■ デビューの頃 17歳でプロ契約を結ぶと、18歳にしてセレッソ大阪でレギュラーポジションを獲得した日本代表MF香川真司。すでに国際Aマッチで6試合に出場している攻撃的MFであるが、もともとはボランチの選手だったということはよく知られている通りである。少し前のインタビューでも、「常にゲームに絡むことができるので、将来的にはボランチでプレーしたい。」と語っている。
初めてMF香川のプレーを見たのは、2006年秋のU-19アジアユースの時だった。このときのポジションは右のアウトサイド。プロ1年目であり、年代で言うと高校3年生のときだった。
セレッソ大阪でリーグ戦デビューを果たしたのは、プロ2年目の2007年の4月7日のサガン鳥栖戦。当時の監督は都並敏史氏。彼が、FW柿谷曜一朗、MF中山昇、FW苔口卓也といった20歳前後の若手を積極的に起用したが、18歳のMF香川にも出番が回ってきた。このときのポジションはボランチであった。
■ 2つの幸運 これまでの3年のプロキャリアを振り返ってみると、出場機会を勝ち取る上で、結果的に幸運といえることが2つあった。
1つは、プロ1年目のシーズンにチームがJ2に降格したこと。そのため、FW大久保、MF下村ら主力選手が他クラブに流出し、若手を使わざる得ない環境となった。もう1つは、ミスターセレッソのMF森島が2007年3月から原因不明の病のため、長期にわたってピッチを離れなければならなかったこと。
もし、2007年シーズンもチームがJ1で戦っていたならば主力の流出は考えられず、また、同じポジションで役割の近いMF森島寛晃が健在であったなら、ポジションを確保するのは、ずっと後になっていただろう。
■ 日々の進化 「彼の持ち味は何なのか?」を一言で表現するのは簡単では無い。
2007年シーズンの後半は左の攻撃的MFのポジションで、左サイドからドリブルで仕掛けて相手DFを切り崩すが主な役割であった。このシーズンは5ゴール10アシスト。チャンスメーカーとしての活躍が光った。
時間が経過して2008年シーズンの後半は、1トップ下の2シャドーの位置で積極的にゴールに絡むプレーが多かった。 16ゴール10アシスト。記録上は、ゴール数が大幅に増えた。
五輪代表選出やA代表選出と、端から見ると順風満帆に見えた2008年シーズンだったが、実際には、非常に苦労していた。特に北京五輪の前の時期はどん底であった。日本代表に招集されて相手マークが厳しくなるにつれて、最も得意としていた左サイドでボールを持った時の縦方向へのドリブル突破がほとんど見られなくなった。
その理由は、相手がサイドバック1枚だけでなく2枚・3枚で分厚く守ろうとしてきたからという相手方の理由と、自身のコンディションが万全ではなかったという理由がある。この頃は、サイドから中央に切れ込んでフィニッシュまで持って行くというするプレーが得意では無かった。サイドを封じられて、已む無く中央に切れ込むが相手にストップされる、というシーンが多かった。1つの壁にぶち当たった。
ただ、北京五輪から帰って来た後、数試合でその課題を解決して見せた。 それは数字でも明らかで、中に切れ込んで、そのままフィニッシュまでいってゴールにつなげるというシーンが大幅に増えた。少し前までは課題だったシュート精度の低さも、ほとんど改善されてしまったかのように思える。
ドリブル、パス、シュートといった目に見える技術ではなく、目の前にある課題を短時間に解決できることが最大の持ち味といえるかもしれない。 シーズン終盤のプレーは、夏頃のプレーとは別人のようであった。
| 試合数 | 出場時間(分) | ゴール数 | シュート数 | 平均シュート数 |
五輪前 | 22 | 1935 | 4 | 39 | 1.81 |
五輪後 | 13 | 1168 | 12 | 51 | 3.93 |
■ 判断力と運動量 ドリブルやラストパスのセンスがクローズアップされることが多いが、それだけであれば、他にも優れた技量をもつ選手はいる。彼の良さは、それらの武器を生かす術を心得ていることであり、判断の正確さやボールを引き出すための運動量の多さが、他者よりも優れていると感じる。だから、継続して好プレーを披露することが可能となっている。
2007年夏の以降、C大阪でポジションを確保したが、このとき、「これまでにはいなかったタイプのドリブラーが現れた。」と思った。それ以降、プレースタイルも変貌しているので、そのときの印象がそのままというわけでは無いが、従来の日本人にはいない進化形の未来型のプレーヤーであることは間違いない。
■ パートナーの存在 レギュラー定着以後、MF古橋、MF濱田、MF酒本、MF柿谷ら多くの選手がMF香川の逆サイド(右攻撃的MF)に起用されたが、いずれもフィットしなかった。どうしてもMF香川のいる左サイド中心の試合展開になる中で、右サイドの選手は存在感を発揮することは難しかった。
長い苦難の末、そのポジションにはまったのが、横浜FMからレンタルで加入したM乾貴士であった。同い年であったことも功を奏したのか、2人は抜群のコンビネーションを披露して見せた。年末にはMF乾も日本代表候補に招集される。これは異例のことである。
「将来の日本代表の中心に・・・」という期待も大きい。が、そのプレースタイルから言うと、チームの中心として攻撃の全権を握るようなタイプでは無く、むしろ、中心となる選手の周囲で活動して、チームを動かすタイプの選手であるように思える。
将来的にいつまでセレッソ大阪にとどまるのか分からないが、MF乾とMF香川が組む時は、MF乾が主導権を握って攻撃を行うのが理想である。もちろん、この1年半の間、C大阪の攻撃の中心としてプレーした経験は素晴らしい財産であり、こと攻撃に関しては十分に機能しているが、MF香川のスペックであれば黒子役であっても、(黒子役であった方が、)チームにプラス効果を与えるのではないだろうか、と推測する。
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今の日本代表に必要な選手を考えると・・・。
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