・原作の位置づけレベルEは1995年、冨樫義博原作で少年ジャンプに掲載された作品だ。
通常、少年ジャンプの作品は読み切り作品を除けば、
週刊連載が義務付けられたかのように全ての作品が連載されているが、
このレベルEは月に1本というペースという連載パターンであった。
今でこそ少年ジャンプの作品はたまに休載も見られるようになったが、
当時のジャンプでは休載などという言葉が殆ど無かった時代の中で
月1ペースでの連載は破格につぐ破格の待遇であった。
・幽☆遊☆白書についてではなぜ月1本というペースになったのか。
それは冨樫がレベルEの前に連載していた幽☆遊☆白書に触れる必要がある。
幽☆遊☆白書は少年ジャンプにて1990年から94年まで連載。
冨樫にとっての2本目の連載作品だった。
この幽遊白書が空前の大ヒット。
単行本の累計発行部数は4700万部(全18巻)に達し、
当時「ドラゴンボール」「スラムダンク」と合わせて
ジャンプの3本柱とまで言われるほどの人気を獲得。
アニメ化もされ、全110話の平均視聴率が17.6%という高視聴率をマークしている。
・幽☆遊☆白書の終了ただこの作品は唐突ともいえる形で終了している。
この作品の人気もまだまだ高かった頃、魔界統一トーナメントという、
全ての登場キャラの中で最強を決めるというイベントがあった。
しかしこのトーナメント展開は殆ど描かれずにトーナメントはあっさり終了。
今までの登場キャラが勢ぞろいし、トーナメント争いする様を
楽しみにしていたファンを驚かせる内容になった。
そして魔界統一トーナメント編から、10本ぐらい連載を経て連載は終了。
あれほど、バトル展開で盛り上がっていたのが嘘のように静かに終了した。
・幽☆遊☆白書が終わった原因では、なぜ連載は終了したのか。
冨樫が94年の冬のコミケで配った同人誌によると「持病の悪化と作品をこれ以上続けても
読者に飽きるまで繰り返す展開になるので強引に止めた」と述べている。
・少年ジャンプのシステムによる冨樫義博の成長と変遷ではなぜ冨樫は「作品をこれ以上続けても読者に飽きるまで
繰り返す展開になるので強引に止めた」を理由に連載を終了したのか。
これは作家としての冨樫の価値観の変容が挙げられる。
結論から言おう。冨樫の作家性が幽☆遊☆白書という作品の器を越えたからだ。
もっといえば幽☆遊☆白書という作品の連載を続けていく事で冨樫が成長し、
自分のやりたい事と幽☆遊☆白書の連載の中でやらなければいけない事に
齟齬が生じてきたのだ。だから冨樫は幽☆遊☆白書を切ったのだ。
少年ジャンプは日本で一番売れる少年漫画雑誌であり、
バクマンでも取り上げられているようアンケート至上主義による
毎週毎週作家同士がバトルしている世界である。
このバトルに打ち負けれ者もいれば、冨樫のように富と名声を手に入れるものもいる。
この苛酷な環境は多くの作家を消耗させ時には再起不能にさせるが、
これに打ち勝ったものは、例外なく作家として成長するのだ。
冨樫もこの例に洩れず、幽☆遊☆白書の作品の成功によって作家として大きく成長した。
しかしその成長の中で、冨樫の中に新たなる作家性が生じてしまったのだ。
それは幽☆遊☆白書で展開された世界観や価値観をひっくり返すものであり、
幽☆遊☆白書という物語にも大きく映し出される事になった。
・幽☆遊☆白書の中での冨樫の価値観の変遷では、実際に幽☆遊☆白書の物語はどう変化していったのか。
この物語は主人公である浦飯幽助が一度死んで霊界に命を救われ、
霊界探偵として再び蘇り、人間界で暴れる魔界の妖怪達と戦うというのが骨子だ。
つまり霊界・人間=正義 魔界(妖怪)=悪という構図で物語は進んでいく。
しかし、物語が進むに連れて、目立つのは悪側に対する作家の感情移入であった。
特に強さを追い求め破滅する戸愚呂弟、人格破滅者の左京の登場によって、
物語は彼らの価値観の方が正しく見えるような展開になってくる。
最初・正義で描かれていた人間側も、妖怪に対する非道な行為を行う描写が増えるなど
物語を支えていた主人公側=正義 敵側=悪という構造が機能しなくなってくるのだ。
そして仙水という敵キャラの登場によって、物語の価値観は逆転する。
主人公が戦ってきたのは妖怪だったのが彼は人間なのだ。
仙水は魔界と人間界を繋ぐ事を望む。その目的は魔界で死ぬ事だったのだ。
仙水も主人公と同じ霊界探偵で正義感の強い人間だったが、
人間が妖怪に対して残虐な行為を見てしまった事によって、
本当に悪いのは妖怪ではなく、人間であるという考えに至った男だ。
つまり仙水の登場によって人間=正義 魔界(妖怪)=悪の構図が崩壊したのだ。
・冨樫の成長による作品の終了というように最初は勧善懲悪的少年漫画の王道をひた走っていた作品だったのが
冨樫は連載を重ねることで作家として成長し、勧善懲悪に収まらない作家性を有した。
しかし皮肉にもこの成長で、幽☆遊☆白書の世界観とかけ離れた作家性になってしまった。
成長した冨樫には自分の書きたいものが幽☆遊☆白書で書けなくなったのだろう。
ただ冨樫は成長したが、一方で連載の激務でボロボロになってしまったのだろう。
だからこそ連載を自らの手で終了させたのである。
・そしてレベルEへ幽☆遊☆白書終了後、冨樫はしばらく沈黙していた。
当時は情報が殆ど出回らないために、冨樫は連載によって壊されたとまで噂されていた。
しかしほぼ幽☆遊☆白書の連載から1年。このレベルEで颯爽と復活したのだ!!
しかも月1ペースの連載で。でもこの待遇が許されたのはその人気ゆえ。
またジャンプ側も冨樫に何らかの形で書いてほしかったのだろう。
当時、私はレベルEの1話を読んだ時の印象は、
後半の幽☆遊☆白書で窮屈していた冨樫とは違い
伸び伸びとして書きたい話を描いた印象が本当に強かった。
そしてシリーズは毎回毎回とんでもない面白さを保ち終了した。
結論としてはレベルEは作家として油がのった冨樫が自分の描きたい環境を整え、
高いモチベーションを保ちつつでアシスタントを使わずに一人で描ききった作品だ。
そんなレベルEは現時点で冨樫義博の最高傑作だ!!
という事で以上。原作はこうした事情があった事を踏まえて
アニメを鑑賞していただると、嬉しい。