はてなキーワード: 足音とは
猫が降雪時に庭を駆け回らない理由は、いくつかの要因が考えられます。
猫は一般的に寒さに弱い動物です。特に短毛種や子猫、老猫は、寒さによって体温が低下しやすく、体調を崩す可能性があります。
雪は冷たく、猫の肉球は凍傷になりやすいです。そのため、猫は雪の上を歩くことを嫌がる傾向があります。
猫は体を清潔に保つことを好む動物です。雪で体が濡れることを嫌がり、濡れた体を舐めて乾かすことで体温が奪われることを避けます。
猫は警戒心が強く、見慣れない環境や変化を嫌う傾向があります。雪は普段と異なる景色や匂いをもたらし、猫を不安にさせることがあります。
また、雪は猫の足音を消し、敵から身を隠すのに役立つため、猫は安全な場所に隠れて様子をうかがうことがあります。
すべての猫が雪を嫌うわけではありません。好奇心旺盛な猫や、寒さに強い猫種は、雪の中で遊ぶこともあります。
また、室内で飼われている猫は、外の寒さに慣れていないため、雪を嫌がる傾向が強いと考えられます。
結婚する前の夫はこんな振る舞いはしなかった、というよくあるやつ。見抜けなかった私に落ち度がある。幸いまだ子どもが居ないし、私はフルタイムで働いてるから、少しまとまった資金を貯めて何かしらアクションを起こせたらなと思う。すぐに離婚に踏み切れないのは共通の友人が多いとか、結婚生活を始めるにあたってまとまった金額を使ってしまったとか、まぁそんな感じの当たり障りのない理由。
別にいつでも誘ってくれてもいいんだよね。ただ応じることのできないタイミングが確実にあって、断ったときに不機嫌になって欲しくないだけ。週末はどう?って聞いたり、端折ったけど口でしようか、とか本番ができないなりに提案したりしてる。それが不十分だと言われたらどうしようもないけど。
自分語りであれだけど、私は運動部だったからそういう道にはいたよ。だけどそれはキツい練習とかのやりたくない事の先に、上達の実感や、勝った喜びを仲間と分かち合うという嬉しさがあると知ってたから。就職や労働もそうで、苦しみの先に苦しみを打ち消すくらいの対価があると分かっているから、やりたくない事もやらせてくださいと言える。だけど私にとって今の夫とのセックスは、部活と違ってやりたくない事の先に喜びが残らないどころか恐怖があって、身の危険を感じることすらある。前は身体のしんどさをペイできるくらい精神的な充足感があったのに。怖いことを怖くないと自分に言い聞かせて、心を麻痺させている感覚がある。
正当な理由なく、単純に私の気分が乗らない時に誘われたら断らない。断ったほうが面倒なことになるから。だけど終わったあと、やっぱり夫が不機嫌になってもいいから断ればよかった、とも思ってしまう。で、正当な理由があるときに断って不機嫌になられて、あぁ、嫌々でも応じればよかったと後悔する。
自分でも矛盾してるなぁと感じる。やりたいか、やりたくないかの二択を迫られた時に、どうしてもその場しのぎの選択肢を選んでしまうことが多くなった。
物を投げつけたり、ドスドスと足音を鳴らして室内を歩いたり、こちらを見て大きな溜め息を吐いたりするのが不機嫌の表れでないなら何なのか教えてほしい。断り方自体は「ごめん今日は生理だから難しい」「明日は早いから週末にしない?」「体調が悪いから寝かせてほしい」くらいの口調で断っている。
小さいころから集合住宅だった俺は歩くときに音が出にくいように足を付けるけど、
生まれから一軒家でしかも大学からアメリカに行って10年以上住んでた妻はほんと足音うるさい
あと「下の階の奴に聞かせてやろう!」って意気込まないと出せないような足音が一日最低一度、それも夜10時以降に聞こえてくる
日付が変わった後に排水音が聞こえてくるのは夜10時以降のストレッチor体操で出た汗を流してるのかもしれない
本人は音を小さめにしてるつもりなのかも
騒音のストレスより、「一体どんな生活したらこんな時間にこんな音が?」って疑問のほうが強くなっている
小さなマンションだけど他の住人のことは全然知らず、年に何度かすれ違ったりする程度でそのときの顔も性別もすぐ忘れる
上の部屋からは男女の話し声が聞こえてくるからカップルか夫婦が住んでいるのだろう
下の部屋に声が聞こえるほどでかい声で会話してるの?別に壁や天井が薄いマンションじゃないのに
あと「下の階の奴に聞かせてやろう!」って意気込まないと出せないような足音が一日最低一度、それも夜10時以降に聞こえてくる
さらに楽器禁止のくせに楽器の音がここ2週間くらい毎日聞こえてくる。楽器は不明。決して上手ではない。単純なフレーズの練習っぽい
おまけに日付が変わった頃に排水の音が聞こえてくる。これが一番嫌かも。洗濯機じゃないだけまだましかもしれないが。そんな時間にお風呂入るのやめてほしい
もしかして子供いる?子供がドタドタ走って、毎日同じ時間に楽器の練習してるの?同じ間取りだと思うけど、3人で住むには結構狭いよこの部屋
透明人間になって上の部屋の生活をじっくり観察して、音の正体を知りたい
そこで「ああ、こんな時間に音が出るのもやむを得ないな」って思えることがあるならストレスもない
俺は52歳、独身。かつては事業をEXITして、億万長者になった。今は都内のどこか、超高級マンションに住んでる。コンクリートとガラスでできた冷たい箱だ。壁には現代アートが飾られてるが、どれも無意味な色と形の羅列にしか見えねえ。専属の料理人が毎晩、凝った料理を並べる。だが、味はしない。固形物が口の中で砂のように崩れるだけだ。液体で流しこむが、それも味がしない。ただ喉が冷えるだけ。資産は尽きることなんてありえねえ。金は増え続けるが、俺の中は空っぽだ。
生きてる実感がない。車を飛ばして湾岸線を走っても、心が動くことはない。アストンマーティンのエンジン音はただの騒音だ。風切っても、何も感じない。唯一、俺に生命を思い出させるのは、マカオのVIPルームだけだ。あの静寂の中で、バンカーがトランプを配る瞬間だけが、俺を生かす。
創業の頃を思い出す。サラ金はしごして、6社から300万円借りた。最初のむじんくんで50万円が出てきた瞬間、脳が焼けた。今でも覚えてる。あの機械の無機質な音、紙幣が吐き出される感触。手が震えて汗が止まらなかった。それが俺の始まりだった。あの300万円、今思うと笑える。VIPルームで使う10万ドルチップの1.5枚分でしかない。昔は命がけだった金が、今じゃただの紙切れだ。あの熱はもう戻らない。今の俺には、金を借りる必要なんてない。だが、あの時の焦燥も、恐怖も、興奮も、全部消えた。
マカオのメインフロアはきらびやかだ。バカラテーブルからは叫び声が聞こえ、観光客笑い声を上げ、酒と汗の匂いが漂う。あそこは生きてる人間の場所だ。だが、俺には関係ねえ。エレベーターに乗り、VIPルームの扉が開く。そこは別世界だ。重厚なカーペットが足音を吸い、シャンデリアの光が薄暗く揺れる。空気は冷たく、静かすぎて耳が痛い。そこにいるのは、俺とバンカーとジャンケット、3人だけだ。誰も笑わねえ。誰も喋らねえ。そこにあるのは、純粋なギャンブルだけだ。
最後のチップをベットする瞬間が全てだ。指先が震え、心臓が一瞬だけ跳ねる。バンカーがカードめくる。メインフロアの連中は絞りをするらしい。カードを少しずつ自分でめくって運命を味わうんだと。俺はやったことねえ。バンカーにめくってもらう。自分で触る気にもなれない。ただ、結果を待つだけだ。ジャンケットが一瞬だけ微笑む。その微笑みは冷たく、俺の命を嘲笑ってるようだ。次の瞬間には、また無表情に戻る。勝っても負けても、何も変わらねえ。勝てば数字が増え、負ければ数字が減る。それだけだ。喜びも悲しみもない。
帰国すと、またあのマンションに戻る。窓の外には東京の夜景が広がるが、俺にはただの光の点にしか見えねえ。資産は尽きねえ。だが、俺の命はもう尽きてるのかもしれねえ。
マカオのVIPルーム以外に、俺の居場所ねえ。あそこで最後のチップを握り潰す瞬間だけが、俺に息をさせる。生きるとは何か? 俺には分からねえ。ただ、カードが開かれる一瞬だけが、俺の全てだ。それ以外は、ただの虚無。終わりのない、暗い虚無だ。
導入したのは今年に入ってからだ。仕事で使えないかと思って、まずは触ってみて勘所を覚えようというところから始めた。
ただしStable Diffusionの画像生成はエロと切っても切り離せない。調べればエロに当たるのだ。やむなくそっちに行ってしまう。
それで、今となっては使える時間の9割をエロ画像生成に費やしている。
Stable Diffusionを性的に消費してみて、しかしこれがなかなか良い社会をもたらす存在になるのではと考える。
すなわち①ユーザーの創造性の促進と、②マイナージャンルの救済だ。
これは絵を描けない人でも自分の思い通りの絵を作れるようになることだ。
俺は増田の前はとしあきだったのだが、あそこで時々立つ「立ち絵スレ」が好きだった。
エロゲーのキャラクター画像と背景画像を組み合わせるという、あまり労力を介さない編集で生成される画像なのだが、正直これがなかなか悪くないのだ。
要するに、性的な対象となるキャラクター、格好、場所の視覚情報が揃えば、あとは想像によって性的な興奮を得ることができる。
このキャラクター画像と背景画像の組み合わせを学んでから、私は一人で行う性生活が充実しだした。
まわりくどくなってしまったが、私はこの概念の延長線上に、画像生成AIがあると捉えている。
ようするに画像生成AIを使い、自らが考える理想のシチュエーションを画像にするのだ。
ここまでだと創造的ではないと思うかもしれない。しかし、この画像生成のステップとして妄想の言語化が行われる。ここが重要だ。
ただ与えられるだけだった性的コンテンツを消費するのではなく、万人が自ら考え、具現化する。
これまで絵が描けなかった、文章を書けなかった層が創造する社会だ。
「あんなこといいな、できたらいいな」の実現だ。ドラえもんの足音は着実に近づいている。
既存の性的コンテンツの課題として、ニッチなものは供給が少ないことが挙げられる。
インターネットによってマイナー愛好家同士がつながる機会も増えたが、人気ジャンル(作品ととらえても良し)の供給と比較すると物足りないと感じる諸兄は少なくないだろう。
