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ロシア・上海協力機構・BRICS。アフガニスタンの正常化

<記事原文 寺島先生推薦>
Russia, SCO, BRICS: The Normalization of Afghanistan
筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:ストラテジック・カルチャー(Strategic Culture) 2024年6月1日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年6月15日


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ロシアとタリバンの関係には、石油やガス、鉱物、そして鉄道という巨大な一連の要素が含まれている。

この前の日曜日(5月26日)、私はドーハで、カタールのタリバン政治事務所の創設構成員(2012年)や1996年から2001年のタリバン前政権の主要幹部など、3人の高官代表と会合を持った。 双方の同意により、ここでは彼らの名前は伏せておく。

この友好的な会談を仲介したのは、ドーハ郊外にあり、グローバル・サウス全体から学生が集まる素晴らしい完璧なキャンパスを擁するハマド・ビン・ハリーファ大学の公共政策学部で教鞭をとるスルタン・バラカット教授だ。バラカット教授は、西アジア、そして彼の場合は中央アジアと南アジアの交差点で重要なことをすべて知っている数少ない(目立たない)人物の一人である。

タリバン側の3人の対話者とともに、私たちはタリバン新時代の課題や新しい開発計画、ロシアと中国の役割、上海協力機構(SCO)について幅広く話し合った。彼らは特にロシアに興味を示し、いくつかの質問を私に投げかけた。

バラカット教授は大学で教鞭をとりながら、「アフガニスタン未来思想討論会」の活動も並行しておこなっている。 5月中旬にオスロで開催された第9回会議には、28人のアフガニスタン人(男女)やイラン、パキスタン、インド、中国、トルコ、米、英、EUなどの外交官が参加した。

この討論会での主要な議論は、タリバンと曖昧な存在である「国際社会」との関わりという極めて複雑な問題を中心に展開される。ドーハで私は3人の対話者に、タリバンの最優先事項は何かと直接尋ねた: 彼らは「制裁の終了」と答えた。

そのためには、国連安全保障理事会が2003年に決定したタリバン構成員数名のテロ組織指定を覆す必要があり、同時に米国政府による差別/悪魔化/制裁をやめさせる必要がある。しかし現状では、それは非常に難しい注文であることに変わりはない。

この件に関しては、UNSC(国連安全保障理事国)であるロシアと中国による支援が不可欠だ。


我々タリバンに必要なのはビジネスだ

カタールでの会談の際に私が持った印象は、何かしら良い状況が生まれそうだ、という点だった。つまり、アフガニスタンの全体的な正常化がこの先に期待できる、ということだ。そしてその後、魔法のような介入によって、この状況全体が好転する事態が生じた。

この会談の翌日、私がドーハからモスクワに向かう前に、ロシア外務省も法務省もプーチン大統領に、タリバンをロシアが指定するテロ組織一覧から除外してもよい、と通告したのだ。

プーチン政権のアフガニスタン特別代表であるザミール・カブロフ氏は、「タリバンが一覧から排除されなければ、ロシアはカブールの新政権を承認することはできません」と単刀直入に述べた。

そしてまるで時計のような正確さで、同じ日にロシア政府はタリバンを来週水曜日(6月5日)に始まるサンクトペテルブルグ国際経済フォーラム(SPIEF)に招待した。

カブロフ氏はこう発言した。「伝統的に、アフガニスタン側はロシアでの石油製品や需要の高い他の商品の購入に関する協力の継続に興味を持っています。もちろん、将来的には、アフガニスタンの運搬能力について話し合い、貿易取引の拡大が可能になるでしょう」と。

そして、セルゲイ・ラブロフ外相も同日、プーチン大統領の公式訪問中のタシケントで、タリバンとの関係の正常化は客観的な現実を反映したものだと述べ、この合意をほぼ決定づけた: 「タリバンこそ真の権力者です。 我が国はアフガニスタンに無関心ではありません。特に中央アジアの我が国の同盟諸国も無関心ではありません。 ですので、今回の動きは、現実の認識を反映したものです。」

カザフスタンはすでに「現実の認識」を表明している。昨年、タリバンはカザフスタン政府の指定テロ組織一覧から外れた。ロシアでも、あとは最高裁が承認すれば、タリバンは指定テロ組織一覧から除外されることになるだろう。 そうなるのは、今後2ヶ月以内のことだろう。


この蜜月が生み出す大きな効果

ロシアとタリバンの関係の正常化は、いくつかの理由から避けられない。主な優先事項は、地域の安全保障に関連するものであることは間違いない。具体的にはISIS-Kが果たしている、暗く霞んだ不安定化工作という役割とともに戦うためだ。このテロ組織は、ISISの分派であり、CIA/MI6が陰に隠れてはいるが、「分断して統治せよ」という工作の道具として積極的に支援している組織である。 FSB(ロシア連邦保安庁)のアレクサンドル・ボートニコフ長官は、安定したアフガニスタンとは安定したタリバン政権と同意であることを十分に認識している。

そして、その思いは上海協力機構(SCO)全体と完全に共有されている。アフガニスタンはSCOの傍聴国であり、今後長くて2年のうちに正式加盟国となり、アフガニスタンのタリバン政権の国際的な承認が進むことは必至である。

そして、ロシアにとっても中国にとっても重要な要素となるのが、新たな回廊が開かれることにより導かれる大盛況だ。中国政府は新疆ウイグル自治区とアフガニスタン北東部を結ぶため、ワハーン回廊を横断する新たな道路建設を進めている。そしてカブールを中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の一部にする計画だ。

ロシア政府は、インド政府もそうだが、以下のような構想を巡らせている。それは、この回廊が、ロシアとイラン、インドを結ぶ複合一貫輸送の国際北南輸送回廊(INSTC)の分回廊になる、というものである。イランのチャバハル港は、インド・シルクロードにとって、アフガニスタン、そしてその先の中央アジア市場へとつながる重要な拠点となる。

さらにアフガニスタンには、未採掘の天然資源があり、少なくとも1兆ドル規模の価値が見込まれている。その資源の中には、リチウムもある。

2022年にサマルカンドで開催されてSCO首脳会議の傍らで、プーチン大統領がパキスタンのシェバズ・シャリフ首相に語った内容は非常に重要だ。彼はこう発言した。「ロシアやカザフスタン、ウズベキスタンではすでに基盤施設が整備されています」と。いまやこの構想に、アフガニスタンも視野に入っている。

回廊の接続が進むにつれ、大きな産物が生まれつつある。2023年11月、SCO国際輸送会議の傍らタシケントで署名された覚書によれば、それはベラルーシ-ロシア-カザフスタン-ウズベキスタン-アフガニスタン-パキスタンという輸送回廊のことである。

この魅力的なパズルに欠けている部品は、ベラルーシ-ロシア-カザフスタン-ウズベキスタンにまたがる鉄道と、パキスタン-アフガニスタン-ウズベキスタンの真新しい鉄道を結ぶことだ。このパキスタン-アフガニスタン-ウズベキスタン計画の最後の2区間は、ほんの数カ月前に着工したばかりだ。

今週初め、タシケントでプーチン大統領とウズベキスタンのシャブカト・ミルジヨエフ大統領が発表した共同声明で取り上げられたのは、まさにこの計画だった。

プーチン大統領とミルジヨエフ大統領は、2024年4月23日にウズベキスタンの都市テルメズで開催されたベラルーシ-ロシア-カザフスタン-ウズベキスタン-アフガニスタン-パキスタンの複合輸送回廊の開発に関する対策委員会の初会合を肯定的に評価した」とタス通信は伝えた。

つまり、ロシアとタリバンの間で開かれるサンクトペテルブルクでの会合により、石油やガス、鉱物、そして鉄道接続を含む巨大な産物が見込める、ということだ。そして、この会合には、労働大臣と商工会議所会頭を含むタリバン代表団が出席する予定である。

