「軍に入隊するくらいなら我々は死を選ぶ」:超正統派ユダヤ教徒ハレーディは毅然と徴兵を拒否
<記事原文 寺島先生推薦>
‘We’d rather die than enlist’: Haredi Jews vow to defy conscription
イスラエル高等法院の判決により、超正統派ユダヤ人に対する数十年来の兵役免除が覆され、何千人もの人々が国家と自分たちの共同体が選出した政治家たちに対して激怒することになった。
出典:972MAGAZINE 2024年7月2日
筆者:オーレン・ジヴ (Oren Ziv)
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年7月23日
2024年6月30日、エルサレムで、イスラエル軍への強制徴用に反対する抗議行動中、火が燃えるのを見つめるハレーディの男性。(オーレン・ジヴ)
筆者オーレン・ジヴ(2024年7月2日)
日曜日(6月30日)の夜、数千人の超正統派ユダヤ教徒がエルサレムでデモを行い、ハレーディの若者をイスラエル軍に徴兵することを命じた先週の重大な高等法院の判決に反対した。過去10年間で最大の徴兵反対集会はいくつかのハレーディ派を団結させ、その支持者たちは「我々は敵軍に入隊しない」、「シオニストとして死ぬよりはユダヤ人として生きる」、「軍隊ではなく刑務所に」、「シオニズムはユダヤ人を人間の盾として使う」、その他ヘブライ語や英語で書かれた批判的なスローガンを掲げた。
抗議者たちは、ハレーディ派の政治指導者2人を乗せた車を攻撃し、ゴミ箱を燃やし、フェンスや交通標識を地面からはぎ取ろうとした。警察は騎馬警官や警棒、そして「スカンク悪臭液」を詰め込んだ放水銃を使って強制的に解散させようとしたが、幼い子どもを含む残りのデモ参加者の多くは、この液体の強力な噴射に大喜びで耐えていた。一握りの抗議者が逮捕された。
イスラエルが建国されて以来、超正統派は兵役義務を免除されてきたが、この政策は長い間、政治的・法的に論争の的となってきた。ハレーディの男性はトーラー*の研究に人生を捧げているため、その共同体は徴兵を自分たちの生活様式に対する攻撃と見なしている。最近の抗議行動の先頭に立ってきた、より強固な反シオニストの宗派にとって、イスラエル軍に従軍することは、彼らの見解と相容れない。救世主(メシア)の到来以前に建国された国家(イスラエル)は非合法であると考えているからだ。
*トーラー:ユダヤ教の聖書における最初の「モーセ五書」のこと。また、それに関する注釈を加えてユダヤ教の教え全体を指す場合もある。 トーラーはヘブライ語で書かれており、「教え」という意味を持つ。 ラビ・ユダヤ教においては二重のトーラーという観念があり、口伝トーラーのことも意味する。ウィキペディア
しかし、ガザ紛争の中で、超正統派の若者の徴兵を求める声がかつてないほど高まっている。約6万人は兵役年齢にあり、多くのイスラエル人は入隊しないことは市民権の義務に違反すると考えている。ハレーディ系ユダヤ人を軍隊から免除してきた長年の法律が失効した後、高等法院は6月25日、ハレーディ系ユダヤ人は徴兵されなければならないと満場一致で裁定し、学生が入隊しない宗教学校 (イェシヴァー) に政府が資金を提供することを禁じた。「過酷な戦争のさなか、不平等の重荷はかつてないほど厳しく、解決を求めている」と判決は述べた。
ヘブライ語のメディアは、抗議する派閥を「過激派」と表現し、軍を崇拝するユダヤ・イスラエル社会の大多数との関係において、彼らは確かに過激である。しかし、日曜日(6月30日)の集会で彼らは、反乱に参加するために超正統派の広範な連合を 動員するだけでなく、街頭に膨大な数を動員する能力があることを示した。
2024年6月30日、エルサレムで、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議中、イスラエル警察が発射したスカンク水に打たれるハレーディ系ユダヤ人
