■ 準々決勝第19回のJユースカップは準々決勝に入っている。今大会は、J1とJ2の36クラブのユースチームと、日本クラブユースサッカー連盟代表の4チーム(横河武蔵野FCユース、FCトリプレッタユース、明倫クラブ、アミーゴス鹿児島U-18)が参加し、合計40チームでユース年代の日本一を争っている。準々決勝に進んだのは、札幌、広島、柏、名古屋、清水、京都、C大阪、鹿島のユースチームで、札幌と広島、柏と名古屋、清水と京都、C大阪と鹿島が準々決勝で対戦した。
その中で、札幌U-18と広島ユースの試合と、名古屋U-18と柏U-18の試合が、愛知県の刈谷市にある「ウエーブスタジアム刈谷」で行われた。普段は、東海社会人リーグに所属するFC刈谷のホームスタジアムで、約4,000人を収容できる運動公園多目的グラウンドである。
FC刈谷は、デンソーサッカー部の休部に伴って2006年に誕生した市民クラブで、デンソー時代からJFLをメインに活動してきた。デンソー時代は、徳島ヴォルティスでプレーするMF徳重隆明らを輩出したが、2009年のJFLで17位となって入替戦に回ると、ツエーゲン金沢に敗れて、地域リーグ降格となった。
#1 自動販売機
刈谷市は愛知県の中央部にある。ウエーブスタジアム刈谷の最寄駅は、名鉄名古屋本線の一ツ木駅で、ここから約2キロの距離にスタジアムがある。名古屋駅から一ツ木駅までは約35分程度なので、名古屋駅からスタジアムまでは1時間程度かかることになる。
#2 ウエーブスタジアム刈谷
■ 両チームのスタメン決勝トーナメントでG大阪ユースを下して準々決勝に進んだ札幌は「4-2-2-2」。GK阿波加。DF小山内、永井、内山、前。MF荒野、堀米、中原、神田。FW下田、榊。センターバックのDF奈良はトップチームで出場機会を得ているため欠場。GK阿波加も、土曜日に行われた湘南ベルマーレ戦でベンチ入りを果たしている。出場機会はなかったが「連戦」となる。U-17W杯でも活躍したボランチのMF深井はベンチスタートとなった。
タレント軍団の札幌は、DF奈良、DF小山内、DF前、MF荒野、FW榊の5人がトップチーム昇格を決めている。代表歴のある選手も多くて、GK阿波加とMF深井は、7月にメキシコで開催されたU-17W杯の日本代表メンバーで、MF堀米とMF神田の二人は、本大会には出場できなかったが、昨年の秋に行われたアジア予選のメンバーに選ばれている。さらに、FW榊、MF深井、DF小山内の3人がU-18日本代表で、つい先日、タイで開催されたアジアユースの予選に参加している。
一方の広島は「3-6-1」。GK有賀。DF脇本、柳川、藤井。MF川辺、平田、森保、野口、野津田、末廣。FW越智。背番号「7」のMF森保は、元日本代表の森保一氏の次男で、兄も広島のユースでプレーしていた。MF野津田もU-18日本代表メンバーでアジアユースに参加している。監督は元日本代表の右SBの森山佳郎氏である。
#3 スタジアム内
#4 試合前
■ 広島が激闘を制する!!!試合は、前半13分に札幌が先制する。MF神田のパスから左サイドの裏に抜け出したFW下田がゴール前に折り返すと、FW榊が押し込んで先制する。その後も、札幌がペースを握って、FW榊やMF神田らが中心となって、決定機を作っていく。前半に目立ったのはMF神田で、3度ほどゴール前で決定機を迎えるがゴールはならず。対する広島は、終了間際に左サイドでフリーキックを獲得すると、MF森保が右足で狙うが、惜しくも左ポスト直撃で同点ならず。前半は「1対0」で札幌がリードして折り返す。
しかし、後半開始早々に広島が同点に追いつく。MF野津田のパスからMF野口が左サイドを駆け上がって左足で高精度のクロスを上げると、ゴール前に入ってきたMF末廣が合わせて同点に追いつく。その後、両チームとも1点ずつを追加し、「2対2」で迎えた後半39分に札幌が勝ち越しに成功する。ゴールを決めたのは途中出場のMF中川で、個人技から鮮やかなミドルシュートを突き刺して「3対2」とリードを奪う。これが決勝点になるかと思われたが、後半43分に広島は相手GKのミスを突いて、MF川辺が無人のゴールに流し込んで「3対3」の同点に追いつく。試合は10分ハーフの延長戦に突入する。
