<記事原文 寺島先生推薦>
National Security State Censoring of Anti-Imperialist Voices the Latest Phase of Their Long-Term Strategy to Divide and Control the Left(米国家安全保障機関による反帝国主義者への検閲----左翼を分断し統制する長期戦略の最新局面)
筆者:スタンフィールド・スミス (Stansfield Smith)
出典:INTERNATIONALIST 360°
2022年6月22日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2022年8月21日
初めに 米国の支配者層は多くの手口を駆使して、反戦・反帝国主義左翼を妨害し、組織化することを妨げてきた。本論では以下の三つの観点から論じたい。①ニュースメディアを企業支配することにより、国内や国外の標的に向けた偽情報や偽ニュースを自由に流すこと。②政府や私的団体財団の資金を用い、聞き分けの良い左翼に金を渡し、勢力を拡大させることにより、反帝国主義勢力の対抗勢力にすること。③ソーシャル・メディアとインターネットを統制下に置くことで、支配者層は反帝国主義や反戦の声に検閲をかけること。
ここから記事本論 2016年以来、フェイスブックの投稿やツイッターやペイパルのアカウントなどウェブサイト上の検閲は驚くほど激しさを増している。 標的にされているのは、政府や巨大な企業メディアが垂れ流す公式説明に異論を唱える声である。つまり、米国による外国への干渉や、外国の政権を転覆させようとする企てや、新型コロナや、ロシアによるウクライナへの進攻など、どんな内容の異論でも検閲の標的にされる。
ウクライナでの戦争に関しては、米国政府や企業諸メディアの持つ強力な喧伝力がロシアに直接向けられ、きわめて激しい規模に達している。
第二次世界大戦直後、マッカーシズム(この流れはジョー・マッカーシー(Joe McCarthy)に由来する)の台頭とともに米帝国が冷戦を開始した際、CIAの
モッキンバード作戦の統制下でニュースの操作や抑圧がしばしば行なわれた。 企業メディアは、CIAの命を受け、米国支配者層の利益の代弁機関となった。CIAは密かに隠れ蓑団体や個人に幅広く資金を提供し米国支配者層が敵とみなす勢力の対抗勢力にしようとしてきた。この動きにより、実在する社会主義に対抗する左翼勢力が援助され、その目的は左翼勢力内に分断を持ち込み、共産主義を弱体化し、非共産主義左翼を打ち立てることだった。
CIAと協働していた左翼の重要な人物といえば、女性運動の中心的な指導者
グロリア・スタイネム(Gloria Steinem)、マルクス主義の知識人とされている
ハーバート・マルクーゼ(Herbert Marcuse)、全米自動車労働組合委員長(1946-1970)の
ウォルター・ロイター(Walter Reuther)、国際婦人服労働組合委員長(1932-1966)のディビッド・ドビンスキー(David Dubinsky)である。CIAは社会党党首でマーティン・ルーサー・キングの側近だった
バイヤード・ラスティン(Bayard Rustin)やノルマン・トーマス(Norman Thomas)やマイケル・ハリントン(Michael Harrington)と協働していた。
2人は後に「第3陣営(米国派でもソ連派でもない派閥)」である米国民主社会主義者党(DSA)の創始者となった。 米国民主社会党(SDUSA)の創始者であり、後にCIAの代行機関である全米民主主義基金(NED)創設長(任期:1983-2021)を務めたカール・ガーシュマン(Carl Gershman)も同じだった。
米国民主社会主義者党(DSA)も、米国民主社会党(SDUSA)も、米国にかつて存在したアメリカ社会党の後継団体。詳しくはこちらを参照。
「
文化自由会議(CCF)」を通じて、CIAは左翼の批評家たちの著書出版に資金を提供していた。その一例は
