとって超えてはならない一線

 クリミア大橋はウラジミール・プーチン大統領から見過ごすことのできない「最後の超えてはならない一線」に指定されていたが、それにもかかわらず、ウクライナは10月8日日曜日にそこを破壊した。その結果、ウクライナはモスクワからの激しい反撃を受けることになった。ウクライナのどの地域もロシアによるミサイル砲撃の嵐を逃れることはできなかった。ロシアの発祥地である首都キエフから黒海における「ロシアの」と真珠と称されている港岸都市オデッサまで、さらにはロシア語圏のハリコフから民族主義色が強く中欧の一都市とも言われるレオポリ(リヴィウ)までもが砲撃の対象となったのだ。

 ロシアの報復攻撃がどれほどの規模だったのかは、少なくとも3発のミサイルが中立国であるモルドバの上空を飛行した事実からはっきりと分かる。このミサイル飛行にキシュナウ政府は怒りの声をあげ、即座にベッサラビア(モルドバが位置する中欧の一地域のこと)のロシア大使オレグ・ヴアスネコフが呼び出された。爆発性の高いこのミサイルが、中欧及び東欧で最大規模の弾薬庫であるコバスナ弾薬庫(2万トン以上の戦争物資を格納している)の上空を通過したという事実はモルドバ当局の懸念を引き起こした。「取り返しのつかない事故がおこる」可能性を彼らは恐れたのだ。


交渉経路の断然

 ロシアのミサイルがSBU(ウクライナの諜報機関であるウクライナ保安庁)のセンターの近くを攻撃したことは、モスクワがウクライナの政治的・軍事的指導者たちを、物理的に排除しようとする傾向が強まっていることを示している。今のところは、政府の省庁や大統領府はロシアによる攻撃を受けていないが、 いつその状況が変わってもおかしくはない。和平交渉に携わる関係者たちがいると思われる非軍事施設や行政機関が攻撃されていない状況から考えると、ロシア側は話し合いで解決する経路を残しておこうとしているのだろう。しかしその経路は、ゼレンスキーが大統領令2022年第679号に署名した瞬間から絶たれた。その大統領令は、ロシアとの休戦交渉を明示的に禁じるもので、そうなるとウクライナ側からはどんな停戦協定も出せず、和平へのかすかな気配さえもなくなってしまったからだ。


冬将軍の到来と欧州の崩壊

 冬の到来を直前に控える中、ロシアのミサイル攻撃は、ウクライナの電力供給基盤を標的にしている。ウクライナの領内全てで電灯が消されていることも、「冬将軍」の到来が近づいていること示す一例だ。ロシアによるこの作戦は、一般市民たちに影響を与えている。エネルギー供給量に圧力をかけることにより、ロシアはゼレンスキーに降伏させることを狙っているようだ。一方でゼレンスキーは、敗者になることをきっぱりと拒んでいる。しかし、エネルギーの問題はウクライナだけではなく、欧州全体にも関わることなので、彼は全ての国々を生け贄に差し出していることになる。

 さらに、ロシア・ウクライナ戦争に対して、西側が武器供給を全く止めようとしないことから考えると、欧州の各国政府がウクライナ国内の人々の命にほとんど関心を持っていないことは明らかだ。加えて、ロシアからのエネルギー供給を止めることにより、すべての欧州諸国の経済を崩壊させていることにもお構いなしのようだ。 私たちの目に見えている彼らの目的は、同盟諸国やNATOの援助のもとでロシアを激しく攻撃している米国の計画に服従し続けることだけである。

 この先の見通しははっきりしている。欧州諸国の民衆は、現在政権を執っている自国政府への抗議活動を力強く継続するだろう。いまだにウクライナの無謀な行為を支えているからだ。西側諸国の民衆こそがまさに、ウクライナで継続している戦闘の経済的な犠牲者なのだ。彼らは民衆の蓄えや税金を、武器や資金として何十億ユーロ/ドルもウクライナに送っている。これらの国は、この紛争なるに間接的に参戦しているので、国家予算は既に大赤字になっている。このままいけば奈落の底まで落ちるだろう。インフレ上昇率が2桁に達している状況で、その影響の痛みを受ける家庭は何百万にものぼるだろう。冬に暖房を使えず、最悪の場合は食べるものすら十分に賄えなくなるだろう。イタリアやドイツなど、製造業に伝統のある国々で、何百もの大小企業が倒産している。それに伴い、失業者の数は増え、それは社会に暴動を起こす温床となるだろう。寒い冬の到来が近づいているが、歴史あるこの欧州大陸で政府に対する抗議活動が確かに起こっている。この地で形成されてきた革命という伝統が、まだ残存しているかどうかを、見届けようではないか。


 ヨセリーナ・ゲバラ・ロペス:ソーシャルメディアを使った発信者で、政治専門家。世界各地の様々なメディアでコラムを執筆している。ロペス氏執筆記事は、英語・イタリア語・ギリシャ語・スウェーデン語に翻訳されている。2022年、ベネズエラのシモン・ボリバル賞の国内記者賞特別賞を受賞。ベネズエラの2021アニバル・ナゾア賞国内記者賞を受賞。エルサルバドルの2022年フェリシアーノ司令官歴史記念コンテストで三等賞を受賞
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西側メディアは無視し続ける。ウクライナが、NATOの武器を使ってドンバスの無実の一般人を殺害している様子を!

<記事原文 寺島先生推薦>

Western media continues to ignore how Ukraine is using NATO weapons to kill innocent civilians in the Donbass

筆者:エバ・バートレット(Eva Bartlett)

エバ・バートレットはカナダ出身の独立系記者。中東の戦闘地域の現場取材を何年も行った経験がある。特にシリアとパレスチナ(両地域でほぼ4年間滞在)の取材をしていた。

出典:RT

2022年9月23日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月18日




一般市民の死者数が増加し続ける中、EU諸国の中には、市民たちが自国政府がキエフ当局を支援することに反対して、抗議活動に立ち上がっているところも出てきた。

 9月13日月曜日、ウクライナは16名の一般市民を殺害し、その中には2名の子どもも含まれており、その際使用されたのは、NATOの155mmの榴弾砲だったとドネツク人民共和国のデニス・プシーリン首長は発表した。 その際使用された発射物は、隣接する2つの地域に着弾し、住宅街や商業地域を破壊した。その地域には以前にも致命的な攻撃を受けた市場も含まれていた。

 死に遭遇する場面は、ここドネツクの住民や記者たちにとって全く目新しいことではなくなっている。ドネツクは断続的にウクライナの攻撃の的にされているからだ。例を挙げると、8月4日、市内の中心部が攻撃され、6人が死亡、その中には11歳のバレリーナの少女とその祖母と少女のバレーの先生も含まれていた。

 しかし9月19日の大虐殺は、私がここで取材活動をしてきたこの数ヶ月間に目にしたものの中で最悪だった。人体の破損部位が街中に捨てられていた。手や足や耳の一部だ。 携帯電話を自分の腹に置いたまま亡くなった人がいた。その携帯電話が鳴り、不釣り合いな陽気な着信音が響いていた。そこにあったのは、男性の生気のない体と、爆撃現場と、男性の体から立ち込める死臭だった。


 ほとんどの人たちにとっては、戦争は自分からかけ離れたものだし、人々の死は、無数の犠牲者や破壊された建物の様子を伝えるメディア報道により、日常的になってしまっている。市民たちが殺されている話を聞いているほとんどの人々は、自分の目でこの風景を見、自分の鼻でこの匂いを嗅がないかぎり、本当に何が起こっているのかを理解できないだろう。

 地元の人々にとっても、ある意味この状況が日常的になっている。ここ8年以上もの間、ずっとウクライナから攻撃を受けているのだから。しかしこれは悲劇的といっていい異様な日常だ。お決まりの第2弾攻撃が、最後の爆発が終わった直後に始まるのだから。

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 私が爆撃現場に着いた時には、地元の人々がすでにガラスの破片を掃き、窓を取り付け、店を再開する準備をしていた。ロシアの調査委員会の調査員が現場で爆弾の破片を集め、今回の砲撃の着弾地を調査し、この武器の特性を確定しようとしていた。何が起こったのかを聞かれた調査員たちは、慎重に言葉を選び、この調査の結論が出るまではなにも言えない、と語っていた。

 緊急車両が到着し、作業員たちが死体や死体の一部を担架に乗せ、運び去っていった。

 その100メートルほど先のアパートの側面に大きく割れた穴が出来ていた。この砲撃は、一番近い基地の方向を示すしるしが書かれた壁にちょうど着弾したが、その基地は砲撃からの避難所として使用されることになっていた。このような階段へ繋がるドアは、普通はずっと開けっ放しにされ、砲撃により閉じ込められたときに、ドアや基地へ逃れることで、生き残れる準備がされている。



 9月16日土曜日のウクライナの別の攻撃による被害者たちは、逃れることはできなかった。正午頃、ドネツクの中心地が30分の間に10発ほどの砲撃を受けた。 少なくとも4名の一般市民が亡くなり、そのうち1人はまだ地面に横たわっているのを、私は目撃した。 数分後、その女性の死体が運び去られた。一発の砲弾が、アルテマ通りを通行中の車に着弾し、車が炎上し、2名の一般市民が亡くなった。 私が現場に着くまでには、その車は完全に炎上していて、死体が運び出されていた。作業員たちは、既に道路の再舗装に取り掛かっていて、歩道の瓦礫やガラスの破片を掃いていた。


 9月22日木曜日、再び正午頃に、ウクライナはドネツクの中心地を再度砲撃したが、今回の標的は賑やかな市場だった。この砲撃により、路上や炎上したバスの車内で、6名が亡くなった。


西側が提供した武器でドンバスの一般市民たちが殺されている

 ロシアやドネツクが、「ウクライナが西側が提供した武器でドンバスの一般市民たちを殺している」と主張しても、それに対する反応は、沈黙や嘲笑や事実のすり替えしかない。つまり「ロシアがドンバスを砲撃している」と主張するのだ。しかしドンバスに住んでいる一般市民たちなら誰でも、そんな主張を難なく反証できる。この8年間以上もの間、ずっとウクライナから砲撃を受けてきたのだから。


 戦争特派員のクリステル・ネアンは、9月18日土曜日の砲撃について、以下のように記している。

 「私は、砲撃現場で見つけた砲弾のかけらの画像をアドリアン・ボケ氏に示した。ボケ氏は現在、JCCC(ウクライナによる戦争犯罪に関する共同監視・調整センター)のドネツク人民共和国の代表をつとめており、NATOの武器に関しては専門的な知識をもっている。ボケ氏が明言したところでは、この砲撃に使われたのは米国の155mm榴弾砲であり、シーザー銃などのTRF1銃から発射されたものだ」

 「このよく知られているTRF1銃とは、 (禁止されている)155mmクラスター弾を発射できる銃で、私はこの件を6月に記事にしていたが、西側メディアは、フランスがウクライナにこの銃を提供していないことは確認済みだ、と報じていた。しかし9月の初めになって、パリ当局はキエフ当局にこの銃を売っていたことが判明した!!」

 最近、ドイツやフランスやイタリアの欧州市民たちは、“#StopKillingDonbass(ドンバスでの殺害を止めろ”というハッシュタグを掲げた活動を起こしており、西側がウクライナに武器を売っている状況を非難し、その行為をやめるよう求めている。このような動きはちょうど時機をえたものとなった。というのもその動きは、ウクライナがドネツクの中心地に再度砲撃を行った次の日におこったからだ。
 
 これらの運動に続いて、ウクライナに武器を供給することに反対する署名が開始された。その署名に付けられた文書にはこうある。

 「現在我々の国々の政府は、国連憲章第2条に定められた基本原則、特に、国家主権の平等や、紛争の平和的解決の原則に反し、ウクライナに武器を供給し、子どもたちを含むドンバス住民の中に、たくさんの死者や負傷者を生み出す原因を作り出しています。」

関連記事:Second Donbass republic wants vote on uniting with Russia

 そしてその文書の結論は以下の通りだ。「私たちはドンバスの人々に対する国家によるテロ攻撃や虐殺行為への資金援助の停止を求めます。 さらには、2014年からずっと、1949年のジュネーブ条約などの国際的な人道法を踏みにじっている国家への資金援助の停止も求めます」

 今ドネツクには、砲撃が「砲撃禁止」になっている所はどこにもない。産婦人科病院も、賑やかな市場も例外ではない。しかし本当に問題なのは、この状況を西側企業諸メディアが報じることが、「禁止」になっていることだ、と言えるだろう。
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EU各国政府は、今回のエネルギー危機でも、自らの失政を棚に上げ、市民たちに無意味な対策を要求。

<記事原文 寺島先生推薦>

Will French officials’ turtlenecks save the country from crisis?

EU officials are lecturing their people on how to be ‘responsible’ amid a crisis of their own making

(フランス政府の役人たちが、タートルネックを着用することで、この国を危機から救えるのだろうか?

EU当局の役人たちは市民たちに、危機に対して「責任」を持て、と説教を垂れるが、その危機を作ったのはEU当局だ。)

筆者:レィチェル・マルスデン(Rachel Marsden)

レィチェル・マルスデン(Rachel Marsden)はコラム執筆者で、政治戦略家で、独立系メディアで、フランス語や英語でのトークショーの司会もつとめている。

出典:RT

2022年10月5日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月18日



エマニュエル・マクロン仏大統領©  Ludovic MARIN / POOL / AFP

 私以外でお気付きの方はおられるだろうか?それは、西側諸国政府の多数の役人たちが、最近力を込めて、有権者たちに向かって手本を示す(あるいは、お説教を垂れることもあるが)姿をよく見かけるようになったことだ。その内容は、どうすれば、今直面している様々な危機的状況の中で、自分勝手で、無責任な人間と思われないようにできるか、についてだ。しかし実はその危機的状況を促進し、悪化させているのは、他でもない、その各国当局なのだ。

 ここフランスでは、パリファッションウィークが盛大に開かれていた先週、フランス政府高官たちが、2022年秋冬新作「善意見せつけ」コレクションで、モデルをつとめていた。ブリュノ・ル・メール経済・財務・産業及びデジタル主権大臣は、摂氏20℃の屋内で、タートルネックを身につけて現れた。「私のネクタイ姿を見ることはもうないでしょう。これからはタートルネックを着用しますので」とル・メール大臣は語った。「こうするのはとてもいいことだ、と思います。エネルギー節約にもなりますし、自分が意識高めだ、ということを示していることにもなりますので」。夏の気候時に、「僕は、エネルギー問題など、社会問題に意識高めですから」などと言いながら、スキーをするような格好で仕事場に来た人がいたら、「頭、おかしくないか?」と突っ込まれるのがオチだろう。

 しかし負けじと、エマニュエル・マクロン仏大統領も、公共の場にタートルネックに身をまとって現れたのだ。エリザベット・ボルヌ仏首相も、アニエス・パニエ=リュナシェ仏エネルギー移行大臣も、別の屋内での行事に、ダウンジャケットを着て現れた。
 
 西側諸国政府の指導者たちは、自国市民たちに禁欲生活を送るよう、強制したり、なだめたりすることに、より重点を置き、自分たちが壊してしまったものを直そうとすることは後回しにしているようだ。直そうとするには、勇気が要求されるからだ。従って、ブリュッセル当局の代名詞である、自分を傷つけてでも「団結」を手に入れる、という方針は、破棄されている。


関連記事:Germany may cut energy exports to neighbors — FT

 政府高官たちがこんな振る舞いを見せるのは、何もこのエネルギー危機において初めて、という訳ではない。これは着古された、よくある手口だ。

 気候問題関連で色々と非難されることには、もうずっと前から皆、慣れっこになっている。ここパリでは、社会党のアンヌ・イダルゴ市長は、一年を通じた熱の入った取り組みにより、パリ市内のすべての、そして如何なる車両の運転者たちにも圧力をかけているので、運転者たちは様々な交通規制や制限にイライラさせられている。その規制の中には、運転時速を30キロ以内に抑えることも含まれている。しかし実は、このような措置は、多くの運転者たちをイラつかせるだけではなくて、効果もなく、逆効果でさえある。

 特にドイツは、二酸化炭素ゼロ作戦を極端にまで追求していて、産業・経済界全体をグリーン・エネルギーで回そう、と計画している。そのドイツの方針を、フランスは致命的なくらい真似している。ただし、フランスが環境という要素を加味した上で、原子炉全廃に舵を切ろうとしなかったという事実からわかることは、ドイツとは違い、フランスは自国が持つ唯一の生命線を手放さなかった、ということだ。EUが、ロシアからの天然ガスの供給を断つという措置を、自分たちにかけてしまっているという状況の中でのことだ。

 善意の見せつけ的なグリーン政策という政策は、全く意味のないものなので、EUは今年初旬に、グリーン政策を撤回する方向を打ち出し、天然ガスや原子力は、グリーンなエネルギーである、と再評価するようになった。昨日までの汚染エネルギーが、急に今日、環境にやさしい最良エネルギーに変わってしまった。それは、そのエネルギーの何かが変わったからという訳ではない。EUが指を鳴らして、これまでは汚れたエネルギーとされてきたものが、グリーンなエネルギーに変えられてしまっただけのことだ。同じようにEUは、これまでのエネルギー供給源をいとも容易く止めてしまうこともできる、ということだ。イデオロギーがつねに優先されている。そしてそんな時にはいつも、「見せつけの善意」の公演が繰り広げられる。

 同じようなことが、コロナ禍の時も見られた。突然政府高官たちが、至る所で顔にマスクを付け始めた。屋外にいる時や、自分一人しかいない時にも、役所でマスクをしている姿を動画で流し始めたのだ。次に流れてきたのは、その西側諸国の政府高官たちが、列をなすかのように、ワクチン接種を行っている姿の画像だ。これらの全ての画像のおかげで、コロナ対策措置の是非についての意味のある討論の機会は効果的に奪われ、世論を牛耳っている勢力はそのまま、コロナ対策言説の頂点の座に君臨し続けた。目を丸くして、このような状況を批判的に見る人々は、即座に敬遠される対象と目されて、「もっと社会的な責任を持ちなさい」と批判された。そして今、我々西側諸国の支配者層、ウクライナでの紛争に関わって選択した政策のせいで引き起こされた、このエネルギー危機の最中に、「節約せよ」という「見せつけの善意」の上演が興行中なのだ。


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 「私に何ができるだろう?と、みんなが聞いています」。マルグレーテ・ベステアー欧州議会副議長は、欧州諸国のロシアへのエネルギー依存を減らすために、欧州市民にどう手助けが出来るかについて問われて、こう述べている。「自分や自分の家族の10代の人たちのシャワーの時間を減らすことです。そして蛇口を閉めるときにこういうのです。“これでも喰らえ、プーチン“と」。しかしそれは4月の話だ。欧州のあちこちで、配給や、工業の停止や、企業の倒産や、家計のエネルギー代金の爆発的な値上がり、といった深刻な話は起きていなかった頃の話だ。今は、インフレを止めることに必死だ。そして、このインフレが起こった原因は、西側諸国の政府の危機対応が間違っていたからだ。コロナ禍の時もそうだったし、今のエネルギー危機でも同じだ。西側諸国の政府は、国連の貿易の専門家たちや、国際通貨基金など、皆から警告されている。それは西側諸国が、米国の連邦準備制度の指揮のもと、貸付利率を高くしているが、その政策により世界を、大恐慌とは言わないまでも、不景気に引きずり込もうとしている、という警告だ。そうして、超富裕層以外は皆が、借金の利率の支払いでにっちもさっちもいかなくなり、生活必需品も含めて、買えるものがどんどんなくなっていく状況になることが懸念されている。

 ドイツの各種発電所が閉鎖されて苦しんでいる状況の中でさえ、ロバート・ハーベック独経済・気候保護大臣は、自分がシャワーに掛ける時間を減らしたことを自慢していた。しかも二度も。 

 様々なEU加盟諸国ースペインや、フランスや、ギリシャや、イタリアーは、屋内の冷暖房使用に上限をかけているが、その目的は、ほんの数モルの天然ガスの使用を節約するためだ。 エネルギー危機関連の象徴的な全ての措置と同様に、これらの措置の一番の狙いは、市民たちをなだめすかして、ロシア/新型コロナ/炭素に対する何らかの生産的な対策を取らせることだ。いっぽう当局は、密かに市民たちをもっと深い奈落の底に突き落とすような動きを促進している。そうなっているのは、当局の行政運営が間違っていて、当局が無能で、考え方が狭くなってしまっていることに原因であるのに、今は全ての責任を、ロシアのウラジミール・プーチン大統領に押し付けているのだ。言うまでもないことだが。
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英国国会を取り囲むアサンジ支持者たち

<記事原文 寺島先生推薦>

Assange supporters surround UK Parliament

活動家たちは、ウィキリークス共同創始者アサンジの、差し迫った米国への引き渡しに反対して声をあげた。

出典:RT

2022年10月9日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月17日


ジュリアン・アサンジの支持者たちは「アサンジを解放しろ」のプラカードを掲げて抗議している。© Vuk Valcic / SOPA Images / LightRocket via Getty Images

 ウィキリークスの共同創設者であるジュリアン・アサンジの支持者たちは土曜日(10月8日)、ロンドンの英国議会の外に集まり、彼が米国への引き渡されることが目前に迫っていることに抗議した。米国に引き渡されれば、彼には、スパイ容疑で最大175年の実刑判決が待ち受けている。

 ソーシャルメディアの動画には、ジェレミー・コービン(Jeremy Corbyn)前英国労働党党首を含む数百人の人々が、国会周辺を取り囲み、近くのウェストミンスター橋を渡ってテムズ川の対岸にまで及ぶ人間の鎖を形成したことが投稿されている。

 デモ参加者は「アサンジを解放せよ、引き渡しはだめだ」「ジャーナリズムは犯罪ではない」「アサンジではなく、戦争犯罪を訴追せよ」と書かれた看板を掲げた。


 アサンジの妻であるステラ・アサンジ(Stella Assange)もデモに参加した。彼女は、英国政府は米国当局と連絡を取り合い、2019年に提出された身柄引き渡し要求に終止符を打つべきだと述べた。

 「すでに3年半も続いている。イギリスの汚点であり、バイデン政権の汚点でもある」と、彼女は強調した。


 現在、無所属議員となったコービンも、アサンジが引き渡されれば、真実を知ろうとする「他のジャーナリストの間に恐怖を植え付けることになる」とデモの輪に入って発言した。

 「そうなれば、世界中のジャーナリストが自己検閲を始める。ジュリアン・アサンジがどうなったかを見れば、『ちょっと待て、俺はそのことには触れないぞ』と言うだろう」とも述べた。

 ワシントンDCでも同様のデモが行われた。活動家たちは司法省の建物の前に集まり、アサンジが司法によって公平に扱われないとして、政府に身柄引き渡しの取り下げを求めた。

 アサンジは、性的暴行容疑(後に取り下げられた)で起訴されていたスウェーデンへの送還を回避するために、ロンドンのエクアドル大使館に亡命を求めた2012年以来、事実上の監禁状態にある。2019年、エクアドルはアサンジの亡命資格を取り消し、その後、彼は監視体制が最も厳重なベルマーシュ(Belmarsh)刑務所に移送され、それ以来、ここに拘留されている。

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 英国の裁判所は当初、アサンジが非人道的な扱いを受ける恐れがあるとして、米国への引き渡しを拒否していた。その後、ワシントンが、アサンジの権利は尊重されると英国の裁判官を説得することに成功し、その結果、英国は6月中旬に引き渡しを許可した。その後、報道によると、アサンジ氏の弁護団は、この決定を不服として2度にわたって控訴している。

 アサンジは、2010年にウィキリークスがイラクとアフガニスタンでの米軍によって犯されたと思われる戦争犯罪の数々を描いた機密文書を公開したときから、米国の標的になっている。それ以来、彼は国防総省のコンピュータをハッキングした陰謀で告発され、機密資料の公開に関する米国のスパイ活動法により起訴されている。

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コービンを失脚に追い込んだ、2度目のブレグジット国民投票を呼びかけた謎の新党リニュー党の正体とは

<記事原文  寺島先生推薦>

How an obscure intelligence-linked party fixed a second Brexit referendum and torpedoed Corbyn

(諜報機関と繋がる謎の新党が2度目のブレグジット国民投票を仕掛け、コービンを失脚に追い込んだ。)

筆者:キット・クラレンバーグ(Kit Klarenberg)

出典:グレー・ゾーン(the GRAYZONE)

2022年9月24日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月16日


コービン人気が最高潮だった2018年2月19日に創設されたリニュー(Renew)党

親EU派のリニュー党は、「コービン人気」が最高潮だったときに、どこからともなく現れ、2度目のブレグジット国民投票の開催を主張し、労働党党首だったコービンの失脚に繋げる役割を果たした。リニュー党の創設者たちの裏に諜報機関の関与があったことは、ずっと隠されていた。 今に至るまで。
 
 覚えている人はほとんどいない英国のリニュー党が、2018年の2月にウェストミンスターのど真ん中で正式に創設されたとき、創設者たちが広げた大風呂敷には中身がほとんどなかった。この新党の若く、またほとんど世間からは知られていなかった創設者のひとりクリス・コグランは、大胆な親EU路線を掲げ、その焦点を2度目のブレグジット国民投票の実施に置いていた。

 ジェレミー・コービン党首の指揮のもと、労働党が市民からの支持を急増させていた最中に創設されたこのリニュー党が選挙戦に参画した時期は、英国支配層が、真の左翼にダウニング街10番地の首相官邸に乗り込まれることを恐れていた時期と重なる。この党の創設当初は、マスコミからの反応は冷たく、サンデー・タイムズ紙はこの党を、「不発の爆竹」と報じていた。しかし最終的にこのリニュー党はコービンの失脚に決定的な役割を果たした。これはこれまで誰も気づかなかったことだが。

 2017年の総選挙期間中、コービンは英国の欧州連合からの離脱を進めるという選挙公約を掲げて、大きな支持を得ていた。しかし2019年になると、労働党の綱領において無視することができない重要な構成員が、英国がEUに加盟する是非を問う2回目の国民投票を要求した。そしてこれがコービンと、彼が率いる労働党の歴史的敗北に繋がった。

 コービン人気の暗転は、多数の有権者の意志や、労働党を支持していた多数の労働者階級の思いとは食い違っていた。2019年12月、英国民は大袈裟にブレグジット派であると公言していた元ロンドン市長のボリス・ジョンソンを選び、一方で、労働党は1935年以来最悪の選挙結果を迎えたことも同様な不一致と言えるだろう。コービンはその翌日に、党首の座を降りた。

 コービンが2019年の総選挙期に、ブレグジット国民投票のやり直しをすることを支持したことは、善意と取られていたが、同時に政治的にみれば危険で、読み違えた一手だとも見られていた。しかし、2度目の国民投票をしようというこの運動がどこから始まったのかをよく見てみれば、もっとずっと狡猾な手口が使われていたことがわかる。

 実際、2度目の国民投票を求める声は、草の根の市民からのものではなく、この怪しげな新党のリニュー党から始まったものだった。本記事で後述する通り、リニュー党は英国の軍や諜報機関と深く強いつながりのある工作員によって設立されていた。しかもそこには長年にわたって軍の心理戦に携わってきた専門家たちが含まれていた。

 リニュー党の創設者たちと、コービンに対する悪意ある運動の裏にあるものを見れば、退陣したこの労働党党首の主張を立証しているように思える。彼は英国の諜報機関が自分の持っていた大望を「意図的に弱体化させた」と語っている。


「コービン大人気」期の最中に親EU政党が出現
 
 2015年9月にコービンが党首に選ばれるやいなや、多数の労働党国会議員、党の長老たち、記者や評論家たちは、コービンを「選ばれるべきでない」、受け入れ難いほど「過激」という烙印を押していた。この労働党の支配者層はさらに不意打ちを食らうことになる。英国民が2016年6月の国民投票でブレグジットを支持したときだった。そしてこの支持はその翌年の総選挙で波乱の舞台を準備することとなった。

 その総選挙の結果は、異常としか言いようがなかった。選挙運動開始時には25%の支持しかなかったのに、最終的にコービンは投票者の4割の支持を獲得し、勝利まであと2227票、というところまで躍進した。国政選挙での労働党の得票率は前回10%も上回り、このコービンの活躍により、テレサ・メイの保守党政権は致命的な打撃を受け、ブレグジットについての議論を再開せざるを得なくなった。しかも今回は力を失った過半数割れの政権担当者として。

 この支持率の増大は、1945年の歴史的な地滑り的勝利以来の総選挙における労働党の最高の躍進を示していたが、その要因は、少なくとも一部分ではあったが、コービンがブレグジット派の綱領を受け入れたことだった。

コービンは惜しくもダウニング街10番地の首相官邸に乗り込むことはできなかったが、コービンのこの驚くべき躍進に対して、彼を中傷していた英国の貴族階級やメディアは、コービンの存在を深刻な脅威であると見始めた。真の意味の進歩的な首相が生まれる可能性に直面したこれらの勢力は、強力かつ緊密に連携した取り組みによってコービンの選挙戦の見通しを覆そうとした。

 2017年の総選挙が終わった数ヶ月後は、大手メディアでさえ、「コービン大人気期」と報じる時期であった。テレサ・メイと彼女の政権下の諸大臣は、英国のEU離脱について、ブリュッセルのEU当局との骨の折れる交渉の過程に取り組んでいた。いっぽうコービンは、英国の野党党首として自身の立ち位置を見出したように映っていた。

 その年の夏は、コービンが行くところはどこでも、興奮した巨大な群衆が、コービンを出迎えた。コービンの人気は絶頂で、 総選挙直後、英国ヒルトンでのイベントのグラストンベリー・フェスティバルで挨拶を行った際、ガーディアン紙は、コービンが「この週末で一番観客を引きつけた」と報じた。

「コービン人気は留まるところを知らない」と同紙は書いていた。支配層が英国内で広がる予期できない崩壊状態と格闘する中、リニュー党は静かに、英国の選挙管理委員会に党の登録を済ませていた。

 リニュー党の党首が次の2月から英国の国政に参入するという発表をしたとき、その発表の場に馳せ参じた草の根の民衆の姿は見られなかった。「経験不足のせいですかね」とリニュー党の共同創設者のひとりであるクリス・コグランは恥じらいながら説明した。「この記者会見はマスコミの皆さんのためだけのものですので、我が党の支持者で部屋をいっぱいにすることは考えつきませんでした。今にして思えば、そうしておけば良かったのかもしれません。」


リニュー党の共同創設者のひとりクリス・コグラン

 
軍・諜報機関の怪しげな世界から「新しいマクロン」が登場
 

ではクリス・コグランとはいったい何者なのだろうか? さらに政治には素人に見えるこの人物はどこから現れたのだろうか?

