<記事原文 寺島先生推薦>
‘Lavender’: The AI machine directing Israel’s bombing spree in Gazaイスラエル軍は、ほとんど人間が監督しないAI標的追求システムを使用し、犠牲者が出ても仕方がないとする方針をとって、テロリスト容疑者として何万ものガザ人を標的として指定していることが「+972とLocal Call」によって明らかになった。筆者:ユバル・エイブラハム(Yuval Abraham)
出典:972mag 2024年4月3日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年4月25日
2023年12月28日、ガザ地区北部のベイトラヒアでのイスラエル軍の空爆後に立ち上る煙。(ヨナタン・シンデル/Flash90)
By Yuval Abraham April 3, 2024
以下のサイトと共同
2021年、「Y.S准将」のペンネームで『人間と機械のチーム:世界に革命をもたらす人間と人工知能の相乗効果を生み出す方法』というタイトルの本が英語で出版された。その中で著者(イスラエルの精鋭諜報部隊8200の現司令官であることを本誌が確認した人物)は、大量のデータを迅速に処理して、戦争の熱気の中で軍事攻撃のための数千の潜在的な「標的」を生成できる特別なマシンを設計すべきだと主張している。そのような技術があれば、彼の言う「新しい標的を見つけることと、標的を承認するための意思決定の両方における人間的邪魔の存在」を解決するだろうと彼は書いている。
そのような機械が実際に存在することがわかった。「+972 MagazineとLocal Call」の新たな調査によると、イスラエル軍は「ラベンダー」として知られる人工知能 (AI) ベースのプログラムを開発していることが明らかになった。そのことを明らかにしたのは本誌が初めてである。現在のガザ地区での戦争に従軍し、暗殺の標的を生成するためのAIの使用に直接関与した6人のイスラエルの情報将校によると、「ラベンダー」は、特に今回の戦争の初期段階において、前例のないパレスチナ人への爆撃で中心的な役割を果たしたという。情報筋によると、AIが軍の作戦に与えた影響は大きく、軍はAIマシンの出力を「人間の判断であるかのように」扱っていたという。
表面的には、「ラベンダー」は、ハマスとイスラム聖戦の軍事部門の工作員と思われる人間はすべて、下級の階級を含めて、爆撃の標的と見なすよう設計されている。情報筋が「+972 and Local Call 」に語ったところによると、戦争初期の数週間、軍はほぼ完全に「ラベンダー」に依存し、最大37,000人のパレスチナ人を戦闘員と疑われるとしてマークし、その家を可能な空爆の対象としていた、とのことだ。
この戦争の初期段階で、(イスラエル)軍は指揮官たちに対して、機械(「ラベンダー」)がそれらの選択を行なった理由を徹底的に確認する必要も、それらが基づいている生の情報データを調査する必要もなく、「ラベンダー」の殺害リストを採用する広範な承認を与えた。ひとりの情報筋によると、人間はしばしば「ラベンダー」の決定のための「ゴム印」として働き、通常、爆撃を承認する前にマークされた標的が男性であることを確認するために1事例につき約「20秒」しか割り当てられなかった。「誤り」が約10%あり、時折、戦闘員集団と緩やかなつながりを持つか、まったくつながりがない個人を「ラベンダー」がマークすることがあるということがわかっていてもこの手順に変更はなかった。
さらに、イスラエル軍は、標的となった個人を、軍事行動の最中ではなく、自宅にいる間(通常は夜間、家族全員がいる間)に組織的に攻撃した。情報筋によれば、これは諜報活動の観点から、個人宅の方が個人の居場所を特定しやすかったからだという。今回初めて明らかになった "Where's Daddy?(パパ、どこ?)"と呼ばれるものを含む、追加の自動化システムは、標的となった個人を追跡し、彼らが家族の住居に入ったときに爆破を実行するために特別に使われた。
2023年11月17日、ガザ地区南部の都市ラファにあるシャブーラ難民キャンプで、イスラエル軍による家屋への空爆後、負傷者を搬送し、火を消そうとするパレスチナ人。(Abed Rahim Khatib/Flash90)情報筋が証言しているが、その結果、数千人のパレスチナ人 (そのほとんどが女性や子ども、戦闘に関与していない人々) がイスラエルの空爆によって皆殺しにされた。特に戦争の最初の数週間は、AIプログラムの決定が原因だった。
「我々には、ハマスの工作員が軍の建物にいるときや軍事活動に従事しているときだけ殺す、なんていうことは関心外でした」と情報将校のA氏は「+972とLocal Call」に語った。「それどころか、イスラエル国防軍は、第一の選択肢として、ためらうことなく家屋を爆撃したのです。一家が住む家を爆撃するほうがずっと簡単だからです。このシステムは、このような状況で工作員を探すように構築されているのです」。
「ラベンダー」は、もう1つのAIシステム「ザ・ゴスペル」と結びついている。このことは「+97 2and Local Call」による以前の調査で2023年11月に明らかにされた情報と、イスラエル軍が発行した出版物においても言及されている。両システムの根本的な違いは、標的の定義にある:戦闘員が活動していると軍が主張する建物や構造物を「ザ・ゴスペル」がマーキングするのに対し、「ラベンダー」は人間をマーキングし、彼らを殺害リストに載せるのだ。
さらに、情報筋によると、「ラベンダー」がマークしたとされる下級戦闘員を標的にすることになると、軍は一般的に「無誘導」爆弾 (「スマート」精密爆弾とは対照的) として知られている無誘導ミサイルだけを使用することを選んだ。これは、占拠者ばかりでなく建物全体を破壊し、かなりの死傷者を出すことできる。情報将校の一人であるC氏は、「高価な爆弾を重要でない人間のために浪費するのは望ましくありません。この爆弾はイスラエル国家にとってとても高価なものです。数も足りません」と語った。別の情報筋によると、司令官たち「ラベンダー」がマークしたとされる下級工作員の「何百という」の個人宅への爆撃を個人的に許可し、これらの攻撃の多くは「巻き添え被害」として民間人と一家全員を殺害したという。
