プリゴジンの愚かさ:存在しなかったロシアの「反乱」はプーチンの権限を強化
<記事原文 寺島先生推薦>
Prigozhin’s Folly
The Russian ‘revolt’ that wasn’t strengthens Putin’s hand
筆者:セイモア・ハーシュ(Seymour M.Hersh)
出典:Global Research 2023年6月30日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年7月10日

先週末、バイデン政権は輝かしい日々を過ごした。ウクライナの惨憺たる現状は見出しから姿を消し、代わりに傭兵部隊ワグナーの指導者であるエフゲニー・プリゴジンの「反乱」(ニューヨーク・タイムズ)が見出しとなった。
焦点は、ウクライナの失敗した反転攻勢から、プーチン支配へのプリゴジンの威嚇へと移った。ニューヨーク・タイムズ紙の見出しの一つには、「反乱は痛烈な疑問を投げかける:プーチンは権力を失うことがあるのか?」とあった。ワシントン・ポストのコラムニスト、デイビッド・イグナティウスは次のような評価を行った。「プーチンは土曜日(6月24日)に深淵をのぞき込んだ―そして目を瞬(しばた)いた」。
国務長官アントニー・ブリンケンは、政権の戦時報道官として頼りにされており、数週間前にウクライナで停戦を求めようとしなかったことで鼻高々の発言をしていた。その彼が、CBSの「Face the Nation」に登場し、彼自身の現実認識を披露した:
「16か月前、ロシア軍は・・・独立国としてウクライナを地図から消し去ろうと考えていました。そして、今週末、彼らはプーチン自ら編成した傭兵たちからロシアの首都モスクワを守らなければならなくなりました・・・ これはプーチンの権威に対する直接的な挑戦であり・・・真の亀裂の現れです」と彼は述べた。
ブリンケンは、司会のマーガレット・ブレナンに異論を出されることなく(そのことは、事前にわかっていた。異論を出されるのなら、この番組には出ないだろう)、話し続けた。そして、狂気じみたワグナー部隊指導者の今回の離脱は、ウクライナ軍にとって恵みとなるだろうと示唆した。こんな話をしている時にも、ロシア軍によるウクライナ軍の虐殺は進行している、とも。
「今回のことでプーチンやロシア当局者は本当に何も手がつかない状態です。つまりウクライナにおける反転攻勢に対処しようとしながらも、彼らは自分たちの背後から目を離せない、あるいは気を配らなければならない状態です。私の考えでは、それはウクライナ側が地上でうまくいくための大きな突破口を創り出しています」と彼は述べました。
この時点で、ブリンケンはジョー・バイデンに成り代わって話をしていたのか? 彼のこの話は、今回の件の責任者である人間が信じていることと理解していいのだろうか?
今になれば、「安定した状態」とは慢性的に対極にあるプリゴジンの反乱が、線香花火のように、一日で消えてしまったことがわかった。彼は起訴を免れる保証を得てベラルーシに逃亡し、彼の傭兵軍はロシア軍に統合された。モスクワへの進軍もなく、プーチンの支配に対する重大な脅威もなかった。
ワシントンのコラムニストや国家安全保障特派員たちは、ホワイトハウスや国務省の役人からの公式な背景説明にもっぱら頼っているようだ。そうした説明の公表結果を見ると、これらの役人たちは過去数週間の現実を見ることができず、ウクライナ軍の反転攻勢まったくの失敗に終わった事態を認識できていないようだ。
以下は、私にアメリカの情報機関の内部情報を提供してくれた事情通の情報源による、実際に起こっている出来事のひとつの見方だ:
「状況を少し整理しよう。まず、最も重要なことは、プーチンは現在、以前よりはるかに強い立場にいる。2023年1月には、プーチンに支えられた将軍たちと、超国家主義的な過激派に支持されるプリゴジンの対決が不可避であることを認識した。「特別」戦闘部隊と、図体が大きく、動きが鈍重で、想像力に欠ける通常軍隊との間の古くからある対立だ。軍は常に勝利を収める。なぜなら、勝利(攻撃的または防御的)を可能にする周辺資産を所有しているからだ。最も重要なのは、彼らが物流を制御していることだ。特殊部隊は自分たち自身を最高の攻撃的資産と見なしている。総合戦略が攻撃的な場合、大規模軍は特殊部隊の傲慢さや彼らが大っぴらに自分の胸を叩いて見栄を張ることを許容する。なぜなら、特殊部隊は高いリスクを冒し、高い代価を払う覚悟があるからだ。攻撃を成功させるためには、多くの人員と装備の投入が必要だ。他方、防御を成功させるために、人員や装備は守る必要がある。
