■ J1の第8節J1の第8節。5勝2敗で勝ち点「15」の鹿島アントラーズ(2位)と、4勝1敗2分けで勝ち点「14」のヴィッセル神戸(3位)がカシマスタジアムで対戦した。J1は第7節を終了した時点で広島が勝ち点「16」で首位を走っていて、鹿島が勝ち点「15」で2位、神戸が勝ち点「14」で3位。よって2位の鹿島と3位の神戸の上位対決となった。首位の広島の試合は日曜日に行われるので、勝ったチームは暫定首位となる。
ホームの鹿島は「4-2-3-1」。GK曽ヶ端。DF伊東幸、青木剛、昌子、山本脩。MF小笠原、柴崎岳、遠藤康、土居、ジャイール。FWダヴィ。開幕直後の3月11日に加入が決まったMFジャイールがリーグ戦では初スタメンとなった。2013年の前半戦はJ2の千葉でプレーして16試合で4ゴールを挙げている。7節の新潟戦(H)は出場停止だったFWダヴィがスタメンに復帰して、1トップの位置で起用された。
対するアウェーの神戸は「4-2-3-1」。GK山本海。DF奥井、岩波、増川、高橋峻。MF橋本英、チョン・ウヨン、小川慶、森岡、松村。FWマルキーニョス。新加入ながら攻守の要となったMFシンプリシオと、7試合で5ゴールを挙げているMFペドロ・ジュニオールは怪我で欠場で、ベテランのMF橋本英とリオ世代のMF松村がスタメンで起用された。FWマルキーニョスは7試合で4ゴールを挙げている。
■ 3対2で神戸が逆転勝ち試合は前半7分に鹿島が先制する。左サイドからMFジャイールが上げたクロスをファーサイドで待っていたMF遠藤康が得意の左足でボレーで決めて先制に成功する。序盤は完全に鹿島ペースだったが、前半25分に神戸がゴール前の絶好の位置でFKを獲得すると、これをMFチョン・ウヨンが鮮やかに決めて1対1の同点に追い付く。MFチョン・ウヨンは2試合連続ゴールとなった。前半は1対1で終了する。
迎えた後半9分に鹿島が攻撃を仕掛けるが、FWダヴィがオフサイドポジションにいて、副審の旗が上げられる。ペナルティエリアを飛び出してボールを処理した神戸のGK山本海は「オフサイドを取った。」と勘違いして間接FKからプレーを再開させようと軽くボールを前方に蹴り出すが、インプレーのままで、とっさの判断でボールを奪ったFWダヴィが無人のゴールに流し込んで2対1と鹿島が勝ち越しに成功する。
何とも嫌な形で勝ち越しゴールを許した神戸だったが、後半20分にFKから相手CBのDF青木剛がペナルティエリア内でハンドをおかして神戸にPKが与えられる。これを古巣対決となるFWマルキーニョスが確実に決めて2対2の同点に追い付いた。FWマルキーニョスは今シーズン5ゴール目となったが、J1通算では140ゴール目となって、歴代2位タイで並んでいたFW三浦知を抜いて単独2位となった。
さらに後半24分にはCBのDF青木剛が退場になって最終ラインが混乱していた鹿島の隙を突いて左サイドからFWマルキーニョスがクロスを入れると、21歳のMF小川慶が頭で合わせて神戸が3対2と逆転に成功する。MF小川慶は今シーズン初ゴールとなった。結局、打ち合いの展開となったが、3対2で競り勝った神戸が勝ち点「3」を獲得。日曜日に試合が行われる広島を勝ち点で上回って首位に躍り出た。
■ 鹿島側のいくつかのミス躍進の原動力になっていたMFシンプリシオとMFペドロ・ジュニオールが怪我で欠場した神戸だったが、その穴を感じさせない戦いを見せた。神戸もカシマスタジアムを苦手としており、ずっとこのスタジアムでは勝てていなかった。鬼門のスタジアムの1つだったが、14年ぶりにカシマスタジアムで勝ち点「3」を奪った。注目の上位対決だったが、今シーズンの神戸は一味違うところを示す見事な試合だった。
試合のターニングポイントになったのは、後半20分に神戸が獲得したPKである。FKからMFチョン・ウヨンがゴール前に優しく入れたボールに対して、鹿島のCBのDF青木剛で手を大きく上げてボールに触れたことで、神戸にPKが与えられた。しかも、DF青木剛は前半28分にイエローカードを受けていたので2枚目のイエローカードで退場となった。このワンシーンで試合の流れが大きく変わった。
DF青木剛は手を上に伸ばしてボールに触っているので、誰がどう見てもハンドである。PKかどうか?という議論をするまでもないシーンだったが、DF青木剛の行為は不可解だった。ただ、稀にこういうプレーはJリーグの試合でも見られる。昨シーズンの終盤の松本山雅と山形の試合の終了間際にも同じような感じで松本山雅のCBのDF多々良が手を大きく上げてボールに触って山形にPKが与えられている。
