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中国のこれからの姿。経済・社会発展の新段階 


ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)

グローバルリサーチ 2021年3月11日号、アジアタイムズ 2021年3月5日

The Shape of Things to Come in China. A New Stage in Economic and Social Development


<記事翻訳>寺島美紀子・隆吉
2021年4月16日

 「両会(りょうかい:二つの大会)」の時期がやってきた。両会とは、北京指導部の年に一度の儀式である。主役はトップの政治諮問機関である中国人民政治協商会議(全国政協)と、首相がトップの立法機関である全国人民代表大会(NPC、全人代)に業務報告をおこなう伝統的な行事である。
両会(りょうかい)は中国独特の政策決定制度で、当面の課題を歴史的・代表分野が多少違う二つの組織にゆだね、共産党または中央の意思が徹底するようにし、また決定を聞いた者も、一つの機関の決定でなく複数の機関の合意事項であると多少の安心感をいだくようにした制度である。
中国人民政治協商会議は、中国共産党、各民主党派、各団体、各界の代表で構成される全国統一戦線組織。全国委員会のほかに、地方の省、直轄市など各行政レベルにも設置されている。全国委員会の略称は、全国政治協商会議、全国政協。
全国人民代表大会は、中華人民共和国の立法府。国家の最高権力機関および立法機関として位置づけられる一院制議会である。略称・全人代。


 中国「第14次5カ年計画(2021-2025年)」骨子案は3月15日まで審査がおこなわれる。しかし現時点では、これは2025年だけのことではない(Made in China 2025「中国制造2025年計画」は引き続き有効であることは念頭に置いてほしい)。さらなる長期計画「ビジョン2035」の目標(「社会主義の基本的な近代化」の実現)、さらには中華人民共和国建国100周年の2049年までを見据えた長期的な計画である。

 李克強(リー・クォーチャン)首相は、2021年の政府業務報告の中で、GDP成長率の目標を「6%以上」と強調した(IMFのこれまでの予測は8.1%だった)。その中には、少なくとも1100万人の都市部での新規雇用創出も含まれている。

 外交政策については、李克強首相はこれ以上ないほどに覇権国アメリカとの対比を強調した。
 「中国は平和のための独立した外交政策を追求」し、かつ「新しいタイプの国際関係の構築を促進する」と。


 これは、北京が最終的にワシントンと特別な諸案件では協力することを意味しているものの、最重要事項は、EU、ASEAN、日本、そしてグローバル・サウスとの貿易・投資・金融関係の強化である。

 中国経済の第14次5カ年計画(2021-2025年)の概要は、昨年10月の中国共産党全人代ですでに策定され、これから全人代で承認される。中核となる点は「二重流通」政策であるが、その最良の定義としては、中国語から翻訳すると「二重発展の原動力」となる。

 それが意味しているのは、海外からの貿易・投資を促進しつつ、国内市場を強化・拡大するための協調的なとりくみを、多種多様な「一帯一路(BRI)」プロジェクトでおこなうことだ。概念上、非常に洗練された道教的な陰陽バランスをとるということになる。

 2021年初頭、習近平国家主席は、中国の「信念と回復力、われわれの決意と自信」を自讃する一方で、国家が「前例のない挑戦と機会」に直面していることをしきりに強調した。習近平は政治局に対して訴えた、「2025年、2035年、2049年に向けて、あらゆる手段を講じて“好ましい社会的条件”を作り出さなければならない」と。

 それはわれわれを中国の発展の新段階に導く。

 注目すべき重要な目標は、「共同繁栄」(あるいは「繁栄の共有」)であり、技術革新、環境の尊重、「農村問題」への十分な対応とともに実施される。

 習近平国家主席は、中国には不平等が多すぎると断言している。地域格差、都市と農村の格差、所得格差である。

 それは、あたかも中国における史的唯物論の弁証法的な流れを冷静に読み解くようなものであり、したがってわれわれは次のようなモデルにたどり着くような気がする。テーゼは皇帝世襲の権力継承であり、アンチテーゼは毛沢東(もうたくとう)である。その統合が鄧小平・第二代最高指導者である。それに続いて、いくつかの派生(特に江沢民・第三代最高指導者)を経て、真の統合、習近平・第五代最高指導者に至るのである。

READ MORE: October 1, 1949: China’s Miracle – as seen by the Official China Itself

中国の「脅威」について

 李克強首相は、中国が国内でCovid-19の封じ込めに成功したことを強調した。少なくとも620億ドルを費やしたと。これは特にグローバル・サウスに向けての、微妙なメッセージとして読むべきであろう。中国の統治システムの有効性があってこそ、複雑な開発計画を立案・実行するだけでなく、深刻な緊急事態にも対処できるのだと言っているのだ。

 不安定な西側の「新」自由主義的な民主主義と、「中国の特色ある社会主義」(鄧小平の造語)とのあいだの競争で、最終的に問題となるのは、人々の生活を管理し、改善する能力である。中国の学者たちは、SMART(specific, measurable, achievable, relevant and timebound。具体的、測定可能、達成可能、関連性があり、期限付きであること)と定義される国家開発計画の理念を非常に誇りに思っている。

 その好例が、中国がわずか20年足らずで、8億人もの人々を貧困から救うことに成功したことである。史上初の試みである。

 大西洋主義者たちは、事実上24時間365日、中国を悪者にするヒステリーにおぼれているため、上記のようなことをほとんど考えることすらできない。北京に拠点を置くCCG(Center for China and Globalization:北京を拠点とする中国のシンクタンク)の主管である王輝耀は、少なくとも、ロンドンのキングスカレッジに所属する中国学者ケリー・ブラウンを議論に参加させるという功績を残した。
CCG:2008年に、米国共産党中央統一戦線部の組織であるWestern Returned Scholars Associationの委員会によって設立された。世界のトップ100のシンクタンクにランクされている。