「ワグナーの隊員たちは、元々、ロシアによるウクライナ攻勢の先鋒だった。彼らは「little green men」*だった。攻勢が通常軍による全面的な攻撃に発展した時、ワグナー部隊は引き続き支援を継続した。が、その後、情勢が不安定になり、再調整する期間においては、しぶしぶ後背に退かざるを得なかった。しかし、お世辞にも「shy violet人形」とは言えないプリゴジンは、彼の部隊を増強し、自分の担当部門を安定させるために主導権を握った。
* 2014年のロシア・ウクライナ戦争中に登場したロシア連邦の仮面をつけた兵士たちのことで、彼らは武器や装備を持っていたが、所属を明らかにしない緑の軍服を着用していた。(ウィキペディア)
「正規軍はその援助を歓迎した。プリゴジンとワグナー部隊は特殊部隊の常として、注目を浴び、憎悪の対象だったウクライナ人を止めた功績を自らのものとした。報道はそれを喜んで報じた。一方で、正規軍とプーチンは徐々に戦略を変え、より大きなウクライナの攻撃的な征服から、既に獲得していた領土の防衛へと切り替えていった。しかし、プリゴジンはこの変化を受け入れず、バフムートに対して攻勢を続けた。そこに問題があった。モスクワは、公共の危機を引き起こしたり、このバカ野郎(プリゴジン)を軍法会議にかけることよりは、武器弾薬を供給せず、残っている兵力や弾薬を使い果たさせ、停戦に追い込んだ。プリゴジンは、金の面ではうまく立ち回れても、結局は政治や軍事の業績はないホットドッグ屋台の元オーナーなのだ。
「私たちが一度も聞いていないのは、3か月前にワグナー部隊はバフムート前線から外され、ロストフ・ナ・ドヌ(ロシア南部)北部の廃棄された兵舎に送られ、除隊手続きを受けたということだ。重機材のほとんどは再配備され、部隊は約8,000人に削減され、そのうち2,000人はロストフに向かう途中で地元警察に護衛された。
「プリゴジンに大恥をかかせ、そして今や屈辱の中で姿を消した軍を、プーチンは全面的に支援した。彼は軍事的に汗をかくこともなく、プリゴジンの熱狂的な支持者であった原理主義者たちとの政治的な対立を引き起こすこともなく、彼らに立ち向かったのだ。やり方が実に巧妙。
アメリカの情報機関の専門家が状況を評価する方法と、ブリンケンと彼の戦争志向の仲間の発言を無批判に再生産して、ホワイトハウスやワシントンの無気力な報道機関が一般に公表する内容の間には、途轍もない乖離がある。
私が共有している現在の戦場統計によれば、バイデン政権の総合的な外交政策はウクライナで危機に陥っている可能性がある。また、ウクライナ軍に訓練と武器を提供しているNATO連合の関与についてもいろいろ疑問が生じている。これは現在の遅滞している反転攻勢においてのことだ。私はこの作戦の最初の2週間で、ウクライナ軍がロシア軍によって占拠されていた領土をわずか44平方マイルしか奪取していないことを知った。その多くは空き地だった。対照的に、ロシアは現在、ウクライナの領土の約40,000平方マイルを支配している。過去10日間、ウクライナ軍はロシアの防衛線を重要な意味で突破することはなかったと私は聞いている。彼らはロシアによって占拠された領土をわずか2平方マイルしか回復していない。そのペースで進めば、ある情報通によると、冗談っぽい言い方になるが、ゼレンスキーの軍はロシアの占領から国を解放するのに117年かかるだろうと、のことだ。
ここ数日の間、ワシントンの報道機関は、ゆっくりとこの大惨事の重大性に気付き始めているようだ。しかし、バイデン大統領やホワイトハウスの高官、そして国務省の関係者が状況を理解しているという公的な証拠はない。
プーチンは現在、ウクライナの4つの州(ドネツク、ヘルソン、ルガンスク、ザポリージャ)を完全に支配するか、それに近い状況にある。これらの州は、戦争が始まってから7か月後の2022年9月30日に公式に併合したものだ。もし戦場で奇跡が起こらないと仮定すると、次の段階がどうなるかは、プーチンに委ねられる。彼はただ現在の地点で足踏みし、ホワイトハウスがこの軍事的現実を受け入れのかどうか、戦争終結の形式的な話し合いが開始し、停戦を模索するのかどうか、を見守ることができるだろう。ウクライナでは来年4月に大統領選挙が予定されており、ロシアの指導者はその時まで待ち続けるかもしれない(もし実施されるのであれば)。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、国が戒厳令下にある限り選挙は行われない、と述べている。