「我々はトーラーにかけて妥協はしない」
徴兵制との闘いを超えて、日曜日(6月30日)の抗議はイスラエルの超正統派社会における権力闘争の兆候を示した。
クネセト(イスラエル国会)のハレーディ派政党である統一ユダヤ教とシャスは徴兵制に反対し、高等法院の判決を非難したが、一部で予想されていたような、議員退職をちらつかせたり、デモへ参加することはまだしていない。ハレーディの宗教指導者たちはまた、これら自分たちが後押しする国会議員たちが何年にもわたって、ハレーディ共同体からの新兵の数を徐々に増やすことになる年間徴兵制の考えに同意してきたことに怒っている。
この共謀に対する怒りを示すために、デモ隊たちは、イスラエルの住宅建設大臣であり、統一トーラー・ユダヤ教内のアグダト・イスラエル派の代表であるイツハク・ゴールドクノフの車を石とプラカードで攻撃し、警察はやむなく彼を救出することになった。デモ隊は後に、同じくアグダト・イスラエル派のヤーコフ・リッツマンの車を攻撃した。
超正統派のメア・シェアリム地区のメイン広場で行なわれ、近くの通りにあふれたこの集会には、アシュケナージ*とセファルディ**の指導的ラビを含むハレーディ・ユダヤ教の中心的人物が何人か参加した。セファルディの指導的ラビは、3月、兵役免除が万一失効するようなことになれば、ハレーディ・ユダヤ人は集団でイスラエルを離れるだろうと警告していた。
*アシュケナージ:ドイツおよび東欧に居住していたユダヤ人。
**セファルディ:中世にスペインとポルトガルに居住したユダヤ人の子孫。これらのユダヤ人は、キリスト教徒の迫害により1492年にスペインを、1497年にポルトガルを追われた。(英辞郎)
2024年6月30日、エルサレムで、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議行動中に襲撃されたイツハク・ゴールドクノフ住宅建設相の車を守る警察。(オーレン・ジヴ)
ほとんどの演説はイディッシュ語で行われ、超正統派の大衆に向けられたものだったが、セファルディ系イェシヴァー*の代表であるポラト・ヨセフ師はヘブライ語で演説し、クネセトのハレーディ派を攻撃した。「これらの愚か者たちが妥協したがっているのは、ハレーディ大衆のためなのか? 私たちはトーラーの所有者ではありません。トーラーにかけて妥協はしません。」。
*イェシヴァー:イスラエルの地、バビロニア地方においてタルムードを学ぶ場所。学塾・学院とも翻訳される。各地のタルムード学習のための施設。「神学校」と翻訳されることもあるが、キリスト教的な意味での神学の学びの場ではない。 ウィキペディア
その後、エルサレムのハレーディ評議会として知られている派閥の代表であるラビ・モーシェ・スターンブーフがイディッシュ語で「私たちは当局に一つのことを要求します:私たちを放っておいて、トーラーに従って生活させてください。これは私たちにとって何よりも大切なものです! 私たちは一人の若者のことにでも妥協はしません。たとい、牢に連れて行かれようと、私たちはあきらめません。私たちは聖なる方の奴隷だからです。聖なる方に祝福あれ」と話した。
「これは宗教戦争です」。
アシュケナージ系のイェシヴァーに通う21歳のセファルディ学生エリヤフは、日曜日(6月30日)のデモで本誌+972に、「強制徴兵」の賦課に抗議するために、兵役に代わる市民的選択肢である国民奉仕を始めることを拒否するかもしれないと語った。「列車はすでに駅を出発しました」と彼は述べ、以前に徴兵制に同意して徴兵制の基礎を築いたハレーディ党を非難した。「しかし、抗議者たちは(すでに出発した列車が動けなくなるように)線路を取り壊しています」。
「(超正統派)大衆の大多数は、控えめに言っても、ハレーディ党の行動に満足していません」とエリヤフは続けた。「なぜあなたがたはそこ (政府) にいるのですか? そんなことをしても答えが出せるわけではありません」。