そしてまだある: 第二次タリバン政権下のアフガニスタンは、来年10月にカザンで開催されるBRICS+サミットに招待されるに違いない。巨大な戦略的収束についての話になるだろう。国連安保理はアフガニスタンの「国際社会」のための正常化に急いだ方がいい。 ロシアや中国、SCO、BRICSがすでにそうしているのだから。

金融、権力、統合:上海機構(SCO)は新たな「グローバル・グローブ」を歓迎する

<記事原文 寺島先生推薦>
Finance, power, integration: The SCO welcomes a new 'Global Globe'
筆者:ペペ・エスコバル (Pepe Escobar)
出典:The Cradle  2023年7月6日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年9月4日


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先ごろニューデリーで開催されたSCOサミットでの議論は、今や避けられなくなった道筋を指し示している: 新たな多極的組織の合併と、それに伴う世界金融の再編成である。

 第23回上海協力機構(SCO)首脳会議は、ニューデリー(ネット上)で開催され、重要な歴史的出来事となった。ロシア、インド、中国の3つのBRICS国に、さらにパキスタンと中央アジアの4つの「スタン」(カザフスタン、キルギススタン、ウズベキスタン、タジキスタン)が、イラン・イスラム共和国を永久参加国として正式に歓迎した。

 来年は、インドの第一外務次官であるヴィナイ・クヴァトラが確認したとおり、ベラルーシの番となる。ベラルーシとモンゴルは2023年の首脳会議に傍聴国(オブザーバー)として参加し、独立心の強いトルクメニスタンは賓客(ゲスト)として参加した。

 テヘランは、アメリカによる長年の「最大圧力」の後、ついに認知症的(訳注:バイデンへの揶揄か)制裁から解放され、ユーラシア統合の現在の流れで主導的な役割を確立するかもしれない。

 おそらく、ニューデリーの舞台の主役は、1994年以来自国を指導してきたベラルーシ大統領アレクサンダー・ルカシェンコだった。
 
 見出しを奪う部門では無敵の「愛すべきルカシェンコ」、特にプリゴジン事件での調停役の後、彼は多極世界の明確な理念を打ち出していたのかもしれない。 西側の、実際はわずか1億にすぎない「ゴールデンビリオン」と呼ぶものは忘れてしまえ! 今こそ「グローバル・グローブ(全地球的世界)」を! これこそ、特にグローバル・サウス(地球規模の南半球)にしっかり焦点を当てた理念なのだ。

 決め手として、ルカシェンコはSCOとBRICSの完全な統合を提案した。これらの統合は、南アフリカで開かれる次回のBRICS+サミットで採用されるだろう。言うまでもなく、この統合はユーラシア経済連合(EAEU)にも適用される。

 「グローバル・グローブ」(西側からは軽蔑的に「残りの部分」として切り捨てられる)の次の段階は、いくつかの開発銀行の複雑な調整を行い、新しい取引通貨に関連する債券発行手続きに取り組むことだ。

 中心的な構想と基本的な型は既に存在している。新しい債券は、米ドルと米国債に比べて本当に安全な避難所となり、ドル離れを加速させることになる。これらの債券を購入するために使われる資本は、貿易と持続可能な開発を資金調達するために使用されるべきであり、これは中国式の「win-win」で認証されることになるだろう。


収束する地政経済的焦点

 SCO宣言は、この拡大する多国間機関が「他国や国際組織に反対するものではないこと」を明確にした。それどころか、「国連憲章、SCO憲章、国際法の目的と原則に従い、相互の利益を考慮して広範な協力を受け入れる用意がある」と述べている。

 問題の核心は、公平な多極的な世界秩序に向けた動きだ。これは、覇権国(アメリカ)によって強制された「ルールに基づく国際秩序」とは正反対のものである。そして、3つの主要な要素とは相互の安全保障、各国通貨による貿易、そして最終的にはドル離れだ。

 ニューデリーのサミットで、多くの指導者が表明した収束する焦点とは何なのかを簡単に述べるだけでも、目からうろこが落ちる思いだ。

 インドの首相モディは基調演説で、SCOは国連と同じくらい重要になるだろうと述べた。これを翻訳すると:覇権国(アメリカ)によって振り回される歯のない(権限のない)国連は、真の「グローバル・グローブ」組織によって脇に追いやられる可能性がある。

 モディは国際北南輸送回廊(INSTC)の発展におけるイランの重要な役割を賞賛した。イランの大統領エブラヒム・ライシは、上海協力機構(SCO)における各国通貨での取引を強力に支持し、米ドルの覇権を断固として打破することを表明した。

 中国の習近平国家主席は、彼なりに断固とした姿勢だった:中国は米ドルを排除し、あらゆる形態のカラー革命に対抗し、一方的な経済制裁に立ち向かうことを強く支持する、と。

 ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、「外部勢力がロシアとウクライナのロシア人に対してハイブリッド戦争*を仕掛け、ロシアの安全を脅かしている」と再び強調した。
*軍事戦略の一つ。正規戦、非正規戦、サイバー戦、情報戦などを組み合わせていることが特徴である。ハイブリッド戦略とも呼ばれる。(ウィキペディア)

 実務的には、プーチンは上海協力機構(SCO)内での自国通貨を使用した貿易の成長を期待しており、現在のロシアの貿易の80%はルーブルと人民元で行われている。さらに、銀行業、デジタル化、先端技術、そして農業における新規の協力を推進する予定だ。

 キルギスのサディル・ジャパロフ大統領も、自国通貨による相互決済を強調し、さらに重要な動きとして、上海協力機構(SCO)開発銀行と開発基金の設立を強調した。これは、BRICSの新開発銀行(NDB)にかなり類似している。

 2024年に上海協力機構(SCO)の議長国を務めるカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領も、共同の投資ファンドを支持し、中国の一帯一路(BRI)に接続する主要戦略港の友好関係連携の構築を支持した。また、同氏はカザフスタンの首都アスタナを拠点とするトランスカスピア国際輸送ルートにも賛成した。それは東南アジア、中国、カザフスタン、カスピ海、アゼルバイジャン、ジョージア、およびヨーロッパを結ぶ経路だ。

 もちろん、すべての上海協力機構(SCO)参加国は、アフガニスタンを安定させなければユーラシア統合は不可能だと合意している。実際には、カブールを地政学的に一帯一路(BRI)およびインド-国際北南輸送回廊(INSTC)と結びつける必要がある。しかし、それは別の長く複雑な話となる。


戦略的な接続規則

 さて、ニューデリーサミットでのすべての動きと、数日前、2021年6月下旬、天津でのイベントを比較してほしい。天津でのイベントは、新型コロナウイルス(Covid-19)パンデミックの後に初めて開催された世界経済フォーラム(WEF)の「サマー・ダボス」として知られるものだ。

 中国の李強首相が新しい米国/欧州連合の「リスク低減」の主張に対する批判は予想どおり鋭かったかもしれない。しかし、それよりさらに興味深かったのは、「一帯一路構想の未来」と題されたBRIパネルディスカッション(公開意見交換会)だった。

 要するに、それは「グリーン(施策)」の言わばお手本だった。国家発展改革委員会(NDRC)の地域開放部門出身の梁林沖は、一帯一路構想の推進に不可欠な役割を果たしているカザフスタンやパキスタンなどの主要な一帯一路の拠点でのいくつかのクリーンエネルギー事業計画について詳細に説明した。

 アフリカも、他に劣らず、焦点が当てられた。ジンバブエの産業と商業大臣であるセカイ・ヌゼンザは、アフリカ内および世界的に貿易を増加させ、最新の技術をもたらす一帯一路構想たいへんな肩入れをしている。

 北京は今年後半に一帯一路フォーラム(公開討論会)を再開する予定。「グローバル・グローブ」全体で大きな期待が寄せられている。

 梁林沖は、今後の展望を詳細に説明した。「ハードな連結」とは、生活基盤の構築を指し、「ソフトな連結」とは、技能、技術、および規格に重点を置いたもので、「心のつながり」とは、中国の有名な「人と人との交流」という概念に置き換えられる。

