ロシア・上海協力機構・BRICS。アフガニスタンの正常化
<記事原文 寺島先生推薦>
Russia, SCO, BRICS: The Normalization of Afghanistan
筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:ストラテジック・カルチャー(Strategic Culture) 2024年6月1日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年6月15日

ロシアとタリバンの関係には、石油やガス、鉱物、そして鉄道という巨大な一連の要素が含まれている。
この前の日曜日(5月26日)、私はドーハで、カタールのタリバン政治事務所の創設構成員(2012年)や1996年から2001年のタリバン前政権の主要幹部など、3人の高官代表と会合を持った。 双方の同意により、ここでは彼らの名前は伏せておく。
この友好的な会談を仲介したのは、ドーハ郊外にあり、グローバル・サウス全体から学生が集まる素晴らしい完璧なキャンパスを擁するハマド・ビン・ハリーファ大学の公共政策学部で教鞭をとるスルタン・バラカット教授だ。バラカット教授は、西アジア、そして彼の場合は中央アジアと南アジアの交差点で重要なことをすべて知っている数少ない(目立たない)人物の一人である。
タリバン側の3人の対話者とともに、私たちはタリバン新時代の課題や新しい開発計画、ロシアと中国の役割、上海協力機構(SCO)について幅広く話し合った。彼らは特にロシアに興味を示し、いくつかの質問を私に投げかけた。
バラカット教授は大学で教鞭をとりながら、「アフガニスタン未来思想討論会」の活動も並行しておこなっている。 5月中旬にオスロで開催された第9回会議には、28人のアフガニスタン人(男女)やイラン、パキスタン、インド、中国、トルコ、米、英、EUなどの外交官が参加した。
この討論会での主要な議論は、タリバンと曖昧な存在である「国際社会」との関わりという極めて複雑な問題を中心に展開される。ドーハで私は3人の対話者に、タリバンの最優先事項は何かと直接尋ねた: 彼らは「制裁の終了」と答えた。
そのためには、国連安全保障理事会が2003年に決定したタリバン構成員数名のテロ組織指定を覆す必要があり、同時に米国政府による差別/悪魔化/制裁をやめさせる必要がある。しかし現状では、それは非常に難しい注文であることに変わりはない。
この件に関しては、UNSC(国連安全保障理事国)であるロシアと中国による支援が不可欠だ。
我々タリバンに必要なのはビジネスだ
カタールでの会談の際に私が持った印象は、何かしら良い状況が生まれそうだ、という点だった。つまり、アフガニスタンの全体的な正常化がこの先に期待できる、ということだ。そしてその後、魔法のような介入によって、この状況全体が好転する事態が生じた。
この会談の翌日、私がドーハからモスクワに向かう前に、ロシア外務省も法務省もプーチン大統領に、タリバンをロシアが指定するテロ組織一覧から除外してもよい、と通告したのだ。
プーチン政権のアフガニスタン特別代表であるザミール・カブロフ氏は、「タリバンが一覧から排除されなければ、ロシアはカブールの新政権を承認することはできません」と単刀直入に述べた。
そしてまるで時計のような正確さで、同じ日にロシア政府はタリバンを来週水曜日(6月5日)に始まるサンクトペテルブルグ国際経済フォーラム(SPIEF)に招待した。
カブロフ氏はこう発言した。「伝統的に、アフガニスタン側はロシアでの石油製品や需要の高い他の商品の購入に関する協力の継続に興味を持っています。もちろん、将来的には、アフガニスタンの運搬能力について話し合い、貿易取引の拡大が可能になるでしょう」と。
そして、セルゲイ・ラブロフ外相も同日、プーチン大統領の公式訪問中のタシケントで、タリバンとの関係の正常化は客観的な現実を反映したものだと述べ、この合意をほぼ決定づけた: 「タリバンこそ真の権力者です。 我が国はアフガニスタンに無関心ではありません。特に中央アジアの我が国の同盟諸国も無関心ではありません。 ですので、今回の動きは、現実の認識を反映したものです。」
