<記事原文 寺島先生推薦>
Jacques Baud: Operation Z
筆者:ポスティル誌、ジャック・ボー(Jacques Baud)にインタビュー
(ジャック・ボーは、スイスの戦略的諜報機関の元メンバー、地政学の専門家として広く尊敬を集めており、「並外れた眼力を持つ元スイスの諜報員」「スイスのスパイで最もおしゃべり」などとも言われている。『プーティン』など多くの論文や著書を発表している。『ゲームの達人?フェイクニュースでガバガバ』『ナワリヌイ事件』など。近著にウクライナ戦争に関する『オペレーションZ』がある。)
出典:Internationalist 360°
2022年9月1日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年10月8日
ポスティル誌、ジャック・ボーにインタビュー
6カ月を超える戦争の後、言えるのは、ロシア軍は実戦力にたけ実効性にとみ、指揮統制の質は西側諸国をはるかに凌いでいる、ということだ。しかし、私たち西側の認識は、「ウクライナ側に焦点を当てた報道」と「現実の歪曲」によって影響を受けている。― ジャック・ボー
ウクライナ・ロシア戦争という地政学的闘争の中でいま何が起きているのか、ジャック・ボーの新鮮なインタビューをお届けします。いつものように、ボーは深い洞察力と明確な分析力をもって、この対談に臨んでいます。
ザ・ポスティル(TP)です。あなたはウクライナ戦争に関する最新の著書『
オペレーションZ(特別軍事作戦Z)』(マックス・ミロ社)を出版したばかりですね。この本を書くことになったきっかけや、読者に伝えたいことなど、少しお聞かせください。
ジャック・ボー(以下、JB):
この本の目的は、メディアによって流された誤った情報が、いかにウクライナを間違った方向に向かわせることに貢献したか、を示すことです。私は、「危機の捉え方から、危機の解決方法が生まれる」というモットーのもとにこの本を書きました。
西側メディアは、この紛争の多くの側面を隠すことによって、私たちに戯画的で人工的な状況のイメージを提示し、その結果、人々の心を分極化させてしまったのです。このため、交渉の試みは事実上不可能であるという考え方が広まってしまいました。
主流メディアが提供する一方的で偏った表現は、問題解決に役立つものではなく、ロシアへの憎悪を助長することを目的としています。したがって、障害のある選手やロシアの
猫(国際猫連盟がキャットショーからロシアを追放)、さらには
ロシアの木を品評会から排除したり、指揮者を解任したり、
ドストエフスキーのようなロシアの芸術家の地位を下げたり、あるいは
絵画の名前を変えたりすることは、ロシア人を社会から排除することを目的としています!
(ロンドン・ナショナル。ギャラリーはエドガー・ドガの「ロシアの踊り子」を「ウクライナの踊り子」に改名)フランス
では、ロシア風の名前を持つ個人の銀行口座が封鎖されたこともあります。ソーシャルネットワークのFacebookとTwitterは、「ヘイトスピーチ」を口実にウクライナの犯罪の公表を組織的にブロックしていますが、ロシア人に対する暴力の
呼びかけは許しているのです。
これらの行動はいずれも紛争に何の影響も与えず、ただ西側諸国のロシア人に対する憎悪と暴力を刺激したに過ぎないのです。この操作はあまりにひどいので、私たちは外交的な解決策を模索するよりも、ウクライナ人が死ぬのを見たいと思うほどです。共和党の
リンゼイ・グラハム上院議員が最近述べたように、ウクライナ人に最後の一人まで戦わせるということなのです。
ジャーナリストは品質と倫理の基準に従って働き、可能な限り誠実な方法で私たちに情報を提供すると一般には考えられています。これらの基準は1971年のミュンヘン憲章で定められています。本を書いていてわかったのは、ロシアと中国に関する限り、ヨーロッパのフランス語圏の主流メディアでこの憲章を尊重しているところはないということです。それどころか、実際フランス語圏の主流メディアは、ウクライナに対する不道徳な政策を恥ずかしげもなく支持しています。メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領が語ったとおりです。西側が言うのは「我々は武器を提供するから、君たちは死体を提供せよ!」ということだと。
この偽情報が流されていることを強調するために、私が示したいと思ったのは、状況の現実的なイメージを提供できる情報が2月の時点で入手可能だったにもかかわらず、私たちのメディアがそれを国民に伝えなかったことです。この矛盾を明らかにすることが本書執筆の目的だったのです。
私自身がどちらかの側に有利なプロパガンダにならないように、私はもっぱら欧米、ウクライナ(キエフ発)、ロシアの野党の情報源に依存しました。ロシアのメディアからは一切情報を取っていません。
TP:西側諸国では、この戦争によって、ロシア軍は力が弱く、その装備が役に立たないことが「証明された」と一般に言われています。これらの主張は本当でしょうか?
JB:いいえ。6カ月以上にわたる戦争の結果、ロシア軍は実戦力にたけ実効性にとみ、その指揮統制の質は西側諸国をはるかに凌ぐと言えるでしょう。しかし、私たちの認識は、ウクライナ側に焦点を当てた報道と、現実の歪曲に影響されています。
まず第一に、現地の現実です。メディアが「ロシア人」と呼んでいるのは、実際にはロシア語を話す連合軍で、プロのロシア人戦闘員とドンバスの民兵で構成されていることを忘れてはいけません。ドンバスでの作戦は主にこれらの民兵によっておこなわれ、彼らは「自分たちの」土地で、自分たちが知っている町や村で、友人や家族がいる場所で戦っています。そのため、彼らが慎重に前進しているのは、自分たちのためだけでなく、民間人の犠牲を避けるためでもあります。このように、西側のプロパガンダの主張とは裏腹に、連合軍は占領した地域で非常に広範な民衆の支持を得ています。
それから、地図を見るだけでも、ドンバスは建物が多く人が多く住んでいる地域であることがわかります。これは、あらゆる状況において、防御側に有利で、攻撃側の進行速度が低下することを意味しています。
第二に、西側メディアによる紛争の推移の描き方です。ウクライナは国土が広大なので、小さな地図では日ごとの違いがほとんどわかりません。しかも、敵の侵攻については、それぞれの立場から独自の認識を持っています。
2022年3月25日の状況を例にとると、フランスの日刊紙
Ouest-Franceの地図(a)は、ロシアの進展はほとんどないと読めます。これはスイスの
RTSサイト(b)も同様です。
ロシアのサイト
RIAFANの地図(c)はプロパガンダかもしれませんが、フランス軍情報総局(
DRM)の地図(d)と比較すると、おそらくロシアメディアの方が真実に近いことがわかります。
これらの地図はすべて同じ日に発表されたものですが、フランスの新聞とスイスの国営メディアはDRMの地図を選ばず、ウクライナの地図を好んで使っています。このことは、我々西側のメディアがプロパガンダの発信源のように機能していることを物語っています。
図1 ― 2022年3月25日に西側メディアで紹介された地図の比較。このようなロシアの攻勢の見せ方が、「ロシア軍は弱い」という主張につながっている。また、ロシアのメディアが提供する情報は、ウクライナの提供する情報よりも現実に近いと思われることを示している。
第三に、西側のいわゆる「専門家」が自らロシア攻撃の目的を決定していることです。「ロシアはウクライナとその資源を手に入れたい」「キエフを2日で占領したい」などと主張することで、西側の専門家はプーチンが言及しなかった目的を文字通り捏造してロシア側に帰属させたのです。2022年5月、キエフのスイス大使クロード・ワイルドはスイスのRTSサイトで、ロシアは「キエフ奪還の戦いに
負けた」と宣言しました。しかし、実際には、「キエフ奪還の戦い」などは存在しなかったのです。ロシア軍が目的を達成できなかったと主張するのは明らかに簡単なことです。もし彼らが目的を達成しようなどと一度も考えなかったとしたら!
