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ドイツやオーストリアの60歳以下の市長たちの「突然死」が疫病のように広がっている

ドイツやオーストリアの60歳以下の市長たちの「突然死」が疫病のように広がっている
<記事原文 寺島先生推薦>
Epidemic: German and Austrian Mayors Under 60 Are ‘Suddenly and Unexpectedly’ Dropping Dead

2020年以前には、頑健で活発であるとされていた若く健康な中年世代の市長達がこんなにたくさん亡くなることがあっただろうか?

Global Research 2022年4月13日

RAIR 2022年4月6日

エイミー・メク(Amy Mek)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月30日



 2020年12月以来、60歳以下の市長たちの突然死がドイツやオーストリアで頻繁に発生している。選挙で選ばれたこれらの地方公共団体の首長たちが亡くなっているのは、仕事のストレスに耐えられなくなって起こっているからなのか、それとも「元気で健康な」政治家たちがこんなにもたくさん亡くなっているのには別の理由があるのか?疑問が広がっている。

 2020年12月12日、ドイツのキリスト教社会同盟党所属の41歳のダーク・ローゼンバウエル(Dirk Rosenbauer)市長が市議会中に倒れ、その後コーブルク市内の病院で亡くなった。そのことを伝える新聞の見出しはこうだった。「たった41歳の若さで、バイエルン州の一人の市長が市議会中に倒れ、その後亡くなった」

 私たちは皆大きな衝撃を受け、なぜこんなことが起こったのか理解に苦しんでいる。同市長は元気で健康で、いつも犬の散歩を行ったり、ハンドボールに興じたりしていた。
  
 悲しいことに、上記と同じような見出しの記事がその後の約二年間ずっと報じ続けられている。突然死として亡くなった市長たちがリストに載せられることが常態化しているようだ。

 「ブレーメル無料放送局(Freie Bremer” channel)」はテレグラム上でそのような市長の突然死を数え上げているが、それによると、この約2年間で、ドイツとオーストリアで少なくとも15名の市長の突然死が起こっているという。しかし報じられていない死亡例も数に入れれば、その数はもっと多くなるだろう

 2020年12月12日、ドイツのキリスト教社会同盟党所属の41歳のダーク・ローゼンバウエル市長が、妻と二人の子どもを後に残して、ドイツのミケラウ市で亡くなった。

 
 2020年9月、ドイツのハインリッヒ・スース市長が56歳の若さで突然亡くなった。


 2020年6月、ドイツのレングリーズ市長のマルクス・ランドサラー(Markus Landthaler)市が50歳で突然亡くなった。


 2021年9月15日、リンバッハ=オーバーフローナ市長のジェスコ・ボーゲル(Jesko Vogel)氏が47歳で亡くなった。妻と二人の娘がいる。1991年から2014年まで、ハンドボールのBSVリムバックというチームの一軍選手であり、キャプテンも務めていた。

 2021年10月18日、オーストリアキンドバーク市のピーター・サトラー(Peter Sattler)副市長(57歳)がハイキング中に突然死した。



 2021年10月21日、ボーデン湖畔のボドルズ市(ドイツ)のクリスチャン・ルー(Christian Ruh)市長が60歳で突然亡くなった。


 2021年10月24日(水)、ブルシャイト(ドイツ)市のステファン・カプラン(Stefan Caplan)市長が突然亡くなった。56歳の若さだった。


 2021年10月28日、59歳のドイツのヴォルフガング・エックル(Wolfgang Eckl)市長が「突然」亡くなった。

 2021年11月27日(金)の夜、ヨチム・ルパート(Jochim Ruppert)市長が突然亡くなった。59歳だった。



 2021年12月23日、シルトベルク(ドイツ)市の54歳のファビアン・ストライト(Fabian Streit)市長が突然亡くなった。


 2022年3月5日、マウエルキルヒェン(オーストリア)市のホルスト・ガーナー(Horst Gerner)市長が57歳で突然亡くなった。

 2022年3月23日、クリスチャン・ W・タンゲルマン(Mayor Kristian W. Tangermann)市長が突然亡くなった。リリエンタール(ドイツ・オスターホルツ区)市長であり、45歳の若さだった。

 2022年3月26日、 オーストリアのオーバーエスターライヒ州内の38歳の市長、クリスチャン・モーラー(Christian Maurer)さんが亡くなった。 同市長は市議会開催中に倒れ、その数日後に病院で亡くなった。医師はモーラー市長の脳溢血を治療することができなかった。この地方公共団体の首長には妻と生後6週間の息子がいた。

 2022年3月29日、 ドイツのヴァルツフート=ティンゲン市の現職市長ヨアヒム・バウメルトさんが、週末に突然亡くなった。57歳だった。

 3月31日、ドイツのコーブルクの第3市長トーマス・ノワックさんか53歳で突然亡くなった。

 2022年4月1日、ドイツ・プファッフェンハウゼンのフランツ・レンフトル(Franz Renftle)第1市長
が54歳で亡くなった。同市長は、ベテランの警察官でもあった。



 各国の当局者たちは、これらの突然死についてもっと厳密な調査を行うつもりがあるのだろうか?もちろん、亡くなった市長たちのすべての死因を正確に検証することはできないだろう。しかし、2020年以前に、頑健で活発だと思われていた健康で元気な中年世代の市長たちがこんなにもたくさん亡くなることがあっただろうか?

 このような市長の突然死の件数は、過去にも同じだったのだろうか?その可能性はあるかもしれないが、分からない。当局者たちが以前の統計上の突然死の死亡件数と現状の死亡件数を比較し、その結果を公表することは行われてしかるべき行為ではないだろうか?くさい物にふたをして、健康だと思われていた若い市長たちの死亡事例を隠そうとすれば、人々の恐怖が増すだけにしかならないのではないだろうか?隠そうとすれば、噂や「陰謀論」が広まることにもならないだろうか?本当に問題があるのであれば、 政府は関心を持つべきだ。結局のところ、突然亡くなっている人々は、政府関係者の中で多く出ているのだから。

 亡くなられた市長の皆さんのご冥福をお祈りします。


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オランダ人ジャーナリスト:私たちは今、ドンバスにいる。プロパガンダに惑わされた西洋人を目覚めさせるために

オランダ人ジャーナリスト:私たちは今、ドンバスにいる。プロパガンダに惑わされた西洋人を目覚めさせるために

<記事原文 寺島先生推薦>
Dutch Journalist: ‘We are Here, in Donbass, to Awaken Westerners Deluded by Propaganda’


投稿者: 国際主義者360°( INTERNATIONALIST 360°)

著者;エカテリーナ・ブリノーバ (Ekaterina Blinova)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月30日



 ドンバスの現場にいる西側ジャーナリストの数はほんのわずかだが、その一方で西側の主流報道機関のメンバーは、リビア、シリアで悪用したのと同じテンプレートを使って、ウクライナ危機に関するフェイクニュースをゴム印で押すように書いている、とオランダの独立ジャーナリスト、ソニヤ・ヴァン・デン・エンデ(冒頭の写真)は語る。

 オランダのロッテルダム出身の独立系ジャーナリスト、ソーニャ・ヴァン・デン・エンデは、ロシア軍の従軍記者としてドネツクとルガンスク人民共和国に行き、特別作戦がどのように展開されているかを自分の目で見てきた。

 砲撃や爆発音も彼女をたじろがせることはない。もう慣れてしまっているからだ。7年前、彼女はシリアで仕事をしていた。バシャール・アル=アサド大統領の要請でロシア軍が介入し、流れが変わる数カ月前という時期だった。彼女によれば、シリアとウクライナの紛争に関する西側主流メディアの報道は、驚くほど類似しているという。

 「彼らは自分たちの意図を実現するために、あらゆることについて嘘をつき続けている」とヴァン・デン・エンデは語る。「シリアでアサド大統領が ”殺人者 ”だったように、プーチン大統領は "虐殺者" にされている。彼らは、イラク、ベネズエラ、そして自分たちの予定表に従わない(他の)国々で長年この脚本を使ってきた。彼らは悪い”男”を必要としている。でも、彼ら(メディア)は現地にいることさえないのだから、判断などできるはずがない。西側諸国からは、ほんの一握りのジャーナリストだけがここにいる。グラハム・フィリップス、パトリック・ランカスター、アンヌ=ロール・ボネル、そして私です」。

 しかし、このオランダ人ジャーナリストによれば、これだけが類似点というわけでもない。彼女はキエフの偽報告や「偽旗」作戦に注目してきた。例えば、スネークアイランドのデマ、ザポロジエ原子力発電所(NPP)をロシアが「攻撃」したとする誇大宣伝、マリウポルの病院をロシアが「攻撃」したという今では否定されている話、最近のブチャの挑発など、挙げれば切りがない。ヴァン・デン・エンデは、これらの事例はジハード主義者の偽旗やホワイトヘルメットの演出した「ガス攻撃」に酷似していると言う。彼女はとくに2017年4月4日のイドリブのカン・シェイクフンで起きた化学兵器攻撃のことを思い起こすと言う。この攻撃はシリア政府によるものだとされたが、ピューリッツァー賞受賞ジャーナリスト、シーモア・ハーシュを含む調査記者によって捏造だったことが明らかにされている。

 「同じことがブチャでも起きた」とこのオランダ人ジャーナリストは言う。「多くの目撃者が、ロシア軍は3月30日に退去したと言っている。4月1日に入ってきたウクライナ軍でさえ、路上の死体については報告しなかった。西側メディアによれば、それは4月3日に起こったということだ。また、死体には白い腕章がついていたという証拠がある。それはロシア軍の証で、ロシア兵が身につけているものだ。ということは、ロシア兵がロシア系ウクライナ人を殺しているということなの? まさかね。」

ウクライナのネオ・ナチズムは神話ではない

 ヴァン・デン・エンデはドンバスを移動中に多くのウクライナ人と話をした。彼女によると、ほぼ全員がキエフ政府を非難していた。彼らがロシア語を禁止し、多くの文化的・国内的人権を自分たちから奪っているからだ。

 「私が話した人々の大半は、(ロシアの)特別作戦が始まったことをとても喜んでいた」とこのオランダ人ジャーナリストは言う。「もちろん、誰も暴力や戦争を望んではいない。しかし、彼らはすでに8年間、ウクライナ軍による戦争、殺戮、破壊に苦しめられてきた。一番ひどいのは、正規軍と一緒に戦っていたナチス大隊だった。」

 「ウクライナのネオ・ナチズムは神話ではない」とデン・エンデは強調する。2016年と2017年にウクライナの港町オデッサを訪れたとき、彼女はかなり前からファシスト的な雰囲気が国中に広がっていることに気づいていた。「実は、ウクライナのナチズムは第二次世界大戦中からずっとあった」とオランダ人ジャーナリストは言う。

 「ステパン・バンデラの思想的後継者であるウクライナ民族主義者組織(OUN)、第14-SS義勇軍師団 “ガリシア” 、ナハティガル大隊はソ連時代に地下に潜った。しかし、これらの勢力は長い年月を経て再び生き返って、米国、英国、EUがウクライナを不安定化させるために利用されている」と彼女は言う。「以前は、これら西側の地政学的役者が、アサドを失脚させるためにイスラム教徒を利用したのと同じようなものだ」とこのジャーナリストは付け加えた。

 ヴァン・デン・エンデによれば、「2014年のウクライナでのクーデターの後、少数派のネオナチが権力を握り、8年間、主に東部をナチス的な非常に悪質かつ残酷な方法で恐怖に陥れてきた」ということだ。

ようやく守られているという実感

 「西側諸国は、ウクライナの村や町に加えられたすべての被害について、絶えずロシアを非難している。しかし、東ウクライナの人は、民間地域の破壊のほとんどは、撤退するウクライナ軍と悪名高いアゾフ大隊を含むネオナチ隊によって引き起こされたものだと証言する」とオランダのジャーナリストは言う。「ウクライナ軍は民間施設を盾として利用しただけでなく、撤退してロシア軍に譲った陣地を無差別に砲撃したと報告されている。」

 ヴァン・デン・エンデは自分の意見を説明するために、ドネツク人民共和国のヴォルノヴァハにある病院が砲撃された話をする。「ヴォルノヴァハの住民に聞くと、空からの爆撃ではなく、手榴弾やロケット弾による攻撃があった」と彼女は言う。

 「西側はロシア軍によって爆撃されたと言っているが、ある女性の話を聞くと、彼女はその病院でずっと働いていたが、病院に陣取ったウクライナ(軍)が病院施設とその隣にあった彼女の家を砲撃して破壊したと言っています。」

 このオランダ人ジャーナリストは「東ウクライナ人はロシア軍から非常に良い扱いを受けており、ほとんどの場所で定期的に人道的支援を受けている」と述べ、さらに「しかも、地元の人たちは、ようやく守られていると感じている」と付け加えた。

 ウクライナ軍とネオナチの大隊、ロシアが支援する民兵組織DPRとLPRとの激しい戦闘で、多くの家屋が破壊された。しかし、ドンバスの人々はあきらめていない、とそのジャーナリストは強調する。

 「ある女性は ”私たちは負けない。私たちはここを再建する。私たちの子供や孫のために必ず平和を取り戻す” と言っている」。ヴァン・デン・エンデはそう語った。

ロシアは情報戦争に負けているのか?

 ロシアは西側との情報戦に負けている、という見方もある。西側の巨大報道装置は巨大IT企業の支援を受けて日夜活動しているが、ロシアの報道機関の大半は西側諸国においては検閲を受けるか、あるいは完全に沈黙させられてしまっている。

 「そんなことはない。ロシアは情報戦に完全に負けているわけではない」とヴァン・デン・エンデは主張する。「それは私たち次第だと思う。一握りの西洋人だが、私たちこそが、まだ眠ったままで、来る日も来る日も偽情報や作り話にさらされている大多数の西洋人の目を覚まさせるのです。」

 そもそもこの紛争は、欧米の政治家によって煽られていることを念頭に置くべきだと、このジャーナリストは言う。彼女によれば、欧米はシリアでも同じことをしたが、その戦争はほとんど負けたも同然だった、という。

 世界は変化しており、西側諸国は多極化する世界秩序とまだ折り合いをつけていないと、ファンデンエンデは指摘する。ロシアのプーチン大統領は、2007年のミュンヘン演説で、この変化の始まりについて概説している、と彼女は指摘する。

 当時、西側諸国は彼の言葉の無視を決め込んだが、一極集中の世界が永久になくなることは明白になりつつある、と同ジャーナリストは結論づけている。
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「裏切り者を一人でも減らせ」:ゼレンスキーは、政敵の暗殺、誘拐、拷問といった作戦を指揮・監督していた


「裏切り者を一人でも減らせ」:ゼレンスキーは、政敵の暗殺、誘拐、拷問といった作戦を指揮・監督していた

<英語原文 寺島先生推薦>
”ONE LESS TRAITOR”: ZELENSKY OVERSEES CAMPAIGN OF ASSASSINATION, KIDNAPPING AND TORTURE

マックス・ブルメンタール (Max Blumenthal)、
イーシャ・クリシュナスワミ(Esha Krishnaswamy)著
ザ・グレイゾーン   2022年4月18日
<翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月30日


上の写真。上-3月3日にドニプロで行われた左翼活動家アレクサンドル・マチュシェンコの拷問(アゾフのメンバーによって記録されたもの)。
下の写真。メディアに対してポーズをとるウォロデイミル・ゼレンスキー大統領。


 ウクライナのウォロデイミル・ゼレンスキーは、民主主義を守ると言いながら野党を非合法化し、ライバルたちの逮捕を命じ、国中の反体制者の失踪と暗殺を指揮してきた。

 ウクライナのウォロデイミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアに対する自国の戦いを、民主主義そのものをめぐる戦いとして位置づけている。3月16日に行われた米国議会での演説で、ゼレンスキーは「今まさに、わが国の運命が決定されようとしている」と述べた。「ウクライナ人が自由になれるかどうか、民主主義を維持できるかどうかという国民の運動」だと。

 米国の企業メディアは、ゼレンスキーに好意的な報道で溢れさせ、ノーベル平和賞の推薦キャンペーンを展開し、4月3日の2022年グラミー賞授賞式で彼とウクライナ軍を盛り立てるよう華やかな音楽による賛辞を送るなどの反応を示している。

 しかし、西側メディアは別の見方を示している。ゼレンスキーと彼の政権の高官が、ロシアに協力的だと非難されたウクライナの地方議員の誘拐、拷問、暗殺のキャンペーンを認可し、戦争が始まって以来、何人かの市長やその他のウクライナ人高官が殺害されたと。

 その多くは、ロシアと緊張緩和交渉を行った後、ウクライナの国家工作員によって殺害されたと伝えられている。

 内務省顧問のアントン・ゲラシェンコは、ロシアとの協力で告発されたウクライナ市長の殺害を支持し、「ウクライナの裏切り者はこれで1人減った」と述べた。

 ゼレンスキーは戦争の雰囲気をさらに利用し、多くの野党を非合法化し、主要なライバルの逮捕を命じた。彼の独裁主義的な布告は、「親ロシア」派と非難された多くの人権活動家、共産主義者や左翼の組織者、ジャーナリスト、政府高官の失踪や拷問、そして殺人を引き起こしたのである。

 ウクライナSBU(ウクライナ保安庁)の治安部隊は、公式に認可された弾圧作戦機関として役割を果たしてきた。SBUはCIAからの訓練され、ウクライナ国家が支援するネオナチ準軍事組織と密接に連携して、この数週間、広大な拷問監獄群島を政治亡命者たちで埋め尽くしてきた。

 一方、戦場では、ウクライナ軍が捕虜となったロシア軍に対して一連の残虐行為を行い、そのサディスティックな行為をソーシャルメディアに誇らしげに公開している。ここでも、人権侵害の加害者は、ウクライナ上層部から承認されているように見える。

 ゼレンスキーは、欧米を礼賛する聴衆の前で民主主義の擁護について美辞麗句を吐いているが、彼はこの戦争を、政敵、反体制派、批評家を血祭りに上げるための劇場として利用しているのである。

 ウクライナの治安機関に殴られ迫害されている左翼活動家は、「戦争は、政府に批判的な意見を表明する反対派を誘拐、投獄、殺害するために使われている」と、今年4月にコメントしている。

 「私たちは皆、自由と命の危険を感じざるを得ない」。

拷問と強制失踪はウクライナのSBU(保安庁)の「常套手段」

 2013年から14年にかけてのユーロマイドン政権転覆作戦の後、米国の支援を受けた政府がキエフで政権を握ると、ウクライナ政府は、親ロシア的あるいは民族主義的に不適格とみなされた政治的部分の全国的な粛清に乗り出した。ウクライナ議会が「反共産主義化」法を可決したことで、左翼的部分への迫害と政治的発言による活動家の起訴はさらに容易になった。

 マイダン政権転覆後の政権は、東部の親ロシア派分離主義者との和平解決を主張するウクライナ人や、ウクライナ軍による人権侵害を記録した人や、共産主義組織のメンバーなどに怒りを集中させている。反体制派は、超民族主義的な暴力や投獄、さらには殺人の脅威に常にさらされてきた。

 SBU(ウクライナ保安庁)として知られるウクライナの治安機関は、マイダン後の政府の国内政治弾圧作戦の主要な執行者としての役割を担ってきた。国連高等弁務官事務所(UN OHCR)やヒューマン・ライツ・ウォッチなどの親欧米の監視団体は、SBUがほぼ完全な免責のもとに政敵やウクライナの反体制派を組織的に拷問していると非難している。
 国連高等弁務官事務所(OHCR)は2016年にこう指摘した。「こうした紛争関連の抑留者に対する恣意的な抑留、強制失踪、拷問、虐待はSBUの常套手段だった...元ハリコフSBU職員は、『SBUにとって、違法であるものはすべて国家の必要性に応じて分類され、説明できるため、法は事実上存在しない』と説明している」と。

 悪名高いネオナチ部隊C14の創設者イェフェン・カラスは、彼の暴力団や他の極右派閥がSBUと親密な関係を築いてきたことを詳細に語っている。SBUは「我々だけでなく、アゾフや右派セクターなどにも情報を与えている」と、カラスは2017年のインタビューで自慢している。

キエフは、ロシアとの交渉するウクライナの市長を暗殺することを公式に容認

 ロシアがウクライナ国内で軍事作戦を開始して以来、SBUはロシアからの人道的物資を受け入れることを決めたり、ロシア軍と交渉して民間人避難のための通路を手配したりした地方公務員を追跡して追い詰めてきた。

 例えば、3月1日、ウクライナ支配下のルガンスク市東部のクレミンナ市のヴォロディミル・ストロク市長は、妻の話によると、軍服の男たちに誘拐され、心臓を撃たれたそうだ。

 3月3日、ストロク市長の明らかに拷問された遺体の写真が掲載された。殺害される前日、ストロク市長はウクライナの同僚に親ロシア派と交渉するよう促していたとされる

 ウクライナ内務省の顧問であるアントン・ゲラシチェンコは、市長の殺害を祝い、自身のテレグラム・ページでこう宣言した(下記参照)。

 「ウクライナの裏切り者が一人減った。ルハンスク州クレミンナ市長、ルハンスク議会の元副議長が殺害されているのが発見された」と。

 ゲラシェンコによると、ストロクは 「人民裁判の法廷」で裁かれたとのことだった。

 そのため、このウクライナ政府関係者は、ロシアとの協力を選択する者に対し、「そうすれば命を落とすことになる」という恐ろしいメッセージを発したのである。

 3月7日、ゴストメルのユーリ・プリリプコ市長が殺害されているのが発見された。プリリプコ市長はロシア軍と交渉し、住民を避難させるための人道的回廊の設置に乗り出したとされるが、それは、市長室と長年対立してきたウクライナの超民族主義者にとっては、レッドラインであった。

 次に、ウクライナ北東部のクピャンスク市のゲンナディ・マツェゴラ市長は3月24日、ウクライナ情報機関SBUのエージェントによって人質にされていた娘の解放をヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と政権に訴える動画を公開した。

(この動画については原文サイトからご覧下さい。訳者)

 そして、ウクライナ交渉団のトップであったデニス・キレフ氏が、ロシアとの第一回協議の後、キエフで白昼堂々と殺害された事件がある。キレフ氏はその後、ウクライナの地元メディアによると 「反逆罪 」で告発された。

 ウォロデイミル・ゼレンスキー大統領の「協力者には結果が伴うだろう」という発言は、こうした残虐行為が政府の最高レベルによって承認されたことを示している。

(この内容を伝える動画については原文サイトからご覧下さい。訳者)

 今日現在、ウクライナの様々な町の11人の市長が行方不明になっている。西側メディアは例外なく「キエフの路線に従っており、すべての市長がロシア軍によって逮捕された」としている。しかし、ロシア国防省はこの容疑を否定しており、行方不明の市長についてキエフの主張を裏付ける証拠はほとんどない。

ゼレンスキーは政治的反対派を禁止し、ライバルの逮捕と戦争プロパガンダ攻撃を許可した

 今年2月にロシアとの戦争が勃発すると、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、政治的な反対勢力と反体制派の言論に対するキエフの攻撃作戦を正式に決定する一連の法令を発行した。

 3月19日の行政命令で、ゼレンスキーは戒厳令を発動し、11の野党を禁止した。禁止された政党は、ウクライナの左翼、社会主義、反NATO領域のすべてであった。その中には、生活のための党、左翼野党、ウクライナ進歩社会党、ウクライナ社会党、左翼連合、社会党、シャリー党、「我々」、「国家」、野党ブロック、ヴォロディミル・サルド・ブロックが含まれていた。

 しかし、「アゾフ国民軍団」のような公然たるファシスト・親ナチ政党は、大統領令によって手つかずのまま残された。

 ゼレンスキー大統領は、「分裂や共謀を目的とした政治家の活動は成功せず、厳しい対応を受けることになるだろう」と。

 反対派を一掃すると、ゼレンスキーは、テレビのニュース放送をすべて国営化し、すべてのチャンネルを24時間放送の「United News」という一つのチャンネルにまとめて、「戦争の真実を伝える」 という前代未聞の国内宣伝活動を命じたのである。

 次に4月12日、ゼレンスキーは主要な政敵であるヴィクトル・メドベドチュクをウクライナのSBU治安部隊によって逮捕したことを発表した。



 ウクライナ第2の政党「生活のための愛国者」の創設者であるメドベドチュク氏は、同国のロシア系住民の事実上の代表者である。

 プーチン大統領との親密な関係もあって「親ロシア」とされるが、新しい党首はロシアのウクライナ「侵略」を非難している。

 国家が支援するネオナチ「アゾフ大隊」の国民部隊メンバーは2019年3月、メドベドチュクの自宅を襲撃し、反逆罪で告発し、逮捕を要求した。

 2020年8月、アゾフの国民部隊はメドベドチュクの政党の代表を乗せたバスに発砲し、ゴム被覆鋼弾で数人を負傷させた。

 ゼレンスキー政権は2021年2月、メドベドチュクが支配する複数のメディアを閉鎖し、最有力対抗勢力への攻撃をエスカレートさせた。米国務省は大統領のこの動きを公然と支持し、米国は「ロシアの悪質な影響力に対抗するウクライナの努力を支持する」と宣言した

 その3ヵ月後、キエフはメドベドチュクを投獄し、国家反逆罪で起訴した。ゼレンスキーは、「情報分野におけるロシア侵略の危険と戦う必要がある」という理由で、有力なライバルを監禁したことを正当化した。

 ロシアとウクライナの戦争が始まったとき、メドベドチュクは軟禁を免れたが、再び捕虜となり、戦後のロシアとの捕虜交換の担保に使われるかもしれない。

ゼレンスキーの監視下で、「戦争が、野党メンバーの誘拐、投獄、殺害にまで利用されている」

 2月24日にロシア軍がウクライナに進駐して以来、ウクライナのSBU治安部隊は国内のあらゆる政治的反対勢力に対して暴れ回ってきた。特にウクライナの左派活動家は、誘拐や拷問など過酷な扱いを受けてきた。

 今年3月3日、ドニプロ市で、SBUの警官が超民族主義者アゾフを伴って、社会支出の削減と右派メディアのプロパガンダに反対する組織「リヴィジャ(左翼)」の活動家の家を襲撃した。ある活動家によると、アゾフのメンバーが「ナイフで私の髪を切った」後、国家保安員は彼女の夫、アレクサンダー・マチュシェンコを拷問し、銃口を頭に押し付け、民族主義者の敬礼を行い、「スラバ・ウクライニ(ウクライナ万歳)!」を繰り返し唱えるように強要したとのことだ。

 「そして、私たちの頭に袋をかぶせ、両手をテープで縛り、車でSBUの建物まで連れて行かれました。そこで彼らは私たちに尋問を続け、耳を切り落とすと脅した」とマジュシェンコの妻はドイツの左派系出版社Junge Welt(「若い世界」)に語っている

 アゾフのメンバーとSBUの捜査官は、拷問過程を記録し、マジュシェンコの血まみれの顔の画像をネットで公開した。

 マジュシェンコは「侵略的な戦争や軍事作戦を行った」という理由で投獄され、現在は10年から15年の禁固刑に直面している。国家に支援された超民族主義者による殴打で肋骨を数本折られたにもかかわらず、彼は保釈を拒否されている。一方、ドニプロでは、他の数十人の左翼が同様の容疑で収監された。

 SBUの標的となった人々の中には、ウクライナの非合法レーニン主義共産主義青年同盟のメンバーであるミハイル・コノノビッチとアレクサンデル・コノノビッチ兄弟がいる。両者は3月6日に逮捕・収監され、「親ロシア・親ベラルーシの意見を広めた」罪で告発された。

 その後の数日間で、SBUが逮捕したのは次の人たちである。
①放送ジャーナリスト、ヤン・タクシュール。反逆罪で起訴
②人権活動家、エレナ・ベレシュナヤ
③人権擁護者、エレナ・ビアチュラヴォーワ。父親ミハイルは2014年5月2日、オデッサ労働組合会館前で反マイダン抗議者に対する超民族主義者の暴徒攻撃により焼死。
④独立ジャーナリスト、ユーリ・トカチョフ。反逆罪で起訴。
⑤障害者権利活動家オレグ・ノビコフ。今年4月に「分離主義」を支持したという理由で3年間投獄

 戦争が始まって以来、ウクライナの治安機関によって投獄された人々のリストは日に日に増えており、ここに転載することはできないほど膨大である。



 おそらく最も悲惨な弾圧事件は、プロのMMA(総合格闘技)ファイターであるマキシム・リンドフスキーの場合だ。ウクライナ政府に支援されたネオナチが、彼をチェチェンのジムでロシアのファイターとトレーニングしたという罪で誘拐し、残酷に拷問したのだ。リンドフスキーはたまたまユダヤ人で、足にダビデの星のタトゥーを入れており、東ウクライナの戦争に反対する発言をソーシャルメディアでしていたからだ。



 ウクライナのSBUは、国境外の反対派の人物まで追い詰めている。ジャーナリストのダン・コーエンが報じたように、最近禁止されたシャリイ党のアナトリー・シャリイ氏は、最近SBUの暗殺未遂のターゲットになったと語った。シャリー氏は、米国が支援するマイダン政権に率直に反対しており、亡命するしか、民族主義者からの長年の嫌がらせから逃れる術はなかった。

 シャリイは、ロシアに共鳴しているとされるウクライナ人議員の暗殺を支持した内務省の顧問アントン・ゲラシェンコが創設した「国家の敵」という悪名高いマイロトヴォレの公開ブラックリストに載せられている。著名なコラムニストOles Buzina(オレス・ブジナ)を含む何人かのジャーナリストやウクライナの反体制派は、このリストに名前が載った後、国家が支援する暗殺部隊によって殺害されたのである。

 今年2月の開戦以来、ウクライナの一般市民も拷問にさらされている。一般市民が街灯に縛られ、性器が露出したり、顔が緑色に塗られたりしている動画が、SNSに無数にアップされている。戦時中の法と秩序の執行を任務とする領土防衛義勇兵によって行われたこれらの屈辱的な拷問行為は、ロシアのシンパとされる人々からロマ人(「ジプシー」)、泥棒とされる人々まで、あらゆる人々を標的にしてきた。



ウクライナのSBU(保安庁)はCIAから拷問と暗殺を学ぶ

 ユーロマイダンのクーデター後にロシアに亡命した元SBUのヴァシリー・プロゾロフ氏は、政治的反対派を鎮圧し、ロシアシンパと非難された市民を威嚇するために、マイダン後の治安機関が体系的に拷問に依存していることを詳細に説明した。

 元SBUのプロゾロフ氏によると、ウクライナの治安機関は2014年以降、CIAから直接助言を受けてきたという。「CIAの職員は2014年以来、キエフに存在している。彼らは秘密のアパートや郊外の住宅に居住しています」と彼は言う。「しかし、彼らは、例えば、特定の会議を開いたり、秘密作戦を企てたりするために、頻繁にSBUの中央事務所にやって来ます。」

 以下は、ロシアのRIAノーボスチ通信がプロゾロフ(Prozorov)を人物評をまとめ、2019年の特集で彼の情報開示を取り上げた動画と記事だ 。

(動画は原文サイトからご覧下さい。訳者)

(以下はダン・コーヘンが、ウクライナのイゴールというサラリーマンに取材した内容)

 ネスマンを取材した。イゴールは、ロシア企業との金融関係のためにSBUに逮捕され、今年3月にキエフ市街にある治安部隊の悪名高い本部で拘束された。ロシア人捕虜が、SBUの将校に指導された領土防衛義勇兵にパイプで殴られているのを耳にしたという。ウクライナの国歌が流れる中、ロシア人捕虜はプーチンへの憎しみを告白するまで残酷な目に遭わされた。

 そして、イゴールの番が来た。「ライターで針を熱して、それを爪に刺したんです」彼はコーエンにそう言った。「最悪だったのは、ビニール袋を頭からかぶせられて窒息死させられたときと、カラシニコフ銃の銃口を頭に突きつけられて、質問に答えろと強制されたときです。」

 2013年から14年にかけてのユーロマイドン政権転覆後にSBUの初代長官となったヴァレンティン・ナリヴァイチェンコは、ジョージ・W・ブッシュ政権時代に在米ウクライナ大使館の総領事として活躍し、ワシントンとの深い絆を育んだ。この間、ナリヴァイチェンコはCIAにスカウトされたと、SBUの前任者で、ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ元大統領の親ロシア政権下で仕えたアレクサンドル・ヤキメンコは述べている。

 2021年、ゼレンスキーはウクライナで最も悪名高い情報機関の人物の一人、オレクサンデル・ポクラドをSBUの防諜部門を率いるように任命した。ポクラドは「絞殺魔」というニックネームを持つ。これは、拷問やさまざまな汚い手口を使って、上司の政敵を反逆罪に陥れたという評判にちなんだものである。

 今年4月、SBUの残忍さを示す鮮明な映像が、ドニプロ市でロシアシンパとされた男たちをSBU捜査官が殴打する映像(下)として公開された。



「我々は決してロシア兵を捕虜にしない。」ウクライナ軍、戦争犯罪を誇示

 開戦以来、西側メディアがロシアの人権侵害疑惑に正面から取り組む一方で、ウクライナ兵や親ウクライナのソーシャルメディアアカウントは、現場での処刑から捕虜の兵士の拷問に至るまで、サディスティックな戦争犯罪を誇らしげに公開してきた。

 今年3月、「White Lives Matter(白人の命が大事)」という親ウクライナのテレグラムチャンネルは、下の写真にあるロシア人捕虜の婚約者にウクライナ兵が電話をかけ、捕虜を必ず去勢してやるとなじる動画を公開した。

(この動画は原文サイトをご覧下さい。訳者)

 ウクライナ兵が死んだロシア兵の携帯電話を使って、その親族を馬鹿にしたり、へつらったりするのはよくあることのようである。実際、ウクライナ政府は、米国のハイテク企業クリアビューAIの悪名高い侵略的な顔認識技術を使って、ロシア人犠牲者を特定し、その親族をソーシャルメディアで愚弄し始めたのである。



 今年4月、親ウクライナのテレグラムチャンネル「fckrussia2022」は、片目に包帯を巻いたロシア兵を描いた動画を投稿した。ロシア兵が拷問で目をえぐられたことを示唆していて、彼を「片目の」豚と嘲笑していた。

 ここ数週間でソーシャルメディアに登場した最も陰惨な画像は、拷問を受けたロシア人兵士が殺される前に片目をえぐられた写真だろう。添付された投稿には、「ナチス探索中」という字幕が付けられていた。


 また、今年4月には、ハリコフ市郊外でウクライナ兵が丸腰のロシア人捕虜の脚を撃っている動画が公開されている。ウクライナと米国が支援するグルジア軍団の兵士が公開した別の動画では、キエフ郊外の村の近くで、負傷したロシア人捕虜を現場で処刑している戦闘員たちの姿が映っていた。

 これらの兵士は、上官による賞賛を受けて勢いづいていたのだろう。負傷したロシア人捕虜の野外処刑に参加したグルジア軍団のマムラ・マムラシビリ司令官は、今年4月、自分の部隊が自由に戦争犯罪を犯していると自慢していた。「そうだ、我々は時々彼らの手足を縛る。グルジア軍団を代表して言うが、我々は決してロシア兵を捕虜にしない。一人も捕虜にしない。」

 同様に、ウクライナ軍医療サービスの責任者であるゲンナディ・ドルゼンコは、ウクライナ24とのインタビューで、「ロシア人男性は人間以下でゴキブリよりひどいので、全員去勢するよう命令を出した」と述べている。

ウクライナ当局は、アゾフによって拷問され殺された女性を、ロシアによる犠牲者として紹介した。

 西側メディアが、ロシア国内およびウクライナ国内でのロシアの人権侵害を報じる中、ウクライナ政府は、ロシアをさらに悪者にするために、偽の画像や偽の話を仕込む手口を含む「トータルウォー(総力戦)」と呼ばれるプロパガンダ・キャンペーンを許可している。

 この戦略の特に冷笑的な例として、ウクライナ24(ゲストがロシアの子どもたちを大量虐殺するよう呼びかたことのあるテレビチャンネル)が今年4月、腹部に血まみれのかぎ十字の焼印を押された女性の遺体を写した写真を掲載したことが挙げられる。ウクライナ24は、ロシア人が3月29日に明け渡したキエフ州の地域の一つであるゴストゥメルでこの女性を発見したと主張していた。

 ウクライナの国会議員レシア・ヴァシレンコ(Lesia Vasylenko)と、ゼレンスキー大統領の最高顧問オレクシイ・アレストヴィッチ(Oleksiy Arestovych)が、この汚された女性の死体の写真をSNSで公開した。ヴァシレンコが写真をネット上に残したのに対し、アレストヴィッチは投稿から8時間後、自分が偽物を公開した事実を突きつけられ、写真を削除した。

 実はこの画像は、ドネツク在住の米国人ジャーナリスト、パトリック・ランカスターがマリウポルの学校の地下室を基地に改造し、ウクライナのアゾフ大隊の隊員が拷問し殺害した女性の遺体を撮影した映像から引用したものだった。

 ランカスターが公開した動画の2分31秒のところで、女性の死体がはっきりと見える


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 NATO諸国からウクライナに兵器が流入し、戦争が激化すれば、残虐行為が積み重なることはほぼ確実である。キエフの統率力に祝福があらんことを!今年4月、ブチャ市を訪問したゼレンスキーが宣言したように、「もし我々が文明的な方法を見つけられなければ、ご存知の通り、我が国民たちは非文明的な方法を見つけるだろう。」



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米国政府高官、ロシアについて文字通り国民にウソをついていることを認める

米国政府高官、ロシアについて文字通り国民にウソをついていることを認める

<記事原文 寺島先生推薦>

Caitlin Johnstone: US officials admit they're literally just lying to the public about Russia

Russia Today  2022年4月8日

ケイトリン・ジョンストーン(Caitlin Johnstone)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月30日

証拠が何もない主張を拡散することから、あからさまに嘘をつくことへ。「プーチンの頭にたたき込む」のであれば何でもOK、ということらしい。

By Caitlin Johnstone, an independent journalist based in Melbourne, Australia. Her website is here and you can follow her on Twitter @caitoz


US President Joe Biden © Chip Somodevilla / Getty Images

 NBC Newsは、複数の匿名の米政府高官を引用した新しい記事を発表。「過去のやり方とは決別し、アメリカはロシアとの情報戦を戦うために、少し怪しげな情報でも使っている」というちょっと滑稽なタイトルをつけている。

 この高官たちの話によれば、バイデン政権はプーチンに対する情報戦を戦うために、ウクライナにおけるロシアの計画について、「信頼度が低い」あるいは「確かな証拠というよりは分析に基づく」、あるいは単なる虚偽の「情報」を急速に前面に押し出してきたのだという。

 この記事には、この目的のために、米国政府は、次の4点について誤った、あるいは証拠不十分な主張を意図的に流布した、と書かれている:

①     差し迫った化学兵器攻撃について、

②     侵攻を正当化するためにドンバスで偽旗攻撃を組織するロシアの計画について、

③     補佐官たちがプーチン大統領に誤った情報を伝えていることについて、

④     ロシアが中国から武器供給を求めていることについて



 以下は引用(強調は筆者):

 これは注目を集める主張であり、世界中のメディアで大見出しとなった:
 アメリカ政府高官によれば、ロシアがウクライナで化学兵器を使用する準備をしている可能性を示唆する兆候がある。
 
 ジョー・バイデン大統領はその後、それを公けにした。しかし、3人の米政府高官が

 今週NBCニュースに語ったところによれば、ロシアがウクライナに化学兵器を持ち込んだという証拠はないとのことである。彼らは、米国がこの情報を公開したのは、ロシアが化学兵器という禁止された弾薬を使用するのを阻止するためだと述べた。

 これは、バイデン政権がロシアに対する情報戦の一環として機密解除された情報を流すことによって、前例を打ち破った一連の例の一つである。ロシアのプーチン大統領を揺さぶるために、多少怪しげな情報でもバイデン政権はそれを活用してきたのだと、高官たちは言っている。

 だから、バイデン政権は嘘をついた。バイデン政権は崇高な理由のために嘘をついたと言うかもしれないが、嘘はついたのだ。バイデン政権は、自ら真実であるとまったく思ってもいない情報を故意に流した。そしてその嘘は西側世界の最も影響力のあるすべてのメディアによって増幅されたのだ。

 バイデン政権が「情報戦」の一環として誤った言説を流したしたもう一つの例:

 同様に、ロシアが中国に軍事的支援の可能性を求めたという告発も、確たる証拠を欠いていると、1人の欧州政府高官と2人の米国政府高官が述べている。

 米政府高官は、中国がロシアへの武器供与を検討している兆候はないと述べた

 バイデン政権は、武器供与などするなという中国への警告としてその情報を流したのだという。

 米帝国が先週主張した、プーチンは真実を語ることを恐れている補佐官たちから誤情報を与えられ間違った道に進まされている、ということについて、NBCは、この評価は「決定的なものではなかった – 確たる証拠というよりも分析に基づいたものだった 」と報道している。

 実は、この馬鹿げたCIAのプレスリリースを、ニューヨーク・タイムズ紙が速報としてそのまま掲載したのだが、私は実際のところ笑いが止まらなかった。



 2月に国務省のネッド・プライス報道官が、あろうことか、まるでアレックス・ジョーンズ*さながらに、ロシアが侵略を正当化するために危機管理俳優を使った「偽旗」ビデオを公開しようとしていると誤って主張したことも、私たちを笑わせてくれた。

[訳注:アレキサンダー・ジョーンズ*・・・アメリカ合衆国の極右ラジオ番組司会者、陰謀論者である。ジョーンズは『ニューヨーク』誌からは「アメリカを代表する陰謀論者」、南部貧困法律センターからは「現代アメリカで最も多作な陰謀論者」と評されている。(ウィキペディア)



 NBCの報道で取り上げられた他の米国政府の嘘は、これほどかわいげのあるものではなかった:

 もうひとつの話として、米政府高官たちが語っていることだが、ウクライナにミグ戦闘機を提供しない理由の1つは、そうするとロシアはそれをエスカレーションと見なすだろうという諜報活動の結果を踏まえてのことだ、という。

 それは事実だが、バイデン政権が実際に提供したスティンガーミサイルについても同様である、と2人の米政府関係者が語った。さらに、政権はウクライナに提供しないという主張を補強するためにミグに関する情報の機密扱いを解除した、と付け加えた。

 つまりバイデン政権は、ウクライナに武器を送ることは、核保有超大国(ロシア)から挑発的なエスカレーションと受け取られることを知っていて、とにかく送った。そしてそのことについて嘘をついたということだ。やりますね!

 このNBCの報道は、我々が何ヶ月も前から聞いていた噂を裏付けるものである。プロの戦争応援団長マックス・ブート(Max Boot)は、2月にシンクタンク「外交問題評議会」を通じて、バイデン政権は、真実を伝えるためではなく、プーチンの決定に影響を与えるために設計された情報公開で「情報作戦の新時代」を切り開いたと述べた。元MI6長官ジョン・ソワーズ(John Sawers)は2月、シンクタンク「アトランティック・カウンシル」に、バイデン政権の「情報」発表は人々の雰囲気的な感情に基づいており、実際の情報というわけではない。情報を伝えるというより人々を操作するために設計されていると語った。



 因みに言っておくが、NBCは、米国政府内の内部告発者が、報道の自由の助けを借りて権力者の嘘を勇敢に暴くような、重大なリーク記事を掲載したということではまったくない。記事執筆者の一人は、2014年にLA Timesに寄稿しながら文字通りのCIAのスパイとして働いていたことが明らかになったケン・ディラニアン(Ken Dilanian)である。ディラニアンの名前が書名欄にあったら、米帝の支配人が読ませたいものをそのまま読んでいると考えて間違いないだろう。

 では、なぜ今になってこんなことを言うのだろう?アメリカ政府は、最も有名な国際紛争について継続的に嘘をついていることを認めることによって、国民の信頼を失うことを心配しないのだろうか?また、NBCの情報筋が主張するように、これが「プーチンの頭にたたき込む」ための「情報戦」であるなら、主要な報道機関を通じて公然と報道することは完全に目的を逸脱していないだろうか。

 さて、これらの質問に対する答えは、本当に薄気味悪いところにある。この件に関する読者のご意見や理論は大歓迎。私が思うに、アメリカ政府がこの話を公開する唯一の理由は、一般大衆にそれを知ってもらいたいからだ。そして、一般大衆に知らせたい理由は、一般大衆は自分が嘘をつかれてもかまわないと言うだろうと、アメリカ政府は信じて疑わないということなのだろう。

 私が言いたいことをもっとよくわかってもらうために役立つのは、ディラニアンとNBCのキャスター、アリソン・モリス(Alison Morris)のテレビ放映版を見ることだ。この二人は、バイデン政権がプーチンの心理を混乱させるためにこのような心理戦の戦術を採用していることが、いかに素晴らしく、すぐれたやり方かを熱く語り合っている。



 洗脳されたNBCの視聴者がこの放映を見たときに受け取るメッセージは、「これって、まじ、やばくねえ?我々の大統領はプーチンを倒すために、こんなすごい立体チェスの駒運びをやってのけ、我々もその一端を担っているというわけだ!」 ということになる。

 ずっと以前から分かっていたことだが、米帝はインターネット検閲プロパガンダ、シリコンバレーのアルゴリズム操作、ジャーナリストへの迫害の常態化などを通じて、地球の覇権支配を強化するために言説統制を強化しようとしてきた。帝国の言説支配が、今は端的に次のような段階にきているのかもしれない。つまりこの段階になると、帝国は「大衆は、帝国の利益のために、嘘をつかれることに同意している」という言説を大っぴらにでっち上げ始めることができるのだ。



Read more: Fake US government agents arrested

 ジュリアン・アサンジ(Julian Assange)に対する中傷キャンペーンで、主流リベラル派は、政府は自分たちの暗い秘密をリベラル派から守る権利があるという風に躾けられた。それとまったく同じように、私たちは今、言説コントロールがさらに進展した段階にいるのかもしれない。この段階において主流リベラル派は、政府には自分たちに嘘をつく権利がある、というところまで躾けられているのだ。

 アメリカは一極覇権を確保するため、必死になってロシアと中国に対して冷戦的な攻撃を強めている。核武装した敵に対してさらにあからさまな方法で攻撃できないため、冷戦では伝統的に心理戦が大きな役割を担っている。だから、今はアメリカの二大政党の「思想家」たちが、自分たちの政府の心理戦争工作を熱狂的に応援する時であることは間違いないだろう。

 このNBCの報道について、主流のリベラル派がどのようなことを言っているか、インターネット上で何気なく見てみると、実際にこのようなことが起こっていることがわかる。リベラルな人々の間では、世界で最も強力な政府が、戦略的利益のために世界で最も強力なメディア機関を使って国民に嘘をつくことを、広範な人々が受け入れているように見えることははっきりしている。もしこれが受け入れられ続ければ、帝国の支配者にとって今後、事態を前に進めることがより簡単になるだろう。

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ロシアのウクライナ介入が国際法上、合法である理由

ロシアのウクライナ介入が国際法上、合法である理由

<記事原文 寺島先生推薦>

Why Russia’s Intervention in Ukraine is Legal Under International Law

投稿者: INTERNATIONALIST 360°
 
投稿日: 2022年4月23日

ダン・コヴァリク

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  

2022年4月27日
 


ロシアが自衛権を行使したという主張は成り立つ

 私は長年にわたり、国連憲章の侵略戦争の禁止について研究し、熟考してきた。第二次世界大戦の惨禍の後に起草し合意されたこの文書の第一の目的は、戦争を防止し「国際平和と安全を維持すること」である。この言葉は何度も繰り返して引用されてきたが、その目的を本気で疑うものは誰もいない。

  ニュルンベルク裁判の判事たちが正しく結論づけたように、「侵略戦争を始めることは...国際的な犯罪であるだけでなく、他の戦争犯罪とは異なり、それ自体が全体の悪の蓄積を含んでいるという点において、最悪の国際的犯罪である」。つまり、戦争は最悪の犯罪ということだ。なぜなら、大量虐殺や人道に対する罪などの、私たちが忌み嫌う悪のすべてが、戦争という木に生る恐ろしい果実だからだ。

 上記の観点から、私は戦争と外国への介入に反対することに、成人してからの全生涯を費やしてきた。もちろん、私は、ひとりの米国市民として、そうする機会が十分にあった。というのも、自国は、マーティン・ルーサー・キング牧師が述べたように、「世界最大の暴力の提供者」だったからだ。最近、同様のことをジミー・カーター(訳註:第39代米国大統領)も、米国は「世界の歴史の中で最も戦争好きな国」であると言っている。もちろん、これは明白な事実である。私が生きている間だけでも、米国はベトナム、グレナダ、パナマ、旧ユーゴスラビア、イラク(2回)、アフガニスタン、リビア、ソマリアといった国々に対して、相手から挑発されたことがないにも拘わらず、攻撃を仕掛けるという戦争を行ってきた。ただ、これらの戦争には米国が代理人を通じて行ってきた数々の身代わり戦争は含まれていない。ニカラグアのコントラ、シリアの様々なジハード主義者グループ、イエメンとの戦争でサウジアラビアやUAEを通じて行った戦争がその一例である。

 実際、このような戦争を通じて、米国は地球上のどの国よりも数多く、また意図的に、攻撃を行い、戦争を禁止する法的な柱を弱体化させてきた。このような状況に対抗するために、ロシアや中国を含む数カ国が「国連憲章擁護のための友好国グループ」を設立し、国連憲章にある攻撃的戦争の法的禁止を少しでも救おうとしている。

 つまり、米国がロシアのウクライナ侵攻を国際法違反と訴えるのは、「どの口が言う」と言いたくなるほどのものなのだ。しかし、米国が明らかに偽善的だからといって、米国を自動的に間違っていると言うことも正しくない。結局のところ、私たちはロシアの行為も是々非々という観点から分析しなくてはならないのだ。

 さて、そこで今回のロシアの行為であるが、まずはここから議論を始める必要がある。2022年2月のロシア軍の侵攻に先立つ8年間、ウクライナではすでに戦争が起こっていたという事実を受け入れることである。このキエフ政府によるドンバスのロシア語圏の人々に対する戦争は間違いなく大量虐殺的だったのだ。この攻撃によって、ロシアの軍事作戦が始まる前から、約1万4000人(その多くは子供)の命を奪われ、さらに約150万人が避難を余儀なくされていた。つまり、キエフの政府、特にそのネオナチの大隊は、少なくとも部分的には、まさに民族的な理由でロシア人を滅ぼすことを意図して、これらの民族に対する攻撃を実行していたのである。

 こうしたことを米国政府とメディアは必死に隠そうとしているが、これは否定できない事実である。実際には、欧米の主要な報道機関は、そうした事実についての報道が問題になる前に、そのことを報道していた。2018年にロイターが掲載した記事では、ネオナチ大隊がいかにウクライナの正式な軍や警察に統合され、その結果、ウクライナ政府が法的責任を負う国家の、もしくは少なくとも、準国家的な行為者になったかを明確に説明している。この記事によれば、ウクライナでは30以上の右翼過激派グループが活動し、それらは「ウクライナの軍隊に正式に統合されて」おり、「これらのグループの中でもより過激なものは、不寛容で偏狭なイデオロギーを推進している」ということである。

 つまり、彼らはロシア民族やロマ人、またLGBT共同体のメンバーに対しても、憎悪を抱いて膨らませ、さらにはその憎悪を行動に移して、この人たちを攻撃、殺害し、国外へ追い出している。この記事が引用した欧米の人権団体フリーダムハウスは「ロシアと対立するウクライナを支持する愛国的な言説の増加は、公的なヘイトスピーチの増加と同時に起こっている。そのヘイトスピーチは、時には公務員によって行われてメディアによって増幅される。LGBTコミュニティなどの脆弱な集団に対しては暴力行為にまでもエスカレートしている」と述べている。これらの行為は実際の暴力を伴っているのだ。その例として「アゾフや他の民兵は、反ファシストのデモ、市議会、地方放送局、美術展、留学生やロマ人などを攻撃している」という記述がある。

 Newsweekの記事によれば、アムネスティ・インターナショナルは、2014年の時点で、まさにこれらの過激派ヘイトグループとそれに伴う暴力活動について報告を行っていた。

 まさにこのタイプの証拠、つまりその対象者に対する公のヘイトスピーチと大規模で組織的な攻撃とが組み合わさったものが、個人を集団虐殺の罪に問うときにはずっと使われてきた。例えば、ルワンダのジェノサイド事件で有罪となったジャン=ポール・アカエスがその例である。

 さらに付け加えれば、ウクライナのドンバス地域の住民でロシア国籍も持っている人は50万人を優に超えている。この試算は2021年4月、ウラジーミル・プーチンが2019年にドネツクおよびルガンスクの人民共和国に住む住民のロシア国籍取得手続きを簡略化した後のものだが、これはロシア国民がウクライナ政府に組み込まれたネオナチ集団によって人種差別の攻撃にさらされていたことを意味する。しかもそれはロシアとの国境で起こっていたのだ。

 そして、ウクライナ政府は、ドンバスのロシア系民族に対する自らの意図をロシアにはっきりと示すために、2019年に新しい言語法を可決し、ロシア語話者がせいぜい二流市民でしかないことを明確にした。このとき、通常は親欧米であるヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)がこの法律について警戒感を表明した。2022年初頭においては西側メディアではほとんど報道されなかったことだが、そのときのHRWの報告書には、その法律の内容の記載があった。「ウクライナで登録された印刷物はウクライナ語で出版することを義務付ける」「他の言語で書かれた出版物には、内容、量、印刷方法が同等のウクライナ語版も添付しなければならない。さらに、新聞販売所のような流通の場では、少なくとも半分はウクライナ語の出版物でなければならない」。

 そして、HRWによれば、「印刷出版社に関する第25条では、特定の少数民族言語、英語、EU公用語は例外とするが、ロシア語は例外としない」(強調)、その正当化の理由は、「ロシア語を優先して...ウクライナ語を弾圧した世紀」だという。HRWの説明には「少数言語に対する保証が十分かどうかという懸念がある。欧州評議会の憲法問題に関する最高諮問機関であるヴェニス委員会は、第25条を含むこの法律のいくつかの条文は、ウクライナ語の促進と少数派の言語的権利の保護との間で”公正なバランスをとることができない”と述べている」と書いてある。このような法律は、ウクライナにおけるロシア系民族の、存在そのものの破壊とまでは言えないが、彼らの文化を破壊しようとするウクライナ政府の欲望を強調するものでしかなかった。

 さらに、世界平和機構の2021年の報告では「ウクライナの国家安全保障・防衛評議会令No.117/2021によれば、ウクライナはロシアが併合したクリミア地域の支配権を取り戻すために、あらゆる選択肢をテーブルに乗せることを約束した。3月24日に署名された文書では、ゼレンスキー大統領は同国に以下の戦略を追求することを約束した。”半島の脱占領と再統合を確実にするための方策を準備し実行する”」との記載がある。クリミアの住民は、そのほとんどがロシア系民族であり、ロシアの統治下にある現状にかなり満足している(これは2020年のワシントンポストの報道であるが)ことを考えると、上記のゼレンスキーの脅しは、ロシアそのものに対する脅しであるだけでなく、ウクライナに戻りたくないと思っている人々に対して大規模な流血を引き起こす可能性があるという脅しでもある。

 これで説明はもう十分だと思うが、この状況はロシアの介入を正当化する極めて有力な保護責任(R2P)原則の事例といえるだろう。この原則は、ヒラリー・クリントン、サマンサ・パワー、スーザン・ライスといった西側の「人道主義者」が提唱してきたもので、それは旧ユーゴスラビアやリビアといった国々へのNATOの介入を正当化するために依拠した原則だったのだ。さらに言えば、これらの介入に関与した国家のいずれも、介入は自衛のためだと主張することはできなかった。これはとりわけ米国に当てはまる。なぜなら、米国は何千キロも離れた場所に軍隊を派遣し、遠く離れた土地に爆弾を落としていたからだ。

 実際、このことはパレスチナの偉大な知識人であるエドワード・サイードの言葉を思い起こさせる。彼は何年も前に影響力のある著作『文化と帝国主義』の中で、ロシアの帝国建設を西洋のそれと比較しようとするのは単に不公平であると見解を述べているのだ。サイード博士はこう言った。「ロシアは......ほとんど隣接によってのみ帝国領土を獲得した。しかし、イギリスやフランスの場合は、魅力的な領土の距離が遠いため、遠く離れたところに関心を持つようになった......」。この観察は米国にはどちらも当てはまる。

 しかし、ロシアが主張する介入の正当性については、まだ検討すべき点がある。それは、ロシア人を含むロシア系住民を攻撃する過激派集団が国境に存在するだけでなく、これらの集団はロシアの領土を不安定化し政権を転覆させようとしている米国から資金提供や訓練を受けている、と伝えられていることである。

 Yahooニュース!は2022年1月の記事で次のように説明している。

 「この構想に詳しい5人の元情報・国家安全保障当局者によると、CIAはウクライナのエリート特殊作戦部隊やその他の諜報員のための米国での秘密の集中訓練プログラムを監督しているという。その一部の関係者によると、2015年に始まったこのプログラムは、米国南部の非公開の施設を拠点としている。
 
