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ロシア、ついに北朝鮮制裁の継続に「ニェット(反対)」を表明

<記事原文 寺島先生推薦>
Russia Finally Says 'Nyet' To Continued North Korea Sanctions Enforcement
筆者:ジョセフ・D.ターウィリガー(Joseph D. Terwilliger) 出典元は、AntiWar.com
出典:ゼロ、ヘッジ(Zero Hedge) 2024年4月8日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年4月23日


先週、「北朝鮮制裁に関する国連専門家パネル」の任務を延長する国連安全保障理事会決議が ロシア連邦によって拒否権発動され、 2006年以来北朝鮮に課されてきた9回にわたる制裁の主要な執行形態は事実上解体された。この制裁措置は、北朝鮮による度重なる核実験と大陸間弾道ミサイル実験への対応として取られてきたものだ。

2006年10月9日、朝鮮民主主義人民共和国 (DPRK) は初めて核兵器実験に成功した。これに応じて、国連安全保障理事会は決議1718を全会一致で可決し、北朝鮮の実験を非難し、政権に厳しい制裁を課した。2009年5月25日の2回目の核実験の後、決議1874が全会一致で可決され、制裁体制が大幅に強化され、「課された措置の実施に関する情報を収集、調査、分析する」ための「専門家パネル」が設立された。当初、その期間は1年とされていたが、その後も北朝鮮による更なる核実験や大陸間弾道ミサイル実験がおこなわれたことに応じて制裁決議が可決されるにつれ、この「専門家パネル」の任務の延長が毎年全会一致で、先週に至るまでずっと決められてきた

画像 ニエット
APより

採決に先立ち、中国とロシアは「専門家パネル」の任務を1年間延長する妥協案を提案したが、その条件として、制裁体制にサンセット(終わりの日を決めた)条項を加えることが挙げられた。ロシア側代表は、朝鮮の状況は2006年以来大きく変化しており、朝鮮の核保有国化を防ぐという名目で制裁を続けることは「妥当性を失っており」、「現実離れしている」と主張した

かなり皮肉なことは、米国とその同盟諸国が、ロシアが反対したために、全会一致で安全保障理事会決議が行なえなかったことを「不安定化を引き起こしている」として非難している点だ。このサイトの読者のほとんどがよく知っているように、米国が日常的に自らの拒否権を常に行使していることから考えると、アメリカこそが「不安定化を引き起こしている」と思わざるを得ない。ロシアによるこの拒否権の発動は、「国連安全保障理事会のより広範な機能と第二次世界大戦後の国際秩序」に対する危機として説明されているが、ロシアか中国が制裁体制を緩和または中止するという決議案を出せば、我が米国は間違いなく拒否権を発動するはずだ。

北朝鮮に課せられた制裁には、北朝鮮の核保有国化を阻止するという望ましい効果をうまなかったことは明らかだ。だからこそ、なぜ望ましい結果を達成できなかったのか、制裁を継続することで現実が変わる可能性があるのかを問うのは当然だ。私が元NBAスーパースター、デニス・ロッドマン氏の北朝鮮訪問に同行したとき、金正恩氏は 自らの論理を私たちに直接説明してくれた。同氏は、リビアの指導者ムアンマル・カダフィ大佐が、紙面に書かれただけで価値のない制裁緩和や安全保障と引き換えに、2003年に大量破壊兵器(WMD)計画を放棄したことに触れた。2011年春、機会が訪れるとすぐに、ヒラリー・クリントン国務長官は、自分たちがカダフィ大佐を殺害した、と嬉しそうに自慢した。

さらに、サダム・フセインは国際原子力機関の兵器査察官の入国を許可したが、彼らは 大量破壊兵器計画の証拠を見つけることができなかった(実際何もなかったからだが)。それにもかかわらず、米国は2003年に政権転覆の戦争を開始した。それによって、サダム・フセインは死を迎えることになった。金正恩氏は最後に、パキスタンには米国の最大の敵であるオサマ・ビンラディンが潜伏していたにもかかわらず、米国はパキスタンで政権転覆戦争を決して試みなかったという事実を指摘する話をした。金氏の心の中では、リビアやイラクとパキスタンとの違いは明らかだった――パキスタンは核保有国だったということだ。