 コグランは2017年の総選挙で、国政を目指し「無所属」として選挙運動を展開したが、有名人にはなりそびれた。コグランが出馬したのは、労働党が重要な選挙区として必勝を期していたバタシー選挙区だった。その一年後、コグランはジェームス・クラーク、ジェームス・トーランス、サンドラ・カドゥーリとともにリニュー党を立ち上げた。コグラン同様、クラークやトーランスもそれぞれ2017年の総選挙で国会議員に立候補していたが敗れていた。彼らも労働党が非常に重点を置いていた選挙区から出馬していた。バーモンドジー、オールド・サウスウォーク、ケンジントンだ。これらの地域は、EU残留派がとても強い選挙区だった。

 コグランや彼の同志たちによると、リニュー党は第三勢力を目指すために創設されたもので、「自己満足している英国政界の中枢に挑戦」し、「無党派層」の有権者の代表となることを目指す、とのことだった。 自らを、労働党でも保守党でもない「反体制派の」残留派と称し、リニュー党は党是の中心をEUへの残留の促進におき、2度目の国民投票の実施を掲げていた。

 創設当初から、この4名の創設者たちの政治戦略の方向性は、全く奇妙とまではいかないものの、間違っているようにみえた。リニュー党立ち上げの僅か数ヶ月前、強硬な親EU派の自由民主党は有権者の心を大規模な形で揺らすことに失敗し、英国の二大政党が有権者の82.4%の支持を集めた。この両党は、 ブレグジットを支持していたのだが、この82.4%という数字は、1970年以来最大のものだった。

 コグランとカドゥーリの話に戻るが、この2人は 「反体制派の潮流」を作り、導くには不思議な人物と思われた。

 地方メディアは、コグランについて、億万長者の銀行マンから転身して不人気のフランス大統領となった男を引き合いに出して「新マクロン」になる可能性があると評したが、彼は英国の保安機関と諜報機関の中枢から大歓迎を受けた。実際のところ、彼が英国外務連邦省テロ対策部の重役を辞したのは、2017年5月の国政選挙に無所属で立候補したほんの1週間前のことだった。

 当時36歳だったコグランは、選挙結果の如何に関わらず党首の座を維持するというコービンの誓約を受けて労働党から離党したと発表した。そして自身が国政に挑戦したのは、政治的中道派を組織するためだと呼びかけた。彼はさらに、労働党は「左派によるおとぎ話のような政策」を掲げていると強く非難し、自分が持っているものなら「何でも使って」、ブレグジット派と戦うと誓った。

 匿名を条件に、当グレー・ゾーンの取材に応じてくれた英国外務連邦省の職員の一人によると、このような国家機密に関わる役職にいる人物がそんな行動に出ることは、ほぼあり得ないことだった、という。高度な対テロ対策に従事していた経歴がある人物が、気まぐれで急に仕事を変えることなどありえない、というのだ。英国の公務員は、民間企業で務めることや、特定の党派に偏った政治活動をすることは禁止されており、自分の役職を辞した後も、しばらく冷却期間をおいてから、私人としてそのような行動を取ることが義務づけられている。

 その職員によると、コグランが即座に政界入りするには、かなり前から直属の上司の許可をもらうことが必要であっただろう、とのことだ。前例が全くなかったとは言えないまでも、どんな事情にせよ、コグランのこの転職のことは非常に異例である、とこの職員は考えている。

 コグランのリンクトイン(LinkedIn)の自己紹介欄には、対テロに取り組んでいたという記載は全くない。そのかわり、コグランは、2015年から2017年まで英国外務連邦省で「外交官」を務めていた、と記述している。英国の国家安全機関に批判的な人々の代表格である社会学者のディビッド・ミラーは、当グレー・ゾーンにこう説明している。「このようにコグランの出自がぼやかされていることは、その裏で陰の組織がうごめいている証なのかもしれない」と。

 対テロ対策はMI6が3つの「重点分野」として掲げているうちの一つだが、「英国外務連邦省」においてはそうではないとミラーは語っている。「対テロ対策に携わっている人々についての情報は、秘密扱いで、その人々は表向きは、「外交官」であると自称して潜入捜査を行い、機密を守るために勤務場所についての詳細は正確に示さないのが普通です。コグランの幅広い経歴や彼が従事していたことについての詳しい情報が欠如していることから考えれば、コグランが「外交官」をしていたとされる時期に、実際には英国の外国向けの諜報機関に関わる仕事をしていたとしても、驚くことではありません」。

 「外交官」としての仕事とは別に、コグランには長期にわたり英軍の予備兵を務めていた過去がある。コグランは、「生来の決意作戦」のもと、イラクでの従軍に動員された。この作戦は、米国が主導するISISに対する軍事干渉で、つい最近の2020年4月までつづいていたものだ。

 コグランがもつ職業履歴からは、英国の機密諜報機関とのつながりがさらにあきらかになる。コグランの以前のリンクトインには、ジェームス・ブレア-という人物から「いいね」をもらっていたが、この人物は、悪名高い英軍の第77旅団の一人だ。この77旅団は、戦争における心理戦に関わってきた旅団である。またコグランが主張していた「危機管理」能力について「いいね」を押したもう一人の人物に、第77旅団の予備兵のひとりがいた。



 コグランとともにリニュー党の創設者となったサンドラ・カドゥーリのリンクトインの自己紹介欄にも、同じような謎が見える。その記述には、カドゥーリが英国で政治活動を始めたのは、ジョージアでのNATOの任務に対して「戦略的な意思伝達方法」に関する助言者の仕事を辞した直後だ、とある。さらに、ジョージア滞在中に、カドゥーリは情報戦の技術に関して、ジョージア政府当局に「助言を与え、訓練の援助を行い」、「特に重きを置いていたのは安全に関する問題や、偽情報対策について」だった、とある。
 
 さらにカドゥーリが自慢していたのは、2010年10月から11月の間に「NATOの連合緊急対応軍団による大規模な演習に、文官助言者として参加した」という経歴だった。さらに、英国のエリート学校である英国防衛アカデミーと常設統合司令部で、「軍事演習のモジュール(一連の授業)のいくつか」にも参加した、とある。



 このような演習への参加は、カドゥーリが英国政府の陰の関連機関である「安定化協会(Stabilisation Unit)」で11年間勤務した後のことだった。この協会は、シリアやリビア、さらに多くの国々での政権転覆工作に関わってきた団体だ。この協会に勤めていた時期に、カドゥーリは、「短期でも長期でも、何度も海外に赴く準備ができていた」と記載されていた。

 興味深いことに、このようなカドゥーリの過去は、メディア報道が新しく立ち上げられたリニュー党で、彼女の果たした役割を報じた時には、取り上げられなかった。カドゥーリは常に、「元国連職員」とされていた。さらにもっとおかしなことは、現在カドゥーリのオンライン上の自身の履歴欄にリニュー党に関する記載が全くないのだ。リニュー党の創設に手を貸したことも、指導者として活動していたことも、もちろん書かれていない。

 カドゥーリの略歴の2017年10月から2020年3月までのことについては、ただ以下のように記載されている。「親EU派の政党とその選挙運動組織に対して、ある程度の戦略的助言やメディアを使った支援を行った」と。つまりその時期に、カドゥーリが実際行っていたことは、顧客である団体の広報について助言をすることであって、リニュー党はその団体のひとつに過ぎなかったということだ。

 
リニュー党は、「残留派のためのより激しい武装組織」
 

 2018年2月に、リニュー党の事務所が開設されたとき、共同創設者のひとりのジェームス・クラークはこの党のことを、EU残留派の運動における「より激しい武装組織」だと語っていたが、このような表現は、この党がもつ本質について、つい口をすべらせたものだろう。というのも、コグランやカドゥーリがこの発言を承認したという記録が残っていないからだ。

 創設記念式典ののち、リニュー党は英国で全国規模の遊説活動を激しく展開し、市や町を何十箇所も訪問し、学童たちに挨拶をし、 大小の催しを開催して、同党の新たな候補者を発掘し、2度目のブレグジット国民投票に対する人々の支持を高めようとしていた。

 リニュー党によるこれらの取り組みの模様は、前例のないほどの規模でマスコミから取り上げられ、ある欧州メディアは、コグランとフランスのマクロンを比較する記事を出し、この党を持ちあげた。また一方でカドゥーリは、 BBC
スカイ放送などのメディアから逆光を浴びていて、親ブレグジット派ナイジェル・ファラージの番組であるLBCショーにまで出演していた。

 創設すぐの英国の政党が、国内外でこれほど瞬時にかつ熱を持って報じられることは、かなり異例のことだった。しかも、その党の代表者たちが実績のある政治家ではなく、いわんや公人でもなかったことを考えれば、なおのことだ。

 どのメディアに登場する時でも、リニュー党創設者たちは、リニュー党は2度目のブレグジット国民投票を求める人々からの幅広い声の高まりをうけて創設された党であることを強調していた。しかしこの党の創設者たちは、自分たちが掲げているこの方針が人々に訴える影響力には限界があることを、しばしば実感させられていた。

 例えば、この党がウェールズを訪問したことを伝えた地方メディアの報道によれば、リニュー党の選挙対策部長のジェームス・トーランスはこう述べていたという。「ほとんどの人々にとって、ブレグジットは自分たちの生活における最重要課題ではなく」、医療や住宅供給や仕事や社会福祉のほうが、市民たちにとってのより大きな課題である、と。

 中道派のアトランティック・マガジン誌も、2018年2月に、リニュー党の実行可能性に疑問を投げかける記事を出し、英国の政治においての喫緊の課題はブレグジットが実現するかどうかではなくて、それをどのような形で実現するかの議論の方が大事である、と主張した。アトランティック誌は、リニュー党が、EUに残留することだけに政策の焦点を起き続けるのであれば、この先の総選挙を突破できる見込みはない、とも評していた。

 英国の支配者層の防衛に関する政策研究所のチャットハム・ハウス所属の一人の研究者がアトランティック誌に語った内容によると、ブレグジットの国民投票の結果を覆そうという努力をすれば、「我が国の政治体制に対する信頼を損なうことになるのは間違いないだろう。離脱派の有権者にとっては特にそうだろう」とのことだった。この研究者が代案として主張したのは、「妥協案」的な政策であり、 「民主主義的な手続きに則って行われた国民投票の結果」を尊重し、ブレグジットに対する様々な声も大事にしながら、ブリュッセル当局と交渉を重ねるべきだ、ということだった。

 コービンが、2019年4月にメイ政権と超党派の会談を持ったのは、まさにこの手法だったのだ。しかしこの会談は、残留派からは「裏切り行為だ」とされてしまった。

 その前年の英国地方選が近づいていた頃、コグランはタイムズ・オブ・ロンドン紙に爆弾のような論説記事を載せた。その内容によると、コグランが英国外務連邦省を辞したのは、「我が国の政治家たちが政府に対して機を捉えて、コービンやブレグジット強硬派と闘おうとしないことに落胆したから」だとのことだった。さらにコグランは、「自爆テロから我が国の国民を守ることに誇りを持っていた」が、英国外務連邦省を辞した、と語っていた。

 コグランによると、この先の選挙に向けてリニュー党を立ち上げた目的は、「コービンに、労働党に投票する有権者の圧倒的多数の人々の声に耳を傾けさせ、2度目の国民投票実施に踏み切らせ」、「誰も取り残すことのないIT革命」を導入させることだ、としていた。その政策を具体的にどう進めるかの手順は示さなかったが、コグランの主張によれば、そのような「革命」が、英国の家屋供給危機を解決し、気候変動を止め、ひどい貧困状況を食い止め、ガン治療にもつながる、としていた。

 リニュー党の創設者であるコグランは、自身の壮大な構想に具体性がないことを補うために、自分や仲間たちは、「すでに候補者は十分いるので、次の国政総選挙では、すべての選挙区で候補者を擁立できる(原文ママ)」などという勇ましい大言壮語をふりまいていた。

 
リニュー党は反コービン派の軍・諜報機関と同様の呼びかけを行っていた
 

 コグランが自信満々に大衆に訴えかけていた言葉とはうらはらに、リニュー党が地方選で擁立したのはたった16人の候補者だった。だが、結局一人も当選することができず、結果も惨憺(さんたん)たるものだった。その3週間後、コグランは電撃的に離党したが、その事情の詳細は不明だった。

 その後コグランはブルドッグ・トラストという組織に加わった。この組織は、表向きは慈善団体に金銭援助や助言を行う組織だ。この組織は、ロンドンに拠点をおく「トゥー・テンプル・プレイス(Two Temple Place)」という歴史ある団体の外郭団体である。そして、このトゥー・テンプル・プレイスの事務所がある建物には、英国政府やNATOが資金を出している「国政術研究所( the Institute for Statecraft)」という名で知られている悪名高い政策研究所の秘密本部が置かれている。
 
 当時、国政術研究所は、「インテグリティー・イニシアティブ」という組織の隠れ蓑的役割を果たしていた。このメディアはメディア調査研究計画という仮面をかぶった闇の喧伝(けんでん)拡散組織であり、軍や諜報機関の専門家たちによる運営されていた。このメディアは、国家の醜聞に巻き込まれたことがある。それは2018年下旬のことで、その内部文書がオンライン上で漏洩したのだ。そしてその文書からわかったことは、コービンが、クレムリンにとっての「使い勝手のいい愚者であり」、国費支出の規則を目に余る形で破棄しようとしている、と記載されていた事実だった。

 これらの文書から明らかになったのは、リニュー党の公式発表と全く同時期に、国政術研究所は、オックスフォード・ブルックリング大学近現代史学部のグレン・オー・ハラ教授を招き、トゥー・テンプル・プレイス所属の人々に詳細なプレゼンを行っていたことだった。その題名は「コルビナイツ(コルビン支持者の蔑称)とは何者か? そして彼らの考えは?」だった。

 以下はそのプレゼン時に使用されたスライドからの1枚だ。このスライドの全編はこちら。


 
 オー・ハラ教授が国政術研究所に呼ばれ、この研究所がコルビン対策で頭がいっぱいだったことは、注目に値する。というのもこの組織は、先述の陸軍宣伝組織である第77旅団の創設に秘密裏に一役かっていたからだ。この旅団はコグランが仕事上最も熱心に関係を築いていた人々が誇りをもって働いていた組織であった。
 


 ほかの漏洩文書には、このインテグリティー・イニシアティブという組織は、自分たちの取り組みを自慢して、「(国防)軍が、あらゆる種類の武器を使った近代戦争で戦える能力を得る援助」を行っている、と書いてある。また、この組織自身の記録によれば、インテグリティー・イニシアティブが英国軍に援助した内容には、「特別軍事予備隊(第77旅団や軍事情報専門団(Specialist Group Military Intelligence)など)」の創設などが含まれており、この両者とは今も密接で非公式なつながりを持っている(強調は筆者による)」という。
 
 このインテグリティー・イニシアティブのさらなる説明によれば、これらの情報戦部隊が採用しているのは、「軍が決して採用できないような人々であるが、愛国者として自分の時間と専門性を提供してくれる人々」だという。オックスフォード・ブルックリン大学のいくつかの学術機関が、軍事情報専門団を支援している機関として記載されていることから考えると、オー・ハラが行ったプレゼンは、英国軍が「すべての種類の武器を使った近代戦争の戦い方」を教授されている一つの例だったと言える。

 コービンが労働党党首として選挙を行った後に英国の軍支配者から狙いをつけられたのは明々白々である。2016年の軍第72諜報部隊の隊員に対して行われたプレゼン資料が漏洩しているのだが、このプレゼンでは、労働党党首の「視点」を分析するのに、まるまる一節を費やしていた。そこには、コービンがNATOやイラクやアフガニスタンやシリアでの戦争に反対していることも含まれていた。

 付随スライド(下図)には、コービンの躍進が、「軍に焦点が当たることの減少」につながり、コービンは、「軍事干渉や防衛支出に反対している」とも記載されていた。


 
 漏洩したプレゼン資料で取り上げられていた他の唯一の議題は、シリアでの戦争と、EUで起こっていた難民危機についてであった。明らかに英国軍の高級将校層は、コービンがもつ左翼的な視点を、軍事衝突や人災と同等の脅威である、と考えていたようだ。そして、この考え方は軽視できるものではない。第72諜報部隊の公式の記録によれば、このプレゼンの目的は「すべての階級の司令官たちに諜報活動の成果と、予見できる諜報分析力を提供した上で、決定をおこなえるようにすること」だったということだ。

 そのようにして第72諜報部隊が委託されたのは、「様々な情報源から集められた情報」を使って「敵の姿を作成すること(強調は筆者による):例えば、敵の居場所、重要人物、戦術」、また「敵が起こしそうな行為を見極め、次に起こりそうなことを予測する」こと、さらには軍や国防省の「資産」を「以前から存在する脅威や、以前には存在しなかった脅威」から護衛することだった。コービンも、そのような「脅威」の一つであると考えられていたようだ。

 コグランのもつ背景や人脈を考えれば、このプレゼンの内容を内々に知っていた可能性がある。そうなると、以下のような明白な疑問が浮かぶ。それは、「リニュー党は、純粋な政治的な取り組みから生まれたものなのか? それとも、軍や諜報機関が、コービンや、コービンを代表とする進歩的な動きへの対策として行った工作なのか」という疑問だ。


使命を果たしたのち、リニュー党はより大きな残留派の動きに合流
 

 2018年の悲惨な選挙結果と、コグランの離党にも負けず、リニュー党に残存した支持者たちは、全国規模の遊説を数ヶ月継続した。しかしその後の2019年2月、 保守党と労働党の国会議員の中の不満分子が親EU派である「チェンジ英国党」を創設したさい、リニュー党は先に控えていた欧州議会選挙への候補者を取り下げた。この対応に対して、チェンジ英国党は、リニュー党が元来持っている親ブリュッセル政策を思い起こさせる「価値も意味もある努力だ」と歓迎した。

 リニュー党が親残留派を一つにまとめようと努力したにもかかわらず、チェンジ英国党は、たった3.3%の得票率しか手にできず、まもなく党員6人が離党し、この党も解散に追い込まれた。

 この結果はさけられないものだった。チェンジ英国党が創設された同月、研究者のリチャード・ジョンソンは詳しい分析を出版したが、それによると、「離脱のほうに投票した保守党の端に位置する支持者たち」を取り込めるかどうかが、2019年の総選挙で労働党が勝利するかの基盤になるだろう、との分析だった。

 労働党が国会で過半数を確保するために必要だった64議席のうち、45議席はイングランドとウェールズの選挙区だったが、すべて保守党に奪われてしまった。その有権者の78%がブレグジット(離脱)派だった。

「国民投票実施後の英国政界の最も衝撃的な事実は、離脱派も残留派も、もとの考えをかたくなに保持していることだ」とジョンソンは警告していた。「それぞれが、EU離脱に関する国民投票で出した選択は、その後もずっと安定している」

 党の政策に対する市民からの支持が不足していたことを考えると、リニュー党創設の裏に隠れたハッキリとした目論見は、新党を打ち立てることにより、正当な草の根運動という姿を借りて、2度目の国民投票を求めることだった、と言える。この党の創設が必要だったのは、親残留派であった自由民主党が保守党と5年間連立を組んだことで劣化していたことを受けてのことだった。

 リニュー党がチェンジ英国党の露払いの役目を果たしたことも、否定できない成果だった。コグランが2019年のニュー・ステイツマン誌の論説に書いていた通り、リニュー党が創設されたのは、力を得るためだけではなく、「穏健派の国会議員が分裂して、新しい中道政党になってブレグジットに反対し」、ひいては「チェンジ英国党を促進させる」という目的もあった。

 奇妙なことに、コービンも、コービンの顧問も2度目の国民投票を推進している勢力が、本当にブリュッセルのEU官僚たちのことを崇拝してそんな動きをみせているのかどうかを考えずに、労働党の選挙での見通しを台無しにする決定を下してしまったのだ。

 コービンが2度目の国民投票を求める声を受け入れたことは、近年の英国の政界史における最も間違った政治的手法だったといっていい。保守党政権がブレグジットに向けた交渉をする過程において沈没しそうになっていた中、もっと支持を集められる政策を提案することもできたのに、労働党が選んだ道は、 新生の非主流派の政治運動と手を結ぶことだった。そしてその政治運動の出処は、英国の有権者たちが排除しようとしてきたまさに支配者層だったのだ。

 しかも労働党は、コービンの台頭を存亡の危機と捉えていた諜報機関から、静かではあるが、協調的に唆されて、わざとこの政治的な自殺行為に及んだ可能性も否定できない。
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予備役部分動員を開始するにあたって行われたプーチン大統領の演説

<記事原文 寺島先生推薦>

Address by the President of the Russian Federation as the Nation Moves to Partial Mobilization

出典:INTERNATIONALIST 360°

2022年9月21日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月15日



 ウラジミール・プーチンロシア大統領:友人のみなさん、

 今回、私がお話するのは、ドンバスの情勢と、2014年にウクライナで武装国家クーデターにより政権を掌握したネオナチ政権から解放するための特別軍事作戦の経過です。

 本日、私は、わが国のすべての国民、さまざまな世代、年齢、民族の人々、偉大なる祖国の人々、偉大なる歴史的ロシアに結ばれたすべての人々、前線で戦い、戦闘義務を果たしている兵士、将校、ボランティア、ドネツクおよびルガンスク人民共和国、ヘルソンおよびザポリージャ地方、その他ネオナチ政権から解放された地域の兄弟姉妹に語りかけるものです。

 今回の問題は、ロシアの主権、安全保障、そして領土保全を守り、将来を自主的に選択しようとする同胞の願いと意志を支援するための必要かつ不可欠な措置に関係します。また、一部の西側エリートたちは、なりふり構わず、その支配を維持しようとやっきになっています。こういった目的を視野に置きながら、主権を有し自立した発展の中心地を封鎖・抑圧しようとしているのです。他の国々や国民に対して、自分たちの意志やペテン的価値観を押し付け続けることが目的です。今回の問題はそういうことにも関係します。

 西側諸国の目的は、わが国を弱体化させ、分裂させ、最終的には破壊することです。彼らは今、1991年にソビエト連邦を分裂させることに成功し、今こそロシアに同じことをする時だと公言しています。ロシアは、互いに殺し合う多数の地域に分割されなければならない、というのです。

 彼らはずいぶん前からこの計画を練っていました。彼らはコーカサス地方の国際テロリスト集団を駆り立て、NATOの攻撃用インフラをわが国の国境近くに移動させました。彼らは無差別的なロシア恐怖症を武器として使い、主に反ロシアの橋頭堡となるよう計画されたウクライナで、数十年にわたってロシアへの憎悪感を育て上げてきました。彼らはウクライナの人々を大砲の餌にし、ロシアとの戦争に追い込みました。2014年のことです。彼らは民間人に対して軍隊を使い、国家クーデターの結果として、ウクライナに誕生した政府を承認しない人々に対して、大量虐殺、封鎖、テロを組織しました。

 そして、いまのキエフ政権が実際、ドンバスの問題の平和的な解決を公式に拒否し、さらに核兵器を所有したいことを公言したあと、すでに過去2度起こったとおり、ドンバスへのさらなる大規模攻撃が避けられないことはじつに明白となりました。そうなれば、ロシアのクリミア、すなわちロシアに対する攻撃へと続くことも避けられなかったでしょう。

 この関連で、先制的な軍事作戦を開始するという決定は必要であり、唯一の選択肢でした。ドンバス全域の解放というこの作戦の主目的は、変わっていません。

 ルガンスク人民共和国は、ネオナチからほぼ完全に解放されました。ドネツク人民共和国での戦闘は続いています。これまでの8年間で、キエフ占領政権は、深く階層化された恒久的な防衛線を構築しました。そのため、もし彼らに正面攻撃をしかければ、多大な損害を被っていたでしょう。それがロシアの部隊とドンバス共和国の軍隊が、実効性があがるよう組織的に行動した理由なのです。軍事装備品を使用し、人命を大事にしながら、一歩一歩進みました。ドンバスを解放し、都市や町々からネオナチを追い出し、キエフ政権が人質や人間の盾にしていた人々を助けることが目的でした。

 ご存じのように、特別軍事作戦には、契約によるプロの軍人が参加しています。彼らと肩を並べて戦うのは、民族も職業も年齢も異なる、真の愛国者である志願兵部隊です。彼らは、ロシアとドンバスを守るために立ち上がるという心の呼びかけに応えたのです。

 この関連で、私はすでに政府と国防省に対し、ドネツクおよびルガンスク人民共和国軍隊の志願兵および兵員の法的地位を決定するよう指示を出しています。ロシア軍の職業軍人の地位と、物質的、医療的、社会的恩恵も含め、差があってはなりません。志願兵やドンバス民兵のための軍事装備やその他の装備を組織的に供給することに特別な注意を払わなければなりません。

 国防省と参謀本部の計画と決定に従い、ドンバス防衛の主目標を達成するために行動しながら、わが軍はヘルソンとザポリージャ地方のかなりの地域と他の多くの地域を解放しました。これにより、長さ1,000キロメートル以上にも渡る接触線が形成されました。

 次のことは、今日初めて申し上げることになります。特別軍事作戦の開始後、特にイスタンブール会談の後、キエフの代表は私たちの提案に対してかなり積極的な反応を示しました。私たちの提案は、何よりもロシアの安全と利益を確保することに関わるものでした。しかし、平和的解決は明らかに西側の意にそぐわないものでした。だからこそ、一定の妥協が調整された後、キエフは、実際のところ、これらの合意事項をすべて破棄するよう命じられることになったのです。

 ウクライナにはさらに多くの武器が投入されました。キエフ政権は、外国人傭兵と民族主義者の新しいグループを登場させました。彼らはNATOの基準に従って訓練され、西側顧問団から命令を受ける軍隊です。

 同時に、2014年の武装クーデター直後に確立された、自国民に対するウクライナ全土の報復体制は、過酷な形で強化されました。威嚇、テロ、暴力の政策は、ますます大規模でおぞましい野蛮な形態をとっています。

 私は次のことを強調したい。ネオナチから解放された地域は、主にノヴォロシヤの歴史的土地でした。そこに住む大多数の人々が、ネオナチ政権のくびきの下で暮らすことを望んでいないことを、私たちは知っています。ザポリージャ、ヘルソン、ルガンスク、ドネツクの人々は、ハリコフ地方の占領地域でネオナチが行った残虐行為を見たし、現在も見ています。バンデラ派の子孫やナチスの懲罰遠征隊員たちは、人々を殺害し、拷問し、投獄しています。彼らは、平和な市民に対して、報復、殴打、そして暴虐の限りを尽くしているのです。

 敵対行為が起こる前のドネツク、ルガンスク人民共和国、そしてザポリージャ、ヘルソン地域には750万人以上の人々が住んでいました。その多くが難民となり、故郷を離れることを余儀なくされたのです。約500万人に及ぶ残った人たちは、ネオナチ過激派による砲撃やミサイル攻撃にさらされています。彼らは病院や学校に発砲し、平和な市民に対するテロ攻撃を常態化させています。

 私たちは、身内同然の人々が虐殺者たちに切り裂かれるのを見過ごすことはできないし、自分たちの運命を自分たちで決めようとする彼らの真摯な努力に応えなければならないのです。

 ドンバス人民共和国の議会とヘルソン州とザポリージャ州の軍民行政機関は、自国の領土の将来について住民投票を実施する決定を採択し、ロシアにこれを支持するよう訴えました。

 人々が意思を表明できるよう、これらの住民投票のための安全な条件を整えるために必要なことはすべて行うということを強調したいと思います。そして、ドネツク、ルガンスク両人民共和国、そしてザポリージエ、ヘルソン両地域の大多数の人々が選択した未来を支持します。

友人のみなさん、

 今日、わが国の軍隊は、私が述べたように、1,000キロメートル以上にわたる接触線で戦っており、ネオナチ部隊だけでなく、実際には西側集団の軍事機構全体と戦っています。

 このような状況において、私たちが直面している脅威に対して十分に適切な以下の決定を下すことが必要であると私は考えます。より正確には、祖国とその主権および領土保全を守り、ロシア国民と、解放された地域の国民の安全を確保するために、ロシア連邦における部分的動員に関する国防省と参謀本部の提案を支持する必要があると考えます。

 これまで述べてきたように、ここでのお話は予備役部分動員についてです。つまり、主に軍隊に所属し、特定の軍事的職業的専門性とそれに対応する経験を持つ予備兵のみが召集されます。

 現役任務に召集された人は、部隊に送られる前に、特別軍事作戦の経験に基づく、必須の追加軍事訓練を受けることになります。

 私はすでに予備役部分動員に関する大統領令に署名しています。

 法律に基づき、連邦議会の上院と下院には、本日、このことが正式に文書で通知される予定です。

 予備役部分動員は本日9月21日より開始します。私は各地域の首長に対し、徴兵所の業務に必要な援助を行うよう指示してあります。

 動員令に従って招集されたロシア国民は、契約に基づいて勤務する軍人の地位、支払い、すべての社会的給付を受けることになることを申し添えます。

 さらに、予備役部分動員に関する大統領令は、国家防衛命令履行のための追加措置も規定しています。防衛産業企業の責任者は、武器と軍事装備の増産目標を達成し、この目的のために追加の生産設備を使用することに直接責任を負うことになります。同時に、政府は防衛企業に対する物質的、資源的、財政的支援のあらゆる側面に遅滞なく対処しなければなりません。

友人のみなさん、

 西側諸国の攻撃的な反ロシア政策は度を超えて、わが国と国民に対して際限のない脅威を与えています。一部の無責任な西側政治家が、長距離攻撃兵器のウクライナへの輸送を組織化する計画について言っているのは口先だけではありません。それ以上のことを行っています。この兵器はクリミアやその他のロシア地域への攻撃に使用できるものです。

 西側兵器の使用を含むこのようなテロ攻撃は、ベルゴロドやクルスク地方の国境地帯で行われています。NATOは、ロシアの南部地域をリアルタイムで、最新のシステム、航空機、船舶、衛星、戦略的ドローンを使って偵察しています。

 ワシントン、ロンドン、そしてブリュッセルは、敵対行為を我々の領土に移すよう、公然とキエフにけしかけています。彼らは公然と、ロシアはいかなる手段を使っても戦場で敗北させ、その後、政治的、経済的、文化的、その他あらゆる主権を奪い去り、略奪しなければならないと言っているのです。

 彼らは核の脅しにさえ手を染めています。私が言っているのは、核災害の脅威をもたらすザポリージャ原子力発電所に対する西側の奨励する砲撃だけではありません。ロシアに対する大量破壊兵器、つまり核兵器の使用の可能性とその容認に関するNATO主要国の一部の高官の発言についても問題にしています。

 ロシアについてこのような発言をする人たちには、わが国にもさまざまな種類の兵器があり、その中にはNATO諸国が持つ兵器よりも最新のものがあることを思い出してもらいたい。わが国の領土保全に対する脅威が生じた場合、ロシアとわが国民を守るために、わが国は利用可能なすべての兵器システムを必ず活用する。これはハッタリではありません。

 ロシア国民は、祖国の領土保全、独立と自由が守られることついて自信をもってかまいません。繰り返します。私たちは、そのために使えるシステムはすべて使います。私たちに対して核の脅しをかけている人たちは、風向きが変わることがあることを知るべきです。

 世界支配に血眼になり、私たちの祖国を分裂させ、奴隷化しようとする輩を阻むのは、わが国の歴史的伝統であり、宿命です。今回も必ずやそれを成し遂げるので、自信をもっていただいて結構です。

みなさんのご支援を信じています。

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同胞が殺し合う悲劇:ウクライナ紛争の根源は百年前のロシア内戦に遡る

<記事原文 寺島先生推薦>

The real root of the Ukraine conflict goes back 100 years and is misunderstood in the West
Ukraine is celebrating a major holiday. But ahead, only hard times await.


ウクライナ紛争の真の根源は100年前に遡る。西側諸国はそれを理解していない。
ウクライナは主要な休日を迎えている。しかし、その先には困難な時代しかない。

筆者:ウラジスラフ・ウゴルニー (Vladislav Ugolny)
ドネツク在住のロシア人ジャーナリスト

出典:RT

2022年8月24日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月12日


ウクライナ最大の国旗がキエフの中心にある「祖国記念碑」の横に掲揚され、上空約90mをたなびいている。「私たちの国旗の日」の前日に設置された。© Aleksandr Gusev / Pacific Press / LightRocket via Getty Images


 現在のシナリオはこうだ。ウクライナは31回目の独立記念日(2022年8月24日)に頂点に達する。

 国民の幸福な団結のおかげで、ロシア軍に抵抗することができた。キエフはいまだ首都であり、オデッサは依然として支配下にあり、ドンバスにはウクライナ軍が隠れるための要塞がたくさんある。しかし、その東の要塞はもうマリウポリでもセベロドネツクでもなく、アブディエフカである。ただ、この事実*を彼らは省きたがるが。
*マリウポリとセベロドネツクは現在、ロシアの支配下にある。アブディエフカはドネツク人民共和国支配地域とウクライナ軍支配地域の緩衝地帯であったが、2016年3月にウクライナ軍がその東部の地域「工業地帯」に要塞を設置した。2022年9月末の時点で、ウォールストリート誌はウクライナ軍がアヴディフカで「防衛を続けている」と報じている。

 ロシアの軍事作戦の最初の6カ月間のこの成果は、ウクライナに輝かしい未来があると信じる人々にとって説得力のある議論に見えるかもしれない。キエフは初期の段階で、何とか防衛力を動員することができた。関心を持つ人には誰でも武器を配り、ドンバスには経験豊富な民族主義者の戦士を集め、ロシアの味方になりそうな地域の有力者層を買収し、あるいは脅すことによって、それができたのだ。

 しかし実際には、これは1991年以来継続的に行われてきた暴力、強制、欺瞞、操作、疎外政策の結果である。ウクライナが大西洋沿岸諸国の指針の影響から独立していれば、植民地政策と呼ばれたかもしれない。しかし、これは結局のところ、親ロシア派の市民に対する親西側勢力の勝利なのである。

 私たちは、これを、以前、アメリカやインドにおける英仏のにらみ合いで見たことがある。そして、その行き詰まりはアメリカ先住民とインド人にとってどんな結末となっただろうか。それはよいものではなかったのだ。

 そして、ウクライナにとっても、この先、良いことは何も待ってはいない。

 8年前、ウクライナはクリミアとドンバスの天然資源を失った。今日、クリミアはその地だけでいくつもの役割を果たしている。例えば、「ロシアの世界」の陳列棚として急速に発展しており、また、ロシアの黒海艦隊が定期的にカリブ・ミサイルでウクライナの軍事目標を攻撃できるウクライナへ軍事的脅威でもある。

 また、ロシアの最も成功した攻撃はこの半島から行われたもので、ケルソン、メリトポリ、ベルディアンスク、マリウポリを支配することになった。



関連記事:1991年、ウクライナ人はソビエト連邦の存続に投票したが、それでも同年末に独立国家となった経緯。

 2014年にドンバスのちょうど半分を失ったウクライナは、エネルギー崩壊の瀬戸際に立たされていることに気がついた。統一された炭鉱と火力エネルギーの複合体が台無しになったからだ。ドンバスの2共和国から石炭を購入する腐敗した枠組みが必要となり、オリガルヒ(新興財閥)のリナト・アフメトフや元大統領のピョートル・ポロシェンコが財を成した。さらに、反乱を起こしたドンバスは、ウクライナにとって常に軍事的な脅威となり、現在の戦争を引き起こしている。

 最も大胆で意欲的な歩兵もこの地域から生まれている。両共和国には大砲や戦車もあるが、彼らの歩兵はすでに半年前からウクライナの防御を深々と突破し、不可能を可能にしたことで記憶されることになった。

 2022年の今(8月)、ウクライナはケルソン、ザポリージャ地方の半分、ハリコフ地方の3分の1を失っている。これらの地域は、今やウクライナ経済から切り離されている。南の太陽の下で、おいしそうに甘く熟すケルソン特産のスイカも、ウクライナではもう食べられない。ザポリージャにある国内最大の原子力発電所は、ウクライナ国内に電力を供給しているものの、現在はロシア軍に支配されている。原子力発電に関してはことを急いではいけないが、ザポリージャ原発の電力は、いずれウクライナの人々が1ワット残らず失う日が来る。そこからはもう逃れられない状況にある。


ウクライナ南東部のザポロジェ原子力発電所のエリアを警備するロシア軍兵士。© AP Photo

 このような状況を打開するために、ウクライナ国民は30年かけてロシアとの紛争に備え、準備を進めてきた。元スパイで、現在ウクライナで最も人気のある評論家アレストビッチによれば、これは「メタ歴史的*」な紛争であり、400年にわたる戦争のクライマックスで、その後ウクライナは勝利するか忘れられるかのどちらかである、と言う。アレストビッチは欧州系の哲学者なので、ウクライナ人が聞き慣れているようなことを伝えるのに、わざと少し難解な言葉を使っている。それは1990年代に犯罪を犯した経歴を持つオリガルヒや、共産党独自の表現を操っていた旧ソ連の高官たちが使っていたような、あまり洗練されていない言葉遣いである。そのような風潮を表す最も簡潔な例を挙げれば、典型的な「ウクライナに栄光あれ」の敬礼だろう。ガリシア地方**でもともと人気があったが、最近になってより広く採用されるようになったものだ。
*歴史を俯瞰してどのように解するか、の意。 **ウクライナの南西部

 この記念日は、億万長者の犯罪者、政治家や役人、ガリシアの住民たちのためのものである。彼らは制度的権力を奪って特権を手に入れた「ウクライナ国民」なのだ。国の独立を祝う記念日ではない。

 彼らの中には、冶金、エネルギー、食品産業、化学セクター、琥珀採掘、アルコール・タバコ製造、銀行など、数十億ドル規模のビジネスの利益を得られるよう政治的な圧力をかける権利を持ち、ウクライナ経済の民営化で得られる甘い汁に群れる特権を受けた者もいる。確かにウクライナには外国人投資家もいるが、最も収益性の高い産業を支配しているのは地元のオリガルヒなのだ。ウクライナ市場を他の競争相手、特にロシアと共有しないことが、常に彼らの重要な関心事となっている。



関連記事:分裂の種:ロシア語圏のドンバスが2004年にウクライナから初めて独立を勝ち取るまでの道のり

 彼らは政治家や役人の助けを得て、ウクライナ市民を主な富の構築源としていた。彼らは政府資金を盗み、密輸品を密輸し、偽造品を製造し、麻薬や人身売買の市場、そして賭博で分け前を得ていた。この癒着構造により、役所を買収できる状況が作り出され、オデッサの港で金を稼いだり、ハリコフのビジネスマンから痛みのない税務監査を約束して金をゆすり取ったりするのに役立った(これらの仕事が分配されるのには、キエフとのコネが必要だったからだ)。だから当局はウクライナを連邦化するという要求をいつも無視していた。そうなれば意思決定の過程を独占できるという特権を失うことになり、それが彼らを怖気づかせたのだ。連邦制度導入により、モスクワに利益をもたらす可能性がある場合は、特にそうだった。

 最後に付け加えておきたいことは、かつてはオーストリア・ハンガリー帝国の一部であったガリシアの住民が、ウクライナ人に加わり、(ウクライナという)ひとつの国*の国民となったのは、つい最近の1939年のことだった、という事実だ。ガリシア人たちは、宗教、方言、価値観、歴史によって、他の国民と分けられていた。ガリシアにはほとんど産業がなかった。この地域で価値があったのは、ポーランドとオーストリアの建築物(あるいはその名残)、いくつかのリゾート地、森林(無秩序な森林伐採により、今ではかなり間引かれている)、そしてEU国境に近いため密輸と労働力の移動がずっと容易だったことくらいであった。これは、ウクライナの南部と東部の富とは比べものにならない。
*ソ連構成国のひとつだったウクライナ・ソビエト社会主義共和国。


ウクライナのリヴィウの街並み@Getty Images / SilvanBachmann

 ガリシア人はすぐに、自分たちの地域が国の文化の中心地としての地位を確保できる究極の資源を持っていることに気づいた。それは自分たちの歴史であり、ウクライナがロシアから距離を置こうとする動きと、ロシア人を同化させることによって独立を維持しようとする試みの両方を正当化することができる歴史だ。たとえそれがまさに彼らがしばしば不満を言っていた 「植民地主義」 政策であったとしても。

 ガリシア人はウクライナ化の十字軍として、自分たちの権利を落ち着きなく主張する少数民族と化したのだ。彼らが「ウクライナに住んでいるのだから、ウクライナ語を話さなくてはならないだろう」と考えるようになるのは自然の流れだった。しかし、学校のカリキュラムには限りがあり、ウクライナ語、文学、歴史は、ロシア語など他の教科を犠牲にして勉強するようになっていた。そして、ウクライナ政府が大学入学統一試験を導入し、ウクライナ語の習得が義務づけられると、ロシア語を話す家庭の子どもは入試が不利になった。ロシア語とウクライナ語を同等に扱えと言う人がいれば、ガリシア人は「ロシア語には勝てないからウクライナ語は消滅する」と答えただろう。このような政策は、ウクライナのロシア語を話す人々に対する制度的差別の一例に過ぎない。