私もこの点で本当に救われた。
20年近く供給のなかった作品のエロコンテンツが、自らの手で、しかも入念にプロンプトを調整すれば高品質なものを手に入れられるようになった。
興奮より感慨深さが先にくる。
なお個人的には二次元でしか再現できなかったシチュエーションが、実写系の画像(現在は短い映像も)で見られるのにも感心している。
また現実にはありうるジャンルも、AIを使えば他者を傷つけずに性的なコンテンツを得ることができる。
一昔前なら同性愛者、現在なら未成年だ。(なお私はいずれの性癖も有していない)
未成年のポルノは海外では非実在でも保有していたら罰される例もあるが、否が応でもその性癖を持ってしまった人は抑圧される以外に選択はないのか、という点の課題解決につながってくれないかと願っている。
なお未成年関連は、過去に武勇伝的にその性癖をさらけ出す人がおり、そういったコンテンツが両手を振って溢れていた時代の反動があるとも思っている。
それから人にはそれぞれnot for meなコンテンツがあることも知っている。
架空のコンテンツでも商用として流通するのがNGであっても、個人でこっそり楽しむ権利をAIが提示してくれれば、それは私が思う良い社会だ。
権利関係は、黒に近いグレーという印象だ。露骨に特定のアーティストの画像から学習したデータが平気で流通している。
あえて同列に語るが、WinMXやYouTubeが出回ったころと雰囲気が似ている、と感じている。
このふたつをあえて並べたのは、画像生成AIの動向は今後どうなるかわからない、と言うためだ。
あまり潔癖やリスク回避で触らないのは機会損失だと思う。一方でルールが定まってないからと好き勝手すると身を滅ぼす未来もある。
制作したイラストは、原則個人で利用するに留めるのが望ましいとは思う。
ただ、他人がAIで生成したイラストは多分に自分の創造性を刺激するから、個人の消費に留めるのもまたもったいないとも思う。
静かな湖のほとりで、老人と老婆が並んで釣りをしていた。周りの空気はひんやりとし、湖面は鏡のように穏やかだった。二人は言葉少なに竿を持ち続け、時折その目を湖面に落とす。彼らは、ただ静かに待っていた。国家を立て直す人物が現れるその時を。
「まだかな…」
老婆がぽつりと呟く。目の前に広がるのは、ただの広大な湖と、遠くの山々だけだった。誰も来ない、何も変わらない。時折、水面に浮かぶ小さな波紋を見ながら、老人は言葉を選ぶようにゆっくりと答えた。
「来るさ。」
だが、その言葉には力がなかった。何年もこの場所で待ち続け、希望と絶望の中で過ごしてきた。老人は自分でも、その言葉に意味を見いだせないことを感じていた。それでも、待つしかなかった。
老婆は竿を静かに動かし、水面にゆっくりと仕掛けを落とした。彼女の目には、どこか諦めの色が浮かんでいたが、口には出さなかった。心の中では、まだ信じていた。待っていれば、きっとあの人物が現れると。それが、二人の唯一の希望だった。
時間がゆっくりと流れ、二人の間に言葉はほとんどなかった。朝が過ぎ、昼が来て、また夜が訪れる。毎日が同じように繰り返されていく中で、老婆は自分の中で何かを感じていた。諦めることはできない、と。しかし、その感情がどれほど空虚なのかも、彼女はよくわかっていた。
突然、遠くの方から足音が聞こえた。二人はお互いを見つめ、何も言わずに立ち上がった。目の前に現れたのは、七人の男女だった。彼らは一列に並んで、険しい表情でこちらを見つめていた。
「来たのか…」
老婆は無意識に呟いた。
老人は言葉を飲み込み、ただじっと彼らを見つめる。見知らぬ顔。力強い足取り。彼らが来るべき時を告げる者だと、直感的に感じ取った。しかし、心の中で何かが引っかかっていた。
「あなたたちが…」
老人は声を出そうとして、言葉が詰まった。
「我々が、国家を立て直す者だ。」
一人の男性が静かに答えた。彼の言葉は重く、響いた。しかし、その目には冷徹なものがあった。全てを知っているような、いや、知らない方がいいことを知っているような目をしていた。
老婆はその冷徹な目を見て、胸が締めつけられるような気がした。彼らが本当に求めているのは、立て直すことだけなのか。それとも、彼らの中には何か別の目的があるのか。
「お前たちは…本当に立て直すつもりで来たのか?」
老人が呟くように尋ねる。
男性は短く頷き、他の者たちも静かに頷いた。その表情は、どこか無表情で、感情が読み取れなかった。老婆はその視線に耐えきれず、目を逸らした。しばらくの沈黙が二人を包み込む。
「本当に、立て直せるのか?」
「私たちは何もかも背負ってきた。」
その言葉には力強さがあったが、それでも何かが空虚に響いた。老婆はその言葉が胸に突き刺さるような気がして、目を閉じた。
「終わりが始まるんだな。」
七人の男女は、何も言わずに立ち去った。その背中を見送りながら、二人はしばらく何も言わなかった。湖の水面には、再び静けさが戻った。ただ、二人の心には不安が広がっていった。それが、終わりなのか、それとも本当に新しい始まりなのか、彼らには分からなかった。
でも、待ち続けるしかない。その答えを知る者が来るまで。
ユリウスは地下の道を進む。
足元に広がるのは冷え切った石畳。
かすかな光が反射して、壁面に無数の古代の刻印が浮かび上がる。
彼の目には、それらがまるで生きているかのように輝き、神秘的な力が感じられた。
この地下道には、何千年も前から伝わる呪術の痕跡が残っている。
「行けよ、ユリウス。」
彼の声には遊び心と挑発的な響きがあった。
「こんなところで時間を浪費するつもりか? 地下王国を目指しているんだろ?」
彼の心の中には、地下に隠された力を求める欲望と、そこに潜む危険を恐れる気持ちが交錯している。
それでも、前に進まなければならない。自分を裏切るわけにはいかない。
「ロディ、そんな言い方をするなよ。」
古い石壁の間に埋め込まれた金属製の扉が、わずかに軋む音を立てて開かれた。
ユリウスは一歩踏み出し、扉の向こうの暗闇に足を踏み入れる。
「その決断、後悔しないといいな。」
ロディの冷ややかな声が響く。
彼の言葉には、ただの遊び心だけでなく、ユリウスに対する本当の意味での警告が含まれているようだった。
地下王国は、失われた王族の遺産とされる神秘的な力が眠る場所だ。
ユリウスの故郷、アルディラ王国が滅ぼされたのも、地下で封印されていた力が暴走したからだと、長い間語り継がれている。
家族と共にあの惨劇から逃げる際、地下道に関する不吉な噂を耳にした。
だが、それでも彼はその力を求めて、今ここにいる。
「ユリウス。」
ロディが声をかける。
「何だ?」
「その地下王国には、ただの力が眠ってるんじゃない。あんた、何を求めてるんだ?」
ユリウスは答えなかった。
それは力ではない。復讐でもない。ただ、あの場所に向かうことで、自分が何かを手に入れられる気がした。
あの時の夜、彼は一人で泣いていた。
しかし、地下には何かがある。それが力であれ、遺産であれ、彼は自分を取り戻すために進むしかなかった。
「俺は…」
ユリウスはようやく口を開いた。
その顔には、ほんの少しの驚きと、やはり挑発的な笑みが浮かんでいた。
「ふん、面白い。ならば、どこまでも一緒に行こう。お前のその理由がどう転ぶか、見届けてやるよ。」
ユリウスは振り返らずに歩き出した。
それが終わりの始まりだとは、まだ誰も気づいていなかった。
このご時世、何もかも値上がりしてるので、何としても避けたいのは高かろう悪かろうなものだと思う。
個人として酷かったものを列挙するけど、みんなも教えて欲しい。
すごく高いわけじゃないけどあの中途半端な値段を出すなら中華メーカーか日本メーカーのものを買った方がいいケースが多そう。
当たり外れが大きくてハズレは本当に使えないものが出てくる。そんなに安くはないのでそう言うものを買うと大損した気持ちになる。
ちなみにコードレス掃除機を買ったが笑えるくらい吸わないし、Amazonのレビューもボロボロだった。
施工も新築なのに、建材も安いのを使っているのか、壁が剥げてきたり至る所がボロボロな上に、とにかく騒音がひどい。
騒音がひどいのは小さい子持ちが多く、住民の質が悪くなりがちなのはあるけど、とにかく足音がうるさすぎてノイローゼになった。
アフターサービスも酷い。
少しフォローしておくと、どうも地域差があるようで、地方だと結構いいらしい。
自分が買ったわけじゃないけどいい話を全く聞かない。建材がしょぼく建て付けがボロいらしい。
インク代がバカ高く互換インクを使ったら壊れるようになってる機種が存在する。
敢えて買うならレーザーがいいのかなと思う。
◉安めのスーパーの高級米
鮮度なのか管理なのか悪いのか、めちゃくちゃ美味しくない米によく当たる。
酒入れて炊かないと食いたくないレベルのに当たる。
◉据え置きの食洗機
皿の枚数が全然洗えない。一社独占時代が長かった名残のせいで高い。もう据え置きではなくビルトインを買った方がいい。
高い割にボロい。耐久性に弱い。
ただ、時計メーカーの高級時計もオーバーホールしたりして使わないといけないので、今の貧困時代には合わないものなのかなとも思うので、今の時代はチープカシオかスマートウォッチ一択かなと思う。
あれは去年の夏のことだった。私は実家を離れて一人暮らしを始めたばかりの大学生で、生活費を稼ぐために"深夜のコンビニでアルバイト"を始めていた。
夜勤は基本的に私一人。深夜2時を過ぎると客足もめっきり減って、店内には蛍光灯の音と、時々聞こえる商品の自動発注システムのビープ音だけが響いていた。
その日も、いつものように商品の品出しをしていた。防犯カメラのモニターは常にレジの横に設置されていて、"4分割された画面"には店内の様子が映し出されている。目線を上げると、モニターの中の自分が同じように棚の前で作業をしているのが見える。
ふと、"違和感"を覚えた。
モニターの中の自分は、確かに今私がしている動作と全く同じことをしているのだが、なんとなく"タイミングがずれている"ような…。よく見ると、"モニターの中の私は、実際の私の動きより1秒ほど先に動いているよう"だった。