米国政府が 北朝鮮の政権転覆を望むことについて決してやぶさかではなく、北朝鮮との戦争の際に、米国が核兵器の先制使用の除外交渉を拒否していることを考えると、金正恩氏の理論的根拠は非常に説得力がある。私にはまったく反論の余地がなかった。

北朝鮮政権にとっての最大の目標は自国の存続であることを覚えておく必要があり、金正恩氏の戦略的決断(他の政治指導者の決断と同様)はその文脈で評価されるべきである。明らかに金氏の優先事項は、国家を存続させ、国家体制と自身の仕事を維持することである。そのことを念頭に置くと、核抑止力を追求し続けることが 最も合理的な 選択肢のように思える。もちろん金氏は国民のより良い生活と経済制裁の緩和を望んでいるが、政権崩壊の危険を冒してまで望んでいるわけではない。

北朝鮮が核開発計画を開発するずっと前から、米国はすでに朝鮮半島を核化していたことを明確にすることが重要である。朝鮮戦争休戦協定の第13項 (d) は、韓国へのいかなる新たな兵器の持ち込みも禁じていたが、1958年にアイゼンハワー政権はこの協定に明らかに違反して核兵器を韓国に配備した。

米国には敵対国との協定を破ってきた長い歴史があるため、この件が特別な出来事ではなかった。 北朝鮮は黒鉛減速原子炉を停止し、米国が提供する軽水炉(LWR)に置き換え、その間のエネルギー源として重油が供給されることになっていた。その後、ジョージ・W・ブッシュは 軽水炉の供給を遅らせ、燃料油の輸送を停止したため、北朝鮮は国民にエネルギーを供給するために原子炉を再稼働させたのだ。

その後、ブッシュはカダフィ大佐と前述の大量破壊兵器取引を締結したが、オバマ政権はこれを遵守しなかった。その後、オバマ大統領は イランとJCPOA(包括的共同行動計画)協定を取り決めたが、トランプ大統領はその協定を撤回した。その後、トランプ大統領は北朝鮮との対話を開始したが、バイデン政権はすぐに 「戦略的忍耐」(つまり北朝鮮を無視するということ)という方向性に戻った。

我が米国の政策が4年ごとに激しく変化し、あらゆる交渉が事実上無意味になってしまうのであれば、北朝鮮側が核抑止力の必要性を感じるのも無理はない。金正恩氏が私たちに語ったように、北朝鮮の政策は常に一貫しているが、米国の政策は常に変化しているのだから、起こっていることが気に入らない場合は4年待てばよい、と金氏は付け加えた。2014年に我々がNBA選手のチームを平壌に連れて行ったことを受け、金氏は、「こんなことをしてくれた皆さんは、約束を守った最初の米国民だった」とも述べた。北朝鮮側が、米国が提供する安全保障を信用しないのも無理はない。

制裁措置は手段を変えた戦争である(『戦争論』を書いたプロイセンのクラウゼヴィッツには申し訳ないが)とされており、米国は現在、ヨーロッパやアジア、アフリカ、ラテンアメリカの20カ国以上に対して制裁を発動している。現在、最も包括的な制裁はロシアやイラン、北朝鮮、キューバ、ベネズエラに対して課されており、中国に対する制裁も驚くべき速度で拡大している。同時に、多くの国が米国主導の経済体系の利用を禁止する制裁を受けた結果、米ドルの代わりに中国人民元が国際貿易にますます使用されるようになっている。

制裁の不条理さの極みは、2024年初めに北朝鮮が ロシアに弾薬を販売したとされる疑惑で最もよく示された。この疑惑に応じて、米国はロシアが北朝鮮に対する制裁に違反していると訴え、米国はロシアに抗議した。また北朝鮮に対しては、対ロシア制裁に違反している、と主張した。 私たちが制裁違反を非難することによって、米国は他国が制裁体制下で餓死することを期待しているのだろうか?