第四に、西側諸国とウクライナは、敵対勢力について誤解を招くような図式を作り上げています。フランス、スイス、ベルギーでは、テレビに出演する軍事専門家の中に、ロシアがどのように軍事作戦をおこなうかについて知っている者はいません。彼らのいわゆる「専門知識」は、アフガニスタンやシリアでの戦争の噂から得たものであり、それはしばしば西側のプロパガンダに過ぎないのです。これらの専門家は、ロシアの作戦の発表を文字どおり改竄(かいざん)しています。
このように、ロシアが2月24日の時点で発表した目的は、ドンバス住民に対する脅威の「非軍事化」と「非ナチ化」でした。この目的は、そうした軍事化とナチ化という可能性をなくすことに関するものであり、土地や資源の奪取ではないのです。大げさに言えば、理論的には、その目的を達成するためには、ロシア人が進出する必要などなく、ウクライナ人自身がやって来て殺されればいいだけなのです。
つまり、政治家やメディアがウクライナにその地域を守れと嗾(けしか)けたのです。第一次世界大戦中のフランスのように、です。彼らはウクライナ軍を嗾けて、「最後の砦」を1平方メートル残らず防衛するよう強要したのです。皮肉なことに、西側諸国はロシア軍の仕事を容易にしたにすぎないのです。
実際、対テロ戦争と同様に、欧米人は敵をありのままに見るのではなく、そうあってほしい、そうあってくれればいいと願ったとおりに見るのです。2500年前に孫子が言ったように、これは戦争に負けるための最良のレシピです。
その一例がいわゆる「ハイブリッド戦争」で、ロシアが西側諸国に対しておこなっているとされるものです。2014年6月、西側諸国がロシアのドンバス紛争への(架空の)介入を説明しようとしたとき、ロシア問題の専門家
マーク・ガレオッティは、あるドクトリン(軍事理論)の存在を「明らかに」しました。それがロシアのハイブリッド戦争の概念を示すらしいというものです。「ゲラシモフ・ドクトリン」として知られるこの考え方は、その構成や軍事的成功をどのように確保するかについて、西側諸国が実際に定義したことはありません。しかし、このドクトリンは、いかにしてロシアがドンバスに軍隊を送らずに戦争をおこなっているか、なぜウクライナが反乱軍との戦いに一貫して敗れるのか、を説明するために使われています。2018年、自分が間違っていたことに気づいたガレオッティは、勇敢にも理性的に、謝罪しました。『フォーリン・ポリシー』誌に掲載された「ゲラシモフ・ドクトリンを作ってごめんなさい」と題する記事で。
訳注:ゲラシモフ・ドクトリン。サイバー攻撃や情報戦による現地住民の認識操作や、特殊作戦部隊・民間軍事会社・民兵による低強度紛争、既成事実化のための(戦闘を伴わない)軍事力の展開など、ゲラシモフ演説は2014年2月以降にウクライナで生じた事態と多くの共通性を有していた。それゆえ、ゲラシモフ演説はロシアの新しい軍事活動を方向づけるものと見做され、「ゲラシモフ・ドクトリン」なる通称で広まった。しかし、このようなハイブリッド戦争はロシアの軍事理論とは相容れない。 にもかかわらず、そしてそれが何を意味するのかわからないまま、西側メディアと政治家は、ロシアがウクライナと西側諸国に対してハイブリッド戦争を仕掛けているというふりをし続けました。つまり、存在しないタイプの戦争を想定し、そのためにウクライナを準備したのです。これは、ウクライナがロシアの軍事作戦に対抗する首尾一貫した戦略を持っているという課題を説明するものでもあるのです。
西側諸国は、状況をありのままに見ようとしません。ロシア語話者連合軍は、2分の1対1の割合でウクライナより劣る総合力で攻勢をかけています。多勢に無勢の状況で勝利するには、戦場で部隊を素早く動かして局所的・一時的な優位を作り出さなければならないわけです。
これがロシア人の言う「作戦術」(operativnoe iskoustvo オペラチフノ・イスクトゥボ)です。この考え方は、西側諸国ではあまり理解されていません。NATOで使われている「作戦」という言葉は、ロシア語では「operative」(命令レベルを指す)と「operational」(条件を定義する)の2つの訳語があります。作戦とは、チェスのように軍隊の陣形を操り、優勢な相手を打ち負かす技術です。
例えば、キエフ周辺での作戦は、ウクライナ人(と西側)の意図を「欺く」ためではなく、ウクライナ軍の大部隊を首都周辺に維持させておき、それによって「縛り付ける」ためのものでした。専門用語では、これは「シェイピング作戦」と呼ばれるものです。一部の「専門家」の分析に反して、これは「欺瞞(ぎまん)作戦」ではなく、まったく異なる発想で、はるかに大きな戦力が必要だったでしょう。その目的は、ドンバスにウクライナ軍本隊が増援することを阻止することでした。
現段階でのこの戦争の主な教訓は、第二次世界大戦以来、私たちが知っていることを裏付けるものです。それは、ロシア人は作戦術に長けている、ということです。
TP:ロシアの軍事力に関する疑問は、明白な疑問を引き起こします。現在のウクライナの軍事力はどれほど優れているのか、と。さらに重要なのは、なぜ私たちはウクライナ軍についてあまり耳にしないのでしょうか?
JB:ウクライナの軍人たちは、確かに良心的かつ勇敢に任務を遂行する勇敢な兵士たちです。しかし、私の個人的な経験では、ほとんどすべての危機において、問題は首脳部にあります。相手とその論理を理解し、実際の状況を明確に把握することができないことが、失敗の主な原因なのです。
ロシアの攻勢が始まって以来、戦争の進め方を2つに区別することができます。ウクライナ側では政治的・情報的な空間で戦争がおこなわれ、ロシア側では物理的・作戦的な空間で戦争がおこなわれています。両者は同じ空間で戦っているわけではないのです。これは、私が2003年に拙著『
非対称戦争、あるいは勝者の敗北』(La guerre asymétrique ou la défaite du vainqueur)で述べた状況です。困ったことに、結局は地域・地形の現実が優先されるのです。
ロシア側では、意思決定は軍部がおこなうが、ウクライナ側では、ゼレンスキーがあらゆる場面に登場し、戦争遂行の中心的存在となっていて、作戦を決定することが多いようです。明らかに軍部の助言に反して。そのため、ゼレンスキーと軍部との間に緊張が高まっています。ウクライナのメディアによると、ゼレンスキーはヴァレリー・ゾルジニー将軍を解任することもできるといいます。彼を国防相に任命することによってですが。
ウクライナ軍は2014年以降、アメリカ、イギリス、カナダの将校によって広範な訓練を受けています。問題は、20年以上にわたって、欧米人は武装集団や散在する敵対者と戦いつづけ、かつ軍全体を個人に対して戦わせてきたことです。彼らは戦術レベルで戦争を戦っていて、いつの間にか戦略・作戦レベルで戦う能力を失ってしまったのです。ウクライナがこのレベルで戦争をしているのは、そのためでもあります。
しかし、もっと考え方の違いという側面もあります。ゼレンスキーや西側諸国は、戦争を数的・技術的な戦力バランスとして捉えています。これが、2014年以降、ウクライナ人が反政府勢力を説得して取り込もうとはせずに、今では西側から供給される武器から解決策が得られる、などと考えている理由です。西側はウクライナに数十門のM777砲とHIMARS、MLRSミサイル発射機を提供しましたが、ウクライナは2月には既に同等の砲を数千門ももっていました。ロシアの「戦力の相関関係」という概念は、西側諸国の作戦よりも多くの要素を考慮し、より全体的なものです。だからロシアが勝っているのです。
無分別な政策に従おうとして、西側メディアは、ロシアに悪い役割を与えるという仮想現実を構築しました。危機の経過を注意深く観察する者にとっては、西側メディアが、ロシアをウクライナの状況の「鏡像*」として提示した、と言ってもいいくらいです。こうして、ウクライナの損失について語られ始めると、西側のコミュニケーションはロシアの損失に目を向けたのです。(あくまでも、数字はウクライナ側が提示したものですが)
