はじめに
「響け!ユーフォニアム」11話で秀逸だったのは、
再オーディション時に、どちらがソロにふさわしいか、
滝先生が演奏後の拍手で決めようと提案したのに、
結局は麗奈と香織のどちらにも拍手をしない部員達の描写。
私は、この部員達の描き方に色々感じてしまった。
拍手をする人、しない人
まず拍手をしないというのは、正しい言い方ではないのかもしれない。
拍手ができなかったという方が正しいのかもしれない。
おそらく多数の部員達が拍手をできなかったのは、
どちらにも与することができないという気持ちが、
部員達の中で支配していたからだろう。
明らかに、両者の演奏後の場の空気や部員の反応を見る限り
麗奈の演奏の方が香織を上回っている事は確かだ。
香織の最大の支持者の優子ですら、麗奈の演奏に観念していた。
だからといって、部員達が麗奈に拍手を送ることをしない。
それは麗奈に与する動機が殆どの部員にはないから。
もっといえば麗奈に拍手をしても、自分の得にはならないから。
唯一麗奈に対して思いがあるのが久美子であり、
だからこそ久美子は麗奈に拍手を送る。
この久美子の拍手に心を打たれるのは、
どちらに与するかを躊躇う空気の中、
堂々と自分の態度を表明しているからである。
ここに久美子と麗奈の関係の深まりを大いに感じさせる。
私は久美子に対して日和見的な印象があったが、
麗奈との交流を通して、徐々に変化しつつあるように感じた。
こうした変化を見られるのも、面白い理由の一つだろう。
逆に香織には、憧れを抱く優子、友人である晴香が拍手を送る。
この二人も自分の立場を表明しているが、
晴香は座って拍手をしている点で、
立って拍手を送る優子よりかは堂々としていない。
この事は麗奈に対し、久美子が拍手をしたから
続いて拍手を送った葉月にもいえるだろう。
拍手をしない人の心理ー組織の中での選択
一方で軽々しく拍手をしない部員達の反応もまた
私の中では現実の人間にありそうな反応に感じられた。
人はメリットの無い選択を避ける傾向をもつ人もいる。
もしくはデメリットに繋がる可能性が選択を避ける人もいる。
特に組織に属していると、自己の選択・意思表明が
自己のデメリットに繋がる可能性がある。
こうした事を回避するには、選択しない・意思表示をしない
という事がベターな選択肢になる。
さらにこうした空気が蔓延すれば、よりそちらの選択肢に向かう。
過去の吹奏楽部は、一部の部員が後輩の部員を無視するなどのいじめや
滝先生が来るまでは、決して精力的ではなかった点も含めて
決して吹奏楽部が組織として順調に発展してきたものとはいえないと思う。
そもそものこの再オーディションが、一部の部員の滝先生への不信感から
始まったものである点でも、吹奏楽部が組織として揺れ動いていることの証明だろう。
そうした過去の流れ、組織として順調に発達していない点が
拍手をしない、立場を表明しない事が安全であるという
大多数の部員達の選択に繋がったのだろうと感じた。
選択しないことで起こる悲劇ー香織の態度
この選択をしない部員達の選択に、滝先生は香織に対し
「あなたがソロを吹きますか」と問い詰める。
部員達が選択をしなかったために、滝先生が香織自ら引導を渡すフラグを立てるのだ。
これは部員達が選択しなかっという選択が起こした悲劇といえるだろう。
もし部員達がどちらかに選択する意思をハッキリ見せたら、
滝先生は香織に問い詰めることはしなかっただろう。
その意味では選択しないこと、悲劇やより悪い方向へ向かう可能性が
あることが示唆された印象を受けた。
そして香織は毅然に「高坂さんがソロにふさわしいです」と答える。
滝先生の引導に応えた形だ。この香織の態度は良かった。
香織の態度がよかったから、問題はこれ以上こじれなかった。
おそらく滝先生も香織であればわかってくれるはずだという計算もあったはずだ。
まとめ
デメリットに繋がる可能性がある選択肢を避ける、
結果はわかってはいても意思表示を組織内で示したくないという
人の気持ちの奥底を、この再オーディションの部員達の反応が見せてくれたと思う。
異なる考え方、異なる感じ方の人間が吹奏楽部という組織の中、
一致団結して目標に向かって目指すのは容易ではない。
この困難さを拍手をしない部員達が表していたとも言える。
そしてそんな空気の中に、演奏者に対してはっきりとした意思表示を示した
久美子、優子の態度は物語に成り得るのだろうとも思った。
組織がそんな簡単には一つにまとまらない難しさ、
場の空気に流されてしまい、積極的に選択できない難しさ、
人々が様々な出来事を通して起こる感情のもつれあいを
「響け!ユーフォニアム」は描いているから、面白いのだろう。