- 更新日 : 2025年1月7日
個人事業主が知っておきたい課税売上高とは?計算方法や1000万を超えた場合の解説
消費税の計算において、「課税売上高」とは事業者の売上高のうち「消費税の課税対象とされる取引の合計額」のことを言います。インボイス制度の導入により、事業者として消費税をより身近に感じる人も多いでしょう。
この記事では、消費税の計算において、個人事業主に必要となる「課税売上高」の考え方について具体的に解説します。
目次
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個人事業主が知っておきたい課税売上高とは?
課税売上高とは、消費税の課税対象とされる売上高の合計額のことです。消費税において「課税売上高」は、どのように確認できるでしょうか?ここでは、簡単に消費税の仕組みをおさらいしながら確認しましょう。
消費税がかかる事業取引の要件
まず、次に該当する人はすべて消費税が課税されます。
- 「消費税課税事業者選択届出書」を提出している人
- 「適格請求書発行事業者」となっている人
上記は後述しますので、この項ではこれら以外の者で消費税が課税される事業者について見ていきましょう。
消費税には「事業者免税点制度」が設けられています。これは原則として、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税が免税となる制度のことを言います。これらに該当しない場合には課税事業者となります。
基準期間とは個人事業主の場合、原則としてその年の前々年を言います。
したがって、当年において消費税が課税かどうかは前々年の売上高で決まります。例えば、当年開業したばかりの個人事業主は前年や前々年に売上高がないため、この時点で免税事業者となります。
次に課税売上高は次の算式で計算します。
消費税の対象となる取引(課税取引)には、次の4つの要件があります。
- 国内取引であること
- 事業者が事業として行うものであること
- 対価を得るものであること
- 資産の譲渡、貸付、役務の提供であること
これらの取引には、輸出取引等の免税売上や雑収入、事業用固定資産の売却収入などに係るものも含まれます。したがって、課税売上高は損益計算書の売上高だけではないこともよくあります。
また、輸入取引には課税貨物の引取等があるほか、売上返品、売上値引等を認識している場合にはその額を差引します。
さらに1,000万円以下は、「課税売上高」そのものに消費税は含まないで求めます。例えば、すべてが10%の消費税とした場合には、消費税込みで1,100万円以下は免税となります。しかし、基準期間に免税事業者であった場合には消費税を認識しないため「売上高=課税売上高」となるのでご注意ください。
最後に事業者とは、個人事業主や法人を言います。個人事業主の場合は、対価を得て行った資産の譲渡等の取引を「反復、継続、独立して」行っている(即ち、事業として行っている)ことが前提です。個人事業主がプライベートで利用する生活用資産を売却した取引については、消費税は課税されません(譲渡所得として課税されることはあります)。
参考:
消費税のあらまし|国税庁、「消費税のあらまし(令和6年6月)」
基準期間において免税事業者であった者の課税売上高の判定|国税庁
課税売上高に含まれないもの
上記の「消費税の対象となる取引」の4要件を1つでも満たさないものは、不課税取引となります。
課税取引ではない | 要件を満たさない部分 | 具体例 |
---|---|---|
不課税取引 | 事業として行うものでない | 給与や賃金 |
国外で行われる | ||
対価を得て行わない | 寄附金や国等の補助金 保険金・共済金、株式の配当 |
また、課税取引に該当しても消費税の性質から課税の対象とならないものや、社会政策上の観点から課税をしない取引については、非課税取引として課税売上高には含めません。
課税取引に含めない | 非課税となる理由 | 具体例 | |
---|---|---|---|
非課税取引 | 国内 | 消費税の性質となじまない | 土地の譲渡や貸付、有価証券等の譲渡、保険料、保証料、郵便切手や印紙譲渡、国や自治体の手数料等 |
社会政策上の配慮 | 社会保険診療、介護サービス、助産に係る取引、埋葬・火葬料、身体障害者用物品の譲渡や貸付、学校等の授業料や入学金、住宅の貸付 | ||
国外 | 輸入取引のうち一定のもの | 有価証券等、切手類、身体障害者用物品等 |
参考:
No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例|国税庁
課税売上高と年商との違い
課税売上高と年商は、そもそもの考え方が異なっており同じではありません。「年商〇〇円」という言い方をよくしますが、年商とは一般に年間の売上高のことを言います。この場合、消費税を含む場合も含まない場合もあります。
損益計算書の売上高を指して、「年商」という場合は次のようになります。