二人の情報筋によると、前代未聞の動きとして、軍は戦争の最初の数週間に、「ラベンダー」がマークしたハマスの下級工作員一人につき15人から20人までの民間人を殺害してもよいと決定した。過去には、軍は下級戦闘員の暗殺時に「巻き添え被害」を許可していなかった。情報筋は、標的が大隊または旅団司令官の階級を持つハマスの高官であった場合、軍は何度か、一人の司令官の暗殺で100人以上の民間人の殺害を許可したと付け加えた。
2023年10月24日、ガザ地区南部ラファのアル・ナジャール病院で、イスラエルの空爆で死亡した親族の遺体を受け取るのを待つパレスチナ人。(Abed Rahim Khatib/Flash90)以下の調査は、ガザ戦争の初期の数週間におけるイスラエル軍の高度に自動化された標的製造の6つの年代順の段階に従って構成されている。最初に、AIを使用して数万人のパレスチナ人をマークした「ラベンダー」自体を説明する。第二に、標的を追跡し、彼らが家族の家に入ったときに軍に信号を送る「Where’s Daddy(パパ、どこ?)」システムを明らかにする。第三に、これらの家を攻撃するために「無誘導」爆弾がどのように選択されたかを記述する。
第四に、標的爆撃の際に殺害できる民間人の許容数を軍がどのように緩めたかを説明する。第五に、自動化ソフトウェアが各家庭の非戦闘員の数をいかに不正確に計算していたかに注目する。第六に、家が攻撃されたとき、大抵は夜間に、標的本人が家の中にいないことがあったことを示す。軍の将校がリアルタイムで情報を確認しなかったためだ。
手順1:標的の生成
「一度自動化すると、標的生成は滅茶苦茶になってしまう」イスラエル軍では、過去に「人間の標的」という用語は、軍の国際法局の規定により、民間人がその周囲にいても個人宅で殺害できる上級軍事工作員を指していた。情報筋が「+972 and Local Call 」に語ったところによると、イスラエルの以前の戦争では、これは誰かを殺す「特に残忍な」方法であったため (しばしば標的と一緒に家族全員を殺すことになるから)、国際法の下で均衡の原則を維持するために、そのような人間の標的は非常に注意深くマークされ、上級軍司令官だけが自宅を爆撃された。
しかし、ハマス主導の戦闘員がイスラエル南部のコミュニティに致命的な攻撃を仕掛け、約1,200人を殺害し、240人を拉致した10月7日以降、軍は劇的に異なるアプローチを取ったと情報筋は述べている。「鉄の剣作戦」では、軍は階級や軍事的重要性に関係なく、ハマスの軍事部門のすべての工作員を人間の標的に指定することにした。そして、それがすべてを変えた。
新しい政策は、イスラエルの諜報機関に技術的な問題ももたらした。以前の戦争では、1人の人間標的の暗殺を許可するために、将校は複雑で長い「有罪」手続きを経なければならなかった。その人物が確かにハマスの軍事部門の幹部であるという証拠を照合し、その人物の居住地と連絡先を調べ、最終的にリアルタイムでその人物がいつ帰宅したかを調べるのだ。標的のリストが数十人の上級工作員しかいない場合、諜報員は彼らを有罪にし、居場所を特定する作業を個別に処理することができた。
2023年10月22日、ガザ中心部のデイル・アル・バラにあるアル・アクサ殉教者病院付近の建物をイスラエル軍が空爆した後、生存者を救出し、瓦礫から遺体を引き揚げようとするパレスチナ人。(Mohammed Zaanoun/Activestills)しかし、リストが数万人の下級工作員を含むようになると、イスラエル軍は自動化されたソフトウェアと人工知能 (AI) に頼らざるを得ないと考えた。その結果、パレスチナ人を軍事工作員として有罪にするための人間の役割は脇に追いやられ、代わりにAIがほとんどの仕事をしたと情報筋は証言している。「+972and Local Call」に話をした情報筋によると、現在の戦争で人間を標的にするために開発された「ラベンダー」は、約37,000人のパレスチナ人を「ハマス戦闘員」の容疑者としてマークしており、そのほとんどが暗殺の対象となっている (IDFの広報担当者は、「+972 and Local Call」への声明でそのような殺害リストの存在を否定している) 。
「イスラエルは(この戦争以前に)日常的に彼らを追跡していなかったので、私たちは下級工作員が誰なのか知りませんでした」と上級将校Bは「+972 and Local Call」に説明し、今回の戦争のためにこの特殊な標的・マシンを開発した理由を明らかにした。「下級工作員を)自動的に攻撃できれば、とは思っていました。(しかし)そんなことは望んでもできるはずもないことです。ひとたび自動化すれば、標的の生成は滅茶苦茶になってしまいますから」。
情報筋によれば、それまでは補助的なツールとしてしか使われていなかった「ラベンダー」の殺害リストを自動的に採用することが承認されたのは、戦争が始まって2週間ほど経った頃で、情報部員がAIシステムによって選択された数百人の標的のランダムサンプルの正確性を「手動で」チェックした後だったという。そのサンプルで「ラベンダー」の結果が、ハマスに所属する個人を特定する精度が90%に達していることが判明すると、軍はシステムの全面的な使用を許可した。その瞬間から、情報筋によれば、「ラベンダー」がある個人をハマスの戦闘員と判断した場合、基本的にそれを命令として扱うように求められ、「ラベンダー」がその選択をした理由を独自にチェックしたり、その根拠となる生の情報データを調査したりする必要はなかったという。
「午前5時に (空軍が) やってきて、私たちがマークしたすべての家を爆撃しました」とB氏は述べた。「何千人もの人をピックアップしました。私たちは彼らを1人ずつ調べたのではなく、すべてを自動化されたシステムに入れ、(マークされた人物の) 1人が家にいるとすぐに標的になりました。私たちは彼と彼の家を爆撃しました」。
「戦闘における重要性が非常に低い地上兵を殺すために、家を爆撃するよう要請されたことは、私にとって非常に驚きでした」と、ある情報筋は、低位の戦闘員とされる人物をマークするためのAIの使用について語った。「私はそういう標的を "ゴミ標的 "と呼んでいました。それでも、"抑止力 "のためだけに爆撃する標的、つまり破壊を引き起こすためだけに避難させられたり倒されたりする高層ビルよりは、倫理的(に許される)と思いました」。
戦争初期におけるこの規制緩和がもたらした致命的な結果は、驚くべきものだった。ガザのパレスチナ保健省が発表したデータ(イスラエル軍は戦争開始以来、ほとんどこれだけを頼りにしてきた)によれば、11月24日に1週間の停戦が合意されるまでの最初の6週間で、イスラエルは約15,000人のパレスチナ人(これまでの死者数のほぼ半分)を殺害した。