 このプログラムでは、ウクライナ人が「ロシア人に反撃する能力を高める」ための「非常に具体的なスキルの訓練」が行われてきたと、元情報当局の高官は述べた。

 この訓練には「戦術的なもの」も含まれており、「ロシアがウクライナに侵攻すれば、かなり攻撃的に見えるようになるだろう」と元政府関係者は語った。

 このプログラムに詳しいある人物は、もっと露骨にこう言った。「米国は反乱軍を訓練している」とCIAの元幹部は言い、このプログラムはウクライナ人に『ロシア人を殺す方法』を教えていると付け加えた」。(強調は筆者)

 ロシアの不安定化そのものが、こうした取り組みにおける米国の目標であったという疑いを払拭するには、ランド社の2019年の報告書を精査する必要がある。この会社は長年にわたり政策目標を遂行する方法について米国に助言をしてきた防衛請負業者であるが、その報告書には「ロシアを過度に拡張させて不安定化する:コスト負担を押しつける選択肢の影響評価」と題されたものがあり、そこでは、数ある戦術の一つとして「ロシアの最大の対外的脆弱性を突く」ために「ウクライナへの兵器の提供」が挙げられている。

 要するに、ロシアは、米国、NATO、そしてウクライナの過激派代理人による具体的な不安定化工作によって、かなり深刻な形で脅かされてきたことは間違いないのである。 ロシアは8年の間ずっと、そのような脅威にさらされてきたのだ。そしてロシアは、イラクからアフガニスタン、シリア、リビアに至るまで、そうした不安定化の企みが他の国々にとって何を意味するのかを目撃してきた。それは、国民国家として機能していた国がほぼ完全に消滅させられることを意味していたのである。

 国家防衛のために行動する必要性について、これほど切迫したケースは考えにくい。国連憲章は一方的な戦争行為を禁止しているが、第51条で「この憲章のいかなる規定も、個人的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」と規定しており、この自衛権は、実際の武力攻撃だけでなく、差し迫った攻撃の脅威にも対応できるものと解されている。

 以上のことから、今回の切迫した事例では、この権利が発動され、ロシアは自衛のために行動を起こす権利があったと私は判断する。ロシアのウクライナへの介入は、ウクライナが、米国とNATOの代理人として、国内のロシア民族だけでなくロシア自身への攻撃を行ったことに対する自己防衛であったと言えるのだ。これに反する結論は、ロシアが直面している深刻な現実を単に無視することにしかならない。




ダニエル・コバリク氏はピッツバーグ大学法学部で国際人権を教え、最近出版された『No More War: How the West Violates International Law by Using "Humanitarian" Intervention to Advance Economic and Strategic Interests(戦争はもうやめろ:西側は経済的戦略的な利益のためにいかに「人道的介入」によって国際法を犯してきたか)』の著者である。

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「歴史の捏造だ」――ギリシャ議会でのゼレンスキーの演説は国民の怒りを買い、第二次世界大戦時の傷口を開いた

「歴史の捏造だ」――ギリシャ議会でのゼレンスキーの演説は国民の怒りを買い、第二次世界大戦時の傷口を開いた

<記事原文 寺島先生推薦>

 “A historic sham”: Zelensky’s speech to Greece’s parliament' sparks national outrage, opens WWII-era wounds
 
TJコールズ(TJ Coles)2022年4月20日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月27日

 

4月10日、テッサロニキ拠点の鉄道労働者たちが米軍車両の輸送に反対して抗議運動

 
 あるアゾフ戦士を招いてギリシャ議会で(ビデオ)演説させたことで、ゼレンスキーはこの国の歴史的な傷跡を開き、親米政権を揺るがす怒りのデモを引き起こした。

 「ウクライナの人々との連帯は当然だ。しかし、ナチスは議会で発言することはできない」。ギリシャの元首相で左派政党シリザ(Syriza)の党首であるアレクシス・ツィプラスの言葉である。

 ツィプラスが反発しているのは、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領がアゾフ大隊を正当化しようとしていることにたいしてである。アゾフ大隊は極右・ファシスト戦闘員集団であり、ウクライナでロシア軍と戦うためにアメリカに訓練され、この間ゼレンスキーは直接・間接的な軍事支援を求めて外国の首都を回っている。

 ゼレンスキーは4月、自国の反ロシア戦争への支援を得るためにギリシャ議会を訪問し、物議を醸した。マリウポリは、ネオナチ「アゾフ旅団」から迫害を受けたギリシャ系住民が多く住む地域で、アテネでは特に懸念されていた地域だった。

 ゼレンスキーは議会訪問の際、「自分の親戚は第二次世界大戦でドイツのナチスと戦った」と主張する(ギリシャ系の)アゾフ戦士のビデオを流した。これは、ファシスト組織であることを誤魔化そうとする相手を馬鹿にした試みとして受け取られた。特に第二次世界大戦の亡霊を引きずっているギリシャ人にとっては、痛恨の極みであった。なぜなら、ギリシャは強力な左翼を誇りにしていて、第三帝国に抵抗していたからである。

 (第三帝国:1933~1945年のナチス政権下のドイツ。この言葉はMoller van den Bruck(1876~1925年)が1923年に出版した"Das dritte Reich"から取ったもの。ブルックは神聖ローマ帝国とドイツ帝国の後に、民族主義にもとづく第三帝国が来ることを予言したことから、政治的なプロパガンダとしてナチスによって利用された)

 ナチスが敗れ、大英帝国が弱体化すると、アメリカはギリシャを反ソ連の拠点にするために全力で動き出した。ギリシャの左翼を恐怖に陥れ、ギリシャをNATOに吸収させた。それ以来、ペンタゴン(国防総省)はギリシャとその隣国トルコを戦略的防波堤と見なしてきた。両国は、親米的なヨーロッパと石油資源の豊富な中東を結ぶ物流の架け橋として機能しているのである。 

 現在進行中のNATOの対ロシア代理戦争は、こうした戦略的利益を浮き彫りにした。そして、それがウクライナに向かう武器の荷揚げに反対する組合ストライキを誘発し、ゼレンスキーと彼を呼んできたギリシャ政府による議会での挑発的宣伝行為に対して国民の怒りの波を引き起こしたのだ。

 この怒りは、ナチスによる占領と、ギリシャの戦後民主主義に対するCIAの持続的な攻撃という痛ましい記憶から直接出てきたものである。

 

CIAが戦後ギリシャの「共産主義者抹殺」計画を誘導した

 1936年、ギリシャの首相イオアニス・メタクサスは、国王ゲオルギオス2世の支援を受けて親ナチスの独裁者となった。1941年メタクサスが死んだことで、ギリシャ共産党(KKE)の反ナチスへの抵抗はより強化された。KKEは占領したナチスに対抗するため、人民解放軍(ELAS)を設立していた。1943年まで、ELASはイギリス特殊作戦執行部(SOE)によって当初は訓練を受けていた。SOEはヨーロッパの準軍事組織を訓練するために作られた極秘部隊である。ギリシャの左翼の力を示すように、ELASの政治部門である民族解放戦線(EAM)は、200万人のメンバーを誇っていた。

 イギリス外務省は国王ゲオルギオス2世の復権を目指し、彼の反左翼的な信条を明確に引用して戦った。キプロスのファシスト大隊Xと協力して、イギリスは新しい陸軍部隊、ヘレニック襲撃部隊(LOK)を設立し、人民解放軍(ELAS)のメンバーを探しだして殺させた。1944年のシンタグマ広場でのイギリスとファシストに対するデモは、幼い子どもを含む25人のデモ参加者の虐殺に終わった。1年後のヤルタ・クリミアの会議でスターリンは、ブルガリアおよびルーマニアと交換でギリシャを占領することを英本国およびアメリカに許可することに同意した。1947年、イギリスはアメリカに支援を要請し、左翼思想をギリシャ国民の心から粛清しようとした。



1944年12月3日、アテネで28人の非武装のデモ参加者が、ギリシャ警察とイギリス軍によって虐殺された。

 「ギリシャ将校の聖なる絆(IDEA)」はCIAとその前身(情報調整局)から支援を受け、FBIと連携して、「左翼」の情報をギリシャ大使館に送っていた。クリストファー・シンプソンは、戦後のアメリカがナチスと協力したことを書いた本『ブローバック』の中で次のように書いている。ペンタゴンの秘密文書が暴露したのは、「アメリカがIDEAに数百万ドルを注ぎ込み……選ばれたギリシャ軍、警察、反共産主義者(将校たち)からなる『秘密の軍隊予備軍』と呼ばれるものを作るためだった」ということだった。アメリカ帝国主義の典型的な考え方であるが、この「左翼」には、右翼の共和党員から宗教的少数派までが含まれていた。

 ナポレオン・ゼルバス将軍、いわゆる公共秩序担当大臣と呼ばれた人物は、アメリカのウィリアム・リヴセイ将軍に、その目的は「共産主義者を殺すこと」だと言った。リンカーン・マクベア駐日アメリカ大使は、ディミトリオス・マクシーモス首相に、アメリカ世論は「破壊的でない政治的敵対者」に対する「右派の行き過ぎ」に反対している、と警告した。しかし、アメリカの駐在官カール・ランキンは、こうした措置は「極めて必要なもの」だと考えていた。

 アメリカ国際開発庁の前身であるアメリカン・ミッション・フォー・エイド・イン・ギリシャ(ギリシャにおけるアメリカの援助使命)のディレクター、ドワイト・グリスウォルドは、国家による子どもの大量誘拐(拘束された親からの)を、特に「スラブ系少数民族」に対して「非常に有効」な心理戦装置であると表現している。左翼が潰され、「ギリシャ将校の聖なる絆(IDEA)」はNATOと手を組んだ。それはギリシャが1952年にNATOに加盟したときのことだった。

「アメリカは象だ、キプロスは蚤だ。ギリシャも蚤だ」

 1953年、CIAは、ギリシャ国家情報機関(KYP)を構築し、コンピュータによる国民追跡技術を提供した。KYPはCIAと密接な関係にあり、後にCIAアテネ駐在となるジェームズ・M・ポッツは、ギリシャ情報部の連絡係であるゲオルギオス・パパドプロス大佐を「我が息子」と呼んだほどであった。

 次にCIAは「(レッド)シープスキン作戦」を開始した。これは、アメリカのルシアン・トラスコット将軍とその相手であるコンスタンチノス・ダヴォス参謀長の相互協力協定によって開始された破壊活動であった。10年以上の長きにわたって、シープスキンとギリシャ国家情報機関(KYP)は武器とゲリラ戦の訓練を残留右派細胞に対して提供していた。それが1967年4月に軍事政権をもたらしたクーデターへの道を開いたのである。

 「ギリシャは戦略的な位置にあり、ソ連圏と近東に近接しているため、アメリカにとって重要である」と1957年の国家安全保障会議(NSC)の報告書には書かれている。また重要であるのは、「NATOへの加盟、バルカン条約を通じたユーゴスラビアとの関係、ソ連の地中海へのアクセスに対する陸上障壁を形成していることである」と。

 ギリシャは、アメリカとNATOに基地を提供しただけでなく、国家予算の3分の1を軍国主義に費やしていたのである。第二次大戦の終戦から1958年まで、アメリカの納税者は、ギリシャに武器を供給するために11億ドルという途方もない額を投資した。これは、現在の貨幣価値に換算すると約110億ドルである。

 国家安全保障会議(NSC)のドクトリンのもと、ギリシャ国防軍は近代化されることになった。アメリカの特殊部隊デルタフォースやイギリスの特殊空挺部隊にヒントを得た装備一式を備えてである。ダニエレ・ガンザーの比類なき『NATO秘密軍事史』は次のことを詳しく記録している。アレクサンダー・パパゴス元帥の指揮のもと、ヘレニック襲撃部隊(LOK、前出)はCIAと協力していたこと、そしてNATOがギリシャに永続的に駐留するための道筋をつけたということを。

 キプロスは重要な問題となった。中東に近いことから、米英もこの島を拠点とした。トルコはアメリカの同盟国であり、NATOの秘密作戦でトルコの住民が苦しめられていたため、キプロスの領有権を主張していた。アメリカのジョンソン政権は、ギリシャとトルコを和解させるためにキプロスの分割を提案した。ギリシャの詩人であり外交官でもあったアレクサンダー・マッツァスが反対すると、ジョンソンは例の悪名高い返事をした。「議会も憲法もクソくらえだ。アメリカは象だ。キプロスは蚤だ。ギリシャは蚤だ。もし、あの二国が象を噛んでかゆくさせ続けるなら、叩き潰してやる」と。

 3年後の1967年、ギリシャのエリートたちは、月平均24件の労働者ストライキによって麻痺状態に陥った。中道左派の政治的勝利が予想される4週間前に、ヘレニック襲撃部隊(LOK)は「NATOのプラン・プロメテウスII」を実行に移した。共産主義者と疑われる者を一網打尽にし、軍事クーデターを引き起こしたのだ。

CIAからギリシャ軍への命令:「このくそ野郎を撃て」


 中央連合政府の調整担当大臣(最終的に軍事クーデターで退陣した)アンドレアス・パパンドレウ(父)は、ゲオルギオス・パパンドレウ首相のCIAの手先となってしまった。アメリカの諜報機関は、アンドレアスがセンター連合の左翼側に余りに甘いことを認めた。CIA諜報員だったグスタフ・アブラコトスは、パパンドレウ(息子の方)のギリシャ軍の同僚たちにこう忠告した:「このくそ野郎を撃て、でなきゃ必ず戻ってきておまえを悩ませることになるぞ」と。アンドレアスは、政権奪取に動くまで、CIAの「ギリシャ将校の聖なる絆(IDEA)」の存在など何も知らなかったと主張している。


 パパンドレウは1974年にギリシャの軍事政権が倒れるとギリシャに戻り政治活動を開始した。父のアンドレアス率いるPASOKに属し、党首の息子として1984年には中央委員会のメンバーとなる。1981年に国会議員に選出された。同時にパパンドレウの父のアンドレアスはギリシャの首相に任命されている。1985年には文化省次官、1988年には教育・宗教相、1999年には外務大臣に任命された。パパンドレウは人権の尊重に対する功績から様々な賞を授与されている。また外務大臣としても評価が高く、父のように刺激的な言動をせずトルコとの関係を改善し、関係が悪化していたアルバニア・ブルガリアとも交流を促進した。キプロス問題についてはギリシャの基本的な立場を崩すことをせず、成功には終わらなかった。1990年代前半のマケドニア共和国問題にも対処した。

 2009年の総選挙でPASOKが勝利した為、新首相に就任した。しかし2010年になり財政赤字の隠蔽を公表し、国債が格下げされるなどギリシャ経済は危機に陥った(2010年欧州ソブリン危機を参照)。3000億ドルという巨額の対外債務を抱えたギリシャの財政は危機的状況に陥って、パパンドレウは「今回の信頼喪失で我々の主権が一部失われた」と述べてヨーロッパ連合に政治的な支援を要請するなど、政権発足後半年もしないうちに非常に困難な政権運営を余儀無くされた。


 2003年12月22日に雑誌『ヨーロッパの声』において、パパンドレウはその年を代表するヨーロッパ人に選ばれた。フランスの新聞のル・モンドは彼をギリシャ・トルコ関係の立役者であると讃えた。

 ジョンソン大統領の国家安全保障顧問であったW.W.ロストーは、1967年2月の委員会で、アメリカの利益に反して、パパンドレウ=センター連合が来たるべき選挙で勝利する可能性が高いと警告している。クーデターの主要な計画者は、CIAが運営する情報機関であるギリシャ国家情報機関(KYP)とつながっていた。クーデターの主犯格であるハジペトロウ准将は、クレタ島にあるNATO基地の責任者であった。ソビエトがチェコスロバキアに侵攻したという口実で、アメリカのギリシャへの「防衛的」武器輸出が再開された。

 軍事政権が発足して3年後、ニクソン政権もまた、ギリシャへのアメリカの武器禁止令を撤回した。ニクソンの選挙運動はKYP政権つまりギリシャから資金を受け取っていたからだ。ニューヨークタイムズ紙はこう報じた。「ギリシャ軍事政府は、戦車、装甲兵員輸送車、大砲、場合によってはジェット機など、数千万ドル相当の重火器(ママ)を受け取ることになるだろう。これらはこれまで選択的禁輸措置で与えられなかったものだった」と。

 宣伝に乗せやすい言葉使いや臆病な行動をとって、ワシントンが懸念しているかのようにカモフラージュしてはいたが、軍事政権はアメリカの軍事施設を強化した。アメリカとNATOの多数の空軍基地をリストアップして、ある学術研究では次のように述べられている。「独裁政権の出現は……アメリカの基地政策の妨げにはならなかった。それどころか、基地の存在感を強めた。特に1973年に南部のエレフシナ湾に第6艦隊を寄港させる協定に調印して以来のことである」。1967年から69年にかけて、軍事政権は1億ドル以上の武器を受け取った。議会の輸出規制を回避できたのは、その武器が一般には「余剰」であると考えられていたからだった。

 軍事政権はよくある残虐行為で国民を恐怖に陥れた。殺人、失踪、拷問、メディア統制といったものである。こうした国家によるテロにもかかわらず、左翼やその他の進歩的なグループは、民主化を求めて闘い続けた。抗議行動、世界的なエネルギー危機、トルコのキプロス侵攻は、軍事政権の権力支配を弱める方向に収束していった。1974年、政権は崩壊した。

CIAは「頼りない厄介なパートナー」を、頼れる同盟者に変えた

 アメリカ国務省の未発表レビューで述べられていたのは、こうだ。1981年の選挙で右派の新民主主義党が勝利した場合、「ギリシャは安定を保ち、西側との結びつきが強化されるだろう」と。しかし、パパンドレウのパンヘレニック(汎ギリシャ人)社会主義運動が勝利した場合、「ギリシャは……アメリカにとって信頼できない厄介なパートナーになるであろう」と述べている。パパンドレウは勝利したが、アメリカを安心させるために、親ワシントン路線を歩んだ。

 数十年後、CIAはその元職員を許すことができ、次のように書いている。お世辞も入っているだろうが、パパンドレウは「米軍基地の継続について合意に達した」し、彼の「約束した急進的な社会主義の解決策」は「緊縮財政と財政抑制」に終始した、と。アメリカ議会調査局の報告書はこう指摘している。「前首相(父アンドレアス)の在任期間(1981-89年)は反米的な発言で注目されたが、パパンドレウはアメリカとの良好な関係を望んでいると述べている」

 1990年のアメリカ=ギリシア相互防衛協力協定により、アメリカによるギリシア軍の正式な訓練がおこなわれるようになった。90年代を通じて、ギリシャ軍はアメリカの数百万ドル規模の国際軍事教育訓練プログラムの恩恵を受けた。

 アメリカ海軍によると、「1990年から1991年の湾岸戦争の間、ギリシャ海軍の軍艦は、アメリカ、フランス、スペインの海軍の艦船とともにティラン海峡で活動し」、イラクの締め付けを強化した。1999年、ビル・クリントン大統領は、前任者(子ブッシュ大統領)が虐待を支持したことに対する謝罪らしきものを発表した。

 同1999年、NATOはセルビアを空爆した。セルビアはエネルギー・パイプラインの分岐点である。コソボ・アルバニア人の民族浄化がおこなわれているという口実をもとにしてである。アメリカにとってギリシャの物流がいかに重要かを示すように、軍隊は「ドイツから『東スイングルート』鉄道路線を通じて、ギリシャのテッサロニキに下り(……)、そこからマケドニアのスコピエに戻る」というかたちで輸送されたのである。



 戦後50年にわたる米英の恐怖政治をもってしても、ギリシャ国民の心を打ち砕くことはできなかった。一般のギリシャ人は、自国の軍隊が関与する可能性があれば抗議し、英国のトラックを封鎖し、軍人に腐った食べ物を投げつけるなどした。

 9・11後、ギリシャは「国際治安支援部隊(ISAF)の使命に貢献した」。これは、いわゆる国際治安支援部隊であり、アフガニスタンを占領することになったものである。また同様に、「アクティブ・エンデバー作戦(実効的努力作戦)」にも貢献した。これは、地中海における米=NATOの9・11後の海軍プロジェクトの一つであった。しかし、2003年までにギリシャ人の94%がアメリカ主導のイラク侵攻に反対していたため、ギリシャの指導者が直接参加することはなかった。しかし、NATOを通じて、アメリカはギリシャの軍事的な近代化を続けた。

 例えば、第7陸軍訓練司令部はドイツに多国籍共同即応センター(JMRC)を持ち、これは大雑把にいえばアメリカの欧州特殊作戦司令部の一部となっている。これらの司令部は、NATO加盟国のための国際特殊訓練センターを統括している。毎年恒例の訓練に含まれていたのは、「都市部の地形を評価し、窓ガラスを撃ち抜き、さらに建物に登って隠れ家を作る」ことであった。
        
                 

 

 
アメリカの欧州特殊作戦司令部         

米軍による「努力の結晶」――ギリシャを反ロシア作戦の拠点にする

 2014年にアメリカは、ウクライナのマイダン・クーデターを支援した後、「アトランティック・リゾルブ作戦(「大西洋の決戦」作戦)」を開始した。アパッチ、ブラックホーク、チヌークヘリコプター、エイブラムス、ブラッドレー、パラディン戦車、多数の物流設備など7000人の人員と兵器をEU全域でローテーションさせたのである。5年後、米陸海軍は「アトランティック・リゾルブ「大西洋の決戦」作戦」に備えて、東部のアレクサンドルーポリにあるギリシャの港の浚渫(しゅんせつ)を開始した。2021年、ギリシャとその他の諸国は、アメリカ特殊作戦軍の国際部門に参加した。




アメリカ特殊作戦軍(USSOCOM)は、アメリカ合衆国の統合軍の一つであり、陸軍・海軍・空軍・海兵隊の特殊作戦部隊を統合指揮している。アメリカ軍の機能別統合軍(Functional Unified Combatant Command)のうちの一つで、全軍における特殊作戦を担当。

 その年、アレクサンドルーポリの港は、「(アトランティック・リゾルブ「大西洋の決戦」作戦)ための数百の米軍装備品の移動を可能にした」という。ペンタゴンの欧州司令部(EUCOM)によると、第598輸送旅団、表面展開・分配司令部、第21劇場維持司令部は、「400近い車両やコンテナ」を降ろした……その中には、戦車、ブラッドレー戦闘車、さまざまな支援機器があった。第598軍司令官ジョシュア・D・ハーシュ大佐は、次のように述べている。「今回の作戦は、アメリカ陸軍がアメリカ大使館の省庁間パートナー、ギリシャの同盟国、業界パートナーとともにおこなってきたあらゆる努力の集大成である。この巨大な港の能力を活用するために、である」

 2021年の年末には、ギリシャ東部のラリッサ空軍基地は、F-15Eストライク・イーグルを受け入れた。「キャッスル・フォージ作戦」の一環としてである。この戦闘機はノースカロライナ州のシーモア・ジョンソン空軍基地、第4戦闘航空団、第336戦闘飛行隊のものだった。このキャッスル・フォージ作戦は、「ダイナミックでパートナーシップに重点を置いた環境を提供することを目的としている。黒海地域における集団防衛に対するアメリカの関与を高め、NATO同盟国との相互運用性を強化するため」である。アメリカ空軍ヨーロッパ・アフリカ司令官兼NATO連合航空司令官であるジェフ・ハリギアン将軍は、この地域を「絶対的に重要な地域」と表現している。




ギリシャのキリアコス・ミトタキス首相(左下)は、ゼレンスキーの演説後のビデオ・セグメントで、ネオナチのアゾフ大隊の戦闘員がギリシャ議会で演説するのを眺めている。

 2022年3月、アメリカ特殊作戦ヨーロッパは、第7特殊部隊グループと海軍特殊戦タスクユニットが「アテネでギリシャの特殊戦部隊と 合同演習訓練」をおこなったとツイートしている。


ゼレンスキーがギリシャでナチスを持ち出すのは、「歴史の捏造」である

 今年3月、ギリシャ共産党(KKE)は、15人の議員が300人収容のブーレテリオン(国会)でのウクライナ大統領ヴォロディミル・ゼレンスキーの演説をボイコットすると発表した。議会の副議長Geórgios LambroúlisとEUのギリシャ代表の一人Sotirios Zarianopoulosは、ウクライナ共産党を支持していたため、すでにキエフから締め出されていた。ウクライナ共産党はゼレンスキーが党活動を禁止しており、またその青年指導者のミハイルとアレキサンダー・コノノビッチ兄弟は現在投獄されている。

 『グレーゾーン』が報じたように、ロシアとの戦争が勃発して以来、ゼレンスキーのSBUウクライナ治安部隊は政治的反対勢力に対するテロ作戦をエスカレートさせ、「親ロシア」あるいはキエフの目標に過度に批判的と見なされる高官、人権活動家、左翼を逮捕、拷問、ときには暗殺さえしている。ギリシャ国家情報機関(KYP)と同様、ウクライナ治安部隊(SBU)はCIAの訓練を受けている。

 ゼレンスキーがギリシャの議会に到着すると、共産主義者のギリシャ共産党(KKE)は非難の声を上げた。「(ウクライナの)反動的政府とも呼ぶべきものは、アメリカ・NATO・EU陣営に支えられており、ロシアと同様に、ウクライナ人のドラマに責任を追っている」と。

 ギリシャ共産党(KKE)とは異なり、左派(しかし実際にはリベラル)であるシリザ党は当初、ゼレンスキーを歓迎した。しかし、「自称ギリシャ人のアゾフ戦士が、祖父がいかに第三帝国と戦ったか」を語るビデオの上映は、シリザにとってもやりすぎだったのである。

 シリザ党のツィプラス前首相はこうツイートした。「演説は挑発だ」「歴史の捏造だ」と。一方、与党の、民営化・緊縮政策に反対して2015年に辞任/解雇されたシリザの元財務大臣ヤニス・バルファキスは、この光景に対して熱烈な非難の声を発した。「ギリシャ議会の前でのビデオ通話にナチを持ち込んで,ウクライナ政府の代表として演説し、キプロス問題、すなわちトルコの侵略について何もコメントしなかったことによって、ゼレンスキーはギリシャ議会と各国の国民を侮辱したのである」と。

 ギリシャ国民の大多数は、左派指導者たちとともに、ゼレンスキーのパフォーマンスに憤りを表明した。今年4月、世論調査会社からウクライナ大統領の議会での演説の印象を尋ねられたところ、回答者の50%が「非常に悪い」、15%が「悪い」、16%が「どちらでもない」と答えた。ギリシャ人の11%だけがゼレンスキーの演説を「良い」または「非常に良い」と表現している。


2022年4月、ギリシャのパブリックイシューによる世論調査より。


NATO反対デモと、ウクライナ武装化にたいする大規模な国民の反対運動――ギリシャ政府を揺るがす

 2021年10月、ギリシャとアメリカは相互防衛協力協定を改正し、「(両国の)パートナーシップを深化・拡大させ、強力で有能かつ相互運用可能な軍隊を維持する」とした。その直後、ギリシャのメディアはこう報じた。「大量のヘリコプター、無人航空機……、戦車、大砲、迫撃砲が、今後数週間のうちにトルコとの国境近くのギリシャ港に到着する見込みであり、前例のない大規模な軍事輸送の一部となる」と。

 ブルガリアとドイツに本拠を置く第21劇場維持司令部から、アメリカは44台のM117ガーディアン装甲安全車をギリシャに鉄道で送り、11月に到着した。「安全」という表現はプロパガンダである。『ジェーン』誌によると、この車両には機関銃が装備される予定だった。4月までに千台以上が納入される見込みで、そのうち半数がギリシャ軍向けだという。残りの半分はウクライナに行くのだろうと推測される。『スターズ・アンド・ストライプス』紙によると、1カ月前に米軍が到着したことで、ヨーロッパにおける米軍の総兵力は10万人に達した。

 与党の新民主主義政党のキリアコス・ミトタキス首相は、CIAのお気に入りだが、彼は最近、ウクライナへの殺傷軍事装備を許可し、議会で宣言した。「平等な距離などありえない。平和と国際法に賛成するか、反対するかだ」――「国際法」とは、米英の国際法違反への支持を意味する。しかし、この表現は完全に失敗に終わった。

 親NATOのプロパガンダの嵐で、ギリシャ人の75%がプーチンを非難しているにもかかわらず、60%がゼレンスキーにも批判的なのだ。

 世論調査を引用して、教養あるニコス・マランチディス教授はこうコメントしている。「ギリシャの世論は、ロシアびいきな側面があり、歴史と結びついた友好的な感情、正教に基づいた共通の文化があります。そして一部の人は西洋に対する不信感を持っています」。歴史を考えれば、一部の人が西洋に対する不信感を持っている根源がなにかを理解するのは難しくない。

 最近のギリシャの世論調査では、ウクライナに武器を送るということに66パーセントが反対しており、29パーセントが政府決定に賛成している。さらに、ギリシャ人の圧倒的多数は、ロシアとウクライナの紛争において自国が中立的な役割を維持すべきであると考えている。

 ギリシャには、アメリカとそのファシストと準ファシストおよび戦後のパートナーによって数十年にわたって(物理的・心理的の両面にわたる)拷問が加えられてきたが、それがギリシャ国民の大部分をNATOのプロパガンダから遠ざけてしまったのだ。国民を萎縮させ、帝国への服従を内面化させる代わりに、ギリシャ人は伝統的な反戦のメンタリティを保持してきた。

 アテネ(ギリシャ政府)がギリシャの民意を押しのけてNATOの戦争集団に加わる中、一部のギリシャ市民は、直接的な行動を起こした。権力闘争という大きなゲームの駒として使われることへの嫌悪感と懸念を示しているのである。

 4月10日、テッサロニキにあるトレインOSE社の鉄道労働者は、米軍車両の輸送に抗議してストライキを開始した。労働者とそれを支援する12の組合は、「我が国の領土を通過する戦争マシーンに加担することはない」と書いた。


 ゼレンスキーの演説以来、キリアコス・ミツォタキス首相と親米派の新民主主義政党の人気は急落し、同政権はウクライナへの武器輸送の停止を発表したと伝えられている。


 アメリカは、ロシア製武器をキプロスから調達することで、その回避を試みているのかもしれない。地元メディアはこう報じている。「アメリカはキプロスの対空兵器や攻撃ヘリを特に要求した」と報道している。

キーワード:

アゾフ大隊CIA、ギリシャ、キリアコス・ミツォタキス首相、NATO、ネオナチ、ロシア、ウクライナ、ウクライナのネオナチ、Volodymyr Zelensky


TJコールズ

T.J.コールズはプリマス大学認知研究所の博士研究員で、いくつかの本の著者である。最新作は『We'll Tell You What to Think: Wikipedia, Propaganda and the Making of Liberal Consensus』である。

 

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自称「事実検証者たち」を事実検証する--ウクライナにはなぜナチスが多いのか?(事実検証シリーズ・1)

<記事原文 寺島先生推薦>
Fact Checking the Fact Checkers: Why Does Ukraine Seem to Have So Many Nazis Nowadays?
自称「事実検証者たち」を事実検証する--ウクライナにはなぜナチスが多いのか?

著者:シンシア・チョン(Cynthia Chung)

2022年3月22日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年4月26日




 ウクライナの内戦が続いていたのはここ数週間ではなくここ8年間のことなのか?


 文明の歴史において、政治はしばしば、「あなたは誰の味方か?」という質問に還元できる問題であった。

 確かに、「現在」という霧の中で、何が最も真実に近いかを見極めるのは容易なことではない。「物事は後から振り返ってからやっとハッキリ分かるものだという」が、それも完全な真実ではない。というのも、戦争の歴史をどう解釈するかについては、戦時中と比べてはるかにゆっくりとした動きではあるが、もう一つの戦場であるといえるからだ。

 分断が進み、白か黒しかないと言われる世の中で、我々一介の民間人が望むことは、銃撃戦に巻き込まれないことである。しかし、それはますます難しくなっている。

 今はもはや「意見」を持つことが問題なのではなく、「確信」を支持することが問題になっている。その「確信」は、自分自身の精査や調査で得たものではなく、そのような「確信」と、その「確信」を形成する権威への「信頼」によって得られるものなのだ。

 「事実」がどうであるかは真に重要ではなく、「あなたは誰の味方なのか」ということがますます問われている。

 それが、国家を支配する勢力によって「現実」に還元されたものであるならば、その国家を支配する勢力にとっての敵は、その行動にかかわらず、その思想にかかわらず、悪役となり、その国家を支配する勢力の味方は、その行動にかかわらず、その思想にかかわらず、英雄となる。

 このように、今日の私たちの形ある現実では、誰が「ヒーロー」であり「悪役」であるかは、「あなたは誰の味方か?」という単純な質問によって決定されることになる。

 もし、これがあなたにとって厄介なことであるなら、一緒にちょっとした頭の体操をすることを提案します。自分自身で「事実」を見極める勇気を持とうではありませんか。そうして初めて、私たちはある一つのチームのチアリーダーであることをやめ、「私たちは本当に誰の味方なのか」と、誠実に問う資格を得ることができるのである。

ナチスは今や新しい「善人」なのか?

 特にここ数週間は、少々複雑なメッセージが流れている。ウクライナには相当数のナチがいるのだろうか?さらにそのナチは「悪い」ナチなのか「良い」ナチなのか?これらの問いが、ナチがロシアという「侵略者」と戦っているという文脈の中で問われている。

 ユダヤ人の大統領が指揮をとっているのに、どうしてウクライナにナチスがいるのか、という反論が聞こえてきそうである。また、フェイスブックでは、ネオナチのアゾフ大隊がロシア軍と戦っているときなら、ユーザーたちが彼らアゾフ大隊を賞賛することができるようになったという話もある。さらには、ウクライナの民族主義は、あらゆる議論の中で最も関心が持たれるべきだという話もある。たとえそれがナチスのイデオロギーと重なるとしても。



 2022年2月27日、カナダのクリスティア・フリーランド副首相はスローガン「スラバ・ウクライナ(Slava Ukraini)」の入った細長い横断幕を手にしていた。これは「ウクライナに栄光あれ」という意味で、ウクライナ反乱軍(UPA)の「血と土」の色を使っている。(UPAは第二次世界大戦中にナチスに協力し、何千人ものユダヤ人とポーランド人を虐殺した)



 そして、この写真を自身のツイッターアカウントに投稿した(数時間後に「血と土」の細長い横断幕を外した写真に差し替えた)。そして彼女を非難する人たちを「ロシアによる偽情報の臭いがする」と非難した。この物議を醸したフリーランドの写真は、カナダのナショナルポスト紙が報じたものだ。

 フリーランドの報道官によれば、これは「偽情報を使ったKGBの古典的な中傷であり...ウクライナ人やウクライナ系カナダ人を、極右過激派やファシストやナチスだと非難する」例に過ぎないとした。これはしかし、幾重にもまたがるおかしな発言である。

 この件がなぜ「ロシアによる偽情報」の例になるかは明確ではない。この写真は確かに本物であり、フリーランドはこれを否定していないのだから。そして、彼女は確かにナチスに由来する「血と土」のエンブレムを持っており、そのことは誰の目にも明らかである。最後に、なぜカナダ政府はKGBがもはや存在しないことを知らないのか、理解に苦しむ。ソビエト連邦がまだ存在するとでも思っているのだろうか。

 フリーランドの祖父が第二次世界大戦中、スペインのガルシアでナチス新聞の編集長を務めていたという事実も、このことと無関係ではないだろう。このことについて質問されると、彼女は何も否定せず、単にこの件が焦点的にとりあげられることは「西側民主主義を不安定化する」意図のあるロシアの偽情報であると非難するのである。つまり、自分の歴史的、思想的背景がどうであるかという問題ではなく、「自分は誰の味方なのか」という問題なのである。

 興味深いことに、この記事を「フリーランドは自分の祖父がナチス新聞の編集長だと知っていた(Freeland knew her grandfather was editor of Nazi newspaper)」という題名で報じたのは私が調べた限りでは、カナダの新聞「グローブ&メイル」であり、ロシアの出版社ではない。この記事の情報源は誰なのだろうか?フリーランドの叔父で、現在アルバータ大学の名誉教授であるジョン=ポール・ヒムカに他ならない。

 グローブ&メール紙によれば、フリーランドは20年以上前から、自分の祖父マイケル・チョミアックがナチスの新聞の編集長だったことを知っていた。その新聞はユダヤ人を中傷しナチスの大義を支持していた。

 グローブ&メール紙はこう書いている。

 「クラヴィフスキー・ヴィスティ紙(ポーランドのクラクフにあるニュース紙)は1940年にドイツ軍によって設立され、ドイツの情報将校エミル・ガサートが監督していた。その印刷機と事務所の数々はドイツ軍によってユダヤ人出版者から没収されたものだった。その出版者はその後ベルゼク強制収容所で殺害された。

 「クラヴィフスキー・ヴィスティ紙とユダヤ人、1943年――第二次世界大戦中のウクライナ系ユダヤ人関係の貢献」と題されたこの記事は、フリーランドの叔父で、現在アルバータ大学名誉教授のジョン=ポール・ヒムカによって書かれた。

 ヒムカ教授はこの論文の序文で、フリーランド氏が「問題点と解明を指摘してくれた」と認めている。フリーランド氏は祖父がナチス協力者であったことを認めておらず、月曜日(3月21日)には「この疑惑はロシアによる情報操作の一環である」ことを示唆したのである。

 ヒムカ教授は1996年に、チョミアック氏がクラヴィフスキー・ヴィスティ紙に勤務していたことについて書いたのだ。この新聞は、クラクフに拠点を置くウクライナ語の新聞であり、しばしば反ユダヤ的な暴論を掲載し、「記事の中にはナチスがユダヤ人におこなっていることを肯定するような一節がある」[強調は筆者]

 奇妙なことに、フリーランドは、彼女の祖父がナチス新聞の編集長であったとするヒムカ教授の論文の編集と解明に協力したが、彼女の祖父の役割を公に認めることを拒否し、この件に関するあらゆる言及を「ロシアによる情報操作」の一部であると非難したのだ。この全く逆転した論理によれば、フリーランドの叔父であるヒムカ教授もこの「ロシアによる偽情報操作」の一部であり、彼女はこの「ロシアによる偽情報操作」に援助を提供し、「西洋民主主義を不安定化した」がために有罪となり、自分の政治的地位を失うことになるのだ。

 フリーランドが叔父であるヒムカ教授にさらに言ったのは、それは彼の論文に含まれていることだが、彼女の父によれば、彼女の祖父マイケル・チョミアックも反ナチスのレジスタンスとある程度協力していたということであった。しかし、ヒムカ教授はこの情報を確認することができなかった。そして「断片的で一方的な情報」と表現した。

 そして、この3月8日の国際女性デーを祝って、NATOが以下のような奇妙なツイートをしたという事件があった。そのツイートでは、ナチスのオカルトや悪魔崇拝と結びついた黒い太陽のマークをつけたウクライナの女性兵士の写真が投稿されていた。NATOはその投稿で「すべての女性と少女は自由かつ平等に生きなければならない」という非常に逆説的なメッセージを書き込んでいた。その後NATOは、その黒い太陽のシンボルがついた写真を削除する羽目になった。



 フリーランドやNATOが、なぜこの時期にこんなツイートを投稿したかは、とても奇妙である。また、後に削除するのであれば、なぜ投稿するのだろうかという疑問もある。これは彼らが単にそういうナチを連想するようなことを意識していないだけなのだろうか。それとも、ある特定の集団がますます大胆で堂々とした態度を示し、自分たちの本当の忠誠心がどこにあるのかを隠さなくなってきたということだろうか?クリスティア・フリーランドやNATOは、公の場でのこのような発言に対して、何か疑問や反発を受けたことがあるだろうか?そういうことは皆無だ。

 2014年2月7日、ヴィクトリア・ヌーランド(当時国務次官補)とジェフリー・パイアット(当時駐ウクライナ米国大使)の会話がリークされ、野火のように広まった。ヤヌコビッチ大統領が政権から追放された後、ウクライナの新政府を形成するメンバーを選定していたのが、アメリカ政府であったことが暴露されたのである。まるで自国のスポーツチームを作るかのように。

 このことは、それ自体が物議をかもしただけでなかった。とりわけ物議をかもすことになったのはウクライナの「尊厳の革命(2014ウクライナ騒乱)」の文脈においてであった。[尊厳の革命]では多くのウクライナ人がより良い未来を手に入れるために悲劇的な死を遂げたからである。

 ここ西側では、この「尊厳という言葉」に最も共感するはずである。それなのに、なぜ誰も、アメリカ政府が、ウクライナ人の将来や幸福など全く考えずに、自分たちの好き勝手にウクライナ政府を作ったという事実を指摘しなかったのだろうか?

 実際、ウクライナ革命を大きく後押しし、財政的に支援したのはアメリカである。オバマ・ホワイトハウスの公式文書によれば、次のようになる。

 「アメリカはウクライナ人と共に、民主化、改革、欧州統合という彼らの選択に立ち向かう。

 これらの目的を追求するため、ジョー・バイデン副大統領は本日ウクライナのキエフで次のように発表した。議会の承認を待って、ホワイトハウスはウクライナの法執行および司法部門における検察および反腐敗改革を含む包括的改革を支援するために2000万ドルを提供する。アメリカ政府はこれで今年のウクライナへの支援として約3億2千万ドルを約束した。それに加えて2014年5月に発行した10億ドルの政府保証付き融資(ソブリン融資)もある」

 この間、多くのアメリカ人政治家がウクライナを訪れ、「尊厳」を求めるウクライナの大義を支持した。



 ジョン・マケインが2013年12月にウクライナを訪問、政権交代を支持。

 このようなアメリカの犯罪性と二枚舌の露呈に、世界は愕然とし、恐怖を感じるはずであった。アメリカは革命を直接的に声高に奨励し財政的に支援したのだが、その革命とは、多くの悲劇的な死をもたらし、ただウクライナ国民が民主的に自分たちの政府を選ぶ権利を奪うためだけだったのだということだったからである。

 アメリカはまた、EUと連合協定を結ぶために戦うようウクライナ国民を鼓舞した。そして、ウクライナ国民は、彼らが文字通り死ぬ思いでEUとの連合協定を手にした。そのウクライナ国民は今、どこにいるのか?ヨーロッパで最も貧しい国に成り下がったのだ。

 ウクライナはかつて「ヨーロッパの穀倉地帯」と呼ばれる東欧で最も豊かな国の一つであった。しかし、この経済的事実を知ることは難しくなっている。というのはウクライナは、経済が絶頂期にあったときにソ連の一部であったためである。最も不都合な真実である。そのため、ウクライナのGDPグラフで、独立した1991年より前のグラフを見つけるのは難しい。1991年から1997年にかけて、ウクライナはGDPの60%を失い(1)、5桁のインフレ率に見舞われた(2)。このウクライナにとって決して終わることのない大不況の間、ウクライナは誰に監視されていたのだろうか。国際通貨基金(IMF)である。[この話については、続報で詳しく述べる]。

 しかし、これまで政治的な役職に就いていた、そして今も就いている特定の人物は、ウクライナの苦境から大きな利益を得ている。

 2018年1月23日、ジョー・バイデンは、マイケル・カーペンターとの共著論文「クレムリンに立ち向かうには」について、外交問題評議会(CFR)の公開討論会に招かれて講演をおこなった。演題は「敵から民主主義を守る」であった。

 信じられないことに、この「敵から民主主義を守る」という議論の中で、バイデンが公に自慢していたのは、2016年(アメリカ副大統領時代)、への経済支援のためにアメリカの融資保証を実現するのは、唯一ウクライナの検事ヴィクトル・ショーキンを解雇することを条件にしたということだった。ショーキンは当時、ブリズマ・ホールディングスに関わる汚職容疑の捜査をおこなっていた。ジョー・バイデンの息子、ハンター・バイデンはこの時期、この天然ガス会社の役員を務めており、同社から300万ドルから350万ドルを受け取っていたとされる。正当化できない異常な金額、それ故に汚職の捜査がおこなわれたのである。

 ジョー・バイデンは、この2018年のCFRの壇上で次のように告白している。

 「...私がキエフに行くのはもう12、13回目だったと思うが、もう10億ドルの融資保証を発表する予定だったのです。そして私はポロシェンコ(当時のウクライナ大統領)とヤツェニュク(当時のウクライナ首相)から、検察官のショーキンを処分するという約束を取り付けていたのですが、彼らはそうしませんでした。だから、彼らは(融資を)受けたと言い、プレスに向かって歩き出そうとしたので、私はいやだ、行かない、10億ドルを渡すつもりはないと言ったのです。彼らは「君には権限がない、君は大統領じゃない、大統領が言ったんだ」と言うので、私は「大統領に電話しろ」と言いました。[笑い]私は、10億ドルは渡さないと言っているんだ、と言いました。私は、あなたは10億ドルを得られないし、私はここを去るつもりだと言いました。6時間くらい経った頃でしょうか。私は6時間後に帰ると言っていたような気がします。検事がクビにならないなら 金は渡さんぞ。ああ、くそったれ、と言ったのです。そしたら彼はクビになった。[笑い]そして、しっかりした人を配置したんです」



 どうやら、ジョー・バイデン(現アメリカ大統領)は、真の民主主義には関心がなく、自分のチームが勝つかどうかだけを考えているようである。アメリカ国民が勝つかではないことを付け加えておこう。彼の言う「チーム」はそれよりもずっと小さく、より「選別」されたものだ。

 不思議なことに、バイデンの告白が非常に公的で「一流の」会議の場で記録されたにもかかわらず、事実検証団はジョー・バイデンがショーキンの解雇に責任があったという証拠を否定し続けている。どうやら、バイデン自身がこのことを認めたことは関係ないようだ。事実検証団はまた、ハンターがブリズマからそのような高額の報酬を受け取ったという確固たる証拠も否定している。まあ、そのようなことの調査が早々に打ち切られた以上、確たる証拠を手に入れるのはかなり難しいとは思うのだが。そこが肝心なところだった。

 これは、もう一つの理由で非常に議論を呼んでいる。ウクライナデモの引き金となったEU協定論争の際、この「協定」の条件のひとつ、それに対してIMFは強硬手段に出たのだ。ウクライナ人の所得はそのままに公共料金(まずは電気とガス)を大幅に値上げするという要求があったことが判明している。

 ウクライナデモやEU協定論争で、ヤヌコビッチ大統領のアメリカでの指南役は誰だったのか?ジョー・バイデン米国副大統領だったのである。

 ウクライナ国民は何も知らなかった。彼らが戦い、死に物狂いで取り組んでいた協定そのものが、ブリズマ・ホールディングスのような腐敗したガス会社とその外国人株主を直接に利するものであり、ウクライナ国民に経済的不利益を与えるものだったのである。現在エネルギー危機のさなかにあるヨーロッパのほとんどが、多くの輝かしい「EU協定」のもとで直面させられている状況と似たような状況に置かれていたのである。

 さらに、ニューヨークタイムズ紙は、つい最近次のことを確認する記事を掲載した。その記事によると、悪名高いハンター・バイデンのノートパソコンは、信頼できる事実検証団が「ロシアによる偽情報」だと主張したものだったが、それが実際には本物、正真正銘の本物であることが判明したとのことである。この件は次の大統領を選ぶ前に、アメリカ国民に公開されるべきであった非常に重要な情報であった。この重要な情報がアメリカ国民に与えられなかったのである。そしてその情報を与えなかったのは、「国家安全保障」を守ると宣言している、選挙で選ばれたわけでもなく、匿名でありながら全権を持つ「事実検証団」だ。

 そんな風にしてジョー・バイデンが大統領に昇格したことは周知の通りだ。いや「選出された」といった方がいいか?ビクトリア・ヌーランドとジェフリー・パイアットは今どこにいるのだろうか?ヌーランドは、アメリカ政治問題担当国務次官を務めている。パイアットは、駐ギリシャ米国大使を務めている。

 どんな不名誉なスポットライトを浴びても動じないヌーランドが再び見出しを飾った。今回は、アメリカ所有の、「バイオ」で始まり「ラボ」で終わる、ウクライナの状況についてである。3月7日、ヌーランドは上院外交委員会で証言し、ウクライナが「化学・生物兵器」を保有していることを否定せず、「あのーウクライナには、そのー生物学的研究施設があります」と公の記録で認めた。

 しかし、ご安心ください。このことで、全能の神のような「事実検証者たち」が実は偽情報の発信源であるということにはなりませんよ。(あれ?ハンター・バイデンのラップトップはどうなの?)。というのも、ヌーランド夫人が辛抱強く説明してくれたように、致死性生物の保有と実験は、アメリカ国防省が関与する場合は「生物学的研究」と呼ばれるのだからである。したがって、それらは「生物兵器(バイオ)研究所」ではなく、「生物学的研究施設」とみなされ、アメリカの所有下にありながらそれらを「生物兵器(バイオ)研究所」と呼ぶ者は、ロシアの偽情報の宣伝者ということになる。そして、そう、アメリカ国防総省が最も確実に関与していることは、在ウクライナ米国大使館のウェブサイトで閲覧可能だった保存されたPDFファイルから容易にわかる。そこに記載されているすべての件でアメリカ国防総省が援助資金提供者として示されているからである。しかし、ヌーランド夫人が丁寧に説明してくれたように、アメリカ人がこれらの致命的な生物の所有者ではないとされたとたん、その所有物は「大量破壊兵器」を持つ「生物兵器(バイオ)研究所」に変身するのである。なんと簡単な手口か!

 ヌーランドが昨年10月にロシア訪問をしそこなった後にやったことに対してはこのことと同程度の報道はなかった。フランスのジャーナリスト、ティエリ・メイサンによれば、ヌーランドがやったのは、ヤロシをゼレンスキー大統領に「押し付ける」ことであった。そして2021年11月2日、ゼレンスキー大統領はドミトリー・ヤロシ(2014年ウクライナ騒乱時に活躍した人物で元ウクライナの国会議員。右翼セクターのリーダー 2013-2015)をウクライナ軍最高司令官ヴァレリー・ザルジニ氏の顧問に任命した。ヌーランドはウクライナ系ユダヤ人の血を引いている。だから、2014年以来、ヌーランドがウクライナ政府と軍部のネオナチを継続的に支援していることは、幾重にも渡り実に憂慮すべきことである。

ドミトリー・ヤロシ
 右派セクターは、トライデント(Tryzub)およびパトリオット・オブ・ウクライナと密接な関係にある。これら3つのグループはすべて、右翼民族主義者、ネオナチ、準軍事組織であると同時に、政党でもある。自分で調べてみてください。ウィキペディアでさえも否定していないことだ。ヤロシは2005年からトライデントの指導者だった。トライデントは右翼セクターの結成につながり、ヤロシは2013年から2015年にかけてその指導者を務め、これらのグループすべてに多大な影響を与え続けている。

 ドミトリー・ヤロシは2014年以来、インターポール(国際刑事警察機構)の「指名手配者リスト」に掲載されている。

 2014年、新しく成立したウクライナ政府に対するアメリカの「影響力」、特にスヴォボダとプラヴィイセクター(右派セクター)のメンバーが副首相ポストを含む新政府の5つの上級職を占めていたあたりで懸念が高まっていたことを思い出してください。上の画像の記事はロイターが報じたものである。


 右派セクターの「血と土」の旗。欧米人に伝わっているのは、「ウクライナ民族主義政党はウクライナ人の自由と解放を守ることに関心を持っている」ということである。

 スヴォボダもまた、穏健派ウクライナ民族主義者によるロマンチックな運動として西側には宣伝されているが、彼らも偶然にもステファン・バンデラを支持しており、超民族主義的見解を支持していることを否定することはできない

 2014年の「尊厳革命」時の典型的な集会では、スヴォボダ・ウクライナ民族主義党の旗が掲げられた。




 2022年1月1日、数百人のウクライナ民族主義者が首都キエフで、上の写真にあるように聖火行進をおこなった。ウクライナ民族主義者組織(OUN)とその準軍事部隊ウクライナ反乱軍(UPA)のリーダーの一人であるステファン・バンデラの誕生日を記念してであるが、彼らは第二次世界大戦中にナチスとともに戦い、数千人のユダヤ人とポーランド人を虐殺したものたちである。これらのウクライナ人民族主義者は、上の写真でスヴォボダとUPAの「血と土」の旗を掲げている。「血と土」の旗は、今年2月にクリスティア・フリーランドが持っていたエンブレムと同じものである。この出来事は、イスラエル・タイムズ紙によって報道された。フリーランドの報道官は、これを「KGBによる偽情報」の典型例と呼ぶ勇気があるのだろうか?

今こそ熟考すべき


 では、何が起こっているのか。ウクライナには本物のナチスがいて、アメリカや、場合によってはNATOの後ろ盾を得て、政治的・軍事的役割を果たすように選ばれているのか。もしそうなら、その理由は?もしそうだとしたら、ウクライナの人々に何が起こっているのか?

 ウクライナ民族とロシア民族が混在する民族混合国家ウクライナで、超国家主義的な運動のもとでは、誰が「ウクライナ人」であると言えるのか。この運動は、純粋なウクライナ人を自認する超国家主義的な運動なのだ。

 このような状況を踏まえて、ドンバスの人々がウクライナから分離してドネツク共和国、ルガンスク共和国を作りたいと言っていることをどう考えればいいのだろうか。西側諸国は、純粋なウクライナ民族を自認する超民族主義的な運動の立場に立ち、ロシア系住民の多いドンバス住民が分離独立する権利を否定するのか?

 2014年にクリミアはロシアに再加盟することを自ら求めたことをどう考えれば良いのだろう?西側諸国は承認していないが、実際に住民投票が行われた結果のことだ。西側諸国の主要な記者たちさえ、クリミア人が実際にロシアに戻ることを喜んで選択していることを確認しているのに(なお、クリミア人の多くはロシア系である)。

 過去8年間、ウクライナ政府がクリミアの人々に、必要な飲料水の15%しか供給してこなかったことをどう考えればいいのだろうか?ウクライナ政府がクリミアの人々に対して行った人道的危機を誘発する行為だ。これがクリミアの人々の福祉を考える友好的な政府の行為なのだろうか?

