ハリコフは落ちたが、本当の戦いはこれから
<記事原文 寺島先生推薦>
The Kharkov Game-Changer
(ハリコフが風向きを変える)
筆者:ペペ・エスコバール(Pepe Escobar)
出典:INTERNATIONALIST 360°
2022年9月13日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年9月27日
これは生きるか死ぬかの、生存をかけた戦争だ。
心理作戦では戦争には勝てない。ナチスドイツの例を見れば分かる。それでも滑稽なのは、NATO応援団のメディアがハリコフの状況を取り上げて、声を合わせて大声で叫んでいる様だ。メディアは「プーチンに鉄槌が下された」や「ロシア人は窮地に陥った」などと叫んでいる。まさに愚の骨頂だ。
本当に起こっている事実はこうだ。ロシア軍は占領していたハリコフから、オスコル川の左岸に撤退し、現在はそこに陣を引いている。ハリコフ ー ドネツク ー ルガンスクという防衛線は、安定しているようだ。クラスニー・リマン市は、ウクライナ軍の先鋭に包囲され危険な状態にあるが、致命的な状態ではない。
誰も、現在版女性ヘルメス(ギリシャ神話の神の使者)と称されるマリア・ザハロワ(ロシア外務省報道官)でさえも、ロシア参謀本部(RGS)が何を計画しているのか、全く掴めていない。この件に関しても、他のすべての件に関してもそうだ。彼らが、「分かっている」と言っているのは、彼らが嘘つきだからだ。
現状十分納得のできる推測は、スビャトゴルスク ー クラスニー・リマン ― ヤンポル ― ベロゴロフカの防衛線が現在の守備隊で十分長く持ちこたえることができるということだ。持ちこたえられれば、ロシア軍に新戦力が投入され、ウクライナ人をセヴァースキードネッツ川の防衛線まで撤退させることができるだろう。
なぜ今ハリコフがこんな風になってしまったかについては、本当に大きな騒ぎがあった。ドネツク・ルガルンスク両人民共和国とロシアには、1,000 km の長さの前線を守るのに十分な兵力がなかった。NATOの諜報機関がそれに気づき、そこにつけ込んだのだ。
これらの地域にはロシア軍は駐留していなかった。駐留していたのはロシア国家親衛隊だけだったが、この親衛隊は、軍事的訓練を施されていなかった。ウクライナ軍は、数で行くと対敵側と約5対1という有利な状況だった。連合軍が陣を引いたのは、包囲されることを避けるためだった。ロシア軍には損失はなかった。というのも、この地域にはロシア軍が駐留していなかったからだ。
おそらくこんなことが起こるのは、これきりだと思われる。NATOが運営しているウクライナ軍は、ドンバス国内やヘルソン州内やマリウポリ市内のどこかで、今回の再現を成し遂げるのは不可能だろう。これらの地域は強力なロシア正規軍により、全て保護されているからだ。
ウクライナ軍がハリコフとイジューム付近に留まっているのであれば、大規模なロシア軍による砲撃により粉砕されるであろうことは、十分想定されることだ。軍事専門家のコンスタンチン・シブコフ氏はこう明言している。「ウクライナ軍の戦闘態勢にある諸部隊のほとんどが今(ハリコフ内に)駐留している。我が軍はその諸部隊を外におびき出すことに成功し、組織的に粉砕している」と。
NATOが集めた傭兵で溢れていて、NATOが動かしているウクライナ軍が、6ヶ月かけて、軍事装置を集め、訓練を施した兵を温存していたのは、まさにこのハリコフを攻撃するときのためだった。その軍事装置や兵たちが今、激しく潰されているのだ。再びしっかりとした装備や兵たちの配置を維持し、同じような行動を起こすことは非常に難しいだろう。
この先数日は、ハリコフとイジュームが、NATOが進めるより大きな攻撃と繋がるかどうかを見極める時期になろう。 NATOに抑え込まれているEUの雰囲気は、「廃墟の街」に近づいている 。今回の反撃が強く示したのは、NATOが永久にこの戦争に関わろうとしている可能性だ。この仮説を覆す説得力のある要件は少ない。嘘で固められた秘密のベールは、「助言者たち」の存在や、世界中から集められた傭兵を隠すことはできていない。
