江戸の本屋さん―近世文化史の側面/今田洋三
iPadの発売以来、急に電子書籍の話題が聞かれるようになりました。出版業界や印刷業界を中心に、具体的な動きも出始めています。
デジタルな本より紙の本のほうがいいなど、いろんな声も聞かれますが、紙の本がまったくなくなるという話ではないでしょうし、そもそもヘンリー・ペトロスキーの『本棚の歴史』(書評)や港千尋さんの『書物の変―グーグルベルグの時代』(書評)などを読んでもわかるように、本の形態などはこれまでの歴史のなかでも度々その形態を変化させています。
また、本の印刷、流通に関わる人々にとっては、電子書籍化は危機だといえるのでしょうけど、すくなくとも出版に関わる人にとっては実は危機とはいえないだろうと思います。
そもそも、出版や編集という仕事は、紙の本を商品として作る仕事ではないはずだからです。たとえば、江戸期の有名な出版人、蔦屋重三郎などは単に出版者であっただけでなく、歌麿や写楽、太田南畝や山東京伝を育て世に出した人でした。
そんなことを思いつつ、江戸期の出版について、いろいろと知らべてみようと思って、何冊か買った本のうちの一冊がこの今田洋三さんの『江戸の本屋さん―近世文化史の側面』でした。
江戸の出版業は田沼時代における、江戸をめぐる商業資本の発展、江戸住民の文化創造力の向上を背景として、画期的な発展を示した。画期的なという意味は、封建支配者の文化政策を分担したり、売れればよいというだけで自らの創造的見識をもりこむことの薄かった出版界で、出版が文化運動の一環としての意…