 この人道的危機は、ロイターが認めているように、ロシアがウクライナに入ったとたんに修正された。しかし、西側のほとんどの人はこのことについて何も聞くことはないだろう。

 私たちは、勇気を持って自問自答する必要がある。ウクライナでは、ここ数週間だけでなく、過去8年間も内戦が続いているのではないか?政治的な理由で西側の人々に報告されていない内戦で、ウクライナの特定の地域が、アメリカやおそらくNATOから政治的支援と資金提供を受けているネオナチの準軍事部隊によって攻撃を受けているのである。

 なぜ西側諸国はこのような恐ろしい構想を支持するのだろうか。

 これらの疑問に答えるには、ウクライナ民族主義の歴史的な根源と、第二次世界大戦後のすなわちアメリカ諜報機関やNATOとの関係に目を向ける勇気が必要であろう。

 「事実検証団の事実を検証する」シリーズ記事の第2弾――ウクライナの栄光ある『民族主義運動』に隠された真実」は、この後すぐに掲載される。


(1)  “Can Ukraine Avert a Financial Meltdown?“. World Bank. June 1998. Archived from the original on 12 July 2000.
(2)  Figliuoli, Lorenzo; Lissovolik, Bogdan (31 August 2002). “The IMF and Ukraine: What Really Happened“. International Monetary Fund.
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ウクライナは自国軍に「マリウポリで玉砕せよ」と要求――捕虜になるしか道はないのに

ウクライナは自国軍に「マリウポリで玉砕せよ」と要求――捕虜になるしか道はないのに

<記事原文 寺島先生推薦>

Ukraine Demands Its Troops to Fight to Death in Mariupol Despite Inevitable Capture

By Paul Antonopoulos

Global Research, 2022年4月18日

InfoBrics

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>2022年4月26日

  
 今ではネオナチのアゾフ大隊とウクライナ軍のその他の構成員は、マリウポリの2,3の要地しか掌握していないのに、キエフは頑なに、この港湾都市での必然的な敗北を認めようとしない。キエフは自らの犠牲者・損害を注意深く隠し、部隊に抵抗を続けさせ、正当化できない犠牲を強いるように仕向けているのだ。戦闘を継続するのに十分な弾薬や歩兵の数さえないにもかかわらず。

 4月11日の時点で、ウクライナ第36旅団は、フェイスブックに書いているとおり、すべての歩兵が死亡したので、ロシア軍との「銃撃戦」は、砲兵、高射砲手、無線手、運転手、さらには楽団の料理人や音楽家までもおこなっていることを認めた。

  それから1週間以上が経過したが、マリウポリに残っているウクライナ軍兵士の数は正確にはわからない。ロシア情報機関によると、せいぜい700人のウクライナ人戦闘員しか最後の抵抗拠点に残っておらず、その中には約200人の外国人傭兵がいる。彼らは、弾薬、医薬品、食料をほとんど持たずに、アゾフスタル鉄工所の地下施設に隠れている。

 自軍との連絡が明らかに途絶え、避難や軍事援軍の派遣が不可能であることを認めたくないにもかかわらず、キエフが宣言したのは、最後まで抵抗活動を継続しろということだった。事実上、ウクライナ当局は、自軍兵士や外国人戦闘員に無意味な死を運命づけた(つまり玉砕せよと命じた)のである。彼らが個人として降伏する決断をすれば別だが。

READ MORE: 欧米メディアは先を争ってウクライナの士気を高めようとしている

 4月11日、突破口が開かれない中、ウクライナ軍は戦車3台、歩兵戦闘車5台、装甲車7台が破壊された。4月14日現在、ギリシャ建国の港町(マリウポリ)でロシア軍に投降した人は2673人で、2月にロシア軍のドンバス作戦が始まって以来、最大の投降者数である。

 キエフ軍は捕虜(PoW)や負傷したロシア兵を殺害して戦争犯罪を犯すと公言しており、3月28日にネット上に公開された動画ではウクライナ兵がまさにそれをおこなっているが、他の動画ではロシア兵が捕虜となったウクライナ兵に食事を与えている。しかしこれは確かに欧米の主流メディアには登場しない。

 欧米メディアがそのように報道しないため、この情報は今もウクライナのソーシャルメディアを通じて配信され、数千人が投降する結果になっている。西側メディアでさえ、ウクライナ兵が拷問され、殴られ、辱められたという証拠や証言を見つけるのに苦労している。これは、ロシア軍やドンバス軍に対しておこなわれた大虐殺とは著しく異なっている。

 ウクライナ人捕虜は、親族に電話をかけ、自分が生きていることを知らせることが許されている。実際、ロシア人捕虜が拷問されたり殺害されたりしているのとはちがって、戦争犯罪の疑いが晴れたウクライナ人捕虜は、すでに戦争の影響を受けた都市の清掃のために瓦礫や破壊の除去に参加している。

 西側の主流メディアにとって不快な事実は、いわゆる「国家大隊」すなわちネオナチのアゾフ大隊、竜巻大隊(下の写真)、アイダール大隊(第24個別暴行大隊。「アイダール」はウクライナ陸軍の暴行大隊で、ドンバス戦争中に戦争犯罪を犯した)はすべて、内務省の指揮下にあるウクライナ国家警備隊の公式部隊である。しかし、戦時中つまり2014年以降、国家警備隊が従うのはウクライナ軍最高司令官と国防省の命令であるので、ウクライナ軍と国家警備隊はともに職業軍人の組織ということになる。

 同時に、ウクライナ軍は国家警備隊よりもはるかに大きな能力、射撃能力、技術手段を持っているので、ドンバスにおける国防軍の行動による被害ははるかに大きくなる。ウクライナの砲兵隊はドンバスで何年も前から民間人を標的にして殺害している。このことは人権団体や国連によって広く報告されているが、西側メディアは無視している。

 ウクライナ人捕虜は、戦争犯罪を犯していない限り、今後の敵対行為に参加せず、二度と戦わないことを誓約する受理書・契約書を書いた後、家族に解放するといった措置がとられている。これは一見ナイーブ(考えが甘い)に見えるかもしれないが、双方の犠牲を最小限に抑え、極右のキエフ政権を過激化させないでおきたいという期待が込められているのだろう。

 マリウポリが事実上陥落したという現実にもかかわらず、キエフは依然として同市での軍の降伏を発表しようとせず、数百人のウクライナ人と外国人戦闘員を事実上死に追いやっている。キエフがなぜマリウポリで最後の一人まで戦うことにこだわるのかは不明だが、ドンバス軍が同市の攻略に失敗してから8年、アゾフ大隊の支配は事実上終焉を迎えたのである。

 西側メディアは無視するが、目撃者の証言によれば、マリウポリに拠点を置くアゾフ大隊は、ロシア語を話す者は罰金を科され、極端な場合には、2月24日にロシアの軍事作戦が始まるわずか10日前にギリシャ民族を処刑したように、街の住民にウクライナ化を強要していたのである。

 キエフは人種差別的な過激主義を撤回しようとせず、ドンバスの市民を無差別に標的にすることに固執している。これは西側諸国の完全な後ろ盾があるという考えによって勇気づけられているからだ。しかしロシアによるマリウポリ占領によって、ウクライナはアゾフ海へのアクセスを完全に失ってしまったのである。

 

 

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ウクライナのための戦闘に志願したアメリカ人退役軍人が「自殺的任務」について語る

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ウクライナのために志願したアメリカ人退役軍人が、所属した外国人部隊に砲弾の餌食にされそうになった経過をThe Grayzoneに語る。

<記事原文 寺島先生推薦>
An American volunteer for Ukraine tells The Grayzone how his foreign legion tried to use him as cannon fodder.

THE GRAYZONE 2022年3月30日
アレクサンダー・ルビンスタイン(Alexander Rubinstein)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月25日

 ヘンリー・ヘフト(Henry Hoeft)は18歳で米軍に入隊してから10年、再び戦場に戻った。が、今回は、強大な敵との代理戦争に従事する外国人志願兵としてであった。しかし、今年の2月、ウクライナ政府からの外国人戦闘員募集に応じたこのアメリカ人退役軍人は、自分がロシア軍に対する「自殺的任務」に派遣されるのだとすぐに判断した。

 味方から背中を撃たれると脅されたからと主張し、命からがら逃げ出したヘフトは、ウクライナでの戦闘に西側の他の人間も参加しないよう忠告するメッセージをソーシャルメディアに投稿した。数日のうちに、彼は世界的な情報戦の中心人物となり、彼が志願した部隊は彼をロシアの工作員でありとの烙印を公にした。

 ヘフトが論争の渦中に身を置くのは、これが初めてではない。今回のウクライナでの不運な任務の数年前、銃や憲法修正第2条(訳注:武器を保持する権利を保護する条項)への熱い思いから、自称過激派専門家さえ眉をひそめるような謎めいた民兵組織、ブーガルー・ボーイズ(the Boogaloo Boys)に加入していた。

 ブーガルー・ボーイズのメンバーは、強固な反共産主義者的視点や無政府主義的視点を掲げ、右翼過激派、左翼過激派運動の双方におなじみの政治的立場とシンボルを取り入れている。彼らは、多くのリベラルな社会正義活動家が明らかに不快に思う「Black Lives Matter」を支持して行進したり、コロナウイルス・ロックダウンに抗議してきた。攻撃用ライフルを常に公然と所持し、彼らのトレードマークとなっているハワイアンシャツを着用している。

 ヘフトはブーガルーのオハイオ支部の目立った人物で、コロンバスのオハイオ州議会議事堂に現れ、武装した参加者のもとの「統一集会」で紹介的な演説をした。そこで彼は、ブーガルーが無党派政治を目指していることを強調し、(その場にいた)トランスジェンダーの活動家を様々な侮辱から保護する姿も見せた。


2021年1月17日、オハイオ州議会議事堂(コロンバス)におけるブーガルー・ボーイズ集会でのヘンリー・ヘフト

 しかし、ヘフトが再び武装した戦いの場に身を戻したのは、かつて所属していた民兵組織のようなものではなかったと彼は言う。今年2月、ロシアのウクライナ侵攻のニュースがFacebookのタイムラインを駆け巡り、市民の苦悩を伝える胸が張り裂けるような話に心を打たれたからなのだ。彼は今、父親であり、ロシア軍の猛攻から命からがら逃げ出すウクライナの若者たちの顔に自分の子供を見たのである。

 だから、ウクライナのボロディミール・ゼレンスキー(Vlodymyr Zelensky)大統領が、西側の人たちに海を渡ってウクライナの戦いに参加するよう呼びかけた瞬間、ヘフトは心を動かされた。「ウクライナの友人で、ウクライナに加わって国を守りたい人はみんな来てくれ、武器も渡すから」とゼレンスキー大統領は、本格的な戦争が始まった数日後に訴えた。

 しかし、ウクライナに到着してみると、彼が直面させられたのは気が滅入るような現実だった。寄せ集めの民兵組織が(ロシアという)強力な軍事マシーンとの代理戦争に突っ込まされる。そして約1週間後、彼は自分が死ぬために署名したのだと確信した。

 「あいつらは俺たちをキエフに送り込もうとしているが、武器もなきゃ、装備も装甲版もありゃしないんだ。幸運にも武器を手に入れたって、10発入りの弾倉しかありゃしないんだよ」と、ヘフトは現場からのソーシャルメディアを使った映像で不満を漏らした。「みんな、ここに来るのはやめてくれ。これは罠だ。ここに来たらあいつらは死んでもあんたらを手放なさいよ。」

 ヘフトは、ウクライナから出ようとする欧米人のパスポートが破られ、外国人はライフルも持たずに前線に送られている、ジョージア軍団は拒否する者を射殺すると脅しているなど、次々と爆発的な主張を展開した。

 ヘフトのアカウントがキエフの広報活動を阻害していることが明らかになると、ウクライナの国家安全保障・防衛評議会は公式ツイッターで彼を非難し、このアメリカ人はロシアのプーチン大統領の手先だと烙印を押し、彼の写真の横に 「Made in Russia」という見出しをつけた。



 次に、ジョージア軍団の戦闘員たちがソーシャルメディアに参加し、ヘフトを非難し、嘘つきの烙印を押した。ひとりのアメリカ人志願兵は、Daily Wireの記者キャッシイ・ディロン(Kassy Dillon)が公開したビデオで、「ヘンリーから出た情報で、今現在、飛び交っているものも飛び交っていないものも、それは完全にウソだ」と主張した。

 そして、ついにマスコミは、ヘフトに照準を合わせたのである

 「ウクライナの外国人戦闘員は、逃げ出したアメリカのブーガルー・ボーイを嘲笑する 」というタブロイド紙Daily Mailの見出しがあった。「あるブーガルー・ボーイがウクライナの外人部隊に参加しようとしたー-結果は不首尾」とRolling Stone誌は報じている。そして、情報収集サイトRaw Storyを経由した見出し:「ブーガルー・ボーイはウクライナで戦おうとしたが最悪の結果に、そして彼は逃亡。」

 マスコミの嘲笑の中、ヘフトはThe Grayzoneとのインタビューに応じた。彼が真っ当な記録を残そうと決意を固めているのは次の3点だと私に語った:

 ① ブーガルー・ボーイズとの関わり、
 ② 彼の政治的見解、
 そして最も重要なこととして、
 ③ 志願兵たちがウクライナの戦場で直面している深刻な危険

 「死に栄光などない。塹壕の中で死ぬんだ。そこに置き去りにされるんだ。グロいし最悪だ」とヘフトはThe Grayzoneに語った。

「私たちは何とか世界大戦を止められる。」

 2022年2月下旬、ヘンリー・ヘフトがウクライナ外人部隊に登録したとき、彼は歩兵戦術と迫撃砲射撃の訓練を受けた陸軍退役軍人としての経験が、自分を貴重な戦力にすると確信していた。NATO政府の無言の同意とキエフからの熱心な励ましによって、ポーランド国境を越えてウクライナに押し寄せた何万人もの外国人も、どうやら同じように感じていたようだ。

 「特殊な技能を持つ退役軍人として、ロシア軍に標的にされる女性や子どもを見ながらソファに座っているよりも、ウクライナでその技能を生かせるのではないかと思ったんだよ」と、ヘフトはThe Grayzoneに語っている。

 ウクライナに向かう数日前、地元紙Columbus Dispatchに、自分の決断の原動力となった生の感情についてヘフトはこう語った。「ロシアは民間の建造物に発砲しており、亡くなった子供たちもいる。国を越えて多くの退役軍人が立ち上がっていることに、私はとても感動している。プーチンの動きを長期間抑えることができれば、世界大戦を止められるかもしれないと感じているんだ。」

 現在も、「気持ちは変わらない」とヘフトは言う。「でも、自殺的任務でウクライナに行く気はさらさらなかったよ。俺には子供がいる。仕事もある。学校もある。もともと、最前線で戦う兵士になるつもりもなかった。志願兵として、訓練や医療品の提供、支援をするつもりだった」。

 ヘフトはワシントンのウクライナ大使館に、ウクライナのために戦おうとする外国人の唯一の条件である、パスポートのコピーと軍歴証明を提出した。

 ポーランドに着いてから、国境を越えるのは「とても簡単だった。とても速いペースだった。ウクライナに入るのに、おそらく5分、10分だった」と彼は言う。

 しかし、ヘフトがThe Grayzoneに語ったように、ウクライナの外に出るのはそう簡単ではなかった。

ジョージア国民軍の内側

 ウクライナに入国したヘフトは、数人の志願兵仲間とともに、リヴィウ(Lviv)に向かった。「リヴィウの町の中心部では、さまざまなグループから人を募っていた。地元民兵のジョージア人、ウクライナ人、それにアゾフとか、もっと敵対的なグループもいた」と、ヘフトは振り返る。

 ウクライナ外人部隊は契約が必要なので、ヘフトは都合よく近くに駐留していたジョージア部隊に入隊することにした。

 ウクライナ軍に組み込まれたジョージア部隊は、3つの基地を運営し、数百人の戦闘員がいる。以前はドンバスの最前線で戦っていたジョージア部隊は、現在は西部に本部を置き、ジョージアの悲惨な南オセチア侵攻など過去4回のロシアとの戦争を経験した退役軍人マムカ・マムラシヴィリ(Mamuka Mamulashvili)が率いている。

 マムラシヴィリと彼がマイダンのクーデターで率いた小グループは、キエフの中央広場で卑劣な偽旗の大虐殺を行ったとして、同じジョージアの戦士アレクサンダー・レバジシヴィリ(Alexander Revazishvili)に告発されている。レバシシュビリによれば、マムラシヴィリは狙撃手に命じて群衆に発砲させ、49人のデモ参加者を殺害した。これは、彼らが打倒しようとしていた政府に責任を負わせることによって、紛争をエスカレートさせるというひねくれた試みであったという。


マムラ・ムラシュヴィリと当時米下院外交委員会議長だったエリオット・エンゲル(Eliot Engel)の写真

 マムラシヴィリがFacebookに投稿した2017年と2018年の両方の写真には、ジョージア強硬派である彼が、米国議事堂内で下院外交委員会のトップの人物たちと肩を並べる様子が写っている。当時のエリオット・エンゲル共和党議員、キャロリン・マロニー(Carolyn Maloney)共和党議員、サンダー・レヴィン(Sander Levin)共和党元議員、ダグ・ラムボーン(Doug Lamborn)共和党議員、ダナ・ロラバッカー(Dana Rohrabacher)元共和党議員などである。さらに、上院情報委員会の前委員長であるダイアン・ファインスタイン(Dianne Feinstein)上院議員の事務所を訪問している写真を掲載した。

 ここ数年、たくさんの悪名高い外国人がジョージア軍団に所属していた:

 ① アメリカの退役軍人クレイグ・ラング(Craig Lang)。彼はフロリダで男女カップルを陰惨に殺したことで告発されている。

 ② ヨアヒム・ファーホルム( Joachim Furholm)。ノルウェイのネオナチで銀行強盗犯。

 ③ イーサン・ティリング(Ethan Tilling)。オーストラリアのネオナチ「右翼抵抗組織」の元メンバー。
 
アメリカ人逃亡者クレイグ・ラングがドンバスの前線にいるジョージア軍団を代表してインタビューを受 けている。2016年。

 ウクライナに到着したヘフトとジョージア軍団の西側志願兵の分隊は、西部の都市リヴィウの郊外にあるドゥブリャニ(Dubliany)の古い病院を改造した軍事基地を拠点とすることになった。そこでヘフトはジョージア人にアメリカの軍事戦術を教えながら、この民兵組織の決して立派とは言えない側面がますます分かってきた

 ヘフトと他の志願兵たちは、少数の英国人志願兵たちの援助を受けてポーランドに密かに舞い戻った後、英国メディアの詳細なインタビューに応じた。それをヘフトが密かに録音してThe Grayzoneに提供した。1時間に及ぶインタビューの中で、元志願兵たちは、ウクライナと連携した軍隊が行った残忍な行為(彼らはそれを実際目撃している)を詳細に説明した。

 検問所を通過しようとした2人の不運な市民についてヘフトが振り返っている。ウクライナ兵に車から引きずり降ろされ、建物の中に連れて行かれ、喉を切り裂かれたというエピソードを紹介した。彼らはウクライナ兵に車から引きずり降ろされ、「黒袋」に入れられ、建物の中に連れ込まれて喉をかき切られたのだという。「彼らが本当にスパイなのか、検問所を通り抜けただけなのか、さえ分からない」とヘフトは録音の中で言っている。

 ある英国人志願兵は、自分の部隊の敷地に迷い込んだ老人の話をした。「彼らはこの男を捕まえ、何だってやってのけた。それから老人は投げ飛ばされて、ずっと、体のあちこちを調べ回されたのさ。その後、あいつらが老人をどう処置するかはわかっている。」

 さらにヘフトは、ジョージア軍団はジハード主義者まで隊員として迎え入れていたと主張した。別のアメリカ人の元志願兵は、イギリスのジャーナリストに対して、「間違っているわけでも、悪いわけでもないが、礼拝帽をかぶり、髭をぼうぼう生やした男が駆け寄ってきやがったんだ...俺はウクライナにいるのに、なんでそいつはアラビア語なんだ?」

 3月13日、ロシアはヤヴォリフのいわゆる「国際平和維持・安全保障センター」を攻撃した。ここは「ウクライナ領土防衛国際軍団」または「外人部隊」の活動拠点になっている。以前はこの場所で、米国とカナダがウクライナの戦闘員の訓練を行っていた。



 その夜、ヘフトはドゥブリャニにいた。そこで彼とジョージア軍団は毎晩のように空襲にさらされた。しかし、近くのヤヴォリフ基地とは違い、彼の兵舎が直接攻撃されることはなかった。

 ロシア側はヤヴォリフの空爆で180人の戦闘員が死亡したと主張しているが、西側情報筋はその数を35人と見ている。

 「俺がいたときは、死者35人、負傷者・行方不明者150人だったが、行方不明者は間違いなく(戦闘で)死亡したということだろう」と、ヘフトはThe Grayzoneに語っている。「特に爆発時には、何人死んでいるかわからないかもしれない。この時点では全員をウクライナ人としてカウントしているのだろう。誰が誰で、どこから来たのかを把握する手立てが軍になかったからだ。」

 志願兵の複数の証言によると、ウクライナ政府は外国人戦闘員に永住権を与え、彼らの死をウクライナ人としてカウントしている。

 ヤヴォリフの外人部隊の基地が攻撃された夜、「俺たちの警報もすべて鳴り始めた」とヘフトは言う。その時、彼は恐怖感に捕らわれたという。

 ジョージア人は「俺たちの兵舎の部屋に駆け込んできて、『おい、装備を整えろ、森へ行け』ってな感じで言ってたよ。」

 ヘフトによると、ヘフトたちは武器を持っていなかったので、その命令を拒否したという。「ロシア軍と接触しなかったとしても、武器なしでは死ねと言われるのと同じことだ」と彼は言った。ウクライナ語を話さないだけで、背中を撃たれるかもしれない。誤解が起こりうるんだ。」

 到着から3日後、ジョージア軍団は「何も持たずに志願兵をキエフに送り込んだ。装甲版も武器も装備もない。到着すれば武器が手に入ると言われた」とヘフトは回想する。

 数日後、キエフに派遣された志願兵たちは、約束された武器をまだ受け取っていないと、彼のグループにテキストメッセージを送ってきた。

 「ひとりの男はこんな風だった、『ああ、武器は手に入れたが、弾薬は10発しかない 。』ひとりの男はグロック社製銃(訳注:強化プラスチック製で兵士向きではない)を渡され、空港のパトロールに行かされたという話もある。この志願兵の中には、軍隊経験のない人もいた。そのうちの一人のイギリス人のガキは、生まれてこのかた武器を手にしたことすらなかったんだ」とヘフト。

 その時、ヘフトとその仲間は、ちゃんとした武器と弾薬が与えられない限り、キエフには行かないことにした。「キエフに行く途中で待ち伏せされる可能性があった。それでも良かった」と彼は言った。


ロシアの空爆で塹壕に避難しているヘフト

 ジョージア側は、ヘフトたちが譲れない一線を引いたことを知り、激昂した。

 「あるウクライナの兵士が、俺たちがちょっとしたミーティングをしているときにやってきて、「おい、ジョージア人たちはお前たちが行かないことを知って、キレてるぞ」みたいなことを言った」とヘフト。そのウクライナ人がヘフトたちに言ったのは、ジョージア人たちが「お前を後ろから撃つぞ」と脅しているということだった。

 The Grayzoneが以前報じたように、西側からウクライナへの武器輸送は、「史上最大かつ最速の武器輸送の一つ 」に相当するものだ。しかし、ウクライナでの自分の役割を砲弾の餌食と表現した外国人志願兵は、ヘフトだけではなかった。

 「俺の考えでは西側の装備のほとんどは、ウクライナ軍に直接渡っている」と、ヘフトはThe Grayzoneに語った。「あいつらは自国民の犠牲を最小限に抑えたいんだ。だから、志願兵として来る外国人がたくさんいたら、まずその志願兵を送るんだ。」

 ジョージア人たちが自分たちを処刑し、その殺人を戦闘行為と偽る計画があると聞くと、ヘフトたちは急いで装備を整え、救急車の後ろに隠れ、まっすぐリヴィウに向かった。やがて、彼らはポーランドとの国境を越えて戻った。

 出国する途中、彼と彼の仲間の「2、3人」に、「別のことをしていた2人のイギリスの男たち」が近づいてきた、とヘフトは言う。

 ヘフトは、このイギリス人たちが何をしようとしていたのかについては、あまり語りたがらなかった。「彼らは俺たちを安全な場所に連れて、アメリカの特殊部隊の連中と、まあ、連絡を取らせてくれた」と言うだけであった。

 ヘフトは、国境付近の外人部隊のテントが、軍装で渡ろうとする者を追い返す戦闘員でいっぱいだったことを、英国の戦闘員から警告されたことを思い返している。

 「彼らは逃げるものを基本的にはウクライナに送り返すし、パスポートを奪って送り返す 」とこのイギリス人は彼に言った。

 米国に戻ったヘフトは、ウクライナへの渡航を検討している米国の退役軍人に、この紛争はイラクやアフガニスタンでおなじみの対反政府活動とはまったく違うものだと警告する決意を語っている。
 「これほどひどい事態に陥ったのはベトナム以来かもしれないが、そのときは空軍の支援だってあった。ウクライナには空軍の支援はないし、迫撃砲も(ロシアには)かなわない。いいか、ロシアはロケット弾や巡航ミサイルを持ち、上空を飛ぶジェット機やドローンなど、あらゆるものを使っている。すべての可能なシナリオを慎重に考える必要があると思う」とヘフトは言った。

 「俺はただ、みんながそのことを考慮し、ちゃんと知ってほしい。いいか、みんなはウクライナの兵士ではない。外国人戦闘員なんだ」と、ヘフトは強調した。「あいつらは外国人兵士であるみんなを真っ先に使うね。」



ALEXANDER RUBINSTEIN
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NATO-ロシア代理戦争: アメリカ衰退の兆候。 スコット・リッターとマイケル・ハドソンの対談

<記事原文 寺島先生推薦>
NATO-Russia Proxy War: Revealing Signs of a Fading America: Scott Ritter, Michael Hudson
Conversations with Scott Ritter and Michael Hudson

Global Research 2022年3月26日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月22日
***


 「ジョー・バイデンは昨年6月、ウラジーミル・プーチンの目を見据えて、ウクライナに対して行動を起こすなら大規模な制裁を加えると脅した。今まで見たこともないような制裁だ!...彼には側近と「これに対してどう準備しようか?」と話し合う時間は何カ月もあった。米国とその同盟国は何もしていない。そのことはロシアを驚かせた。何もしていない!ロシアはあらゆることを想定していた! そして、彼らはそれに対する対応策もあった。」
―スコット・リッター(今週のインタービューから)
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 ブラックロック社は10兆ドルの資産を運用する企業であり、投資家たちは会長兼CEOであるラリー・フィンク(Larry Fink) の見解や意見に注目する傾向がある。そのラリー・フィンクが最近出した株主への手紙の中で、次のようなことを述べている:

 「ロシアのウクライナ侵攻は、私たちが過去30年間に経験したグローバリゼーションに終止符を打った... ロシアのウクライナ侵攻とその後の世界経済からの切り離しは、世界中の企業や政府に、いろいろな依存関係の再評価とこれまでやってきた製造・組立工程の再検討を促すだろう。そのことはCovidをきっかけにすでに多くの人が開始していたことだ。」 [1]

 言い換えれば、ここ数週間の光景とそれに対するNATOの対応は、アメリカが何年にもわたって次々と国々を侵略し、荒廃させてきたが、その侵略をはるかに超える影響を及ぼしている。グローバリゼーションは死んだ。大規模な分断が起こっている!

 実際、ロシアを痛めつけるために実施された制裁措置は、アメリカ人、カナダ人、そしてヨーロッパ社会にも打撃を与えている。それは私たちがガソリンスタンドに車を寄せたり、あるいは食品価格が高騰するのを見たりするときにわかる。[2][3]

 一方、金曜日(3月25日)、バイデン大統領は、欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長を傍らに立たせ、EUがウラジーミル・プーチンの石油・ガス供給に、依存度を下げる合意を発表した。次はバイデンの言葉:

 「私たちは、多様で、弾力性のある、クリーンなエネルギーの未来のためのインフラを構築しているが、その間に、ヨーロッパの家庭がこの冬と次の冬を確実に乗り切れるようにしなければならないだろう。」[4]

 つまり、ウクライナにとっての利害は、文字通り、この東欧の国(ウクライナ)にいる軍隊の弾丸、爆弾、そして勇気とはまったくかけ離れたところにある。NATOはその利害をまだ戦場に持ち込まないだろう(持ち込まないでほしい)が、ロシアに対して突きつけた他の多くの財政措置は、実際の戦争と同じくらい壊滅的な結果をもたらす可能性がある。

 サウジアラビアは石油の一部を中国の通貨である人民元で購入できるようにするための協議を進めており、アメリカの国力を維持するための基軸の一部であるアメリカドルの支配が危うくなっている。また、ロシアを含む5カ国が、ウクライナへの軍事侵攻を直ちに停止させるという国連総会の投票結果をはねつけた。棄権した35カ国は、欧米が紛争を引き起こしたとの疑念から棄権したケースが多い。だから、ロシアは正確には "孤立 "していない。[5]

 最初の30分で、米軍情報将校で戦略家のスコット・リッター(Scott Ritter)を再び迎える。①ウクライナにおけるロシアの長期に亘る作戦(彼の基準では長くない)、②NATOが提供できない援助を求めるゼレンスキー大統領の役割、そして③ロシアよりも米国とヨーロッパをはるかに傷つける制裁戦争、の3点について彼の評価が述べられる。

 後半30分は、偉大な経済思想家であるマイケル・ハドソン教授をお招きしている。①ロシアを戦争へと挑発する真の戦略について説明をいただき、②加速する米国通貨の下落、そして③複数の国家がアメリカから分離してきているという動きが、どんな役割をこれから果たすのかについて解説をしていただく。

 スコット・リッター・・・米国海兵隊情報将校。1991年から1998年まで国連のチーフ兵器査察官を務めた。現在、Huffington Post、consortiumnews、the American Conservativeでコメンテーターやコラムニストとして活躍中。

 マイケル・ハドソン・・・長期経済動向研究所(ISLET)代表、ウォール・ストリート紙の金融アナリスト、ミズーリ大学(カンザス市)経済学部特別研究教授。著書に『J is for Junk Economics』(2017年)、『Killing the Host』(2015年)、そして1968年の古典『Super-Imperialism:The Economic Strategy of American Empire』がある。彼のウェブサイトはmichael-hudson.com

1部
 グローバルリサーチ(以下GR):ハドソンさん、またお話をしていただくということで、たいへん光栄です。ようこそ!

 マイケル・ハドソン(以下MH):お招きただきありがとうございます。

 GR: 現在、NATOは、SWIFTシステムからの排除を含むロシアへの制裁を求める米国の呼びかけに、足並みをそろえて追随しています。制裁で打撃を受け、傷ついているのはNATOのほうです。バイデン大統領が言うところの「地獄からの制裁」です。効果があるようにはみえません。しかし、この制裁はブーメランとなり、EUやアメリカには食料、肥料、石油、ガスなどの価格高騰で大きな打撃を与えています。EUもアメリカもロシアの侵略を挑発しているようです。バイデンは、言ってみれば力づくで、その動きを作ったのです。今回のことは「ロシアのウクライナ侵攻」があったから、の動きではありません。つまり、それはEUとアメリカがこの間ずっと仕組んできたことなのです。それにしても、ロシアを挑発してウクライナと制裁戦争をさせるという戦略的な目標は果たして何だったのでしょうか? EUとアメリカはロシアが慈悲を乞うことを見越しているのか、それともそれ以上のことが起こっているのでしょうか?

 MH: 事態はあなたがおっしゃることとまったく反対だと思います。戦争はロシアに対してではありません。戦争はウクライナに対してではありません。この戦争はヨーロッパとドイツに対するものです。制裁の目的は、ヨーロッパや他の同盟国がロシアや中国との貿易や投資を増やすのを防ぐことです。なぜなら、アメリカは、世界の成長の中心がアメリカにはないことがわかったのです。アメリカは脱工業化しています1980年代以降の新自由主義的な政策に従った結果、アメリカ経済は空洞化してしまいました。富を生み出す力を失ったアメリカが、一体どうやって繁栄を維持できるのでしょう。

 国内で繁栄を創り出せなければ、海外から手に入れるしかありません。そして、1年前に始まったバイデン大統領とアメリカのネオコンによる試みは、ノルドストリーム2を妨害することでした。それを機能しなくさせ、ロシアとのエネルギー貿易やその他の貿易をすべて妨害することを目指しました。そうすれば米国は天然ガスそのものを独占できるようになるのです。過去100年間、米国が世界経済を支配してきた主な道具の1つは、石油産業によるものでした。世界のエネルギー貿易を支配すること。エネルギーはGDP、生産性、そしてすべての国(を支配する)鍵であるので、エネルギー貿易が米国の支配を素通りして他の国々とやれるという考えは、米国に他の国々を排除する力がなくなったのではないか、ということに通じます。

 だから、ウクライナでの戦争を挑発し、それに対するアメリカの対応を煽ることで、アメリカは、「ロシアはこんなひどいことをしています。アメリカは自衛しているだけです」と言うことができるようになったわけです。アメリカに対して自国を守ることは宣戦布告になります。なぜなら、それはドル化されたシステムから脱却することを意味するからです。そのため、他の国々が自立できる可能性があると考えることは、アメリカが各国の政策に口を出すこと、そしてアメリカが頂点を極めるためにドル外交による支配能力への挑戦と、アメリカでは見なされたのです。

 もちろんアメリカが恐れているのは、環境保護運動が炭素燃料である石油やガスを減速させることで地球温暖化を止める方向に動くことです。ですから、ヨーロッパでこの危機を作り出すことで、アメリカは大いに...地球温暖化を加速することを外交政策の基本にしているのです。石炭と石油を未来の燃料として加速させる。今日、ポーランドでバイデン大統領は、ロシアの石油に代わるものとしてポーランドの石炭を約束していますね。そしてアメリカの石炭。だからバイデン大統領は石炭産業ロビー出身のマンチン(Manchin)上院議員を環境・エネルギー庁の長官にしたのです

 つまり、あなたが見ているものは、世界の危機を作り出すことで、別にアメリカは自国を危うくし墓穴を掘っているわけではありません。それこそアメリカの思惑通りです。アメリカは世界危機になると、エネルギー価格が大幅に上昇し、アメリカの国際収支に利益をもたらすことに気づいています。エネルギー輸出国としてだけでなく、世界の石油貿易を支配する石油会社が、ロシアをそこから排除すれば、農作物の価格は大幅に上昇し、農産物輸出国である米国に利益をもたらします。特に、ウクライナとロシアの小麦輸出を阻止すれば、債務の期限が迫っている第三世界の国々に債務危機をもたらすことになるでしょう。そして、アメリカはこの債務危機を利用して、第三国に民営化を続けさせ、アメリカ人のバイヤーたちに公有地を売り渡すよう強制する、あるいは強制しようとすることができるのです。先祖伝来の資産を売却すれば借金も返せるし、値上がりした石油や輸入食物の代金も払えることになるというわけです。

 アメリカの戦略は、世界の危機がまさに偶然起こったものとして私たちに伝えられる状況を作り出すことなのです。この人たちは新聞をちゃんと読んでいるので、自分たちのやっていることの結果としてこれが起こったとわかっている、そのことに疑問の余地はありません。彼らがやっていることは十分に考えた上でのことです。彼らが馬鹿ではありません。彼らは頭がいいし、善良とは言えませんが、馬鹿ではありません。

 GR:話は大分込み入ってきています。が、私としては次のことを指摘したいと思います。あなたの記事のひとつです。今アメリカで支配的と思われる3つの領域、経済領域についてお話されていましたね。石油とガス、軍産複合体、そしてFIRE(金融、産業、不動産)です。そして、その3つの分野はすべて、現在の状況から恩恵を受けていると思います。これははっきりわかると思います。レイセオン(Raytheon)やロッキード・マーチン(Lockheed Martin)の価値、相場が上がっているのは......。

 MH:そうですね、銀行についてはよくわかりません。銀行の利益はどこに行き着いたのでしょう?銀行は13世紀以来、貿易金融でその資金の大半を稼いできました。債権ですが、石油の輸入業者であれば、信用状を発行してもらい、引き渡しがあったときに銀行が支払いを約束します。貿易金融は巨大な銀行活動です。そして現在、米国の銀行は、ロシア、中国、そしておそらく一帯一路構想の国々に関わる限り、この貿易金融から締め出されています。ですから、銀行がどのように利益を得ているのか、なかなか見えてきません。特に、第三世界の国々、グローバル・サウス諸国が、「われわれは債権保有者に支払うためだけに経済を犠牲にし、緊縮財政を強いるつもりはない。債権は不良債権だ、こんな債権は醜悪だ、われわれは債務の支払いを拒否します。私たちは債権にお金を払いません」と言えば、なおさらです。

 これでは銀行も投資家も浮かばれません。それで、銀行は・・・ すべてにおいて、テンポが一拍遅れているように見えます。今回の戦争は経済的なものというよりも、新自由主義的な、ネオコンの間にあるロシアやドイツに対する理屈抜きの憎しみであるように思われます。これは理解されていませんが、経済的なものではありません。たとえば中国にまで範囲が広がる時、ほとんど人種的な憎悪とも言えるものが動いています。そしてアメリカですが、無政府状態になると何が起こるかわかりません。金融戦争が起きれば、世界は2つの経済圏に分断され、軍事戦争と同じような状態になります。無政府状態では、何が起こるかわからないのです。ブラッド・バッグ(訳注:「無頭釘の詰まった袋」。「扱いが厄介」くらいの意味か?)です。アメリカは、必要であれば、賄賂や武力や暗殺によって、自分たちのやり方を通すのに十分な力を持っていると思っています。それを求める上院議員もいます。しかしそうすれば、アメリカが敵だと宣言する人間全員が、ひたすらおとなしくなるとも思えません。

 GR:最近、サウジアラビアが原油の価格を人民元建てにすると発表しましたね。つまり、石油を買う際、ドルにライバルができたということでしょう。

 MH:中国との石油貿易。他の国はドル建て貿易をしようとしません。なぜなら、米国は、その国の資産がドル建てであれば何でも奪い取ることができるからです。チリがアジェンデの下で銅の貿易を支配しようとしたときのように、ある国が自立的なことをすれば、米国はその国の資金を奪うことができます。ベネズエラが国民中心政策で土地改革を行おうと考えたとき、アメリカはベネズエラの通貨を押さえただけです。それから、イングランド銀行はベネズエラの金(gold)を差し押さえました。アメリカは、アフガニスタンの外貨準備をあっさり差し押さえ、それからロシアの外貨準備を差し押さえました。

 突然、各国はアメリカの銀行を使うのを恐れ、ドルに関連するものを使うのを恐れ、何であれ、アメリカが手に入れることができるものを持つのを恐れています。それが、今のアメリカの政策だからです。これが、他の国々を遠ざける原因になっています。アメリカの同盟国でさえも、怯えているに違いありません。ドイツは、ニューヨーク連邦準備銀行から、飛行機で金塊を送り返すよう求めているのです。

 GR:そうですね、ドミノ効果のようなものが起きているのでしょうか。つまり、アメリカドルは、すでにいくらか困難な状況にありましたが、これから先、本当にそれが加速していくのははっきりしています。そして、あなたがおっしゃった他のグローバル・サウス諸国などでは、アメリカドルを捨てて他の通貨にするつもりなのでしょうか?

 MH:危機は政治的なものです。別の通貨には及びません。プーチン大統領は演説で、この戦争はウクライナに関するものではないと言っています。この戦争は国際秩序を再構築するためのものです。そして、その意味するところは、IMF(国際通貨基金)に代わるものを探すということです。世界銀行に代わる機関です。世界法廷に代わる機関です。そして、例えば米国ルールに基礎を置いた国連ルールに基礎を置く秩序に代わるものを探すということです。しかし、米国がこのグループのメンバーである限り、それは不可能です。

 つまり、新しい国際機関のグループになるわけですが、アメリカは自身が拒否権を持たないいかなる組織にも参加することはないでしょう。つまり、平行線の過程をたどることになるのです。ヨーロッパと北米では新自由主義的な金融化、つまり負債による資金調達の道であり、そして中国と一帯一路構想、つまり上海協力機構ブロックでは産業資本主義が社会主義に進化する道であります。

-休憩-

2部
 GR:ウクライナの解決は、ある意味、短期的な取引だと思いますが、長期的には、NATOや米国の影響力からヨーロッパを遠ざけようとする揺さぶりになると思います

 MH:アメリカはヨーロッパの政治家を徹底的に支配しています。ヨーロッパでNATOとアメリカに反対しているのは右翼だけです。民族主義者たちです。左翼は完全にアメリカを支持していますし、全米民主化基金やその他のアメリカの機関がヨーロッパ中の左翼政党を統制して以来、ずっとそうです。こういった組織は欧州左翼、ドイツやその他のヨーロッパの社会民主党、イギリスの労働党などを「トニー・ブレア」化してしまいました。これらは労働党でも社会党でもなく、基本的に親アメリカの新自由主義政党です。

 GR:ロシアは鉱物資源が非常に豊富で、石油やガスも豊富なことを私は知っています。ロシアとウクライナは、世界の穀倉地帯の一部を形成しています。リチウムやパラジウムなどの重要な鉱物を支配しているため、その計画の一環としてウクライナと取引しています。その結果、先ほど申し上げたように、食料を含む世界中に多くの影響を与え、おそらくかなり早い時期に食料不足になり始めるでしょう。

 MH:それは意図的なもので、予想されていたことだと理解してください。ガスがない状態で、すでにドイツの肥料会社は事業が立ち行かなくなっています。肥料はガスから作られるので、ロシアのガスが手に入らなければ、肥料も作れませんし、肥料がなければ、作物は以前のように広く行き渡らず、豊富でもなくなります。つまり、これらすべてを考慮すれば、とても明白なことですが、彼らはこうなることを知っていたと見なすしかないのです。食糧輸入国にアメリカが有利になるように課すコストの締め付けで、アメリカが利益を得ることを期待しているのです。

 GR:アメリカが何をもって反撃に出るのか、ということを私はちょっと知りたいのですが。つまり、彼らにはドルの威信があっていろいろでっち上げることができました。しかし同時に、例えばロシア政府、ロシア中央銀行の金(gold)や預金を使ったり、没収するなどして、支配力を持っています。このような努力は将来、それは彼らが現在持っているぐらいのものなのでしょうか?つまり、実際の軍事については後で話すとして、アメリカがロシアに反撃するために持っているその種の手段について話していただけませんか?

 MH:そうですね、過去75年間使われてきた明らかな手段は贈収賄です。特にヨーロッパの政治家を賄賂で操ることはいとも簡単です。ほとんどの国がそうですが、ただ金を払えばいいのです、政治キャンペーンを支援し、親米派の政治家を巨額の資金で支援することで内政干渉することを隠そうともしません。第二次世界大戦後、英米はギリシャに進駐し、反ナチス派をすべて射殺し始めました。彼らは大部分が社会主義者でした。英米はギリシャの王政を復活させたかったのです。イタリアのグラディオ作戦があります。チリからラテンアメリカ全域に及ぶ標的型暗殺とその余波があります。つまり金がだめなら、殺せということです。

 それから、いろいろな軍事力があります。そして、アメリカが使おうとした主な手段は、制裁です。もし制裁でロシアの原油を手に入れられない、あるいは、ロシアからのガスや食料に融資できなければ、アメリカはすぐ食料供給を停止します。重要な原材料を止め、経済の工程を中断させます。なぜなら、ほとんどすべての種類の経済活動には、必要とされる要素がたくさんあり、種類もたくさんあるからです。

 アメリカは弱点を探していました。そしてその弱点を突こうとしています 破壊工作は確かに、ウクライナでご覧のように使われているもう一つの手段です。問題は、この弱点を突く試みが、他の国々には、確かに苦痛を強いることになります。短期的には、です。

 長期的に見れば、主要な圧力要因は自給自足でまかなわなければならないでしょう。自分たちの食べ物は自分たちで作らなければなりません。小麦を輸入するのではありません。輸出用のプランテーション作物栽培から脱却して、自国の穀物を手に入れ、家族規模の農業に戻して、すべてを行う必要があります。武器も自国で生産しなければなりませんし、燃料も自国で調達しなければなりません。太陽エネルギーや再生可能エネルギーを使って、アメリカ支配の石油やガス、石炭の取引から独立することも必要です。つまり、長期的、あるいは中期的に見ても、こういった努力の効果は、他の国々を自給自足させ、独立させることにもつながります。 
 これから、多くの妨害や飢餓さえも、そしてたくさんの財産移転や混乱が起こるでしょう。しかし、長期的には、アメリカは、相互に連結した単一のグローバル化秩序という構想を破壊することになるでしょう。ヨーロッパと北米を他の地域全体から切り離したためです。

 GR:ロシアのオリガルヒが制裁に直面していますが、彼らは制裁をやめてアメリカと関わりを持てるようにしたいのか、それともプーチンのように「自分たちでやろう」と考えているのでしょうか。

 MH:かつてオリガルヒは、非常に西側志向でした。ロシアの石油やガス、ニッケル、不動産などを自分たちの手中に収めたとき、どうやってそれを売却したか、ということです。ロシアにはお金がなかったのです。1991年以降のショック療法で、お金はすべて壊滅状態でした。西側に株式を売却することでしか、現金化できなかったのです。ホドルコフスキー(Khodorkovsky)がユコス(Yukos)をスタンダード・オイル・グループに売却しようとしたのも、そういうことだったのでしょう。そして今、アメリカは彼らのヨット、イギリスの不動産、スポーツチーム、西側で保有している資産を簡単に奪えると分かっているので、彼らは唯一の安全策は、西側で保有しているものは何でも奪えるアメリカベースの経済圏ではなく、ロシアとその同盟国の経済圏で保有することだと気付いているのです。

 そう、今日、あるいは昨日、チュバイス*(Chubais)は永久にロシアを離れ、西側へ行った。そして、オリガルヒに選択させているわけです。ロシアに留まり、ロシアの生産手段を用いて富を築くか、ロシアを去り、金を持って逃げ出し、自分が盗んだものの一部を自分の手元に置くことを西側が許してくれることを願うか。
チュバイス*・・・アナトリー・ボリソヴィチ・チュバイスは、ロシア連邦の政治家、企業家。元ロシアナノテクノロジー社社長。ベラルーシ人。ボリス・エリツィン政権にて大統領府長官、第一副首相兼財務大臣を歴任。(ウィキペディア)

 GR:ロシアや中国に対する制裁を支持しない国は、インド、カザフスタン、タジキスタン、クルディスタン、つまり中央アジア地域の国々はすべて支持していません。そしてそれは、「一帯一路」構想に恩恵を与えているように思いますが。

 MH:そう思いますよね。大きな疑問符がつくのはインドです。非常に大きな国ですから。そして、インドはすでにロシアとの多くの金融貿易金融の仲介役となるよう位置づけられています。また、インドは親米的である傾向があります。モディ首相は過去に政治的に非常に親米的でした。しかし、インドの潜在的な国益を考えるならば、その経済的利益は、インドが存在する地域、つまりアメリカではなく、ユーラシア大陸との関係です。

 国防総省や国務省を大きく悩ませているのは、どうやってインドをアメリカの手中に収めようかということでしょう。これが今後数年間の大きな危機が展開する領域となります。

 GR:すみませんが、できれば眼鏡をかけていただき、将来を見据えるなどということをしていただけたら、と思います。今から2、3年後でしょうか。今の支配的な傾向を考えると、これはどうなるのでしょう?両陣営の成長に差が出るということでしょうか?それとも核戦争後の燃えかすになっているのか?どうお考えですか?

 MH: 核戦争はないと思います。しかし、ワシントンの狂ったネオコンとキリスト教原理主義者、ポンペオのように世界を吹き飛ばせばイエスがやってくると考えている人たちを考えると、ないとも言えません。つまり、この人たちは文字通り狂っているのです。

 私は50年前、ハドソン研究所で国家安全保障の専門家たちと働いていましたが、人間の脳がこれほどまでに歪んでいて、宗教上の理由から世界の大部分を吹き飛ばしたいと思っているなんて信じられませんでした。宗教的な理由、民族的な理由、個人的な心理的な理由で、世界の大部分を吹き飛ばしたいと思っているのです。このような人たちが、いつのまにかアメリカの政策決定者の地位に上り詰め、世界だけでなく、もちろんアメリカ経済も脅かしているのです。

 しかし、原子戦争はまず起こらないと思います。アメリカは、新自由主義が豊かになれる方法だと他の国に信じ込ませようとするのではないでしょうか。そしてもちろん、そんなことはありません。

 新自由主義は人々を貧困化させます。新自由主義は主に金融による労働に対する階級闘争であり 産業に対する階級闘争です。政府に対する階級闘争です。金融階級が社会全体に対して、負債をテコに企業、国、家庭、個人を支配しようとしているのです。そして問題は、彼らが本当に、金持ちになる方法は借金をすることだと人々を説得できるかどうかです。それとも、他の国々は、これ袋小路だと言うでしょうか。ローマが債権者有利の借金法を西洋文明に遺したときから、この路地は袋小路化しています。この法律は、文明が始まった近東の法律とは全く異なっています。

 GR:最後に、私はカナダに住んでいるのですが、アメリカ経済が沈んでいるときに脱ドルについて聞いたり、一般の個人にとってどうなるかを聞いたりすると、カナダは何とかその軌道から逃れられるのか、それとも私たちは手首に巻かれた手枷のようなものなのか。アメリカが行くところに私たちも行くのか、と考えてしまうのです。

 MH:カナダは完全に銀行部門に支配されています。私は1978年に政府のシンクタンクに『カナダと新貨幣秩序』という記事を書き、カナダがいかに依存的であるかを詳しく説明しました。非常に借金まみれで、金融に支配されており、政府はまったく腐敗しています。新自由主義政党、その中のリベラル政党はかなり腐敗していますし、他の政党もほとんどそうです。彼らは、カナダを支配できるようにするための腐敗や経済ヤクザ主義を守ってくれるものとして、アメリカを見ているのです。

 GR:さて、マイケル・ハドソンさん、そろそろ時間です。私たちの生存、この戦争をどう生き延びるか、その結果はどうなるかについて、非常に広範で、興味深い議論をありがとうございました。グローバル・リサーチの私の番組にお出でいただけましたことを心から感謝いたします。

 MH:こちらこそありがとうございました。


Notes:
1. https://www.blackrock.com/corporate/investor-relations/larry-fink-chairmans-letter
2. Polansek and Ana Mano(March 23, 2022), “As sanctions bite Russia, fertilizer shortage imperils world food supply,” Reuters; https://www.reuters.com/business/sanctions-bite-russia-fertilizer-shortage-imperils-world-food-supply-2022-03-23/
3. Dan Eberhart (March 23, 2022), “As sanctions bite Russia, fertilizer shortage imperils world food supply“, Reuters; https://www.forbes.com/sites/daneberhart/2022/03/23/expanded-sanctions-on-russian-oil-will-cause-economic-pain-for-everyone/?sh=300dec32bcb0
4. Emily Rauhala, Tyler Pager, Ashley Parker (March 25, 2022), “Biden, E.U. announce plan to reduce Europe’s reliance on Russian energy,” The Washington Post; https://www.msn.com/en-us/news/world/biden-eu-announce-plan-to-reduce-europe-s-reliance-on-russian-energy/ar-AAVtSsS?ocid=BingNewsSearch
5. Tom O’Connor (March 2, 2022), “The 4 Nations Who Back Russia’s War in Ukraine, and 35 Who Won’t Condemn It,”Newsweek; https://www.newsweek.com/4-nations-who-back-russias-war-ukraine-35-who-wont-condemn-it-1684250

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怪しげな主張:NATOは、ロシアが化学兵器でマリウポリの人々を攻撃したと非難している。

怪しげな主張:NATOは、ロシアが化学兵器でマリウポリの人々を攻撃したと非難している。

<記事原文 寺島先生推薦>
Dubious Allegations: NATO Accuses Russia of Attacking the People of Mariupol With Chemical Weapons

ナウマン・サディク (Nauman Sadiq)著

グローバルリサーチ、2022年4月13日

<翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月19日



 ロシア軍がウクライナ東部のドネツク州第2の都市マリウポリを解放し、露・ウクライナ戦争で大きな戦略的勝利を収めようとしている。しかし一方で、リズ・トラス英外相は、敵対国の化学兵器攻撃を非難するというNATOの心理作戦の脚本の中で最も古い手口にのっとり、月曜日(4月11日)にこんなツイートをしている。

 「ロシア軍がマリウポリの人々への攻撃で化学兵器を使用した可能性があるとの報告がある。私たちは同僚とともに、詳細を確認するために緊急に取り組んでいる。このような兵器の使用は、この紛争を無情にもエスカレートさせるものであり、我々はプーチンとその政権の責任を追及する。」





 ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、月曜日(4月11日)の夜、NATOひいき筋による根拠のない主張を愚かにも鸚鵡返しして、ロシアがマリウポリ攻撃のために東部ドンバス地方に軍隊を集結させる中、化学兵器を使用する可能性があると主張した。

 ウクライナのハンナ・マリャル(Hanna Malyar )国防副大臣は、ロシアがマリウポリを包囲している間に化学兵器を使用したかもしれないという「未確認の情報」を政府が調査していると述べた。マリャル氏はテレビで「白リン弾ではないかとの説もある」と述べた。

 キエフが任命した東部ドネツク州の自称知事パブロ・キリレンコ(Pavlo Kyrylenko)氏は、マリウポリでの化学兵器使用の可能性に関する事件報告を見たが、確認はできなかったと述べた。

 「昨夜12時頃、無人機が未知の爆発物を投下し、マリウポリ金属工場とその周辺にいた3人が体調を崩したことは知っている」、と彼は記者団に語った。彼らは病院に運ばれ、命に別条はないと付け加えた。

 ロシアはマリウポリでの化学兵器の使用を明確に否定したが、いずれにせよ、1997年の化学兵器禁止条約(CWC)では、白リンの使用は禁止されていない。実際、アメリカ自身、2017年にシリアのラッカで行われた「イスラム国」に対する作戦で、白リン弾をふんだんに使用している。白リンは主に、紛争地域の夜空を照らし、反政府勢力が夜間に正規軍に対して採用するヒットエンドラン(一撃離脱)戦法を防ぐために使用されている。

 しかし、ロシア軍による化学兵器の使用という怪しげな主張が、ウクライナ治安部隊と諸外国の支援者たちによって提起された本当の理由は、マリウポリの戦いが決定的な局面を迎えたからである。CIAの訓練を受けたウクライナのネオナチ民兵がアゾフスタルの工業地帯に立てこもり、重火器を置いていくのと引き換えに安全な回廊を得て戦闘地域から脱出することを考えている。

 ロシア軍がアゾフスタルを奪取すれば、ロシア支配地域間の東西間の要であるマリウポリを完全に掌握することになり、ウクライナの治安部隊と同盟国の超民族主義民兵に対する戦略的大勝利を宣言することになる。

 リズ・トラス英外相の片割れであるアメリカの相方、トニー・ブリンケン国務長官は、40年以上の政治キャリアで「眠れるジョー(・バイデン」」が犯した失言の数よりも、1年間の外交キャリアで犯した失言の数の方が多いのだから、リズ・トラス英外相もニュース通ではないことは明らかだ。

 そうでなければ、ロシア軍がマリウポリで化学薬剤を使ったかもしれないというばかげた主張をする前に、4月7日に発表されたNBCの爆弾スクープを思い出すに違いないだろう。その報道の筆者によると、アメリカのスパイ機関が、意図的かつ選択的に主要報道機関に機密情報をリークし、ウクライナでの1カ月にわたる軍事攻勢中にロシアに対する偽情報キャンペーンを行っていたとのことだった。その米国のスパイ機関は、その機密情報が信頼できないことを知っていた上でのことだったという。

 ロシアがウクライナ戦争で化学兵器を使用する準備をしているというアメリカの情報機関の分析は、以前企業メディアで広く報道されていた。 それが、ウクライナの政治家とそのNATOの後援者によって再び利用されたのだ。そのような根拠のない主張がマスコミにリークされたのは、ロシアがウクライナの悪事を確証するような主張をしたことへの対抗措置だった。ロシアの主張によれば、ウクライナはワシントンと協力して、多くの生物研究所で活発な生物兵器プログラムを進めているというものだった。そしてロシア軍はウクライナ侵攻の初期にそのような生物研究所を発見したとのことだった。

***
参考記事

予言的観測: ランド・コーポレーションズ(RAND Corp.)の報告書。ロシアを「不安定化させ、弱体化させる」ために、推奨される 「挑発的行動」

 NBCの記事にはこう記されている。

 「それは、注目を集める主張であり、世界中の見出しを飾った。米国当局者は、ロシアがウクライナで化学薬剤を使用する準備をしている兆候があると述べた。ジョー・バイデン大統領も後にそれを公言した。しかし、3人の米国当局者が今週NBCニュースに語ったところによれば、ロシアがウクライナに化学兵器を持ち込んだという証拠はないとのことである。彼らは、米国が情報を公開したのは、ロシアが禁止されている軍需品を使用するのを阻止するためである、と述べた。」

 「複数の米政府高官は、情報の正確性が高くない場合でも、米国が情報を武器として使っていたことを認めている。今回の化学兵器の件のように信頼性の低い情報を抑止力のために使うこともあるとのことだ。ある当局者が言うように、米国はただ『プーチンの出方を伺おうとしていた』のである。」

 他の明らかになった事実の中で、NBCの記事は、ロシアが中国に軍事的支援を求めた可能性があるという告発は確たる証拠を欠いていると、ヨーロッパの当局者と2人のアメリカ当局者が報道機関の特派員に語ったと指摘した。

 「米国当局者は、中国がロシアに武器を提供することを検討している兆候はないと語った。バイデン政権は中国にそうしないように警告するためにその報道を出した、と彼らは述べた。欧州当局者は、この情報公開を『中国からの軍事支援を阻止するための公開ゲーム』と表現した。」

 このように、中国とロシアが経済的救済をひどく必要としているときに、中国とロシアの間の互恵的な絆が強まる可能性に機先を制して、米国は、中国がロシアに軍事品販売を約束したことを先回りして非難したのである。ロシアが世界有数の武器輸出国であり、中国にそのような要求さえしていないにもかかわらず。

 ジェイク・サリバン米国家安全保障顧問は3月15日、ローマで中国側の楊潔篪(ようけつち)と7時間にわたる激しい会談を行い、西側の対ロシア制裁を逃れることは「重大な結果」となると中国に警告した。経済制裁という棍棒を振り回しただけでなく、トランプ政権が始め、バイデン政権が2月末のロシアのウクライナ侵攻まで続けてきた対中貿易戦争を終結させるというニンジンもひけらかしたにちがいない。

 軍事力に関しては、通常兵器だけでなく核兵器も含めた膨大な兵器を持つロシアは、多かれ少なかれ米国の軍事力に匹敵する。しかし、経済戦争に関しては、もっと巧妙で陰湿な戦略が必要だ。その対策については、90年代にソ連が崩壊し、60年代に東欧、中南米、アジア、アフリカの多くの社会主義国にまたがるかつて隆盛を誇った共産圏が解体された後で、ロシアは答えを持っていないように見える。

 現在のグローバルな新植民地主義秩序は、第二次世界大戦後の1945年にブレトンウッズ協定に調印して以来、米国とその西ヨーロッパの子分たちによって導かれている。歴史的には、世界貿易と経済政策を独占する欧米にあえて挑戦する国家、特に社会主義政策を志向する国家は、国際的に孤立させられ、その国家経済は長期間にわたって破綻させられてきた。

 しかし、今回ばかりは、ロシアを国際的に孤立させようとする執拗な努力の中で、バイデン政権は、1945年のブレトンウッズ協定調印後に世界に課せられた新植民地経済秩序全体を崩壊させる可能性が高い。戦争で荒廃したヨーロッパ諸国は、自国通貨を金準備を背景とした米ドルに対する固定為替相場にするというワシントンからの命令を渋々受け入れた。この固定為替相場はその後70年代に放棄されたが、世界の金融システムにおけるドル覇権を許容することになった。

