専門性と地図の時代の終わりに
1962年発刊の古典的名著『グーテンベルクの銀河系』の冒頭、マーシャル・マクルーハンは『リア王』を引きながら、シェイクスピアがその作品の中で描いた17世紀初頭におけるスペシャリスト(専門家)の時代の到来について言及しています。
ただ王の名と
それに纏わる形だけはこの身に留めておく、
が、統治の実権、財産収入、その他いっさいの大権行使は、
よいか、挙げてお前らの手に委ねるぞ、
ウィリアム・シェイクスピア『リア王』
宮殿の王座の間に集まった3人の娘達や下臣たちの前で、リア王はこう宣言し、自らの権力や財産を娘や下臣たちに委譲しようとします。
マクルーハンは、シェイクスピアが描いたこの権限委譲と領土の分配のシーンに、スペシャリストの誕生を読み取ります。
自国の地図を手にし、”よいか、私の治下の領土を3つに分けた”と口にし、その領土を娘たちに分配しようとするリア王は、自らが娘や下臣とともに担っていた領土に関する権限や責任を細かく分割して譲渡することで、自らを含めた各人のスペシャリスト化を図ったのだと指摘するのです。