中国の脅威とはいかなる脅威か?
中国の脅威とはいかなる脅威か?
<記事原文 寺島先生推薦>
What Kind of Threat Is China?
Book review of "America and the China Threat: From the End of History to the End of Empire" by Prof.
(パオロ・ウリオ(Paolo Urio)教授著『米国と、中国の脅威:歴史の終わりから帝国の終わりまで』書評)
Global Research
2022年1月25日
キム・ピーターソン(Kim Petersen)
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年2月20日
米国の「残虐的な哲学」が、TikTok上に“曝光”というタイトルの暴露映像で明らかにされている。この映像に登場するのは、ロバート・ダリー(Robert Daly)。2015年に中国大使として北京に駐在していた元外交官だ。現在、ダリーは「中米関係に関するキッシンジャー研究所」の所長を務めている。この映像でダリーは外交辞令などは使わず、米国の外国政策を率直に話している。ダリーはこう言ったのだ。「中国は決して米国のレベルには届かない」と。
ジュネーブ大学のパオロ・ウリオ(Paolo Urio)名誉教授は、『米国と、中国の脅威。歴史の終わりから、帝国の終わりまで(America and the China Threat: From the End of History to the End of Empire:Clarity Press, 2022)』という著書の中で米国についてこう指摘している。 すなわち、「中国の発展が、米国が作った世界を終わらせる脅威になりつつあることを、米国は理解し始めている。つまり米国が世界において支配的な役割を担ってきた基盤が揺らぎつつあるのだ。これは米国の支配層にとって大きな脅威であることは間違いない。」(p 5)
バラク・オバマ政権が「アジア基軸戦略」をとった目的は、中国の封じ込めのためだった。 (p 22)
オバマは2016年の一般教書演説で次のように豪語していた。
「調査結果が明らかにしていることですが、我が国の世界における地位は私が大統領に選出された時よりも高まっています。すべての国際問題に関して、世界の人々は、中国やロシアを当てにしていません。世界の人々は、我が米国を求めているのです。」
オバマがこのような傲慢な主張をしたという事実だけとっても、中国の発展に対する米国の不安が感じ取られると主張する評論家たちもいた。
「中国の台頭に対する米国の対応の裏には、米国には世界を主導してきた米国の力を失うのではという不安がある。具体的には、国際体制の秩序を決定できる唯一の超大国であるという権力が失われるのでは、という不安だ。」(p 232)。ジョー・バイデン大統領はこの恐怖を理解した上で、こう語っている。「私の在任期間にはそんなことは起こさせません。この先、米国は成長し、拡大し続けるのですから。」(p 235)。
『米国と、中国の脅威』という著書において精査されているのは、中国の脅威というものに妥当性があるのかという点であり、米国は中国の勢力が拡大していることを否定できるかどうかという点だ。この著書は3章に分かれていて、最後に結論の章が設けられている。第1章で、ウリオ氏は米国と中国に関する神話について反駁している。第2章では、これまでの歴史を振り返りながら、米中間のイデオロギーの違いについて詳述している。第3章は、「政策と権力の分割」と題し、米中間の相違について歴史的観点から論じている。そして結論として、以下のような問いを投げかけている。「米国が力を取り戻したとしたなら、その米国はどのような姿になっているだろうか?」と。
ウリオ氏は、米国資本主義の根本である「自由市場という神話」を解きほぐすことから議論を始めている。スイス人である彼は、アダム・スミスの言を引いている。アダム・スミスが推進していたのは、「生産活動により生み出されたものではない賃貸金(スミスの時代においては、それは土地の賃貸金のことだった)をもとにした経済では回らない市場であった」(p 44)。しかしウリオ氏によると、現在の市場は 一握りの富裕層に富が集中する市場になっている」とのことだ (p 45) 。
次に、ウリオ氏は民主主義の神話も解体している。ウリオ氏の主張によると、資本主義諸国における主要な課題は、経済と政府機関による干渉にある、とのことだ(p 48)。もちろんお金の影響による問題もある(p 49)。ウリオ氏はこう記している。「西側諸国は香港の抗議運動のことを“中国政府による独裁的な干渉に対して民主主義を熱望的に求める動き”と決めつけている。しかしこの抗議運動の本質はきっと別のところにある」と(p 53)。「本質」とは何だろう? ウリオ氏ははっきりと記していないが、それは民主主義が不足していることではなく、「香港の人々が感じている不平等感」にあるという書き方をしている。
ウリオ氏が後に明らかにしたのは、中国は独裁国家ではない、という事実だ(p 86-92)。さらに、中国政府は国民の要求に基づいて運営されており、国民から広く支持されているとも書いている (p 91) 。
ウリオ氏は、西側メディアの民主主義の報じ方を一笑に付している(p 57)。ウリオ氏の主張によれば、米国は民主主義国家ではなく、金権国家だとのことだ(p 341)。一方、蔡伟麟(ウェイ・リン・チュア)氏はこう書いている。「中国の政治体制の強さの源は、西側諸国とはちがって、企業の利益に妥協する必要がないからだ」と。(1)。