 ウクライナの悪名高いアゾフ大隊は、外国の白人至上主義組織とつながったネオナチの義勇兵準軍事部隊として広く知られているが、当初は超民族主義のウクライナ愛国団と、ネオナチの社会国民会議(SNA)グループから2014年5月に義勇兵グループとして結成されたものであった。

 大隊としてそのグループは、ウクライナ東部のドンバス地方で、親ロシア派の分離主義者と最前線で戦い、ロシアが支援する分離主義者から戦略港湾都市マリウポリを奪還して、頭角を現した。そして2014年11月12日にウクライナ国家警備隊に正式に統合され、当時のペトロ・ポロシェンコ大統領から高い評価を受けた。2014年の授賞式でポロシェンコ大統領は、「彼らは我々の最高の戦士だ」と賞賛した。

 2015年6月、カナダとアメリカの両国は、ネオナチとのつながりを理由に、アゾフ連隊への支援や訓練を行わないことを発表した。しかし翌年、米国は国防総省の圧力で禁止を解除し、CIAは対ロシア消耗戦のため、ウクライナ東部の超民族主義民兵を育成する秘密計画を開始した。

 NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は4月3日、CNNのダナ・バッシュとのインタビューで、「NATOの同盟国は何年も何年もウクライナを支援してきた」と述べ、軍事支援は「侵攻以来この数週間で強化された」と付け加えた。この高官は、「米国だけでなく、英国やカナダ、その他いくつかのNATOの同盟国は、何年もウクライナ軍を訓練してきた 」と明らかにした。

 ストルテンベルグの推定では、「何万人ものウクライナ軍」がそのような訓練を受け、現在「最前線でロシア軍の侵攻と戦っている」のだそうだ。事務総長はさらに、「ウクライナ軍は以前よりはるかに大きく、はるかに優れた装備、はるかに優れた訓練、はるかに優れた指導力を持つようになった」と、ブリュッセルに本拠を置く同盟であるNATOを評価した。

 ウクライナで反ロシアの反乱軍を育成することを目的とした長年のCIAプログラムに加え、カナダ国防省はロシアのウクライナ侵攻の2日後の2月26日に、カナダ軍が「約3万3000人のウクライナ軍と治安要員に戦術と上級軍事技能を幅広く訓練した」ことを明らかにした。一方、イギリスは、「オービタル(軌道)作戦」を通じて、22,000人のウクライナ人戦闘員を訓練したと、情報通のNATO事務総長が指摘した。

 爆弾的なスクープとして、ザック・ドーフマンは3月16日付のYahoo Newsでこう報じている。

 「元関係者によれば、ウクライナを拠点とした訓練プログラムの一環として、CIAの準軍人たちは、ウクライナの民兵に狙撃技術、米国が供給したジャベリン対戦車ミサイルなどの操作方法、ロシアがウクライナ軍の位置を特定するために使っていたデジタル追跡を回避する方法、秘密の通信手段の使い方、戦場で見つからずにいる一方で、ロシアと反乱軍の位置を引き出す方法などのスキルを教えたとのことである。」
 
 「CIAの準軍人たちがウクライナ東部に初めて入ったのは、2014年にロシアが初めて侵攻した後のことだったが、そのときの彼らの任務は2つだった。1番目の任務は、ドンバス地方でウクライナ軍に対して激しい戦争を繰り広げているロシア軍とその分離主義者の同盟軍と戦うウクライナの特殊作戦要員の訓練に、CIAがどうすれば最も協力できるかを判断することだった。しかし元政府関係者によれば、2番目の任務は、ウクライナ人自身の気概を試すことであったという。」

 大部分を徴兵者が占めるウクライナ軍や同盟関係にある東ウクライナ内のネオナチ民兵隊に対するCIAによる秘密訓練や、ポーランドに隣接する西部の「ヤヴォリブ戦闘訓練センター」(3月13日に30発の巡航ミサイルの弾丸により少なくとも35人の過激派が死亡した)でのウクライナ治安部隊の訓練のためのアメリカの特殊部隊プログラムの他に、ドーフマン記者は1月に発表して別の記事で、アメリカ南部の非公開の施設で、CIAはウクライナの特殊部隊訓練の秘密計画も運営しているとも書いている。

 「この構想に詳しい5人の元情報・国家安全保障当局者によると、CIAはウクライナのエリート特殊作戦部隊やその他の諜報員のために、米国で秘密の集中訓練計画を監督しているとのことだ。2015年に始まったこの計画は、それらの関係者の何人かによると、米国南部の非公開の施設を拠点としている。」

 「CIAの『現場支部』(現在は『現場部門』として正式に知られているが)で働く準軍人達によって運営されている秘密計画は、2014年のロシアのクリミア侵攻と併合後にオバマ政権によって設立され、トランプ政権下で拡大したが、バイデン政権はそれをさらに増強している。」

 2015年までに、この拡大した反ロシアの取り組みの一環として、CIA現場部門の準軍人も、ウクライナの治安部隊とそこに同盟するネオナチ民兵に助言し支援するために、「ウクライナ東部の前線への移動を開始」している。米国を拠点とする数週間のCIAの計画には、「銃器、偽装技術、陸上での移動方法の案内、避難場所や移動などの戦術、情報、その他の分野での訓練」が含まれていた。

 この計画に詳しいある人物は、もっと露骨にこう言った。「米国は反乱軍を訓練している」と元CIA職員は言い、この計画はウクライナ人に「ロシア人を殺す方法」を教えていると付け加えた。

 数十年前から、CIAは米国と同盟関係にあるキエフを強化し、ロシアの影響力を弱めようと、ウクライナの情報部隊に限られた訓練を提供していたが、協力が活発化したのは、2014年に親ロシアのウクライナ大統領ヴィクトル・ヤヌコヴィッチを倒すマイダン・クーデターが起こって、それに続いてロシアがクリミアを併合した後だった、と元CIA幹部はドーフマン記者に打ち明けた。

*

ナウマン サディク(Nauman Sadiq)は イスラマバードを拠点とする地政学・国家安全保障アナリストで、アフパクと中東地域における地政学的問題やハイブリッド戦争に焦点を当てる。専門分野は、新植民地主義、軍産複合体、石油帝国主義など。グローバルリサーチに熱心に調査した調査報告書を定期的に寄稿している。

この記事の出典はGlobal Researchです。
著作権 © ナウマン サディク, グローバルリサーチ, 2022


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ロシア、「ウクライナ海兵隊が大量投降」と発表

ロシア、「ウクライナ海兵隊が大量投降」と発表

1,000人以上のキエフ軍兵士が武器を置いたと報道される

<記事原文 寺島先生推薦>

Russia claims mass surrender of Ukrainian marines

Over 1,000 of Kiev's troops reported to have laid down their arms

13 Apr, 2022 09:34

 
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月20日


ファイル写真. マリウポリ市内で破壊された装甲車。©Leon Klein / Anadolu Agency via Getty Images

 

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月19日

 ロシア国防省は水曜日に行った定時の記者会見で、ウクライナの第36海兵旅団の1,000人以上の軍人が港町マリウポリで投降した、と述べた。

 ロシア軍の報告によると、部隊はイリチ製鉄所で武装放棄したということだ。そこにはモスクワ軍に対する拠点として使用していた巨大な金属工場があった。

 同省報道官のイーゴリ・コナシェンコフ少将は、捕虜の中には将校162人を含む計1026人の軍人が含まれ、そのうち47人が女性であると述べた。少将によれば、ロシアの衛生兵は、負傷した151人の捕虜に応急処置を施し、地元の病院に移動させたということだ。

 この報告に対して、ウクライナ政府関係者は異論を唱えている。大統領顧問のアレクセイ・アレストビッチ氏がソーシャルメディアで語った内容は、その部隊は「困難で非常に危険な作戦」を行い、マリウポリの別の場所に陣取るウクライナ国家警備隊「アゾフ大隊」に合流した。これにより「36部隊に2度目のチャンスを与え」、同市におけるキエフ軍の防衛力は大幅に高まったというものだ。



 マリウポリで多数のウクライナ軍が武器を捨てたという報告は火曜日から始まった。この報道は、現地にいる戦場記者が撮影した映像によって裏付けられている、。それを見ると、軍服を着た集団が捕虜になっていることが分かる。

 この集団投降の前には、約100人のウクライナ人海兵隊員が工場からの脱走を試みたというロシア国防省からの報告があった。

 ロシア側の主張では、関与したウクライナ軍人の約半数は、車列が砲撃と軍用機の攻撃を受けた際に死亡し、残りは捕らえられたということだが、ウクライナ側の情報筋が火曜日にメディアに伝えたところによれば、脱走は成功し、部隊はアゾフの陣地に到達したということになっている。


 月曜日には、第36旅団のソーシャルメディアチャンネルに絶望的なメッセージが投稿された。そこには「部隊はウクライナ軍の指導部に見捨てられた。彼らは、やろうとすればできたのに、何の支援も与えず、兵士を犬死にさせた」のように書かれていた。

 「1カ月以上、海兵隊員たちは弾薬の補給もなく、食料もなく、水もない。水分補給はたいてい水たまりからだ。大勢が死んでしまった。それなのに、我々の賢明な将軍が言うことはいつも、弾薬は敵からを奪え、なんだ」とそのメッセージには書かれている。


詳しい情報は:バイデン、プーチンを「大量虐殺」と非難

 マリウポリでは、ロシアがウクライナでの攻勢を開始して以来、最も激しい戦闘が続いている。ロシア省が報告した今回の集団投降の事例は、紛争が始まって以来、武器を捨てたウクライナ軍の単一の例としては最大なものとなるであろう。

  モスクワは2月下旬に隣国を攻撃したが、それはウクライナが2014年に締結されたミンスク協定の条件を履行せず、ロシアが最終的にドンバス地方のドネツク共和国とルガンスク共和国を承認したことを受けてのものだった。この議定書は、ドイツとフランスが仲介したものだったが、ウクライナ国家内の離脱地域に特別な地位を与えることを目的としていた。

 クレムリンがそれ以降に要求してきたことは、ウクライナが中立を守り、「米国主導のNATO軍事同盟には決して参加しない」と公式に宣言することだった。一方でキエフ政府は「ロシアの攻撃は正当な理由が全くない」と主張し、さらに自分たちが2つの共和国を武力で奪還することを計画しているというロシア側の主張を否定している。

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ロシアはウクライナ国内の外国人傭兵に関する情報を公表

ロシアはウクライナ国内の外国人傭兵に関する情報を公表

<記事原文 寺島先生推薦>Russia publishes data on foreign mercenaries in Ukraine

マウリポリには400名の外国人傭兵が閉じ込められているが、ウクライナ軍は降伏を拒否

RT 2022年4月18日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年4月20日

ポーランドのメドゥカから国境を越えようと、ウクライナでの戦闘に参加すべく武装具を手にした男性。

 世界63カ国から推定6824名の外国人傭兵がウクライナに入国し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権のための戦闘に参加していることを、4月17日の日曜日、ロシア国防省は発表した。そのうち1035名が「殲滅」され、数千人がまだウクライナ国内にとどまっているという。400名の外国人戦士たちがマウリポリ市内で身を潜めている。マウリポリ市内では、ネオナチ戦士たちを含む国家主義者たちからなる軍が降伏を拒絶している。

 外国からの戦士団で最も数が多かったのはポーランドからの1717名で、米・カナダ・ルーマニアからは約1500名が入国している。英国とグルジアからはそれぞれ300名以上、シリア国内のトルコ管理地域からは193名が入国している。

 これらの人数は4月17日の日曜日、ロシア国防省報道官イゴール・コナシェンコフ(Игорь Конашенков)少将により明らかにされた。同少将によると、1,035名の外国人傭兵がロシア軍により殺害され、912名がウクライナから脱国し、4,877名がキエフやハルキウやオデッサやニコラエフやマウリポリで活動中だとのことだ。

 これらの外国人戦士たちのうち約400名は、港湾都市であるマウリポリで、ウクライナの国家主義者達の大隊に組み込まれたまま包囲された状態にある、とコナシェンコフ報道官は語っている。ロシアがほとんどの都市を統制下に収めている中、これらの軍は広大に広がるアゾフスタル製鉄工場内に潜伏している。この工場はソ連時代に建設された巨大工場団地であり、11平方キロメートルを超える面積がある。

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 「これらの外国人傭兵のほとんどは欧州市民たちであり、カナダ国民も含まれています」とコナシェンコフ報道官は語り、さらにロシア軍が傍受した工場内の無線情報では6カ国語が使用されていることも明かにした。ウクライナの第36海兵旅団の1000名以上の団員が、マウリポリのイリッヒ鉄工所において今週(4月第3週)始めに投降した(ウクライナ政府はその情報を否認している)が、4月17日の日曜日の朝、ロシア軍はアゾフスタル製鉄工場で抵抗を続ける戦士達に、武器を捨て、降伏する最後の機会を提供し、こう約束していた。「武器を捨てたものすべての生命の安全は保証します」と。

 しかしそのような投降は起こらず、銃砲の砲撃の音が4月17日の日曜日の午後にも聞こえてきた。「さらに抵抗を続けるのであれば、すべての人々が殲滅されることになります」とコナシェンコフ報道官は語った。

 「念頭においていただきたいのは、国際人道法においては、外国人傭兵には『戦闘員』の資格はないと記載されている事実です」とコナシェンコフ報道官は語った。「これらの傭兵達はウクライナに入り、スラブ人たちを殺害してお金を得ています。従って、これらの傭兵達がこの先待ち受ける最善の未来は、刑事責任が問われ、長期間の服役が課されることなのです」

 ロシア軍がウクライナに侵攻した後の数日間で、ウクライナ政府は、ロシア軍と戦う意志のある外国人のビザなし入国を認めた。志願兵たちは西側各国のウクライナ大使館を訪れ、戦うことに署名した。そのような動きについて、各国の政府は大歓迎し、喜んで自国民を戦場に赴かせていた。

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 しかし3月になると戦争経験のある兵士の数が限られてきて、募集枠は狭められ、4月の始めには完全に募集が中断された。ウクライナのいわゆる「ウクライナ領土防衛部隊外国人軍団」の報道官がカナダメディアに語ったところによれば、訓練を受けていないボランティアを前線に送ることは、支援というよりは邪魔にしかならず、さらには彼らボランティアに対する銃器や銃弾の供給が不足しているとのことだ。

 外国からウクライナ入りした人々の中には、不十分な武器や兵器だけ持って前線に派遣された武勇伝をネット上で伝えている人々もいる。一方ロシアのミサイル攻撃により西ウクライナのリボフ市近郊にある外国人のための軍事訓練所が完全に破壊されて苦渋をなめた志願兵たちもいる。「(そのミサイル攻撃により)180人近くの外国人傭兵が殺害され、外国からの武器が大量に破壊されました」ともコナシェンコフ報道官は語っていた。

 

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ロシアは包囲されたウクライナ軍に投降する機会を提供

  
ロシアは包囲されたウクライナ軍に投降する機会を提供
<記事原文 寺島先生推薦>

Russia offers besieged Ukrainian troops chance to surrender
ロシア政府はマリウポリの「国家主義者民兵」と「外国人傭兵」たちの命を無駄にしないことを約束

RT 2022年4月16日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年4月20日

マリウポリのアゾフスタル製鉄所から立ち上る煙

 ロシア国防省は、4月17日日曜日の朝、海岸都市マリウポリの製鉄工場で包囲されているウクライナ軍の残存兵たちに武器を捨てるよう求め、この申し出を受け入れて抵抗をやめれば身の安全は保証する、と呼びかけた。

 「アゾフスタル製鉄工場の壊滅的な状況を鑑み、真の人道的な立場から、ロシア軍は、モスクワ時間2022年4月17日午前6時以降、国家主義者たちの大隊や、外国人傭兵に、抵抗をやめ、武器を捨てるよう申し出ました」と4月16日土曜日の深夜にロシア国防省は声明を出した。

 「武器を捨てたものは全員、命を保証します」と同国防省は発表した。

  4月16日の朝、ロシア政府は、ロシア側の把握しているウクライナ側の犠牲者数を発表した。それによると、マリウポリ市内だけでもウクライナは、「外国人傭兵」や悪名高いアゾフ大隊やアイダール大隊関連の「ナチス」を含む4千人以上の戦闘員を失った、とのことだった。

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Russia claims mass surrender of Ukrainian marines

 休戦の申し出においてロシア軍が伝えた内容によると、4月16日の1日だけで傍受した何百もの無線情報からの確認では、残存兵たちが置かれている状況は、「絶望的であり、食料や水も全くないといってよい状況」である、とのことだった。 ロシア当局によると、抵抗を続けている戦士たちは、「武器を捨てて降伏することを、キエフ当局が許可するよう要求し続けている」が、ウクライナ当局は、戦時犯罪で処刑すると脅して、断固として投降する許可を出さない」とのことだ。

 ロシア政府は午前5時に、ウクライナ軍と直接連絡を取れる通信網の確立を申し出て、午前6時にはアゾフスタル製鉄工場の周囲に旗(ロシア側には赤い旗、ウクライナ側には白い旗)を掲げ、休戦を開始すると伝えた。ウクライナ側は、午後1時までに、武器や弾薬を持たずに、拠点である製鉄工場から引き上げなければならない。降伏の申し出や降伏を受け入れる期間については、「アゾフスタル製鉄工場内のウクライナ軍に対し、全ての無線チャンネルを通して30分間隔で、断続的に伝えています」と同国防省は付け加えた。

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British captive who fought in Mariupol describes ‘reality’


 今週(4月第3週)はじめ、第36海兵旅団の千人以上の団員がイリッヒ製鉄所で武器を捨てたと報じられている。この製鉄所は巨大な冶金(やきん)工場だが、軍事拠点として使用されていた。しかしこの報道についてウクライナ政府は否定している。

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Russia claims mass surrender of Ukrainian marines

 マリウポリはロシアが攻撃を開始して以来、最も激しい戦闘が行われた地域のひとつだ。

 ロシアは今年2月下旬に隣国ウクライナを攻撃した。それはウクライナが、2014年に初めて署名を交わしたミンスク合意での決められた内容を履行しなかったために、ロシア政府が最終的にドンバス地方のドネツク共和国とルガンスク共和国を承認した後のことだった。 ドイツとフランスが仲裁に入って確認されたこの合意においては、ウクライナ政府はこれらの分離地域をウクライナ国内の特別地域として認めることになっていた。

 ロシア政府がそれ以来要求してきたのは、ウクライナ政府が中立を保ち、米国が主導するNATO軍事同盟に加入しないことを公式に表明することだった。ウクライナ政府の主張では、ロシアによる攻撃は全くいわれのないものであり、ウクライナが二共和国を武力で奪回する計画を立てていたことを否定している。


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マリウポリで戦った英国人捕虜が語る「現実」―エイデン・アスリン氏:ウクライナ軍は民間人に対する「配慮が欠如」

<記事原文 寺島先生推薦>
British captive who fought in Mariupol describes ‘reality’
The Ukrainian forces have shown “lack of care” for civilians, Aiden Aslin claims


15 Apr, 2022 14:26

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月20日 



 ウクライナの港湾都市マリウポリの状況は「破滅的」であり、その責任の大半はウクライナ軍にあると、同市で戦ったとされるエイデン・アスリンという英国人が、RTが入手したビデオの中で述べた。

 この英国人男性は、今週初めにウクライナの海兵隊員とともにロシア軍に投降したようだ。

 アスリン氏は、2018年にウクライナ軍に入隊したとき、自分は「良い側」にいると信じていたと言う。彼はマリウポリの状況が彼にとって「目から鱗」だったと説明し、自分は指揮官たちに街から撤退するよう説得しようとしたが、彼らは耳を貸さなかった。その主な理由は、おそらくは、キエフ政府が軍の徹底抗戦を望んでいるからだ、と述べた。


さらに詳しい情報:ロシア、ウクライナ海兵隊の大量降伏を確認

 「マリウポリの状況は壊滅的だ。この事態はウクライナ軍が撤退していれば避けられたはずだが、彼らは留まることを選んだ。ゼレンスキーは(この決断に)大きな責任がある。彼は軍に撤退を命令することができたからだ。ウクライナ軍は留まった。私はこんなことは望んでいなかった。私は撤退したかった。だって、犬死になんか必要ないんだから、」とアスリン氏はビデオの中で言っている。

 数週間の激しい戦闘の間に彼が街で見たものは、ウクライナ軍に対する彼の見方にも影響を与えた。「初めて現実を見たようだった」とアスリン氏は語り、さらに「ウクライナ軍の“民間人に対する配慮のなさ” を目の当たりにした」と付け加えた。

 「包囲された都市で市民が生き延びるための食糧が必要になったときに、彼ら(ウクライナ軍)はスーパーマーケットから食糧を略奪するんだ。彼らは市民が水を手に入れるのを止めさせたし、略奪されたスーパーマーケットから水を手に入れるのも禁じた。水は自分たちが飲んでしまうんだ」。

 さらに、ウクライナ軍が市内で市民を殺害したとされることについて問われると、「彼らは犯罪者だ」とウクライナ兵のことを指して言った。


さらに詳しい情報:米英はウクライナで「秘密戦争」を展開中 - Le Figaro

 この男性は、以前はイスラム国(IS、旧ISIS)と戦うためにシリアのクルド人勢力に参加したということだが、「今は家族のもとに帰ることだけが私の望みだ。二度と外国の軍隊には参加したくない」と語り、その理由を「マリウポリで身も心もくたくたなんだ」と述べた。

 ロシアが隣国を攻撃したのは2月末だったが、それ2014年に初めて締結されたミンスク協定の約束をはウクライナが守らず、最終的にドンバス地方のドネツク共和国とルガンスク共和国をモスクワが承認したことを受けての攻撃だった。なお、このミンスク議定書はドイツとフランスが仲介したもので、ウクライナ国家内でドンバス2カ国に特別な地位を与えることを目的としていた。

 クレムリンが侵攻に当たって要求していたことは「ウクライナは中立国であり、米国主導のNATO軍事圏には決して参加しない」と公式に宣言することだった。一方でキエフ政府は、「ロシアの攻撃は完全に一方的に仕掛けてきたものだ」と主張し、さらに自分たちが武力によって2つの共和国の奪還を計画しているというロシアの主張を否定している。

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ウクライナ最新情報 第10報

ウクライナ最新情報 第10報

<記事原文 寺島先生推薦英文>
Ukraine Update #10
ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)
2022年4月11日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年4月18日

 ウクライナに関する有益な情報は、西側メディアからは得られない。ロシア軍はニュース発表を必要とせずに活動しているため、ほとんど情報が提供されない。

 先週、国防総省のジョン・カービー報道官は、「もちろん彼ら(ウクライナ)は、これに勝つことができる。その証拠は、まさに皆さんが毎日目にしている成果の中にあります」と述べた。カービーはCNNから情報を仕入れているのだろう。ウクライナ人が勝った戦いなど知らない。ウクライナ軍が包囲され閉じ込められ、補給を断たれていないことを私は知らない。ウクライナ軍やアゾフ民兵が行っている攻撃行動はない。ウクライナ軍のインフラや指揮統制システムは破壊されている。西側諸国が兵器を提供する場合、スロバキアから送られたS-300防空システムのように到着時に破壊される。

 クレムリンは新しい司令官を任命した。西側メディアは、この司令官交代を、ロシア軍を膠着状態から抜け出すためであると紹介している。

 膠着状態ではないので、主にウクライナ軍のインフラ破壊に限定してきたロシアの重火器の使用制限に反対したため、指揮官が交代させられたのかもしれない。クレムリンの戦略にのっとれば、包囲された地域を街頭での戦闘で切り崩さなければならないために、ロシア軍に死傷者が出ることになる。重火器で相手部隊を排除できるのに、自分の部隊をこんな風に運用する方法を好まない指揮官がほとんどだろう。

 ロシアがウクライナに侵攻したのではないことを理解する必要がある。ロシア軍はウクライナの東部と南部でのみ活動している。この部隊の活動目的は、包囲され追い詰められた大規模なウクライナ軍が、8年遅れてロシアが最近承認したドンバスの2つのロシア共和国を征服するのを阻止することである。ロシア軍に与えられたもう一つの任務は、ドンバス・ロシア人に残虐行為を働いたネオナチ・アゾフ民兵を駆逐することである。戦闘は主にロシア人が住むドンバス地域で行われており、クレムリンは住民を殺すのではなく、救出したいと考えているため、このプロセスはゆっくりと進んでいる。

 クレムリンが犯した過ちは、8年前とその後の8年間である。ソチオリンピックに集中していたクレムリンは、ワシントンのウクライナ政府転覆作戦に介入して阻止しなかった。クレムリンは、ドンバスがクリミアのようにロシアに再編入されることを訴えてきたことに応じず、ドンバスの危機を阻止する先手を打つことができなかった。クレムリンは愚かにも、ウクライナのドンバスへの攻撃を止めるためのミンスク協定の履行を西側との交渉に頼ったために、8年にわたるドンバスへのアゾフ攻撃とドンバス領土の侵食を許し、その間にワシントンがウクライナ軍の装備と訓練を施したのである。つまり、クレムリンは、2008年にワシントンが組織したグルジアによる南オセチアへの攻撃から何も学んでいなかったのである。

 ロシアは、窮地に陥ったウクライナ軍を破壊することなく紛争を終わらせたいと考えており、そのために、何も合意する権限のないワシントンの傀儡ゼレンスキーと交渉を続けているのである。勝者が交渉を進めるのは普通ではないので、クレムリンの交渉好きはロシア軍を弱く見せ、それが西側諸国の紛争継続を後押ししている。

 私は、ロシアが介入を限定的なものにしたのは失敗だったと考えている。とはいえ、ロシアが選んだ限定的な方法で目的を達成できないのであれば、より大規模な攻撃を行うという選択肢は残されている。

 ロシアの最大の問題は、政府がサタンに対して「いい子ぶりっ子」であろうとすることだと思う。クレムリンが欧米企業の国有化計画を撤回したのは、ロシアが欧米と違って私有財産を尊重していることを示したいからだろう。また、ドイツがロシアに対して敵対的な行動をとっているにもかかわらず、クレムリンはドイツにエネルギーを供給している。これは、ロシアが西側と異なり、契約上の義務を遵守していることを証明するためである。このような愚かさが、ロシアを敗北させるのだ。西側は、「ロシアがいかに信頼できるかご覧なさい」などと言わない。その代わりに、「ロシアがいかに愚かであるかご覧なさい」と言うのだ。ウクライナやスロバキア、フィンランド、スウェーデンで、ロシアを挫折させるためにあらゆる手を尽くし、国境にさらに軍隊と基地を置いているのだが、ロシアは自分たちを攻撃するためのエネルギーを彼らに売っているのだ。

 おそらくクレムリンは、EUによる欧州からのロシア・エネルギー追放の試みは、欧州各国から強い反発を受けて、NATOの解体で終わることに賭けているのだろうが、ロシア自身がエネルギーの輸出を止めることでNATOとEUを解体できるのだ。どうやらこの「賢明な」措置は、ロシア中央銀行総裁がクレムリンに「ロシアには欧米からの輸出収益がなければならない」と進言して阻止しているため、ロシアの反制裁行動が事実上阻止され、対ロ制裁の成功に寄与しているようである。行動を起こせない政府は、軍事的優位の恩恵を失いかねない。

 一方、ストルテンベルグNATO事務総長は、意味のないNATOの脅しを発し続けている。イギリスの新聞はこう報じている。

 「NATOは、ウクライナ侵攻後の将来のロシアの侵略に対抗するため、国境に常設の全面的な軍事力を配備する計画を策定している」と、NATO事務総長が明らかにした。 https://www.telegraph.co.uk/news/2022/04/09/exclusive-full-scale-nato-military-force-defend-borders/

 この記事によると、「本格的な軍事力」は「バルト海から黒海まで、東側一帯の8つの多国籍NATO戦闘団」で構成されている。https://www.zerohedge.com/geopolitical/nato-plans-massive-military-buildup-russias-border-citing-major-reset

 ストルテンベルグの考えによれば、一戦闘団は1000~1500人の兵士で構成されるということだ。つまり、バルト海から黒海までの数千マイルをたった1万~1万2000人の兵士を散在させて、ロシアの侵略を阻止しようというのだ。こんな「NATO版バベルの塔」で十分だと考えているわけだ。ストルテンベルグはどんな世界に住んでいるつもりなのだろうか?

 ロシアはポーランド、ルーマニア、バルト海、フィンランド、スウェーデンに侵攻する必要はないし、その意図もない。これらの国のミサイル基地は、遠く離れたところから精密兵器で排除することができる。ロシアがウクライナに軍を派遣したのは、ドンバスをアゾフの攻撃と占領から解放し、10万人のウクライナ軍によるドンバスへの侵攻を防ぐためである。

  8年前にロシアが賢明な行動をとっていれば、今回の介入は必要なかっただろう。今後、クレムリンがどのような新たな過ちを犯し、さらなる介入を必要とするのか、気になるところである。

See also: https://gilbertdoctorow.com/2022/04/09/read-all-about-it-final-days-of-the-battle-for-mariupol/

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ウクライナ民族運動は、第二次世界大戦後,いかにCIAに買収されてきたか (事実検証シリーズ・2)

<記事原文 寺島先生推薦>
How the Ukrainian Nationalist Movement Post-WWII was Bought and Paid for by the CIA
(ウクライナ民族運動は、第二次世界大戦後,いかにCIAに買収されてきたか  事実検証シリーズ・2 )

出典:Strategic Culture

著者:シンシア・チョン(Cynthia Chung)

2022年4月4日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
 
2022年4月10日 

 今日謳われているウクライナ・ナショナリズムの誕生は、20世紀に端を発している。しかし、事前に知っておくべき重要な歴史的ハイライトがいくつかある。

 このシリーズ「事実検証者たちの事実を検証する」のパート1では、「なぜ今のウクライナにはナチスが多いように見えるのか?」という問いが投げかけられた。その論文では、さらに「ウクライナのネオナチズムへの資金提供、訓練、政治支援に米国やおそらくNATOが関与しているのか、もしそうなら何のために?」という問いに導かれた。そのような問いに完全に答えるためには、ウクライナのナショナリズムの歴史的な根源と、第二次世界大戦後の米国諜報機関やNATOとの関係に目を向ける必要があるという結論に達したのである。そこで、ここで再開することにする。

ウクライナ・ナショナリズムの歴史的ルーツ

 こんにち謳われているウクライナ民族主義の誕生は、20世紀に端を発している。しかし、事前に知っておくべき重要な歴史的ハイライトがいくつかある。

 キエフ大公国は、9世紀後半から13世紀半ばまで東・北ヨーロッパにあった連邦国家で、東スラブ系、バルト系、フィンランド・エストニア言語系などさまざまな民族からなり、ルーリク王朝が支配していた。



上の画像。後のキエフ大公国の諸公国(1054年ヤロスラフ1世死去後)。出典 ウィキペディア

 現在のベラルーシ、ロシア、ウクライナは、いずれもキエフ大公国の人々を文化的祖先として認めている。

 キエフ大公国は1240年代のモンゴルの侵攻により滅亡するが、ルーリク朝の異なる分派が次のようなかたちで大公国の一部支配を継続することになった。ガリシア・ヴォルヒィニア王国(現在のウクライナとベラルーシ)、ノヴゴロド共和国(現在のフィンランドとロシアに重複)、ウラジミール・スーズダル(大ロシアの言語と民族の発祥とされ、それがモスクワ大公国に発展していった)などである。

 ガリシア=ヴォルィーニ王国は、14世紀には金帳汗国(キプチャク・ハン国)の支配下にあった。金帳汗国は元々はモンゴル帝国の北西部に位置したモンゴル帝国内の一汗国であり、当初モンゴル系であったが後にトルコ化した。

 1340年にガリシア=ヴォルィーニ王ユーリ2世ボレスラフが毒殺されると、リトアニア、ポーランド、同盟国のハンガリーの間でこの地域の支配権をめぐる権力闘争とともに内戦が起こった。1340年から1392年にかけて、ガリシア=ヴォルィーニ戦争と呼ばれるいくつかの戦争がおこなわれることになる。

 1349年、ガリシア=ヴォルィーニ王国は征服され、ポーランドに編入された。

 1569年、リュブリン同盟が成立し、ポーランド王国とリトアニア大公国はポーランド・リトアニア連邦を形成し、200年以上にわたって大国として君臨した。

 1648年から1657年にかけて、ポーランド・リトアニア連邦の東部でコサック・ポーランド戦争とも呼ばれるフメルヌィツキー蜂起が起こり、ウクライナにコサックヘトマニックが創設されることになった。

 フメルニツキーの指揮のもと、ザポロージアのコサックたちは 、クリミア・タタール人や地元のウクライナ人農民と同盟を結んでいたが、ポーランド支配に対抗し、英連邦軍と戦った。そののち、ポーランド系リトアニア人の町民、カトリックの聖職者、ユダヤ人などを虐殺した。

 フメルニツキーは今日まで、ウクライナの民族主義史における主要な英雄的人物である。

 1772年までに、かつて強大だったポーランド・リトアニア連邦は、自らを統治する力を失い、ハプスブルク君主国、プロイセン王国、ロシア帝国による3度の分割を経験することになった。

 1772年の最初のポーランド分割から、「ガリシア・ロドメリア王国」の名称はハプスブルク君主国(オーストリア帝国、1867年にオーストリア・ハンガリー帝国となる)に付与されることになった。ヴォルィーニの大部分は1795年にロシア帝国に渡ることになる。




上の画像 1772年、1793年、1795年のポーランド・リトアニア連邦(単にポーランドと呼ばれることが多い)の分割。


 1914年になると、ヨーロッパは第一次世界大戦に引きずり込まれることになる。1918年3月、ロシアのボルシェビキ新政権は、2カ月にわたる中央主権国(ドイツ、オーストリア・ハンガリー、ブルガリア、オスマン帝国)との交渉を経て、講和の条件としてポーランド、ベラルーシ、ウクライナ、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニアの領有権を譲るブレストリトフスク条約を締結した(注:ボルシェビキ革命は1917年3月から始まっている)。1918年11月11日、第一次世界大戦は正式に終結することになる。

 この条約の結果、東ヨーロッパと西アジアの11カ国が「独立」することになり、ウクライナもその中に入っていた。しかし、実際にはドイツの属国となり、政治的・経済的な依存関係を持つことになった。しかし、ドイツが戦争に負けると、この条約は破棄された。

 ドイツがなくなり、オーストリア・ハンガリー帝国とロシア帝国が解体したことで、ポーランドとウクライナは独立を確立することができるようになった。

 ハプスブルク家の支配下では、少数民族に寛大だったため、ポーランドとウクライナの両民族運動が展開され、ともにガリシアの領土を自国のものとすることに関心を寄せていた。当時のガリシアは、古都クラクフを中心とする西ガリシアはポーランド人が多数を占め、東ガリシアは古代ガリシア・ヴォルィーニの中心地を構成し、ウクライナ人が多数を占めた。

 1918年11月から1919年7月にかけて、ポーランド第二共和国とウクライナ軍(西ウクライナ人民共和国とウクライナ人民共和国からなる)の間でポーランド・ウクライナ戦争が戦わされた。ポーランドが勝利し、ガリシアを再占領した。

 ポーランド・ソビエト戦争は1919年2月から1921年3月にかけておこなわれることになる。これは、ウクライナ共和国形成のために戦ったウクライナ独立戦争(1917-1921年)と呼ばれる一連の紛争と重なる。

 1922年までに、ウクライナはボルシェビキ・ウクライナSSR、ポーランド、ルーマニア、チェコスロバキアの間で分割された。ポーランド第二共和国はリヴィウをガリシアとヴォルィニアの大部分と共に奪還し、残りのヴォルィーニはウクライナSSRの一部となった。

 1929年に東ガリシア(当時はポーランドに位置する)でウクライナ民族主義者組織(OUN)が設立され、民族的に均質なウクライナの独立を訴えた。



 OUNは当初から、ガリシアの若い急進的な学生たちと、(より寛大なオーストリア・ハンガリー帝国で育った)年配の軍人ベテラン指導者との間に緊張関係を抱えていた。若い世代は、新しいポーランドの支配下での抑圧と地下戦しか知らなかったのである。その結果、若い世代はより衝動的、暴力的、冷酷になる傾向があった。

 この時期、ポーランドによるウクライナ人への迫害が強まり、多くのウクライナ人、特に若者(自分たちには未来がないと感じていた)は、伝統的な法的アプローチや年長者、ウクライナに背を向けていると見なされた西側民主主義への信頼を失った。

 OUNは1934年にポーランドの内務大臣ブロニスワフ・ピエラツキを暗殺した。1936年にピエラツキ殺害の罪で裁判にかけられ、有罪判決を受けた者の中に、OUNのステファン・バンデラとミコラ・レベジがいた。二人は1939年にドイツ軍がポーランドに侵攻した際に逃亡した。

 ポーランドによるウクライナ人への迫害が続く中、OUNへの支持は高まった。第二次世界大戦が始まるまでに、OUNの活動メンバーは2万人、ガリシアにはその何倍ものシンパがいると推定された。

 1940年、OUNはアンドリー・メルニク率いるOUN-Mとステファン・バンデラ率いるOUN-Bに分裂することになった。そしてこのOUN-Bがガリシアのメンバーの大半を占め、主に若者で構成されていた。

 1939年8月、ソ連とナチスドイツは、モロトフ・リッベントロップ協定という不可侵条約を結び、ポーランドは分割されることになった。東ガリシアとヴォルィーニはウクライナと再統一され、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国となった。

 1941年6月、ナチス・ドイツがウクライナ西部に侵攻したとき、西部のウクライナ人の中には、侵攻してきたナチスを「解放者」として歓迎した人がたくさんいた。しかし、これはナチスの侵攻に対してロシア赤軍と一緒に戦ったウクライナの他の地域が共有する感情ではなかったことに注意しなければならない。

 OUN-MとOUN-Bは共に戦争の大半をドイツ軍と密接に協力して過ごすことになる。彼らもまた、ナチスのイデオロギーに何の問題もなく、「純粋な民族」に戻ることが解決策であると信じていたからである。ウクライナの場合、この純粋民族は、キエフ大公国の黄金時代に基づく、ややロマンチックな「ウクライナ民族」の概念で構成されていた。

 OUNは、「純粋なウクライナ民族」こそが、キエフ大公国を支配したルリーク王朝の王家の血統の唯一の真の子孫であると考えたのである。そして、OUNはベラルーシ人やロシア人を同じ祖先を持つ兄弟姉妹として見るのではなく、この純粋な血統のいわば「民族の偽者」として見ていたのである。



 この「民族の偽者」という捉え方は今日、ウクライナで過去8年間、ウクライナのネオナチグループがウクライナ系民族であるロシア人を攻撃していることに見られる。西側諸国ではほとんど無視されている問題である。本連載の第1回を参照。

 血統の純粋性を取り戻せば、(完全な独立地域として存在したことのない)ウクライナに再び偉大さが授けられると信じられていたのである。

 OUNとSSガリシア師団が、ポーランド人、ユダヤ人、その他あらゆるウクライナ人でない民族のひとを何万人も絶滅させることは正当化されると考えたのはこのためだった。ガリシア親衛隊(OUNと重複していた)は、日本の731部隊に匹敵する拷問や身体切断など、その残虐性で悪名高い存在であった。

 当時のウクライナ西部における「純粋なウクライナ民族」への支持の度合いを知るために、ガリシア親衛隊師団は1ヵ月半で8万人のガリシア人志願兵を募集している。

 トライツブ(ウクライナの国章)とも呼ばれる三叉のシンボルは、キエフ大公国の時代に由来し、最も古い使用例は約1000年前のウラジーミル/ヴォロドミール大王の支配下にあったことから、ウクライナ人にとって重要なシンボルである。

 しかし、OUNがそのエンブレムと旗の両方にトライツブを選んだのは、民族浄化によってしか達成できないと考えられていた、あの栄光の時代に戻りたいという願望を意味するものであることもまた、最も残念なことである。
 


上記のOUN-Bの旗(準軍事組織UPAも使用)は、「血と土」の旗として知られている。「血と土」とは、ナチス・ドイツで生まれた民族主義のスローガンで、人種的に定義された国体(血)と入植地(土)の一体化という理想を表現したものである。

 1991年以降(ウクライナのソ連からの独立後)に結成されたウクライナのネオナチ集団も、トライツブを使うことが多いのはこのためである。






上の画像は、現在のウクライナのネオナチグループの旗である。上のアゾフの旗には、ドイツ国防軍や親衛隊に関連するシンボルである「狼の罠」と「黒い太陽」が組み合わされている。

 1998年、ナチスの戦争犯罪と日本帝国政府の記録に関する省庁間作業部会(IWG)は、議会の要請により、議会が委任した単一テーマの機密解除作業としては史上最大となる作業を開始した。その結果、ナチス戦争犯罪開示法(P.L.105-246)および日本帝国政府開示法(P.L.106-567)に基づき、850万ページ以上の記録が公開されたのである。これらの記録には、戦略事業局(OSS)、CIA、FBI、陸軍情報部の作戦ファイルが含まれている。IWGは1999年から2007年にかけて、3つの報告書を議会に提出した。

 この新たに機密解除された膨大なデータベースの主要な要素を編集・整理するために研究グループが結成され、その結果、2005年に『アメリカ諜報機関とナチス』、2011年に『ヒトラーのナチス戦争犯罪、アメリカ諜報機関、冷戦』(共に国家公文書)が出版され、この論文の残りの主要参考資料として使用することになったのである。

 リチャード・ブレイトマンは『アメリカ諜報機関とナチス』(1)で次のように書いている。

 「リヴォフ[リヴィフ]でのユダヤ人絶滅に関する最古の歴史(あるいはミニ歴史)というべきものが、1945年6月5日に作成された。10頁のこの文書は次のように指摘している。ドイツ軍がリヴォフを占領するとすぐに、街のウクライナ人は、1939-1941年のソ連占領時代にソ連当局に協力したユダヤ人を糾弾した。それらのユダヤ人は逮捕され、市庁舎の近くに集められ、ドイツ軍と地元住民によって殴打された。その後、地元住民、特に近隣の村の住民が、ユダヤ人地区を荒らし、強盗の邪魔をするユダヤ人を殴った。7月1日からはポグロムが組織された。ドイツ人警察官、兵士、地元のウクライナ人などが参加した。逮捕された者の多くは拷問され、殺された。(中略)ドイツ軍によるリヴォフ占領の最初の数週間で1万2千人以上のユダヤ人が殺された」[強調は筆者]

 ノーマン・J・W・ゴダは『アメリカ諜報機関とナチス』(2)の中でこう書いている。

 「ポーランド国家を不安定にするための活動において、OUNのドイツとの結びつきは1921年にまでさかのぼる。ポーランドとの戦争が近づくにつれ、ナチス政権下でこれらの結びつきは強まった。1939年8月のナチス・ソ連不可侵条約によりガリシアはソビエトに割譲され、ドイツはドイツ占領下の総督府に反ポーランド系ウクライナ人活動家を迎え入れた。1940 年から 1941 年にかけて、後の東方作戦に備えドイツ軍は、ウクライナ人、特にバンデラ翼下の者たちを破壊工作員、通訳、警察として採用し始め、クラクフ[クラコフ]近くのザコパネ収容所で訓練を施した。1941年春、ドイツ国防軍はバンデラ派の承認を得て、コードネーム「ナイチンゲール」(Nachtigall)、「ローランド」という2つのウクライナ人大隊も整備した」

 OUN-Bの若さ、そして残念ながら無知を示すのは、次のようなものだ。彼らが自分たちのOUN-B旗に選んだナチスに由来する「血と土」のスローガンが、ドイツ民族が東ヨーロッパに進出し、東部総合計画によってスラブ・バルト原住民を征服し奴隷にするという信念と結びついていたということである。したがって、これらウクライナの民族主義者たちは、このナチスドイツのビジョンを共有するに値するとは決して考えられておらず、当初から新しいドイツ帝国のための究極の奴隷と見なされていたのである。

  訳註:東部総合計画とは、ナチス・ドイツが策定した、ポーランド侵攻や独ソ戦で占領したポーランド及び東部占領地域の再編計画案。ドイツ人の植民によるゲルマン化を達成するために、スラブ人・ポーランド人等の追放を前提としていた。

 OUN-Bはこの教訓を身をもって知ることになる。ドイツがソ連に侵攻してから8日後の1941年6月30日、OUN-Bはリヴィウでバンデラの名の下にウクライナ国家の樹立を宣言し、ヒトラーに忠誠を誓った。これに対し、OUN-Bの指導者や関係者はゲシュタポによって逮捕・投獄されたり、そのまま殺害されたりした(約1500人)。ドイツは、半独立のウクライナの形成すら許すつもりはなかった。ステファン・バンデラとその側近のヤロスラフ・ステツコは、当初軟禁され、その後ザクセンハウゼン強制収容所に送られた(他の強制収容所に比べて比較的快適な監禁状態であった)。

 ミコラ・レベジはドイツ警察の網をくぐり抜け、OUN-B指導部の事実上の指導者となり、バンデラ派とも呼ばれた。

 1941年7月16日、ドイツ軍はガリシアを一般政府に吸収した。1941年10月、ドイツ治安警察はレベジの写真入り指名手配ポスターを発行した。

 ドイツ軍は西ウクライナの行政職と上級補助警察職を、メルニクのグループOUN-Mに移譲した(3) 。ドイツ治安警察は、西ウクライナのバンデラ支持者がドイツの支配に反抗することを恐れて、その逮捕と殺害を命じたが、この命令は最終的に撤回された。

 翌年、レベジは地下テロ組織であるウクライナ反乱軍(UPA)の指導者となり、1956年までその機能を継続することになる。


画像左:ステファン・バンデラ
画像右:ミコラ・レベジ



 東ウクライナ人は後に次のように主張した。ミコラ・レベジがOUN-Bのリーダーとして、本来のウクライナ人リーダーを暗殺することでUPAを乗っ取った、と(4)。

 OUNは、ウクライナの独立を否定した者(ポーランド人、ソビエト人など)、ウクライナで同化できなかった者(ユダヤ人)、時には自分たちの都合の良いように、ドイツ人を敵として数えていた。また、ユダヤ人はボルシェビズムの主要な支援者であり、「普及者」であるとみなしていた。

 ブライトマンとゴダはこう書いている(5)。

 「1943年初めに戦争がドイツ軍の撲滅に傾くと、バンデラ派の指導者たちは、ソビエトとドイツが互いに疲弊し、1918年と同じように独立したウクライナが残されると考えていた。レベジは4月に『革命的な領土全体からポーランド人を一掃する』ことを提案した、復活したポーランド国家が1918年のようにこの地域を要求しないようにするためだった。ドイツ軍の補助警察官として働いていたウクライナ人は、今度はウクライナ反乱軍(UPA)に加わった。1943年7月11日のたった1日で、UPAは80ほどの地方を攻撃し(中略)、1万人のポーランド人を殺した。(中略)バンデラ派とUPAもドイツ軍との協力を再開していた。[強調は筆者]」

 これはすべて、ミコラ・レベジの指揮の下でおこなわれた。

 1943年になると、自分たちの状況がますます不安定になっていることを認識し、OUNは部隊を再集中させようとした。しかし、OUN-BはOUN-MとUPA部隊に対抗して内紛を起こした。UPA部隊は(亡命ウクライナ人民共和国)のタラース・ブーリバ・ボロヴェツの部隊で、彼は書簡の中で、OUN-Bをとりわけ口汚く、盗賊行為だ、一党独裁国家の樹立を望んでいる、国民のためではなく国民を支配するために戦っているのだと非難した。

 ヴォルィーニの覇権をめぐる闘争の中で、バンデラ派(OUN-B)は何万人ものウクライナ人を殺したのだ。ブーリバ・ボロヴェツやメルニク(OUN-M)のネットワークと少しでも関係があれば殺したのだ(6)。

 1944 年 9 月までに、北ウクライナのドイツ陸軍将校は東部外国軍の上官に対して次のように伝えた。UPAは「ドイツの自然な同盟国」であり「ドイツ最高司令部の貴重な援助」であると。そしてヒムラー自身も UPA との連絡強化を許可した(7)。

 ノーマン・J・W・ゴダはこう書いている(8)。

 「UPAの宣伝はその組織がドイツ軍から独立していることを強調していたが、UPAは一部の若いウクライナ人にはウクライナ SS師団「ガリシア」に志願しろと命じ、残りはゲリラ的手法で戦えと命じていた。レベジはドイツからの承認をまだ望んでいたのだ。[強調は筆者]」

 SSガリシア師団は、1943年4月から1945年4月15日まで存在した。ドイツは1945年5月7日に降伏した。

 1944年9月、ドイツ軍はバンデラとステツコをザクセンハウゼン強制収容所から解放した。

 第二次世界大戦後のウクライナ民族主義運動。CIAによって買われ、金で雇われ、レベジに仕える

 「[レベジ]はよく知られたサディストであり、ドイツ軍の協力者である(9)」
- 1947年 米陸軍防諜部隊(CIC)の報告書

 1944年7月、ミコラ・レベジはウクライナ解放最高評議会(UHVR)の結成に協力した。UHVRはウクライナ民族の代表を名乗り、カルパチア山脈で地下政府として機能し、ウクライナSSRに対抗することになった。UHVRの有力政党はバンデラ派とUPAであったが、それ以後はUHVRの軍隊として1956年までソビエトと戦い続けた。

 1947年、バンデラとステツコの間に確執が生まれた。バンデラ自身が率いる一党独裁のウクライナ独立派と、バンデラの国家元首就任に反対するレベジとイワン・フリニオフ神父(UHVR政治部部長)との間で対立したのだ。

 1948年8月のOUN外国部会で、バンデラ(まだUHVRの80%を支配していた)はフリニォク-レベジ組を追放した。彼はウクライナ民族運動の独占的権限を主張し、西ヨーロッパの反バンデリストのウクライナ人指導者に対するテロ戦術を続け、ウクライナ人移民組織の支配権をめぐって策動をおこなった(10)。しかし、その時点でアメリカ人と親密になっていたレベジは、フリニオフとともに、UHVRの正式な海外代表として認められていた。

 敗戦後、レベジはラインハルト・ゲーレンと同じような戦略をとった。1945年にローマを脱出した彼は、ウクライナ西部やドイツの避難民キャンプにいる反ソビエトの名前と連絡先を集めて連合国に連絡したのである。このことは、1947年の報告書で上記のように認めているにもかかわらず、米陸軍防諜部隊(CIC)にとって魅力的な人物であった。

 1947年末、ローマでソビエトに暗殺されると恐れられていたレベジは、1947年12月、CICによって家族とともにドイツのミュンヘンに密航し、身の安全を確保された。

 ノーマン・J・W・ゴダは次のように書いている(11)。

 「1947年末になると、レベジは戦前と戦中の活動をアメリカの消費者のために徹底的に秘密にすべき情報を除去していた。彼自身の表現では、彼はポーランド人、ソビエト人、そしてドイツ人の犠牲者であった。そこで彼はゲシュタポの「指名手配」ポスターを生涯持ち歩き、反ナチの資格を証明にするのだった。(中略)彼はまたUPAに関する126ページの冊子を出版した。これはナチスとボルシェビキの両方に対抗するウクライナ人の英雄的闘争を描いたものであり、言論の自由と信仰の自由という人類の理想を表現する独立した大ウクライナを呼びかけたものだった。冊子によると、UPAはナチスに協力したことはなく、ガリシアのユダヤ人やポーランド人が虐殺されたことも書かれていない。CICはこの小冊子を「このテーマに関する完全な背景」とみなした。CICが見落としていた事実とは、1947年9月に開かれたOUNの大会が自らの監視下で分裂したということであり、それはこのときレベジがOUNに民主化が忍び寄っていることを批判したせいであった。1949年6月...CIAは、離散者法を合法的な隠れ蓑にして、レベジを妻と娘とともに米国に密入国させた」[強調は筆者]

 移民帰化局(INS)はレベジの調査を始め、1950年3月にはワシントンへ次のように報告している。多数のウクライナ人情報提供者は、レベジが「バンデラ・テロリスト」の中で主導的役割を果たしたと語っており、戦争中、バンデリストはゲシュタポによって訓練され武装し、「ウクライナ人、ポーランド人、ユダヤ人の大規模な殺人をおこなったという。(中略)これらの行動すべてにおいて、レベジは最重要リーダーの一人だった」と(12)。

 1951年、INSの幹部は、調査結果をCIAに報告したが、レベジが強制送還される可能性が高いというコメントも付け足した。CIAは1951年10月3日に次のように回答した。すべての容疑は虚偽であり、ゲシュタポの「指名手配」ポスターは、レベジが「ナチスとボルシェビキに対して同等の熱意をもって戦った」ことを証明している、と(13)。

 その結果、INSの職員はレベジに関する調査を中断した。

 1952年2月、CIAはINSに対して、レベジが自由にアメリカを出国、再入国できるように再入国許可証を与えるよう迫った。INS長官のアーガイル・マッキーはこれを拒否した。

 1952年5月5日、当時のCIA長官補佐アレン・ダレスは、マッキー宛に次のような書簡を書いた(14)。

 「今後のCIAの重要な活動に関連して、対象者(レベジ)が西ヨーロッパを旅行できるようにすることが緊急に必要である。しかし、そのような旅行をする前に、この機関CIAは...彼が調査や事件なしに米国に再入国することを保証しなければならない。そんな調査や事件は彼の活動に過度の注意を引くことになるからだ」と書いてあった。



 上の画像は、ミコラ・レベジに代わってダレスがマッキーに宛てた手紙の原文である。

 西ドイツでは何があったのか?ラインハルト・ゲーレン将軍(元国防軍外国軍東軍情報部長官)は、都合よく西ドイツへの再入国を許され、ゲーレン組織を設立していた。これは後に1956年に西ドイツ連邦情報局(Bundesnachrichtendienst)となる 。

 ダレスはまた、1949年のCIA法第8条に基づき、レベジの法的地位を「永住者」に変更することを望んだ。ダレスの手紙の後、INSはそれ以上の調査をせず、レベジは1957年3月に米国に帰化した。

 バンデラも戦後は家族とともに西ドイツに駐在し、そこでOUN-Bの指導者であり続け、いくつかの反共組織や英国諜報機関とも仕事をすることになる(15)。この時点でバンデラはあまりに厄介な存在となり、1953年以降、米英両国は何度も試行錯誤を続け、バンデラを退陣させ、レベジを「祖国ウクライナ解放運動全体」の代表にしようと仕向けた。バンデラはこれを拒否し、独自で行動するようになった。

 バンデラは1959年にミュンヘンでKGBの工作員に暗殺されたと言われているが、バンデラをあの時期に始末したことは、アメリカがウクライナの将来について計画していたことを考えると、素晴らしいタイミングであり、非常に有益だったと言わざるを得ない...。

 機密解除された記録の中には、フーバーのFBIが1943年と1944年に捕獲したドイツ参謀本部文書の小さな収集品がある。そこにはUPAの活動をドイツが評価し、レベジの名前にも言及していることが明らかになっている(16)。レベジを調査していたINSからの要請にもかかわらず、これはCIA以外のいかなる機関や組織にも共有されることはなかったようである。

 興味深いことに、ノーマン・J・W・ゴダはこう書いている(17)。

 「レベジの「(UHVRの)外務大臣」としての活動の全容が明らかになることはないかもしれないが、FBIによる彼の監視はある程度の見当をつけることができる。部分的には、レベジはエール大学のような一流大学で、ソ連政府がウクライナで使った生物兵器などのテーマで講義をした 」[強調は筆者]

 ダレスが、レベジの西ヨーロッパへの再進出が急務であるとしたのは、次のようなことであったのだろう。

 ブライトマンとノーマン・J・W・ゴダはこう書いている(18)。

 「1947年までに約25万人のウクライナ人が、ドイツ、オーストリア、イタリアに住んでいたが、その多くはOUNの活動家やシンパであった。1947年以降、UPAの戦闘員はチェコスロバキアを通って徒歩で国境に到達し、米国ゾーンに渡り始めた」

 しかし、レベジはヨーロッパだけでなく、アメリカ国内でも緊急に必要とされていた。アメリカに到着したレベジは、「エアロダイナミック(空気力学)」に関するCIA主任コンタクト/アドバイザーに)抜擢された。

 ブライトマンとノーマン・J・W・ゴダはこう書いている(19)。

 「エアロダイナミックの第一段階は、ウクライナへの潜入と、CIAに訓練されたウクライナ人諜報員の脱出(退去)であった。1950年1月までに、CIAの秘密情報収集部門(特殊作戦室、OSO)と秘密作戦部門(政策調整室、OPC)が参加した[筆者注:「秘密情報収集」「秘密作戦」「政策調整」「秘密作戦」「秘密作戦」「秘密作戦」「秘密作戦」]。ワシントンは、ウクライナにおけるUPAの高度な訓練とさらなるゲリラ活動の可能性、そして「ソ連政権に対する活発な抵抗が、旧ポーランド、ギリシャカトリックの地方から着実に東に広がっているという驚くべきニュース」に特に満足していた... [しかし]1954年までにレベジのグループはUHVRとの連絡を完全に失った。その時までにソビエトはUHVRとUPAの両方を制圧し、CIAはエアロダイナミックの攻撃的な段階を終了させた。