カザフスタンはすでに「現実の認識」を表明している。昨年、タリバンはカザフスタン政府の指定テロ組織一覧から外れた。ロシアでも、あとは最高裁が承認すれば、タリバンは指定テロ組織一覧から除外されることになるだろう。 そうなるのは、今後2ヶ月以内のことだろう。
この蜜月が生み出す大きな効果
ロシアとタリバンの関係の正常化は、いくつかの理由から避けられない。主な優先事項は、地域の安全保障に関連するものであることは間違いない。具体的にはISIS-Kが果たしている、暗く霞んだ不安定化工作という役割とともに戦うためだ。このテロ組織は、ISISの分派であり、CIA/MI6が陰に隠れてはいるが、「分断して統治せよ」という工作の道具として積極的に支援している組織である。 FSB(ロシア連邦保安庁)のアレクサンドル・ボートニコフ長官は、安定したアフガニスタンとは安定したタリバン政権と同意であることを十分に認識している。
そして、その思いは上海協力機構(SCO)全体と完全に共有されている。アフガニスタンはSCOの傍聴国であり、今後長くて2年のうちに正式加盟国となり、アフガニスタンのタリバン政権の国際的な承認が進むことは必至である。
そして、ロシアにとっても中国にとっても重要な要素となるのが、新たな回廊が開かれることにより導かれる大盛況だ。中国政府は新疆ウイグル自治区とアフガニスタン北東部を結ぶため、ワハーン回廊を横断する新たな道路建設を進めている。そしてカブールを中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の一部にする計画だ。
ロシア政府は、インド政府もそうだが、以下のような構想を巡らせている。それは、この回廊が、ロシアとイラン、インドを結ぶ複合一貫輸送の国際北南輸送回廊(INSTC)の分回廊になる、というものである。イランのチャバハル港は、インド・シルクロードにとって、アフガニスタン、そしてその先の中央アジア市場へとつながる重要な拠点となる。
さらにアフガニスタンには、未採掘の天然資源があり、少なくとも1兆ドル規模の価値が見込まれている。その資源の中には、リチウムもある。
2022年にサマルカンドで開催されてSCO首脳会議の傍らで、プーチン大統領がパキスタンのシェバズ・シャリフ首相に語った内容は非常に重要だ。彼はこう発言した。「ロシアやカザフスタン、ウズベキスタンではすでに基盤施設が整備されています」と。いまやこの構想に、アフガニスタンも視野に入っている。
回廊の接続が進むにつれ、大きな産物が生まれつつある。2023年11月、SCO国際輸送会議の傍らタシケントで署名された覚書によれば、それはベラルーシ-ロシア-カザフスタン-ウズベキスタン-アフガニスタン-パキスタンという輸送回廊のことである。
この魅力的なパズルに欠けている部品は、ベラルーシ-ロシア-カザフスタン-ウズベキスタンにまたがる鉄道と、パキスタン-アフガニスタン-ウズベキスタンの真新しい鉄道を結ぶことだ。このパキスタン-アフガニスタン-ウズベキスタン計画の最後の2区間は、ほんの数カ月前に着工したばかりだ。
今週初め、タシケントでプーチン大統領とウズベキスタンのシャブカト・ミルジヨエフ大統領が発表した共同声明で取り上げられたのは、まさにこの計画だった。
プーチン大統領とミルジヨエフ大統領は、2024年4月23日にウズベキスタンの都市テルメズで開催されたベラルーシ-ロシア-カザフスタン-ウズベキスタン-アフガニスタン-パキスタンの複合輸送回廊の開発に関する対策委員会の初会合を肯定的に評価した」とタス通信は伝えた。
つまり、ロシアとタリバンの間で開かれるサンクトペテルブルクでの会合により、石油やガス、鉱物、そして鉄道接続を含む巨大な産物が見込める、ということだ。そして、この会合には、労働大臣と商工会議所会頭を含むタリバン代表団が出席する予定である。
そしてまだある: 第二次タリバン政権下のアフガニスタンは、来年10月にカザンで開催されるBRICS+サミットに招待されるに違いない。巨大な戦略的収束についての話になるだろう。国連安保理はアフガニスタンの「国際社会」のための正常化に急いだ方がいい。 ロシアや中国、SCO、BRICSがすでにそうしているのだから。