ウリオ氏はこう記している。「20世紀の初めから、米国は単独で起こした偉大な(great)戦争で一度も勝利したことがない」と(p 61)。この主張に対して、二つ言いたいことがある。一つ目、戦争に「great」な戦争などない。ウリオ氏が言いたいのは、きっと「大きな戦争」という意味だろう。20世紀、大きな戦争は2度だけ起こった。第1次世界大戦(「大戦争」と呼ぶ人も多い)と、第2次世界大戦だ。これらの大戦には多くの国々が参戦したので、「米国自身の戦争」とは呼べない。米国が独自戦争で勝ったのは数回だ。(例えば、パナマ侵攻や、グレナダ侵攻)。しかし、これらの戦争は、比較的小規模の敵を相手にしたものであり、米国による「弱いものいじめ」のような戦争だった。弱いものいじめをする人は、道徳的な考え方が欠落している。米国が道徳的に問題のある国であるという事実は、米国が植民地主義を奉じるヨーロッパの移民たちが建国した国で、深い人種差別主義に基づく歴史をもっていることからも明らかだ。米国は、タートル・アイランド(訳注:ネイティブ・アメリカンによる北アメリカ大陸の呼称)の原住民たちとの戦争と、原住民との間の協定破りを繰り返して建国された国なのだから(p 207-209)。その後、アフリカの人々を強制的に移動させ、奴隷労働力に充ててきたという歴史もある(p 79-83)。そしてウリオ氏の記述に対して指摘しておきたい2つ目は、ウリオ氏は明言していないし、歴史から忘れ去られることも多い事実でもあるが、ネイティブ・アメリカンの人々も米国では奴隷にされていたという事実だ。(2)。
米国民が優れていて、無敵であるという神話も、この『米国と、中国の脅威』で打ち砕かれている。米国は常に戦争中の国だ。1776年から2015年までの239年の歴史の中で、229年間(93%)は戦争状態だった(p 66)。その229年という数字に、2016年から2022年までの年数も足さなければならない。ウリオ氏の主張によれば、米国が軍事的に優位であると、特に中国に対してそう考えることは危険だ、とのことだ。「敵国がますます軍事力を増進している中、今の米国の軍事力を過大評価し続ければ、破壊的な状況を招くだろう」 (p 74) 。
中国が起こした最後の戦争は、恥ずべき戦争であり、中途半端に終わってしまったが、1979年にベトナムに侵攻した中越戦争だ。
もうひとつ粉砕された中国に関する神話は、「中国は政府が主導する資本主義国家である」という主張だ。ウリオ氏の説明によると、他にも理由はあるが、「中国は市場社会主義経済に基づく国家だ」という。中国では、土地は集団資産であり、中国の反自由主義観念の基盤は、人民を第一に考える点にあり、銀行は国家の統制下にある (p 94-95) 。
農業と工業における中国の飛躍的な発展をきちんと見る人であれば、「中国は異国の技術を猿マネしているだけだ」という神話はただの戯言だということが分かるはずだ。ロバート・テンプル(Robert Temple:米国の作家)氏は中国人が初めて発明したものは多数存在することを、ヨセフ・ニードハム(Joseph Needham)教授の研究に基づいた『中国の智。科学と発見と発明の3000年の歴史(The Genius of China: 3000 Years of Science, Discovery and Invention:1998)』という著書で記している。今日の中国で見られている大改革は、これまでの歴史で培われた創造力のたまものなのだ。
しかし、中国が技術においても、改革においても世界の先頭を走ることに、多くの西側諸国の人々は悔しい思いを抱いている。その顕著な例が、コミュニケーション産業のトップを走る華為(Huawei)が主導している5Gや6Gに対する妨害に現れている。
中国がもつこの創造性に対して、米国の支配者層は羨望と狼狽の気持ちを持ち始めた。中国が優れていることを示す多くの例の中のひとつに、現在の最高水準の速度を誇る鉄道網がある。その中には、磁気浮上式鉄道、最先端のAIやロボットを使った技術、量子コンピューター技術の新開発などがある。中国の発表によると、CEPC(円形電子・陽電子衝突型加速器)の建築を計画しており、その大きさはスイスのCERN(欧州原子核研究機構)の大型ハドロン衝突型加速器の5倍の大きさだという。中国は核融合反応とその技術を使った「人工太陽」の研究を継続している。EAST(全超伝導トカマク型核融合エネルギー実験装置、人工太陽のこと)計画において、華氏1億8500万度の核融合反応を17分以上持続させたとのことだ。宇宙においては、月の裏側への月面車の軟着陸を成功させ、火星においては、一度目の挑戦で、ロケットを火星の軌道に乗せ、着陸し、探査させることができた世界最初の国になった。米国は国際宇宙ステーションに中国を参画させていないので、中国は「天宮」宇宙ステーションを軌道に乗せ、他国にも参入を呼びかけている。
成長しつつある中国の中流階級が、西側の政治体制を求めようとするだろうか?中国の人々が西側の政治体制の方が優れていると考えて、その方向に向かうのでは?と期待する向きもあるが、その期待の裏側に、西側の人々の奢りがあることは間違いないだろう。中国の国民が高水準の教育を受けていることをもっと信頼すべきだ。中国がこんなに短期間でこんなにも発展し、厳しい貧困を克服し、月に原子力を電源とする研究所を建設しようとしている一方で、 西側諸国の多くの地域では、テントのような家屋や、空腹や、失業や、上がらない給料や、薬物依存などに人々が苦しんでいる。こんな状況なのに、中国国民が、多くの悲惨な状況を生み出している西側の政治体制の方を選ぶだろうか?