 1953年から、エアロダイナミックはCIAの支援の下、ニューヨークでレベジの指導によるウクライナ研究グループを通じて活動を始め、ウクライナの文献や歴史を収集し、ウクライナで配布するためのウクライナ民族主義の新聞、会報、ラジオ番組、書籍を作成した。1956年、このグループは非営利のプロログ研究出版協会(Prolog Research and Publishing Association)として正式に法人化されたこれにより、CIAは表向きは個人的な寄付として資金を流すことができるようになり、課税対象となる足跡を残すことはなかった。おせっかいなニューヨーク州当局を避けるために、CIAはプロログをProlog Research Corporationという営利企業に変え、表向きは個人的な契約を受けるようにした。フリニオフの下で、プロログはUkrainische Geseelschaft fur Auslandsstudein, EVという名のミュンヘン事務所を維持していた。ほとんどの出版物はここで作られた。

 プロログはウクライナ人の移民作家を採用し、報酬を支払っていたが、彼らは一般にCIAの管理下で働いていることに気づいていなかった。ZP-UHVRの6人のトップメンバーだけが、意図的な諜報員だった。1955年から、ビラが空からウクライナに投下され、『ノヴァ・ウクライナ』というタイトルのラジオ放送がアテネでウクライナ人向けに放送された。これらの活動は、ポーランドのウクライナ人脈やアルゼンチン、オーストラリア、カナダ、スペイン、スウェーデンなどの移民人脈を通じてウクライナに組織的に郵送するキャンペーンに発展した。新聞『Suchasna Ukrainia(ウクライア・トゥデイ)』、情報誌、知識人向けウクライナ語雑誌『Suchasnist(現在)』などが、ウクライナの図書館、文化施設、行政機関、個人などに送られた。これらの活動は、ウクライナのナショナリズムを奨励するものであった。」[強調は筆者]

 CIAは、ウクライナ・ナショナリズムのブランドであるレベジを買収し、お金を出したのである。OUN/UPAの最も恐ろしい虐殺者の一人が、ウクライナ人の心を民族主義のアイデンティティを(民族主義アイデンティティ)中心に形成する権限を与えられたのである。そのアイデンティティはOUNによって定義されたものだった。また、ヴォロドミール大帝の偉大なウクライナ民族という概念をさらにロマンティックにするような歴史的、文化的解釈も形成されている。優越感をさらに助長し、自分たちとベラルーシ人、ロシア人との間にさらなる溝を作るように仕向けていたものだった。

 あるCIAのアナリストは、「(ウクライナには)ある種の民族主義的感情が存在し続けており、...冷戦兵器としてそれを支援する義務がある」と判断している(20)。

 ブライトマンとゴダは続ける。

 「プロログは、ウクライナの次の世代にも影響を与えた...。プロログは、ある CIA高官の言葉を借りれば、「ウクライナ・ソビエト社会主義共和国とその 4000 万人のウクライナ国民に向けられた CIA の活動のための唯一の手段」になっていたのである

 レベジは、自分自身とウクライナ民族主義運動を、バンデリスト時代のあからさまな反ユダヤ主義からはっきりと距離を置いた。さらにウクライナ民族主義の名を守るため、彼はユダヤ人に対する「挑発的な中傷」と「誹謗」を公に非難した。何か忘れていたことを特別に思い出したかのように「ウクライナ人は、他者への憎悪を説くあらゆるものに反対する」と付け加えた...... 元バンデリストは、今ではソ連を攻撃していた。反ユダヤ主義のためにであり、ユダヤ主義を守るためではなく、である。

 レベジは1975年に引退したが、プロログとZP/UHVRのアドバイザー兼コンサルタントとして残った...1980年代にエアロダイナミックの名前はQRDYNAMICに、1980年代にはPDDYNAMIC、そしてQRPLUMBに変更された。このような名前の変更は、1977年、カーター大統領の国家安全保障アドバイザー、ズビグニュー・ブレジンスキーがこのプログラムの拡張を支援したからだ。彼はその活動を「素晴らしい配当金」と「標的地域の特定聴衆への影響」と命名し高く評価していたのだった。1980年代には、プロログはソ連の他の国籍の人々にも事業を拡大し、究極の皮肉とも言えるのだが、反体制派のソ連のユダヤ人たちもその対象となった。1990年、ソビエト連邦が崩壊寸前となり、QRPLUMBは175万ドルの最終支払いで打ち切られた。プロログは活動を続けるが、財政的には自力でやっていくことになった。

 1985年6月、会計検査院は、アメリカ情報機関の援助を受けてアメリカに定住したナチスと協力者についての公開報告の中で、レベジの名前を挙げた。同年、司法省の特別捜査局(OSI)はレベジの調査を開始した。CIAは、レベジを公に調査することでQRPLUMBが危険にさらされること、そしてレベジを保護しなければウクライナ移民コミュニティの怒りを引き起こすことを懸念した。それゆえに、CIAはレベジを庇護した。レベジとナチスの関係を否定し、彼がウクライナの自由の戦士であると主張することによってである。しかし、もちろん真実はもっと複雑であった。1991年の時点でCIAは、OSIがドイツ、ポーランド、ソ連の各国政府に対して、OUNに関連する戦争記録の提出を求めることを思いとどまらせようとした。OSIは結局、レベジに関する決定的な文書を入手することができず、この件を断念した。」[強調は筆者]

 ミコラ・レベジは1998年、CIAの保護の下、ニュージャージー州で89歳で亡くなった。彼の論文はハーバード大学のウクライナ研究所に所蔵されている。

 そこにあるのは、CIAによって買い取られた、今日の形のウクライナ民族主義運動の真実の物語である。このように、OUNのイデオロギーが今日の西側ウクライナ民族主義のアイデンティティと切り離せないものであることは偶然の一致ではない。また1991年(ウクライナのソ連からの独立以降)以来、いくつかのネオナチグループが結成され、彼らがみなOUNとステパン・バンデラを自分たちの運動の父として見ていることもまた偶然の一致ではない。

[続く第3部では、NATOとゲーレン組織、そしてこれが今日のウクライナの民族主義運動やネオナチズムとどのように結びついているかを論じる。]

著者の連絡先は cynthiachung.substack.com [参照]。

(1) Richard Breitman, Norman J.W. Goda et al. (2005) U.S. Intelligence and The Nazis. National Archives & Cambridge University Press: 65頁。
(2) 同上、249ページ。
(3) リチャード・ブライトマン、ノーマン・J・W・ゴダ。(2011) ヒトラーの影 ナチス戦犯、米国諜報機関、そして冷戦。国立公文書館:74頁
(4) 同上、74頁。
(5) リチャード・ブライトマン、ノーマン・J・W・ゴダ。(2011) ヒトラーの影 ナチス戦犯、米国諜報機関、そして冷戦。国立公文書館:75-76頁
(6) ティモシー・スナイダー (2004) ザ・リコンストラクション・オブ・ネイションズ. ニューヘイブン:エール大学出版局:164頁
(7) Richard Breitman, Norman J.W. Goda et al. (2005) U.S. Intelligence and The Nazis. National Archives & Cambridge University Press: 250 ページ。
(8) 同上、250ページ。
(9) 同上、251ページ。
(10) リチャード・ブライトマン、ノーマン・J・W・ゴダ。(2011) ヒトラーの影 ナチス戦犯、米国諜報機関、冷戦. 国立公文書館:78頁
(11) Richard Breitman, Norman J.W. Goda et al. (2005) U.S. Intelligence and The Nazis. National Archives & Cambridge University Press: 251 ページ。
(12) 同上、252ページ。
(13) 同上、252頁。
(14) 同上、253ページ。
(15) リチャード・ブライトマン、ノーマン・J・W・ゴダ。(2011) ヒトラーの影 ナチス戦犯、米国諜報機関、そして冷戦。国立公文書館:81頁
(16) Richard Breitman, Norman J.W. Goda et al. (2005) U.S. Intelligence and The Nazis. National Archives & Cambridge University Press: 254 ページ。
(17) 同上、254頁。
(18) リチャード・ブライトマン、ノーマン・J・W・ゴダ。(2011) ヒトラーの影 ナチス戦犯、米国諜報機関、そして冷戦。国立公文書館:76頁
(19) 同上 87ページ
(20) 同上、89ページ。

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ウクライナへの道は1999年のコソボ戦争から始まった

ウクライナへの道は1999年のコソボ戦争から始まった

NATOによるユーゴスラビアへの戦争の支持者には、法律、主権、国境について語る資格はない


<記事原文 寺島先生推薦>

The road to Ukraine started with 1999’s Kosovo War

Supporters of NATO’s war on Yugoslavia have no right to talk about law, sovereignty or borders

RT 2022年3月25日

ネボイサ・マリッチ(Nebojsa Malic)


<記事翻訳 翻訳グループ>2022年4月16日


1999年、セルビアのベオグラードでNATOに爆撃された建物の跡。© Pierre Crom / Getty Images
                                                
 この1カ月間、国境の神聖さ、国の主権、そして大国が小さな隣人を「いじめる」ことがいかに容認できないかについて、ロシアとウクライナのことを考えながら道徳的に語ってきた人たちは、木曜日(3月24日)、1999年にそれらのことすべてを擁護した女性を賞賛するために立ち止まった。(この日亡くなった)マドレーン・オルブライトが英雄であり崇拝の対象でありえたのは、そのような行為が、NATOがユーゴスラビアに対して行われたためという理由以外はない。

 1999年3月24日、NATOは当時はまだユーゴスラビア国内の共和国であったセルビアとモンテネグロに対して空爆を開始した。このNATOによる連合軍作戦の公然たる目的は、前月にフランスのランブイエ城で出された最後通牒をセルビア政府に受け入れさせることであった。つまり、コソボ自治州をNATOの「平和維持軍」に引き渡し、アルバニア人分離主義者の独立宣言を容認させることだったのだ。

 



 爆撃機をもってしても2週間以内にコソボ自治州をNATOの「平和維持軍」に引き渡し、アルバニア人分離主義者の独立宣言を容認させることを達成できなかったとき、アルバニア人「大虐殺」(とNATOのおべっか使いである報道機関が主張したものである)が起きていたのをNATOが阻止するために行動したというふうに、物語は変えられた。この物語はまた、史上初の女性米国務長官の「人道的」爆撃の功績を称えて、「マデリンの戦争」と命名された。

  結局、78日間の攻撃とその後の交渉による休戦を経て、NATO軍はコソボに入国したのだが、それは国連平和維持活動というイチジクの葉で覆い隠した形での入国だった。彼らは直ちにコソボ自治州を「コソボ解放軍」のテロリストに引き渡した。テロリストたちは20万人以上の非アルバニア人を焼き払い、略奪し、殺害し、追放しつづけた。つまり、テロ、脅迫、民族浄化、ポグロム(特定の民族に対する破壊行為)という大作戦の実行が開始されたのだ。そして、NATOが空爆をしているあいだに、セルビア人による残虐行為をでっち上げてNATOをかばったのと全く同じメディアが、今度は同じ理由でアルバニア人による残虐行為には見ぬふりをしたのである。

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NATOのセルビア爆撃:三幕の悲劇

  しかし、結果は違ったかもしれないが、この戦争は邪悪な小さな戦争で終わらせるつもりで始められた戦争であった。少なくともアメリカはそう思っていた。ビル・クリストル(米副大統領首席補佐官)やビクトリア・ヌーランドの夫ロバート・ケーガンが数年前に提唱していたアメリカの新しい世界覇権戦略に基づいて、国連が課す制限をアメリカは排除しようとしていたからだ。冷戦後の世界で、台頭しようとしていたアメリカ帝国は、東ヨーロッパには反対意見を許さないというメッセージを送り、ロシアにはロシアはもはや尊敬に値する大国ではないというメッセージを送りたかったからである。

 法律家なら、この攻撃は以下のものに違反していると指摘できるだろう。国連憲章の第2条、第53条、第103条、NATO憲章である1949年の北大西洋条約(第1条と第7条)、また同様に1975年のヘルシンキ最終法(署名国の領土保全の侵害)、1980年の条約法に関するウィーン条約にである。罪状は、ある条約に署名させるために一国家に対して強制力を行使したことだ。

 ああしかし、世界帝国であるということは、 「自分で作った決まりによる秩序」を構築して、都合の悪い法律を力尽くで排除することができるということだ。そこで、おべっか使いたちからなる「独立委員会」が結成され、この作戦を「違法だが正当なものである」と宣言し、コソボのアルバニア人をセルビア人の「圧政」から「解放」したのだから正当だ、と主張したのである。

 NATO軍が傍観していた非アルバニア人への実際の弾圧(2004年3月の悪質なポグロムを含む)は、明らかに違反件案には入れられていないのだ。重要なのは、ビル・クリントン、ヒラリー・クリントン、マデリン・オルブライト、そして英国首相トニー・ブレアが、記念碑や通りの名前になり、さらには子どもたちの名前まで彼らにちなんで付けられたということだ。

 コソボ共和国の「独立」は、1999年の戦争と同じくらい合法的な戦略のより2008年に成し遂げられたが、実際のところコソボ共和国はアメリカ大使の許可なしには何もできない状況である。皆さん、人権、法と秩序、そして民主主義の大勝利なんて、実際はこんなものなんですよ!
 
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コソボ。従属の10年

 NATOはアルバニア人の命を救うことなど気にもしていなかった。もしそうであれば、セルビアとの和平を望むアルバニア人を殺害することを目的としたKLA(コソボ解放軍)と提携することはなかっただろう。NATOは、難民キャンプを何度も空爆しておきながら、本当はセルビア人が悪いのだ、パイロットは「善意で」爆弾を落としたのだなどとは主張しなかったはずだ。なおこの主張は、NATOのジェイミー・シェイ報道官がまさに語った内容だった。

ジェイミー・シェイは1999年のコソボ戦争中にNATOの報道官を務めたときに世界的な注目を集めた。彼は、セルビア人がコソボを保持するのを防ぐためにセルビアのNATO爆撃によって殺された子供と大人の民間人を「悪を倒すための代償」と説明した。

 

マデリン・オルブライト:1996年、CBSテレビ『60 Minutes』に出演して、レスリー・ストールから対イラク経済制裁について「これまでに50万人の子どもが死んだと聞いている、ヒロシマより多いと言われる。犠牲を払う価値がある行為なのか?」と問われた際「大変難しい選択だと思うが、でも、その代償は、思うに、それだけの値打ちはある」(“I think that is a very hard choice, but the price, we think, the price is worth it.”)と答えた。

 20年経っても何も変わっていない。一昨年8月、カブールの家族(大人3人、子ども7人)を無人爆撃機で破壊したアメリカは、賠償金は支払ったが、関係者を叱責することまでは拒否した。帝国であることは、決して謝罪する必要がないことを意味する。この考え方が、2003年のイラク侵攻を推進した。

 一方、戦争によってベルグラードのセルビア政府を転覆させることができなかったため、米国は代わりにセルビアで「カラー革命」を起こした。そして、そのカラー革命はその後、世界各地に輸出されてきた。その中にはウクライナで2度にわたっておこなわれたものもあった。2014年のキエフでのクーデターは、そのままウクライナ東部での紛争に繋がり、現在ウクライナで起こっていることはその最新段階に過ぎない。

 1999年3月、私はアメリカ中西部の学生で、(ほとんど)洗脳されていて、自由、民主主義、寛容、客観性、規則と法律に関する決まり文句を信じきっていた。そしてアメリカがいかに「世界のための善良な力」であるかについても信じるようになっていた。それが一夜にして、私が友人だと思っていた人たちが、私を怪物と呼ぶようになり、みなテレビ画面や新聞紙面から流れてくるプロパガンダを片っ端から信じるようになった。

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NATOの拡大は戦争につながると、専門家たちは何十年も前から警告していた。なぜ誰も耳を貸さなかったのだろうか?

 私はそれ以来、正義を保つことと忘れないことを人生の使命とし、コソボ紛争が善良で高貴な人道的戦争などではなく、現代世界のあらゆる過ちを象徴していることを説明しようとしてきた。「嘘の力の記念碑、法を首尾よく無効にする手口、力による正義の凌駕」と2005年にANTI-WAR.comで書いたが、それ以来同じことを毎年書き続けている。

 今起こっていることのおかしな点は、人権、国際法、国境の神聖さについて人々が金切り声を上げているのは、その対象がアメリカのお得意様国家であるウクライナだという理由であるという点だ。1999年当時は皆(ユーゴスラビアの地でそれらを陵辱した)NATOに大声援を送っていたのに、だ。今でも、NATOはそのことを謝罪しないし、ましてや否定もしない。つまり重要なのは、「何がおこなわれているか」ということではなく、「誰が誰に対しておこなっているか」ということなのだろう。彼らの嘘が支えてきた世界が崩れ去るときの、彼らの怒りは理解できるが、彼らは文句を言う筋合いは全くないのだ。

 

 

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ウクライナにおけるナチズムの歴史。ステファン・バンデラとは誰か?

ウクライナにおけるナチズムの歴史。ステファン・バンデラとは誰か?

<記事原文 寺島先生推薦>

The History of Nazism in Ukraine. Who is Stepan Bandera?


ティモシー・アレクサンダー・グズマン(Timothy Alexander Guzman)

Global Reearch, 2022年3月27日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月16日


 悲劇を生むことになりそうだ。ロシアのウクライナ侵攻は非難されるべきで、決して起こってはならないことだが、しかし事実としてあるのは、ロシアのプーチン大統領が数年前からワシントンとその同盟国に差し迫った危機を警告していたことである。つまり、NATOの国境への拡張は軍事的対立につながる恐れがあると。

 一方、西側メディアが描いているウクライナは、自由と民主主義のために戦う勇敢な魂であるヴォロディミル・ゼレンスキーという名の大統領をもつ民主主義国家であり、ロシアの熊に立ち向かう小国である。現代版「ダビデ対ゴリアテ」という図式である。

  ロシアといういじめっ子が、罪のないウクライナをいじめている。しかし、世界はウクライナについて何を知っているのだろうか?

 西側メディアは、私たちを闇の中に閉じ込めている。ほとんどのアメリカ人は、ウクライナの政治や歴史について知らない。

 アメリカ人、ヨーロッパ人、そして世界中の人々は、ウクライナとそのナチス思想の歴史について真実を知っているのだろうか?

 『イスラエル・タイムズ』紙の「ウクライナで数百人がナチス親衛隊SS兵士を称える行進に参加」と題する記事によると、2021年にウクライナの都市キエフでナチスの祭典がおこなわれたと報じている。




 何百人ものウクライナ人がナチス親衛隊SS兵士を称える行進に参加した。キエフで初めて開催されたイベントもそのひとつだった。このいわゆる刺繍行進は4月28日に首都で開催されたが、この日はナチス親衛隊第14擲弾兵師団の創設から78年目で、またこの師団はガリシア第1師団としても知られている。ガリシア第1師団は、ドイツ占領下でウクライナ人とドイツ人の志願兵と徴集兵によって設立された部隊である。行進者は部隊のシンボルマークを記した横断幕を掲げていた。



https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC14SS%E6%AD%A6%E8%A3%85%E6%93%B2%E5%BC%BE%E5%85%B5%E5%B8%AB%E5%9B%A3

 ルーシのライオンをあしらった第14SS武装擲弾兵師団の師団章

 約300人が参加したキエフの行進は、数年前からこのようなイベントを主催している西部の都市リヴィウから持ち込まれたものだった。その前日には、リヴィウでより大規模な刺繍行進がおこなわれ、数百人が参加した。ウクライナで冷遇されているロシア人の多くは、ナチスの協力者を賛美することに反対している。そのような行為はウクライナでは2000年代初頭までタブーだった。しかし2000年代初頭、民族主義者が、1991年までウクライナを支配していたソビエト連邦に対抗して行動した協力者を英雄として国家が承認することを要求し、獲得したのである。

ウクライナにおけるナチス思想の父。ステファン・バンデラ


 その名は、ステパン・バンデラ。ウクライナの英雄とされ、第二次世界大戦中にナチスに協力し、極右組織「ウクライナ民族主義者組織」(OUN-B)の指導者であった人物である。バンデラはオーストリア・ハンガリー帝国の一部であったガリシアのギリシャ・カトリックの家庭に生まれたが、後年、生まれた国が崩壊して西ウクライナ人民共和国となり、1918-1919年のポーランド・ウクライナ戦争でポーランドの一部となったことから、過激なウクライナ民族主義者になった。

 1934年、新しい地政学的展開に怒ったバンデラは、ポーランド内務大臣ブロニスワフ・ピエラツキ暗殺を組織した。

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 バンデラはこの犯罪で逮捕され、有罪となり、死刑を宣告されたが、後に終身刑に減刑された。

 1939年、ドイツ・ソ連のポーランド侵攻(別名「9月の陣」)に伴い、独ソ辺境条約によりポーランドが分割された。その直後、バンデラは出獄し、ポーランドのクラクフに移った。そこは、すでにナチスに占領されていた。

 バンデラが確信していたのは、自分がナチスに協力すれば、ウクライナに自分の政権を樹立し、ナチスと同盟を結び、ソ連の占領から解放された独立国家になれるということだった。ナチス、バンデラ、そして彼の組織の側近たちが、ウクライナに共産主義を確立したのはユダヤ人のせいだと非難していることはよく知られていたことで、当時のバンデラの声明には次のように書かれている。

 「ソ連のユダヤ人はボルシェビキ政権の最も忠実な支持者であり、ウクライナにおけるモスクワ帝国主義(Muscovite imperialism)の前衛である」

 そして1941年6月、ナチスがソ連に侵攻し、東ガリシアの首都リヴォフを占領、ここでOUN-Bとアドルフ・ヒトラー率いる国家社会主義の大ドイツが協力し開始したのが、ユダヤ人とポーランド人に対する大量虐殺の「ポグロム」であった。戦争期間中ずっと老若男女を含めてすべてに対してであった。

 そして、ナチスとバンデラ一派の関係は複雑になった。戦時中に独立宣言、いわゆる「ウクライナ復興法」が彼の側近たちによって発表された。

 同時に、ウクライナの独立宣言は、ウクライナを勢力圏に置こうとするナチス政権にとって重大な関心事となった。 そのため、ウクライナ民族主義者とナチスとの同盟は問題となった。

 1941 年 9 月 15 日、ゲシュタポはバンデラやウクライナ国民政府の首相であったヤロスラフ・ステツコらの指導者を、ウクライナ国家更新法の棄却を拒否したことで逮捕しはじめた。

 1942年1月、バンデラは、著名な政治犯が収容されていたザクセンハウゼン強制収容所に収容された。

 1944年、ソ連軍と連合軍がナチス占領地に進攻したため、ナチスはバンデラとステツコを採用し、優勢になったソ連軍を撃破するための陽動作戦を展開した。

 OUN-Bの指導者であったバンデラは家族とともに西ドイツに移り、ウクライナ最高解放評議会や反ボルシェビキ民族ブロックなどの反共組織、あるいはファシストと呼ばれる組織と長く行動を共にするようになった。

 1959年、バンデラは青酸ガスで毒殺され、その2年後、ドイツの司法当局は、彼の暗殺の背後にKGBが存在したと主張した。

 2022年、バンデラはウクライナのネオナチにとって英雄であり続けている。世界で最も腐敗した国の一つであるウクライナを、アメリカとEUは支援しているのだ。アドルフ・ヒトラーとステパン・バンデラを賞賛するネオナチと強いつながりを持つ人権侵害が証明されている国なのに。これが偽善でなくて何だろうか。

CIAとナチス。地獄で作られたお似合いのカップル

 作家・ジャーナリストのウェイン・マドセンの2016年の論文「CIAは1953年以来、ウクライナを弱体化させ、ナチス化させた」によると

 「最近、機密解除された中央情報局(CIA)による3800以上の文書は、次のような事実を詳細に立証している。1953年以来、CIAは二つの主要な計画を実行する意図を持っていた。ひとつはウクライナを不安定化することであり、もうひとつは第二次世界大戦中のウクライナのナチス指導者ステパン・バンデラの信奉者たちと連携してウクライナをナチス化することだった、と」

 ナチズムは、CIAのプロジェクトAERODYNAMIC(空気力学)のもとで長い間ウクライナに存在していた。それは「反ソビエトのウクライナ抵抗運動を冷戦と熱戦の目的のために利用し拡大すること」を目的としたものであった。その中には、ウクライナ解放最高会議(UBVR)とそのウクライナ反乱軍(UPA)、外人部隊(UPA)を含むいくつかのグループが含まれていた。今後は西ヨーロッパやアメリカにおけるウクライナ解放最高評議会(ZPUHVR)の代表や、OUN-Bなどの組織も活用されることになる。

 つまり、70年近くも前から、CIAによるウクライナのナチス化作戦は成功していたと言えるのだ。

 しかし、その前段階のプロジェクトAERODYNAMICは、ウクライナを不安定にすることを目的としていた。CIAの訓練を受けた亡命ウクライナ人が、ソ連・ウクライナ領内で活動していたのだ。

 CIAは、西ドイツで米軍の対外情報政治心理(FI-PP)部隊の訓練を受けたウクライナ領内の工作員に、通信、物資、武器、弾薬の空輸を調達したのだ。言い換えれば、CIAは共産主義者と戦うという名目で、ウクライナでネオナチや「ファシスト」と呼ばれる人々の育成を手助けした罪を問われるということになる。



 今日、極右のネオナチグループは、ウクライナ国民にとって深刻な問題である。というのは、これらの過激派の多くは、ウクライナ政府の様々な階層に埋め込まれているからであり、その中には、悪名高いアゾフ大隊やエイダル大隊の隊員もいる。

 両大隊は、2014年のマイダン・クーデターにも関与しており、親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を転覆したのだ。これは米国と欧州連合が支援したクーデターだったのだ。

 マイダンのクーデターにも関与した極右ネオナチ集団には、他に右派セクターとスヴォボダ党がある。言い換えれば、アメリカとヨーロッパの同盟国はモンスターを作り出してしまったのであり、ウクライナの人々にとっては、これから状況はもっと悪くなる一方だということだ。

 最近、ファールディン・シャラフマルという名のウクライナのテレビジャーナリストが、テレビの生放送でナチスの戦犯であるアドルフ・アイヒマンを引用した。


動画はこちら

動画字幕:私はジャーナリストとして、冷静に情報を提供するために、客観的でバランスの取れた視点を持たなければならないと考えている。

 「ロシアがわれわれをナチスやファシスト呼ばわりしているので、あえて私はアドルフ・アイヒマンの言葉を引用させていただく。彼はこう言った。『国家を破壊するためには、まず子どもを破壊することが不可欠である。なぜならもし親を殺せば、その子どもは成長して復讐を企てる。しかし子どもを殺せば、子どもは成長せず、国は滅びるからだ』と。」

 

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ウクライナ最新情報 第9報

ウクライナ最新情報 第9報

<記事原文 寺島先生推薦>

Ukrainian Update #9

2022年4月1日

Paul Craig Roberts

ポール・クレイグ・ロバーツ

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年4月13日

 コロナについてメディアや保健所や政府関係者から聞かされたことがすべて嘘だったように、ウクライナについても同じプロパガンダの嘘つきから聞かされたことはすべて嘘である。アメリカ人はこれまで嘘ばかりを聞かされてきたのだ。ジョン・F・ケネディ大統領、その弟で大統領有力候補のロバート・ケネディ上院議員、マーティン・ルーサー・キング牧師、と続いて起こった一連の暗殺事件、ベトナム戦争、9・11、サダム・フセインの存在しない「大量破壊兵器」、アサドの「化学兵器使用」、イランの核、カダフィに関するとんでもない嘘、コロナ・パンデミック、ロシアの侵略―これらは全て嘘だった。西側世界全体が、プロパガンダによって作られた「マトリクス」の世界に住んでいる。西側諸国の大多数の人々は、自分たちが住んでいる現実を知らない。そのため、彼らは無力であり、自分たちの自由を守ることが全くできない。彼らは、自分たちをしっかりと取り囲んでいる専制政治の格好のカモなのだ。

 例えば、ウクライナの話を考えてみよう。西側メディアによって国民に提示された物語は、現実とは何の関係もない。ウクライナの物語は、コロナの物語と同じように完全に崩壊している。もう元には戻れない。次の危機が新聞の第一面を占めるときにはこのウクライナ話は簡単に立ち消えになってしまうだろう。例えば、それはインフレーションかもしれないし、新しく発表される病原体かもしれない。

 ロシアがウクライナに侵攻したことはない。 ロシアの軍事的焦点は、ウクライナ東部と南部のドンバス地域だった。その地域は、ロシア人が住み、ソ連の指導者たちが、自分たちの都合でクリミアと同じようにウクライナに移すまでは、ロシア自身の一部であった。 2014年にアメリカが民主的に選ばれたウクライナ政府を転覆させてウクライナを支配したとき、クリミアとドンバスのロシア人はロシアとの再統合を圧倒的な票数で望んだ。クレムリンはクリミアを受け入れたが、ドンバスは受け入れなかった。

 これはロシア政府の認識不足を示す戦略的失策であった。早速、西ウクライナのネオナチ残党は、その祖先は第二次世界大戦でヒトラーのためにロシアと戦ったのだが、東のドンバス地域のロシア人住民を虐待し始めたのである。キエフにあるアメリカの傀儡政権は、ロシア語の使用を禁止して追い打ちをかけた。

 ドンバス地方のロシア人は、自分たちの身を守るために、ドネツク共和国とルハンスク共和国という2つの共和国の形で独立を宣言した。すると、ウクライナ軍とネオナチ民兵は、この 「分離共和国」を攻撃し始めた。彼らは8年間、ドンバスの村や町、都市を大砲で砲撃し、数千人の市民を殺害した。ウクライナ軍はドンバスで急遽編成された部隊に2度敗れたものの、分離共和国の広い地域を支配下に置くことになんとか成功したのである。

 ロシアの介入を誘発したのは、10万人以上のウクライナ軍が縮小したドンバスの国境に領土奪還のための侵攻を狙って配備されたことである。ロシア軍事介入の第二の理由は、ワシントンがクレムリンに安全保障を与えることを拒否したことである。ロシアはワシントンに対し、ウクライナがNATOに加盟することを認めない、と完全に明確な言葉で伝えた。それにもかかわらず、ワシントンは挑発行為を執拗に繰り返した。

 ロシアのウクライナへの軍事介入は、ドンバスからウクライナ軍とネオナチ軍を排除することにほとんどの焦点が当てられている。これが、民間人への重火器使用を排除したプーチンの「のろのろ戦争」の理由である。
 
 民間人はロシア人なのだ。プーチンが言ったように、「我々はこの人々を解放するために行ったのであって、殺すために行ったのではない 」ということだ。

 西側のメディア売人や政府関係者は、CNNやNPRの売人が公表しているように、ロシアの民間人の死を避けようとするロシアの意図を、「ロシアの侵略が停滞している」ことの兆候だと言って誤報している。西側メディア売人の中には、さらに踏み込んで、「ロシアの敗北」と言っている者までいる。

 もしロシアの敗北があるとすれば、それは戦場ではなく、交渉の場で起こることだろう。というのも、ロシア人は交渉人になるには相手を信頼しすぎていて決してうまくはいかないからだ。

 戦場にはより高度な遂行能力の基準がある。ロシア軍がドンバスに入る前に、ウクライナの軍事インフラ、空軍、海軍は完全に破壊された。ウクライナ軍は行動不能に陥っている。通信手段もなく、空からの援護もなく、補給も断たれている。

 ロシアが和平交渉を行う理由は、ウクライナ軍の壊滅を避けることである。ところが、ネオナチ政治委員の方は、ウクライナ軍は最後の一兵まで戦わせるために必要なのだ。ロシアは、何もコントロールできていない「政府」と交渉していることを理解していないようだ。

 アメリカとイギリスが訓練し武装したウクライナの60万人の兵士に対して、ロシアは20万人の軍隊を配備している。ロシア軍を3対1で圧倒していたウクライナ軍は、その戦闘力をアッという間に破壊された。そのスピードたるや、2008年8月、南オセチアに侵攻した、アメリカとイスラエルによって武装・訓練されたグルジア軍がロシア軍に破壊されたより早かった。

 ウクライナに建物やウクライナ人が存在する唯一の理由は、ロシアの攻撃を抑止するためである。

 クレムリンは、ロシアがウクライナを破壊することなく目的を達成できると確信している。 これは軍事的には正しいが、ロシア政府は交渉で成功するにはあまりに騙されやすいと私は思っている。ロシアはまだ道徳心を持っているが、それが欧米にもあると思い違いしている。欧米は道徳心など持ち合わせていない。ロシア人はサタンと交渉する方法を知らない。ウゴ・チャベスの国連での演説を思い出してみるとよい。ユダヤ系アメリカ人の国務長官が全国ネットのテレビで、アメリカが50万人のイラクの子供たちを殺害したことを「価値があった」と言ったのを覚えているだろうか。そう、イスラエルが中東を支配するために価値があるのだ。

 アメリカ人、イギリス人、フランス人、ドイツ人、日本人、そしてアメリカ帝国のすべての人々には理解できないだろう。自分たちがいかに騙されてきたのか、いかにとんでもない犯罪に巻き込まれてきたのか、いかに愚かにも信頼していたメディアの嘘に洗脳されてきたのか、いかにワシントンがアメリカの評判を台無しにしたのか、そしてなぜ世界のほとんどがアメリカを嫌っているのかを。

 アメリカ帝国が終焉を迎えていることを、間抜けな愚か者たちも理解していない。西側の制裁が行ったことは、ドル依存の世界を破壊することであった。ドル依存の世界では、米国企業が自国市場向けの生産を海外依託したことが主因で巨額の貿易赤字が生まれたにもかかわらず、その赤字のための資金調達を世界の他の地域に押し付けることができるのだが、そのシステムが破壊されるのである。すると、ロシア、中国、中央アジア、東アジアは、欧米とは別に独自の決済手段を構築することになる。これによって、ドルの覇権とアメリカの権力は失われるのだ。

 私たちは振り出しに戻った。アメリカの自信過剰は傲慢さを生んだ。しかし、その傲慢さでは、ロシア、中国、インドが主権国家として存在しようとする決意には勝てない。アメリカのグローバリズム、つまりワシントンが覇権を行使する方法は、崩壊しつつある。 ワシントンのバカどもは、東方をドル体制から追い出す無分別な制裁によって、自分たちの支配体制を自ら崩壊させたのだ。

 ロシアには問題がひとつしかない。 ロシアの問題は、内部的なものである。 その問題とは、自分たちの利益を西側と同盟関係にあると考える、知識人階級や上流階級、金融システムの要素から成るものである。クレムリンによって容認されているこれらの裏切り者は、エリツィン政権時代にアメリカの支配者たちによって作られた事実上の西側工作員である。

 ロシア政府で最も権力を持つのは、ロシア中央銀行のトップであり、その政策はロシアではなく欧米に奉仕している。 プーチンは、ロシア唯一の経済学者セルゲイ・グラジエフの警告にもかかわらず、ロシアの将来を親米派のロシア中央銀行総裁に託しているのである。ロシアに一度も役に立ったことがないロシア中央銀行が、ロシア打倒を目指すワシントンにとって最大の資産なのだ。 この脅威に対するプーチンの盲目さこそが、ロシアの心臓に突き刺さる短剣なのである。

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新ニュルンベルク裁判の手助けをしていたフランスの女性弁護士、国家への反逆罪で逮捕!!

新ニュルンベルク裁判の手助けをしていたフランスの女性弁護士、国家への反逆罪で逮捕!!

<記事原文 寺島先生推薦>
French Lawyer Arrested for Treason After Helping Reiner Fuellmich Prove World Leaders Have Committed Crimes Against Humanity in the Name of COVID-19

グローバル・リサーチ 2022年3月24日
The Expose 2022年3月24日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年4月10日


 新型コロナウイルス感染症の名のもとに、世界の指導者たちが人道に対する罪を犯したことを証明するためにライナー・フェルミッチ(注1)に協力している弁護士の一人が、フランスでテロリズムと反逆の疑いで逮捕されました。
 
 ライナー・フェルミッチとともに民衆法廷の活動に参加しているフランス在住の弁護士、ヴィルジニー・ド・アラウージョ・レキアは、3月22日の明け方、自宅で子どもたちの前で逮捕されました。逮捕は、フランス大統領選挙を3週間後に控えた時期です。

 フェルミッチのチームは、容疑がテロ対策と反逆罪に関わるものであり、フランス国民と世界のために、神から与えられた権利を回復するために戦う彼女の情熱的な活動に関連するものであることを知らされたと言われています。

 その年の初めに、ヴィルジニー・ド・アラウージョ・レキアは、同僚のジャン=ピエール・ジョセフと他の2人の法学者とともに、「BonSens.org」(注2)、「AIMSIB(科学的医学国際協会)」(注3)、「抵抗する市長の集団」(注4)を代表して、2021年8月に新型コロナウイルス感染症ワクチン接種義務化の法律を有効にした国会議員を、調査判事長に告訴しました。

 このワクチン接種義務化の法律により、何百万人もの専門家が実験的な遺伝子治療を受けなければ、職を失う危険を強いられることになりました。

 この事件の関係者によると、彼女は複数の政党とその一部のメンバーの行動に対する告訴に取り組んでいたそうです。

 彼女は「独裁2020」と題する報告書を発表したばかりで、政府の国家テロ、国民の基本的利益への攻撃、人道に対する罪などを告訴していました。

 この文書は、政府のメンバーに対する刑事訴追の根拠とすることを意図したものでした...

報告書のダウンロードはこちら

 この言語道断の権利侵害は、もはや言論の自由など存在しないことを示しています。そして、ヴィルジニー・アラウホ・レキアのように声をあげれば、迫害されることを証明しています。

 ヴィルジニー・アラウホ・レキアの主張に反対する人たちでさえ、このような行為によって言論の自由の権利が脅かされていることを知るべきです。今は「公式」なシナリオに従うことができていても、将来のある時点でそれに賛成しているとは限らないからです。

 そのとき、もしあなたがこの問題に直面している別の人を助けようと動かなかったら、どうなるでしょうか?こんなことは根本的に間違っていて、自然法則に反していることをあなたは知っているはずです。

 今こそ、団結し、立ち上がる時です。私たちは、この専制政治がエスカレートするのを許せません。シェイクスピアが『ヘンリー六世』の中で「まず、弁護士を全員殺せ」と言ったのは、社会を不安定にする最初のステップに注意を向けていたのです。法の支配や神から与えられた自由の憲法に従わない社会は、平和な社会ではありえないからです。専制政治が支配するとき、私たち誰一人として安全ではありません。

 戦争で最初に犠牲になるのは、よく言われるように、真実です。次に犠牲になるのは、弁護士や擁護者、そしてその他のあらゆる人たちでしょう。自由を愛する愛国者の逮捕を傍観したり、まかり通らせたり、無視してはいけません。どうか彼女の一刻も早い釈放と安全のために祈って下さい。そしてこの茶番に抗議するために当局者に電話や電子メールを殺到させてください。

 そうしなければ、これは西ヨーロッパ大陸のポスト民主主義における粛清の波の最初の一歩になりかねません。


(訳1)ライナー・フェルミッチは、1,000人の弁護士と10,000人の医学専門家からなるチームが、世界の指導者たちの「人類に対する罪」を問う新ニュルンベルク裁判を開始した。(2021年5月21日)
Team of 1,000 lawyers and 10,000 Medical Experts Start Nuremberg 2 Trial against World Leaders for Crimes Against Humanity - Mark Taliano
ライナー・フェルミッチに関する参考資料映像 日本語字幕付き
大陪審、世論裁判所 - ライナー・フエルミッチ博士の冒頭陳述 | たまごのきみーメモ (ameblo.jp)
 )

(注2)BonSens.org:Les Missions de BonSens - BonSens.orgのホームページ内の説明によると、「市民、職人、企業家、農民、弁護士、労働者、科学者、医師、教師など、善意と良識を持った人々が、今後数十年間に世界が直面する健康や環境に関する課題に立ち向かうために行動することを決意したのです。この協会は、健康を中心とした活動のために、これらの社会的参加者を結集させることを目的としています」。

(注3)AIMSIB(科学的医学国際協会):AIMSIB, International Association for Scientific Medicine
ホームページによれば、「AIMSIBは、市民社会、失望したり傷ついたり怒ったりしている患者、医療従事者の世界中の善意の集合体です。私たちの目的は、医薬品、治療法、医療機器に関する批判的で独立した、科学的で対立のない情報を提供すること、治療法全般に関する広告やマスコミの噂話について医療専門家や市民に知らせること、これらの目的に従って医療専門家とユーザーを結びつけること、法的資源も含めてあらゆる資源を動員して、国内外の医薬品、健康製品に関する機関が、医薬品、健康製品、医療機器に関する情報を入手できるようにすることにあります」。

(注4)抵抗する市長の集団( the Collectif des Maires Résistants):
Collective of Resistant Mayors France | The Liberty Beacon


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ロシアがウクライナの生物研究所に関する新証拠を提示、バイデンや米国との関連についてコメント

ロシアがウクライナの生物研究所に関する新証拠を提示、バイデンや米国との関連についてコメント
――ウクライナ人を生体実験に使った可能性のある、米国が資金提供した致死性病原体の運命を詳述した文書
<記事原文 寺島先生推薦>
Russia presents new evidence on Ukraine biolabs, comments on links to Biden and US
Documents detail fate of US-funded deadly pathogens that may have been tested on Ukrainians


RT 2022年3月31日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月10日



 ロシア軍が提示した文書によれば、ウクライナは、米国が資金提供した生物研究所で開発され兵器化された病原体を、ドローンを使って運搬することに関心を持っている、ということを示していた。木曜日の特別ブリーフィング(記者向けの簡単な状況説明)では、生物研究所プロジェクトに関与した米国高官の名前と、現米国大統領の息子がこのプログラムで果たした役割も公表された。

 重要な証拠のひとつは、ウクライナのMotor Sich社がトルコのドローンメーカーBaykar Makina社(Bayraktar TB2およびAkinci UAVのメーカー)に送った2021年12月15日付の手紙である。ウクライナ側が特に尋ねてきたのは、ドローンが20リットルのエアロゾル化した最大積載量を300kmの範囲に運ぶことができるかどうか、つまりロシアの12の主要都市とベラルーシのほぼ全域を射程に収めることができるかどうかであった。

 「われわれが話しているのは、キエフ政権による、ロシア連邦に対する生物兵器の使用可能性を持つ、運搬・使用の技術的手段の開発についてである」とロシア核・生物・化学防護軍司令官イーゴリ・キリロフ中将は述べた。


©ロシア国防省

 キリロフ中将がまた言及したのは、ドローンからエアロゾル化した病原体を展開する仕組みの米国特許(第8,967,029号)であった。この特許に関する2018年のロシアの問い合わせに対する米国の回答は、その存在を否定しなかったが、技術的には化学・生物兵器禁止条約に基づくワシントンの義務に違反していないと主張していた。

 キリロフ中将が提示したのは、米国政府機関――国防脅威削減局(DTRA)、国防総省(ペンタゴン)、国務省――とウクライナ保健省の間で締結された契約書や、ウクライナ国内の特定施設などであった。ロシア軍によれば、ペンタゴンは、ウクライナのたった一つの施設、保健省の公衆衛生センターでの生物学的研究のために3000万ドル以上を費やしたとのことである。

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: ロシア、ウクライナにある米国出資の生物研究所について新たな疑惑を発表

 DTRAの職員ロバート・ポープはこのプログラムの「重要人物の一人」で、「キエフに特に危険な微生物の中央保管所を作るというアイデアの作者」だと、キリロフ中将は言った。ペンタゴンのウクライナにおける生物学的プロジェクトは、ジョアンナ・ウィントロールがキエフのDTRA事務所長であり、2020年8月に退社するまで取りまとめていた。キリロフ中将によると、彼女は炭疽病、コンゴ・クリミア熱、レプトスピラ症などの致命的な病原体を研究するUP-4、UP-6、UP-8プロジェクトを直接監督していたという。

 米国機関の窓口はウクライナの保健大臣(2016~2019年)であるウリヤナ・スプルンであり、彼女自身も米国籍であるとキリロフ中将は指摘する。一方、主要な仲介者は民間業者のブラック・アンド・ヴィーチで、そのキエフ事務所の代表はランス・リッペンコットであった。また、国防総省の請負業者であるメタビオタ社もこのプロジェクトで役割を担っていた。

 キリロフ中将は、ハンター・バイデン(現米国大統領ジョー・バイデン氏の息子)が「ウクライナの領土で病原体を扱う金銭的機会を作る上で重要な役割を果たした」と述べ、同氏とメタビオタ社およびブラック・アンド・ヴィーチ社の幹部の間で交わされたいくつかの電子メールを指摘した。特に、メタビオタの副社長を「ハンター・バイデンの腹心の友」であると、そのやり取りをもとに表現している。同将軍によると、「西側メディア」はこれらの電子メールの信憑性を確認したという。これはおそらく、英国紙「デイリー・メール」が先週発表した資料を指していると思われる。


©ロシア国防省

 キリロフ中将が示したメモによると、キエフでさえ生物研究所を懸念していたという。ウクライナ保安局(SBU)のケルソン部門からの2017年の手紙には、DTRAとブラック・アンド・ヴィーチが「ウクライナの微生物研究所の機能に対する管理を確立するつもりである。これは新型生物兵器の作成または近代化に使用できる、特に危険な感染症の病原体の研究をおこなう研究所である」と記されていた。

 ウクライナ保健省公衆衛生センターの2019年6月の文書を指して、キリロフ中将が呈した疑問は、その文書がなぜ秘密主義を貫いたのか、「被験者の死亡を含む重大な」事故は24時間以内に米国の生命倫理当局に報告しなければならないと要求したのか、ということだった。その特定のプログラムに関する他の文書は標準的な採血作業について言及しているだけなのにもかかわらずである。

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ロシアは米国が資金提供したウクライナの生物研究所の新証拠を提示

 「公式の研究プログラムは「氷山の一角」に過ぎず、実際にはボランティアがコンゴ・クリミア熱ウイルス、ハンタウイルス、レプトスピラ症の原因物質に感染していたことをわれわれは排除しない」と将軍は述べ、アメリカが「ウクライナ市民を見下し、生物・医学実験のモルモットとして扱っている」と非難している。

 米国はこれまで、ペンタゴンが資金提供したウクライナの生物研究所に関する疑惑は、「ロシアの偽情報」であると主張してきた。しかし今月初め、米国の外交官ビクトリア・ヌーランドは上院で、「ウクライナの生物研究所」は確かに存在し、米国はキエフと協力して「生物学的研究の材料がロシア軍の手に渡らないように」していると証言したのである。

 キリロフ中将によれば、ウクライナに保管されていたすべての病原性生物材料は、2022年2月上旬に「軍用輸送機によりオデッサ経由で米国に輸送された」という。2月24日、ロシア軍がウクライナに入国すると、キエフの保健省は残った菌株の破壊を命じたと同将は述べている。

 キリロフ中将によれば、ロシアの介入により、炭疽病、野兎病、ブルセラ症、コレラ、レプトスピラ症、アフリカ豚病の研究をおこなっていたウクライナの5つの生物研究所で活動が停止したという。

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マリウポリがユーラシア統合の重要拠点になる

マリウポリがユーラシア統合の重要拠点になる

――マリウポリがウクライナの右翼「アゾフ大隊」によって痛めつけられていたのは、モスクワの軍事作戦開始前から。ロシアの手にかかれば、この製鉄所の戦略的な港はユーラシア大陸とのつながりのハブに変貌できる

<記事原文 寺島先生推薦>

How Mariupol Will Become a Key Hub of Eurasian Integration

Mariupol was battered by Ukraine's right-wing Azov battalion well before Moscow launched its military ops. In Russian hands, this strategic steelworks port can transform into a hub of Eurasian connectivity.

Global Research 2022年3月31日

ペペ・エスコバール(Pepe Escobar)

  <記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月9日

 アゾフ海の戦略港であるマリウポリは、依然としてウクライナの台風の目となっている。

 NATOの話では、アゾフスタル製鉄所(ヨーロッパ最大の製鉄所の一つ)は、マリウポリを「包囲」したロシア軍とその同盟国ドネツク軍によってほぼ破壊されたということになっている。


 しかし真相は、ネオナチのアゾフ大隊(マリウポリ駐留)が、ロシアのウクライナ軍事作戦開始以来、マリウポリの市民数十人を人間の盾として奪い、最後の抵抗としてアゾフスタル製鉄所に退却した、ということである。先週言い渡された最後通告の後、彼らは今、ロシア軍とドネツク軍、そしてチェチェン戦争に投入されたスペツナズ(ロシア特殊任務部隊)によって完全に駆除されつつある。

 アゾブスタル製鉄所は、ウクライナで最も裕福なオリガルヒ、リナト・アフメトフが支配するメチンベストグループの一部であるが、まさにヨーロッパ最大の冶金(やきん)工場の一つであり、「コークス、焼結金属、鋼鉄、高品質の板・圧延棒鋼・圧延形鋼(かたこう)を生産する高性能総合冶金企業」と自称している。

 アゾフのネオナチがマリウポリの市民に与えた惨状を伝える証言が相次ぐ中、もっと縁起の良い、目に見えない物語が近い将来の良い兆しを見せている。

ロシアは世界第5位の鉄鋼生産国であり、巨大な鉄鉱石や石炭を保有している。マリウポリは、鉄鋼のメッカである。このマリウポリは、かつてはドンバスから石炭を調達していたが、2014年のマイダン事件以降、事実上のネオナチ支配下にあり、輸入に変貌した。例えば、鉄は200km以上離れたウクライナのクリブバスから供給されるようになった。

 ドネツクが独立共和国として体制を固めてしまえば、あるいは住民投票によってロシア連邦の一部となることを選択してしまえば、この状況は変化するはずだ。

 アゾフスタル社は、構造用鋼、鉄道用レール、チェーン用焼入れ鋼、鉱山機械、工場設備に使われる圧延鋼材、トラックや鉄道車両など、非常に有用な幅広い製品群に投資している。工場群の一部は非常に近代的であるが、一部は数十年前のものであり、アップグレードが必要であるため、ロシアの産業は確実にそれを提供することができる。

READ MORE: ロシアは米欧の経済制裁にどう対抗するのか?「脱ドル」である

 戦略的には、アゾフスタル製鉄所は巨大な複合施設で、アゾフ海に面していて、今や実際上、ドネツク人民共和国に編入されている。しかも黒海に近い。つまり、西アジアの潜在顧客を含む東地中海へ短距離輸送が可能なのだ。また、スエズを越えてインド洋に出れば、南アジアや東南アジアにも顧客がいる。

 つまり、ドネツク人民共和国は、おそらく将来のノボロシア人民共和国連邦の一部、さらにはロシアの一部となり、南ヨーロッパ、西アジア、そしてそれ以外の地域の多くの鉄鋼生産能力を掌握することになるのである。






 必然的な結果として、ロシア、中国、中央アジアの「スタン諸国(中央南アジアの国名、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタンのスタン)」において、本格的な貨物鉄道建設ブームを供給することができるようになるだろう。鉄道建設は、北京の野心的な「一帯一路構想(BRI)」の特権的な接続モードであることがここで偶然にも判明した。また、国際北南輸送回廊(INSTC)は、ますます加速している。

 つまり、中期的にマリウポリは、北南ルート――ロシアを横断するINSTCと「スタン」を結ぶ――の急成長の主要拠点の1つになることが期待されるのである。同様に、より広範なBRIは東西回廊と副BRI回廊を整備するものである。

連動するユーラシア

 国際北南輸送回廊(INSTC)の主役はロシア、イラン、インドで、NATO制裁後の現在、米ドルを介さない貿易の仕組みを考案し、高度な相互接続モードに入っている。アゼルバイジャンもINSTCの重要なプレーヤーであるが、より不安定な存在であるのは、コーカサスにおけるトルコの接続構想を優先に考えているためである。

 INSTCのネットワークは、パキスタンとの相互接続も進んでいる。つまり、BRIの重要な拠点である中国=パキスタン経済回廊(CPEC)が、ゆっくりとだが確実にアフガニスタンまで拡大しているのである。王毅外相が先週末にカブールを事前準備なしで訪問したのは、アフガニスタンを「新シルクロード」へ編入することを進めるためだった。

 こうしたことのすべてが起きている最中、モスクワ(ロシア)は、ニューデリー(インド)と極めて親しい関係にあるのだが、同時にイスラマバード(パキスタン)との貿易関係を拡大している。この3国は、いずれも上海協力機構(SCO)のメンバーであることが重要だ。

 つまり、ロシア本土からコーカサス(アゼルバイジャン)、西アジア(イラン)、南アジア(インド、パキスタン)へと流れるようにつながる南北のグランドデザインが描かれているのである。これらの主要なプレーヤーは、米国からの圧力にもかかわらず、ロシアを悪者扱いしたり、制裁を加えたりしていない。

 戦略的には、これはロシアの多極化コンセプトである大ユーラシア・パートナーシップを貿易と接続性の面で実現したものであり、BRIと並行して補完するものである。なぜなら、インドは、エネルギーを購入するためのルピー・ルーブル・メカニズムを導入しようとすることを熱望しており、この場合、ロシアのパートナーは絶対不可欠なものだからである。これは、中国がイランと結んだ4000億ドルとされる戦略的取引に匹敵する。実際、大ユーラシア・パートナーシップは、ロシア、イラン、パキスタン、インド間の接続をより円滑にするものである。

 一方、NATOの世界では、この提携の複雑さを認識することさえ頭が変だから不可能である。その意味合いの分析は言うまでもなくできないことだ。BRI、INTSC、大ユーラシア・パートナーシップの連動は、ワシントン・ベルトウェイ(ワシントンのお歴々)には忌み嫌われている概念である。

 もちろん、これらすべては、地政学的な変化をもたらす時点、つまりロシアが今週木曜日(4月1日)から「非友好的」な国からのガス代金をルーブル建てでしか受け付けないという時点で計画されたものである。

 大ユーラシア・パートナーシップと並行して、BRIは2013年に発足して以来、金融・経済、接続性、物理的インフラ構築、経済・貿易回廊など、複雑で統合されたユーラシアのパートナーシップのネットワークを徐々に構築している。BRIは、グローバル・ガバナンスの規範的基盤を含む制度の共同形成者としての役割も重要であり、NATO同盟の落胆は大きい。

脱西欧の時

 しかし今こそ、特にグローバルサウスは、ユーラシア圏における中露の全領域を視野に入れ始めるだろう。モスクワと北京は、グローバリズムのガバナンスを完全に打ち砕くまではいかないまでも、脱西欧化の共同推進に深く関与している。

 ロシアは今後さらに入念な制度構築を進めるであろう。つまり、ユーラシア経済連合(EAEU)、上海協力機構(SCO)、ポスト(旧)ソ連諸国によるユーラシア軍事同盟である集団安全保障条約機構(CSTO)を統合するのだ。ロシアと西側諸国との制度的・規範的分裂が不可逆的に進行している地政学的背景の中にあるからだ。

 同時に、大ユーラシア・パートナーシップは、ロシアを究極のユーラシアの架け橋として確固たるものにし、属国化したヨーロッパさえ無視しかねないユーラシア全域の共通空間を作り出すだろう。

 一方、現実の世界では、INSTCと同様に、BRIも黒海にますます接続されることになるだろう(マリウポリよ、こんにちは)。また、BRI自体も再評価される可能性すらある。中国西部を、西ヨーロッパの縮小する産業基盤へと結びつけることを重視するからである。

 北のBRI回廊、つまりシベリア鉄道を経由した中国=モンゴル=ロシア、およびカザフスタン経由のユーラシア大陸架橋、この二つだけを優遇する意味はないだろう。ヨーロッパが中世的な認知症に陥っているときに。

 BRIの新たな焦点は、かけがえのない商品、つまりロシアへのアクセスを獲得することと、中国の生産に不可欠な物資を確保することである。カザフスタンやアフリカの多くの国々のような一次産品の豊かな国々は、中国にとって将来の最重要市場となるであろう。

 コロナ以前の中央アジアを巡る旅では、「中国は工場や高速鉄道を建設し、ヨーロッパはせいぜい白書を書くだけだ」という話を常に耳にした。ヨーロッパは白書を書くのがせいぜいで、もっと悪くなることもある。

 アメリカの領土として占領されたEUは、今や世界の権力の中心から、取るに足らない周辺プレイヤー、つまり、中国の「運命共同体」のはるか周辺にある単なる苦闘する市場の地位にまで、急速に下降しているのである。

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ブチャで起こったことの真実はすぐそこにあるが、露見するにはあまりにも不都合な真実


ブチャで起こったことの真実はすぐそこにあるが、露見するには都合が悪すぎる
<記事原文 寺島先生推薦>
The truth about Bucha is out there, but perhaps too inconvenient to be discovered

ウクライナのあの町の市民虐殺事件について、本当は何があったかを知ることはたやすいはずだ。

RT 2022年4月4日

スコット・リッター


Scott Ritter is a former US Marine Corps intelligence officer and author of 'SCORPION KING: America's Suicidal Embrace of Nuclear Weapons from FDR to Trump.' He served in the Soviet Union as an inspector implementing the INF Treaty, in General Schwarzkopf’s staff during the Gulf War, and from 1991-1998 as a UN weapons inspector.

