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「トランプ革命」は嘘! トランプ氏はやはり反中・好戦的人物だ!

<記事原文 寺島先生推薦>
Donald Trump and the Drive to War against China
筆者:カルロス・マルティネス(Carlos Martinez)
出典:Friends of Socialist China 2024年11月16日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年12月1日


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以下の記事は、Labour Outlookにやや短い形で最初に掲載されたもので、カルロス・マルティネス氏が、トランプ大統領の再任下における米国主導の中国に対する新冷戦の見通しと、世界二大経済大国間の軍事衝突の可能性を評価している記事だ。

この記事は、2011年のオバマ・クリントン政権の「アジアへの軸足」に始まり、トランプ政権の貿易戦争、そしてバイデン政権の制裁や関税、半導体戦争、軍事的挑発、AUKUSの創設と、米国の対中政策が10年以上にわたって比較的一貫している点を指摘することから始まっている。

トランプ政権下で何が変わるのか? カルロス氏は、トランプ氏が中国製品に前例のない関税を課すと繰り返し約束していることから、「経済対立の深化はあり得る」と指摘する。また、トランプ氏は選挙運動中に米国の「永遠の戦争」を終わらせたいと声高に主張していたが、「根っからの中国強硬派のマルコ・ルビオ氏とマイケル・ウォルツ氏を国務長官と国家安全保障問題担当大統領補佐官に任命したことは、トランプ氏が敵対関係を強化させるつもりだという明確な兆候だ」とも記している。

(以下は記事からの抜粋)
マルコ・ルビオ氏は反中国の狂信者であり、さらなる関税やさらなる制裁、さらなる中傷、台湾分離主義へのさらなる支援、南シナ海でのさらなる挑発、香港と新疆ウイグル自治区のさらなる不安定化を支持している。マイク・ウォルツ氏は中国との戦争に備えて、インドや日本、オーストラリア、および地域の他の国々とのより緊密な軍事協力を長い間主張してきた。
(抜粋はここまで)

この記事の指摘によると、中国が西側諸国に一貫して提案しているのは、「気候変動や疫病の大流行、平和、核拡散、食糧安全保障、開発など、人類が直面している緊急の問題に取り組む」ための協力に基づいている、とのことだ。しかし、西側諸国の政府にそのような提案を受け入れさせるには、大衆による運動しかないことは明らかだ。

(以下、記事本文)
「アジア回帰」はオバマ政権によって開始され、当時国務長官だったヒラリー・クリントン氏が「米国の太平洋世紀」に向けた戦略策定の任務を負っていたが、米国の反中敵意を本当に高めたのは2017年から21年までのトランプ大統領の任期だった。

ドナルド・トランプ氏は2016年の選挙運動で、対中貿易赤字の解消で雇用を守ると公約し、「中国が我が国を強姦し続けることを許すことはできない。彼らはまさにそれをおこなっている。これは世界史上最大の窃盗だ」と述べた。

政権を握ったトランプ政権は、本格的な貿易戦争を開始し、数千億ドル相当の中国輸入品に巨額の関税を課した。これは中国のテクノロジー企業に対する組織的な攻撃と組み合わされ、米国の通信基盤からファーウェイを排除し、TikTokとWeChatの米国での運営を阻止しようとした。

軍事面では、トランプ大統領は南シナ海における米国の影響力を強化し、中国に対抗する広範な地域同盟の構築に向けて、クアッド(米国、日本、インド、オーストラリア)同盟の再活性化を目指した。

国務省は中国人留学生や研究者への取り締まりを監督し、新型コロナウイルスの大流行の到来とともに、トランプ大統領はあからさまな人種差別に訴え、「カンフー風邪」や「中国ウイルス」などという発言を繰り返した。これらすべての動きが東アジア系の人々に対する憎悪に基づく犯罪行為の恐ろしい増加につながった。

そのため、ジョー・バイデン氏が4年前に大統領に選出されたとき、多くの人が安堵のため息をついた。しかし残念なことに、バイデン氏は、粗野な対立的な物言いやあからさまな人種差別主義こそないものの、前任者の反中国戦略姿勢を基本的に維持している。バイデン氏は多くの点で、特に米国の戦略的利益をめぐる国際的な連合の構築に関しては、中国に対する軍事的および経済的封じ込めを追求する上でより組織的に動いている。

2021年9月、米国、英国、オーストラリアは、核拡散防止条約に明らかに違反し、明らかに中国に対抗するために設計された核協定であるAUKUSの開始を発表した。

バイデン氏はクアッド首脳会議を何度も主催しており、その会議で加盟国は「自由で開かれたインド太平洋への揺るぎない参画」、つまり、米国が同地域に300以上の軍事基地や数万人の兵士、核兵器搭載可能な戦闘機、航空母艦、核先制攻撃能力の確立を目的としたミサイル防衛システムを維持できる状況を繰り返し表明している。

クアッドとAUKUSの組み合わせは、アジア版NATOを作ろうとする試みのようにも見える。一方、ナンシー・ペロシ下院議長の2022年の台湾省訪問は、四半世紀ぶりの米国による台湾訪問となった。

2023年、バイデン氏は初めて台湾への直接的な米国軍事援助を承認した。2023年11月のBBCは見出しで、「米国はひそかに台湾を徹底的に武装させている」と指摘した。これは、米中外交関係の基盤をなす3つの共同声明(1972,1979,1982)を弱体化させるものであり、明らかに台湾海峡の緊張を煽り、台湾をめぐって中国との潜在的な熱戦を仕掛けることを狙っている。最近明らかにされたマイク・ミニハン陸軍大将による文書では、2025年に台湾をめぐる戦争が予言されていた。「私の直感では、2025年には戦争になるだろう」と。

バイデン政権は、中国のテクノロジー産業に対するトランプ時代の規制を拡大し、特に半導体生産や人工知能、携帯電話などの分野での中国の進歩を遅らせるために「チップ戦争」を開始した。また、バイデン政権下の米国政府はいくつかの野心的な気候目標を設定するいっぽうで、中国の太陽電池材料に対する包括的な制裁を導入し、中国の電気自動車に巨額の関税を課した。

残念なことに、民主党と共和党の間には意見の一致がある。バイデン氏の言葉を借りれば、「我が国は21世紀に勝つために中国と競争している」と。そして米国はどんな犠牲を払ってでもこの競争に勝たなければならないのだ。

トランプ大統領が2期目を迎えた場合、状況はどの程度変化すると予想されるだろうか?

経済対立の深刻化はあり得ることだ。トランプ大統領はすでに中国製品に60%の関税を課すと警告している。関税が最高25%に達した前回の貿易戦争から大幅に上昇している。一方で、中国の自動車製造業者に対しては「100%、あるいは200%の関税」を示唆している。

米国と中国は昨年、環境問題での協力で一定の進歩を遂げたが、トランプ次期大統領が中国との協力と気候変動対策の両方を軽蔑していることを考えると、この進歩はおそらく消え去るだろう。

軍事戦略の点では、状況はそれほど明確ではない。米国の「永遠の戦争」に反対するトランプ氏の言い分は選挙運動に役立ったかもしれないが、米国当局内で戦争の鼓動がますます激しくなっていることを考えると、その約束は実現しない可能性が高い。

ドナルド・トランプ氏は国際関係について一貫した分析をおこなっているため、中国との対決に備えるために米国はロシアを同盟国にすべきだという「現実主義者」の考えに最も近い人物かもしれない。もちろんその考えは既に出航しており、ロシアと中国の関係は1950年代以来の最高点にあるが、それでも米国は重点と資源をロシアから中国へと移す可能性が高い。

根っからの中国強硬派であるマルコ・ルビオ氏とマイケル・ウォルツ氏の国務長官と国家安全保障担当大統領補佐官への任命は、トランプ大統領が敵対行為を強化させるつもりであることを示す明確な兆候だ。マルコ・ルビオ氏は反中国の狂信者で、関税の強化や制裁の強化、中傷の強化、台湾分離主義へのさらなる支援、南シナ海でのさらなる挑発、香港と新疆ウイグル自治区のさらなる不安定化を支持している。マイケル・ウォルツ氏は中国との戦争に備えて、インドや日本、オーストラリア、その他の地域諸国との軍事協力の強化を長年にわたり求めてきた。

中国の習近平国家主席はトランプ氏当選の祝辞の中で、「安定的で健全かつ持続可能な米中関係は両国の共通の利益にかなうものであり、国際社会の願望にも合致する」と述べた。これは、気候変動や疫病の大流行、平和、核拡散、食糧安全保障、開発など人類が直面する緊急課題に協力して取り組もうという、中国が西側諸国に提案していることを簡潔にまとめたものだ。

こうした提案を受け入れることは、スターマー・スナク両首相の下で米国の立場に危険なほど近づいている英国を含む米国とその同盟諸国にとって、進路の大幅な変更を意味するだろう。それは、人類が多極化した未来へと向かう軌道を受け入れることを意味し、覇権的野望よりも地球と人々を優先することを意味し、米国が新世紀計画を断念することを意味するだろう。

帝国主義支配階級は自ら進んでその道を歩むことはないだろう。だからこそ、大衆運動が彼らにそうさせねばならない。

『立ち上がれ、アフリカ! 吼えろ、中国!』の著者、高云翔とのインタビュー

<記事原文 寺島先生推薦>
Arise, Africa! Roar China! Interview with Gao Yunxiang
出典:INTERNATIONALIST 360°  2022年6月13日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2022年9月29日


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 『起て、アフリカ! 吼えろ、中国!』は、進歩的なアフリカ系アメリカ人と中国革命の歴史的な結びつきの側面を探求した重要な本だ。2021年12月に北カロライナ大学出版局から刊行された。著者である高云翔博士は、中華人民共和国で生まれ育ち、現在はカナダのトロントメトロポリタン大学で歴史学の教授を務めている。彼女の本は、第二次世界大戦および冷戦中において、20世紀の最も有名な三人――アフリカ系アメリカ人であるW. E. B. デュボイス、ポール・ロブソン、ラングストン・ヒューズ――と、ほとんど知られていない中国の同盟者――ジャーナリスト、音楽家、クリスチャン活動家の劉良模、および中国・カリブ系ダンサー・振付家であるシルヴィア・シーラン・チェン――との間にあった、彼らの密接な関係を探求している。中米関係の研究において新たな道筋を描き出す高云翔博士は、アフリカ系アメリカ人を中心に据えつつ、黒人の国際主義の研究と中国系アメリカ人の経験とを結びつけ、太平洋をまたぐ物語と中国の現代的な大衆文化と政治の世界的な再構築の理解を組み合わせる。高云翔博士は、中国人とアフリカ系アメリカ人の進歩的な交流について、特に活発だった1960年代から1970年代初頭以前の交流を明らかにしている。

 この本を紹介するために、米国コーネル大学のアフリカ研究の博士候補生である劉紫鳳(りゅう・しほう)によってSixth Toneウェブサイトのために行なわれた高博士への2部構成のインタビューを再掲載できることは喜ばしいことです。
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劉紫鳳: 中国人とアフリカ系アメリカ人の関係に興味を持つきっかけとなったのは何ですか?『立ち上がれ、アフリカ! 吼えろ、中国!』を執筆することになった動機は何ですか?

高云翔:初めての著書『公正な性別』の研究中、私は『人民日報』でW. E. B. デュボイス(Du Bois)とシャーリー・グラハム・デュボイス(Shirley Graham Du Bois)に関する賞賛の記事を見つけました。それで私の少女時代に読んだものを想い出しました。特にある古い新聞記事と宣伝ポスターです。

 私の幼少期の家は内モンゴル自治区にあり、天井はまとめ買いした古い新聞で覆われた木製の平らな格子でした。読み書きを覚えた後、私は毎晩、自分の枕のすぐ上に貼られた見出しを見ることになったのです。それは、翌年の旧正月になって新しい古新聞の層で覆われるまでの間、毎晩のように続きました。それらの言葉を毎日読んだので、それらは私の脳に刻まれました。「ロバート・ウィリアムズとデュボイス夫人、毛沢東主席の発言を熱烈に支持、黒人アメリカ人の暴力的な抑圧に対する闘いを支持」という言葉です。

 その表題は、今度は、私たちの小さな教室に掛かっていた、1年から3年までの18人の生徒のためのポスターの記憶とつながります。解放闘争における団結を提唱するこのポスターには、憤慨した様々な民族の男性と女性が、活気ある服装を身にまとい前進している様子が描かれており、中央には筋肉質の黒人の男性が銃を持って立っていました。

 『公正な性別』は2013年に発表されました。同じくその頃、私はDu Bois Review誌に論文を発表し、W. E. B. とシャーリー・グラハム・デュ・ボイスの毛沢東主義中国での活動が中米関係と黒人国際主義に新たな次元をもたらしたことを探究しました。その論文を執筆する際、当然のようにポール・ロブソンとの出会いがありました。彼はデュ・ボイス夫妻と切り離せない連携を結んでいました。その後、ポール・ロブソンと中国の知られざる興味深い関係を調査する中で、彼の中国の仲間である劉良模とシルヴィア・シーラン・チェンとの出会いもありました。

 もちろん、私は彼らが誰なのかについてすぐに興味を持ちました。シルヴィア・シーラン・チェンについて調べているうちに、ラングストン・ヒューズが彼女の恋人であったことを知りました。そこで、まるで鎖のように絡み合ったこれらの人物を追跡しました。

劉:アフリカ系アメリカ人の知識人、アーティスト、そして活動家たちは、中国の何に惹かれたのでしょうか? どのように中国と出会ったのでしょうか? これらの出会いに対する彼らの印象はどうだったのでしょうか?

高:世界の有色人種間の団結と、彼らの反人種差別と反植民地主義への運命的な共感が、これらの人物の中国への注目を集めたのです。国家が課す圧倒的で組織的な人種差別と白人至上主義に立ち向かう少数派として、黒人の知識人や活動家は、同様に抑圧されている中国に目を向け、刺激と力を求めようとしたのです。

 これらの人物と左翼中国人および中国との結びつきは、深い感情的および知識的基盤の上に築かれました。彼らは、中国-アフリカの間には人種や、言語、哲学、そして芸術的な関連があるとの信念を共有していました。ヒューズは、中国人を「非常に陽気な人々で、故郷の有色の人々に似ている」と観察しました。デュボイスは中国人を「肉体的には私のいとこ」と称賛しました。

 デュボイスとロブソンの二人は、アフリカと中国の文明のつながりを一貫して述べ、孔子や老子などの有名な中国の文化的偉人を引用し、アフリカ文明は洗練されているとの議論を展開し、一般的に認識されているアフリカの「原始性」という否定的な固定概念に対抗し、白人至上主義の正体を暴露しました。

 文化的に共通性があることは必然的に政治的な連携をもたらしたのです。中国の革命を非白人社会と経済の向上の手段として受け入れることで、黒人知識人は、アフリカ系アメリカ人の闘争を中国民族主義者の闘争に直接、結びつけました。ヒューズが1933年に「信じられないくらい素晴らしい」上海を訪れたことで、彼は中国の土地に足を踏み入れた最初の有名黒人知識人となりました。彼は中国の植民地支配の下での苦難、特に日本の直近の侵略の下での苦難に深い共感を抱いていました。ヒューズは、1937年の日本の中国への全面侵略の後、中国の抵抗を讃える情熱的な詩「吼えろ、中国!」を書きました。

 1949年の共産党の勝利は、中国を非白人の革命的な闘争の柱にし、数百万人にとって植民地主義に打ち勝つお手本となりました。ロブソンはロマンティックに想像しました―非白人の世界は、立ち上がる中国を「東方の新しい星・・・帝国主義的な奴隷制から独立と平等への道を指し示している」と見るだろうと。

 1959年の壮大な中国旅行中、デュボイスは西洋の人種差別や、植民地主義、そして資本主義などに対抗する中国とアフリカの尊厳と結束を繰り返し宣言しました。「アフリカよ、立ち上がれ、そして姿勢を正せ、話せ、考えよ! 過去500年間の西洋とその奴隷制と屈辱に背を向け、昇る太陽に向かえ・・・ 中国はあなたの肉と血の一部だ」。 彼は「より肌の色の黒い世界」は社会主義を「肌の色の問題に対する唯一の答え」として採用するだろうと予測し、それによってアフリカ系アメリカ人の地位が向上するだろうと述べたのです。

 ヒューズは、アメリカでは反共ヒステリーがあったため、急進主義から身を引いたにもかかわらず、中国人民共和国に力があることへの自信は持ち続けました。中国共産党から得た刺激は抑えていましたが、アフリカ系アメリカ人が受けた残酷な人種暴力に対する怒りで再びそれは表面化しました。「バーミンガムの日曜日」というヒューズの詩は、1963年9月15日のアラバマ州バーミンガムの第16番街バプテスト教会での爆破事件で亡くなった4人の黒人少女に捧げられました。彼の怒りはかつて中国の抑圧された人々が感じた怒りと接点を持ちました。

劉: あなたが特にとりあげた中国の知識人と活動家についてはどうですか? 彼らは何者だったのですか? 彼らはなぜアフリカ系アメリカ人に接触しようとしたのですか、中国―黒人の連帯を築くために彼らは何をしましたか?

高: 中国の知識人たちは、文学と劇を通じて、中国の半植民地国家としての「奴隷制度」とアフリカ系アメリカ人の奴隷制度には共通するものがある昔から考えてきました。林紓(りん・じょ)と魏毅 (ぎ・い)は、ハリエット・ビーチャー・ストウの『アンクル・トムの小屋』の翻訳(1901年)の序文で、黄色い人々が受けた苦痛は黒人アメリカ人が耐えた苦痛よりもさらにひどいと主張しています。中国人はこの本を読む必要があったと林と魏は述べています。「奴隷制は中国人に差し迫っている。我々は国民の目を覚まさせるために叫び声を上げなければならなかった」からだと書いています。

 連邦捜査局や移民帰化局による嫌がらせ、人種的テロや差別に直面しながらも、劉良模(ちょう・りょうばく)とシルヴィア・シーラン・チェンが勇敢にも渡米したことは、中国とアフリカ系アメリカ人の文化的な提携を新たな歴史的設定へと導きました。劉は才能ある音楽家であり、多作なジャーナリストであり、第二次世界大戦中に戦争動員を目的とした太平洋横断大衆歌唱運動を始めたキリスト教活動家でした。彼はアフリカ系アメリカ人との緊密な協力関係を築いた中国人の先駆者であり、黒人の偉大さを憚ることなく称賛し、後に人民共和国でのデュボイスやロブソンの受け入れを促しました。劉とロブソンが協力した数多くの分野の中でも、彼らは大衆歌唱運動の代表曲を世界に広めることに貢献しました: 「チー・ライ(起来)」、あるいは 「義勇軍の行進」です。

 1941年、ロブソン、劉、そしてニューヨーク市チャイナタウンの中国人手洗い同盟*の一員である劉が組織した中国人民合唱団は、Keynote Recordsのために「チー・ライ(起来):新しい中国の歌(Chee Lai: Songs of New China)」というアルバムを録音しました。劉はそのアルバムのライナーノート(付属解説書)で、このコラボレーションを「中国人と黒人との強力な連帯の証」と考えていた、と書いています。
*1933年に設立された中国手洗い同盟(CHLA)は、北米に住む華僑の市民権を保護し、「アメリカ社会での孤立を打破するのを助けるため」に形成された労働組織。この開かれた左翼組織は、「中国を救うため、自分たちを救うため」というスローガンや「日本の満州侵攻に抵抗し、中国を救う」といったさまざまな手段を使って、満州への日本の侵略に反対した。(ウィキペディア)

 ロブソンのライナーノートには次のように記されています。「チー・ライ!(起きろ!)は、今日、何百万もの中国人が口ずさんでおり、私に言わせれば非公式な国歌のようで、この民族の不屈の精神を象徴しています。この現代の作曲による歌と、闘争の中で新たな言葉を付け加えた古い民謡の両方を歌うことは、喜びであり特権です」。

 この歌は1949年に中華人民共和国の国歌として採用されることになります。

 チェンは、現代アメリカ・メディアの報告によれば、国際的な評判を持つ世界初の「近代中国/ソビエトのダンサー・振付家」でした。彼女は1920年代に中国の外相であった陳友仁(ちん・ゆうじん)と、彼のフランス人の妻クレオールの娘でした。また、彼女は「中国のモダンダンスの母」として称賛される戴愛蓮(だい・あいれん)の従姉妹でもありました。

 陳家と戴は共にトリニダードで生まれ、中国語をほとんど話しませんでした。陳(シルヴィア・シーラン・チェン)はモスクワでヒューズとロマンティックな関係になり、ヒューズの中国に対する興味を掻き立てました。国際的な共産主義ネットワークとのつながりを築き、上海の左翼文化界に彼を引き込む手助けをしました。陳(チェン)はヒューズとロブソンにとって、黒人と中国人の「完璧な」融合を具現化しているものであり、二人の空想的な想像力を捉えました。一方、彼女自身は世界中で民族性、戦争、革命を振り付け、踊る旅を続けました。そしてそのように異人種を結合しようとする取り組みは人種的、政治的なねじれの複雑さを顕わにします。

劉: あなたの本で特に取り上げたアフリカ系アメリカ人の知識人は、中国人の黒人観や世界秩序の未来図をどのように形作ったのですか? そして、中国がアフリカ世界と関わることが、少なくとも劉良模とシルヴィア・シーラン・チェンの場合、アフリカ系アメリカ人が中国の政治と文化、そして一般的に黒人急進派の思考を理解する上で、どのような影響を与えたのですか?
高: W.E.B.デュボイス、ラングストン・ヒューズ、およびポール・ロブソンの中国滞在と中国人滞在者たちとの連携は、汎アフリカ主義と汎アジア主義の力学の変化を促進し、最終的には毛沢東の第三世界理論の「肌の色ライン」に影響を与えました。

 この変革の過程は、中華民国(1912-1949)における黒人のイメージの緩やかな変化から始まりました。アジアの「病人」だという恥ずべき評判に傷つき、ナチスの人種差別と日本の帝国主義的野望への警戒感もあり、中国は1932年と1936年のオリンピックで中国の選手たちが繰り返し敗北したことに胸がかきむしられるような苛立ちを感じました。そこで、中国のメディアは、世界の有色人種を代表してボクサーのジョー・ルイスと陸上競技選手のジェシー・オーエンズの「自然な」身体的な力強さを賞賛しました。

 中国の一流漫画雑誌である「モダン・スケッチ」の第一号の表紙は、1936年のオリンピックに捧げられ、オーエンズの勝利に刺激を受けています。この雑誌の裏表紙には、アメリカのシャンソン歌手ジョセフィン・ベーカーに似た筋肉質の、バナナのスカートを着た黒人女性が描かれ、表題には「オリンピックでの有色人種の勝利」とありました。

 これらの2つの画像は、アフリカ系アメリカ人の中国的な描き方を示しています。当時中国を訪れたデュボイスは、中国人は、「スポーツだけでなく、科学や、文学、そして芸術などにおいても代表とならなければならない」と宣言しました。ナイトクラブでのジャズミュージシャンは、「外国の楽器の悪魔(洋琴鬼)」として無視されるか、歯磨き粉や白いタオルの広告で風刺的に描かれるかかが、共和国中国のメディアが黒人を描く支配的な表現法でした。デュボイスや、ヒューズ、そしてロブソン(中国の評論家がその知的能力を「天才」と評した)などがこのような画一的な見方を変えていったのです。

 ヒューズは上海への旅行中、作家魯迅を中心とする市の左翼文化サークルにあっという間に受け入れられました。彼らの雑誌は彼を「名声の確立した最初の黒人革命作家」と賞賛し、「抑圧された人種のために吠え叫び、闘い続けている」と称賛しました。ヒューズの訪問は、彼の作品と黒人文学に対する持続的な関心を中国で引き起こしました。

 黒色と革命を結びつける最終段階は、中華人民共和国の時代に起こりました。国際的に有名なロブソンに関する語り口は、異国のエンターテイナーから、中国社会主義市民の英雄的な模範であり、それを鼓舞する人、とすぐに変わりました。彼は国営メディアで「世界の抑圧された大衆のための黒人の歌の王」として紹介され、「芸術と政治の完璧な結合を具現化した人」と評されました。

 デュボイスが好意的な視線を日本から中華人民共和国に転換した後、彼は、中国から「有色人種世界」の新たな柱としての象徴として扱われました。彼と彼の妻は訪中の際、前例のない国家的な歓待を受けました。この夫婦は頻繁に中国の最高指導者と交流し、国の国慶節の祝典で天安門広場の壇上に初めて登場し、主要新聞の一面を何度も飾りました。デュボイスの誕生日は重要な国家行事として祝われました。

 一方、劉と陳は、中国系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人が直面していた、燃え上がるような問題(例えば、投票税、中国排除法、ジム・クロウ法、アフリカ系アメリカ人のリンチなど)を関連づけました。それらを廃止するよう呼びかけたのです。

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劉紫鳳:冷戦時代の国際秩序、中ソ関係、そして中国とアメリカの外交政策の変化が、中国系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人の関係にどのように影響を与えましたか?