「どんな手段を使ってでも止めないといけない。」という感覚で、PK(ならびに退場)を覚悟した上で、最終手段として手を上に上げてボールに触っていると思うが、この場面は「そこまでする必要があったのか?」と思う。確かにマッチアップしていた191センチにDF増川に裏を取られかけていたが、「手で止めないと確実にヘディングで決められる。」というほど、切羽詰まった状況ではなかったと思う。
ベテランのDF青木剛らしからぬ判断ミスだったが、DF青木剛が退場になった後の鹿島ベンチの動きもまずかった。CBの1人が退場になったので、左SBのDF山本脩がCBに回って、ボランチのMF柴崎岳が左SBに回ったが、3失点目は完全にバランスが崩れていた。ノーマルの最終ライン4人であれば、「絶対にここまで乱れることはない。」と断言できるほど、3失点目のときの最終ラインはおかしな感じだった。
WボランチのMF小笠原とMF柴崎岳はともに攻撃的な選手で、(一時的であったとしても、)CBのポジションでプレーするのは難しい。最近はボランチにサイズのある選手を起用するチームが増えていて、怪我や退場等のアクシデントでCBが欠けたときもスムーズに対応できるチームが多いが、鹿島はスタメン11人の中でDF青木剛とDF昌子以外にCBをこなす選手はいない。ベンチの対応の遅さも悔やまれるところである。
■ プラチナ世代では屈指の有望株一方、神戸は4連勝となったが、4試合連続で3ゴールを奪っている。この試合は鹿島がシュート19本で、神戸が8本だったので、どちらかというと劣勢の展開だったが、キーパーのGK山本海が何度かあった決定機を防いだことが大きかった。FWダヴィのゴールにつながった2失点目のプレーは非常に軽率なプレーであり、かなり珍しいプレーだったが、味方が挽回してくれた。味方に助けられたと言える。
MF小川慶が決勝弾を決めたのも大きい。昨シーズンはJ2で16ゴールを挙げたが、今シーズンはイマイチだった。逆サイドのMFペドロ・ジュニオールがガンガン攻撃するタイプなので、MF小川慶はバランスを考えながらプレーする時間帯が長かった。これまではほとんどチャンスに絡めておらず、絶好調の攻撃陣の中で「1人だけ蚊帳の外」だったが、得点源のMFペドロ・ジュニオールが不在の試合で力を示した。
MFペドロ・ジュニオールが「文句なし」の結果を残しているので、MF小川慶は控えめにプレーせざる得なかった。ストレスが溜まっていたと思うが、本来はチームの主役になれる実力を持った選手である。神戸というそこまで注目度の高くないチームに在籍していることが原因なのか、本人の控えめな性格が原因なのか、メディアで取り上げられる機会は少ないが、プラチナ世代の中でも屈指の有望株である。
プラチナ世代では、G大阪のFW宇佐美、鹿島のMF柴崎岳、アーセナルのMF宮市などが注目されており、他にもC大阪のFW杉本や清水のMF高木善などがいる。有望株が目白押しであるが、それにしても、MF小川慶にスポットライトが全く当たらない現状は不思議で仕方がない。派手さは無いが、スピードがあって、運動量があって、クレバーで、守備も献身的にこなす。そして、年々、得点力も上がってきている。
私見を述べると、近い将来、MF小川慶は欧州の中堅以上のクラブで活躍する国際レベルの選手になると確信している。ありがちな「次に欧州で活躍する日本人選手は誰だと思いますか?」的な質問を受けたときは、必ず、名前を挙げてきた選手である。今シーズンはここまではさっぱりだったが、この日はいい形でたくさん決定機に絡むことができたので、この試合をきっかけに爆発してほしいところである。
関連エントリー 2008/04/01
【神戸×磐田】 まさしく夢空間 (生観戦記 #3) 2009/02/21
日本サッカーの未来を担うタレント60人 寸評(中) 2009/02/21
日本サッカーの未来を担うタレント60人 寸評(上) 2009/02/22
日本サッカーの未来を担うタレント60人 寸評(下) 2013/07/16
日本代表の柴崎岳の「落ち着き」について 2013/08/17
CBの逸材・岩波拓也はブラジルW杯に間に合うか? 2014/04/13
【神戸×徳島】 爽快なサッカーを披露するヴィッセル 2014/04/20
全記事一覧(2005年-2014年)
- 関連記事
-