ウリオ氏がさらに反駁しているのは、中国は帝国主義国家になったという考え方についてだ。習国家主席は何度も覇権主義を卑下している。ウリオ氏が明らかにしている通り、西側は自分の姿を他国に投影して見ているだけのようだ (p 114) 。
米国のイデオロギーが基盤に置いているのは、選民思想であり、自国が例外として許されることであり、「明白な運命(訳注:19世紀に米国が領土拡大を正当化する際に使われた概念)」であり、自国は唯一無二の国であり、自由主義世界のリーダーであるという自負だ(p 120-131)。リーダーとして、米国には物事の是非を決める権利や、自国の都合で他国に介入できる権利を有している。ウリオ氏はこう記している。「このような米国の性癖は、常に、しかも執拗に残っており、可能であれば、いつでも、どこにでも、どんな手段を使っても、他国に介入し、新世界秩序に向けた良い知らせを撒き散らそうとしている」(p 131)
モンロー主義(訳注:19世紀に米国が欧州諸国に対して提唱した、互いに不干渉であろうという立場)が世界規模で拡がっている。そのため米国は約束を破り、ロシアと国境を接している、旧ソ連内の共和国であったウクライナに軍を送っている。 そこはロシアが超えてはいけない「レッドライン」だとしてきた線だ。米国にはNATO同盟国であるドイツに、ロシアから天然ガスを輸入しないよう要求していることになんの恥じらいも感じていない。 「このような状況も、米国の計画は、世界のリーダーになり、同盟国の利益が何なのかを勝手に決めてしまおうとしているという一例だ」(p 145) 。
ただし、米国にとっての主たる敵は中国だ (p 150) 。
ウリオ氏が比較の対象にしているのは、ずっと変わらず同じイデオロギーを抱えている米国の世界観と、世界は変わり続けるものであるという捉え方をする中国の世界観だ。だからこそ中国は、各国との協調を求める世界の潮流に呼応しようとし続けているのだ。1949年から続けられているこの中国の各国との協調を希求する原動力になったのは、中国の状況を加味した中国版マルクス・レーニン主義だ。さらに孔子の教えも現在に合う形に鋳直され、支配者層は、徳を持つことや、人民を大切に扱うことを矜恃すべきことだと捉えている(p 171, 187, 203)。ウリオ氏の記載によると、快適な生活を過ごせている限りは、中国国民は中国共産党とともにあることを結局は選択するだろう、ということだ。(p186)
ウリオ氏は米国は衰退に向かっていると捉えているが、その理由は、米国政府が国家や国民の福祉よりも資本家たちを優先しているからだとしている (p 243)。軍産複合体のための国家支出は膨大で(p 244)、他の社会的分野に回されるべき支出が抑え込まれている (p 247)。このような状況こそ、中国との比較における最も大きな差異だ。
核武装もしており、手強い中国を軍国主義国家であると捉えることは、まともな専門家にとっては問題外であることは間違いない。従って反中プロパガンダは、選び抜かれた限られた論点に絞られている。米国がその矛先に特に選んでいる対象が、チベット、新疆、香港だ。これらの地域に関する西側のプロパガンダ、偽情報、煽りにより、西側にとって都合の良い情報が拡散されている。北米大陸では、先住民族を虐殺し、財産を奪うことで、支配の基盤を確立し、ハワイでは、ハワイの先住民族の財産を奪い、グアムやサイパンは、米国が(スペインに)戦争を吹っ掛けた結果、委託統治領にした。そんな歴史からすれば、米国が他国を批判することなど、穏健な見方からしてもとんでもないことだと言える。
習国家主席の統治下で、「チャイニーズ・ドリーム」という目標が達成されつつある。「チャイニーズ・ドリーム」達成のためのひとつの課題に経済の正常化がある。経済成長という点に関しては、中国は非常に成功しているのだが、『米国と、中国の脅威』が詳述している通り、都市部と地方との格差や、地域による格差の是正や、富裕層と貧困層の間の格差の是正はまだ解決途中の課題だ。(中国のジニ係数(所得格差を表す数値)の値は高い)。 ウリオ氏はこうまとめている。「なかなか手強い格差は残ってはいるが、最終的には、中国が全ての社会階層の生活を向上させ、それに伴って満足のいく、社会の団結と、安定と、統一と、調和の水準を達成するだろう。」(p 287)