高云翔:冷戦の緊張が高まる中で生まれた幼児のような中国人民共和国は、朝鮮戦争で核兵器を持つ超大国と対峙せざるを得ませんでした。この時点で、歌手、俳優、活動家であるポール・ロブスンは、中国の勇敢で信頼できる友人として最上の賞賛を受けました。ロブスンにとって中国は彼が切望していた強力な支援の源でした。

 1949年4月20日は、ロブソンのアメリカでの政治的失墜の始まりを示す日でした。その日、彼はパリで開催された国際平和大会で、「アメリカの黒人が何世代にもわたり我々を抑圧してきた者たちのためにソビエト連邦と戦うことは考えられない」と述べました。この発言はすぐに各方面から非難を浴び、有名なアフリカ系アメリカ人野球スターであるジャッキー・ロビンソンもその中にいました。ロブソンは野球の(黒人)差別撤廃に力を貸していました。

 W.E.B.デュボイスとともにロブソンを強く支持したのは中国共産党でした。人民日報はロビンソンを非難し、ロブソンを擁護しました。人民日報はロブソンのスピーチを報道し、その中で、2,000人の出席者の中からスタンディングオベーションを受けたこのスターの姿に焦点を当てました。出席者には、ノーベル賞受賞者で核科学者のフレデリック・ジョリオ=キュリー、そしてロブソンの友人である画家パブロ・ピカソもいました。その組織的な、地域と世界の平和運動をアメリカの中国内戦への関わりやその後の朝鮮戦争への関与に対する一般市民の強力な非難と捉えた人民日報は、デュボイスとポール・ロブソンの平和主義運動への参加を詳細に報道しました。

 アメリカ合衆国は、急速にロブソンへの攻撃を加速させました。最も重要で醜悪な例は、1949年8月に右翼の群衆がロブソンのコンサートを残忍に襲撃した、いわゆる「ピーキル暴動」でした。その後、アメリカ合衆国国務省はロブソンのパスポートを取り消し、彼の輝かしい経歴の邪魔をしました。これは、ロブソンの著作と人民日報の報道の両方でしっかり記録されているように、ロブソンと中華人民共和国はお互いにもっとも困難な時期に絶えることのない支援を提供し合ったのです。

 1950年代末には、大失敗となった大躍進政策の余波で、中国はアフリカ系アメリカ人の文化的巨人たちの民衆支持を歓迎する直接的な理由がありました。中国共産党は、革命を再活性化し国を社会主義化するために新しい国内的見通しが必要でした。さらに、ソビエト連邦による世界共産主義の支配と、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの元農業植民地との運命を結びつけた「第三世界」の指導を志向する中で、新しい外交の擁護者と戦術も必要でした。

 中国共産党(CCP)は既にアフリカに接近していましたが、新たに独立したアフリカ諸国は中国の提案に対して慎重かつ控えめに応じました。これらのアフリカ系アメリカ人の評価は、中国が(アフリカ)大陸全体での同盟を築くための扉を開くのに役立ちました。特に、デュボイスの評判と支持は非常に重要でした。デュボイス夫妻が1959年に中国を訪れた後、中国のアフリカへの外交的な接近、援助、広報活動は頂点に達しました。外交的および経済的な理由から、中国はアフリカに大きな存在感を維持し続け、その育成にデュボイス夫妻が貢献したのです。

 1960年代、毛沢東は急進的な黒人との接触に興味を持ち、彼らを真の革命家として賞賛しました。影響力のある黒人活動家であるロバート・ウィリアムズは、『銃を持ったニグロ』の著者として、私の子供の頃の寝室の天井に掲示された人民日報の見出しに出ていました。同時に、黒人アメリカ人は毛沢東の反米帝国主義に感銘を受け、暴力的な闘争と文化的変革を革命の力として強調したことに感銘を受けました。

劉:国際的な交流の場合にしばしば起こるように、あなたが描写する中国とアフリカ系アメリカの知的、文化的な相互作用は、誤解、曖昧さ、そして対立に満ちたものでした。あなたの著書に登場する5人の中心的な人物の国際政治の複雑さと矛盾は何でしたか?

高:曖昧でときおり危険な、そして変動する太平洋を横断する政治とイデオロギーの世界に挟まれ、私が紹介した世界市民の5人、すなわちW.E.B. デュボイスや、ポール・ロブソン、ラングストン・ヒューズ、劉良模、そしてシルヴィア・シーラン・チェンなどは、それぞれ曖昧さと対立を経験しました。例えば、1962年には、中華人民共和国の国営メディアや出版社が突然、1950年代を通じて中国社会主義市民の英雄的な革命モデルとして宣伝していたロブソンについて発言しなくなりました。中ソ対立が公然となった後、ロブソンが平和共存を主張する立場は、太平洋を横断する大国間の力学の変化の中で、中国政治に嫌われたのです。

 公式の報道機関は、ヒューズへの対応の仕方を変えました。マッカーシズムと朝鮮戦争の頂点でヒューズが過去の過激な活動を公然と放棄したことについては、報道機関は不器用なまま沈黙し、代わりに彼が1930年代にいた作家として、まるで時間カプセルに保管されているかのように彼を見つめ続けたのです。一方、劉と陳(チェン)は、過激な毛沢東主義の時代には、彼らが長らく理想化してきた体制によって、軽視され、さらには攻撃されることもありました。

 W.E.B. デュボイスが帝国主義日本を「より色黒な(人間の)言葉」の柱として扱ったことは、最も論争を呼びました。デュボイスは1936年に分離された条約港の上海を訪れました。日本当局に甘やかされ、彼は上海外灘にある豪華なホテルの和平飯店に滞在しました。上海大学では、デュボイスは「ステージに座ったまま」、ロックフェラー財団の代表がアメリカへの奨学金について話すのを聞いていました。

「私は学長に対して、中国の集団と底意地のない形で人種的および社会的な問題について話をしたいと思います」とデュボイスは回想しました。彼はやがて、11月30日に香港ロード59号地にある中国銀行家クラブでの昼食会に「無謀にも飛び込みました」。彼は、「なぜあなた(中国人)は、イギリス、フランス、ドイツよりもむしろ日本を嫌うのですか? あなたたちは日本よりもむしろイギリス、フランス、ドイツからのほうが多くの苦しみを受けているのではないか?」と、その理由を知りたいと言いました。デュボイスは続けて、もし日本と中国が協力すれば、おそらくヨーロッパをアジアから永久に排除できるかもしれないと述べました。デュボイスは冷静に報告しています:「かなりの沈黙が続いた。私もその沈黙の中に入った」。

 彼に応対した人々は面食らって、中国が抱える問題に関係なく、日本の軍国主義が進展を妨げていると応答しました。デュボイスは納得せず、後になって「アジアで最も当惑するのは、中国と日本がお互いに抱いている火のような憎しみだ」と述べました。彼は1936年12月1日に上海を出発し、上海丸で長崎に向かう船上で、決定的に侮辱的言葉を放ちました。中国国民党員たちを「アジアのアンクル・トム」と呼び、彼らをアメリカ合衆国の白人の人種差別の従順な黒人奴隷になぞらえたのです。

 デュボイスは、日本の支配の美点を繰り返し強調し、中日同盟を強く提唱しました。この同盟は、「より肌の黒い人々のために世界を救う」と彼は主張しました。彼は日本軍が北京と上海を占拠した後も、これらの見解を断固として維持しました。1937年末から1938年初めにかけて、日本軍が中国の当時の首都である南京で行なった虐殺である南京大虐殺の報道に対して、デュボイスは、多くの白人アメリカ人がその殺戮に対する恐怖を表明しているにもかかわらず、エチオピアでのイタリアの最近の略奪行為について言及する人間はほとんどいないではないか、と反応しました。

劉: あなたの本に記された物語が中米関係を理解するために提供する教訓は何ですか?

高: 中米関係に関する大半の研究は、アメリカを白人の初期設定として扱っていますが、『立ち上がれ、アフリカ! 吼えろ、中国!』は、アフリカ系アメリカ人を前面に出すことで新しい道を切り開いています。これにより、ヘンリー・キッシンジャーとリチャード・ニクソンを中心に据えた論述から離れ、アフロアジアの歴史を世界史の中心と捉え、今日でも重要な存在である国際的な反帝国主義と人民運動に焦点を当てることができます。私の本は、黒人国際主義の研究と中国、中国系アメリカ人の経験を、太平洋をまたぐ物語で結びつけています。これにより、1960年代の黒人急進派と、毛沢東中国のよりよく知られている連携以前にあった中国と黒人左派の代表的な人物との広範な交流が明らかにされています。

 本書はまた、中国の現代大衆文化と政治が世界的に作り変えられていることも示しています。本書は、中国が一般的に孤立し、より広い世界とは無縁とみなされてきた時期にも、国境を越えた中国の関わりがあったことを追跡しています。

 この5人の世界市民の交錯する生活は、通常は重なり合わない領域に住んでいると見なされがちですが、人種差別や疎外感を前面に押し出す物語に対する強力な反論となっています。彼らが人種、国籍、文化、言語の境界を超えて取り組んだ努力は、政治的、法的、移民、外交上の障壁があっても、世界が常につながっていることを示しています。彼らの物語は、黒人の国際主義と中国系アメリカ人-アフリカ系アメリカ人の協力の力と可能性を垣間見るものです。「立ち上がれ、アフリカ!」とデュボイスが表現し、「吼えろ、中国!」とヒューズが表現したことは、それぞれ、ある民族とある国家にいる同一民族の共通の闘いに対応するものです。彼らが示した力と明るい見通しは今日まで響き渡っています。

「デカップリング(分離)」:中国経済の足を引っ張るためのワシントンの計画

<記事原文 寺島先生推薦>
"Decoupling": Washington's Plan to Kneecap China's Economy
筆者:マイク・ホイットニー(Mike Whitney)
出典:UNZ     2023年7月26日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>   2023年8月20日


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 アメリカ合衆国は、中国の発展を阻止し、アメリカの国際秩序における主要な地位を維持するために多角的な戦略を採用している。この計画の経済部分は「デカップリング」と呼ばれ、重要な技術(特に先端的な半導体技術)へ中国が手を伸ばすことを選択的に遮断することを指す。この戦略は、中国の急速な技術的発展を制限するために即座に行動を起こす必要があると考えるアメリカの外交政策の指導者層ほぼ全員の支持を集めている。ただし、中国と世界の他の地域との間に「デジタル鉄のカーテン」を実質的に築くこの計画を実行することには、かなりの危険性がある。もし中国がワシントンの攻撃に対して報復するなら、供給導線は深刻に乱れ、別の世界的な景気後退の確率が高まる可能性がある。

 指摘しておきたいのは、「デカップリング」という用語が、その政策でやろうとしていることを曖昧にしている、ということだ。ケンブリッジ辞書によると、この言葉の意味は「2つ以上の活動が分離される状況」とある。残念ながら、ワシントンのデカップリング戦略は、単なる対立を良好に分離する試みではなく、中国の主要な技術的脆弱性を特定し、中国経済に最大限の損害を与えることを意図している。言い換えれば、メディアやシンクタンクの分析で提示されているようなデカップリングは、主にワシントンの中国への経済戦争を隠すためのPR戦略の産物だ。次に引用するのはデカップリングに関する背景を少し紹介した、外交問題評議会のマイケル・スペンスの記事:

過去1年間、中米関係の軌跡は議論の余地がないものになっている:アメリカと中国は、完璧とは言えないにしても、実質的なデカップリングを目指している。この結果に抵抗するどころか、双方ともに、これを大枠として非協力的なやりとりと受け入れているようで、それを政策的枠組みに組み込もうとしている。だが、具体的にデカップリングはどのような内容を含み、その結果はどうなるのだろうか?

アメリカ側は、国家安全保障上の懸念から、中国への技術輸出や投資を制限する長大な(今でも増えている)一覧表を作った。技術が世界中を動き回る他の経路についても同じように制限される。この戦略の影響を高めるために、アメリカは、制裁の脅威も含め、アメリカ以外の国々もその取り組みに確実に参加するようにしている・・・

この「相互不信の方程式」とでも呼べるものについて、米国、中国双方において、デカップリングが明らかに、最善ではなく危険な進路であることを知っている人が多数いる。しかし、米国と中国の両国で、異議を唱える声は政治的に圧力をかけるか、 事実上弾圧し無視するかして、息の根を止められている。

多くの新興および発展途上国は、分断された世界経済・・・は自分たちの利益にはならないことを認識している。しかし、彼らは、現在の状況の中心にいる大国(米国と中国)の誘因を変える力を持っていない。・・・それによって、現在の軌道からの明確な脱出口はまったくない。未来は部分的なデカップリング(分離)と分断だ。 出典:「破壊をもたらす分離」, 外交問題評議会

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中国を取り囲むアメリカの基地

 この筆者の言葉の多くに私は異論を持っているが、彼の運命論には賛成している。実際、現在、この方向に進んでいるだけでなく、今後数ヶ月間でそれはさらに悪化する可能性が高い。共和党と民主党の指導者たちや、舞台裏で動いている外交政策の支配者層も、完全にデカップリングの動きの中にいる。私たちが見ているのは、中国を西側の「法に基づく秩序」に統合しようとする子どもじみた努力が完全に失敗したという広範な認識であり、これが政策の劇的な逆転を引き起こし、着実に猛々しい勢いを得ている。中国は、肥大化するアメリカ帝国の属国にはならないとの態度を明確にしている。中国人は一貫して独立心を持ち続けており、自らの政治的志向に合った改革のみを進めており、党の指導に挑戦する可能性がある変革は拒否している。中国では今もなお、中国共産党が議題を設定し、国家の舵取りを行っており、ワシントンやダボスのエリートたちが出る幕はない。この認識は、米中関係の完全な再評価を促し、避けられないほど中国を孤立させ、包囲し、最終的には封じ込める戦略につながっている。以下はカーネギー基金のマット・シーハンによる背景情報:

10月初旬、アメリカ政府は中国が先進半導体や、それらを製造するための装置へ接近することの制限を大幅に強化した。これらの制限により、中国内の機関への先進半導体の販売には入手困難な許可証が必要とされ、国内は主に人工知能(AI)を大規模に展開するために必要な演算能力が事実上奪われることとなった。また、これらの規則は半導体供給網を支える産業に対しても、さらにチップ製造用の手段に対する制約を拡大し、チップを製造するための手段を構成する部品やアメリカの有能人材への接近を断ち切る影響をもたらす。これらの制約は、今日のアメリカ政府が中国の技術力を弱体化させるための追求の中で、これまでで最も実を伴う一手となる。

新たな制限は、アメリカの技術政策内で長らく続いていた論争の解決も目指している。この論争の眼目は、競合する二つの目標(①今日の中国の技術能力を低下させること、②アメリカの影響力を将来にわたっても維持すること)の着地点を見えるようにすることにあった。最新の規則により、アメリカ政府は、中国の半導体製造能力を根底から低下させることができるし、中国が自国の半導体産業を作り上げるための動機や資源がどれほどあるにせよ、中国は追いつけないという賭けに出ている。

アメリカ政府がその賭けに勝つかどうか(分かるまでに)は、世界の経済力と技術力の将来の均衡を決定する方向に向かって長い道のりを歩むことになるだろう。 出典:「バイデン政権、半導体について前例のない賭けへ」、カーネギー国際平和研究所

 これは、この新しい政策の内容に関する優れた「全体像」だ。シーハンは、アメリカの意図を明確にし、同時に潜在的な危険を説明している。彼はまた、商務省の新しい制限を次の主要な見出しにして説明している:

1. (商務省)は個々の中国企業を対象とするのをやめ、代わりに国全体を対象とするようになった。現在、中国のどの企業にも高度なチップを販売するには許可証が必要であり、議会はそれらのほとんどの要求を却下すると述べている。

2. 商務省は、米国市民、米国に居住する者、または米国企業は、高度なチップを製造している中国企業との取引を行うことを禁止する。

3. この政策は、さらに半導体供給網に深く入り込み、半導体製造装置に使用される部品を制限した。以前は、半導体チップとチップを製造するための手段だけが制限されていた。しかし、今では半導体チップ、チップを製造するための手段、およびその手段に使用される部品も制限されている。当面、これは中国の技術産業にとって壊滅的な影響を与えており、AI企業やスーパーコンピューティングセンターが窮地に追い込まれ、チップを必要とする状況に立たされている」。マット・シーハン(動画4分37秒)



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 ワシントンの「デカップリング」政策は、トランプ政権の荒っぽい関税政策やバイデン政権の中国企業への一方的な制裁をはるかに超えている。これは、重要な技術への接近を遮断することで中国経済を妨害する露骨な試みだ。これは、非常に明らかに、戦争行為であり、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)における政権の同盟者でさえ大っぴらに認めている。World Socialist Web Site のニック・ビームズがNYTの記事を引用した次の文章を確認してほしい:

 先週末、ニューヨーク・タイムズ紙でジャーナリストのアレックス・W・パーマーによって発表された長編の記事は、アメリカが中国に対しておこなっているハイテク戦争の広がりを明らかにした・・・この戦争は、今後さらに激化する見通しであり、アメリカは近々、米国の資金が中国のハイテク分野に投資される額を削減するための投資審査のあり方を発表する予定であり、また10月の発表以降に浮上した抜け道を封じるために輸出規制を更新することが予想されている。

(主要な段落は以下:)

「2022年10月7日の輸出規制により、アメリカ政府は中国の最高水準のチップの製造能力、さらには購入能力までを妨害する意向を発表した。この措置の論理は単純明快だった:高度なチップとそれらが駆動するスーパーコンピュータやAIは、新たな兵器や監視装置の製造を可能にするから、というもの。しかし、その影響と意味において、これらの措置の意図ははるかに徹底したものだった。その目標とするのは中国の安全状態をはるかに上回る広範な対象を標的としている。ワシントンの戦略国際研究センターにあるワドワニ・AIと先端技術センターの所長であるグレゴリー・C・アレンは、『ここで重要なのは、アメリカが中国のAI産業に衝撃を与えたかったということです。半導体関連の事はその手段に過ぎません』と述べている」。・・・

パーマーは10月の規制は、「事実上、中国の先進技術のすべての生態系を抹消し、根絶やしにし、枝分けしようとするものだ」と書いている・・・

今回の米国の措置がどの程度のものかは、エバーコアISOのシニア半導体分析家であるC・J・ミューズの発言でもわかる。「もし5年前にこれらの規則を耳にすれば、それは戦争行為だと私は言っていたでしょう — どう考えても戦争状態です」


ニューヨーク・タイムズ紙が公開する米国の中国とのハイテク戦争の詳細なグラフ、ニック・ビームズ、 World Socialist Web Site

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 何が進行しているかお分かりだろうか? バイデン政権は、人工知能とスーパーコンピュータを開発するために必要な先進的な半導体を、中国が入手することを不可能にしようとしているのだ。このような封鎖は、明らかに現行のWTO規則に違反している。が、繰り返しになるが、米国が無作為に1,300以上の中国企業に課した一方的な制裁も許されているわけではない。要するに、米国は自身の地政学的利益に最も適した行動を追求する際に、規則だからということで二の足を踏むことはない。Foreign Policy誌の記事で筆者ジョン・ベイトマンが要約したとおり:

「産業安全保障局(BIS)は、中国への先進半導体、チップ製造装置、およびスーパーコンピューター部品の輸出に関する新たな制限を発表した。これらの規制は・・・広範で基本的な段階で中国の能力を阻止しようとすることにひたすら焦点が当てられていることを示している・・・中国への主な影響は、ワシントンが指摘している軍事および情報に関する懸念よりもはるかに大きな経済的なものになるだろう・・・この移行は、先進演算だけでなく、他の部門(生物工学、製造業、そして金融)でも、今後より厳格な米国の措置の前触れとなるだろう。その速度や詳細は不確定だが、戦略的目標と政治的な取り組みは今まで以上に明確となっている。どんな犠牲を払おうとも、中国の技術的台頭の速度は落とされるだろう。」(ジョン・ベイトマン、『Foreign Policy 』誌「バイデンは今や中国排除に全力を挙げている」より)

重要なのは、この主に「レーダーに察知されない」形での技術戦争が進行中であることを認識することだ。同時に、米国は台湾に政治的代表団を派遣し続けている(「一つの中国」政策に挑戦するため)、アジア太平洋地域で反中国連合を強化し続け、台湾海峡や南シナ海で北京を挑発し続け、台湾に殺傷力のある兵器を売り続け、地域内での軍事存在感を増強し続け、NATOの「東方拡大」をアジア太平洋地域に拡大し続け、西オーストラリアで史上最大の「タリスマン・サーベル(Talisman Sabre)」と呼ばれる「実弾射撃」軍事演習を行い続けている。

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中国の「一帯一路」構想:主権国家の世界的な経済統合

 それはつまり、「デカップリング」は中国に対して行われている大きな戦争の一部にすぎないのであり、その目的は中国の防衛力を弱体化させ、同盟国から孤立させ、中国の敵国を強化し、ワシントンの絶対命令に従わせることだ。アメリカ合衆国は、急速に力伸ばしている競合相手(中国)に中央アジア大陸での支配拡大を阻止するため、核武装した中国との直接対決を冒す覚悟があるという信号を送っている。おそらく、非常に近い将来、敵対行動が勃発するということだろう。

中国を標的にする米国:ウクライナ紛争前と同じ事がいま台湾で起きている

<記事原文 寺島先生推薦>
Target China
米国は、台湾分離主義勢力に武器と訓練と支援を提供し、米国代理戦争の先鋒にさせようとしている
筆者:マイク・ホイットニー(Mike Whitney)
出典:グローバル・リサーチ   2023年8月4日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年8月17日





 バイデン政権は、台湾を中華人民共和国との直接の軍事対立に引きずり込む計画を立てている。この計画は、ウクライナで取られた戦略と多くの点で類似している。ウクライナでロシアがウクライナ侵攻に踏み切らされたのは、ロシアの国家安全保障が危機的な状況に置かれたことに対する対応を迫られたからだった。 台湾の場合、中国政府は、米国の代理勢力や米国の同盟諸国が台湾で仕掛ける行為により、中国の領土保全上の問題が積み重なることへの対応を取ると考えられる。これらの挑発行為により、裏で(および報道機関も使って)こっそりと動いている米国からの物資面の支援がより増すことは避けられなくなるだろう。これらの陰謀の最終目的は、台湾の分離主義者らに軍備させ、訓練を施し、兵站の支援を供給することで、中国に対する米国政府の代理戦争の先鋒を担わせることだ。多くの独立系報道機関の記事によると、台湾軍と米軍の間の協力関係は既にできあがりつつある、という。今後戦闘行為が発生し、台湾が戦争に巻き込まれることになれば、両国間の協力関係が深まることは疑いないだろう。