@RealScottRitter
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月8日



 「戦争における最初の犠牲者は真実だ」。このことばは紀元前6世紀のギリシャの悲劇作家アイスキュロスのものだ。彼は戦時には、「絵や神話からの引用や、おおげさなことばや、言葉遊びや、なぞなぞが多数使用される」としていた。「近代戦争におけるプロパガンダとはいかなるものか」について初めて語ったこのアイスキュロスはきっと、今のウクライナ情勢を見れば、自分のことばがそのまま通用している、と感じるはずだ。アイスキュロスが使った脚本手法を駆使し、キエフ政権と西側が繰り出している情報戦に助言を与えているものたちが共謀して、ウクライナのブチャという町で起こった近代悲劇をでっちあげた可能性はある。このことは、その場しのぎのごまかしのために嘘を利用するのではなく、戦争の武器として嘘を利用している一例になるだろう。

 ブチャで起こった悲劇に関する記事のおもな情報源は一本の動画だ。この動画はウクライナ国家警察が撮影したものだ。このウクライナ国家警察は、車でブチャの街の見回りをしていた警備隊の一つだ。その動画によると、10体以上の遺体が道路に捨てられていて、その死体の多くは縛られていたようだ。この動画は広く拡散され、多くの人々から苦痛と怒りの声を生み、その声は世界中に広まり、各国の指導者たちやカトリック教会の法王の関心の的となり、抗議と非難の声がロシアとロシアの指導者ウラジミール・プーチンに津波のように寄せられることになった。動画と、世界からの怒濤のような非難の声との間の因果関係ははっきりしている。非難の声が起こらなければ動画に存在価値はない。

 客観性を保つためにまず必要なことのひとつは、落ち着いて物事を見つめ直すことだ。感情に流されて事実を曲げて捉えていないかをしっかり確認することだ。ブチャの動画を見れば不安に駆られる。この動画は死後間もない状態のままで提示されているように見える。というのも、見た人の直感に「驚愕と畏怖」の気持ちを持たそうという、この動画を作った人の意図が見えるからだ。この動画に本当にその意図があるとしたら、この動画を発表した人々、つまりウクライナ国家警察は、自分たちが予想していた以上の成功をおさめたといえるだろう。場合によっては国家警察ではなく、国家警察に助言を与えた人々がそう思っているかもしれないが。

 (その映像にあった)死者たちにロシア軍が関係していたという判断がすぐになされたが、その事実を裏打ちするような事実は示されなかった。それでもその報道はすべての形態のメディア(大手メディアでもソーシャルメディアでも)でこだまのように広がっていた。「ロシアがやった」という決まり切った言説に疑問を唱えようとする者は誰でも、大声で制されて、「ロシアの手下」とか、もっとひどい言葉でけなされた。

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 「ロシアがやった」という結論が、興奮した一般大衆から導き出されたと考えるのは見当違いだ。垂れ流される言説が固定概念と全く一致しているこんなときこそ、客観性を保とうとしなければならない。その言説は慎重に前もって構築されてきたのだ。そしてその言説を構築したのは、今のブチャの話を何度も繰り返しているまさにその人々なのだ。観衆に批判的な思考をさせないよう前もって社会的に「手を打っておく」ことは非常に大事な手順なのだ。この手順を踏むことで、観衆は目の前に出されたものは何でもそのまま受け取ってくれるようになるからだ。その言説の中の事実が信じがたいほどおかしなものであっても関係なしに、だ。はっきり言おう。ウクライナ政府が言っているブチャの事件についての言説は、信じがたい内容だといえる。

 この言説を時系列で振り返って最初に気づかされる怪しげな点は、ウクライナで広められ、西側諸国も共鳴したこの言説をよく調べて見ると、言われている事実と食い違っている点だ。確実な事実は、ロシア軍は3月30日にブチャから引き揚げていることだ。ウクライナ国家警察がブチャに入ったのは3月31日で、その同じ日にブチャ市長が、ブチャが完全にウクライナ当局の管理下にあることを発表した。 市長や市長以外のウクライナ当局の役人の口から、ロシアが大量虐殺を行ったことを示唆する話は一度も出ていなかった。問題の動画がウクライナ当局から発信されたのが4月2日だった。その動画がその日に撮られたのか、その日よりも前に撮られたのかは不明だ。明らかなことは、動画で示された複数の画像は、市長が当初話していた内容と全く違っていた。

 この点に関して、ロシアは激しくこの言説を否定し、国連安全保障理事会に緊急の会議を開き、ロシア外務省がブチャにおける「ウクライナ兵士と過激派による挑発的な犯罪行為である」としたものについて話し合うよう要請した。国連安全保障理事会の代表は英国であり、英国の国連大使はロシアからの要請を拒否し、ウクライナ情勢についての話し合いは火曜日(4月5日)に予定されており、4月4日はブチャについての話し合いは持たないとした。

 安全保障理事会はこれまで、ウクライナ危機に関して起こった事件に関しては早急に会議をもつという対応を見せてきたため、今回のロシアからの要請のような重要な用件に関しても同様の対応を取ると推測する向きもあった。しかし今回、英国は、真実や正義の解明に関して早急に対応するという態度を見せていない。むしろ時間稼ぎをすることで、ブチャで起こったとされている虐殺行為のロシアへの政治的悪影響をさらに深めようとしているように見える。

 このような英国政府の作戦が表出している一例として、米国のジョー・バイデン大統領がこの件に関して見せた反応があげられる。「ブチャで何が起こったかはご存じですよね」とバイデンは記者に対して語り、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は「戦争犯罪者です」とも語った。バイデンはブチャの事件を利用して、ウクライナに届ける武器をさらに増やすべきだと主張している。「ウクライナへの武器供給は継続しなければなりません。ウクライナは戦争を続ける必要があるからです」とバイデンは語り、さらに、「すべての詳細な情報を集めて、事実を明らかにし、この件に関してロシアを戦争犯罪の罪で訴える必要があります」とも語った。

 実はこの発言を行った大統領の出身国は国際刑事裁判所には加盟していない。このことからも、批判的思考力を持ってこの問題を考える理由があると言える。

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Kremlin responds to Bucha war crimes claims

 バイデン大統領やウクライナ政府にとって幸運なことは、カリム・カーン(Karim Khan)国際刑事裁判所英国検察官長が2022年3月上旬に発表した声明によると、同検察官長はウクライナで行われたとされる戦争犯罪や人道に対する犯罪行為の捜査を開始したとのことだ。予想されることは、衆目を集めているブチャで行われたとされる残虐行為について、カーンが法医学団を派遣し、犯罪現場の検証を指揮し、被害者の検死を監視し、死亡時間や死因を特定し、被害者が死んだ場所は発見されたといわれている場所で間違いないかについてや、死体が別の場所からその場所に運ばれたのかどうかの確認が行われる可能性があるということだ。

 さらにカーンは、ウクライナ国家警察に聞き取りを行う権限が与えられる可能性がある。ウクライナ国家警察には、悪名高いアゾフ大隊を含むウクライナの極右勢力と密接な関係をもってきた歴史がある。特に関心が持たれるのは、ウクライナ国家警察に捜査命令が入り、同警察が、「ロシア軍がブチャを占領していた間にロシア軍に協力したとされたウクライナ市民たちにどんな扱いをしたか」についての捜査も行われるかもしれないという点だ。

 そのような捜査が行われたならば、ウクライナ政府が主張し、西側の従順なメディアも政治家たちも一体となって共鳴した言説とは食い違う結果が出るのはほぼ間違いないだろう。これこそがカーンがブチャの現場に赴こうとしていない一番の理由だ。考えられることは、カーンがブチャの虐殺の証拠を手にする機会が最終的に与えられた時には、ウクライナ政府の主張を打ち消すような論拠を出すことが事実上不可能になるくらい、ウクライナ国家警察が既にその証拠に手を加えているだろうということだ。

 ブチャで起こったことについての真実はすぐそこにある。しかし残念なことにその真実は、法医学的検証や現場検証を積極的に行う立場にいる人々にとって不都合な真実のようだ。ブチャを占領していた短期間にロシア軍に協力した罪を負ったとされる市民たちを、ウクライナ国家警察が殺害していたという事実が明るみに出て、国際法のもとでその犯罪の真の加害者が法廷に引きずり出された時には、真実追究の過程で米英両国政府が起訴された罪の共謀者として取り上げられることは間違いないだろうからだ。


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ウクライナの「ブチャ民間人死者」をめぐる事実経過(時系列)

ロシアとウクライナはブチャの民間人死者をめぐって非難合戦(TIMELINE)

<記事原文 寺島先生推薦>
Russia and Ukraine trade accusations over Bucha civilian deaths (TIMELINE)

ウクライナの都市ブチャで市民が死亡している映像が流れた後、西側諸国は直ちにモスクワに非難の矛先を向けた

RT
2022年4月4日 13:35

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月8日


キエフ州ブチャの破壊された道路で、死体の横を歩くウクライナ兵。©Mykhaylo Palinchak / SOPA Images / LightRocket via Getty Images

 ウクライナは、ロシア軍がブチャ市で行ったことは戦争犯罪だと非難している。しかし、モスクワはこの疑惑に根拠はないと主張し、ウクライナ政府がロシアを中傷するためにメディアを操っている、とほのめかしている。

 ブチャは、ウクライナの首都キエフの北西約10kmに位置する人口約3万5千人の小都市である。ロシア軍の攻撃が続いていた初期から、モスクワの軍隊がこの地域に駐留していたが、先週、撤退を命じられた。

 撤退の数日後、キエフはロシア軍がブチャで数々の残虐行為を行ったと非難した。モスクワはこの疑惑を否定し、ロシア軍を罠にはめようとしたと主張して、国連安全保障理事会を招集しようとしたが失敗した。

 先にロシアの対外情報機関は警告していた。キエフは、ウクライナ兵がロシア人捕虜を拷問しているように見える映像を重視しないように働きかけていると。さらにロシア軍は警告していた。西側諸国の世論、政治的意見を操作するために、ウクライナ側による挑発行為が行われる可能性があると。

 以下は、この事件がどのように展開されたかを時系列でまとめた経過報告である。

3月27日
ロシア人捕虜が拷問された映像の出現

 ウクライナ兵がロシア人捕虜の足を撃っているような映像がSNSで公開された。この映像は、欧米の一部の公人からの非難を含め、広く非難を浴びた。

 犯人はウクライナの超国家主義勢力のメンバーであったようだ。モスクワは、2月下旬にウクライナに軍事攻撃を行った際、このネオナチ部隊の存在を攻撃理由の1つとして挙げている。

3月29日
イスタンブールでの会談


 トルコ主催のロシア・ウクライナ和平会談後、ロシア軍が一部撤収を発表。

 モスクワは、会談での進展により、キエフ近郊での敵対行為を縮小する条件が整ったとし、ウクライナ政府への譲歩の意味もあると述べたが、多くの評者は、その譲歩する動機に懐疑的であった。ウクライナの粘り強い抵抗により、軍事的野心を減退させたことの反映であるとの主張もあった。

 ロシア側は会談で、捕虜への拷問映像の調査を要求し、犯人が捕まった場合は容赦しないとの姿勢を示した。ウクライナ側は真相究明を約束し、我が軍の兵士にそのような行為は許されないと述べた。

 しかし、何の行動も起こされなかったようだ。

3月29日
ロシア、ねつ造された動画に警告

 ロシア軍は、ウクライナ政府が超国家主義勢力に命じて、ロシア軍による民間人への犯罪の証拠といわれるねつ造ビデオを作らせたと主張した。

 ロシアのミハイル・ミジンツェフ将軍は、この映像は「大量殺戮、強盗、社会基盤への損害」においてロシア軍を有罪にするものであると主張した。

3月31日
ブチャ市長、市の解放を宣言

 アナトリー・フェドルク市長はビデオ演説で、「ロシアの怪物ども(原文ママ)から」街を解放したことを宣言し、ウクライナ防衛軍の大きな勝利と呼んだ。

 ロシア軍は前日同市から撤退した、と紛争を伝えるメディアとモスクワの双方が報じた。市長は祝辞の中で、ロシアの戦争犯罪とされるものには一切触れなかった。

4月1日
キエフの広報、被害の応急偽造処置

 ロシア対外情報庁(SVR)が発表したのは、ウクライナと英国の政府間で、拷問ビデオ疑惑の影響について協議する通信を傍受したことだった。

 ロシア対外情報庁は、西側諸国政府は「キエフによる国際人道法違反を認識しているが、加害者が責任を問われないようにすることを望んでいる」、と述べていた。

 この報告書は、ブチャ、もしくは戦争犯罪の証拠を捏造しようとする試みについては言及していない。


4月1日
ゼレンスキー、アゾフの本性は "見た目の通り "と語る


 ウクライナ大統領ヴォロディミル・ゼレンスキーは、Fox Newsとのインタビューで、アゾフ大隊のウクライナ人民族主義者の暗部を重要視していなかった。

 ブロードキャスターのブレット・バイアー(Bret Baier)氏は、アゾフのネオナチとの関係や残虐行為の疑惑が広く報道されていることについて、ゼレンスキー大統領に質問した。

 これに対してゼレンスキーは「アゾフ大隊の本質は見た目の通りだ」と述べ、かつては志願兵だった大隊がロシアに対するウクライナ防衛に貢献し、その後、国軍に統合された経緯を説明した。

4月2日
ウクライナの特殊部隊がブチャに配備される


 ウクライナ国家警察は、"破壊工作員とロシア軍協力者の排除 "と "ロシアによる戦争犯罪の現場視察 "のため、ブチャに特殊部隊連隊「サファリ」を配備したと発表した。

 ブチャにおけるロシアの残虐行為とされる証拠は、同日、同市から流出し始めた。同市からの映像は、私服姿の死体が散乱し、中には手を後ろに縛られているものもあった。

 キエフは、ロシア兵が撤退する前に市民を急いで処刑した、と主張した。ブチャの大規模な破壊は、ロシアがウクライナ人を大量虐殺しようとしたことを示していると、ウクライナのドミトリー・クレバ外相が主張した。4月3日、検察庁は同市から市民410人の遺体を収容したと報告した。

 欧米諸国は、ウクライナ側の主張を額面通りに受け止め、ロシアを非難した。

4月2日
矛盾する証拠


 ウクライナ軍司令官セルゲイ・コロトキク(Sergey Korotkih)が公開し、後に削除された映像には、ブチャのウクライナ軍が交戦規則について話し合っている様子が映し出されている。セルゲイ・コロトキクはベラルーシの市民であったが、2014年に悪名高いアゾフ大隊の隊列で戦うためにウクライナに戻った公然のネオナチである。ロシアでは、コロトキクは複数の殺人容疑で指名手配されている。

 戦闘員のひとりが、ウクライナ兵ならつけている「青い腕章をつけていない連中」を撃ってもいいかと尋ねているのが聞こえてくる。その答えは、「もちろん」というものだった。

 ブチャで殺害されたとみられる民間人の中には、白い腕章をつけていた者もいた。ロシア軍は、非戦闘員であることを示すために、すべての市民に白い腕章を着用するよう求めたとされる。

4月3日
ロシアがウクライナの主張を否定


 ロシア国防省は、軍隊の撤退から証拠が出てくるまでの3日間を不審な動きとして、キエフの主張を否定した。

 モスクワは、この非難は「挑発」であり、ウクライナ軍が市内に入った後に行った犯罪の証拠である可能性があると述べた。声明は、写真に写っているいくつかの遺体が明らかに死後間もない状態であることを指摘した。

 ロシアはその後、国連安全保障理事会の緊急会合を招集し、ブチャとロシアを中傷しようとする試みについて議論するよう求めた。

 モスクワは、月曜日(4月4日)の緊急会合の試みは、同じく常任理事国であるイギリスによって阻止されたと述べた。英国は、この会合は火曜日(4月5日)に開催されると発表した。
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クレムリンは学ぶことがないのか(ウクライナ、ブチャのプロパガンダ戦争)

クレムリンは学ぶことがないのか
(ウクライナ、ブチャのプロパガンダ戦争)
<記事原文>
The Kremlin Never Learns - PaulCraigRoberts.org
ポール・クレイグ・ロバーツ2022年4月5日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月6日

 ロシアは、「ウクライナが中立国であることに同意した、あるいは同意しようとしている」と考えて、キエフ周辺から軍を撤退させた。この軍隊はキエフを包囲し、その郊外を占領していた。
 ロシア軍が撤退するとすぐ、西側の「売春メディア」と政府議会からプロパガンダ(偽の大宣伝)が噴出した。
 「ロシア軍は敗北したから撤退し、その敗北に腹を立てて民間人を虐殺した」、アメリカがユーゴスラビア、アフガニスタン、イラク、リビア、ソマリア、シリア、ベトナムなどで犯したような、「戦争犯罪を犯した」というのだ。

 その違いは、ワシントンが戦争犯罪を犯すことを許されていることだ。なぜなら、ワシントンの犯罪は、民主主義を促進する行為に過ぎず、本当の戦争犯罪ではないからだという。

 もう一つの違いは、ワシントンの戦争犯罪は本物であるのに対し、ロシアの戦争犯罪はプロパガンダが作りだしたものだということだ。

 とはいえ、無実とはいえ、ロシア人は叩かれて当然だ。なぜなら、彼らはあまりにも愚かで、常に自分たちを悪者に仕立て上げられてしまっているからだ。あれだけのことが起こったのに、交渉の促進を意図したロシアの撤退が、敗北と戦争犯罪として報道されることをクレムリンが理解しなかったということはあり得るだろうか。クレムリンには有能な助言者がいるのだろうか? クレムリンには有能な助言者はいないのだろうか。西側諸国は正直で、事実を正直に報告し、平和的解決に向けたロシアの努力を尊重してくれると考えているようだ。ロシア軍が撤退すれば、プーチンの戦争犯罪の証拠として、死体あるいは死体を演じている人々の姿が西側メディアに流れることを、クレムリンの誰も理解していなかったとは、心外である。

 ブルームバーグ・ニュースがなぜ猛烈なロシア嫌いなのかは知らないが、ここにロシアのブチャ撤退に関するブルームバーグの全くの虚偽の報道がある。他の西側メディアも同じかそれ以上である。

(以下は記事からの抜粋)

 「世界中を憤怒させたこの民間人の大量虐殺に関して、ジョー・バイデン大統領は、米国と欧州連合がロシアを罰するためにさらなる制裁を検討する中で、ウラジーミル・プーチンを戦争犯罪で裁くべきであると述べた。EUは、ロシアがキエフ周辺から撤退した際に発見された、拷問や処刑の疑惑を含むウクライナの民間人に対する残虐行為を非難した。ウクライナによると、キエフ周辺の町で400人以上の民間人の死体が発見されたという。EUのジョゼップ・ボレル首席外務特使は、27カ国を代表する声明の中で、ブチャの通りに散乱している死体について、占領下のロシア軍を非難した。ロシア当局は、この地域を実効的に支配していた間に行われたこれらの残虐行為に責任がある」と、ボレルは述べた。ブチャの町や他のウクライナの町での虐殺は、これまでヨーロッパの土地で行われた残虐行為のリストに刻まれるだろう」と述べた。

(記事からの抜粋はここまで)

 ウクライナは、交渉で降伏条件を検討したとされるのに、ロシアの撤退を、ウクライナの自由戦士によってロシア軍が追い出したウクライナ軍の勝利であると宣言したのである。その宣言は、ロシアの要求に同意するようウクライナに圧力をかけるどころの話ではない。

 ロシア政府は、国連安保理にブチャの実情を調査するよう要求しているのに、このこともロシアが、アメリカが支配する国連からまたもやプロパガンダの一撃を受けることになったのだ。

 ワシントンの傀儡であるウクライナのゼレンスキー大統領からの、クレムリンがおこなっている交渉を支持する声明は一つもない。クレムリンは、無意味な交渉で戦争に負けることを選んでいるとしか考えられない。だとすれば、なぜクレムリンはさっさと降伏してしまわないのだろうか?

 ロシアのウクライナへの介入は、それが適切に行われていれば、いずれ核戦争に発展するロシアへの挑発を終わらせることができたはずだ。しかし、クレムリンは、自分たちの善意を示すことに固執し、悪魔のような西側が事実や善意など気にも留めないことを認識できなかった。 プーチンの善意によるウクライナへの限定的な介入がもたらしたものは、プーチンとロシアの完全な悪魔化であり、アメリカ大統領は、第二次世界大戦後のドイツの将校や高官と同様に、ロシアが無実である証拠があるにもかかわらず、プーチンを戦争犯罪人として裁くよう要求しているのだ。ニュルンベルク裁判と同じように、本当の証拠は必要ないのだ。西側では、娼婦メディアの主張だけが支配的である。
. 現在進行中の戦争はプロパガンダ戦争であり、クレムリンはこの点で完全に負けている。クレムリンの心理作戦の能力のなさは、ロシアの軍事的優位性をほとんど無意味なものにしている。

 ワシントンの戦争は冷酷に遂行される。結婚式、葬式、子供のサッカーの試合など、あらゆるものが爆撃され、粉々に吹き飛ばされる。西側諸国は、すべてを吹き飛ばさない戦争を知らないのだ。
 ロシアの軍事力を持ってすれば3日で成し遂げられたことが(プーチンが民間人の殺傷を避けるという良心的な戦術のため)今や41日目になっている。NATOによる「ロシアの侵略」というシナリオは初めから決まっており、プーチンの善意は相手側にはロシア軍を無能なものに見せるだけで終わった。
 こうして、プーチンによる撤退命令によって、キエフ側の挑発行為を迅速かつ決定的な行動で終わらせるチャンスは失われてしまった。

 次の挑発はフィンランドのNATO加盟か、中央アジアでのカラー革命の再挑戦か、それともプーチン、ラブロフ、ショイグが欠席裁判で有罪になる戦争犯罪法廷か。

 そんな中、クレムリンはNATOの敵国の経済を維持するために、ガスの輸出を続けているのだ。
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ナチス・シンボル(狼の罠)の下で :ウクライナの過激派イデオロギーの不愉快な真実

ナチス・シンボル(狼の罠)の下で :ウクライナの過激派イデオロギーの不愉快な真実

現代のウクライナ政治におけるナチスの影響は明らかで具体的なものであるが、西側の支持者は故意にそれを無視している

<記事原文 寺島先生推薦>

Under the Wolfsangel: The uncomfortable truth about radical ideologies in Ukraine

The Nazi influence on modern-day Ukrainian politics is clear, tangible, and willfully ignored by its Western supporters

オルガ・スハレフスカヤ 2022年3月15日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月2日


ヴォルフスアンゲルWolfsangel、ナチスのシンボル。2つの金属部品と接続チェーンで構成される、歴史的な「狼狩りの罠」に触発されたドイツの紋章。 上はウクライナ社会民族党の紋章


「右派セクター」のイベントの警備をしている、ウクライナのメンバー。2014年、キエフ










ナチス・ドイツでは、第2SS装甲師団 (1939–1945)、第4SS警察装甲擲弾兵師団 (1939–1945)、第34SS義勇擲弾兵師団 (1943–1945)、オランダ国家社会主義運動 (1931–1936)のシンボルであった。

 
ウクライナのキエフで、兵士と話す大隊幹部の首には、アゾフ義勇軍のシンボルが刺青されている。大隊のシンボルは、ナチス・シンボルの「狼の罠」を連想させる。© AP / Efrem Lukatsky

 ウクライナの建国に関する文書をざっと見ると、極めてヨーロッパ的で民主的な国家に見える。それこそ、多くの人がウクライナのネオナチについてのプーチンの話をレトリックやプロパガンダと見なす理由であろう。しかし、真実はもっと複雑で、「ウクライナの大統領はユダヤ人だから、すべての疑惑は真実ではない」と一括りにできるものではない。

英雄が誰なのか教えてください。そうすれば、あなたが誰なのかお教えしましょう

 
 マイダン後のウクライナで英雄として登場した歴史上の人物に、極右組織「ウクライナ民族主義者組織」(OUN)の過激派のリーダーであり思想家であるステパン・バンデラがいる。今日、彼の名を冠した通りがあり、人々は彼の名誉を称える歌を歌い、彼の肖像画を掲げている。

 1909年1月1日、ガリシア(当時オーストリア・ハンガリーの一部)に生まれたステパン・バンデラは、ポーランドで何度もテロ容疑で裁判にかけられた。1934年に死刑判決を受けたが、終身刑に減刑された。1939年まで服役したが、ドイツ軍のポーランド侵攻に伴い釈放された。

 

キエフ中心部で行われた、ステパン・バンデラの誕生日を祝う伝統的な恒例の松明行列の参加者。© Sputnik / Stringer

 バンデラは若い頃、民族主義的な組織でキャリアを積んできた。1928年、彼はウクライナ軍事組織に参加し、1929年にはウクライナ民族主義者組織の一員となり、すぐに影響力を持つようになった。1940年2月、同組織が2つの派閥に分裂した際にも、彼は力を発揮した。バンデラは、より急進的なOUN-B(民族主義的な若者から支持された派閥)の指導者となり、より穏健なメンバーはアンドリー・メルニクの派閥OUN-Mを支持した。


                                     バンデラ派OUN-Bの旗    


メルニク派OUN-Mの旗

 両派ともヒトラーの第三帝国を支持し、第二次世界大戦中はドイツ軍に協力した。バンデラは、ドイツ軍指揮下の「ウクライナ軍団」の創設を自ら交渉し、最終的に2つの部隊として編成された。一つはローマン・シュケヴィチが指揮するナハティガル大隊となり、もう一つはリチャード・ヤリーが指揮するローランド大隊となった。どちらも、ドイツ軍情報機関(Abwehr)の特殊作戦部隊ブランデンブルグ隊の指揮下にある小部隊であった。

 ナチス親衛隊SSのガリシア第一師団も、OUNとつながりのあるウクライナ系民族の志願者が中心となって徴兵された。師団の1個大隊はOUNメンバーのエフゲニー・ポビグシチー少佐が指揮をとっていた。現在のウクライナのプロパガンダでは、この師団はウクライナ反乱軍として描かれているが、これもOUNが設立した民族主義準軍事組織で、ナチスに協力し、OUN指導者のドミトロ・クリヤチキフスキーとロマン・シュケヴィチが指揮をとっていたものである。実際には、SS第1ガリシア師団はSS-Freiwilligen Division 「ガリツィア(現在のポーランド最南部からウクライナ南西部にまたがる地域の名称)」としてスタートしたが、1944年以降に第14SS武装擲弾兵師団と改名され、ナチスがウクライナ人「よりアーリア人らしい」と考えていたガリシア人だけからなるはずのものであった。しかし、OUN-Bは師団への潜入に成功し、一部の指導的地位を占拠した。

     
ナチス親衛隊  

「ルーシのライオン」をあしらった第14SS武装擲弾兵師団の師団章(ちなみに、仏の自動車会社プジョーもこのルーシを使っている)
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ウクライナの「尊厳の革命」は、いかにして戦争と貧困、極右の台頭を招いたのか

 バンデラのナチス的本質は、組織の決定によって強調されており、1941年の指示「戦時下におけるOUNの闘争と活動」の16項には、次のように記されている。

 「民族的少数民族は、以下のように分類される:。

 a) 我々に友好的なもの、すなわち、すべての奴隷にされた民族の構成員。

 b) 我々に敵対するもの――モスクワ人、ポーランド人、ユダヤ人。

 a) ウクライナ人と同じ権利を持ち、祖国へ帰ることができる者。

 b) 政権を擁護する人々を除いて、闘争の中で破壊されるべき人々:彼らの土地への再定住、まず第一に知識人の破壊、知識人はいかなる政府機関にも出入りは許されるべきではない。これにより広範に知識人が現れることを不可能にする、つまり、学校等へのアクセスも不可能にする。たとえば、いわゆるポーランドの村人たちを同化させる必要がある。特にこの暑くて狂信的な時代には、自分たちはウクライナ人で、ラテン式(ラテン教会によって採用された公の崇拝のカトリックの儀式、西方典礼)のものだけだと知らせ、強制的に同化させるのである。指導者を滅ぼせ。イド人(ユダヤ人を指す差別語)を孤立させ、サボタージュを避けるために政府機関から排除し、特にムスコヴィッツとポーランド人を排除せよ。もし、経済機構に或るイド人を残すことがどうしても必要なら、我々の警察官を彼の上に置き、わずかな違反で彼を清算することだ」

 生活の或る分野の指導者はウクライナ人でなければならず、外国人――敵であってはならない。イド人との同化は論外だ」。

*訳註:実際は「殺す」だが、「破壊する」「滅ぼす」「清算する」という婉曲的な表現を使っている。

 バンデラはこの団体の代表として、2010年1月20日にヴィクトル・ユシチェンコ元ウクライナ大統領から「ウクライナの英雄」の称号を授与されている。2010年2月17日、欧州議会は新たに選出されたヴィクトール・ヤヌコヴィッチ大統領にユシチェンコの行動を再考するよう求め、サイモン・ヴィーゼンタール・センター(ロサンゼルスに本部を置き、ホロコーストの記録保存や反ユダヤ主義の監視を行い、国際的影響力を持つ非政府組織)は「恥ずべき」バンデラ崇拝に「深い嫌悪」を表明した。

 2014年のクーデター後、ウクライナの新当局はヒトラーの協力者を美化するためのより組織的なアプローチをとった。2015年4月、「20世紀におけるウクライナ独立のための戦士の記憶の法的地位と永続化に関する」法律が採択され、その中でOUNとUPAが美化された。この記憶の永続化とは、記念施設の建設、重要な場所を協力者の名前に改名すること、芸術におけるプロパガンダなどを指している。2019年、ウクライナヴェルホヴナ議会は、記憶に残る日付と記念日の祝賀に関する決議を採択した。そのリストにはステパン・バンデラの誕生日が含まれている。1月1日には、ウクライナの各都市でバンデラを称える松明行列が毎年おこなわれ、キエフにはステパン・バンデラ通りが出現している。

 ガリシア親衛隊師団を称える行進の開催や記念碑の建立を妨げるものは、法律にはない。ウクライナの法律では、自治体当局の許可なく記念碑を建てることはできない。

学校における歴史神話とヒトラーユーゲント(ナチス青少年団)

 ウクライナのナチズムの精神を子どもたちに教育するのは、学校から始まる。特に、ミコラ・ガリチャンツの書いた歴史教科書は、ウクライナ民族の「アーリア人の起源」に直接言及しており、その存在を旧石器時代に直接さかのぼらせている。この教科書は2005年に出版された。

 ウクライナの教科書から「第二次世界大戦」への言及は完全に消えた。2020年の試験科目では、特定の「独ソ戦」だけが言及され、ヒトラー、バンデラ、ホロコーストなどへの言及は厳密に避けられている。ただし、例外もある。小学校5年生の教科書のあるバージョンでは、1939年4月1日、ヒトラーがこう述べたとされていることが記されている。「高貴なウクライナ人の苦しみを見ると魂が痛む……。ウクライナの共同国家を作る時が来た」。ウクライナの若者がドイツの都市を爆撃から守ったことを誇りに思う教科書もあれば、ヒトラー政権とスターリン政権はウクライナ人に対して等しく敵対的であったと断言する教科書もある。

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ウクライナのナチス。彼らは何者なのか、なぜこれほどまでに影響力があるのか、そしてなぜメディアは彼らを無視してきたのか。

 こうした矛盾は当然といえば当然だ。なぜなら、ウクライナの学校用歴史教科書は統一されていないからだ。ただ、教科書執筆者は「共産主義・国家社会主義体制の非難とその象徴の宣伝の禁止に関する法律」には従おうとしている。ところが、OUNやウクライナのギリシャ・カトリック教会とナチスの協力について言及する場合は、必ずしもこの法律に従っているとは言えないようである。

 例えば、V.VlasovとS.Kulchitskyが執筆した10年生の教科書には、首都大司教アンドレイ・シェプティツキーがユダヤ人を救ったと書かれている。そういった人には通常「世界の国々の中の正義の人」という称号が与えられる。ところが、イスラエルの世界ホロコースト記憶センター(Yad Vashem)は、シェプチェツキーにこの名誉を与えなかった。その理由は明らかだ。第二次世界大戦が始まると、シェプティツキーはヒトラーに手紙を送り、キエフの「解放」を支持することを表明しているからだ。またその教科書には、バンデラを「ウクライナ国権回復法」の発案者として挙げている。教師はこのことを格別に取り立てて学童に教えようとはしないが、ウクライナの街角ではこの文書を称えるお祭りポスターを見かけることができる。注目すべきは、この法律の3ページ目に次のように書かれていることである。

 「私たちは、ウクライナ国家が復興した暁には、アドルフ・ヒトラーの指導のもとにヨーロッパと世界に新体制を作りつつある国家社会主義ドイツと緊密に協力し、ウクライナ国民がモスクワの占領から解放されるように支援する。ウクライナの地で結成されるウクライナ民族革命軍は、同盟国ドイツ軍とともに、ウクライナの主権的統一国家と全世界の新体制のためにモスクワと戦う」

 しかし、学校が教えない分は、全国で活動しているウクライナのネオナチ組織が補っている。最も多いのはアゾフ大隊が組織するアゾベツ軍事キャンプで、7歳児から戦争と破壊工作を教えられる。訓練システム全体には、ナチスのシンボルやスローガンが散見される。特に、ウクライナの聖歌「何よりもウクライナ」は、「Deutschland über alles(ドイツよ、全てのものの上にあれ)」から直接派生したものである。

 

2015年8月14日、キエフのアゾフ大隊の基地で軍事訓練を受けるバカンス中の子どもたち。© Sergei SUPINSKY / AFP Japan

 2013年から2014年にかけてのユーロマイダンでの政権交代では、ウクライナのナショナリストが重要な役割を果たしたが、ナチスの精神による若者の教育は2014年よりずっと前に始まっていた。例えば、2006年にはエストニアで、NATO諸国出身の学芸員の指導のもと、テロや破壊工作の訓練がおこなわれた。2013年には、UNA-UNSO(ウクライナ民族会議 ― ウクライナ人民の自己防衛)もこうした訓練をおこなっていたと報告している。後者は最も古い組織の一つで、そのメンバーはグルジアやチェチェンでのロシア軍との戦争に参加した。過激派の訓練と「ウクライナの愛国者」は広く知られており、こうしたプロセスは国家の最高レベルで支援されている。例えば、ステパン・バンデラ全ウクライナ・トリズブ組織が主催するネオナチキャンプは、ウクライナ保安庁のヴァレンティン・ナリヴァイチェンコ長官の臨席があり、その栄誉に浴した。






デモ行進で「何よりもウクライナ」の横断幕を掲げた「アゾフ」極右活動家 © Pavlo Gonchar / SOPA Images / LightRocket via Getty Images

マイダンのナチス的側面とドンバスの残虐行為

 世界のメディアが、海外でもよく知られた親欧米政党のリーダーを中心としたウクライナのユーロマイダンを紹介していたその一方で、裏では極右組織である「右派セクター」が形成されていて、その傘下にはTryzub、Bely Molot(「白いハンマー」)、Patriot of Ukraine(「ウクライナの愛国者」)、Social-National Assembly(社会民族会議)、過激なサッカーファンなどががいた。

                                  社会民族会議の紋章

 これらの組織はいずれも、第二次世界大戦時のウクライナ民族主義者組織に思想的なルーツを持っている。Tryzub(ウクライナの国章:下)は、ウクライナ国家更新法の作者の妻でウクライナ議会の議員であったヤロスラヴァ・ステツコによって設立された。ウクライナ反乱軍司令官でナハティガル大隊の副司令官として悪名高いロマン・シュケヴィッチの息子、ユーリ・シュケヴィッチは、ウクライナ国民議会――ウクライナ人民自衛官を率いていた。彼はまた国会議員でもあった。スヴォボダ党の「立派な」民族主義者たちは、1991年の設立時に社会民族党(聞き覚えがあるだろうか?)という名称を選んだ。急進的な「ウクライナの愛国者」グループはこの党から生まれ、当初、その代表は元ヴェルホヴナ議会議長のアンドリー・パルビィだった。



 
「右派セクター」のイベントで警備に当たる「ウクライナの愛国者」のメンバー(2014年、キエフ ©ウィキペディア

 指導者たちの発言から、この「愛国者」たちが何を信じているのかがわかる。アゾフの副司令官オレグ・オドノロジェンコは、社会国民議会内でも指導的地位にあり、「ウクライナの愛国者」の背後にいる思想家の一人だが、「非白人」のいる国で白人支配を取り戻すことが必要であると考えている。そして、社会国民会議の共同創設者で、かつて国会議員を務め、現在は国民軍団(アゾフ大隊の政治部門)のリーダーを務めるアンドリー・ビレツキーは、ウクライナ民族の歴史的使命は、「セム人(=ユダヤ人)に導かれた亜人(普通の人間より劣る人間)に対して、白人の十字軍の先頭に立つこと」だと確信している。「ウクライナの愛国者」の「立派な」創設者であるオレーフ・チャフニボークも、2004年当時、「ユダヤ人問題」に対する自分の考えをはっきりと述べていた。

 反ユダヤ主義は、ナチスのイデオロギーとともに、ウクライナでも広がっている。ウクライナ連合ユダヤ教団が発表した2020年の報告書によると、ウクライナに住むユダヤ人の56%が、同国で反ユダヤ主義が拡大していると感じているそうである。この文書には、ウクライナ人の反ユダヤ主義的傾向を示す写真も多数掲載されている。

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ウクライナのリヴォフで、仮面をかぶったネオナチがロマ人のキャンプを深夜にナイフで襲撃し死者が続出した。
 
 この写真に写っている黒服の男たちは、ウクライナ内戦が勃発した後、ドンバスで「いわゆる反テロ作戦」を高いモチベーションで実行した中核グループの人たちだ。オレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行が、これらの準軍事大隊の設立を命じた。ウクライナのヴィタリー・ヤレマ第一副首相は、「マイダンの活動家や国家秩序の維持に貢献する部隊を国家警備隊に招聘する。これらの軍人は東部と南部に配備されるかもしれない」と述べた。

 ステパン・バンデラのイデオロギーの信奉者をDPR(ドネツク人民共和国)とLPR(ルガンスク人民共和国)に呼び寄せたことで、一般市民に対する数々の犯罪が発生し、国際組織はこれを無視することができなくなった。2015年9月、超法規的処刑に関する特別報告者によって、ドンバスとウクライナの他の地域で「右翼セクターのような潜在的に暴力的な民兵集団が少数残っており、公式の高い許容度のおかげで、一見して自らの権限で、完全に無罰で行動している」とする報告書が発表された。

 一方で、アムネスティ・インターナショナルからの発表の中には、エイダル義勇軍が犯した犯罪に関する報告書や、ウクライナ治安局(SBU)が適切な刑事手続きが踏まれないまま長期間(時には15カ月にも及ぶ)人知れず拘束し、弁護士や親族との面会を拒否したことに関する報告が含まれていた。後者の文書には、マリウポリ在住のアルテム(本名は伏せられている)がアゾフ大隊(ネオナチ組織「ウクライナの愛国者」から生まれた)に拷問されたときの、ぞっとするような詳細が記されている。彼は電気ショック、睡眠妨害、水責めなどの拷問を受けた。

 また、国連人権高等弁務官事務所は、アゾフ大隊の隊員とウクライナ軍の兵士が市民を略奪し、暴力を振るった複数の事例を挙げている。最も非道な暴力行為として、知的障害を持つ男性がアゾフ大隊とドンバス大隊の隊員の手で残酷な扱いとレイプを受けた事例があった。被害者の健康状態はその後悪化し、彼は精神病院に収容された。

 マリウポリでは、アゾフ大隊が秘密の収容施設を持ち、そこで複数の人々が拷問を受けたと報告されている。ウクライナSBU(ウクライナ保安庁)がこの作戦の隠れ蓑になっていたというから、この活動はウクライナの正式な政府によって支援されていたことになる。アゾフ大隊の元副司令官ヴァディム・トロヤンがウクライナ内務副大臣に就任し、アゾフ大隊自体も現在はウクライナ国家警備隊の部隊として内務省に仕えているとすれば、これ以上の証拠はないだろう。トロヤンが担当した警察改革は、スタッフの総入れ替えを伴うものであった。彼の命令で、ヤヌコビッチ前政権と一緒に働いていた警官たちは辞めさせられて、新人と入れ替えとなった。新入の多くは、ウクライナの紋章を掲げた省の玄関前で、ナチスの敬礼を披露しようと躍起になっていた。

 事実、キエフの当局者は第三帝国のシンボルに対する愛着を隠そうともしない。例えば、アゾフ大隊の徽章には、ドイツ国防軍やSS(親衛隊)の様々な部隊で非常に人気があった「ナチス・ドイツの紋章、ヴォルフスアンゲル(狼の罠)」のシンボルが含まれている。これはドイツ国防軍や親衛隊の様々な部隊で非常に好評だったもので、特に第2SS装甲師団ダス・ライヒが持っていた。







 アゾフ大隊のメンバーは、もう一つの有名なネオナチのシンボルであるSchwarze Sonne(黒い太陽、中央)をつけている写真も撮られている。ドンバス大隊の徽章(下)も同様で、ナチスの鷲(上)がノーズダイブ(急降下)攻撃をしているのが特徴である。


ドンバス地方への派遣を前に、キエフのソフィア広場でウクライナへの忠誠を誓うアゾフ大隊の兵士たち。© Sputnik / Alexandr Maksimenko


 さらに、ウクライナ議会は早くも2015年5月に「市民的および政治的権利に関する国際規約で規定されているいくつかの義務からの離脱について」という決議を採択している。この決議は、政権が対テロ作戦(ATO)地帯に住む住民に対しておこなった戦争犯罪の法的根拠となるもので、「対テロ作戦ATO」はウクライナのドンバスに対する戦争の公式の名前になっていた。

ナチス・インターナショナル(国際的に広がるナチ組織)

 キエフのドンバス戦争が始まった当初から、ウクライナ軍には国際的な傭兵が加わっていた。そのほとんどはネオナチ、極右、人種差別主義者である。アゾフ大隊は、極右のミサンスロピック師団とともに、この国際的なネオナチ・ゲリラ・ネットワークを組織する上で重要な役割を担った。

 国際的な傭兵たちは、早くも2015年にポルトガルでミサントロピック師団の訓練を始め、フランス、イタリア、ベラルーシ、カナダ、スウェーデン、スロベニア、アメリカの市民は、それ以前にドンバスでの戦争に参加していた。例えば、スウェーデン人のネオナチの狙撃兵、ミカエル・スキルトはアゾフ大隊に参加したという報道があった。ポルトガルの日刊紙パブリオは、カーサパウンド・イタリアにつながるイタリアのネオ・ファシスト、フランチェスコ・サヴェリオ・フォンタナがドンバスで戦い、イギリス、フランス、ブラジルからウクライナのATO作戦のための国際戦闘員を勧誘したと報じている。バルカン調査報道ネットワーク(BIRN)で活動するカナダのジャーナリスト、マイケル・コルボーンは、2014年と2015年にアゾフ大隊はクロアチアから少なくとも30人の傭兵が参加していたと報告している。左翼党派の要請によりドイツ政府が提供したデータによると、ドンバス戦に参加した外国人の総数は1000人を超え、そのうち約150人はドイツ人戦闘員であったという。

2015年8月14日、キエフで行われた競技会に参加したウクライナの極右ボランティア大隊「アゾフ」の新入生。頭皮にカラシニコフと「Misanthropic」の文字を描いたタトゥーをしている。© Sergei SUPINSKY / AFP Japan





 しかし、傭兵だけではない。アゾフ大隊は、欧米の極右・ナチス組織とも連携を強めている。クロアチアのネオナチやレイシストだけでなく、エストニア(EKRE)、フランス(Bastion Social)、ポーランド(Szturmowcy)、米国(ライズアバブムーブメント、上が紋章)、スウェーデン(ノルディック・レジスタンス運動)、イタリア(カーサパウンド・イタリア、下が紋章)の団体と接触しているのである。昨年、ライズアバブムーブメントの代表グレッグ・ジョンソンは、同じ志を持つ人々と会うためにキエフを訪れ、スウェーデンのノルディック・レジスタンス運動は、アゾフ大隊メンバーのインタビューを嬉々として掲載した。

 ドイツのメディアは、アゾフ大隊がドイツ国民民主党やDer III. Weg(「第3の道」政党)と密接な関係があると報道した。この関係はノルウェーにも及び、国民民主党本部のある建物はノルウェー人民族主義者のものである。ディー・ツァイト紙は、地元の民族主義者がアゾフ大隊とどのようにつながっているかを調査し、多くの共同プロジェクトについて明らかにした。調査では、アゾフのエレナ・セメニャカが8回もドイツを訪問し、積極的な役割を果たしていることが浮き彫りになった。中でも極右団体「ディ・レヒテ」に招かれ、「アイデンティティ主義運動」グループ(Identitäre Bewegung Deutschland)で講演をおこなったことがある。2018年にエアフルト近郊で、ネオナチ政党「第3の道」が主催するフェスティバルにて、彼女はウクライナの右翼ロックフェスティバル「Asgardsrei」を宣伝した。Asgardsreiは、ノルウェー、イタリア、ドイツ、アメリカなどの右翼過激派が出会い、意見交換できる最大級の民族主義的イベントである。観客の中にアトムワーフェン師団の旗を見かけることもあるほどである。

 



 ネオナチは国際的に密接かつ広範なつながりを持っているため、テロ事件だけでなく、ニュージーランドのモスク銃撃事件やカリフォルニア州のシナゴーグ銃撃事件など、憎悪や宗教に起因する犯罪の増加にも繋がっている。イタリアがジャーナリストのアンドレア・ロッケリ殺害事件を捜査していたとき、ドンバスでウクライナ側、具体的にはアゾフ大隊の一員として戦っていたイタリア人5人がいたことが明るみに出た。そのときには、ネオナチが100丁以上の銃だけでなく、空対空ミサイルまで保管している隠し場所が発見されている。当時、イタリアの副首相だったマッテオ・サルヴィーニ氏は、ウクライナの民族主義者が自分の暗殺を計画していると発言している。

 国連安全保障理事会のテロ対策委員会によると、2015年から2020年にかけて、世界では極右思想に関連するテロが320%増加したという。

 大きくは、ウクライナに「感謝」しなければならない。ロンドンに拠点を置くデジタルヘイト対策センター(CCDH)がウェブサイトで発表した調査報告書「Hatebook」は、ネオナチの活動を国際的に調整するためにソーシャルメディアが利用されていることを強調している。アゾフ大隊とミサンスロピック師団について、報告書にはこのように書かれている。



 「両グループは、欧米諸国に自分たちのイデオロギーを輸出し、信奉者を獲得し、暴力を扇動しようとしてきた。ネオナチの準軍事組織であるアゾフ大隊は、暴力的なライズ・アバブ・ムーブメントの米国人メンバーを受け入れ、訓練することを申し出ている。アゾフ大隊と密接に関連しているMisanthropic Division(右が紋章)は、テロ犯罪で起訴された米国と英国の国内過激派に影響を与えた」

 西側諸国はアゾフ大隊をテロ組織に指定しようと何度も試みたが、それは実現できていない。では、ここで質問だ。ウクライナでナチズムを支援することで誰が得をしているのだろうか?

 
オルガ・スハレフスカヤ:ウクライナ出身でモスクワ在住の元外交官、法学者、作家である

 

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ウクライナのキエフ政権は「公式には」ネオナチ政府となっていない
<記事原文 寺島先生推薦>
Ukraine’s Kiev Regime is not “Officially” A Neo-Nazi Government
Global Research 2022年2月25日

ミシェル・チョスドフスキー(Michel Chossudovsky)

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月10日


 2014年6月初出の本稿はUS-NATOの支援を受けた「キエフ政権とは何ぞや?」を論じている。

 2018年11月28日に更新。 

 ウクライナで起きていることは、地政学的に重大な意味を持つ。第三次世界大戦のシナリオにつながる可能性がある。

 エスカレーションを防ぐという観点から、和平プロセスを開始することが重要だ。

 グローバル・リサーチ社は、ロシアのウクライナ侵攻を支持しない。二国間平和協定が必要だ。

***

序論的メモと更新

 ケルチ海峡事件*以降、黒海流域の軍事化のプロセスが進行している。ウクライナでは戒厳令が敷かれている。

ケルチ海峡事件*・・・2018年11月25日にケルチ海峡で発生した国際事件。ロシア連邦治安部隊の沿岸警備隊が黒海からアゾフ海への通過を試みた3隻のウクライナ海軍船に発砲、捕獲した。(ウイキペディア)

 US-NATOの軍事援助は、ネオナチによって統合された連立政権であるウクライナ政権に間断なく供給される流れが形成されている。

 アメリカ、カナダ、イギリスの特殊部隊が軍事訓練に関わっている。

 キエフ政権に強力なネオナチの一派があることは、ほとんどの人が知らない。メディアがそれに一切触れないことが大きな原因だ。

 (政府内の行政機能を持つ)ウクライナ議会(Rada)の現在の議長であるアンドリー・パルビイ(Andriy Parubiy)は、ネオナチのウクライナ社会民族党(その後スヴォボダと改名)の共同創設者だ。

 国会の議長になる前、彼は国防省、軍隊、法執行機関、国家安全保障、そして情報機関を監督する国家安全保障・国防委員会(RNBOU)の長官を務めていた

 アンドリー・パルビイは、第二次世界大戦中にユダヤ人とポーランド人の大量殺戮に協力したウクライナ人ナチス、ステパン・バンデラ(Stepan Bandera)の信奉者である。

 そして、ネオナチのリーダーであるパルビィは、カナダ、アメリカ、EUに行くと、ごく普通に「赤い絨毯」待遇で迎えられる。そして、西側メディアは拍手喝采を送る。

 軍事援助が、ウクライナ軍とウクライナ国家警備隊に送られるルートができている。

 ウクライナがカナダに望むのは米国を説得して武器を送ってもらうことだ。

 アンドリー・パルビイは月曜日の独占インタビューでコメントを発表した。西側諸国にウクライナへの支援を説得するため、オタワとワシントンを訪問中とのことだ。目的は。停戦協定を一刻も早く結ぶという希望が見通せなくなっている中でウクライナへの支援を強めてもらうことだ。ウクライナ政府は繰り返し米国、カナダ、そして欧州にいわゆる防衛武器の供給を求めていた。東ウクライナでのロシアが背後にいる軍事組織との軍事対決の支援援助を考えている。

 パルビイ氏のオタワ訪問では、外相ロブ・ニコルソン(Rob Nicholson)とジェームズ・ベザン(James Bezan)(防衛副大臣)との会談が予定されている、とウクライナ大使館は語っている。パルビイ氏は、また、庶民院議長アンドリュー・シ-ア(Andrew Scheer)や他の国会議員との会談もすることになっている。

 「カナダは、ウクライナに関しては世界の中でリーダーのような役割を発揮してこられました。言行一致がカナダ流です。ですからウクライナ政策についてはこのカナダ流が世界のお手本となるでしょう」と通訳を通し、パルビイ氏はThe Globe and Mail紙に語った。

 同氏は「ウクライナは同盟国から武器提供を確実にいただく政治的約束を望んでいます。どの政府がどの武器を、というような技術的な詳細は後ほど検討すればよいことです。例えば、米国は質の高い兵器をお持ちですし、欧州各国はドローンとか通信機器などの提供で 一歩先んじられるでしょう」と語った。



Screenshot Globe and Mail February 23, 2015

 カナダのメディアは、いわゆる防衛兵器が、ネオナチ派の支配下にあるウクライナ国家警備隊のアゾフ大隊にも使用されることに触れていない。



パルビイとカナダ首相ジャスティン・トルード、2016年

ネオナチ訓練

 西側メディアがさりげなく無視しているもう一つの要素は、国家警備隊のアゾフ大隊(米国とカナダが資金提供)の後援による幼い子供たちのためのネオナチ訓練キャンプである。

 彼らのTシャツに描かれたウルフ・エンジェル・ナチスの徽章を見てほしい。



 本日、ネオナチのA.パルビイが議長を務めるウクライナ議会(Rada)が、30日間の戒厳令に賛成票を投じた(下の画像、演壇に立つポロシェンコ(Poroshenko)大統領、議長を務めるパルビイ)。


ミシェル・チョスドフスキー、グローバル・リサーチ、2018年11月

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 西側メディアには彼らの正体がわかっているのか?

 私たちには彼らの正体がわかっているのか?

 キエフ政府には「超保守派」が存在するが、「ネオナチではない」。西側メディアによると、これはすべて「第二次世界大戦時代の用語やイメージを使ったクレムリン主導の執拗な宣伝攻勢」の一部だという。

 しかし、代替メディアは、キエフ政権は2つのネオナチ政党(スヴォボダと右派セクター)が統合した「緩やかな中道右派連合」であり、「しかしネオナチ政権ではない」と認めている。スヴォボダと右派セクターはともにナチスの紋章を掲げている。

 緩やかな連合なのか? もし政府が公式にナチスの紋章を掲げたとしたら、それはその政府がナチスのイデオロギーにコミットしていることを示唆するものではないだろうか?

 キエフ政権が国家安全保障と軍事の組織を識別するためにナチスの紋章を「公式に」表示した場合、普通ならそれがネオナチ政権であると考えるだろう。

 以下は、ウクライナ軍の予備役と定義される国家警備隊[Національна гвардія України]のナチスの紋章である。内務省の管轄下で彼らは活動している。 国家警備隊は、いわゆる「ウクライナ国内部隊」の一部である。紋章は様式化された鉤十字である(下記参照)。


 もし、アメリカの州兵が鉤十字のようなシンボルを掲げたらどうなるか、想像してみてほしい。

 重要なのは、ウクライナの国家警備隊は、アメリカ式の民主主義を守るために、オバマ政権が直接資金を提供していることだ。

 アメリカ国民には知られていないが、アメリカ政府はネオナチ団体に資金援助、武器、そして訓練を供与するルートを作っている。

 ウクライナに関連して「ネオナチ」「ファシスト」という言葉を使うことはタブーなので、アメリカでは誰も知らない。これらは調査報道の辞書から除外されている。メディアの報道では、それらは「超保守的」「極右」「民族主義者」という言葉に置き換えられている。

 ウクライナ国家警備隊に所属するもう一つの組織はアゾフ大隊(Батальйон Азов)である。アゾフ大隊は、ナチス親衛隊の紋章を掲げており(下)、キエフ政権は「領土防衛のボランティア大隊」と説明している。内務省管轄の国家警備隊大隊である。 正式にはアゾフ海のベルディヤンクに拠点を置き、ウクライナ東部と南部での野党の反乱と戦うために政権によって編成された。米政権からの資金援助も受けている。

 
 ナチス親衛隊の紋章をつけたこれらの民兵は、ウクライナ内務省(アメリカの国土安全保障省に相当)がスポンサーになっている。

 彼らは何気なく「自由戦士」と呼ばれる

 それはすべて大義のため。「民主主義はどん詰まり」。

 ニューヨークタイムズの言葉を借りれば、「米国と欧州連合はここ(ウクライナ)での革命を、もう一つの民主主義の開花、旧ソ連圏の権威主義とクレプトクラシー(泥棒政治)への打撃として受け入れている」ということになる。(NYTimes.com, March 1, 2014).