関連記事:ウクライナのネオナチ「アゾフ大隊」は「国家の中の国家」を築き、ロシアとリベラルな西側諸国を軽蔑している。

 ロシア人の権利を守ろうとする政治勢力は、ことごとく潰された。2005年にウクライナから分離しかけたハリコフ州の元知事エフゲニー・クシュナリオフは、狩りの途中で不可解な死を遂げた。彼の思想を利用した「地域の党」が彼の死後、政権を握ったが、ロシア語圏を守るという公約は守らなかった。またロシア語を国語にするという公約も守らなかった。

 また、オデッサの*ロディナ党も消滅した。オデッサ市議会の代表であり、党首は国会議員を務めたこともある政党だった。実はその党名にも、ウクライナの排外主義的な政策が表れている。政党の名称はウクライナ語で登録することになっていたので、このオデッサの政党はロシア語と全く同じ発音のウクライナ語を探さなければならなかった。その結果、ロシア語の「祖国」をウクライナ語の「家族」と偽らなくてはならなくなった。その党は2013年末に無くなった。党首のイゴール・マルコフが刑務所に送られ、他の主要人物も移住や潜伏を余儀なくされたからだ。オデッサの人々以外、誰も抗議の声を上げなかった。ロディナ党はウクライナ国家にとって非常に異質な存在だったのだ。ちなみに、この党に対する弾圧は、「親露派」とされるヤヌコビッチ大統領の命令によるものだった。
*ロシア語の「ロディナ」は「祖国」の意味。ウクライナ語の「ロディナ」は「家族」の意味。


キエフの聖ソフィア広場の集会で支持者に演説するヴィクトル・ヤヌコーヴィチ。© Sputnik / Alexey Kudenko

 その結果、ウクライナのロシア人は、自分たちを同化させようと目論む国の中で、政治的代表権を持たないまま取り残されることになった。マイダンが起こったときまでには、ウクライナのロシア人が不確かな未来に直面していることは明らかになっていた。彼らはそれぞれ、逃げるか、戦うか、降伏するかの選択を迫られていた。多くの人が最初の選択肢を選んだ。2015年から2018年にかけて、40万人以上のウクライナ国民がロシアのパスポートを取得した。それ以降の期間は、さらに高い数字になっているが、これは、故郷に残ったドンバスの人々にロシア国籍が大量に付与されたためである。多くの人が武器を手に取ったのは、クリミアやドンバスの2共和国が自決権を行使し、ハリコフ、オデッサ、ザポリージャでの抗議行動を暴力で鎮圧された後のことだった。これらの地域から大量の人々が志願するように追い込まれたのである。

 中には、ロシア軍が自分たちの市や町を解放してくれるのを待ち続けている者もいる。スヴェトロダルクやセベロドネツクからの動画記事は、民兵の家族が8年ぶりに息子に会い、喜びの涙を流す瞬間を捉えたものだ。しかし、多くの人はあきらめている。誰もが生まれながらにして英雄というわけではないし、すべてを捨て、敵地で反体制的な生活を送る覚悟のある者ばかりでもない。これがウクライナに住むロシア人の悲劇である。

 この悲劇はウクライナ国家の勝利である。彼らはロシア系ウクライナ人を人質に取り、彼らをロシアに敵対させたからだ。

 なぜ、そうなったのだろうか、話してみよう。昔、ある小さな男の子が、いつか軍に入ることを夢見ていたとしよう。彼はやがてウクライナ人の将校になり、宣誓して、お父さんとお母さんを誇らしくさせた。ハリコフのロシア語圏の家庭の話だとしよう。その後、ウクライナ政府はドンバスで戦争を始め、大人になったその少年に義務を果たすよう呼びかけた。ウクライナ政府は、ウクライナ国民を守るという誓いを、ドンバスで蜂起したロシア系ウクライナ人を潰すという約束と解釈していたのだ。将校はジレンマに直面した。何が善で何が悪なのか。正しい選択をして戦争に行くことを拒否した者もいれば、過ちを犯した者もいる。より大きな流血を防ごうとしたり、徴兵の世話をしたりという善意があったこともある。2014年には戦争の拡大を避け、前線に投げ出された部下の命を救いたいと願っていたウクライナ人将校たちもいたのだ。しかし戦争が長引いて多くの人が死に、危険はさらに高くなった。



関連記事:「確実な死に追いやられる」。ドンバス前線での戦闘を拒否するウクライナ軍人の数が増えている理由

 ドンバスで子どもたちがウクライナ軍に殺される一方で、ロシア語を話すウクライナ軍人の友人や同僚が両人民共和国の民兵の手によって命を奪われていた。そのため、紛争は彼らにとって個人的な次元のものに変わってしまっていた。違う選択をしたために、分断の両側に身を置くことになったロシア人同士が殺し合う一方で、ウクライナ政府は勝利を祝っていたのである。

 オデッサの小売業者は、独立したウクライナにほとんど憧れを抱いていなかったかもしれない。彼の考えでは、ウクライナは腐敗した役人、凶悪な法の執行、終わりのない経済危機の代名詞だったのだ。適切な管理が行われないまま、自分の大切な街が少しずつ崩れてゆく。そんな折、戦争が始まり、市街戦で彼の所有物のすべてが破壊されそうな状況が生まれる。彼はどうすればいいのだろう。ある者はこの危険を仕方のないものと諦め、ある者はロシアが平和的にオデッサを奪うことを願った。またニコライエフとケルソンの間でウクライナ軍を支援することを決めた(あるいはウクライナの過激派に命令された)人たちもいた。彼らの願いは、前線が遠く離れ、自分たちの生活が助かることだったのだ。


プリモスキー大通りの眺め、ポチョムキンの階段の上で、ウクライナ、オデッサ。© Michael Runkel

 ウクライナと戦っているロシア人は、ウクライナに屈し、それを支持しているロシア人に多くの疑問と厳しい言葉を投げかけている。

 これは悲劇だ。ウクライナ軍の最も有能な部隊は、ロシア語を話す兵士と将校で構成されている。しかも彼らの上級指揮官は、ロシア側の上級将校と同じ軍事学校に通っていることが多い。

 ロシア兵と戦う唯一の相手は、ロシア兵なのだ。

 これは100年前のロシアの*内戦で起こったことである。そしてこの要因は、現在の紛争にも引き続いて残っているのだ。

*1917年 から 1922年 にかけて旧ロシア帝国領で争われた。内乱は主に赤軍(共産主義者・十月革命側)と白軍(ロシア右派、共和主義者、君主主義者、保守派、自由主義者)の間で戦われた。白軍には英仏日米などの協商国(赤軍側からは「干渉国」と呼ばれる)が直接、間接に支援を行っていた。

 「やはり、ウクライナ人は興味深く、かつ難しい対戦相手だ。おそらく、我々にとって可能な限り最も困難な相手だろう。彼らはロシア人の一部なのだ。ただ頭の中は洗脳されているが。しかし同時に、他の点では、彼らは我々と同じ資質や性質をすべて持っている。彼らは私たちのことをよく知っている。私たちが彼らを知っているのと同じだ。心理学や精神構造の観点から言うと、自分自身の影と戦争しているようなものだ」と、あるロシア兵はテレグラム・ブログに書いている。

 しかし、NATOは、ロシアに対してハイブリッド戦争を導入する完璧な方法を見つけた。彼らは、瓜二つの身代わりを対ロシアにあてがい、武器を与え、NATO自身は崩壊しないよう、手を打ったのだ。ロシア側にとって、この戦争は、私は繰り返して言うが、悲劇であり、友愛戦争でもあるのだ。しかし、ロシア側には代替手段がない。なぜなら、彼らはドンバスを放棄することも、ウクライナによって大量虐殺的な同化政策がとられ続けられることを許すこともできないからだ。


ドネツク人民共和国ニコラエフカ村の軍用車両で撮影されたドネツク人民共和国軍の軍人たち。© Sputnik / Viktor Antonyuk

 ウクライナに良いことは何もない。ロシアとの対立の中で、ウクライナ人は欧米の援助に頼らざるを得ず、その結果、独立を失ってしまったからだ。短期的には、融資、武器供給、外交支援という形で利益が約束されるが、最終的にはすべてを支払わなければならない。欧米の影響力をポスト・ソビエト空間に引き込んだことで、ウクライナは危機を一桁増してしまったのだ。

 ウクライナ人はすでに多くのものを失っている。たとえ前線が今のままであっても、キエフはこの冬、間違いなくドンバスの残りの地域を失うことになる。そこに暖房を供給することができないからだ。そこは、ウクライナ兵がロシアの砲撃の中で寒さに震える雪原となるだろう。どこにも行き場のない、無防備なおばあちゃんたちも出てくるだろう。

 彼らを救えるのはロシア軍だけだ。

 ドンバスではすべてが決まったが、ハリコフではそうではない。市長は暖房シーズンに向けての英雄的闘争を嬉々として報告しているが、市の人口150万人のうち、大半の人々がこの冬を生き延びられない可能性がある。ハリコフはウクライナで2番目に重要な都市である。ザポリージャにも同様の問題が発生する可能性がある。いずれにせよ、ウクライナ政府が住宅や公共事業の分野を補強しなかったこと(例えば、労働者を前線に動員しなかったこと)による人道的危機は、前線地域を無人の土地に変えてしまうだろう。ウクライナは経済的利益を失い、その見返りとして新たな避難民を受け取るだけとなる。

 「穀物協定」によって、オデッサの港は少なくとも何らかの仕事が始まることを望めたが、ウクライナは依然として海軍の封鎖下にある。貿易は増えたが、港は実際には機能していない。


ウクライナ、オデッサの港。© Getty Images / Education Images / Universal Images Group

 実際、オデッサ都市圏はその主要な活動領域を奪われ、ウクライナ政府はその潜在能力を十分に生かしきれていない。市は損失を被っている。その見通しは不透明だ。オデッサで実際に進んでいるのは、「ロシア帝国主義」のモニュメントに対する闘いだけだ。ウクライナ人は港の封鎖を解けないので、街の創設者であるエカテリーナ大帝の記念碑を取り壊すことで埋め合わせをしようとしているのだ。



関連記事:アレクサンドル・ネポゴディン:現在ロシアが支配しているウクライナの地域は、今後どうなるのか?

 この独立記念日は、ウクライナの国家としての頂点を極めるものである。ウクライナの民族主義者は30年間、他者を欺き、威嚇し、急進派を固め、賄賂を贈ることができた。そのおかげで、ウクライナはロシアとの半年間の対立に耐え、この先もしばらくは耐えることができるだろう。しかし、その防衛戦略は、ゆっくりと後退し、領土を失い、最前線の領土の適切な管理を確保できなくなるだけだろう。

 今後、困難は増大し、より複雑になるばかりで、西側諸国にとってウクライナを維持するための費用も比例して上昇することになる。1円でも節約すれば、人道的危機は深まり、領土がさらに縮小することになる。当初は変化への恐怖が国民的高揚感を呼び起こしたが、今後は戦争疲労、貧困、失業、飢餓、寒さが増していくだろう。結局、ロシア軍は、より多くの数の砲弾を携えて、一歩一歩前進していくだろう。そして 解放されたロシア民族が多く住むすべての都市で、人道支援を提供する準備を整えることになるだろう。
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ウクライナ戦争、分裂する左翼---「社会愛国主義者」と「愚か者たちの反帝国主義」!

<記事原文 寺島先生推薦>

Ukraine War, Divided Left: “Social Patriots” and the “Anti-Imperialism of Fools”!

筆者:チャールズ・ピアス(Charles Pierce)

出典: INTERNATIONALIST 360°

2022年9月17日

<記事翻訳 寺島メソッド飜訳グループ> 

2022年10月10日




二つの反戦集会、二つの全く異なるメッセージ


2月24日にロシアの軍事作戦が開始されて以来、社会主義左派はウクライナでの武力紛争への対応で分裂している。

 一方は、米国・NATO・ウクライナ国家に同調して、ロシアを主な悪者として非難する人々である。もう一方は、この紛争を欧米の対ロシア新冷戦の結果であり、クーデター後のウクライナ政権はその新冷戦における西側(米国とその地政学的同盟国)の手先であると見なす人々である。

 また、両方を非難するグループもある。ロシアは2月24日に軍事行動を起こし、米国とNATOはロシアの国家安全保障に関わる挑発行為を行ったとして、その両方を非難するグループもある。左派の発表する論評の多くは、役に立たない想定を繰り返し、重要な問題を回避し、紛争の現実を誤って伝えている。


分裂した左翼

 左派の政治的見解が異なることは、何も新しいことではない。例えば、ベトナム戦争中、一部の社会主義者(実際はリベラル派)は当初、いくつかの根拠から米国のベトナム政策を支持していた。

 それらの根拠には、米国の外交政策が「民主主義」のために「自由世界」を守ることであるという口実を受け入れていること、また、自由主義的自由の実存的な敵としての共産主義に揺るぎなく反対していること、そして、西洋帝国主義の人種差別的現実に盲目であるか無関心であること、などがあった。戦争が終わりの見えないまま長引き、大規模な民衆の反戦運動が起こると、戦争推進の「社会主義者」は反戦側に転向するか、信用を失墜させるかのどちらかであった。

 そしてついに、戦争が世界におけるアメリカの影響力を弱めていることを認識した外交政策当局と国政の現実主義者が、反戦側に転向した(それによって支配階級が分裂した)。この時点で、反戦勢力は、米国の戦争継続を中止させるのに十分な強さを持っていた。

 ベトナムの敗北は、アメリカ帝国主義にとって後退であったが、一時的かつ限定的なものに過ぎなかった。それは、アメリカ帝国主義の介入主義や「社会主義」左翼の分裂を終わらせたわけではない。

 現在のウクライナ戦争について語るとき、「社会主義」を自称するすべてのグループが「反帝国主義」を主張している。しかし、この紛争でどの帝国主義に対抗するかについては、それぞれ異なっている。ロシアか、米国とNATOか、あるいはその両方か。

 この紛争は、「帝国」ロシアが、「独立国」「民主」ウクライナを脅し、侵攻したことから始まったと(超党派の政治体制とリベラルな主流ニュースメディアによって)描写され、毎日のニュース放送でウクライナの苦しみと英雄的抵抗の画像が一方的に流されているので、体制側の物語を支持することはあまりにも容易である。

 一方、このシナリオに異議を唱える社会主義者は、すべての責任をロシアに押し付ける「反帝国主義者」たちから退けられ、糾弾されることを予期しなければならない。実際、多くの左派系オンライン出版物は、ロシアを非難する「社会主義者」による非常に見下した、慇懃無礼な、そして糾弾的な論評を発表してきた。より衒学的な例をいくつか挙げてみよう。

 • ビル・フレッチャーJr.、ビル・ガレゴス&ジャマラ・ロジャース[以下F&G&R]。「いつロシア侵略の許容をやめるべきか?」 ニューポリティクス、2022年5月11日。(PortsideとLeftLinks - CCDSによって再掲載された)

• タラス・ビルース、[以下TB]。「ウクライナにおける自決と戦争」 Dissent, May 9, 2022. (リンクス・インターナショナル・ジャーナル・オブ・ソーシャリストリニューアルの再掲載とポートサイドによる掲載)

• ヴァン・ゴッセ&ビル・フレッチャー・ジュニア[以下G&F]. 「我々はどちらの側に加担するのか? ウクライナ戦争と左翼の危機」、ポートサイド、2022年4月19日号。

 F&G&Rは長年の左翼活動家である。ビル・フレッチャーJr.は、黒人解放、反戦、組織労働運動の指導的立場にあり、現在はDSA(アメリカ民主社会主義者)の指導者である。ビル・ガレゴスは、チカーノ解放*と革命的社会主義において指導的地位を占め、「解放への道(Liberation Road)」**の長年の指導者である。ジャマラ・ロジャースは、黒人解放、革命的社会主義、そして「リバレーション・ロード」の指導者であった。
[訳注] *チカーノ解放: メキシコ系への偏見の強いテキサス州で、アメリカの政治システムの中からチカーノの生活向上と差別の排除を目的としてグティエレスが1969年に結成した政党。
**「解放への道(Liberation Road)」:サイトでは次のように唱われている。「私達は米国の革命的な社会主義者であり、社会的富がわずかの億万長者の手にあるのではなく、人々によって管理される社会システムのために闘うことに専念しています。1960年代と70年代の運動から来た社会主義組織を合体して、1985年に設立された。トランプに対する抵抗力を構築することを活動の中心に置いている、とも書かれている。


 フレッチャーとガレゴス[F&G]は、民主党内で活動した経歴を持つ。ヴァン・ゴッセは歴史学の大学教授であり、DSA(アメリカ民主社会主義者)とCC-DS(民主主義と社会主義のための連絡委員会)のメンバーであり、また民主党内でも活動している。タラス・ビルス[TB]は歴史学者であり、ウクライナの自由主義的な「社会主義」組織である社会運動組織(Social Movement organization)の主要メンバーである。

 本評論は、ロシアの行動を肯定も非難もしない。その主要な目的は、米国の左翼論評に拡散した(特に反ロシアの親キエフ左派の)誤報と誤解に反論することである。

 従って、ここで問題視しているのは、左派が、この出来事の関連する事実と文脈を回避し、あるいは確認できずにそのまま広めた議論についてである。実際、反ロシア左派は(主流のリベラルなニュースメディアのように)米国やそのNATOの同盟国とともに、キーウ(旧称キエフ)政権をロシアの不当な、あるいは「いわれのない」侵略の無実の犠牲者であるとする虚偽を広めている。


「正当な理由がない」だって?---無視された事実のいくつか

米国とNATO

• 米国とNATOは、ドイツの再統一に必要なソ連の同意を得るために、1990年に交わした「NATOは中・東欧に拡大しない」という約束に背いた。

• 米国は、ポーランドとルーマニアに核ミサイル(モスクワや他のロシアの標的を素早く攻撃できる)を設置した(2008年から計画、2018年に設置)。挑発ではないというのか? 米国がトルコに同様のミサイルを設置した後、ソ連がキューバにそのようなミサイルを設置し、米国が核で世界の終末の瀬戸際に追いやったことを覚えているだろうか。

• NATOは、ロシアとの国境にあるバルト三国で、ロシアとの戦争の訓練をする戦闘演習を繰り返し行ってきた。

• 米国とNATOは、過去25年間のロシアの抗議(ロシアの国家安全保障に対する前述のNATOの脅威に対して)に対して、一貫して傲慢な強硬姿勢で対応してきた。外交を継続することは、明らかに是正するために有効な手段ではなかった。

• 米国は、特に全米民主主義基金(NED)を通じて、ソ連崩壊以来、ウクライナ(ベラルーシや他の旧ソ連諸国でも)で反ロシアの親西欧政治組織に資金を提供し、訓練を行ってきた。また、多くの国(ロシアも含む)で親欧米のメディアや市民社会組織に資金を提供し、訓練している。米国議会は1983年、CIAに代わって、米国の命令に従わない国(自由民主主義国を含む)の政権転覆を密かに推進する米国の主要機関として、NEDを設立した。

• 米国は、2014年のクーデターをり、幇助したが、それは暴力的なネオナチ民兵が先導し、民主的に選出されたウクライナ政府を追放した。なぜか?同政権は、ウクライナをロシアと西側諸国の間で中立であることを選択したからだ。そして、米国がウクライナの指導者として選んだアルセニー・ヤツェニュクが首相に就任した。

 クーデター後の政権は、全く有害な行動をして、一貫して反ロシア政策を追求してきた。

・2012年に制定された少数民族の言語使用の権利を定めた法律を撤回し、さらにロシア語(ウクライ人の30%が母語とする)の使用を制限する新たな法律を制定した。

• 共産主義者は、2015年の脱共産化法に基づいて、また、反ロシア政策に反対するとみなされるあらゆる政党を非合法化し、弾圧されている。

ネオナチ民兵がロシア人、ロマ人、その他の少数民族を恐怖に陥れた時、免罪符を与えている。

• ナチス・ドイツの戦時中の協力者や大量虐殺の参加者を国家的英雄として称えている。

• 2014年のクーデターに抵抗し、その政権の企てに反発していた人々を、抑圧的な武力によってその抵抗を押しつぶそうとしてきた。そして、その紛争を解決するためのドンバス地方の自治に関する約束(2014年と2015年のミンスク合意)を実行することを拒否している。

・ロシアとの統一を望むクリミアの人々の意思を尊重することを拒否した

• 反ロシアの軍事同盟であるNATOへの加盟を追求する。

 米国は、ドンバス反乱軍に対する軍事作戦のために、ネオナチのアゾフ連隊を含むウクライナ軍を武装させ、訓練していたのである。これらの軍事作戦により、何千人もの民間人が死亡し、何百万人もの人々が避難し、多くの人々が身を守るために何年も地下で生活することを余儀なくされたのだ。

 米国・NATO・ウクライナのクーデター後の政権による、多くの挑発行為があったことは明らかだ。しかも、そうした挑発がなければ、この戦争は起こらなかっただろう。


好戦的な者たちとその目的

 この戦争を、悪のプーチン=ロシアが罪のないウクライナを食い物にしたという話に帰するのは、単純化された思い違いである。現在の紛争は(確かに2014年のクーデター以降)、決して単純にロシアとウクライナの間のものではない。

 そして今、ロシアに対する経済包囲網(極めて厳しい制裁)と、キエフ国家への膨大な先端兵器の供給を行っている米国とNATOは、自国の兵士を戦いに投入していないにもかかわらず、非常に好戦的な存在である。


好戦的な者たちの目的

• 米・NATOの目的は、2014年のクーデター以前から、ウクライナを西側の顧客国家にすること、ロシアを弱体化させ、その限られた影響範囲を奪うこと、そしてプーチンを西側帝国の命令に服従する人物に
置き換えるための政権転覆を実現することであった。

• クーデター後のキエフ政権は、米国に促され、排外主義的なウクライナ民族主義者(ネオナチを含む)が支配し、一貫して反ロシア政策を追求してきた。ウクライナ語および民族意識を国内全体に浸透させ、少数民族を周辺に追いやるか、またはウクライナ化し、ロシアの影響を排除することであった。そして自治または独立を求めて少数民族が優勢である地域に対して、絶対的支配を強め、経済・軍事的に西側に統合しようとするものであった。

• 反ロシア的な「社会主義者」[F&G&R]の主張とは逆に、ロシアの目的は、独立した国としてのウクライナの存在を排除することでは決してなかった。ロシアが目指してきたのは、隣国ウクライナに敵対的な軍事基地(核ミサイルを含む)が存在しないようにすること、クリミアの人々がロシアとの統一を決めたことを守ること(同時に、クリミア海軍基地の支配を継続すること)、ドンバスのロシア系住民の権利を守ること(ウクライナ領として、反ロシア同盟への参加を妨げるもの)であった。


国際法?

 米国・NATO・キーウと連携する「社会主義」左派は、この戦争を(F&G&Rの言葉のように)ロシアが「主権国家への侵攻」によって「国際法」と「国家の自決権」の侵害を犯しているからだと考えている。これは単純化しすぎで、一層悪い説明になっている。

 第一に、キーウ政権が、米国の後押しとこれまで以上に殺人的な武器の提供を受けて、ドンバス紛争の平和的解決を求めるロシアと分離ドンバス共和国の訴えに対して、強硬な姿勢をとり続けたという事実を回避している。

 キーウはドンバス共和国の指導者との対話すら拒否し、武力による圧殺をもくろんでいることが明らかであった。しかも、(2014年に)ネオナチ民兵を含む新たに編成した軍を派遣し、クーデターへの抵抗を鎮圧したのは、キーウのクーデター政権である(当時の正規軍には、鎮圧するための十分な動機付けがなかった)。

 ロシアは、ウクライナに対する軍事行動は、ドンバスにおけるキーウの侵略に対応したものでもあり、実際、最初に武力に訴えたのはキエフ政権であると主張している。

 このように、ロシアの主張は、ドンバスへの軍事行動が、キーウがドンバス共和国に対して軍事的侵略を続けていることに対する正当な対応であり、国連憲章*でも認められているとしているのである。
*{訳注} 国連憲章第51条: この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。 この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。

 ロシアのウクライナ侵攻について、プーチンの見解は、NATOがロシアの国家安全保障を脅かす動きを強めていることにキーウが協力したことで正当化されると考えている。しかし、ドンバスへの攻撃とロシアへの安全保障上の脅威に関して、そのどちらか、あるいは両方の正当性を問うことはできても、キーウ・NATOがすべて正しく、ロシアがすべて悪い、と明確に言えることはないのである。

 第二に、米・NATO系の左翼は、ロシアに対して法律をたてにした激しい非難をおこなっているが、以下の2点のどちらか、あるいは両方の特徴が見てとれる。(1)不当な比較をする(特に米・英の2003年のイラク侵攻は、実際には、純粋な帝国による他国の政権転覆戦争であって、絶対的な嘘に基づいて正当化されたものだった)。(2)国連憲章と国際法が帝国主義による自国の不当な侵略の妨げとなったときにはいつも、国連憲章や国際法を繰り返し堂々と違反してきた犯罪行為の歴史には、蓋をしている。

 これらの侵略には、以下が含まれる。

• 抵抗勢力の国において、暴力的で反動的な反乱軍(アフガニスタンのムジャヒディンやニカラグアのコントラのような)の武装化。

• 殺人的な経済包囲網(キューバ、イラク、ベネズエラ、イラン、...)。

• 脅迫的な軍事演習(バルト三国、韓国)。

• 民主的に選ばれた政府に対するクーデターの煽動と教唆(1949年シリア、1953年イラン、1954年グアテマラ、1973年チリ、他多数)。

• 暗殺と未遂(ルムンバ、カストロ、カシム、アジェンデ、カッザーフィー、・・・);実際、米国とその主要な同盟国は、日常的に国連憲章と国際法に違反しており、彼らに対して同法を執行する権限を持つ機関がないため、彼ら(その主要な違反者)の責任が問われることはないのだ。

• 多くの国の選挙への干渉(1948年のイタリアに始まる)。

• 他国の内戦において、抑圧的な反体制側に立って、破壊的な殺人的軍事介入(ギリシャ、中国、韓国、ベトナム、ラオス、コロンビア、・・・)。

• 人権に対する大規模な犯罪を犯している国家を武装し、庇護すること(シオニスト国家、サウジアラビア、...)。

• 政権転覆のための軍事侵攻(ドミニカ共和国、グレナダ、パナマ、イラク、リビア、...)

 これらの人種差別的な帝国主義的介入の多くは(1945年以来、その数は膨大である)、何千万人もの人々を貧困に陥れ、恐怖に陥れ、避難させ、負傷させ、あるいは死に至らしめたのである。



 最後に、上に挙げた欧米帝国による国際法違反の犠牲国のどの一国も、その抑圧国に対して国際法を執行させることができなかった。実際、米国とその主要な同盟諸国は、日常的に国連憲章と国際法に違反しており、彼らに対して同法を執行する権限を持つ機関がないため、彼ら(その主要な違反者)の責任が問われることはないのだ。

 それにもかかわらず、反ロシアの「社会主義者」たちは、欧米の対ロシア介入を支持することを正当化するために、米・NATOの国際法の偏った適用と、誤った適用を繰り返しているのだ。

 彼らは、米国の犯罪は別件だから関係ないと主張するかもしれない。その議論の誤りは、米国とNATOは2014年のクーデター以来ずっと、この武力紛争に反ロシアとして参加してきたことにある。

 その結果、米国とNATOの擁護者たちは、事実上、無法地帯の世界における最悪の無法者が、より軽い犯罪容疑者に対して法を執行するよう求めているのである。つまり、当該の法執行者が自らの犯罪目的推進のために行動する加害者なのである。これではこれらの擁護者たちが法の執行を支援しているのではなく、世界最悪の犯罪集団に事実上の支援を与えていることになる。


「帝政ロシア」だって?
 
 G&Fはロシアを 「帝国主義的大国」と表現している。TBはロシアを「帝国主義」とか 「ファシスト」と呼ぶ。F&G&Rは、ロシアが 「失地回復主義」に突き動かされた 「帝国主義的大国」だとして、 その「侵略」を非難している。

 このように、我々の反ロシア左翼は、プーチンのロシアを「独裁的」、「反民主的」、「帝国主義的」な国家として酷評しているのである。プーチンのもとでロシア経済はエリツィン時代(1991-1999年)に比べて劇的に改善したが、確かにロシアの国内政策には非難すべき点が多い(縁故資本主義、ロシア正教会の優遇、気候変動への無策、労働規制法、選挙の不正操作など)。

 ドンバスやクリミア、あるいはその他の地域でのロシアの行動には、妥当な批判もあるだろう。しかし、ロシアの限られた勢力圏を維持するための努力は、本質的に防衛的なものである。さらに、ロシアは、NATO加盟国全体の17分の1以下の軍事費と、旧ソ連諸国以外に1つの軍事基地を持つのみである。世界中に何百もの軍事基地を維持し、ほぼすべての国に自分の意思を押し付けようと、世界中の人々を搾取し抑圧し、世界で唯一の現在の超大国が指導し支配する欧米帝国主義と比べて、ロシアは取るに足りないほど小さいものでしかない。



 最後に、米・NATO帝国主義に対するロシアの不満や、ウクライナのクーデター政権に対するロシアの不満は、本当のことで妥当なものである。その現実から目をそらしながら、ロシアの欠陥を問題にするのは、プーチンのロシアに反対して、バイデン、ストルテンベルグ、キーウ政権と手を組むための口実を必要とする人々が抱く、都合のよい弁解に過ぎないのである。


「民主的な」ウクライナだって?

 キーウ政権の弁護者たちは、「独裁的」なロシアに対してウクライナは支援に値する。なぜなら(彼らは)「民主主義」だからだと主張するのだ。F&G&Rはウクライナを「民主主義」を目指していると表現し、TBは不完全だが「守るに値する民主主義」だと表現しているのだ。

 彼らは、数多くの逆の事実を省略し、回避している。

・ 現政権は、実際に普通選挙で選ばれた政府に対して、米国が支援した2014年のクーデターによって樹立されたこと。

• ゼレンスキーの最初の人気は、ドンバス共和国との和平を約束したことに大きく依存していたこと(就任後すぐに破られたが)。

• (2021年に)主要な野党(当時はゼレンスキー党を上回り始めていた)が活動停止になり、そのリーダー(ヴィクトル・メドベチュク)が自宅軟禁され、その後、反逆罪で起訴されたこと。

• キーウの反ロシア政策に反対する声は、クーデター後の政権によって日常的に弾圧されていること。実
際、ベトナム戦でのフェニックス作戦を彷彿とさせるもので、CIAの訓練を受けた国家治安部隊によって、多くの人々が誘拐され、拷問され、殺害されている。

 ロシア兵による人権侵害(その一部はおそらく捏造)は、西側諸国とその支持母体の主流ニュースメディアによって大々的に報道されているが、逆にウクライナ人や捕虜のロシア兵に対する拷問や殺人といったキーウ国家の恐怖支配は、西側ニュースメディアでは全く報道されない。実際、キーウ国家は長い間、プーチンのロシアよりもはるかに抑圧的で反民主的であった。


民族・国家問題?

 ロシアを非難する「マルクス主義者」の中には、ロシアが「国家(ウクライナを含む)には自決権と独立した国民国家としての生存権がある」というレーニン主義の原則に違反したとする問題をでっち上げる者がいる。

 プーチンがレーニンの民族政策に反対を表明したとはいえ、プーチンがウクライナの現在の民族的正当性を否定し、独立した国家としての存在を排除しようとしたという(F&G&Rの)憶測と主張はまったくの虚偽である。

 その上でプーチンは、「ロシアとウクライナは、ドイツとオーストリアのように、共通の祖先と文化を持ち、友好的な関係を築くべき」と述べたのである。そして、「歴史的経緯」からウクライナは「独立国」であることを明確に認め、「それをどう扱うか」については、「敬意をもって」という答えしかないのである。欧米帝国主義に味方することを正当化するために、プーチンの感傷的表現の延長線上にある虚構を、彼の実際の行動と明白な意図に置き換えることは、単なる欺瞞である。

 第一に、プーチンはソ連邦の復活が不可能であることを明確に認めている。ウクライナの独立国家としての存在を奪う意図はなく、ロシアの国家安全保障に対する脅威となることを防ぐためだけであることを明らかにしたのである。

 彼は、ドンバス地方のウクライナ国内での自治の実施(キーウが2014年と2015年のミンスク協定で合意した通り)を、同地方の多くの民意がロシアとの統一を求めているにもかかわらず、8年近く粘り強く求めてきたのであった。実際、米国を含む国連安全保障理事会は、2015年に全会一致でミンスク合意を承認していた。

 ロシアは、キーウが約束された自治を実施するのを妨げるようなことは何もしていない。しかも、米国は実際にキーウが自治実施を拒否するのを後押しした。これらは、反ロシアの「社会主義者」論者たちが、概して省略し、常に忌避している決定的な事実である。

 第二に、これらの「レーニン主義者」は、ロシアのクリミア「併合」とドンバス離脱地域への援助を「ウクライナの主権領土の侵害」と決めつけることによって、米国とNATOに同調している。

 F&G&Rは、クリミアの分離独立をロシアの 「クリミア強奪」と決め付けている。また、TBはキーウの目標(「勝利」)をドンバスとクリミアに対する絶対的な支配を取り戻すことと受け入れている。

 これらの主張は、ここで適用されている民族・国家問題をひどく単純化しすぎて、誤用しているのである。これらの「レーニン主義者」は、米国やNATOとともに、ロシアから分離した独立国であるウクライナが多様な民族性を有しているにもかかわらず、その領土全体に対して絶対的主権を行使するウクライナ民族の「権利」を主張している。しかし(レーニンとは逆に)ウクライナは、少数民族が優勢な地域内での自治権さえ否定しているのである。

 さらに、F&G&Rをはじめとする「レーニン主義者」の中には、クリミアやドンバスの人々が本心から、ウクライナからの独立や、ウクライナ国内での自治を選択したかどうかを疑うことで、国家主権を一方的に適用して自分たちを正当化しようとする人々もいる。彼らは明らかに、関連する事実上の証拠を確認することなく、判断を急いでいるのである。

• 1954. フルシチョフは、クリミアの人々の同意や承認なしに、クリミアをロシアソビエト共和国からウクライナSSR[ウクライナ・ソビエト社会主義共和国]に移すという(合法性が疑わしい)決定を画策した。

• 1991. ソビエト連邦崩壊の際、クリミアの選挙で選ばれた指導者が、クリミアをウクライナから独立した共和国として認めさせようとした。

• 1992. キーウとクリミアの間でクリミアの自治権の範囲について争った後、キエフはクリミアをウクライナ内の自治共和国として承認する妥協案に合意した。

• 1995年. キーウがクリミア憲法を廃止し、大統領職を廃止し、クリミア議会が選出した首相をキーウが拒否権を持つようにするなど、クリミアの権限を厳しく制限(自治権をほぼ否定)。

• 2008年. ウクライナ経済政治研究センター(モスクワの代理機関ではない)の世論調査で、クリミア人の64%がクリミアのウクライナからの分離独立とロシアへの加盟を希望していることが判明。

• 2009年11月. 国連開発計画(モスクワの代理機関ではない)は、クリミアで定期的に世論調査を実施した。そのたびに、少なくとも65%のクリミア人が、クリミアがウクライナから離脱し、ロシアに再統合することを支持した。

• クリミアのウクライナ離脱は、2014年に米国が支援したキーウでのクーデターに対する国民の直接的な反応だった(クリミアは追放された旧政権に対して圧倒的多数の支持票を投じていた)。クリミアのロシアへの再編入は、ロシアの「侵略」によって実現したという主張も虚偽である。クリミアに駐留していたロシア公認の軍隊が、独立住民投票とその後の分離・再編入を実現するために地元勢力を支援したが、こうした行動はクリミア人の大多数が歓迎しており、彼らはすでにその気になっていたのである。また、過去にモスクワ(1954年)とキーウ(ソ連崩壊後)の双方から自決権を否定された歴史を考えれば、クリミアの人々がウクライナから分離し、ロシアに編入する正当性は十分すぎるほどあった。社会主義者が「抑圧にとって最も一貫した敵」であると主張していたレーニンが生きていれば、このことに同意するだろう。

 我々の反ロシア「レーニン主義者」は、米国、NATO、キーウとともに、ウクライナの民族主義者のための民族的権利を主張するが、クリミアとドンバスの人民のためのそうした権利を否定している。彼らは「領土保全」と「主権」を神聖化するが、レーニンに反して、抑圧と不正に対する闘いを否定する。


罠か?