 梁によれば、「グローバル・グローブ」が期待できることは、「小さなものが美しい」という事業計画の急増であり、非常に実用的だ。これは、中国の銀行と企業の両方が新たに焦点を当てていることと合致している。世界中での非常に大規模に進められている生活基盤構築計画は現時点で問題があるかもしれない。中国は国内市場に注力し、覇権国の複数のハイブリッド戦争に対抗するためにあらゆる面で組織化を進めている。

 しかし、戦略的接続に影響を与えることはないだろう。

 ここに傑出した例がある。2つの中国の重要な産業拠点である広東-香港-マカオ大湾区と北京-天津-河北一帯は、SCO(上海協力機構)首脳会議がニューデリーで開催された同じ日に、初の中国-キルギス-ウズベキスタン(CKU)国際的多様貨物列車を運行した。

 これは典型的な一帯一路構想(BRI)の例だ。コンテナ化された「鉄道-道路」の多様な仕組みを利用した高度な連結となる。INSTC(国際北南貨物輸送回廊)も、同じ仕組みを使用して、ロシア、カスピ海、イラン間の貿易を行い、その後は海路でインドに向けて運送される。

 CKU(China-Kyrgyzstan-Uzbekistan)経路では、貨物は鉄道を利用して新疆に到達し、次にイルケシュタム国境を経由して道路に移り、キルギスを通過してウズベキスタンに到達する。この経路全体では、輸送時間をほぼ5日間短縮することができる。次の段階は、中国-キルギス-ウズベキスタン鉄道を建設することで、その建設は2023年末に開始される。

 BRI(一帯一路)は、アフリカへの進出で有名だ。例えば、先月、中国航空宇宙科学技術公司(CASC)がエジプトと共同開発した衛星の試作機をカイロのスペースシティに引き渡した。エジプトは現在、衛星の組み立て、統合、および使用実験ができるアフリカで最初の国となった。カイロはこれを持続可能な発展の優れた例と賞賛している。

 これは北京が海外で衛星を組み立て、使用実験する初めての機会でもある。これも古典的な一帯一路(BRI)の手法だ:「協議、協力、そして共通の利益」(CASCの定義)。

 そして、エジプトの新しい首都を忘れてはならない。これは砂漠において文字どおりゼロから建設された超現代的なカイロの衛星都市。その費用50億ドルは債券。何と言っても、中国資本によって賄われたものだ。


長く、曲がりくねった脱ドルの道

 この慌ただしい動きは、BRICS+によって取り扱われる主要な課題である「ドル非依存化」と関連している。

 インドの外務大臣ジャイシャンカルは、現時点ではBRICS新通貨はないことを確認した。重点は、各国通貨での貿易を増やすことに置かれている。

 BRICSの重要国であるロシアに関して、現時点ではロシアルーブルの利益のために商品価格を引き上げることに重点が置かれている。

 外交筋によれば、BRICSの準備担当者たち(来月の南アフリカサミットでの議論のためBRICS+の指針を今週準備している)の間には暗黙の合意(不換紙幣ドルの崩壊を早めること)が確認されている。つまり、現在の金利では米国の貿易赤字と予算赤字の資金調達が不可能になるのだ。

 問題は、それを気づかれないように、どのように早めるかだ。

 プーチンの特徴的な戦略は、常にロシアの直接介入なしに、西側連合がさまざまな戦略的な誤りに陥らせることだ。したがって、ドンバスの戦場で次に何が起こるか(NATOの巨大な屈辱)は、ドル離れ前線における重要な要因となる。一方、中国は、ドルの崩壊が中国の製造業基盤に影響を及ぼすことを、中国なりに心配している。

 今後の道筋としては、最初にEAEUで設計された新しい貿易決済通貨が提案され、マクロ経済学の責任者であるセルゲイ・グラジエフがそれを監督する。これにより、BRICSとSCOのより広範な展開となるだろう。しかし、まずEAEUは中国を巻き込む必要がある。これは最近、グラジエフが北京で個人的に議論した重要な問題の1つだった。

 そこで、Holy Grail(聖杯)はBRICS、SCO、およびEAEUのための新しい超国家的な貿易通貨であり、その準備通貨の地位が米ドルのように一国に圧倒的な権力を許容しないことが不可欠だ。

 新しい貿易通貨を複数の商品籠(かご)に結びつける唯一の実用的手段は、金を通じて行うことになるだろう。国益の籠となればなおさらだ。

 BRICS参加国の行列で、それらすべてが詳細に議論される可能性があるかもしれない光景を想像されたい。現時点では、少なくとも31か国が正式な申請を提出したり、改善更新されたBRICS+に参加に興味を示したりしている。

 これらの相互関係は魅力的だ。イランとパキスタンを除く、BRICS参加国でない唯一の完全なSCO参加国は、すでにEAEUメンバーである4つの中央アジアの「スタン」諸国だ。イランは必ずBRICS+の一員になる。SCOの傍聴国や対話対象国の中には、BRICSの申請国の中から少なくとも9か国が含まれている。

 ルカシェンコは言った:BRICSとSCOの統合はほぼ避けられないようだ。

 両組織の最も重要な主要推進軸であるロシアと中国の戦略的友好関係にとって、この合併は真の自由で公正な貿易に基づく究極の多国間機関を表し、米国とEUの両方を遥かに凌駕し、ユーラシアをはるかに超えて「グローバル・グローブ」にまで広がる可能性がある。

 ドイツの産業やビジネス界はすでにその兆しを見たようだ。フランスの同業者も同様で、特にフランスの大統領エマニュエル・マクロンも含まれる。この傾向はEUの分裂へ向かっており、ユーラシアのさらに大きな力を示している。

 BRICS-SCOの貿易圏は、西側の制裁を完全に無意味にするだろう。これは米ドルからの完全な独立を確認し、SWIFTに対するさまざまな金融的代替案を提供し、Five Eyesによる継続的なハイブリッド戦争の一環としての連続的な秘密工作に対抗する緊密な軍事と情報提供協力を奨励する。

 平和的開発の観点から、西アジアはその道筋を示した。サウジアラビアが中国とロシアの側についた瞬間、そして今やBRICSとSCOの両方の参加加入候補となっている瞬間から、新しい展開が始まった。


金本位ルーブル3.0?

 現在の状況では、金に裏付けられたルーブルには巨大な潜在力がある。もし実現すれば、それは1944年から1961年の間のソ連での金に裏付けられた通貨の復活となるだろう。

 グラジエフの見方は決定的に重要だ。それはSCO参加国に対するロシアの貿易黒字は、ロシアの企業が外部債務を返済し、それをルーブルでの借り入れに置き換えることができるというもの。

 同時に、ロシアは国際決済に対してますます人民元を使用している。さらに、将来的には、中国、イラン、トルコ、UAEなどの主要な「グローバル・グローブ」参加者は、自国通貨ではなく非制裁の金での支払いに興味を持つだろう。これにより、金に連動したBRICS-SCO貿易決済通貨の道が開けてくるだろう。

 結局のところ、集団でなされる西側制裁と闘うことや、石油、ガス、食品、肥料、金属、鉱物の価格設定に関して、金に勝るものはない。グラジエフはすでに次の規則を決めた:ロシアは Golden Ruble 3.0に進む必要がある。

 ロシアが米ドルに大きな打撃を与える完璧な状況を作り出す時が迫っている。これがSCO、EAEU、および一部のBRICS会議の舞台裏で議論されている内容であり、これが大西洋主義者エリートたちの顔面を蒼白にさせている要因だ。

 ロシアにとって、これを実現する「ほとんど気づかれない」方法は、ほぼすべてのロシアの輸出商品の価格上昇を市場に任せることだ。「グローバル・グローブ」全体に位置する中立国は、これを西側諸国が地政学的絶対要請については一致した認識を持っていないことに対する自然な「市場の反応」と解釈するだろう。エネルギーと商品の価格の急騰は、米ドルの購買力の急激な低下を招くことになるだろう。

