子供の頃大好きだった「名探偵ホームズ」。ダカーポのOPとED曲が印象的でもあった。
この作品に宮崎駿が関わってた事を知るのは大人になってから。
特に絵コンテ・演出担当の5話を見返すと、躍動感のある映像で思わずため息が出てしまう。
という事で宮崎駿が関わった5話のレビューを行いたい。
名探偵ホームズ 第5話「青い紅玉(ルビー)」
脚本:片渕須直 絵コンテ・演出:宮崎駿 作画監督:近藤喜文
原画:友永和秀 二木真希子 山内昇寿郎 遠藤正明
正直、最強にも程がある面々。特に脚本が片渕須直だったのがビックリ。
「マイマイ新子と千年の魔法」の監督でようやく認知されてきたのが嬉しい。
まずはモブシーン2つ。このシーンは市街に恐竜型の飛行機が突然現れて、
モブ(市民)が驚いている場面。モブは画一的では無く、それぞれキャラ性を持って
生き生きと描かれている。驚き方の表情も微妙に違う所にも注目。
こういうモブシーンは日本のアニメ界では一番上手いのではと感心。
モブをきちんと描くのはマンガ界でのモブの大家、手塚治虫の影響だと思う。
敵の教授がホームズを追いかけるシーン。
細い路地からカメラを映しているが、手前中央に猫を配置するレイアウトが素晴らしい。
この猫がいるといないとでは画面の充実度や緊張感が違うのは明らか。
宮崎のレイアウトの上手さはこういう所一つとっても如何無く発揮されている。
宮崎の食べ物に対する愛情がにじみ出ているカット。
よく見るとデタラメな料理だが、これが美味しそうに見えるのが宮崎の凄さ。
夏目房之助によると、美味しそうに食べ物が描けるかは、
技量ではなく、作家が持つ資質に影響されると言ってるが、
資質があって技量がある人が手掛けると、こうまで威力があるのだと実感。
美味しそうに見えるだけでなく、美味しそうに食べているこの恍惚な表情。
こうした積み重ねが視聴者を魅力的な作品世界へ誘う事に繋がる。
この積み重ねが演出という仕事だと思う。
左がヒロインのハドソン夫人。非常に可愛い。
この作品のキャラ達は犬を擬人化したデザインなのだが、
犬を擬人化したキャラが可愛いのは、特殊なセンスが無ければ成立しえないだろう。
もう一人映っている小さいキャラも含めて、宮崎の少女的趣味が垣間見えるシーンである。
敵の教授の子分二人が自分達のアジトに帰ったシーン。
背景の描き込みが素晴らしい。どんな生活を送ると、こんなに汚くなるのか。
興味が沸いてくるカットである。こうした生活感のあるカットも宮崎のお得意技。
ホームズが乗っている車のエンジンがショートし、煙をあげているシーン。
画面にパースをつけながら、煙を2色で立体的に見せている。
磯光雄がまだ出てきていない当時とすると立体的な部類であり、
これでも十分に表現的にも魅力的な描き方だと思う。
宮崎駿は本質的に躍動感・軽妙なアクションの人だ。
この部分が純粋に発揮されている5話は見事!!の一言に尽きる。
この面白さは理屈抜き。
名探偵ホームズは宮崎のTVアニメにおける最後の仕事。
個人的に彼の仕事は遡れば遡るほど宮崎は凄いと感じているのだが、
このホームズまでぐらいが文句無く評価できる時期なのかなぁと改めて感じる。
全盛期は「未来少年コナン」「カリオストロの城」だとは思うが。