バイデン大統領の来年の大統領選挙における政治的な問題は深刻であり、そしてはっきりしている。6月20日、ワシントン・ポスト紙はギャラップ世論調査に基づく記事を掲載し、「バイデンはトランプほど不人気であるはずはないが、実際には不人気」という見出しだった。この世論調査を受けてペリー・ベーコン・Jrは、バイデンは「民主党内でほぼ全面的な支持を受けているが、共和党からはほとんど支持されず、無所属層の間ではひどい数字を示している」と記事に書いている。歴代の民主党大統領と同様に、若者や関心の低い有権者とのつながりに苦労しているとも書いている。ベーコンは、ギャラップ世論調査には(バイデン)政権の外交政策に関する設問がないため、バイデンのウクライナ戦争への支持については何も述べていない。
ウクライナで迫り来る大惨事とその政治的な影響は、大統領を支持はするが、負けを取り戻そう無駄な投資に何十億ドルもの大金を投じて奇跡を待つ(バイデンの)姿勢に反対する民主党の議員にとって、警鐘となるべきだ。民主党の戦争支持は、同党の労働者階級からの距離がますます広がっている典型的な例だ。最近の戦争に従事し、将来の戦争で戦う可能性のあるのは彼らの子供たちだ。民主党が知識人層や裕福な階級に近づくにつれて、これらの有権者は、ますます大量に同党に背を向けている。
現在の政治における継続的な地殻変動について疑問がある場合は、トーマス・フランクの作品をぜひお薦めする。彼は2004年のベストセラー『カンザスの問題は何か? 保守派がアメリカの心をつかんだ理由』で、なぜカンザス州の有権者が民主党から離れ、経済的利益に反して投票したのかを解説した。フランクは2016年の著書『耳を傾けよ、リベラル!: または、一体全体、人民の党に何が起こったのか?』においても同様のことを行った。文庫版のあとがきでは、ヒラリー・クリントンと民主党がカンザスで犯した過ちを繰り返し―増幅し―、当選確実だったドナルド・トランプとの選挙に敗北した経緯を描いている。
ジョー・バイデンは、ウクライナ戦争とそれでアメリカが抱え込んだ様々な問題について率直に話すこと、そして彼の政権がこれまでに出してきた推定1500億ドル以上がとんでもない投資の失敗だったことを説明すること、それが賢明な選択なのかもしれない。
Prigozhin’s Folly
The Russian ‘revolt’ that wasn’t strengthens Putin’s hand
筆者:セイモア・ハーシュ(Seymour M.Hersh)
出典:Global Research 2023年6月30日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年7月10日

先週末、バイデン政権は輝かしい日々を過ごした。ウクライナの惨憺たる現状は見出しから姿を消し、代わりに傭兵部隊ワグナーの指導者であるエフゲニー・プリゴジンの「反乱」(ニューヨーク・タイムズ)が見出しとなった。
焦点は、ウクライナの失敗した反転攻勢から、プーチン支配へのプリゴジンの威嚇へと移った。ニューヨーク・タイムズ紙の見出しの一つには、「反乱は痛烈な疑問を投げかける:プーチンは権力を失うことがあるのか?」とあった。ワシントン・ポストのコラムニスト、デイビッド・イグナティウスは次のような評価を行った。「プーチンは土曜日(6月24日)に深淵をのぞき込んだ―そして目を瞬(しばた)いた」。
国務長官アントニー・ブリンケンは、政権の戦時報道官として頼りにされており、数週間前にウクライナで停戦を求めようとしなかったことで鼻高々の発言をしていた。その彼が、CBSの「Face the Nation」に登場し、彼自身の現実認識を披露した:
「16か月前、ロシア軍は・・・独立国としてウクライナを地図から消し去ろうと考えていました。そして、今週末、彼らはプーチン自ら編成した傭兵たちからロシアの首都モスクワを守らなければならなくなりました・・・ これはプーチンの権威に対する直接的な挑戦であり・・・真の亀裂の現れです」と彼は述べた。
ブリンケンは、司会のマーガレット・ブレナンに異論を出されることなく(そのことは、事前にわかっていた。異論を出されるのなら、この番組には出ないだろう)、話し続けた。そして、狂気じみたワグナー部隊指導者の今回の離脱は、ウクライナ軍にとって恵みとなるだろうと示唆した。こんな話をしている時にも、ロシア軍によるウクライナ軍の虐殺は進行している、とも。
「今回のことでプーチンやロシア当局者は本当に何も手がつかない状態です。つまりウクライナにおける反転攻勢に対処しようとしながらも、彼らは自分たちの背後から目を離せない、あるいは気を配らなければならない状態です。私の考えでは、それはウクライナ側が地上でうまくいくための大きな突破口を創り出しています」と彼は述べました。
この時点で、ブリンケンはジョー・バイデンに成り代わって話をしていたのか? 彼のこの話は、今回の件の責任者である人間が信じていることと理解していいのだろうか?