 中国軍と対決しようという計画の輪郭が描かれたのは、2022年の国家安全保障戦略(NSS)においてだった。その中で、中華人民共和国は「米国の地政学上の最重要課題」であり、中国は「国際秩序を再形成する意思を明らかにしている」とされた。 NSSによるこの分析を受けて、「インド・太平洋」地域を支配しようとする戦いに勝つための体制が明確に取られることになった。この地域は、「世界の経済発展の源の大部分を占めており、21世紀の地政学上の震源地である」とされた。 (「米国民の日常にとって、インド・太平洋地域ほど重要な地域は他には存在しない。」)バイデン政権下のNSSは、差し迫る中国との戦争において、軍が果たす決定的な役割を強調した。「我が国は、我が軍の近代化と強化をはかり、複数の強国との戦略的な競争の時代に備えるべきだ」。「米国は我が国の利益を守るために躊躇なく軍事力を行使する」と。

 中国を台湾という沼地に引き摺りこむことが、世界秩序のなかでの米国の覇権を維持する目的のためのより広い封じ込め作戦の最初の一手だ。 同時に、中国がインド太平洋地域で支配的な経済大国になることを防ぐ意味もある。さらにこの計画には、経済的、電脳敵兵、情報的要素も含まれており、これらの要素を軍事面と絡めながら進めていこうという計画だ。全体として、この戦略が表しているのは、米国政府が最大限の努力を払って、時計の針を戻し、単極的世界秩序の全盛期に時代を復元することだ。その当時、米国は世界戦略を巡らし、米国は無敵だった。


台湾での問題



 台湾は国ではない。台湾は中国沖にある島だ。それはサンタ・カタリーナ島がカリフォルニア州の沖にあるのと同じことだ。サンタ・カタリーナ島が米国の一部であることに疑念を挟む人はいないだろう。それと同じで、台湾が中国の一部であることに疑念を挟む人もいないだろう。この問題は随分前に解決済みであり、米国はその合意の結果に同意している。全ての実用的目的から、この問題はとうに解決済みだ。

 国連は台湾の独立を承認していないし、中国と国交を結んでいる181ヶ国もそうだ。実際、1971年の国連 総会決議で採択されたのは、「中華人民共和国のみが、中国全土を代表する唯一の法的に認められた政府だ」というものだった。

 「ひとつの中国」政策が、明確に台湾の立ち位置を規定している。台湾は中国の一部であり、それこそが「ひとつの中国」政策が表す意味だ。中国と関係を持ちたい国々は台湾の立ち位置に同意しなければならない。それが、中国との全ての関係の基礎となる根本的な考え方だ。この問題で論議することはできない。「台湾は中国領土の切り離せない一部だ」ということを認めれば、どこでも事業ができるということだ。それ以外の選択肢はない。

 米国は「ひとつの中国」政策を受け入れていると主張している。先日の北京訪問においても、 バイデン政権の3人の高官(アンソニー・ブリンケン、ジャネット・イェレン、ジョン・ケリー)は公的にひとつの中国政策を揺るぎなく支持する、と表明した。以下はフォーブス誌の記事からの引用だ:

アントニー・ブリンケン国務大臣は、中国の習近平国家主席と月曜日(7月31日)に面会した際、ひとつの中国政策に対する米国の立場を繰り返し、米国は台湾の独立を支持せず、中国経済を封じ込めることは米国の目的ではない、と語った。….ブリンケン国務大臣は、米国は「ひとつの中国」政策を支持し、台湾の独立は支持しないが、台湾海峡での中国による「挑発行為」には懸念している、と述べた。(フォーブス誌の記事「ブリンケン国務大臣は、緊張関係を緩和するための面会後、習近平国家主席に台湾の独立は支持しないと表明」からの引用はここまで)

ジョー・バイデン大統領もひとつの中国政策への支持を、ことあるごとに表明していることから、この立場が米国政府の正式見解であると考えてよいだろう。以下は、この問題に関する中国外務省の短い要約だ:米国は3度の中米共同コミュニケ(公式声明)において、ひとつの中国政策について、以下のように表明している。

1972年発表の上海共同コミュニケでは、米国は明確にこう表明した。「米国は台湾海峡の両側にある中国全土に関してひとつの中国政策しか存在しないこと、台湾は中国の一部であるという中国の立場を認識している。米国政府はその立場に疑問を挟まない」と。

1978年発表の中米国交正常化の共同コミュニケにおいては、米国ははっきりとこう表明した。「アメリカ合衆国政府は、ひとつの中国しか存在せず、台湾は中国の一部であるという中国の立場を認識している」と。

1982年発表の8月17日コミュニケにおいて、米国は間違いなく以下のように表明した。「1979年1月1日の中米国交正常化に関する、アメリカ合衆国政府と中華人民共和国政府が発表した共同コミュニケにおいて、アメリカ合衆国政府は中華人民共和国政府を唯一の法的に認められた中国政府と認識し、さらに米国は、中国はひとつであり、台湾は中国の一部であるという中国の立場を理解して」おり、「米国は、中国の国家主権と領土保全に介入する意図を持っておらず、中国の内政に干渉する意図も、『ふたつの中国』や『ひとつの中国とひとつの台湾』という政策を追求する意思もない」とした。(中国外務省による要約はここまで)


 西側報道機関は読者にこの件に関して「灰色の部分」があり、中国の領域主権は確定していない、と思ってもらいたがっている。しかし、前述の通り、領域主権は確定している。台湾は中国だ。そうなれば十分考えられることは、報道機関が意図的に世論を間違った方向に導き、「独立」運動への支持を広げようとしている、ということだ。 そしてその目的はひとつしかない。米国にとって役立つ人材と反乱軍を軍備させ、訓練を施し、この先の中国との血みどろの戦争で働いてもらうことだ。確かに米国は、中国での代理戦争の下地を準備中であり、台湾はその戦争の前線に据えられようとしてきた。独立運動は、米国政府の真の目論見を覆うまやかしにすぎない。



 だからこそ台湾が中米関係炎上の引火点になっているのだ。だからこそ米国が主導する各国の代表団が台湾入りし、 台湾の独立に暗黙の支持を表明しているのだ。だからこそ米国議会が台湾軍に殺傷兵器を提供するための何百万ドルもの予算案を承認しているのだ。だからこそ米海軍は、台湾海峡経由で戦艦を派遣し、 中国周辺で大規模な軍事演習をおこなっているのだ。だからこそ米国政府は、最も微妙な問題に関して中国政府を挑発し続けているのだ。これら全ての挑発行為は、ただ一つの目論見に集約されている。それが、中国との戦争だ。以下はポリティコ通信社の記事から: バイデン政権は金曜日(7月28日)、3億4500万ドル(約495億円)相当の武器を台湾に供給すると発表した。これは今年国防総省の在庫武器から直接台湾に送られる予定の総額10億ドル相当分の第1陣だ。

 この動きが中国を怒らせることになるのは確実だ。というのも、米国政府は中国政府との関係改善をはかってきたからだ。アントニー・ブリンケン国務長官やジャネット・イエレン財務大臣などの政府高官が先日中国を訪問したが、成果はほとんどなく、米国による台湾支援や中国政府による諜報気球問題などの幅広い問題に関する緊張関係の緩和には至らなかった。

 「我が国には台湾に対する責任があり、台湾の自衛力を高めることを真剣に、本当に真剣に考えています」と国家安全保障委員会のジョン・カービー報道官が、金曜日(7月28日)の発表に先立ち、記者団に述べた。(「米国は、台湾への3億4500万ドルの武器予算案を発表」ポリティコ通信社の記事からの引用はここまで)

 繰り返す:「この動きが中国を怒らせることになるのは確実だ。」

 実際、この動きは中国を怒らせるために仕掛けられたのだ。その点はハッキリしていた。しかし、なぜ?なぜ、米国政府は事実上、世界的に認められた同意事項に関わる問題で中国を挑発するようなことをしているのだろうか?

 思い浮かぶ理由はふたつ:

  ① 中国の過剰反応を誘発し、同盟諸国や周辺の貿易相手諸国から疎外させること。

  ② 中国を近隣諸国に脅威を与えるような暴力的侵略者のように描くことで、中国に対する世論を変えること。

 以下は、「世界社会主義ウェブサイト(WSWS)」の記事だ:

先週の金曜日(7月28日)の米国からの発表によると、米国は台湾に3億4500万ドル相当の武器を送る、という。これは台湾の軍備増強に充てる年間10億ドル予算の第1弾だ、という。この動きは、台湾を完全武装させる第一歩であり、米国政府が中国との挑発的対立をさらに煽るつもりである、といえる...

バイデン政権は同じような方針のもと、ウクライナに何十億ドル相当もの米軍武器を供給し、ロシアとの戦争を深化させようとしている。ロシアをウクライナとの戦争に引き摺り込んだのと全く同じように、米国は意図的に中国の対台湾戦争をおこさせようとしている。

....ワシントン在留の中国の刘鹏宇(りゅう・ほうう)大使館報道官は以下のように述べた:「中国は米軍が台湾と繋がり、武器売買をおこなうことには強く反対します」と。同報道官は米国に対し、「台湾に武器を売るのをやめ、台湾海峡の緊張を高めるような新たな要因を作り出すことをやめ、台湾海峡の平和と安定に危機をもたらすような行為をやめる」よう、警告した

米国は意図的に「ひとつの中国」政策を軽視している。この政策は北京の中国政府を事実上中国全土の正当な政権と認識するものだ。 台湾も含めて、だ。さらに1979年の中米国交正常化の際の基本方針となったものだ。 米国政府が心底から認識しているのは、中国が長年台湾政府による独立宣言に対しては軍事力をもって対応すると警告してきたことだ。 (「対中戦の準備として、米国は台湾に3億4500万ドルの軍事費を支給」世界社会主義ウェブサイトからの引用はここまで)




 中国が何百万ドルもする殺傷兵器をテキサス州での進歩的分離主義勢力に送ったとしたらどうだろう?中国がそのテキサスの分離主義勢力に、反乱を鎮圧しよとする戦争に備えて武器を与え、訓練を施し、可能な限り多数の米国民を殺そうとしたとしたらどうだろう? 中国が代表団を次から次へとオースティン(テキサス州の都市)に派遣し、 反乱軍を鼓舞し、 戦意を高揚させ、物資支援をおこなったとしたらどうだろう?中国が、艦隊や空軍の一部をテキサス州近郊の港や基地に配置させ、互いの衝突が生じ、戦闘行為が勃発した際に参軍できる準備をしたとしたらどうだろう?

 そのような動きに、米国政府ならどう対応するだろうか? ドンと腰を据えて、米国による恐れ知らずの干渉や挑発に対応する中国の指導者層のようにドンと腰を据えて応対するだろうか?

 さらに以下のことを自問していただきたい:こんな手口を前にも目にしたことがなかったろうか?2014年にCIAが糸を引いた武力政変の後にウクライナで展開されている筋書きと同じではないのか? その武力政変後に、米国はウクライナ軍に軍備と訓練を施し、ロシアとの戦争に踏み込ませたのと同じではないのか? 米国政府は意図的にロシアにとって非常に微妙な問題を選んで、 ロシア政府の方から、「外に出させる」よう仕向けたではなかったか?

 もちろん、そのとおりだった。在職22年間、プーチン大統領は戦争を始めたことはない。逆に米国は247年の歴史の中で、戦争をしなかった年はたったの16年しかない。こんな驚くべき暴力的な記録に匹敵する記録をもつ国は存在しない。 ジミー・カーター元大統領の言のとおり、「米国は地球上で最も戦争が好きな国」なのだ。

 中米間の動きをずっと注視してきた人々ならお分かりだろうが、バイデン政権は、「良い子悪い子」のおふざけの連続だ。そのおふざけの中で、米国の外交官らは尽力して中国の指導者層に媚びを売ろうとしてきた (同盟諸国をなだめるためだ)。そのいっぽうで、同時に台湾を完全武装させ、中国政府を煽ってきた。 こんな茶番の目的は、他方でいわゆる「戦略的曖昧さ」 を示しながら、もう片方で凶暴性を高めていくことだ。残念なことに、この戦略が功を奏しているようなのだ。中国の指導者層はますます苛立ちを高め、私たちに以下のように考えさせる状況が生じている。すなわち、最終的には、アメリカさんがやりたがっている戦争がおっぱじまってしまうのじゃないか、と。少なくとも、ウクライナではそんな状況になってしまっている。以下にWSWSの記事をもうひとつ示す。

先週、台湾軍は毎年恒例の複数日にわたる軍事演習を実施した。この演習は漢光演習という名で知られており、中国による台湾侵攻に対する反撃に焦点を当てたものだ。今年の演習では、以前のものより、主要な生活基盤施設や桃園国際空港を含む交通機関の要所への攻撃の対応に重きが置かれた...

報道機関の取材に応じた台湾の陳建仁行政院長は、この演習を正当化するため、以下のように述べた。「台湾でおこなわれた本日の演習の実施理由は、戦時状況の演習も含めてロシアによるウクライナ侵攻により世界的な緊迫関係が高まっていることだけではありません。それよりも中国が我が国に対して常に脅威を与え、挑発していることへの反応という意味合いの方が強いです」と。

本当のところは、中国ではなく米国が北東アジアの現状を揺さぶり、インド・太平洋地域における核保有国間の衝突事故という舞台を作り上げているのだ。ウクライナでのロシアとの戦争を焚きつけているなかで、さらにそんなことをしているのだ。無数のウクライナ兵や市民が犠牲になってきたのと同じように、米国は台湾でも同じようなことを起こす準備をしており、日本や韓国、オーストラリアなどこの地域の同盟諸国この戦争のために集結させている。(世界社会主義ウェブサイトWSWSの記事からの引用はここまで)




 これら全ての動きから推測されることは、中国と軍事衝突を起こそうという米国の計画が、非常に進んだ段階に差し掛かっていて、台湾での火種がいつ引火してもおかしくない、ということだ。

 最近の多くの世論調査の結果によると、米国民(彼らは、ここで述べたような事情を全く聞かされいないままだ)は、中国は悪どい競争相手で国家の安全をますます脅かす存在である、と思わされる状況に置かれてきた。ギャロップ社が実施した最近の調査によると、中国に対する世論の評価は下降している。以下はその報告からの抜粋だ:中国に好意を持つ米国民の割合は15%という史上最低値となった...米国民の10人中8人以上の成年が中国に対して否定的な意見を持っており、うち45%が中国に対して厳しい反感を持ち、39%がかなりの反感を持っている...

 多くの人々が中国に反感を持っているだけではなく、ますます多くの米国民が、中国は米国にとって最大の敵であると考えている人々が高い割合を占めている。この観点はこの世論調査で問われた他の二項目と密接に関わっている。それによると多くの米国民は、中国の軍事力と経済力が、この先10年の米国益にとって「深刻な驚異」になると考えていることがわかった。(「中国に好意を持っている米国民が15%しかないという記録的な調査結果」ギャロップ社の報告からの抜粋はここまで)


 さらにピュー研究所も、同じような暗い調査結果を示している:



 当然のことだが、中国に対する敵意がこのように大きくなっている原因には、報道機関が容赦なく扇動宣伝を繰り出し、米国にとって最も恐るべき経済上の競争相手の悪魔化を目指してきたからだ。お考えいただきたい。一例を挙げれば、米国民が中国の気球騒ぎで狂乱させられた事件だ。この気球は軌道を外れて漂流しただけで、米国の誰一人にも脅威を与えなかった。 報道機関はこんなどうでもいい話を、国際的諜報行為だという馬鹿げた話にすり替え、航路を誤った一般人の飛行船を「中国の諜報気球」とし、その気球の悪しき目的を「機密度の高い米国のいくつかの軍事施設の情報を得ること」だと報じた。こんな取るに足らない出来事が、米国政府にとっての敵国を嘲笑するために利用され、中国と戦争しようという米国民世論を育てようとしている意図が見える。


中国との戦争は避けられないのか?

 米中両側の外交政策関係者らは、繰り返し米国が中央アジアに関わろうとしている点を強調している。 その道の第一人者であるズビグネフ・ブレジンスキーが古典的著書『壮大なチェス盤』でこの件について初めて主張した。以下のとおりだ:「米国がユーラシアをどう『扱うか』は決定的に大事だ。ユーラシアを支配する勢力は、世界で最も発展していて経済生産力のある3大地域のうちふたつを抑えることになる。ユーラシアの地勢を一目見るだけで分かることは、ユーラシアを抑えれば、アフリカも自動的に従属させることになり、地政学上世界の中心に位置するユーラシアに近接する西半球とオセアニア(オーストラリア)も手にすることになる。ユーラシアには世界人口の約75%が住んでおり、世界の大半の物質的富もほとんどそこにある。企業が手にしている富においても、地面の下にある富においても、だ。ユーラシアは世界で知られているエネルギー資源のうちの4分の3を占めている」と。 (ズビグネフ・ブレジンスキー『偉大なチェス盤』、ウィキクォートよりの抜粋はここまで)


 ブレジンスキーの見方は米国政府の専門家階級やその人々を支持する人々の中で広く受け入れられてきた。例えば、ヒラリー・クリントン元国務長官はこう述べている。「ますます明らかになっていることは、21世紀における世界の戦略や経済の重点となる地域はアジア・太平洋地域になる、ということです。それはインド亜大陸から米国の西海岸までを網羅する地域のことです...」

 「アジアの成長と活力を活用することが、米国の経済と戦略に利益をもたらす中心となります...アジアにおける自由市場が、合衆国に投資と貿易と最先端の技術を得る道筋を与える前代未聞の好機になるでしょう...米国の諸企業は、アジアを基盤にした広大でますます拡大する消費者層に参入する必要があります」。(ヒラリー・クリントン国務長官「米国の太平洋世紀」、外交政策誌の記事からの引用はここまで)


 以下はアッシュ・カーター元国防長官がアリゾナ州立大学マケイン協会での演説からの抜粋だ:「アジア・太平洋地域は我が国の未来にとって決定的な地域だ...」「2050年までには、人類の半数がこの地域で暮らすことにな」り、「世界の中流階級の半数以上とそれに伴う消費量がその地域から生み出されることになる...」「既にアジアには、5億2500万の中流階級が存在し、2030年までにはその数が32億になるだろう..オバマ大統領と私が確認したいことは、この先に生まれるであろうこれらの消費者層を奪いあう競争に勝てる事業を起こすことです...次世紀になれば、この地域ほど米国の繁栄にとって大事になる地域はなくなるでしょう」(アッシュ・カーター元国防長官の演説からの抜粋はここまで)


 上記の二つの引用を読めば、米国がこの地域に重きを置く戦略を取っていることがよく分かるだろう。中国が中央アジアに歩を進めるための唯一の入口であるだけではなく米国がこの地域で覇権を確立する際の主要な障害になっているのだ。 だからこそ、中国と取引をする戦略が必要不可欠になるのだ。その戦略とは、中国を孤立させ、制裁をかけ、封じ込め、最終的にはこの米国最大の好敵手を征服させるためのものだ。驚くことではないが、バイデン政権の2022年の国家安全保障戦略にはその計画が、明確な、まったく曖昧でないことばで記載されており、米国が戦争に向かっていることは疑いない。以下は、その48頁からなる文書からの抜粋だ:

冷戦後の時代は完全に終わり、次に世界がどうなるかに向けての強国間の競争が進行中だ...我が国はお互い協力し合う国々とはより強くより幅広い連携を可能な限り深めていく所存だ。いっぽう、暗黒な展望を持ち我が国の国益を妨害しようと努力している勢力とは闘う...我が国は軍を近代化し強化することで、強い国々との戦略的競争時代に備える...

インド・太平洋地域は世界の経済成長源のほとんどを有し、21世紀の地政学上の中心地となろう...世界全体にとっても一般の米国民にとっても、インド・太平洋地域ほど重要な地域はなくなるだろう...我が国はインド・太平洋地域の同盟諸国との鉄のように固い関係を再確認し...米国は我が国の国益を守るためには躊躇なく軍事力を行使する... 米軍は、中華人民共和国が挑発行為を示す中で、抑止力を維持し、強化するよう緊急発動する..

中華人民共和国が米国にとって地政学上最大の脅威だ。中国が唯一の競争相手なのだ。国際秩序を再編する意図を持ち、それを成し遂げるための経済力、外交力、軍事力、技術力を増大させているのだから.…. 米軍は世界がこれまで目にしてきた中で最強の軍だ……米国は我が国の国益を守る必要がある時には、躊躇なくこの軍事力を用いる….