レシェク・コワコフスキ(Leszek Kolakowski)とミロヴァン・ジラス(Milovan Djilas)の共著『
新しい階級』だ。 CIAは、
フランクフルト学派の「西側マルクス主義」も支援したが、テオドール・アドルノ(Theodore Adorno)やフランクフルト大学社会研究研究所の元所長マックス・ホルクハイマー(Max Horkheimer)もその中に含まれており、彼らはロックフェラー財団からも助成金を受け取っていた。
多くの企業財団の中でも、ロックフェラーや
フォードや
オープン・ソサエティや
タイズ財団などの企業財団が、CIAの資金を進歩的勢力に注ぎ込んでいた。『
文化冷戦』(pp.134-5)の記載によると、1963年から66年の間、164の財団からの補助金が世界各国の活動に流れ込んでいたが、うち半分近くがCIAの資金が絡んだものだった。フォード財団は今でも、米国内の進歩的な勢力に資金を提供している財団のひとつだ。例えばオープン・ソサエティ財団も
フォード財団も、「Black Lives Matter」運動に多額の資金を提供している。
CIAは、米国諸企業の利益を妨げると考えられる民主的な政権を転覆させる冷酷な組織として捉えられている。それは真実なのだが、「監視する」というCIAの「より優しい」手口も存在する。 具体的には聞き分けの良い左翼に資金を与え、拡大させるのだ。この聞き分けの良い左翼が、政治的な主導権獲得を目指す民主党内の勢力につながる。この第3勢力を担う左翼が反帝国主義や反共産主義の代替勢力になるのだが、それでも急進派の青年層や活動家や知識階級の人々には彼らを引きつけるに足る進歩的なものに見えるようだ。 CIAのこのような狡猾な戦略のおかげで、左翼に属する人々の中に混乱と不和と断絶が生み出されてきた。
このような米国政府やCIAによる秘密工作を詳述している著書が、『マイティ・ワーリッツァー ( Mighty Wurlitzer) *:CIAが米国を操る方法』 や、フィンクス(Finks)著『CIAが世界最高の作家たちをどう騙したか』や、『文化冷戦』や労働総同盟・産業別組合(AFL-CIO)編『発展途上国の労働者たちに対する秘密戦争----団結か妨害か?』である。
*訳注:マイティ・ワーリッツァー(Mighty Wurlitzer)は電子オルガンの名称。著書『マイティ・ワーリッツァー』の題名は、著者でありCIA職員フランク・ウィズナーが、様々な偽装団体を楽器のように用いて喧伝を世間に音楽のように広めるCIAの影響力を説明するために使用した比喩である。 1977年、
カール・バーンスタイン(Carl Bernstein)はCIAと巨大企業諸メディアとの相互の繋がりについて明らかにした。400人以上の記者が、各メディアの上司も承知の上でCIAと協働していた。CIAと協力して喧伝(けんでん)行為を行っていたのは、CBS、ABC、NBC、タイム誌、ニューズウィーク誌、ニューヨーク・タイムズ紙、AP通信、ロイター通信、UPI通信、マイアミ・ヘラルド紙、サタデー・イブニング・ポスト誌、ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙である。ニューヨーク・タイムズ紙は今でも記事の承認を得るよう米国政府に
事前に記事を送っている。いっぽうCNNなどは、国家安全保障機関に関わる人物を「専門家」として重宝している。
ロイター通信や、BBCや、情報サイトのベリングキャット(bellingcat.com)も同様に、英国政府が密かに資金提供している偽情報計画に関わり、「ロシアの弱体化」に手を貸している。この企みには英国外務省の「偽情報と偽メディア開発対策部」も
協力している。
CIAは独・仏・英・豪・ニュージーランドの記者たちに報酬を払い、偽ニュースを広めさせている。ドイツの有力紙のひとつフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙の元編集者
ウド・ウルフコテ(Udo Ulfkotte)は、CIAがドイツの御用メディアを抑えている様を『