訳注。Desperation Row「廃墟の街」。ボブ・デュランの楽曲のタイトルから
電源を断つことで、通信網を断つ
ロシアの特殊作戦(SMO)は本来の概念では、領地を征服する目的はない。今のところは、現在もそうであるし、過去もそうだった。本来の目的は、ウクライナに占領された地域のロシア語話者たちの保護のための、非武装化や非ナチ化だった。
その概念が微調整されようとしている可能性がある。そのことと、ロシアが国民に部分的な動員をかけようとしている動きとが結び付けられて、複雑で厄介な議論が巻き起こされている。ただし、部分的な国民動員さえ不要で済む可能性がある。というのも今必要なのは、ロシア・両共和国連合軍が後方・防衛線を守れる程度の余力だからだ。攻撃のほうは、チェチェンのカディロフ首長配下の強靭な兵たちが攻撃を続けてくれるだろうからだ。
イジュームを奪われたことで、ロシア軍が戦略的に重要な拠点を失ったことは否定できない。ここを抑えられなければ、ドンバスの完全な解放は非常に困難になる。
ただし西側連合体にとれば、その屍が、巨大なまやかしのあぶくの中へ前屈みに進みながら、このささやかな軍事的前進を利用して、大きな陽動作戦に打って出ようとしている。そして、「ウクライナ軍はたった4日でハリコフから全てのロシア人を追い出せた、ロシアは6ヶ月かかってドンバスを解放しようとしているのに、できていないじゃないか」と嬉しそうに眺めている。
そのため、西側諸国での支配的な見方(その見方は専門家が必死に構築したものだが)は、ロシア軍が「鉄槌」を下され、回復は不可能だ、というものになっている。
ハリコフが落ちたのは時機をえたものだった。冬将軍の到来がすぐそこまで来ているし、ウクライナ問題について論じることに、世間は既に疲弊していた。そこでプロパガンダを操る勢力は、エンジンターボに潤滑油を差せるようなきっかけが必要だったのだ。数十億ドル相当の武器を前線に送り続けるため、だ
ただしハリコフが落ちたことは、ロシア当局を敵に対してより痛みを伴う手段に出ざるを得ない状況に追い込むことになるかもしれない。ハリコフが落ちたことで、ロシアの数人のキンジャールさんたち(訳注:戦闘機を擬人化した言い方)は、 黒海やカスピ海を後にして、ウクライナ最大のいくつかの火力発電所に名刺を届け(挨拶をし)ようと、ウクライナの北東部や中央部に配置された。(なおウクライナでは、エネルギーの供給基盤のほとんどは南東部にある)。
ウクライナの半分の地域で、突然電力と水の供給が止まった。電車は不通になった。もしロシア当局が、今すぐにウクライナの全ての変電所を手中に置くと決めたならば、ミサイル数発でウクライナの全てのエネルギー供給網の破壊ができる。電源の断絶に成功すれば、「通信網の断絶」という新しい効果も手に入るというわけだ。
専門家の分析によると、「110-330 kV規模の変電所が被害を受ければ、復旧することはほぼ不可能になる。(中略)こんなことが少なくとも5箇所の変電所で同時に起こってしまえば、全てが駄目になり、永久に石器時代状態におかれることになる」
ロシア政府のマラト・バシロフの言い方は、もっと明快だ。「ウクライナは19世紀に逆戻りさせられようとしています。エネルギー体系がなくなれば、ウクライナ軍も存在できなくなるでしょう。電圧将軍が戦地に降りてきて、その後にマロース(ロシアの霜の妖精の名)将軍がついてくる、ということです」
こうなればついに、「真の戦争」の領域に突入することになるのだろう。プーチン大統領が皮肉ぽく言っていたあの悪名高い「私たちはまだ何一つ始めていない」 という発言の真意が見えてきた、と言える。
ロシア参謀本部による決定的な反撃が、この数日で繰り出されることになろう。
