洞窟へ―心とイメージのアルケオロジー/港千尋
先史時代の洞窟は人間の脳である。
有名なラスコーやアルタミラなどに代表される、先史時代の洞窟壁画は、僕らが想像するような意味では絵画ではない。それは暗く狭い洞窟の壁に描かれており、僕らが美術館やギャラリーで絵を観るような観方で観ることを拒むのだそうだ。つまり、その狭く暗い洞窟の内部には観賞に適切な距離がない。しかも、その観賞用とは思えない壁画が、洞窟の深い深い最奥部を選んで描かれているという。
見てはいけないものなのか。真の理由を明らかにすることはできないだろうが、わたしは、これらの極度に「引き」のない部分や、洞窟の最奥部を選んで描かれている図像は、眼で見るのではなく、記憶で見るためのものではないかという印象をもっている。
港千尋『洞窟へ―心とイメージのアルケオロジー』
では、観賞用に描かれたのではない、それらの洞窟はなぜ描かれたのか? 「記憶で見る」ことは、先史時代の人々にとって、どんな意味をもっていたのだろうか?
そうした洞窟壁画の謎に迫りつつ、先史時代の人々の心の進化を追っているのが本著である。