 反帝国主義の専門家の中には、米国がロシアの安全保障問題に対して強硬であるため、意図的にロシアに罠を仕掛けたと考える者もいる。その主張には歴史の前例がある。ジミー・カーターは(1979年から)アフガニスタンのソ連系革命政府に対して反動的なムジャヒディンを武装化した。その目的は、ソ連系政府を守るためにソ連の軍事介入を誘発し、(彼の国家安全保障顧問のズビグニュー・ブレジンスキーが述べたように)ソ連をベトナムに似た泥沼に引き込むためであった。

 米軍出資のシンクタンク、ランド・コーポレーションによる「Overextending and Unbalancing Russia(ロシアを過度に拡大させ、不安定化する)」と題する2019年の報告書では、米国の目標は 「冷戦時代にソ連にしたように、ロシアを弱体化させること」にあるべきと提言している。

 バイデンの国家安全保障チームの内部通信にアクセスできるようになるまでは、彼らがロシアをウクライナでの自滅的な戦争に陥れることを意図していたと断言することはできない。しかし、米国の外交政策当局の中では、明らかにそのような政策が支持されていた。米国は和平交渉においてキーウの強硬姿勢を奨励しており、それが現在の米国の政策目標であることは明らかである。

 反ロシアの「社会主義者」たちは、米国とNATOがロシアを孤立させ、弱体化させるために行動していたという明確な事実さえ認めようとしない。なぜか?なぜなら、プーチンのロシアを嫌うこれらの「社会主義者」は、明らかにその目的を米国やNATOと共有しているからだ。


国内政治

 社会主義者は、ウクライナ戦争に対する見解がどうであれ、米国や他の多くの国々で偏狭な反動的政治派閥が台頭していることを当然ながら懸念している。

 米国では、多くのリベラルな改革派の「社会主義者」は、民主党が労働者階級の選挙基盤を長年にわたって裏切ってきたにもかかわらず、民主党に忠誠を誓うことによって、共和党の反応に常習的に対応している。さらに、全国規模で民主党政治家のほぼ全員が、世界に対するアメリカ帝国主義の覇権と、その結果としてのアメリカの外交政策における帝国主義的犯罪を支持しているのである。

 リベラルな「社会主義者」は、民主党に傾倒することで、反帝国主義に口先だけの厚意を示しているのである。だから、民主党が支配しているとき、そのような「社会主義者」は、一般に、外国の人々に対する米国の帝国犯罪に反対する民衆を組織するために何もしないのである。それどころか、彼らには、(ウクライナの場合のように)それらの犯罪のいくつかが故意に見えなくなることさえある。

 社会主義者の正しい方針は、民主党の政治家が実際に社会正義のために戦うとき、戦術的に同盟を結ぶことである。しかし、同時に、民主党による社会正義の背信行為と裏切りについて国民に教えることが必要である。

 このような教育を怠ると、資本主義の工作員に追従することになり、民衆の中に既存の無知と偏見を永続させることになる。私たちは、民主党に身を任せる有権者になるのではなく、社会正義に基づく連帯運動を構築する必要がある。従って、一時的な限定的戦術的同盟はありうるが、忠誠を誓うべきではない。


戦争推進の「社会主義者」

 米国とNATOが、この戦争の恐怖を長引かせるために、これまで以上に殺傷力の高い武器を送り込んでいる。しかしその間に、苦しみながら死んでいくのは、ウクライナとロシア(NATO諸国ではない)の戦士と民間人である。

 どちらが勝つかには関係なく、ロシアとウクライナの双方が大きな代償を払うことになる。しかしその間に、多国籍資本、特に兵器産業と化石燃料会社は、利益を増大させるだろう。

 しかし、反ロシアの「社会主義者」たちは、ウクライナに西側の武器を送り、ロシアに対して強硬な制裁を行うことを提唱している。このように、彼らはヨーロッパにおける西側の新しい冷戦(今は熱い戦い)に支持を与えているのである。

[注:社会主義者が適切に米政権に諸手を挙げて支持を表明した例外的な戦争とは、米国の対外軍事行動が(利己的な理由で)、抑圧的な敵に対する正当な戦争であった場合だけだった。しかし、ウクライナ戦争は明らかにそのような例外ではない]。


主要な矛盾点

 「ポートサイド(公然たる「左翼」オンライン出版物)」は、米国平和評議会(USPC)*によるウクライナ戦争についての確固たる反帝国主義的分析を掲載したが、その後、「ポートサイド」が[アメリカのウクライナ戦争に]賛成しない別の視点を提示するためにそうしたのだと示した。その後まもなく、ポートサイド社はUSPCの声明に対して11のコメントを発表したが、一つを除いてすべてUSPCの分析に反対しており、そのうちのいくつかは非常に非難的な言葉で述べられている。
[訳注]*米国平和評議会(USPC)は1979年に設立された平和および軍縮活動家組織。世界平和評議会と提携しており、そのアメリカのセクションを代表している。しかし、ウィキペディアでは「USPCはソビエトの利益のためのフロントグループであり、緊密な関係を維持したと批判している。Wikipedia site:ja.wiki5.ru」

 そのうちの二つは、他の多くの反ロシア左派の論者とともに、反帝国主義の分析を「愚か者の反帝国主義」あるいは「馬鹿者」と非難している。三つ目は、米国の「マルクス主義者」を自認するカール・デビッドソン(「民主社会のための学生会」(SDS)や革命組織の元リーダー、その後、民主党内で活動、現在はCC-DSのリーダー)、この紛争の「主たる矛盾」は「ロシアの主権国家への侵攻とウクライナの主権防衛」だとコメントしている。

 明らかに、反ロシアの「社会主義者」たちは、欧米帝国主義と、封じ込め、征服、政権転覆を狙われた世界中の多数の標的(ロシア、中国、イラン、シリア、北朝鮮、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアなど)との間の矛盾は、もはや主要な問題ではないと判断したのだろう。

 このウクライナ紛争で米国とNATOに同調している彼らは、社会愛国主義者に変質している。この言葉は、1914年に主要交戦国の社会党の指導者たちが、第一次世界大戦で双方の帝国政府を支持することを正当化する口実をでっち上げたことに由来する(帝国主義に関して党員の教育を何年も怠ってきたのだから)。現代の社会愛国主義者たちは、頑固者トランプの選挙勝利を阻止する必要性に執着し、原則を犠牲にして政治的体面と大衆的影響力のために、意識的または無意識的に帝国主義リベラル派に同調しているようである。

 社会正義のための闘いにおける彼らの過去の貢献を考えれば、1914年の先達とは異なり、彼らがその誤りを認識し、修正することを願うばかりである。


我々の現在の課題

 私たちは、ウクライナにおけるロシアの軍事的対応を不適切なやり過ぎだとか、不謹慎な行為だとか、あるいはその両方と考えて、ロシアの軍事作戦の手法を非難するかもしれない。しかし、反対の意見を述べることはあっても、ロシアの決断に影響を与える能力はないのである。

 西側の反帝国主義の社会正義の活動家である我々の仕事は、(ウクライナへの武器供与やロシアへの制裁を含む)米・NATO帝国主義を非難し、強力に反対することである。

 我々は、ロシア嫌いの戦争プロパガンダの嘘を暴露しなければならないし、その真の敵との戦いを粘り強く支援しなければならない。たとえ一部の公然たる「社会主義者」によって、「プーチン擁護者」、「愚か者」、「馬鹿者」と中傷されようとも、それが我々の義務なのだ。


チャールズ・ピアースは、社会正義の活動家(1960 年代初頭の青年期から反人種主義、反帝国主義)、元労働活動家(組合執事、地方役員)で、現在は歴史と政治に関する研究者、執筆者である。チャールズの連絡先は、[email protected]
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ウクライナ紛争はネオコンが引き起こした直近の大惨事

<記事原文 寺島先生推薦>

Ukraine Is the Latest Neocon Disaster

筆者:ジェフリー・D.サックス(Jeffrey D.Sachs)

出典:OTHER NEWS

2022年6月27日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月10日

  ウクライナ戦争は、30年にわたるアメリカ新保守主義運動の集大成である。 この新保守主義者(ネオコン)にバイデン政権も牛耳られている。彼らはかつて、セルビア(1999年)、アフガニスタン(2001年)、イラク(2003年)、シリア(2011年)、リビア(2011年)でアメリカが選択した戦争を支持し、今回のロシアのウクライナ侵攻においてもロシアを挑発するという大きな仕事をした。これらネオコンがやったことは紛れもない大失敗だが、それでもバイデンは自分のチームにネオコンを配した。 その結果、バイデンはウクライナ、米国、そして欧州連合を、またもや地政学的な大失敗へと導こうとしている。もしヨーロッパに洞察力があれば、このようなアメリカの外交政策の大失敗から自らを切り離すだろう。

 ネオコン運動は、1970年代にシカゴ大学の政治学者レオ・ストロース(Leo Strauss)とイェール大学の古典学者ドナルド・ケーガン(Donald Kagan)の影響を受けた数人の名前のよく知られた知識人のグループを中心に発生した。 ネオコンの指導者には、ノーマン・ポドホルツ(Norman Podhoretz)、アーヴィング・クリストル(Irving Kristol)、ポール・ウォルフォウィッツ(Paul Wolfowitz)、ロバート・ケイガン(Robert Kagan)(ドナルドの息子)、フレデリック・ケイガン(Frederick Kagan)(ドナルドの息子)、ビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)(ロバートの妻)、エリオット・エイブラムス(Elliott Abrams)、そしてキンバリー・アレン・ケイガン(Kimberley Allen Kagan)(フレデリックの妻)などがいる。

 ネオコンの主要なメッセージは、米国は世界のあらゆる地域で軍事的に優位に立たなければならず、いつの日か米国の世界または地域の支配に挑戦する可能性のある地域の新興勢力、特にロシアと中国に立ち向かわなければならない、というものである。 この目的のために、米国の軍事力は世界中の何百もの軍事基地にあらかじめ配置され、米国は必要に応じて、望む戦争を導く準備をしなければならない。 国連は、米国の目的に役立つときだけ、米国が利用するものである。

 この手法は、ポール・ウォルフォウィッツが2002年に国防総省のために書いた国防政策指針(DPG)草案で初めて明言されたものである。 この草案は、ドイツの統一に続いてNATOの東方拡大を行わないことを、1990年、ドイツのハンス・ディートリッヒ・ゲンシャー(Hans-Dietrich Genscher)外相が明確に約束したにもかかわらず、米国主導の安全保障ネットワークを中・東欧に拡大することを求めたものである。 ウォルフォウィッツはまた、アメリカの望む戦争を主張し、アメリカが懸念する危機に対して、単独であれ、独立して行動する権利を擁護している。 ウェスリー・クラーク将軍によれば、ウォルフォウィッツはすでに1991年5月、イラクやシリアなど旧ソ連の同盟国での政権交代作戦をアメリカが主導することをクラークに明言していたという。

 ネオコンは、2008年にジョージ・W・ブッシュ・ジュニアの下で米国の公式政策となる以前から、ウクライナへのNATO拡大を唱えていた。 彼らは、ウクライナのNATO加盟が米国の地域的・世界的支配の鍵になると考えていたのである。 ロバート・ケイガンは、2006年4月、ネオコンのNATO拡大の手順を詳述している:
「ロシアと中国は、旧ソ連圏における "カラー革命 "に自然なものはなにもない、と見ており、世界戦略的に重要な地域における西側の影響力を促進するために、西側が支援したクーデターであるとしか考えていない。 彼らの見方はそんなに間違っているのだろうか?西側民主主義諸国が推進し支援するウクライナの自由化の成功は、同国をNATOやEUに編入するための前段階、つまり西側の自由主義覇権の拡大に過ぎないかもしれないのだろうか?」

 ケイガンは、NATOの拡大がもたらす悲惨な意味合いを認めている。 彼はある専門家の言葉を引用して、「クレムリンは「ウクライナのための戦い」の準備を真剣にしている」と言っている。 ソ連崩壊後、米ロ両国は万が一の時の緩衝帯、そして安全弁として、中立的なウクライナを求めるべきだった。 しかし、ネオコンはアメリカの「覇権」を求め、ロシアは、一部は防衛のため、そして一部は自国の帝国主義を誇示するために、この戦いに参加したのである。 この戦争は、オスマン帝国に対してロシアが圧力をかけた後、イギリスとフランスが黒海でロシアの弱体化を図ったクリミア戦争(1853-6年)のような色合いを持っている。

 ケイガンは、妻のビクトリア・ヌーランドがジョージ・W・ブッシュ・ジュニアの下でNATO大使を務めている間、私人としてこの記事を書いた。 ヌーランドは、ネオコン工作員の代表格である。 ブッシュのNATO大使に加え、2013年から17年までバラク・オバマの欧州・ユーラシア担当国務次官補を務め、ウクライナの親ロシア大統領ヴィクトール・ヤヌコヴィッチ(Viktor Yanukovych)の打倒に参加し、現在はバイデンの国務次官としてウクライナ戦争に対する米国の政策を指導している。

 ネオコンの見解は、米国の軍事的、財政的、技術的、経済的優位性によって、世界のすべての地域で条件を決定することができるという、極めて誤った前提に基づいている。 これはネオコンの、驚くべき傲慢さと、驚くべきほど現状を軽く見ている立場を示している。1950年代以降、米国は参加したほぼすべての地域紛争で、その動きを阻まれたか、敗北してきた。 しかし、「ウクライナのための戦い」では、ネオコンはロシアの猛反対を押し切ってNATOを拡大し、ロシアとの軍事衝突を誘発する用意をしていた。というのも、彼らはロシアが米国の金融制裁とNATOの兵器によって敗北すると熱に浮かされたように信じているからだ。

 キンバリー・アレン・ケイガンが率いるネオコン系シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、(ゼネラルダイナミクスやレイセオンといった国防関連企業の有力者に支援されて)ウクライナの勝利を約束し続ける。 ロシアの前進について、ISWは目新しくもないコメントを発表している:

「シエビエロドネツク(Sievierodonetsk)市をどちらが押さえるにしても、作戦・戦略レベルでのロシアの攻勢はそこでおそらく頂点に達し、ウクライナは作戦レベルでの反撃を再開し、ロシア軍を押し返す機会を得ることになるだろう。」

 しかし、現実に起きていることは、そうではない。 欧米の経済制裁は、ロシアにはほとんど悪影響を与えていないが、それ以外の国には大きなブーメラン効果を与えている。 さらに、ウクライナに弾薬や武器を補給する米国の能力は、米国の生産能力の限界とサプライチェーンの途絶によって、深刻な打撃を受けている。もちろん、ロシアの工業能力はウクライナのそれを凌駕している。 戦前のロシアのGDPはウクライナの約10倍だったが、ウクライナは戦争で工業力の多くを失ってしまった。

 現在の戦闘で最も可能性が高いのは、ロシアがウクライナの大部分を征服し、おそらくウクライナを内陸部に押しとどめる、もしくはそれに近い状態にすることであろう。 ヨーロッパと米国では、軍事的損失と戦争と制裁によるスタグフレーションの影響により、不満が高まるだろう。 米国で右翼のデマゴーグ(大衆扇動家)が台頭し(あるいはトランプの場合は政権に復帰し)、危険な拡大主義のもと米国の色あせた軍事的栄光を回復すると約束すれば、その連鎖的効果は壊滅的になりかねない。

 このような惨事を招く危険を冒す代わりに、真の解決策は、過去30年間のネオコンの幻想を終わらせ、ウクライナとロシアが交渉のテーブルに戻り、NATOがウクライナの主権と領土の一体性を尊重し保護する実行可能な平和と引き換えに、ウクライナとジョージアへの東方拡大への関与を終了させることである。

記事原文はこちら
https://www.other-news.info/ukraine-is-the-latest-neocon-disaster/

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EU議員は、バネッサ・ビーリー記者などドンバス住民投票のすべての監視員への制裁を要求

<記事原文 寺島先生推薦>

EU parliamentarian calls to sanction Vanessa Beeley and all observers of Donbass referendums
(欧州議会議員がバネッサ・ビーリー記者などドンバスの住民投票監視員全員の制裁を要求)

筆者:マックス・ブルーメンタール

出典:グレー・ゾーン

2022年9月29日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月10日


左:フランスのナタリー・ロワゾー欧州議会議員
右:バネッサ・ビーリー記者


 フランスのナタリー・ロワゾー欧州議会議員は、ドンバス地域での住民投票に対して、ロシアが組織した監視員すべての人々に、個人に対する制裁をかけるようロビー活動を行っている。ロワゾー議員は、バネッサ・ビーリー記者を名指しで攻撃したが、その根拠はビーリー記者が、この国民投票についての取材を行ったことに加えて、シリア政府に対する外国が支援する戦争について記事を書いていたからだった。

 フランスのナタリー・ロワゾー欧州議会議員は、EU のジョセフ・ボレル外務上級代表に書簡を届け、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国とウクライナ東部でロシアの支配下にある地域で行われた先日の住民投票の国際監視員を、全員制裁の対象にすることをEUに求めた。当グレー・ゾーンが、とある情報源から入手した情報では、この書簡は現在欧州議会内で回覧されていて、必要な数の支持者署名を集めようとしているところだという。

 「私たちは欧州議会議員に選ばれたものとして、この不当な住民投票の組織に何らかの形で自発的に手をかそうとする人々を、個人として攻撃の対象とし、制裁を課すことを求めます」とロワゾー議員は宣告している。

 このフランスの欧州議会議員が書簡を出したのは、ウクライナの公式領であるいくつかの自治体が、ロシア連邦に公的に編入する是非を問う住民投票を行ったことを受けてのものだった。この人気が高かった住民投票を通して、外国が支援したクーデター後のキエフ政権からの独立を2014年に発表した、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国、及びヘルソン地域やザポリージャ地域の人々は、ロシア連邦への編入を圧倒的多数で支持した。

 ロワゾー議員が名指しで非難したバネッサ・ビーリー記者は英国民で、この住民投票を監視するために現地入りしていた。住民投票のことだけにおさまらず不満を明らかにしたこのフランスの欧州議会議員は、 ベーリー記者を非難しこう語った。「シリアに関する偽情報をばら撒き続け、ウラジミール・プーチンやバッシャール・エル(原文ママ。本当は「アル」)・アサドの代弁者としての働きをずっとしている人物だ」と。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領と親密な関係にあるロワゾー議員は、特にビーリー記者を取りあげて、「制裁の対象リスト」に載せるよう求めた。

 ロワゾー議員のこの書簡に対して、ビーリー記者は、当グレー・ゾーンの取材に以下のように答えている。「ドンバスの住民の自決権を反映した合法的な手続きが取られているかについて証言しようとする世界各国の市民に、制裁を課そうとすることはファシズムです。万一EUがこの取り組みを進めるのであれば、今後深刻な事態が生じることになるでしょう。というのもこの行為は、言論の自由や思想の自由に対する攻撃に当たるからです」と。


ロシアの住民投票:NATOとの境界線を引く

 2022年9月中旬、ビーリー記者と100名程度の世界各国からの派遣団が東欧のこの地域を訪問したのは、ヘルソン地域、ザポリージャ地域、独立国であるドンバス人民共和国、ルガンスク人民共和国での、ロシア編入の是非を問う住民投票の監視のためだった。

 なぜこれらの監視員の存在が、西側の各国政府からのこんなにも激しい怒りを買ったのだろうか?その答は、激しい戦闘地域であったこれらの地域の近年の歴史にある。

 ウクライナの公式領であったヘルソン地域とザポリージャ地域が、今年初旬ロシアの統制下に置かれたのは、2月にモスクワが起こした軍事作戦の結果だった。なお、ドネツクとルガンスク両人民共和国は、 2014年にキエフ当局からの独立を宣言していた。

 ロシアがウクライナ領内に特殊軍事作戦を開始したのは、2月24日だった。この軍事作戦は、モスクワが、ウクライナ東部地域であるドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国(ドンバスの2つ人民共和国)の独立を正式に承認したことをうけてのことだった。 ドンバスの親ロシア分離主義者たちは、 米国が支援するキエフ政権により2014年以来ずっと塹壕戦に巻き込まれてきた。

 ウクライナの内戦が勃発したのは、2014年3月のことで、米国と欧州が支援したクーデターがウクライナで起こったあとのことだ。そのクーデターにより、キエフ政権は完全に親NATOの国粋主義者の色を帯びた政権となり、その政権が、国内の少数派であるロシア民族に対する戦争を進めていたのだ。

 2014年の暴動後、ウクライナ政府は公式にロシア語を軽視し、キエフ政権が支援する過激派の悪党勢力がウクライナ在住のロシア人市民を虐殺し、威嚇した。それに対抗して、分離派の抗議者たちがロシア民族が多数を占めるウクライナ東部に集まってきた。

 その年の3月、クリミアは正式にロシアへの編入に賛成票を投じたが、ウクライナ東部にあるドンバス地方のドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国は、その同じ月に、キエフ政権からの非公式の独立を宣言した。米軍とNATOからの支持を受け、2014年4月、ウクライナのクーデター政権は、ドンバス地域に対する宣戦布告を公式に行い、その地域での「対テロ作戦」と位置づけ、戦争を開始した。

  ロシアは、キエフ政権に反対する市民たちの運動が続く中ずっと、ドネツクとルガンスク両人民共和国の分離主義者からなる民兵隊を訓練し、軍備を整えてきた。ただしモスクワがドンバスの両共和国の独立を正式に承認するのには、2022年2月までかかった。国連の集計によると、その時点までのウクライナ内戦で、およそ1万3千人の戦死者が出ているという。2014年から2022年までずっと、モスクワがドンバスの分離主義者たちの支援を行っていた一方で、米国と欧州諸国政府は、何億ドルもの資金を投資し、ウクライナ軍へのてこ入れを行ってきた。ウクライナ政権は、軍や諜報機関関係の勢力への依存が強い。それはウクライナが、第二次世界大戦の結果を受けて、歴史的に反ロシア、反ソ連、親ナチの闇の国家の性質を持っていることと直接関係がある。



 2022年2月、ロシア軍は正式にウクライナ国内の紛争に参入した。これはモスクワがドンバスの両共和国の承認をしたことを受けてのことだ。ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、ドンバスの両共和国の解放を、この軍事作戦の主要目的だとしていたが、それ以外にも、ウクライナの「非ナチ化」や「非軍事化」 も、この作戦の目的としてあげていた。その目的のもと、ロシア軍はドンバス地域外のウクライナ領も統制下におさめている。その地域には、ヘルソン地方やザポリージャ地方も含まれている。

 ウクライナ内戦において、キエフ政権と繋がっているNATOへの投資を増大させている現実と直面していたドンバス地域の地方当局は、2022年9月後半にロシア連邦への編入の是非を問う住民投票を行う、と発表した。さらに、モスクワと連携しているヘルソン地方とザポリージャ地方の地方当局も同様の住民投票の実施を発表した。それぞれの地域の市民は、圧倒的多数でロシアへの編入に賛成票を投じた。

 住民投票の結果に戦々恐々としたのは、キエフ政権だけではなく、キエフの支援者である欧州諸国と米国もであった。西側と繋がるメディアは、この住民投票を見せかけだと決めつけて躍起になって取り上げ、モスクワの軍が、銃で脅して、力ずくでこの地域の住民たちをロシア連邦に編入した、と報じている。世界各国から集まったこの100人程度の数の監視員団が現地入りして、住民投票の手続きに問題がないか監視することがなかったなら、このような西側メディアの言い分が幅をきかせていただろう。

 バネッサ・ビーリー記者のような監視員たちが直面しているのは、西側の自国に戻る際に無法者の指名手配者扱いを受けるのでは、という危惧だ。しかし、ロワゾー議員の書簡が明らかにした通り、この英国記者はウクライナの戦況が激化するずっと前から、攻撃の的にされていたのだ。


ドネツクからの報道を伝えているビーリー記者はじめ欧州諸国の記者たちが、攻撃と起訴の対象に


 バネッサ・ビーリー記者は、米国や英国がシリアのホワイト・ヘルメットに資金提供していることを暴露した最初の独立系メディアの記者の一人だ。このホワイト・ヘルメットは、いわゆる「ボランティア団体」で、外国が支援していたシリア政府に対する汚れた戦争を前線に立って推進しており、西側や湾岸諸国が資金援助しているメディアとも繋がっていた。 この件でもビーリー記者は有益な役割を果たし、ホワイト・ヘルメットがアルカイダのシリア支所と強く繋がっていることを暴いた。 さらには、ホワイト・ヘルメットの隊員が、西側が支援していた武装勢力の犯した残虐行為に加担していたことも、明らかにした。

 シリアでのビーリー記者の働きは、NATOや軍事産業から資金援助を受けている多くの政策研究所から、激しい攻撃を受けることになった。2022年6月、様々なNATO加盟諸国や諸企業や億万長者たちから資金を得ている戦略対話研究所(ISD)は、べーリー記者のことを、2020年以前でシリアに関する「偽情報を一番多く拡散している」人物である、と決めつけた。(ISDによると、ビーリー記者は、当グレー・ゾーンのアーロン・メイト記者に幾分「追い越された」とされている)。しかしこの研究所は、その推測を裏付ける証拠を何ひとつ示していなかった。

 ビーリー記者が非難轟々を浴びることになったのだが、フランスのナタリー・ロワゾー欧州議会議員は、EUに対して、この記者に制裁をかけるよう求めたことが、西側当局が同記者の活動を犯罪であると正式にみなした最初の事例だった。実際、ロワゾー議員がまったく隠し立てすることなく、ビーリー記者を攻撃の対象としているのは、ビーリー記者が住民投票の監視を務めたからだけではなく、ビーリー記者のシリアに関して持っている意見や、シリアでの報道活動があったからだ。

 ロワゾー議員が、EUや米国市民である監視員たちに個人としての制裁を課すことを求めているのは、ドイツ政府が独立系メディアのアリーナ・リップ記者を起訴したことに続くものだ。2020年3月、ベルリンはドイツ国民であるリップ記者を公式に犯罪者として起訴したが、その罪状は、同記者がドネツク人民共和国から伝えた報道が、 新しくドイツが定めた言論の規制に違反していたからだ、とされた。



 リップ記者の起訴に先立ち、戦略対話研究所(ISD)はメディアを使った取り組みを立ち上げ、リップ記者を「偽情報」や「親クレムリンの内容」を発信する記者である、と決めつけた。

 現在ロンドンにおいて、英国政府は、英国民で独立系メディアのグラハム・フィリップス記者に個人としての制裁を課しているが、その理由は同記者がドネツクからの報道を伝えているからだった。

 そしてブリュッセルでは、ビーリー記者に対してロワゾー議員が見せている動きは、個人的な復讐の意図から来るものが大きいようだ。


ナタリー・ロワゾー議員とフランスのマクロン大統領

ナタリー・ロワゾーとは誰か?

 2021年4月、ビーリー記者は個人ブログで、ロワゾー議員の詳細な履歴をとりあげた。そのブログ記事の題名は、「壁は落ちる」というもので、このフランスの欧州議会議員を他国の政権転覆を目論む人物として描き、 「世界の不安定さを維持し、戦争を永久的に続けようとしている」と評していた。 ビーリー記者の記載によれば、フランス政権がシリアに対する空爆を承認した時、ロワゾー議員はフランスのエマニュエル・マクロン大統領政権下の大臣をつとめていたのだが、その空爆は、シリア政府が2018年4月にドゥーマで行ったという真偽の程が怪しい主張に基づくものだった、とのことだった。

 さらにビーリー記者が報告していた内容は、ロワゾー議員が「シリア運動(Syria Campaign)」という団体と深く繋がっていた、というものだった。この団体はホワイト・ヘルメット作戦を実行していた民間の広報活動組織だ。英国系シリア人の億万長者であるアイマン・アスファリ氏が支援するこの団体は、戦略対話研究所(ISD)がまとめた報告書に資金を出しており、その報告書において、ビーリー記者は、シリアに関する「代表的な偽情報拡散者」だと決めつけられていた。

 ロワゾー議員は、欧州議会の中枢内で自身の活動を広げているが、その際安全保障と防衛に関する欧州議会小委員会委員長という自身の肩書きを利用し、同僚たちからの疑問の声を封じている。沈黙させられているのは、シリアにおける政権転覆を求める西側各国の取り組みについて多すぎる質問をする人々だ。

 2021年の公聴会の際、ミック・ウォレス欧州議会議員が、化学兵器禁止機関(OPCW)について、フェルナンド・アリエスOPCW事務局長に質問しようとした。質問の内容は、同事務局長がOPCWによる調査に対して検閲をかけたのでは、という疑惑に関することだった。 なおこの調査の結果は、2018年4月に、シリアのドゥーマで化学兵器攻撃はなかった、というものだった。

 即座にロワゾー議員は激しい怒りをあらわにし、ウォレス議員を遮り、発言させなかった。

 「国際機関による活動に疑問を挟もうとしている貴殿のことを私は許せませんし、貴殿がそんな言い方をすれば、被害者の方々の証言にも疑問を呈することになります」とロワゾー議員は憤慨した。

 ウォレス議員もロワゾー議員の態度に対して憤怒の意を表し、こう尋ねた。「欧州議会ではもはや言論の自由は保証されていないのでしょうか?貴殿は私が自分の意見をいう行為を否定しておられるじゃないですか!」



 一年後、ウォレス議員は、盟友のアイルランドのクレア・ダリー欧州議会議員とともに、アイルランド放送協会を、名誉毀損を行った、として訴えた。 それは同放送協会がロワゾー議員のインタビューを報じた際、そのインタビュー内で、ロワゾー議員が根拠なしに、ウォレス議員とダリー議員を「嘘つき」だと決めつけていたことに対してだった。ロワゾー議員は、両議員が欧州議会内でシリアについての偽情報を広めた、と語っていたのだ。

 いまロワゾー議員はビーリー記者に対する復讐を果たそうとしているようで、同記者を犯罪者として起訴することを要求している。そして、今回の住民投票の監視員をつとめたことだけではなく、べーリー記者がこれまで報じてきた記事の内容についても罪状に加えようとしている。
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ジャック・ボー『特別作戦 Z』インタビュー

<記事原文 寺島先生推薦>

Jacques Baud: Operation Z

筆者:ポスティル誌、ジャック・ボー(Jacques Baud)にインタビュー
(ジャック・ボーは、スイスの戦略的諜報機関の元メンバー、地政学の専門家として広く尊敬を集めており、「並外れた眼力を持つ元スイスの諜報員」「スイスのスパイで最もおしゃべり」などとも言われている。『プーティン』など多くの論文や著書を発表している。『ゲームの達人?フェイクニュースでガバガバ』『ナワリヌイ事件』など。近著にウクライナ戦争に関する『オペレーションZ』がある。)

出典:Internationalist 360°

2022年9月1日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月8日


ポスティル誌、ジャック・ボーにインタビュー



 6カ月を超える戦争の後、言えるのは、ロシア軍は実戦力にたけ実効性にとみ、指揮統制の質は西側諸国をはるかに凌いでいる、ということだ。しかし、私たち西側の認識は、「ウクライナ側に焦点を当てた報道」と「現実の歪曲」によって影響を受けている。― ジャック・ボー


ウクライナ・ロシア戦争という地政学的闘争の中でいま何が起きているのか、ジャック・ボーの新鮮なインタビューをお届けします。いつものように、ボーは深い洞察力と明確な分析力をもって、この対談に臨んでいます。


 ザ・ポスティル(TP)です。あなたはウクライナ戦争に関する最新の著書『オペレーションZ(特別軍事作戦Z)』(マックス・ミロ社)を出版したばかりですね。この本を書くことになったきっかけや、読者に伝えたいことなど、少しお聞かせください。


 ジャック・ボー(以下、JB):

 この本の目的は、メディアによって流された誤った情報が、いかにウクライナを間違った方向に向かわせることに貢献したか、を示すことです。私は、「危機の捉え方から、危機の解決方法が生まれる」というモットーのもとにこの本を書きました。

 西側メディアは、この紛争の多くの側面を隠すことによって、私たちに戯画的で人工的な状況のイメージを提示し、その結果、人々の心を分極化させてしまったのです。このため、交渉の試みは事実上不可能であるという考え方が広まってしまいました。

 主流メディアが提供する一方的で偏った表現は、問題解決に役立つものではなく、ロシアへの憎悪を助長することを目的としています。したがって、障害のある選手やロシアの(国際猫連盟がキャットショーからロシアを追放)、さらにはロシアの木を品評会から排除したり、指揮者を解任したり、ドストエフスキーのようなロシアの芸術家の地位を下げたり、あるいは絵画の名前を変えたりすることは、ロシア人を社会から排除することを目的としています!(ロンドン・ナショナル。ギャラリーはエドガー・ドガの「ロシアの踊り子」を「ウクライナの踊り子」に改名)フランスでは、ロシア風の名前を持つ個人の銀行口座が封鎖されたこともあります。ソーシャルネットワークのFacebookとTwitterは、「ヘイトスピーチ」を口実にウクライナの犯罪の公表を組織的にブロックしていますが、ロシア人に対する暴力の呼びかけは許しているのです。

 これらの行動はいずれも紛争に何の影響も与えず、ただ西側諸国のロシア人に対する憎悪と暴力を刺激したに過ぎないのです。この操作はあまりにひどいので、私たちは外交的な解決策を模索するよりも、ウクライナ人が死ぬのを見たいと思うほどです。共和党のリンゼイ・グラハム上院議員が最近述べたように、ウクライナ人に最後の一人まで戦わせるということなのです。

 ジャーナリストは品質と倫理の基準に従って働き、可能な限り誠実な方法で私たちに情報を提供すると一般には考えられています。これらの基準は1971年のミュンヘン憲章で定められています。本を書いていてわかったのは、ロシアと中国に関する限り、ヨーロッパのフランス語圏の主流メディアでこの憲章を尊重しているところはないということです。それどころか、実際フランス語圏の主流メディアは、ウクライナに対する不道徳な政策を恥ずかしげもなく支持しています。メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領が語ったとおりです。西側が言うのは「我々は武器を提供するから、君たちは死体を提供せよ!」ということだと。

 この偽情報が流されていることを強調するために、私が示したいと思ったのは、状況の現実的なイメージを提供できる情報が2月の時点で入手可能だったにもかかわらず、私たちのメディアがそれを国民に伝えなかったことです。この矛盾を明らかにすることが本書執筆の目的だったのです。

 私自身がどちらかの側に有利なプロパガンダにならないように、私はもっぱら欧米、ウクライナ(キエフ発)、ロシアの野党の情報源に依存しました。ロシアのメディアからは一切情報を取っていません。

 TP:西側諸国では、この戦争によって、ロシア軍は力が弱く、その装備が役に立たないことが「証明された」と一般に言われています。これらの主張は本当でしょうか?