中国にとっても、その他の国々にとっても、残っている課題のひとつは、世界貿易において公平な条件を確立して、現状のドルによる支配を打破することだ。ウリオ氏は、中国や他の国々が、この状況を打破しつつある状況を記している。中国は各国といくつかの経済協定を結んでいるが、その中には上海協力機構 (SCO)、BRICS、そして2022年1月1日に発効した「地域的な包括的経済連携(RCEP)」がある。このRCEPは、アジア太平洋諸国間の「自由」貿易の同意協定であり、加盟国は、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、インドネシア、日本、韓国、ラオス、フィリピン、シンガポール、ミャンマー、マレーシア、タイ、ベトナムだ。このRECPが、米ドルの覇権を脅かす存在になるのではという指摘を行っている人々もいる。
この著書の終盤近くで、中国の政策の中枢である一帯一路構想(BRI)が、議論のまな板に載せられている。一帯一路構想は、壮大で、素晴らしい構想だ。ユーラシア大陸の陸路と、アフリカに繋がる海路を結ぶこの構想により、世界が一帯となる。これは拡大し続ける計画であり、経済発展を活性化し、各国の成長可能性を参加国が共有でき、 他の国々の利益を享受し合える。こんな大規模な計画に取り残されたいと思っている国などあるだろうか?米国が一帯一路構想に反対しているのは、中国主導の計画だからだ。 一帯一路構想が的を得ている点は、この計画が米軍による中国包囲網の大半を取り囲んでいるところだ。ウリオ氏はこう書いている。「一帯一路構想の何より一番重要な点は、これが地政学的に重要であるという点だ。一帯一路構想が完全に実現すれば、中国はかつて有していた世界的な権力を再度保持できることになる。そうなれば‘米国が作った‘米国の一極支配による世界は終焉するだろう」(p 337) 。
バイデン政権も、バイデン以前の各政権も分かっていない事実は、他国を引きつけることができるのは軍事力ではなく、経済力であるという事実だ。 (p 349)。中国が希求しているのは、他国と両得になる 関係であり、他国の主権を尊重し、他国の内政には干渉しないという姿勢だ(p 351)。
2022年1月10日、楽玉成(らく・ぎょくせい)中国外交部筆頭副部長は、人民大学主催の会議でこう語っている。
「14億の中国国民の皆さんがいい生活が送れるようにし、もっと良い暮らしがしたいという皆さんの熱い願いを満足させること。これが中国共産党の目標です。知っておかないといけない事実ですが、今でも10億人の国民が一度も飛行機に乗ったことがありませんし、2億以上の家庭にはトイレがありません。国民の大学の学位以上の取得率は、米国の25%に対して、たったの4%です。このような現状こそ、私たちが奮闘して取り組むべき重要な課題なのです。GDPの値が素晴らしいことよりも、私たちが価値を置くべきなのは、イデオロギーであり、統治能力であり、 「追いつき追い越せ」のスローガンのもと世界への貢献度の向上であり、 もっと前進しようという奮闘であり、人々の期待や、時代の流れに寄り添うことなのです。
このような態度のどこに脅威が感じられるというのだろう?『米国と、中国の脅威』は、表からも、裏側からも、米中間の違いを明らかにしている。この著書を読めば、米帝国が中国の強力な前進に不安を抱いていることを感じ取ることができるだろう。さらに米国が中国の台頭を受け入れようとしていないことも分かるだろう。ほとんどの人々にはそのような現状が既成事実として映っているのだ。米国は、中国の前進にケチをつけることも、中国と協調することもどちらも可能だ。ただしどの道、中国は発展し続けるのだ。
*
Kim Petersen is a former co-editor of the Dissident Voice newsletter. He can be emailed at: kimohp at gmail.com. Twitter: @kimpetersen. He is a regular contributor to Global Research.
Notes
1. Wei Ling Chua, author of Democracy: What the West Can Learn from China (review: location 1692.
2. See Andrés Reséndez, The Other Slavery: The Uncovered Story of Indian Enslavement in America (2016).
<記事原文 寺島先生推薦>
What Kind of Threat Is China?