*鏡像は実像とは左右が反対に映ることから、実態を真逆に映したものの喩えとして用いている。
4 月から 5 月にかけてハリコフやヘルソンでウクライナや西側が宣言したいわゆる「反攻」は、単なる「反撃」でした。両者の違いは、反攻が作戦上の概念であるのに対し、反撃は戦術上の概念であり、その範囲ははるかに限定的であることです。このような反撃が可能だったのは、当時のロシア軍の兵力密度が前線20kmあたり1戦闘群(BTG)だったからです。それに比べて、主戦場となったドンバス方面では、ロシア連合は1kmあたり1~3BTGでした。ウクライナによる8月のヘルソン奪還の大攻勢については、南部を制圧するはずだったというものですが、欧米の支持を維持するための神話に過ぎなかったようです。
今日、私たちは、ウクライナの成功と言われるものが実際には失敗であったことを目の当たりにしています。ロシアのせいで失われたとされる人的かつ物的損失は、実際にはウクライナのせいで失われたものよりも多かったのです。6月中旬、ゼレンスキーの首席交渉官で側近のデビッド・アラカミアは、1日あたり200~500人の死者が出ていると話し、1日あたり
1000人の死傷者(死亡、負傷、捕虜、脱走者)に言及しました。これにゼレンスキーがまた新たに武器要求をしたという情報が加われば、ウクライナの勝利というのは全くの幻想に見えることがわかります。
ロシア経済は
イタリアに同等の経済力しかないと考えられていたため、同様に脆弱だろうと想定されていました。つまり、軍事的な敗北を経ないでも、経済制裁と政治的な孤立によって、ロシアはたちまち崩壊する、と西側諸国もウクライナ人も考えていたのです。実際、これは2019年3月におこなわれたゼレンスキーの顧問兼スポークスマンであるオレクセイ・アレストヴィッチのインタビューから理解できることです。こういう理由で、ゼレンスキーは2022年初頭に警鐘を鳴らさなかったのです。彼が
ワシントンポスト紙のインタビューで語っているとおりです。彼は、ウクライナがドンバスで準備している攻勢にロシアが反応することを知っていて(だから部隊の大部分はその地域にいた)、制裁によってすぐにロシアが崩壊し敗北すると考えていたのでしょう。これは、フランスの経済大臣である
ブルーノ・ル・メールが「予測した」ことでもあります。明らかに、欧米人は相手を知らずに決断しています。
アレストビッチが言うように、ロシアの敗北がウクライナのNATO入りの
切符になるという考えだったのでしょう。だから、ウクライナ側はドンバスでの攻撃を準備するように急き立てられました。ロシアに反応させ、壊滅的な制裁で簡単に敗北させるための攻撃を強いられたのです。これは皮肉なことで、アメリカを中心とする西側諸国が自分たちの目的のためにいかにウクライナを悪用したかを示しています。
その結果、ウクライナ人はウクライナの勝利ではなく、
ロシアの敗北を目指しました。これは非常に特異なことですが、ロシアの攻勢が始まった当初からの西側のシナリオを説明するものです。そのシナリオではロシアが敗北すると予言していたのですから。
しかし現実には、制裁は期待どおりには機能せず、ウクライナは自ら挑発した戦闘に引きずり込まれたことを知りました。が、そのために長いあいだ戦う覚悟もなかったのです。
このため、当初から、欧米のシナリオは、メディアが報じた内容と現場の現実とのあいだに齟齬・不整合があることを提示していました。これは逆効果でした。ウクライナに失敗を繰り返させ、作戦遂行能力の向上を妨げることになったからです。プーチンとの戦いを口実に、欧米は何千人もの人命を不必要に犠牲にするようウクライナに迫ったのです。
当初から明らかだったのは、ウクライナ人が一貫して過ちを繰り返し(しかも2014年から2015年にかけてと同じ過ちを)、兵士が戦場で死んでいることでした。だから、ヴォロディミル・ゼレンスキーは、ますます多くの制裁を要求しました。最も不合理なものも含めてです。というのは、それが決定的なものであると信じ込まされていたからでした。
このような間違いに気づいたのは私だけではないでしょう。西側諸国はこの惨事を確実に阻止することができたはずです。しかし、彼らの指導者たちは、ロシアの損失に関する(架空の)報告に興奮し、政権交代への道を開いたと考え、制裁に制裁を加え、交渉の可能性を断ち切ったのです。フランスのブルーノ・ルメール経済大臣が言ったように、目的はロシア経済の崩壊を誘発し、ロシア国民を
苦しめることでした。これは一種の国家テロです。国民を苦しめて、指導者(ここではプーチン)に対する反乱に追い込もうとするものです。これは作り話ではないのです。このメカニズムは、オバマ政権下で国務省の制裁責任者を務め、現在は世界腐敗防止コーディネーターであるリチャード・ネピューが、『
制裁の技術』という本の中で詳しく述べています。皮肉なことに、これは2015年から2016年にかけてフランスで起きた攻撃を説明するためにイスラム国が唱えた論理とまったく同じです。フランスはおそらくテロを奨励しているのではなく、テロを実践しているのです。
大手メディアは、戦争をありのままに紹介するのではなく、そうあってほしいと願うように紹介しています。これは純粋な希望的観測です。ウクライナ当局に対する国民の見かけ上の支持は、膨大な損失(7万~8万人の死者が出たという説もある)にもかかわらず、反対派の追放、政府路線に反対する役人の冷酷な人狩り、ウクライナ人と同じ失敗をロシア人に帰する「
鏡像」プロパガンダによって達成されています。これらはすべて、西側諸国の意識的な支援によるものです。
TP:クリミアのサキ空軍基地での爆発をどう考えればいいのでしょうか?
JB:私はクリミアの現在の治安状況の詳細を知りません。2月以前には、クリミアに右派セクターPraviy Sektor(ネオナチの民兵組織)の志願兵の細胞があり、テロ型の攻撃をおこなう準備ができていたことは知っています。これらの細胞は無力化・撲滅されたのでしょうか? クリミアでは破壊工作がほとんど行われていないようなので、そう考えることもできます。とはいえ、ウクライナ人とロシア人は何十年も一緒に暮らしてきたし、ロシア人が占領した地域には親キエフ派がいることも忘れてはなりません。したがって、これらの地域に潜伏工作員が存在する可能性があると考えるのが現実的です。
より可能性が高いのは、ロシア語圏連合に占領された地域でウクライナ保安庁(SBU)が行っているキャンペーンです。これは、親ロシア派のウクライナの人物や役人を標的にしたテロキャンペーンです。7月以降、
SBU、
キエフ、そしてリヴォフ、
テルノポールなどの地方で指導者が大きく交代したことを受けてのことです。8月21日にダリヤ・ドゥギナが暗殺されたのも、おそらくこのキャンペーンと同じ文脈でしょう。この新しいキャンペーンの目的は、ロシア軍に占領された地域で抵抗が続いているという幻想を与え、それによって疲弊し始めた欧米の援助を復活させることにあると考えます。
これらの妨害活動は作戦上のインパクトはなく、むしろ心理作戦に近いと思われます。5月初旬のスネーク島のように、ウクライナが行動していることを国際社会にアピールするための行動なのかもしれません。
クリミアでの事件が間接的に示しているのは、2月に西側が主張したクリミア民衆の抵抗が存在しないことです。それは、ウクライナと西側(おそらく英国)の秘密工作員の行動である可能性が高い。戦術的な行動を超えて、これは、ロシア語圏連合に占領された地域で重要な抵抗運動を活性化するウクライナ人の無能さを示しています。
TP:ゼレンスキーは、「クリミアはウクライナであり、我々は決してそれを手放さない」という有名な言葉を残しています。これはレトリックなのか、それともクリミアを攻撃する計画があるのでしょうか?クリミア内にウクライナの工作員がいるのでしょうか?