最初は疲れているせいだと思った。深夜勤務で感覚が鈍っているのかもしれない。でも、何度確認しても、"モニターの中の私は確実に先に動いていた"。
試しに、突然腕を振ってみる。案の定、モニターの中の私が先に腕を振り、その後で実際の私が腕を振った。"背筋が凍る思いがした"。
その時、"モニターの中の私が、突然レジの方を振り向いた"。でも私は…まだ棚の前で固まったままだった。
モニターの中の私は、ゆっくりとレジに向かって歩き始めた。その表情は…私のはずなのに、どこか違う。"目が…笑っている"。
パニックになって店を飛び出そうとした瞬間、店内の電気が消えた。真っ暗な中、レジの方から、"カタカタという足音"が聞こえてきた。
気がつくと、私は病院のベッドの上にいた。医師の話では、"その夜、店の防犯カメラは一切作動していなかった"という。電源が入っていなかったらしい。でも私は確かに見た。モニターに映った、もう一人の私を。
それ以来、私は鏡や防犯カメラに映る自分の姿を、じっと見つめることができなくなった。だって、もしかしたら…"向こう側の私が、また先に動き出すかもしれない"から。
あの夜以来、深夜バイトは辞めた。でも時々思う。あのモニターの中の私は、今でもどこかで、"私の「次の動き」を先回りして演じ続けている"んじゃないかって。
(完)
――どうしてこんなにも、あの人のことばかり考えてしまうんだろう。
兄である隼人が家の中を歩き回っている姿を見るだけで胸が苦しくなるし、学校の帰り道にちょうど自転車ですれ違えば、それだけでその日一日が特別なものに感じられる。気づかないうちに視線を追いかけてしまっている自分が怖い。でも、それ以上に、そんなふうに兄のことを想ってしまう自分を止められない。
私はここでは名前を明かすことはしない。ただ、自分が高校二年生の女子で、隼人とは三つ離れた妹だということだけ伝えておきたい。昔から仲は良かったと思う。家族は四人で、両親と私、そして隼人。私が小さかった頃、隼人は私の手を引いて近所の公園に連れていってくれた。かくれんぼが大好きな私を喜ばせるために、砂場の囲いをぐるぐる回りながら「もういいかい?」って聞いてくれた顔は今でも覚えている。
いつも優しくて、少し面倒くさがりだけど根は真面目で、おまけにスポーツも得意。小学生の頃は野球チームのエースで、中学生になるとバスケ部に入ってレギュラーをとっていた。成績だって中の上くらいをキープする程度には要領がよくて、なんでも器用にこなせる。私にとっては、そんな兄が小さい頃からの「憧れ」であり、「理想像」でもあった。
でも、いつの間にか「大好きなお兄ちゃん」では収まらない感情を抱くようになった。きっかけは自分でもはっきりとは言えない。中学生になってからかもしれないし、もう少し前からかもしれない。ただ、一緒に暮らしている間に、気づけばその気持ちはどんどん大きくなっていった。人を好きになるという気持ちは、きっと初恋と呼べるものなのだろう。でも相手は血の繋がった兄。しかも、普通に恋愛を楽しんでいる友達を見ると、自分だけがおかしな道に迷い込んでしまっているようで怖くなる。
けれど、やっぱり怖さよりも「好き」という感情のほうが大きい。最近では、学校で友達と他愛のない話をしていても「今頃お兄ちゃんは何をしてるんだろう」なんて考えてしまうし、帰宅するときには少しでも早く顔を見たくて自転車を全速力でこぐ。家に着いてもすぐに部屋に戻るのではなく、リビングやキッチンに隼人の姿がないか探してしまう。ときどき目が合うと嬉しくなって、顔に出ていないかとハラハラする。
そんな私の気持ちには当然ながら家族は気づいていない…と思っていたけれど、最近少しだけ不安になっている。というのも、母が「あなた、隼人が出かけるとソワソワしてるわよね」と冗談めかして笑うことが増えてきたからだ。「兄妹なんだから、そりゃあ多少は気にするよ」と苦笑いを返してはいるものの、内心はドキッとしてしまう。ほんのり頬が熱くなる感覚に気づかれていないかと、こっそり自分の頬を触りながら必死に平静を装う。
隼人自身は、私の気持ちをまるで察していないと思う。いや、察しているのかもしれないけど、まったく気づかないフリをしているだけかもしれない。兄は優しいから、たとえ妹が少しばかり不自然な愛情表現をしても、見て見ぬ振りをしてくれるんだろう。たとえば、帰宅してすぐの隼人に「おかえり!」と元気よく言いながら駆け寄ったり、お風呂上がりにリビングでのんびりしているところを見つけて、隣に座りたがったり。普通の妹だってやるかもしれない行動を、私はちょっと度を越えてやりすぎている気がする。でも隼人は「お前はいつでも元気だな」と笑うだけで、嫌な顔ひとつしない。たぶん、ここまで兄妹仲がいいのは当たり前のことじゃない。分かっているのに、どうしようもなく惹かれてしまう。
そうやって日々を過ごしていたある日、私は衝撃的な光景を目にした。隼人が駅前のカフェで女の人と二人で向かい合っていたのだ。夕方の薄暗くなりかけた時間に、店のガラス越しに見えた二人は楽しそうに話していた。私の視界に入った瞬間、胸がドクンと大きく鳴り、呼吸が一瞬止まった。どうしよう、これを見て見ぬ振りなんてできない――そう思った矢先、ふと兄がその女性に向かって笑顔になった。その顔は、私のことをかわいがってくれるときの表情にどこか似ていた。でも、そのときの兄の目には明らかに“私には向けない感情”の輝きがあった。
その日は家に帰ってからもぼんやりしてしまって、夕食の支度を手伝う母の声がまるで耳に入らなかった。「どうしたの?」という母の問いにも適当に「なんでもない」と答えたまま、失礼だと分かっていつつも上の空で食事を済ませた。部屋に戻ってからはベッドの上で寝転がり、あの瞬間を何度も思い返す。胸の奥がギュッと締め付けられて、泣きそうになる。でも、私にはそんな資格はない。それなのに、悔しくて、そして苦しくて、どうしようもなかった。
少なくとも「ただの友達」や「バイト先の先輩・後輩」というふうには見えなかった。兄があんなにも嬉しそうに、そしてどこか恥ずかしそうに笑うなんて滅多にない。じゃあ、彼女に違いない…? 頭の中をそんな不安がめぐる。
翌日、私が部屋で宿題をしていると、兄がノックをして入ってきた。「ちょっといいか?」なんて言いながら。隼人が私の部屋を訪れること自体は珍しくはない。いつも私が兄の部屋に入り浸っているから、たまには逆パターンだってある。けれど、なんだかぎこちない。椅子に座ったままの私を見下ろすように立って、首をかしげながら言いにくそうに言葉を継いだ。
心臓が嫌な予感を察知したように跳ね上がる。隼人は私と視線を合わせない。もしかしてそれは男友達じゃなくて、昨日見かけたあの女性の家? 一瞬にしてそんな想像が膨らみ、思わず指先が震えそうになる。
なんとか平然を装うように答えると、兄は続ける。
「いや、一応親にも言ってるんだけど…たぶん気にするだろうから。お前も変に心配しないでくれよ」
何を心配するというのか。兄妹の仲がいいとはいえ、私が兄の外泊をどうこう言う立場にはない。でも、兄は心配性だから、家のことをフォローしてほしいのかもしれない。私は「分かったよ」とだけ返した。言葉少なにドアを閉めて出て行く兄の姿を見送ったあと、机に突っ伏して「もうやだ…」と小さくつぶやいた。
次の日、兄は本当に泊まりに行ってしまった。リビングで朝食を食べているときに「じゃ、夜は帰らないから」と軽く言い残すのを聞くと、私は内心どうにも落ち着かなかった。でも、両親も特に咎める様子はない。大学生の兄なら、友達の家に泊まるくらいよくあることだろう。母は「あまり夜更かししないように」と声をかけながらも、どこか余裕のある笑みを浮かべていた。もしかしたら母のほうが私の挙動を気にしているのかもしれない。だけど、そんな母と目が合いそうになるたびに、私は慌ててスプーンを持つ手元に視線を落とし、朝食をかき込んだ。
兄がいない夜は驚くほど静かだった。いつもなら兄が廊下を行き来する音や、リビングでテレビを見て笑っている声がかすかに響いているのに、それがない。こんなにも家が静寂に包まれるなんて、と改めて驚く。勉強をしようにも集中できず、気づけばスマホの画面を何度も見つめてしまう。LINEを開いても、兄とのトーク画面には特に更新はない。おやすみLINEくらい欲しいというのは、妹としての甘えなんだろうか。いや、ただの妹ならそこまで望まないものなのかもしれない。
そうしてもやもやしながら夜を過ごし、いつの間にか寝落ちしてしまった。朝になって目覚めたときにはすでに両親は出勤していて、リビングにはメモと朝食が置かれていた。昨日はろくに晩ご飯も食べていないからお腹が空いていたけれど、あまり食欲が湧かない。パンをかじりながら、ふと玄関のほうに耳を澄ます。兄はもう帰ってきているのか、それともまだなのか……。
結局、兄が戻ってきたのは昼近くだった。私はリビングでぼんやりテレビを眺めていたが、玄関ドアの開く音を聞いた瞬間、反射的に立ち上がってしまった。心のなかで「落ち着け、ただいまの一言を返すだけだから」と自分を戒める。すると玄関のほうから兄の声がした。
「ただいまー…って、お前いたのか。学校は?」
そんな気の抜けたやり取りをしながら、私は兄の様子をこっそり観察する。目の下に少しクマができているように見えるのは、夜更かしした証拠だろうか。髪の毛は昨日の朝と変わらない感じなのに、服は昨夜見たのと同じものを着ている。あの女性の部屋に泊まった可能性は十分ある……。そう思っただけで胸がチクリと痛む。
「夜更かししたっぽい顔してるよ。何してたの?」
我ながら、尋ね方が妹っぽくない。少し詰問じみた言い方になってしまい、自分でも焦った。隼人は「まぁ、ちょっとな」と曖昧に笑うだけで、具体的に何をしていたのかは語らない。その態度が逆に私の不安を煽る。
――本当は、昨日見た女性のことを聞きたい。あれは彼女なのか、どういう関係なのか、私が思い違いをしているだけなのか。けれど、聞けば聞くほど自分の“妹らしからぬ感情”が露呈してしまう気がする。私は何も言えず、ぎこちなく視線を逸らした。