2023年10月10日、イスラエル軍による空爆の標的となったガザ市アル・リマル民衆地区。(Mohammed Zaanoun/Activestills)「情報は多ければ多いほどよく、種類も多いほどよい」「ラベンダー」は、集団監視システムを通じてガザ地区の住民230万人のほとんどについて収集された情報を分析し、各特定人物がハマスやPIJの軍事組織で活動している可能性を評価し、ランク付けする。情報筋によれば、「ラベンダー」はガザに住むほぼすべての人に、戦闘員である可能性を1から100までの評価で示す。
情報筋の説明によると、「ラベンダー」は、ハマスとPIJの既知の工作員の特徴を識別することを学習し、その情報を訓練データとして自分の中に取り込んだ後、これらの同じ特徴 (「features」とも呼ばれる) を一般集団の中で特定するという。いくつかの異なる特徴を持っていることが判明した個人は、高い評価に達し、自動的に暗殺の潜在的な標的になる。
冒頭で紹介した『人間と機械のチーム』では、8200部隊の現司令官が、「ラベンダー」の名前に言及することなく、このようなシステムを提唱している。(司令官自身の名前も出てこないが、Haaretzも報じたように、8200部隊の5人の情報筋はこの司令官が著者であることを確認している)。司令官は、人間を軍事作戦中の軍の能力を制限する「邪魔の存在」と表現し、こう嘆く:「我々(人間)はそれほど多くの情報を処理できない。戦争中に標的を作る任務を何人課したとしても、1日に十分な数の標的を生成することはできない。」
この問題の解決策は人工知能だと彼は言う。この本は、AIと機械学習アルゴリズムに基づいて、「標的マシン」(その記述からすれば「ラベンダー」に似ている)を構築するための短いガイドを提供している。このガイドには、個人の評価を高めることができる「何百、何千」もの特徴の例がいくつか含まれている。たとえば、戦闘員とわかっている人間とWhatsAppグループに参加している、数か月ごとに携帯電話を変える、頻繁に住所を変える、などだ。
「情報は多ければ多いほどよく、種類も多いほどよい」と司令官は書いている。「視覚情報、携帯情報、ソーシャルメディアとのつながり、戦場情報、電話連絡先、写真。最初は人間がこれらの特徴を選択するが、時が経てば、機械が自ら特徴を識別するようになるだろう、と司令官は続ける。これによって、軍隊は「何万ものターゲット」を作成することができるようになるが、攻撃するかどうかの実際の判断は人間が行なうことになるという。
イスラエルの上級司令官が「ラベンダー」のような人間標的マシンの存在をほのめかしたのは、この本だけではない。「+972 and Local Call」は、2023年にテルアビブ大学のAI週間で8200部隊の極秘データサイエンス・AIセンターの司令官「ヨアヴ大佐」が行ない、当時イスラエルのメディアで報道された個人講義の映像を入手した。
この講義の中で、司令官はイスラエル軍が使用する新しい高度な標的機械について話している。この機械は、戦闘員とわかっている人間(そのリストとの類似性に基づいて「危険人物」を検出する。「このシステムを使って、我々はハマスのミサイル分隊の司令官を特定することができた」と「ヨアヴ大佐」は講義の中で述べ、この機械が初めて使われた2021年5月のイスラエルのガザでの軍事作戦について言及した。
2023年にテルアビブ大学で行われたIDF8200部隊のデータサイエンス・AIセンター司令官による講義のスライド(「+972 and Local Call」が入手)2023年にテルアビブ大学で行われたIDF8200部隊のデータサイエンス・AIセンター司令官による講義のスライド(「+972 and Local Call」が入手)「+972 and Local Call」が入手した講演会のスライドには、このマシーン(「ラベンダー」)がどのように機能するかが図解されている。既存のハマスの工作員に関するデータが与えられ、その特徴に気づくように学習し、他のパレスチナ人が戦闘員とどの程度似ているかに基づいて評価する。
ヨアヴ大佐は講演の中で、「最終的には生身の人間が決断を下します」と強調した。防衛の分野では、倫理的な面で、我々はこれを重視しています。これらのツールは、(情報将校が)彼らの壁を破るのを助けるためのものです」。
しかし、実際には、ここ数ヶ月の間に「ラベンダー」を使用した情報筋によると、人間の主体性と精度は、大量の「標的」作成と致死性によって置き換えられている。
「“誤謬ゼロ”政策はまったくありませんでした」。「ラベンダー」を使用していた上級将校のB.は「+972 and Local Call」に、現在の戦争では時間を節約し、支障なく人間の標的を大量生成できるようにするために、将校はAIシステムの評価を独立して見直す必要はないと述べた。
「すべてが統計的、すべてが杓子定規でした。とても機械的だったのです」とB氏は述べた。彼は、「ラベンダー」の計算が90%しか正確でないと考えられていたことを内部チェックが示していたにもかかわらず、人間の監督は不要とされた、と指摘した。つまり、暗殺の対象となる人間の10%はハマスの軍事組織のメンバーではないことが事前にわかっていたのだ。
例えば、情報筋の説明によると、「ラベンダー」は時々、ハマスやPIJの工作員とわかっている人間に似たコミュニケーションパターンを持つ個人に誤ってフラグを立てることがあったという。その中には、警察や民間防衛の労働者、戦闘員の親族、たまたま工作員と同じ名前とニックネームを持っていた住民、かつてハマス工作員が使っていた装置を使っていたガザ住民などが含まれる。
「どのくらいハマスに近ければ、その組織に属している (とAIが判断する) のでしょうか?」と、「ラベンダー」の不正確さに批判的な情報筋は言う。「境界線は曖昧です。ハマスから給料をもらっていないのに、いろいろなことで彼らを助ける人は、ハマスの工作員ですか? 過去にハマスにいたが、現在はもう所属していない人は、ハマスの工作員ですか? これらの各特徴 (「ラベンダー」が疑わしいとフラグを立てる特徴) は不正確です」。
2024年2月24日、ガザ地区南部ラファのイスラエル軍空爆現場でのパレスチナ人。(Abed Rahim Khatib/Flash90)
同様の問題は、暗殺対象としてマークされた人物が使用している電話を標的マシンが評価する能力にも存在する。同筋は「戦争ではパレスチナ人はしょっちゅう電話を変えます」と述べた。「家族と連絡が取れなくなったり、友人や妻に携帯電話を渡したり、紛失したりすることもあります。どの [電話] 番号が誰のものかを判断する自動メカニズムに100%依存することなどできません」。