Book review of "America and the China Threat: From the End of History to the End of Empire" by Prof.
(パオロ・ウリオ(Paolo Urio)教授著『米国と、中国の脅威:歴史の終わりから帝国の終わりまで』書評)
Global Research
2022年1月25日
キム・ピーターソン(Kim Petersen)
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年2月20日
米国の「残虐的な哲学」が、TikTok上に“曝光”というタイトルの暴露映像で明らかにされている。この映像に登場するのは、ロバート・ダリー(Robert Daly)。2015年に中国大使として北京に駐在していた元外交官だ。現在、ダリーは「中米関係に関するキッシンジャー研究所」の所長を務めている。この映像でダリーは外交辞令などは使わず、米国の外国政策を率直に話している。ダリーはこう言ったのだ。「中国は決して米国のレベルには届かない」と。
ジュネーブ大学のパオロ・ウリオ(Paolo Urio)名誉教授は、『米国と、中国の脅威。歴史の終わりから、帝国の終わりまで(America and the China Threat: From the End of History to the End of Empire:Clarity Press, 2022)』という著書の中で米国についてこう指摘している。 すなわち、「中国の発展が、米国が作った世界を終わらせる脅威になりつつあることを、米国は理解し始めている。つまり米国が世界において支配的な役割を担ってきた基盤が揺らぎつつあるのだ。これは米国の支配層にとって大きな脅威であることは間違いない。」(p 5)
バラク・オバマ政権が「アジア基軸戦略」をとった目的は、中国の封じ込めのためだった。 (p 22)
オバマは2016年の一般教書演説で次のように豪語していた。
「調査結果が明らかにしていることですが、我が国の世界における地位は私が大統領に選出された時よりも高まっています。すべての国際問題に関して、世界の人々は、中国やロシアを当てにしていません。世界の人々は、我が米国を求めているのです。」
オバマがこのような傲慢な主張をしたという事実だけとっても、中国の発展に対する米国の不安が感じ取られると主張する評論家たちもいた。
「中国の台頭に対する米国の対応の裏には、米国には世界を主導してきた米国の力を失うのではという不安がある。具体的には、国際体制の秩序を決定できる唯一の超大国であるという権力が失われるのでは、という不安だ。」(p 232)。ジョー・バイデン大統領はこの恐怖を理解した上で、こう語っている。「私の在任期間にはそんなことは起こさせません。この先、米国は成長し、拡大し続けるのですから。」(p 235)。
『米国と、中国の脅威』という著書において精査されているのは、中国の脅威というものに妥当性があるのかという点であり、米国は中国の勢力が拡大していることを否定できるかどうかという点だ。この著書は3章に分かれていて、最後に結論の章が設けられている。第1章で、ウリオ氏は米国と中国に関する神話について反駁している。第2章では、これまでの歴史を振り返りながら、米中間のイデオロギーの違いについて詳述している。第3章は、「政策と権力の分割」と題し、米中間の相違について歴史的観点から論じている。そして結論として、以下のような問いを投げかけている。「米国が力を取り戻したとしたなら、その米国はどのような姿になっているだろうか?」と。
ウリオ氏は、米国資本主義の根本である「自由市場という神話」を解きほぐすことから議論を始めている。スイス人である彼は、アダム・スミスの言を引いている。アダム・スミスが推進していたのは、「生産活動により生み出されたものではない賃貸金(スミスの時代においては、それは土地の賃貸金のことだった)をもとにした経済では回らない市場であった」(p 44)。しかしウリオ氏によると、現在の市場は 一握りの富裕層に富が集中する市場になっている」とのことだ (p 45) 。
次に、ウリオ氏は民主主義の神話も解体している。ウリオ氏の主張によると、資本主義諸国における主要な課題は、経済と政府機関による干渉にある、とのことだ(p 48)。もちろんお金の影響による問題もある(p 49)。ウリオ氏はこう記している。「西側諸国は香港の抗議運動のことを“中国政府による独裁的な干渉に対して民主主義を熱望的に求める動き”と決めつけている。しかしこの抗議運動の本質はきっと別のところにある」と(p 53)。「本質」とは何だろう? ウリオ氏ははっきりと記していないが、それは民主主義が不足していることではなく、「香港の人々が感じている不平等感」にあるという書き方をしている。
ウリオ氏が後に明らかにしたのは、中国は独裁国家ではない、という事実だ(p 86-92)。さらに、中国政府は国民の要求に基づいて運営されており、国民から広く支持されているとも書いている (p 91) 。
ウリオ氏は、西側メディアの民主主義の報じ方を一笑に付している(p 57)。ウリオ氏の主張によれば、米国は民主主義国家ではなく、金権国家だとのことだ(p 341)。一方、蔡伟麟(ウェイ・リン・チュア)氏はこう書いている。「中国の政治体制の強さの源は、西側諸国とはちがって、企業の利益に妥協する必要がないからだ」と。(1)。