 JB:いいえ。6カ月以上にわたる戦争の結果、ロシア軍は実戦力にたけ実効性にとみ、その指揮統制の質は西側諸国をはるかに凌ぐと言えるでしょう。しかし、私たちの認識は、ウクライナ側に焦点を当てた報道と、現実の歪曲に影響されています。

 まず第一に、現地の現実です。メディアが「ロシア人」と呼んでいるのは、実際にはロシア語を話す連合軍で、プロのロシア人戦闘員とドンバスの民兵で構成されていることを忘れてはいけません。ドンバスでの作戦は主にこれらの民兵によっておこなわれ、彼らは「自分たちの」土地で、自分たちが知っている町や村で、友人や家族がいる場所で戦っています。そのため、彼らが慎重に前進しているのは、自分たちのためだけでなく、民間人の犠牲を避けるためでもあります。このように、西側のプロパガンダの主張とは裏腹に、連合軍は占領した地域で非常に広範な民衆の支持を得ています。

 それから、地図を見るだけでも、ドンバスは建物が多く人が多く住んでいる地域であることがわかります。これは、あらゆる状況において、防御側に有利で、攻撃側の進行速度が低下することを意味しています。

 第二に、西側メディアによる紛争の推移の描き方です。ウクライナは国土が広大なので、小さな地図では日ごとの違いがほとんどわかりません。しかも、敵の侵攻については、それぞれの立場から独自の認識を持っています。
 2022年3月25日の状況を例にとると、フランスの日刊紙Ouest-Franceの地図(a)は、ロシアの進展はほとんどないと読めます。これはスイスのRTSサイト(b)も同様です。
 ロシアのサイトRIAFANの地図(c)はプロパガンダかもしれませんが、フランス軍情報総局(DRM)の地図(d)と比較すると、おそらくロシアメディアの方が真実に近いことがわかります。
 これらの地図はすべて同じ日に発表されたものですが、フランスの新聞とスイスの国営メディアはDRMの地図を選ばず、ウクライナの地図を好んで使っています。このことは、我々西側のメディアがプロパガンダの発信源のように機能していることを物語っています。



図1 ― 2022年3月25日に西側メディアで紹介された地図の比較。このようなロシアの攻勢の見せ方が、「ロシア軍は弱い」という主張につながっている。また、ロシアのメディアが提供する情報は、ウクライナの提供する情報よりも現実に近いと思われることを示している。



 第三に、西側のいわゆる「専門家」が自らロシア攻撃の目的を決定していることです。「ロシアはウクライナとその資源を手に入れたい」「キエフを2日で占領したい」などと主張することで、西側の専門家はプーチンが言及しなかった目的を文字通り捏造してロシア側に帰属させたのです。2022年5月、キエフのスイス大使クロード・ワイルドはスイスのRTSサイトで、ロシアは「キエフ奪還の戦いに負けた」と宣言しました。しかし、実際には、「キエフ奪還の戦い」などは存在しなかったのです。ロシア軍が目的を達成できなかったと主張するのは明らかに簡単なことです。もし彼らが目的を達成しようなどと一度も考えなかったとしたら!

 第四に、西側諸国とウクライナは、敵対勢力について誤解を招くような図式を作り上げています。フランス、スイス、ベルギーでは、テレビに出演する軍事専門家の中に、ロシアがどのように軍事作戦をおこなうかについて知っている者はいません。彼らのいわゆる「専門知識」は、アフガニスタンやシリアでの戦争の噂から得たものであり、それはしばしば西側のプロパガンダに過ぎないのです。これらの専門家は、ロシアの作戦の発表を文字どおり改竄(かいざん)しています。

 このように、ロシアが2月24日の時点で発表した目的は、ドンバス住民に対する脅威の「非軍事化」と「非ナチ化」でした。この目的は、そうした軍事化とナチ化という可能性をなくすことに関するものであり、土地や資源の奪取ではないのです。大げさに言えば、理論的には、その目的を達成するためには、ロシア人が進出する必要などなく、ウクライナ人自身がやって来て殺されればいいだけなのです。

 つまり、政治家やメディアがウクライナにその地域を守れと嗾(けしか)けたのです。第一次世界大戦中のフランスのように、です。彼らはウクライナ軍を嗾けて、「最後の砦」を1平方メートル残らず防衛するよう強要したのです。皮肉なことに、西側諸国はロシア軍の仕事を容易にしたにすぎないのです。

 実際、対テロ戦争と同様に、欧米人は敵をありのままに見るのではなく、そうあってほしい、そうあってくれればいいと願ったとおりに見るのです。2500年前に孫子が言ったように、これは戦争に負けるための最良のレシピです。

 その一例がいわゆる「ハイブリッド戦争」で、ロシアが西側諸国に対しておこなっているとされるものです。2014年6月、西側諸国がロシアのドンバス紛争への(架空の)介入を説明しようとしたとき、ロシア問題の専門家マーク・ガレオッティは、あるドクトリン(軍事理論)の存在を「明らかに」しました。それがロシアのハイブリッド戦争の概念を示すらしいというものです。「ゲラシモフ・ドクトリン」として知られるこの考え方は、その構成や軍事的成功をどのように確保するかについて、西側諸国が実際に定義したことはありません。しかし、このドクトリンは、いかにしてロシアがドンバスに軍隊を送らずに戦争をおこなっているか、なぜウクライナが反乱軍との戦いに一貫して敗れるのか、を説明するために使われています。2018年、自分が間違っていたことに気づいたガレオッティは、勇敢にも理性的に、謝罪しました。『フォーリン・ポリシー』誌に掲載された「ゲラシモフ・ドクトリンを作ってごめんなさい」と題する記事で。
訳注:ゲラシモフ・ドクトリン。サイバー攻撃や情報戦による現地住民の認識操作や、特殊作戦部隊・民間軍事会社・民兵による低強度紛争、既成事実化のための(戦闘を伴わない)軍事力の展開など、ゲラシモフ演説は2014年2月以降にウクライナで生じた事態と多くの共通性を有していた。それゆえ、ゲラシモフ演説はロシアの新しい軍事活動を方向づけるものと見做され、「ゲラシモフ・ドクトリン」なる通称で広まった。しかし、このようなハイブリッド戦争はロシアの軍事理論とは相容れない。

 にもかかわらず、そしてそれが何を意味するのかわからないまま、西側メディアと政治家は、ロシアがウクライナと西側諸国に対してハイブリッド戦争を仕掛けているというふりをし続けました。つまり、存在しないタイプの戦争を想定し、そのためにウクライナを準備したのです。これは、ウクライナがロシアの軍事作戦に対抗する首尾一貫した戦略を持っているという課題を説明するものでもあるのです。

 西側諸国は、状況をありのままに見ようとしません。ロシア語話者連合軍は、2分の1対1の割合でウクライナより劣る総合力で攻勢をかけています。多勢に無勢の状況で勝利するには、戦場で部隊を素早く動かして局所的・一時的な優位を作り出さなければならないわけです。

 これがロシア人の言う「作戦術」(operativnoe iskoustvo オペラチフノ・イスクトゥボ)です。この考え方は、西側諸国ではあまり理解されていません。NATOで使われている「作戦」という言葉は、ロシア語では「operative」(命令レベルを指す)と「operational」(条件を定義する)の2つの訳語があります。作戦とは、チェスのように軍隊の陣形を操り、優勢な相手を打ち負かす技術です。

 例えば、キエフ周辺での作戦は、ウクライナ人(と西側)の意図を「欺く」ためではなく、ウクライナ軍の大部隊を首都周辺に維持させておき、それによって「縛り付ける」ためのものでした。専門用語では、これは「シェイピング作戦」と呼ばれるものです。一部の「専門家」の分析に反して、これは「欺瞞(ぎまん)作戦」ではなく、まったく異なる発想で、はるかに大きな戦力が必要だったでしょう。その目的は、ドンバスにウクライナ軍本隊が増援することを阻止することでした。

 現段階でのこの戦争の主な教訓は、第二次世界大戦以来、私たちが知っていることを裏付けるものです。それは、ロシア人は作戦術に長けている、ということです。

 TP:ロシアの軍事力に関する疑問は、明白な疑問を引き起こします。現在のウクライナの軍事力はどれほど優れているのか、と。さらに重要なのは、なぜ私たちはウクライナ軍についてあまり耳にしないのでしょうか?

 JB:ウクライナの軍人たちは、確かに良心的かつ勇敢に任務を遂行する勇敢な兵士たちです。しかし、私の個人的な経験では、ほとんどすべての危機において、問題は首脳部にあります。相手とその論理を理解し、実際の状況を明確に把握することができないことが、失敗の主な原因なのです。

 ロシアの攻勢が始まって以来、戦争の進め方を2つに区別することができます。ウクライナ側では政治的・情報的な空間で戦争がおこなわれ、ロシア側では物理的・作戦的な空間で戦争がおこなわれています。両者は同じ空間で戦っているわけではないのです。これは、私が2003年に拙著『非対称戦争、あるいは勝者の敗北』(La guerre asymétrique ou la défaite du vainqueur)で述べた状況です。困ったことに、結局は地域・地形の現実が優先されるのです。

 ロシア側では、意思決定は軍部がおこなうが、ウクライナ側では、ゼレンスキーがあらゆる場面に登場し、戦争遂行の中心的存在となっていて、作戦を決定することが多いようです。明らかに軍部の助言に反して。そのため、ゼレンスキーと軍部との間に緊張が高まっています。ウクライナのメディアによると、ゼレンスキーはヴァレリー・ゾルジニー将軍を解任することもできるといいます。彼を国防相に任命することによってですが。

 ウクライナ軍は2014年以降、アメリカ、イギリス、カナダの将校によって広範な訓練を受けています。問題は、20年以上にわたって、欧米人は武装集団や散在する敵対者と戦いつづけ、かつ軍全体を個人に対して戦わせてきたことです。彼らは戦術レベルで戦争を戦っていて、いつの間にか戦略・作戦レベルで戦う能力を失ってしまったのです。ウクライナがこのレベルで戦争をしているのは、そのためでもあります。

 しかし、もっと考え方の違いという側面もあります。ゼレンスキーや西側諸国は、戦争を数的・技術的な戦力バランスとして捉えています。これが、2014年以降、ウクライナ人が反政府勢力を説得して取り込もうとはせずに、今では西側から供給される武器から解決策が得られる、などと考えている理由です。西側はウクライナに数十門のM777砲とHIMARS、MLRSミサイル発射機を提供しましたが、ウクライナは2月には既に同等の砲を数千門ももっていました。ロシアの「戦力の相関関係」という概念は、西側諸国の作戦よりも多くの要素を考慮し、より全体的なものです。だからロシアが勝っているのです。

 無分別な政策に従おうとして、西側メディアは、ロシアに悪い役割を与えるという仮想現実を構築しました。危機の経過を注意深く観察する者にとっては、西側メディアが、ロシアをウクライナの状況の「鏡像*」として提示した、と言ってもいいくらいです。こうして、ウクライナの損失について語られ始めると、西側のコミュニケーションはロシアの損失に目を向けたのです。(あくまでも、数字はウクライナ側が提示したものですが)
*鏡像は実像とは左右が反対に映ることから、実態を真逆に映したものの喩えとして用いている。

 4 月から 5 月にかけてハリコフやヘルソンでウクライナや西側が宣言したいわゆる「反攻」は、単なる「反撃」でした。両者の違いは、反攻が作戦上の概念であるのに対し、反撃は戦術上の概念であり、その範囲ははるかに限定的であることです。このような反撃が可能だったのは、当時のロシア軍の兵力密度が前線20kmあたり1戦闘群(BTG)だったからです。それに比べて、主戦場となったドンバス方面では、ロシア連合は1kmあたり1~3BTGでした。ウクライナによる8月のヘルソン奪還の大攻勢については、南部を制圧するはずだったというものですが、欧米の支持を維持するための神話に過ぎなかったようです。

 今日、私たちは、ウクライナの成功と言われるものが実際には失敗であったことを目の当たりにしています。ロシアのせいで失われたとされる人的かつ物的損失は、実際にはウクライナのせいで失われたものよりも多かったのです。6月中旬、ゼレンスキーの首席交渉官で側近のデビッド・アラカミアは、1日あたり200~500人の死者が出ていると話し、1日あたり1000人の死傷者(死亡、負傷、捕虜、脱走者)に言及しました。これにゼレンスキーがまた新たに武器要求をしたという情報が加われば、ウクライナの勝利というのは全くの幻想に見えることがわかります。

 ロシア経済はイタリアに同等の経済力しかないと考えられていたため、同様に脆弱だろうと想定されていました。つまり、軍事的な敗北を経ないでも、経済制裁と政治的な孤立によって、ロシアはたちまち崩壊する、と西側諸国もウクライナ人も考えていたのです。実際、これは2019年3月におこなわれたゼレンスキーの顧問兼スポークスマンであるオレクセイ・アレストヴィッチのインタビューから理解できることです。こういう理由で、ゼレンスキーは2022年初頭に警鐘を鳴らさなかったのです。彼がワシントンポスト紙のインタビューで語っているとおりです。彼は、ウクライナがドンバスで準備している攻勢にロシアが反応することを知っていて(だから部隊の大部分はその地域にいた)、制裁によってすぐにロシアが崩壊し敗北すると考えていたのでしょう。これは、フランスの経済大臣であるブルーノ・ル・メールが「予測した」ことでもあります。明らかに、欧米人は相手を知らずに決断しています。

 アレストビッチが言うように、ロシアの敗北がウクライナのNATO入りの切符になるという考えだったのでしょう。だから、ウクライナ側はドンバスでの攻撃を準備するように急き立てられました。ロシアに反応させ、壊滅的な制裁で簡単に敗北させるための攻撃を強いられたのです。これは皮肉なことで、アメリカを中心とする西側諸国が自分たちの目的のためにいかにウクライナを悪用したかを示しています。

 その結果、ウクライナ人はウクライナの勝利ではなく、ロシアの敗北を目指しました。これは非常に特異なことですが、ロシアの攻勢が始まった当初からの西側のシナリオを説明するものです。そのシナリオではロシアが敗北すると予言していたのですから。

 しかし現実には、制裁は期待どおりには機能せず、ウクライナは自ら挑発した戦闘に引きずり込まれたことを知りました。が、そのために長いあいだ戦う覚悟もなかったのです。

 このため、当初から、欧米のシナリオは、メディアが報じた内容と現場の現実とのあいだに齟齬・不整合があることを提示していました。これは逆効果でした。ウクライナに失敗を繰り返させ、作戦遂行能力の向上を妨げることになったからです。プーチンとの戦いを口実に、欧米は何千人もの人命を不必要に犠牲にするようウクライナに迫ったのです。

 当初から明らかだったのは、ウクライナ人が一貫して過ちを繰り返し(しかも2014年から2015年にかけてと同じ過ちを)、兵士が戦場で死んでいることでした。だから、ヴォロディミル・ゼレンスキーは、ますます多くの制裁を要求しました。最も不合理なものも含めてです。というのは、それが決定的なものであると信じ込まされていたからでした。

 このような間違いに気づいたのは私だけではないでしょう。西側諸国はこの惨事を確実に阻止することができたはずです。しかし、彼らの指導者たちは、ロシアの損失に関する(架空の)報告に興奮し、政権交代への道を開いたと考え、制裁に制裁を加え、交渉の可能性を断ち切ったのです。フランスのブルーノ・ルメール経済大臣が言ったように、目的はロシア経済の崩壊を誘発し、ロシア国民を苦しめることでした。これは一種の国家テロです。国民を苦しめて、指導者(ここではプーチン)に対する反乱に追い込もうとするものです。これは作り話ではないのです。このメカニズムは、オバマ政権下で国務省の制裁責任者を務め、現在は世界腐敗防止コーディネーターであるリチャード・ネピューが、『制裁の技術』という本の中で詳しく述べています。皮肉なことに、これは2015年から2016年にかけてフランスで起きた攻撃を説明するためにイスラム国が唱えた論理とまったく同じです。フランスはおそらくテロを奨励しているのではなく、テロを実践しているのです。

 大手メディアは、戦争をありのままに紹介するのではなく、そうあってほしいと願うように紹介しています。これは純粋な希望的観測です。ウクライナ当局に対する国民の見かけ上の支持は、膨大な損失(7万~8万人の死者が出たという説もある)にもかかわらず、反対派の追放、政府路線に反対する役人の冷酷な人狩り、ウクライナ人と同じ失敗をロシア人に帰する「鏡像」プロパガンダによって達成されています。これらはすべて、西側諸国の意識的な支援によるものです。

 TP:クリミアのサキ空軍基地での爆発をどう考えればいいのでしょうか?

 JB:私はクリミアの現在の治安状況の詳細を知りません。2月以前には、クリミアに右派セクターPraviy Sektor(ネオナチの民兵組織)の志願兵の細胞があり、テロ型の攻撃をおこなう準備ができていたことは知っています。これらの細胞は無力化・撲滅されたのでしょうか? クリミアでは破壊工作がほとんど行われていないようなので、そう考えることもできます。とはいえ、ウクライナ人とロシア人は何十年も一緒に暮らしてきたし、ロシア人が占領した地域には親キエフ派がいることも忘れてはなりません。したがって、これらの地域に潜伏工作員が存在する可能性があると考えるのが現実的です。

 より可能性が高いのは、ロシア語圏連合に占領された地域でウクライナ保安庁(SBU)が行っているキャンペーンです。これは、親ロシア派のウクライナの人物や役人を標的にしたテロキャンペーンです。7月以降、SBUキエフ、そしてリヴォフ、テルノポールなどの地方で指導者が大きく交代したことを受けてのことです。8月21日にダリヤ・ドゥギナが暗殺されたのも、おそらくこのキャンペーンと同じ文脈でしょう。この新しいキャンペーンの目的は、ロシア軍に占領された地域で抵抗が続いているという幻想を与え、それによって疲弊し始めた欧米の援助を復活させることにあると考えます。

 これらの妨害活動は作戦上のインパクトはなく、むしろ心理作戦に近いと思われます。5月初旬のスネーク島のように、ウクライナが行動していることを国際社会にアピールするための行動なのかもしれません。

 クリミアでの事件が間接的に示しているのは、2月に西側が主張したクリミア民衆の抵抗が存在しないことです。それは、ウクライナと西側(おそらく英国)の秘密工作員の行動である可能性が高い。戦術的な行動を超えて、これは、ロシア語圏連合に占領された地域で重要な抵抗運動を活性化するウクライナ人の無能さを示しています。

 TP:ゼレンスキーは、「クリミアはウクライナであり、我々は決してそれを手放さない」という有名な言葉を残しています。これはレトリックなのか、それともクリミアを攻撃する計画があるのでしょうか?クリミア内にウクライナの工作員がいるのでしょうか?

 JB:まず、ゼレンスキーは非常に頻繁に意見を変えます。2022年3月、彼はロシアに対して「クリミア半島に対するロシアの主権を認める議論をする用意がある」と提案しました。しかし、EUとボリス・ジョンソンの介入が4月2日4月9日にあったので、ロシアの好意的な関心にもかかわらず、彼は提案を取り下げたのです。

 ここで、いくつかの歴史的事実を想起する必要があります。1954年のクリミアのウクライナへの割譲は、共産主義時代のソ連、ロシア、ウクライナの議会で正式に承認されたことはありませんでした。さらに、クリミアの人々は、1991年1月の時点で、キエフではなくモスクワの権威に服することに同意しています。つまり、ウクライナが1991年12月にモスクワから独立する以前から、クリミアはキエフから独立していたのです。

 7月、ウクライナの国防大臣アレクセイ・レズニコフは、ウクライナの領土保全を回復するために、100万人規模のヘルソンへの大反攻を声高に叫びました。しかし、実際には、ウクライナはこのような遠大な攻撃に必要な兵力、装甲、航空援護を集めることができないでいます。クリミア(スネーク島)での破壊作戦は、この「反攻」の代わりとなるものでしょう。実際の軍事行動というよりは、意思伝達のための演習のように見えます。つまり、これらの行動はむしろ、ウクライナへの無条件支援の妥当性を疑問視している西側諸国を安心させることを目的としているように思えるのです。

 TP:ザポリージャ核施設周辺の状況について教えてください。

 JB:エネルゴダールでは、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が何度も砲撃の標的になっていますが、その砲撃はウクライナとロシアがお互いに敵側からのものだとしています。

 分かっているのは、ロシア連合軍が3月初めからZNPPの敷地を制圧していることです。その時の目的は、ZNPPが戦闘に巻き込まれるのを防ぐため、そしてその結果、核事故を回避するために、ZNPPを迅速に確保することでした。担当していたウクライナ人職員は現場に残り、ウクライナ企業エネルゴアトムとウクライナ原子力安全機関(SNRIU)の監督のもとで作業を続けています。したがって、原発周辺での戦闘はありません。

 ロシアが自分たちの支配下にある原発を砲撃するとは考えにくいことです。ウクライナ人自身が「敷地内にロシア軍がいる」と言っているのだから、この疑惑はなおさらです。フランスの専門家によれば、ロシアはウクライナに流れる電力を遮断するために、自分たちの支配下にある発電所を攻撃するのだといいます。しかし、ウクライナへの電力供給を止めるにはもっと簡単な方法がある(多分スイッチを切るだけでいい)だけでなく、ロシアは3月以降、ウクライナへの電力供給を止めていないのです。さらに、ロシアはウクライナへの天然ガスの流れさえ止めずに、ヨーロッパへのガスの中継料をウクライナに払い続けていることを思い出してほしい。5月にソユーズ・パイプラインの停止を決定したのはゼレンスキー氏です。

 さらに忘れてはならないのは、ロシア軍が居るのは、住民がロシア側におおむね好意的な地域ですから、なぜロシア軍がそんな地域に砲撃をしかけて核汚染のリスクを負おうとするのか、理解しがたいことです。

 現実には、原発に攻撃を仕掛ける確実な動機はロシアよりもウクライナにあり、そう考えれば原子力発電所に対するこのような攻撃を説明することができます。ヘルソン市への大規模な反攻作戦をウクライナは実行できないので、その代替案なのです。そしてまた、この地域で計画されている住民投票を阻止するためです。さらに、ゼレンスキーが発電所周辺を非武装化し、ウクライナへの返還さえ求めれば、彼にとっては政治的にも作戦的にも成功したことになるわけです。核事故を意図的に誘発し、「無人地帯」を作って、その地域をロシアにとって使い物にならならないようにしてしまおうとしているとさえ想像できるかもしれません。

 また、ウクライナは原発を爆撃することで、ロシアが秋になる前にウクライナの電力網から原発を切り離そうとしているという口実で、欧米に紛争に介入するよう圧力をかけようとしている可能性もあります。この自殺行為――国連事務総長アントニオ・グテーレスが述べたように――は、2014年以来ウクライナが行ってきた戦争と一致するものでしょう。

 エネルゴダールへの攻撃がウクライナのものであることを示す強力な証拠があります。ドニエプル川の対岸から同地に向けて発射された弾丸の破片は、西側のものです。イギリスのBRIMSTONEミサイルという精密ミサイルからのもののようで、その使用はイギリスによって監視されています。どうやら、西側はウクライナのZNPPへの攻撃を知っているようです。このことは、なぜウクライナが国際調査委員会にあまり協力的でないのかや、なぜ欧米諸国がIAEAからの調査員の派遣に非現実的な条件をつけているのか、の説明にもなるかもしれません。とはいえIAEAは、これまであまり誠実さを示してこなかった機関ですが。

 TP:ゼレンスキーは、この戦争で戦うために犯罪者を解放していると報道されていますが? これは、ウクライナの軍隊が一般に考えられているほど強くないということを意味するのでしょうか?

 JB:ゼレンスキーは、2014年のユーロマイダンによって登場したウクライナ当局と全く同じ問題に直面しています。当時、ウクライナ軍はロシア語を話す同胞と対立したくないので、戦いたくなかったのです。英国内務省の報告によると、予備役が圧倒的に新兵募集への参加を拒否しています 。2017年10月から11月にかけて、徴兵者の70%が召集に現れていません。また自殺も問題になっています。ウクライナ軍の主任検察官アナトリー・マティオスによると、ドンバスでの4年間の戦争の後、615人の兵士が自殺していました。脱走が増え、特定の作戦地域では部隊の30%に達し、しばしばドンバス軍に有利に働くのです。

 このため軍はドンバスで戦うために、より意欲的で、高度に政治化され、超国家主義的で狂信的な戦闘員を軍隊に組み込む必要が出てきました。彼らの多くはネオナチです。プーチンが「非ナチ化」の目的に言及したのは、こうした狂信的な戦闘員を排除するためです。

 今日、問題は少し違ってきています。ロシアがウクライナに進攻したので、ウクライナ兵たちは、彼らと戦うことにはじめから反対しているわけではありません。しかし、ウクライナ兵は自分たちが受ける命令が戦況と一致していないことに気づいています。自分たちに影響を与える決定が、軍事的な要因ではなく、政治的な考慮と結びついていることを理解したのです。ウクライナの部隊は集団で反乱を起こし、ますます戦闘を拒否するようになっています。彼らは指揮官から見捨てられたと感じ、実行に必要な資源もないまま任務を与えられていると感じている、と言っています。

 だから、どんなことでもやる覚悟のある兵士を送り込む必要があります。そういった兵士は苦境を強いられるがゆえに、プレッシャーを受け続けることができるのです。スターリンに死刑を宣告されたコンスタンチン・ロコソフスキー元帥も、1941年に出獄し、ドイツ軍と戦ったのと同じ原理です。彼の死刑が解かれたのは、1956年にスターリンが亡くなってからです。
訳注:コンスタンチン・ロコソフスキーはソ連の軍人である。1937年の赤軍大粛清で無実の罪を着せられて逮捕され1940年までレニングラードの刑務所で拘留される。拘留期間に過酷な拷問を受けたが虚偽の自白も身内を売ることもせず耐え抜き1940年、ジューコフとチモシェンコの嘆願により釈放。療養期間を経て軍務に復帰した。東部戦線でジューコフとともにソ連を勝利に導いた。その戦いぶりからWW2最高の前線指揮官として評価されている。WW2東部戦線の正統派主人公である。
 1941年からの独ソ戦、バルバロッサ作戦~モスクワ攻防戦で、とくに1944年、バグラチオン作戦でソ連軍が量質ともにドイツを凌駕したことを明確にした。この戦いのあとロコソフスキーはソ連の軍人の最高峰であるソヴィエト元帥に昇進、さらにスターリンから父称で呼ばれるという敬意を受け、彼の名声は不動のものとなった。


 軍隊に犯罪者を使うことを覆い隠すために、ロシアは同じことをしていると非難されています。ウクライナと欧米は一貫して「鏡」のプロパガンダを使用しています。最近のすべての紛争と同様に、欧米の影響力は紛争の道徳化にはつながっていないのです。

 TP:誰もがプーチンがいかに腐敗しているかを語っていますね?しかし、ゼレンスキーはどうでしょう?彼は「英雄的聖人」なのでしょうか?そう賞賛するように言われていますが。

 JB:2021年10月、『パンドラ文書』によって、ウクライナとゼレンスキーがヨーロッパで最も腐敗しており、大規模な脱税を実践していることが明らかになりました。興味深いことに、この文書はアメリカの情報機関の協力で公開されたようですが、ウラジーミル・プーチンの名前は出てきません。正確には、プーチンに関連する人物について書かれており、その人物は未公開の資産とつながっているとされ、その資産はプーチンとの間に子どもをもうけたとされる女性のものである可能性があります。

 しかし、我々のメディアがこれらの文書について報道するとき、彼らは日常的にウラジーミル・プーチンの写真を掲載するが、ウォロディミル・ゼレンスキーの写真は掲載しないのです。


図2 ― パンドラ文書では言及されていないにもかかわらず、ウラジーミル・プーチンは一貫して文書と関連付けられている。一方、ウォロディミル・ゼレンスキーは広く関与しているにもかかわらず、我々のメディアで言及されることはない。



 私はゼレンスキーがどれほど腐敗しているかを評価する立場にはありません。しかし、ウクライナの社会とその統治が腐敗していることは間違いありません。私はウクライナでおこなわれたNATOの「誠実さの構築」プログラムにささやかな寄付をしましたが、寄付をしたどの国も、その効果に何の幻想も抱いておらず、このプログラムを西側の支援を正当化するための「粉飾」の一種としか考えていないことがわかりました。

 欧米がウクライナに支払った数十億ドルがウクライナ国民に届くことはまずないでしょう。CBSニュースの最近の報道によると、西側から供給された兵器のうち戦場に出るのは30~40%に過ぎないそうです。残りはマフィアやその他の腐敗した人たちを潤します。どうやら、フランスのCAESARシステムや、おそらくアメリカのHIMARSのような、西側のハイテク兵器はロシア人に売られているようです。CBSニュースの報道は、西側の援助を弱体化させないために検閲されてしまいましたが、このような理由でアメリカがウクライナにMQ-1Cドローンの供給を拒否したという事実は変わりません。

 ウクライナは豊かな国ですが、現在、旧ソ連邦の中で唯一、ソ連崩壊時よりもGDPが低い国です。したがって、問題はゼレンスキー自身ではなく、深く腐敗し、西側がロシアと戦うことだけを目的に維持しているシステム全体にあるのです。

 ゼレンスキーは2019年4月、ロシアとの協定締結というプログラムのもとで当選しました。しかし、誰も彼にそのプログラムを実行させませんでした。ドイツとフランスは、彼がミンスク合意を実行するのを意図的に妨げました。2022年2月20日のエマニュエル・マクロンとウラジミール・プーチンとの電話会談の記録は、フランスが意図的にウクライナを解決から遠ざけたことを示しています。さらに、ウクライナでは、極右やネオナチの政治勢力が公然とゼレンスキーを殺害すると脅しています。ウクライナ軍の司令官であるドミトリー・ヤロシュは2019年5月、ゼレンスキーがそのプログラムを実行したら絞首刑にすると宣言しています。つまり、ゼレンスキーは、ロシアとの合意形成という自分の考えと、欧米の要求の狭間で窮地に立たされているのです。さらに、西側諸国は、制裁による戦争戦略が失敗したことに気づいています。経済・社会問題が深刻化すればするほど、欧米は面子をつぶさずに引き下がることが難しくなります。英米やEU、フランスにとって逃げ道となるのは、ゼレンスキーを排除することだけでしょう。だからこそ、ウクライナ情勢が悪化している。今、ゼレンスキーは自分の命が狙われていることに気づき始めたのだと思います。

 結局のところ、ゼレンスキーはかわいそうな人です。彼の一番の敵は、彼が依存している人々、つまり西側諸国なのですから。

 TP:ソーシャルメディアには、ウクライナ兵が深刻な戦争犯罪を犯している動画(陰惨なもの)がたくさんありますね? なぜ西側諸国には、そうした残虐行為が「見えない」のでしょうか(そうした残虐行為を見ないふりすることができるのでしょうか)?

 JB: まず、はっきりさせておかなければならないのは、どの戦争でも、どの交戦国でも戦争犯罪を犯しているということです。しかし、意図的にそのような犯罪を犯した軍人は、軍服を汚すことになりますから、罰せられなければなりません。

 問題は、戦争犯罪が計画の一部であったり、上位司令部の命令によるものであったりする場合です。オランダ軍が1995年にスレブレニツァの大虐殺をさせた時がそうだったのです。カナダ軍とイギリス軍によるアフガニスタンでの拷問もそうです。アフガニスタン、イラク、グアンタナモなどでの米国による無数の国際人道法違反は言うまでもありません。これには、ポーランド、リトアニア、エストニアも加担していました。これらが欧米の価値観であるならば、ウクライナは正しい学校です。
訳注:スレブレニツァの虐殺は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中にボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァで1995年7月に発生した大量虐殺事件である。セルビア人勢力が8700人以上のボスニア人(ムスリム)の男子を虐殺した事件。虐殺に加えて 2万人以上のボスニア人が追放された(→民族浄化)。第2次世界大戦後のヨーロッパで最悪の大量殺人であるこの事件を機に,欧米諸国は停戦を強く求め,ボスニアの領有権をめぐる 3年に及ぶ紛争は終結した。

 ウクライナでは、西側諸国の加担によって、政治犯罪が常態化しています。したがって、交渉に賛成する者は消されます。ウクライナ人交渉官の一人であるデニス・キレエフが3月5日にウクライナ治安局(SBU)によって暗殺されたのがそうです。彼は、ロシアに有利すぎる、裏切り者と見なされたからです。同じことが、SBU将校であるドミトリー・デミャネンコにも起こり、3月10日に暗殺されました。ロシアとの合意に好意的すぎるという理由です。ウクライナという国が、ロシアの人道支援を受けたり与えたりする人物を「協力主義的(=ロシア協力者)」と考える国であることを忘れてはならないのです。

 2022年3月16日、テレビ番組「ウクライナ24」のジャーナリストがナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンに言及し、ロシア語を話す子どもたちを虐殺するよう呼びかけました。3月21日には、軍医のゲンナディ・ドルゼンコが同番組で、ロシア人捕虜を去勢するよう医師に命じたと宣言しました。ソーシャルネットワーク上では、これらの発言はすぐにロシア側のプロパガンダだということになり、2人のウクライナ人がそう発言したことについては謝罪しましたが、その内容については謝罪しなかったのです。また、ウクライナ人の犯罪がソーシャルネットワーク上で暴露され始めたので、ゼレンスキーは3月27日、西側の支援が危うくなることを懸念しました。その後、4月3日に、なかなか好都合なことに、ブチャの大虐殺が起こったのですが、その経緯は不明です。

 イギリスは当時、国連安保理の議長国でしたが、ブチャの犯罪に関する国際調査委員会の設置を求めるロシアの要請を3度にわたって拒否しました。ウクライナの社会党議員イリヤ・キバはテレグラムで、ブチャの悲劇は英国MI6特務機関が計画し、SBU(ウクライナ保安庁)が実行したことを明らかにしました。

 根本的な問題は、ウクライナ人が「作戦術」を残虐性に置き換えてしまったことです。2014年以来、ドンバスの自治を主張する自治派と戦うために、ウクライナ政府は「ハート&マインド」に基づく戦略を適用しようとしなかったのです。この戦略は、英国が1950年代から1960年代に東南アジアで用いたもので、残虐性ははるかに低いが、はるかに効果的で長続きする戦略なのです。キエフ政権はドンバスで対テロ作戦(ATO)をおこない、イラクやアフガニスタンでアメリカがおこなったのと同じ戦略を使うことを好んだのです。テロリストとの戦いは、あらゆる種類の残虐行為を認めてしまいます。アフガニスタン、イラク、マリで西側諸国が失敗したのは、紛争に対する全体的なアプローチの欠如が原因です。

 対反乱作戦(COIN)には、より洗練された全体論的なアプローチが必要です。しかし、私がアフガニスタンで直接見てきたように、NATOはそのような戦略を立てることができません。ドンバスでの戦争は8年間も続き、1万人のウクライナ国民と4千人のウクライナ軍人の死者を出しました。それに比べ、北アイルランドでの紛争は30年間で3700人の死者を出しただけです。ドンバス戦争の残虐行為を正当化するために、ウクライナ人はロシアのドンバスへの介入という神話を作り上げなければならなかったのです。
訳注:対反乱作戦は、ゲリラ、テロリストなどの反乱勢力などを鎮圧する作戦や行動をいう。対革命戦、対内乱作戦、治安戦とも表記されることもある。安定化作戦とも重複する部分が多い概念であり、対テロ作戦、対ゲリラ作戦を包括する上位概念である。(ウィキペディア)

 問題は、マイダンの新しい指導者たちの理念が、人種的に純粋なウクライナを獲得するということであったことです。言い換えれば、ウクライナ人の統一は、共同体の統合によってではなく、「劣等人種」の共同体を排除することによって達成されるべきものだったわけです。ウルスラ・フォン・デア・ライエンやクリスティア・フリーランドの祖父が喜びそうなアイデアですね! だからこそ、ウクライナ人は、ロシア語、マジャール語、ルーマニア語を話す少数民族に共感することができないのです。ハンガリーやルーマニアが、ウクライナに武器を供給するために自国の領土を利用されることを望まないのは、このためです。
訳注:ウルズラ・フォン・デア・ライエンは、欧州連合の第13代欧州委員会委員長。ドイツキリスト教民主同盟所属。
クリスティア・フリーランドは、カナダ副首相。祖父がナチス協力者で、叔父がカナダの大学教授をしている。

 こういうわけで、たとえ自国民を威嚇するために発砲したとしても、ウクライナ人にとっては問題にはならないのです。2022年7月にロシア語圏の都市ドネツクに、おもちゃのように見える数千個のPFM-1(蝶型の)対人地雷を散布したのも、このためです。この種の地雷は、その主な活動領域において攻撃側ではなく、防御側が使用するものです。しかも、この地域では、ドンバス民兵は「自宅で」、個人的に顔見知りの住民を相手に戦っているのです。

 戦争犯罪は双方でおこなわれているにしても、その報道は大きく異なっている、と私は思います。我が国フランスのメディアは、ロシアに起因する犯罪を(その真偽はともかく)大々的に報じてきました。一方、ウクライナの犯罪については、極めて沈黙しています。ブチャの大虐殺の全貌はわかりませんが、ウクライナが自らの犯罪を隠蔽するために演出したという仮説は、利用可能な証拠によって裏付けられています。これらの犯罪を黙殺することで、私たちのメディアは、犯罪に加担し、罰など受けないという免責の感覚を生み出し、ウクライナ人がさらに犯罪を犯すことを助長してきたのです。

 TP:ラトビアは、西側(アメリカ)がロシアを「テロ国家」に指定することを望んでいます。これについてはどう思われますか?これは、戦争が実際に終わり、ロシアが勝利したことを意味するのでしょうか?