兄はそのままシャワーを浴びると言って風呂場へ向かった。わずかに開いたドアの向こうからシャワーの音が聞こえてくると、どこか落ち着かない気分になる。しばらくして洗面所のドアが開き、「あー、さっぱりした」と兄の声が聞こえる。その後ろ姿はいつもと変わらないのに、昨夜は私の知らない場所で過ごしてきたんだという現実が頭をよぎって苦しくなる。
その日は土曜日で、家族みんなが出かける予定は特になかった。私は家にいても落ち着かないし、どうにも兄の様子を伺ってしまう自分が嫌で、思い切って友達を誘ってショッピングモールへ出かけることにした。友達には「ちょっとストレス発散に買い物したいんだよね」と言っておけば、深くは聞かれない。
だけど、いざ待ち合わせて話をすると、友達は自分のバイト先の先輩に片想いしているらしく、その相談に花が咲いた。普通の恋バナだ。先輩が優しくて、ちょっと大人っぽくて、けれど同じ学校じゃないからなかなか会えなくて…という話を楽しそうに、でも時々せつなげに話してくる。それを聞きながら、私は胸が苦しくなった。
――私だって、好きな人がいる。けど、その相手が兄だなんて言えるわけがない。もし打ち明けたら、相手をドン引きさせるか、あるいは冗談だと思われるか。どちらにしても受け入れてはもらえないだろう。だから黙っているしかなくて。
それでも、友達が「そろそろ告白しちゃおうかな」と言ったとき、私は全力で応援するモードに切り替えた。人を好きになる気持ちは止められないし、応援されると素直に嬉しいはずだ――そう思うからこそ、友達の背中を押したい。だけど自分はどうなのだろう。いつも隼人の優しさに甘えて、妹という立場に安住しているだけじゃ何も変わらない。でも、変えたくても変えられない部分がある。そのギリギリのラインが「兄妹」という関係のもどかしさだ。
買い物を終えた帰り道、夕日が街をオレンジ色に染めていた。友達と別れて一人になると、どうしようもなくあのカフェで見た光景を思い出してしまう。兄はあの女性とどんな会話をしたんだろう。その後、どんなふうに夜を過ごしたんだろう。妄想は際限なく膨らみ、しまいには自分の中の醜い嫉妬や独占欲が顔を出す。血の繋がった兄に独占欲を燃やすなんて、普通に考えたらおかしい。だけど、その“おかしい”感情を否定することができなくて、自分に嫌悪感を抱く。
家に帰ると、兄はリビングのソファでゴロゴロしていた。テレビを見ているのかと思いきや、どうやらスマホの画面に集中しているらしい。私は心臓を落ち着かせながら「ただいま」とだけ声をかけた。すると兄は「ああ、おかえり」といつも通りに返してくれる。そんな小さなやり取りにさえ、嬉しさと苦しさが混じる。
兄はスマホをいじりながら、「今日どこ行ってたんだ?」と一応興味を示してくる。私は友達と買い物していたことを伝えた。友達の恋バナに盛り上がった話も少しだけする。すると兄は「へぇ、それでどうなったんだ?」なんて興味ありげに聞いてくる。いつもは私の話を「ふーん」で流すことが多いのに、やけに突っ込んだことを言うから少し意外だった。
――どうしてこんなふうに聞いてくるんだろう。まさか私が兄を好きだなんて勘づいて、探りを入れているのか? そんなわけはない、と思いながらも、妙に心がざわつく。
私は友達が先輩に片想い中で、告白する勇気が持てないという話をそのまま伝えた。兄は少し考え込むような間を置いてから、「まぁ、言わないと伝わらないもんな」とつぶやいた。まるで自分自身に言い聞かせているような口調に聞こえて、私はなんとも言えない気持ちになる。もしかして隼人は、昨日会っていた女性に告白したのだろうか、あるいはされたのだろうか……。すぐに頭の中でいろいろな可能性が浮かんでしまう。
それから数日が過ぎても、兄の様子はいつも通りだった。大学の授業やバイトに出かけたり、家ではゲームをしたり、そして私と軽く言葉を交わしたり。何も変わらないからこそ、私の中で渦巻く疑問は膨らむばかりだった。時折、母が私を見てクスッと笑うのが気になるけれど、絶対に知られたくない。ましてや兄がどう思っているかなんて、想像しただけで顔から火が出そうになる。
ある夜、私は勇気を出して兄の部屋のドアをノックしてみた。部屋からはかすかに音楽が聞こえていたが、「入るよ」と言うとすぐに「おう」と返事があった。机には参考書が広げられていて、どうやらレポートか何かの課題に取り組んでいたようだ。
私が言いよどむと、兄は椅子をくるりと回転させてこちらを向いた。どんな顔をしているのか、チラッとしか見られない。いつもと変わらない柔らかい表情なのが、逆に私を緊張させる。
「その…この前、駅前のカフェで誰かと会ってたでしょ? あれって、彼女…なの?」
最後のほうは声がかすれてしまった。何を聞いているのか自分でも分からない。兄が「お前には関係ないだろ」と一蹴したらどうしよう、そんな不安が頭をよぎる。だけど、何も聞かずにモヤモヤし続けるのはもう嫌だった。
兄は一瞬、驚いたように目を見開いたあと、少し苦笑いした。
「ああ、あれ見られてたのか。別に隠してたわけじゃないんだけどな」
「そ、そうなんだ…。で、彼女なの?」
呼吸が苦しくなる。心臓が痛いくらいに鼓動を主張している。兄の返答次第では、私の中の何かが壊れてしまいそうな気がした。
「彼女じゃないよ。昔のクラスメイトってだけ。ちょっと相談があるって言うから話を聞いただけなんだ。泊まったのも、そいつの話に付き合ってたら終電逃して…結局、男友達ん家に泊まったんだ。まぎらわしいことして悪かったな」
そう言いながら頭をかく兄の顔は、少しだけ照れくさそうに見えた。私の心からは一気に重たい霧が晴れていくようだった。それでも、「そっか…」とだけ言って、ドキドキを悟られないようにうつむく。安心したのと同時に、どうしようもなく涙が出そうになった。なんでこんなに泣きそうなんだろう。
兄が小声でそう言うのを聞き、私は思わず体を強張らせた。つい顔を上げると、兄が少しだけ意地悪そうに笑っているのが見えた。心臓がバクバクしてどうにかなりそうになる。
「べ、別に…!」
誤魔化そうとするけれど、どう見ても挙動不審だ。結局、兄は笑いながら「なんだよそれ」と言って、私の頭をポンポンと軽く叩いてくる。昔からそうやって優しくなだめるように触れる手に、どうしようもなく甘えたくなってしまう。だけど、私がこの気持ちを言葉に出すことは決してできない。
それからしばらく私たちは黙ったまま、相手の顔もあまり見ないでいた。時間にしてみればほんの数秒かもしれないけれど、私にはとても長く感じられた。部屋には音楽も流れていて、そのメロディだけが穏やかに空気を満たしている。
「…そろそろ寝るわ」
限界を感じて、私はそう告げて兄の部屋を出た。ドアを閉める前、兄は「おやすみ」とだけ言った。私も同じように「おやすみ」と返したけど、その声は震えていたと思う。自分の部屋に戻ってベッドに倒れ込むと、涙がこぼれた。何も変わっていないのに、胸がいっぱいだった。
私はきっとこれからも、隼人のことを好きなままでいる。兄妹であることを理由に、その気持ちを外に向かって叫べるわけでもないし、正当化できるわけでもない。だけど、今日みたいに「兄には私の知らない女性がいて、見たことのない笑顔を向けるかもしれない」と考えるたびに、あの苦しさが胸を焼く。だからと言って、勝手に嫉妬や独占欲を抱くのは間違いだと分かっている。分かっているのに、止められない。これがブラコンを拗らせた私の現実だ。
明日もきっと、兄はいつも通りの態度で接してくれるだろう。私も「妹として」振る舞い続けるはずだ。その穏やかな日常に救われると同時に、どうしようもない葛藤が継続していく。それでも、今はまだ、兄がそばにいてくれることだけで十分なんだと思う。たとえ叶わない恋でも、隼人が生きて笑っていてくれるだけで、私は幸せだ。
――ただ、いつか誰かと本当に付き合ったり、結婚したりする日が来たら、私の心はどう壊れてしまうんだろう。そんな未来は想像すらしたくないけれど、避けては通れない。いつかその時が来るまで、私はきっとこの気持ちを抱えたまま、妹として側にいる。それが私にとっての最善で、唯一の選択肢なんだと思う。
今日も、隣の部屋から聞こえてくる音楽と兄の足音に耳を澄ませる。彼がそこで生きていること、それだけを感じられるだけで少しだけ安心する。ブラコンを拗らせているのは重々承知。でも、やめたくてもやめられない。これが私の現実で、私の想いだ。もしかしたら、ずっと苦しみ続ける道かもしれない。けれど、一度芽生えてしまった感情は消せない。私はこれからも、この胸の痛みと温かさを抱えて生きていくのだろう。
そしてもし、いつか奇跡のような日が来て「本当の気持ち」を打ち明けるときが訪れたら。そのとき隼人は一体どんな顔をするのだろう。拒絶されるだろうし、気持ち悪がられるかもしれない。でも、それでもいい。今は――ただ、隼人の妹として、彼の笑顔を見守りながら、この拗らせたブラコンを密かに育て続けるしかない。妹という“特等席”をもらえているのだから、それだけで十分だと言い聞かせながら。
夜はふけていく。明日もまた、何も変わらない朝がやってくるだろう。だけど、この胸の奥で熱を帯びる感情は、決して冷めることはない。私はそう確信して、いつか来るかもしれない苦しい未来さえも受け止める覚悟をした。兄への想いを胸に秘めたまま、静かに目を閉じる。
――たぶんこれからも、ずっと私はブラコンを拗らせたままで生きていくんだろう。だけど、兄の笑顔を間近で見ることができるなら、それでも私は幸せなのだと思う。
ぼくは小学三年生のケンジ。クリスマスが大好きで、毎年12月になると待ちきれない気持ちでいっぱいになる。サンタクロースが本当にいるのかどうかは、ずっと半信半疑ではあったけれど、それでもクリスマスの朝にプレゼントが届いているのを見つけると、「やっぱりサンタクロースっているんだ」と思わずにはいられなかった。
ところが、今年のクリスマスに限っては、いつもとは違う出来事が起きてしまったんだ。ぼくはついに、「サンタクロースの正体」を突き止めてしまった。それは嬉しい発見なんてものではなく、どちらかというと、心のどこかで知りたくなかったような苦い秘密だったんだ。