ウリオ氏はこう記している。「20世紀の初めから、米国は単独で起こした偉大な(great)戦争で一度も勝利したことがない」と(p 61)。この主張に対して、二つ言いたいことがある。一つ目、戦争に「great」な戦争などない。ウリオ氏が言いたいのは、きっと「大きな戦争」という意味だろう。20世紀、大きな戦争は2度だけ起こった。第1次世界大戦(「大戦争」と呼ぶ人も多い)と、第2次世界大戦だ。これらの大戦には多くの国々が参戦したので、「米国自身の戦争」とは呼べない。米国が独自戦争で勝ったのは数回だ。(例えば、パナマ侵攻や、グレナダ侵攻)。しかし、これらの戦争は、比較的小規模の敵を相手にしたものであり、米国による「弱いものいじめ」のような戦争だった。弱いものいじめをする人は、道徳的な考え方が欠落している。米国が道徳的に問題のある国であるという事実は、米国が植民地主義を奉じるヨーロッパの移民たちが建国した国で、深い人種差別主義に基づく歴史をもっていることからも明らかだ。米国は、タートル・アイランド(訳注:ネイティブ・アメリカンによる北アメリカ大陸の呼称)の原住民たちとの戦争と、原住民との間の協定破りを繰り返して建国された国なのだから(p 207-209)。その後、アフリカの人々を強制的に移動させ、奴隷労働力に充ててきたという歴史もある(p 79-83)。そしてウリオ氏の記述に対して指摘しておきたい2つ目は、ウリオ氏は明言していないし、歴史から忘れ去られることも多い事実でもあるが、ネイティブ・アメリカンの人々も米国では奴隷にされていたという事実だ。(2)。
米国民が優れていて、無敵であるという神話も、この『米国と、中国の脅威』で打ち砕かれている。米国は常に戦争中の国だ。1776年から2015年までの239年の歴史の中で、229年間(93%)は戦争状態だった(p 66)。その229年という数字に、2016年から2022年までの年数も足さなければならない。ウリオ氏の主張によれば、米国が軍事的に優位であると、特に中国に対してそう考えることは危険だ、とのことだ。「敵国がますます軍事力を増進している中、今の米国の軍事力を過大評価し続ければ、破壊的な状況を招くだろう」 (p 74) 。
中国が起こした最後の戦争は、恥ずべき戦争であり、中途半端に終わってしまったが、1979年にベトナムに侵攻した中越戦争だ。
もうひとつ粉砕された中国に関する神話は、「中国は政府が主導する資本主義国家である」という主張だ。ウリオ氏の説明によると、他にも理由はあるが、「中国は市場社会主義経済に基づく国家だ」という。中国では、土地は集団資産であり、中国の反自由主義観念の基盤は、人民を第一に考える点にあり、銀行は国家の統制下にある (p 94-95) 。
農業と工業における中国の飛躍的な発展をきちんと見る人であれば、「中国は異国の技術を猿マネしているだけだ」という神話はただの戯言だということが分かるはずだ。ロバート・テンプル(Robert Temple:米国の作家)氏は中国人が初めて発明したものは多数存在することを、ヨセフ・ニードハム(Joseph Needham)教授の研究に基づいた『中国の智。科学と発見と発明の3000年の歴史(The Genius of China: 3000 Years of Science, Discovery and Invention:1998)』という著書で記している。今日の中国で見られている大改革は、これまでの歴史で培われた創造力のたまものなのだ。
しかし、中国が技術においても、改革においても世界の先頭を走ることに、多くの西側諸国の人々は悔しい思いを抱いている。その顕著な例が、コミュニケーション産業のトップを走る華為(Huawei)が主導している5Gや6Gに対する妨害に現れている。
中国がもつこの創造性に対して、米国の支配者層は羨望と狼狽の気持ちを持ち始めた。中国が優れていることを示す多くの例の中のひとつに、現在の最高水準の速度を誇る鉄道網がある。その中には、磁気浮上式鉄道、最先端のAIやロボットを使った技術、量子コンピューター技術の新開発などがある。中国の発表によると、CEPC(円形電子・陽電子衝突型加速器)の建築を計画しており、その大きさはスイスのCERN(欧州原子核研究機構)の大型ハドロン衝突型加速器の5倍の大きさだという。中国は核融合反応とその技術を使った「人工太陽」の研究を継続している。EAST(全超伝導トカマク型核融合エネルギー実験装置、人工太陽のこと)計画において、華氏1億8500万度の核融合反応を17分以上持続させたとのことだ。宇宙においては、月の裏側への月面車の軟着陸を成功させ、火星においては、一度目の挑戦で、ロケットを火星の軌道に乗せ、着陸し、探査させることができた世界最初の国になった。米国は国際宇宙ステーションに中国を参画させていないので、中国は「天宮」宇宙ステーションを軌道に乗せ、他国にも参入を呼びかけている。
成長しつつある中国の中流階級が、西側の政治体制を求めようとするだろうか?中国の人々が西側の政治体制の方が優れていると考えて、その方向に向かうのでは?と期待する向きもあるが、その期待の裏側に、西側の人々の奢りがあることは間違いないだろう。中国の国民が高水準の教育を受けていることをもっと信頼すべきだ。中国がこんなに短期間でこんなにも発展し、厳しい貧困を克服し、月に原子力を電源とする研究所を建設しようとしている一方で、 西側諸国の多くの地域では、テントのような家屋や、空腹や、失業や、上がらない給料や、薬物依存などに人々が苦しんでいる。こんな状況なのに、中国国民が、多くの悲惨な状況を生み出している西側の政治体制の方を選ぶだろうか?