CIAからの報酬に埋もれて』という著書で明らかにしている。ウルフコテによると、CIAはウルフコテに偽記事を新聞に載せさせたとのことだ。一例をあげると、2011年にリビアのガダフィー大統領が毒ガス工場を建設したとする記事だ。
CIAは今は無くなって久しい全米学生協会(NSA)や、労働組合の指導者層にも密接に関わっていた。労働総同盟・産業別組合(AFL-CIO)の米国自由労働開発所は、USAID(米国国際開発庁)や国務省やNED(全米経済開発局)から資金を得て、外国の闘争的な労働組合を弱体化させ、殺人的なクーデターの促進を助けている。例えばチリのアジェンデ大統領反対運動(1973)や、ブラジルのクーデター(1964)を幇助し、さらには米国の支配者層による支配を保護してきた。このような状況 は今でも続いており、
AFL-CIO団結センターはNEDから年3000万ドルを受け取っている。
CIAはプレガー・プレス社などの出版社を設立し、さらにジョン・ワイリー出版社や、スクリブナー、バランタイン・ブック社や、パトナム社を使って書籍を出版している。CIAは「パルチザン・レビュー」誌など、政治誌や文学誌をいくつか創設している。CIAが出したこのような出版物は1000冊以上にのぼり、主にリベラル・左翼向けに出版され、その狙いは第3陣営の左翼を前進させ、かつて世界を席巻していた強力な共産主義を弱体化させることだった。
この使命は何年も前に達成されており、今日、国家安全保障国家の活動は反帝国主義左翼を弱体化させ、「まだマシな方の悪党」民主党に左翼勢力を結集させることになっている。
米国政府とメディアによる近年の思想統制措置 CIAは企業メディアを使って国家安全保障国家に対して脅威になると思われる勢力を弱体化させてきたが、それが激化したのはオバマが2017年に
NDAA(国防受権法)に署名してからだ。 この法律により、国家安全保障機関に対する公的な規制が取り払われ、米国民に対して直接偽ニュースを提供できるようになった。NDAAの「偽
情報及び喧伝対策法」は、ロシアゲート事件の初段階から施行され、 中央政府が喧伝を撒き散らす機関を設立することになった。このNDAAは、「ロシア政府が積極的な措置を用いて、(ロシア連邦の役割は隠蔽され、公に認識されない形で)人々や政府に密かに影響を与えようとしていることに対抗するための法律である。ロシア連邦は、代理勢力や秘密放送やメディア操作や偽情報や偽造物などを使い、工作員に資金を渡し、感化や扇動や攻撃的な諜報や暗殺やテロ行為を行わせている。当委員会の任務は、不正や感化・汚職・人権侵害・テロ・暗殺工作が、ロシア連邦やその代理による保安機関や政治指導者層により実行されたことについて明らかにするものとする」としている。
グレン・フォード(Glen Ford)は以下のように捉えている。「(上に)記述されている行為は、暗殺とテロを除いて政治的意味合いにおいて隠語として使われ、これらの行為は「米国の民主主義の弱体化」に従事しているとされた標的に対して使われることが可能であり、この先使われることになるだろう。例えばニュースメディアのブラック・アジェンダ・レポートなどの左翼メディアはワシントン・ポスト紙(
PropOrNot上の記事)により「偽ニュース」を発信するメディアと中傷されている。」
この「偽情報及び喧伝法(NDAA)」により「
グローバル・エンゲージメント・センター(Global Engagement Center)」という当たり障りのない名前の組織が、国務省・国防総省・USAID(米国国際開発庁)・放送理事会(「米国世界メディア協会」に改名された) ・国家情報長官及びその他の諜報機関により立ち上げられた。このセンターは米帝国の利益に資する偽ニュースの制作を監督している。主にロシアや中国を焦点的に対象としている(
ウイグル虐殺や
ロシアゲートなど)が、ニカラグアやベネズエラやキューバやイランや北朝鮮やシリアなども対象とされている。米国による政権転覆工作や偽情報工作を暴露する確証的な記事は即刻検閲を受け、親露や親中的喧伝であると決めつけられることは、しばしばある。