JB:まず、ゼレンスキーは非常に頻繁に意見を変えます。2022年3月、彼はロシアに対して「クリミア半島に対するロシアの主権を認める議論をする用意がある」と提案しました。しかし、EUとボリス・ジョンソンの介入が
4月2日と
4月9日にあったので、ロシアの好意的な関心にもかかわらず、彼は提案を取り下げたのです。
ここで、いくつかの歴史的事実を想起する必要があります。1954年のクリミアのウクライナへの割譲は、共産主義時代のソ連、ロシア、ウクライナの議会で正式に承認されたことはありませんでした。さらに、クリミアの人々は、1991年1月の時点で、キエフではなくモスクワの権威に服することに同意しています。つまり、ウクライナが1991年12月にモスクワから独立する以前から、クリミアはキエフから独立していたのです。
7月、ウクライナの国防大臣アレクセイ・レズニコフは、ウクライナの
領土保全を回復するために、100万人規模のヘルソンへの大反攻を声高に叫びました。しかし、実際には、ウクライナはこのような遠大な攻撃に必要な兵力、装甲、航空援護を集めることができないでいます。クリミア(スネーク島)での破壊作戦は、この「反攻」の代わりとなるものでしょう。実際の軍事行動というよりは、意思伝達のための演習のように見えます。つまり、これらの行動はむしろ、ウクライナへの無条件支援の妥当性を疑問視している西側諸国を安心させることを目的としているように思えるのです。
TP:ザポリージャ核施設周辺の状況について教えてください。
JB:エネルゴダールでは、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が何度も砲撃の標的になっていますが、その砲撃はウクライナとロシアがお互いに敵側からのものだとしています。
分かっているのは、ロシア連合軍が3月初めからZNPPの敷地を制圧していることです。その時の目的は、ZNPPが戦闘に巻き込まれるのを防ぐため、そしてその結果、核事故を回避するために、ZNPPを迅速に確保することでした。担当していたウクライナ人職員は現場に残り、ウクライナ企業エネルゴアトムとウクライナ原子力安全機関(SNRIU)の監督のもとで作業を続けています。したがって、原発周辺での戦闘はありません。
ロシアが自分たちの支配下にある原発を
砲撃するとは考えにくいことです。ウクライナ人自身が「
敷地内にロシア軍がいる」と言っているのだから、この疑惑はなおさらです。フランスの専門家によれば、ロシアはウクライナに流れる電力を
遮断するために、自分たちの支配下にある発電所を攻撃するのだといいます。しかし、ウクライナへの電力供給を止めるにはもっと簡単な方法がある(多分スイッチを切るだけでいい)だけでなく、ロシアは3月以降、ウクライナへの電力供給を止めていないのです。さらに、ロシアはウクライナへの天然ガスの流れさえ止めずに、ヨーロッパへのガスの中継料をウクライナに払い続けていることを思い出してほしい。5月に
ソユーズ・パイプラインの停止を決定したのはゼレンスキー氏です。
さらに忘れてはならないのは、ロシア軍が居るのは、住民がロシア側におおむね好意的な地域ですから、なぜロシア軍がそんな地域に砲撃をしかけて核汚染のリスクを負おうとするのか、理解しがたいことです。
現実には、原発に攻撃を仕掛ける確実な動機はロシアよりもウクライナにあり、そう考えれば原子力発電所に対するこのような攻撃を説明することができます。ヘルソン市への大規模な反攻作戦をウクライナは実行できないので、その代替案なのです。そしてまた、この地域で計画されている住民投票を阻止するためです。さらに、ゼレンスキーが発電所周辺を非武装化し、ウクライナへの返還さえ求めれば、彼にとっては政治的にも作戦的にも成功したことになるわけです。核事故を意図的に誘発し、「無人地帯」を作って、その地域をロシアにとって使い物にならならないようにしてしまおうとしているとさえ想像できるかもしれません。
また、ウクライナは原発を爆撃することで、ロシアが秋になる前にウクライナの
電力網から原発を切り離そうとしているという口実で、欧米に紛争に
介入するよう圧力をかけようとしている可能性もあります。この自殺行為――国連事務総長アントニオ・グテーレスが述べたように――は、2014年以来ウクライナが行ってきた戦争と一致するものでしょう。
エネルゴダールへの攻撃がウクライナのものであることを示す強力な証拠があります。ドニエプル川の対岸から同地に向けて発射された弾丸の破片は、
西側のものです。イギリスの
BRIMSTONEミサイルという精密ミサイルからのもののようで、その使用はイギリスによって監視されています。どうやら、西側はウクライナのZNPPへの攻撃を知っているようです。このことは、なぜウクライナが
国際調査委員会にあまり協力的でないのかや、なぜ欧米諸国がIAEAからの調査員の派遣に非現実的な条件をつけているのか、の説明にもなるかもしれません。とはいえIAEAは、これまであまり誠実さを示してこなかった機関ですが。
TP:ゼレンスキーは、この戦争で戦うために犯罪者を解放していると報道されていますが? これは、ウクライナの軍隊が一般に考えられているほど強くないということを意味するのでしょうか?
JB:ゼレンスキーは、2014年のユーロマイダンによって登場したウクライナ当局と全く同じ問題に直面しています。当時、ウクライナ軍はロシア語を話す同胞と対立したくないので、戦いたくなかったのです。英国内務省の報告によると、予備役が圧倒的に新兵募集への参加を
拒否しています 。2017年10月から11月にかけて、徴兵者の70%が召集に現れていません。また自殺も
問題になっています。ウクライナ軍の主任検察官アナトリー・マティオスによると、ドンバスでの4年間の戦争の後、615人の兵士が
自殺していました。脱走が増え、特定の作戦地域では部隊の
30%に達し、しばしばドンバス軍に有利に働くのです。
このため軍はドンバスで戦うために、より意欲的で、高度に政治化され、超国家主義的で狂信的な戦闘員を軍隊に組み込む
必要が出てきました。彼らの多くはネオナチです。プーチンが「非ナチ化」の目的に言及したのは、こうした狂信的な戦闘員を排除するためです。
今日、問題は少し違ってきています。ロシアがウクライナに進攻したので、ウクライナ兵たちは、彼らと戦うことにはじめから反対しているわけではありません。しかし、ウクライナ兵は自分たちが受ける命令が戦況と一致していないことに気づいています。自分たちに影響を与える決定が、軍事的な要因ではなく、政治的な考慮と結びついていることを理解したのです。ウクライナの部隊は集団で反乱を起こし、ますます戦闘を拒否するようになっています。彼らは指揮官から見捨てられたと感じ、実行に必要な資源もないまま任務を与えられていると感じている、と言っています。
だから、どんなことでもやる覚悟のある兵士を送り込む必要があります。そういった兵士は苦境を強いられるがゆえに、プレッシャーを受け続けることができるのです。スターリンに死刑を宣告されたコンスタンチン・ロコソフスキー元帥も、1941年に出獄し、ドイツ軍と戦ったのと同じ原理です。彼の死刑が解かれたのは、1956年にスターリンが亡くなってからです。
訳注:コンスタンチン・ロコソフスキーはソ連の軍人である。1937年の赤軍大粛清で無実の罪を着せられて逮捕され1940年までレニングラードの刑務所で拘留される。拘留期間に過酷な拷問を受けたが虚偽の自白も身内を売ることもせず耐え抜き1940年、ジューコフとチモシェンコの嘆願により釈放。療養期間を経て軍務に復帰した。東部戦線でジューコフとともにソ連を勝利に導いた。その戦いぶりからWW2最高の前線指揮官として評価されている。WW2東部戦線の正統派主人公である。
1941年からの独ソ戦、バルバロッサ作戦~モスクワ攻防戦で、とくに1944年、バグラチオン作戦でソ連軍が量質ともにドイツを凌駕したことを明確にした。この戦いのあとロコソフスキーはソ連の軍人の最高峰であるソヴィエト元帥に昇進、さらにスターリンから父称で呼ばれるという敬意を受け、彼の名声は不動のものとなった。 軍隊に犯罪者を使うことを覆い隠すために、ロシアは同じことをしていると非難されています。ウクライナと欧米は一貫して「鏡」のプロパガンダを使用しています。最近のすべての紛争と同様に、欧米の影響力は紛争の道徳化にはつながっていないのです。
TP:誰もがプーチンがいかに腐敗しているかを語っていますね?しかし、ゼレンスキーはどうでしょう?彼は「英雄的聖人」なのでしょうか?そう賞賛するように言われていますが。