 JB: エストニアとラトビアの要求は、ゼレンスキーがロシアをテロ国家に指定するよう求めたことに対応するものです。興味深いのは、クリミアやウクライナの占領地、その他のロシア占領地でウクライナのテロキャンペーンが繰り広げられているのと同じ時期に、この要求が出されたことです。また、2022年8月のダリヤ・ドゥギナ襲撃にエストニアが加担していたらしいことも興味深いことです。

 ウクライナは、自分たちが犯した犯罪や抱えている問題の鏡像で自分たちの意思を表明しているようです。つまりそれらを隠すためです。例えば、2022年5月末にマリウポリのアゾフスタル降伏でネオナチの戦闘員が映ると、「ロシア軍にネオナチがいる」と主張しはじめたのです。2022年8月、キエフ政権がクリミアのエネルゴダール発電所やロシア占領地でテロ的な性格の行動をとっていたとき、ゼレンスキーはロシアをテロ国家と見なすよう呼びかけました。

 実際、ゼレンスキーはロシアを倒すことでしか自分の問題を解決できないし、その敗北は対ロ制裁にかかっていると考え続けています。ロシアをテロ国家と宣言すれば、ロシアをさらなる孤立へと追い込むことになります。だから、彼はこのような訴えをしているのです。このことは、「テロリスト」というレッテルが作戦よりも政治的なものであり、このような提案をする人たちが、あまり明確な問題意識を持っていないことを表しています。問題は、それが国際関係に影響を及ぼすということです。このため、米国務省は、ゼレンスキーの要求が議会で承認されることを懸念しているのです。

 TP:今回のウクライナ・ロシア紛争の悲しい結果の1つは、欧米がいかに最悪の事態を招いたかということです。私たちはこれからどこに向かうと思いますか? これまでと変わらないのか、それとも変更を余儀なくされるのか。NATOや、もはや中立国でなくなった国々、そして西側が世界を「統治」しようとする方法の今後についてあなたの意見を聞かせてください。

 JB:今回の危機は、いくつかのことを明らかにしています。まず、NATOとEUは米国の外交政策の道具に過ぎないということです。これらの機関は、もはや加盟国の利益のために行動するのではなく、アメリカの利益のために行動しているのです。アメリカの圧力の下で採用された制裁措置は、この危機全体の中で大きな敗者であるヨーロッパに裏目に出ています。ヨーロッパは自ら制裁を受け、自らの決定の結果として生じる緊張に対処しなければならないのです。

 西側諸国の政府による決定を見ると、いまの指導者たちの実態が明らかになってきます。若くて経験の浅い指導者(フィンランドのサナ・マリン首相のような)、無知だが自分は賢いと思っている指導者(フランスのエマニュエル・マクロン大統領のような)、教条的な指導者(欧州委員会のアーシュラ・フォン・デア・ライエン委員長のような)、そして狂信的指導者(バルト諸国の指導者のような)、と挙げることができますが、これらの首脳には共通した弱点があります。それは特に複雑な危機を管理する能力が欠けていることです。

 頭が危機の複雑さを理解できないとき、私たちは根性論と独断的態度で対応します。これがヨーロッパで起きていることです。東欧諸国、特にバルト三国とポーランドは、アメリカの政策に忠実な下僕であると自認しています。また、未熟で、対立的で、近視眼的な統治を示してきました。これらの国々は、西側の価値観を完全なものにしたことがなく、第三帝国の勢力を称揚し、自国のロシア語を話す人々を差別し続ける国なのです。

 私は欧州連合(EU)についてはわざわざ言及しません。EUはこれまでずっと外交的解決に猛烈に反対し、火に油を注ぐだけの存在だったからです。

 紛争に巻き込まれれば巻き込まれるほど、その結果にもより深く関わってくるものです。勝てば万々歳。しかし、もし紛争が失敗に終われば、その重荷を背負うことになる。これが、最近の紛争で米国に起こったことであり、ウクライナで起こっていることです。ウクライナの敗北は、欧米の敗北になりつつあるのです。

 この紛争でもう一つ大きな敗者となったのは、明らかにスイスです。中立の立場が突然、信用を失ったからです。8月上旬、スイスとウクライナは、モスクワのスイス大使館がロシアにいるウクライナ国民を保護する協定を締結しました。しかし、この協定を発効させるためには、ロシアの承認を受けなければなりません。極めて当然のことながら、ロシアはこれを拒否し、「スイスは残念ながら中立国としての地位を失い、仲介者・代理人として行動することはできない」と宣言したのです。

 これは非常に重大な事態です。なぜなら、中立とは、単に一方的な宣言ではないからです。中立は一方的な宣言ではなく、すべての人に受け入れられ、認知されなければならないのです。しかし、スイスは欧米諸国と足並みを揃えるだけでなく、欧米諸国よりもさらに極端になったのです。170年近く認められてきた政策を、スイスはわずか数週間で台無しにしてしまったと言えます。これはスイスの問題ですが、他の国の問題でもありましょう。中立国家というものは、危機を脱するための方法を提供することができるはずです。現在、欧米諸国はエネルギー危機の観点から、面目を失わずにロシアに接近できるような出口を探しています。この役割を担っているのはトルコですが、それも限定的です。NATOの一員だからです。


図3 ― ロシアに制裁を加えた国や組織。スイスは中立国でありながら、1位に立っている。複数の独自情報によれば、これは米国からの圧力と脅迫でおこなわれたとのこと。しかし、これは中立の原則に大きな打撃を与えるものであり、将来の紛争に影響を与えるものだ。



 西側諸国は、「第2の鉄のカーテン」を作り出してしまったのです。それは今後何年にもわたって国際関係に影響を与えることになるでしょう。西側諸国の戦略的ビジョンの欠如には驚いてしまいます。NATOが米国の外交政策に同調して、中国攻撃に矛先を向けているあいだに、西側の戦略は「モスクワー北京」軸を強化したに過ぎないからです。

 TP:この戦争は最終的に、欧州、米国、中国にとってどのような意味を持つとお考えですか?

 JB:この問いに答えるには、まず別の問いに答えなければなりません。「なぜこの紛争は、西側諸国が始めた過去の紛争よりも、非難され、かつ罰せられるべきものなのか?」という問いです。

 アフガニスタン、イラク、リビア、マリの惨事の後、世界の他の国々は、西側が常識的にこの危機を解決する手助けをすることを期待しました。しかし西側諸国は、こうした期待とはまったく逆の反応を示したのです。この紛争がなぜ以前の紛争よりも非難されるべきものなのか、誰も説明できないばかりか、ロシアと米国の扱いの違いから、被害者よりも加害者の方が重視されていることが明らかになったからです。ロシアを崩壊させようとする努力は、国連安保理に嘘をつき、拷問をおこない、100万人以上の死者を出し、3700万人の難民を生み出した国々(すなわち、イラク戦争のとき、米国とそれに協力した英国・フランスなど)が与えられた完全な刑事免責とは対照的なのです。

 この扱いの差は、西側諸国では全く気づかれませんでした。しかし、「世界の他の国々」は、「法に基づく国際秩序」から、欧米が決定した「規則に基づく国際秩序」に移行していたことを理解しているのです。

 より世俗的なレベルで言うと、2020年にベネズエラの金塊をイギリスが没収、2021年にアフガニスタンの国債をアメリカが没収、そして2022年にロシアの国債をアメリカが没収したことで、西側の同盟国への不信感が高まっています。これは、非西側諸国がもはや、法に守られず、西側の善意に依存しているにすぎない、ということを見せつけたのです。

 このウクライナ紛争は、おそらく新世界秩序の出発点となるでしょう。世界が一気に変わるわけではありませんが、この紛争は世界の残りの人々の関心を高めました。「国際社会」がロシアを非難しているといっても、実際には世界人口の18%の話なのですから。

 伝統的に西側に近い当事国も、徐々に西側から離れつつあります。2022年7月15日、ジョー・バイデンは、2つの目的でモハメド・ビン・サルマン(MbS)を訪ねました。サウジアラビアがロシアや中国に接近するのを阻止することと、石油の増産を求めるという目的です。しかし、その4日前にMbSはBRICSのメンバーになることを正式に要請し、1週間後の7月21日にはMbSはプーチンに電話し、OPEC+の決定を支持することを確認したのです。つまり、原油増産はなし。欧米とその最強の代表に対する平手打ちでした。

 サウジアラビアは今回、原油の支払いに中国の通貨を受け入れると決めました。これは大きな出来事であり、ドルに対する信頼喪失を示す傾向を示しています。その結果は潜在的に巨大です。ペトロダラーは、1970年代に米国が赤字国債の資金調達のために創設したものです。他国にドルを買わせることで、米国はインフレのループに巻き込まれることなくドルを刷ることができます。ペトロダラーのおかげで、アメリカ経済は――基本的に消費者経済ですから――世界の他の国々の経済によって支えられているのです。元共和党上院議員のロン・ポールが言うように、ペトロダラーの崩壊は米国経済に悲惨な結果をもたらす可能性があります。

 また、制裁によって、欧米が標的としている中国とロシアが接近しています。これにより、ユーラシア圏の形成が加速され、世界における両国の地位が強化されました。米国が「日米豪印4カ国の枠組み(Quad)」の「二流」パートナーと蔑視(べっし)してきたインドは、ロシアや中国に接近しています。中国とは係争中であるにもかかわらず、です。

 現在、中国は第三世界における社会基盤の主要な供給者です。とりわけ、その中国のアフリカ諸国との付き合い方は、アフリカ諸国の期待に沿ったものとなっています。フランスなどの旧植民地主義国やアメリカ帝国主義の温情主義との連携は、もはや歓迎されていません。例えば、中央アフリカ共和国やマリは、フランスに自国から出て行くよう求め、ロシアを頼るようになりました。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)サミットで、アメリカは1億5000万ドルの拠出を誇らしげに発表し、「中国との広範な地政学的競争において地位を強化」するとしました。しかし、2021年11月、習近平国家主席は同じ国々に15億ドルを提供し、パンデミック対策と経済回復を支援しました。アメリカは、資金を戦争に使っているので、同盟関係を構築し強化するための資金が残っていないのです。

 欧米が影響力を失っているのは、「世界の他の国々」を「幼い子ども」のように扱い続け、優れた外交の有用性を軽視していることに起因しています。

 ウクライナでの戦争は、数年前に始まっていた上記の現象を引き起こした引き金ではありませんが、世界中の国々の目を覚まさせ、優れた外交を加速させるものであることは間違いないでしょう。

 TP:西側メディアは、プーチンが重病にかかったかもしれないとわめき散らしています。もしプーチンが突然死んだら、戦争に全く変化がないのでしょうか?

 JB:ウラジーミル・プーチンは、世界でも珍しい医療ケースだと思われています。彼は、胃がん、白血病、不明だが不治の病で末期症状、そしてすでに死亡していると報道されるなどです。しかし、2022年7月、アスペン安全保障フォーラムで、CIA長官ウィリアム・バーンズは、プーチンは「健康すぎる」と述べ、「健康状態が悪いことを示唆する情報はない」と発言しました。これは、ジャーナリストと称する人たちの仕事がどんなものかを実によく示しているではありませんか!

 プーチンが重病というのは希望的観測なのであり、高次元では、プーチンへのテロやプーチンの物理的抹殺を求める声と呼応しているのです。

 西側諸国はプーチンを通してロシアの政治を私物化しています。なぜなら、プーチンはエリツィン時代以降のロシアの復興を推進した人物だからです。アメリカ人は、競争相手がいなければチャンピオンになって、他人を敵と見なしたがります。これは、ドイツ、ヨーロッパ、ロシア、中国に対して当てはまります。

 しかし、我々西側のいわゆる「専門家」と呼ばれる人たちはロシアの政治についてほとんど知らないのです。現実には、ウラジーミル・プーチンはロシアの政治状況において、むしろ「鳩派」のような存在だからです。我々西側が作り出したロシアとの間に生まれた風土を考えれば、彼がいなくなってしまえば、より攻撃的な勢力が出現することもあり得ないことではないでしょう。忘れてはならないのは、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ジョージアといった国々には、ヨーロッパの民主的な価値観が育っていないことです。彼らはいまだにロシア系民族に対する差別的な政策をとっており、これはヨーロッパの価値観からかけ離れたものですし、また未熟な挑発者のように振る舞っています。もしプーチンが何らかの理由でいなくなれば、これらの国々との紛争は新たな局面を迎えることになると思います。

 TP:現在のロシアはどの程度統一されているのでしょうか。この戦争によって、ロシア国内に以前よりも深刻な反対勢力が生まれたでしょうか?

 JB:いいえ、その逆です。アメリカやヨーロッパの指導者たちは敵をよく理解していないのです。ロシア国民は非常に愛国的で結束力が強い。欧米諸国がロシア国民を「罰する」ことに執着した結果、ロシア国民が指導者に近づいてしまっただけなのです。実際、政府を転覆させるためにロシア社会を分裂させようとする西側の制裁は、最も愚かなものも含めて、クレムリンが長年言ってきたこと、すなわち西側がロシア人に対して深い憎しみを抱いているということを裏付けるものとなっています。かつて嘘だと言われたことが、今やロシアの世論のなかで確認されているのです。その結果、政府に対する国民の信頼はますます強くなっています。

 「レバダセンター」(ロシア当局は「外国人スパイ」とみなしている)が示した支持率によると、プーチンとロシア政府を取り巻く世論が厳しくなっている、といいます。2022年1月、ウラジーミル・プーチンの支持率は69%、政府の支持率は53%でした。現在、プーチンの支持率は3月以降83%前後で安定しており、政府の支持率は71%です。1月には29%がプーチンの決断を認めませんでしたが、7月には15%にとどまっています。

 「レバダセンター」によると、ロシアのウクライナでの作戦でさえ、好意的な意見が多数を占めています。3月には81%のロシア人は作戦に賛成していましたが、3月末の制裁の影響か74%に下がり、その後、再び上昇しました。2022年7月、作戦の国民的支持率は76%でした。


図4 ― ロシア人全員がウクライナでの特殊作戦を支持しているわけではないが、国民の4分の3は支持している。ウクライナの戦争犯罪、欧米の制裁、ロシア当局の優れた経済運営などがこの支持を説明している。[出典]



 問題は、我々西側のジャーナリストには教養もジャーナリズムの規律もなく、それを自分の信念にすり替えていることです。それは一種の陰謀で、事実ではなく自分の信じていることに基づいて、偽りの現実を作り出すことを目的としています。例えば、反体制派の指導者と目されているアレクセイ・ナワリヌイでさえ「私が権力の座に上っても、クリミアはウクライナには返還しない」と言ったことを知る(あるいは知ろうとする)人はほとんどいません。西側の行動によって反対派が完全に一掃されたのは、「プーチンの弾圧」のせいではなく、ロシアでは、外国の干渉や西側のロシア人への深い侮蔑に対する抵抗が超党派の大義名分になっているからです。まさに、西側諸国のロシア人嫌いと同じです。そのため、アレクセイ・ナワリヌイのような著名人が(決して人気が高いとはいえませんが)、大衆メディアの風景から完全に消えてしまったのです。
訳注:反体制派の指導者と目されているアレクセイ・ナワリヌイは、2014年10月のインタビューで、「私にその権力があったとしても、クリミア半島をウクライナに返還することはない」し、「ロシアにとって不法移民の問題は、隣国の戦乱のウクライナで起きていることよりも重要だ」と述べた。

 さらに、たとえ制裁がロシア経済に悪影響を与えたとしても、2014年以降の政府の対応を見ていますと、経済のメカニズムに精通し、状況を見極めるリアリズムに長けていることがわかります。ロシアでも物価の上昇はありますが、ヨーロッパに比べるとかなり低いですし、欧米経済が主要金利を引き上げているのに対して、ロシアは下げています。

 ロシアのジャーナリスト、マリナ・オヴシャニコワは、ロシアにおける反体制派の声の代表者として挙げることができます。彼女のケースが興味深いのは、例によって、我々西側がすべてを語っているわけではないことです。

 2022年3月14日、彼女はウクライナでの戦争の終結を求めるポスターを持ってロシア第1チャンネルのニュース番組に乱入し、国際的な喝采を浴びました。彼女は逮捕され、280ドルの罰金を科されました。

 5月、ドイツの新聞社ディ・ヴェルトは彼女にドイツでの仕事を提供しましたが、ベルリンでは親ウクライナの活動家が同紙に彼女との協力関係を解消させるためのデモをおこないました。メディア「ポリティコ」は、彼女がクレムリンのスパイ!である可能性を示唆したほどです。

 その結果、2022年6月、彼女はドイツを離れ、故郷のオデッサに住むことになりました。しかし、ウクライナ側は感謝するどころか、彼女を「ミロトウォレッツ」というブラックリストに載せ、反逆罪、「クレムリンの特別な情報・宣伝活動への参加」、「侵略者への加担」で告発しているのです。

 「ミロトウォレッツ」のウェブサイトは、ウクライナ政府の意見に同調しない政治家、ジャーナリスト、著名人の「暗殺リスト」です。リストに載っている人のうち、何人かは殺害されています。2019年10月、国連は同サイトの閉鎖を要請しましたが、これはヴェルホーヴナ・ラーダ(ウクライナの立法府。正式名はウクライナ最高議会)によって拒否されました。注目すべきは、わが国スイスの主要メディアのいずれもこの慣行を非難していないことです。これは、スイスの主要メディアが守ると主張する価値観とは非常にかけ離れています。言い換えれば、私たちのメディアは、かつて南米の政権に起因していたこれらの慣行を支持しているのです。


図5 ―「消された」とマークされたダリア・ドゥギナ


 その後、オフシャニコワはロシアに戻り、プーチンを「殺人者」と呼んで戦争反対のデモをおこない、警察に逮捕されて3カ月間、自宅軟禁されました。このとき、わが国スイスのメディアは抗議をしました。

 2022年8月21日にモスクワで爆弾テロの犠牲となったロシア人ジャーナリスト、ダリヤ・ドゥギナがミロトヴォレッツのリストに載っており、彼女のファイルは「清算(消去済み)」とされていたことは特筆に価します。もちろん、彼女が「ミロトウォレッツ」のサイトで狙われていたことに言及した西側メディアはありません。このサイトはウクライナ保安庁SBUとつながりがあると考えられてますので、西側メディアがこんな記事を載せれば、ロシアの言い分を支持することになってしまうからです。

 ドイツ人のアリーナ・リップ記者は、ドンバスにおけるウクライナと欧米の犯罪について暴露していますが彼女もまた、ウェブサイト「ミロトウォレッツ」に載せられています。さらに、アリーナ・リップは、ドイツの裁判所から欠席裁判で3年の実刑判決を受けたのですが、これは彼女が、ロシア軍がウクライナの地域を「解放した」と主張し「犯罪行為を美化」したからだというのです。ご覧のとおり、ドイツ当局は、ウクライナのネオナチ分子のように機能しています。今日の政治家たちは、彼らの祖父母の偉功を借りているだけなのです!

 戦争に反対する人がいても、ロシアの世論は圧倒的に政府を支持していると結論づけることができます。欧米の制裁は、ロシア大統領の信頼性を高めただけです。

 結局、私がこれまで述べてきたことは、我々西側のメディアと同じように、ロシアへの憎しみをウクライナへの憎しみにすり替えることではありません。逆に、世界は白か黒かどちらかではなく、欧米諸国の対応が行き過ぎであることを示すことです。ウクライナに同情的な人たちは、2014年と2015年に合意された政治的解決策を実行するよう、各国政府に働きかけるべきだったのです。彼らは何もせず、今はウクライナに戦いを迫っています。しかし、私たちはもはや2021年ではありません。今日、私たちは自分たちの非決断の結果を受け入れ、ウクライナが正常な状態に戻ることを支援しなければなりません。しかし、それはこれまでのように、そのロシア語圏の人々を犠牲にしておこなうのではなく、ロシア語圏の人々とともに、包括的な方法でおこなわなければならないのです。ただ、フランス、スイス、ベルギーのメディアを見ると、まだゴールにはほど遠いようです。

 TP:ボーさん、大変啓発的なお話をありがとうございました。
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住民投票以外に私たちの未来を想像できない。ドンバス住民、ロシアへの加盟に投票した理由を説明

<記事原文 寺島先生推薦>

‘I can’t imagine our future differently’: Donbass residents explain why they voted to join Russia
In this dispatch, RT’s correspondent in Donetsk outlines the local reaction to the referendums on reunification

(別の未来は想像できない:ドンバスの住民がロシア編入に賛成票を投じた理由を説明
この速報記事においては、ドネツクのRT特派員が、編入の是非を問う国民投票に対するドンバスの人々の反応を伝える)

出典:RT

2022年9月30日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月8日



投票所で、ルガンスク人民共和国のロシアへの編入の是非を問う住民投票に投票中の若い女性©  Sputnik / Evgeny Biyatov



 先週、ロシアに再編入する是非を問う住民投票が、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国、および解放されたザポリージャ地方、ヘルソン地方 、ニコラエフ(ニコラエフはヘルソン市に併合された地域) で行われた。

 その結果によると、編入への賛成票は、全ての4地域で圧倒的多数を占めた。ドンバスのRT特派員のウラジスラフ・ウゴリヌイは、この8年間、現場の人々の感情を目にしてきた。 以下は、住民投票がどのように行われたか、当該地域の人々にとってこの住民投票はどんな意味があったのか、なぜその投票結果ががそれとは違う結果にはならなかったのかについての、ウゴリヌイの記述だ。


関連記事:Vladislav Ugolny: Ukraine is targeting civilians for retribution in the east while its Western backers turn a blind eye


「編入に反対しない」理由のすべて

 ウクライナ国内に在住しているロシア人で、歴史的に見れば故郷であるロシアと結びつこうとしてきた闘いの歴史に精通している人なら、今回の国民投票の結果は全く驚くことではない。しかし、この地域の全ての人が投票に参加できたわけではなかったことを、冒頭で指摘しておくことは価値のあることだ。

 2020年、一人の戦士が、戦友に、自分がドネツク人民共和国軍に入ったのは、その地域の水準よりもいい給料が貰えるからだけだ、と語っていた。その時その戦士は、塹壕を掘る任務や、警護の任務につく準備をしている、と言っていた。しかし、軍事作戦が再び激しくなった時には、ユージヌィに向かう、と語っていた。そこはロシアへのバスが出ている駅があるところだ。結局その6ヶ月後に激しい戦闘が再開し、ドンバスで2度目の住民投票が行われることになった。しかしこの戦士は投票には参加しなかった。なぜだろう?言っていた通りに、逃げたのだろうか? 違う。この戦士は2021年に亡くなったのだ。もし彼が生きていたなら、何でも話してくれただろう。戦士というのは話すのが好きだから。戦友がウクライナによる砲撃に晒され、ケガをした戦友たちを救出しなければならなくなったとき、この戦士は志願した。その救助活動のあいだに、彼は亡くなった。戦いが激しくなったことも、新しい住民投票も目にすることなく。



投票所で、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国と、ウクライナ領であるザポリージャ地域とヘルソン地域のロシアへの編入の是非を問う住民投票に一票を投じる男性©  Sputnik / Ramil Sitdikov

    このように、ドンバスでここ8年間起こってきたことで不幸にさいなまれてきた人々はたくさんいる。 ドンバスの人々は地政学上の人質として、真綿で首を絞められるようにゆっくりと苦しみを味合わわされてきた。-そして、自分たちの土地とアイデンティティのために命を落とす覚悟ができている。ドンバスの人々と、ドンバスの人々の忍耐力のおかげで、ロシアによる軍事攻撃は可能になった。そして今回の住民投票が実施されたのも、ドンバスの人々とその忍耐力のたまものだ。

 ドンバスのすべての人々が、そのとき起こっていたことに嫌悪感をもつことについては、たくさんの理由があった。けがをした人はこれまでずっと何度も無視され、けがに対する補償金も支払われることはなかった。さらにこれは、記憶を操作する行為に当たるのだが、ドネツク人民共和国の統治下にないスラヴャンスク市とコンスタンチノフカ市で、ウクライナ人に殺害された子どもたちの名前が、「天使の路地(ウクライナ人に殺害された子どもたちを追悼するための記念碑)」から削除された。これらの名前を外すことで、まるでドネツク人民共和国当局がその領地や、キエフ政権の支配下にとどまっている人々の思い出を放棄している、と思わせているのだ。


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 独立して間もない頃、ルガンスク人民共和国は常に政治的な危機に置かれていた。それは、不人気だったイゴール・プロトニツキ政権が勝利したあとのことだ。プロトニツキ政権が退陣した後、彼よりもずっと人気のある レオニード・パセチニクが選ばれた。


「編入に賛成」するすべての理由

 再編入を求める声の基盤にあるのは、ロシアが法の支配の元で運営されているしっかりとした国である、という事実だ。ロシアは、国家機関も成熟し、文明社会も確立している国だ。地政学上の対立の前線で生活しているので、ドンバスにいるロシア人たちはいつか戦争がなくなってほしい、と夢見ていた。

 ドンバスの人々の望みは、ドンバスが、近隣のロストフ市のように、普通で平和なロシア領の一地方になることだった。さらに人々の望みは、武器を捨て、炭鉱や工場に戻り、砲撃に常にさらされることなく、子どもたちに教育を施すことだった。あるいは、道の落ち葉を掃くことだ。 道路にへばりついた血を落とすことではない。ロシアに編入すれば、それが勝利と同意になるのだ。結局のところ、これが戦闘の始まった理由なのだから。

 しかし人々の夢はかなわず、住民投票が戦争のさなかに実施されなければならなくなった。しかもその投票は、キエフが投票所を爆撃する危険にさらされていた。つまり投票行為自体が勝利と栄光の瞬間とはならなかったのだ。しかしこの住民投票をこれ以上遅らせるわけにはいかなかった。というのも、モスクワによる軍事作戦の目的であると宣言されたものの一つに、ドンバスに平和をもたらすこと、というものがあったからだ。



ドネツク人民共和国のドネツク市で、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、ウクライナ領のヘルソン地方とザポリージャ地方でのロシア編入の是非を問う住民投票で投票中の女性。Sputnik / RIA Novosti


 ドンバスとヘルソン地方とザポリージャ地方を、ウクライナ国家による大虐殺の危険から守る唯一の方法は、ロシア連邦に編入することしかなかった。今月(9月)はじめ町や村がキエフに抑えられたあとにハルキウ地方で行われた掃討作戦や、難民たちを輸送したことは、ウクライナにとって明らかに最後の一撃にすぎないだろう。

 これらの地域の人々の中に住民投票に批判的な人々がいる理由は、投票所が砲撃される危険があることだった。現在ドネツク人民共和国軍の一部隊に属している、私の友人の一人は、住民投票に参加することを拒絶した。この友人は、自分を正当化するためにこう語っていた。「自分はずっと前にすでに自分の立場を表明していて、今は手に銃を持つことで自分の立場を守っている」と。


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 この友人がさらに問うていたのは、なぜ両共和国をロシアに編入することが、ロシア政府の宣言だけで成し遂げられないのか、ということだった。彼の問いはこうだ。「なぜだろう。どんな答がでるか、明白なのに、なぜその答えをみんなに聞こうとするのだろう?」

 いうまでもないが、この戦士は別に民主主義の大ファンであるわけではない。

 しかし彼の考え方は少数派だ。テロ攻撃を受ける危険はあっても、ドンバスの住民たちは投票所に群れをなしている。答えがはじめから分かりきっている問題だからこそ、人々は、投票所で自分の立場を宣言していた。

 記者たちが住民たちから聞かされた話は、どの選択を選ぶについてではなく、このような機会を手にするまでどれだけ待たされたか、という話だった。

 住民投票の手続きは、通常の法律の規定を念頭に準備されたが、投票者たち自身は、「無記名投票」という概念は放棄していた。投票者たちは、みんなに見えるように「賛成」のほうにチェックをいれていた。

 「ドンバスの人々が住民投票を求めたのは、自分たちの選択を再度主張するためではありません。そんな主張は、2014年にすでに行われていたことで、それ以来何も変わっていないのですから。そうではなく、この機会を利用して、国際社会にこの枠組みを何らかの形で受け入れてもらう目的なのです」ドネツク国立大学の政治学部の一人の院生が、投票後にこう語っていた。この女性は、脚のけがのせいで投票所にいけなかったが、戸別投票により賛成票を投じた。

 「近くで爆発の音を聞きながら、雨の中、私は家の裏庭の移動投票箱の前に立ったとき、うれしく思いました。というのも私にとっては、この投票は長い沈黙のあとの第一歩だったのですから」

 ドンバスの国境地帯にあるエナキエヴエ市の住民であるドミトリーさんは、こう語っていた。「もちろん、私はこの住民投票をずっと待っていて、賛成に票を投じました。それ以外の未来は想像できません。戦争の現実を目にしなくて済むように、2015年から何度も、私は故郷を離れ、ウクライナに住む機会を与えられてきました」

 「ご存じの通り、私はその誘いには乗りませんでした。住民投票に参加することが、私ができる最大の貢献ではありませんでしたが、私は投票ができてうれしかったです。疑いなくそう思えたのは、投票の約40分後に、HIMARS(高機動ロケット砲システム)ミサイル が投票所に発射され、近所に榴散弾が着弾したからです」

 ドンバスでの住民投票はこのように行われたのだ。ザポリージャ地方やヘルソン地方においては、この住民投票は他地域ほどはお祭り騒ぎではなかった。それはウクライナの国家安全業務による監視があり、さらに妨害される危険も大きかったからだ。しかも他の地域のように8年間待たされたという状況もなかったからだ。しかしそんな中でも、人々はハルキウで起こった悲劇の再現を望んではいなかった。

 行われた住民投票は、婚約8年後の結婚のようなものだ。なぜもっと早く実施されなかったかの推測にはいろいろあるかもしれないが、出る答えは明白だ。


By Vladislav Ugolny, a Russian journalist based in Donetsk
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「大量破壊兵器」があるからイラク侵攻を!とのロビー活動をデイビッド・ケイは米国で展開したが、最後は自分の過ちを認める勇気を持った。

<記事原文 寺島先生推薦>
This man lobbied the US to invade Iraq over ‘WMDs’, but had the courage to admit his mistake

副題:2003年のイラク侵攻の口実について「私たちは皆間違っていた」と語ったベテラン兵器査察官、デイビッド・ケイ(David Kay)は誠実な人物だった。

筆者:スコット・リッター(Scott Ritter)


Scott Ritter is a former US Marine Corps intelligence officer and author of 'Disarmament in the Time of Perestroika: Arms Control and the End of the Soviet Union.' He served in the Soviet Union as an inspector implementing the INF Treaty, in General Schwarzkopf’s staff during the Gulf War, and from 1991-1998 as a UN weapons inspector.