その延長戦の前半9分に広島は右CKを獲得すると、MF野津田のキックを途中出場のFW石坂が豪快なヘディングシュートを決めて「4対3」と逆転に成功する。結局、試合は「4対3」で広島が勝利。12月23日の準決勝で名古屋U-18と対戦することになった。一方、キンチョウスタジアムで行われた試合は、清水ユースとC大阪U-18が勝利し、この4チームが「ベスト4」に進出した。
■ トップチームと似たサッカー高校生活を締めくくる最後の大会ということで、毎年、ドラマが生まれているJユースカップであるが、この試合も激闘となった。前半は「タレント力」で上回る札幌のペースで進んで、決定機も多かったので、一方的な展開になっても不思議はなかったが、広島のGK有賀が何度もファインセーブを見せて最少失点に抑えた。
後半になると、広島もリズムが出て来て、ボールをキープできるようになった。しかし、常に、札幌が先手を奪う形になっていたので、広島としては苦しい流れだったが、土壇場で追いついて延長戦に持ち込んだ。試合のターニングポイントになったのは、後半43分のMF川辺の同点ゴールで、相手のミスを突いたゴールだったが、追いつかれた札幌イレブンは意気消沈して、立て直すことができなかった。
広島の選手で目立っていたのは、右サイドのMF森保とボランチのMF川辺の二人で、彼らがボールに絡むシーンが多かった。MF森保は父親がボランチだったので、同じようなタイプの選手かと思っていたが、右サイドに張っていて、サイドで起点になっていた。右足のキックの精度が非常に高くて、フリーキックでポスト直撃の惜しいシュートもあった。サイドチェンジのボールに正確で、右足のキックが相手の脅威となっていた。
一方、MF川辺は、まだ1年生で背番号「36」を背負っていたが、センスが光っていた。背格好が似ていて、背番号もよく似ているので、トップチームのMF中島浩司と重なるところがあったが、いいところでボールを受けて、パスをつないで、攻撃の中心となっていた。この選手も、U-16日本代表のメンバーで国際大会にも出場しているが、この試合ではU-18日本代表のMF野津田よりも光っていた。
広島のサッカーは、トップチームでやっているサッカーと本当によく似ている。選手の配置も、パスのスピードも、選手の距離間も、リズムやテンポも、トップチームとそっくりで、トップチームのサッカーを観ているような感覚になる。身近なところに最高のお手本があるので、ユースの選手は恵まれているといえる。トップチームとユースが同じスタイルのサッカーをしているのは非常にいいことであるが、ペトロヴィッチ監督は、今シーズン限りで退団することが決定している。来シーズン以降、ユースのサッカーがどのように変わっていくのか。森山監督がいれば、同じようなスタイルのチームを作っていくことは可能だと思うが、果たしてどうなるだろうか。
#5 試合終了後
■ タレント軍団はベスト4ならず・・・対する札幌はタレント軍団で、アンダー世代の代表がズラッと並んでいて、GK阿波加、DF前、MF荒野などは、トップチームでベンチ入りや試合出場を果たしている。この試合のメンバーに加えて、DF奈良もいるので、選手の発掘能力や育成能力は素晴らしく、数年後が楽しみなメンバー構成になっている。
今年の3年生は、ユースから5人がトップチーム昇格を決めているが、2年生にも、GK阿波加、MF深井、MF神田、MF堀米と日の丸を背負った選手が何人も控えている。彼らもトップチームに昇格する可能性が高いと考えられるので、近い将来、トップチームの選手の半分程度が「この世代の選手」で構成されそうで、彼らが、期待通りに成長することができたら、「J1昇格」や「J1残留」のみならず、J1で、中位あるいは上位争いに参加してきても不思議ではない。
札幌の中で目立ったのは、FW榊とMF神田の二人で、FW榊のドリブルとスピードには、広島も手を焼いていた。一方、MF神田は積極的にゴール前に飛び出して行って、何度も決定機に絡んだ。MF神田がどこかでシュートを決めていれば、楽勝もありえた展開だったので、悔やまれるところであるが、能力の高さを示したといえる。