JB:2021年10月、『パンドラ文書』によって、ウクライナとゼレンスキーがヨーロッパで最も腐敗しており、大規模な脱税を実践していることが明らかになりました。興味深いことに、この文書はアメリカの情報機関の協力で公開されたようですが、ウラジーミル・プーチンの名前は出てきません。正確には、プーチンに関連する人物について書かれており、その人物は未公開の資産とつながっているとされ、その資産はプーチンとの間に子どもをもうけたとされる女性のものである可能性があります。
しかし、我々のメディアがこれらの文書について報道するとき、彼らは日常的にウラジーミル・プーチンの写真を掲載するが、ウォロディミル・ゼレンスキーの写真は掲載しないのです。
図2 ― パンドラ文書では言及されていないにもかかわらず、ウラジーミル・プーチンは一貫して文書と関連付けられている。一方、ウォロディミル・ゼレンスキーは広く関与しているにもかかわらず、我々のメディアで言及されることはない。
私はゼレンスキーがどれほど腐敗しているかを評価する立場にはありません。しかし、ウクライナの社会とその統治が腐敗していることは間違いありません。私はウクライナでおこなわれたNATOの「誠実さの構築」プログラムにささやかな寄付をしましたが、寄付をしたどの国も、その効果に何の幻想も抱いておらず、このプログラムを西側の支援を正当化するための「粉飾」の一種としか考えていないことがわかりました。
欧米がウクライナに支払った数十億ドルがウクライナ国民に届くことはまずないでしょう。CBSニュースの最近の報道によると、西側から供給された兵器のうち戦場に出るのは30~40%に過ぎないそうです。残りはマフィアやその他の腐敗した人たちを潤します。どうやら、フランスのCAESARシステムや、おそらくアメリカのHIMARSのような、西側のハイテク兵器はロシア人に売られているようです。CBSニュースの報道は、西側の援助を弱体化させないために検閲されてしまいましたが、このような理由でアメリカがウクライナに
MQ-1Cドローンの供給を拒否したという事実は変わりません。
ウクライナは豊かな国ですが、現在、旧ソ連邦の中で唯一、ソ連崩壊時よりもGDPが低い国です。したがって、問題はゼレンスキー自身ではなく、深く腐敗し、西側がロシアと戦うことだけを目的に維持しているシステム全体にあるのです。
ゼレンスキーは2019年4月、ロシアとの協定締結というプログラムのもとで当選しました。しかし、誰も彼にそのプログラムを実行させませんでした。ドイツとフランスは、彼がミンスク合意を実行するのを意図的に妨げました。2022年2月20日のエマニュエル・マクロンとウラジミール・プーチンとの電話会談の記録は、フランスが意図的にウクライナを解決から遠ざけたことを示しています。さらに、ウクライナでは、極右やネオナチの政治勢力が公然とゼレンスキーを殺害すると脅しています。ウクライナ軍の司令官であるドミトリー・ヤロシュは2019年5月、ゼレンスキーがそのプログラムを実行したら
絞首刑にすると宣言しています。つまり、ゼレンスキーは、ロシアとの合意形成という自分の考えと、欧米の要求の狭間で窮地に立たされているのです。さらに、西側諸国は、制裁による戦争戦略が失敗したことに気づいています。経済・社会問題が深刻化すればするほど、欧米は面子をつぶさずに引き下がることが難しくなります。英米やEU、フランスにとって逃げ道となるのは、ゼレンスキーを排除することだけでしょう。だからこそ、ウクライナ情勢が悪化している。今、ゼレンスキーは自分の命が狙われていることに気づき始めたのだと思います。
結局のところ、ゼレンスキーはかわいそうな人です。彼の一番の敵は、彼が依存している人々、つまり西側諸国なのですから。
TP:ソーシャルメディアには、ウクライナ兵が深刻な戦争犯罪を犯している動画(陰惨なもの)がたくさんありますね? なぜ西側諸国には、そうした残虐行為が「見えない」のでしょうか(そうした残虐行為を見ないふりすることができるのでしょうか)?
JB: まず、はっきりさせておかなければならないのは、どの戦争でも、どの交戦国でも戦争犯罪を犯しているということです。しかし、意図的にそのような犯罪を犯した軍人は、軍服を汚すことになりますから、罰せられなければなりません。
問題は、戦争犯罪が計画の一部であったり、上位司令部の命令によるものであったりする場合です。オランダ軍が1995年にスレブレニツァの大虐殺をさせた時がそうだったのです。
カナダ軍と
イギリス軍によるアフガニスタンでの拷問もそうです。アフガニスタン、イラク、グアンタナモなどでの米国による無数の国際人道法違反は言うまでもありません。これには、ポーランド、リトアニア、エストニアも加担していました。これらが欧米の価値観であるならば、ウクライナは正しい学校です。
訳注:スレブレニツァの虐殺は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中にボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァで1995年7月に発生した大量虐殺事件である。セルビア人勢力が8700人以上のボスニア人(ムスリム)の男子を虐殺した事件。虐殺に加えて 2万人以上のボスニア人が追放された(→民族浄化)。第2次世界大戦後のヨーロッパで最悪の大量殺人であるこの事件を機に,欧米諸国は停戦を強く求め,ボスニアの領有権をめぐる 3年に及ぶ紛争は終結した。
ウクライナでは、西側諸国の加担によって、政治犯罪が常態化しています。したがって、交渉に賛成する者は消されます。ウクライナ人交渉官の一人である
デニス・キレエフが3月5日にウクライナ治安局(SBU)によって暗殺されたのがそうです。彼は、ロシアに有利すぎる、裏切り者と見なされたからです。同じことが、SBU将校であるドミトリー・デミャネンコにも起こり、
3月10日に暗殺されました。ロシアとの合意に好意的すぎるという理由です。ウクライナという国が、ロシアの人道支援を受けたり与えたりする人物を「
協力主義的(=ロシア協力者)」と考える国であることを忘れてはならないのです。
2022年3月16日、テレビ番組「ウクライナ24」のジャーナリストがナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンに言及し、ロシア語を話す子どもたちを
虐殺するよう呼びかけました。3月21日には、軍医のゲンナディ・ドルゼンコが同番組で、
ロシア人捕虜を去勢するよう医師に命じたと宣言しました。ソーシャルネットワーク上では、これらの発言はすぐにロシア側のプロパガンダだということになり、2人のウクライナ人がそう発言したことについては謝罪しましたが、その内容については謝罪しなかったのです。また、ウクライナ人の犯罪がソーシャルネットワーク上で暴露され始めたので、ゼレンスキーは3月27日、西側の支援が危うくなることを懸念しました。その後、4月3日に、なかなか好都合なことに、ブチャの大虐殺が起こったのですが、その経緯は不明です。
イギリスは当時、国連安保理の議長国でしたが、ブチャの犯罪に関する国際調査委員会の設置を求めるロシアの要請を3度にわたって
拒否しました。ウクライナの社会党議員
イリヤ・キバはテレグラムで、ブチャの悲劇は英国MI6特務機関が
計画し、SBU(ウクライナ保安庁)が実行したことを明らかにしました。
根本的な問題は、ウクライナ人が「作戦術」を残虐性に置き換えてしまったことです。2014年以来、ドンバスの自治を主張する自治派と戦うために、ウクライナ政府は「ハート&マインド」に基づく戦略を適用しようとしなかったのです。この戦略は、英国が1950年代から1960年代に東南アジアで用いたもので、残虐性ははるかに低いが、はるかに効果的で長続きする戦略なのです。キエフ政権はドンバスで対テロ作戦(ATO)をおこない、イラクやアフガニスタンでアメリカがおこなったのと同じ戦略を使うことを好んだのです。テロリストとの戦いは、あらゆる種類の残虐行為を認めてしまいます。アフガニスタン、イラク、マリで西側諸国が失敗したのは、紛争に対する全体的なアプローチの欠如が原因です。
対反乱作戦(COIN)には、より洗練された全体論的なアプローチが必要です。しかし、私がアフガニスタンで直接見てきたように、NATOはそのような戦略を立てることができません。ドンバスでの戦争は8年間も続き、1万人のウクライナ国民と4千人のウクライナ軍人の死者を出しました。それに比べ、北アイルランドでの紛争は30年間で3700人の死者を出しただけです。ドンバス戦争の残虐行為を正当化するために、ウクライナ人はロシアのドンバスへの介入という神話を作り上げなければならなかったのです。