実際には、アシュケナジュ系ユダヤ人の前にセファルディ系ユダヤ人が徴兵される可能性が高いとエリヤフは考えている。「超正統派の中でも、敬虔な超正統派 [アシュケナジュ系] で、軍隊に精通している者はほとんどいない」とエリヤフは述べた。「セファルディ系ユダヤ人の中には、より軍に親近感を持っている人がいます。親戚に入隊した人がいて、兵士とは何かを知っているので、彼らの軍への入隊はずっと敷居が低いのです」。
2024年6月30日、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議デモに参加する数千人のハレーディ・ユダヤ人。(オーレン・ジヴ)
反シオニストのネトゥレイ・カルタ*教団のメンバーであるエルハナン・イスラエルは、日曜日(6月30日)の抗議活動の最前線にいたときにスカンクスプレーで攻撃された。「警察は私たちが暴力で説得されると思っているが、彼らは私たちの息子を徴兵することには成功しないだろう」と同氏は+972に語った。「徴兵制よりも深刻なことがここで起こっている:それは宗教戦争であり、彼らは私たちを征服しようとしている。彼らは私たちを(軍隊で)必要としていないと思います。彼らは人間に対して戦っているのではなく、イデオロギーに対して戦っていることを理解していません」。
*ネトゥレイ・カルタ:いかなる形式のシオニズム及びイスラエル国家に反対しているユダヤ教超正統派の組織で、1938年に設立された。『ガーディアン』紙に拠れば「超正統派の中の超正統派」のグループであり、超正統派の中でも原理主義であるとされている。ウィキペディア
エルハナン・イスラエルは、超正統派の政治家たちを「高度な嘘つき」と表現し、「彼らに勇気があれば、『政府を去るぞ — 対処しろ』と言うはずだった」と付け加えた。
彼はまた、ハレーディ系ユダヤ人に戦争への参加を要求しているイスラエルの主流派に反論した:「これは私たちの戦争ではありません。ハマスと呼ばれるテロ組織と、イスラエルのシオニスト国家と呼ばれるテロ組織との戦争です。ハマスは私たちを殺そうとしています;シオニストとその政府は、左派であろうと右派であろうと関係なく、私たちからトーラーを奪おうとしています。これも一種のテロです。世俗派は、兵士が殺されたとき、私たちはお菓子を配ったり踊ったりしないことを理解すべきです。すべての人間の心は痛みますが、これは最初から私たちの戦争ではないのです」。
エルハナン・イスラエルは昨年、ネトゥレイ・カルタの代表団としてヨルダン川西岸のジェニンを訪れ、パレスチナ人囚人バッサム・アル・サーディの家族に会った後、逮捕され、起訴された。インタビューの後、彼は帽子を脱ぎ、その内側にパレスチナの国旗に「パレスチナ系ユダヤ人」と書かれたステッカーが貼ってあるのを見せた。このとき、他のデモ参加者の何人かが彼に怒りをぶつけた:「お前は人殺しを支持しているのか!」と一人の若者が叫んだ。「私には(占領地に)友人がいます」とエルハナン・イスラエルは答え、私に言った: 「今のところ、神は私たちに(国家を)お与えになったのではなく、彼ら(パレスチナ人)に(国家を)お与えになったのです」。
2024年6月30日、エルサレムでのイスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議で、帽子の中に親パレスチナのステッカーを貼っているエルハナン・イスラエル。 (オーレン・ジヴ)
strong>「1年前であればだれ一人ハレーディ系ユダヤ人を軍に入隊させようとは思いませんでした。しかし、今ではそれが喫緊の国民的課題になっているのです」 超正統派ジャーナリストのエリ・ビタンによると、徴兵反対はイスラエルのハレーディ社会を統一する核心的な問題だ。彼はそれを、同じく歴史的に徴兵を免除されてきたイスラエルのパレスチナ市民の立場になぞらえている。
