■ 決勝戦第21回のナビスコカップの決勝戦が国立競技場で開催された。2011年以来で5回目の決勝進出となる浦和レッズと、1999年以来で2回目の決勝進出となる柏レイソルの対戦となった。10月28日(日)に行われたJ1の第30節でも両チームは顔を合わせているが、このときは2対1で浦和が勝利している。国立競技場は2020年の東京五輪に向けて改修工事が始まるので、今の国立競技場でファイナルを行うのは、今年の対戦が最後となる。
2度目のナビスコ制覇を目指す浦和は「3-4-2-1」。GK山岸。DF森脇、那須、槙野。MF鈴木啓、阿部、平川、宇賀神、柏木、原口。FW興梠。こちらは現時点でのベストメンバーがスタメンに名を連ねた。リーグ戦ではFW興梠とMF原口が10ゴール、DF那須とMF柏木が8ゴールを挙げている。MF柏木は腰痛を抱えながらプレーを続けているが、30節の柏戦(H)では2ゴールを挙げてチームを勝利に導いた。
同じく2度目のナビスコ制覇を目指す柏は「3-4-2-1」。GK菅野。DF谷口、近藤、渡部。MF栗澤、茨田、藤田優、ジョルジ・ワグネル、工藤、レアンドロ・ドミンゲス。FWクレオ。こちらはMF大谷とDF橋本が出場停止で、DF鈴木大とDF山中とDFキム・チャンスが怪我で欠場となったので、DF谷口が最終ラインに入るなど苦しい布陣となった。大黒柱のMFレアンドロ・ドミンゲスは久々のスタメンとなる。FW田中順はベンチスタートとなった。
■ 1対0で柏が逃げ切る試合は浦和ペースで進んでいく。フルメンバーとはほぼ遠い柏は守備の意識が高くて、最終ラインが5枚になって引いて守るシーンが多いため、必然的に浦和がボールを保持する時間が長くなる。しかしながら、前半47分に柏の右WBのMF藤田優がストレート系の鋭いボールをファーサイドに送ると、マークを外してフリーになったMF工藤がうまく頭で合わせて劣勢だった柏が先制ゴールを奪う。前半は1対0と柏がリードして折り返す。
後半も立ち上がりは浦和がボールを保持して攻め込むが、後半20分あたりを過ぎると前掛かりになった浦和の最終ラインの裏を突いて柏がカウンターからチャンスを作るようになる。浦和は何度か大ピンチを迎えたが、ベテランのGK山岸のファインセーブもあって1点差を保つと、後半終了間際にゴール前の混戦からFW興梠が左足でネットを揺らすが、これはオフサイドの判定で同点ゴールは認められない。
結局、試合は1対0で柏が逃げ切って1999年以来となる2度目のナビスコ制覇を果たした。柏は2度目の決勝進出だったが、2度ともファイナルで勝利している。MVPには前半ロスタイムに値千金の決勝ゴールを決めたFW工藤が選出されて、ニューヒーロー賞には横浜FMのMF齋藤学が選出された。一方の浦和は5度目の決勝進出だったが、またしても決勝で敗れた。決勝戦の成績は5試合で1勝4敗なので相性はあまり良くない。
■ 大一番でエースの働き満身創痍の柏に対して、浦和は怪我や出場停止で主力を欠くことはなかったので、「浦和有利」という前評判だったが、見事に柏が下馬評を覆した。前半はなかなかペースを握れなかったが、ロスタイムにMF工藤がネットを揺らすと、後半は、むしろ柏の方がたくさんの決定機を作った。ACLでもしんどい試合を制してベスト4まで勝ち上がったが、ビッグマッチをたくさんこなしたことで、チームとしての経験値を積み重ねて「勝負強さ」を身に付けつつある。
決勝ゴールを奪ったのはMF工藤だったが、大一番でエースの働きを見せた。前半はほとんどシュートチャンスがなかったので、柏にとっては「最初の決定機」だったと思うが、うまく頭で合わせてネットを揺らした。今シーズンは日本代表にも選出されて東アジアカップの中国戦とキリンチャレンジカップのグアテマラ戦でゴールを決めているが、得点感覚の鋭さに磨きがかかっていて、日本人で有数の点取り屋となった。
要注意人物のDF槙野と顔を合わせる右サイドでプレーしたが、守備での貢献度も高かった。MF藤田優が前半途中に負傷して後半開始からMF太田が右WBに入ったが、MF太田は攻撃に持ち味のある選手なので、DF槙野のドリブルに翻弄されるシーンもあった。1対1になるとやられそうな雰囲気もあったが、うまい具合にMF太田をサポートした。守備をこなしつつ、ゴール前で得点に絡むことができるので、プレーヤーとしての価値は高い。
■ オフサイドでゴールは取り消し「同点ゴールか!?」と思われたFW興梠のシュートには柏の関係者は肝を冷やしたと思うが、オフサイドの判定で救われた。ただ、リプレーを見ると、明らかにFW興梠はオフサイドポジションでボールを受けているので、主審と副審のジャッジは正しかったと言える。ファイナルという舞台は熱くなりやすいこともあって、浦和のDF森脇やDF槙野は前半の早い段階から興奮している様子が伺えたが、扇谷レフェリーはうまく試合をコントロールできたと言える。
「幻のゴール」となったシーンは、副審にとっては難しい状況だった。FW興梠のポジションが柏の最終ラインよりも前に出ていたことは認識していたが、すぐに旗を上げなかったのは、「跳ね返ったボールが柏の選手に当たったのか、浦和の選手に当たったのか、副審の位置からは判断できなかったから。」だと想像できるが、確かにゴール前は混戦になっていたので、副審の位置からはっきり見えなかったとしても仕方がない。
もちろん、「すぐに旗を上げるべきだったのではないか?」という気もするが、どちらの選手に当たったのか、あやふやなままで旗を上げてプレーが途切れてしまうのは、好ましくない。今回は、FW興梠のシュートがネットを揺らしたため、すぐにプレーが途切れたが、プレーが続いていくことも十分に考えられる。どうするのが副審にとってベストな行動だったのか、難しいところであるが、今回は、主審と協力してベターな対応はできたのではないかと思う。
■ 下馬評は有利だったが・・・一方の浦和は2011年に続いて決勝で敗れてしまった。試合前は「浦和有利」という声が多くて、選手も、サポーターも、久々のタイトル獲得に向けて気合いも入っていた。満身創痍の柏に対して、浦和は万全に近い状態でファイナルの舞台に立つことができたので、2007年にACLを制覇して以来となるタイトル獲得のチャンスが膨らんだかと思われたが、柏のしたたかな戦いの前にゴールを奪うことはできなかった。
柏のキーパーのGK菅野がファインセーブで防ぐようなシーンというのはほとんどなかったので、決定機は多くなかったが、それなりにゴール前に迫ることができた。前半からMF原口のドリブルがアクセントになっており、攻撃の流れ自体はそれほど悪くなかったと思うが、あれだけ人数をかけて守られると、コンビネーションで相手の守備網を崩していくプレーがベースとなる浦和としては苦しくなる。
浦和サポーターにとって、結果は残念なものになったが、国立競技場の雰囲気は非常に良かった。ともに「サポーターの熱さ」に定評のあるチームであるが、恒例となっている(ゴール裏の)コレオグラフィーは鮮やかで、ファイナル特有の緊張感もあった。国立競技場は改修工事がスタートするので、来シーズン以降、どうなるのかは分からないが、現状の形の決勝戦のラストを締めくくるにふさわしい「いい雰囲気の中のいい試合」となった。
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