その夜、ぼくはベッドの中でうとうとしていた。いつもは「サンタが来るかもしれないから、早く寝なさい」と言われると、ワクワクしながらも眠れなかったりするのに、その日は妙に眠気が強くて、あっという間に目が閉じてしまった。パパは会社の大きなプロジェクトだとかで、クリスマス前後はほとんど家に帰ってこられない。ママも少し寂しそうだけど、ぼくにはできるだけ笑顔で接してくれていたから、ぼくも「パパが頑張っている間に、早くいい子に寝なきゃ」と思っていたんだ。
ところが、夜中にふと目が覚めた。お腹がすこし冷えたようで、トイレに行きたい気分だった。部屋は真っ暗で、廊下の電気も消えている。ぼくは薄暗い中、そっとベッドから抜け出して、足音を立てないようにドアを開けた。廊下はシーンとしていて、時計の秒針の音がいつもより大きく聞こえる。サンタクロースを待ち伏せしようなんて気はなかったのに、でもこういう時って少しだけ期待してしまうものだ。もしかしたら、このタイミングで会えるかもって。
トイレを済ませて部屋に戻ろうとしたとき、リビングの方からかすかに話し声が聞こえてきたんだ。時計を見れば、夜中の2時を過ぎている。ママはもう寝ているはずだし、パパはもちろん仕事で家にいない。でも確かに人の声がしていて、しかも何か低い男性の声のような気がした。ぼくは心臓がどきどきして、血が頭にのぼるような感覚になった。
そんな恐怖が一瞬頭をよぎったけど、なんだか雰囲気が静かすぎる。泥棒だったら、もっと物音を立てないようにするんじゃないか? それに、声の調子も緊迫しているというよりは、落ち着いている感じがする。そっとリビングの扉を開けようと近づくと、ドアの隙間から少しだけ暖かい光が漏れていた。
思い切って、ドアに耳をあてる。そこから聞こえてきたのは、ママの声と、低い男性の声。ぼくはママが誰かと電話でもしているのかなと考えた。でも、よくよく聞くと、声は確かにすぐ近くから聞こえてくる。ぼくは思い切ってドアノブを少しだけ下げて、ほんの少しすき間をつくった。その瞬間、リビングの中の光景が目に飛び込んできたんだ。
そこには、赤い服を着た人物が立っていた。ふわふわの白いひげのようなものをつけて、頭には赤い帽子。見た目はまさに「サンタクロース」そのものに見えた。最初は「わあ、サンタだ!」と胸が高鳴ったんだけど、その次の瞬間、ぼくは息を飲んだ。
そのサンタが、ママの頬にキスをしたんだ。しかも、ちょっと優しく微笑んでいるような表情で。
最初は「え、どういうこと?」と頭が真っ白になった。「ママとサンタがキス?」 いつもおとぎ話みたいに思っていた光景とは違いすぎて、ぼくの頭は全然理解が追いつかない。その上、ママも嫌がる様子はまるでなく、むしろ少し照れくさそうに笑っている。二人が仲良さそうに見えて、クリスマスのサプライズとしてはあまりに衝撃的すぎた。
しばらくして、ママがサンタの帽子を少しずらして、その下から見えたのは茶色っぽい髪の毛。パパではない。パパは黒髪だし、こんなに柔らかそうな髪質じゃない。それに、パパは今夜、仕事で家にいないはずだ。じゃあ、このサンタは誰なんだ? ぼくは混乱しながら、ドアの隙間を通してじっと様子を見つめていた。
「もう行かなくちゃ」とそのサンタが言うと、ママは残念そうにしていた。どうやら、長居はできないらしい。そのサンタは、ぼくが子どもの頃から憧れていた「プレゼントをくれる優しいサンタ」とは違う、“ただの人間”に見えた。ふだん着慣れていないはずのサンタ衣装をスルッと脱ぐと、中には普通のセーターとジーンズが現れた。あまりにも現実味のありすぎる光景に、ぼくは冷たい汗をかくのを感じた。
その男性は脱いだサンタ服をクシャクシャに丸めて、抱きしめている。ママは優しく笑いながら、「来年こそはちゃんと一緒に過ごせるようにしたいね」と言った。二人のあいだには、ぼくには到底入り込めない特別な空気があるように感じられた。
ぼくは耐えきれなくなって、あわてて自分の部屋に戻った。けれど、頭の中がぐるぐるして眠れるはずがない。どう考えても、あのサンタはママの知り合いで、ママとキスするような関係……つまり、不倫相手ってことなんじゃないか。つい数時間前まで、ぼくは「今年は何がもらえるかな」「早くサンタさんに会いたいな」なんて無邪気に思っていたのに、このクリスマスの夜中に目撃したものは、まったく別の秘密だった。
「パパは関係ないの?」 ふとそんな疑問が浮かんだけど、パパはずっと会社に詰めっぱなしで、今夜も徹夜だと聞いている。ママが一人で寂しい夜を過ごしているのは知っていたけど、その寂しさを埋めるためにあんなことをしているとすれば……ぼくはなんだか、胸の奥が締めつけられるようだった。
翌朝、ぼくはクリスマスツリーの下にプレゼントを見つけた。きれいに包まれた箱には、「ケンジへ サンタクロースより」と書かれたカードが付いていた。だけど、そのカードの文字はどこか見覚えのある書き方で、ママの字にも似ているし、もしかしたらあの男の人が書いたのかもしれないと思うと、手を伸ばすのをためらってしまった。
ママはいつもと変わらない笑顔で、「メリークリスマス! 開けてみたら?」と言ってくる。ぼくは一瞬だけ迷ったけど、やっぱり小学生のぼくには、プレゼントへの好奇心が勝ってしまった。恐る恐る包装紙をはがすと、中には欲しかったゲームソフトが入っていて、思わず「わぁ!」と声をあげてしまった。だけど、その喜びのあとに、どうしようもない違和感が押し寄せてきた。
プレゼントを受け取ってしまったことは、あの場面を見てしまったぼくにとって、なんだか後ろめたい気持ちになった。結局、あの“サンタ”はぼくのためというより、ママと会うために来ていたんじゃないだろうか。もしかしたら、どこかで「ケンジにはゲームでも渡しておけばいいだろう」なんて考えていたのかもしれない。そんな想像がぐるぐるめぐって、心が苦しくなる。
だからといって、ママに直接問い詰めることなんてできない。そもそも、ぼくが夜中に起きてしまったこと自体を隠しているわけだし、証拠といえば、あのサンタ服とキスの場面を見たぼくの記憶だけだ。ママの笑顔は優しいし、これまでだってぼくのことを大切にしてくれている。だけど……あの夜、確かにぼくは見てしまった。あのサンタはただのファンタジーなんかじゃない。ママが密かに会っている“特別な存在”に違いない。
自分の部屋に戻って、ゲームソフトを手に取りながら、ぼくは一人で考え込んだ。このまま見なかったことにして、来年も再来年も「サンタはほんとうにいるんだ」と思い込みたい気持ちもある。でももう、サンタクロースがただの伝説の存在や、パパやママがこっそり用意しているっていうレベルの話じゃない。実在する男の人で、しかもママと親密な関係にあるという決定的な事実を、ぼくはこの目で見てしまったのだ。
そう思った瞬間、自分の中で何かが壊れたような気がした。今まで純粋に信じていたクリスマスの魔法が、一気に色あせてしまったような。もちろん、ファンタジーのサンタクロースというより、ママが用意してくれる優しさの方が大事だったのかもしれない。けれど、それすらも「不倫」という形で見せつけられてしまったからには、どうやってこの先クリスマスを楽しめばいいのか、ぼくにはもうわからなくなってしまった。
それでも、世間一般のクリスマスはいつも通りやってくる。友達はみんな「サンタがスイッチをくれたんだ!」「サンタさんに大きなぬいぐるみをお願いしてたのが届いたよ!」と楽しそうに話してくる。ぼくも一応、「ゲームソフトをもらったんだ」と自慢げに言ってみたけど、心はちっとも晴れない。
学校の先生が「みんな、サンタさんに何をお願いしたの?」と聞いてきたときにも、ぼくは声をあげて答えられなかった。何か言葉にしようとすると、あの夜の光景がちらついて、言えなくなってしまうんだ。サンタクロースがママにキスをしている姿……誰にも話せない。それを話したら、どんな空気になるのか想像もつかないし、同級生のみんなも先生もどう反応していいのかわからないだろう。
こうして、ぼくは「サンタクロースの正体」を突き止めた。だけど、その代わりに、ぼくが手にしたものは何だったんだろう。ゲームソフトというプレゼントは嬉しいけれど、心の奥底に残っているのは、裏切られたような、でも裏切られたのはパパじゃないのかもしれないという、複雑な感情だった。
パパもいつかは気づくのかもしれない。だけど、もしパパが何も気づかないままぼくとママの三人で暮らしていくとしたら、ぼくはあの夜の秘密を抱えたまま大人になっていくのだろうか。クリスマスのたびに、あのキスの光景を思い出すのだろうか。サンタクロースを見つけたはずなのに、喜びよりも重苦しさの方が大きい。子どものぼくには、このことをどう消化していいのかまったくわからなかった。
でも、ひとつだけ言えるのは、ぼくの知っていたはずの「サンタクロース」はもういないということ。いや、最初から本当は「いなかった」というべきか。今ここにいるのは、赤い服と白いひげを身につけた“ただの大人”であり、ママとキスを交わしている「不倫相手」でしかない。いつか、ぼくがもっと大きくなったら、ママに「どうしてあんなことをしていたの?」って聞けるのかな。そのときには、ぼくはもうクリスマスなんて信じる歳じゃないのかもしれないけれど……。
とにかく、今は誰にも言えない秘密を抱えたまま、ぼくは冬休みを過ごすしかない。ぼくにとってこのクリスマスは、決して忘れられない特別な日になってしまった。みんなが幸せそうにサンタクロースを信じている中で、ぼく一人が全然違うサンタ像を胸に抱えているなんて、想像もしなかったことだ。サンタクロースの正体を突き止めるというのは、こんなにも苦いものなのかと思い知らされた。
気づけば、外は雪が降り始めていて、街はクリスマスの余韻とお正月ムードが混じり合っている。来年のクリスマスには、ぼくはもっと大人になっているかもしれない。でも本当に大人になったとき、この夜の光景をどんなふうに思い返すのだろう? あのサンタの姿は、いったいどう映るのだろう? そんなことを考えても、今のぼくには答えられない。ひょっとしたら、いつかは笑い話になる時がくるのかもしれないし、ずっと重い秘密のまま、心の奥底に沈んだままかもしれない。
とにかく、ぼくはこの冬、ちょっぴり大人になってしまった気がする。もう「サンタさん、プレゼントちょうだい!」と純粋にお願いできる子どもではなくなってしまったから。だけど、もし願い事が許されるなら、ぼくはサンタにこう言いたい。「ほんとうの魔法をかけてほしかった」と。あの夜の出来事が夢だったとしたら、どんなに幸せだっただろう。
