■ 勝たなければならない戦い2連敗中で17位のヴァンフォーレ甲府。昼間の試合で大宮が勝利しているだけに、何とかして勝利がほしい試合である。GK鶴田。DF杉山・秋本・池端・井上。MF林・藤田・宇留野・石原。アルベルトと茂原の2トップ。怪我の藤田は強行出場してきた。
対する横浜FMは、現在、公式戦6連敗中。GK榎本。DF田中隼・中沢・栗原・小宮山。MF河合・那須・山瀬功・山瀬幸。坂田と大島の2トップ。17歳のMF水沼が初のベンチ入りを果たした。
■ 痛いドロー試合は、双方が持ち味を発揮し合う中、前半20分に横浜FMが先制する。左サイドハーフに入ったMF那須のロングクロスをファーサイドのFW大島が頭で合わせてゴール。甲府のDF井上がマークにつききれず、大島にフリーでシュートを許した結果が、ゴールにつながった。
苦しくなった甲府だったが、しかし前半38分にFWアルベルトが決めて同点に追いつく。そのまま、1対1で終了。
後半も、甲府がポゼッションして横浜FMが縦に速いサッカーで対応するが、甲府は、後半30分にDF井上が2枚目のイエローカードで退場になる。
数的優位になった横浜FMは、MF水沼を投入。水沼のボレーシュートなど、再三、甲府のゴールを脅かすが、最後まで実らなかった。10人の甲府も、FWラドンチッチを投入し、勝ち越しを狙うが、うまくいかずにドローに終わった。
引き分けに終わったことで、甲府は、15位の大宮と16位の広島との勝ち点差が「4」になった。
■ いつも変わらないスタイル前節のG大阪戦で0対5という大敗を喫し、自動降格圏内に落ちてしまった甲府だったが、この日も、いつものショートパス主体の魅力的なサッカーを貫いた。
中盤でボールを奪うと、MF林を中心に細かいパス回しの連続で相手DFを翻弄し、アタッキングエリアに進入していく様は、他のチームには見られない独自のスタイルである。確かに、極めて非効率的なサッカーではあるが、自分たちのサッカーを貫く姿勢は高く評価できる。
甲府の年間予算は、J1でも最低レベルである。おそらく、J2に降格したら、収入は激減するだろうし、経営に行き詰る可能性もある。主力の流出も考えられるし、再び、J1に昇格することは、かなりの労力を要するだろう。J1の2年目を迎えて軌道に乗り始めたチームが、J2に落ちたとしたら、ゼロからのスタートを強いられる可能性もある。
だから、何としてでも甲府には、せっかくつかんだJ1という舞台に来シーズンも残ってほしいと思う。心情的には、無難なサッカーを選択して、したたかにJ1に残ってほしいという気持ちもあるが、それでは、ヴァンフォーレらしくないし、大木武らしくないとも感じる。
甲府のサッカーは、非常にリスクが高い。だから、リスクを減らすことも可能である。残念であるが、現代サッカーでは、「引いて守ってカウンター」というスタイルが、戦力の劣るチームが勝ち点を拾う最適な方法である。しかしながら、甲府のサッカーは、その対称にある。彼らのサッカーからは、「引いて守って勝ち点を拾うサッカーをしていって、いったい何が残るんですか?」という強烈なメッセージ性を感じるのである。
■ ヴァンフォーレの色Jリーグが開幕して、各チームに色がついてきた。G大阪だったら「攻撃的なサッカー」であるし、浦和レッズであれば「勝負強いサッカー」であるし。FC東京であれば「縦に早いサッカー」であり、清水エスパルスであれば「強烈なサイドアタック」である。これらのチームは、どんな監督になっても、ある程度は、そのチームカラーを継承したチームを作っていく。
ただ、残念なことに、明確なカラーの無いチームも存在する。こういったチームは、監督が変わるたびに、残留争いをするたびに、J2に降格するたびに、サッカースタイルをころころ変えた結果、どんなサッカーをしたいのか、どんなサッカーが求められているのかを見失ったままの状態であるといえる。
と考えると、幸いなことに、ヴァンフォーレ甲府には、明確なスタイルがある。正確に言うと、ヴァンフォーレスタイルのサッカーが、形成されつつある段階である。残留争いに巻き込まれているという厳しい状況ではあるが、芽生えつつある色を失ってほしくは無い。
■ 勝たないと評価されない部分もある。ただ、何事も結果が重要である、という考え方も一理ある。勝たなければ評価されないというのも、1つの考え方である。
とりあえず、残り試合は、全試合で勝利が求められる。
ショートパス主体という根本のスタイルは変わらないだろうが、それでも、いくつかの改善点は見られる。具体的には、「アタッキングエリアに入ってから手数をかけすぎること」や、「DF陣が不用意なイエローカードを受けることが多いこと」である。特に、後半戦に入って多くの試合でレッドカードを受けて数的不利な状況で試合を進めざる得ないことが多いが、幾分かは、防ぐことの出来るカードである。自分たちのサッカーを貫いたままで、細かい部分を修正して、試合に望んでほしいものである。
■ 新しい道に進む横浜FM一方、横浜FMはこれで7試合にわたって勝利が無い。この試合も、数的優位であったが、攻めきることは出来なかった。
試合を総括すると、内容的には良くも無かったし悪くも無かった。今シーズンの横浜FMの特徴の1つであるが、相手に合わせた柔軟なサッカーを見せることは無く、良くも悪くも、最後まで、自分たちのサッカーを貫いた。ある意味、今シーズンの象徴のような試合であった。
甲府くらいの規模のチームになると、自分たちのサッカーを貫くことは高く評価できるが、それが、横浜FMクラスのチームになると、自分たちのスタイルに誇示しすぎることは、高評価にはつながらない。
今シーズン限りで早野氏は退団が確定的というが、つなぎの監督としては良くやったが、限界も見えたということで、退任も致し方ないだろう。パワー不足の感のある前線にタレントをそろえられるかが、オフの課題であろう。
■ 新しい希望と不安今シーズンは、リーグ優勝に絡むことなくシーズンを終えようとしている横浜FMだが、優秀な若手選手がそろいつつあることは、未来に希望の持てる部分である。例えば、DF小宮山は新人ながら日本代表候補に選ばれる輝きを見せて、GK榎本やMF山瀬幸の台頭も目立った。さらには、MF乾やFWハーフナー・マイクらも、Jリーグで何試合かの経験をつんだ。
そして、MF水沼である。この試合でJリーグにデビューした高校3年生は、プロ初出場とは思えないほど、落ち着いたプレーを見せた。U-17の一員として、多くの国際舞台を踏んでいるだけあって、精神的にも成熟していて、技術的にもしっかりしている。お父さんのような華やかなプレースタイルではないが、実直なスタイルは、どのチームでも重宝されるだろう。
水沼は、将来性のある選手である。ただ、心配なので、横浜FMは、優勝争いに食い込んでいくことが義務付けられているチームなので、将来性はあるといっても、若手選手に経験を積ませる機会を作ることは容易ではないということである。
マリノスの歴史を振り返ってみても、若いころに十分な出場機会を与えることができずにプレーヤーとして成熟させられないままに終わったスター候補生も少なくなかった。
新監督は、元磐田の桑原氏が有力だというが、名門復活のために、十分な時間を与えてほしいと思う。それが、遠回りのようで、実は、近道だったりもする。
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