我が国が経済制裁を過剰に行使すれば、必然的に経済制裁の対象国間に貿易圏や同盟関係が生まれることを予想するほうが合理的だろう。イランやロシア、中国、北朝鮮には、お互いを嫌う理由がたくさんある。中国とロシアは何世紀にもわたって複雑な敵対関係にあり、毛主席が米国との関係改善を模索していたのは、ソ連の侵略を恐れていたからだった。中国とロシアが2006年以降ずっと北朝鮮に対して課されてきた制裁に賛成票を投じ続けてきたのは、自国の近くに核を持つ北朝鮮が存在することを望まなかったからだ。イランと中国同様、イランとロシアにも長い緊張関係が存在してきた歴史がある。そして、イランと北朝鮮は、この35年間は便宜的な提携関係に基づいてのみ協力してきた。その協力の理由は、両国とも米国からのけ者と見られてきた事実だけにすぎなかった。

歴史的に見て、イラン、ロシア、中国、北朝鮮の間には緊張関係があったのだが、これらの国々に制裁体制が取られたことが理由となり、これらの国々は同盟関係と貿易圏を便宜的に樹立せざるをえなくなったのだ。米国が責めるべき相手は自国しかない。中国とロシアが国連を北朝鮮制裁事業から排除したいと考えていることは誰も驚かないだろう。ロシアがついに「専門家パネル」への継続任務に拒否権を発動したことは驚くべきことではなく、唯一の驚きはそこに到達するまでに18年かかったということだけだ。

中国の時代が来た~デジタル人民元/元と、「道」を重んじる哲学が、米ドルと米国の世界覇権を駆逐する~

<記事原文 寺島先生推薦>
The China Moment

グローバル・リサーチ
2020年11月23日

ピーター・ケーニッヒ

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2021年1月15日

 中国が成し遂げたことは、ほとんど不可能だと思われていたことだった。なんと、自由貿易を行う同意を14カ国と交わしたのだ。その14カ国とは、ASEANの10カ国と韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランドだ。それに中国を含めば15カ国になる。 いわゆる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定だ。この協定の締結には8年を擁したが、その結果、自由貿易を求める国々が手を取り合うことを成し遂げたのだ。具体的にいえば、22億の人々と世界のGNPの3分の1がこの協定で結びついたことになる。こんな大規模な合意はこれまでには全くありえなかったものだ。 規模的にも経済的にも 性質的にも、だ。この東アジア地域包括的経済連携(以下RCEPと呼ぶ)が署名されたのは、11月11日、ベトナムでのことだった。

 人類史上最大の貿易に関する同意であることに加えて、この同意は一帯一路構想(BRI)と連携し繋がるものでもある。一帯一路構想はワンベルト・ワンロード(OBOR)や新シルクロードという名で呼ばれることもあるが、これはすでに130カ国以上や30以上の国際機関が加わっている。更に、中国とロシアは長期に渡る二国間の戦略的協力関係を結んでおり、今回の自由貿易協定に加わることになる。さらには、中央アジア経済協力開発機構 (CAEU:この機構参加国はほとんどが旧ソ連圏の国々だ)の参加国もこの東洋の貿易ブロックに加わることになる。


 アジア・太平洋地域に位置する、このRCEPに協力することに同意した国々やその一部に同意している国々の集合体が結びつくのは、西側諸国にはあまり知られていないアジアの或る機構のためだ。その機構は上海協力機構(SCO)である。この機構は、2001年6月15日に上海で設立されたものだ。この国家間の機構に参加しているのは、中国とロシアとカザフスタンとクルジスタンとタジキスタンとウズベキスタンだ。この上海協力機構の目的は、安全保障と広大なユーラシア地域の安定を維持することであり、安全保障上の問題や脅威が起こった際には協力して取り組むことや、貿易を強化することである。

 今回のRCEPや一帯一路構想によるプロジェクトの基金のほとんどは 、中国アジアインフラ投資銀行(AIIB)などの中国や参加国の金融機関から低金利で融資を受ける形になる。コロナ危機が引き起こした厳しい情勢の中で、多くの国々が無償の援助金を必要としている可能性がある。その援助金を使ってできるだけ早期に、世界的流行によって引き起こされた膨大な社会的経済的損失を回復するために、だ。そういう意味では、この新シルクロードがアジア大陸における「医療の道」的な役割を果たす可能性があるのだ。