繰り返しになるが、ロシアの次の動きが何かについての火のような議論が巻き起こっているのだ。(ロシア参謀本部は、結局のところ何をしてくるか分からない組織なのだ。スターウォーズのヨーダ的存在のパドルシェフ連邦安全保障会議書記は例外だが)。
ロシア参謀本部は、別の場所で激しい戦略的攻撃を繰り出す手に出るかもしれない。狙いはこの状況を(NATO側から見て)最悪の状況に変えてしまうことだ。あるいは、前線を守るために、より多くの軍を送る手に出るかもしれない。(部分的な国民動員は使わずに)。
何よりロシア参謀本部は、特殊作戦の規模を拡大する可能性がある。つまり、ウクライナの交通基盤やエネルギー基盤を完全に破壊しようとすることだ。天然ガスに始まり、火力発電所や変電所の抑え込み、原子力発電所の閉鎖まで行う可能性がある。
そうだ。上に書いた全てを常に組み合わせることもできる。まさにロシア版の「衝撃と畏怖」作戦(訳注:イラク戦争時に米国が取った作戦)だ。経済と社会に前代未聞の破壊状態をもたらすという作戦だ。既にロシア当局はその警告を公的に発している。「我が国は、いつでも、しかも数時間のうちに、あなたがたの社会を石器時代状態に戻すことができます(斜字化は筆者による)。あなたがたの国内の諸都市は暖房はなし、水道は凍結、停電、連絡が取れない状況で冬将軍を迎えることになりますよ」と。
対テロリスト作戦
「中央決定本部」(たとえばキエフ)に間もなくキンザル・ミサイルが発射されるかに衆目が集まっている。発射されれば、ロシア政府の堪忍袋の緒が切れたということになるだろう。
シロビキ(ロシアの国防関係者)の堪忍袋の緒が切れていることははっきりしている。しかし我々は、まだ、そこまで行っていない。今のところは。というのも、外交手腕巧みなプーチン大統領にとって、ロシアの天然ガスをヨーロッパに供給するかどうかについての攻防が戦いの中心になっているからだ。もっともそんなことはアメリカの外交政策にとっては些細な子供じみた事柄ではあるが。
プーチン大統領は、国内からある程度の圧力がかっていることをしっかりと認識している。プーチン大統領は、部分的な国民動員でも拒絶している。この冬に何が起こるかについての見通しをしっかりと見据えた上で、解放された地域での国民投票を実施する意向だ。 その締切は11月4日。 2004年に、10月革命の記念日がこの日に移行された、国家統一記念日だ。ドンバスやルガンスクが国民投票の結果ロシア領となれば、ウクライナによるどんな反撃も、すべてロシア連邦への直接の攻撃となる。それがどういう意味になるのかは、誰もが理解している。
今や痛みを伴うほど明白な事実は、西側諸国連合が戦争を行っている時、それは多様な側面からの、活発な煽りで、大規模な諜報活動や、人工衛星からの情報や、大量の傭兵たちを投入した戦争なのだが、特殊作戦(SMO)の意味をしっかりと掴んでいないまま、「それに対抗する特殊作戦を起こせばいい」と主張している人々にとっては、幾分嫌な思いを伴う展開が待っているかもしれないということだ。
したがって、特殊作戦(SMO)の方向性を今すぐ変えた方がいいかもしれない。対テロリスト作戦という方向性に、だ。
この戦争は生存をかけた戦いだ。生きるか死ぬかの戦いだ。米国の地政学的/経済的目的を一言でまとめれば、ロシアの国家としてのまとまりを破壊し、政権転覆を仕掛け、豊富なロシアの天然資源を搾取してしまうことだ。 ウクライナはただの砲弾の餌食でしかない。倒錯した歴史の再現のようなものだ。具体的にはティムールによる1401年のバグダッド侵略の現代版だ。その際ティムールは、120の塔を建て、そこに虐殺した人々の頭蓋骨をピラミッドのように並べた。
ハリコフは、ロシア参謀本部が目を覚まし、「鉄槌」を下す契機になるかもしれない。遅かれ早かれ。
いや、事は急ぐ。手袋が、[心地よいビロードであろうが何であれ]、外す時がきたのだ。
特殊作戦よ、殻を破れ。真の戦いに入るのだ。