「ラビたちはもはや統一されていません」と彼は説明した。「宗教研究も、世俗的な社会との隔離もそうではありません。ハレーディ派の人々の中にはハイテクで働いたり、混合コミュニティに住んだりする人もいます。成人してからハレーディ派の家庭で育った人は、誰も軍隊に足を踏み入れないというのが唯一の結びつきです」。
高等法院の判決はハレーディの人々に衝撃を与え、「強制的な徴兵制だけでなく、予算の凍結もあります。まず、入隊しなければならないイェシヴァーの学生の奨学金はもちろん、保育所への補助金や財産税にも影響があります。これは一家族あたり数千シェケルに達する大きな打撃です。国民を震え上がらせています」と彼は続けた。
ビタンによると、超正統派政党は今、窮地に陥っている。「彼らは好きなだけ高等法院に文句を言うことができるが、最終的には、彼ら自身の過ちなのです。2018年以来、立法措置を講じようとする動きは何回もありました・・・それが実現していれば今回のような劇的転回は避けられたかもしれないのです」。
2024年6月30日、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議デモに参加する数千人のハレーディ系ユダヤ人。(オーレン・ジヴ)
ハレーディ派の政党は、この問題の解決を急ぐ必要はなく、現在のような完全な右派連合が最終的にはこの問題を議題から取り除くだろうと考えていた、と彼は説明した。しかし、戦争、そしてガザで戦っている兵士の多くの死者数は、会話を完全に変えてしまった。「1年前であればハレーディ系ユダヤ人を軍に入隊させようとはだれ一人思いませんでした。しかし、今ではそれが喫緊の国民的課題になっているのです」。
「我々はあらゆる人のために戦います」。
高等法院の判決に続く最初の大規模な徴兵反対デモが、超正統派の都市ブネイ・ブラクで先週木曜日(6月27日)に行なわれた。何百人もの若者が幹線道路を何時間も封鎖した;警察は彼らを解散させようとしたが、最終的には諦めて抗議行動の継続を許した。
20代後半の男性アブラハムは、数人の友人とともに抗議行動に参加した。「私たちは今、ユダヤ教の存在やイェシヴァーの存在、そしてトーラーの存在のために戦っているのです」と彼は+972に語った。「だから、彼らがイェシヴァーの学生を(軍隊に)入れようとするとき、私たちはそれを許しません。私たちは街頭に出ます。戦います。それが私たちの思いを表現する唯一の方法だからです」
「私たちは入隊する前に死ぬ覚悟があります」と彼は付け加え、ハレーディの徴兵反対デモではどこでも見られるスローガンを繰り返した。「ここ(イスラエル)は背教の国だ。ここは背教の国だ。ユダヤ教の名において発言しているが、そうではない。だから私たちは入隊する前に喜んで刑務所に入るのです。神のお力添えがありますように」。
2024年6月30日、エルサレムで、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議行動中、イスラエル警察が放ったスカンク水に打たれるハレーディ系ユダヤ人。(オーレン・ジヴ)
段階的な採用枠の考え方を否定し、アブラハムは挑戦的だった。「神の助けがあれば、イェシヴァーの学生は入隊しません。5,000人も3,000人も、一人だって。私たちはすべての人のために、すべてのユダヤ人の魂のために戦います。我々は(高等法院の判決を)認めません。この国(イスラエル)全体を認めません」。
イスラエル・クラウス (44) は+972に対し、自分の子供たちを軍に送るつもりはないと語った。「これは私たちの宗教に対する(攻撃)です」と彼は言った。「彼らは私たちを嫌っています。彼らは私たちが無宗教になることを望んでいるのです。シオニスト運動全体は、すべての宗教的なユダヤ人を無宗教にするために作られました。彼らは、正統派ユダヤ教徒がどんどん成長していることを見ています。モサドの幹部の一人は、これはイラン(の脅威)よりも悪い問題だと言いました。だから1ミリも譲れない、絶対に譲れないのです」。
オーレン・ジヴはフォトジャーナリストであり、Local Callの記者であり、写真集団Activestillsの創設メンバーでもある。