 だからSCOサミットで何人かの指導者たちが、実質的には拡張されたBRICS-SCO中央銀行に賛成したのは驚くことではない。新しいBRICS-SCO-EAEU通貨が最終的に採用される(もちろん、それは遠い未来、おそらく2030年代初頭になるかもしれない)とそれはSCO、BRICS、およびEAEUの加盟国の銀行によって物理的な金と交換されるだろう。

 以上のすべては、実際の多極性への可能性のある現実的な経路のスケッチとして解釈していただきたい。これは、人民元を準備通貨とすることとは何の関係もない。準備通貨とすれば、既存の収益抽出の仕組みを再現し、ごく少数の富豪階級の利益を追求することになる。「グローバル・グローブ」をいじめるための大規模な軍事機構を完璧に手にして、だ。

 BRICS-SCO-EAEUの連合は、インフラ開発、産業能力、技術共有に基づく物理的で非投機的な経済の構築と拡大に焦点を当てるだろう。今こそ、別の世界システムが可能となる。

パキスタン、イムラン・カーン解任を求める米国の圧力を示す極秘外交公報を確認

<記事原文 寺島先生推薦>
Pakistan Confirms Secret Diplomatic Cable Showing U.S. Pressure to Remove Imran Khan
筆者:リアン・グリム、ムルタザ・フセイン(Ryan Grim and Murtaza Hussain)
出典:グローバル・リサーチ(Global Research)  2023年8月22日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年9月3日





当初インターセプト紙が報じた外報は本物ではないと主張していたが、パキスタン当局は現在、この外報は陰謀を表すものではない、と主張

 1年半にわたり、パキスタン政権は、米国務省当局者がパキスタンのイムラン・カーン元首相を権力の座から排除することを奨励しているとされる外交公電の文言に悩まされてきた。インターセプト紙は先週、内部では暗号として認知されていた公電の内容を公表したが、その内容は、ウクライナ紛争に対するカーン氏の中立的な立場をめぐり、米外交官らがカーン元首相の解任を迫っていることを明らかにしたものだった。

 この記事が発表されて以来、この記事に対するパキスタンと米国の当局者の反応は擁護的かつ矛盾したものだった。

 パキスタン指導部はすぐに文書の信頼性に疑問の声を挙げ始めた。カーン元首相の野党勢力の一員であるビラーワル・ブットー・ザルダーリー元外務大臣は、公開された公電が「本物ではないだろう」とし、「白紙の紙切れにはどんなことでも入力できる」と主張していた。それでも同元外務大臣はカーン元首相を非難し、元首相は機密文書を漏洩した可能性があるとしてパキスタン公務機密法に基づいて裁かれるべきだ、と述べた。

 パキスタンのシェバズ・シャリフ前首相は、この外交公電のことが報じられた数日後、地元報道機関に対し、漏洩は「大規模な犯罪」であると述べたが、その内容が真実かどうかについての明言は避けた。しかし、その数日後、シャリフ前首相はガーディアン紙とのインタビューでこの公電の内容が正しいことを認めた。月曜日(8月21日)に暫定首相に政権を引き継いだシャリフ前首相は、「カーン元首相によると(その公電を)持っていたが、紛失した、とのことです。そして今その公電は、ウェブサイト上で掲載されています」と語った。

 シャリフ前首相もブットー・ザルダーリー元外務大臣も、パキスタン軍内部の情報筋からインターセプト紙に提供されたこの外交公電の漏洩にカーン元首相が関与した証拠を提供していない。調査を発表してから1カ月後の水曜日(8月16日)、パキスタン政府は外交公電に関する誤った取り扱いと悪用の疑いでカーン元首相を告訴した。

 シャリフ前首相は、文書の信頼性を確認したにもかかわらず、この公電には、カーン元首相を陥れようとする陰謀について書かれていなかった、と述べた。この公電には、米国の外交官らが、カーン元首相がロシアに対する「積極的中立」を主張していることについて激怒しており、カーン元首相が権力者の座に留まるのならば、パキスタンを「孤立させる」と脅している内容が書かれていたにもかかわらず、である。

 この相矛盾する三主張の展開―①公電が本物かどうかの信頼性を即座に疑問視→②反逆行為に相当する文書漏洩を行ったとしてカーン元首相を非難→③公電の本文には大したことは書かれていなかったとの付言ーが、先週のパキスタンと米国務省の対応を特徴づけるものだ。

 米国側についていうと、国務省は米国がカーン元首相に権力の座から追放するよう圧力をかけたとの同元首相の主張をずっと否定していた。漏洩された公電の内容が暴露された後、米国務省当局者らはインターセプト紙に対し、この外交公電が本物かどうかについては明言できないとしながらも、この公電の内容は、米国がパキスタン政界においてカーン元首相か反対勢力かどちらかの側に立っていることを示すものではない、と主張した。国務省のマット・ミラー報道官はインターセプト紙への声明で、「この公電の内容には、パキスタンの指導者が誰であるべきかについての米国の立場が示されているわけではありません」と述べた。

 記者会見でこの文書についてさらに追及されたミラー報道官は、この公電で交わされていた内容が正しいかどうかを尋ねた記者に対し、「ほぼ正確です」と述べた。

 報道によると、刑務所にいるカーン元首相にかけられる圧力は激しくなるいっぽうだ、という。同元首相は現在汚職容疑で懲役3年の刑で服役中だが、支持者らはこの刑は政治的動機によるものだ、としている。カーン元首相に対する攻撃は、外報公電を漏洩した疑いに対する今週の暴力的な捜査で、最高潮に達した。

 同元首相の支持者に対する広範な弾圧は続いており、元首相の政党への関与や5月に国内で起きた一連の反軍デモに参加した容疑により、今も数千人が拘留されている。

 一方、米国政府は、この弾圧はパキスタン政府の「内部問題」であるという立場を取っているが、カーン元首相の排除を画策したとされるパキスタン軍との関係は継続中だ。

 この公電の開示、そしてカーン元首相がその公電の中身について述べていた内容が真実だったことが明らかになれば、つまり、カーン元首相が権力の座から追放されれば「すべてが許される」という米国務省当局者の発言が真実であることが明らかになれば、パキスタンの政治危機についての風向きが変わる可能性がある。この公電の内容はすでにパキスタンの報道機関で大きな話題となっている。

 カーン元首相自身の政治的運命は現在、軍主導の現政府が同元首相とその支持者に対する復讐をどこまで追求する決意をしているかに大きくかかっている。公電の内容の暴露と、カーン元首相の政党に対する暴力的な弾圧が明らかに軍内部に亀裂を生じさせたことは、カーン元首相が昨年権力の座から追放されて以来、パキスタンを襲っている危機をさらに高めるだけである。

中央アジアは新しい大いなるゲームにおける主要な戦場

<記事原文 寺島先生推薦>
Central Asia is the prime battlefield in the New Great Game
筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:The Cradle   2023年8月18日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年9月3日


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写真提供:The Cradle


ロシアと中国がこの地域の政治的・経済的支配者であり続ける限り、中央アジアのハートランドは米国とEUの脅威、賄賂、カラー革命の標的であり続けるだろう。

 サマルカンド、ウズベキスタン―歴史的なハートランド、つまり中央ユーラシア―は新たな大いなるゲームとして、アメリカと、戦略的相互関係にある中国・ロシアとの間で既に戦闘状態にあり、今後もその主要な戦場となるだろう。

 元々の「大いなるゲーム」は、19世紀末にイギリス帝国とロシア帝国の対立だった。そして実際に、その対立は消えることはなかった。米英協商対ソビエト連邦の対立へと変わり、その後は米-EU対ロシアの形に転化した。

 1904年に帝国主義的なイギリスによって概念化されたマッキンダーによる地政学的なゲームによれば、ハートランドはまさに「歴史の転換点」であり、21世紀においても過去の世紀と同じくその役割が再び活性化され、多極性の重要な推進要因として新たに浮上した。