The Kharkov Game-Changer
(ハリコフが風向きを変える)
筆者:ペペ・エスコバール(Pepe Escobar)
出典:INTERNATIONALIST 360°
2022年9月13日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年9月27日
これは生きるか死ぬかの、生存をかけた戦争だ。
心理作戦では戦争には勝てない。ナチスドイツの例を見れば分かる。それでも滑稽なのは、NATO応援団のメディアがハリコフの状況を取り上げて、声を合わせて大声で叫んでいる様だ。メディアは「プーチンに鉄槌が下された」や「ロシア人は窮地に陥った」などと叫んでいる。まさに愚の骨頂だ。
本当に起こっている事実はこうだ。ロシア軍は占領していたハリコフから、オスコル川の左岸に撤退し、現在はそこに陣を引いている。ハリコフ ー ドネツク ー ルガンスクという防衛線は、安定しているようだ。クラスニー・リマン市は、ウクライナ軍の先鋭に包囲され危険な状態にあるが、致命的な状態ではない。
誰も、現在版女性ヘルメス(ギリシャ神話の神の使者)と称されるマリア・ザハロワ(ロシア外務省報道官)でさえも、ロシア参謀本部(RGS)が何を計画しているのか、全く掴めていない。この件に関しても、他のすべての件に関してもそうだ。彼らが、「分かっている」と言っているのは、彼らが嘘つきだからだ。
現状十分納得のできる推測は、スビャトゴルスク ー クラスニー・リマン ― ヤンポル ― ベロゴロフカの防衛線が現在の守備隊で十分長く持ちこたえることができるということだ。持ちこたえられれば、ロシア軍に新戦力が投入され、ウクライナ人をセヴァースキードネッツ川の防衛線まで撤退させることができるだろう。
なぜ今ハリコフがこんな風になってしまったかについては、本当に大きな騒ぎがあった。ドネツク・ルガルンスク両人民共和国とロシアには、1,000 km の長さの前線を守るのに十分な兵力がなかった。NATOの諜報機関がそれに気づき、そこにつけ込んだのだ。
これらの地域にはロシア軍は駐留していなかった。駐留していたのはロシア国家親衛隊だけだったが、この親衛隊は、軍事的訓練を施されていなかった。ウクライナ軍は、数で行くと対敵側と約5対1という有利な状況だった。連合軍が陣を引いたのは、包囲されることを避けるためだった。ロシア軍には損失はなかった。というのも、この地域にはロシア軍が駐留していなかったからだ。
おそらくこんなことが起こるのは、これきりだと思われる。NATOが運営しているウクライナ軍は、ドンバス国内やヘルソン州内やマリウポリ市内のどこかで、今回の再現を成し遂げるのは不可能だろう。これらの地域は強力なロシア正規軍により、全て保護されているからだ。
ウクライナ軍がハリコフとイジューム付近に留まっているのであれば、大規模なロシア軍による砲撃により粉砕されるであろうことは、十分想定されることだ。軍事専門家のコンスタンチン・シブコフ氏はこう明言している。「ウクライナ軍の戦闘態勢にある諸部隊のほとんどが今(ハリコフ内に)駐留している。我が軍はその諸部隊を外におびき出すことに成功し、組織的に粉砕している」と。
NATOが集めた傭兵で溢れていて、NATOが動かしているウクライナ軍が、6ヶ月かけて、軍事装置を集め、訓練を施した兵を温存していたのは、まさにこのハリコフを攻撃するときのためだった。その軍事装置や兵たちが今、激しく潰されているのだ。再びしっかりとした装備や兵たちの配置を維持し、同じような行動を起こすことは非常に難しいだろう。
この先数日は、ハリコフとイジュームが、NATOが進めるより大きな攻撃と繋がるかどうかを見極める時期になろう。 NATOに抑え込まれているEUの雰囲気は、「廃墟の街」に近づいている 。今回の反撃が強く示したのは、NATOが永久にこの戦争に関わろうとしている可能性だ。この仮説を覆す説得力のある要件は少ない。嘘で固められた秘密のベールは、「助言者たち」の存在や、世界中から集められた傭兵を隠すことはできていない。