 RCEPが締結された真の美点は、この連携が追求しているのが確かな前進である点だ。西側諸国、おもに米国からの妨害にも関わらずに、だ。実際、このRCEPの副産物として、この巨大なユーラシア大陸の統合が生み出される可能性があるのだ。そう、西欧からいわゆるアジア地域にまで広がり、中東やさらには北アフリカも含まれる、しめて5500万平方キロメートルにわたる広大な地域の統合だ 。上図参照 (出典はWikipedia).

 RCEPによる貿易に関する取り決めの要点は、その貿易で使用される貨幣はそれぞれの国の貨幣や元になるという点だ。そう、米ドルではないのだ。

 RCEPにより、ドル離れはさらに進むだろう。まずは、主にアジア・太平洋地域において。そしてその流れは次第に世界の他の地域にも起きてくるだろう。

 一帯一路構想や新シルクロード構想のもとでのインフラ投資の資金の多くは、米ドルではない貨幣で行なわれる可能性がある。新しく作られた中国のデジタル人民元 (RMB)や元が、まもなく国際的な支払いや為替に利用される法定通貨になることが見込まれており、ドルの使用は劇的に減るだろう。デジタル人民元が多くの国々から魅力的に映るのは、その国々が米国から課された制裁に辟易させられているからだ。米ドルを使用すれば、それらの国々は自動的に以下のような制裁に対して脆弱になるからだ。例えば、ドル使用を禁止されたり、資源を押収されたりという制裁だ。それらの国々の国際的な「態度」が米国政府の命令と食い違えば、間違いなくそのような制裁が課されるのだ。

 自国の資源が堂々と盗まれることもある。それを行ったのは米国政府で、罰せられることのない犯罪だった。英国の助けを借り、全世界の国々が見ている中堂々と、ベネズエラ政府がイングランド銀行に預けていた12億ドルの価値のある金を横取りしようとしたのだ。 英国の裁判所に対して、ベネズエラ政府が控訴するなど面倒な法的手続きをして、最終的にはやっとベネズエラ政府の手に戻ったのではあるが。この事件は、多くの国々に対する警告になったのだ。そんな国々が、恐ろしい泥舟ならぬドルの船から飛び降りて、誠実な貿易ができ、しっかりした準備通貨のある船に乗り換えようとしているのだ。その船を提供しているのが、確実で安定した経済が基になっているデジタル人民元や元なのだ。

 ドルは既に現在衰退している。20~25年ほど前は、世界の全準備資産の90%を米ドルが占めていたが、この割合は今60%にまで減少しており、さらに減り続けている。国際的な評価が上がっているデジタル人民元や元が、RCEPや一帯一路構想により強化されている中国経済と共に、ドル離れ傾向をさらに進める可能性がある。 そして米国の世界覇権も弱まる可能性がある。 それと同時に、そして徐々に、世界の国々の国庫金における為替として、国際通貨としてのデジタル人民元や元が米ドルやユーロにとって変わっていくだろう。

 米ドルは、最終的には単なる一国家の貨幣に戻るかもしれない。しかしそれがあるべき姿だ。そして、中国が持つ哲学のもと、世界は、今の一極集中から、多極化の世界に変わっていくだろう。RCEPや新シルクロード構想は、この崇高な目的を急速に追求している。この目的を追求する方が、ずっと、世界に力関係の均衡をもたらすだろう。

*

 西側諸国がこの現実に順応することは簡単なことではなかろう。競争ではなく協力が西側諸国の概念や哲学になったことはないからだ。これまで何千年とは言わなくても、何百年もの間の西側諸国による世界支配が残してきたものは、裕福な植民地支配者による貧しいものたちからの搾取と、悲惨な戦争という二つの悲しい遺産なのだから。