世界中で、米国の指導的役割の必要性が、いまだかってないほど高まっている...我が国は規則に基づく秩序こそが世界平和と繁栄を間違いなく維持するという信念を共有するいかなる国とも友好関係を結ぶ... 我が国にできないことはない。我が国がこれを成し遂げるのは。我が国の未来と世界のためだ。(大統領官邸の国家安全保障戦略からの抜粋はここまで)


 まとめよう:

 ① インド・太平洋地域は、いまや米国の外政上もっとも優先される地域だ。というのも、この先世界で最も成長が見込まれる地域だからだ。

 ② 米国は自軍と米国と利益を共有する同盟諸国を導くだろう

 ③ 「我が国は軍を近代化し強化し...」、「複数の強国との戦略的競争に」勝利する。

 ④ 米国の第一の敵国は中国だ。「中華人民共和国が米国にとって地政学上最大の脅威だ...中国が唯一の競争相手なのだ。国際秩序を再編する意図を持ち、それを成し遂げるための経済力、外交力、軍事力、技術力を増大させているのだから...」

 ⑤ 「冷戦期は終わった」が、米国は「規則に基づく秩序」を維持しようと準備中だ。どれだけ血を流しても、どれだけ金がかかっても。

 一言で言うと、これが米国の外交政策なのだ。米国の指導者層と世界の米国同盟諸国は、ロシアと中国に対するこんにちの勢力闘争に勝とうと全力を尽くしている。これらの国々は自分たちが果たしたい目的をはっきりと見据えており、どんな危険もおかす用意がある。核戦争も含めて、だ。なんとしてでもその目的を達成しようとしている。台湾での動きは、米国政府の視点から見なければならない。そしてこの先、確実に有事が発生するだろう。

*
マイケル・ホイットニー(Michael Whitney)はワシントン州を拠点にした地政学及び社会学の専門家。2002年に独立系市民記者としての経歴を始め、真摯な報道や社会正義や世界平和に関わる仕事をしている。 「世界の一体化についての研究所(CRG)」の客員研究員。

中国はNATOのユーゴスラビアにおける「野蛮な」行為を決して忘れない―外務省

<記事原文 寺島先生推薦>
China won’t forget NATO’s ‘barbaric’ acts in Yugoslavia – Foreign Ministry
The remarks came on the anniversary of the 1999 embassy bombing that killed three Chinese journalists
この発言は、1999年の大使館爆破事件の記念日に行われた。この事件では、3人の中国のジャーナリストが亡くなった。
出典:RT 2023年5月8日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年5月19日



資料写真: 2010年11月10日、ベオグラードの廃墟と化した中国大使館の解体作業。© Andrej Isakovic / AFP Japan


 中国外務省の報道官である汪文斌(おうぶんひん)は、月曜日(5月8日)に記者団に対して、北京は1999年5月のベオグラードでの大使館爆撃を忘れたり許したりしていないと述べた。汪は、アメリカ主導連合が防衛同盟を装いながら紛争を引き起こしていると非難し、それに対して「真剣に反省」するよう求めた。

 汪は、5月7日が大使館攻撃の記念日であり、3人の中国の報道関係者が亡くなり、20人の外交職員が負傷したことを指摘した。「中国人民は、真実、公正、正義を守るために彼らが犠牲になったことを決して忘れません。また、アメリカ主導のNATOによって犯されたこの野蛮な暴行も私たちは忘れません」と彼は記者団に語った。

 汪は、「地域の防衛連合であると主張しながら、NATOは世界中のさまざまな地域で度々火種を引き起こし、紛争をもたらしてきました。ボスニア・ヘルツェゴビナからコソボ、イラクからアフガニスタン、リビアからシリアまでです」と指摘した。

 数十万人を殺し、数千万人を追い立てる戦争に参加したNATOは、現在、「アジア太平洋地域に東進し、この地域の対立を扇動し、地域の平和と安定を損ねている」と報道官は付け加えた。

 アメリカ主導のNATOは、自らが犯した罪について真剣に反省し、時代遅れの冷戦の考え方を捨て、地域での緊張を扇動することを止め、分裂と不安定を引き起こすことを止めるべきだ。

 大使館への攻撃は、コソボの民族アルバニア人の分離独立運動を支援するために行われたNATOによるユーゴスラビアへの空爆戦の開始から6週間後に発生した。5つの爆弾が施設に命中し、邵雲環、許杏虎、そして彼の妻である朱瑛(えい)が亡くなった。北京はこの爆撃を「野蛮な行為」と非難した。



関連記事:NATOのアジア進出に対して、中国は何ができるのか。

 アメリカは、セルビアの首都に関する「古い地図」を使用して、誤って大使館を攻撃したと主張した。ワシントンは、本当の標的は約500メートル(1640フィート)離れたユーゴスラビアの軍需庁であったと述べた。この攻撃はB-2ステルス爆撃機によって実行され、JDAM爆弾が使用された。これらの爆弾は目標から14メートル(46フィート)以内の精度を持っている。CIAの長官であるジョージ・テネットは後にアメリカの議会で証言し、この78日間の作戦中でCIAが計画したのはこの攻撃だけだったと述べた。報道によれば、1人のCIA工作員が解雇され、6人が厳重注意処分を受けた。

 アメリカ合衆国のビル・クリントン大統領は公に謝罪した。その後、ワシントンは中国政府に2800万ドル、犠牲者の家族に450万ドルの補償金を支払った。 かつてのユーゴスラビアに対するNATO支援の戦争犯罪法廷は、これらの事柄とCIAの処分措置を、この爆撃事件に対する捜査の開始や告発しない理由の一部として引用した。

ソロスは中国の政権転換を要求

ソロスは中国の政権転換を要求

<記事原文 寺島先生推薦>Soros calls for regime change in China

~リベラル派に資金を出している金融家ソロスは、「世界の開かれた社会への脅威である」と習近平を名指しで批判した~

RT 2022年2月1日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年2月24日

 1月31日、リベラル派の億万長者として知られているジョージ・ソロスは、中国の習近平政権の交替を求めた。それは、2022年の北京冬期オリンピックと1936年のナチスドイツのオリンピックを比較した演説の中でのことだった。

 保守派のフーヴァー研究所の会合で行った演説の中で、ソロスは中国を「世界で最も強力な権威主義の国家」であるとし、「開かれた社会にとっての今日の最大の脅威だ」とした。

 ソロスの主張によれば、中国は「1936年のドイツと同様」、来る北京冬季オリンピックを「自国をよく見せるよう、うまく利用」し、「中国が、厳格な統制のもと優れた社会体制が取れているという宣伝に使う」だろうとのことだった。さらにソロスは、中国に自由主義経済をもたらした以前の指導者鄧小平とは違い、習近平を「共産主義を心から信じている」と批判した。そしてソロスは、習近平は「毛沢東やウラジミール・レーニンの崇拝者である」と警戒の言葉を述べた。




 演説の締めくくりで、ソロスは中国の政権交代を求めた。この要求は、習近平の統治に反対の声を上げている米国の多くの保守派の主張と共鳴するものだ。

 「習近平が、より抑圧的ではない内政と、より平和的な外交を行う政権と交替することが望まれます。」

  「そうなれば、今日直面している開かれた社会に対する脅威が取り除かれることになるでしょう。中国が望ましい方向に向かうために、できることはすべてすべきです」と億万長者のソロスは言い放った。

 ソロスは、オープン・ソサエティ財団の創設者であり団長も務めている。この財団は米国や世界中のリベラル派や左翼を支援している。具体的には、ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)運動や、プランド・ペアレントフッド(Planned Parenthood:全米家族計画連盟)や、移民改革協会(Immigration Reforms)などだ。ソロスはさらに、米国の地方検事の選挙にも関心があり、その選挙戦に何百万ドルもつぎ込んでいる。ソロスが支援していた候補者の中には、現在米国の主要都市の検察当局の長官を務めている者もいる。

 

習近平のダボス会議発言は、彼がグローバリストの手先だという証明になるのか?「その果実によって、あなたがたはそれを知ることになる」

習近平のダボス会議発言は、彼がグローバリストの手先だという証明になるのか?「その果実によって、あなたがたはそれを知ることになる」

<記事原文>
Do Xi Jinping’s Davos Remarks Prove He Is a Globalist Shill? ‘By Their Fruits Ye Shall Know Them’

マシュー・エレット

Matthew Ehret

Matthew J.L. Ehret is a journalist, lecturer and founder of the Canadian Patriot Review.

2022年1月31日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年2月11日
 

 真実は時に苦い薬となる。しかし、患者を救う苦い薬は、糖衣毒よりもつねに優れている。

 「良い木はすべて良い実を結ぶが、腐った木は悪い実を結ぶ。良い木は悪い実を結ばず、堕落した木も良い実を結ばない。良い実を結ばない木は、すべて切り倒され、火の中に投げ込まれる。だから、あなたがたはその実によってそれを知るのである」(マタイによる福音書7章20節)

 1月17日、習近平国家主席はダボス会議で演説した。ダボス会議では、ITを駆使した新しい封建主義のもと、世界をディストピアに改変しようという野望を抱く億万長者たちが集まり、数日間にわたって自己満足の演説や、野望実現に向けた各勢力との連携作りに明け暮れた。

 案の定、習近平の演説は、大西洋の向こう側の米国の多くの民族主義者からかなりのヒステリーを引き起こした。このことからも、彼ら米国の民族主義者たちが、人類の文明をリセットしようとする非常に社会病的な超国家的存在によって自国政府が乗っ取られ、生活が脅かされるという醜い事実にうまく対応していないことがよく分かる。

 歴史的に一帯一路構想(BRI)を支持してきた「LaRouche PAC」という名の独特な国家主義者たちが運営しているニュースサイトは、習近平の発言は、不快なメルトダウンにつながるものだとして、ロバート・イングラハムの1月22日付け社説で次のように報じた。
(ラルーシュ運動LPACは、物議を醸したアメリカの政治家、リンドン・ラルーシュの政治組織の一部である。LYMの「ウォー・ルーム」はバージニア州リーズバーグにあり、LPACの本部でもある。)

 「習近平の演説は非難されるべきものだった。『グローバルな協力』や『ウィン・ウィン』などという表現を使ってはいたが、彼の発言は、ベールで隠してはいるが、ドナルド・トランプに対する攻撃であり、ダボス会議の企みを明確に支持しているとしか読み取れない。彼は、『全体論的』環境主義、カーボンニュートラル、『グリーン経済への完全移行』を支持した。彼はTTP(Trans-Pacific Partnership環太平洋戦略的経済連携協定)を支持し、自由貿易を賞賛し、保護主義を非難した。COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)の計画や、WTO、WHOにも絶賛の声を上げた。中でも最も反吐が出そうだったのは、大量虐殺を目的とした政策である国連の『持続可能な開発』を(スピーチの中で2度も)強く賞賛したことだ」

 ラルーシェPACは、習近平の演説を、中国がWEFの「世界大リセット」に加担している証拠だと批判する多くの報道機関の一つに過ぎないけれども、私は習近平擁護の主張をこの組織に向けて発することにした。その理由は2つある。

 ●(習近平批判を棚に置けば)、同ニュースサイトのこの論説記事は多くの非常に良いアイディアを提供してくれていると見ることができるからだ。そのアイディアが、文明を恐怖で圧倒している業火を消すという重要な役割を果たしうると私は心から信じている……ただし、その業火が最も激しく燃えさかっているいま、愚かなポピュリズムに甘んじることによって、彼らが自己破壊的行為をしてしまわないか、という懸念はあるが。

 ●この論説の著者は、私がこれまで読んだ中で最高の歴史的研究をおこなっていて、読者の心や自分の組織、そしてもっと一般的には、真実の目的に大きな損害を与えるような、許しがたい判断ミスをしないように予防しているはずだからだ。

 以下の反論の際、私は手厳しい言葉を使うかもしれないが、それはこの論説の著者が中国の動機について誤った分析をしていることを真摯に主張するためなので、ご容赦いただきたい。

主張1:「中国は脱炭素を支持しているから、悪である」

 COP26の脱炭素目標が、実は産業文明(と現在の世界人口規模を持続させる手段)の解体を意図していることを発見したひとたちに、祝辞を捧げる。グレタ・トゥンバーグやチャールズ皇太子やビル・ゲイツが気候変動専門家であるとか、われわれの集団行動を根本的に変えて産業文明を直ちに停止させなければ、世界は12年後に地獄の竈(かまど)になって終わる、と信じてやまない洞窟から抜けだし、誤った情報を切り抜ける知的能力を身につけたのだから。

 この問題に関して洞窟から抜け出せた人々にとって、習近平の公の発言は確かに混乱を招くものだった。中国国家主席は本当に「グローバリスト」の人口削減計画を支持しているのだろうか?先進工業文明の解体を支持しているのだろうか?
 
 ダボス会議で習近平が使った単なる表面上の言葉に惑わされず、彼の行動に注目すれば、答えは明確に「ノー」である。

ユーラシアの「脱炭素」と大西洋両岸の「脱炭素」の差異

 「脱炭素」と「持続可能な発展」に対する中国のアプローチは、NATO(北大西洋条約機構)とファイブアイズ(米国、英国、カナダ、豪州、ニュージーランドの5カ国から構成され、政治的、軍事的な情報を共有する同盟)の檻の中での支配的なアプローチとは多くの面で大きく異なっている。「この先生活必需品が欠乏するので、生活水準を落とし、生産量を下げ、さらには個人の持ち物の所有権を返上しないといけない時代が来るから、それに備えよう」と言われている西側諸国民とは異なり、中国の「グリーンアジェンダ」は、天然ガス、石炭、石油、原子力を中心とした炭化水素開発(脱化石燃料の動きを支持し、将来的な再生可能エネルギーへの移行のために、エネルギー源の中心に天然ガスを据え、自国の経済成長に必要なエネルギー確保を目指すこと)に向けられている。

 中国の強力な原子力発電部門(CO2排出量ゼロ)は、溶融塩トリウムや高速増殖炉など、現存するすべての第3・第4世代の原子炉を利用している唯一の国で、実用的な商業核融合に向けた取り組みは他のどの国よりも進んでいる。

 中国は風車やソーラーパネルなどのいわゆる「再生可能」エネルギーへの投資も積極的ではあるものの、大西洋共同体とは異なり、資本集約型産業(機械化が進み、労働生産性の高い産業のこと)の基盤についてはこうした低強度で信頼性が低く高価な電力に依存させず、主に家庭用消費に「グリーン」エネルギーを利用する方向を選択している。

 また、中国が、コンクリート、鉄鋼、鉄などの鉱物を必要としている世界有数の国家であることは周知の事実であり、これらは「一帯一路」構想に象徴される大規模プロジェクトの建設に欠かせない。

主張2:「中国はTPPを支持しているから、悪である」

 
 習近平が「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)推進派」だと捉えるのは、単純すぎる。

 ペペ・エスコバールが非常にうまく説明しているように、「誰が“第二次グローバル化”のを支配することになるのか?」をめぐる戦いだと見るべきである。

 50年にわたり世界を蹂躙してきた第一次グローバリゼーションはすでに水面下では死に体であり、このグローバリゼーションは、新しいタイタニック号が暗い深淵に引きずり込まれるように、間もなく訪れる衝撃で船がバラバラになるのを待つだけである。この崩壊は、多くの人が推測しているのだが、何かのシステムが崩壊して起こるのではない。実際にはとうの昔から時限爆弾が仕掛けられていたのだ。1971年にドルが金準備制度から変動相場制に移行して以降、現在の全体的なバブル崩壊を迎えるまでずっとそうだったのだ。

 したがって、問題は「システムが崩壊するかどうか」ではなく、むしろ「誰がこの新しいシステムを形成する」のか、であり、「どのような運営システムにそのルールが基づくことになるのか」、である。

 それは創造的成長と自主的改善が可能な開放型システムなのか、それとも同質性(エントロピー)と収益の不変の法則によって定義される閉鎖型システムなのか?そのシステムはゼロサム(参加者全員が負け、勝ち分の総和がゼロになる)なのか、それとも全体が部分よりも多くなる(共に利益となるウィンウィン、両者に有利な)のか?

 オバマ時代のTPPは、2016年にトランプが正当にも破棄したが、それは中華人民共和国、とくに主権国家システム全般に対する露骨な経済攻撃以外のなにものでもなかった。この攻撃は、以下のようないくつかの要因を前提としていた。

 A) 太平洋沿岸のすべてのTPP加盟国を、ロンドンとウォール街が支配するNAFTAのようなトップダウン型のシステムに縛り付けていること。

 B)TPPが定めていた「自由貿易」のルールを破った国を直接訴える権利を企業に与えていること
(多国籍私企業が、世界経済フォーラムのような機関を通じて調整するなどして常に支配力を維持しようとするため、「自由貿易」といっても実際には自由ではなかった)

 C) 2016年以前のTPPがつねに中国を除外していたため、中国を近隣諸国から切り離していること。

 習近平が言及している「第二次TPP」は、(第一次TPPとは違い)その名の通りの「環太平洋パートナーシップ協定」だ。

 運営システムの観点から言えば、第二次TPPは、2020年に世界人口の30%を占める太平洋地域15カ国が参加する史上最大の貿易協定として発足したRCEP(地域包括的経済連携)の延長に近いように見える。

 第二次TPPは、真の意味での自由貿易を含んでいるのだろうか?答えはYESだ。第二次TPPにおける自由貿易は、貧しい国々に対する帝国主義による強姦を正当化するために使われるだろうか?答えはNOだ。

自由貿易はどのような意図で運営されるのか?

 アダム・スミスが1776年に悪名高い『国富論』を書いて以来、多くの悪が「自由貿易」という隠れ蓑のもとでおこなわれてきたことは明白な事実にちがいない。

 アヘン戦争、ジャガイモ飢饉(19世紀のアイルランド島で主要食物のジャガイモが疫病により枯死したことで起こった大飢饉)、度重なるインドでの大虐殺、そして現代のグローバリゼーションの下での略奪に至るまで、英国が提唱する「自由貿易」はしばしば、対象国に安全装置のスイッチを切らせているすきに、その国民を丸裸にするまで搾取し尽くす手段として使われてきたのである。

 中国式自由貿易と英米式の自由貿易の違いは、その目的にある。

 英米式が国家の発展を破壊するために設計されたのに対し、中国式(あるいはそれ以前の米国のハミルトン方式)は、参加するすべての国の産業向上と表裏一体となって設計されている。一方が分割、征服、破壊を意図しているのに対し、他方は団結、協力、創造を意図しているのだ。大きな違いだ。

 ここで、ある人は叫ぶかもしれない。「意図なんてどうやって見極められるのか?」

 その答えについては、かつてイエスが問いに答えたように、「あなたがたはその果実によってそれを知るであろう」だ。唯物論者にはどう処理したらいいかわからないだろうが、世界の歴史を見れば、政治の世界では、自分の意図が透けて見えるような言葉を使うと、ほぼ必ず目的が台無しになることがすぐにわかるだろう。私たちはジョン・F・ケネディの強靭な率直さを愛しているが、その率直さ故に、就任してわずか1000日で殺害され、彼の持つ偉大な良さが花開くことがないままになってしまった。ベンジャミン・フランクリンのようなもっと賢明で精通した政治家がいたなら、そんな事態が起こることは決して許さなかったであろうが。

 悪いことをしようとする悪人が良い言葉を使い、良いことをしようとする善人が悪い言葉を使うことがある。その意図や善意をどうやって知ることができるのだろうか。言葉ではなく、その果実で知るしかないのだ。

中国のハミルトン的果実

 一極集中の帝国主義が数十年にわたる飢餓、貧困、戦争を生み出しただけであるのに対し、中国は8億人以上の人々を絶望的な貧困から救い出したことが証明されている。中国は、国有銀行を通じて何兆ドルもの生産的な長期信用を立ち上げ、その資金を債務の投機ではなく、実際のインフラの建設に結びつけた。

 西側の金融システムは、投機的・架空的資本の誇張された上昇率に完全に依存しているが、中国の金融システムは物理的な生産と価値のシステムを前提としている。エバーグランデ(中国恒大集団Evergrande Groupは、中華人民共和国広東省深圳市に本拠を置く不動産開発会社)のバブル崩壊は、西側なら原子爆弾のような破壊力をもつことになっただろうが、中国では十分に抑制可能な異常事態なのである。

 もし習近平を攻撃しているラルーシュPAC(LPAC)系の著者が、経済学者アレクサンダー・ハミルトンの原著の趣旨をきちんと読み解けていたのなら(その著者は読んだと公言してはいるが)、著者が信奉するアメリカのシステムは、本質的に自由貿易に反対ではなく、またつねに保護主義的でないこともわかるはずなのだ。

(ハミルトン:合州国憲法の実際の起草者。合州国憲法コメンタリーの古典『ザ・フェデラリスト』の主執筆者。統一された中央政府を有する必要があると考え、近代的な資本主義の基盤は、連邦政府によって成し遂げられるものとした。これは連邦主義といわれる。)

ハミルトンは何を創造したのか?

 ハミルトンが1791年の議会への報告で指摘したのは、破産した未成熟状態の新生国家は悲惨な内部分裂と混沌に追いやられるだけだということであった。最初の7年間、アメリカは大英帝国に奪還されるのを待つ財政破綻国であった。各州は経済の優先順位や通貨発行を自州内で管理し、13州のうちどの州も相互の自由貿易さえおこなわず、連合というにはほど遠い状態であった。

 このように、初期の連合体には統一性がなかったため、共通の行動をとることは不可能であった。共通の行動力を持たなければ、ロンドン中心部に集中していた高度に中央集権化された世界規模の金融寡頭政治と戦うに足る強力な武器は存在しえなかったのである。

 ハミルトンが行ったのは、アメリカ独立戦争中に発生した多くの局所的で返済不能な州債務を連邦が肩代わりし、それらを新しい国家銀行システムの資産に転換することだった。その資産が包括的な国家インフラ目標のために信用供与を開始することになり、亡国の危機を解決したのである。各州は「やりたい放題」にできる自由を失ったが、貿易障壁は取り除かれ、国家通貨が発行され、この飛躍的な進歩によって、若い国家は生き残るどころか、繁栄することさえできたのである。ハミルトンのもとでは、借金はもはやインフレを引き起こす装置などではなく、国民全体の利益に貢献する自己清算可能な「国家の恵み」であった。この点に関して、中国が国営放送の報道でハミルトンをよく引き合いに出すのも、偶然ではないだろう。

 ハミルトン計画の最初の数十年間で、アメリカの人口は4倍に増え、技術的知識、産業生産性、相互接続性、発明は飛躍的に成長し、やがてアメリカは世界最大の帝国への道に挑戦するようになった。

 (習近平批判の記事を書いたサイトのラルーシュPACの)イングラハム氏は、ハミルトンが独断的な関税支持者(つまり保護主義者)ではなく、自由貿易を支持していたことを知ったら驚くかもしれない。ただしその条件は、その自由貿易が、或る統一目的に従って形成されている場合に限られる。そしてその統一目的とは、その自由貿易により、全体の多くの部分の産業と創造が最大限に発展できるようにしようという目的だ。この目的は、米国憲法の重要な第1条第8節を含む「公共の福祉」条項の本質的な目的に繋がるものである。

 ハミルトンの後進であるフリードリヒ・リスト(1828年に「アメリカ政治経済システム」という言葉を作った)は、このシステムを用いて、バラバラだったドイツを、歴史上初めて、地域的に分裂していた国家間の自由貿易を推進する「ゾルフェライン」(別名:関税同盟)の下に統一した。リストの計画のもと、国内改善(鉄道、運河、新産業、純粋科学)と結びついた国家の信用が、ドイツを近代時代へと導いたのである。

 このシステムが適用された地域(19世紀のロシアを含む)ではどこでも、人口が量的にも質的にも増加し、国内の各地域間の調和的な関係が改善され、寡頭制はその支配力を失い、創造的な変化が生まれたおかげで、終わりのない成長をどんどん実現できるようになっていった。

 これは良い果実であったと言っていい。

 英国の自由貿易は、「第一次グローバリゼーション」のように、いつも耳あたりの良い言葉を使うが、本質は腐った果実を実らせるものであった。

 どこに適用されようとも、英国式の自由貿易は経済主権国家を破壊し、長期計画を不能にし、民間資本の規制を解体し、つねに「分断して征服せよ」政策に利用されたのである。

 英米のアイビーリーグの大学で教え込まれたこのシステムの信奉者たちは、知らず知らずのうちに、金の亡者の悪党の一員に成り下がり、ますます近視眼的な見方しかできなくなり、局所的で利己的な自己認識の先にある全体像が見えなくなってしまった……それこそまさに、悪夢のビデオゲームのようなシステムを動かしている寡頭エリートがつねに望んでいた姿だったのだ。

主張3:「習近平はWTOを賛美したので、悪である」

 世界貿易機関(WTO)には、国連憲章と同様に、多くの立派な言葉や経済行動のルールが埋め込まれている。このルールと言葉に従えば、どちらの組織も誰にも害を与えることはなく、むしろ多くの利益をもたらすかもしれない。

 「健全な競争」、「公正さ」、「取引の自由を促進する」、という素敵な言葉がちりばめられたルールが問題なのではない。

 問題は、これらのルールの多くを、それを破ることを意図して書いた勢力の意向にあるのだ。

 WTOのルールは、19世紀にこの小さな島を世界の大部分に対して支配的なアルファ位(αの位置、炭素原子の位置)に保つために、各国国家が自由貿易に服従することを求めた英国の要求とよく似ていて、欺されやすい犠牲者には信じやすい書き方になっていたものの、グレートゲームを形成する支配者層の人々にとっては、つねに植民地主義や奴隷制度の単なる道具だと理解されていた。


 この意味で、1999年のWTOは、アダム・スミスの1776年の『国富論』と多くの共通点をもっている。

 アダム・スミスは悪の美徳を賞賛し、はたまた、弱者を支配する覇権主義者の権利を促進するような書き方をしていただろうか。

 そんなことはない。

 アダム・スミスの著書を読めば、素晴らしい言葉がちりばめられていることが分かるし、もし世界が本当に、国際的に拡大した金融寡頭政治のない、生活の質の向上を目指して共に暮らす国々の平等な場であったなら、何も悪いことは見つからないだろう。