情報筋によると、軍は最小限の人間の監視ではこれらの欠陥を発見できないことを知っていた。「ラベンダー」を使用したある関係者は、「“誤謬ゼロ”の政策はありませんでした。間違いは統計的に処理されました」と話した。「対象範囲と規模の大きさから、手順では、機械が正しいかどうか確信が持てなくても、統計的に問題がないことがわかっていれば、それを実行するというものでした」 。
上級消息筋のB氏は「効果は実証済みです」と述べた。「統計的アプローチには、特定の規範や基準を設定する何かがあります。この作戦には非論理的な数の (爆撃) がありました。私の記憶では、こんなことは今までありません。私は2日前に友人を失った兵士よりも統計的メカニズムを信頼しています。私を含め、そこにいた全員が10月7日に知り合いを失っています。機械(「ラベンダー」)だから冷静に事を為せたのです。そして、(人間よりも)楽にやってくれました」。
「ラベンダー」が作成したパレスチナ人容疑者の殺害リストへの依存を擁護する別の情報筋は、標的がハマスの上級司令官である場合には、情報を検証するためだけに情報将校の時間を費やす価値があると主張した。「しかし、下級戦闘員となると、人手と時間を投資したくないですよね」と同氏は述べた。「戦争では、すべての標的の有罪を確認する時間はありません。だから、人工知能を使うことの誤差を受け入れ、巻き添え被害や民間人の死、誤って攻撃するリスクを冒すことも厭いません。そして(そんな不合理さに)耐えていくことも喜んでするのです」。
B氏は、この自動化の理由は、暗殺の標的を増やせという絶え間ない突き上げがあるからだと述べた。「 (攻撃を許可できる十分な機能評価が整った) 標的がない日には、より低い閾値で攻撃しました。私たちはいつも圧力をかけられていました。「もっと標的を持って来い!」と上官は私たちを怒鳴りつけました。私たちはあっと言う間に標的を(殺し)終えたのです」。
「ラベンダー」の評価基準を下げると、より多くの人が攻撃対象になると彼は説明した。「ピーク時には、このシステムは37,000人を潜在的な人間の標的として生成しました」とB氏は言った。「しかし、数字は常に変化しています。ハマスの工作員が何であるかの基準をどこに設定するかによるからです。ハマスの工作員がもっと広く定義されていた時期もありましたが、その後、「ラベンダー」はあらゆる種類の民間防衛要員や警察官をリストに載せるようになりました。爆弾を無駄に使うにはもったいない人たちです。彼らはハマス政府を助けてはいますが、(イスラエル)兵士たちを実際に危険にさらすことはしていません」。
2024年3月18日、ガザ地区南部のラファで、イスラエル軍の空爆によって破壊された建物の跡地にいるパレスチナ人。(Abed Rahim Khatib/Flash90)「ラベンダー」を訓練した軍のデータ科学チームに協力していたある関係者によると、ハマスが支配する国内治安省の職員 (同氏は戦闘員ではないと考えている) から収集したデータも「ラベンダー」に入力されていたという。「私が気になったのは、「ラベンダー」が訓練されたとき、彼らが「ハマスの工作員」という言葉を曖昧に使っていたことと、訓練データセットに民間防衛労働者が含まれていたことです」と同氏は述べた。
この情報筋によると、このような人々は殺されて当然だと思っていても、コミュニケーションプロファイルに基づいてシステムを訓練することで、「ラベンダー」のアルゴリズムを一般の人々に適用した場合、誤って民間人を選択する可能性が高くなるという。「それは人間によって手動で操作されない自動システムであるため、この決定の意味は劇的です:それは、民間人のコミュニケーションプロファイルを持つ多くの人々を潜在的な標的として含めてしまうことを意味するからです」。
「私たちがチェックしたのは、標的は男性であるということだけでした」。
イスラエル軍はこれらの主張をきっぱりと否定している。イスラエル国防軍の広報担当者は、「+972 and Local Call」への声明で、標的を有罪にするために人工知能 (AI) を利用することを否定し、これらは「将校が有罪判決を下す過程を支援する補助ツール」にすぎないと述べた。声明はさらに、「いずれの場合も、IDF指令と国際法に定められた条件に従って、特定された標的が正当な攻撃目標であることを検証する(情報)アナリストによる独立した調査が必要である」と続けた。
しかし、情報筋によると、「ラベンダー」がマークした「下級」戦闘員と疑われる家を爆撃する前に実施された唯一の人間の監視手順は、AIが選択したターゲットが女性ではなく男性であることを確認するという1つのチェックを行なうことだった。ハマスとPIJの軍事部門には女性はいないので、標的が女性であれば、機械が間違いを犯した可能性が高いというのが軍の想定だった。
「人間はほんの数秒で(ターゲットを検証)しなければなりませんでした」とB氏は言った。「ラベンダー」がほとんどの時間「正しく」動作していることに気づいてから、これが手順になったと説明した。「最初は、機械が混乱しないようにチェックしました。しかし、ある時点で自動システムに頼り、(ターゲットが) 男性であることを確認しただけで十分でした。声が男か女かを見分けるのに時間はかかりません」。
男女チェックを行なうために、B氏は現在の戦争では「現段階では1人の標的に20秒を費やし、毎日それを何十回も行ないます。承認印を押す以外、人間としての付加価値はゼロでした。時間の節約になりました。もし(工作員が)自動化されたメカニズムの中に現れ、私が彼を人間であることを確認すれば、巻き添え被害の調査を条件として、彼を爆撃する許可が出たのです」と主張した。
2023年11月20日、ガザ地区南部ラファで、イスラエル軍の空爆により破壊された家屋の瓦礫の中から現れるパレスチナ人。(Abed Rahim Khatib/Flash90)実際には、これは「ラベンダー」によって誤ってマークされた民間人のために、間違いを検出するための監督メカニズムがないことを意味していると情報筋は述べた。B氏によると、「(ハマスの)標的が (自分の携帯電話を) 息子や兄弟、あるいはただの通りすがりの男に渡した場合、その人は家族と一緒に家の中で爆撃されます。これはよくありました。これらは「ラベンダー」が引き起こした間違いのほとんどでした」とのことだ。
手順2:標的の生成