ウリオ氏がさらに反駁しているのは、中国は帝国主義国家になったという考え方についてだ。習国家主席は何度も覇権主義を卑下している。ウリオ氏が明らかにしている通り、西側は自分の姿を他国に投影して見ているだけのようだ (p 114) 。
米国のイデオロギーが基盤に置いているのは、選民思想であり、自国が例外として許されることであり、「明白な運命(訳注:19世紀に米国が領土拡大を正当化する際に使われた概念)」であり、自国は唯一無二の国であり、自由主義世界のリーダーであるという自負だ(p 120-131)。リーダーとして、米国には物事の是非を決める権利や、自国の都合で他国に介入できる権利を有している。ウリオ氏はこう記している。「このような米国の性癖は、常に、しかも執拗に残っており、可能であれば、いつでも、どこにでも、どんな手段を使っても、他国に介入し、新世界秩序に向けた良い知らせを撒き散らそうとしている」(p 131)
モンロー主義(訳注:19世紀に米国が欧州諸国に対して提唱した、互いに不干渉であろうという立場)が世界規模で拡がっている。そのため米国は約束を破り、ロシアと国境を接している、旧ソ連内の共和国であったウクライナに軍を送っている。 そこはロシアが超えてはいけない「レッドライン」だとしてきた線だ。米国にはNATO同盟国であるドイツに、ロシアから天然ガスを輸入しないよう要求していることになんの恥じらいも感じていない。 「このような状況も、米国の計画は、世界のリーダーになり、同盟国の利益が何なのかを勝手に決めてしまおうとしているという一例だ」(p 145) 。
ただし、米国にとっての主たる敵は中国だ (p 150) 。
ウリオ氏が比較の対象にしているのは、ずっと変わらず同じイデオロギーを抱えている米国の世界観と、世界は変わり続けるものであるという捉え方をする中国の世界観だ。だからこそ中国は、各国との協調を求める世界の潮流に呼応しようとし続けているのだ。1949年から続けられているこの中国の各国との協調を希求する原動力になったのは、中国の状況を加味した中国版マルクス・レーニン主義だ。さらに孔子の教えも現在に合う形に鋳直され、支配者層は、徳を持つことや、人民を大切に扱うことを矜恃すべきことだと捉えている(p 171, 187, 203)。ウリオ氏の記載によると、快適な生活を過ごせている限りは、中国国民は中国共産党とともにあることを結局は選択するだろう、ということだ。(p186)
ウリオ氏は米国は衰退に向かっていると捉えているが、その理由は、米国政府が国家や国民の福祉よりも資本家たちを優先しているからだとしている (p 243)。軍産複合体のための国家支出は膨大で(p 244)、他の社会的分野に回されるべき支出が抑え込まれている (p 247)。このような状況こそ、中国との比較における最も大きな差異だ。
核武装もしており、手強い中国を軍国主義国家であると捉えることは、まともな専門家にとっては問題外であることは間違いない。従って反中プロパガンダは、選び抜かれた限られた論点に絞られている。米国がその矛先に特に選んでいる対象が、チベット、新疆、香港だ。これらの地域に関する西側のプロパガンダ、偽情報、煽りにより、西側にとって都合の良い情報が拡散されている。北米大陸では、先住民族を虐殺し、財産を奪うことで、支配の基盤を確立し、ハワイでは、ハワイの先住民族の財産を奪い、グアムやサイパンは、米国が(スペインに)戦争を吹っ掛けた結果、委託統治領にした。そんな歴史からすれば、米国が他国を批判することなど、穏健な見方からしてもとんでもないことだと言える。
習国家主席の統治下で、「チャイニーズ・ドリーム」という目標が達成されつつある。「チャイニーズ・ドリーム」達成のためのひとつの課題に経済の正常化がある。経済成長という点に関しては、中国は非常に成功しているのだが、『米国と、中国の脅威』が詳述している通り、都市部と地方との格差や、地域による格差の是正や、富裕層と貧困層の間の格差の是正はまだ解決途中の課題だ。(中国のジニ係数(所得格差を表す数値)の値は高い)。 ウリオ氏はこうまとめている。「なかなか手強い格差は残ってはいるが、最終的には、中国が全ての社会階層の生活を向上させ、それに伴って満足のいく、社会の団結と、安定と、統一と、調和の水準を達成するだろう。」(p 287)