このグローバル・エンゲージメント・センターは、記者たちやNGOや政策研究所やメディアに資金を提供することで、非企業メディアが出す記事を外国政府のために偽情報を拡散していると中傷させている。この件により、米国によるシリアやウクライナでの政権転覆に敵対する勢力を「親プーチン派、親アサド派、親中共派、親スターリン派、反米三色同盟派*」などと中傷している黒幕が明らかになる可能性がある。
*訳注:三色同盟とは、共産主義(赤)、イスラム教(緑)、ナチズムまたはファシズム(茶色)の三者が呉越同舟的に連携し、反米または反西洋的な価値観を持つことを批判的に捉えることばとしてよく使用されることば 国家安全保障機関が反露喧伝に急激に力を注ぐようになったのは、ロシアがシリアを支援し、米国とサウジアラビアが起こしたアサド政権に対する戦争を妨害してからのことだ。その喧伝行為はヒステリーの域に達し、ロシアゲートがでっち上げられ、2016年のトランプ大統領選挙運動の妨害に利用された。シーモア・ハーシュ(Seymour Hersh)が明らかにしたところによると、 2016年にロシアがDNC(民主党全国委員会)のコンピューターをハッキングしたことが広く報じられたが、それは CIAによる偽情報であるとのことだ。 ハーシュがFBIからの情報をもとに
明言したのは、 ヒラリーからのEメールは セス・リッチ(Seth Rich:DNC職員)が入手したもので、リッチはそれをウィキリークスに売ることを申し出たという事実と、 ロシアがハッキングしたという偽話をでっち上げたのは、CIAのジョン・ブレナン(John Brennan)長官だったという事実だった。しかし、クリントン・ネオコン・安全保障国家機関がでっち上げたロシアゲートという偽ニュースの暴露は、親露工作員の手によりでっち上げられた偽情報であるとしてもみ消された。
グローバル・エンゲージメント・センターの活動内容の一例として上げられるものに、反帝国主義者はロシアの工作員であると報じたニュースサイトの
デイリー・ビーストの記事がある。この記事の標的は、リー・キャンプ(Lee Camp)やマックス・ブルーメンタール(Max Blumenthal)やベン・ノートン(Ben Norton)らだ。彼らが、「喧伝を流すことにより金や追随者を掻き集め、真実やウクライナや新疆やシリアで虐げられた人々を犠牲にしている」と見られているのは、彼らの記事が正確であり、米国が流している喧伝とは食い違う内容だからだ。
他の記事から読み解けることは、政府機関であるこの偽情報対策センターが、左翼第3陣営を使うやり方で、キューバに対して以前使われたマングース作戦の伝統を踏襲している点だ。ガーディアン紙掲載の
ジョージ・モンビオット(George Monbiot)の記事がそれをよく表している。その内容は、「ロシアによる喧伝行為に立ち向かっていかなければならない。そのような声が私たちが尊敬している人々からあげられたとしてもだ。「反帝国主義」左翼のごく一部の人々が、ウラジミール・プーチンが繰り出す偽情報を再利用してきたのは、厳然たる真実だ」、というものだった。
ルイス・プロイェクト(Louis Proyect)はシリアの政権転覆戦争に加わり、シリアに対する米国の戦争の反対運動者たちを、「反米三色同盟者」派だとして非難している。プロイェクトは英国外務省が資金援助しているニュースサイトのベリングキャットからの情報をもとに記事を書くことが多く、こう記している。「ベリングキャットというサイトがおそらくシリアでの化学兵器攻撃について事実に基づく情報を得られる唯一のサイトだろう」と。プロイェクトは「シリア革命」における「社会主義者」だとして
アナンド・ゴパル( Anand Gopal)を擁護しているが、ゴパルはニュー・アメリカ財団の国際安全保障プログラムに所属しており、このプログラムには
国務省や企業財団が資金を出し、元国務省役員のアン・マリン・スローター(Anne-Marie Slaughter)が運営している。
情報源としてアナンド・ゴパルを繰り返し
採用しているデモクラシー・ナウも諸財団から得ており、 かつて優れた反戦記事を送り出していたこの団体が自己検閲を行い、聞き分けの良い左翼に生まれ変わってしまっているようだ。