「殺された人の大半は女性と子どもだった」イスラエル軍の暗殺手順の次の段階は、「ラベンダー」が生成した標的を攻撃する場所を特定することだ。
「+972 and Local Call」への声明で、IDFの広報担当者は本記事に対して、「ハマスは、その工作員と軍事資産を民間人の中心に置き、組織的に民間人を人間の盾として利用し、病院、モスク、学校、国連施設などの機密施設を含む民間施設の内部から戦闘を行なっている。IDFは国際法に拘束され、それに従って行動しており、攻撃は軍事目標と軍事工作員にのみ向けられている」と主張した。
私たちが話をした6人の情報筋も、ある程度これに同調し、ハマスの大規模なトンネルシステムは意図的に病院や学校の下を通っていると述べた。ハマスの戦闘員は救急車を使って移動している。そして、無数の軍事資産が民間の建物の近くに位置していること。情報筋は、ハマスによるこれらの戦術の結果として、イスラエルの攻撃の多くが民間人を殺害していると主張した。人権団体が警告するこの特徴づけは、犠牲者を出したイスラエルの責任を曖昧にするものだ。
しかし、イスラエル軍の公式声明とは対照的に、情報筋は、イスラエルの現在の爆撃による前例のない死者数の主な理由は、軍が標的の個人宅を家族とともに組織的に攻撃しているという事実にあると説明している。これは、情報の観点から、自動化されたシステムを使って家族の家をマークする方が簡単だったからである。
実際、複数の情報筋は、ハマス工作員が民間人地域から軍事活動に従事している多くの事例とは対照的に、組織的な暗殺攻撃の場合、軍は日常的に、軍事活動が行われていない民間人世帯の中にいるときに戦闘員と疑われる者を爆撃するという積極的な選択をしていると強調した。この選択は、ガザにおけるイスラエルの大規模監視システムの設計方法を反映していると彼らは述べた。
イスラエル軍がガザ地区を攻撃し続ける中、多くの子供を含む負傷者をガザ市のアル・シファ病院に運ぶパレスチナ人(2023年10月11日)。(Mohammed Zaanoun/Activestills)情報筋が「+972 and Local Call」に語ったところによると、ガザでは誰もが関連づけられる個人の家を持っているため、軍の監視システムは個人と家族の家を簡単かつ自動的に "結びつける "ことができるのだという。工作員が家に入った瞬間をリアルタイムで特定するために、さまざまな自動ソフトが追加開発された。これらのプログラムは、何千人もの個人を同時に追跡し、彼らがいつ家にいるかを特定し、標的担当官に自動警告を送り、標的担当官はその家を爆撃の対象とする。今回初めて公開されたこれらの追跡ソフトのひとつは、"Where's Daddy?(パパ、どこ?)"と呼ばれるものだ。
「何百人もの(標的)をシステムに入れて、誰を殺せるかを待つのです」とこのシステムに詳しい情報筋は言う。「これはブロード・ハンティングと呼ばれ、この標的・システムが生成するリストからコピー・ペーストします」。
この方針の証拠はデータからも明らかだ。国連の数字によれば、戦争開始後1カ月間で、死者の半数以上にあたる6,120人が1,340世帯に属し、その多くが家の中で全滅したという。今回の戦争で、家族全員が家の中で爆撃を受けた割合は、2014年のイスラエルによるガザ作戦(イスラエルがガザ地区で行なった戦争で最も死者が多かった)よりもはるかに高く、この方針の結果が突出していることをさらに示唆している。
別の情報筋によると、暗殺のペースが落ちるたびに、自宅に侵入することで爆撃される可能性のでてくる個人を特定するためにWhere's Daddy?システムに標的が追加されたという。誰を追跡システムに入れるかの決定は、軍の序列の中で比較的下級の将校によってなされる可能性がある、と彼は述べた。
同筋は「ある日、私は自分の意志で、1,200ほどの新しい標的を(追跡)システムに追加しました。攻撃の数が減ったからです。」と述べた。「それは納得できました。今にして思えば、それは私にとって重大な決断だったようです。そして、そのような決定は、階級の高い方々はしませんでした」。
情報筋によると、戦争の最初の2週間で、「数千」のターゲットが「Where's Daddy?(パパ、どこ?)」位置特定プログラムに入力されたという。その中には、ハマスの精鋭特殊部隊ヌクバの全メンバー、ハマスの対戦車工作員全員、そして10月7日にイスラエルに入国した者全員が含まれている。しかし、間もなく殺害リストは大幅に拡大された。
ある消息筋は「最終的には (「ラベンダー」でマークされた) 全員だった」と説明した。「何万人もになった。これは数週間後、(イスラエル)旅団がガザに入った時に起こった。そして、北部地域では、すでに無関係な人々(すなわち民間人)の数は少なくなっていた」。この情報筋によると、「ラベンダー」によって爆撃の標的としてマークされた未成年者もいたという。「通常、工作員は17歳以上ですが、それは条件ではありませんでした」。
2023年10月18日、ガザ地区中央部ガザシティのアル・シファ病院で、混雑のため床の上で治療を受ける負傷したパレスチナ人。(Mohammed Zaanoun/Activestills)「ラベンダー」とWhere's Daddy?システムはこのように組み合わされ、死者を伴う効果を生み出し、家族全員が死亡したと情報筋は述べている。「ラベンダー」によって生成されたリストの名前がWhere’s Daddy?追跡システムでマークされた人は継続的な監視下に置かれ、家に足を踏み入れた途端に攻撃され、全員が中にいるまま家が崩壊する可能性があるとA氏は説明した。
「ハマス (工作員) が一人いて、それに10人 (家にいる民間人) を加えて計算するとしましょう」とA氏は言った。「通常、この10人は女性と子供です。不条理なことに、あなたが殺した人のほとんどが女性と子供だったということになるのです」。
手順3:武器の選択
「私たちは通常“無誘導爆弾”を使って攻撃しました」「ラベンダー」が暗殺の標的に印をつけ、軍人が男性であることを確認し、追跡ソフトウェアが標的の自宅を特定したら、次の段階は標的を爆撃するための弾薬を選ぶことだ。
2023年12月、CNNは、米国の情報機関の推定によると、ガザ地区のイスラエル空軍が使用した弾薬の約45%が誘導爆弾よりも巻き添え被害を与えることが知られている「無誘導」爆弾であると報じた。CNNの報道を受けて、先に記事に引用した軍の広報担当者は、「国際法と道徳的行動規範に従うことを誓う軍隊として、私たちは、ハマスが人間の盾の役割を強いてきた民間人への被害を最小限に抑えるために、膨大な資源を投入しています。我々の戦争はハマスに対するものであり、ガザの(一般の)人々に対するものではありません」と述べた。