中国にとっても、その他の国々にとっても、残っている課題のひとつは、世界貿易において公平な条件を確立して、現状のドルによる支配を打破することだ。ウリオ氏は、中国や他の国々が、この状況を打破しつつある状況を記している。中国は各国といくつかの経済協定を結んでいるが、その中には上海協力機構 (SCO)、BRICS、そして2022年1月1日に発効した「地域的な包括的経済連携(RCEP)」がある。このRCEPは、アジア太平洋諸国間の「自由」貿易の同意協定であり、加盟国は、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、インドネシア、日本、韓国、ラオス、フィリピン、シンガポール、ミャンマー、マレーシア、タイ、ベトナムだ。このRECPが、米ドルの覇権を脅かす存在になるのではという指摘を行っている人々もいる。
この著書の終盤近くで、中国の政策の中枢である一帯一路構想(BRI)が、議論のまな板に載せられている。一帯一路構想は、壮大で、素晴らしい構想だ。ユーラシア大陸の陸路と、アフリカに繋がる海路を結ぶこの構想により、世界が一帯となる。これは拡大し続ける計画であり、経済発展を活性化し、各国の成長可能性を参加国が共有でき、 他の国々の利益を享受し合える。こんな大規模な計画に取り残されたいと思っている国などあるだろうか?米国が一帯一路構想に反対しているのは、中国主導の計画だからだ。 一帯一路構想が的を得ている点は、この計画が米軍による中国包囲網の大半を取り囲んでいるところだ。ウリオ氏はこう書いている。「一帯一路構想の何より一番重要な点は、これが地政学的に重要であるという点だ。一帯一路構想が完全に実現すれば、中国はかつて有していた世界的な権力を再度保持できることになる。そうなれば‘米国が作った‘米国の一極支配による世界は終焉するだろう」(p 337) 。
バイデン政権も、バイデン以前の各政権も分かっていない事実は、他国を引きつけることができるのは軍事力ではなく、経済力であるという事実だ。 (p 349)。中国が希求しているのは、他国と両得になる 関係であり、他国の主権を尊重し、他国の内政には干渉しないという姿勢だ(p 351)。
2022年1月10日、楽玉成(らく・ぎょくせい)中国外交部筆頭副部長は、人民大学主催の会議でこう語っている。
「14億の中国国民の皆さんがいい生活が送れるようにし、もっと良い暮らしがしたいという皆さんの熱い願いを満足させること。これが中国共産党の目標です。知っておかないといけない事実ですが、今でも10億人の国民が一度も飛行機に乗ったことがありませんし、2億以上の家庭にはトイレがありません。国民の大学の学位以上の取得率は、米国の25%に対して、たったの4%です。このような現状こそ、私たちが奮闘して取り組むべき重要な課題なのです。GDPの値が素晴らしいことよりも、私たちが価値を置くべきなのは、イデオロギーであり、統治能力であり、 「追いつき追い越せ」のスローガンのもと世界への貢献度の向上であり、 もっと前進しようという奮闘であり、人々の期待や、時代の流れに寄り添うことなのです。
このような態度のどこに脅威が感じられるというのだろう?『米国と、中国の脅威』は、表からも、裏側からも、米中間の違いを明らかにしている。この著書を読めば、米帝国が中国の強力な前進に不安を抱いていることを感じ取ることができるだろう。さらに米国が中国の台頭を受け入れようとしていないことも分かるだろう。ほとんどの人々にはそのような現状が既成事実として映っているのだ。米国は、中国の前進にケチをつけることも、中国と協調することもどちらも可能だ。ただしどの道、中国は発展し続けるのだ。
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Kim Petersen is a former co-editor of the Dissident Voice newsletter. He can be emailed at: kimohp at gmail.com. Twitter: @kimpetersen. He is a regular contributor to Global Research.
Notes
1. Wei Ling Chua, author of Democracy: What the West Can Learn from China (review: location 1692.
2. See Andrés Reséndez, The Other Slavery: The Uncovered Story of Indian Enslavement in America (2016).