■ マグネット式布陣論川崎フロンターレの風間八宏監督は、選手の個性を考えずに11個の磁石を並べるかのように布陣を考えることを、「マグネット式布陣論」と呼んでいて、こういう見方を「底が浅い。」とばっさり切っている。この点については全くの同意である。
日本でも、『「4-2-3-1」は攻撃的な布陣である。』とか、『3バックは守備的である。』とか、『3バックは時代遅れである。』などと、したり顔で語る人が増えた時期があった。最近は、そういった人は減ってきたように思うが、まだまだ、一定数は残っている。
もちろん、とっかかりとして、それぞれのシステムの長所や短所であったり、傾向を知っておくことは無駄ではないと思うし、現実の話として、5バックや6バックで攻撃的なサッカーをするのは難しい。なので、最低限のことは把握しておく必要はあるが、選手の個性を無視するのは、意味のないことである。
■ 均等バランス「マグネット式」という表現の仕方は、かなり面白いと思うが、風間監督は、さらに、「マグネット式のチームは、前後左右が同じ『均等バランス』でしかない。そういう相手は振り回してやれば、簡単に崩れるのです。」と語っている。
確かに、11個のマグネットを並べるとき、左右均等にならないケースは無いが、実際にピッチ上で起こっていることは、かなり複雑である。そして、個人的には、ピッチ上が混沌としていた方が、「これから何が起こるのだろうか。」と、ワクワクする気持ちが増してくる。
もちろん、サッカーの世界でも、機能美の美しさを感じることは可能である。大宮や札幌や神戸や甲府を率いた三浦俊也監督が作るチームは、イレギュラーな状態を、極力、作らないサッカーと言えるが、機能したときは、それはそれで、美しいと感じることもあった。ただ、やはり、予定調和な部分が増えてくると、基本的にサッカーはつまらなくなる。
■ イレギュラーな状況現在のJリーグで、イレギュラーな状況になることが多いチームというと、浦和とC大阪の2チームを挙げることができる。ペトロヴィッチ監督の作るチームは、「3-4-2-1」と記述されることが多いが、攻撃になると、5トップや4バックになっていることも多くて、このチームを「3-4-2-1」と考えても、ほとんど意味は無い。
クルピ監督が戻ってきてからのC大阪の布陣も難解である。「4-2-3-1」と書かれることが多いが、MF柿谷のポジションはかなり流動的で、2トップの一角と見ることもできるし、3シャドーの1人と考えることもできる。さらには、MF山口螢のポジションも普通ではない。
右サイドハーフがベースのポジションになっているが、ダブルボランチが困っているときは、ボランチの位置まで下がって助ける動きをして、攻撃になったときは、フォワードの選手を追い越していって、フィニッシュに絡もうとする。運動量が豊富な選手なので、人よりも多くの仕事をこなすことができるが、右サイドハーフの位置にいることは、ほとんどない。
■ 驚くようなシーン浦和の場合は、どういう動きをすればいいのか、ある程度の約束事があって、それに基づいて動いている選手がほとんどであり、C大阪の場合は、逆に、約束事が少なくて、自由に動いている選手が多いと思うので、同じイレギュラー状態を作っているチームと言っても、異なるタイプであるが、両チームに共通するのは、「これから何が起こるのか」が読みにくいところで、驚くようなシーンに出くわすことがある。
当然、一定以上のリスクが生じるので、ポジションチェンジを好まない指導者も多いし、また、ポジションチェンジが頻繁に行われると、「4-2-3-1」であったり、「3-4-3」であったり、「4-3-1-2」のような数字での表記があまり意味をなさなくなるので、観る側も、方程式のようなものを使って、試合を分析することは難しくなる。
したがって、集中力であったり、想像力が必要になってくるので、大変なところもあるが、そのあたりは、サッカーの醍醐味の1つと言えるので、予定調和なサッカーを見せられるよりは、はるかにマシである。風間監督が率いる川崎Fは、今のところ、「4-2-3-1」を採用するケースが多いと思うが、選手の配置に執着する人ではないので、今後、常識外のことをピッチ上で表現してくれるかもしれない。
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