しかし、三人の情報筋は、「+972 andとLocal Call」に、「ラベンダー」によってマークされた下級工作員は、より高価な武器を節約するために、無誘導爆弾だけで暗殺されたと語った。ある情報筋の説明によると、軍は、より精密で高価な「床爆弾」(副次的効果がより限定されている)を使って下級標的を殺害することを望まないため、その標的が高層ビルに住んでいる場合は攻撃しないということであった。しかし、数階しかない建物に下級標的が住んでいた場合、軍は彼とその建物の全員を無誘導爆弾で殺害する許可が与えられていた。
2024年3月18日、ガザ地区南部のラファで、イスラエル軍の空爆によって破壊された建物の跡地にいるパレスチナ人。(Abed Rahim Khatib/Flash90)「それはすべての下級標的に当てはまりました」と現在の戦争で、さまざまな自動プログラムを使用していたC氏は証言した。「唯一の問題は、巻き添え被害の観点から建物を攻撃することが可能かどうかでした。通常、私たちは無誘導爆弾を使用して攻撃を行い、それは文字どおり、住人ごと家全体を破壊することを意味しました。しかし、攻撃がそらされた場合でも、気にすることはありません-すぐに次の標的に移ります。そのため、このシステムのおかげで、標的は決して尽きることはありません。まだ次の3万6千の標的が待っています」。
手順4:民間の犠牲者を許可する
「私たちは巻き添え被害をほぼ考えることなく攻撃した」ある情報筋によると、AIシステム「ラベンダー」などによってマークされた下級工作員を攻撃する際、各標的につき最大20人の民間人を殺すことが初期の数週間で決まっていたとされている。別の情報筋では、この固定数が最大15人であったと主張している。これら「巻き添え被害度」と呼ばれるものは、軍事がすべての疑わしい下級戦闘員に広く適用され、彼らの階級、軍事的重要性、年齢にかかわらず、彼らを暗殺することの軍事上の利点と民間人に与える予想される損害を天秤にかける特定の事例ごとの検討が行われなかったと、情報筋は述べている。
今回の戦争で標的作戦室の将校だったA氏によると、軍の国際法部門がこれほど高い巻き添え被害を「全面的に認めたことはない」という。A氏は、「ハマスの兵士であれば誰でも殺せるということだけではない。これは国際法上明らかに許されており、合法的なことだからです」と話した。「しかし、彼ら(軍の国際法部門)は、「多くの民間人と一緒に彼らを殺すことが許されている」と直接指示するのです」と語った。
「過去1、2年の間にハマスの制服を着ていた人なら誰でも、特別な許可がなくても、20人の(民間人を)巻き添えにして爆撃することがありました」とA氏は続けた。「実際には、比例原則は存在しませんでした」。
A氏によれば、彼が従軍していたほとんどの期間この方針だったという。軍が巻き添え被害の程度を引き下げたのは後になってからだ。「この計算では、下級の工作員でも20人の子どもが犠牲になる可能性があります・・・昔は本当にそんなことはありませんでした」とA氏は説明した。この方針の背景にある安全保障上の根拠について尋ねると、A氏はこう答えた: "致死性 "です」。
2023年11月7日、ガザ地区南部ラファのアル・ナジャール病院で、イスラエルの空爆で死亡した親族の遺体を受け取るのを待つパレスチナ人。(Abed Rahim Khatib/Flash90)事前に決められた固定された巻き添え被害度は、「ラベンダー」を使用した標的の大量作成を加速させた、と情報筋は述べた。時間を節約することになったからだ。AIによってマークされた下級戦闘員一人当たり戦争初週で許可された民間人の殺害数は15人だったが、この数は時間とともに「上下した」とB氏は述べた。
10月7日以降の最初の1週間について、B氏は「実際には、(爆撃された各家の) 人々を実際には数えていませんでした。なぜなら、彼らが家にいるかどうかを実際には判断できなかったからです。1週間後、巻き添え被害に対する規制が始まりました。その数は (15人から) 5人に減り、私たちが攻撃するのは本当に難しくなりました。なぜなら、家族全員が家にいたら爆撃できないからです。その後、彼らは再び数を上げました」と述べた。
「百人以上殺すことになるのはわかっていました」
情報筋が「+972 and Local Call」に語ったところによると、アメリカの圧力もあって、イスラエル軍はもはや民間人の家を爆撃するために若い人間の標的を大量生成していないという。ガザ地区のほとんどの家屋がすでに破壊され被害を受けており、ほぼ全住民が避難民となっているという事実も、(イスラエル)軍が諜報データベースや自動家宅捜索プログラムに頼る能力を損なっている。
E氏は、下級戦闘員への大規模な爆撃は戦争の最初の1、2週間だけであり、爆弾を無駄にしないために、だいたいは中止されたと主張した。「砲弾を節約しなければならないのです」とE氏は言った。「彼らはいつも北で(レバノンのヒズボラとの戦争)が起こるのではないかと恐れていました。彼らはもうこのような人たち (下級戦闘員) を攻撃することは皆無です」。
しかし、ハマスの上級司令官に対する空爆はまだ続いており、情報筋によると、軍はこれらの攻撃に対して、標的ごとに「数百人」の民間人を殺害することを認めているという。このような公式方針は、イスラエルではもちろん、最近の米軍の作戦でさえ前例がない。
「シュジャイヤ大隊司令官の爆撃で、100人以上の民間人を殺すことになることはわかっていました」。B氏は、ウィサム・ファルハット(シュジャイヤ大隊司令官)の暗殺を目的としたとイスラエル国防軍報道官が述べた12月2日の爆撃を思い出していた。「私にとってこれは心理的に尋常ではありませんでした。100人以上の民間人が死んでしまうのです。それはもうレッドラインを越えています」。
2023年10月9日、ガザ地区でイスラエル軍の空爆中に上がる火の玉と煙。(アティア・モハメド/Flash90)ガザに住む若いパレスチナ人、アムジャド・アル=シェイクは、その爆撃で家族の多くが殺されたと語った。ガザ市の東に位置するシュジャイヤの住民である彼は、その日地元のスーパーマーケットで、ガラス窓を粉々にする5つの爆音を聞いた。
「私は家族の家に走りましたが、そこにはもう建物はありませんでした」とアル=シェイクは「+972 and Local Call 」に語った。「通りは悲鳴と煙でいっぱいでした。住宅街全体が瓦礫の山と深い穴になりました。人々は手を使ってセメントの中を探し始め、私も家族の家の痕跡を探したのです」。
