■ 史上初の快挙ブラジルW杯の開幕戦は開催国のブラジルとクロアチアの対戦となるが、その試合を任される審判団が発表されて、主審が西村雄一さんで、副審が相楽亨さんと名木利幸さんになった。前回の南アフリカW杯は西村さんと相楽さんと韓国人の鄭解相さんのセットだったので、日本人の審判団だけでW杯の試合を担当するのは史上初という。日本サッカー界にとっては非常にいい話である。
正直に言うと、主審はともかくとして、副審の人が優秀か?否か?を判断する能力は未だに持ち合わせていない。相楽さんと名木さんが副審としてどうなのか?という判断はできないが、W杯という舞台で、世界中から優秀とされる審判員が集まっている中、もっともプレッシャーのかかる開幕戦で日本人のセットが担当するというのは素晴らしい話であり、快挙と言えるだろう。
選手の質であったり、サポーターの質であったり、クラブ運営のあり方であったり、審判のレベルであったり、そういったものは何か1つだけが突出して良くなったり、悪くなることは考えにくい。環境が整備されると、すべての事柄が同じような進み具合でレベルアップすると思うので、日本サッカー全体が着実にレベルアップしてきて、審判の質も上がってきていることの証と言える。
■ 評価されにくい職業の1つ審判の評価というのは非常に難しい。正当に評価されにくい職業であり、大変な職業である。これはサッカーに限らず、あらゆるスポーツに共通する話と言えるが、「応援しているチームに不利なジャッジを下す審判=駄目な審判」と(無意識のうちに)認識してしまう人はいるし、「過去にいくつかの誤審騒動を起こしている審判=駄目な審判」と認識してしまう人もいる。
応援しているチームが敗れたとき、原因をどこに求めるのか。一番、楽なのは審判のせいにすることである。選手や監督のせいにするよりもはるかに簡単である。結局のところ、審判というのは正しいジャッジを下した場合でも批判されるときはあるし、不満の捌け口にされやすい役回りである。メンタル的に相当にタフな人でないと務まらない職業だと思うので尊敬の念もある。
サッカーに関して言うと、自チームに有利なジャッジが下された時はすぐに忘れてしまうが、PKやレッドカードなど自チームに不利なジャッジが下された時はいつまでも覚えているものである。不利を被ったときは記憶に残りやすい。どこか1つのクラブを熱狂的に応援している人は、意外とJリーグの審判員をフラットに評価できていない人が多いように感じるときもある。
西村さんに対しても、過去の誤審騒動などを持ち出して悪く言う人もいるが、これだけ世界的に認められている主審である。「Jリーグの試合で笛を吹いている西村さん」と「W杯など国際試合で笛を吹いている西村さん」が別人かというと、そんなことはない。ごく稀により大きな舞台になると力以上の能力が発揮できるようになる人もいるが、それは一部の特別な人のみである。
「西村さんのことは悪く言う人がサッカーを観る目がない。」というのはさすがに言い過ぎだと思うが、西村さんという世界でも有数の主審をどのように評価するか?で、その人が審判をフラットな視点で評価できる人なのか、はたまた、個人的な感情を排除できずに対象を評価してしまう人なのか、見極めることができる。分かりやすい判断基準の1つになると思う。
■ FWネイマールをどう裁くのか?小学生くらいの子供たちであれば仕方がないが、スタジアムで一定の年齢以上の人が個人的な感情丸出しで審判を罵倒している姿を観ると切なくなるが、何だかんだで日本のサッカーファンも観る目が肥えてきた。感情に任せて審判を評価する人は少なくなっており、審判のことを冷静に評価できる人は増えてきている。そして、そういう人が多くなると審判全体の質も向上してくると思う。
開幕戦の楽しみが1つ増えたと言えるが、不安に思うところもある。開催国のブラジルの試合なので、スタジアムは尋常ではない雰囲気になると思うが、こうなると相当なプレッシャーがかかる。ブラジルが3対0や4対1といったスコアで大勝するようだと審判団が注目されることもなく、無事に大役を終えることができるが、競った試合になるとサポーターもナーバスになるだろう。
当然、ブラジルは優勝候補の筆頭であるが、先日のセルビア戦を観るとチーム状態はそこまで良くないし、クロアチアも力のあるチームなので拮抗した展開になる可能性もある。そして、前回大会のブラジルとオランダの試合でブラジルのMFフェリペ・メロにレッドカードを提示していることは今日と明日のニュースで大きく取り上げられると思うので、その点が逆風になる可能性もある。
西村さんはJリーグの審判団の中では、ファールをあまり取らないタイプの主審で、プレーを流す傾向が強いが、FWネイマールに対するチャージをどう判定するか?が一番の注目ポイントになる。ボールを持ちたがる選手で、相手の集中マークにあうことが予想されるが、セルビア戦では大袈裟に倒れてピッチ上でコロコロコロコロコロコロ転げ回るシーンがいくつかあった。
ダイブに関しては自分の身を守る意味合いもあるので否定はしないが、ダイブまがいのプレーがあったとき、どう裁くのか。FWネイマールは必要以上に痛がって審判にアピールするタイプの選手であるが、そういうときにノーファールを宣告すると、正しい判定であったとしてもブラジルのサポーターで埋まったスタンドから大ブーイングが起こる可能性は十二分に考えられる。
そして、当然のことながら、W杯の開幕戦なので今大会のジャッジ基準を示さなければならない。上層部からは「できるだけダイブは取らないように。」というアドバイスを受けると思うが、果たしてどうなるか。開幕戦のジャッジ基準がその後の全ての試合に効いてくるので、ある意味では準決勝や決勝の審判よりも大事になってくるが、それだけFIFAから高く評価されているのだろう。
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