 問題は、ベンジャミン・フランクリンやハミルトン、そして最も有力な建国の父たちの多くが(あるいはフリードリヒ・リストが後に)理解していたように、アダム・スミスはただの雇われ政治専門家で、スミス自身、自分が書いた文言を信じてはいなかったというところにある。歴史家のアントン・チェイトキンが『Who We Are: America's Fight for Universal Progress, from Franklin to Kennedy』の第1巻で指摘しているように、アダム・スミスは大英帝国の上層部と直接結びついており、『国富論』を(偶然にもアメリカ独立宣言と同じ年に)出版するまで、第2代シェルバーン伯(米国の独立に反対していた17世紀の英国の政治家。首相や内務大臣を歴任)によって何年も教育されていた。



 アダム・スミスとロンドンの寡頭制の主人たちがつねに理解していたのは、自分たちが彼の「見えざる手(市場原理の万能性を説明する際にアダム・スミスが使用したことば)」の真の所有者だということだった。その「見えざる手」ということばこそ、規制のない市場を支配する「魔法の秩序原則」なのだ、と彼らが犠牲者たちに信じこませたいと願っていたことばなのである。

 ここ7年間で適用されたBRI(一帯一路構想)指向の自由貿易圏は、すべての参加国間で実際に測定可能なインフラと産業力を構築するという意図によって形成されている。アフリカ-中国自由貿易協定、中国-パキスタン経済回廊、中国のRCEP(アールセップ、東アジア地域包括的経済連携)、中国-EU取引、中国-南米自由貿易協定などを見ていると、大英帝国の暗黒時代やJFK後の米帝国資本の時代におこなわれたこととは正反対であることがわかる。これらの条約が適用された地域では、略奪や債務奴隷が蔓延するのではなく、産業成長、大規模インフラ、製造業、教育が爆発的に発展している。その意図は、第一次グローバリゼーションの時代に見られたものとは全く異なっている。

 中国がわかっているのは、もし国連憲章とWTOの規則が、3兆ドル以上のBRI(一帯一路構想)が追い求める意図のもとで施行されうるならば、第二次グローバリゼーションは、基本的に反独裁的、人口増加的、国民国家的、協力的、反人口削減的な規則に支配されることになる、ということである。

 これはなんと良き果実だろうか。

主張4:「習近平はWHOや、COVID協力体制を賞賛したから、悪である」


 最後に言っておかなければならないのは、習近平の「世界保健機関・パンデミック対応」に関する発言について、である。

 この話をすると嫌がる人々もいるだろうが、あえて述べることにする。

 今日に至るまで中国は、ソロスの諜報員である趙紫陽(ちょうしよう、党中央委員会副主席、国務院総理、党総書記などを歴任)治世下の1980年代に動き出したトランスヒューマニスト志向の西側寄り第5列(諜報活動家)を、まだ完全に粛清しきれていない。

(トランスヒューマニスト:超人間トランスヒューマンは、遺伝的な生物学と、デジタル技術や遺伝子組み換え技術を組み合わせたもの。ヒトゲノムの改変は、様々なナノテクノロジーを挿入することでサポートされ、自然界と非自然界の融合によって変化した生命のほとんどは、現在急速に進行中のAIの管理下に置かれることになる。)

 趙が中国政府に影響を及ぼしていた時期、トランスヒューマニスト(超人間主義者)、マネタリスト(通貨主義者)、テクノクラート(技術部門出身の官僚)が大量に流入し、現代の中国のディープ・ステートを形成していた。これら寄生虫らの多くが、1989年に始まり、1997年に再びおこなわれ、そして2012年の習近平体制の発足とともに始まった最近の粛正で、段階的に駆除されたことは喜ばしいことである。今日まで150万人以上の官僚が汚職容疑により粛正されている。

(マネタリスト:通貨供給や金利操作などの金融政策の重要性を主張する経済学者。主唱者は経済学者ミルトン・フリードマンらで、マネタリストの考え方は「新貨幣数量説」とも呼ばれる。ケインズ学派とは立場を異にし、1980年代の金融政策に大きく影響を与えた。通貨主義者)

(テクノクラート:技術部門出身の官僚、権力者。大衆国家において、国家行政が経済統計や社会計画を含む段階に至ると、従来の法律・組織・宣伝等の技術以外の社会工学的な高度の専門技術の保持者が官僚・行政官・管理者として重用され、支配者集団に入っていくことから生まれた)


 こうした粛正にもかかわらず、中国国内における世界経済フォーラムや英米の存在は、特定の方面でまだ感じられる。それが最も明確に表れているのは、江沢民(こうたくみん)元国家主席を中心とする「上海閥」や、ジャック・マー(アリババグループの創業者)など欧米寄りの億万長者たちが、何度も中国の経済主権を覆そうと様々な試みをおこなってきたことである。

 ロシアもまた、ゴルバチョフ-エリツィン時代に構築された独自のディープ・ステート問題に苦しめられている。

 銀行の国家管理を維持してきた中国とは異なり、モスクワのテクノクラート的なディープ・ステートは、ケインズ主義に侵された自由主義の中央銀行システムにおける絶大な影響力を依然として享受している。さらに中央銀行システムはロシアの大手製薬会社と密接に結びついている。(多くの例の一つとして、ズベルバンクを参照のこと)。

(ズベルバンク:ロシア貯蓄銀行は、ほぼ太陽の沈まない帝国といわれるロシア最大の商業銀行。もともとは帝政ロシア時代1841年に設立、社会主義のソ連時代に「貯蓄信用金庫」として国民に身近となり、それが市場経済導入に伴い商業銀行に改組され、現在でもロシアの銀行界では圧倒的なシェアを誇る。日本のゆうちょ銀行に近い存在。ロシア最大のIT企業であり、新型コロナワクチンの開発・生産もおこなっている。)

 北米やヨーロッパとは異なり、中国はつねに代替のコロナ救済策を提供してきた。単にワクチンに固執したり、コンピュータモデルに基づいて経済を停止させたりしない。中国がヒドロキシクロロキンに亜鉛を組み合わせた治療法だけでなくさまざまな東洋医学の治療法を使用して、当初から大きな効果を上げ、結果的に、コロナによる死亡率はアメリカの0.6%に収まっている。

 中国が明言しているのは、①コロナが国防総省とつながりのある200以上のバイオラボの1つから生まれたものなのか、②2000年のPNAC(アメリカ新世紀プロジェクト)文書『アメリカの防衛を再建する』で血も凍るような詳細が説明されたごとく、将来的に遺伝子を標的とした創造物が中国社会に放出されたものなのかが、まったくわからないのだということだ。

 はっきりしているのは、2020年1月以来、中国は起こりうる戦争のシナリオであるかのごとくコロナ対応を行っているということだ。

PNAC(Project for the New American Centuryアメリカ新世紀プロジェクト、1997年設立のネオコン系シンクタンク。20世紀を「アメリカの世紀」となぞらえることにあやかって、21世紀を「アメリカ新世紀」と謳っており、防衛再建計画では、サイバースペースや宇宙のような情報空間や物理空間をアメリカがコントロールすることを主張して、「完全支配」と呼ばれるフル・スペクトラム・ドミナンスの確立を目指した。)

 ロシアと同じように、中国でもワクチン接種の義務化をめぐって、さまざまな地域勢力と連邦政府との間で、何度も衝突が起きているのだ。

 連邦政府が(地域・州政府の抵抗に対して)専制的なワクチン接種の主要な執行者となっているほとんどの西側の政府とは異なり、ロシアと中国には逆のパターンが見られる。

 これらのユーラシア大陸の国家では、主に連邦政府が、地方当局が市民達に対して行っている専制的で行き過ぎた追い込みに対して介入してきたのである。

 ロシアと中国の指導者たちは、自分たちの文明の存続のためだけでなく、自分たちよりもはるかに大きなもののために戦っているのだ。しかも、彼らはこの戦いから生還するだけでなく、システムが崩壊し、第二次グローバリゼーションが実行に移されている中で、支配的なポジションに立つことを意図している。

 アメリカ人の中には、自分たちの愛する共和国がファシストのクーデターに取り込まれているという事実を受け入れることができない人もいる。ドナルド・トランプがこの件に関して何かできる道徳的・知的能力を持っていなさそうなことも受け入れがたいし、ユーラシアの国々によって外部から強制される広範なグローバルな変化なしでは、今の米国は自らを変える不屈の精神が持てていないことも、受け入れがたいようだ。

 真実は時に苦い薬である。しかし、患者を救う苦い薬は、糖衣毒よりもつねに優れている。

中露は米国による国際金融支配を終わらせようとしている

中露は米国による国際金融支配を終わらせようとしている
<記事原文 寺島先生推薦>

China & Russia are ready to end US dominance of global finance

Russian President Vladimir Putin held extensive talks with his Chinese counterpart, Xi Jinping, earlier this week, with the two world leaders agreeing on plans to establish a new shared international financial framework.
RT 2021年12月19日
グレン・ディーセン

By Glenn Diesen, Professor at the University of South-Eastern Norway and an editor at the Russia in Global Affairs journal. Follow him on Twitter @glenn_diesen.

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年1月15日



 中国とロシアは新たな国際金融の骨組を樹立しようという動きを徐々に見せ始めている。それは、2008年の世界規模で起こった金融危機(訳注:別名リーマンショック)により、米国への依存過多は危険であることが判明したからだ。両国に対する米国による経済制裁が続く中、その制裁が逆に、両国が国際金融の別の骨組みを必死に模索しようとする要因となっているようだ。

米国支配下での世界の銀行取引

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 米国を中心とした金融構造は巨大な力を生み出す源だ。国際間の貿易のほとんどがドル建てで行われており、支払いはSWIFT(国際銀行間金融通信協会)と呼ばれる取引団体を通じて行われている。このSWIFTという協会において米国は巨大な影響力を有している。そして資金調達については、主に米国の投資銀行から出された資金が使われ、借金利子は米国の格付機関により決定されている。さらに世界の主要なクレジットカード会社までもが米国企業だ。このような経済構造から生まれる力のおかげで、米国は帝国を維持できている。そうやって米国は多額の貿易赤字でも持ちこたえ、敵諸国のデータを集め、同盟諸国には好意的な扱いをし、敵諸国には制裁で衝撃を与えることが可能なのだ。

 しかし、米国を中心とした金融構造はもはや持続可能ではない。ホワイトハウスは、改善すべき貿易不均衡を統制する術を失っている。借金は抑制が効かないほど増え続け、あちこちで見られているインフレのせいで貨幣の流通は破壊されている。さらに米国政府がその経済構造を外交政策に利用して、敵諸国に制裁を課していることが状況を悪化させている。米国の防衛戦略によると、中露2カ国は米国が照準を合わせている主要敵国であるとはっきり伝えている。そのことにより、中露両国が米国の金融構造から脱して、別の金融構造を樹立することを余儀なくさせているのだ。

ドル体制からの脱却

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 ドル体制からの脱却、すなわち準備通貨や、取引通貨としてドルに依存する体制からの脱却が、いま盛んに試みられている。USドルの支配的役割は、75年以上も国際間の金融システムにおいて続けられてきた。ドルが強い通貨のままで持続できている理由として以下の3つの要因が挙げられる。①米国経済が巨大であること②インフレ率を低く抑えることにより、ドルの威力を維持できていること③金融市場が、自由で流動的であること。の3点だ。米国経済が比較的低迷している中、抑制が効かないほどのインフレ状態が生じ、さらに米国金融市場が武器として利用されている。ドルの強い役割を支えてきた基盤が急速に終息に向かっているのだ。

 世界最大のエネルギー輸入国である中国と、世界最大のエネルギー輸出国であるロシアの間の金融提携は、ペトロダラーの力を弱らせる決定的な要因となった。2015年に、ロシアと中国の間の貿易のほぼ9割はドル建てで行われていたが、2020年には、ユーラシアの2大国家である両国のドル建て貿易は、約半数の46%までに減少している。さらにロシアは外貨におけるドルの割合を減らす方向で進んでいる。中露貿易におけるドル体制からの脱却の潮流は、中露以外の国々との貿易でドルを使わない潮流をも生み出している。そのような潮流が進んでいるのは、ラテンアメリカ諸国や、トルコや、イランや、インドなどだ。ここ何十年もの間、米国は世界全体に向けてドルを送り出してきたが、そろそろその波の方向が変わり、価値を失ったドルの波が自国に戻ってくる時が来ているのかもしれない。

金融制裁

 世界中の銀行間の金融取引におけるSWIFT体制は、これまで国際間の支払いにおける世界で一つしかない体制だった。しかしSWIFTが果たしてきた中心的な役割が崩れ始めたのだ。それは米国がSWIFTを政治の道具に使い始めたからだ。米国はまず、イランと北朝鮮をSWIFT体制から締め出した。そして2014年には、米国はロシアに対しても締め出すことを警告し始めた。ここ数週間は、SWIFTという武器を使ったロシアに対する警告が激しさを増している。

 これに対して中国はCIPS(訳注:中華人民共和国の人民元の国際銀行間決済システム)、ロシアはSPFS(訳注:ロシアの金融メッセージ転送システム)という体制を開発した。両体制ともSWIFT体制の代替となるものだ。SWIFT体制の代替としてこれらの体制と契約したヨーロッパの国々もいくつか出てきている。その目的は、米国による越権行為的な妨害を逃れ、イランとの貿易を継続するためだ。中露が新たな国際金融構造を樹立するためには、CIPSとSPFSの結合は避けられないだろう。そして両者の結合は両国以外の世界各国に広がっていくだろう。米国がロシアを閉め出せば、世界各国のSWIFT体制から脱却は加速することになるだろう。

複数の開発銀行

 米国が主導しているIMF、世界銀行、アジア開発銀行は、米国が繰り出す経済政策を支える著名な機関だ。中国主導によるアジアインフラ投資銀行 (AIIB)が2015年に設立されたことは、世界の金融構造を変える大きな分岐点となった。というのも、米国の主要な同盟諸国(日本を除く)が米国からの警告を拒否して、この銀行と契約を結んだからだ。かつてBRICS開発銀行とも呼ばれた「新開発銀行」の設立は、米国主導による開発諸銀行からさらにもう一歩脱却する動きだった。「ユーラシア開発銀行」や、この先設立されるであろう「SCO(上海協力機構)開発銀行」は、米国の統制下にある開発諸銀行を終止符に向かわせるさらなるきっかけとなるだろう。

相乗効果

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 さらに中露は自前の格付機関を開発し、これまで両国で支配的な地位を占めていたVISAやマスターカードの価値を下落させた。この新たな金融構造の樹立には、エネルギーの提携や、技術の提携が補完的役割を果たすことになる。第四次産業革命に向かう中、中国もロシアも米国のハイテク産業に依存する気はないからだ。さらに中露は米国支配下の通商路を使用しない方法を模索している。中国は一帯一路構想に数兆ドルを投資し、新たな大陸間通商路や海洋通商路の構築に努めている。いっぽうロシアは、似てはいるが、より控えめな通商路構想を練っている。その中には、中国と連携して、北極圏を海洋通商路にしようという構想も含まれている。これらハイテクを駆使した計画や、通商路構想に資金を出し、運営を進めていけば、望ましい相乗効果が得られ、新たな国際金融構造の樹立に向けたさらなる発展が望まれるだろう。

 米国はさらなる制裁を課し、多極体制に基づく国際金融構造の樹立を妨げようとするだろう。しかし強硬な対外経済政策を維持しても、世界各国が米国から脱却しようとする流れしか作れないだろう。制裁を課しても、対象諸国はなんとか制裁から逃れようと、意地悪な権力に頼らずに生き抜く方法を学んでいくことになるだろう。敵諸国を弱化させ、孤立させようと始めた制裁措置が、結局は米国を孤立させてしまうことになるのだ。

 

1989天安門事件の背景。中国のゴルバチョフは如何に育成され、そして排除されたか。

中国のゴルバチョフは如何に育成され、そして1989年に排除されたか。

<記事原文 寺島先生推薦>

How China’s Gorbachev Was Flushed in 1989

ニュースサイト South Front 2021年8月2日

マシュー・エーレット(Matthew Ehret)著

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2021年10月23日


 今日に至るまで、とある人物が果たした悪名高い役割について、多くの人々はよく分かっていないようだ。その人物は、ハンガリー出身で、ある時は投資家、ある時は慈善家の顔を持つ人物だ。彼の名はジョージ・ソロス。彼こそ、ここ40年間、世界各地での「カラー革命」において重要な役割を果たしてきた人物だ。悲しいかな、この年老いた社会的病質者傾向をもつジョージ・ソロスが系統的に行った大虐殺のことに気づいた人たちの多くは、この大虐殺について以下のいずれかの見当違いをしている。その見当違いとは、(1)「世界の国々を手中に入れるためのこれらの陰謀は、ジョージ・ソロス一人で行ったのだ」と考えるか、(2)「ジョージ・ソロスは、邪悪な中国共産党の手下であり、その中国共産党はキリスト教をもとにした西側による世界秩序を壊そうとしている」という見当違いだ。

 私は最近、トランプを熱狂的に支持している実業家のマイク・リンデルが開催した、中国など外国が大統領選挙の集計装置に関与した疑惑を追求するサイバーセキュリティのシンポジウムの様子を伝える短い動画を見たのだが、それを見れば中国共産党とジョージ・ソロスの関係に対する見当違いが凝り固まってしまっていて、しかもほぼ全ての保守系のマスコミがその見当違いを増幅して伝えているように思えた。このような見当違いが、様々な形態で広く伝えられているため、西側諸国の一定の保守支持層は、中国がいま行おうとしている世界規模の一帯一路構想に従えば、これまで何千年もの間、正しいと認められてきた伝統的な価値観が根本から覆されることを恐れる傾向が出てきているのだ。

 国民国家を破壊し、世界の大多数の人々を奴隷にしてしまおうという陰謀の実在を認識している人々にとって問題になるのは、そう考える人々が被害妄想に取り憑かれていることではないし、米国内でもカラー革命が仕掛けられていることでもない。それなのに英国の諜報組織のいつもの手口から目をそらされることで、彼らは見誤っているのだ。その英国の諜報機関といったら、米国が建国された1776年から今までずっと、米国による「主な歴史的事件の解釈の書き換え」のほとんどすべてに関して中心的な役割を果たしてきているというのに。そして、中国はソロスから得た資金を使って、西側のディープ・ステートが支配する世界を影から支配しようとしている超悪者だと見なされている。さらに中国は、世界覇権を追求し、「キリスト教をもとにした価値観」を転覆させようとしている、と思われているのだ。

 実際のところは、中国はソロス一族の邪悪さを見抜き、その陰謀を追い出した世界で最初の国家である。一方、世界の残りの国々は、ここ30年以上も前からソロス一族が仕掛けている、今の「国民国家を元にした世界」の後に来る世界に、催眠術にかけられたように誘導されている。そんな中でも中国は、「協調関係に基づいた新しい世界建設」に向けた、非常に価値のある道すじを示し続けている国なのだ。そのような新世界とは、西側諸国も必ず加入すべき世界のはずだ。いずれやってくる暗黒時代から逃れる方法はそれしかない。

 要点をもう一度整理しよう。他の国々が、ソロス一族の無敵艦隊である「オープン・ソサエティ財団」に骨の髄から浸食されているままにされているのをよそに、中国は賢明にも、ソロス一族の正体と、その邪悪な企みを見抜いたのだ。それは天安門広場で、ソロス一族によるカラー革命が仕掛けられたときのことだ。そのカラー革命の先駆けは、新時代の名の下に行われたソ連の解体であり、西側の代議制民主主義の破壊であった。それでも中国の反応は素早く、中国におけるソロス一族の右腕だった人物を失脚させたのだった。その人物とは、中国共産党中央委員会総書記の座にまで上り詰め、年老いた鄧小平の後継者になると確実視されていた人物だった。

 ソロス一族の手下であったその人物の名前は、趙紫陽だ。そして1980年代を通じて、西側メディアは趙紫陽のことを、「中国のゴルバチョフ」と親しみを込めて呼んでいた。

 1984年には、趙紫陽はレーガンから賞賛されていた。こちらの動画を参照。

                   

 趙紫陽に関して

 趙紫陽は1934年から1935年に起こった「長征」の頃にはまだ10代だった。しかしすぐに頭角を現し、1951年には中国共産党の広州代表の地位に選ばれ、1958年から61年かけて起こった大飢饉の間に食料をため込んでいた農民を弾劾する政策を行った。当時、影響力をもっていた勢力が趙紫陽のこのような政策を評価したこともあり、趙紫陽の幸運の星はさらに輝きを増し、彼は広州の共産党第一書記になった。しかし数年後の「文化大革命」の中で、趙紫陽の幸運の星は輝きを失し、彼は紅衛兵からの攻撃の対象となり、江南労働改造所での4年間の勤務を余儀なくされた。しかしそこから1972年に驚くような地位回復を見せ、趙紫陽は再び幸運の星をつかみはじめ、1973年には広州の第一書記および中国革命委員会議長に選出された。1975年には四川省第一書記に選ばれた。そこで趙紫陽は、経済の自由化や、市場原理の導入政策を押し出し、鄧小平統治下の改革開放政策の初期における農業政策の革新に寄与した。
 
 趙紫陽の幸運の星は,この時期に信じられないくらいの素早い輝きを見せた。1977年までには中国共産党中央政治局の一員となり、1980年から1987年まで国務院総理をつとめ、その後1989年に地位が剥奪され失脚するまで、中国共産党総書記をつとめた。

 今日、人間を「超人間(transhuman)」化する話をよく耳にするようになった。それが、クラウス・シュワブなど特権階級にいるものたちが大手を振って賞賛している「第4次産業革命」の中身だ。その産業革命が目指しているのは、人間と機械を一体化させることだ。人工知能が発達すれば、人間の思考は人工知能にとってかわられ、労働は自動化されることが「余儀なくされ」、今のあまり役に立たない労働者は「使えない人々」と見なされてしまうようになるようだ。ただしこのような考え方は新しいものではなく、既に趙紫陽の頭の中でもくっきりと見えていたものだった。趙紫陽は、アルビン・トフラー(Alvin Toffler:『第3の波』の著者)のような、「超人間主義者(transhumanist」*」たちから深い影響を受けていた。そしてこれらの「超人間主義者」たちが描いていた新しい産業革命後の世界が、いま進行中である「グレート・リセット(Great Reset)」という企みのバイブルとして重宝されているのだ。

     *訳注:トランスヒューマニズムは,新しい科学技術を用い、人間の身体と認知能力を向上させようという思想。トランスヒューマニストはその思想をもつ人。

 1983年10月9日に北京で開かれた会議で趙紫陽はこう語っていた。

 「名前は“第4次産業革命”であれ“第三の波”であれ、[これらの著者の著者たちが]考えていることは、1950年代と1960年代にかけて高度な産業化が達成された西側諸国は、今は「情報社会」へと移行している、ということです。今世紀の終わりから来世紀の初めにかけて、あるいはここ数10年の間に、世界は新しい状況になるでしょう。新しい技術により社会は躍進するでしょう。そして今起こっている、そしてこれから先起こるであろう、その新しい技術革新は、生産や社会のために利用されることでしょう。そうなれば社会における生産性は飛躍的に増進され、それに伴い社会生活は新しく変革されていくでしょう。このような潮流のことは、注視しておくべきですし、私たちの実生活にもとにして、慎重に研究されなければなりません。そうすることで、この先10年後、あるいは20年後にむけた長期的な計画を決めることができるのです。私たちにとっても、4つの近代化にとっても、このような潮流は好機であり、挑戦でもあるのです。」
 