 競争や権力を求める戦争ではなく協力するということが、西側諸国に受け入れられるのは簡単なことではない。確実に起こりそうなことは、米国の扇動による貿易戦争であり、米中間の貨幣を巡る戦いは、 もうすでに起こっているようだ。米国の連邦準備制度も、デジタル貨幣(あるいは暗号貨幣かもしれない)を始める計画があることを、大まかにではあるが発表している。これは、デジタル人民元や元に対抗してのことだ。まだデジタル人民元や元の国際的な貨幣としての使用は始まっていないのだが。連邦準備制度が考えている計画の詳細は、この記事を執筆している時点では、まだ明らかになっていない。

 この新しいRCEPに順応しなければならなくなり、各国が対等の立場で同意を交わすという事態を、西側諸国が受け入れることは簡単なことではなかろう。西側諸国は、そんなことは許さないだろう。そして、西側諸国が作り、かつ西側諸国の肩を持つ組織である世界貿易機関(WTO)を最大限利用して、RCEPに基づく貿易や、一帯一路構想に基づくインフラ整備や、超国家間の産業の発展の前進を最大限妨害しようとするだろう。

 西側諸国は、米国が率いており、常に米軍やNATO軍の軍事力を後ろ盾にしているので、中国のこのプロジェクトに参加している国々を脅すことにためらったりはしないだろうが、うまくはいかないだろう。「あるべき道」を重んじる哲学の下、中国は協定を締結した国々とともに前進を続ける。枯れることのない川の流れのように。 創造を続け、障害を乗り越え、その崇高な目的に向かう。その先に待つのは、世界平和の実現だ。皆が共有できる明るい未来だ。
*

 結論を述べよう。RCEPは、「道」を重んじる中国の精神が生み出した傑作である。この連携が築きあげていく方向性は、世界規模での共同体の建設を前進させることであり、人類が共有できる未来に向かうことだ。この連携を支えている精神は、主権国家による共同体の構築である。そして、各国がともに生き、ともに取り組み、ともに発明し、ともに創造し、ともに文化を高めあっていくことだ。そう、平和な世界の中で。

特権に対する闘い: 文在寅の場合

<記事原文 寺島先生推薦>
Fighting Against Privilege: the Version Given by Moon Jae-in

 
ニュー・イースタン・アウトルック 
2020年11月6日
 
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
 2020年12月25日


 文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足して以来、韓国で流布している考え方の一つは、朝鮮半島の歴史を「民主化に向けた運動」と捉えるだけではなく、「独立闘争の歴史が継続している」と捉えることを肯定する考え方だ。そこには、植民地支配のくびきに抗い、独立戦争を闘った愛国者たちの高尚な子孫や支持者たち(当然のことだが、その子孫や支持者は“共に民主党“の国会議員である)が、日帝協力者たちやその子孫たちと敵対しているという背景がある。その協力者たちやその子孫たちというのは、韓国が日帝から開放されたのち、権力者の座に収まった者たちだ。

  この考え方のせいで、保守主義者は誰もが隠れ親日派だと見なされてしまう。植民地支配者たちがおかした残虐行為の全てをこっそりと正当化していないとしても、だ。このことは、ヨーロッパで右派の運動に参加する者たちが受ける扱いとよく似ている。彼らは、彼ら自身がヒトラーのことをどう思っているかに関係なく、ファシストだと見なされている。

  国家の裏切り者たちやその子孫たちのリスト(新日派リスト)がずっと作成されてきた。それは、盧武鉉(ノ・ムヒョン、在位2003-2008)大統領時代からのことだ。なお、ムン・ジェイン現大統領はノ・ムヒョン大統領の首席政務特別補佐官を勤めていた。そしてこの親日派リストには、日帝協力者だけではなく、日本政府と少しでも何らかの関係のあった人々も含まれていた。日本軍に仕えていたのであれば、その人は独立運動を阻害したに違いないとされたのである。この理由のために、朴正煕(パク・チョンヒ、在位1963-1979)元大統領がリストに入れられているのだ。 これはムン現大統領の側近からの話だが、パク大統領の最大の失政は、パク大統領が日帝をモデルにして韓国の近代化を図ったことだからだとのことだ。このリストには、日帝協力者の大多数が含まれている。その協力者たちは、日本統治時代や李承晩(りしょうばん: 韓国の初代大統領、在位1948-1960)政権下で、日帝幹部たちから使用を許された譲渡資産を受け取っていた。