結局、ぼくはサンタクロースという夢を失くしてしまった。その代わりに、ママの知られざる一面と、“現実”を手に入れてしまった。こんなクリスマスの真実なんて、知らないほうがよかったのかもしれない。だけど、知ってしまった以上、元に戻る方法はわからない。少なくとも、ぼくの中で「サンタが本当に存在する」というロマンは、もう二度と同じかたちでは戻ってこないのだ。
それでも、時間は過ぎていく。来年のクリスマスには、また同じようにツリーを飾って、ママがケーキを用意して、パパは「残業だ」なんて言いながら仕事に向かって、そして夜中には「サンタ」が訪れるのかもしれない。ただ、その“サンタ”は、誰にも言えない大人の秘密を抱えたサンタだということだけは、ぼくがいちばんよく知っている。
――当たり前の毎日が、ある日突然不気味な影に蝕まれるなんて、少し前のわたしなら想像もできなかった。わたしは中学三年生。受験を控えているため、普段は塾に通ったり、学校でも進路の相談をしたりと、それなりに忙しい日々を送っている。家は住宅街にあり、学校までは歩いて15分ほど。街灯の数はそこそこあるし、真夜中に外を出歩くわけでもないので、これまで怖い思いをしたことはほとんどなかった。
それでも、一学期の終わりごろから微かな“違和感”が生まれ始めた。最初は通学路を歩いているとき、「視線を感じる」という程度だった。ふと、だれかに見られている気がして後ろを振り返るのだけれど、そこに人の気配はない。でも、どうにも落ち着かない。そんな日が何度か続いて、夏休みが終わった頃には「もしかしたら、わたしの思い過ごしじゃないのかも」と感じるようになった。
決定的だったのは、ある夕方、塾が終わってから夜に帰宅するときのこと。友達と途中まで一緒に歩いていたが、その子がコンビニに寄ると言うので先に別れ、一人で家に向かうことになった。少し薄暗くなってきてはいたものの、まだ人通りがゼロというほどでもない時間帯。だけど、その日はやけに背後が気になった。足音が一つ増えているような気がする。怖くなって、道路脇の自販機でジュースを買うふりをして、そっと後ろを見やった。すると、街灯の下に男の人が立っているのが見えた。30代後半くらいに見え、腹が少し出た体型。見覚えのない顔なのに、こちらをじっと見ている。その目つきに、不気味な笑みが浮かんでいたように感じた。
一瞬、心臓が止まりそうになった。「もしかして、わたしをつけている…?」考えたくなかったが、その可能性を否定できなかった。その日は慌てて家に帰り、両親にも打ち明けた。母は「気をつけなさい」と言い、父は「危なそうだったら遠慮なく叫べ」とアドバイスをくれた。わたし自身も「気のせいじゃないかも」と半ば確信していたけれど、決定的な何かがあるわけでもないので、どうにも気持ちが晴れない。そんな宙ぶらりんの状態が続いていた。
ところが、数日後、ついにその男が正面からわたしに接触してきた。学校から帰ろうとして、家のすぐ近くの角を曲がったところで、まるで待ち伏せしていたかのように声をかけられたのだ。
思いがけない質問に、一瞬「え…?」と固まってしまう。すると男は、妙にテンションの高い声で続けた。
「ガンダムだよ、ガンダム。プラモデルとかあるだろ? あれ、ガンプラって言ってさ。実は俺、ガンプラを転売して生活してるんだよ。レアな限定品とかはネットで高く売れるから、なかなか儲かるんだよね」
まったく身に覚えのない話を次々と畳みかけられて、困惑しかなかった。わたしはガンダムに興味があるわけでもない。何より、この男がどうしてわたしの家の近くで待ち構えているのかが気持ち悪い。けれど、怖さと戸惑いで体が動かず、言葉も出なかった。
「もし興味あったら、一緒にガンプラ買いに行かない? 教えてあげるよ。限定版とか、結構大変なんだけどさ、手に入ると嬉しいんだよな」
意味不明な勧誘に、わたしは思わず後ずさった。怖い。この人はわたしを待ち伏せして、しかもこんな会話を一方的に押しつけてくる。わずかに震える声で、「興味ないんで、すみません」とだけ言うと、逃げるように家の門を開けて中に入った。ドアを閉める直前、わたしを見つめる男の目はまだ笑っていた。あの不気味な笑みが焼きついて、頭から離れなくなった。
その日から、男はわたしの周囲でますます姿を現すようになった。朝、家を出るとき、門の外に立っていることもある。学校の近くで待っていることもある。わたしだけでなく、クラスの友人たちにも目撃されはじめ、「あの人何?」「怖いんだけど」と噂になった。「髪が脂ぎっていて、いつもガンダムのTシャツ着てるよね」とか、「30代後半くらいかなあ。ガンプラ転売ってホント?」なんていう憶測がクラスで飛び交っていたけれど、わたしからすれば笑い事ではなかった。
どうしてわたしをターゲットにするのかが分からない。ガンダムなんてまったく興味ないし、むしろ男の人が言うようなレア商品の価値もピンとこない。無視してやりすごそうにも、毎日しつこく声をかけてくる。「おはよう。昨日はガンダム観た?」「ガンプラ買うなら今がチャンスだぞ」など、訳の分からない話ばかり。はじめは無視して歩いていたのだが、そのうち腕を掴まれそうになることもあった。
「逃げんなよ。俺は優しく教えてやろうとしてるのに」
その言い方が、もう普通じゃない。目の奥が怖くて、まるで自分が獲物にされているような、そんな凄みを感じた。学校の先生に相談し、生活指導の先生が一緒に帰り道を巡回してくれる日もあった。でも、その日は男の姿は見当たらない。先生がいない日に限って、わたしの通り道にひょいと現れるのだ。わたしは携帯を握りしめて、いつでも警察に電話できるように心がけていたが、相手がすぐに手を出してくるわけでもない。曖昧な距離を保ちながら、ネットリと追いかけられている感覚だった。
さらに恐ろしかったのは、わたしのSNSを探し当てられたこと。プロフィール写真は家族や友達との写真だったが、そこからわたし本人を特定したのだろう。急にフォロー申請が何件も届き、メッセージで「一緒にガンプラ見に行こうよ」「ガンダムの良さを教えてあげるからさ」としつこく書かれたものが送られてきた。もちろん拒否したけれど、それでもアカウントを作り直して追いかけてくる。
そのSNSのアイコンもガンダム関係のものばかり。タイムラインにアップされている写真には、大量のプラモデルの箱が積み上げられており、「最近ゲットした限定版。転売すれば倍になるけど、コレクションにしてもいいよな」とか「本当に好きな子に出会えたら、このコレクションを見せてあげたい」など、怪しいコメントが並んでいた。わたしは背筋が凍る思いだった。どうやってブロックしても追いかけてくるし、日に日に執着が深まっているようにすら感じられる。
両親も事態を重く見始め、警察に相談したほうがいいのではないかという話になった。わたしは「でも、実際に身体的な被害には遭っていないし…」と気が引けていた。学校の先生も「警察に通報して相手を刺激するのが心配だ」という雰囲気で、結局「注意して帰りましょう」というアドバイスのまま、なかなか大きく動くことができない。その間にも、わたしの不安はどんどん募っていった。
そして、ある日の夕方、決定的な恐怖に襲われる事件が起きた。学校の文化祭準備があったため、いつもより帰りが遅くなったわたしは、友達と途中まで一緒に歩いたあと、一人で家に向かっていた。塾の時間も迫っているし、ちょっと急ぎ足だった。ふと曲がり角を曲がった瞬間、目の前に男が立っていた。わたしは思わず悲鳴を上げそうになったが、声にならない。
まるでわたしの行動を全部把握しているかのような口ぶり。彼はあの不気味な笑みを浮かべながら、何か箱のようなものを差し出してきた。ガンプラのパッケージだ。派手な色のモビルスーツが描かれている。
「これ、新作の限定ガンプラ。転売したら高いけど、お前にやるよ。あ、でもただじゃないよな? 俺の好意をちゃんと受け止めてくれるなら、ってことだけど」
彼の言葉の節々に感じる狂気めいた雰囲気。逃げなければ、と思っても、足がすくんで動かない。必死に頭を回転させ、「受け取るふりをして箱を落として、その間に逃げる」という作戦を瞬時に思いついた。わたしは手を差し出すと同時に、わざと勢いよく箱を地面に落とした。
「何してんだよ!」
彼は怒鳴り、落ちた箱のパーツが散らばる。わたしはその隙に走り出した。涙があふれて、視界がにじむ。背後からは乱暴な足音と、「待て! ふざけるな!」という声が聞こえた。息が苦しくなりながらも、どうにか大通りまで走りきり、人通りが増えたところで立ち止まる。彼は少し離れた場所に立ち尽くし、苛立ったようにわたしを睨んでいたが、さすがに人目が多いのか追っては来なかった。
恐怖と悔しさが混じった感情で、わたしはその足で交番に駆け込んだ。そこで出会った警察官は、最初は「どうしたの?」と優しく声をかけてくれた。わたしは必死に息を整えながら、ここ数週間の出来事を話した。ストーカーまがいの執着や待ち伏せ行為、SNSでのつきまとい……警察官の表情が真剣になっていくのが分かった。
連絡を受けた両親が交番に駆けつけ、わたしが受けた被害を詳しく話すと、警察官は「これ以上放置できない」として本格的に捜査に乗り出すことを約束してくれた。わたしはそこでようやく少しほっとしたが、同時に「もっと早く相談しておけばよかった」と強く思った。
それから数日後、警察が男を逮捕したとの連絡があった。わたしの塾の前で、再び待ち伏せしているところを張り込んでいた捜査員が確保したらしい。男は「自分はただガンダムの良さを伝えたかっただけ」などと弁明していたようだが、わたしの写真を無断で撮影して保存していたり、行動パターンをメモに書き込んでいたりと、数々の“ストーカー行為”の証拠が見つかり、転売目的で集めたガンプラの山とともに押収されたと聞いた。
ニュースサイトの地域欄に、小さく「30代男性をストーカー規制法違反で逮捕」と載っていた。名前は伏せられていたけれど、間違いなくあの男だろう。あの不気味な笑み、尋常ではない執着心、SNSでのしつこいメッセージ……わたしの普通の生活は、そんな彼の行動で大きく乱されていた。いま思うと、本当に怖かったし、もし警察に駆け込むのが遅れていたら、もっと大きな被害に遭っていたかもしれない。