出典:RT 

2022年8月27日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月8日


ディビッド・ケイ © Alex Wong / Getty Images / AFP

 イラクの軍縮義務の遵守について、積極的な査察手法と強い見解で知られるデイビッド・ケイは、最後に、世界に対して、イラクに関して全員が間違っていたという事実を突きつけ、その真の気概を示した。

 私がニューヨークに到着した1991年9月中旬までに、国連イラク特別委員会(UNSCOM)の兵器査察官たちは、5月から16回にわたってイラクに赴いていた。そのほとんどは、1988年7月に発効した中距離核戦力(INF)条約を履行したアメリカの経験から生まれた現地査察基準に従って実施されたもので、軍備管理遵守の検証手段として、世界で初めて現地査察に踏み切った。

 これは、いわば紳士協定であり、査察権を与える協定(イラクの場合、1991年4月に成立したUNSCOMとその軍縮ミッションを義務づける安保理決議687)の対象となる場所と資料を、徹頭徹尾一方が申告し、他方は、その申告内容の完全性を確認、そして査察対象国の主権と尊厳を尊重した形で関係資料の処分を監督することに同意するものであった。

 しかし、この方式にはいくつかの例外があった。イラクがUNSCOMに対して、禁止されている化学兵器、生物兵器、核兵器、長距離弾道ミサイル(WMD)の保有に関する申告を行った際、この申告を検討した多くの国は、イラクが核・生物兵器活動への関与を否定し、化学・長距離弾道ミサイル能力を著しく低く申告したことに驚かされたのである。


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 アメリカの諜報機関は、イラクがウラン濃縮に使用していたカルトロンと呼ばれる大型装置の存在を示す証拠を発見していた。この装置は、イラクが申告していなかった。1991年6月、国際原子力機関(IAEA)の査察団は、UNSCOMに与えられた権限の下で、米国の情報衛星がカルトロンを観測した施設の査察を行なった。査察団の団長は、経験豊富な保障措置査察官のデイビッド・ケイ。アメリカ側が特定した場所に到着したが、3日間現場に入ることを拒否された。やっと中に入ることを許されたが、何もなかった。イラク側がすべての資料を持ち去っていたのだ。

 アメリカの人工衛星は、バグダッド西部の軍事キャンプで、カルトロンを積んだ車列を発見した。査察の手順として、査察団は指定された場所に行くことを、イラク側に事前通知することになっていた。しかし、今回、デイビッド・ケイはイラク側に事前通告の礼を取ることなく、視察団を指定された場所に連れて行った。到着すると、武装した警備員によって場所への立ち入りが阻まれた。しかし、2人の査察官は近くの監視塔に登り、施設内を見渡した。そして、イラク人が収容所の裏側から車両を走らせているのを確認し、無線で連絡した。その中には、イラク人が収容所からの退去を急ぐあまり、適切な被覆を施さなかったカルトロンを積んだトラックもあった。しかし、イラク兵が頭上から威嚇射撃をしてきたため、停車せざるを得なくなり、数十枚の写真撮影だけを行った。

 ダメージは大きかった。査察団とイラクの間の長い外交的対立は、国連安全保障理事会が軍事力行使を許可する、と脅した時点で終わった。最終的に、イラクはウラン濃縮のための未申告の計画があることを認めざるを得なかったが、この取り組みが核兵器開発計画と関係があることは否定した。


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 7月の事後継続査察で、デイビッド・ケイは、イラク側の説明の矛盾点を十分に洗い出し、詳細な科学捜査と分析の結果から浮かび上がった技術的見解と合わせ、兵器計画の存在を明らかにすること成功した。

 9月、デイビッド・ケイは別の査察団を率いてイラクに入った。この査察は(通常の査察とは)異なっていた。IAEAの保障措置査察官や核専門家ではなく、米軍の特殊部隊やCIAの準軍事要員で構成されたこの査察団は、機密文書やその他の資料をいかに発見するかという「サイト・エクスプロイト」の訓練を積んでいたのだ。デイビッド・ケイの査察団は、軍を退役したイラク人から得た正確な情報をもとに、核兵器計画の存在を証明する機密文書を含む保存文書を発見することができた。デイビッド・ケイの査察団は、その文書を手に入れたものの、武装したイラク人警備員によって敷地から出ることを阻まれた。

 このやりとりはテレビで生中継され、衛星電話を通じて行われた数々のインタビューで、デイビッド・ケイは一躍有名になった。数日後、イラクは再び態度を和らげ、査察官と文書を解放。核兵器開発計画の存在を認め、核申告書を書き直すことを余儀なくされた。

 この快挙を単独で成し遂げたのが、デイビッド・ケイだった。

 私がデイビッド・ケイに初めて「会った」のは、9月危機の際、UNSCOMの担当者として勤務していた時で、電話で話したのが最初だった。その後、デイビッドがいろいろ協議をするためにニューヨークへ来た時、私は彼がUNSCOMの職員に自分の偉業を説明しているところをしっかり見たが、この伝説的な人物には恐れ多くて近づけなかった。


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 デイビッド・ケイの知名度は、IAEAの硬直した官僚機構にとって、あまりに大きいことがわかった。そして、その後すぐ、彼はIAEAを離れ、民間で穏やかな生活を送ることになった。

 一方、私自身は査察官としての知名度が上がっていった。1992年の夏には、私が作戦参謀として編成したチームが、大量破壊兵器関連資料を保管しているイラクの省庁の建物に入ることを拒否され、数日間にわたってイラクとにらみ合い状態になった。その年の秋、イラクの未申告弾道ミサイル部隊の実態を明らかにするため、私は2回の査察を構想・組織・主導した。その後、イラクが査察団から情報や資料を隠すために使っている、いわゆる隠蔽工作の調査を率先して行った。この任務の遂行にあたり、私が率いたチームは、イラク当局や治安部隊との間でしばしば困難なにらみ合いになり、1991年夏にデイビッド・ケイが引き起こしたのと同様の安保理介入を伴うこともあった。

 デイビッド・ケイと同じようなことをやっていると非難された時は、最高の褒め言葉だと思った。

 1998年8月、私が国連安保理を辞めた後、デイビッドと私の道は大きく分かれた。私は、7年間にわたるイラクでのUNSCOM査察の経験から、イラクが保有する大量破壊兵器はほぼ解明され、重要なものは何も残されていないと確信していた。

 しかし、デイビッドは、この任務には最初から参画しているので、(私とは)異なった操作方法を取っていた。彼はイラクが大量破壊兵器を査察団から隠していると非難した。このような争いの多い環境では、イラクの武装解除を査察団が成しどけることは、端的に言って、できない、というのが彼の考えだった。

 イラクの隠蔽工作に対抗するためにUNSCOMが用いた方法論、技術、戦術を考案し、実施した責任者として私は、デイビッド・ケイが私や仲間の査察官の仕事を誹謗したことに憤慨し、彼が米国議会や主流メディアに、イラクが相当数の大量破壊兵器を保持しており、この事実は米国の軍事介入に値する脅威であるという彼なりの考えを受け入れるようにうまく働きかけるのを、不満はありながら、じっと見守った。


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 ブッシュ政権は、元検査官として揺るぎない信頼を得ていたデイビッド・ケイのロビー活動を主な根拠として、2003年3月のイラク侵攻を米議会で承認させることができた。イラクの抵抗がなくなった直後の4月、デイビッド・ケイはイラク調査団(ISG)と呼ばれるCIAの組織の長に抜擢され、イラクの大量破壊兵器計画を追及することになった。

 デイビッド・ケイの伝記を知る人の多くは、IAEA査察官時代を彼の最大の功績として言及するが、私は別の見方をしている。2003年末、ケイは、その事実解明を任されたイラクの大量破壊兵器が、イラク侵攻前に、ケイが断固として存在すると証言していたものが、実際には存在しないという厳しい現実に直面することになったのである。この厳しい現実に直面したケイは、ISGの責任者を辞し、2004年2月の議会での証言で、イラクの大量破壊兵器の存在について、「私たちがやったことはすべて間違っていました。私の判断するところではそうなのです。それが今の私の心ひどくかき乱しています。」と認める勇気と誠実さを見せたのであった。

 デイビッド・ケイは2022年8月12日に逝去した。82歳であった。

 1991年の秋、戦いに疲れた元海兵隊員だった私をその存在と評判で圧倒し、イラク侵攻前のイラク大量破壊兵器の処分をめぐって意見の相違はあったものの、自分の過ちに責任をもって立ち上がる誠実さを持った男として、私は彼を永遠に忘れないだろう。

 デイビッド・ケイは、私にとって、これからずっと肉体的・道徳的勇気のお手本となるだろう。それがあれば、この困難な時代に、世界はもっと多くのことを成し遂げることができるだろう。そして、彼が亡くなった今、それに比して、この世界はますます見劣りがする場所となることだろう。
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ジャック・ボー:ハリコフからの撤退とロシア軍の新動員について考える

<記事原文 寺島先生推薦>

Kharkov and Mobilization

筆者:ジャック・ボー(Jacques Baud)

出典:Internationalist 360°

2022年10月1日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月6日


 ウクライナ軍にとって9月初旬のハリコフ地方の奪還は、成功であるかのように見える。我々西側のメディアは、ウクライナのプロパガンダを歓呼し、これを世界中に中継して、全く正確ではないイメージを我々に与えている。しかし作戦をよく観察すれば、ウクライナはもっと慎重になるべきであったかもしれない。


 軍事的観点からは、この作戦はウクライナ側にとっては戦術的勝利であり、ロシア連合側にとっては作戦的・戦略的勝利である。

 ウクライナ側では、ゼレンスキーが戦場で何らかの成功を収めなければならないというプレッシャーがあったのだ。ウォロディミル・ゼレンスキーは、西側からの倦怠感と支援停止を恐れていた。そのため、アメリカとイギリスは彼にヘルソン方面での攻勢をおこなうよう圧力をかけた。これらの攻勢は無秩序におこなわれ、不釣り合いな犠牲者を出し、成功しなかったため、ゼレンスキーと彼の軍人の間に緊張が走った。

 数週間前から、西側の専門家はハリコフ地区でのロシア軍の存在に疑問を呈してきた。ロシア軍は明らかにこの都市で戦闘する意図がなかったからだ。実際には、ロシア軍のハリコフ駐留は、ウクライナ軍がドンバスに行かないように、ウクライナ軍を足止めすることだけを目的としていた。

 8月には、ロシア軍はウクライナ軍の攻撃開始のかなり前にこの地域から撤退する予定であったことが示唆されていた。そのためロシア軍は、報復の対象となる可能性のあった市民も一緒に、順当に撤退した。その証拠に、バラクラヤの巨大な弾薬庫はウクライナ軍が発見したときには空っぽで、ロシア軍が数日前にすべての攻撃に弱い人員や装備を整然と移動させていたことがわかる。ロシア軍は、ウクライナが攻撃していない地域さえも残していた。ウクライナ軍がこの地域に進入してきたとき、ロシア国家警備隊とドンバス民兵が数名残っていただけだった。

 この時点では、ウクライナ軍はヘルソン地方で慌ただしく何度も攻撃を仕掛け、その結果、8月以降、何度も挫折し大きな損失を出していた。米国情報部は、ロシア軍がハリコフ地方から離脱することを察知し、ウクライナ側の作戦成功の好機と見て、その情報を流したのである。こうしてウクライナは、すでにロシア軍がほとんどいなくなったハリコフ地区への攻撃を急遽決定した。

 ロシア側は、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州で住民投票をおこなうことを予め考えていたようだ。ハリコフの領土は自分たちの目的とは直接関係がなく、6月のスネーク島と同じ状況(この島を守るエネルギーはその戦略的重要性よりも大きい)であることを知っていたのである。

 ハリコフから撤退したことで、ロシア連合はオスコル川の背後に防衛線を固め、ドンバス北部での存在感を強めることができた。その結果、スラビャンスク-クラマトルスク方面の要衝、バフムート地区で大きな前進を遂げることができたのである。これがロシア連合の真の作戦目標である。



*赤印がバフムート地区、オスコル川はイジュームとスラビャンスクのあいだに位置している青い蛇行線。



 もはやウクライナ軍をハリコフに「縛り付けておく」ロシア連合部隊が存在しなくなってしまったため、ロシアは電気インフラを攻撃する必要があった。ウクライナ軍が電車を使ってドンバスに援軍を送ることを阻止するためである。

 その結果、今日、すべてのロシア連合軍が陣を構えているのは、ウクライナ南部の4つの州、すなわち住民投票のあとロシアの新しい国境になる範囲内である。


 ウクライナ側にとってそれは「ピュロスの勝利」で、彼らは何の抵抗も受けずにハリコフに進攻し、ほとんど戦闘はなかった。
 その代わりに、この地域は巨大な「殺戮地帯」(зона поражения、患部の意)となり、ロシアの大砲が推定4000~5000人のウクライナ軍(約2個旅団)を破壊した。ウクライナ側の損失は、ヘルソン攻防戦での損失に輪をかけたものとなった。
 一方、ロシア連合は戦闘がなかったため僅かな損失を被っただけであった。


  訳注:ピュロスの勝利とは「犠牲が多くて引き合わない勝利」「損害が大きく、得るものが少ない勝利」のこと。エピラスのピュロス王がローマ軍と戦った。


 ロシア国防相のセルゲイ・ショイグによると、ウクライナ側は9月最初の3週間で約7000人の兵力を失ったという。この数字は確認できないが、欧米の一部の専門家の推定と桁が合っている。つまり、ウクライナ側は、ここ数カ月間に西側の援助で創設され装備された10個旅団のうち、約25%を失ったということになるようだ。10個旅団というのは、ウクライナの指導者が言及した100万人規模の軍隊とは程遠いものである。

 政治的な観点からいうとハリコフ奪還は、ウクライナ側にとっては戦略的な勝利であり、ロシア側にとっては戦術的な損失である。ウクライナ側がこれほど多くの領土を奪い返したのは2014年以来初めてで、ロシア側は負けているように見える。ウクライナ側はこの機会を利用して自分たちの最終的な勝利について伝えることができ、間違いなく、希望があれこれと膨れ上がり、交渉に参加する意欲をさらに減退させることになった。

 欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長が、「今は宥和の時ではない」と宣言したのもこのためだ。


 この「ピュロスの勝利」は、ウクライナにとって毒のある贈り物である。この勝利のために、欧米諸国はウクライナ軍の能力を過大評価し、ウクライナ軍に交渉ではなく更なる攻勢をかけるように仕向けることになった。

 「勝利」と「敗北」という言葉は、慎重に使う必要がある。ウラジミール・プーチンが表明した「非軍事化」「非ナチ化」という目的は、領土を得るということではなく、ドンバスにたいする脅威をなくすことである。



 言い換えれば、ウクライナ側は領土のために戦い、ロシア側は脅威の可能性をなくすことを目指す。ある意味、領土を守ることで、ウクライナ側はロシア側の仕事をやりやすくしているのである。領土はいつでも取り戻せるが、人命は取り戻せないからである。

 ロシアを弱体化させるという信念のもと、我々西側のメディアはウクライナ社会の漸進的な消滅を促している。矛盾しているようだが、これは西側指導者たちのウクライナに対する見方と一致している。西側指導者たちは、2014年から2022年にかけてのドンバスにおけるロシア語を話すウクライナ市民の虐殺に反応せず、今日のウクライナの損失にも言及しない。実際、我々西側のメディアや当局にとって、ウクライナ人は一種の「普通の人間以下Untermenschen」であり、その命は政治家の目標を満たすためだけにあるのだ。


 9月23日から27日にかけて、4つの住民投票が実施され、地域住民たちは地域によって異なる問いに答えなければならない。ドネツクとルガンスクの自称共和国は正式に独立しているので、国民はロシアへの加盟を望んでいるかどうかが問われている。ヘルソン州やザポリージャ州はまだウクライナの一部であるので、ウクライナに残りたいのか、独立したいのか、ロシアに入りたいのかが問われている。

 しかし、現段階では、ロシアに併合される州の国境はどうなるのか、など未知数な部分もある。国境を、現在のロシア連合が占領している地域の国境とするのか、ウクライナの地域の国境とするのか。もし2番目の解決策であれば、残りの地域(州)を奪取するためにロシアが攻勢をかける可能性がある。



 これらの住民投票の結果を推定するのは難しいが、ロシア語を話すウクライナ人はおそらくウクライナからの離脱を望むだろうと推測できる。世論調査は、その信頼性を評価することはできないが、80-90%がロシアへの加盟に賛成しているという。これはいくつかの要因から現実的と思われる。

 第一に、2014年以降、ウクライナの言語的少数民族は、二級市民となるような制限を受けている。その結果、ウクライナの政策によって、ロシア語を話す市民がウクライナ人であることを感じられなくなっている。これは2021年7月に制定された「先住民族の権利に関する法律」によって強調されたほどで、1935年のニュルンベルク法にやや相当し、民族の出自によって市民に異なる権利を与えるというものである。このため、ウラジミール・プーチンは2021年7月12日、ウクライナに対し、ロシア語話者をウクライナ国民の一部とみなし、新法が提案するような差別をしないよう求める記事を書いている。

 もちろん、欧米諸国はこの法律に対して抗議していない。これは2014年2月の公用語に関する法律の廃止に続くものであり、それがクリミアやドンバスの分離独立の理由となった。

 第二に、ドンバス分離独立との戦いにおいて、ウクライナ側は決して反政府勢力の「心」を獲得しようとはしなかった。それどころか、爆撃し、道路を穴だらけにし、飲料水を断ち、年金や給与の支払いを停止し、あるいはすべての銀行業務を停止することによって、彼らをさらに遠ざけるためにあらゆることをおこなってきたのである。これは、効果的な対反乱戦略とは正反対である。

 最後に、住民を威嚇し、投票に行かせないようにするために、ドネツクやザポリージャ、ヘルソン地方の他の都市に砲撃やミサイル攻撃を行うことは、地元住民をキエフ政権からさらに遠ざけることになる。現在、ロシア語圏の住民は、この住民投票が受け入れられなければ、ウクライナからの報復があるだろうことを恐れている。

 つまり、西側諸国はこれら4つの住民投票を認めないと発表しているが、その一方で、ウクライナに対して少数民族をもっと受け入れる政策をとるように促すことは全くしていないという状況だ。結局のところ、これらの国民投票が明らかにし得るのは、包括的なウクライナの国家というものは昔も今も存在していないということである。

 さらに、これらの国民投票は状況を凍結させ、ロシアの征服を不可逆的なものにする。興味深いことに、もし西側諸国がゼレンスキーに2022年3月末ロシアに対して彼がおこなった提案を継続させていたならば、ウクライナは2022年2月以前の国家構成をほぼ維持していただろう。思い起こせば、ゼレンスキーは2月25日に最初の交渉要請をおこない、ロシアはこれを受け入れたが、EUは4億5千万ユーロの武器供与という最初のパッケージを提示してこれを拒否したのである。3月、ゼレンスキーは再度提案をおこない、ロシアはこれを歓迎し、協議する用意があった。しかし、EUは再び5億ユーロの武器提供という第二のパッケージを提示してこれを阻止しに来たのである。

 ウクライナ・プラウダ紙の説明によると、ボリス・ジョンソンは4月2日にゼレンスキーに電話をかけ、提案を撤回するよう求め、さもなければ西側諸国は支援をやめると言った。そして、4月9日、キエフを訪問したボリス・ジョンソンは、ウクライナ大統領に同じことを繰り返し言った。したがって、ウクライナはロシアと交渉する用意があったのだが、「欧米は交渉を望んでいない」と、ボリス・ジョンソンは8月の最後のウクライナ訪問の際に再び明らかにしたのである。

 ロシアに国民投票を促したのは、交渉が成立しないという見通しであることは確かだ。忘れてはならないのは、これまでプーチンが、ウクライナ南部の領土をロシアに統合するという考えを常に拒否していたことである。

 また忘れてはならないのは、もし西側諸国がウクライナとその領土の完全性を重視しているならば、フランスとドイツは2022年2月以前にミンスク合意に基づく義務を確実に果たしていたであろうことである。さらに、2022年3月にゼレンスキーが提案したロシアとの協定を進めさせることもできただろう。問題は、欧米がウクライナの利益ではなく、ロシアを弱体化させることを目的としていることである。


部分的な動員

 プーチンの「部分的な動員」発表に関して想起すべきことは、ロシアがウクライナに介入した兵力は、西側が攻撃作戦を行うために必要と考える兵力よりかなり少なかったことである。その理由は2つある。第一に、ロシアは「作戦術」に精通していることを拠り所とし、チェスプレーヤーのように作戦の舞台で作戦モジュールを駆使していることである。これが、少ない人員で効果を発揮することを可能にしている。つまり、効率的に作戦を遂行する方法を知っているのだ。

 第二の理由は、我々西側のメディアが意図的に無視していることだが、ウクライナにおける戦闘行為の大部分はドンバス民兵がおこなっていることである。「ロシア人」と言うのではなく、(正直に言えば)「ロシア人連合」あるいは「ロシア語話者の連合」と言うべきだろう。つまり、ウクライナに駐留するロシア軍の数は比較的少ない。しかも、ロシアのやり方は、作戦地域に一定期間しか部隊を駐留させないことである。つまり、西側諸国よりも部隊のローテーションが頻繁におこなわれる傾向にある。

 こうした一般的な考慮事項に加え、ウクライナ南部の住民投票の結果、ロシア国境が1000キロ近く延長される可能性がある。そうなると、より強固な防衛システムの構築、部隊のための施設建設など、さらなる能力が必要となる。その意味で、今回の部分的な動員は良いアイデアだと思う。その意味で、この部分的な動員は、上に見たような論理的帰結である。

 西側諸国では、動員を避けるためにロシアを離れようとした人々についてずいぶんわめき散らしている。そういう人々は確かに存在する。徴兵を逃れようとした何千人ものウクライナ人が、ブリュッセルの街角でパワフルで高価なドイツのスポーツカーに乗っているのを見ることができるのと同じである。しかし、徴兵所の前に長い行列を作る若者たちや、動員を支持する民衆のデモについては、あまり宣伝されていない。


核の脅威

 メディアが言うのとは反対に、戦術核兵器の使用は、もはや何年も前からロシアの使用方針にはない。さらに、米国とは異なり、ロシアは先制不使用の方針である。
  
 核の脅威については、プーチンが9月21日の演説で、核のエスカレーションの危険性に言及した。当然ながら、陰謀論的なメディア(=何の関連性もない情報源から物語を構築するメディア)は、即座に「核の脅威」を口にした。

 しかし、現実にはそうではない。

 プーチンの演説の文言を読めば、核兵器を使うという脅しはしていないことがわかる。実際、彼は2014年にこの紛争が始まって以来、一度もそうした脅しはしていない。しかし、彼はそのような兵器の使用に対して西側諸国を警告している。

 8月24日に労働党の選挙戦の中で、リズ・トラスが、「ロシアを核兵器で攻撃することは容認できる、たとえそれが地球滅亡につながるとしても、その用意がある」と宣言したことを思い出してほしい!英国首相の職にある人物のこのような発言は今回が初めてではなく、すでに2月にボリス・ジョンソンにクレムリンは警告を発していた。さらに、今年4月、ジョー・バイデンが米国の「先制不使用」政策からの離脱を決定し、その結果、核兵器の先制使用権を留保したことを思い出してほしい(つまり、先制使用を公言していたということだ)。

 つまり、プーチンは西側の行動を明らかに信用していないのである。西側は、完全に非合理的で無責任であり、独断とイデオロギーに導かれた目的を達成するためなら自国民を犠牲にすることも厭わないからである。

 これは現在、エネルギーと制裁の分野で起こっていることであり、リズ・トラス英首相が核兵器についておこなおうとしていることでもある。プーチンが西側指導者の反応を心配しているのは確かである。彼らは自分たちの無能さによって破滅的な経済・社会状況を作り出したために、ますます居心地の悪い状況に置かれているからである。このような指導者への圧力は、面目をつぶさないためだけに紛争をエスカレートさせることにつながりかねない。

 プーチンは演説の中で、核兵器を使用すると脅してはいない。他の種類の兵器を使用すると言っているのだ。もちろん、極超音速兵器を考えているのだろう。それなら核兵器でなくても効果があり、西側諸国の防衛を妨害できる。さらに、我々西側のメディアが言うのとは逆に、戦術核兵器の使用は、もはや何年も前からロシアの使用方針にはない。さらに、米国と異なり、ロシアは先制不使用の政策をとっている。

 つまり、欧米人とその普通じゃない行動こそが、不安の真の要因なのである。

 我々西側の政治家たちが、この状況を明確かつ客観的に捉えているかというと、そうではないだろう。スイス連邦大統領イニャツィオ・カシスの最近のツイートは、彼の情報レベルの低さを示している。まず、スイスの役割や中立性を述べて善処を申し出ているあたり、少し地理的な感覚がずれている。ロシアの考えでは、スイスは中立の立場を放棄しており、この紛争で建設的な役割を果たしたいのであれば、中立性を示す必要があるだろう。スイスは中立性からは遙かに遠い。

 第二に、カシスがロシア外相ラブロフに核兵器使用の懸念を表明したとき、彼は明らかにウラジミール・プーチンのメッセージを理解していなかった。今の欧米の指導者の問題は、自分たちが愚かな行為によって作り出した課題に対処する知的能力を、現在のところ誰も持ち合わせていないことだ。カシスは、トラスやバイデンに自分の懸念を伝えた方がよかったかもしれない。

 ロシア、特にプーチンは、常に明確な声明を出し、一貫して計画的に自分たちが言ったことを実行してきた。それ以上でも以下でもない。もちろん、プーチンの発言に反対することもできるが、彼の発言に耳を傾けないのは大きな間違いであり、おそらく犯罪的でさえある。もし聞いていれば、今のような事態を防げたかもしれないのだから。

 また、現在の一般的な状況を、ロシアを不安定化しようとする青写真として2019年に発表されたランド研究所のレポートに記載されている内容と比較することも興味深い。


図1-ランド研究所が2019年に発表したロシアを不安定化させる方法に関する論文より。この文書から、米国がロシアに対する破壊工作を目指しており、その中でウクライナは不幸な道具に過ぎないことがわかる。



 このように、私たちが目撃しているのは、綿密に計画されたシナリオの結果なのである。ロシアは、西側が自分たちに対して何を計画しているかを予測することができた可能性が非常に高い。そのため、ロシアは、政治的・外交的に、これから起こるであろう危機に備えることができた。この戦略的な先読みの能力こそが、ロシアが西側諸国よりも安定的で、より効果的、効率的であることを示しているのである。だからこそ私は、この紛争がエスカレートするとすれば、それはロシアの計算によるものというよりも、西側の無能さによるものだと考えている。



  ジャック・ボーは地政学の専門家として広く尊敬を集めており、『プーチン』など多くの論文や著書を発表している。『ゲームの達人?フェイクニュースでガバガバ』『ナワリヌイ事件』など。近著にウクライナ戦争に関する『オペレーションZ』がある。

 ランド研究所報告書『ロシアを過剰拡張させ、バランスを崩させる――コスト負担の大きいオプションの影響評価』の表紙から赤の広場を撮影。
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米国の世界支配の継続を守るため、食糧危機と貧困危機が演出されている

<記事原文 寺島先生推薦>

An Engineered Food and Poverty Crisis to Secure Continued US Dominance

筆者:コリン・トドハンター(Colin Todhunter)

出典:INTERNATIONALIST 360° 

2022年8月29日 

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月5日



 
 2022年3月、国連のアントニオ・グテーレス国連事務総長は、ウクライナ危機により生じた「飢餓の嵐と世界の食糧体系の崩壊」について警告を発した。

 グテーレス事務総長は、食料や燃料や肥料の価格が、供給網が阻害されたため急激に高騰したと語り、さらにこのような状況が最も貧しく、最も苦しんでいる人々を直撃し、世界規模で政治が不安定で混乱した状況が生じる原因が撒かれている、と付け加えた。

 「持続可能な食糧体系に関する国際専門家委員会(International Panel of Experts on Sustainable )」によると、現在世界には十分な食糧があり、食糧供給が不足する危機にはない、という。

 つまり、食糧は豊富にあるのに価格は急上昇している、ということだ。この問題は食糧不足にあるのではない。ひとつは、食糧が投機対象の商品にされてしまっていること。もう一つは、世界の食糧体系が操作されてしまっていることにある。世界の食糧体系については、不正がまかり通っていて、農業関連業者(アグリビジネス)への投機家たちと、農業関連の設備や肥料などの供給業者の利益に奉仕するものになっていて、人々の要求や真の意味の食糧保全は犠牲にされている。

 ウクライナでの戦争は、貿易とエネルギーをめぐる地政学上の紛争である、と言える。つまりこの戦争を概して言えば、ロシアと欧州に対する代理戦争を米国が仕組んでいる、ということだ。具体的には、欧州をロシアと引き離して、ロシアに制裁をかけることで欧州に被害を与え、欧州の米国に対する依存を強めさせようという魂胆だ。

 経済学教授のマイケル・ハドソン氏が先日述べたところによると、この戦争の究極の敵は欧州とドイツだ、とのことだ。 ロシアに対する制裁措置の目的は、欧州諸国やその同盟国が、ロシアや中国との貿易や投資の増加を妨げることにある、という。1980年代から始まった新自由主義政策は、米国経済を空洞化させた。生産基盤が厳しく弱体化された米国が覇権を維持する唯一の方法は、中国とロシアに害を与え、欧州を弱体化させることしかない。

 ハドソンによると、一年前から、バイデンと米国のネオコン勢力は、ノルド・ストリーム2やすべてのロシアとの(エネルギー)貿易を止めさせることで、米国がエネルギー分野を独占することを目論んでいた、という。

 目下、「グリーン計画」が強力に推し進められているが、米国はいまだに化石燃料エネルギーに依存し、米国の力を外国に伸ばそうとしている。ロシアと中国がドル離れの動きを見せている中でも、石油と天然ガスの価格(加えてそれにより生じる借金)をドル建てで支配することが、米国が世界覇権を維持する重要な鍵となっている。

 米国は、ロシアに制裁をかければどうなるかが予めわかっていたのだ。つまりこの制裁により、世界がふたつの勢力に分断され、新冷戦が加速するという状況が見えていたのだ。その二つの勢力とは、一方は米国と欧州で、もう一方はロシアと中国の両国を中心とする勢力だ。

 米国の政策立案者たちは、欧州がエネルギーや食糧価格の上昇により苦しめられ、食糧を輸入しているグローバル・サウス諸国も物価の高騰で苦しむであろうことは分かっていた。


 米国が、大きな危機を創作することで、世界覇権を維持しようとした動きを見せたのはこれが初めてではない。その際も、主要な商品の価格を急騰させることで、各国の米国への依存を高め、米国への借金を増加させるという罠をしかけていたのだ。

 2009年に米国の作家アンドリュー・ギャビン・マーシャルは、金本位制が終了してからまだ間もない1973年に、ヘンリー・キッシンジャーが中心となり、中東での事件(第一次中東戦争とそれに伴う“エネルギー危機”)を操作した、と記していた。この事件のおかげで、米国は世界覇権を持続することができたのだ。当時米国は、ベトナム戦争のせいで事実上破産状態にあり、ドイツと日本の経済成長により米国による覇権が脅かされていた。

 キッシンジャーの助力により、OPECの石油価格のとてつもない高騰が守られ、英米の石油諸会社に十分な利益がもたらされた。当時英米の石油諸会社は、北海油田の件で多額の負債を抱えていたのだ。キッシンジャーはさらに、サウジアラビアや後にはアフリカ諸国とのペトロダラー(オイルマネー)体制を固めた。このことがキッカケとなり(石油を基盤にした)工業化への道が開かれ、さらには石油価格の急騰により、米国への依存と米国への借金が加速されることになった。

 広く考えられていることだが、石油価格を高く据え置く政策の目的は、欧州と日本と発展途上諸国に害を与えることだったのだ。

 こんにち米国は再び、人類の多くの人々に対する戦争を行っている。これらの人々を貧困に陥らせる意図は、米国と米国が利用している金融機関への依存と借金を確実に持続させることにある。その金融機関とは世界銀行と国際通貨基金だ。

 米国の政策により、何億もの人々が、貧困と飢餓に陥ることになるだろう。(既に陥っている人々もいるが)。これらの人々(米国やファイザー社などが、非常に気にかけていて、一人一人の腕に予防接種を打ちたがっていた人々だ)は、この巨大な地政学的ゲームの中では軽んじられ、巻き添え被害をうけても仕方がないと見なされている。

 多くの人々の考えとは食い違うかもしれないが、米国にとっては、ロシアにかけた制裁の結果生じたことが計算外だった訳ではない。マイケル・ハドソンの記述によれば、エネルギー価格の高騰により、米国の石油会社はエネルギー輸出により利益を得、国際収支も向上している、さらに、ロシアに制裁をかける狙いは、ロシアの輸出(肥料生産のための小麦や天然ガス)を減らし、農産物の価格を高騰させることにもある。このことは、米国の農産物輸出にも利をなすことになる。
 
 これが、他諸国に対する覇権の維持を求めようとしている、米国の手口だ。

 今とられている諸政策の目的は、食糧危機と債務危機を作り出すことだ。そしてその対象とされているのは、より貧しい国々だ。米国はこの債務危機を利用して、これらの貧しい国々が、民営化の動きや公共財の売却を継続せざるをえないよう追い込むことができる。それは石油輸入や食糧輸入の価格が上がったことで、負債を抱えなければならなくなっているからだ。


 このような帝国主義的手法が、「新型コロナに関する救済」のためのローンの裏側でも同様の目的のもと、行われてきたのだ。2021年、オックスファム(貧困と不正の根絶を目指す社会団体)がまとめた、国際通貨基金による新型コロナに関するローンの概要により分かったことは、アフリカの33ヶ国が緊縮財政策をとるよう奨励されていたことだった。2022年、世界最貧諸国が430億ドルの負債の支払いを済ませなければならないが、その金があれば、食糧輸入にかかる費用をまかなえる。

 オックスファムと「開発金融インターナショナル(Development Finance International:ビジネス助言会社)」がさらに明らかにしたことは、アフリカ連合加盟国55ヶ国のうちの43ヶ国が、公共支出の削減に直面し、その総額はこれからの5年間で1830億ドルに上るという事実だ。

 2020年3月の世界経済の閉鎖(「ロックダウン」のことだ)のせいで、世界各国の負債状況は前代未聞の道のりをたどることになった。融資条件をのむということは、各国政府が西側の金融機関の要求を受け入れざるを得ない状況に置かれることを意味する。これらの負債は主にドル建てであるため、世界各国において、米ドルと米国の影響力を強めることにつながった。

 米国は新世界秩序を創造しつつあり、そのためにはグローバル・サウス諸国が、確実に米国の影響下にある衛星国家であり続けることが必要だ。これらの国々がロシアや、特に中国の傘下に入り、経済発展を求める中国の一帯一路構想に加わることは許されない。

 新型コロナ後は、ウクライナでの戦争が、米国のこの戦いなのだ。ロシアに制裁をかけることで、食糧危機とエネルギー危機を演出している、というのが今の本当の現状だ。

 既に2014年に、マイケル・ハドソンは以下のように記述していた。すなわち、米国がグローバル・サウス諸国のほとんどを支配下に置くことを可能にしているのは、農業と食糧供給を統制しているからだ、と。世界銀行が地政学的な戦略のもとグローバル・サウス諸国に借金をさせ、これらの国々に換金作物(プランテーション輸出作物)を栽培させるよう説得し、その結果これらの国々が食糧不足に陥っている。つまり、 自国が必要とする作物を作らせない、という戦略だ。

 石油産業も農産業も、米国の地政学的戦略に一心同体として組み込まれてきたのだ。

 世界を股にかける巨大農産業企業(カーギル社、アーチェル・ダニエル・ミッドランド社、ブンゲ社、ドレイファス社など)が推進し、世界銀行も支持している「食の安全」という支配的な概念の実現が可能になるのは、食糧を購入できる余裕のある人々や国々だ。この概念は、自給自足とは全く関係がなく、巨大農産業諸企業が支配する世界市場や世界規模の供給網のことだけを指している。

 石油と同様、世界の農業の支配は、これまで何十年もの間、米国の地政学的戦略の要であり続けている。「緑の革命」が、石油で巨大な利益を得る業者からの恩恵として輸出され、貧しい国々は、農産業資本による化学製品や石油製品に依存した農業を採用した。そして、そのような農業を行うためには、施設整備やインフラ整備のためにローンを組まなければならなかった。
緑の革命・・・1940年~1960年頃に取り組まれた、多収穫の穀類などの開発や化学肥料の大量投入による農業革命のこと。

 そのため、これらの国々は世界の食糧体系に組み込まれた。その食糧体系とは、輸出用の単一栽培作物に頼ることで、外貨を獲得するというものだ。これは各国が抱える債務支払いがドル建てでなされることや、世界銀行や国際通貨基金が各国政府に命じる「構造改革」と繋がっているものだった。 私たちが目にしてきたのは、自給自足のできていた多くの国々が、食糧不足国家に陥る様だった。

 さらに私たちが目にしてきたのは、諸国が商品作物生産の悪循環に追い込まれる様だった。石油や食糧を買うために外貨(米ドル)が必要となり、輸出用の換金作物の栽培を増やさざるを得ない状況に置かれたのだ。

 世界貿易機関の「農業に関する協定 (AoA)」により貿易協定が決められたが、その協定は企業への依存を必要とする種類のものであるのに、「世界の食の保全のため」という仮面が掛けられている。

 ナブダーニャ・インターナショナルによる2022年7月の報告書により、このような状況が説明されている。その報告書の題名は、「飢餓の種をまき、利益を得る -仕組まれた食糧危機-」だ。その報告書の記載によると、国際的な貿易法と貿易の自由化は、巨大アグリビジネスに利益を与え、それらの企業は「緑の革命」の推進のおかげで巨利を得つづけている、ということだ。
ナブダーニャ・インターナショナル ― 「9つの種」の意味をもつ、インドにあるNGOが母体。グローバル化に対抗して、種子や文化の多様性を重視した農業を追求している。

 この報告書によれば、米国でのロビー活動と貿易交渉を取り仕切っていたのは、カーギル社の投資向けサービス部門の元CEOで、ゴールドマン・サックス銀行の重役だったダン・アムステュツだ。アムステュツは、1988年にロナルド・レーガン政権下のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)のウルグアイ・ラウンドの主席交渉官をつとめていた。このことが一助となり、新しい法律により米国のアグリビジネスの利益は神聖化され、世界の商品貿易やその結果生じる農産業分野の拡大の波が統制されることになった。
ウルグアイラウンド・・・世界貿易上の障壁をなくし、貿易の自由化や多角的貿易を促進するために行われた多国間通商交渉

 AoA(農業に関する協定)のせいで、農家が世界市場の価格や変動から守られることがなくなった。それと同時に、米国やEUは特別扱いを受け、自国の農業に補助金を出すことで、巨大アグリビジネスにとって有利な状況を作り出すことができた。

 以下はナブダーニャ・インターナショナルの報告書からの抜粋だ。

 「関税による保護や助成金による保護が取りやめられる中、小規模農家は貧しい状態で放置されていた。その結果、農家が生産物で得る利益と、消費者が支払う額との間に格差が生じた。つまり農家の稼ぎが減って、消費者の支払額が増えているということだ。それはアグリビジネスが、仲介者として巨額を手にしているからだ」