 そのため、中国、ロシア、アメリカ、EU、インド、イラン、トルコ、そして日本(その担当範囲はさほど広くはない)など、すべての主要な大国がハートランド/中央ユーラシアで活動しているのは驚くにあたらない。中央アジアのうち4つの「スタン」国が上海協力機構(SCO)の正式メンバーとなっている。つまりカザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、そしてタジキスタンだ。また、カザフスタンのように、近い将来BRICS+のメンバーになる可能性のある国もある。

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中央アジアの地図

 ハートランドにおける影響力を巡る主要な地政学的直接対立は、政治、経済、そして金融の多岐にわたる領域で、アメリカと露中の間で展開されている。

 帝国主義的な手法は、何よりも脅威と最終通告を優先させる。つい4か月前、アメリカの国務省、財務省、外国資産統制局(OFAC)の使節団がハートランドを訪れ、露骨な、あるいは奥歯に物が挟まったような脅しの「贈り物」を携えて各国を回った。その主なメッセージは、いかなる方法であれロシアと協力するか、取引を行う場合、それは二次的な制裁の対象だ、というものだった。

 ウズベキスタンのサマルカンドとブハラでの企業との非公式な会話、そしてカザフスタンにおける非公式な接触からは、次のような傾向が浮かび上がってくる:アメリカは、手段を選ばずにハートランド/中央アジアを銃口で支配しようとするだろう、と誰もが気づいているようだ、ということ。


古代シルクロードの王たち

 ハートランド内で現在の勢力争いを観察するには、サマルカンドという伝説的な「東のローマ」とも言われる場所ほど適した場所はまずない。ここは古代ソグディアナ*の中心に位置しており、中国、インド、パルティア、そしてペルシャの歴史的な貿易の交差点であり、東西の文化的傾向、ゾロアスター教、そしてイスラム前後の動向の極めて重要な結節点だ。
*ソグディアナは、中央アジアのアムダリヤ川とシルダリヤ川の中間に位置し、サマルカンドを中心的な都市とするザラフシャン川流域地方の古名。バクトリアの北、ホラズムの東、康居の南東に位置する地方。現在のウズベキスタンのサマルカンド州とブハラ州、タジキスタンのソグド州に相当する。(ウィキペディア)

 4世紀から8世紀にかけて、東アジア、中央アジア、西アジアの間の隊商交易を独占したのはソグド人だった。彼らは絹、綿、金、銀、銅、武器、香料、毛皮、じゅうたん、衣類、陶磁器、ガラス、磁器、装飾品、半貴石、鏡などを運んだ。巧妙なソグド商人は遊牧王朝の保護を利用して、中国とビザンツ帝国間の貿易に力を入れた。

 歴史的に非常に長いサイクルを論じる中国の能力主義的エリートたちは、上記のすべてを非常によく理解している。それが「新しいシルクロード」として知られ、約10年前に中国の習近平国家主席によってカザフスタンのアスタナで発表されたBRI(一帯一路構想)の背後にある主要な要因だ。北京は西側隣国と再接続し、全ユーラシアの貿易と連結性の向上に向けた必要な経路を計画している。

 北京とモスクワは、ハートランドとの関係に関しては戦略的協力の原則の下で補完的な焦点を持っている。両国は1998年以来、中央アジアとの地域安全保障と経済協力に携わってきた。2001年に設立された上海協力機構(SCO)は、ロシアと中国の共同戦略の具体的な成果であり、ハートランドとの持続的な対話の場でもある。

 中央アジアの「スタン」諸国がそれにどのように反応するかは、多層的だ。たとえば、経済的に脆弱で、安価な労働力の提供者としてロシア市場に強く依存しているタジキスタンは、公式には西側とのあらゆる種類の協力を含め、あらゆる協力を歓迎する「開放(オープンドア)」政策を採っている。

 カザフスタンとアメリカは戦略的な友好関係のための評議会を設立した(最後の会合は昨年末に行われた)。ウズベキスタンとアメリカも2021年末に設立された「戦略的パートナーシップ対話」を持っている。タシケントには、人目を引く商業中心地を通して、アメリカ企業が非常に目立っている。ウズベキスタンの村の角々の店にはCokeとPepsiがあることは言うまでもない。

 EUは、特にカザフスタンで、乗り遅れまいとしている。カザフスタンでは外国貿易の30%以上(390億ドル)と投資の30%以上(125億ドル)がヨーロッパから来ている。ウズベキスタンの大統領シャフカト・ミルジヨエフは、5年前に国を開放したことで非常に人気があり、3か月前にドイツを訪れた際には90億ドルの貿易契約を取得している。

 中国の一帯一路構想が10年前に始まって以来、比較して言えば、EUはハートランド地域に約1,200億ドルを投資した。それは悪くない数字(外国投資の総額の40%に相当する)だ。しかし、それでも中国の取り組みには及ばない。


トルコは、本当は何をしようとしているのか?

 ハートランド地域における(アメリカ)帝国の焦点は、広大な石油とガス資源があるから、予測どおりだが、カザフスタンに置かれている。アメリカとカザフスタンの貿易は、中央アジア全体の86%(額にすれば、昨年でたったの38億ドル)だった。この数字を、アメリカのウズベキスタンとの貿易がわずか7%であることと比較されたい。

 中央アジアの4つの「スタン」国の大半は、SCO(上海協力機構)では「多面的外交」を実践しており、帝国の不要な怒りを引きつけないように努力している、との議論は当を得ている。カザフスタンはその一環として「バランスの取れた外交」を採用しており、これは2014年から2020年までの同国の外交政策構想となっている。

 ある意味で、アスタナ(カザフスタン政府)の新しい標語は、前大統領ヌルスルタン・ナザルバエフの約30年にわたる統治中に確立された「多元的外交」と一部つながっている。カシム・ジョマルト・トカエフ大統領の下で、カザフスタンはSCO(上海協力機構)、ユーラシア経済連合(EAEU)、そして一帯一路構想(BRI)の加盟国だが、同時に(アメリカ)帝国の策略に対して24時間365日警戒しなければならない。結局、2022年初頭のカラー革命の企てからカシム・ジョマルト・トカエフを救ったのは、モスクワとロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の迅速な介入だった。

 中国としては、その投資は集合的なやり方でおこなわれる。この方式は、たとえば、わずか3か月前に開催された中国中央アジア5+1サミットなどの高レベルの会議で確立されている。

 それから、テュルク諸国機構(OTS、以前はテュルク評議会として知られていた)という極めて興味深い事例もある。これはトルコ、アゼルバイジャン、および3つの中央アジアの「スタン」(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギススタン)を結ぶ組織だ。

 このテュルク諸国機構(OTS)の主要な目標は、「テュルク語を話す諸国間の包括的な協力を促進すること」だ。しかし、実際のところ、ハートランド地域ではトルコ製品を宣伝する、たまに見かける広告看板以外にはほとんど目に見える成果はない。2022年春にイスタンブールの事務局を(私が)訪れた際、具体的な回答は得られなかった。「経済、文化、教育、交通などの事業計画」や、さらに重要なこととして「関税」についての漠然とした言及はあったのだが。

 昨年11月、サマルカンドで、テュルク諸国機構(OTS)は「簡略化された関税回廊の設立に関する協定」に署名した。だからと言って、ハートランド地域全体に小規模なシルクロードを形成することができるかどうかを語るのはまだ時期尚早だ。

 それでも、彼らが次に何を考え出すかに注目することは有意義だ。彼らの憲章は「外交政策問題について共通の立場を開発すること」、「国際テロリズム、分離主義、過激主義、および国境を越える犯罪との戦闘のための行動の調整」、そして「貿易と投資のための有利な条件を作成すること」を最優先にしているからだ。

 トルクメニスタンは、その絶対的な地政学的中立を強く主張する特異な中央アジアの「スタン」だ。たまたまテュルク諸国機構(OTS)の傍聴人(オブザーバー)国だ。また、注目すべきはキルギスの首都ビシュケクに拠点を置く遊牧文明センターだ。