男が逮捕されたと聞いてから、わたしはようやく外に出るときの恐怖から解放された気がする。とはいえ、すぐに「もう安心」とは思えず、しばらくは父や母に迎えに来てもらったり、友達と一緒に行動したりして、用心深く過ごした。学校の先生や友達もわたしを気遣ってくれたおかげで、少しずつ心の傷が癒えていったように思う。
受験勉強が本格化するにつれ、わたしはあの出来事を少しずつ振り返る余裕もできた。中学生のわたしには、あの男の「ガンダム転売」という仕事自体がピンと来なかった。好きなものを売買することで生計を立てている大人がいることは分かったが、それを理由に他人を追い回し、恐怖に陥れる行為が正当化されるわけがない。何より、彼自身がガンダムの魅力を熱く語る一方で、人の気持ちを無視した行動ばかり取っていたことに、強い矛盾を感じる。
今では、わたしが夜道を歩いているとき、あの男の足音を想像してしまうようなことはかなり減った。完全にトラウマが消えたわけではないけれど、警察や家族、学校の先生など、わたしを守ってくれる大人がいたことで「一人じゃない」という安心感を得られたのが大きいと思う。
この一件で学んだのは、「変だな、おかしいな」と感じたらすぐに誰かに相談することの大切さだ。最初は「大げさかな」「気のせいかな」と思って、なかなか行動に移せなかった。でも、もしもう少し早い段階で大人に相談していれば、あんなに怖い思いをしないで済んだかもしれない。今はその後悔を活かして、少しでも不安を感じたら周囲に声を上げるようにしている。
ガンダムオタクにストーキングされるなんて、わたしの人生にまさか起こるとは思わなかった。だけど、最終的に彼が逮捕されたことで、わたしの生活は再び平穏を取り戻した。この先も、いつどこで危険が潜んでいるか分からないからこそ、小さなサインを見落とさないように、そして自分の身を守るための行動をためらわないように――そう心に刻みながら、わたしはこれからも前を向いて生きていこうと思う。
「絶対に反対」と言った私の意見を無視して、妻は犬を連れて帰ってきた。小さな柴犬の子犬だった。妻は「かわいいでしょう?」と目を輝かせ、私は「世話は全部お前がやれよ」と突っぱねた。
散歩は妻の担当。餌やりも妻の担当。トイレの始末も妻の担当。私は犬との距離を保ち続けた。それでも夜中、妻が「チョコ、静かにして」とトイレに連れていく足音を、時々聞いていた。
飼い始めて3年目の春、妻に癌が見つかった。告知を受けた日、妻は「チョコの散歩、お願いね」と、それだけを私に頼んだ。抗がん剤の副作用で歩けなくなった妻に代わり、私は初めて犬の散歩を引き受けた。
チョコは、妻の体調が悪い日は決して無理にねだることはなかった。ベッドの横で静かに待っている姿に、私は少しずつ心を開いていった。妻が他界する2週間前、「あなたとチョコを残して、ごめんね」と言った妻の手を、チョコは静かに舐めていた。
あれから2年。今では散歩が日課になった。近所の人は「奥さんによく似てきましたね」と言う。確かに、チョコの世話を焼く自分は、かつての妻に少し似ているかもしれない。夜、テレビを見ていると、チョコは決まって私の膝に顔を乗せてくる。
妻は分かっていたのだろう。この犬が、私の救いになることを。反対する私を押し切ってまで飼い始めたのは、きっと私への最後の贈り物だったのだ。
今日も夕暮れ時、チョコと散歩に出かける。短い足で必死についてくる後ろ姿に、妻の面影を見る。「お散歩行こうか」という私の声は、少し妻に似てきた気がする。
秋山 修也(あきやま しゅうや):35歳。派遣社員として工場で働く。学歴や経済力、コミュニケーションに自信がなく、恋愛もほとんど未経験。ネットでは「弱者男性」コミュニティに入り浸る。
三浦 麻美(みうら まみ):32歳。女性の権利を守るフェミニズム団体「フリーダム・リンク」の活動家。SNSや街頭デモなどを通じて女性差別の解消を訴えている。
佐々木 誠(ささき まこと):40歳。秋山が通うネットコミュニティの先輩的存在。強い反フェミニズムの立場をとり、「弱者男性」の声を代弁するような活動を行っている。
高木 圭子(たかぎ けいこ):28歳。「フリーダム・リンク」の若手メンバーで麻美を慕っている。女性の社会進出やジェンダー問題について積極的に意見を発信する。
井上 医師(いのうえ いし):50歳。心療内科医。秋山の通院先で、悩みを相談している。
場面1:秋山の部屋・夜
部屋の中は薄暗く、散らかったまま。秋山はノートPCの画面に目を凝らしている。
画面には「弱者男性フォーラム」の文字が躍り、「女性優遇社会への不満を語ろう」というスレッドが更新され続けている。秋山は書き込まれたコメントを読みながら、ため息をつく。
「女性は優遇されている…そんなに恵まれているのかな。俺はただ普通に生きたいだけなんだが…でも、ここでしか共感してもらえないのも事実か。」
秋山はフォーラムに書き込みをしようとキーボードを叩きかけるが、言葉がまとまらず手を止める。そして画面の隅に映る広告に目をやる。そこには「フェミニズム×社会変革 街頭アクション」というデモの告知が出ていた。
第二幕:対立の種
場面2:街頭・昼
大通りで、女性の権利を訴えるデモが行われている。「フリーダム・リンク」のメンバーとして麻美と高木がプラカードを掲げ、コールを上げている。
「私たちは女性が当たり前に働き、暮らせる社会を求めています! 多様性を認め合う社会を!」
通行人たちが足を止め、好奇の目で見たり、応援の拍手をする人もいれば、眉をひそめる人もいる。その中に秋山の姿があった。偶然通りかかったのだが、「女性の権利拡大」という言葉に、なぜか気持ちがざわつく。
そこへ「弱者男性フォーラム」で知り合った佐々木がやってくる。
「お、秋山。お前も来たのか。見ろよ、あいつらは“女性こそ弱者だ”って言って、男を無視してる連中だ。」
「いや、俺はたまたま通りかかっただけで…ただ、こうして声を上げられるのは正直うらやましいよ。俺たちは何も変えられない気がしてさ。」
「そんなことはない。俺たちは動かなきゃいけないんだ。『弱者男性』だって声を上げればいい。フェミニストだけが弱者ってわけじゃないだろ?」
佐々木はそう言い放ち、デモ隊に近づいていく。デモの様子を動画で撮りながら、批判的なコメントを叫ぶ。
「男性差別はどうしてくれるんだ! 女性だけが被害者じゃないだろう!」
麻美は一瞬目を止めるが、周囲の混乱を避けるためにそのままスルーしようとする。秋山は心苦しそうにそばに立っているだけだ。
第三幕:衝突の予兆
デモを終えた麻美と高木が、事務所で休憩している。高木は先ほどの佐々木の言動が気になっている。
「さっきの男性、すごい勢いでしたね。やっぱりネットで『弱者男性』を名乗る人たちが増えているって本当なんでしょうか?」
「増えてる実感はあるわ。だけど、彼らの声は確かに無視できない部分がある。男性でも孤立や貧困に苦しむ人がいるのは事実だから。でも、ああいうふうに攻撃的に来られると、正直怖いと思ってしまう。」
麻美は内心、男性の置かれた厳しい状況も理解できると感じているが、活動の中でそこまでケアしきれないのが現状だ。
場面4:心療内科・診察室
「最近、寝付きも悪くて…。仕事も長続きしないし、恋愛なんて夢のまた夢。ニュースを見ても、女性ばかりがスポットライトを当てられているように感じてしまって…。」
「秋山さんは、自分が社会に受け入れられていないと感じるんですね。」
「はい。でも、だからといって女性を責めたいわけじゃないんです。どうしても“自分は取り残された”って感じが拭えなくて…。」
「まずは、自分の困りごとを整理してみましょう。あなたに必要なのは、女性を敵視するよりも、一つひとつ社会との接点を増やしていくことかもしれませんよ。」
秋山は少しだけ表情が和らぐが、内面の複雑な気持ちは容易には解決しない。
第五幕:SNS上の激化
場面5:秋山の部屋・夜
再び「弱者男性フォーラム」を眺める秋山。そこには佐々木が投稿した先日のデモの動画が貼られ、過激なコメントが多く付いている。
スレッドタイトル:「女性優遇デモを叩き潰せ! 我々の苦しみをわかってもらうには?」
書き込みは一部、女性全体を侮蔑する表現や、暴力的な言葉にまで発展している。秋山は読み進めるうちに、胸がざわつく。
「俺も辛いけど、こんなやり方じゃ何も変わらないだろ…。でも、居場所はここしかない気がするんだ。」
第六幕:思わぬ接点
地域センターで社会的支援イベントが開かれている。貧困問題やDV被害者支援など、多様なテーマを扱うブースが並ぶ。麻美は「フリーダム・リンク」として女性支援の活動紹介をしており、偶然秋山も就労支援ブースを見学に来ていた。
秋山は遠巻きに麻美のブースを見る。そのとき麻美と視線が合う。先日のデモの場で会ったことをお互いにうっすら覚えている。
「こんにちは。もし興味があれば、どうぞ見ていってください。」
「もちろん男性でも大丈夫ですよ。私たちは『女性の権利』を軸に活動してますが、経済的な苦しみとか社会的孤立とか、そういう問題も一緒に解決を考えたいと思ってるんです。」
秋山は意外そうな表情を見せる。麻美の方も、ネットで語られる「弱者男性像」とは異なる実直そうな雰囲気の秋山に対し、少し興味を抱く。
第七幕:対話と亀裂
秋山と麻美は少しだけ話をする。秋山は自分の苦しみを少し打ち明け、麻美は熱心に耳を傾ける。
「本当は私たちも、男性の苦しみをちゃんと理解したいと思ってるんです。でも、どうしても女性差別や暴力が根強く残っていて、そちらの問題に注力せざるを得ないのが現状で…。辛い思いをしている男性を全部無視してるわけじゃないんですよ。」
「女性が今まで不利益を被ってきたのは、俺もニュースや本で知ってるし、わかるんです。でも…なんというか、俺たちも苦しいんです。どこにぶつければいいか分からないモヤモヤがあって…。」
二人の会話が少しずつ噛み合い始めた矢先、佐々木が休憩スペースにやって来る。
「秋山、お前こんなところで何してるんだ? こいつらは俺たちを男だからといって排除しようとしてる連中だぞ。」