Russia, SCO, BRICS: The Normalization of Afghanistan
筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:ストラテジック・カルチャー(Strategic Culture) 2024年6月1日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年6月15日

ロシアとタリバンの関係には、石油やガス、鉱物、そして鉄道という巨大な一連の要素が含まれている。
この前の日曜日(5月26日)、私はドーハで、カタールのタリバン政治事務所の創設構成員(2012年)や1996年から2001年のタリバン前政権の主要幹部など、3人の高官代表と会合を持った。 双方の同意により、ここでは彼らの名前は伏せておく。
この友好的な会談を仲介したのは、ドーハ郊外にあり、グローバル・サウス全体から学生が集まる素晴らしい完璧なキャンパスを擁するハマド・ビン・ハリーファ大学の公共政策学部で教鞭をとるスルタン・バラカット教授だ。バラカット教授は、西アジア、そして彼の場合は中央アジアと南アジアの交差点で重要なことをすべて知っている数少ない(目立たない)人物の一人である。
タリバン側の3人の対話者とともに、私たちはタリバン新時代の課題や新しい開発計画、ロシアと中国の役割、上海協力機構(SCO)について幅広く話し合った。彼らは特にロシアに興味を示し、いくつかの質問を私に投げかけた。
バラカット教授は大学で教鞭をとりながら、「アフガニスタン未来思想討論会」の活動も並行しておこなっている。 5月中旬にオスロで開催された第9回会議には、28人のアフガニスタン人(男女)やイラン、パキスタン、インド、中国、トルコ、米、英、EUなどの外交官が参加した。
この討論会での主要な議論は、タリバンと曖昧な存在である「国際社会」との関わりという極めて複雑な問題を中心に展開される。ドーハで私は3人の対話者に、タリバンの最優先事項は何かと直接尋ねた: 彼らは「制裁の終了」と答えた。
そのためには、国連安全保障理事会が2003年に決定したタリバン構成員数名のテロ組織指定を覆す必要があり、同時に米国政府による差別/悪魔化/制裁をやめさせる必要がある。しかし現状では、それは非常に難しい注文であることに変わりはない。
この件に関しては、UNSC(国連安全保障理事国)であるロシアと中国による支援が不可欠だ。
我々タリバンに必要なのはビジネスだ
カタールでの会談の際に私が持った印象は、何かしら良い状況が生まれそうだ、という点だった。つまり、アフガニスタンの全体的な正常化がこの先に期待できる、ということだ。そしてその後、魔法のような介入によって、この状況全体が好転する事態が生じた。
この会談の翌日、私がドーハからモスクワに向かう前に、ロシア外務省も法務省もプーチン大統領に、タリバンをロシアが指定するテロ組織一覧から除外してもよい、と通告したのだ。
プーチン政権のアフガニスタン特別代表であるザミール・カブロフ氏は、「タリバンが一覧から排除されなければ、ロシアはカブールの新政権を承認することはできません」と単刀直入に述べた。
そしてまるで時計のような正確さで、同じ日にロシア政府はタリバンを来週水曜日(6月5日)に始まるサンクトペテルブルグ国際経済フォーラム(SPIEF)に招待した。
カブロフ氏はこう発言した。「伝統的に、アフガニスタン側はロシアでの石油製品や需要の高い他の商品の購入に関する協力の継続に興味を持っています。もちろん、将来的には、アフガニスタンの運搬能力について話し合い、貿易取引の拡大が可能になるでしょう」と。
そして、セルゲイ・ラブロフ外相も同日、プーチン大統領の公式訪問中のタシケントで、タリバンとの関係の正常化は客観的な現実を反映したものだと述べ、この合意をほぼ決定づけた: 「タリバンこそ真の権力者です。 我が国はアフガニスタンに無関心ではありません。特に中央アジアの我が国の同盟諸国も無関心ではありません。 ですので、今回の動きは、現実の認識を反映したものです。」
