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「聲の形」感想-監督:山田尚子語録にみるヴィヴィッドな感性 

はじめに

劇場アニメ「聲の形」を鑑賞。

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京都アニメーション制作、山田尚子監督作品。
今までは京アニ制作の劇場アニメは、TVアニメ化されて劇場アニメとなっていたが、
本作は最初から劇場アニメとして制作されている。

全2269カット、芝居・背景・色彩の細部まで行き届いた仕上がりであり、
毎度のことながら京アニの制作力の高さに舌を巻くばかりだ。

特に本作は、聴覚障害を持つ西宮硝子の設定上、
手話でのやり取りが作品の特徴になっている。

手から指の細やかな動き、手の様々な形を見せる、
手の芝居とともにキャラの表情芝居にもリンクさせて見せるなど
アニメーションでは難度が高そうであろう手話を
ここまで徹底して作画したことにも頭が下がる。

花は手であり、キャラクターである

さて、そんな手話シーンについて
監督の山田尚子さんは

「手は花であり、一つのキャラクターである」
(出典:映画 聲の形 公式パンフレット)

と語っている。


私は驚いた。手を花にキャラクターに見立てる
山田尚子さんに感性の鋭さに。

確かに様々な形を持たせることができる手は花であり、キャラクターだ。
そして手を花、キャラクターとして見るなら
一見地味な手話のシーンも、後で思い返せば華やかにすら感じられる。

手は花でありキャラだったのだ。
私は山田さんのこの言葉は、極めて自身の作品を批評的に捉えているとも感じた。

さらにいえば山田さんは、監督処女作「けいおん!」から
キャラクターの脚を描いてきた方である。
今回の「聲の形」という原作を通し、脚と対をなす手を表現手段として
取り込んできたとも見ることができる。

山田さんのアニメでの表現の伝え方については以下のように語っている。

──硝子にはセリフがほとんど無いわけですが、キャラクターを描いていく上での難しさなどはなかったのですか?
山田 どうなんでしょう……。アニメって伝えるための手段の塊で。そのすべてが一つ一つのパーツとして分解できると思うんですよ。動き、色、カット割りとか。その中に声もあるのですが、私はそのどれもが同列のものだと思っているので。声という要素が無いからといって、伝えるという部分が揺らぐとは思っていませんでした。


出典:「聲の形」山田尚子監督に聞く。気をつかったり同情したり、何なら可哀想だと思ったりするのは大間違いだ
エキサイトレビュー

アニメはキャラクターの手・脚を通していくらでも伝えることができる。
私はアニメで手の芝居が効果的な手法だと知ったのは
「新世紀エヴァンゲリオン」だったが「聲の形」は
改めて手の芝居の大切さを感じさせてくれた。


山田尚子語録

他にもパンフレットやネットでの記事では
山田さんの作品へのディレクションに関して面白い言葉が掲載されている。

①作品の舞台を描く背景に関して

「キャラクターの演技は2.5次元。背景は2.7次元」
(出典:映画 聲の形 公式パンフレット)

本作を2次元と3次元の中間で捉え、
背景は3次元(写実)に近い感じで考えているのが興味深い。


②吉田玲子さんへのインタビューでの
本作をどのような構成にしたかという問いに

(監督から)「観た人が許されるような映画にしたい」
(出典:映画 聲の形 公式パンフレット)

子供時代のいじめによって、いびつになった人間関係は
修復し発展できるのかという難しい題材だからこそ、
最終的には許しで終えたいというのが本作の骨子なのだろう。


③もがく将也の演技について

「大きな小動物が怯えているイメージで」 
(出典:映画 聲の形 公式パンフレット)

「でっかいハムスターみたいな感じ」
(出典:映画「聲の形」公開!入野自由と山田尚子が「将也はでっかいハムスター」、コミックナタリーより)

大きくても小さい、そんな矛盾を抱えた存在として将也を捉えることで
キャラクターの厚みを持たせようとしていたのかもしれない。


④子供時代の将也の演技について

松岡が「監督から『(小学生時代の将也は)ハンバーグって感じでお願いします。』」(中略)
(出典:映画「聲の形」公開!入野自由と山田尚子が「将也はでっかいハムスター」、コミックナタリーより)

ハンバーグとは子供の純粋に好きなものの例えなのだろうか…


⑤音について

「きこえ」としての音だけでなく、物質としての音、人の生理に訴える音を大切にしたい」
(出典:映画 聲の形 公式サイト 牛尾憲輔インタビュー)

本編で繰り返し波紋のイメージもまた、音の大切さを訴えるものであろう。


おわりに

以上のような山田尚子監督の言葉を聞くと、
山田さんの感性の凄さ、作品作りへの言葉の使い方にただただ感心してしまう。

「たまこラブストーリー」では、才気溢れた若き監督の情熱的なフィルムだと感じたが
「聲の形」は「たまこラ」から圧倒的に成熟した監督の内に秘めた情熱的なフィルムだと感じ、
さらなる山田尚子監督の飛躍性を感じずにはいられなかった。
次の監督作品(TVシリーズ?劇場?)が楽しみだ。
 
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[ 2016/09/18 20:16 ] ニュース | TB(0) | CM(0)
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