訳注。Desperation Row「廃墟の街」。ボブ・デュランの楽曲のタイトルから
電源を断つことで、通信網を断つ
ロシアの特殊作戦(SMO)は本来の概念では、領地を征服する目的はない。今のところは、現在もそうであるし、過去もそうだった。本来の目的は、ウクライナに占領された地域のロシア語話者たちの保護のための、非武装化や非ナチ化だった。
その概念が微調整されようとしている可能性がある。そのことと、ロシアが国民に部分的な動員をかけようとしている動きとが結び付けられて、複雑で厄介な議論が巻き起こされている。ただし、部分的な国民動員さえ不要で済む可能性がある。というのも今必要なのは、ロシア・両共和国連合軍が後方・防衛線を守れる程度の余力だからだ。攻撃のほうは、チェチェンのカディロフ首長配下の強靭な兵たちが攻撃を続けてくれるだろうからだ。
イジュームを奪われたことで、ロシア軍が戦略的に重要な拠点を失ったことは否定できない。ここを抑えられなければ、ドンバスの完全な解放は非常に困難になる。
ただし西側連合体にとれば、その屍が、巨大なまやかしのあぶくの中へ前屈みに進みながら、このささやかな軍事的前進を利用して、大きな陽動作戦に打って出ようとしている。そして、「ウクライナ軍はたった4日でハリコフから全てのロシア人を追い出せた、ロシアは6ヶ月かかってドンバスを解放しようとしているのに、できていないじゃないか」と嬉しそうに眺めている。
そのため、西側諸国での支配的な見方(その見方は専門家が必死に構築したものだが)は、ロシア軍が「鉄槌」を下され、回復は不可能だ、というものになっている。
ハリコフが落ちたのは時機をえたものだった。冬将軍の到来がすぐそこまで来ているし、ウクライナ問題について論じることに、世間は既に疲弊していた。そこでプロパガンダを操る勢力は、エンジンターボに潤滑油を差せるようなきっかけが必要だったのだ。数十億ドル相当の武器を前線に送り続けるため、だ
ただしハリコフが落ちたことは、ロシア当局を敵に対してより痛みを伴う手段に出ざるを得ない状況に追い込むことになるかもしれない。ハリコフが落ちたことで、ロシアの数人のキンジャールさんたち(訳注:戦闘機を擬人化した言い方)は、 黒海やカスピ海を後にして、ウクライナ最大のいくつかの火力発電所に名刺を届け(挨拶をし)ようと、ウクライナの北東部や中央部に配置された。(なおウクライナでは、エネルギーの供給基盤のほとんどは南東部にある)。
ウクライナの半分の地域で、突然電力と水の供給が止まった。電車は不通になった。もしロシア当局が、今すぐにウクライナの全ての変電所を手中に置くと決めたならば、ミサイル数発でウクライナの全てのエネルギー供給網の破壊ができる。電源の断絶に成功すれば、「通信網の断絶」という新しい効果も手に入るというわけだ。
専門家の分析によると、「110-330 kV規模の変電所が被害を受ければ、復旧することはほぼ不可能になる。(中略)こんなことが少なくとも5箇所の変電所で同時に起こってしまえば、全てが駄目になり、永久に石器時代状態におかれることになる」
ロシア政府のマラト・バシロフの言い方は、もっと明快だ。「ウクライナは19世紀に逆戻りさせられようとしています。エネルギー体系がなくなれば、ウクライナ軍も存在できなくなるでしょう。電圧将軍が戦地に降りてきて、その後にマロース(ロシアの霜の妖精の名)将軍がついてくる、ということです」
こうなればついに、「真の戦争」の領域に突入することになるのだろう。プーチン大統領が皮肉ぽく言っていたあの悪名高い「私たちはまだ何一つ始めていない」 という発言の真意が見えてきた、と言える。
ロシア参謀本部による決定的な反撃が、この数日で繰り出されることになろう。