 
「4つの近代化」に向けての闘い

 上記で趙紫陽が語っていた「4つの近代化」という名で知られている政策は、中国建国の父である周恩来が1963年に初めて導入したものだ。その政策は、新世紀に向かう中国の緊急事態を乗り越えるために作られた数十年先を見通した指針だった。周恩来のその計画が立脚していたのは、経済と産業全体を通した以下の4点における革新だった。それは、1) 工業の生産性、2) 農業の生産性、3) 防衛力、4) 科学技術の進歩、の4点だ。

 毛沢東の後を追うように周恩来が亡くなった1976年までに完全に明らかになっていたことは、1966年から1976年までに、これまでの中国数千年の歴史を覆そうとしていた「四人組」が長期に渡り権力の座にとどまることはないだろう、という見通しだった。さらに周恩来の計画が、長期を見通した中国の発展戦略をますます前進させていくことになることも見通せていた。周恩来の側近であった鄧小平が1978年に中国共産党の指導者の地位を獲得した。(それは四人組を投獄した後のことだった)。そして、4つの近代化を実現するために招集された中国共産党の中央委員会で、鄧小平は以下のように語っていた。

 「私たちは、科学や技術分野において、もっとも優秀な人員を数千人規模で選出し、そのような専門家たちが研究に専念できるような環境を創設するべきなのです。金銭面で問題がある人々には、手当や補助金を出すべきです。共産党の内部で、知識を大事にする雰囲気を作り出さなければいけませんし、専門家を育てることを大事にする雰囲気も作り出さなければいけません。知識階級を軽んじるという間違った態度は改めなければなりません。知識を得るという行為も労働なのです。精神的な仕事であれ、手作業であれ、労働は労働ととらえましょう。」

1963年の鄧小平と周恩来


 鄧小平がマルクス主義的概念を単なる物資的な労働だけにとどめずに、知識を使った創造的な労働にまで拡げたことは、素晴らしいことであった。さらにこの考え方の転換は、中国を新しく、画期的な方向に向かわせるものであり、アジアの巨人である中国をこの先数十年で、経済先進国に押し上げる力になるものであった。しかし、科学における創造性や、将来に向けて非線形的な発展を求めることを議論する際において、そのような発展を実現させるためには、「どのような哲学や、どのような道すじを建てるのが最善か」、を見極めるための論議をする余地が生まれることが多い。そこで登場したのが、新マルサス主義(訳注:出産制限により人口を抑制することを唱えた考え方)だ。西側世界の中で潜んでいたこの新マルサス主義が生き返り、活動を開始したのだ。「封鎖政策」でいくのか、「開放政策」でいくのか、その間での生死をかけた闘いが始まった。


中国を奴隷労働市場とみていたキッシンジャー

 中国を解放しようというヘンリー・キッシンジャーの計画は1971年に本格的に開始された。当時は文化大革命の波が頂点に達していたのだが、彼の計画は、「国民国家体制を元にした社会秩序で保たれている世界」の後にくる世界を前提としているものだった。

 キッシンジャーの思惑では(及び彼の同胞である[日・米・欧]三極委員会の委員も。この委員たちはJFKやJFKの弟の死骸を乗り越えて近代米国の舵手となり、米国の政策を取り仕切っていた)、1971年の時点ではおおむね「第1次産業革命(農業従事者が工業従事者に移行している段階)」の段階にあった中国国民を、そのままの状態にとどめ、安い労働力の供給源にすべきだということだった。そして中国の労働者たちによる生産物は西側の消費市場に輸出するためだけのものにするべきだ、と考えていた。そのような西側の消費市場では、かつて西側諸国内で行っていた第一次産業を自国内で必要としていなかった。キッシンジャーの計画では、そのような第一次産業は他国に輸出されるべきだ、とされていたのだ。というのは、西側諸国の成長はすでに「成長の限界」の域に達していると考えられていたからだ。それは(未来派であるアルビン・トフラーが「第二の波」と呼んだ)産業の発展状態にあるということだった。「脱工業化社会」という新しい時代(トフラーの『第三の波』からの引用)のもとで、人類は情報産業を主体とした社会に「進化」しつつあると期待されていた。

 1978年の自身の論文を解説する際に、トフラーが語ったのは「第三の波」の出現と、工業文明の衰退についてだった。

 「いま時代は声をあげて発展をやめようとしています。工業文明は、もはや最終段階に到達したという危機に直面しています。そして新しく、まったく異なる文明が、世界規模で出現しようとしているのです。私たちは急速に、新しく、より洗練された世界に進化しようとしています。その発展を支えるのはいま知られている知識よりもさらに進んだ、さらに適切な技術です。歴史上新しい場面へ飛躍しようというこの状況は、以下のような変化とともに出現しているのです。それは、①エネルギー革新、②新しい地政学的勢力関係、③新しい社会制度、④新しい伝達手段や情報網、⑤新しい信念体系や、象徴や、文化的先入観などの変化です。それに従い、全く新しい政治体制や政治の進め方が生み出されなければいけないのです。私たちが技術革新や、社会革新や、情報革新や、道徳や性に対する認識の変化などを如何に成し遂げるかについては、私にはまだわかりません。そういう意味でも、私たちも見たことのある政権(その政権とは人民を代表する政府のことです)の崩壊は、たいていこのような産業の衰退の結果の必然として起こっているのです。簡単に言えば、工業時代における政治体制は、この先私たちのまわりで形成されつつある新しい文明下では、適切な体制ではなくなってしまう、ということです。今の政治体制は廃れつつあるのです。」

 キッシンジャーが、新マルサス主義者の一員として動いていたという事実は、周知の事実だった。それは、1974年に出された、キッシンジャーの悪名高い『National Security Study Memorandum 200 (NSSM-200:国家安全保障覚書200)』において、すでに米国の外交政策は、「発展に向けたもの」から「人口削減に向けたもの」に移行していたことから明白だったからだ。その政策を支えていたものの一つに、ローマ・クラブ(訳注:スイスに拠点を置く民間のシンクタンク)が出した『成長の限界(1972)』があった。ただしこの著書の指摘には、真実も散見されたが、全体的に見れば、独創的な主張も技術的な進歩も欠けていたのである。


 人口増加の主要な抑制策としてNSSM-200が挙げていたのは、出産制限措置と、食料生産の抑制措置だった。キッシンジャーは以下のように問いかけていた。「米国は、食料配給制度を受け入れる準備ができているだろうか?そうすることで自分では人口増加を抑制することができない人々の助けになるのに。」

 キッシンジャーのこの報告は、きれいごとなしのずけずけとした語り口だった。「この先米国経済は、外国からの原料輸入に大きく頼り、その量もますます増加していくだろう。それは特に発展途上国からの輸入だ。ということは、政治面でも、経済面でも、社会の安定に関しても、米国が利益を得るように、そのような原料供給国に対して働きかけなければならない。出生率を減らすことにより人口を削減するよう圧力をかければ、米国の利益獲得は安定するという見通しは強まるので、人口抑制政策は原料の供給や、米国の経済利益につながってくる。もちろん人口を削減するよう圧力をかけることだけが、米国の利益を高める要因ではないが、(西側諸国のように)人口の増加がゼロであったり、緩慢である状況下では、このような人口を抑制しなければいけないといういらだちはほとんどない。

 キッシンジャーやトフラーなど、ローマ・クラブを支持する者たちを中国で見つけられなくなる心配はなかった。というのも、鄧小平統治下の中国では、新しい政治的手腕をもとめる新勢力が出現しつつあったからだ。このような新マルサス主義者たちが好んで行っていた手法は、数学や、コンピューター演算を使って人間を見ようとする手法であり、これらの新マルサス主義者たちは、中華人民共和国国務院内で可能な限り大勢の人々に影響を与えようという動きを即座に見せ、「4つの近代化」を人類の真の発展とは相容れない方向で完遂させようという取り組みを企てていた。

トフラーの『第三の波』が中国に押し寄せてきた

 これらすべての人物たちが、巨大な力を有する趙紫陽の周りを取り囲んでいたのだった。趙紫陽は1980年代を通してずっと彼らの保護者であり、協力者であり続けたのだ。
 
 中国の「一人っ子政策」を打ち立てる際に大きな影響を与えた科学者の一人であり、趙紫陽の密接な協力者であった人物が宋健だ。彼はミサイル科学者であり、ノーバート・ウィーナー(1894-1964、米国の数学者)のhttps://www.washingtontimes.com/news/2012/may/21/chinas-population-control-holocaust/、1950年代のロシア留学中に叩き込まれた。1979年にフィンランドで開催された国際自動制御連盟の第7回の世界大会に出席した後、宋健はローマ・クラブの『成長の限界』を紹介された。米国の航空宇宙技術者のロバート・ズブリンによると、宋健は、原著者名をあきらかにすることなしに、その著書をすぐに中国語に翻訳した。さらに、その著書が主張していた「線型モデル」を使って、人口や、汚染や、原料の喪失がこの先数年間規模でどうなるかをコンピューター演算ではじき出し、中国の理想的な国内人口(言い換えれば受け入れ許容人口)を結論づけた。その数は6億5千万人から7億人としていた。(その人口は、当時の中国総人口より3億人少ない数だった)。ローマ・クラブが提唱するこのような考え方は野火のようにひろがり、すぐに中国の政策に取り入れられた。その結果、史上最悪の「幼児殺し政策」が何十年にもわたって続けられることになり、それから40年後の今になっても、人口増加率の再上昇はおこっていない。(賢明にも2016年には一人っ子政策が取り払われ、今年になってからはさらに子どもの数を二人までとする制限も取り払われているのだが)。

 ケンブリッジ大学の研究者であるジュリアン・ゲワーツ(Julian Gewertz)の2019年の論文「北京の未来派(Futurists of Beijing)」によると、中国の国家科学技術院の院長として、宋健は趙紫陽と密に連携をとり、中国の科学技術の考え方をローマ・クラブの考え方と結びつけ続けるよう取り組んでいたという。[1]

 アルビン・トフラーの考え方を中国に持ち込む手助けをしていたもう一人の人物は、中国社会科学院の上級研究者であった董乐山(Dong Leshan)という名前の人物であった。彼は米国に何ヶ月間も滞在し、1981年に米国で「未来派」であるトフラーと出会っている。董乐山はこう記していた。「私が出会い、米国の知識階級の潮流について議論を交わしたすべての人々は、[トフラー]の著書『第三の波』について話していた」と。

 董乐山はすぐに「未来派の学習を行う中国の会」というものを立ち上げ、何ヶ月後かには、トフラーを初めて公式に中国に招いたが、その際トフラーは董乐山に以下のような書簡を送っていた。「貴国の指導者の方々とお会いし、長期的な計画について話をすることになるでしょう」。その指導者たちの中の筆頭に趙紫陽がいた。

 1983年3月、中国の出版社である三聯社は、トフラーの『第三の波』の中国語版を初めて出版したが、すぐに問題が発生した。というのも、その著書の主張は、どの点においてもマルクス主義と明らかに真逆の主張だったからだ。トフラーが概観していた社会革命に関する尋常ならぬ主張は、優生学を焼き直したものに過ぎなかったのだ。ただ「超人間主義」という仮面に変えられただけだった。その主張には、思考や意図が込められてはおらず、盲目的で、非道徳的な力で人類の文明を動かし、状況をより複雑にするにすぎない主張だった。このような盲目的な運命論にもとづく「力」には、人間の意図が抜け落ちており、発展の波の中に、我々人類の進歩をおさえこんでしまおうという主張だった。そして、社会や政治の発展を見る際に、トフラーの主張した「三つの波」を強引にあてはめてしまう傾向も色濃く見られた。(例えば「第一の波」とは「農業/ 封建主義 /国民国家前夜の社会体制」、「第二の波」とは、「工業/ 民主主義 / 国民国家体制」、「第三の波」とは、「情報 / 特権階級による封建制度 / 脱国民国家体制」と単純化されている)。

 当時、トフラーやトフラーの支持者であった中国の人々の考え方は、概して「中国(や、その他の発展途上国)は、汚れた工業化である“第二の波”を通り越して、“第一の波”からいきなり“第三の波”に昇華すべきだ」というものであった。

 1983年に、趙紫陽は以下のように語っていた。「トフラーの“第三の波”には同調できるところがあります。トフラーの考えでは、今日の第三世界の国々は、“第二の波”の発展を通り抜けてこなかった可能性もあるという。これらの国々は、“第三の波の文明”を成し遂げられるような、まったく新しい進路を取ることもできるという。」

 当時の中国が要求していたのは、海岸沿いに「経済特区」を設置することだけだった。その特区において、海外から生の原料や、少し手を加えた原料を輸入することが目的だった。そこで、程度の低い技術を使った工場で、低賃金の労働者たちがそのような原料を完成品に組み立て、第一世界の国々に送り返す、という寸法だった。そしてこのような手段を使って得られたカネを、「第三の波」の科学計画に投資する、という魂胆だった。その計画が力を入れていた分野は、①遺伝子操作であり、②人工知能であり、③情報システムだったのだ。これら3分野が、趙紫陽が将来の中国を見据えて、優先的に取り組んでいた分野であった。大規模な取り組みや、具体的な目標に基づいて大規模な発展を思案し、科学で優先的に取り組む分野を決めていくことは、「ボトムアップ的思考である」として禁じられていたのだ。趙紫陽や、キッシンジャーや、トフラーが促進していた「自由市場理論」とは相容れなかったからだ。

 歴史研究家であるマイケル・ビリングトンの記述によれば、1981年に三極委員会は北京で直接会議を開き、中国をこの封建制度の中に閉じ込めておこうとしていたと書かれていた。ビリングトンの記述にはこうある。

 「1981年5月、ディビッド・ロックフェラーは、北京で開かれた三極委員会の国際会議で議長を務めた。その会議において、チェース・マンハッタン銀行の頭取ウイリアム・C・ブッチャ-が新華通信社に語ったところによると、中国の再建が成功できる唯一の道は、労働者中心の生産を優先した大規模産業や巨大開発プロジェクトなどをやめることしかない、とのことだった。ブッチャ-によると、重工業やインフラ整備に力を入れれば、『二つの重要なものを消費していまいます。ひとつはエネルギーで、もうひとつはお金です。その両者とも中国には豊富にないものです』とのことだった。」

 トフラーの主張が異端とみなされ、1984年の彼の著書の出版が禁じられたもう一つの理由には、トフラーの主張が「政治は経済に隷属すべし」という主張であった点だった。トフラーの神秘的な世界観においては、技術の進歩を進める「力」は、人間の意図によってしか止められないような進歩であった。つまり、政治的な計画や、道義的熟考に基づいて、人間が口出しをしなければ止められないような進歩であったのだ。趙紫陽は長い年月をかけて、中国共産党中央政治局で議論を重ね、「経済を政治から切り離す」ことを主張してきたのだ。そのせいで趙紫陽は、政界の長老たちからの怒りを買い、「趙紫陽は中国に邪悪な企みを注入しようとしている」と思われてしまったのだ。

中国にフリードマンが踏み込んできた

 ミルトン・フリードマンは、1979年に開催された中国の支配者層との会合に招かれ後援を行った西側諸国の一団に加わっていた。その後も中国訪問時は、必ず趙紫陽と繰り返し会っていた。1988年に中国を訪問し、趙紫陽と2時間の会談をもった後に、フリードマンはこんな発言をしていた。「趙紫陽氏の人柄と慧眼に感銘を受けました。趙紫陽氏は経済問題に関して深い知識を有しており、中国の市場規模の拡大を決心されています。趙紫陽氏は、他の人々からの意見や提案に耳を傾け、学び、受け入れる準備が常にできている人物です」

 フリードマンは、以下の3項目を前進させるためにはファシズムさえ厭わないような人物だった。つまり①給料削減、②民営化、③「市場を重視した」経済再建策の3点だ。これら3項目は、社会主義体制を乗り越えた自由を国民に受け入れさせるために必要となるものだった (このような手法は、フリードマンがチリのピノチェト政権を支援した際にも見受けられたものだ)。さらにフリードマンが指摘したのは、強力な中央集権体制としての中国共産党体制は、必ず維持されるべきだ、という点であった。彼はこう語っていた。「同時に、可能な限り趙紫陽氏がなすべきことは 共産党が持つ圧倒的な権力を守りぬくことです。 それを成し遂げるには、熟練した手腕が必要とされるでしょうが。」

 著者がここでどうしても指摘しておきたいことがある。西側諸国の住民たちにとっては非常に重要なことがらであり、理解しておいて欲しいことなのだ。それは、フリードマンや、ソロスや、キッシンジャーといった社会病質者が、折に触れ中国共産党に支援の手をさしのべてきたのは、趙紫陽のような操り人形の指導者に誘導させることにより、中国共産党を「反人類」「反国民国家」を標榜する国家運営に導こうとしていたからだ、という事実だ。というのも、中国共産党による中央集権国家体制が、哲学的に優れた統治者により執られたとしたなら、つまり孔子のいう「天命思想」に基づいた統治者により統治されたなら、西側社会の世界を我が物顔で支配したがっている「ユートピア・グローバリスト」たちにとっては悪夢になってしまうからだ。



ジョージ・ソロスと趙紫陽

 1986年に、趙紫陽は中国で初となる、ソロス一族が運営する2つのシンクタンクに資金を出した。その資金は 「中国の解放と再建を実現するための資金団体」から捻出された。その資金団体は、投資家たちから集めた何百万ドルもの助成金や、「経済構造改革協会(Institute for Economic and Structural Reform)により支えられていた。この協会は、趙紫陽の側近である陈一咨(Chen Yizi)が共同経営者として名を連ねていた。さらにこの協会は、「全米民主主義基金”the National Endowment for the Democracy”(つまりはCIA)」とのつながりが強く、全米民主主義基金は、1988年に中国国内に2つの事務所を設置した。

 死後に出版された自伝の中で、趙紫陽が記していたのは、当時、趙紫陽氏には以下のような願望があった、ということだった。つまり、「中国が採用すべきなのは、①自由な報道機関であり、②結社の自由であり、 ③司法の独立であり、④複数政党制の下でも民主主義だ」という願望だった。さらに、ソ連が採用したグラスノスチとペレストロイカを行うべきだ、とも書いていた。しかしこの二つの政策は、ロシア経済を前史状態にまで切り裂く主導力になったものなのだが。さらに趙紫陽の記述によると、彼が求めていたのは、「国営企業の民営化であり、共産党や国家体制の分離であり、市場経済に基づく経済の再建」だった。

 1989年に行われたインタビューにおいてソロスは、ゴルバチョフの偉大さを賞賛した上で、一点だけゴルバチョフの経済政策の不手際を批判したコメントを残している。「ソ連と比べて、中国には、中国共産党趙紫陽総書記という完全なる経済重視主義者が存在し、彼の指示下にある、多くの優秀な若い頭脳からなるシンクタンクも存在しています。」

  1988年から1989年が、ソロスや、フリードマンや、トフラーにとって至福の時期であったことには理由がある。それまで何十年もの間の痛みの後に、ついに成功の果実が実を結ぼうとしていたのだ。それは、それまで西側諸国が苦しめられた来た工業の発展を重視した政治家たちをほぼ追い出すことができていたからだ。それまでの政治家たちは、「脱国民国家主義」の「新しい世界秩序(New World Order)」の考え方にはずっと反対してきたのだ。反マルサス主義者であったドイツ銀行頭取アルフレート・ヘルハウゼンや、米国の経済学者であるリンドン・ラルーシェなどが、依然として西側諸国の人々にとってはやっかいものではあったが、この両名を排除する対策がすぐに執られ、キッシンジャーの悩みは解消された。 (2)

 西側諸国が、超国家支配者層により牛耳られていただけではなく、「鉄のカーテン」の向こう側にあった共産主義国家も、これらの超国家支配者層が唱える「新世界秩序」の名の下に、経済的に破壊されていたのだ。ベルリンの壁は揺るぎ、ソ連は崩壊し始めていた。

 これらのすべての「成功例」とはちがい、アジア内部では、或る動きが起ころうとしていた。それは「第四次産業革命」に抗う政治指導者たちによるものであった。そして彼らにより、「何か」が抜歯される必要があったのだ。

天安門広場でのカラー革命の失敗

 ここで登場したのが、CIAのジェームズ・リリー(彼は中国大使でもあった)であり、全米民主主義基金であり、ジョージ・ソロスだった。彼らはすべての資源を使って1989年6月4日のカラー革命を大躍進させたのだった。その結果、天安門広場に集まっていた学生たちが暴徒化したのだ。

 その手口として、まずは、近代のカラー革命を理論的に支える米国の経済学者ジーン・シャープを登場させた。彼は天安門広場での抗議活動の際、北京に9日間滞在していた。また、ラジオ局の「ラジオ・フリー・アメリカ」のアジア支所から、CIAが手を加えたプロパガンダを山のように流させた。さらには学生抗議者たち中の過激派に対して訓練や、資金や、武器さえ与えていた。武器とは具体的には、火焔瓶や銃だった。そうすることにより、混乱を招くような工作を行ったのだ。もともとこの抗議活動は、ただの平和的な抗議活動であったのにである。中国におけるCIA支所が用意したものは多かったが、その中には、過激派の無政府主義者の学生たちも含まれていた。これら無政府主義者の学生たちが先導して中国人民解放軍の軍人を数十名殺害することになったのだ。これらの軍人たちの燃やされた死骸は30年後の今でも人々の心を苦しませている。クーデターが失敗に終わり、工作により政府主導の大虐殺を引き起こし損なったため、グローバリストたちができたことは、「これは”ホロコースト”と同じく、中国政府が行った虐殺行為だ」という嘘話を、今日に至るまで人々に知らしめることだけだったのだ。

  血の海を起こさせることに失敗し、たった200人~300人の死者しかで出なかった(しかもそのほとんどは人民解放軍の死者だった)たため、 この計画は頓挫し、ソロス一族から恩恵を受けていた最も過激だった工作員たちは、米国やカナダなどの安全な地に逃れた。MI6とCIAによるこの工作のコードネームは「イエローバード作戦」だった。香港の犯罪結社である「三合会」から大きな支援を受けたこれらの無政府主義者たちは、中国から追放された後、その多くは高額の報酬や、米国アイビーリーグの大学での学位を手にしていた。ワシントン・ポスト紙のギャビン・ヒューイット記者は、「亡命した民主主義の中核をなすものたちだ」と彼らを賞賛していた。

 1989年の天安門事件の真実について書かれたものは無数にある。この事件に関して、正しい認識をもちたいとお考えの真摯な人々には、こちら、こちらや、こちらの記事を参照いただきたい。そして、この事件については、さらなる詳しい研究が待たれている。

 ソロスは排除され、周恩来が打ち出した方向が維持された


 多くの点において、天安門事件は中国にとっては不幸中の幸いだったと言える。というのも、この事件のおかげで真の悪をあぶり出すことができたからだ。それが趙紫陽であり、ソロスであり、マルサス主義の信奉者たちであったのだ。中国の権力構造に影響を及ぼしてきた彼らの姿が衆目に晒されたからだ。趙紫陽に、「平和的な抗議活動をしていた学生たちを排斥しようとしていた中国政府に反対する人民のための人物」という「英雄的な役割」を負わせようという魂胆は思惑通りには進まなかった。趙紫陽を操っていたものたちの思惑であった、「自由のために闘う戦士として賞賛される」のではなく、この抗議活動はほんの少しの流血事件として幕を閉じ、逆に中国を搾取しようという趙紫陽の思惑が明らかになる顛末を迎えたのだ。

 中国共産党は、即時にすべてのソロスの「工作事務所」を撤去し、工作員であった趙紫陽を生涯追放処分にし、趙紫陽を政権のすべての地位から遠ざけた。趙紫陽は、2005年に亡くなるまで自宅軟禁処分となった。趙紫陽の側近であった陈一咨(チェン・イグアン)も、なんとか逮捕されることからは逃れて、米国に逃げ込み、ソロス一族の手下として長期間役割を果たし、天安門事件以外の多くの工作や反逆行為に関わっていた。