 ライプニッツは、イエズス会の学者に近く、儒教に興味を持っていたドイツの哲学者だが、このライプニッツと、専制的・独裁的・帝国的なシステムしか見ていなかったモンテスキューとの比較をもとにして、ケリー・ブラウンは、250年にわたって凝り固まった西側の中国に対する立場を再検討し、合理的な議論をおこなうことが「かつてないほど困難」であると指摘している。
ライプニッツ:近世の大陸合理主義を代表するドイツ哲学者。
モンテスキュー:『法の精神』。権力(立法権、行政権、司法権)は互いに独立し、均衡を保つべきという「三権分立」は、アメリカ合衆国憲法やフランス革命に影響与えた。

 ケリー・ブラウンは次の三点の大きな問題を指摘している。

      1.近代史を通じて、中国が強大な国家であり、歴史的重要性を回復したことに対して、西側はまったく評価していない。西側の考え方は、それに対処する準備ができていない。

       2.近代西側社会は、中国を世界的な大国と考えたことはなく、中国のもつ兵力はせいぜい地上軍(ランドパワー)程度だ、というものだった。中国は、海軍力や、国境を越えて力を行使する能力があるとは考えられていなかった。

        3.西側の大西洋主義者は、「真の民主主義」という今では非常に価値の落ちた概念を含めて、自分たちの価値観に対する鉄のような確信に突き動かされており、中国の価値観をどのように考えればよいのか全く見当もつかない。結局、西側は中国を理解しようとはしない。「確証バイアス」が支配し、その結果、中国は「西側にとっての脅威」となっている。
確証バイアスとは、認知心理学や社会心理学における用語で、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと。

 ケリー・ブラウンは、中国のことを説明しようとする学者やアナリストたちを悩ませている難しい壁・状況を指摘している。それは、中国の極めて複雑な世界観をどのように伝えたらいいか、ということである。一言で説明できないほど状況は複雑だからテレビで使われるような「サウンドバイト」は使えないからである。
サウンドバイトは、長い音楽や語りから一部のみ抽出し、完全な長さの音楽や語りを一言で宣伝するために使われるもの。


 例えば、中国では13億人の人々が何らかの健康保障を受けており、10億人が何らかの社会保障を受けていることを説明すること。あるいは、中国の民族政策の複雑な詳細を説明すること。

 李克強首相は報告書の中で、「中国国民のあいだに強い共同体意識を醸成し、中国のすべての民族が共同の繁栄と発展のために協力することを奨励する」と宣言した。新疆ウイグル自治区やチベットについては特に言及していない。新疆ウイグル自治区、台湾、南シナ海、香港でのヒステリー状態が止まらない中で、少数民族を国家プロジェクトに統合するための試行錯誤を説明するのは至難の業である。

7億人の消費者市場に参加しよう

 大西洋主義の西側諸国がどのように動こうとも、中国の大衆にとって重要なのは、習近平がかつて「質の高い」経済改革と表現したものを、新5カ年計画がどのように実現してくれるのかということである。

 好調な上海と広東は、すでに6%の成長を目指していた。Covid-19の症例が最初に登場した湖北省は、実際には10%を目標としている。

 熱狂的なソーシャルメディアの活動を見ると、北京の指導者に対する世論の信頼性は、一連の要因を考慮すると、依然として高い。中国は記録的な速さでCovid-19との「健康戦争」に勝利し、経済成長が復活し、当初の予定通りに絶対的貧困が根絶され、共産党創設から100年を経て、文明国家となり、「適度に豊かな社会」として確固たる地位を築いている。

 2000年に入ってから、中国のGDPは11倍以上に成長した。この10年間でGDPは2倍以上になり、6兆ドルから15兆ドルになった。絶対的な貧困から抜け出したのは、9900万人の農村の人々、832の県、12万8000の農村である。

 この複雑なハイブリッド経済は、今では手の込んだ「甘い」罠を欧米企業に仕掛けることにまで手を染めている。
 制裁をするんだって? バカにしてはいけない。少なくとも7億人の消費者がいる市場でのビジネスをするのを楽しみに中国に来なさい!

 私がすでに昨年も指摘したように、この着々と進行中の計画は、国際主義のマルクス主義と儒教(調和を重んじ、対立を嫌う)を高度にミックスしたようなもので、「人類の未来を共有する共同体」の枠組みである。
 一つの国。これは実際には文明国家であり、再浮上する超大国としての新たな歴史的使命に焦点を当てている。
 二つの大会「両会(りょうかい)」という制度。
 そして、非常に多くの目標があり、そのすべてが達成可能なのである。

Pepe Escobar,
  born in Brazil, is a correspondent and editor-at-large at Asia Times and columnist for Consortium News and Strategic Culture in Moscow. He is a frequent contributor to Global Research.
  Since the mid-1980s he’s lived and worked as a foreign correspondent in London, Paris, Milan, Los Angeles, Singapore, Bangkok. He has extensively covered Pakistan, Afghanistan and Central Asia to China, Iran, Iraq and the wider Middle East.
  Pepe is the author of Globalistan – How the Globalized World is Dissolving into Liquid War; Red Zone Blues: A Snapshot of Baghdad during the Surge. He was contributing editor to The Empire and The Crescent and Tutto in Vendita in Italy.
  His last two books are Empire of Chaos and 2030. Pepe is also associated with the Paris-based European Academy of Geopolitics. When not on the road he lives between Paris and Bangkok.




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