‘We’d rather die than enlist’: Haredi Jews vow to defy conscription
イスラエル高等法院の判決により、超正統派ユダヤ人に対する数十年来の兵役免除が覆され、何千人もの人々が国家と自分たちの共同体が選出した政治家たちに対して激怒することになった。
出典:972MAGAZINE 2024年7月2日
筆者:オーレン・ジヴ (Oren Ziv)
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年7月23日
2024年6月30日、エルサレムで、イスラエル軍への強制徴用に反対する抗議行動中、火が燃えるのを見つめるハレーディの男性。(オーレン・ジヴ)
筆者オーレン・ジヴ(2024年7月2日)
日曜日(6月30日)の夜、数千人の超正統派ユダヤ教徒がエルサレムでデモを行い、ハレーディの若者をイスラエル軍に徴兵することを命じた先週の重大な高等法院の判決に反対した。過去10年間で最大の徴兵反対集会はいくつかのハレーディ派を団結させ、その支持者たちは「我々は敵軍に入隊しない」、「シオニストとして死ぬよりはユダヤ人として生きる」、「軍隊ではなく刑務所に」、「シオニズムはユダヤ人を人間の盾として使う」、その他ヘブライ語や英語で書かれた批判的なスローガンを掲げた。
抗議者たちは、ハレーディ派の政治指導者2人を乗せた車を攻撃し、ゴミ箱を燃やし、フェンスや交通標識を地面からはぎ取ろうとした。警察は騎馬警官や警棒、そして「スカンク悪臭液」を詰め込んだ放水銃を使って強制的に解散させようとしたが、幼い子どもを含む残りのデモ参加者の多くは、この液体の強力な噴射に大喜びで耐えていた。一握りの抗議者が逮捕された。
イスラエルが建国されて以来、超正統派は兵役義務を免除されてきたが、この政策は長い間、政治的・法的に論争の的となってきた。ハレーディの男性はトーラー*の研究に人生を捧げているため、その共同体は徴兵を自分たちの生活様式に対する攻撃と見なしている。最近の抗議行動の先頭に立ってきた、より強固な反シオニストの宗派にとって、イスラエル軍に従軍することは、彼らの見解と相容れない。救世主(メシア)の到来以前に建国された国家(イスラエル)は非合法であると考えているからだ。
*トーラー:ユダヤ教の聖書における最初の「モーセ五書」のこと。また、それに関する注釈を加えてユダヤ教の教え全体を指す場合もある。 トーラーはヘブライ語で書かれており、「教え」という意味を持つ。 ラビ・ユダヤ教においては二重のトーラーという観念があり、口伝トーラーのことも意味する。ウィキペディア
しかし、ガザ紛争の中で、超正統派の若者の徴兵を求める声がかつてないほど高まっている。約6万人は兵役年齢にあり、多くのイスラエル人は入隊しないことは市民権の義務に違反すると考えている。ハレーディ系ユダヤ人を軍隊から免除してきた長年の法律が失効した後、高等法院は6月25日、ハレーディ系ユダヤ人は徴兵されなければならないと満場一致で裁定し、学生が入隊しない宗教学校 (イェシヴァー) に政府が資金を提供することを禁じた。「過酷な戦争のさなか、不平等の重荷はかつてないほど厳しく、解決を求めている」と判決は述べた。
ヘブライ語のメディアは、抗議する派閥を「過激派」と表現し、軍を崇拝するユダヤ・イスラエル社会の大多数との関係において、彼らは確かに過激である。しかし、日曜日(6月30日)の集会で彼らは、反乱に参加するために超正統派の広範な連合を 動員するだけでなく、街頭に膨大な数を動員する能力があることを示した。
2024年6月30日、エルサレムで、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議中、イスラエル警察が発射したスカンク水に打たれるハレーディ系ユダヤ人
「我々はトーラーにかけて妥協はしない」