繰り返しになるが、ロシアの次の動きが何かについての火のような議論が巻き起こっているのだ。(ロシア参謀本部は、結局のところ何をしてくるか分からない組織なのだ。スターウォーズのヨーダ的存在のパドルシェフ連邦安全保障会議書記は例外だが)。
ロシア参謀本部は、別の場所で激しい戦略的攻撃を繰り出す手に出るかもしれない。狙いはこの状況を(NATO側から見て)最悪の状況に変えてしまうことだ。あるいは、前線を守るために、より多くの軍を送る手に出るかもしれない。(部分的な国民動員は使わずに)。
何よりロシア参謀本部は、特殊作戦の規模を拡大する可能性がある。つまり、ウクライナの交通基盤やエネルギー基盤を完全に破壊しようとすることだ。天然ガスに始まり、火力発電所や変電所の抑え込み、原子力発電所の閉鎖まで行う可能性がある。
そうだ。上に書いた全てを常に組み合わせることもできる。まさにロシア版の「衝撃と畏怖」作戦(訳注:イラク戦争時に米国が取った作戦)だ。経済と社会に前代未聞の破壊状態をもたらすという作戦だ。既にロシア当局はその警告を公的に発している。「我が国は、いつでも、しかも数時間のうちに、あなたがたの社会を石器時代状態に戻すことができます(斜字化は筆者による)。あなたがたの国内の諸都市は暖房はなし、水道は凍結、停電、連絡が取れない状況で冬将軍を迎えることになりますよ」と。
対テロリスト作戦
「中央決定本部」(たとえばキエフ)に間もなくキンザル・ミサイルが発射されるかに衆目が集まっている。発射されれば、ロシア政府の堪忍袋の緒が切れたということになるだろう。
シロビキ(ロシアの国防関係者)の堪忍袋の緒が切れていることははっきりしている。しかし我々は、まだ、そこまで行っていない。今のところは。というのも、外交手腕巧みなプーチン大統領にとって、ロシアの天然ガスをヨーロッパに供給するかどうかについての攻防が戦いの中心になっているからだ。もっともそんなことはアメリカの外交政策にとっては些細な子供じみた事柄ではあるが。
プーチン大統領は、国内からある程度の圧力がかっていることをしっかりと認識している。プーチン大統領は、部分的な国民動員でも拒絶している。この冬に何が起こるかについての見通しをしっかりと見据えた上で、解放された地域での国民投票を実施する意向だ。 その締切は11月4日。 2004年に、10月革命の記念日がこの日に移行された、国家統一記念日だ。ドンバスやルガンスクが国民投票の結果ロシア領となれば、ウクライナによるどんな反撃も、すべてロシア連邦への直接の攻撃となる。それがどういう意味になるのかは、誰もが理解している。
今や痛みを伴うほど明白な事実は、西側諸国連合が戦争を行っている時、それは多様な側面からの、活発な煽りで、大規模な諜報活動や、人工衛星からの情報や、大量の傭兵たちを投入した戦争なのだが、特殊作戦(SMO)の意味をしっかりと掴んでいないまま、「それに対抗する特殊作戦を起こせばいい」と主張している人々にとっては、幾分嫌な思いを伴う展開が待っているかもしれないということだ。
したがって、特殊作戦(SMO)の方向性を今すぐ変えた方がいいかもしれない。対テロリスト作戦という方向性に、だ。
この戦争は生存をかけた戦いだ。生きるか死ぬかの戦いだ。米国の地政学的/経済的目的を一言でまとめれば、ロシアの国家としてのまとまりを破壊し、政権転覆を仕掛け、豊富なロシアの天然資源を搾取してしまうことだ。 ウクライナはただの砲弾の餌食でしかない。倒錯した歴史の再現のようなものだ。具体的にはティムールによる1401年のバグダッド侵略の現代版だ。その際ティムールは、120の塔を建て、そこに虐殺した人々の頭蓋骨をピラミッドのように並べた。
ハリコフは、ロシア参謀本部が目を覚まし、「鉄槌」を下す契機になるかもしれない。遅かれ早かれ。
いや、事は急ぐ。手袋が、[心地よいビロードであろうが何であれ]、外す時がきたのだ。
特殊作戦よ、殻を破れ。真の戦いに入るのだ。
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