10万年の世界経済史/グレゴリー・クラーク
後のダーウィンの進化論にも影響を与えたことで知られる、1789年の『人口論』で、イギリスの経済学者であったトマス・ロバート・マルサスは、人口と経済の関係について、幾何級数的に増える人口と算術級数的にしか増えない食糧供給量の差は必然的に貧困を発生させ、これは社会制度の改良などでは回避することができないと論じています。
いわゆる「マルサスの罠」と呼ばれているものです。
本書において、著者のグレゴリー・クラークは、この「マルサスの罠」が、人類が誕生して間もない古代社会から1800年までを貫く経済原理として働いていたこと、それゆえに古代社会と1800年直前の社会を比べて、大きな人口の変化が見られなかったし、人口一人当たりの所得も増えなかったことを指摘しています。
つまり、産業革命以前の経済社会は決して、古代社会よりも豊かではなかったと書いているのです。
と同時に、クラークは、本書で、1800年を境に社会が一変して決定的な格差社会が確立したことを扱っています。「大いなる分岐」と呼ばれる富める国と貧しい国の格差が生まれたのが、世界が「マルサスの罠」を脱して以降であることを論じているのです。
以上のことは、下のようなグラフで単純に表すことができます。
このグラフの説明に、上下2巻を費やしたのが本書です。
「10万年の世界経済史」という大仰なタイトルがつけられていますが、クラークは別に、10万年の経済史などは論じていません。
あくまで原題は“A Farewell to …