徴兵制との闘いを超えて、日曜日(6月30日)の抗議はイスラエルの超正統派社会における権力闘争の兆候を示した。
クネセト(イスラエル国会)のハレーディ派政党である統一ユダヤ教とシャスは徴兵制に反対し、高等法院の判決を非難したが、一部で予想されていたような、議員退職をちらつかせたり、デモへ参加することはまだしていない。ハレーディの宗教指導者たちはまた、これら自分たちが後押しする国会議員たちが何年にもわたって、ハレーディ共同体からの新兵の数を徐々に増やすことになる年間徴兵制の考えに同意してきたことに怒っている。
この共謀に対する怒りを示すために、デモ隊たちは、イスラエルの住宅建設大臣であり、統一トーラー・ユダヤ教内のアグダト・イスラエル派の代表であるイツハク・ゴールドクノフの車を石とプラカードで攻撃し、警察はやむなく彼を救出することになった。デモ隊は後に、同じくアグダト・イスラエル派のヤーコフ・リッツマンの車を攻撃した。
超正統派のメア・シェアリム地区のメイン広場で行なわれ、近くの通りにあふれたこの集会には、アシュケナージ*とセファルディ**の指導的ラビを含むハレーディ・ユダヤ教の中心的人物が何人か参加した。セファルディの指導的ラビは、3月、兵役免除が万一失効するようなことになれば、ハレーディ・ユダヤ人は集団でイスラエルを離れるだろうと警告していた。
*アシュケナージ:ドイツおよび東欧に居住していたユダヤ人。
**セファルディ:中世にスペインとポルトガルに居住したユダヤ人の子孫。これらのユダヤ人は、キリスト教徒の迫害により1492年にスペインを、1497年にポルトガルを追われた。(英辞郎)
2024年6月30日、エルサレムで、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議行動中に襲撃されたイツハク・ゴールドクノフ住宅建設相の車を守る警察。(オーレン・ジヴ)
ほとんどの演説はイディッシュ語で行われ、超正統派の大衆に向けられたものだったが、セファルディ系イェシヴァー*の代表であるポラト・ヨセフ師はヘブライ語で演説し、クネセトのハレーディ派を攻撃した。「これらの愚か者たちが妥協したがっているのは、ハレーディ大衆のためなのか? 私たちはトーラーの所有者ではありません。トーラーにかけて妥協はしません。」。
*イェシヴァー:イスラエルの地、バビロニア地方においてタルムードを学ぶ場所。学塾・学院とも翻訳される。各地のタルムード学習のための施設。「神学校」と翻訳されることもあるが、キリスト教的な意味での神学の学びの場ではない。 ウィキペディア
その後、エルサレムのハレーディ評議会として知られている派閥の代表であるラビ・モーシェ・スターンブーフがイディッシュ語で「私たちは当局に一つのことを要求します:私たちを放っておいて、トーラーに従って生活させてください。これは私たちにとって何よりも大切なものです! 私たちは一人の若者のことにでも妥協はしません。たとい、牢に連れて行かれようと、私たちはあきらめません。私たちは聖なる方の奴隷だからです。聖なる方に祝福あれ」と話した。
「これは宗教戦争です」。
アシュケナージ系のイェシヴァーに通う21歳のセファルディ学生エリヤフは、日曜日(6月30日)のデモで本誌+972に、「強制徴兵」の賦課に抗議するために、兵役に代わる市民的選択肢である国民奉仕を始めることを拒否するかもしれないと語った。「列車はすでに駅を出発しました」と彼は述べ、以前に徴兵制に同意して徴兵制の基礎を築いたハレーディ党を非難した。「しかし、抗議者たちは(すでに出発した列車が動けなくなるように)線路を取り壊しています」。
「(超正統派)大衆の大多数は、控えめに言っても、ハレーディ党の行動に満足していません」とエリヤフは続けた。「なぜあなたがたはそこ (政府) にいるのですか? そんなことをしても答えが出せるわけではありません」。