 趙紫陽と、ソロスの手の者であった陈一咨が天安門広場で学生たちにむかって演説をしている。

 こんにち、中国は世界の発展の牽引力となっている。中国が、国民国家の主権を守っている。そしてその国家主権こそが「拡大ユーラシア協力体制(the Greater Eurasian Partnership)」の基礎となっており、国連憲章の前提の中での拡大された多極体制による世界秩序を支えるものだ。①自国の経済主権を守り、②強力な中央集権体制のもとでのトップダウンでの計画設定能力を維持し、③投資家たちに対抗できる国立銀行制度や、銀行の分割体制を維持できているおかげで、中国は成長戦略を創造し続けることができているのだ。そしてそのような成長が行き着こうとしている未来は、トフラーや、ソロスや、シュワブや、キッシンジャーや、ローマ・クラブの人々が決めつけていた「人類の未来像」とはまったく違うものだ。いま中国は、「第三の波」で示されていた主張にのっとった未来像とはまったく違う姿を見せている。その主張によれば、中国は「脱工業文明」システムを採用し、意思を持たない人工知能や、遺伝子操作された人間たちによって運営される国になるだろう、ということだった。その社会とは、一般市民には、ただの横並びの民主主義だけが与えられ、上位階級である科学知識をもつ支配者層が、「科学による封建制度」により下々を支配するような社会だ。いま 「一帯一路/新シルクロード」政策が示しているのは、 道徳的で、知的な主張であり、中国の若き心を最善の形で実現するような、長期に渡る道すじを生み出すものである。この発展を支える機動力は、理にかなった創造力であり、安定した科学の進歩であり、正しい道徳だ。それらが「天命思想」の根幹をなすものであり、周恩来が唱えた「4つの近代化」路線に乗っ取った「一帯一路政策」を完全に実現する機動力となるのだ。

 誤解のないように付け加えるが、「第四次産業革命」や「第三の波」という考え方を活気づける人口頭脳という閉じたシステムと、中国の「新シルクロード」政策という開いたシステムの考え方には共通点が多いのは確かだ。

 両者とも、「システムの構築」が主眼であり、強力な中央集権体制を基礎としている。さらに両者とも、政治的な経済についての「科学に基づいた計画」により進められているものだ。

 「人間の意図」や、「道徳性」や、「創造性」といった視座をもつことだけが、この両者の決定的な違いを見極めることができる術だ。

 「貧者たちを貧困から抜け出させることを求める」という孔子時代からの伝統に従えば、両者両得の協力関係が促進され、人権はより尊重され、創造的な表現が強化された、「脱ソロス」後の社会が形成されうる。 このような要因は、マルサス主義という閉じたシステムにおいてはまったく欠けているものだ。マルサス主義の主張が押しつけているのは、無理矢理な平等であり、数学ではじき出された均衡であり、人類に対する完全な支配しかない。

 科学や技術面において、国家を非線形的な発展に導く意図をもって、コンピューター演算が使用されれば、我々の成長能力に対して「成長への限界」論が持ち出される。マルサス主義体制においては、国家が打ち出す計画はすべて、コンピューター演算という檻の中に閉じ込められ、「成長には限界がある」とされて終わってしまうようだ。

 マルサス主義システムがもつ特徴は、「安定性」が第一で、その次に来るのが「変化」だと言える。一方今の中国が取り入れている政策の特徴は、「創造的な変化」が第一で、その次に来るのが「安定性」だといえる。

 習近平は自分自身のことばで、この過程を以下のように表現した。「発展を調整するという考え方は、均衡のとれた発展と、不均衡な発展をうまくつなぎ合わせる、ということです。均衡のとれた発展の後に、不均衡な発展が生まれ、その後調整が行われる。これが発展の道すじといえるものです。均衡と不均衡は絶対条件の関係にあります。発展をうまく配置することに力を入れることは、平等主義を追い求めることと同意ではありません。もっと重要なのは、機会を平等に与えることであり、その機会の基となる材料をうまく配置することなのです。」

 以前行った演説の中で、習近平はトフラーの「第三の波」の主張を否定し、自身の考えを以下のようにさらに発展させていた。

  「私たちは、革新こそが成長の主要な源になると考えなければいけないのです。革新こそが成長を成し遂げる核心です。さらに人的資源こそ、発展を支える主要な源であると考えなければいけないのです。私たちは理論面でも、システム面でも、科学面でも、技術面でも、文化面でも、革新を促進していくべきなのです。党や、政府や、社会における日常生活において、この「革新」を、最大の課題とすべきなのです。16世紀以降、人類はこれまでなかったような大きな革新期に入りました。ここ5世紀の間に、科学技術の革新がなしとげたものは、それ以前の何千年間もの発展をすべてあわせたものを凌駕するものでした。科学革命や、産業革命が起こるたびに、世界の発展の概観と様式は大きく塗り替えられてきました。第二次産業革命以来ずっと、米国が世界覇権を維持してきました。それは、米国が常に指導的立場に立ち、科学や産業の進歩において大きな利益を受け続けることができていたからです。」

 従って、「中国のせいで我々に問題が生じている」などという考えに再度ふけってしまったのであれば、すこし立ち止まって考え直して欲しい。そしてこう自問して欲しい。「なぜソロスは中国に入り込むことを許されていないのだろうか?我々の国にはズカズカと入り込んできているのに。」


脚注

 (1) 注意しておくべきことは、ソロスや趙紫陽に従っていた西側の技術主義者や、拝金主義者などのゾンビたちが追い出された後の1990年代に、宋健は、マルサス主義的な思考を再構築して、より理にかない、良心的な考え方に変え、人口抑制政策ではなく、大規模な経済発展による人口問題という爆弾問題の解決に取り組んでいた。宋健は1996年に北京で開催された「ユーラシア・ランドブリッジ」会議で中心的な役割を果たし、 「新シルクロード構想」と呼ばれる新しい戦略を明らかにした。その後この構想が2013年には国家的政策に採用されたことを考えると、宋健はいい方向に考えを改めたといえるだろう。

 (2) ヘルハウゼンは1989年に暗殺されたが、その数ヶ月前、ラルーシェは牢獄に入れられ、ラルーシェの国際機関はロバート・ミューラーの働きにより閉鎖された。このロバートミューラーは、その30年後に「ロシアゲート」事件の捜査官をつとめた。


Matthew Ehret is the Editor-in-Chief of the Canadian Patriot Review , and Senior Fellow at the American University in Moscow. He is author of the‘Untold History of Canada’ book series and Clash of the Two Americas. In 2019 he co-founded the Montreal-based Rising Tide Foundation . Consider helping this process by making a donation to the RTF or becoming a Patreon supporter to the Canadian Patriot Review

 

 

核戦争=世界大戦の危険につながりかねない「対中」日米同盟、NATOとの合同演習


世界大戦の危険につながる「対中」日米同盟
<記事原文 寺島先生推薦>
The US-Japanese Alliance Against China Risks World War 

クリストファー・ブラック 

Asia-Pacific Research, 2021年8月5日  
New Eastern Outlook 2021年8月3日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年8月13日

 

 2003年、私を含む数人の弁護士が北朝鮮の社会主義について学ぶために北朝鮮を訪れた際、1950年に共産党軍がソウルを制圧して米軍司令部を占拠した際に入手した米軍の文書を見せられた。その文書によると、北を侵略したのはアメリカとその傀儡である韓国で、その逆ではなかった。その目的は現地の共産主義勢力を潰して中国を攻撃することだった。彼らの計画は失敗し、アメリカの敗北に終わった。しかし、私が驚いたのは、1945年に終結した日米戦争の末期に韓国に残っていた日本陸軍の将校が、アメリカ人に助けと助言を与えていたことを示す文書があったことだ。二つの成長しつつある帝国アメリカと日本が太平洋で互いに戦争をした。しかし最終的には、敗れて占領された日本は、世界支配を目指すアメリカ帝国にすぐに合流した。朝鮮はアメリカへの日本の忠誠心を示す最初の証拠となった。この忠誠心は、日本が敗れたからというだけでなく、アメリカの資本と日本の資本が、中国の征服と搾取という同じ利益を持っているからこそ、日本から容認されたのだ。

 7月6日、日本の麻生太郎副総理は自民党の会合で、台湾は中国の不可欠の部分であることから、その権利があるからと言って、中国が台湾を支配しようとする行動をとった場合、中国のそのような行動は「日本の存立危機事態」であるため、日本は台湾を防衛すると述べた。

 「もし大事件が起こったとしたら、それは日本の存続を脅かす事態に関連していると言ってもいいでしょう。そうであれば、日本とアメリカは一緒に台湾を守らなければなりません」。

 なぜ、それが「日本の存立危機事態」になるのか、彼は説明しなかった。

 彼が日本の首相の意図を代弁したことは明らかである。台湾における中国の行動に干渉することは、中国への侵略であり、自衛隊が攻撃的な行動をとることを禁じた日本国憲法に違反し、国連憲章にも違反することは明らかである。

 これに対して中国は、中国が台湾を掌握したときに日米両国が干渉しようとすれば、これを打ち破る用意があると何度も表明している。そして、アメリカや台湾のすべての行動は、中国がそのことをするよう挑発している。アメリカは、この地域で単独で干渉するには十分な力がないことを認識しており、イギリス、フランス、ドイツ、そして常に熱心なオーストラリアを誘って、アメリカと日本の計画を支援するために南シナ海に海軍を派遣している。第二次世界大戦で大日本帝国と敵対した4カ国が、日本と結託して再び中国を攻撃し、第二次世界大戦で日本の同盟国であったドイツが再び世界に力を行使しようとしているのは、何とも皮肉なことだ。中国人は、1930年代から40年代にかけて日本に侵略され、占領されたという長く苦い記憶を持っているが、韓国人も同じように日本に占領されたという苦い記憶を持っている。 

 1945年にドイツと日本でファシストと軍国主義者が敗北したのだが、それは、ファシストと軍国主義者の最終的な敗北ではなかったことを今、私たちは理解している。というのも、この2つの国と戦った幾つかの政府の内部には、ナチスがソ連で共産主義を潰し、日本が中国で同じことをすることを望んでいたファシスト分子がいたからである。それどころか、ファシズムを支持または容認し、利益を増やすために帝国主義に依存していた世界の資本家分子は、すぐに再編成され、ワシントンの極右派に導かれて、NATO軍事同盟を作り、ソ連への攻撃を続け、現在はロシア、中国、その他の独立国への攻撃を続けている。彼らは今、違う服を着ているが、ナチスや日本の軍国主義者と同じ嘘とプロパガンダのテクニックを使い、中国やロシアに対する次の戦争の準備をしている。

 7月30日、中国政府は英国政府と英国の新型空母「クイーン・エリザベス」を中心とする海軍機動部隊に対して、我が国の領海から離れなければ、報いを受けるだろうということを、警告しなければならなかった。しかし、その一方で、アメリカとフランスは、ハワイ近郊で数十機のアメリカのF22とフランスのラファールによる軍事演習を行い、フランスはタヒチで軍備を強化している。一方、アメリカはF35を含む爆撃機や戦闘機の艦隊を、グアムの大きな基地から小さな基地に分散させた。というのは、グアムであれば、それらの艦隊を中国が迅速に破壊できるからだ。その分散によって、中国はそれらの航空機を破壊することが、より困難になる。このような分散は、通常、戦争が進行中または差し迫っている場合に見られるものだ。

  同時に、ドイツはアメリカと日本を支援するために南シナ海にフリゲート艦を派遣することを発表し、アメリカは今週、台湾海峡にさらに多くの船を派遣した。このようなすべての状況を、軍事力をひけらかすことだと思う人もいるかもしれない。しかし、それは非常に多くの軍事力であり、軍事力をひけらかす以上のことを彼らはしているのだ。

 ドイツの映画監督であるハンス・ルディガー・ミノフは『ドイツ外交政策』という本の中でこう述べている。

 「西側の軍事演習が強化され、戦闘任務の集中が見られているという今の状況が示している現実は、近い将来に米中戦争が起こりうると予測している米軍高官の予測と一致している。例えば、最近、NATOの前欧州連合軍最高司令官(SACEUR)のジェームズ・G・スタブリディス退役軍人の予測によれば、「我々の技術、同盟国のネットワーク、地域の基地は、まだ中国を凌駕している」が、「早ければ10年後には」、少なくとも「南シナ海」では、中国は「米国に挑戦できる立場になるだろう」とのことだ)。スタブリディスは最近、2034年にアメリカと中国の間で起こる架空の戦争を描いた小説を出版した。その一方で、彼は「この戦いに備えるために2034年までもたないかもしれない、もっと早く来るかもしれない」と考えている。彼の軍の同僚の中には、「2034年のことではなく、もっと早く、もしかしたら "2024年か2026年 "にも大きな戦争が起こるかもしれない」と予測している人もいるようである。

 (ルディガー・ミノフの記述はここまで)

 しかし、戦争を求めているのは中国ではない。では、誰がこの狂気を後押ししているのか?西洋のプロパガンダ機関は、軍産複合体の一部であり、その数は膨大である。しかし、最悪のもののひとつは、ハドソン研究所だ。ハドソン研究所は、ランド研究所出身のハーマン・カーンが1961年に設立したもので、彼は核戦争ゲームをしたり、戦争で核兵器を使用する可能性について理論的に説明したりしたことで有名だ。ハドソン研究所の現在の指導者と会員には、マイク・ポンペオやセス・クロプシーなどのファシストや、さまざまなアメリカ政府の政権や米軍機構に勤務していた多くの人々が含まれている。

 セス・クロプシーの経歴にはこうある。

 「米国国防総省でキャスパー・ワインバーガー国防長官の補佐官としてキャリアをスタートさせ、その後、ロナルド・レーガン政権とジョージ・H・W・ブッシュ政権で海軍副次官を務めた。海軍で彼が携わったのは、国防総省の再編成、海洋戦略の策定、海軍の学術機関、海軍の特殊作戦、NATO同盟国との負担分担に関する内容であった。ブッシュ政権下では、国防長官室(OSD)に移り、特殊作戦・低強度紛争担当の国防副次官補の代理を務めた。1985年から2004年までは海軍士官として勤務していた」。

 「1982年から1984年にかけて、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)誌でポーランドの連帯運動やソ連の反体制派への対応などに関する編集方針を指揮した。2002年には米国政府の国際放送局の局長として外交に戻り、同局を監督してイスラム圏へのラジオ・テレビ放送の拡大に成功した」。

 (クロプシーの経歴はここまで)

 つまり、彼は長年にわたる反社会主義者のプロパガンダであり、戦争犯罪者なのである。

 クロプシーは、ワシントンの出来事を伝える米国の右翼誌「ザ・ヒル」に掲載された「Japan Signals An Opening for US in Countering China(日本は中国に反撃を始めることを米国に合図した)」という記事の中で、中国が台湾を支配しようと行動した場合、日本は台湾を支援するという麻生太郎氏の発言を称賛し、中国は「世界支配」を目指していると主張し、近い将来、米国との戦争が起こると予測している。

 さらに、日本の外交・軍事政策が「決定的に変化した」とし、日本の攻撃的行動を禁ずる日本の憲法を否定し、中国に「対抗」するために日本が軍事力と支援を強化するよう彼は求めている。 

 彼は以下のように書いている。

 「台湾を守るのは難しい提案だ。中国人民解放軍は、“第一列島線“において最も強力であり、特に台湾周辺には海・空・ミサイル部隊が集中している。台湾を防衛するためには、米国とその同盟国は、中国のミサイル射程内で活動しなければならず、米国の戦闘力が依存する高価値の資本資産である兵器を危険にさらすことになる」。

 「しかし、日本とアメリカはともに重要な潜水艦艦隊を守備につけている。日本の小型で静かなバッテリー駆動の潜水艦は、アメリカの大型の原子力攻撃潜水艦の有効な相手役だ。潜水艦は、中国が台湾の制海権・制空権を獲得するために使用するミサイルの影響を受けない。高速艇による十分な機雷攻撃と、移動式の地上発射対艦・対空ミサイルの強固なネットワークに支えられれば、日米の潜水艦の増派は、中国人民軍の台湾侵攻を撃退することができるし、少なくとも中国が期待する既成事実を妨げることができる。

  このような戦略的現実を踏まえれば」。

  彼は、「戦争に備える 」ために、アメリカと日本、フランス、イギリスなどの同盟国との間で、より多くの軍事演習を行うことを求めている。そして、彼は「戦争を抑止するためには、戦争の準備が不可欠」という嘘を付け加える。彼が本当に意味していることは、戦争をするために戦争への準備をしているということだ。

 世界の平和と理性の力は、これらの戦争準備を全世界にとっての危険として糾弾しなければならない。中国への戦争は、ロシアやその他の国々を巻き込み、世界大戦、核戦争、そして人類の終焉へとつながるからだ。私たちはこれらの犯罪者を糾弾し、国際刑事裁判所の検察官にアメリカに警告する行動を取るよう要求し、裁判所の裁判権の及ぶアメリカの同盟国の指導者を、セス・クロプシーのような宣伝者を、そして侵略、最高の戦争犯罪、狂気の最終行為を犯すことを共謀している残りのすべての人々を起訴しなければならない。なぜなら、中国との戦争は人間ドラマの最終行為になると私には思えるからだ。急激な気候変動によって私たちが終焉するのを待たなくとも。

 しかし、国際司法裁判所はこれらのことについて何も言わず、国連安全保障理事会は無力化されている。では、犯罪者とその戦争に異議を唱え、もう十分だと言うことができるのは、私たち民衆以外に誰がいるのか。しかし、私たち民衆には何ができるのか?抗議したり、嘆願したり、手紙を書いたり、叫んだり、泣いたり、私が所属するカナダ平和会議のような平和団体に参加したり、できることは何でもして下さい、ボブ・マーリーが呼びかけたように立ち上がり、そしてジョン・レノンが求めたように、「平和にチャンスを与えて下さい」。

 クリストファー・ブラックは、トロントを拠点とする国際刑事弁護士。注目を集めた多くの戦争犯罪事件の訴訟で知られ、最近では小説「Beneath the Clouds」を出版した。また、国際法、政治、世界の出来事に関するエッセイをオンラインマガジン「Ne w Eastern Outlook」を中心に執筆している。 


中国・パキスタン経済回廊(CPEC)により、中国とインドとの関係が緊迫化?

<記事原文 寺島先生推薦>
The China-Pakistan Economic Corridor (CPEC). Strained Relations with India?

Shahbazz Afzal著

グローバルリサーチ、2021年1月25日

 
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年2月21日

 

 2013年9月、東南アジア諸国連合サミットで、中国の習近平国家主席は、「一帯一路構想」(BRI)の構想と計画を発表した。これは、中国にとって、野心的で、広大で、入り組んだ貿易・商業網だ。そして、より広い世界への、商品、サービス、資本、人々の巨大化した相互交流である。

 間違いなく、「一帯一路構想」(BRI)は、21世紀に古代のシルクロードを復活・展開させるものだ。中国製品の交易路を再編成し、エネルギー豊かな国の天然資源への道筋を確保する。そして、これらの国々を巨大なインフラ計画と数十億ドルの投資で、根本的に変革することを目指している。アメリカのマーシャル・プランと第二次世界大戦後の西ヨーロッパの再建にある程度匹敵するが、「一帯一路構想」(BRI)は規模と構想力において、それを上回っている。構想の範囲は歴史上比類のないものだ、とも言われている。最近の報告によると、「一帯一路構想」(BRI)は90か国以上と40億人に影響を与える。

 中国・パキスタン経済回廊(CPEC)という「一帯一路構想」(BRI)旗艦計画(中国のカシュガルからパキスタンの深海港であるグワダルまで続く3000キロメートルの回廊)により、パキスタンに600億ドルを超える助成金とソフトローン投資が提供される。完成のあかつきには、中国がインド洋に到達できるようになる。パキスタンと国境を接する中国の遠隔西部地域の新疆ウイグル自治区を世界の他地域に開くだけでなく、中国を他のアジアやヨーロッパにつなぐことになる。つまり、洋上で、ヨーロッパ、アフリカ、他のアジア地域につながることになり、シンガポールやメラカ海峡を経由する海上輸送への依存を減らすことになる。

 間違いなく、パキスタンは中国「一帯一路構想」(BRI)の全体的な成功に不可欠であり、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)が失敗した場合、「一帯一路構想」(BRI)の潜在能力が十分に実現されない可能性がある。アンドリュー・スモールは、彼の見事で洞察に満ちた研究「中国・パキスタン枢軸」の中で、「パキスタンは、中国が地域大国から世界大国へと移行する上で、中心的な部分である」とさえ主張している。

 中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の開始から将来計画までの両国の長期的な関与は、これまでの中国とパキスタンの強固な関係基盤の上に作られている。

 1950年、パキスタンは中華人民共和国を認めた最初の国の1つであった。 1972年のニクソン大統領の中国訪問を促し、同様に中国と西側の正式な関係を再構築することから、イスラム世界への主要な仲介者としての役割まで、パキスタンは、中国から重要な戦略的パートナーとしてだけでなく、「鉄の兄弟」と見なされている。この友情は、壮大なカラコルム幹線道路(1959年に建築が始まり、1979年に完成)の建設によって強化された。この幹線道路は、パキスタンと中国の新疆ウイグル自治区を結ぶ「中国・パキスタン友好幹線道路」としても知られている。

 1950年以来、パキスタンは、広範な軍事および経済計画で、中国と協力してきた。中国・パキスタン経済回廊(CPEC)は、これらの計画の最新のものと見なされている。中国は、核兵器開発の原料をパキスタンに提供してきた。-そして今日、パキスタンは、核ミサイルを持つ唯一のイスラム教国である。中国・パキスタン経済回廊(CPEC)は、インドとパキスタンの関係に影響を及ぼしている。インドは、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)を、直接の挑戦と脅威と見ている。それは、経済主導を装っているが、真の意図は、カシミール地域をめぐる、インドに対して起こり得る2方面からの正面軍事攻撃のための軍事協力だ、と見ている。さらに、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)は、中国のパキスタンへの地上アクセスを容易にし、経済発展というよりもむしろ、より大きな政治的および戦略的目標をもつものである、とも見ている


 2020年12月、「ヒンズー紙」の報道によると、中国外務省報道官は、記者会見で、最近の中国とパキスタンによる合同空軍演習は、「ニューデリーにメッセージ」を送ることを意図したものか、と問われ、訓練は両国間の「日常的な取り決め」の一部だ、と答えた。ラダックでの中国軍とインド軍の軍事対立の最中での演習であり、その懸念はもっともだ。この最近の「日常的な」合同演習は20日間続いた。中国の日刊紙「環球時報」によれば、「両国からの空軍は大規模な衝突に焦点を当てており、大規模な空中戦や大量および接近戦での軍隊の使用を含んでいる。」

 一部の観測者の議論では、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)は、インドに、外交政策の目的、安全保障戦略、貿易政策の見直しを強いている、とのことだ。そして、中国に対する地域的、世界的な経済競争相手としてのインドの驚異的な台頭、インドのカシミール政策が、中国とパキスタンをさらに近づけた可能性がある、と。

 中国とパキスタンの両国は、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)計画を弱体化させ、頓挫させようと、真剣な試みがなされている、との認識を共有している。パキスタン国内でのテロ攻撃は、数千人の命を奪い、不安定さを生み出してきた。 2020年11月、パキスタンの新聞「The Express Tribune」の報道によると、パキスタン当局は「書類を公開したが、そこには、パキスタンでのテロ行為に対するインドの支援について、議論の余地がない証拠を含んでおり」、「インドは中国・パキスタン経済回廊(CPEC)を妨害しようとしていた」とのことだ。 インドは、インドが支配するカシミール内で、パキスタンが不安をかき立てるテロリストと過激派をかくまい、支援していると非難している。