今になれば、「安定した状態」とは慢性的に対極にあるプリゴジンの反乱が、線香花火のように、一日で消えてしまったことがわかった。彼は起訴を免れる保証を得てベラルーシに逃亡し、彼の傭兵軍はロシア軍に統合された。モスクワへの進軍もなく、プーチンの支配に対する重大な脅威もなかった。
ワシントンのコラムニストや国家安全保障特派員たちは、ホワイトハウスや国務省の役人からの公式な背景説明にもっぱら頼っているようだ。そうした説明の公表結果を見ると、これらの役人たちは過去数週間の現実を見ることができず、ウクライナ軍の反転攻勢まったくの失敗に終わった事態を認識できていないようだ。
以下は、私にアメリカの情報機関の内部情報を提供してくれた事情通の情報源による、実際に起こっている出来事のひとつの見方だ:
「状況を少し整理しよう。まず、最も重要なことは、プーチンは現在、以前よりはるかに強い立場にいる。2023年1月には、プーチンに支えられた将軍たちと、超国家主義的な過激派に支持されるプリゴジンの対決が不可避であることを認識した。「特別」戦闘部隊と、図体が大きく、動きが鈍重で、想像力に欠ける通常軍隊との間の古くからある対立だ。軍は常に勝利を収める。なぜなら、勝利(攻撃的または防御的)を可能にする周辺資産を所有しているからだ。最も重要なのは、彼らが物流を制御していることだ。特殊部隊は自分たち自身を最高の攻撃的資産と見なしている。総合戦略が攻撃的な場合、大規模軍は特殊部隊の傲慢さや彼らが大っぴらに自分の胸を叩いて見栄を張ることを許容する。なぜなら、特殊部隊は高いリスクを冒し、高い代価を払う覚悟があるからだ。攻撃を成功させるためには、多くの人員と装備の投入が必要だ。他方、防御を成功させるために、人員や装備は守る必要がある。
「ワグナーの隊員たちは、元々、ロシアによるウクライナ攻勢の先鋒だった。彼らは「little green men」*だった。攻勢が通常軍による全面的な攻撃に発展した時、ワグナー部隊は引き続き支援を継続した。が、その後、情勢が不安定になり、再調整する期間においては、しぶしぶ後背に退かざるを得なかった。しかし、お世辞にも「shy violet人形」とは言えないプリゴジンは、彼の部隊を増強し、自分の担当部門を安定させるために主導権を握った。
* 2014年のロシア・ウクライナ戦争中に登場したロシア連邦の仮面をつけた兵士たちのことで、彼らは武器や装備を持っていたが、所属を明らかにしない緑の軍服を着用していた。(ウィキペディア)
「正規軍はその援助を歓迎した。プリゴジンとワグナー部隊は特殊部隊の常として、注目を浴び、憎悪の対象だったウクライナ人を止めた功績を自らのものとした。報道はそれを喜んで報じた。一方で、正規軍とプーチンは徐々に戦略を変え、より大きなウクライナの攻撃的な征服から、既に獲得していた領土の防衛へと切り替えていった。しかし、プリゴジンはこの変化を受け入れず、バフムートに対して攻勢を続けた。そこに問題があった。モスクワは、公共の危機を引き起こしたり、このバカ野郎(プリゴジン)を軍法会議にかけることよりは、武器弾薬を供給せず、残っている兵力や弾薬を使い果たさせ、停戦に追い込んだ。プリゴジンは、金の面ではうまく立ち回れても、結局は政治や軍事の業績はないホットドッグ屋台の元オーナーなのだ。
「私たちが一度も聞いていないのは、3か月前にワグナー部隊はバフムート前線から外され、ロストフ・ナ・ドヌ(ロシア南部)北部の廃棄された兵舎に送られ、除隊手続きを受けたということだ。重機材のほとんどは再配備され、部隊は約8,000人に削減され、そのうち2,000人はロストフに向かう途中で地元警察に護衛された。
「プリゴジンに大恥をかかせ、そして今や屈辱の中で姿を消した軍を、プーチンは全面的に支援した。彼は軍事的に汗をかくこともなく、プリゴジンの熱狂的な支持者であった原理主義者たちとの政治的な対立を引き起こすこともなく、彼らに立ち向かったのだ。やり方が実に巧妙。
アメリカの情報機関の専門家が状況を評価する方法と、ブリンケンと彼の戦争志向の仲間の発言を無批判に再生産して、ホワイトハウスやワシントンの無気力な報道機関が一般に公表する内容の間には、途轍もない乖離がある。
