■ にわかファンどの分野においても、「にわかファン」というのは、嫌われる傾向にある。ただ、サッカーだけでなく、野球もそうだと思うし、バレーボールでも、バスケットボールでも、テニスでも、F1でも、相撲でも同じだと思うが、知識が乏しいから嫌われるわけではない。十分な知識が無いにも拘らず、エラそうなことを言う人が多いことが疎ましく思われる理由であり、よく知らないことに対して否定的な見解を述べることは、できるだけ避けなければならない。
「誰でも最初は初心者である。」ということは、多くの人が理解している。なので、「にわかファン」であったとしても、「謙虚なにわかファン」を嫌う人はいない。そういう人はどこに行ってもウェルカムで、ほとんどのケースで歓迎されると思うが、知識が乏しい人に限って、尊大な言動をしがちである。そうなってしまうと、その分野にそれなりに精通している人がその人の言動に腹を立てるのは、ある意味では、当然のことである。
同じようなことが評論スタイルの1つである「辛口」や「毒舌」にも言えると思う。(個人的には、「ザックジャパン最強」、「海外組は凄い。」などと過剰にもてはやすことも、「ザックはダメだ。」、「解任した方がいい。」などと必要以上に腐すことも、種類としては同じだと思う。方向性が真逆なだけなので、センセーショナルなことを言って、注目を集めようとしたり、売り上げを伸ばそうとする意図があるのは同じで、どちらも等しく問題だと思う。)
ただ、今回、その点は考慮せず、「辛口の評論家はなぜ好まれないか?」という点に着目したいと思うが、個人的に思うのは、にわかファンが嫌われるのではなくて、エラそうなにわかファンが嫌われるのと同じで、「辛口」というスタイルが好まれないのではなくて、辛口スタイルをウリにしている人が十分な知識を持たずに対象を批判することが多い点が、多くの人に受け入れられない最大にして、唯一の理由だと思う。
■ 辛口評論家に必要なものは?「褒める」という作業よりはるかに楽なこともあって、「辛口」あるいは「毒舌」をウリにしている人は、たくさんいる。野球界で言うと、TBS系列のサンデーモーニングという番組に出演している「安打製造機」の張本勲氏が辛口の評論家として知られているが、評判がいいとは言えない。その理由は、現代のメジャーリーグやプロ野球について十分な考察が出来るほどの知識を持ち合わせていないにも関わらず、難癖を付けるところにある。
「辛口」であっても、人一倍、知識や愛情があるのであれば、素直に受け入れることはできる。愛媛FCの初代監督で、現在、スカパーの愛媛FCのホームゲームで解説を務めている大西貴氏は、はっきりとものを言うタイプの解説者で、愛媛FCの選手やジャッジに対しても、バシバシと本音で語るので、「辛口解説者の1人」と言えるが、愛媛FCのことやJリーグのことをよく分かった上での「辛口発言」なので、『厳しいなあ・・・。』と思うときはあるが、嫌な感じはしない。
このように公共の場で厳しいことを言ってお金を稼ごうとするのであれば、それ相応の裏付けは必要で、「この人が言うなら間違いないだろう。」という信頼を勝ち取った上での発言でないと、「辛口」や「毒舌」では無くて、単なる「悪口」になってしまう。ただ、残念ながら、日本で「辛口」や「毒舌」と言われている人たちの多くは、このあたりの大事なところをすっぽかしていることがほとんどである。
■ なぜ、煙たがられるのか?結局のところ、厳しいことを言うから煙たがられているのではなくて、十分な知識が無いにも拘らず、否定的な発言を繰り返すから煙たがられているのである。日本においては、「人に対しては厳しいけれども、自分に対してはめちゃくちゃ甘い。」という人が信頼を集めるのは無理である。ただ、「辛口」を自認している人に限って、このあたりのことには気が付いておらず、「自分は正論をバシバシ言うから好かれていない。」と勘違いしている。
もう1つ、本来、こういう人たちというのは、「思っていることをストレートに話すこと。」を期待されていると思うが、「辛口」や「毒舌」というキャッチコピーが付けられると、褒めることが出来なくなる。その結果、いいところには全く目もくれず、良くない部分だけをクローズアップして発言するしかなくなる。これでは、「辛口」や「毒舌」というよりは、「粗探しをしている。」という方が適当で、そうなると、聞いている方は全く面白くない。
前述の大西貴氏の場合、出来が良くないときは厳しい口調で選手やチームに苦言を呈するが、その一方で、パフォーマンスが良かったときは、選手やチームを素直に評価することができる。「褒めるところ」と「苦言を呈するところ」のバランスがしっかりと取れているので、不快な感じを受けないのだと思う。元日本代表のオシム監督は数少ないバランス感覚を持った人だと思うが、「辛口」や「毒舌」で飯を食っている人で、バランス感覚を持っている人は少ない。
野球界のことはともかくとして、サッカー界は、そろそろ、そういう「レベルの低い辛口評論家」は無視する方向で行かないと、先に進むことは出来ないと思う。とにかく話題になればいい、注目を集めることが出来ればOKというメディアにとっては、定期的にセンセーショナルな発言をしてくれる「辛口評論家」は、非常に都合のいい存在なのかもしれないが、そういう人たちが、何かプラスになっているかというと、全くそういう感じはしない。
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