訳注:対反乱作戦は、ゲリラ、テロリストなどの反乱勢力などを鎮圧する作戦や行動をいう。対革命戦、対内乱作戦、治安戦とも表記されることもある。安定化作戦とも重複する部分が多い概念であり、対テロ作戦、対ゲリラ作戦を包括する上位概念である。(ウィキペディア) 問題は、マイダンの新しい指導者たちの理念が、人種的に
純粋なウクライナを獲得するということであったことです。言い換えれば、ウクライナ人の統一は、共同体の統合によってではなく、「劣等人種」の共同体を排除することによって達成されるべきものだったわけです。ウルスラ・フォン・デア・ライエンやクリスティア・フリーランドの祖父が喜びそうなアイデアですね! だからこそ、ウクライナ人は、ロシア語、マジャール語、ルーマニア語を話す少数民族に共感することができないのです。ハンガリーやルーマニアが、ウクライナに武器を供給するために自国の領土を利用されることを望まないのは、このためです。
訳注:ウルズラ・フォン・デア・ライエンは、欧州連合の第13代欧州委員会委員長。ドイツキリスト教民主同盟所属。クリスティア・フリーランドは、カナダ副首相。祖父がナチス協力者で、叔父がカナダの大学教授をしている。 こういうわけで、たとえ自国民を威嚇するために発砲したとしても、ウクライナ人にとっては問題にはならないのです。2022年7月にロシア語圏の都市ドネツクに、おもちゃのように見える数千個のPFM-1(蝶型の)対人地雷を散布したのも、このためです。この種の地雷は、その主な活動領域において攻撃側ではなく、防御側が使用するものです。しかも、この地域では、ドンバス民兵は「自宅で」、個人的に顔見知りの住民を相手に戦っているのです。
戦争犯罪は双方でおこなわれているにしても、その報道は大きく異なっている、と私は思います。我が国フランスのメディアは、ロシアに起因する犯罪を(その真偽はともかく)大々的に報じてきました。一方、ウクライナの犯罪については、極めて沈黙しています。ブチャの大虐殺の全貌はわかりませんが、ウクライナが自らの犯罪を隠蔽するために演出したという仮説は、利用可能な証拠によって裏付けられています。これらの犯罪を黙殺することで、私たちのメディアは、犯罪に加担し、罰など受けないという免責の感覚を生み出し、ウクライナ人がさらに犯罪を犯すことを助長してきたのです。
TP:ラトビアは、西側(アメリカ)がロシアを「テロ国家」に指定することを望んでいます。これについてはどう思われますか?これは、戦争が実際に終わり、ロシアが勝利したことを意味するのでしょうか?
JB: エストニアとラトビアの要求は、ゼレンスキーがロシアをテロ国家に指定するよう求めたことに対応するものです。興味深いのは、クリミアやウクライナの占領地、その他のロシア占領地でウクライナのテロキャンペーンが繰り広げられているのと同じ時期に、この要求が出されたことです。また、2022年8月のダリヤ・ドゥギナ襲撃にエストニアが加担していたらしいことも興味深いことです。
ウクライナは、自分たちが犯した犯罪や抱えている問題の鏡像で自分たちの意思を表明しているようです。つまりそれらを隠すためです。例えば、2022年5月末にマリウポリのアゾフスタル降伏でネオナチの戦闘員が映ると、「ロシア軍にネオナチがいる」と主張しはじめたのです。2022年8月、キエフ政権がクリミアのエネルゴダール発電所やロシア占領地でテロ的な性格の行動をとっていたとき、ゼレンスキーはロシアをテロ国家と見なすよう
呼びかけました。
実際、ゼレンスキーはロシアを倒すことでしか自分の問題を解決できないし、その敗北は対ロ制裁にかかっていると考え続けています。ロシアをテロ国家と宣言すれば、ロシアをさらなる孤立へと追い込むことになります。だから、彼はこのような訴えをしているのです。このことは、「テロリスト」というレッテルが作戦よりも政治的なものであり、このような提案をする人たちが、あまり明確な問題意識を持っていないことを表しています。問題は、それが国際関係に影響を及ぼすということです。このため、米国務省は、ゼレンスキーの要求が議会で承認されることを懸念しているのです。
TP:今回のウクライナ・ロシア紛争の悲しい結果の1つは、欧米がいかに最悪の事態を招いたかということです。私たちはこれからどこに向かうと思いますか? これまでと変わらないのか、それとも変更を余儀なくされるのか。NATOや、もはや中立国でなくなった国々、そして西側が世界を「統治」しようとする方法の今後についてあなたの意見を聞かせてください。
JB:今回の危機は、いくつかのことを明らかにしています。まず、NATOとEUは米国の外交政策の道具に過ぎないということです。これらの機関は、もはや加盟国の利益のために行動するのではなく、アメリカの利益のために行動しているのです。アメリカの圧力の下で採用された制裁措置は、この危機全体の中で大きな敗者であるヨーロッパに裏目に出ています。ヨーロッパは自ら制裁を受け、自らの決定の結果として生じる緊張に対処しなければならないのです。
西側諸国の政府による決定を見ると、いまの指導者たちの実態が明らかになってきます。若くて経験の浅い指導者(フィンランドのサナ・マリン首相のような)、無知だが自分は賢いと思っている指導者(フランスのエマニュエル・マクロン大統領のような)、教条的な指導者(欧州委員会のアーシュラ・フォン・デア・ライエン委員長のような)、そして狂信的指導者(バルト諸国の指導者のような)、と挙げることができますが、これらの首脳には共通した弱点があります。それは特に複雑な危機を管理する能力が欠けていることです。
頭が危機の複雑さを理解できないとき、私たちは根性論と独断的態度で対応します。これがヨーロッパで起きていることです。東欧諸国、特にバルト三国とポーランドは、アメリカの政策に忠実な下僕であると自認しています。また、未熟で、対立的で、近視眼的な統治を示してきました。これらの国々は、西側の価値観を完全なものにしたことがなく、第三帝国の勢力を称揚し、自国のロシア語を話す人々を差別し続ける国なのです。
私は欧州連合(EU)についてはわざわざ言及しません。EUはこれまでずっと外交的解決に猛烈に反対し、火に油を注ぐだけの存在だったからです。
紛争に巻き込まれれば巻き込まれるほど、その結果にもより深く関わってくるものです。勝てば万々歳。しかし、もし紛争が失敗に終われば、その重荷を背負うことになる。これが、最近の紛争で米国に起こったことであり、ウクライナで起こっていることです。ウクライナの敗北は、欧米の敗北になりつつあるのです。
この紛争でもう一つ大きな敗者となったのは、明らかにスイスです。中立の立場が突然、信用を失ったからです。8月上旬、スイスとウクライナは、モスクワのスイス大使館がロシアにいるウクライナ国民を保護する協定を締結しました。しかし、この協定を発効させるためには、ロシアの承認を受けなければなりません。極めて当然のことながら、ロシアはこれを
拒否し、「スイスは残念ながら中立国としての地位を失い、仲介者・代理人として行動することはできない」と宣言したのです。
これは非常に重大な事態です。なぜなら、中立とは、単に一方的な宣言ではないからです。中立は一方的な宣言ではなく、すべての人に受け入れられ、認知されなければならないのです。しかし、スイスは欧米諸国と足並みを揃えるだけでなく、欧米諸国よりもさらに極端になったのです。170年近く認められてきた政策を、スイスはわずか数週間で台無しにしてしまったと言えます。これはスイスの問題ですが、他の国の問題でもありましょう。中立国家というものは、危機を脱するための方法を提供することができるはずです。現在、欧米諸国はエネルギー危機の観点から、面目を失わずにロシアに接近できるような出口を探しています。この役割を担っているのはトルコですが、それも限定的です。NATOの一員だからです。
図3 ― ロシアに制裁を加えた国や組織。スイスは中立国でありながら、1位に立っている。複数の独自情報によれば、これは米国からの圧力と脅迫でおこなわれたとのこと。しかし、これは中立の原則に大きな打撃を与えるものであり、将来の紛争に影響を与えるものだ。
西側諸国は、「第2の鉄のカーテン」を作り出してしまったのです。それは今後何年にもわたって国際関係に影響を与えることになるでしょう。西側諸国の戦略的ビジョンの欠如には驚いてしまいます。NATOが米国の外交政策に同調して、中国攻撃に矛先を向けているあいだに、西側の戦略は「モスクワー北京」軸を強化したに過ぎないからです。
TP:この戦争は最終的に、欧州、米国、中国にとってどのような意味を持つとお考えですか?