政府や企業からの「まだマシな悪党」左翼へのこの支援金が生み出しているほかの状況については、 NACLA(National American Congress on Latin America)誌のニカラグア政府を
中傷する記事もその一例にあげてもいいだろう。NACLAの編集長は
ロックフェラー・ブラザーズ財団のトーマス・クルーズ (Thomas Kruse) だ。 2018年、NACLA誌とニューヨークDSA(民主社会党)とヘイマーケット・ブックスは
反サンディニスタの青年たちを特集したが、彼らの旅費は右翼系団体のフリーダム・ハウスが出していた。
各種財団から何万ドルもの
資金を得ている
イン・ディーズ・タイムズ(In These Times)誌も社会主義国キューバを中傷する同じような
記事を出している。その記事の主張によると、キューバは「西半球で最も非民主的な国家」だそうだ。 ボルソナール政権下のブラジルでもなく、親民主主義の反政府運動家たちを失明させた警察のあるチリでもなく、暗殺部隊を支援するコロンビア政府でもホンジュラスの元クーデター政権でもなく、憎まれたハイチの支配者たちでもなく、キューバを中傷している。
第3陣営左翼向けの本をたくさん出しているヘイマーケットブックス(Haymarket Books)は、民主
党と繋がる政策研究所や非政府組織から、「経済研究及び社会変革センター」 を通して資金援助を受けている。ニュースサイトのグレーゾーンの記事によると、
DSA(米国民主社会主義者党)やジャコビン(Jacobin)・マガジンやヘイマーケット社が資金を出した社会主義者大会で、NEDや国務省から資金援助を受けた他国の政権転覆に取り組む活動家たちが主賓として招かれていたという。
ジャコビン誌の編集者であるバスカー・サンクラ(Bhaskar Sunkara)は、民主党内で改革志向のDSAの元副党首だ。2017年ジャコビン財団は、
10万ドルの補助金をアネンバーグ財団から受け取っていた。このアネンバーグとは、出版社を所有している億万長者でニクソン政権下で米国の英国大使をつとめたウォルター・アネンバーグ(Walter Annenberg)だ。ニューヨーク
左翼フォーラムやドイツ政府が資金を出している
ローザ・ルクセンブルク財団も同じような待遇を受けている。
ボブ・フェルドマン(Bob Feldman)が明らかにした企業から資金を得ている団体には、「政策研究所」や、ネイション誌や、イン・ジーズ・タイムズ(In These Times)誌や、NACLA誌や、中東情報研究計画所(MERIP)や、団体「報道における公正と正確 (FAIR」や、団体「プログレッシブ」や、マザー・ジョーンズ誌や、ニュースサイトのオルターネット(AlterNet)や、「公的な正確さを求める」会などがある。
全米商工会議所は、諸財団が2013年から2016年の間に、労働者センターに1億6千万ドルを授与していることを突き止め、結論として労働社センターによる運動は、「運動者センターを前進させ、支援した進歩的な財団が作り上げたものだ」としている。
これらは米国の支配者層が反帝国主義左翼に反対する勢力に資金援助をしている実例の一角に過ぎず、このような手口は、左翼勢力を支配者層による支配に対して真の脅威にはならない勢力に抑え込むための効果的な手段のひとつだ。
このような状況の本質的な特徴は、民主党を「まだマシな悪党である味方」という見方をしていることだ。
アレクサンダー・コックバーン(Alexander Cockburn)は、2010年にこのような資金援助の問題を指摘している。
「“ 非政府”財団が持つ金銭的な影響力は大きいが、この財団とは富裕層が設立する非課税団体であり、政治色を付けることにより自身の富を分配する働きがある。米国の“進歩的勢力”の多くはこのような資金を得ることで生きながらえており、その資金により人件費や事務所維持費などの年間支出を賄っているため、当初掲げていた過激で異端的な方向性を突然引っ込めることになる。言い換えれば、進歩的勢力のほとんどは、企業が支配する世界から作られてきたものであり、学術界と同様に企業からの資金に依存しているということだ。」
