都市の詩学/田中純
本のなかには時に、何冊もの他の本へと誘ってくれるキーとなる本がある。
田中純さんによる『都市の詩学』という一冊もそうだ。
これまで、この本を起点として読んだ(読み途中のものも含め)本には、カルロ・ギンズブルグの『闇の歴史』、中井久夫『徴候・記憶・外傷』、ホルスト・ブレーデカンプ『ダーウィンの珊瑚』、アルド・ロッシ『自伝』の4冊がある。
どれも『都市の詩学』のなかで紹介されていて読んでみたくなった本なのだが、共通点があるのに気づいただろうか? どれも記憶あるいは歴史といったものを扱っているということに。
ギンズブルグと中井さんの本にはそれぞれタイトルに「歴史」や「記憶」があるからいうまでもないし、ダーウィンを扱ったブレーデカンプの一冊が進化論という大きな自然史を扱っていることもわかるだろう。そして、アルド・ロッシの『自伝』は彼の自分史である以上に、建築の記憶を探る本であったりする。
『都市の詩学』自体、サブタイトルに「場所の記憶と徴候」とあるとおり、それが過去に関する記憶や歴史のような記述だとか、それとは時間的には逆方向にある「徴候と予感」でも扱ったような未来に関する主観的な印しの発見のようなものを相手にしている。