 「ネオナチ的傾向」を持つウクライナ政府の樹立を「支持」することが、ホワイトハウスや国務省、米国議会における「ファシスト的傾向」の発生を意味するものではないことは言うまでもない。

以下はアゾフ大隊「自由戦士」の写真














Source of images: https://news.pn/en/public/104475

The original source of this article is Global Research
Copyright © Prof Michel Chossudovsky, Global Research, 2022

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英国諜報員のウクライナ危機への関与:偽旗攻撃の前兆

英国諜報員のウクライナ危機への関与:偽旗攻撃の前兆

<記事原文 寺島先生推薦>
British intelligence operative’s involvement in Ukraine crisis signals false flag attacks ahead


キット・クラレンバーグ
2022年3月24日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月5日


 影の英国諜報員ヘイミッシュ・ド・ブレトン=ゴードンはシリアで化学兵器欺瞞の最前線にいた。いま、彼は、ウクライナで、再び昔の手口を使っている。

 ロシア軍が東ウクライナに進攻し、キエフ包囲をワシントンとNATOの同盟国は傍観せざるを得ない中、米英当局は大規模な戦況拡大を引き起こしかねない厄介な戦術に打って出た。国務長官と国連大使による同様の主張に続き、ジョセフ・バイデン米大統領は、ロシアがウクライナで化学兵器を使用すれば、「厳しい代償」を払うことになると宣言したのだ。

 バイデン政権が発した警告は、米国が主導したシリアに対する汚い戦争においてバラク・オバマ大統領が発した警告と重なってきて背筋が寒くなってくる。

 オバマ大統領の「レッドライン」政策とは、シリア軍が欧米の支援を受けた反体制派を化学兵器で攻撃した場合にはアメリカは軍事的対応を必ず行うと警告するものだった。ところがオバマがこの政策を実施するやいなや、アルカイダ系の反体制派が(シリアによる)サリンや塩素による民間人への大量殺戮が行われたと主張するようになった。この結果、米英によるシリアの首都ダマスカスへの一連のミサイル攻撃が行われて、危機は長期化し、危うくイラクやリビアで見られたような政権交代に繋がる悲惨な戦争が引き起こされそうになった。オバマの「レッドライン」政策が「不運」と呼ばれる所以である。

 化学兵器の大事件のたびに、シリアの武装反体制派による演出と欺瞞の兆候が見られた。元米国中東大使がジャーナリストのチャールズ・グラスに語ったように、「”レッドライン”は偽旗作戦への公然の招待状だった」のである。

 2018年4月7日のドゥーマ市での事件では欺瞞の要素が特に明確となった。というのも、敗北寸前の反政府民兵がシリア軍による塩素攻撃で市民が虐殺されたと主張したからだ。

 しかし、化学兵器禁止機関(OPCW)のベテラン査察官たちは、シリア軍がそのような攻撃を行ったという証拠を発見できず、この事件はすべて欧米の介入を誘発するために仕組まれたものだと指摘した。この報告書はその後、組織の管理者によって検閲され、査察官たちは中傷と脅迫のキャンペーンにさらされることになった。

 シリア紛争を通じて、自称「化学戦士」のヘイミッシュ・ド・ブレトン=ゴードンは戦争を持続させ、欧米の軍事介入への圧力を高めた数々の化学兵器欺瞞に深く関与していた。

 今年2月24日、ロシア軍がウクライナに進駐した直後、ド・ブレトン=ゴードンは再び英国のメディアに登場し、ロシアがウクライナの市民に対する化学攻撃を準備していると主張した。それ以来、彼は自分が書いた指南書『化学攻撃から生き残る方法』をウクライナ人に提供するように要求している。



 では、ド・ブレトン=ゴードンとは何者なのか。そして、ロシア・ウクライナ戦争の専門家として突然現れた彼は、危険な米英のレッドライン政策への回帰を示す前兆なのだろうか。

戦争勃発の数時間後、「化学戦士」は西側の介入拡大を要求する

 ロシアのウクライナ侵攻が間近に迫っているとの憶測が数ヶ月間流れた後、そして、それが2月24日の早朝、ついに現実のものとなったとき、ほとんどの人は全く意表を突かれた。メディアや専門家たちは話を整理しようと奔走し、西側諸国の指導者たちはまとまった「対応策」を構築しようと急いだ。

 これとは対照的に、英国メディアが「元スパイ」と認定した英国陸軍の退役軍人、ハミッシュ・ド・ブレトン=ゴードンは、そのような混乱に陥ってはいなかった。彼は3時間も経たないうちに『ガーディアン』紙に激しい論説記事を準備し、アメリカとヨーロッパに「プーチンの侵略に直面して断固とした決断力を示す」ことを要求した。プーチンはこれまでよりもずっと強く「NATOと対決する気がある」と警告し、西側は「シリアでは黙って見ていたが、ウクライナでは同じことをしてはならない」と非難した。

 「シリアで起こったことは、見て見ぬふりをし平和主義者に過度に影響されているとどうなるかを示している」と、ド・ブレトン=ゴードンは憤慨した。「過去30年間、イラクやアフガニスタンへの介入に携わった私たちは、シリアを見て、もっとうまくやるべきだったと思う。その知識が、今のプーチンの侵略に対する我々の対応に反映されるはずだ」。

 実際、米国とその同盟国はシリアで傍観していたわけではない。ジハード主義の準軍事組織を使った10年間の代理戦争とダマスカスへの空爆を行い、シリアの石油産出地域を占領し、シリア国民に深刻な制裁を加えた。この制裁は今日に至るまで、シリア国民から食糧、電気、必要な医療品を奪っている。

 すべての人々の中で、ド・ブレトン=ゴードン (彼のTwitterの以前のプロフィールには、彼が英国陸軍の公式心理戦部門である第77旅団のメンバーであると特定できる記載があった)ほど、これらの恐怖の内実を知ることができる特異な位置にいる人はいないだろう。結局のところ、彼は化学兵器事件に関連する情報を管理することによって、汚い戦争を促進し、拡大する上で中心的な役割を果たした。

操作、不条理、明白な詐欺

 当グレイゾーンが明らかにしたように、ド・ブレトン=ゴードンのシリア紛争への関与は、少なくとも2013年にさかのぼる。その頃、彼は反体制派の占拠している地域から土のサンプルを密輸するために秘密裏に行動していたことを自らが認めている。この仕事から考えると、彼は必然的に、NATOの訓練と武器の恩恵を受けながら、西側の資金をかき集めるジハード主義者の要素と非常に近い場所にいたことが分かるだろう。

 当時のメディアの報道によると、ド・ブレトン=ゴードンがシリアに滞在していた、まさにその時期に、英国のMI 6がシリアでサンプル収集に従事していたことが明らかになっており、彼が外国の諜報機関とのつながりがあったことが強く示唆される。ある記事では、この土壌サンプル採集の目的を明確に指摘している。すなわち、そのサンプルは、化学兵器攻撃の疑いがあったときにそれが間違いなくシリア政府によるものだと言える根拠となり、米国に介入を迫ることを可能にするということだ。

 他の形態の証拠もまた、ド・ブレトン=ゴードンによって現場で収集され、化学攻撃に関する多くの公式調査に提供されている。ただ、少なくとも一つの事例、彼がアレッポで設立した怪しげな組織であるCBRNタスクフォースが提出したビデオでは明らかな改ざんが見られた。なお、これは、2014年4月に化学兵器禁止機関のOPCW / UN共同調査メカニズム(JIM)がタメネスであった化学兵器攻撃とされるものについて調査して分かったことである。

 また、デド・ブレトン=ゴードン氏は、彼の持っている化学兵器の専門知識をさらに疑われるようになった。というのも、英国のメディアに対して「一般的な冷蔵庫であれば化学兵器に変身させることができる」「庫内の冷媒用円筒にはR22(クロロジフルオロメタン)が含まれていて、それは即席の塩素爆弾を作る材料になる」といった虚偽の主張をしたからだ。



 ド・ブレトン=ゴードンはイギリスのタブロイド紙に、ロシアはソ連時代の致死性の高い化学物質ノビチョクを含むミサイルや手榴弾を「将来の西側との戦争に配備できる」とまで主張している。

 しかし、このようなばかばかしい発言や詐術がド・ブレトン=ゴードンの信用を落とすことはなく、それどころか、彼の知名度は上がる一方である。というのも、メディアが必ずと言っていいほど、彼を「命をかけて地元の医師や救助隊員を訓練する勇敢な人権擁護者」として紹介しているからである。

 しかし、ド・ブレトン=ゴードンが欧米の記者たちをMI6の土壌収集活動に直接巻き込んだことは何度もある。例えば、英国外務省が資金援助しているNGO、ウィルトン・パークとの2014年のポッドキャスト・インタビューで、彼は、ロンドンタイムズ紙が報じた「シェイク・アル・マクスードの町でシリアの化学攻撃があった」という記事に関わっていたと自慢している。

 「昨年3月、シェイク・アル・マクスードでサリン攻撃があり、私はタイムズ紙(アンソニー・ロイドという記者。非常に悲しいことに2週間前に彼は射撃された)の取材に協力し、分析用のサンプルを英国に運ぼうとした...その詳細は言えませんが」と彼は振り返っている。

 キャメロン首相(当時)は、ダマスカスへの圧力を強めるために、「合同情報委員会が私に説明した写真」を引き合いに出して、シリア軍による同町への化学兵器攻撃があったと主張した。

 シリアでの汚い戦争の間、ド・ブレトン=ゴードンは日常的にメディアに登場し、ガス攻撃や戦争犯罪はシリアやロシア軍に起因すると述べて、将来の西側との紛争への影響についての恐怖を訴えた。

 恐怖をあおり立てる仕事については、ブレトン=ゴードンは、ウクライナ戦争を通じて、欧米諸国への脅威を積極的に誇示する役割を熱心に再開している。彼のメッセージは米国政府のメッセージとぴったり連動している。米国は、ロシアの軍事作戦の数カ月前から、差し迫った大量破壊兵器の攻撃に備えてウクライナの治安部門を準備する計画を開始していた。



戦争の数カ月前、米国はウクライナ人に「大量破壊兵器攻撃の標的」の脅威を教育した

 2021年5月、国務省は、ワシントンがキエフの国内治安当局、法執行機関、初期対応者を含む「提携者」とともに「仮想訓練」を行ったと発表した。その訓練は「大量破壊兵器に絡んだ暗殺を特定、対応、調査する」ものだった。それは「政府公認で行われる、大量破壊兵器で狙い撃ちする攻撃の真の脅威」が「最近のヨーロッパでの出来事」で浮き彫りになっているという理由から行われた。

 その過程で、ウクライナ人は「大量破壊兵器の使用を示す医学的症状、大量破壊兵器による暗殺計画に関する攻撃手順、大量破壊兵器の事件を安全かつ確実に検知、対応できる具体的な手段を特定する」ことを指導された。

 なぜこの時期にこのような指示があったのか、記者発表で言及された「欧州での最近の出来事」がどの事件をさしているのかと同様に、その理由は不明である。おそらく国務省は、2020年8月にロシアの野党政治家アレクセイ・ナワリヌイがノビショクという毒を盛られた事件を暗示しているのだろう。その暗殺の失敗が、どのような理由で「大量破壊兵器による標的攻撃」に対処するための複数機関の大規模な訓練を必要としたのかは、誰にもわからない。

 これは重要なことである。なぜなら、紛争が始まって以来、キエフは自分の目的を推し進めるために限りない熱意を示してきたからだ。嘘をつき、出来事や事実を歪め、ときには全くの作り話をあからさまに捏造さえしてきたのだ。

 米国の訓練計画の目的が何であれ、ウクライナの警備担当者は「大量破壊兵器の材料を示す医学的症状」を正確に特定する訓練を受けたと主張できるようになったのである。

 ウクライナの宣伝工作員によって進められた最も危険な主張は、ド・ブレトン=ゴードンという似非権威によって補強されたのだ。彼は「ロシアによる化学兵器攻撃は絶対に避けられない」と言っているが、その主張の根拠は「ロシアにはモラルも良心もない」という彼の思い込みから来ているにすぎない。

 この自称化学兵器の専門家は、プーチンが核兵器を配備したり、エボラ熱を発症する兵器で「COVIDよりも致命的な」パンデミックを引き起こす可能性があるとさえ警告するまでになった。彼はさらに推測する。ロシア軍は、ペンタゴンから資金提供を受けたウクライナの生物化学研究所のひとつから押収した致死性のウイルスを放出し、それはアメリカがやったのだと言うのではないか、と。

シリアからウクライナへ、同じことが再び起こっている

 3月10日、ド・ブレトン=ゴードンは戦時下でよく登場する専門家の一人としてロンドンのLBCラジオ番組に出演し「現段階でテーブルから外れるものは何もない」と語った。彼が予測した恐怖の中には「町や都市に火をつけるための」白リン弾の使用も含まれていた。

 ド・ブレトン=ゴードンは、その確信を正当化するために「大きな都市や町を最終的に占領する唯一の方法は、化学兵器を使うことだ」と力強く主張した。彼はシリアを例に挙げてその考えが正しいと述べたが、自分が果たした重要な役割については触れなかった。彼は証拠の操作やメディアによる科学的根拠のない恐怖の煽りによってこの紛争を激化させた張本人だったのだ。

 そして今、ド・ブレトン=ゴードンは、核武装したロシアとの紛争の緊張を拡大させようとする積極的な動きを見せる中心人物として再び姿を現わした。シリアで彼が果たした役割から考えれば、一連の独善的な欺瞞が進行中である可能性がある。


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コロナウイルス「ワクチン」の推進者を、ニュルンベルク綱領違反、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略の罪で、国際刑事裁判所に告訴

ローマ条約制定規則、第15条.1および第53条

<記事原文 寺島先生推薦>
Before the International Criminal Court (ICC). The Corona Virus “Vaccines”. Nuremberg Code, Crimes against humanity, War Crimes and Crimes of Aggression”

Treaty of Rome Statute, Art. 15.1 and 53


ハンナ・ローズ、マイク・イェードン博士、ピアーズ・コービン、他。

グローバルリサーチ、2021年12月30日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年4月3日




国際刑事裁判所

検事局

連絡先

私書箱19519号

2500 CM ザ・ハーグ

オランダ

EMAIL: [email protected]

告訴の件名

・ニュルンベルク綱領に違反する行為

・ローマ規程第6条違反

・ローマ規程第7条違反

・ローマ規程第8条違反

・ローマ規程第8条追加条文3違反

 広範な主張と同封の文書に基づき、我々は、英国におけるニュルンベルク綱領の多数の違反、人道に対する罪、戦争犯罪および侵略の罪の責任者を告発するが、これらの国々の個人に限定されるものではない。

加害者:

 英国首相 ボリス・ジョンソン、イングランド最高医学責任者兼英国政府最高医学顧問 クリストファー・ウイッティ、(前)保健社会福祉省長官 マシュー・ハンコック、(現)保健社会福祉省長官 サディド・ジャビッド、医薬品・医療製品規制庁長官 (MHRA)ジュン・レイン、世界保健機関(WHO)事務局長テドロス・アダノム・ゲブレイェソス、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団共同会長 ウィリアム・ゲイツ3世、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団共同会長 メリンダ・ゲイツ、ファイザー会長兼最高経営責任者アルバート・ブーラ、アストラゼネカ最高経営責任者ステファン・バンセル、モデルナ最高経営責任者 パスカル・ソリオ、 ジョンソン&ジョンソン最高経営責任者アレックス・ゴルスキー、 ロックフェラー財団理事長 ラジブ・シャー、 国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長 アンソニー・ファウチ、世界経済フォーラム創設者兼会長 クラウス・シュワブ、 エコ・ヘルス・アライアンス会長 ピーター・タザック博士
 
被害者(複数): イギリス国民

告訴者

・ハンナ・ローズ(Hannah Rose) 弁護士、人権活動家

・マーク・イエィドン博士―毒物学における生化学の学位と呼吸器薬理学における研究ベースの博士号を持つ有資格の生命科学研究者、元ファイザー社アレルギーおよび呼吸器研究部門の副委員長兼科学者長。

・ピアーズ・コービン - 天体物理学者、活動家(労働党党首ジェレミー・コービンの兄)

・マーク・セクストン - 元警察官

・ジョン・オーロニー - 葬儀屋、活動家

・ジョニー・マクステイ - 活動家

・ルイーズ・ショットボルト - 看護師、人権活動家

 法定代理人および連絡先

 本手続きにおける申請者の代理人は、ハンナ・ローズが務めます。

電子メール:[email protected]

 従って、その後のすべての通信は、上記の電子メールアドレスにのみ送信されるものとします。この方法で送られた当裁判所に関わる通知は、有効とみなされます。

 


検察官殿

 本書簡と告訴状は、2000年10月4日に国際連合事務総長に寄託された国際刑事裁判所のローマ規程への英国の加盟に基づき、検察官事務所に提出されたものです。

 私たちは、地元の英国警察や英国の裁判所を通じてこの事件を提起しようとしましたが成功せず、何度試みても警察にも裁判所にも事件として登録されることはありませんでした。

 ICC(国際刑事裁判所)規約が宣言しているのは、「ICCは各国の刑事制度を補完するものであり、それに取って代わるものではない」ということです。ICCは、国家が捜査や訴追を行うことを望まず、あるいは行えない場合にのみ訴追する(17条1項)」と宣言しています。このようなケースであるからこそ、私たちはICCに直接訴えています。

A. 背景

 コロナウイルス「ワクチン」は、新しい医療行為であり、ヒト医療規則法(2012年)第174条に基づく一時的な認可を受けただけです。この治療法の患者への長期的な影響と安全性は不明です。

 コロナイルス「ワクチン」は、合成m-RNA技術を世界で初めて導入したものであり、これまでのすべての予防接種とはまったく異なる方法で行われていたことに注目することが重要です。これまでのワクチンは、不活性化または弱毒化したウイルスを体内に挿入して、それに対する免疫系の自然な覚醒を誘発するという方法です。マイク・イェードン博士が詳述した、この革新的な医療によって予想されるリスクは、本要望書の付録1として本書に添付されています。

 COVID-19ワクチンの第3相臨床試験はすべて進行中であり、終了するのは2022年末から2023年初頭の予定です。従って、このワクチンは現在実験的なものであり、限られた短期間の安全性データしかなく、成人の長期的な安全性データはありません。さらに、このワクチンは、これまでヒトへの使用が承認されたことのない、まったく新しいmRNAワクチン技術を使用しています。mRNAは事実上プロ・ドラッグ(投与後体内で活性化する薬品)であり、個々人がどれだけのスパイクタンパク質を産生するかは不明です。遅発性の副反応が現れるには、数ヶ月から数年かかる可能性があります。今まで行われてきた子供向けの臨床試験の数は限られていますが、まれではあるが深刻な副作用を除外することは全くできていません。

  Covid-19「ワクチン」はワクチンとして分類される要件を満たしておらず、実際は遺伝子治療です(添付文書8)。メリアム-ウェブスター辞書は、COVID-19 m-RNA注射も含むように、「ワクチン」という用語の定義を静かに変更しました。2021年2月5日、ワクチンの定義は、新型コロナウイルス感染症注射に適応するよう特別に変更されました。この告訴の共同申請者であるマイク・イェードン博士は、新型コロナウイルス感染症注射を「ワクチン」と呼ぶことは、人々に臨床治療についての情報を、操作した嘘の情報を人々に伝えることになると主張しています。これはワクチンではありません。感染を防ぐものでもありません。人体が毒素を作るように徴発され、その後、何らかの形でそれに対処するのに人体を慣れさせるという手段です。しかし、免疫反応を引き起こすワクチンとは異なり、この注射は毒素の製造を誘発させるものです。MRNA注射は、細胞の機能を使って、ウイルスのスパイクタンパク質に似たタンパク質を合成します。このスパイクタンパク質とは、ウイルスがACE2受容体を介して細胞に侵入するときに使われるものです。そして、これらのタンパク質は免疫系によって識別され、免疫系はそれらに対する抗体を作ります。しかし、これらのタンパク質が、生殖腺などACE2受容体が多く存在する部位に蓄積されることが懸念されています。もし、免疫系がこれらのタンパク質が蓄積している場所を攻撃すれば、自己免疫疾患を患うことになるかもしれません。

PCR検査

 オックスフォード大学の科学的根拠に基づく医療センターの報告(付録2)によると、標準的なPRCテストは非常に感度が高く、死んだウイルス細胞の断片を拾い上げることで以前罹患していた感染症も検出できることがわかりました。元来、生物試料中のDNAやRNAの存在を検出するために開発されたものですが、ノーベル賞を受賞した発明者キャリー・マリスでさえ、PCRは決して病気を診断するためのものではないと宣言しています。PCRは単に特定の遺伝物質の存在を検出するものであり、それは感染を示す場合もあれば示さない場合もあります。キャリー・マリス博士が言うように、PCR法は誰にでも、ほとんど何でも見つけることができます。PCR検査では、回転数を増幅することによりウイルスRNAを検出します。サンプルは化学的に増幅され、検出できるまでRNAのコピーを増やすことが繰り返されます。「回転数」が1回増えるごとに、サンプル中の分子数は2倍になります。十分な回転数を実行すれば、どんな物質でも効率よく1分子を見つけることができます。イングランド公衆衛生局(PHE)の方針では、回転数の閾値(いきち)は約25.6回であるべきで、もし機械がサンプルを検査の検出限界まで持っていくために25から35回転(付録2a)以上実行しなければならない場合、サンプルには臨床的に問題となるほどのウイルスが含まれていないことが確認されています。



 私たちは情報公開請求により、現行のPCR検査では40~45回の回転数で行われているという情報を得ました(付録3、3a、3b、3c)。この閾値では回転数か多すぎて、元のサンプルにコロナウイルスRNAがなくても陽性になる可能性が高くなります。PCR検査は全く信頼できないことに加え、発癌性のあるエチレンオキシドを含んでいます。(付録48)




(訳注)ローマ規定からの一部抜粋

第15条 検察官

1検察官は、裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪に関する情報に基づき自己の発意により捜査に着手することができる。(以下略)

第53条 捜査の開始

 1 検察官は、入手することのできた情報を評価した後、この規定に従って手続きを進める合理的な基礎がないと決定しない限り、捜査を開始する。検察官、捜査を開始するか否かを決定するに当たり、次の事項を検討する。(以下略)

ローマ規程第6条 集団殺害犯罪

 この規定の適用上、「集団殺害犯罪」とは、国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う次のいずれかの行為をいう。(以下略)

ローマ規定第7条 人道に対する犯罪

 この規定の適用上、「人道に対する犯罪」とは、文民たる住民に対する攻撃であって広範又は組織的なものの一部として、そのような攻撃であると認識しつつ行う次のいずれかの行為をいう。(以下略)

ローマ規程第8条 戦争犯罪

 裁判所は、戦争犯罪、特に、計画若しくは政策の一部として又は大規模に行われたそのような犯罪の一部として行われるものについて管轄権を有する。(以下略)

ローマ規程第8条追加条文3 侵略の罪

(以下略)
リンクローマ規程の全文については外務省のホームページの中の以下の部分を参照して下さい。treaty166_1.pdf (mofa.go.jp)

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ハンター・バイデンがウクライナの生物研究所に資金を出していた証拠メールが発覚

ハンター・バイデンがウクライナの生物研究所に資金を出していた証拠メールが発覚
<記事原文 寺島先生推薦>

HUNTER BIDEN DID FUND UKRAINE BIOLABS, EMAILS PUBLISHED BY MEDIA SUGGEST

Daily Telegraph NZ
2022年3月26日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月1日



 しかしデイリー・メール紙は、この報道は調査の結果ロシアによるプロパガンダであると考えられたため、取り下げるとしている。

 ハンター・バイデンが手放したノートパソコンに関わる嫌なニュースが再び脚光を浴びている。それはロシア軍が主張していた内容を裏付けるメールがそのパソコンに入っていたと報じられたからだ。ロシア軍の主張では、米国大統領の子息がウクライナの生物研究所での危険な病原菌についての軍事研究の資金提供に関わっていたとしていた。

 ハンター・バイデンは数百万ドルをメタビオタ社に投資していた。この会社は国防総省の請負業者であり、生物兵器として使用できる複数の流行性の病原菌の研究を専門としていた。これは英国のデイリー・メール紙が3月25日に報じたもので、その証拠となる新しいメールや書簡をパソコンから入手したとのことだ。 さらに、ジョー・バイデン大統領の息子とローズモント・セネカ社という会社にいる彼の仕事仲間たちがその契約に50万ドルを投資していたことも分かった。

 少なくともひとつの文書から分かったことは、メタビオタ社がウクライナに関してもっていた関心は、研究や利益獲得以外にもあったという事実だ。契約社の重役の一人メアリー・グッチエリ(Mary Guttieri)は、ハンター・バイデンに宛てた2014年4月の短い書簡でこう記していた。「私たちのチームワークや繋がりや考え方を使えば、ウクライナの文化や経済をロシアから自立させ、西側諸国に組み込むことが可能になるでしょう」と。

 それ以外の書簡からも、ハンター・バイデンはメタビオタ社やウクライナのガス会社のブリスマ社などが関わる「科学研究」に力を入れていたことも分かった。ブリスマ社はハンター・バイデンが重役をつとめ、何百万ドルもの利益を得ていた会社だ。ハンターの給料は父が副大統領を降りた2017年1月半分に削減された。

 この報道は、ロシア軍当局が「米国の複数の外交員やハンター・バイデンも含めた民主党で高い地位にある人たちがウクライナの生物兵器研究に関わっていた」という声明を出した翌日に出された。ロシア軍当局は旧ソ連内共和国のウクライナでロシア軍兵士が入手した文書を証拠として出していた。

 しかし西側のメディアの中にはこの主張を「ロシアがウクライナ侵攻を正当化するためのプロパガンダだ」として斥けているメディアもある。多くの場合ロシア軍の主張は、米国政府からの反応も含めてまともに取り上げられることなく、無視されるか嘲笑の的にされていた。例えば、米国デイリー・ビースト紙はこんな見出しを出していた。「ロシアがとんでもない話をでっち上げ」。また米国政府が資金を出している ラジオのNPR局などのメディアも、ロシア軍によるこの非難を「偽情報」や「プロパガンダ」だとしていた。ディリー・メール紙自体も最新のハンター・バイデンのメールを入手する前には、生物兵器についての主張をロシアのでっち上げだと報じていた。

 今回のロシア軍による発表の反応は、2020年10月に見られた反応の再現だった。当時ニューヨーク・ポスト紙は、バイデン一族が海外で権力濫用を行っていたという暴露記事を出した。その際証拠としていたのはハンター・バイデンがデラウェア州の修理所に出していた自身のノートパソコンから入手した複数のメールだった。しかしこの記事の拡散はソーシャル・メディア上で阻害された。その後ポスト紙はソーシャル・メディア上で検閲の対象となり、紙媒体メディアの報じ方は、この醜聞はロシアによる偽情報拡散作戦の結果だというものだった。

 このノートパソコンのスクープが初めて出された時は、バイデンが大統領に選出される数週間前に事実上粉砕された。ニューヨーク・タイムズ紙がこのノートパソコンとその中身が本物であることを認めたのはつい先週のことだった。

 政府の記録によると、メタビオタ社は国防総省との契約で1840万ドルを手にしていたとデイリー・メール紙は報じている。メールから分かったことは、ハンター・バイデンは契約者が「新しい顧客」を得られる援助を申し出ていたことだ。そしてその顧客には、政府関係者も含まれていた。

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インドはロシアや西側との関係からウクライナ危機をどうとらえているか?


インドはロシアや西側との関係からウクライナ危機をどうとらえているか?

<記事原文 寺島先生推薦>

How India perceives the Ukrainian crisis and

it means for its relations with Russia and the West


ロシアのウクライナ侵攻により、東洋のロシアの同盟諸国はロシアとの関係を再考している。

RT 2022年3月23日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年3月31日


 
 ロシアによるウクライナへの軍事作戦、いやもっと広く言えばロシアと西側諸国との衝突はあったが、印露両国の関係は劇的には変わらないとかなりの政治専門家たちは見ているだろう。

 両国には長年かけて築き上げられてきた特別な関係がある。両国が防衛や安全保障上で重要な地域に取り囲まれていることもあり、政治的分野においても経済的分野においても関係を強めてきた。そんな両国であるので、東欧で起こった戦争行為により影響を受けるとは考えにくい。しかしながら、細かいところに落とし穴があるのはよくあることだ。

誰一人も取り残さない

 
「もうすでにお気づきの方も多いと思いますが、ロシアとウクライナ間の緊張状態が高まり、2022年2月24日に武力衝突が起こりました。この衝突に至った経緯には根深いものがあり様々な要因が絡んでいます。具体的には安全保障体制、政治、各国間の政治体制などです。そのことに加えて以前に同意できていた相互理解をどう受け止めるかという課題もあります。注目しておくべきことは、戦争が起こったウクライナで2万人以上のインド国民が危険な状況に置かれているという事実です。我が国はこの件に関する国連安全保障理事会の会議に出席していましたが、喫緊の課題は我が国の国民を守り、彼らに害が及ばないことを保証することです」とインドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル(Subrahmanyam Jaishankal)外相はインドのラージヤ・サバ―(上院議会)で2022年3月15日に発言した。

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 Pakistan, like India, won't bow to Western pressure – PM Khan

 
 この発言からわかることは、今回のウクライナ紛争により、地政学的均衡や議論においてインドがロシアに対してとってきた立場は変わらず、懸念されているのはウクライナ国内にいるインド国民を安全に国外退去させることだということだ。ウクライナにいるインド国民の大部分はキエフやハルキウやスームィで医学を学んでいる人々であり、インド政府が一番心配しているのは、この人々のことのようだ。

 ナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相が率いるインド政権は、「ガンガー作戦」という作戦を立ち上げた。この作戦の目的は、ウクライナのインド国民を帰国させることだ。この作戦には「政府が一丸となって」取り組むこととされており、外務省も関連するすべての国の大使館や民間航空省や防衛省や国家災害管理局やインド空軍や民間の航空諸会社と協力して取り組むことになる。特筆すべきは、ウクライナで活動中のロシア政府高官や軍がインド政府と常に連絡を取り合い、インドの学生や社会人たちを人道回路経由で救出することに成功していることだ。

 残念なことに、ハルキウ医科大学の4回生であったナヴィーン・シェカラパ・ギャナガウダル(Naveen Shekarappa Gyanagaudar)さんが亡くなってしまった。そのことに関しては慎重な調査が求められており、ロシア政府は即座にその調査を行うことを約束している。しかし、「ガンガー作戦」は成功裏に成し遂げられたことで、印露の密接な関係がこのような厳しい状況においても保たれていることの実例となり、緊急事態の解決には相互理解が大事である教訓となっている。

政治的な主張の正しさを経済が証明する

 インドの指導者や、一般市民の人々がこの戦争の人道支援的側面に焦点を当てている中ではあるが、より実用的な考え方にも焦点が当たっている。これらの考え方はインドが国際社会でどのような地位を占めるかの問題に関わるものだ。(国連安全保障理事会や国連総会の会議も含めて)。さらには西側諸国がロシアに課そうとしている無数の制裁措置や、その制裁措置により予測がつきにくくなっている将来の印露間の協力関係がどう変わっていくかなどについても熟考が求められている。

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 India looks to boost non-dollar trade with Russia

 インドがこのような状況においても長年構築されてきた印露関係に終止符を打つと考えている人はロシアにはほとんどいない。実際そうはならなかった。ロシアの行為を非難する国連安全保障理事会の決議においても、国連総会の決議においても、インド政府は首尾一貫した態度を維持していた。インドは西側が出した決議に対しては棄権の立場を示した。この決議の目的は、ウクライナに対してロシアが「侵略行為」を行ったという強い表現を使用することを決めることだった。

 このようにインドは従来の戦略をとり続けると決め、インドが「全方向同盟主義(かつての非同盟主義をもじった言い方だが)」の立場を取ることを鮮明にした。「全方向同盟主義」の考え方は、世界的に見て力をつけてきたインドがすべての国々と実りある協力体制の構築を粘り強く目指していくというものだ。そして論争の種となるような問題を前面に出すことは避けようという方向性だ。この国連で示した態度により、インドはこれまで取ってきた伝統的な独自主義を改めて証明することになり、おかしな主張していた政治専門家たちに釘をさすことになったはずだ。これらの専門家たちはこれまでインドが重視してきた立場というものを誤解していて、インドは印露の両国関係を犠牲にして西側とのつながりを強めるために賛成に回ると考えていたのだ。

 経済協力の方がややこしい問題のようだ。というのも経済問題は、国際市場が相互に関係しあっていることに起因する多数の構造的な制限にとらわれているからだ。このような環境の中でうまくやっていくには、確固たる一貫性のある努力が不可欠となり、次々と生まれてくる課題に対応していかなければならない。

 経済界におけるインドの政策立案者たちは、実業界とともに、西側の制裁措置について注視している。インドのマスコミはロシア銀行が取る措置や、ルーブルの為替レート、ロシアの金融市場の機能についての詳細を報じている。

 インドの人々を最も悩ませているのは、世界経済や世界の供給網において構造的な問題が生まれるかもしれないという問題だ。例えば、インド準備銀行(インドの中央銀行の位置づけだ)が懸念を表明したのは、経済制裁の影響により、エネルギー価格の変動や、金融市場の不安定化、や物価変動率が影響を受ける可能性についてだった。

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 インドの市場関係者たちは西側が主導している制裁措置に加わる気はないが、ロシアのこの先の協力関係に影響がでることを心配している。そのためインドステイト銀行(インド最大の貸与銀行)は、世界各国がロシアに課した制裁の対象者であるロシア関係者との取引をすべて中止した。それは同行のもつ世界的に重要な存在感を維持し、米国やEUの規制に従う必要があるための措置である。

 しかし驚くほどのことでもないが、西側の主導と歩調を合わすだろうと思われていた著名な経済団体の中にはそうしなかった団体もあるのだ。そうした方が世界中からの投資や先進的な事業を呼び込もうというインドの長期的計画を阻害する可能性があるのに、だ。ロシアが関心を持っているのは、インドステイト銀行の手引きにより急速に発展しているインド経済と関係をもつことである。この活気あるインド経済こそ、印露間経済提携全体において最も重要な要因だ。

旧友こそ親友

 インドが現状、どのような利益を得ることができるか疑問に思っている人もいるだろう。一つ目の利点は、インド政府にとって、ロシアを基軸に東方に展開できる新しいチャンスが得られるということだ。というのも、今回ロシア政府には非西側諸国との連携を強めるという選択肢しか実質上ないからだ。ロシアと欧州は地政学的観点からいえばお互い強く結びついていているから、この先欧州の安全保障構造を再構築し、他の分野で協力しあえる共通理解を再度見つけなければならなくなるだろうが、今両者においてはこれまでの歴史的な関わりを再確認しないといけない余地が生じ、新しい協力関係を模索し、お互いの共通理解を最大限にまで高める必要性が生まれているからだ。

 二つ目の利点は、いわゆる「ロシアの中国への依存」を減少させるために本格的に動き出さないといけない時期に来ているという点だ。「ロシアが中国の従属国になる」という話は、当局や、学会や、専門家たちの中で近年ずっと出回り続けている話だ。インド政府にとってこのゲームに本格的に参戦できる機会はこの先またとないだろう。ロシアと新しい契約を結び、提携事業を立ち上げ、投資を増やすことで、インドが望む勝利が手に入るチャンスなのだ。

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 最後の利点は、西側、主に米国からの厳しい圧力にも負けず、インドがロシアとの特別な協力関係の下で特権的な利益を得ようという姿勢を示せることだ。この姿勢より、ロシア政府内部に存在する「インドは西側の方に傾倒しつつあるのではないか」という声を封じ込めるこめる効果的な作戦はないだろう。

幸運は用意された心にのみ宿る

 この先扱っていかなければならない状況は疑いなく先が見えない。しかし今のロシアは、今回の危機においてインドが示した立場にはきっと満足している。この印露間のやりとりに対して支持をする声は何千ものの人々から上がっている。

 インドとロシアは新しい世界秩序の中でさらに協力を深めていくことになる。従前の世界秩序ではもはや世界は機能しないようだ。新しい世界秩序においては、印露二か国の指導者の政治的意図や、両国の起業家たちの動機が重要な位置を占めることになろう。


 この記事はグレブ・マカレヴィチ(Gleb Makarevich)による

 

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明らかにされた世界経済フォーラムの「ヤング・グローバル・リーダーたち」


明らかにされた世界経済フォーラムの「ヤング・グローバル・リーダーたち」
<記事原文 寺島先生推薦>
World Economic Forum’s “Young Global Leaders” Revealed

ヤコブ・ノルダンガード( Jacob Nordangard)著
グローバルリサーチ、2022年3月26日
ファロス(Pharos) 2022年2月5日

初出:2022年2月13日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月1日

***
 世界経済フォーラムは、その「ヤング・グローバル・リーダーズ・プログラム」を通じて、あらゆる民主主義の原則を害する世界秩序の形成に力を注いできた。数十年にわたり、この取組は、世界各国の政府においてWEFの代理人として活動する従順な指導者を育ててきた。その影響は広範囲に及び、人類に壊滅的な打撃を与えることになるかもしれない。

 「メルケル首相夫人やプーチン大統領など、彼らは皆、世界経済フォーラムの“ヤング・グローバル・リーダーズ”である。しかし、トルドー首相やアルゼンチンの大統領など、若い世代の人たちが本当に誇りに思うのは、私たちが内閣に浸透しているということです・・・それはアルゼンチンでもフランスでも同じです・・・」(クラウス・シュワブKlaus Schwab談)


動画はこちらをクリックしてください。


 1992年、クラウス・シュワブ世界経済フォーラムは、当初「明日のグローバル・リーダーズ(Global Leaders of Tomorrow)」と名付けたプログラムを立ち上げた。

 2004年、このプログラムは「ヤング・グローバル・リーダーズ・フォーラム」(拙著『The Global Coup D'Etat』で取り上げている)となり、WEFの理念と目標を教え込む5年間の教育課程となった。

 その目的は、新しいグローバル社会にふさわしい将来の指導者を見つけることであったし、現在もそうである。このプログラムは、開始以来、政治家、民間企業の指導者、王族、記者、芸能人、その他文化的影響力を持ち、各分野で優れた業績を上げているが40歳(当初はアンゲラ・メルケルを含めるために43歳)になっていない人たちを対象にしてきた。その後、膨大な資源と影響力を持つ献身的な指導者たちの広範な世界的繋がりに成長し、それぞれの国や分野で世界経済フォーラムの実際の計画を実現するために活動している。

 この繋がりは、構成員の個々の能力や資源を組み合わせることで、世界に影響を与える力を生み出している。

 クラウス・シュワブが冒頭で述べているように、この繋がりは大きな成功を収めるようになった。

 初年度の1992年には、すでに多くの影響力のある候補者が選ばれている。アンゲラ・メルケルトニー・ブレア、ニコラ・サルコジビル・ゲイツボノリチャード・ブランソン(ヴァージン・グループ)、ヨルマ・オリラ(シェル石油)、ジョゼ・マヌエル・バローゾ(欧州委員会委員長 2004-2014)など世界的に著名な200名が選ばれている[1] 。

 影響力のあるヤング・グローバル・リーダーのその他の例[2]。

 スウェーデンのヴィクトリア皇太子妃
 ノルウェー皇太子ホーコン
 デンマーク フレデリク皇太子
 ハイメ・デ・ブルボン・デ・パルム王子(オランダ)
 リーマ・ビント・バンダル・アルサウド王女(在米国サウジアラビア大使)
 ジャシンダ・アーダーン(ニュージーランド州首相)
 アレクサンダー・デクルー(ベルギー首相)
 エマニュエル・マクロン(フランス大統領)
 サナ・マリン(フィンランド首相)
 カルロス・アルバラド・ケサダ(コスタリカ大統領)
 ファイサル・アル・イブラヒム(サウジアラビア 経済・計画大臣)
 シャウナ・アミナト(モルディブ、環境・気候変動・技術担当大臣)
 アイダ・オーケン議員、(元環境大臣、デンマーク)(悪名高い記事「Welcome To 2030: I Own Nothing, Have No Privacy And Life Has Never Been Better」の著者)。
 アナレナ・バーボック外務大臣(「アライアンス90/ディ・グリューネン」リーダー、ドイツ)
 カミサ・カマラ (マリ共和国デジタル経済・計画担当大臣)
 ウゲン・ドルジ(ブータン、内務大臣)
 クリスティア・フリーランド(カナダ、副首相兼財務大臣)
 マルティン・グズマン(アルゼンチン財務大臣)
 ムハンマド・ハマド・アズハル(パキスタン、エネルギー省大臣)
 ポーラ・インガビレ(ルワンダ、情報通信技術・イノベーション担当大臣)
 ロナルド・ラモラ(南アフリカ共和国法務・矯正サービス大臣)
 ビルギッタ・オールソン(2010-2014年欧州連合担当大臣、スウェーデン)
 モナ・サーリン(社会民主党党首、2007年~2011年、スウェーデン)
 スタヴ・シャフィール(イスラエル緑の党党首)
 ヴェラ・ダヴェス・デ・ソウザ(アンゴラ財務大臣)
 レオナルド・ディ・カプリオ(俳優、気候変動活動家)
 マティアス・クルム(写真家、環境保護活動家)
 ジャック・マー(アリババ創業者)
 ラリー・ペイジ(グーグル創業者)
 リッケン・パテル(Avaaz創設者)
 デビッド・デ・ロスチャイルド(冒険家、環境保護主義者)
 ジミー・ウェイル(ウィキペディア創設者
 ヤコブ・ワレンバーグ(インベスター会長)
 ニクラス・ゼンストレム(Skype創業者)
 マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)

 当初からの目的は、「官と民が交差する問題に焦点を当て、未来志向の世界的な計画となるものを推進する」ことだった。

 官民連携は、世界経済フォーラムの理念の根幹をなすものの一つである。つまり、国家と大企業の合併(コーポラティズムともいう)により、より「効果的」な方法で地球規模の問題を解決することを目的としている。指導者の人選にも、この志が色濃く反映されている。

 ヤング・グローバル・リーダーズ・グループは、当初、21世紀の主要な課題を見極めるよう指示された。平和、環境、教育、技術、健康など、これからの指導者が新しい千年紀で政治的、経済的、文化的に開拓できる分野が含まれていたのである。

 2000年の「明日のグローバルリーダー(GLT)」の提携企業は、コカ・コーラ、アーンスト・アンド・ヤング、フォルクスワーゲン、BPアモコなどの大手グローバル企業であった。これらは、「GLT計画の概念の開発と実施に積極的な役割を果たす」ことで、計画に貢献することができた。そのため、提携企業はGLT計画の開発に積極的に参加することができ、提携企業の代表者やその招待客をGLTの会合に招待している。「明日のグローバルリーダー(GLT)」が「Young Global Leaders 2004」となってからは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、Google、JPMorganChase(教育課程の卒業生がいる)などの提携企業も出資者として参加している。

 官民連携とその対象地域の究極の目標は、個人がこれらの強力な利害関係者に従属すること、つまり、主として専制的な社会契約を作り出すことである。より良い世界を作るという崇高な目標もまた、拐(かどわ)かされてしまったのだ。このことは、WEFと国連の連携や、第4次産業革命の技術を応用した世界目標(アジェンダ2030)の実施という文脈で、特に顕著に現れている。

 つまり、20世紀の民主主義の原則と権力の分立はほとんど完全に損なわれ、代わりに、自らの利益に基づいて我々の共通の未来を形作る新しいグローバル階級が登場したのである。

 このため、各国政府と国際機関の事実上の私物化が進み、ロビイストはもはやロビーにとどまることなく、権力の座に就いて、私たちの生活に直接影響を与える政策を形成するようになったのである。このことが何を意味するのかは、2020年3月にパンデミック宣言が出されてから、特に顕著になってきた。また、世界経済フォーラムのラリー・フィンクが率いるブラックロックなどの有力多国籍投資運用会社は、常にその立場を前面に押し出してきた。

 ドイツの経済学者でジャーナリストのエルンスト・ヴォルフ(Ernst Wolff)は、ヤング・グローバル計画に含まれる国の指導者の多くは、近年のロックダウンの厳しい議題を問答無用で遂行するように選ばれており、(大衆の不満の高まりに見られるように)各国政府がこの問題にきちんと対応できなかったことを口実に、新しい形の世界政府を作り、これまでの国民国家に基づく世界構造を時代遅れのものにしようとしている。

 そして、失敗する運命の通貨制度に代わって、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI:国民に対して最低限の生活費を政府が支給する社会体制)を備えた新しい世界で通用するデジタル通貨が徐々に導入されることになる[3]。 この結論は、私の結論と一部一致している。

 またこの兆候は、全体主義的な「新地球秩序」がどのように確立され、長期的には世界憲法を持つ地球民主政府(世界連邦)に取って代わられるかという、『大転換への初動』でポール・ラスキンが描いていた筋書きによっても裏付けられている[4]。
*ポール・ラスキンは、環境問題、資源計画、シナリオ分析、持続可能な開発に関する世界中で3,500以上の研究と政策プロジェクトを実施してきたTellus Instituteの創設会長。彼の研究と執筆は、大転換への初動を広めることを中心にしている。

 <以下引用>

 COVID-19の大流行が明らかに示したのは、公衆衛生の対策や国家経済の利益獲得を、世界が求めているものを考慮せずに各国独自の政策で解決しようとしても破壊的な失敗しか生まないということだった。従ってこの先も、気候政策の議論において主導的な立場を取り、迫りくる気候変動に向けての対応方法を確立し続けよう。

 三院制の世界議会の下では、地球連邦政府の4つの主要機関、すなわち世界最高裁判所システム、世界行政機関、世界執行システム、世界オンブズマンがある[5]。

 グレン・T・マーティン「大転換は地球憲法を必要とする」

 <引用終わり>

 その未来像は、世界議会、世界政府、世界裁判所を備えた世界連邦の設立により、均衡のとれた平和で調和のとれた世界が生まれるというものである。これらは、ローマクラブやニュー・エイジ・サークルと密接な関係にある諸団体で長い間流布されてきた考え方である。

 問題は、そのような新しい世界的な権力体制が、現在の腐敗し破綻した体制を作り上げたのと同じ利害関係者に拐かされる運命からどのように逃れるかということである。

 これは、「大転換(The Great Transition)」(スティーブン・ロックフェラーによる起業資金で開始された)のような取り組みを支援する人々の見解に基づくものである。今起きていることは、むしろ世界規模で技術官支配体制という形で、彼らの究極の解決策に我々を導くための方法なのだ。

 しかし、この計画が成功する可能性は極めて低い。これらに対する気づきは、燎原の火のように広がり、彼らの物語が崩れ、人々がプロパガンダにますます抵抗力を増すにつれて、支配者層の狼狽は増大している。そのため、調査する人々や「真実調査団員」たちが、熱心に言説を確認し、世論を「正しい」方向に導く手助けをしている。彼らは間違いなく信頼できる。例えば、トムソン・ロイター社の会長であるデイヴィッド・ロイ・トムソン氏は、明日のグローバル・リーダー(Global Leaders of Tomorrow)の1993年度卒業生である。

 今こそ、自分たちの運命を自ら管理して、新たな罠にはまらないようにする時である。

*
 このブログの記事の元となる映像を提供してくれた調査ジャーナリスト、ーリー・モーニングスターに感謝します。彼女のブログ「Wrong Kind of Green」をフォローしてください。

注釈
[1] 世界経済フォーラム、GLTクラス・オブ・1993.pdf

[2] 世界経済フォーラム、ヤング・グローバル・リーダーズ・コミュニティ(YGL卒業生を含む検索可能なリスト)。

[3] マイケル・ロード、「Exposed: クラウス・シュワブの独裁者のための学校、「グレート・リセット」の計画」、RAIR財団、2021年11月10日

[4] ポール・ラスキン『アースランドへの旅』。惑星文明への大転換.pdf、テルス・インスティテュート、ボストン、2016年

[5] グレン・T・マーティン「大転換には地球憲法が必要だ」グレート・トランジション・イニシアティブ、2021年11月号


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2022年3月25日

ポール・クレイグ・ロバーツ

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月1日

 読者は、西側諸国によるロシアの資産や外貨の差し押さえを戦争行為とみなし、なぜプーチンがそう宣言しないのか不思議に思っている。制裁はロシアを破壊するための武器であり、あたかも軍事兵器のようなものだ。ロシアに制裁を課している国々は、ウクライナで戦う軍隊を持っているのと同じように、紛争に巻き込まれているのである。

 プーチンは制裁をそのように認識している。彼は制裁を「偽装されていない完全な侵略」、「経済的、政治的、情報的手段によっておこなわれた戦争」と宣言した。しかし、ロシアは西側諸国の軍隊が関与した場合のような反応はしていない。プーチンは戦争、特に核戦争を制裁よりもダメージが大きいと考えているからである。彼は軍隊を解き放つ代わりに、ロシアが制裁に耐えられるようなシステムを整えながら、制裁を生き延びるための準備をしているのである。


 それは、アナトリー・チュバイス、アレクセイ・クドリン、エルビラ・ナビウリナ中央銀行総裁という3人のロシアの裏切り者がプーチンに多大な影響を及ぼしているからである。この3人は西側を代表する人物だが、プーチンを説得できる声の持ち主だ。ブルームバーグ(信頼できないニュースソース)は、「高く評価されているロシア中央銀行総裁エルビラ・ナビウリナは、ウラジーミル・プーチンがウクライナへの侵攻を命じた後に辞任しようとしたが、彼女がポストを離れることは許されなかった」と報じた。そうせずにプーチンは彼女をもう一期指名した。
https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-03-23/russia-central-banker-wanted-out-over-ukraine-but-putin-said-no

 ブルームバーグの報道がフェイクニュースかどうかは別として、反プーチンのブルームバーグニュースがナビウリナを「高く評価されている」(ブルームバーグが書いているのは“欧米で”という意味)と表現し、さらに「ナビウリナ、投資家から支持され、ユーロマネーやバンカーなどの出版社から世界最高の金融政策立案者として歓迎されている」と報じていることに注目しよう。彼女が欧米の投資家や金融専門誌に支持されている理由は、彼女が欧米を富ませ、ロシアを貧しくする方法でロシアの中央銀行を運営しているからである。もし彼女がロシアを助けていたら、「世界最高の金融政策立案者の一人として高く評価されている」とは言えないのは間違いないだろう。ブルームバーグは明らかに、西側金融機関の利益のために彼女を仕事に従事させ続けるために、できる限りのことをしているのだ。

 ロシアの経済学者、ほとんどロシアで唯一の経済学者であるセルゲイ・グラズィエフは、ナビウリナについて何年もプーチンに警告してきた。グラジエフは、ナビウリナの外貨獲得のための輸出(とロシア資産の民営化)政策は、ルーブルを弱体化させ、ロシアの敵国の通貨高を支えるための政策であることを、ついにプーチンに突きつけた。
https://www.paulcraigroberts.org/2022/03/24/will-putin-wake-up-to-the-threat-of-russias-atlanticist-integrationists/

 チュバイ、クドリン、ナビウリナの3人が共に経済的な偽情報でプーチンを固めてしまうことに成功した致命的な影響力を除けば、プーチンは、戦争よりも強力な制裁に対する武器を持っていることに気がつくはずだ。ロシアが危機をロシアの条件で終わらせるために必要なことは、ヨーロッパ、特にドイツへのエネルギー輸出を断つことと、ロシアの資産の外国人所有権を無報酬で国有化することである。しかしロシアは権力を行使できない。なぜなら三人組がプーチンに、ロシアは世界で唯一、西側諸国との間で全く必要のない(そして使えない)信用枠を開いておき、外貨を借りられるようにするために契約上の義務を果たす必要がある、と説得したからである。これはロシアにとって全く有害な自業自得である。

 ロシアが苦しんでいるとすれば、そしてこの苦しみがより広い戦争につながるとすれば、その理由は、プーチンがチュバイス、クドリン、ナビウリナの影響から脱却できないからだろう。三人組はプーチンをしっかりと西側の手中に収めている。

 チュバイスはプーチン政権を辞職して西側に逃げたが、西側の銀行に隠している彼の盗んだ数十億ドルが凍結されていないことは間違いないだろう。ナビウリナもそれに続きたいと思ったが、プーチンは彼女の去就に自分の幸運を見出せず、ロシアに損害を与え続けるであろう仕事に彼女を留任させた。もし制裁が成功すれば、その効果はナビウリナのおかげとなる。ナビウリナは、西側がロシアの外貨準備の大部分を押収できるようにし、SWIFT決済システムから追い出すことでロシアを脆弱にし、プーチン大統領の解任につながりかねない経済動乱でロシアを脅かすことができるようにしたのだ。

 プーチンが危険な敵を目の届くところに置いておくつもりでナビウリナを残したのであれば、少なくとも彼女の意思決定権は剥奪すべきだろう。
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Too Late to Revive a Sane U.S. Foreign Policy? The Roots of the Monroe Doctrine Revisited

マシュー・エレット(Matthew Ehret) 2022年3月13日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月1日

 ロシアを封じ込めようとあらゆる根拠を望む人々のルールに従い続けるのではなく、新しいアプローチが必要であるのは明白である。

 ロシアがウクライナへの軍事介入を決定して以来、長い間影を潜めていた闇が表面化した。この闇は、ある意思という形で表れた。それは「もっともらしい否認」という美名や「リベラルなルールに基づく国際秩序」の自己満足的信奉者の後ろに隠れることがもはやできないのだが、1992年のソ連崩壊以来、壊れたレコードのように繰り返し世界に鳴り響いてきたものなのだ。

 NATOが管理する弾道ミサイルシールドでロシアの防衛を標的にしながら、あらゆる証拠でロシアを軍事的に封じ込めることを望む人々のルールに従い続けるのではなく、新しいアプローチが必要であると判断されたので、このゲーム(ロシアによるウクライナ侵攻)が呼び出されたのだ。

 ウクライナの生物兵器施設という証拠がそれだったのだろうか。これは長い間陰謀論として扱われてきたものだが、今ではビクトリア・ヌーランドがその存在を認めてしまった。まさにラクダの背を折る最後の藁だ。ネオナチ勢力によるドンバスとクリミアへの攻撃が迫っているという証拠がそれだったのだろうか。これはそれまでずっと決定的な要因だったのだが。2月19日、ゼレンスキーがウクライナに1994年のブダペスト条約を破棄し核兵器を導入するよう呼びかけたことが決め手となったという見方もある。

(ブダペスト覚書は、ソ連崩壊時に独立を勝ち獲ったウクライナに対し、核兵器放棄を条件に、アメリカ・イギリス・ロシアが安全保障を約束するものであった)

 実際のところ、プーチンの決断の具体的な原因は分からないかもしれないが、これだけは確かである。
 
 戦争は2022年2月24日に始まったのではない。ロシアに対する戦争は、実際は2014年2月22日に始まっていたのである。そのときアメリカは民主的に選ばれたヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権に対する政権交代を確定させ、ある人が言うところのスローモーションのバルバロッサ作戦を8年という長期にわたって開始したのだ。ある一つの目的を持ってだ。それはロシア連邦の完全な破壊と征服である。その概要は、1997年にズビグニュー・ブレジンスキーが『グランド・チェスボード:地政学で世界を読む: 21世紀のユーラシア覇権ゲーム』に書いたとおりのものだ。

(バルバロッサ作戦:第二次世界大戦中の1941年6月22日に開始されたナチス・ドイツのソビエト連邦奇襲攻撃作戦の秘匿名称)

 
 影の人物たちが表面化したことで、ますます明らかになってきたのは、西側同盟によって映し出された美徳のイメージが平和的でも民主的でもないことである。アメリカ、イギリス、キエフは過去8年間、危機を外交的に解決する多くの明白な機会を捉えるどころか、破壊工作、中傷、一方的な制裁による経済戦争という道だけを選んできたのである。

 では、どうすればいいのだろうか。

 今日のアメリカが、もっとましな憲法上の外交政策の伝統を復活させるのに、あまりにも行き過ぎているのかどうか、正直なところ私には分からない。しかしこのことははっきりと言える。この歴史が、過去数世代にわたってずっと埋もれたままであったのと同じように埋もれたままになるならば、共和国を救い、世界平和を維持するための小さなチャンスは確実に潰えてしまうと。
 
国際情勢における1776年の戦略的意義

 
 多くの人が聞かされてきた神話が、アメリカはその誕生以来、世界帝国を目指す国家として育てられたというものであったが、真実はそれとは大きく異なっている。確かに、一部のロマンチックな歴史家が長年にわたって描いてきたような、偽善や腐敗に汚されない自由のユートピアの砦では決してなかったし、逆にシニカルな人種批判理論家が主張するような一次元の悪の奴隷制国家でもなかったのである。アメリカはむしろ未完成の交響曲のようなものとして理解されるべきである。その実践的な演奏が健全な憲法の理想の音をはるかに下回ることがあまりにも多かったのである。

 まず、アメリカの建国文書(1776年の独立宣言と1787年の憲法)に書かれている次の事実を評価することが重要である。そこには「人種、信条、性別、階級に関係なく、すべての人は平等であり、譲れない権利を与えられているという考えを前提とした政府の形態の歴史上最初の例」と書いてあり、さらに、「国家の法律の正当性は被治者の同意から生まれ、現在から将来にわたって一般的な福祉を支えることを義務づけている」という考え方も含まれていた。それは、それまでのホッブズ的な「力が正義」という世襲制度を支配してきた概念とは大きく異なるものであった。

 この原則を外交政策に実際に適用することについて、ワシントン大統領は詳しく論じ、対外的には外交問題、国内的には政党政治という二重の弊害を避けるよう、若い国家に警告した。そのとき彼は1796年の退任演説で次のように国民に頼んだのであった。

 「なぜ自国を捨ててまで外国の地に立つのか。なぜ、わが国の運命をヨーロッパのどこかの国の運命と絡めて、わが国の平和と繁栄をヨーロッパの野心、競争心、利害、ユーモア、気まぐれなどの苦難に巻き込むのか?」


ギルバート・スチュアートが描いた、憲法に右手を置いたワシントン大統領の絵

 この演説でワシントンは、もし、あくまでも仮の話だが、アメリカが生き残ることができたとしたら、それは「商業的関係を拡大し、外国とできるだけ政治的なつながりを持たないようにする」という国際政策によるものであると説明した。
 
 他国との政治的な関わりを減らすことを求めたワシントンを孤立主義者とる向きもあるが、彼は常に相互利益に基づいて国際的な通商を推進していたのである。単なる帝国主義的な活動、陰謀、欺瞞、そしてワシントンの在任中のジャコバン恐怖政治に始まるカラー革命(フランス革命)の新時代――外国への突飛な冒険に夢中になれば、そういったものが若い共和国を破壊する毒になると偉大な指導者ワシントンは考えたのだ。