 進行する非難とその応酬は、パキスタンとインドの関係を緊張させ、不安定にしている。中国はパキスタンを最高レベルで支援し続けている。 2020年5月、インドの新聞「The Economic Times」で報道されたように、中国外務省スポークスマンの趙立堅は「我々は、いかなる時も戦略的協力パートナーである。過去69年間、この関係は変化する国際情勢の試練に耐え、岩のように堅固であった。」

 インドは、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)が頓挫することを望んでいるかもしれない。インドの多くの報道機関は、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)をめぐって、パキスタンと中国の不仲や不一致を伝えている。しかし、中国によると、パキスタンとの関係はますます強固になっている。パキスタンへの新しい中国大使である農融(ノン・ロン)は、最近、次のように述べている。「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)は、2つの兄弟国の構想の産物である。その構想とは、数十年にわたる強力な二国間協力の絆を反映し、従来の商取引を超えたもので、全ての人にとってお互いに有利な状況となる目標を共有しているものである。」

 カシミール問題は、パキスタンとインド、中国とインドの大部分の問題の中心となってきた。この地域は3ヵ国によって分割、管理されており、パキスタンとインドはすでにカシミール地域をめぐって3度、戦争を行ってきた。

 カシミール地域を覆う絶え間ない戦争の脅威(3つの核保有国間の潜在的な軍事的発火点)にもかかわらず、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)は、2021年、急速に進展している、というのが多く専門家たちによる観測である。
 

Shahbazz Afzalは、独立作家であり、政治活動家である。

 

米国は、チベットで中国を標的にする


<記事原文 寺島先生推薦>
US Targets China over Tibet

US Targets China over Tibet

2021‎‎ ‎年1月25日
ジャーナルNEO

著者:‎‎ブライアン・ベレティック‎



 米国議会は最近、いわゆる「チベット政策支援法(TPSA)」を可決したが、それはCOVID-19救済一括法案と、1.4兆ドルの政府支出法案に滑り込ませてであった。米国務省が出資するボイス・オブ・アメリカが「米国議会はチベットを支援する画期的な法案を可決する」という記事で伝えた。‎

‎ その記事は次のように述べている。‎

米国議会は月曜日、中国がダライ・ラマの後継者を任命しようとした場合、中国当局者に制裁を加えるなど、主要分野におけるチベットへの米国支援を増加させる法案を可決した。‎


‎ VOAはまた、次のことを報告している。‎

 
これは米国政府が、ダライ・ラマ継承を妨害する中国当局者に対して、経済制裁とビザの制裁を行うことになり、チベット自治区の首都であるラサに米国領事館を設立できないかぎり、中国政府がこれ以上米国に領事館を開設することを認めないことを、中国に要求している。‎


 VOAは、米国の動きを讃えた亡命「中央チベット政府」(CTA)の言葉を引用した。しかし、この亡命政治運動は、中国のチベット自治区内に住む実際の人々を代表できないし、そして代表していないので、この米国の支援がどれほど問題であるかについてはほとんど言及されていなかった。‎

 この法案は、米国による露骨な中国内政干渉の行為である。そして特にこのようなチベットにおける米国の干渉は半世紀以上続いてきたのだ。‎

ワシントンのチベット介入の長い歴史

 ワシントンによるこの最新の動きは、チベット介入の長く、卑劣な歴史を増大させる。‎

‎ 米国務省独自の歴史課には、1968年の文書「303委員会の覚書」がオンライン・コレクションに含まれており、「チベット作戦に関する状況報告」というタイトルで書かれている。‎

 そこでは、「政治行動、プロパガンダ、準軍事活動、情報活動」を含む「CIAのチベット計画(その一部は1956年に開始された)」について議論されている。この文書は、ダライ・ラマについてと、米国中央情報局(CIA)が彼に対して行った関わりについて言及している。‎

 また、「新しい若い指導者の核」と「チベットの大義への広範な同情」についても議論している。‎それはすべて米国政府によって意図的に設計されたチベット分離主義への幅広い投資の結果であった。

 この文書はまた、チベット独立を全面的に推進する完全なプロパガンダ・キャンペーンであることを認めている。‎

 この文書は次のように述べている。‎

 
政治活動とプロパガンダ分野において、チベット計画は、中国の政権の影響力と能力を軽減することを目的としている。それは、ダライ・ラマの指導の下、チベット人や諸外国の支援を通じて、チベット自治の概念のもとに、チベット内の政治的進展に対抗する抵抗力の創造に向けて行われる。それは、中国共産党の拡大の封じ込め-NSC 5913/1.2(秘密解除されていない資料編の6行)の最初に述べられた米国の政策目標である。‎


 そして、それはまさに米国政府が何十年も前から行ってきたことであり、最近では「チベット政策と支援法」の形で現れている。‎

 「米国民主主義のための国家基金(NED)」は、1980年代に米国政府によって創設され、毎年米国議会によって資金提供され、米国議会と米国務省が共同で監督し、チベットに関する少なくとも17のプログラムがリストアップされている。

 その中には、「国際チベット独立運動」や「自由チベットの学生たち」など、中国チベット自治区に関する分離主義を公然と推進する2つの組織が含まれている。‎

 その他の計画として、「新世代のチベット人指導者育成」や「組織活動やリーダーシップ訓練」などは、米国務省歴史課の文書に記載された計画の直接的な継続であり、1950年代と1960年代にCIAによって実施されたものである。‎

 チベットに関して以前CIAが行ってきたことを、今は米国NEDが行っているという事実は、ウィリアム・ブルムのような米国政府の外交政策の批評家による主張に対してさらなる信頼性を与える。彼は、NEDの全目的は「CIAが何十年もひそかにやってきたことを、やや公然と行うこと」であり、そしてCIAの秘密活動に関連する汚名を濯ごうとしているのです、と指摘した。

 チベットにおける米国の干渉は、アメリカ政府による中国領土内及び周辺での封じ込め、挑発、包囲、弱体化に関わるはるかに広範な戦略の一部に過ぎない。‎

 中国西部地域の新疆に関するワシントンの反中国プロパガンダ・キャンペーンは続いており、また香港での秩序回復の試みが実施されるように中国に圧力をかけようとしている。‎

 米国が支援する様々なカラー革命は、東南アジアを含む中国の緊密な同盟国の国境内、特にタイのような国々で醸成され続けている。ここ数週間、バンコクの通りの「民主化」の抗議者は、香港の反体制派グループと公然と結びつき、チベットと新疆ウイグル過激派双方の分離主義者の旗をいつも掲げ、ますます反中国的性格を帯びるようになっていた。‎

 米国上院は、タイの反政府デモ隊を公然と支持する決議を可決した。そのデモは、米国のNEDが資金援助する組織の支援を受けていて、その一部は反政府運動の中核的指導層を構成している。‎

 すべてを結びつけるのは、実際にチベットに源を発する東南アジアのメコン川沿い諸国への米国務省の介入である。VOAの記事では、次のように述べてさえいる。

・・・・TPSA(チベット支援法案)は、チベットの人権問題、環境権、宗教の自由、そして亡命民主的チベット政府の問題に取り組んでいる。またTPSAは、大規模な中国の水力発電プロジェクトが水を転用し、地域の生態系を脅かしているという、環境活動家や近隣諸国からの長年の懸念を受けて、水安全保障問題に対する地域的枠組みを求めている。‎‎

 したがって、ワシントンの反中キャンペーンの規模と様々な性格は、チベットだけに圧力をかけることに限定されていない。チベットは、中国に対する多くの相互につながった米国の圧力の一つに過ぎない。中国が反発しているように、米国とその依然として大規模で有力なメディア網は、この反応を「侵略」、さらには「領土拡張」とさえ描写しているが、ワシントンの当初の挑発とそれに続く挑発については言及をはぶいている。‎

 何世紀にもわたって断続的に統治してきたチベットに対する中国の支配は、今ほど強くはなかった。前例のないほど社会的・経済的に地域を発展させる中国の推進力によって、ワシントン政界やワシントンDCに拠点を置く分離主義チベット組織に絡みついているチベットの「独立」という概念が、消えゆくフィクションに過ぎないことがほぼ完全に明かである。‎

 ワシントンが失敗した外交政策を追い続けることに固執することは、その規模が大規模であるにもかかわらず、世界の舞台での信頼性をさらに損ない、政治的、そしておそらく経済的にさえ孤立させることになるだろう。チベットに関して中国に新たな「制裁」を実施しようとして、さらに中国との紛争の脅威をエスカレートさせるリスクさえある。‎

 問題は、アメリカ政府のハード面、ソフト面での政治力が、中国の国際関係のブランドと真に競争できるかどうかである。中国ブランドは、経済貿易、インフラプロジェクト、軍事ハードウェアの販売に基づいており、ビジネスのために必要とされるワシントンからの政治的従属がないのだ。‎

 そして、もしワシントンの外交政策が対抗できないという答えであれば、ワシントンの力が世界的に衰退し続け、中国の力がその空隙を埋め続ける中で、ワシントンは次にどのような措置を取るのだろうか。‎


ブライアン・ベレティックは、バンコクを拠点とする地政学的研究者であり、作家であり、特にオンラインマガジン‎‎「‎‎ニュー・イースタン・オマーチ」に関わっている‎‎。‎

 



 

トランプが歴史的なチベット法を承認することによって、中国とインドとの緊張が急激に高まる可能性が

<記事原文 寺島先生推薦> Tensions between China and India may soon rise as Trump approves historic Tibet Act

インフォービックス 

2020年12月29日火曜日

ウリエル・アラウホ著、国際紛争と民族紛争に関する研究者

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2021年2月5日

 ドナルド・トランプ米大統領は日曜日に歴史的なチベット法案に署名した。米国議会は12月21日にこの法案を可決した。このチベット政策支援法(TPSA)は、主要分野でチベットを支援するものだ。そして、もし中国当局自身が次期ダライ・ラマを指名しようとし、その任命がただチベット仏教徒共同体によって実行されるように、国際連携の構築を求めた場合には、中国当局に対する制裁措置の可能性さえ含んでいる。この法案は超党派の支持を得ており、チベットの首都ラサにワシントン領事館設立を許可することを要求している。最後に、この法案は、資金提供の規定の他に、チベットの環境についての安全規定があり、この問題を監視するためにより広い国際協力を求めている。

 同法はまた、インドに住むチベット人に600万ドル、チベット統治に300万ドル、奨学生交換プログラムに57万5000ドル、奨学金制度に67万5000ドル、チベットの米国特別コーディネーターに毎年100万ドルを割り当てている。この法律は台湾(この地域のもう1つのホット・トピック)にも適用され、台湾の国連機関への参加を支援している。

 中国はそのような動きを内政干渉と見なしており、米国当局に対してビザ発給禁止を課す可能性があると声明を出し、対抗した。

 1995年、中国政府は、ゲンドゥン・チューキー・ニマ(当時6歳)を逮捕した。ゲンドゥン・チューキー・ニマは、ダライ・ラマに次ぐ、チベット仏教で2番目に重要な人物であるパンチェン・ラマの生まれ変わりだと、ダライ・ラマ自身によって認められていた。ゲンドゥン・チューキー・ニマは、1995年以来、北京に拘留されたままで、彼の家族とともに非公開の場所に住んでいる。この事件に関連して、次期ダライ・ラマの選出が懸念される。現在のダライ・ラマ14世、テンジン・ギャツォは今85歳だ。中国の立場は、チベットは国内問題であり、現在のダライ・ラマ14世(インドに亡命中)は分離主義者である。ダライ・ラマは、チベット仏教徒の精神的指導者であることに加えて、インドのダラムサラに拠点を置く中央チベット亡命政権の国家元首である。

 外務省のスポークスマン、汪文潭は先週、アメリカ議会がその法案を可決した後、そのような「中国への内政干渉」は、ワシントンと北京間の「協力と二国間関係」に害を及ぼす可能性があると警告した。いっぽう、ロブサン・センゲ(中央チベット亡命政権の大統領)は、この法律はチベット人に「正義と希望」の「強力なメッセージ」を送るものだと述べた。

 現在、亡命チベット人の8万人以上がインドに居住しており、他の15万人が他国、特に米国とヨーロッパに住んでいる。

 11月23日、チベット亡命政府の長であるロブサン・センゲが、60年ぶりにホワイトハウスを訪れた。 10月、米国はロバート・デストロをチベットの人権特使に任命した。そのポストは2017年から空席であった。

  法案の環境規定は、明らかに中国のチベット地域でのプロジェクトを対象としている。引退したインド当局者のアミタブ・マトゥールは、トランプが法案に署名した今、採鉱などで環境被害を起こしている企業名をブラックリストに載せるという訴訟に、「インドも追随する時が来た」と述べた。

 チベット問題は、中国とインドの緊張を高める可能性がある。特にラダック(訳注 中国軍とインド軍の衝突がインド北部カシミール地方ラダックで深刻化している)の膠着状態後では。緊張はすでに高まっている。 12月14日、インド国防長官のビピン・ラワット将軍は、チベットで中国の開発作業が進められているが、心配の種とはならない。なぜなら、インドは「いかなる不慮の事態にも用意がある」からだ、とコメントした。

 実際、中国は、バングラデシュとインドも通過するヤルン・ツァンボ川流域のチベットに、歴史的な水力発電プロジェクトの建設を計画している。そこでの中国の活動が生態系に影響を与えるのではないか、とニューデリーは懸念している。中国によって支配されているチベット自治区の一部は、インドによって主権を主張されている。それは、カシミール地域の一部であるアクサイチン地域だ。インドは、チベット問題を交渉カードとして使ってきたと、北京からしばしば非難されてきた。

 2013年以来、北京は中国・パキスタン経済回廊インフラ・プロジェクトをすすめており、チベットは中国がパキスタン(伝統的なインドのライバル)にアクセスするためにも重要である。中国・パキスタン経済回廊は、新疆、チベット、青海を含むいわゆる西部開発計画を補完する。いくつかの点で、チベット問題は印中関係の緊張の中心にあると言うことができる。

 ジョー・バイデン次期大統領は、新BECA米印防衛協定の後、強大な米印同盟を夢見ている。そして今、そのような夢は、より現実に近づいているかもしれない。チベットに関するこの新たな展開は、チベットをより強力に支援するように、インドが圧力を受ける立場に置き、中国とインドの緊張をさらに高める可能性がある。今、インドはいわば手を括られた状態だ。もし今、ニューデリーがチベットに関して明確な立場をとれば、中国は必ず報復するだろう。しかし、万が一、QUADグループ(米国、インド、日本、オーストラリア)が、実際にアジア版NATO、またはそれに似たものになった場合、(中国はそれを恐れているのだが)、インドは近い将来、チベットに関して強力な支援を行うのに十分な権能を与えられた、と感じるのではないか?

 北京にとって、チベット(南シナ海と同様に)の権益は不可欠だ。万が一、ニューデリーが干渉した場合、北京は報復するであろう。そうすれば、緊張が高まり、おそらく新しい中印戦争にさえつながる可能性がある。運命のいたずらのごとく、1962年戦争と同じく国境問題をめぐってだ。

  バイデンは、中国とロシアの両方に、一種の「二重の封じ込め」政策を続けると予想される。しかし、バイデン政権下の米国は、主にロシアを敵対視し、ロシアを一種のならず者国家としてヨーロッパから隔離しようとしている。一方、中国に対しては、より「誠意をもって」いわば競争相手として扱っている。ただし「対抗」するインドや他の中国のライバル国とより緊密な繋がりをとりながらだが。そうだとすれば、バイデンはチベットに関して、トランプの政策から撤退することが予想されるかもしれない。しかし、議会での法案に対する超党派の支持は、「人権」と「環境配慮」の名のもとに、バイデンに後退しないように圧力をかけるであろう。したがって、トランプによるモロッコ支持(これは、トランプが後継者に贈った「別れの贈り物」と言われているものだが)と同様、バイデンはまたある意味で、彼の手が絡められていると、気付くかもしれない。

 またぞろ、米国の動きは緊張を高め、関係するすべての当事者にジレンマを生み出したかもしれない。

 

中国周辺の米軍配備図

<記事原文 寺島先生推薦>

A Map Of US Military Presence Near China


タイラー・ダーデン

ゼロ・ヘッジ
2020年12月29日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年1月16日

 最近のメディアの報道によると、パラオ共和国は米国に、フィリピン、インドネシア、マレーシア、そしてもちろん中国にも戦略的に近接したこの島パラオに、共同利用施設(基地、港、飛行場)を建設するよう要請した。これは、バンク・オブ・アメリカが大げさに指摘しているように、「太平洋における米国のアクセスを改善するだろう」。

 伝えられるところによると、この申し出は、9月初旬に国防長官のマーク・エスパーがこの島国を訪れた際に行われた。パラオ共和国は340の島(180平方マイル)で構成され、西太平洋に位置している。

 米国がパラオのこの申し出を取り上げるかどうかはまだ分からないが、とりあえず、バンク・オブ・アメリカ(B of A)の作成した太平洋、特に中国の近くにある米軍基地と軍配備地図を見てみよう。中国が米国大陸のすぐ近くに12以上の軍事的接点を持っていたら、米国市民はどのように感じるだろうか。
 
us military in pacific

アメリカ軍事産業への中国の新たな制裁は、米軍に大きな損害を与える可能性がある

<記事原文 寺島先生推薦>
  China’s new sanctions against American defence companies have the potential to cause major damage to the US military

RT 論説面 2020年10月26日

英国の作家であり、東アジアを中心とした政治と国際関係のアナリストであるトム・フォウディによる。
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>2020年12月15日



 米国の台湾への武器販売について、北京は新たな制裁措置で警告した。今のところ、この動きは象徴的だが、中国が強硬な対処を望めば、制裁を受ける企業はサプライチェーンに大打撃を受ける可能性がある。

 月曜日の午後、台湾への武器販売をめぐって、中国外務省は多くの米国企業および関係者に制裁を課すと発表した。ワシントンは先週、台湾に対して約50億ドル相当の記録的な武器販売を承認していた。

 一覧表に載せられた企業には、ロッキード・マーティン社、ボーイング・ディフェンス社、レイテオン社が含まれ、「アメリカ軍事産業複合体」としばしば称される企業の中核に及んでいる。ただし、具体的な対策は何か、どうように実施されるのか、影響はどのようなものかについては明らかではない。

 一見、これらの制裁はみせかけのように見える。それらの軍事企業は中国でのビジネスを求めてはいないため、アメリカ市場への影響はない。例外は、ボーイング社の民間部門だが、電子メールで、ボーイング社は中国市場に依然として関与していると述べている。

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 他方、そのような制裁が戦略的な意味を持たないということではない。第一に、中国は米国の国防兵器製造に必要な「レア・アース」資材で圧倒的な優位性を持っており、これらの制裁が実際に行われると、兵器製造のサプライチェーンは大きな影響を受ける可能性がある。

 第二に、今回の措置がみせかけにすぎないとしても、米国の将来の行動に対して報復する可能性がある、という北京からの警告になる。

 「レア・アース」とは何か?なぜそれらが重要なのか?レア・アースは、主に電子機器、車両、そしてもちろん軍事機器を含むあらゆる種類の製造に優先的に使用される17の物資を指す。

 当然、これらの資源は、世界中の多くのサプライチェーンの基盤を形成している。中国はこの業界をほぼ完全に独占している。ある調査によると、中国は「世界のレア・アース酸化物の約85%、レア・アース金属、合金、永久磁石の約90%を生産している」とのことだ。 2018年には、アメリカのレア・アース輸入の80%までが中国からのものであった。ワシントンはこれを承知しており、不測の事態に懸命に備えようとしている。

 これの戦略的意味は非常に明確だ。米軍は、中国から輸入した材料に大きく依存して、軍事機器を製造している。北京が望めば、これらの制裁は影響を受ける企業のサプライチェーンに大打撃を与える可能性がある。

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 しかし、ワシントンがこの動きを大きなエスカレーションととらえ、ファーウェイ(Huawei)などの中国企業に対する厳しい報復を行うことを考慮すれば、北京が実際にそれを行うかどうかは、政治的意思の問題となる。このような動きは、特に選挙の準備段階では明らかに良い考えではなく、おそらく戦争に結びつくようなシナリオの最後の手段にすぎないであろう。そうであれば、この動きは中国が行う可能性があることについての「警告」、つまり中国は米国企業に対してより厳しく対応する準備ができているという証明、と理解する方がより正確かもしれない。

 1か月前、中国は独自の「統一リスト」を公開した。これは、輸出企業のブラックリストだ。そのブラックリストに載せられている企業との貿易や輸出が禁止される可能性がある。その企業とは、中国の国家安全保障に対する脅威であると見なされた企業だ。中国のこの動きは、米国商務省が中国企業に対して以前行ったことを意図的に反映している。このリスト設定の目的は、中国企業を差別する国、あるいは中国企業の利益を損なう国に対して、自国市場を活用することだ。

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New American military base in Pacific would show how US-China cold war is heating up fast New American military base in Pacific would show how US-China cold war is heating up fast

 これが、ボーイング・ディフェンス社をブラックリストの載せることの意味だ。その制裁措置は、商用航空機を供給し、中国で巨大なビジネスを行っているボーイング社の民間部門を慎重に回避している。しかし、ボーイング社が不可侵ではないという明確な警告だ。北京はCOMACC-919を含む独自の商用航空機を開発しようとしているため、さらに強行的になる可能性がある。

 これらすべてを考慮すると、今回の米国兵器産業に対する中国の制裁は、実際には政策までに至っていないが、今後本格的に行うことも視野に入れているという表明である。北京はまだアメリカがレア・アースに依存している現状を利用するまでに至ってないが、中国が適切であると考えるとき、米国企業に対して制裁措置をとる準備があることを明確に示している。

 一つには、台湾は、中国政府にとって大きなレッド・ラインだ。中国がその軍事演習で示したように、台湾が中国に対抗して前進しようとするならば、中国はいくつかの明確な結末を示さなければならない。しかし、極端に不安定になる手段に頼ることはない。

 北京はツールキット(工具セット)を準備しており、特に必要な場合には、それを使う用意があることを我々に知らせたいと考えている。これらの陳列された制裁は、さまざまな方法で本物の牙となる可能性がある。我々は今後注視する必要がある。

「イラク侵略後の世界では、米国が中国について語る話を信じるのは狂気の沙汰だ」ケイトリン・ジョンストン

<記事原文寺島先生推薦>
Caitlin Johnstone: In post-Iraq invasion world, it’s absolutely insane to blindly believe the US narrative on China


RT 論説面


ケイトリン・ジョンストン
メルボルンを本拠地とする独立ジャーナリスト。彼女のウェブサイトはこちら。ツイッターはこちら


<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2020年9月5日


私のソーシャルメディアからのお知らせがここ数日間チカチ光り続けている。それは毒のある中国に対する醜聞を煽るものたちが動画を共有しようとしてくるからだ。その動画はウイグル族のイスラム教徒が、電車に乗せられて収容所に送り込まれるところを映していることを非難する動画だ。
 
 その動画は実は古い動画で去年出回っていたものだ。しかし2020年になって魔法仕掛けのように再び登場し、みなを驚かせる新着動画のように出回っている。西側の反中国主義者たちは公的に発作的混乱状態に足を踏み入れ始めたようだ。この動きはまさに米国が南シナ海での緊張を高めている中で、ここ数年でもっとも危険で挑発的な軍事演習を実施した時期と重なる。

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