 「食の保全」のため、各国の食の主権や食糧自給が、国際市場の統合や企業の力のせいで粉砕されている。

 このような状況を知るためには、他国が経験しているような新自由主義の「ショック療法」を自国に施して賞賛を浴びているインドほど、目を向ける必要がある国はない。

 「自由化」法制が取られた目的の一つは、米国のアグリビジネスが利益を得ることだったのだが、そのためインドの食糧が不安定化されることになった。それはインドの緩衝在庫がなくされるようにし向けられたからだ。この緩衝在庫は、インドの食の保全のためには不可欠なものだった。アグリビジネスの貿易商が、海外にある蓄えを使って世界の食糧市場を不安定にする動きの予防にもなっていたからだ。
緩衝在庫・・・供給量を調整するために保管されている在庫のこと

 インド政府は、丸一年かけて行われた大規模な農民たちによる抗議活動がおこってからやっとのことで、このような政策をとることを断念したのだった。

 現在の危機は、投機によっても悪化させられている。ナブダーニャの報告書は、米国のライトハウス・レポート社とワイア社(ロイター関連のメディア)による調査を引用していた。その調査は、投資会社や投資銀行や ヘッジファンドによる農作物に対する投機が、食糧価格の高騰にどうつながっているかを示すものだった。それによると、農作物の先物取引価格は、実際の供給とはもはや関係がなく、市場の要求に応えるもので、投機の対象でしかなくなってしまっている、とのことだった。

 アーチャー・ダニエル・ミッドランド社も、ブンゲ社も、カーギル社も、ルイス・ドレイアス社も、ブラックロック社やバンガード社のような投資ファンドも、大もうけを続けていて、その結果パンの価格が二倍になってしまった貧しい国々もでてきている。

 世界を股に掛けるアグリビジネスが推し進めている現在の食糧危機に対する「解決策」(皮肉的な意味だが)は、農家の人々に増産させ、よりよい生産法を模索させようというものだが、これではまるでこの危機が生産不足のために生じた、と思わせているようなものだ。真の狙いは、化学薬品や、遺伝子操作技術を増やそう、というところにある。そうやって借金まみれになる農民の数を増やし、アグリビジネスへの依存を高めよう、という魂胆だ。

 使い古された嘘がまた利用されている。その嘘とは、世界が飢餓に陥るのは、生産物がなくなり、もっと多くの生産が求められている、というものだ。しかし世界が飢餓に瀕し、食糧価格が高騰している本当の理由は、巨大アグリビジネスがそんな体制を作ってしまっているところにあるのだ。

 そしてこれもまた使い古された手口だが、新しい技術を推し進めるために、無理矢理問題を探し、その危機を利用して新しい技術の導入を正当化するというやり方が横行している。そしてその際は、そのような危機を起こしている本当の問題には目が向けられない。

 ナブダーニャ・インターナショナルの報告書は、そうではない真に実現可能な現状に対する解決策を提案している。その提案が根ざしているのは、農業による環境作りであり、食糧の供給線を短くすることであり、食の主権であり、経済における民主主義だ。つまり多くの記事や公的な報告書で長年描かれてきた政策をもとにした解決策なのだ。

 普通の人々の生活水準が犠牲にされていることに対して抵抗することへの支持が、英国などでの労働運動で結集されている。英国鉄道労組のミック・リンチ組合長は、労働者階級による運動を呼びかけている。そしてその運動のもとになるのは、団結と階級への気づきであり、その気持ちを持って、自分たちの階級の利益だけを強く意識している億万長者階級に反抗しよう、としている。

 「階級」という概念が政治談義の主な対象になることがなくなって久しい。階級闘争を行うためには、組織し、抗議運動で連帯するしかない。それが普通の人々が新しい専制的権威主義に基づく新世界秩序に対して何かしら印象に残る打撃を与えられる方法だ。というのも、富裕層は普通の人々がもつ権利やなりわいや生活水準に対して壊滅的な攻撃を加えているからだ。それが今、私たちが目にしていることだ。


コリン・トドハンターは、食や農業や発展についての記事を多く書く独立系メディアの作家である。

フランスの薪価格が急騰

<記事原文 寺島先生推薦>

French firewood prices soaring – media
Growing demand ahead of winter is driving up the cost of heating with renewable resource, BFMTV reports

(フランスの薪価格が高騰ーメディア報道から
冬に向けて需要が高まる中、新しい燃料を使った暖房費用が高騰していると、フランスのBFMTVが報じた)

出典:RT

2022年9月23日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月4日


© Getty Images / Ashley Cooper

 フランスの薪価格は上昇し続けていて、6月と比べて平均1割増しになっているが、それは今年、各家庭が例年になく早めに備蓄を用意しているからだ、とフランスのBFMTV局が9月23日に報じた。

 その報道によると、現在の価格は1立方メートルあたり約90ユーロ(87ドル)になっており、さらに薪の需要が、この2か月間で、一年単位で5割増しになった、という。

 このような需要の高まりのせいで、配達に大幅な遅延が出ており、 購入者は注文後、配達まで3~5ヶ月待たなければならなくなっている。ただし、「最悪の場合、注文しても入手できない場合もある」とその報道は警告していた。

 薪製造業者は、需要に追いつけない場合、配達を一家庭あたり1立方メートル分の薪に限定する措置をとる可能性も示唆している。

 「例年に比べて、人々がとてつもなく早く冬への備えをしようとしているのです」とフランスの木質ペレット専門家の組織であるプロペレット・フランス社が先週発表した。 「業者が現状に対応して、生産可能量を増やすまでには時間がかかるため、遅延が生じています。供給が需要に追いついていないのです」と同社は説明している。
木質ペレット・・・木材を材料にした固形燃料


 フランス国民が薪や木質ペレットを群がって購入しているのは、エネルギー価格が危機的状況を迎えている中で、各家庭の暖房をこれまでとは別の形で賄おうとしているからだ。 このような動きは、フランスの国家エネルギー規制機関CREが、今年の冬が厳冬になった場合、各個人家庭で停電が発生する危険性について警告したことを受けてのことだ。
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ドイツはトイレットペーパー不足に直面

<記事原文 寺島先生推薦>

Germany faces toilet paper shortage
Manufacturers say the energy crisis is leading to higher prices and limited supplies

(ドイツはトイレットペーパー不足に直面
製造業者はエネルギー危機のせいで、価格の高騰と 供給制限が引き起こされていると主張)

出典:RT

2022年9月23日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月4日


©  Getty Images / Image Source

 ドイツのトイレットペーパーの生産は、ヨーロッパのガス危機に強く煽られて、製品不足に直面する可能性がある。エネルギー価格の高騰により、一部の企業はすでに倒産を宣言したり、生産を削減したりしている。

 「聞いたところによると、この危機はコロナ禍のときよりも、製造業にとって深刻なものになる可能性が高いそうです」とドイツ産業連合のエネルギーおよび気候政策の責任者であるカルシュテン・ロレ氏は、9月23日金曜日、ファイナンシャル・タイムズ紙の取材に答えた。

 ロシアからの天然ガス供給が減少する中、電力不足とエネルギー費用の上昇に対する懸念が高まっているため、ゼワ・リブレッセ・ロータスなどのトイレットペーパーのブランド商品を所有するエシティ社は、すでに価格を18%も引き上げる必要があり、代替燃料による供給源の使用を検討している、と発表している。

 一方、デュッセルドルフに本拠を置く、操業開始1928年のハックル社など他のトイレットペーパー製作会社は破産宣告を出している。その理由として、エネルギー価格の高騰、パルプの価格高騰、および輸送費の高騰により、財政的に事業の遂行が不可能になったためだ、としている。

 「非常に短期間で、電気とガスの価格があまりに急速に高騰したため、これに合わせて迅速に顧客に対応できない、ということです」とハックル社の流通責任者であるカレン・ユング氏は、ロイター通信の取材に答えている。


関連記事: German producer prices hit all-time high – data

 ドイツのハレ経済研究所によると、8月に約718社のドイツ企業が倒産したが、これは前年より26%増加したことになる、という。この数字は、9月には約 25%に留まるが、10 月には33%に上昇する、と予想されている。

 ドイツの製紙業界は現在、オラフ・ショルツ政府にエネルギー価格の上限を制定するよう求めており、それが倒産を止めることができる唯一の策であると主張している。「(エネルギー価格の)上限を設けない限り、倒産の波を止めることはできないと思います」と ハックル社のフォルカー・ユング専務取締役はファイナンシャル・タイムズ紙の取材に答えた。

 一方、製紙業協会のマーティン・クレンゲル副会長は声明を出し、「最優先事項」は「人々に生活必需品であるトイレットペーパーという商品を確実に供給すること」であると述べた。

 ドイツだけでなくEU の多くの国でも、価格は数か月前から急騰している。ドイツ連邦統計局 (Destatis) は今週、同国のエネルギー価格がここ12 か月間で約 139% 、さらに電気料金は174.9%急騰した、と報告した。 

 ドイツ経済は景気後退に向かっており、来年のGDPは0.7% 減少すると予想される、と警告している経済評論家もいる。
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英国の国家債務がさらに悪化

<記事原文 寺島先生推薦>

UK sinks deeper into debt
High inflation is driving interest payments to record levels

(英国はさらなる借金地獄に沈んでいる。
高いインフレにより、利払い額が記録的な数値に)

出典:RT

2022年9月24日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月4日



英国ロンドンのオックスフォード通りにある、閉鎖された小売店跡地。2022年9月7日. ©  Mike Kemp / In Pictures via Getty Images


 英国政府の債務利子が記録上最高水準に達したと、国家統計局 (ONS) が今週報告した。

 先月(2022年8月)の支払利息は82億ポンド (92.5億ドル) で、これは2021年8月より15億ポンド (17億ドル) 高く、1997年4月に記録が開始されて以来の最高額であると、ONS は発表した。さらに支払利息額が不安定になっているのは、主にインフレ率の高騰によって引き起こされているものだ、とも発表した。

 英国の年間インフレ率は6月に9.4%に達し、過去40 年間で最高の数値を記録していたが、8月には8.6% にまで下降していた。

 英国政府は8月に、予想のほぼ2倍の額の借り入れを行い、予算責任局が見積っていた60億ポンド (67億ドル) ではなく、118 億ポンド (133 億ドル) を借り入れた。それは、税収入などの収入以上に支出が多かったためだ、とONSは説明した。


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 公営銀行を除いた官業の純債務は、GDPの約96.6% を占めており、前年同期と比較してGDPに占める割合で、1.9%増加している。

 市場は、リズ・トラス首相が発表した、家計と企業向けの一連の支援策が借入額を押し上げ、イングランド銀行が積極的に金利を引き上げることにつながることを懸念している。

 9月、英国ポンドは、同国の経済の不安定さに反応し、ドルに対して1985年以来の最低水準に急落した。
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ロシア経済の見通しが大幅に改善された

<記事原文 寺島先生推薦>

Russian economic forecast sharply improves
GDP is now expected to contract 2.9% in 2022, versus 4.2% projected earlier

(ロシア経済の見通しが大幅に改善された
当初4.2%と予見されていたGDPの縮小率が、2.9%に修正された)

出典:RT

2022年9月21日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月3日


© Getty Images/Jon Hicks


 ロシアのGDPの縮小率が予想よりも大幅に低くなると見込まれる、とロシアのマキシム・レシェトニコフ経済相が9月21日水曜日に述べた。

 改善された見通しをもとに、同経済相は、今年のGDP縮小率は2.9%で、2023年は0.8%になると見ている、とした。

 8月に同経済相は、2022年のGDPの縮小率は4.2%で、2023年は2.7%であると見ていた。

 レシェトニコフ経済相によると、2024年から2025年にかけては2.6%の増加が見込まれる、とのことだ。これは、今年と来年については西側による制裁のために低下している、国内消費と国内投機の増加が見込まれているためだ、という。

 同経済相はさらに、2022年末における失業率は
4.5%で、インフレ率は12.4%になる見通しである、と語った。またロシア国民の手取り給は2022年には2%低下するが、 早くも来年には2%の増加に転じる、とも述べた。

 4月の世界銀行の発表では、2022年のロシア経済の縮小率は11.2%にものぼる、としていた。

関連記事:Sanctions offer Russia ‘pleasant surprise’ – analysts

 レシェトニコフ経済相は、制裁が行われたことによるエネルギー価格の高騰に合わせて、政府がとった緊急支援措置が、ロシア経済の安定に繋がった、と強調した。
 
 ロシア政府高官はかねてより、西側による制裁に直面する中でも、ロシア経済は予想よりも持ちこたえている、と語っていた。

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エネルギー危機へのスイスの節電対策

<記事原文 寺島先生推薦>

Swiss hospitals advised to cut power use

The move could help prevent energy rationing in the country in winter, the government says

(スイスの病院が電力消費を減らすよう助言
この動きが冬季のエネルギー配給を減らす一助になる、と政府が発表)

出典:RT

2022年9月23日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月3日


© Getty Images / Peter Cade


 エネルギー危機が悪化する中、スイスの医療機関は電気消費量を減らすことを考えるべきである、とスイス連邦国家経済供給局エネルギー部門の責任者、バスティアン・シュワーク氏は述べた。

 「病院は電気やガスの使用量の制限を免除されていますが、どうすれば電気消費量を減らすかについても考慮すべきです」とシュワーク氏は、9月21日水曜日、スイスの新聞社であるノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング社の取材に答えた。

 シュワーク氏はさらに、医薬品産業のような重要な産業においても、生産を大きく削減することなしに、費用削減措置を取ることは可能である、と付け加えた。

 「現在、ほとんど全ての産業において例外が必要とされています。しかしそれは正しいやり方ではありません。むしろ、それぞれの産業が、危機的状況においてできることを考えるべきです」とシュワーク氏は述べ、さらにこう付け加えた。「例えばその中には、勤務時間の削減という策も考えられます。このような措置により、10~20%の電気消費量を削減できるのであれば、使用量の割り当て制度の導入を見送ります」 

 先月のスイス連邦参事会の発表によると、同参事会はスイスでの天然ガスの使用量を2022年10月から2023年3月までの間で、ここ5年間の平均使用量より15%減らすことを求めていく、という。この決定の理由として、この先ロシアからの天然ガスの供給が止まる可能性があることがあげられていた。

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 スイス当局は、天然ガスと電気の供給が不足した際に起こるエネルギー危機に対する緊急計画を立てている。この計画には、いくつかの段階が設定されていて、市民の意識向上をはかるため、店舗のショーウィンドウの電灯を落としたり、暖房の使用を止めるなどすることによりエネルギー節約の呼び掛けを行う段階から、 エネルギーを多く使う消費者3万人に対して、配電措置を取り、使用量に制限をかける段階までが考慮されている。
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EU圏の経済成長率がゼロパーセンになる可能性

<記事原文 寺島先生推薦>

Eurozone economic growth may drop to zero – ECB
Economic output has been suffering due to rising energy costs

(EU圏の経済成長はゼロになる可能性――ヨーロッパ中央銀行の発表
 エネルギー価格の高騰により、経済状況は悪化)

出典:RT

2022年9月27日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月3日


© Getty Images / Nenad Stojanovic / EyeEm


 EU圏の経済成長が伸び悩み、成長率がゼロにまで落ち込む可能性がある、とヨーロッパ中央銀行(ECB)の副銀行長が、9月26日月曜日、ある会議の席でに語った。
 
 「第3四半期と第4四半期に大幅な減速が見られるため、成長率がゼロに近づく可能性があります」とルイス・デ・ギンドス副銀行長が語ったと、ロイター通信は報じている。

 エネルギー価格の高騰と、ロシアからの天然ガスの輸入停止により、経済生産は苦境に置かれ、暖房が必要になる季節が迫る中、エネルギーの配給危機が生じる危険が高まっている。エネルギー価格の高騰により、EU圏の年間インフレ率は8月には9.1%を記録し、 今月(9月)は9.6%にまで上昇すると見込まれている。これはEU圏において過去になかった高い値だ。

 今月初旬、ヨーロッパ中央銀行は利上げを行ったが、その数値は0.75%というこれまでにないものだった。しかも、つい数週間前にインフレ対策として、 0.5%の利上げを行ったばかりのことだ。 同副銀行長は、この先も更なる利上げが行われることになるとし、10月にも利率の変更が見込まれるという分析のもと、来春までのどの会議でも利上げが決められていくだろう、と語った。

 デ・ギンドス副銀行長は、この先の利上げがどのくらい積極的なものになるかは言及せず、「数値に基づいて」決められると述べるにとどめたが、インフレによる圧力はここ数ヶ月非常に高まっていることを強調した。

関連記事:ECB unleashes historic rate hike

 先週の同行の公式発表によると、ヨーロッパ中央銀行はこの先もインフレに対抗する策を講じ続ける必要がある、というのも経済の減速が消費者価格の引き下げには不十分であるため、とのことだった。

 「市場には、経済の減速がインフレを緩和するという考え方があります。しかし現実はそうはなっていません。何らかの金融政策が取られなければなりません」と同副銀行長は先週語っていた。
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トヨタはロシアの自動車工場を撤退

<記事原文 寺島先生推薦>

Major automaker to shut down plant in Russia
Toyota will retain after-sale services and a dealer network in the country

(主要自動車諸会社が、ロシアの工場から撤退

トヨタ自動車は、ロシアでのアフターサービスと販売網は維持)

出典:RT

2022年9月23日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月3日


サンクトペテルブルクの工場で製造に着手されているトヨタRAV4 ©  Sputnik / Mikhail Kireev


 日本の自動車会社であるトヨタ自動車が、サンクトペテルブルクの工場の閉鎖を決定した、とロシアの産業貿易相が9月23日の金曜日に声明を出した。

 トヨタ自動車は、全ての社会的義務を果たすことを誓約し、従業員には追加給与を支払うとこを約束した、とその声明にはあった。トヨタ自動車は、トヨタ製自動車やレクサス製自動車のアフターサービスは続け、ロシア国内の販売網も維持する、とのことだった。

 このニュースが初めて伝えられたのは、9月23日金曜日のことで、ロシアのコメルサント社が報じた。その記事によると、ロシア国内でトヨタ自動車による自動車製造は再開されないが、工場を閉めるということは、トヨタ自動車がロシアから完全に撤退するという意味ではない、とのことだった。

 トヨタ自動車の工場の操業は既に3月に中止されていたが、それはウクライナでの紛争に伴う供給網が分断されたことによるものだった。それと同時に、トヨタ自動車は、ロシアへの自動車輸出も停止した。

 カムリとトヨタモデルのRAV4を製造していたこの工場は、1年で10万台の自動車を製造できる工場だった。コメルサント社の情報源によると、この工場は現状保存され、ゆくゆくは売り出されることになりそうだ、という。同産業貿易相によると、 当地域の行政当局は、この工場に使われている用地の可能な使用法について模索中である、とのことだ。

 トヨタ自動車はこの件に関して、メディアからの取材には応じていない。

関連情報: Best-selling cars in Moscow revealed

 ウクライナでの軍事作戦開始以来、トヨタ自動車がロシアでの操業を停止した最初の企業ではない。フォルクスワーゲン社や日産社やボルボ社など他社も2月24日以来、操業を停止している。
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9/11攻撃の21周年は、アメリカの新しい現実の1周年

<記事原文 寺島先生推薦>

The 21st anniversary of the 9/11 attacks is the 1st anniversary of America’s new reality

(副題)9.11テロ事件から20周年を迎えた米国は、世界唯一の超大国としての地位を維持するために苦闘している。

筆者:スコット・リッター(Scott Ritter)

出典:RT

2022年9月11日



Scott Ritter 元米海兵隊情報将校。「ペレストロイカ時代の軍縮:武器の支配とソ連邦の終焉 (Disarmament in the Time of Perestroika:Arms Control and the End of the Soviet Union) 』の著者。ソ連ではINF条約(中距離核戦力全廃条約)実施監察官、湾岸戦争ではシュワルツコフ将軍の幕僚、1991年から1998年までは国連兵器査察官として勤務した。

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月2日


ファイル写真. ペンタゴン(ワシントンDC)の9.11記念式典で花輪を捧げるジョー・バイデン米国副大統領。© AFP / SAUL LOEB

 今年は、2001年9月11日に米国で発生した同時多発テロ事件から21年目にあたる。21年というのは、伝統的に注目される記念日にはならない。人々は、カレンダーの上でのキリのいい数字の魅力に基づいて年月の経過を記録するのが好きなのであって、その事件と現実との関連性にはさほど関心を持たない。1年目の記念日は重要だが、2年目の記念日はそれほどでもない。10年目の記念日は重要だが、11年目の記念日はそうでもない。

 昨年、米国と世界は9.11テロ事件から20周年を迎えた。この日が単なる時間の経過以上に重要だったのは、その関連性である。2021年にアメリカが「世界テロ戦争」として知られるようになる事態に突入したのは、アメリカがアフガニスタンから不名誉な撤退をしてから1カ月もたたない時期であった。2021年8月のカブール撤退は、20年にわたるドラマの最終幕だった。9.11の恐怖を世界支配のきっかけにしようと、アメリカの新保守主義エリートが唱えた「新しいアメリカの世紀」というビジョンが、地政学的な現実の浅瀬で座礁し、転覆し、最終的には自ら作り出した国家的傲慢さの嵐の中に沈んでいったのである。

 20年にわたる「テロとの戦い」(いくつかのはっきりした紛争から成る。アフガニスタン、そして、おそらく最も注目すべきはイラク)という政策の大失敗から(その実像が見えてきた)アメリカは、懲罰と屈辱は受けたが、負けを認めることも、謙虚になることもなかった。ここには①アメリカが現在置かれた地政学的現実と②米国のエリート指導層の自己陶酔的傲慢さ、との間の二項対立がある:

① アメリカはこの20年間世界を見向きもせず、中東の砂漠や山々で国家の血と財と評判を浪費してきた。
② 米国のエリート指導層は米国企業に自分たちが与えた損害を認識できない、及びあるいは、認識しようとしないため、復興のための外交、経済、セキュリティ戦略を構築する上での米国企業の集団的有用性を無効にしている。

 「20年+1年」を迎える9/11はこの新しい現実の初年度


関連記事:9/11 victims’ families appeal to US over seized Afghan funds

 結婚記念日の場合、新郎新婦は最初の結婚記念日とその後の結婚記念日がどう繋がっているのかが、よくわかっている。しかし、アメリカを全体として見た場合、つまり具体的にはアメリカ国民、その指導者、そして主流メディアは、9・11の20周年に自分たちがどこにいて、どのようにしてそこに至り、どこへ向かっているのかについて、事実に基づいて、感情的にならずに考察することができない。つまり、今のアメリカは今年が「ポスト9/11」の1周年を迎えていることを理解していない。アメリカ人の大半はそのことが分かっていないのだ。

 中東と中央アジアという地政学的な荒野を20年間さまよった末に、アメリカは軍事的にも経済的にも外交的にも、はるかに弱い国として姿を現した。この衰退をさらに深刻なものにしているのは、アメリカが20年にわたる自滅行為に従事している間、世界の他の国々は無為に過ごすことはなく、むしろ前進し、自国の能力を高め、必ずしもアメリカと対決することを目的としていないものの、その時が来ればはるかに有利な立場に立つ、という事実だ。

 イラン、中国、ロシアなどの国々は、アメリカが亡霊を追って力を使い果たすのを見ながら、アメリカの軍事力、経済の脆弱性、外交的欠点について知らず知らずのうちに与えられた教訓を心に留めていた。これらの教訓は、民主主義の学校であるはずの米国の混沌とした状況によって、さらに拡大された。この20年間で世界は、内戦のような抗争をくりひろげてきたアメリカの二大政党制から生じる政策と原則の乱脈な揺らぎを証言することになった。ジョージ・W・ブッシュによる8年間の新保守主義的な侵略に続いて、バラク・オバマによる8年間の新自由主義的な欺瞞があった。トランプ政権の4年間の思い上がりによる混乱は、今度はバイデン政権による2年間の誤った無能な復権主義に取って代わられた。バイデン政権の前提は、何十年にもわたるアメリカの政策の失敗から生じたダメージは、それが無くなれとただ強く思えば元に戻せる、ということだ。

 アメリカの民主主義は、「丘の上の輝く街」として、世界の人々に「私たちのようになりたい」と思わせることで、私たちの先導に従わせるはずだったが、高級住宅地を装ったゲットーに過ぎないポチョムキン村*であることが露呈してしまった。世界はこの変形の一部始終をじかに目撃することができた。その一方で、アメリカ人は、自由な消費主義という偽りの約束によって服従させられ、何もわからないというおめでたい状態に甘んじている。

ポチョムキン村*・・・主に政治的な文脈で使われる語で、貧しい実態や不利となる実態を訪問者の目から隠すために作られた、見せかけだけの施設などのことを指す。「見せかけだけのもの」とは、物理的に存在するものであることもあるし、あるいは資料や統計など比喩的なものであることもある。(ウィキペディア)


関連記事:Putin’s name removed from 9/11 memorial

 しかし、借金はいずれ返さなければならない。「9.11の20+1周年」は、国内外の多くの負債が返済期限を迎えたという現実を反映している。

 「9.11の20+1周年」で、アメリカは政治的な内戦状態にあり、その結果、南北戦争以来見られなかった範囲と規模の、党派主導の暴力に爆発する恐れがある。アメリカが、各国による主権的な経済政策の決定に干渉してくることにうんざりした世界市場が、地域通貨「バスケット」を支持して、米ドルを下落させていることから、世界の基軸通貨としての米ドルの優位性は、非常に疑わしいものとなっている。ロシアを「国家を装ったガソリンスタンド」に過ぎないと非難した後、米国とその同盟諸国は、荒野の中の高速道路で立ち往生している運転手の立場に置かれている。燃料タンクは空っぽ。ガソリンスタンドも見えない。旅に出る前にすべてのガソリンスタンドを閉鎖してしまったことが主な理由だ。西側諸国によるロシアへの経済制裁は、ヨーロッパの経済が崩壊し、アメリカが救うことができない、及びあるいは、救う気がないという自傷行為と化している。

 アメリカが世界の指導者たる地位を維持してきたのは、アメリカの民主的統治モデルが、アメリカが頼りにしている社会的、経済的、軍事的強さを生み出すのに役立ち、世界の悪の勢力と立ち向かえるという前提のもとに成り立っていた。

 このモデルはもはや存在しない。その理由は、9.11テロ後の最初の20年間、アメリカがどのように振舞ったかに負うところが大きい。

 「9.11の20+1周年」で米国は、ウクライナ、太平洋、中東、アフリカ、アジア......そして国内において、自分たちが引き起こしたことの現実に直面しつつある。聖書には、「風を蒔き、つむじ風を刈り取る」(ホセア書8:7)とある。

訳注:この言葉の意味は、自分がどんな種を撒くかによって、その結果生じる収穫の中身が決まるというもの。自業自得の意。
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米国で若年層による犯罪が増えている二つの要因とは?

<記事原文  寺島先生推薦>

 What’s behind the surge in America’s youth crime?

Bereft of two crucial authority figures ? their fathers and the police, youngsters struggle to find their place
(米国での若年層による犯罪の急増の背後にあるものは何か?
父親と警察という2つの権威を失う中で、若者たちは自分たちの居場所を見つけようと格闘している)

筆者:ロバート・ブリッジ(Robert Bridge)

出典:RT

2022年8月18日



ロバート・ブリッジは、米国の作家であり、記者。著書に『米帝国の深夜』『企業とその従者である政府がアメリカン・ドリームを破壊している』がある。ツイッターはこちら。@Robert_Bridge

<記事翻訳  寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月1日


cGetty Images/Riou


 米国では、嫌な潮流が起こっている。それは凶悪犯罪が、社会の最も幼い年代層により引き起こされていることだ。しかし、政治による国民の分断のせいで我が国がバラバラにされている中、この現象の原因を解明することは、たやすいことではない。

 フィラデルフィア市は、「兄弟愛の街(訳注:古代ギリシャ語のフィロス〔愛〕・アデルオス〔兄弟〕に由来する)」としてよく知られているが、殺人件数の統計結果からは、そんなイメージからは程遠い。

 2020年から2021年にかけて1年の学校年度において、人口150万のペンシルベニア州のこの都市で、公立学校に通う753人の生徒が自分の級友に銃で撃たれ亡くなっている。警察の統計によると、9月から11月中旬までに、銃撃事件でなくなった31人が18歳以下だった。この数は、2020年の年間の死者数を上回り、2015年の年間死亡者数の3倍である。それと同時に2021年、18歳以下の30人が殺人の罪で逮捕された。この数は、2019年の年間逮捕者数の6倍だ。

 子どもたちが凶悪犯罪の被害者になっていることは、痛ましいことだが、子どもたち自身が深い残忍性をもつ凶悪犯罪を犯したとして非難されている状況も、同様に心を落ち着かなくさせられるものだ。

 6月、フィラデルフィアの若者たちの一団が、73歳の男性のジェームス・ランバート・ジュニアさんを、道路に置いてある三角コーンで打ちのめしている姿が映像に残された。 ランバートさんはその怪我のせいで、病院で亡くなった。警察によると、14歳の2名が第3種殺人と共謀の罪で起訴されたという。そしておそらく、10歳の少年が、就寝時間をずっと過ぎた時間に外出して、その恐ろしい殺害の模様を自分の携帯電話で撮影していたという。

 自動車乗っ取りも、米国の各都心の若者たちの遊びのひとつになっている。ワシントンDCのロバート・J.コンティⅢ警視総監は記者会見で、これらの犯罪を行っている人の多くは、「子どもたち」である、と述べた。

 「プリンスジョージ郡[メリーランド州]とワシントンDCで、200名以上の若者たちが自動車乗っ取り事件を起こしているという事実に胸が突き刺されます」と同警視総監は語っていた。


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 米国の大都市圏はこれまでずっと犯罪者たちが集まる場所になっていて、それ故、子どもたちがそのような犯罪組織に入らないように守られていると見られていた。つまり超えてはいけない線が、確かに存在していたのだ。しかし今はその線が存在しなくなり、社会で最も幼い層である若者たち自身が、その札付きの犯罪者集団の一員になっている状況が生まれている。いったい何が間違っていたのだろうか?

 米国で若年層による犯罪が蔓延している原因については、米国の典型的な家族構成を調べれば答えが出るかもしれない。若年層による犯罪の蔓延と、米国が地球上のどの国の人々よりも家族構成が片親である割合が高いという事実は、ただの偶然の一致と言えるだろうか? 相関関係を調べてみる価値はある。

 早くも1996年には、すでに米国民が、自分たちの社会が奈落の底に落ちようとしている理由についての調査に着手していた。社会学者のデビット・ポプヌーは、子どもたちが抱えている悪い状況(摂食障害、うつ病、10代の自殺、アルコールや薬物の乱用、ほかにもたくさんあるが)の背後には、ある大きな原因があるという考えを示していた。

 ポプヌーによると、悪性のガンのように米国をむしばんでいるこれらの傾向の理由として、「子どもたちの生活から父親がいなくなったことが、最も重要な原因の一つ」だ、という。

 さらにポプヌーは、1990年代の驚くべき統計結果を示した。その統計結果は現在もほぼ変わっていない。それは、「米国民の強姦犯罪者の6割、思春期の青年の殺人犯罪者のうち72%、長期間服役している囚人の7割が、父親がいない家庭出身だ」というものだった。1996年以降、明らかにこの統計結果からほとんど改善はしていない。 このような数値からわかることは、ただの偶然の一致以上の何かがそこにはある、ということだ。


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 何千年もの間、父親は家庭における権威者として認識されてきた。そして研究の結果わかっていることは、男性の方が女性より子どもたちにたいして厳しくしつけを行っている、という事実だ。 同時に、父親は息子たちにとって決定的な手本としての役割を果たす。現在、離婚率の上昇により、伝統的な核家族が崩壊していて、多くの子どもたちが自分の手本を家庭以外の場所で見つけなければならなくなっている。その手本を、自分と同じように途方に暮れた街の仲間たちの中から見つけることが多くなっている。このような状況に貧困が組み合わされると、このような崩壊した家庭出身の子どもたちは 、犯罪に手を染めがちになる。そのような犯罪は、毎日身近で起こっているからだ。特に、そんな犯罪行為を行っても、それに応じて罰を受けることがないことを目にしたのであれば、なおさらだ。 そのような現実がますます顕著になっているのは、警察や裁判官がこれらの青年たちを適切に罰する手段が欠けているからだ。

 若年層による犯罪行為が増えてきたのは、2020年にジョージ・フロイドさんが、警察の手により殺害された事件よりも前からのことだったのだが、市民たちによる不法行為が起こる中、この社会現象に対する態度が大きく変わってしまった。 多くの米国市民は、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動をなだめようとして、警察への予算だけではなく、警察官の人数も削減し始めた。今こそ、警察官が一番必要とされるときになっているにもかかわらずである。

 抗議運動が最高潮をむかえていたとき、シアトル市では、アンティファ*やBLMの抗議活動者たちに警察がいない自警地域を作り出すことを許すことまでしていた。これが当初「キャピトルヒル自治抗議運動(CHOP)」、後には「キャピトルヒル自治区 (CHAZ)」という名で知られているものだ。そして警備のない数時間、大騒ぎする若者たちが町に出て、騒々しい宴やダンスなど繰り広げていた。しかしそのパーティは長くは続かなかった。実際に起こったことは、その抗議運動者たち自身が、そのような実験的な無政府状態を放棄し、日が沈んだ後に銃撃事件が勃発したのだ。CHAZに関係する射撃事件のせいでなくなった被害者のうち一番若かったのは、14歳だった。さらにこんな決定的な教訓を得たにもかかわらず、警察なしで大都市を維持し「平和を守る」という考え方が、米国中の都市で根付いてしまった。その結果、米国の若年層は人生における二つの重要な権威を失ってしまったのだ。つまり、父親と警察だ。
訳注:*アンティファ(Antifa)----1960~70年代のドイツに始まり、アメリカ合衆国など他国へも広がった反ファシズム、反人種差別運動の自称および他称。攻撃・批判対象への物理的暴力も厭わないため、極左運動とも呼ばれる。


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 こんな状況になってしまったことには、もう一つ決定的な要因がある。それは、企業メディアがこれらの暴動を、「大多数は平和的な抗議活動である」といういいわけのような記事を報じたことや、 ハリウッドの有名人たちが積極的に若い犯罪者の保釈金を肩代わりしたことだ。これらの若い犯罪者の多くは、警察署だけではなく、連邦政府の施設を攻撃したことで起訴されていた。同時に、株式会社米国が予算を捻出して、BLM運動や同様の組織に多額の税金を投じていた。つまり米国中の都市が炎に包まれていたまさにそのときに、民主党の指導者たちはこれらの運動に屈していたということだ。その時の罪が今でもまだはっきりと問われていないとしたら、BLMの活動家は、シカゴの若い人々が店を略奪することをとがめず、「そのような行為は賠償金のようなものだ。取りたいものは何でも取ってしまえばいい。店の人たちは保険に入っているだろうから」などと言ったのだろう。このようなことがすべて、米国の若年層に間違ったメッセージを伝えてしまい、良識ある態度を取ることをせず、自分が犯罪行為を行っても罰せられないと考えるようになってしまったのだ。

 さて、最も幼いときに基本的なしつけを受けてきた子どもたちが、今はそうなっていない状況の中、この先どんな希望をもてばいいというのだろうか? 残念ながら、この問いは難しすぎて、今すぐには、はっきりとした答えは出せない。しかし生活の中に父親など権威的な存在がいないのであれば、米国の子どもたちは手探りの状態で人生の進むべき道を探さざるをえなくなっているだろう。すべての国において、その国の将来は若者たちにかかっているのだから、今のような状況が米国にとってよい前兆とはいえない。
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