アル=シェイクの妻と幼い娘は、上に落ちてきたクローゼットによって瓦礫から守られて助かったが、彼は他の11人の家族、その中には彼の姉妹、兄弟、そして彼らの幼い子供たちが瓦礫の下で死んでいるのを発見した。人権団体ベツェレムによると、その日の爆撃で数十の建物が破壊され、数十人が死亡し、数百人が家の廃墟の下に埋まった。
「家族全員が殺害されました」情報筋が「+972 and Local Call 」に語ったところによると、彼らはさらに致命的な空爆に参加したという。ハマスの中央ガザ旅団司令官アイマン・ノファルを暗殺するために、ある情報筋によれば、軍は10月17日、アル・ブレイジ難民キャンプへの空爆で、ノファルの正確な位置を特定できないまま、約300人の市民を殺害し、いくつかの建物を破壊することを許可したという。衛星映像や現場のビデオでは、複数の大きな集合住宅が破壊されている。
「16軒から18軒の家屋が攻撃で全滅しました」とキャンプの住民であるアムロ・アル・カティブは「+972 and Local Call 」に語った。「アパートとアパートの区別がつかず、瓦礫の中でごちゃごちゃになっていました。あちこちで人間の体の一部を見つけました」。
その余波の中で、アル・カティブは、瓦礫の中から約50人の遺体が引き出され、約200人が負傷し、その多くは重傷であったことを思い返した。でも、それは初日だけだっだ。キャンプの住民は5日間かけて死者や負傷者を救出した、と彼は言った。
2023年11月5日、ガザ地区中央部のアル・マガジ難民キャンプ中央で、イスラエル軍の空爆により数十人のパレスチナ人が死亡した後、瓦礫の中から死体を発見するパレスチナ人。(Mohammed Zaanoun/Activestills)救急救命士のナエル・アル・バヒシは現場に最初に到着した1人だった。彼はその初日に50人から70人の死傷者を数えた。「ある瞬間、私たちは攻撃の標的がハマスの司令官アイマン・ノファルであることを理解しました」と彼は「+972 and Local Call 」に語った。「あいつらは彼を殺し、彼がそこにいたことを知らない多くの人々も殺したのです。子供のいる家族全員が殺されました」。
別の情報筋が「+972 and Local Call」に語ったところによると、軍は12月中旬にラファの高層ビルを破壊し、「数十人の市民」を殺害したが、これはハマスのラファ旅団司令官であるモハメド・シャバネ(彼がこの攻撃で殺されたかどうかは不明)の殺害が目的だった。情報筋によれば、この上級司令官(モハメド・シャバネ)はしばしば、民間人の建物の下を通るトンネルに隠れているため、空爆で暗殺するという選択は、必然的に民間人を殺すことになるという。
「負傷者のほとんどは子どもたちでした」と、一部のガザ人の間では暗殺未遂と信じられている大規模な空爆を目撃したワエル・アルシール(55歳)は語った。彼は「+972 and Local Call 」に、12月20日の爆撃で "居住区全体 "が破壊され、少なくとも10人の子供が殺されたと語った。
「(空爆)作戦の犠牲者に関して、完全に緩い方針がありました。私の考えでは、それは復讐の意味があるのではと思わせるほど緩いものでした」と情報筋のD氏は主張した。「その核心は、(ハマスとPIJの)上級指揮官を暗殺することで、そのためには何百人もの民間人を殺すこともためらわなかったのです。旅団長なら何人、大隊長なら何人といった具合に計算していました」。
情報筋のE氏は、「規制はありましたが、非常に甘いものでした」と話した。「私たちは巻き添え被害で人を殺してきました。3桁台前半とは言わないまでも、2桁台後半にはなります。こんなことは、これまでになかったことです」。
2023年10月22日、ガザ地区南部ラファで、イスラエル軍の空爆後、家屋を点検し、瓦礫の下から親族を救出しようとするパレスチナ人。(Abed Rahim Khatib/Flash90)このような高率の「巻き添え被害」は、イスラエル軍が以前は許容範囲とみなしていたものだけでなく、米国がイラク、シリア、アフガニスタンで行なった戦争と比べても例外的である。
イラクとシリアでISISと戦う作戦の作戦・情報担当副司令官ピーター・ガーステン大将は2021年、米国防専門誌の取材に対し、15人の民間人を巻き添えにした攻撃は手順から逸脱しており、実行するには米中央軍のトップ、ロイド・オースティン大将(現国防長官)から特別な許可を得なければならなかったと語った。
「オサマ・ビン・ラディンの場合、NCV (非戦闘員死傷者数) は30だが、低レベル指揮官の場合、そのNCVは通常ゼロでした」とガーステンは述べた。「わたしたちは非常に長い間、ゼロでやってきました」。
「我々は言われていました:何が何でも爆撃だ、と」
この調査のために取材した情報筋はみな、ハマスによる10月7日の虐殺と人質誘拐が、軍の発砲方針と巻き添え被害の尺度に大きな影響を与えたと言っている。「10月7日直後に徴兵され、標的作戦室で勤務したB氏は、「最初は、苦痛と復讐心に満ちた雰囲気でした。「規則は非常に甘かったのです。標的がビルの1つにいるとわかると、4つのビルを破壊しました。クレイジーでした」。
「不協和音がありました。ひとつは、作戦室にいる人たちの不満です。攻撃が十分でない、と言うのです」とB氏は続けた。「ひとつは、その日の終わりには、さらに1000人のガザの人々が死亡し、そのほとんどが民間人であることがわかったことです」。
「プロと言われる階級にいる人たちはヒステリー状態でした」と10月7日直後、同様、即座に徴兵されたD氏は述べている。「彼らはどう対応すればいいか、全くわからなかったのです。彼らができることは、単にハマスの戦力を破壊しようとして狂ったように爆撃を始めることだけでした」。
2023年10月19日、ガザ・フェンスからほど近い待機場所でイスラエル軍兵士と話すヨアヴ・ギャラント国防相。(チャイム・ゴールドバーグ/Flash90)D氏は、軍の目標が「復讐」であると明確に告げられていないことを強調したが、「ハマスに関連するほぼすべての標的が正当化され、ほとんどの巻き添え被害が承認される状況下では、何千人もの人々が殺害されることは明らかです。公式にはすべての標的がハマスに関連しているとされていても、方針が非常に甘い場合、それはすべての意味を失います」。