JB:この問いに答えるには、まず別の問いに答えなければなりません。「なぜこの紛争は、西側諸国が始めた過去の紛争よりも、非難され、かつ罰せられるべきものなのか?」という問いです。
アフガニスタン、イラク、リビア、マリの惨事の後、世界の他の国々は、西側が常識的にこの危機を解決する手助けをすることを期待しました。しかし西側諸国は、こうした期待とはまったく逆の反応を示したのです。この紛争がなぜ以前の紛争よりも非難されるべきものなのか、誰も説明できないばかりか、ロシアと米国の扱いの違いから、被害者よりも加害者の方が重視されていることが明らかになったからです。ロシアを崩壊させようとする努力は、国連安保理に嘘をつき、拷問をおこない、100万人以上の死者を出し、3700万人の難民を生み出した国々(すなわち、イラク戦争のとき、米国とそれに協力した英国・フランスなど)が与えられた完全な刑事免責とは対照的なのです。
この扱いの差は、西側諸国では全く気づかれませんでした。しかし、「世界の他の国々」は、「法に基づく国際秩序」から、欧米が決定した「規則に基づく国際秩序」に移行していたことを理解しているのです。
より世俗的なレベルで言うと、2020年にベネズエラの金塊をイギリスが没収、2021年にアフガニスタンの国債をアメリカが没収、そして2022年にロシアの国債をアメリカが没収したことで、西側の同盟国への不信感が高まっています。これは、非西側諸国がもはや、法に守られず、西側の善意に依存しているにすぎない、ということを見せつけたのです。
このウクライナ紛争は、おそらく新世界秩序の出発点となるでしょう。世界が一気に変わるわけではありませんが、この紛争は世界の残りの人々の関心を高めました。「国際社会」がロシアを非難しているといっても、実際には世界人口の18%の話なのですから。
伝統的に西側に近い当事国も、徐々に西側から離れつつあります。2022年7月15日、ジョー・バイデンは、2つの目的でモハメド・ビン・サルマン(MbS)を訪ねました。サウジアラビアがロシアや中国に接近するのを阻止することと、石油の増産を求めるという目的です。しかし、その4日前にMbSは
BRICSのメンバーになることを正式に要請し、1週間後の7月21日にはMbSは
プーチンに電話し、OPEC+の決定を支持することを確認したのです。つまり、原油増産はなし。欧米とその最強の代表に対する平手打ちでした。
サウジアラビアは今回、原油の支払いに中国の通貨を受け入れると決めました。これは大きな出来事であり、ドルに対する信頼喪失を示す傾向を示しています。その結果は潜在的に巨大です。ペトロダラーは、1970年代に米国が赤字国債の資金調達のために創設したものです。他国にドルを買わせることで、米国はインフレのループに巻き込まれることなくドルを刷ることができます。ペトロダラーのおかげで、アメリカ経済は――基本的に消費者経済ですから――世界の他の国々の経済によって支えられているのです。元共和党上院議員のロン・ポールが言うように、ペトロダラーの崩壊は米国経済に悲惨な結果をもたらす可能性があります。
また、制裁によって、欧米が標的としている中国とロシアが接近しています。これにより、ユーラシア圏の形成が加速され、世界における両国の地位が強化されました。米国が「日米豪印4カ国の枠組み(Quad)」の「二流」パートナーと蔑視(べっし)してきたインドは、ロシアや中国に接近しています。中国とは係争中であるにもかかわらず、です。
現在、中国は第三世界における社会基盤の主要な供給者です。とりわけ、その中国のアフリカ諸国との付き合い方は、アフリカ諸国の期待に沿ったものとなっています。フランスなどの旧植民地主義国やアメリカ帝国主義の温情主義との連携は、もはや歓迎されていません。例えば、中央アフリカ共和国やマリは、フランスに自国から出て行くよう求め、ロシアを頼るようになりました。
東南アジア諸国連合(ASEAN)サミットで、アメリカは1億5000万ドルの拠出を
誇らしげに発表し、「中国との広範な地政学的競争において地位を強化」するとしました。しかし、2021年11月、習近平国家主席は同じ国々に15億ドルを提供し、パンデミック対策と経済回復を支援しました。アメリカは、資金を戦争に使っているので、同盟関係を構築し強化するための資金が残っていないのです。
欧米が影響力を失っているのは、「世界の他の国々」を「幼い子ども」のように扱い続け、優れた外交の有用性を軽視していることに起因しています。
ウクライナでの戦争は、数年前に始まっていた上記の現象を引き起こした引き金ではありませんが、世界中の国々の目を覚まさせ、優れた外交を加速させるものであることは間違いないでしょう。
TP:西側メディアは、プーチンが重病にかかったかもしれないとわめき散らしています。もしプーチンが突然死んだら、戦争に全く変化がないのでしょうか?
JB:ウラジーミル・プーチンは、世界でも珍しい医療ケースだと思われています。彼は、
胃がん、白血病、不明だが不治の病で
末期症状、そしてすでに
死亡していると報道されるなどです。しかし、2022年7月、アスペン安全保障フォーラムで、CIA長官ウィリアム・バーンズは、プーチンは「
健康すぎる」と述べ、「健康状態が悪いことを示唆する
情報はない」と発言しました。これは、ジャーナリストと称する人たちの仕事がどんなものかを実によく示しているではありませんか!
プーチンが重病というのは希望的観測なのであり、高次元では、プーチンへのテロやプーチンの
物理的抹殺を求める声と呼応しているのです。
西側諸国はプーチンを通してロシアの政治を私物化しています。なぜなら、プーチンはエリツィン時代以降のロシアの復興を推進した人物だからです。アメリカ人は、競争相手がいなければチャンピオンになって、他人を敵と見なしたがります。これは、ドイツ、ヨーロッパ、ロシア、中国に対して当てはまります。
しかし、我々西側のいわゆる「専門家」と呼ばれる人たちはロシアの政治についてほとんど知らないのです。現実には、ウラジーミル・プーチンはロシアの政治状況において、むしろ「鳩派」のような存在だからです。我々西側が作り出したロシアとの間に生まれた風土を考えれば、彼がいなくなってしまえば、より攻撃的な勢力が出現することもあり得ないことではないでしょう。忘れてはならないのは、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ジョージアといった国々には、ヨーロッパの民主的な価値観が育っていないことです。彼らはいまだにロシア系民族に対する差別的な政策をとっており、これはヨーロッパの価値観からかけ離れたものですし、また未熟な挑発者のように振る舞っています。もしプーチンが何らかの理由でいなくなれば、これらの国々との紛争は新たな局面を迎えることになると思います。
TP:現在のロシアはどの程度統一されているのでしょうか。この戦争によって、ロシア国内に以前よりも深刻な反対勢力が生まれたでしょうか?