私が共有している現在の戦場統計によれば、バイデン政権の総合的な外交政策はウクライナで危機に陥っている可能性がある。また、ウクライナ軍に訓練と武器を提供しているNATO連合の関与についてもいろいろ疑問が生じている。これは現在の遅滞している反転攻勢においてのことだ。私はこの作戦の最初の2週間で、ウクライナ軍がロシア軍によって占拠されていた領土をわずか44平方マイルしか奪取していないことを知った。その多くは空き地だった。対照的に、ロシアは現在、ウクライナの領土の約40,000平方マイルを支配している。過去10日間、ウクライナ軍はロシアの防衛線を重要な意味で突破することはなかったと私は聞いている。彼らはロシアによって占拠された領土をわずか2平方マイルしか回復していない。そのペースで進めば、ある情報通によると、冗談っぽい言い方になるが、ゼレンスキーの軍はロシアの占領から国を解放するのに117年かかるだろうと、のことだ。
ここ数日の間、ワシントンの報道機関は、ゆっくりとこの大惨事の重大性に気付き始めているようだ。しかし、バイデン大統領やホワイトハウスの高官、そして国務省の関係者が状況を理解しているという公的な証拠はない。
プーチンは現在、ウクライナの4つの州(ドネツク、ヘルソン、ルガンスク、ザポリージャ)を完全に支配するか、それに近い状況にある。これらの州は、戦争が始まってから7か月後の2022年9月30日に公式に併合したものだ。もし戦場で奇跡が起こらないと仮定すると、次の段階がどうなるかは、プーチンに委ねられる。彼はただ現在の地点で足踏みし、ホワイトハウスがこの軍事的現実を受け入れのかどうか、戦争終結の形式的な話し合いが開始し、停戦を模索するのかどうか、を見守ることができるだろう。ウクライナでは来年4月に大統領選挙が予定されており、ロシアの指導者はその時まで待ち続けるかもしれない(もし実施されるのであれば)。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、国が戒厳令下にある限り選挙は行われない、と述べている。
バイデン大統領の来年の大統領選挙における政治的な問題は深刻であり、そしてはっきりしている。6月20日、ワシントン・ポスト紙はギャラップ世論調査に基づく記事を掲載し、「バイデンはトランプほど不人気であるはずはないが、実際には不人気」という見出しだった。この世論調査を受けてペリー・ベーコン・Jrは、バイデンは「民主党内でほぼ全面的な支持を受けているが、共和党からはほとんど支持されず、無所属層の間ではひどい数字を示している」と記事に書いている。歴代の民主党大統領と同様に、若者や関心の低い有権者とのつながりに苦労しているとも書いている。ベーコンは、ギャラップ世論調査には(バイデン)政権の外交政策に関する設問がないため、バイデンのウクライナ戦争への支持については何も述べていない。
ウクライナで迫り来る大惨事とその政治的な影響は、大統領を支持はするが、負けを取り戻そう無駄な投資に何十億ドルもの大金を投じて奇跡を待つ(バイデンの)姿勢に反対する民主党の議員にとって、警鐘となるべきだ。民主党の戦争支持は、同党の労働者階級からの距離がますます広がっている典型的な例だ。最近の戦争に従事し、将来の戦争で戦う可能性のあるのは彼らの子供たちだ。民主党が知識人層や裕福な階級に近づくにつれて、これらの有権者は、ますます大量に同党に背を向けている。
現在の政治における継続的な地殻変動について疑問がある場合は、トーマス・フランクの作品をぜひお薦めする。彼は2004年のベストセラー『カンザスの問題は何か? 保守派がアメリカの心をつかんだ理由』で、なぜカンザス州の有権者が民主党から離れ、経済的利益に反して投票したのかを解説した。フランクは2016年の著書『耳を傾けよ、リベラル!: または、一体全体、人民の党に何が起こったのか?』においても同様のことを行った。文庫版のあとがきでは、ヒラリー・クリントンと民主党がカンザスで犯した過ちを繰り返し―増幅し―、当選確実だったドナルド・トランプとの選挙に敗北した経緯を描いている。
ジョー・バイデンは、ウクライナ戦争とそれでアメリカが抱え込んだ様々な問題について率直に話すこと、そして彼の政権がこれまでに出してきた推定1500億ドル以上がとんでもない投資の失敗だったことを説明すること、それが賢明な選択なのかもしれない。