ロシア‐ハートランドの謎を解く

 欧米の対ロシア制裁は、ハートランドの多くの国に利益をもたらす結果となった。中央アジアの経済はロシアと密接に結びついているため、輸出は急増した。ちなみに、その量はヨーロッパからの輸入量と同じだ。

 ロシアを去ったかなりの数のEU企業がハートランドに再び腰を落ち着けた。それに伴い一部の中央アジアの大富豪たちがロシアの資産を買収する動きがあった。同時に、ロシアの軍隊の動員が進行しているため、ほぼ間違いなく何万人もの比較的裕福なロシア人がハートランドに移住した。他方、さらに多くの中央アジアの労働者が、特にモスクワとサンクトペテルブルクで、新しい仕事を見つけた。

 例えば、昨年、ウズベキスタンへの送金は160億9000万ドルに急増:そのうち85%(約145億ドル)はロシアで働く労働者からのものだった。欧州復興開発銀行によれば、ハートランド地域全体の経済は2023年には好調な5.2%、2024年には5.4%成長する見込みだ。

 この経済的活況はサマルカンドでも一目瞭然だ。サマルカンドは今日、巨大な建設と修復の現場となっている。完璧に新しい、巾広い大通りがどこにでも現れ、緑豊かな景観、花々、噴水、広い歩道が備わっており、すべてがきれいに清掃されている。浮浪者も路上生活者(ホームレス)も麻薬中毒者もいない。衰退した西側の大都市からの訪問者は目を丸くしている。

 タシュケントでは、ウズベキスタン政府が壮大で見事なイスラム文明センターを建設中であり、汎ユーラシアのビジネスに大きな重点が置かれている。

 ハートランド全体での主要な地政学的方向性は、ロシアとの関係であることは疑いの余地がない。ロシア語はあらゆる生活の領域で依然として共通語となっている。

 まず、ロシアと7,500キロにわたるとてつもなく長い国境を共有している(それにもかかわらず国境紛争はない)カザフスタンから始めよう。ソビエト連邦時代、中央アジアの5つの「スタン」国は、実際には「中央アジアとカザフスタン」と呼ばれていた。なぜなら、カザフスタンの大部分が西シベリアの南部に位置し、ヨーロッパに近いからだ。カザフスタンは自己を本質的にユーラシアと考えており、ナザルバエフ時代からアスタナ(カザフスタン政府)がユーラシアとの統合を最優先にしていたのも驚くべきことではない。

 昨年、サンクトペテルブルク経済フォーラムで、トカエフ大統領はロシアのプーチン大統領に対面し、アスタナはドネツクとルガンスク人民共和国の独立を認めないことを伝えた。カザフスタンの外交官は、ドネツクとルガンスクが西側の制裁を回避するための通路として機能させるわけにはゆかないと強調し続けている。しかし影では、多くの場合、そのようなことは起こっている。

 キルギススタンは昨年10月に予定されていたCSTO(Collective Security Treaty Organization集団安全保障条約)の「強固な兄弟愛-2022」共同軍事演習を中止した。この場合の問題はロシアではなく、タジキスタンとの国境問題であることを述べておく価値がある。

 プーチンは、ロシア‐カザフスタン‐ウズベキスタンのガス連合を設立する提案をした。現時点では何も進展しておらず、実現しないかもしれない。

 こういった後退はすべて些細なものだと見なす必要がある。昨年、プーチンはしばらくぶりに中央アジアの5つの「スタン」国を訪問した。中国と同様に、彼らは初めて5+1サミットを開催した。ロシアの外交官やビジネスマンたちはハートランドの道を常に行き交っている。そして、忘れてならないのは、昨年5月、モスクワの赤の広場で行われた「戦勝記念日」パレードに、中央アジアの5つの「スタン」国の大統領たち自らが出席していたことだ。

 ロシア外交は、中央アジアの「スタン」国をロシアの影響から引き離すという(アメリカ)帝国の大きな執念についてすべてを知っている。

 これ(ロシアの動き)は、公式の米国中央アジア戦略2019-2025を遥かに超えたものだ。アフガニスタンでの米国の屈辱と迫りくるウクライナでのNATOの屈辱により、その状況はヒステリー状態に達している。

 今日記憶している人はほとんどいないが、エネルギー分野の重要な前線において、トルクメニスタン-アフガニスタン-パキスタン-インド(TAPI)パイプライン(その後、インドの撤退によりTAPに縮小)は、アメリカ(強調は筆者)の新シルクロードの優先事項であり、2011年に国務省で考案され、当時の国務長官ヒラリー・クリントンによって提唱されたものだ。

 それは絵に描いた餅だった。最近、アメリカ人が何とか実現させたのは、競合する事業計画であるイラン・パキスタン(IP)パイプラインの開発を終わらせたことだ。イスラマバード(パキスタン政府)に無理矢理それを取り消させたのは、前首相イムラン・カーンをパキスタンの政治生活から排除するための法律闘争スキャンダルの後だった。

 それにもかかわらず、TAPI-IPパイプラインスタンの物語はまだ終わっていない。アフガニスタンは米国の占拠から自由であるので、ロシアのガスプロム社や中国の企業もTAPIの建設に非常に興味を持っている。このパイプラインは、中央アジアと南アジアの交差点に位置し、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)と結びつく戦略的な一帯一路(BRI)の結節点となるだろう。


全体として「異星人」西側

 ロシアがハートランド全体で通用することは知られている(将来もそうだろう)。同様に中国の打ち出す構想も持続可能な発展の例としては最高のものだ。中央アジアが抱えるさまざまな固有の問題への解決策を鼓舞する力がある。

 対照的に、(アメリカ)帝国が提供できるものは何だろうか?一言で言えば、分割統治だ。ISIS-Khorasan*などの地域のテロ組織を利用して、最も弱い中央アジアの地域、たとえばフェルガナ渓谷からアフガン・タジク国境までの地域において政治的な不安定化を引き起こすのだ。
*アフガニスタンを中心に活動するイスラム原理主義の軍事組織、テロ組織。 (ウィキペディア)

 ハートランドが直面する複数の課題は、バルダイ中央アジア会議などで詳細に議論されている。

 バルダイクラブの専門家、ルスタム・ハイダロフは、西側とハートランドとの関係について最も簡潔な評価を打ち出したのかもしれない:

「文化や世界観の面で、西側諸国とは私たちとは異なります。アメリカと欧州連合、中央アジアとの関係や和解の基盤となるような現象、出来事、または現代文化の要素は一つもありません。アメリカ人とヨーロッパ人は、中央アジアの人々の文化、精神、または伝統について何も知りませんので、私たちとの交流はできませんし、これからもできないでしょう。中央アジアは、経済的繁栄を西側のリベラル民主主義と結びつけることはありません。それは実質的にはこの地域の国々にとって異質な概念です」。

 このシナリオを考慮し、日ごとにますます熱烈になる新しい大いなるゲームの文脈で、ハートランドの一部の外交団が、中央アジアをBRICS+により緊密に統合することに非常に興味を持っているのは驚くことではない。それは来週南アフリカで行われるBRICSサミットで議論される予定のことだ。

 この戦略的な方程式は、ロシア+中央アジア+南アジア+アフリカ+ラテンアメリカといった形で表現され、再び「グローバル・グローブ」(ルカシェンコの言葉を借りれば)の統合の一例だ。すべては、カザフスタンがBRICS+の参加国として初めて受け入れられることから始まるかもしれない。

 その後、再活性化されたハートランドの帰還は、交通、物流、エネルギー、貿易、製造、投資、情報技術、文化、そしてシルクロードの精神、新旧を問わず、「人々の交流を通じて」、世界全体が舞台となる。

上海協力機構(SCO)を補完する「7つの枢軸」

<記事原文 寺島先生推薦>
An “Axis of Seven” to supplement SCO
筆者:M.K.バドラクマール
出典:INDIAN PUNCHLINE 2023年6月2日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>   2023年7月29日


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中国・中央アジアサミットにおける中国・中央アジア人民文化芸術年の開幕(西安、2023年5月18日)