1つ残念だったのは、MF深井が出場できなかったことである。MF深井は「飛び級」でアジアユースに参加していて、非常に評価の高いボランチであるが、ここまでボール奪取ができて、つなぎのパスができて、勝負のパスを出せるボランチは、なかなかいない。左足にテーピングを巻いていたので、怪我かと思われるが、彼がいたら、もっとボールが落ち着いて、バリエーション豊かな攻撃ができたように思えるので、残念だった。
札幌は、2年生と3年生にタレントが集まっているが、大学1年生の年齢にも、FW三上、DF櫛引がいる。さらに、もう1つ上の学年にもMF古田がいるので、17歳、18歳、19歳、20歳くらいの年齢で「有望株」が揃っている。切磋琢磨できるいい環境といえるが、「突き抜けた選手」の出現が望まれる。過去の例を見ても、シンボル的な選手が出てくると、その選手に引っ張られるように周囲のレベルも上がっていく。「五輪代表」や「日本代表」に定着して、全国区となる選手が、早い時期に出てくることが期待される。
#6 がっくりの選手たち
■ GK阿波加俊太の涙前述のように、この試合のターニングポイントとなったのは、後半43分のMF川辺の同点ゴールで、札幌のGK阿波加にとっては、一生、後悔することになるだろう「大チョンボ」になってしまった。試合を観ていたときは、単なるキックミスかと思っていたが、映像で観ると、キックミスではなくて、ボールをキャッチした後、ロングキックを蹴ろうとして、手で真上に上げたボールが、自分の胸に当たって相手の方向にこぼれて、MF川辺にミドルシュートを決められてしまった。
もちろん、技術的なミスも悔やまれるが、判断ミスも悔やまれる。1点リードしている状況で、相手のクロスをキャッチして、攻撃を終わらせることに成功したので、時間をかけて、ロングキックを蹴ればよかった。ただ、なぜか、素早くロングキックを蹴ろうとして大ミスとなった。フリーの味方が見えたのだと思うが、全くあわてる必要のない場面であり、味方も、相手も、所定の位置に戻るまで蹴るのを待つのがセオリーである。考えられないようなミスだった。
GK阿波加も難しい立場で、前日は、J2の試合があって、セカンドキーパーとしてベンチ入りをしていた。試合会場が平塚だったので、刈谷までそれほど遠くなかったのは幸いだったが、2日連続の試合なので、コンディションを整えるのも大変で、直前にユースチームに合流して、Jユースカップに臨むことになった。他の高校スポーツでも同様であるが、下級生にとっては、自分のミスが原因で試合に敗れて、3年生のチャンスを奪う結果になることほど、ツライものはない。
GK阿波加は、試合後に、立ち上がれなくなるほど号泣していたが、この経験をバネにしてほしい。各年代の日本代表を経験し、185センチで、手も長くて、体格にも恵まれている。高校2年生の段階で、GKのポジションでトップチームのベンチ入りを経験できるというのは、めったにないことであり、クラブも期待していることが分かる。彼にとって、この試合は、ずっと忘れられない試合になったと思うが、いつかの日か、この試合を振り返って、「ツライ経験だったが、本当にいい経験だったなぁ。」と思えるくらいの、素晴らしいサッカー人生を送ってほしいと思う。
#7 先輩のGK今岡亮介も涙・・・
関連エントリー 2007/08/11
【U-16日本×U-16米国】 君は宇佐美貴史を見たか? (生観戦記#12) 2007/12/22
【サハラカップ:G大阪ユース×柏U-18】 ファイナルを目指して・・・ (生観戦記 #21) 2008/08/12
【U-16日本×U-16ルーマニア】 天才・宇佐美貴史の未来(生観戦記#12) 2008/12/23
【C大阪U-18×FC東京U-18】 ユース年代の熱き闘い (生観戦記#21) 2008/01/10
【G大阪Y×C大阪U-18】 逸材たちの競演 2009/12/28
【FC東京U-18×広島ユース】 強かったFC東京 (生観戦記#14) 2010/12/21
Jユースカップにも光を・・・ 2011/07/04
【U-17日本×U-17ブラジル】 日本は猛反撃も1点届かず・・・ 2011/11/10
ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(広島)の退任について → J3+(メルマ)
- 関連記事
-