■ リーグ戦との違いJリーグの場合、リーグ戦に向けて両チームが同じような日程で調整を行って、当日の試合で100%に近いパフォーマンスを発揮できるように仕上げてくる。もちろん、ACLやナビスコカップが絡んでくると、試合間隔が異なる場合もあるが、基本的には、「コンディションの優劣」は考慮する必要の無いレベルである。したがって、その試合におけるパフォーマンスでチームや選手を評価しても、大きな問題は生じない。
その一方で、代表戦になると、相手チームと全く同じ条件で試合を行う機会というのは、まずありえない。唯一、W杯の本大会のグループリーグは、事前にそれなりの休養期間が設けられているので、どちらか片方のチームが一方的に不利になることは考えられないが、W杯予選や親善試合になると、前日に現地に入って、時差ボケの残ったままで試合をせざる得ないケースも少なくない。
今回の東アジアカップで戦った日本とオーストラリアを比べてみても、大きな違いがある。ともに国内組が中心となっているが、Aリーグの開幕は10月なので、オーストラリアはオフ期間である。したがって、試合勘不足という問題が生じるが、一方で、シーズン真っただ中の日本の選手とは違って、東アジアカップに向けて調整する期間があった。「この大会に向けて2週間ほどの合宿を行ってきた。」と報道されている。
よって、ザックジャパンのように強行スケジュールで韓国に入って、ほとんど準備期間の無い中で試合を行うことはなかった。日本の選手は、Jリーグの試合を含めると中2日や中3日の試合が7試合も続く「7連戦」という選手がほとんどであるが、それに比べると、オーストラリアの選手はコンディション面では有利で、韓国戦から中4日だったオーストラリアと、中国戦から中3日だった日本という違いもある。
■ 不足しがちな対戦相手の情報一昔前の1970年代や1980年代というのは、コンディションが試合に与える影響が今よりも小さかった。実力優位のチームが、実力どおりに、順当に勝利をおさめるケースが多かったと思うが、スピーディーな試合が多くなった現代サッカーでは、コンディションの良し悪しが、試合に与える影響の度合いが大きくなって、無視することのできないものになっている。
コンディション面の差を論じようとするとき、稀に、「そんなものは言い訳だ。」という人もいるが、精神論で片づけられるほど、現代サッカーは甘くは無い。中3日の選手が多かった中国戦と、中7日の選手が多かったオーストラリア戦の日本代表の動きを比べると一目瞭然で、中国戦でプレーした選手というのは、オーストラリア戦でプレーした選手と比べるとハンディを背負っていたので、同列に扱ってはいけない。
また、普段のリーグ戦では、相手チームがどのくらいの力を持っているのかに関しては、これまでの対戦成績や現在の順位や最近の試合の結果を調べるとある程度は把握することができるが、代表戦というのは、試合間隔も大きくてメンバーも一定ではない。直近のW杯予選の結果やFIFAランキングを参考にするケースが多いが、それでも、対戦相手の真の実力を把握するのは難しい。
初戦の中国戦は3対3のドローだったが、今回の中国代表のレベルはどのくらいなのか、フルメンバーを揃えているのか、それとも、若手中心なのか。モチベーションはどのくらいなのか。実力通りのパフォーマンスを出せたのか、どうなのか。ずっと、中国代表を追い続けている人であれば、把握できるかもしれないが、一般の日本人で正確な情報を持っている人は、ほとんどいないだろう。
■ 誤った結論を導く危険性また、サッカーという競技は相手のあるスポーツなので、片方のチームの出来がいい時は、もう片方のチームの出来は悪く見えるものである。日本代表が勝利すると、『相手の調子が悪かっただけ。』などと、勝利の価値を下げようとする人も出てくるが、「相手の良さを出させない。」というのも大事なことで、相当な眼力を持った人でない限り、2チームをフラットに観るのは、難しい。
ということで、日本代表の試合というのは、対戦相手と比べてコンディションに差があることが多くて、対戦相手の情報が十分に得られていないことが多いので、Jリーグの試合と比べると、補足しなければならない部分とはっきりしない部分が多くなるので、目の前の試合をそのまま受け止めることは、適当とは言えない。そして、ピュアに受け止めてしまうと、誤った結論に至る危険性が高くなる。
日本の方が明らかにコンディション面で不利に場合は、割り増しで評価する必要があるし、有利な場合は、ポジティブな結果が出たとしても、割り引いて考える必要がある。そのあたりをどのくらい考慮すべきなのかというのが、一番、大事になってくることで、先のように、「そんなものは言い訳だ。」という感じで精神論に走ってしまうと、正しく選手やチームを評価するのは難しくなる。
Jリーグの試合や欧州リーグの試合を論じた記事と比較して、日本代表の試合を論じた記事のクオリティーが低くなりがちなのは、このあたりの「さじ加減の難しさ」が原因の1つで、いまだに、「日本の事情はまったく考慮しないが、相手チームの事情は最大源に考慮する。」という『トンデモ設定』をする人がいることも、全体のクオリティーを下げている要因と考えられる。
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