 ロシアの日刊紙『ネザヴィジマヤ・ガゼータ』は、西安で開催される中国・中央アジア首脳会議の前夜に、「中国は中央アジアとの協力の形式を変えようとしている」と題する報道を掲載した。同記事は、5月18日から19日に西安に集まる6カ国の首脳が、「各分野における協力のための新しい仕組みの構築と重要な政治文書の署名」について話し合うだろうと予想した。

 同紙は、西安サミットは5月9日(ロシア戦勝記念日)にモスクワで行われたプーチン大統領と中央アジア5カ国の首脳との会談の文脈でとらえるべきだとした。プーチンは西安での行事に出席していないが、明らかにロシアの利益は考慮されている。

 形成されつつある新しい「5プラス2軸」は、上海協力機構(SCO)や一帯一路構想、ユーラシア経済連合共同体とは異なる独自の仕組みと見通しを持つことになる。西安サミットでは、「協力とそれを実行する機構の機能を包括的に促進するため」に、事務局を通じて中央アジア・中国間の話し合いを制度化する可能性が検討された。もちろん、中央アジア諸国の上意下達型の意思決定の特徴を考えれば、中国・中央アジア形式の首脳協議会合(隔年開催)の仕組みは、この地域の安全、安定、持続可能な発展を確保する上で重要な要素となる。

 上海協力機構(SCO)が、インドの参加後、ますます「抽象的」になり、目的もなく蛇行し始めた今、中国と中央アジア諸国、そしてロシアが、共通の空間において、より効果的な仕組みや計画を構築し、新たな協力の質を伝え合い、必要に応じてSCOを補完する必要性を感じたことは、十分に考えられることである。

 SCOの機能には対立の要素が入り込んでいる。特にインドは、この点において自己反省をする必要がある。確かに、2005年に中国とロシアが上海ファイブ(後にSCOに変化)を結成したとき、このような状況は念頭になかった。意思決定における合意形成はSCOの機能の中核的な原則として採用されたが、最近では、二国間の相違や紛争に起因する負債を解決しようとする競争心が忍び寄っている。最近デリーで開催されたSCO外相会議では、インドとパキスタンが険悪な対立を繰り広げ、「上海精神」が損なわれているのを、中央アジア諸国やロシア、中国が黙って見守る状況が生じた。

 南アジア地域協力連合(SAARC)の悲劇的な例もある。SAARCはここ10年の間に同じような心的外傷に苦しみ、最終的には葬り去られようとしている。しかし、ロシアと中国はSCO(上海協力機構)にそのような悲劇的な運命をもたらすわけにはいかない。米国のロシアと中国に対する二重の封じ込め戦略と、NATOのアジアへの拡大が目前に迫っていることから、内陸アジアという共通の空間において、結束力があり、意欲的で、うまく調整された地域協力の措置を利用できるようにすることが決定的に重要である。

 これまでは、ロシアは政治的統合の強化に取り組み、中国は本格的な経済拡大の枠組みの中で、エネルギーや産業基盤の開発のために中央アジア諸国の政府と組織的かつ強力に交流していた。このような役割分担は比較的うまくいっていたが、その後、この地域の安全保障環境は劇的に変化した。

 例えば、ロシアとヨーロッパとのエネルギー関係の断絶という状況の中で、モスクワにとって石油とガスの輸出を中国市場に振り向けることが不可欠となり、そのためには中央アジアの交通機関の基盤が必要となる。さらに中央アジア諸国の国家計画の高度な調和と同期化が必要であることは言うまでもない。現在、人口7500万人の中央アジア地域には、合意された共通戦略がない。一帯一路(the Belt and Road)」事業はロシアの利益を十分に考慮しておらず、ユーラシア経済連合(the Eurasian Economic Union)事業との仲立ちも、制度的な弱点があるため、十分な規模の相互作用を提供することはできない。

 確かに、西安サミットに向けて、中央アジア諸国の首脳は周到な準備を行い、重要な提案の組み合わせを提示した。こうして、新疆ウイグル自治区や中央アジアとアフガニスタン、パキスタン、イランを結ぶ極めて戦略的な中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道の建設工事は、線路の幅の測り方をめぐるいざこざで20年ほど遅れていたが、現在、着工の準備が整いつつある!

 当然のことながら、地域の安全保障を除けば、西安サミットで最も注目された話題は接続性の問題だった。

 前向きな要因は、カザフスタンの「一帯一路構想(BRI)」への関与が深まっていることだ。中国とカザフスタンは、輸送・物流、工業・農業、エネルギー、観光などの分野を網羅する総額210億ドルを超える52のBRI投資計画の項目を効果的に実施している。6本のBRI回廊のうち2本がカザフスタンを通り、中国とヨーロッパ、イランと西アジアをそれぞれ結んでいる。これらのBRI回廊は、中央アジアのほとんどの経済にとって重要である。それは中央アジア諸国に対して、中国が最も近い海港を提供できる国だからだ。そのため、カザフスタンは中央アジアに入るための潜在的な集約地点となっている。

 西安サミットではまた、カザフ-中国鉄道のアヤグズ-タチェン間の開通の重要性についても触れられ、トルクメニスタン-中国ガス輸送管の4号線建設の加速が求められた。タチェン地域には石炭、花崗岩、金、銅、鉄鉱石など多くの鉱物資源が埋蔵されている。

 西安サミットの傍ら、中国の習近平国家主席は中央アジア地域の5首脳それぞれと会談を行った。西安サミットの前夜、中国の報道機関は中央アジアを、「一帯一路」事業の「入り口」と呼んだ。というのも、習近平が2013年に立ち上げた一帯一路構想は、カザフスタンから始まったものだったからだ。一帯一路をめぐっては、アメリカやインドが情報方面でさまざまな脅しをかけているが、中央アジア諸国には影響がないようだ。北京が「一帯一路」構想の10周年に率先して第1回中国・中央アジア首脳会議を開催したことは象徴的だ。

 同様に、中国はパキスタンとアフガニスタンを中央アジアのBRI産業基盤建設計画と結びつけたいと考えている。その第一歩として、中国とパキスタンは最近、中国・パキスタン経済回廊をアフガニスタンまで延長することで合意した。これは、西安での中国・中央アジア首脳会議の2週間前、5月5日にイスラマバードで開催されたパキスタン・アフガニスタン・中国閣僚会議の主な成果である。中国がカブールのタリバン政権への関与を強化させない限り、中国・中央アジアの勢いが最高潮に達しないのは明らかだ。

パミール高原からヒンドゥークシュ山脈まで。ロシアと中国が見つめる中央アジアの全体像

<記事原文 寺島先生推薦>
Russia, China take holistic view of the Pamirs and Hindu Kush
筆者:M.K.バドラクマール (Bhadrakumar)
出典:INDIAN PUNCHLINE  2023年6月4日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>  2023年7月27日





 3カ国間の外相段階会合により、中国・パキスタン間の経済回廊がアフガニスタンまで延長されることが合意された。2023年5月5日。イスラマバードにて。

 5月18日・19日に開かれた、第1回中国・中央アジア首脳会議後に発表された西安宣言は、西側諸国によるこの地域への干渉に直撃弾を与えたが、また一方でロシアがウクライナ紛争で「手を伸ばしすぎている」ため、中央アジアのステップにおけるロシアと中国の支配は持続可能ではないという考えをワシントンとブリュッセルにばらまいた。

 様々な出来事が起こる中で明らかになってきたことは、ロシアはウクライナの戦争で「負けて」おらず、この代理戦争において事態を良い方向に変えることができている、ということだ。いま米国が欧州諸国に懇願していることは、ロシアが戦場で勝利を収めることがあってはならない、という点だ。なんと事態は急転したものだ。

 明らかに、ウクライナ危機の状況において、中央アジアで指導的役割を果たし、同地域の安全保障を確保しようという中国の決定は、劇的な変化をもたらすものであり、中国を孤立させ、抑え込もうという、米国によるインド・太平洋戦略を深く弱体化させるものだ。状況をよく見れば、中央アジアが射程外にある限り、西側のロシアと中国の包囲発言が夢物語のままである理由が分かるだろう。