JB:いいえ、その逆です。アメリカやヨーロッパの指導者たちは敵をよく理解していないのです。ロシア国民は非常に愛国的で結束力が強い。欧米諸国がロシア国民を「罰する」ことに執着した結果、ロシア国民が指導者に近づいてしまっただけなのです。実際、政府を転覆させるためにロシア社会を分裂させようとする西側の制裁は、最も愚かなものも含めて、クレムリンが長年言ってきたこと、すなわち西側がロシア人に対して深い憎しみを抱いているということを裏付けるものとなっています。かつて嘘だと言われたことが、今やロシアの世論のなかで確認されているのです。その結果、政府に対する国民の信頼はますます強くなっています。
「レバダセンター」(ロシア当局は「外国人スパイ」とみなしている)が示した支持率によると、プーチンとロシア政府を取り巻く世論が厳しくなっている、といいます。2022年1月、ウラジーミル・プーチンの支持率は69%、政府の支持率は53%でした。現在、プーチンの支持率は3月以降83%前後で安定しており、政府の支持率は71%です。1月には29%がプーチンの決断を認めませんでしたが、7月には15%にとどまっています。
「
レバダセンター」によると、ロシアのウクライナでの作戦でさえ、好意的な意見が多数を占めています。3月には81%のロシア人は作戦に賛成していましたが、3月末の制裁の影響か74%に下がり、その後、再び上昇しました。2022年7月、作戦の国民的支持率は
76%でした。
図4 ― ロシア人全員がウクライナでの特殊作戦を支持しているわけではないが、国民の4分の3は支持している。ウクライナの戦争犯罪、欧米の制裁、ロシア当局の優れた経済運営などがこの支持を説明している。[出典]
問題は、我々西側のジャーナリストには教養もジャーナリズムの規律もなく、それを自分の信念にすり替えていることです。それは一種の陰謀で、事実ではなく自分の信じていることに基づいて、偽りの現実を作り出すことを目的としています。例えば、反体制派の指導者と目されているアレクセイ・ナワリヌイでさえ「私が権力の座に上っても、クリミアはウクライナには返還しない」と言ったことを知る(あるいは知ろうとする)人はほとんどいません。西側の行動によって反対派が完全に一掃されたのは、「プーチンの弾圧」のせいではなく、ロシアでは、外国の干渉や西側のロシア人への深い侮蔑に対する抵抗が超党派の大義名分になっているからです。まさに、西側諸国のロシア人嫌いと同じです。そのため、アレクセイ・ナワリヌイのような著名人が(決して人気が高いとはいえませんが)、大衆メディアの風景から完全に消えてしまったのです。
訳注:反体制派の指導者と目されているアレクセイ・ナワリヌイは、2014年10月のインタビューで、「私にその権力があったとしても、クリミア半島をウクライナに返還することはない」し、「ロシアにとって不法移民の問題は、隣国の戦乱のウクライナで起きていることよりも重要だ」と述べた。
さらに、たとえ制裁がロシア経済に悪影響を与えたとしても、2014年以降の政府の対応を見ていますと、経済のメカニズムに精通し、状況を見極めるリアリズムに長けていることがわかります。ロシアでも物価の上昇はありますが、ヨーロッパに比べるとかなり低いですし、欧米経済が主要金利を引き上げているのに対して、ロシアは下げています。
ロシアのジャーナリスト、マリナ・オヴシャニコワは、ロシアにおける反体制派の声の代表者として挙げることができます。彼女のケースが興味深いのは、例によって、我々西側がすべてを語っているわけではないことです。
2022年3月14日、彼女はウクライナでの
戦争の終結を求めるポスターを持ってロシア第1チャンネルのニュース番組に乱入し、国際的な喝采を浴びました。彼女は逮捕され、280ドルの罰金を科されました。
5月、ドイツの
新聞社ディ・ヴェルトは彼女にドイツでの仕事を提供しましたが、ベルリンでは親ウクライナの活動家が同紙に彼女との
協力関係を解消させるための
デモをおこないました。メディア「ポリティコ」は、彼女が
クレムリンのスパイ!である可能性を示唆したほどです。
その結果、2022年6月、彼女はドイツを離れ、故郷のオデッサに住むことになりました。しかし、ウクライナ側は感謝するどころか、彼女を「ミロトウォレッツ」という
ブラックリストに載せ、反逆罪、「クレムリンの特別な情報・宣伝活動への参加」、「侵略者への加担」で告発しているのです。
「ミロトウォレッツ」のウェブサイトは、ウクライナ政府の意見に同調しない政治家、ジャーナリスト、著名人の「暗殺リスト」です。リストに載っている人のうち、何人かは殺害されています。2019年10月、
国連は同サイトの閉鎖を要請しましたが、これはヴェルホーヴナ・ラーダ(ウクライナの立法府。正式名はウクライナ最高議会)によって
拒否されました。注目すべきは、わが国スイスの主要メディアのいずれもこの慣行を非難していないことです。これは、スイスの主要メディアが守ると主張する価値観とは非常にかけ離れています。言い換えれば、私たちのメディアは、かつて南米の政権に起因していたこれらの慣行を支持しているのです。
図5 ―「消された」とマークされたダリア・ドゥギナ
その後、オフシャニコワはロシアに戻り、プーチンを「殺人者」と呼んで戦争反対の
デモをおこない、警察に逮捕されて3カ月間、自宅軟禁されました。このとき、わが国スイスのメディアは抗議をしました。
2022年8月21日にモスクワで爆弾テロの犠牲となったロシア人ジャーナリスト、ダリヤ・ドゥギナがミロトヴォレッツのリストに載っており、彼女のファイルは「
清算(消去済み)」とされていたことは特筆に価します。もちろん、彼女が「ミロトウォレッツ」のサイトで狙われていたことに言及した西側メディアはありません。このサイトはウクライナ保安庁SBUとつながりがあると考えられてますので、西側メディアがこんな記事を載せれば、ロシアの言い分を支持することになってしまうからです。
ドイツ人のアリーナ・リップ記者は、ドンバスにおけるウクライナと欧米の犯罪について暴露していますが彼女もまた、ウェブサイト「
ミロトウォレッツ」に載せられています。さらに、アリーナ・リップは、ドイツの裁判所から欠席裁判で3年の実刑判決を受けたのですが、これは彼女が、ロシア軍がウクライナの地域を「解放した」と主張し「犯罪行為を美化」したからだというのです。ご覧のとおり、ドイツ当局は、ウクライナのネオナチ分子のように機能しています。今日の政治家たちは、彼らの祖父母の偉功を借りているだけなのです!
戦争に反対する人がいても、ロシアの世論は圧倒的に政府を支持していると結論づけることができます。欧米の制裁は、ロシア大統領の信頼性を高めただけです。
結局、私がこれまで述べてきたことは、我々西側のメディアと同じように、ロシアへの憎しみをウクライナへの憎しみにすり替えることではありません。逆に、世界は白か黒かどちらかではなく、欧米諸国の対応が行き過ぎであることを示すことです。ウクライナに同情的な人たちは、2014年と2015年に合意された政治的解決策を実行するよう、各国政府に働きかけるべきだったのです。彼らは何もせず、今はウクライナに戦いを迫っています。しかし、私たちはもはや2021年ではありません。今日、私たちは自分たちの非決断の結果を受け入れ、ウクライナが正常な状態に戻ることを支援しなければなりません。しかし、それはこれまでのように、そのロシア語圏の人々を犠牲にしておこなうのではなく、ロシア語圏の人々とともに、包括的な方法でおこなわなければならないのです。ただ、フランス、スイス、ベルギーのメディアを見ると、まだゴールにはほど遠いようです。
TP:ボーさん、大変啓発的なお話をありがとうございました。
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