- 税抜き経理による表示:消費税を含まない売上高
- 税込み経理による表示:消費税を含む売上高
これに対し、課税売上高には消費税を含みません。さらに、不課税売上や非課税売上も含みません。例えば、事業に関連する作業くずや不用品の売却収入については、「売却損益」ではなく、売却収入そのものが課税売上高になります。
課税売上高の計算方法
課税売上高の計算方法について、簡単なシミュレーションをしてみましょう。
(例) 飲食店を経営するAさん(個人事業主)の年間売上等の状況は次のとおりでした。
Aさんは、飲食店経営と不動産の貸付による収入があります。
下記金額は税込みとし、カッコ内に消費税率を示しています。
店舗売上高
店舗の飲食売上高 880万円(10%)※
食品の販売売上高 216万円(8%)
賃貸収入
住宅の貸付 120万円(非課税)
雑収入
自動販売機設置手数料収入 24万円(10%)
現金過不足の調整 1万円 (不課税)
売上値引き
業者向け食品の売上高 10.8万円(8%)
※上記飲食売上高880万円には、Aさんの賄い分(自家消費:売価の70%を計上)が9万円含まれているものとします。
(税込売上高)
まず、課税売上高の対象となるものを税率ごとに合計します。
(10%)880万円 + 24万円 = 904万円
(8%) 216万円
居住用の住宅は非課税となり、課税売上高には含まれません。また、現金過不足で生じた1万円についても、直接、資産の譲渡等によって得たものではないため不課税となり、課税売上高には含まれません。
自家消費については、消費税法においては販売価額の50%以上と仕入価額の大きいほうは課税売上高として認められているため、含めたまま計算します。
次に、売上値引き等を税率を区分して差し引きます。
(10%) 904万円
(8%)216万円 - 10.8万円 = 205.2万円
税率ごとに、税込売上高から税抜き後の売上高を計算し、最後に合計します。
(10%) 904万円 × 100/110 = 821万円
(8%) 205.2万円 × 100/108 = 190万円
—————————————————————–
課税売上高合計 1,011万円
参考:
個人事業主の課税売上高は確定申告のどこにある?
会計ソフトを利用して消費税の確定申告書を作成する場合、正しく税区分等の入力をしていれば、確定申告書の所定の項目に自動的に入力されます。一方、手書きで消費税の確定申告書を作成する場合には、課税売上高の記載について自分で意識しなければなりません。
国税庁のサイトには非常に多くの様式があります。ここで各様式の「課税売上高」の記載箇所を確認し、代表的な書類について見ていきましょう。
なお、多くの場合に課税売上高は「課税標準額」と一致しますが、ここでは課税売上高のみに焦点を当てて、記載場所を確認します。
一般用(原則課税) | 「課税売上高」の表示位置 |
---|---|
申告書第一表 | 参考事項として、基準期間の課税売上高を記載します。 |
付表2-3 | 税率ごとに課税売上高を記載し、合計します。 |
簡易課税用 | 「課税売上高」の表示位置 |
---|---|
申告書第一表 | 課税売上高と基準期間の課税売上高を記載します。 |
付表5-3 | 事業区分別、かつ、税率ごとに課税売上高を記載し、合計します。 |
2割特例用 | 「課税売上高」の表示位置 |
---|---|
申告書第一表 | 上記原則課税または簡易課税に同じ |
付表6(簡易版) | 税率ごとに課税売上高を記載し、合計します。 |
個人事業主の課税売上高が1000万円を超えたら
先述のように、次のような事業者については課税売上高の大きさに係わらず消費税の申告義務があります。
- 「消費税課税事業者選択届出書」を提出している人
- 「適格請求書発行事業者」となっている人
これら以外の者で基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、その2年後に消費税の申告が必要です。個人事業主の消費税の課税期間は、1/1から12/31までの期間となり、翌年の3月末(曜日により前後します)が申告期限となっています。
したがって、令和7年3月末に消費税の申告が必要となる個人事業主は、令和5年分の課税売上高が1,000万円を超えた事業者となります。
基準期間の課税売上高1000万円以下でも消費税がかかる場合
ここで、課税期間において1,000万円以下でも消費税の申告が必要となる場合について確認しましょう。
消費税課税事業者選択届出書を提出している事業者
免税事業者が課税事業者になる方法に「消費税課税事業者選択届出書」の提出があります。
この届出は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも消費税の免除の規定を受けず、課税事業者となることを選択する場合に提出するものです。
受け取った消費税よりも支払った消費税のほうが大きい場合、敢えて消費税の課税事業者となることによって還付申告をすることが可能になります。