 米国はまるでクモのように動き、東南アジアの国々の中に巣を作ろうと、ASEAN(東南アジア諸国連合)を分離・分散させようとしており、タイでの「政権転覆劇」を大メコン圏諸国でも繰り返させようとしている。中国の周りを不安定な国々で包囲することを狙ったこのような不安定な動きの中において、中央アジアは中・露両国の戦略にとって非常に重要な地域だ。というのも、この地域までは米国の影響力が届いていないからだ。

 西安宣言の中で、このような状況に関連した記述は以下のとおりだ。「参加国は異論なく、国家の安全保障や政治的安定や憲法に基づく秩序の確立が重要な点であることを確認する。さらに、正当な国家権力を貶め、「カラー革命」を起こそうという動きには断固として反対することも確認する。さらには、他国による内政への干渉は、どんな形態であれ、どんな口実であれ、反対することが確認する。参加国は、民主主義が、人類が共通の願望であり価値であることを強調する。また、発展に向けた道程や国家経営の型を独自に選択することは他国が干渉する対象にすべきではない」。

 見逃さずにおれないことは、西安首脳会議から一週間も経たぬうちに、ロシアが中国から安全保障関連の長を招いたことだ。そしてこの長は、一週間という前例のない長さでモスクワに滞在し、話し合いを持ったのだ。この人物は、陳文清(ちんぶんせい)。政府局の一員であり、中国共産党中央政法委員会書記をつとめている。この陳書記の交渉相手は、ロシアのニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記だった。同書記はクレムリンの安全保障面において最高位にいる人物だ。

 陳書記とその代表団をモスクワに迎えた際、パトルシェフ書記はこう語った。「中国との友好関係を拡大し、深めることは、ロシアの戦略に合致しています。我が国は、全ての面における中華人民共和国との互恵的な協力体制を最優先事項としています。この協力関係が見据えているのは、国際社会において、互いに支援し合い、対等の立場を強化することです。具体的には、ユーラシアにおいても、世界の他の地域においても、世界規模および地域規模での安全保障や安定、持続可能な発展を確実にすることです」と。

 陳書記のモスクワ訪問の最後の締めの発言でパトルシェフ書記はこう語った。「ロシアだけが、この多極化世界の中心にいるわけではありません。中国もそうです。彼ら(西側諸国)の考えでは、自分たちはロシアとの問題に対処でき、それが解決できれば、次の標的を中国にすることです。西側は、中国とロシアに平行して対応することは難しいと考えています。西側が中国の国境地域で、台湾とともにやってきたことについても、私たちはわかりすぎるほどわかっています。総じて、彼ら(中国側)の立場に賛同しないことは難しいことです」と。

 明らかに、モスクワで持たれた中露間の安全保障に関する最高位段階での話し合いにおいて期待されていることは、両者が連合して取り組めるための必要な土台を設置することで、両国共通の課題である当該地域での安全保障と安定を強化することだ。それは、ユーラシアで両国が直面している安全保障上の危険度が高まり、さらには中央アジアでテロが復興しつつあるという背景があるからだ。両国が同じようにもつ戦略上の課題は、アフガニスタンの安定に向けて、中露両国がとっている方策が非常に似通っていることからも明らかだ。そしてこの方策により、アフガニスタンは既に良い影響を受けている。タリバンがヒンドゥークシュ山脈の麓にあるこの国を不安定な内戦状態において以来、西側はずっと様々な目論見を企ててきたにもかかわらず、だ。

 5月5日、イスラマバードでのパキスタン・アフガニスタン・中国の三カ国会議に出席していた中国の秦剛(しんごう)国務委員および外相は、パキスタンの主催者らに対して3つの伝言を残した。具体的には、①中国はパキスタンの経済再建を喜んで支援する。②中国政府は、喜んでパキスタンと共同して、高い質の一帯一路協力体制を前進させ、CPEC(中国・パキスタン経済回廊)の発展を促進し、協力を深めることも行う。③何より、中国は喜んでパキスタンと協働し、「アフガニスタン問題に関する意思疎通と共同作業を強化し、アフガニスタンの平和と再建を促進し、この地域の安定と発展の維持を支援する、いう3点だ。

 重要なことは、秦剛外相が中国・パキスタン間の経済回廊をアフガニスタンにまで広げることを求め、その目的は、「互いへの敬意、率直な気持ちと友情、双方向にとって利益がある関係作りを模索するなかで、3カ国間の良好な近隣関係や相互信頼を促進すること」にあるとしたことだ。秦剛外相がパキスタンとアフガニスタンの交渉相手に伝えた内容は、中国は対テロリズムや安全保障上の協力体制を強化する準備がいつでもできており、「ともに協力して、東トルキスタンイスラム運動やパキスタンタリバン運動などのテロリスト勢力に断固として対抗し、この地域の安全保障と安定を守る準備もできています」というものだった。

 興味深いことに、秦剛外相が二国間協議において、アフガニスタン暫定政権のアミール・ハーン・ムッタキー 外務代理大臣に対して、中国政府は、「中国とアフガニスタン間の協力関係を様々な分野において強化し、この先早い時期に、アフガニスタンが自治、平和、安定、発展、および繁栄を成し遂げる支援を行う」意図があることを伝えた点だ。

 中国周辺地域に関する有数の専門家である朱永彪(しゅうえいひょう)蘭州大学アフガニスタン研究センター長が、環球時報紙に、「ここ数年、パキスタンとアフガニスタンは、国境問題を巡って激しく対立と論争を繰り広げてきたため、この3カ国間協議は平和や対話を促進する希有な機会となった」と述べた。

 朱センター長によると、アフガニスタン政府とパキスタン政府の間にはテロリズムについての捉え方に違いがあり、「特に、外国による干渉についてはそうだ。米国やインドなどの国々がこの問題に関して二重基準を用いるからだ」とし、そのため、中国が発した信号は、「パキスタンとアフガニスタン間の立ち位置を調整するきっかけのひとつ」になる可能性がある、とした。

 加えて、この中国専門家の発言によると、中国の近隣諸国であり、中国と政治上良好な関係をともに築いているアフガニスタン・パキスタン両国は、中国が、サウジアラビアとイラン間の関係緩和だけではなく、ウクライナ危機に関しても役割を果たしていることを認識しているので、両国は中国に対して期待しており、イスラマバードで開かれたこの三カ国協議が、「中国が、外交的な役割で果たしている自信を強化する証しとなっている」とのことだ。

 明らかに、タリバン政権に対する一般的な認識からは離れて、ロシア政府も中国政府もアフガニスタン政権と話を進めてきた。両国のこの姿勢のおかげで、中央アジア諸国の政府に安堵の色が広がっている。ロシア、中央アジア諸国、中国は、テロ勢力と宗教上の過激派により存続の危機をともに感じている。これらの勢力は、米国が手下として長年利用してきた勢力だ。したがって、これらの国々の間の共通理解として許せないことは、米軍がこの地域の軍事基地に駐留することや、パンジシール州の「アフガニスタン民族抵抗戦線」が、中央アジアを別の内戦をたきつけるための聖地にすることなのだ。

 中国とロシアは、アフガニスタンでタリバンが果たす役割の安定化に関して大きく貢献してきた。基本的に両国は、タリバンの支配者層が非常に難しい局面下でも比較的上手に国家運営していることを認めている。このことについては、中央アジア諸国政府も同様の認識を共有している。

 したがって、この地域の観点からすれば、CPECのアフガニスタンへの延長や中央アジアが一帯一路構想への統合に向かっていることが避けられない状況にあることは、中国と中央アジアとの関係において、必ず得られるであろう副産物だと見なされている。これらの過程はSCO(上海協力機構)の強化につながるだろう。さらに望まれるのは、この先のどこかで、インドもこの流れに乗ることだ。

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