  国家の裏切り者たちだけてはなくその子孫たちもこのリストに含まれているという件に関して、この子孫たちも現在の社会的地位を剥奪すべしという主張もある。逆にそのような子孫たちについては、歴史上においても裏切り者というレッテルがはられてしまったという点においても、リストから外して欲しいという要求もあった。さらには、このリストに載せられた人物が国有墓地に納棺されていた場合は、墓を掘り起こせという主張まであった。しかしこの記事で私が言いたいことはそれらとは別の話だ。

 かつてより言われてきたのは、「独立闘争の戦士たちは3世代に渡って貧乏だが、親日派は3世代に渡って裕福だ」という言説だ。 そしてその親日派は、身を隠して有利な地位に収まっていると言われてきた。このような状況に手を加える必要がある。というのも、民主化運動家たちやその子孫たちは独立運動を戦っただけではなく、軍事独裁政権とも戦ってきたからだ。さらに、特にムン・ジェイン現大統領の世代というのは、1980年代の学生運動に関わってきた世代だからだ。

  このように「過去の民主活動派に対して補償が必要である」と考えることの良い点は、かつての政権により被害を受けた人々に補償を行うことで、闘争時に有罪判決を受けた者たちの名誉が挽回され、死後ではあるが、彼らの行為が報われることになる、という点だ。

  しかし残念ながらその反面、悪い面の方の影響が大きいことが明らかになっている。つまり、現在権力を持っている国会議員たちが、公式に自分たちの特権階級としての地位を確定しようとしていることになるからだ。2020年9月23日、「共に民主党」が提出した法案は、民主化運動の闘士やその子孫たちに特別待遇を処すことを目的としていた。そして、その特別待遇が与えられる分野というのは、教育と住居と医療についての分野だった。 禹元植(ウ・ウォンシク)他19名の国会議員によれば、この法案の意図は「民主化闘争の中で、亡くなったり、行方不明になったり、障害者になってしまった人々を広く認識させること」であるとのことだ。

  この法案は、民主化闘争に参加した合計829名の家族を支えることを目的としている。そしてこの法案が提議している闘争は、朴正煕(パク・チョンヒ)政権下の1964年の日韓国交正常化に反対する闘争以降の闘争である。これらの829名は公式に「民主活動家」と認められていた。具体的には、金大中(キム・デジュン、在位1998-2003)大統領政権時の2000年に、これらの民主活動家の名誉を挽回するために立ち上げられた委員会がそう認めていたのだ。これらの民主活動家のほとんどは亡くなったり、行方不明になったり、障害者になったりしたが、メディア報道が信頼のおけるものであるとすれば、現在の政権にも、かつての民主活動家であると認められている人物もいる。

  これらの民主活動家とその家族に授与されるのは、優遇された待遇である、具体的には以下のような内容となる。

 ①   国家機関や地方機関や軍や一部の民間企業に就職しようとする際、「ボーナスポイント」が授与される。そのポイントは上記の機関の採用試験を受ける際、点数に加点される。

  ②   医療においては、治療費を支払う際、金銭的な補助を受けることができる。

  ③   家を購入する場合、長期で低金利の住宅ローンを受けることができる。また、家のアフターサービスを優先的に受けることができる。

  ④   民主活動家の子どもたちも教育において有利な条件を享受できる。具体的には、大学入試の際、特別な待遇が与えられる。つまり、一般の生徒とはちがい、大学入試にむけてガリ勉をしなくてもいいということだ。民主活動家の子どもたちはただ出願書類を提出すればいいだけになる。さらに政府は高校や大学において、民主活動家の子どもたちの学習を支援することになる。