なお、この届出書を提出した場合、事業廃止を除いては原則として2年間は免税事業者に戻れないため注意しましょう。
参考:
インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)
インボイス制度においては、顧客に適格請求書(インボイス)を交付するために登録申請を行う必要があります。インボイス発行事業者になると、課税売上高に関係なく消費税の申告義務があります。なお、経過措置などがあるため、登録申請時には注意しましょう。
参考:
D1-64 適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)|国税庁
特定期間の課税売上が1000万円を超えた
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には課税事業者となります。特定期間とは、個人事業者の場合、前年の1月1日から6月末日までの期間(6カ月間)を言います。
また、特定期間の判定については、課税売上高でなく特定期間中に支払った給与等の金額を選択することも可能です。
参考:特定期間の判定|国税庁
個人事業主が課税事業者になる場合の手続き
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、税務署に届出書を提出します。それ以前に「消費税課税選択届出書」や「適格請求書発行申請」をしている場合には、すでに課税事業者になっているため、この届出は不要です。
提出事由が生じたら速やかに提出することとされているため、その年の終了後速やかに提出します。
参考:D1-7 消費税課税事業者届出手続(基準期間用)|国税庁
また、特定期間の課税売上高(または給与等支払額)が1,000万円を超えた場合の届出書「消費税課税事業者届(特定期間用)」は別にあるためご注意ください。
参考:D1-8 消費税課税事業者届出手続(特定期間用)|国税庁
個人事業主の課税売上高1000万円超えたら法人成りも検討
個人事業主の課税売上高が常時1,000万円を超えたあたりで、法人成りを検討するほうが節税できる場合もあります。
- 法人の「基準期間」を利用した節税効果
個人事業主が法人化した場合は、消費税の納税を2年間先延ばしすることが可能です。法人設立後の「第1事業年度と第2事業年度」には法人における基準期間がないため、原則として消費税の納税義務は免除されます。
なお、この免除のためには、法人成りにあたり資本金1,000万円以下とし、「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を提出する必要があります。
参考:
No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁
D1-10 消費税の新設法人に該当する旨の届出手続|国税庁 - 法人成りのタイミングを利用した節税効果
特定期間である前事業年度の前半6カ月の課税売上高(または人件費)が1,000万円を超えた場合、その事業年度より課税事業者となります。
しかし、法人の第1事業年度が「7カ月以下」になるように法人設立をすると、「特定期間」がないこととされます。
この場合も資本金1,000万円以下とする必要があり、手続きとしては、「消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書」の提出が必要です。
参考:
特定期間の判定|国税庁、「消費税法第9条の2 事業者免税点の判定について」
D1-11 消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出手続|国税庁
これら以外に法人成りをすることによるメリットとしては、次のことが挙げられます。
- 社会的信用度の向上
- 株式会社等における有限責任
- 人材確保の容易化
- 資金調達の選択肢拡大 など
法人成りは、会社の事業状況や将来計画に応じて慎重に判断することが大切です。
消費税を意識した事業運営を!
消費税は、所得税や法人税に比べて届出などの手続きが煩雑です。会計ソフトへの入力も税区分等を意識したチェックが必要となるほか、インボイスを受領した場合の事務にも手間がかかります。
課税売上高が1,000万円を超える前から、消費税の対策をある程度考え、インボイス制度を導入するかどうか、簡易課税にするかどうかなどを慎重に判断していきましょう。
マネーフォワード クラウド確定申告の導入事例
データ連携機能を使って、銀行やクレジットカードの明細データを自動で取り込むようになってからは、会計ソフトへの入力作業が減ったので、作業時間は1/10くらいになりましたね。
ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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