■ ジャッジが話題になった試合Jリーグでは、年に何度か、レフェリーの判定を巡って大きな騒動が起きるが、今シーズン、もっとも大きな話題になったのは、5月11日(土)に行われたJ1の第11節の浦和と鹿島の試合で、「決勝点となったFW興梠のゴールはオフサイドではないか?」として騒動が起こった。また、最近では、9月22日(日)に行われたJ2の第34節の松本山雅とG大阪の試合のFWロチャの相手キーパーに対する行為ならびにMF阿部の一発レッドの判定が正しかったのか、話題になった。
こういう「誤審騒動」が起きるたびに、「レフェリーの技術が上がっていない。」、「Jリーグは何をしているのか?」という話になるが、レフェリーの技術に関しては、かなり上がっていると思う。特に感じるのは、30歳前後の若手レフェリーに技術の高い人が増えていることで、全体の質は上がっている。J2のクラブ数が増えて、試合数も増えているので、Jリーグの試合で笛を吹く資格を持った若手レフェリーも増えているが、総じてレベルは高い。
レフェリーという職業は、選手や監督など現場の人たちと信頼関係を築くまでが大変だと思う。試合中は、選手も監督も熱くなるので、最初の段階では苦労するのが当たり前だと思うが、31歳の長谷レフェリー、33歳の岡レフェリー、29歳の榎本レフェリーなどは、うまく試合をコントロールしている。また、30歳の上田レフェリーはミスを犯すこともあるが、試合をスムーズに進める能力は非常に高いので、将来性のあるレフェリーの1人だと思う。
彼らの主戦場はJ2の試合となるが、正直なところ、数年前までは、若手のレフェリーが試合を裁くときは、基準がはっきりしなくて、荒れる試合になることが多かった。なので、若手レフェリーに対して良い印象はあまり無かったが、ここ1・2年ほどで、印象は様変わりしている。すでにJ1でも笛を吹いている30歳の山本レフェリーが若手レフェリーの中では、もっとも有望なレフェリーだと思うが、山本レフェリー以外にも期待できる人が出てきている。
■ なぜ、質が下がっていると錯覚するのか?ただ、残念ながら、「レフェリーの質が下がっている。」という印象を持っている人もいる。これにはいくつかの理由が考えられるが、「レフェリーもミスを犯すことがある。」という当たり前のことを理解できない人が増えていることが理由の1つに挙げられる。こういう人は、1つ・2つミスジャッジが起こると過剰反応して、全体を批判するが、得てして、こういう人の声は大きいので、周りの人も釣られて「質が下がっている。」と錯覚することになる。
2つ目に挙げられるのは、負け試合や思うようなパフォーマンスを披露できなかった時、自分たち(=チームや監督や選手)に批判の声が集まることを避けるために、レフェリーに責任転嫁することが監督がJリーグにも何人かいることで、責任転嫁の意味合いが強いコメントを真に受けてしまう人が少なからずいて、影響力の強い人の発言がメディアで報じられると、「レフェリーの質が下がっている。」という認識が広まっていく。
マンチェスターUのファーガソン監督はそういうタイプの指導者だったが、特に、外国人監督は、自分たちのことを守る意図でレフェリーを過剰に批判する傾向がある。チームをうまくマネージメントするためには、それもやり方の1つだと思うが、レフェリーの立場に立つと、たまったものじゃない。こういうことは、レフェリーの権威を下げることにつながるので、あまり好きではないが、そういうコメントをする監督はJリーグにも何人かいる。
3つ目の理由には、「誤審騒動が起こったときだけ、メディアに取り上げられて、大きな注目が集まる。」という負のサイクルが出来上がっている点を挙げたい。レフェリー(審判)という仕事の性質上、仕方がないことだと思うが、プラスのポイントがたまることはほとんど無くて、マイナスのポイントしかたまらない仕組みになっているので、試合を行えば行うほど、時が経てば経つほど、評価が下がっていくのは、ある意味では当たり前のことである。
■ 5年経っても、10年経っても・・・レフェリー側にも問題はある。彼らの仕事がどんなものなのか、十分なアピールはできていない。家本レフェリーの『主審告白』という本の中には、レフェリーのミスにもいろいろな種類があること、ミスをゼロにするのは無理であること、3人(主審と副審)で全エリアをカバーするのは難しいこと、どうしても死角になるエリアが生じることなどが述べられており、こういうことを知っているとレフェリーに対する見方も変わってくると思うが、一般の人には全く知られていない。
そして、サポーター側にも原因があると思う。個人的に嫌悪感を抱くのは、誤審騒動が起こった時、「○○レフェリー」などと検索して、過去にあった誤審騒動を引っ張ってきて、『この人は、過去にも、こんなことを起こしている。』、『ミスジャッジばかりしている。』という風にツイッターであったり、ブログであったり、フェイスブックなどで、悠々と語る人たちで、こういう人たちが「レフェリーの権威低下」の一因になっていると感じる。
言うまでもないが、それなりにキャリアのあるレフェリーで、誤審騒動を起こしていない人は皆無である。実際にスタジアムで試合を観たり、テレビで観たりして、頭の中で記憶している範囲で、今、起こった誤審騒動を当事者のレフェリーと絡めて語ること自体は悪くないと思うが、数分前に検索して知った不確かな情報を元にして、さも当事者(あるいは被害者)であるかのように語る行為は、百害あって一利なしである。
結局のところ、レフェリー全体の質が上がっていたとしても、(数字でレベルアップしていることを示すのは無理なので、)そのことを実感できるのは、年間を通して、それなりにJリーグの試合を観ている人に限られる。年に片手で数えられる回数しか、フルタイムでのJリーグの試合を観ていない人が、レフェリー全体の質について語るのは無理な話であり、そのこと自体が滑稽と言わざる得ないが、安易に語ってしまう人は少なくない。
ミスにもいろいろな種類があるので、ミスジャッジという行為を批判するだけでなく、なぜ、そういう判断に至ったのか、レフェリー側の立場に立って考えることは、非常に大事なことだと思う。小学生あるいは中学生であれば、そこまで考える必要は無くて、思ったことをストレートに表現すればいいと思うが、それよりも上の人は、「誤審だ。誤審だ。」と騒ぎ立てるだけでなく、様々な事情を考慮した思慮深い発言をすることが望ましいが、そうでないことが多い。
Jリーグのレフェリーの技術が世界最高レベルになったとしても、誤審がゼロになることはあり得ないので、「ミスジャッジが起こった。」という事象にしか、注意が向かない人たちというのは、5年経っても、10年経っても、20年経っても、「Jリーグのレフェリーの技術は下がっている。」と言い続けることになるだろう。「技術が上がっている。」ということを確認する機会や手段や能力が無い場合、そうなるのは必然のことである。
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