■ あれから4年2005年12月10日に行われた入替戦の第2戦。アウェーの日立台でJ1の柏レイソルと対戦したヴァンフォーレ甲府は、FWバレーの神がかり的なダブルハットトリックの活躍で6対2で勝利。J1初挑戦の切符を獲得した。あれから4年。再び、J1昇格にかけた大一番がやって来た。
長かった2009年のJ2リーグ戦も48試合が経過し、3試合を残すのみとなった。4位のヴァンフォーレ甲府のターゲットとなるのは3位に位置する湘南ベルマーレ。同じ勝ち点「91」で並んでいて、得失点差で甲府が「1」だけ及ばない状態。ビハインドの甲府としては、ライバルを直接叩くことの出来る絶好の機会が訪れた。決戦の地は山梨県甲府市の小瀬競技場。ヴァンフォーレ甲府のホームスタジアムである。
小瀬競技場へ向かうには、JR甲府駅からシャトルバスで向かうのがベター。バスで約25分の距離にある。ただ、今回はJR南甲府駅から歩いてスタジアムに向かう。順調にいけば40分程度の距離である。JR南甲府駅は特急列車が止まる駅ではあるが、駅の周りはほとんど何もないような場所であった。
#1 JR南甲府駅
こちらがJR甲斐住吉駅。JR南甲府駅の隣の駅で、南甲府駅からは電車で約3分。こちらは特急列車は止まらない。この駅には駅員もいないようで、完全な無人駅である。一応、小瀬競技場の最寄り駅であり、この駅から歩いて行くと、スタジアムまで徒歩で30分くらいという。静岡方面から電車で行くと、「甲斐住吉駅」→「南甲府駅」→「善光寺駅」→「金手駅」→「甲府駅」となる。
歩いても1時間以内には確実に着くことの出来る距離なので、天気がいい日や昼間であれば、小瀬競技場まで歩いていくの選択肢の1つである。ただ、道が狭く、人通りも少ないため、周りが暗くなる夜だと、歩いて行き来するのは危険かもしれない。
#2 JR甲斐住吉駅
■ 最後のイスをかけて・・・J1昇格の最後のイスを争う両チーム。
3位の湘南ベルマーレは27勝11敗10分けで勝ち点「91」で得失点差「+31」。一方、4位の甲府は26勝9敗13分けで勝ち点「91」で得失点差「+30」。わずかに得失点差「1」の差である。4位の甲府は前節、アウェーでアビスパ福岡と対戦。前半17分にFWマラニョンのゴールで先制するも1対2の逆転負け。東京Vと2対2で引き分けた湘南と順位が入れ替わった。
#3 スタジアム周辺
小瀬競技場は約17,000人収容のスタジアムであるが、決戦10日前の11月11日にチケットのソールドアウトが発表されている状態。JR南甲府駅を12:00に出発してスタジアムには到着したのは13:00ということで、キックオフの4時間前であったにもかかわらず、すでにスタジアム周辺は両チームのサポーターで溢れていた。試合開始前に、これだけ列をなしている試合は過去に記憶が無い。
この試合を終えると、残り2試合。この直接対決で勝利したチームは、限りなくJ1に近づくことが出来る大一番である。
#4 開門前の行列
■ 注目のスターティングメンバー甲府はDFダニエルとDF山本が出場停止。2人のセンターバックが不在ということもあって、どういうスタメンで来るのかが注目されていたが、いつもの3バックから4バックに変更してきた。天皇杯の清水戦は4バックであったが、リーグ戦に限定すると、久々の4バックになる。
システムは<4-4-2>。GK阿部。DF杉山、秋本、池端、吉田。MF林、大西、石原、藤田。FW金信泳、マラニョン。ロンドン世代のDF吉田が左サイドバックで8試合ぶりの先発出場。出場停止明けのMF石原がスタメンに復帰。中盤はダイヤモンド型でMF藤田がトップ下気味。2試合連続ゴール中のFWマラニョンがFW金信泳と2トップを組む。正GK荻は腰椎椎間板ヘルニアため全治4ヶ月と発表されている。
ベンチメンバーはFW森田、FW松橋、MF片桐、DF御厨、GK鶴田の5人となった。
#4 試合開始前①
■ 痛恨の逆転負け大一番は、前半から激しい展開になった。