2016年大統領選での予想外のトランプ勝利の直後、 ワシントン・ポスト紙は反ロシア・マッカーシズムを打ち出す手段として、
プロップ・オア・ノット(PropOrNot)というサイトを立ち上げだ。プロップ・オア・ノットは、プーチンの支配下にあるメディアを列挙したが、これは赤狩り時代の魔女狩りの再来を狙ったものだった。赤狩り時代の1947年から1952年の間には、
660万人が捜査を受けていた。プロップ・オア・ノットがブラックリスト入りさせたのは、ウェブ上の代替メディアの中で最も反戦色の強いメディアのいくつかだった。具体的には、アンチウォー(Anti-War)・comや、ブラック・アジェンダ・レポート(Black Agenda Report)、トゥルースディグ(Truthdig)、ネイキッド・キャピタリズム(Naked Capitalism)、 コンソーシアムニュース(Consortium News)、トゥルース・アウト(Truthout)、ルー・ロックウェル(Lew Rockwell).com、グローバル・リサーチ、アンズ(Unz).com、ゼロ・ヘッジ(Zero Hedge)などだ。
プロップ・オア・ノットは、
200のウェブサイトを「ロシアの喧伝を行うメディア」だと断罪した。しかしその根拠は示されていなかった。プロップ・オア・ノットは自分たちや資金源の正体を明かしていない。
アラン・マックロード(Alan Mcleod)が最近以下のことを明らかにした。「プロップ・オア・ノットの中身を探って見たところ分かったのだが、このサイトを管理しているのはインタープリーターという雑誌で、この雑誌は[マイケル・]ワイスが編集長だ。彼はNATOの政策研究所である
アトランティック・カウンシルの上級研究員だ」。アトランティック・カウンシルとは米国政府や中東の独裁者たちや武器製造業者のレイセオン社やノースロップ・グラマン社やロッキード・マーティン社やゴールドマン・サックスなどのウォール街の銀行やBP社やシェブロン社などの石油化学の巨大企業が資金援助している。結論としてマックロードは、こう述べている。「つまり巨大な[外]国のプロパガンダだと強く主張する行為自体、自国の喧伝行為を行っているということになるのだ」と結論づけた。
プロップ・オア・ノットが出現した直後、米国政府から多額の
資金援助を受けているドイツのマーシャル財団が、
ハミルトン68なるものを立ち上げた。 これは「ツイッター上でのロシアによる偽情報を追跡するための新たな手段」のことだ。 これは、「ロシアの影響力増進や偽情報を広める目的を促進することに加担している」と思しきアカウントを特定するためのものだ。サイトの
ロン・ポール・リバティ・レポートのダニエル・マックアダムス(Daniel McAdams)はこう記している。「マーシャル財団は米国や他国の資金を使って、ロシアやシリアやウクライナなどについて、ネオコンによる外交政策筋からの公的説明と相容れない主張をしているニュースメディアや個人を消そうと躍起になっている」と。
今年(2022年)、米国国土安全保障省はロシアの偽ニュースに対抗するためと称し、検閲や偽情報に関する新しい機関を立ち上げた。それが「
偽情報管理局(Disinformation Governance Board)」だ。偽情報及び喧伝行為対策法やプロップ・オア・ノットが示している通り、米国安全保障国家の説明に異論を唱えるものは、ロシアによる偽情報であると決めつけられることがしばしば起こっている。 グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald)は以下のように前もって警告を発していた。「米国国土安全保障省に権力を与え、何が「偽情報」で何がそうでないか決させる目的は、政府の捉え方に権威ある専門的な後ろ盾や正式な認定を与えることであり、逆に政府の主張への異論は間違っていて、欺瞞であることを公的に宣告することだ」と警告している。