  朝鮮独立のために戦った闘士の家族も、愛国者であるとみなされ、上記の民主活動家の家族に匹敵する待遇を受けることができる。

  この法案が韓国国会ホームページで投稿されると、8500件以上の否定的なコメントが書き込まれた。これはかつてない数だった。批判の内容は、「特権階級を再創設することになり」、「社会において特別な階級の創設をもくろんでいる」といったものだった。

  最大野党の未来統合党黄教安(ファン・ギョアン)代表はこう述べている。「自分たちの子どもや家族たちに特別待遇を受けさせるために、この国を自由で民主的な国にしようと思っていた独立運動家たちや歴戦の兵士たちや民主化運動の支持者たちは、誰一人としていない」と。

 保守派の新聞である「コリア・ヘラルド」紙は、以下のような辛口の記事を出した。「かつての民主化運動家たちが、自分たちが権力につくやいなや、権力を用いて自分たちの利益を得ようとしている。彼らが強調しているのは、不正行為や特権階級や不平等の撲滅のために戦ってきたということではないのか。いまは、彼らがそういった悪事を制度化しようとしているのだ」。より穏健派であるコリア・タイムス紙もこのような状況に疑問を投げかけている。いわく「元民主化学生運動に取り組んでいた与党の党員が自分や自分のお仲間たちのための利益を求めているだけではないのか?」。

 現在の与党内の議員たちからさえ、批判の声が上がっている。ある「共に民主党」党員が、匿名を条件に語ったところによると、「1970年代から1980年代にかけて、このような学生運動家たちが自己犠牲を払って活動に取り組んでくれたことは認める。しかし、彼ら自身が自分たちの苦闘を引き合いに出して、自分の子どもたちへの優遇を要求するのは正しいこととは思えない」とのことだ。

  この法案に関しては、右派からだけではなく左派からも厳しい批判の声が上げられた。真の左派と呼べる「正義党」(あらゆる種類のポピュリスト生徒に反対している政党である)の国会議員たちは、与党が出したこの法案に強く反対の意を表明していた。具体的には、「与党議員たちは権力につくやいなや自分の利益を守ろうと、以前自分たちが戦っていた相手のような姿になりつつある」と。

  禹元植(ウ・ウォンシク)議員はこのような批判を否定した。同議員によると、この法案が対象にしているのは、自分を犠牲にしたり、行方不明になったりした人々の中で当時20歳以上だった人たちであり、学生運動家であった李 韓烈(イ・ハンヨル)や朴 鍾哲(パク・ジョンチョル)も含まれているとのことだ。「このような活動家たちが経済的に厳しい状況に置かれている事に対して、政府が努力を払うことが特別扱いだとは思えない。このような活動家たちは、拷問や投獄や運動の取り締まりの中で障害を負ったのだから」とウ議員は語っている。

  筆者の観点を言わせてもらえば、かつての民主化運動家たちに敬意を払うのは当然だし、そのように民主化闘争時代に自己犠牲を払った人々に政府が補償するのはあり得ることだと思う。しかし、このような補償を大学入試や雇用や家の購入の際に特別な待遇を与えるところまで広げていいかどうかについては、大きな疑問が残る。このような優遇措置を与えるということは、他の人々の機会を奪うことになり、「生まれながら裕福な家庭」に育った人々をいくぶん不利な状況に追いやることにもなる。さらに、現在特に若い世代の韓国の人々は、他のものと比べて、入試や採用の件に関して非常に敏感になっている。まさにこの大学への不正入学の問題こそが、崔 順実(チェ・ソウォン)失脚や、は曺国(チョ・グク)の身に災難が降りかかる原因となったのだ。

  一般的な言い方をすれば、ある記者が「キャンドル革命」についての著書や、ムン大統領の存在価値を好意的に論じる著書を執筆しようとしても、最後には以下のような有名なことわざのような教訓で終わってしまうのだ。そのことわざとは、「竜と長期間戦いすぎた英雄は、最後には自分が竜のようになってしまう」だ。

 
 コンスタンチン・アスモーラフ教授。専門は歴史であり、ロシア科学アカデミーの極東における朝鮮研究センターにおいて主導的に研究を行っている。彼の記事が読めるのは、「ニュー・イースタン・アウトルック」上だけである。

 

 

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