実際には、アシュケナジュ系ユダヤ人の前にセファルディ系ユダヤ人が徴兵される可能性が高いとエリヤフは考えている。「超正統派の中でも、敬虔な超正統派 [アシュケナジュ系] で、軍隊に精通している者はほとんどいない」とエリヤフは述べた。「セファルディ系ユダヤ人の中には、より軍に親近感を持っている人がいます。親戚に入隊した人がいて、兵士とは何かを知っているので、彼らの軍への入隊はずっと敷居が低いのです」。
2024年6月30日、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議デモに参加する数千人のハレーディ・ユダヤ人。(オーレン・ジヴ)
反シオニストのネトゥレイ・カルタ*教団のメンバーであるエルハナン・イスラエルは、日曜日(6月30日)の抗議活動の最前線にいたときにスカンクスプレーで攻撃された。「警察は私たちが暴力で説得されると思っているが、彼らは私たちの息子を徴兵することには成功しないだろう」と同氏は+972に語った。「徴兵制よりも深刻なことがここで起こっている:それは宗教戦争であり、彼らは私たちを征服しようとしている。彼らは私たちを(軍隊で)必要としていないと思います。彼らは人間に対して戦っているのではなく、イデオロギーに対して戦っていることを理解していません」。
*ネトゥレイ・カルタ:いかなる形式のシオニズム及びイスラエル国家に反対しているユダヤ教超正統派の組織で、1938年に設立された。『ガーディアン』紙に拠れば「超正統派の中の超正統派」のグループであり、超正統派の中でも原理主義であるとされている。ウィキペディア
エルハナン・イスラエルは、超正統派の政治家たちを「高度な嘘つき」と表現し、「彼らに勇気があれば、『政府を去るぞ — 対処しろ』と言うはずだった」と付け加えた。
彼はまた、ハレーディ系ユダヤ人に戦争への参加を要求しているイスラエルの主流派に反論した:「これは私たちの戦争ではありません。ハマスと呼ばれるテロ組織と、イスラエルのシオニスト国家と呼ばれるテロ組織との戦争です。ハマスは私たちを殺そうとしています;シオニストとその政府は、左派であろうと右派であろうと関係なく、私たちからトーラーを奪おうとしています。これも一種のテロです。世俗派は、兵士が殺されたとき、私たちはお菓子を配ったり踊ったりしないことを理解すべきです。すべての人間の心は痛みますが、これは最初から私たちの戦争ではないのです」。
エルハナン・イスラエルは昨年、ネトゥレイ・カルタの代表団としてヨルダン川西岸のジェニンを訪れ、パレスチナ人囚人バッサム・アル・サーディの家族に会った後、逮捕され、起訴された。インタビューの後、彼は帽子を脱ぎ、その内側にパレスチナの国旗に「パレスチナ系ユダヤ人」と書かれたステッカーが貼ってあるのを見せた。このとき、他のデモ参加者の何人かが彼に怒りをぶつけた:「お前は人殺しを支持しているのか!」と一人の若者が叫んだ。「私には(占領地に)友人がいます」とエルハナン・イスラエルは答え、私に言った: 「今のところ、神は私たちに(国家を)お与えになったのではなく、彼ら(パレスチナ人)に(国家を)お与えになったのです」。
2024年6月30日、エルサレムでのイスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議で、帽子の中に親パレスチナのステッカーを貼っているエルハナン・イスラエル。 (オーレン・ジヴ)
strong>「1年前であればだれ一人ハレーディ系ユダヤ人を軍に入隊させようとは思いませんでした。しかし、今ではそれが喫緊の国民的課題になっているのです」 超正統派ジャーナリストのエリ・ビタンによると、徴兵反対はイスラエルのハレーディ社会を統一する核心的な問題だ。彼はそれを、同じく歴史的に徴兵を免除されてきたイスラエルのパレスチナ市民の立場になぞらえている。
「ラビたちはもはや統一されていません」と彼は説明した。「宗教研究も、世俗的な社会との隔離もそうではありません。ハレーディ派の人々の中にはハイテクで働いたり、混合コミュニティに住んだりする人もいます。成人してからハレーディ派の家庭で育った人は、誰も軍隊に足を踏み入れないというのが唯一の結びつきです」。