A氏はまた、10月7日以降の軍内部の雰囲気を「復讐」という言葉で表現した。「戦争が終わったら、その後どうするのか、ガザでどうやって暮らすのか、ガザで何をするのか、誰も考えていませんでした。どんな犠牲を払っても、ハマスは滅茶滅茶にしなければならない。何が何でも爆撃だ!と言われていました」とA氏は語った。
上級情報筋のB氏は、振り返ってみると、ガザでパレスチナ人を殺害するこの「不釣り合い」な政策は、イスラエル人をも危険にさらすものだと考えており、これがインタビューを受けることにした理由のひとつだと語った。
「短期的に、私たちはより安全になりました。ハマスを傷つけたからです。しかし、長期的には安全性が低くなると思います。ガザのほとんどすべての人の遺族が、この先10年のうちにハマス (に加わる) のモチベーションを上げると思います。そして、ハマスが彼らを勧誘するのはずっと簡単になるでしょう」。
イスラエル軍は、「+972 and Local Call 」に対する声明の中で、情報筋が我々に語ったことの多くを否定し、「各標的は個別に検討され、攻撃から予想される軍事的優位性と巻き添え被害について個別に評価が行われる・・・IDFは、攻撃から予想される巻き添え被害が軍事的優位性に比べて過大である場合には攻撃を実行しない」と主張した。
手順5:巻き添え被害の計算
「モデルは現実と結びついていなかった」情報筋によれば、イスラエル軍が、標的の傍らにある各家屋で殺害されると予想される民間人の数を計算する手順は、「+972 and Local Call 」による以前の調査で検証されたが、自動的で不正確なツールの助けを借りて行なわれていたという。以前の戦争では、諜報部員は爆撃が予定されている家屋に何人いるか確認するのに多くの時間を費やしていた。しかし、10月7日以降、この徹底的な検証はほとんど放棄され、自動化が進んだ。
10月、ニューヨーク・タイムズ紙は、イスラエル南部の特別基地で運用されているシステムについて報じた。このシステムはガザ地区の携帯電話から情報を収集し、ガザ地区北部を南に逃れたパレスチナ人の数を軍に提供している。ウディ・ベン・ムハ准将はタイムズ紙に「100%完璧なシステムではありませんが、意思決定に必要な情報を提供してくれます」と語った。このシステムは色に応じて作動する:人が多いところを赤、比較的人がいなくなったところを緑と黄色で色分けしてある。
2023年11月10日、ガザ市の自宅からガザ南部へ逃れた後、幹線道路を歩くパレスチナ人。(アティア・モハメド/Flash90)
「+972 and Local Call 」に語った情報筋は、ガザで建物を爆撃するかどうかを決定するために使われた、巻き添え被害を計算する同様のシステムについて説明した。そのソフトウェアは、建物の大きさを評価し、居住者リストを確認することで、戦争前にそれぞれの家に住んでいた民間人の数を計算し、近隣から避難したと思われる住民の割合でその数を減らしたという。
もし軍隊が、ある地域の住民の半数が去ったと推定した場合、通常10人の住人がいる家を5人しか住んでいないと計算する。情報筋によると、軍隊はプログラムの推定が実際に正確であるかどうかを調べるために、以前の作戦で行なったように家を監視しなかったと述べた。
ひとりの消息筋は、「このモデルは現実とつながっていません」と主張した。「戦争中に現在その家にいた人と、戦争前にそこに住んでいたと記載されていた人との間には何の関係もありません。(ひとつの例では) 家の中に何家族かいて、一緒に隠れていることを知らずにその家を爆撃したことがあります」。
軍はこのような誤りが起こり得ることを知っていたが、それでもこの不正確なモデルが採用されたのは、そのほうが手順を早くできたからだ、この情報筋は語った。したがって、「巻き添え被害の計算は完全に自動的で統計的であり、全体数でない数値もはじき出します」と述べた。
手順6:家族の住む家丸ごと爆撃
「何の理由もなく家族を殺害した」「+972 and Local Call 」に話した情報筋よると、時々、追跡システムである「Where's Daddy?(パパ、どこ?)」が、標的が家に入ったことを警告した時と、爆撃そのものとの間にかなりの時間差があり、軍が標的としていた人物を攻撃することなく一家全員が殺されることがあった、とのことだ。ひとりの情報筋は、「家を攻撃したが、標的が家にいなかったことが何度もありました。結果として、理由もなく家族を殺してしまったのです」と語っている。
3人の情報筋が「+972 and Local Call 」に語ったところによると、イスラエル軍が民家を爆撃した事件を目撃したが、リアルタイムでの検証が行われなかったため、暗殺の標的は家の中にさえいなかったことが後に判明したことがある、とのことだ。
イスラエル軍の空爆で死亡した親族の遺体を受け取るパレスチナ人(2023年11月6日、ガザ地区南部、アル・ナジャール病院)。(Abed Rahim Khatib/Flash90)
「時々、(標的)は家にいたのち、夜、どこかへ寝に行くことがあり、それがわからないこともありました」と、情報筋の1人が述べた。「その場所を再確認することもあれば、ただ『大丈夫、この数時間は家にいたから、そのまま爆撃してもいい』と言うこともありました」。
別の情報筋によると、彼に影響を与えた類似の出来事があり、それでこのインタビューを受けたくなった、とのことだった。「私たちは、標的が午後8時に家にいると理解していました。結局、空軍は午前3時にその家を爆撃しました。その間に彼と家族を別の家に移動していたことがわかったのです。我々が爆撃した建物には、別の2家族と子供たちがいたのです」。
以前のガザでの戦争では、イスラエル情報部は、標的を暗殺した後、爆撃被害評価(BDA)手続きを行なっていた。つまり、上級指揮官が殺されたかどうか、何人の民間人が彼とともに殺されたかを確認するための、攻撃後の日常的なチェックである。以前の「+972 and Local Call」の調査で明らかになったように、これには愛する人を失った親族の電話を盗聴することが含まれていた。しかし、今回の戦争では、少なくともAIを使ってマークされた下級武装勢力に関しては、情報筋によれば、時間を節約するためにこの手続きは廃止されたという。情報筋によれば、それぞれの空爆で実際に何人の民間人が殺されたかはわからないし、AIでマークされたハマスやPIJの下級工作員と思われる人間については、本人が殺されたかどうかさえわからないという。
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