国家安全保障国家である米国は、ロシアゲートのことで嘘をつき、国家安全保障機関が四六時中、米国民に対して諜報行為を行っていることに関しても嘘をつき、イラクの大量破壊兵器についても嘘をつき、何が真実で何が嘘かについて自ら決めてしまう体制作りを計画していて、その行為を巨大企業メディアや代替メディアに押し付けている。
このように、CIAの秘密のマングース作戦が、左翼内に実在する社会主義に対する敵対勢力を前進させようと力を注いでいる。その敵対勢力が、米国政府がマッカーシズム的工作や、米帝国や米帝国が起こす戦争に反対しているメディアや運動を阻止したり、中傷する方向に 向けられている。
どんなソーシャルメディア会社が、どの反戦メディアを標的にしているか? 米国政府と結託した企業メディアによる攻撃はますますあからさまになっている。ペイパルはシオニストの「
名誉毀損防止同盟」と手を組み、「金融業界を通じて、危険に晒されている全ての集団を守り、過激派やヘイト集団と戦う。政治家や警察とも連携する」としている。
ツイッター社は多くの政治的なアカウントを削除したが、同社は合衆国大統領のアカウントを停止できる力を有しているようだ。2020年、ツイッター社は17万件のアカウントを
削除したが、その理由は、「中国共産党にとって都合のいい地政学的な言説を拡散していた」からだそうだ。さらに2021年には、同社は何百件ものアカウントを
削除したが、その理由は、「NATO同盟への信頼を弱め、NATO同盟の安定性を揺るがせた」とのことだった。同社は多くの
FBI職員を雇い、この検閲の仕事を任せた。ツイッター社の中東部の重役は、英国軍第77旅団の「
陽動作戦」担当のゴードン・マックミラン(Gordon MacMillan)がつとめているが、この第77旅団とはツイッターやインスタグラムやフェイスブックなどのソーシャルメディアを利用して「情報戦」を仕掛けていた組織だ。
グーグルやユーチューブの
重役は政府の諜報員たちと連携し、反帝国主義の声を検閲している。グーグルの「フクロウ作戦」は、「偽ニュース」を抹殺するために設置されたものだが、その作戦が駆使しているのは、「手順に従って更新を行い、より権威的[政府にとって都合のいい]中身 」に変え、「攻撃的[反帝国主義的]な内容は見えにくくする」という手口だ。その結果、以下のようなメディアサイトにたどり着く術が
失われているのだ。それは、ミント・プレス・ニュース(Mint Press News)やオルターネット(Alternet)、グローバル・リサーチ(Global Research)、 コンソーシアム・ニュース(Consortium News)、リベラル左翼のコモン・ドリームズ(Common Dreams )、トゥルース・アウト( (Truthout)である。
ウィキペディアが
自サイトの記事に検閲をかけていることを
ベン・ノートンが指摘している。「
CIA、
FBI、
ニューヨーク市警、
バチカン、石油業界の巨人
BP・・これらはほんの数例をあげただけだが、全てウィキペディアの記事の編集に直接関わっていることが分かっている。」
上記の団体と比べれば小物だが、
ニュースガードは国務省や国防総省と「提携」して支配者層筋とは食い違う主張をしているウェブサイトに札(タグ)つけをしている。
フェイスブック社はプロップ・オア・ノット所有の政策研究所アトランティック・カウンシルに依拠し、米国政府筋とは逆の主張している記事と
対抗している。
後にフェイスブックが発表したのは、同社はさらに「偽ニュース」との戦いを強めるため、米国政府が資金を出している2つの喧伝組織との連携を始めることだった。それは全米民主国際研究所 (NDI)と国際共和研究所(IRI)だ。NDIの議長は元国務長官
マドレーヌ・オルブライト(Madeleine Albright)で、
ジョン・マケイン(John McCain)上院議員が長年IRIの議長をつとめていた。
『マイテイ・ウーリッツァー』や『文化冷戦』やバーンスタイン(Bernstein)の『CIAとメディア』という著書で巨大紙媒体メディアの姿が描かれていたのと同じように、いま私たちが目撃しているのは、ソーシャルメディア業界の企業が国家安全保障機関と結託している姿だ。