カザフスタンはすでに「現実の認識」を表明している。昨年、タリバンはカザフスタン政府の指定テロ組織一覧から外れた。ロシアでも、あとは最高裁が承認すれば、タリバンは指定テロ組織一覧から除外されることになるだろう。 そうなるのは、今後2ヶ月以内のことだろう。
この蜜月が生み出す大きな効果
ロシアとタリバンの関係の正常化は、いくつかの理由から避けられない。主な優先事項は、地域の安全保障に関連するものであることは間違いない。具体的にはISIS-Kが果たしている、暗く霞んだ不安定化工作という役割とともに戦うためだ。このテロ組織は、ISISの分派であり、CIA/MI6が陰に隠れてはいるが、「分断して統治せよ」という工作の道具として積極的に支援している組織である。 FSB(ロシア連邦保安庁)のアレクサンドル・ボートニコフ長官は、安定したアフガニスタンとは安定したタリバン政権と同意であることを十分に認識している。
そして、その思いは上海協力機構(SCO)全体と完全に共有されている。アフガニスタンはSCOの傍聴国であり、今後長くて2年のうちに正式加盟国となり、アフガニスタンのタリバン政権の国際的な承認が進むことは必至である。
そして、ロシアにとっても中国にとっても重要な要素となるのが、新たな回廊が開かれることにより導かれる大盛況だ。中国政府は新疆ウイグル自治区とアフガニスタン北東部を結ぶため、ワハーン回廊を横断する新たな道路建設を進めている。そしてカブールを中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の一部にする計画だ。
ロシア政府は、インド政府もそうだが、以下のような構想を巡らせている。それは、この回廊が、ロシアとイラン、インドを結ぶ複合一貫輸送の国際北南輸送回廊(INSTC)の分回廊になる、というものである。イランのチャバハル港は、インド・シルクロードにとって、アフガニスタン、そしてその先の中央アジア市場へとつながる重要な拠点となる。
さらにアフガニスタンには、未採掘の天然資源があり、少なくとも1兆ドル規模の価値が見込まれている。その資源の中には、リチウムもある。
2022年にサマルカンドで開催されてSCO首脳会議の傍らで、プーチン大統領がパキスタンのシェバズ・シャリフ首相に語った内容は非常に重要だ。彼はこう発言した。「ロシアやカザフスタン、ウズベキスタンではすでに基盤施設が整備されています」と。いまやこの構想に、アフガニスタンも視野に入っている。
回廊の接続が進むにつれ、大きな産物が生まれつつある。2023年11月、SCO国際輸送会議の傍らタシケントで署名された覚書によれば、それはベラルーシ-ロシア-カザフスタン-ウズベキスタン-アフガニスタン-パキスタンという輸送回廊のことである。
この魅力的なパズルに欠けている部品は、ベラルーシ-ロシア-カザフスタン-ウズベキスタンにまたがる鉄道と、パキスタン-アフガニスタン-ウズベキスタンの真新しい鉄道を結ぶことだ。このパキスタン-アフガニスタン-ウズベキスタン計画の最後の2区間は、ほんの数カ月前に着工したばかりだ。
今週初め、タシケントでプーチン大統領とウズベキスタンのシャブカト・ミルジヨエフ大統領が発表した共同声明で取り上げられたのは、まさにこの計画だった。
プーチン大統領とミルジヨエフ大統領は、2024年4月23日にウズベキスタンの都市テルメズで開催されたベラルーシ-ロシア-カザフスタン-ウズベキスタン-アフガニスタン-パキスタンの複合輸送回廊の開発に関する対策委員会の初会合を肯定的に評価した」とタス通信は伝えた。
つまり、ロシアとタリバンの間で開かれるサンクトペテルブルクでの会合により、石油やガス、鉱物、そして鉄道接続を含む巨大な産物が見込める、ということだ。そして、この会合には、労働大臣と商工会議所会頭を含むタリバン代表団が出席する予定である。
そしてまだある: 第二次タリバン政権下のアフガニスタンは、来年10月にカザンで開催されるBRICS+サミットに招待されるに違いない。巨大な戦略的収束についての話になるだろう。国連安保理はアフガニスタンの「国際社会」のための正常化に急いだ方がいい。 ロシアや中国、SCO、BRICSがすでにそうしているのだから。