「そんなつもりはありません。私たちは…」
佐々木(遮る)
「どうせ男性は加害者だとか言いたいんだろ? 秋山、お前だってずっと悩んでただろう。こんな連中と話しても無駄だ!」
麻美は反論したいが、言葉が出ない。秋山も一瞬で萎縮してしまう。結局、佐々木に引っ張られるようにその場を後にする。
場面8:夜の公園
佐々木と秋山が、公園のベンチに座っている。佐々木は苛立ちを隠さず、スマホで先ほどの様子をSNSに書き込んでいる。
「もっと強く出なきゃ駄目なんだ。連中は自分たちの権利拡大しか考えてない。俺たちをバカにする奴らには徹底的に対抗してやる。」
「でも、ちゃんと話せばわかり合える面もあると思うんだ…」
「お前は甘い! ずっと社会から無視されてきたの、忘れたのか? 誰も助けちゃくれなかったじゃないか。」
秋山は反論できずに黙り込む。しかし胸には、麻美の言葉と、自分自身の苦しみの両方が渦巻いている。
場面9:街頭・夜
数日後。秋山は、夜の街頭で一人立ち尽くしている。そこへ偶然、ビラ配りを終えた麻美が通りかかる。お互い気まずそうだが、秋山は意を決して話しかける。
「あの…あの日は、すみませんでした。僕はあなたたちを責めたいわけじゃないんです。苦しいのは自分だけじゃないって、頭ではわかってるんですけど…。」
麻美は微笑み、秋山にビラを差し出す。そこには「孤立を防ぐための居場所づくり」というイベントの案内が書かれている。
「よかったら来てみませんか? 女性向けのプログラムも多いけど、男性でも参加できるセッションがあるんです。私たち、もっと男性の困りごとも知りたいと思ってるの。」
秋山は戸惑いながらも、ビラを受け取る。ほんの少し、光が見えた気がした。
終幕:それぞれの一歩
公園のベンチに座り、ビラを見つめる秋山。遠くには街頭で呼びかける麻美たちの姿が見える。そこへ佐々木から電話がかかってくるが、秋山は一瞬ためらった後、電話には出ずに切る。そして意を決して、イベント参加を検討するかのようにスマホで検索を始めるのだった。
「“弱者男性”と呼ばれようと、“女性”と呼ばれようと、みんな孤独や不安を抱えている。同じように苦しんでいるなら、理解し合える道があるはずだ…。」
夜の街に、秋山の足音が小さく響いていく。まだ険しい道のりではあるが、小さな一歩が踏み出された。
終わり
本作は「弱者男性 vs. 女性」という単純な対立構図を描く一方、その先にある個々の葛藤や互いの声を知ろうとする姿勢を提示する。登場人物たちは必ずしも理解し合えたわけではないが、秋山のように少しずつ境遇の異なる人たちとの対話を試みることで、新たな関係を築いていく可能性を示している。
春の夕暮れ、中学三年生の私は塾からの帰り道を急いでいた。部活を引退してからは、志望校合格に向けて塾通いの日々。日が長くなったとはいえ、薄暗くなり始めるこの時間は、少し心細くなる。
いつもの帰り道、公園の脇を通ると、ベンチに座っている男の人が目に入った。年は30代くらいだろうか。黒縁の眼鏡をかけ、チェックのシャツにリュックという、いわゆる「オタク」と呼ばれる部類の服装だった。特に気にも留めず通り過ぎようとした時、その男の人がこちらをじっと見ていることに気づいた。
(気持ち悪い…)
そう思った瞬間、背筋がゾッとした。男の目は、まるで獲物を狙うかのようにギラギラと光っていた。私は早足でその場を離れようとした。
「あの…」
背後から声が聞こえた。無視して歩き続けようとしたが、男は追いかけてきた。
男はそう言いながら、ニヤニヤと笑った。その笑顔が、私にはどうしても不気味に思えた。
「すみません、急いでいるので…」
そう言って足早に立ち去ろうとしたが、男は私の腕を掴んだ。
「痛っ!」
咄嗟に振り払おうとしたが、男の力は強く、振りほどけない。恐怖で心臓がドキドキと高鳴った。
「お願い、ほんの少しでいいんだ。君に話したいことがあるんだ」
男は必死な様子でそう言った。その目は異様なほどに興奮していた。
「離してください!」
私は大声で叫んだ。幸い、近くの家から犬の吠える声が聞こえた。男は一瞬怯んだように手を離した。私はその隙に走り出した。
後ろから男の足音が聞こえたが、必死で走った。息が切れ、足がもつれそうになったが、なんとか大通りまでたどり着いた。人通りが多くなり、男も追いかけるのを諦めたようだった。
家に帰り着くと、私は震えが止まらなかった。母親に事情を話すと、母親は顔色を変えて警察に連絡してくれた。
警察官が家に来て、事情聴取を受けた。男の特徴や服装、遭遇した場所などを詳しく説明した。警察官は真剣な表情で話を聞き、パトロールを強化すると言ってくれた。
その夜は、恐怖でなかなか眠れなかった。男の顔が頭から離れず、何度も目が覚めた。
次の日、学校に行くと、友達に昨日の出来事を話した。友達は心配してくれ、一緒に帰ろうと言ってくれた。
それから数日間は、一人で歩くのが怖かった。常に周囲を警戒し、後ろを振り返りながら歩いた。塾の帰りも、母親が迎えに来てくれるようになった。
数日後、警察から連絡があった。似たような不審者情報が他にも寄せられており、警察が警戒を強めているとのことだった。しかし、まだ犯人は特定できていないという。
その後、数週間が経ち、私は少しずつ普段の生活を取り戻していった。しかし、あの男のことは、今でも鮮明に覚えている。あの時の恐怖は、決して忘れることはないだろう。
この経験を通して、私は改めて警戒心を持つことの大切さを学んだ。見知らぬ人に話しかけられた時は、安易に信用してはいけない。危険を感じたら、すぐに逃げる、大声を出す、周りの人に助けを求めるなどの行動を取ることが重要だ。
また、この出来事をきっかけに、地域の防犯活動にも関心を持つようになった。地域のパトロールに参加したり、防犯ブザーを持ち歩くようにしたりするなど、自分自身でできる防犯対策を講じるようになった。
後日談として、数ヶ月後、近所のスーパーで買い物をしていると、警察官が数人の男を囲んでいるのを見かけた。その中に、あの時の男がいた。遠くからだったので顔ははっきりとは見えなかったが、服装や体型から、あの男だと確信した。
後で警察に問い合わせたところ、やはりあの男だったとのことだった。他の女子中学生に対する声かけやつきまとい行為で逮捕されたらしい。
逮捕の知らせを聞いた時、安堵感とともに、改めて恐怖が蘇ってきた。もしあの時、私が逃げ遅れていたら…そう考えると、ゾッとした。
この経験は、私にとって大きなトラウマとなったが、同時に、自分の身を守るための大切な教訓を与えてくれた。私はこの経験を忘れず、常に警戒心を持ち、安全に過ごしていきたいと思う。そして、同じような被害に遭う人が一人でも減るように、この経験を周りの人に伝えていきたい。
「強欲な壺の顔したババア」って何者!?
町はずれの古道具屋に、ひっそりと佇む謎めいた存在をご存じだろうか。その名も「強欲な壺の顔したババア」。遠くからでもわかる、“ある意味” 強烈なインパクトが特徴で、最近この町で話題沸騰中だという。
1. 外見は強欲な壺の顔そのもの?
「強欲な壺」といえば、一部のカードゲーム好きなら誰もが思い浮かべる、ちょっと不気味な笑みを浮かべる緑色の壺だ。
ところが、そのババアの顔立ちはまさにあの壺そっくり。吊り上がった目とニヤリとした口元、そしてどこからともなく漂う「何か欲しそう」な雰囲気──。ここまで来ると、もはや“似てる”では済まされないレベルだという。
2. 実は町一番のコレクター
本人いわく、古道具屋の奥で「なんでも買い取る」らしい。買い取りの対象は、骨董品やレトロゲームだけにとどまらない。壊れたおもちゃや謎の石ころ、さらには「自分の悩み」まで買い取ってくれるというのだから驚きだ。
「まぁまぁ、それは良い品だねぇ。もうちょっと値段上げてもいいけど、あんたのその時計、私が預かるよ? どうせ使わないんだろ?」
と、妙に説得力のある口調でどんどん要求してくる。その結果、「いつの間にか自分の持ち物が半分くらい消えていた」と嘆く被害者(?)の噂が絶えない。
3. なぜ「強欲な壺の顔」なのか
噂によれば、彼女の生い立ちに秘密があるとか。若い頃はどちらかというと “世話焼きのお姉さん” タイプで、周囲にも気前よく振る舞っていたという。しかし、ある日を境に「もっといろんなものを集めたい」と貪欲になりはじめ、いつの間にかこの風貌になってしまったのだとか。
「欲深さが顔に出る」とは昔から言われる話だが、まさか“壺”そっくりの顔になるとは想像を超えている。
4. それでも憎めない?
被害に遭った人々が後日談を語るとき、不思議と怒りの感情があまり伝わってこないのも面白いところだ。
「あのおばあさん、確かにいろいろ持っていくけど、なぜか最後には元気が出るんだよね」
「本当に大切なものはちゃんと返してくれたし、なんかモヤモヤが吹き飛んだ感じ」
という証言が目立つ。どうやらただ奪うだけではなく、「いらない悩み」や「使い道のないプライド」まで根こそぎ買い取ってくれるらしい。そのおかげで、結果的に身軽になったと喜ぶ人もいるのだとか。
5. “欲望”との付き合い方を教えてくれる?
「強欲な壺の顔したババア」に出会った人は、彼女の強烈なインパクトとトークに押されつつも、最後には心が軽くなって帰るという。
“欲望”は誰の中にもあるもの。持ちすぎれば苦しくなるし、手放しすぎても前進できない。その絶妙なバランスを教えてくれるのが、実は彼女の正体なのかもしれない。
もっとも、いらないものと一緒に大事な財布まで渡さないよう、注意は必要だ。彼女のニヤリとした顔を見たら、一瞬で気持ちがグラつくかもしれない。噂によると「世の中のあらゆるものを欲している」そうなので、遭遇したときは油断禁物だ。
まとめ
一見ただの “欲深いババア” に見えるが、実は人の悩みや不安を買い取ってくれる救世主(?)なのかもしれない。「強欲な壺の顔したババア」は、私たちの欲望とどう向き合うか、さりげなく教えてくれる存在だ。
もしあなたも、抱えすぎて動けなくなっている“何か”があるなら、一度訪ねてみるといい。古道具屋の奥で、あの独特な笑みをたたえた顔が、あなたの足音をじっと待っているかもしれない。