企業メディアやソーシャルメディアが国家安全保障機関と結託して検閲をかけている対象は誰だろう? 検閲を受けた書籍一覧表と同じく、国家安全保障機関は、私たちが見たり読んだりすべきものは誰なのかの標的一覧を提示してくれている。それは、グレーゾーン(The Grayzone)、テレスール(TeleSur)、ベネズエラ・アナリシス(Venezuelan Analysis)、リー・キャンプ(Lee Camp)、バイ・エニィ・ミーンズ(By Any Means), ケイレブ・モウピン(Caleb Maupin)、シリア連帯運動、 コンソーシアム・ニュース(Consortium News)、アビィ・マーティン(Abby Martin)、
クリス・ベッジス(Chris Hedges)、ミントプレスニュース(Mint Press News)、CGTNなどの中国メディア、
ジョージ・ギャロウェイ(George Galloway)、
、ペペ・エスコバー(Pepe Escobar)、スコット・リッター(Scott Ritter)、ASB軍事ニュース、RT米国版、ストラテジック・カルチャー・ファンデーション(Strategic Culture Foundation)、ワン・ワールド・プレス、
サウスフロント(SouthFront)、 ゴンザーロ・リラ(Gonzalo Lira)、オリエンタル・レビュー(Oriental Review)、レボリューショナリー・ブラック・ネットワーク(Revolutionary Black Network)、スプートニク・ニュース、ロン・ポールのリバティ・レポートだ。ユーチューブは私たちがオリバー・ストーンの「
ウクライナ・オン・ファイア」を見ることに対して警告を発している。ロシアメディアと協力している記者はいまや「ロシア政府と提携している」という注意書きを付けられている。
FBIは
アメリカ・ヘラルド・トリビューン(American Herald Tribune)とイランのプレスTVを直接禁止した。RTとスプートニクはヨーロッパでは禁止されている。プロップ・オア・ノットは、200のメディアサイトをあげ、国家安全保障国家が私たちに読んだり、聞いたり、知ったり、考えてもらいたくないと思っているサイトが何なのかを明らかにしている。
最初の冷戦開始以来、CIAと国家安全保障機関との連携工作により、敵対勢力は無力化され、疎外され、内部分裂させられてきた。そしてその工作にはしばしば民主党はまだマシな悪党であると考える左翼による協力を受けてきた。この戦略には、左翼団体や左翼の非政府組織へ莫大な資金投資をすることにより左翼を手懐けるという工作も含まれている。
従って、米国の左翼の弱さを責めるのは間違いだということだ。CIAや諸財団は 米帝国の支配者層に反対する勢力に対して密かに操作を加えてきた。そのひとつに、民主党内の穏健派左翼を強化することにより、労働者階級や反米帝国からの攻撃を弱体化させてきたことがある。 これまでのことを振り返れば、この国家安全保障機関による使命実行は、かなりの成功を収めてきたといっていいだろう。
労働者階級の左翼を打ち立てることの難しさの原因の多くは、米国支配者層が長年かけてそのような動きが生まれることを妨害してきたことがある。そのような妨害行為は、マーティン・ルーサー・キングやマルコムX、ブラックパーサーたちのように、活動家たちを投獄したり、殺害したりすることだけではない。巨大メディア企業を使って偽情報をニュースとして売り出させ、 聞き分けの良い左翼に資金を提供し、今のソーシャルメディアやインターネット上で反帝国主義の声に対する検閲を課すことも行われている。反戦左翼や労働者階級左翼を打ち立てるために私たちがすべきことは、支配者層の妨害工作により作り出されたこの迷路を乗り越え、真実を直視し、正しい方向に舵取りすることだ。
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