ジョン・クインシー・アダムスとモンロー・ドクトリンの反帝国主義的起源

 
 ジョン・クインシー・アダムス(1767-1848)は、1817年から1825年にかけて国務長官を務めた際、この考えをさらに発展させてモンロー・ドクトリン(アメリカがヨーロッパ諸国に対して、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸間の相互不干渉を提唱したこと)を起草し、アメリカが「破壊すべき怪物を求めて海外に出ない」場合にのみ有効であると考えた。


ワシントンのスケッチに手を置くジョン・クインシー・アダムス大統領

 つまり、アメリカが自国の問題解決に力を注ぎ、国内整備に力を注ぐ限り、モンロー・ドクトリンは自国にとっても国際社会にとっても幸福なことなのである。

 ジョン・クインシー・アダムスもまた理解していた危険性は、当時フェデラリスト党を中心としたアメリカの中枢部にイギリスが運営する第五列が拡大していることであった。駐ロシア大使を務めていたアダムスは、1811年(ちょうどナポレオンがロシア侵攻を準備し、イギリスがアメリカに対して新たな戦争を始めようとしていた頃)、母親に宛ててこう書いている。

 「もしあの党(ニューイングランドのフェデラリスト党)が、ニューヨークやペンシルベニア、南部や西部のすべての州ですでにそうであるように、マサチューセッツでも効果的に鎮圧されなければ、連邦は消滅してしまうだろう。北米大陸と同じ面積を持ち、神と自然によって、一つの社会的契約のもとに結合された最も人口の多い最も強力な国民となるように定められた国家の代わりに、われわれは、岩や釣堀をめぐって互いに永久戦争を続ける、取るに足りない小さな氏族や部族の無限の大群となるであろう。それはヨーロッパの支配者と抑圧者の遊びと作り話である」(1)

 ジョン・クインシー・アダムスがしっかりと理解していたのは、アメリカ革命の世界史的意義が、孤立した13のイギリス植民地間の地理的現象ではなく、世襲制度から解放された全人類の新しいパラダイムの火種となる可能性があるということだった。19世紀初頭、アメリカ大陸には、フランス、イギリス、スペイン、ロシアなどの帝国が支配権を握ろうとする野心が残っており、ホッブズ的な戦争と陰謀のパラダイムが新世界に押し寄せていたのである。アダムスは、偉大なアメリカの愛国者たちと同様に、このような事態を食い止めなければならないと考えていた。

 1821年の7月4日の祝典でアダムスは、独立宣言とは次のようなものだと指摘した。「市民政府の唯一の合法的な基盤について、国家が初めて厳粛に宣言したものである。それは、地球を覆う新しい仕組みの礎石である。それは、征服に基づくすべての政府の合法性を一挙に打ち砕いた。それは、何世紀にもわたって蓄積された隷属の瓦礫をすべて一掃した。人民の譲ることのできない主権という超越的な真理を、実践的な形で世界に発表したのだ」

 「地球を覆う運命にある」とは、アメリカが弱者を覇権に服従させるパックス・アメリカーナになる運命にある、ということだとアダムスは考えていたのだろうか。いいや、そんなことはない。

 1822年1月23日、アダムスは、植民地制度は「われわれの制度の本質的な性格と相容れない」と書いている。彼はまた、「巨大な植民地制度は悪の原動力であり、社会改善の進展に伴い、現在奴隷貿易を廃止しようと努めているように、それらを廃止することが人類の義務であろう」とも述べている。

 アダムスが理解していたのは、世界を「原則の共同体」としてとらえることの重要性であった。そこでは、すべての部分の自己改善に基づくウィンウィンの協力と、国際社会全体を単なる部分の総和以上のものとしてとらえ、外交に絶えず刷新と創造的活力をもたらすことになるのである。それは、経済、安全保障、政治を一つの統一されたシステムに織り込んでいくという、トップダウン型の政策体系であった。このような統合的な考え方は、今日の新自由主義的シンクタンクに見られるような、超理論的で区分けされたゼロサム思考の中で、ひどく失われつつあるものであった。

 だからこそ、アダムスは国務長官や大統領時代を通じて、ハミルトン流の国民銀行やエリー運河、鉄道など大規模なインフラ整備を提唱しのたのである。もしこのシステムが、アメリカ大陸あるいは世界におけるアメリカの利益を拡大する原動力であったとしても、それは武力によるものではなく、むしろすべての関係者の生活水準を向上させるものであったろう。

アダムス、リンカーン、国立銀行

 
 アダムスは、若き弟子リンカーンと共に、1846年の米西戦争と徹底的に闘ったが、それはモンロー・ドクトリンの乱用を生むことになった。

 若き日のリンカーンとジョン・クインシー・アダムスは、1841年にホイッグ党の指導者ウィリアム・ハリソン(1773-1841)を大統領に当選させるために、ハミルトンの国立銀行の復活に焦点を絞って早くから選挙運動を組織していた。国立銀行はアンドリュー・ジャクソン大統領によって潰され、アメリカの経済主権に大きな損害を与えていたからだ。

 この歴史の醜い章は一般的な記録からは削除されてしまったが、1832年に第二の国立銀行を潰す作戦は、現代においてIMFが債務国に緊縮財政を要求するのと大差ない手法で、国家債務を支払うためにすべての公共事業を総崩れにさせるという結果を招いた。農民や企業家への信用は失われ、投機が横行し、何千もの地域通貨(多くは偽造)が横行し、奴隷労働による綿花栽培が、国の生産性を癌のように蝕んでいった。

 悲しいことに、国立銀行を復活させる法案が議会の両院を通過し、ハリソン大統領の署名を待つばかりだったにもかかわらず、大統領は就任後わずか3カ月で謎の死を遂げ、その夢は終わりを告げたのである。

 ホイッグ党の最良の構成員は1856年に反奴隷の共和党を結成するが、それはホイッグ党の第2代大統領ザカリー・テイラーが毒殺された後だった。彼の死は1851年、就任後わずか2年しか経っていなかった。


エイブラハム・リンカーンの誕生

 連邦を維持しようと奮闘するナショナリストの小さなグループから、エイブラハム・リンカーンは現れた。国立銀行、保護主義、モンロー・ドクトリンに基づく安全保障政策の復活という簡潔な計画を携えて、である。リンカーンは、1858年に奴隷制支持派のスティーブン・ダグラス判事と討論し、来るべき内戦の条件を世界的な戦略的観点から説明した。

 「ダグラス判事と私のこの貧しい舌が沈黙するとき、この国で続いていくもの、それが問題なのです。それは、全世界で、この二つの原則、すなわち善と悪との永遠の闘いなのです。この二つの原則は、太古の昔から対峙してきたものであり、これからもずっと闘い続けるものです。一方は人類の共通の権利であり、他方は王の神聖な権利なのです」

 私たちは皆、南北戦争の本質を知っている。しかし私たちは、この紛争の成功についてきちんと理解していないかもしれない。リンカーンがグリーンバック(ドル紙幣)と5-20国債を発行して州銀行を活性化させたことによるものだったということを。つまり、民間金融機関が不当な金利を要求するのを回避したことによるものだったということを。これらの生産性の高い債券とドル紙幣は、戦争の遂行に必要な資金を調達した。と同時に、大陸横断鉄道のような大規模なインフラプロジェクトにも資金を供給し、大陸を統合したのだ。



 リンカーンは、同じ志を持つ改革者をロシアに見出した。新皇帝アレクサンドル2世は、あまりにも長い間ロシアの潜在能力を破壊してきた寡頭制、農奴制、低開発の腐敗を切り崩すことに熱心であった。このため、アレクサンドル2世は2500万人以上の農奴を解放し、徹底した腐敗防止改革をおこない、米国と連携して産業発展に重点を置いた国家財政の整備をおこなった。ロシア皇帝は、ロシア海軍の船団をアメリカの東海岸と西海岸に送ることを決定した。イギリスとフランスの帝国主義者に戦争に参加するなというメッセージを送るためだった。そのことがリンカーンに、分離独立を終わらせ、連邦を維持するために必要とした決定的な力を手に入れさせることになったのである。

 しかし悲しいことに、この勝利は国内的にも国際的にも、思うように機能しなかった。新たに再組織された奴隷制度が、新たに解放された黒人を新たな主従関係に引き込む「分液小作」計画をつくり、リコンストラクション(南北戦争後の再建・再統合)がすぐに妨げられただけでなく、リンカーンのドル紙幣は英国びいきの傀儡大統領たちの下ですぐに流通から外されてしまったのである。1876年、米ドルを金と1対1に交換する「正貨再開法」が制定されると、国内整備が滞り、産業界への信用は消え、投機が再び横行し始め、銀行パニックが国家の安定に周期的に大打撃を与えるようになった。
(分益小作とは、地主が小作人に対して土地と農業経営に必要な家畜や農具類を支給する一方、小作人は労務を提供し、農業生産による収穫物を実物で地主と小作人との間で分割する小作制度。)

 1865年から1881年にかけてリンカーン、ガーフィールド大統領、アレキサンダー2世が暗殺されたことに加え、「憲法という魔物を瓶に戻す」ための狂気の取り組みがおこなわれた。これはボストンとマンハッタンでおこなわれた第5列の活動であったが、大英帝国をモデルにした新しい帝国外交政策をますます推進する中でのことであった。



ウィリアム・マッキンリー、アメリカ体制を復活させる

 この裏切り者のネットワークを断ち切るための19世紀最後の大きな努力は、1897年にウィリアム・マッキンリー大統領がホワイトハウスに登場したという形でおこなわれた。この時、再び国家計画、保護関税、国内外での産業発展というプログラムが、米国の内政と外交を形成する特徴となった。マッキンリーは、1895年に、自分が踏み込もうとしている歴史的な流れについて、リンカーンとワシントンの二人を賞賛し、次のように述べた

 「アメリカ史における最も偉大な名前はワシントンとリンカーンである。一方は州の独立と連邦連合の形成に永久に関係し、もう一方は連邦の普遍的な自由と維持に関連している。ワシントンは独立宣言をイギリスに対して施行し、リンカーンはその成就をアメリカの劣等民族だけでなく、わが国の国旗の保護を求めるすべての人々に対して宣言した。これらの輝かしい男たちは、1775年から1865年までの一世紀の間に、人類のために、時間の飛行が始まって以来のすべての年月において、他のどの男たちが成し遂げたよりも偉大な結果を達成した」

 海軍次官補セオドア・ルーズベルトによってフィリピンでの不当な戦争に巻き込まれたが、マッキンリーは、海軍次官補セオドア・ルーズベルトによってフィリピンでの不当な戦争に巻き込まれたが(その経緯はこちら)、北米、南米、中米の産業発展に米国の全面的な支援を与えることによって、モンロー・ドクトリンを守るために一貫して闘った。国際的には、マッキンリーは、義和団の乱(1900年、清朝末期の動乱)に伴う中国の分割にアメリカが関与しないように戦い、ロシアのセルゲイ・ウィッテ伯爵やフランスのガブリエル・ハノトーのような国際共同思想家と緊密に協力して、ユーラシア大陸全域で鉄道開発と平和条約を進めた。このような計画が、殺人、クーデター、政権交代作戦によって妨害されなければ、第一次世界大戦とその続編という大惨事は起こり得なかったことは確かである。

 悲しいことに、マッキンリーが暗殺された後、悲しいことに、テディ・ルーズベルトの「棍棒外交」政策が新しい20世紀の傾向を生み出した。アメリカは、アダムスが構想したような外国の帝国的陰謀を排除するのではなく、弱い国家に対して覇権を拡大するようになったのだ。


1901年9月6日、米州博覧会のレセプションでのレオン・チョルゴッシュによるウィリアム・マッキンリー大統領暗殺事件。(アメリカの画家T・ダート・ウォーカー作、1905年/国会図書館蔵)

FDRとウォレスは、まともなアメリカ外交の復活を試みる

 
 1901年以降、アダムスの包括的な安全保障ドクトリンを復活させようとする小さな、しかし重要な試みが見られるようになった。

 私たちはフランクリン・デラノ・ルーズベルトの計画でそれが再び活気づくのを目の当たりにした。彼の計画はニューディールを国際化して、中国から、インド、イベリア半島、中東、アフリカ、ロシアにまで広げることだった。ルーズベルト副大統領のヘンリー・ウォレスは、1943年の著書『The Century of the Common Man(普通の人間の世紀)』で、この国際的ニューディールの条件を提示し、戦後の世界について次のようなビジョンを示した。

 「新しい民主主義は、定義上、帝国主義を嫌うが、定義上、国際的な視野を持ち、世界のすべての人々の生産性、ひいては生活水準を高めることに最大の関心を持つものである。まず輸送があり、それに続いて農業の改良、工業化、農村の電化がある・・・。モロトフが明確に示したように、この勇敢で自由な未来の世界は、米国とロシアだけではつくれない。間違いなく中国は、戦争から生まれた世界に強い影響力を持つだろう。この影響力を行使する上で、孫文の原則が、他のどの近代政治家の原則にも劣らない重要なものであることが証明される可能性は十分にある」

 残念ながら、1945年4月12日にFDRが早すぎる死を遂げた後、英米の特別な関係が再び復活し、国際的なニューディーラーたちは、影響力のあるすべての地位からすぐに粛清されたのであった。当時、反ロシア・ヒステリーのオーウェル時代が到来していたにもかかわらず、ヘンリー・ウォレスは(ハリー・トルーマン大統領の下で商務長官に格下げされたものの)米国政府内で一定の影響力を維持していた。

 1946 年 9 月 12 日の演説で、ウォレスは解雇されることになったが、アメリカの進むべき道 を 2 つ明確に提示した。

 「間違ってはいけない――近東におけるイギリスの帝国主義的な政策だけで、ロシアの報復が同時に起きれば、アメリカは戦争に直行することになるだろう……」
 
 「英国外務省や親英・反露のマスコミの目ではなく、自分たちの目を通して海外を見ることが肝要である。われわれが厳しくすればするほど、相手も厳しくなる」
 
 「われわれの第一の目的が、大英帝国を救うことでも、米兵の命をかけて近東の石油を購入することでもないとロシアが理解すれば、協力が得られると信じている。国家間の石油競争によって戦争に突入させるわけにはいかない……」


アイゼンハワーからケネディへ:アメリカの魂を賭けた戦いは続く
 アイゼンハワーは刷新に向けて前向きな動きを見せた。朝鮮戦争を終結させ、インド、イラン、アフガニスタン、パキスタン、ラテンアメリカへの米露協力と先端科学投資による「平和のための十字軍」を試みたのだ。しかし、悲しいことに、彼の前向きな計画は米国のディープステートの中心に寄生する寄生虫の増殖によって頓挫させられてしまった。このディープステートについて、彼は1960年の有名な「軍産複合体」演説で言及していたのだが。



 ケネディがベトナムから米軍を撤退させ、1960年代にFDRのニューディール精神を復活させ、ロシアとの同盟を模索したのも、アダムスの安全保障ドクトリンを復活させようとした立派な努力だった。が、彼の早世によって、この志向はすぐに終わりを告げた。

 1963年から2016年にかけて、まともな安全保障ドクトリンを復活させるための小さな断片的な努力は短命に終わり、一極主義の陰謀という、より強力な圧力にしばしば打ちのめされたのである。これは新世界秩序という形で英米の完全覇権を求めるものであったが、1992年にブッシュ・シニアとキッシンジャーはその到来を祝った。

「アメリカ第一主義」が、まともな安全保障のドクトリンを復活させる

 トランプ大統領には限界が多くあったが、正常な安全保障ドクトリンを回復しようと努力したことは確かだ。つまりグローバル化したアウトソーシング、軍国主義、ポスト工業主義の下で、50年以上にわたって自ら招いた萎縮からの回復に、アメリカの利益を集中させることによってである。

 恥ずかしいほど大きく独立した軍情報産業複合体は、ケネディが殺害された後も弱体化することはなかった。が、それと戦わなければならないにもかかわらず、トランプは2019年4月、国際展望の条件をこう発表した

 「ロシア、中国、われわれの間で、われわれは皆、核を含む数千億ドル相当の兵器をつくっているが、これは馬鹿げている……われわれが皆集まって、これらの兵器をつくらなければもっと良いと思う……これら3カ国は団結して支出を止め、長期平和に向けてより生産的なものに支出できると思う」

 この米露中協力政策の呼びかけは、2020年1月に発効した米中貿易協定の第一段階と連動しており、中国が購入する米国の完成品3500億ドルを保証するものであった。同月、公的にメルトダウンしたのは、他ならぬソロス自身であった。ソロスは、グローバルな開放社会に対する2つの最大の脅威は、1)トランプの米国と2)習近平の中国であると発表したからだ。

 もちろん、コロナ・パンデミックによってこの勢いは大きく頓挫し、貿易取引は徐々に破綻していった。しかし、こうした失敗にもかかわらず、アメリカを「アメリカ第一主義」の考え方に戻そうという考え方は、①自国内部の混乱を一掃することによって、②CIAの活動を軍から切り離すことによって、③巨大製薬会社主導の世界保健機関WHOからアメリカを切り離すことによって、④NED(米民主主義基金)などの海外における政権交代工作組織の資金を削減することによって、という4点によって伝統的なアメリカの保護関税政策に戻すということが、トランプが実行した極めて重要な取り組みであった。そして迫り来る災厄から自国を救おうと望むあらゆる党からのナショナリスト勢力が活用しなければならない前例をつくったと言えるであろう。

自滅に向かうアメリカ

 バイデンの「ルールに基づく国際秩序」が始まって1年、地球上の国々の安定と平和的協力の希望は大きく損なわれている。NATOとの協力関係を正当に断ち切ったトランプとは異なり、現ネオコン重鎮政権は、ウクライナや他の旧ソ連諸国をNATOに吸収することを優先し、ロシアと戦うために、シリアから民間傭兵部隊やアルカイダ系の戦闘員をウクライナに投入するところまでいっているのである。この危険な政策に加え、私たちが目撃してきたのは、ネオナチがはびこるウクライナ軍に何十億ドルもの殺傷兵器が送り込まれていることであり、ウクライナの混乱し何も訓練を受けていない市民が戦って死ぬように命令されていることである。西側の地政学者でさえ勝てないと認めている大義のために。

 今日のアメリカは、経済・軍事両面で本格的な自滅政策に邁進しており、ロシアと中国の両方に対して、制御不能な高温原子核融合反応(水素爆弾、つまり核戦争)にエスカレートする危険性のある戦争を推進している。

 このような立場からロシアの安全保障の要求を見ると、プーチンの極東構想、極地シルクロード、中国の一帯一路構想などの、ユーラシアの新しいマニフェスト・デスティニーの形を思い起こすとき、皮肉でしかないのは、ジョン・クインシー・アダムスの安全保障ドクトリンの精神が世界で生きているということである。ただ、それはアメリカには存在しないのだ。


(1) サミュエル・フラッグ・ベミス『ジョン・クインシー・アダムスとアメリカ外交の基礎』(New York: Alfred A. Knopf, 1950)。

 


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ウクライナは1999年のNATOによるユーゴスラビア攻撃の第二幕である-クストリッツァ監督

ウクライナは1999年のNATOによるユーゴスラビア攻撃の第二幕である-クストリッツァ監督

<記事原文 寺島先生推薦>

Ukraine is second act of NATO’s 1999 attack on Yugoslavia – Kusturica

The world is now undergoing a “deconstruction of power” that thought itself supreme 23 years ago, the famous Serbian director tells RT

世界は今、23年前に自らを最高と考えた「権力の解体」に直面していると、有名なセルビア人監督がRTに語った。

RT 2022年3月22日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月1日



 現在のウクライナ紛争は基本的に1999年のNATOによるユーゴスラビア爆撃の続編である、とセルビアの著名な映画監督であるエミール・クストリッツァ氏は、3月22日火曜日、RTに語った。そして、ロシア恐怖症と西側の国際法蔑視の連続性を指摘した。

 1999年3月24日、NATOは当時のユーゴスラビア連邦共和国に対して空戦を開始した。空爆は78日間続き、交渉による休戦で終了し、国連平和維持軍がコソボ州の反乱軍へ進駐することを許したのだった。

 ロシアは弱体化し、ボリス・エリツィン大統領を支える「西側寡頭政治」に支配されていたため、セルビアは自由・国境・生存のために戦おうとしても「絶対的に孤独」だったのだ、とクストリッツァ監督はメチャヴニクの自宅からRTに語っている。

 これは「国際法がカッコ付き(いわく付きの)人道法だと私が言うものに改変されたとき」のことだったのだ、と映画監督は語った。NATO進駐の公式根拠がコソボでの人道的災害をNATOが止めようとしたということであり、その後になって作られた「保護する責任」という原則は戦争を正当化するためだったのだ、と指摘した。

 「今回の戦争は突然起こったのではない。この戦争は突然起こったのではなく、もっと前に起こったことの延長線上にある」と監督は語り、現在のウクライナ紛争に言及した。クストリッツァ監督が見ているのは、西側諸国におけるロシア恐怖症の継続性であり、西側こそが冷戦後にロシアからの協力の申し出を拒否したということなのである。


こちらの動画を参照

 NATOは空爆が平和をもたらしたと主張したが、その成果は2000年10月のカラー革命を可能にしたことだけだ、とクストリッツァ監督は指摘する。ユーゴスラビアのスロボダン・ミロシェビッチ大統領は、2004年と2014年のウクライナでの2回の革命の雛形となるような形で打倒されたのである。

 「セルビアへの爆撃は第一幕に過ぎず、今、私たちは同じ物語の第二幕を目撃しているのです」


 セルビア人は戦争賛成派ではない。ただ1999年のことを覚えていて、現在のウクライナ紛争の原因を理解しているだけだ、とクストリッツァはRTに語った。

 「一極集中の世界では、支配者たちは誰も自分たちの動きに対して代償を払っていない」「今、私たちは世界中で権力の解体に直面しており、最終的に重要なのはどのような武器を持っているかだと思います」と監督は指摘した。

 1999年当時、セルビアは最新の武器を持っていなかった。エリツィンは、もっと絶大な効果をもたらす防空システムの納入を阻止したのだ、とクストリッツァは言う。それでも、セルビア人はアメリカのステルス爆撃機を撃墜することができた。セルビア人はNATOの「人道的」爆撃を今日でも覚えている、と彼は付け加えた。

 「彼らNATOは決して地上には出てこなかった、なぜならセルビア人の戦い方を知っているからだ」とクストリッツァは指摘した。

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 ユーゴスラビアは2006年に終焉を迎えた。モンテネグロが独立を宣言した時だった。コソボのアルバニア臨時政府は、NATOの支援を受けていたが、2008年に独立を宣言した。ベオグラード(セルビア)の承認は得られなかったのではあるが。セルビアは今や、ほぼ四方をNATO諸国に囲まれた「孤島」のような存在になっている。しかしセルビアは(自分たちが過去にNATOから受けた扱いを知っているので)、すべてのメディアが西側の支配下にあるわけではなく、不正や検閲に対して声を上げることができる場所でもあるのだ、とクストリッツァ監督は述べた。

 「キャンセル・カルチャーの、ほとんど信じがたい悪魔バージョン」だと彼が表現したものを、彼は非難した。それはつまり、かつてのナチスのように街の広場で本を燃やすという行為にまでは及んでいないものの、今やロシアの指揮者・作曲家・作家を排除していることである。

 「チェーホフ、プーシキン、ドストエフスキー、トルストイといったロシアの作家は、我々がヨーロッパ文化と呼ぶものと切り離せない」とクストリッツァは語り、西側は現在それらを切り捨てようとしているが、世界は「いずれこれらの断片が再び一つになるのを見るだろう」と主張している

 現在のボスニア・ヘルツェゴビナで生まれたクストリッツァ監督は、1981年に初めて長編映画を制作し、その後、数々の賞を受賞した長編映画を監督し、俳優、音楽家、作家としても活躍している。彼は2003年公開の映画『ライフ・イズ・ア・ミラクル』のセットとして建てられた、セルビア西部の民族をテーマにした村に住んでいる。

 

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ロシアは一流の軍隊を持つが、他のあらゆる面で無能である

ロシアは一流の軍隊を持つが、他のあらゆる面で無能である
<記事原文 寺島先生推薦>
Russia Has a First Rate Military But Is Incompetent On Every Other Front

ポール・クレイグ・ロバーツ
2022年3月25日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月1日

 私はこれまで何度も、ロシアの「ゆっくりした戦争」は戦争を拡大させる可能性があると警告してきた。 戦争が長引けば長引くほど、西側の愚かな連中が戦争に巻き込まれる機会が増える。スコット・リッターも私に同意している。

 「今起こっていることは、NATOが、ロシアに立ち向かう力があるのだと自らを納得させるために、筋肉を柔軟にしようとする努力である。つまり、NATOは、私が『いい気分』作戦と呼ぶ作戦で、これらの軍隊を動員しているのだ。ロシアに立ち向かうには不十分な戦力だが、紙の上では十分に見栄えがし、NATOをいい気分にさせるには十分な戦力である。この場合の危険性は、NATOが鏡の中で柔軟体操をして、自分たちが見ているものに感心しすぎて、実際に本物の軍事力があると信じてしまったら、これを利用しようとすることである」

 「今、ブリュッセルでは、NATOが招集した緊急首脳会議で、NATOの平和維持軍をウクライナ西部に投入する可能性について議論が進行中である。これは狂気の沙汰だ。どんな状況であれ、NATOにはこれを実行し、勝利する能力はない。しかし、彼らは軍隊を集め、鏡を見て、自分たちが見たものを気に入り、そこに本物の筋肉があると考えたのである。その場合、残念ながらNATOとロシアの間で軍事的な衝突が起こるであろう」

 「もし誰かが、ロシアのウクライナへの侵攻が始まった時に、NATOが関与する確率はどれくらいか?と質問していたら、NATOはウクライナ領内でのウクライナとロシアの戦いに関与するつもりはないと明言していたので、私はゼロと答えるだろう。しかし、この紛争が長引き、何百万人ものウクライナ人がNATO諸国に避難するようになると、NATOにとって経済的・人道的な大惨事になることが目に見えている。そして、飛行禁止区域を設けるだけでなく、実際にNATOの平和維持軍をウクライナ西部に駐留させるという話も出てきている」

 「今のところ、正気が勝ち、飛行禁止区域は拒否されている。しかし、この危機が長引けば長引くほど、国境に現れる難民が増え、NATO諸国が受け入れる難民が増えれば増えるほど、NATOの誰かが、いわゆる平和維持軍をウクライナ西部に置くことが良いアイデアだと考える可能性が高くなると思う。そうなれば、NATOとロシアが衝突する可能性がゼロだったのが、突然、NATOとロシアが衝突する可能性が100パーセントになるのだ。今は五分五分と言ったところだろう」
https://sputniknews.com/20220325/nato-being-persuaded-to-deploy-troops-in-western-ukraine-this-is-insanity-us-military-expert-says-1094185004.html

 ラブロフ、西側がロシアにハイブリッドな「全面戦争」を宣言したことに、ようやく気づく

 「今日、本当のハイブリッド戦争、『全面戦争』が我々に対して宣言された。この言葉は、ナチスドイツによって使われたもので、現在、多くのヨーロッパの政治家が、ロシア連邦に何をしたいのかを説明するときに使っている。そして、彼らの目標は隠されていない。ロシア経済とロシア全体を、破壊し、壊し、絞め殺すことなのである」

 ロシアは交渉を続けるのか、それとも反撃するのか?
https://sputniknews.com/20220325/west-has-declared-a-hybrid-all-out-war-on-russia-lavrov-says-1094178805.html

 腐敗したヨーロッパの傀儡政権は、制裁を課すことでロシアとの契約を破り、EUはロシアがルーブルでエネルギーを請求することは契約違反だと訴えている。

 西側諸国はロシアの外貨準備高3000億ドルを盗んだが、クレムリンはいまだにヨーロッパにエネルギーを供給している。敵に供給することで、ロシアは弱さを示し、より攻撃的な制裁を促し、今では西ウクライナにNATO軍が駐留する見通しである。
https://www.rt.com/business/552677-russia-rubles-gas-contract-breach/


 
 ロシアは「非友好的」な国家の資産を制限する

 無能なロシア中央銀行は、すぐにでも実行すべきことを1カ月もかけて実行した。この不可解な遅れは、西側諸国がロシアの弱さと優柔不断さ・決断力のなさを確信させ、結果として西側諸国によるロシアに対するより危険な動きを引き起こすことになった。
https://www.rt.com/business/552671-russia-restricts-assets-unfriendly-states/

 現実には、クレムリンはより広範ではるかに血なまぐさい戦争の危険を冒してウクライナの命を救ったのだ。
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ビガノ大司教が語るゼレンスキー政権の正体:ユダヤ人大統領がネオナチと手を組む不思議

検閲と不寛容によって否定される多元的な言論の自由

<記事原文 寺島先生推薦>

Msgr. Carlo Maria Viganò on the Russia-Ukraine Crisis. “Pluralism and Freedom of Speech Disavowed by Censorship and Intolerance”

By His Excellency Carlo Maria Viganò

Global Research 2022年3月11日

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年4月1日



1 ウクライナのカラー革命と、クリミア、ドネツク、ルガンスクの独立

 ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領の政権が2013年、ウクライナと欧州連合の連合協定を中断し、ロシアとの経済関係を緊密にすることを決定した。

 その後、「ユーロ・マイダン(欧州広場)」と呼ばれる一連の抗議デモが始まり、それは数カ月に及び、最終的にヤヌコヴィッチを打倒し新政府を発足させた革命に至ったのである。

 それはジョージ・ソロスがスポンサーとなった作戦であったと、彼はCNNに率直に語っている。「私はウクライナがロシアから独立する以前からウクライナに財団を持っている。この財団は常にビジネスをおこなっており、今日の出来事において決定的な役割を果たした」(こちらこちらこちらを参照)。

 政権交代は、ヤヌコヴィッチの支持者と、ウクライナの親西欧化に反対するウクライナ国民の一部の反発を招いた。ウクライナの親西欧化は、国民が望んでいたものではなかった。それはカラー革命によって獲得されたものだからである。カラー革命については、その全面的なリハーサルが数年前にグルジア、モルドバ、ベラルーシでおこなわれていたのだ。

 2014年5月2日の衝突に続いて、民族主義的民兵組織(極右集団「右派セクター」を含む)も介入し、オデッサでの大虐殺もあった。

 欧米の報道機関もこれらの恐ろしい出来事をスキャンダラスに語り、アムネスティ・インターナショナル(こちらを参照)や国連はこれらの犯罪を糾弾し、その残虐性を記録した。

 しかし、責任者に対していかなる国際法廷も手続きを開始することはなかった。ところが今日、ロシア軍にたいしては侵略行為だとして国際法廷に訴えると言っている。

 その後、関係者の間で多くの協定がむすばれた。しかし、そのほとんが尊重されていない。その中には、2014年9月5日に署名したミンスク議定書も含まれる。これはウクライナに関する三者協議会、すなわちウクライナ、ロシア、ドネツク人民共和国&ルガンスク人民共和国の代表からなる協議会だった。

 合意のポイントの中には、OSCE(欧州安全保障協力機構)の監視のもと、武装した違法集団、軍事装備、そして戦闘員や傭兵をウクライナ領内から排除し、すべての違法集団の武装解除をおこなうことも含まれていた。

 合意内容に反して、ネオ・ナチの民兵集団は政府に公式に認められているだけでなく、そのメンバーには閣僚の地位すら与えられている。

 また2014年には、クリミア、ドネツク、ルガンスクがウクライナからの独立を宣言し――すなわち国際社会が認めた民族の自決の名のもとに――ロシア連邦への編入を求めるとの宣言もした。

 ウクライナ政府は、住民投票によって承認されたこれらの地域の独立をいまだに認めず、ネオ・ナチ民兵や正規軍自身がドンバス地区の住民に対して自由に暴れることを放置しているのである。ドンバス政府をテロ組織だというのである。

 ドンバス地区で2014年11月2日におこなわれた2つの住民投票は、ドネツク州とルガンスク州の権力の分散と特別な地位の形のみを規定したミンスク議定書の延長上にあることは事実である。

 フランコ・カルディーニ教授(イタリア、人間社会科学研究所・名誉教授)が最近、次のように指摘した。

 「2022年2月15日、ロシアはこの状況を終わらせ、ロシア語を話す住民を守るための協定案を米国に届けた。しかしこれは名目的なものに過ぎない。この戦争は2014年に始まっていたからだ」(こちらこちらを参照)。

 そして、それは、ドンバスという地域のロシア系少数派と戦おうとする、ウクライナ多数派が意図的に始めた戦争だった。ペトロ・ポロシェンコ大統領は2015年に述べている。

 「私たちには仕事も年金もあるが、彼らにはないだろう。私たちは子どもを産んだらボーナスをもらえるが、彼らはそうではない。私たちの子どもには学校や幼稚園があり、彼らの子どもは地下室にいる。このようにして、われわれはこの戦争に勝つのだ」(こちらを参照)。

 こうした措置が、仕事も給料も教育も奪われた、いわゆる「ワクチン未接種者」に対する差別と似ていることに気づかないわけがない。

 ドネツクとルガンスクでは8年間にわたり爆撃がおこなわれ、数十万人の犠牲者、150人の子どもの死者、そして拷問、レイプ、誘拐、差別といった非常に深刻な事例が発生している(こちらを参照)。

 ドネツクとルガンスクの大統領であるデニス・プーシリンとレオニード・パセチニクは、2022年2月18日、ドンバス人民共和国民兵とウクライナ軍との衝突が続いているため、それぞれの国の民間人のロシア連邦への避難を命じた。

 ロシア国会下院は、プーチン大統領が2月21日にドネツク&ルガンスク両共和国と締結した友好・協力・相互援助条約を、全会一致で批准した。同時に、ロシア大統領はドンバス地域の平和を回復するために、ロシア連邦から軍隊を派遣することを命じた。

 ここで一つ疑問が湧いてくるだろう。

 鉤十字の旗を掲げ、アルドルフ・ヒトラーの肖像を掲げるネオ・ナチの軍隊や準軍事組織が、独立共和国のロシア語を話す住民に対して露骨な人権侵害をおこなっている状況で、なぜ国際社会がロシア連邦の介入を非難に値すると感じ、実際に暴力についてプーチンを非難しなければならないのか、という疑問だ。

 1991年8月24日のウクライナ独立宣言で有効とされ、国際社会も認めた国民の自決権はどこにあるのだろうか?

 NATOは、ユーゴスラビア(1991年)、コソボ(1999年)、アフガニスタン(2001年)、イラク(2003年)、リビアとシリア(2011年)で同じようなことをおこないながら、誰も異議を唱えることはなかった。にもかかわらず、なぜ今日、ロシアのウクライナへの介入でスキャンダルになるのだろうか?

 言うまでもなく、イスラエルはこの10年間、北部の国境に敵対的な武装戦線が形成されるのを防ぐためと称して、シリア、イラン、レバノンの軍事目標を繰り返し攻撃してきたが、どの国もテルアビブへの制裁を提案することはなかった。

 次のような光景を目にすることほど、ひとを当惑し失望させるものはない。

 EUと米国(ブリュッセルとワシントン)は、ゼレンスキー大統領を無条件に支持している。ゼレンスキー政権は8年前から、ロシア語を話すウクライナ人を迫害し続けていて何のお咎めもない(こちらを参照)。

 彼らは多民族国家のなかで母国語で話すことさえ禁じられている。なかでもロシア語話者は17.2%にも及んでいる。

 しかもウクライナ軍は、民間人を人間の盾として使っていることについても、欧米は沈黙している。これらのことは実に恥ずべきことではないか。

 そのうえウクライナ軍は、人口密集地、病院、学校、幼稚園の中に対空兵器を置いている。これは空爆が住民の間に多くの死者を出すことを目的にしているのだ。

 主流メディアは、ロシア兵が民間人を安全な場所に誘導したり(こちらこちらを参照)、ロシア兵が人道的回廊を組織しているのに(こちらこちらを参照)、それをウクライナ武装集団が発砲したりしている画像を見せないように注意している。

 同様に、ゼレンスキーが武器を与えた民間人の一部による略奪、虐殺、暴力、窃盗についても沈黙している。インターネット上で見ることのできる動画は、ウクライナ政府によって巧妙に煽られた内戦の風潮を物語っている。

 これに、ウクライナ軍に徴兵されるために釈放された囚人や、外国人部隊の志願者も加えることができる。規則も訓練もない狂信者の集団は、状況を悪化させ、管理不能にすることに貢献するだろう。

 



2 ウクライナのネオ・ナチと極右過激派の運動


 ロシアの侵略から国民を守るために国際社会から人道的援助を求める国は、集団的想像力を生かして、民主主義の原則の尊重と、過激派イデオロギーによる活動やプロパガンダの拡散を禁止する法律の制定を、求めるべきである。

 軍事的かつ準軍事的活動に従事するネオナチ運動は、しばしば公的機関の公式支援を受けて、ウクライナで自由に活動している。これらには次のようなものがある。

 ①ステパン・バンデラのウクライナ国民党組織(OUN)。
  これはナチス、反ユダヤ主義と、チェチェンですでに活動していた人種差別主義の母体を持つ運動であり、「右派セクター」に属している。なお、この「右派セクター」は2013/2014年の「ユーロ・マイダン(欧州広場)」のクーデター時に結成された極右運動の連合体である。

 ②ウクライナ反乱軍(UPA)。

 ③UNA/UNSO。
  これは極右政党ウクライナ国民会議の準軍事組織である。

 ④コルチンスキー同胞団(Korchinsky Brotherhood)。  
 これはISISメンバーにキエフでの保護を提供した組織である(こちら)。

 ⑤人間嫌い構想(Misanthropic Vision)(MD)。
  これは19カ国に広がるネオナチネットワークである。キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、共産主義者、同性愛者、アメリカ人や有色人種に対して、テロや過激主義や憎悪を公に煽り立てている組織である(こちら)。

 忘れてならないのは、ウクライナ政府がこれら過激派組織への明確な支援をおこなってきたことである。彼ら過激派組織の代表者の葬儀に大統領警護官を送ったり、あるいはまた同様に、アゾフ大隊を支援したりしたことによってである。

 そのアゾフ大隊とはウクライナ軍に正式に所属している準軍事組織であり、新しい名称をアゾフ特殊作戦連隊といい、国家警備隊に組織されている。

 アゾフ連隊は、ウクライナ系ユダヤ人のオリガルヒであるイゴール・コロモイスキーによって資金提供されている。

 彼は前ドニエプロペトロフスク州知事であり、また、「右派セクター(プラヴィイ・ゼクトール)」の民族主義民兵の資金提供者だと考えられている。この右派セクター(プラヴィイ・ゼクトール)こそ、オデッサの大虐殺に責任があると考えられている組織だ。



「ウクライナの防衛者」の日(2018年10月14日)にキエフを行進するアゾフ大隊などの極右集団のメンバー。写真はLeave the West Behindより。

 私が、「パンドラ文書」でゼレンスキー大統領のスポンサーとして言及したコロモイスキーと同じ人物である。このアゾフ大隊は、ヨーロッパやアメリカのいくつかの極右組織と関係がある。

 アムネスティ・インターナショナルは、サリル・シェティ事務局長が2014年9月8日に、アルセニー・ヤツェニュク首相と会談した後、ウクライナ政府に対し、キエフ軍と共に活動するアゾフ大隊などの住民虐待と戦争犯罪を終わらせるよう要請した。

 ウクライナ政府は、この件に関する公式調査を開始したが、アゾフ大隊の将校や兵士は誰も調査を受けていないようだと認めた。

 それどころか、ウクライナのアルセン・アヴァコフ内務大臣が2015年3月に発表したのは、アゾフ大隊が「オペレーション・フィアレス・ガード(大胆不敵の防衛作戦)」の訓練任務の一環として、米軍部隊による訓練を受ける最初の部隊の1つになることだった。

 しかし米国の訓練は2015年6月12日に打ち切られた。それは米国下院がネオナチの過去を理由に同大隊へのすべての援助(武器や訓練を含む)を禁止する修正案を可決したからだった。

 しかし、その後、CIAの圧力により修正案は撤回され(こちらこちらを参照)、アゾフ大隊の兵士は米国で訓練を受けることになった(こちらこちらを参照)。

  「われわれは彼らをもう8年も訓練している。彼らは実に優れた戦士たちだ。それこそ、CIAのプログラムが重大な力を発揮しただろうと思われる点だ」

 OSCE(欧州安全保障協力機構)の報告書が2016年、明らかにしたのは、アゾフ大隊が囚人の大量殺害、集団墓地での死体の隠蔽、身体的・心理的拷問技術の組織的使用に責任があるということだった。

 ところが驚いたことに、つい数日前、アゾフ大隊の副司令官ヴァディム・トロヤンが、アルセン・アヴァコフ内相によって、オブラスト州警察署長に任命されていたのである。

 こういった面々が、ウクライナ軍とともにロシア兵と戦っている「英雄たち」なのである。そして、このアゾフ大隊の英雄たちは、自分たちの子どもを守る代わりに、あえて自分たちの肉親を仲間にしようと、少年少女を入隊させている(こちらこちらを参照)。

 これは、武力紛争における未成年者の関与に関する「国連子どもの権利条約の選択議定書」(こちらを参照)に違反している。

 この議定書は、国家の軍隊であっても武装集団であっても、18未満の子どもを強制的に徴集したり戦闘で使ったりしないことを定めた特別な法的手段なのである。

 必然的に、EUが提供する殺傷力のある武器が、こうした子どもたちによって使われる運命にあるのである。その中のEUのなかには、「反ファシスト」を標榜する政党の支援で首相になったはずの、ドラギ首相のイタリアもあるのだ。

3 ウクライナ大統領、ヴォロディミール・ゼレンスキー


 多くの政党が指摘しているように、ゼレンスキー大統領の立候補と当選は、近年始まった喜劇俳優や芸能人の政治家への起用という決まり文句に対応するものである。

 エリートコースに乗っていなければ機関の頂点に登れないと信じてはならない。それどころか政治の世界では見知らぬ人であればあるほど、その人の成功は権力者によって決定されると考えるべきなのだ。

 ゼレンスキーの女装パフォーマンスは、LGBTQのイデオロギーと完全に一致する。それは、ヨーロッパの政界スポンサーが、すべての国の受け入れるべき「改革」計略の必須条件と考えるものそのものであり、男女平等、中絶、グリーンエコノミーに匹敵する条件である。

 WEF(こちらを参照)のメンバーであるゼレンスキーが、WEF会長クラウス・シュワブやその同盟者たちの支援という恩恵を受けて政権を取り、ウクライナでもグレート・リセットが実行されるようになったのも不思議はない

 ゼレンスキーが製作・主演した57回にわたるテレビシリーズは、メディアが彼のウクライナ大統領選への立候補と選挙戦を計画したことを示している。

 フィクション番組『人民の僕(しもべ)』で、彼は思いがけず共和国大統領に就任し、政治の腐敗と戦う高校教師の役を演じた。絶対的に何のへんてつもなかったこのシリーズが、それでも「ワールドフェスト・レミ賞」(アメリカ、2016年)を受賞し、「ソウル国際ドラマ賞」(韓国)のコメディ映画部門で最終候補のトップ4に入り、ハンブルクの「ワールドメディア映画祭」でエンターテインメントTVシリーズ部門の「インターメディアグローブ銀賞」を受賞したのも、偶然ではないだろう。

 ゼレンスキーがテレビシリーズで得たメディア上の反響は、彼のインスタグラムのフォロワーを1000万人以上にし、同名の政党「Servant of the People」を設立する前提になった。

 この政党には、ゼレンスキー自身やオリガルヒ・コロモイスキーとともに、「クバルタル95スタジオ(Kvartal 95 Studio)」の総支配人&株主(ゼレンスキーとコロモイスキーも株主)で、「TV 1+1」テレビネットワークの所有者でもあるイバン・パカノフもメンバーとして名を連ねている。

 ゼレンスキーのイメージは人為的な産物であり、メディアのフィクションであり、ウクライナ共同体の想像力のなかに何とか政治的キャラクターを作り出そうとした「合意の捏造」作戦だったのだ。彼はフィクションではなく現実において権力を獲得したのだった。

 「彼が勝利した2019年の選挙のちょうど1カ月前、ゼレンスキーは会社[Kvartal 95 Studio]を友人に売却し、自分が正式に放棄してしまっていた事業の売却収益を自分の家族に与える方策(手口)をまだ探していた。

 その友人とはセルヒイ・シェフィールで、後に大統領府参事官に任命された人物だったんだ。(中略)株式の売却は、マルテックス・マルチキャピタル社の利益のためにおこなわれた。この会社はシェフィールが所有していて、英領ヴァージン諸島で登記がされている会社だ」(こちらも参照)。

<訳注>つまり税金逃れのために、世界的な租税回避地(タックス・ヘイブン)として有名な英領ヴァージン諸島に、幽霊会社をつくったわけだ。


 ウクライナの現大統領は、選挙キャンペーンで、2丁の機関銃を持ち、汚職やロシアへの従属を指摘された国会議員に発砲するという、控えめに言っても不穏なCMを流していた(こちらを参照)。

 しかし、ウクライナ大統領が「人民の僕(しもべ)」の役割で喧伝した汚職との闘いは、いわゆる『パンドラ文書』<註>から浮かび上がる彼の姿とは一致しない。

 <註>世界各国の首脳や有名人が幽霊会社で租税回避していたことを示す「パンドラ文書」

 この文書には、選挙の前夜、ユダヤ人大富豪コロモイスキー[1]が海外口座を通じて彼に4千万ドルを支払ったように見える(ここここここを参照)[2]。

 彼の祖国ウクライナでは、彼が親ロシア派のオリガルヒ(新興財閥)から権力を奪ったのは、ウクライナ国民に権力を与えるためではなく、むしろ自分の利益集団を強化し、同時に政敵を排除するためだと非難する声が多く聞かれる。

 「彼は保守派の閣僚たちを、まず第一に、有力な内務大臣である(アルセン・)アヴァコフを清算した。

 次に彼は、自分の法律をチェックする役割を担っていた憲法裁判所長官を、突然に退任させた。そのうえ彼は、7つの野党テレビ局を閉鎖した。

 さらに彼は、親ロシア派であり、ウクライナ議会の第二党である「生活のための野党」の党首ヴィクトル・メドヴェドクを逮捕し、反逆罪で告発した。この政党は、ゼレンスキー大統領の政党「人民の僕」に続く、第2の政党だった。

 また、この政党はポロシェンコ前大統領を反逆罪で裁判にかけようとしていた。ロシアやその友人と仲良くしている人以外は疑ってかかる人物だったというわけだ。

 人気者の元ボクシング世界チャンピオンでありキエフ市長であるヴィタリー・クリチコも、すでに何度も捜索や差し押さえを受けている。

 要するに、ゼレンスキーは自分の政治に沿わない人物を一掃したいようだ」(こちらを参照)。

 ゼレンスキーは2019年4月21日、73.22%の得票率でウクライナ大統領に選出され、5月20日に宣誓をした。

 彼は2019年5月22日、「クヴァルタル95」社長のイワン・バカノフを、ウクライナ治安サービス第一副局長およびウクライナ治安サービス中央総局の汚職・組織犯罪対策主管局長に任命した。

 バカノフと並んで、ミハイロ・フェドロフを挙げることができる。彼は副大統領およびデジタル移行推進担当大臣に任命された。彼もWEF(世界経済フォーラム)のメンバーである(こちらを参照)。

 ゼレンスキー自身は、カナダのジャスティン・トルドー首相にインスピレーションを受けたと認めている(こちらと、こちらを参照)。

4 ゼレンスキーとIMF、WEFの関係

 ギリシャの悲劇的な前例が示すように、国家の主権と議会の表明する民意は、国際的な巨大金融業(IMF)の決断によって事実上、抹殺される。それが、経済的本質から由来する大金融業(IMF)の決断が恐喝および明白なゆすりを通じて政府の政策に干渉するからだ。欧州の最貧国の一つであるウクライナも例外ではない。

 ゼレンスキーの当選直後、国際通貨基金(IMF)は「要求に従わなければ、ウクライナに50億ドルの融資をしない」と脅した。IMFの専務理事であるクリスタリナ・ゲオルギエヴァとの電話会談で、ウクライナ大統領は叱責された。ヤキフ・スモリイを更迭して、自分が信頼するキーロ・シェフチェンコに代えたからだ。シェフチェンコはIMFの「命令」に従わないからだ。

 アンドレアス・アスランド(Anders Åslund)は『Atlantic Council』に書いている。

 ゼレンスキー政権を取り巻く問題は、憂慮すべき事態に発展している。

 まず、2020年3月以降、大統領は、ヤキフ・スモリイの下で進められた改革だけでなく、前任者のペトロ・ポロシェンコが始めた改革をも覆したからだ。

 第二に、同大統領の政府は、ウクライナがまだ達成していない課題にたいするIMFの懸念を解消するための適切な提案をしていない。

 第三に、大統領はもはや議会に与党の多数派をつくり改革派の多数派を形成することに無関心なようでだから」(こちらを参照)。

 明らかなことは、このIMFの介入は、グローバリストが指示している経済・財政・社会政策の課題にウクライナ政府が取り組むよう、強要することが目的としていた。

 その手始めがウクライナ中央銀行を政府からの「独立」(括弧つきの独立)させることである。これは、IMFがキエフ政府に対して中央銀行に対する合法的支配を放棄するように求める婉曲的な表現である。なぜなら中央銀行は貨幣の発行や公的債務の管理といった国家主権を行使する手段の一つだから、それを放棄しろというのである。

 一方、そのわずか4カ月前、IMFの専務理事であるクリスタリナ・ゲオルギエヴァは、WEFのクラウス・シュワブ、チャールズ英国皇太子、アントニオ・グテーレス国連事務総長とともに、「グレート・リセット」に着手したのだった。

 こうして、それまでの政権では不可能だったことがゼレンスキー大統領のもとで実現した。ゼレンスキーが、BCU(Baxter Credit Unionバクスター信用組合)の新総裁キーロ・シェフチェンコと共に、意向に沿ったからである。

 その1年足らず後、シェフチェンコは自分の服従の度合いを証明するために、「中央銀行が各国の気候目標の鍵であり、ウクライナはその道を示している」という論文をWEFに寄稿した(こちらを参照)。

 こうして、アジェンダ2030は、脅迫のもとに、実行される。

 他にも、WEFとつながりのあるウクライナの企業はある。ウクライナ国立貯蓄銀行(ウクライナ最大の金融機関の一つ)、DTEKグループ(ウクライナのエネルギー分野における重要な民間投資家)、Ukr Land Farming(土地開発の農業分野における先端企業)などだ。銀行、エネルギー、食糧は、クラウス・シュワブが理論化した『グレートリセット:第四次産業革命』に完全に合致する分野である。

 ウクライナ大統領ゼレンスキーは、2021年2月4日、ZIK、Newsone、112 Ukraineなど7つのテレビ局を閉鎖した。これらはすべて自国政府を支持しない罪を犯したというのである。

 アンナ・デル・フレオが書いているように、「この自由を抹殺する行為に対して厳しい非難が殺到した。とりわけ欧州ジャーナリスト連盟と国際ジャーナリスト連盟は、このような閉鎖措置にたいして即時解除を要求した」のである。

 こうして、3つの放送局は5年間放送ができなくなり、約1500人の雇用が危険にさらされることになる。

 この3つのネットワークが閉鎖されるべき本当の理由は、ウクライナの政治的焦点、すなわち大統領の恣意性以外にない。これら三つの放送局は、情報セキュリティを脅かし、「悪質なロシアの影響」を受けていると非難されたのだ。

 これにたいして、ウクライナのジャーナリスト組合であるNUJUからも、言論の自由に対する非常に重い攻撃だと強い反対があった。何百人ものジャーナリストが自己表現の機会を奪われ、何十万人もの市民が情報を得る権利を奪われていると主張した。

 ここではロシアとプーチンが非難されているが、実際にはゼレンスキーが、そして最近では欧州連合が、「偽情報を防ぐという口実でつくられたソーシャルメディアの規程」に加担して実行したことである。

 しかし、EFJ(ヨーロッパジャーナリスト連盟European Federation Journalists)事務局長リカルド・ギテーレス(Ricardo Gutierrez)は、「テレビ放送局の閉鎖は報道の自由を制限する最も極端な形態の一つだ」と述べている。

「国家は効果的な情報の多元性を確保する義務があります。大統領の拒否権は、表現の自由に関する国際基準にまったく合致していないことは明らかだ」(こちらを参照)。

 ヨーロッパにおけるロシア・トゥデイとスプートニクの報道管制の後、ヨーロッパジャーナリスト連盟と国際ジャーナリスト連盟がどのような声明を出したか、興味深いところである。

5 バイデン親子のウクライナにおける利益相反関係

 もう一つ、深く分析しない傾向があるのが、2002年からウクライナ市場で操業している石油・ガス会社、ブリズマ社に関する問題である。以下の点を思い起こしてみよ。

 バラク・オバマのアメリカ大統領時代(2009年から2017年まで)、オバマの右腕で、国際政治を一手に引き受ける「委任権」を持っていた人物こそジョー・バイデンであった。

 そしてそれ以来、民主党のアメリカ指導者が提供する「保護なるもの」がウクライナの民族主義者に与えられ、キエフとモスクワの間に和解できない不一致を生み出す路線となったのである。(中略)

 その当時のジョー・バイデンこそ、ウクライナをNATOに近づけるという政策を実行した人物であった。彼は、ロシアから政治的・経済的な力を奪いたかったのである。(中略)

 近年、ジョー・バイデンの名前はウクライナをめぐるスキャンダルとも関連付けられているが、それがバイデンのホワイトハウス入りを危うくしたスキャンダルでもあったのである(略)。

 2014年4月、ウクライナ最大のエネルギー企業(ガスと石油の両方で活動)であるブリスマ・ホールディングスが、ハンター・バイデンを月給5万ドルのコンサルタントとして雇った(中略)。

 すべてが透明である。ただし、その数ヶ月の間、ジョー・バイデンが、ドンバスの所有権をウクライナに取り戻すことを目的としたアメリカの政策を続けたことを除けば、である。

 ドンバスこそ、現在ロシアによって承認され、共和国となった地域だ。このドネツク地域には未開発のガス田が豊富にあるとされ、ブリスマ・ホールディングスがこれをずっと狙ってきた。

 経済政策と絡めた国際政策であり、当時のアメリカのメディアを鼻白ませたものだった」(こちらを参照)。

 民主党は、トランプがバイデンの選挙戦を害するためにメディアのスキャンダルを作り出したと主張したが、トランプの告発は事実となった。

 ジョー・バイデン自身、「ロックフェラー外交問題評議会」の会合で、当時のペトロ・ポロシェンコ大統領とアルセニ・ヤツェニク首相に介入し、ヴィクトル・ショーキン検事総長による息子ハンターへの調査を阻止したことを認めた。

 ニューヨーク・ポスト紙は、バイデンが「2015年12月のキエフ訪問時に、米国で10億ドルの融資保証を保留する」と脅していたと報じている(こちらを参照)。

 「ショーキン検事総長をクビにしなければ、金がなくなるぞ」(こちらこちらを参照)。そして事実上、検事総長は解雇され、ハンターをさらなるスキャンダルから救ったのである。スキャンダルがハンターを巻き込んだ後ではあったが。


 バイデンのキエフ政治への干渉は、ブリズマと腐敗したオリガルヒへの便宜と引き換えに、現在のアメリカ大統領が自分の家族とイメージを守ることのみに関心を持っていることを裏付けている。

 それがウクライナの無秩序と戦争をさえ煽っているのである。自分の役割を利用して自分の利益を大事にして、家族の犯罪を隠蔽する人間が、正直にかつ脅迫に屈することなく統治などできるものだろうか。

6 核兵器の開発・拡散・使用を禁止したブダペスト覚書の破棄を表明

 最後に、ウクライナの核兵器の問題である。

 ゼレンスキーは、2022年2月19日、ミュンヘンでの会議でウクライナの核兵器の開発・拡散・使用を禁止したブダペスト覚書(1994年)を破棄する意向を表明した。

 また、この覚書には、ロシア、米国、英国がウクライナの政策に影響を与えるために経済的圧力を行使しないことを義務付ける条項がある。

 IMFや米国が、「グレートリセット」に沿った改革と引き換えに経済援助を与えることは、さらなる合意違反となる。

 ウクライナ大使のアンドリー・メルニク(在ベルリン)は、2021年にドイツ国営放送で、ウクライナがNATOに加盟できなかった場合、核の地位を回復する必要があると主張した。

 ウクライナの原子力発電所は、国営企業NAEKエネルゴアトムが運転・再建・保守をおこなっているが、2018年から2021年にかけてロシア企業との関係を完全に終了させた。

 NAEKの主なパートナーは、たどっていけば米国政府に行き着くことのできる企業である。これを考えれば、ロシア連邦がウクライナの核武装の可能性を脅威とみなし、キエフに核不拡散条約の遵守を要求していることは容易に理解できる。


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