高等法院の判決はハレーディの人々に衝撃を与え、「強制的な徴兵制だけでなく、予算の凍結もあります。まず、入隊しなければならないイェシヴァーの学生の奨学金はもちろん、保育所への補助金や財産税にも影響があります。これは一家族あたり数千シェケルに達する大きな打撃です。国民を震え上がらせています」と彼は続けた。
ビタンによると、超正統派政党は今、窮地に陥っている。「彼らは好きなだけ高等法院に文句を言うことができるが、最終的には、彼ら自身の過ちなのです。2018年以来、立法措置を講じようとする動きは何回もありました・・・それが実現していれば今回のような劇的転回は避けられたかもしれないのです」。
2024年6月30日、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議デモに参加する数千人のハレーディ系ユダヤ人。(オーレン・ジヴ)
ハレーディ派の政党は、この問題の解決を急ぐ必要はなく、現在のような完全な右派連合が最終的にはこの問題を議題から取り除くだろうと考えていた、と彼は説明した。しかし、戦争、そしてガザで戦っている兵士の多くの死者数は、会話を完全に変えてしまった。「1年前であればハレーディ系ユダヤ人を軍に入隊させようとはだれ一人思いませんでした。しかし、今ではそれが喫緊の国民的課題になっているのです」。
「我々はあらゆる人のために戦います」。
高等法院の判決に続く最初の大規模な徴兵反対デモが、超正統派の都市ブネイ・ブラクで先週木曜日(6月27日)に行なわれた。何百人もの若者が幹線道路を何時間も封鎖した;警察は彼らを解散させようとしたが、最終的には諦めて抗議行動の継続を許した。
20代後半の男性アブラハムは、数人の友人とともに抗議行動に参加した。「私たちは今、ユダヤ教の存在やイェシヴァーの存在、そしてトーラーの存在のために戦っているのです」と彼は+972に語った。「だから、彼らがイェシヴァーの学生を(軍隊に)入れようとするとき、私たちはそれを許しません。私たちは街頭に出ます。戦います。それが私たちの思いを表現する唯一の方法だからです」
「私たちは入隊する前に死ぬ覚悟があります」と彼は付け加え、ハレーディの徴兵反対デモではどこでも見られるスローガンを繰り返した。「ここ(イスラエル)は背教の国だ。ここは背教の国だ。ユダヤ教の名において発言しているが、そうではない。だから私たちは入隊する前に喜んで刑務所に入るのです。神のお力添えがありますように」。
2024年6月30日、エルサレムで、イスラエル軍への強制徴兵に反対する抗議行動中、イスラエル警察が放ったスカンク水に打たれるハレーディ系ユダヤ人。(オーレン・ジヴ)
段階的な採用枠の考え方を否定し、アブラハムは挑戦的だった。「神の助けがあれば、イェシヴァーの学生は入隊しません。5,000人も3,000人も、一人だって。私たちはすべての人のために、すべてのユダヤ人の魂のために戦います。我々は(高等法院の判決を)認めません。この国(イスラエル)全体を認めません」。
イスラエル・クラウス (44) は+972に対し、自分の子供たちを軍に送るつもりはないと語った。「これは私たちの宗教に対する(攻撃)です」と彼は言った。「彼らは私たちを嫌っています。彼らは私たちが無宗教になることを望んでいるのです。シオニスト運動全体は、すべての宗教的なユダヤ人を無宗教にするために作られました。彼らは、正統派ユダヤ教徒がどんどん成長していることを見ています。モサドの幹部の一人は、これはイラン(の脅威)よりも悪い問題だと言いました。だから1ミリも譲れない、絶対に譲れないのです」。
オーレン・ジヴはフォトジャーナリストであり、Local Callの記者であり、写真集団Activestillsの創設メンバーでもある。
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