まず、開始早々に甲府のFW金信泳が決定的なシュートを放つがGK野澤にスーパーセーブではじかれる。その直後に、今度は、湘南が決定的なチャンスを迎える。しかし、FWアジエルのシュートはポストにはじかれた。
互いに1回ずつの決定機を逃した後、前半6分に湘南がカウンターアタックを発動。左サイドからサイドバックの裏のスペースを突いたFW中村が難しい体勢から左足で決めて湘南が先制する。FW中村は今シーズン14ゴール目。さらに、混乱する甲府を尻目に、前半10分に湘南は右サイドで崩してFWアジエルのパスからDF臼井が決めて2対0とリードを広げる。
2点ビハインドで攻めるしかなくなった甲府は、前半25分に中央でボールを受けたFW金信泳がGKとDFのタイミングを外してから見事な右足のシュートを決めて反撃開始。前半は2対1の湘南リードで終了。
後半はホームの甲府ペース。DF吉田が左サイドから積極的に仕掛けてチャンスメーク。そして、後半17分にMF大西が突破からPKを獲得すると、FWマラニョンが落ち着いて決めて、ついに甲府が2対2の同点に追い付く。FWマラニョンは今シーズン19ゴール目。
2対2となった後は、ホームの甲府が勢いを増して逆転の3点目のゴールに限りなく近づいたが、湘南はGK野澤が奮起。安定したセービングと間違いのない判断でゴールを許さない。すると、GK野澤の活躍に導かれるように、試合終了間際は湘南のペースになる。
ロスタイムは5分。そのロスタイムが3分ほど経過していた後半48分にドラマが訪れた。右サイドの少し距離のある位置から湘南がフリーキックのチャンスを獲得。FWアジエルが中央に入れたボールに対して甲府のGK阿部が飛び出して処理を試みるが、目測を誤って触れることが出来ない。そのボールをDF島村がヘディングシュート。これはクロスバーにはじかれるが、跳ね返りをゴール前で待っていたMF坂本が落ち着いたトラップから左足でシュート。
これが決勝点となって湘南が3対2で劇的な勝利。痛恨のロスタイムの失点で敗れた甲府は4位のまま。湘南との勝ち点差は「3」に広がって自力での昇格の可能性が無くなった。
#5 失意のイレブン①
■ 悲鳴のロスタイム後半17分に2対2に追い付いてから、一方的に攻め込んだ甲府だったが、湘南ディフェンスの集中した守りの前に逆転となる3点目のゴールは奪えず。そして、ロスタイムにMF坂本にゴールを許して2対3の逆転負け。甲府にとっては、3年ぶりのJ1が遠ざかる痛い黒星となった。
甲府はDFダニエルとDF山本英臣の2人のレギュラー・センターバックが出場停止のため不在。そのため、思い切って4バックにシステムを変更。DF池端とDF秋本のコンビに賭けたが、前半の立ち上がりは明らかにディフェンスラインが不安定でバラバラだった。
ホームで勝たなければならないというプレッシャーがかかっていたためか、立ち上がりは、両サイドバックが通常よりも上がり目になっていたが、そのサイドバックの裏を突かれる形でカウンターから2つの決定機を許し、その2つ目のピンチでFW中村に先制ゴールを奪われた。これだけの大舞台で緊張するな、というのが無理な話ではあるが、立ち上がりは、もう少し冷静で慎重に入るべきだったかもしれない。
#6 失意のイレブン②
■ 一度はチームを蘇らせた金信泳のゴールいきなり10分間で2点のビハインドとなった甲府。チームが落ち着く前に難しい展開になってしまったが、一時は2対2に追い付いた。追撃する上で、大きかったのは前半25分のFW金信泳のゴール。このゴールでホームチームは、束の間、息を吹き返した。
この日の甲府のベンチメンバーはMF片桐、FW森田、FW松橋、DF御厨、GK鶴田の5人。一応、MF片桐はMF登録ではあったが、完全に攻撃的な選手。単調になりがちな攻撃に変化を付けられるテクニシャンのMF片桐、パワープレーのときに期待出来る長身FW森田、リードした場合にカウンターで威力を発揮しそうな快足のFW松橋と、攻撃に特徴があって、点の取れる選手を3人ベンチに入れて、「どうしても点を取って勝ちたい。」いう意欲は感じられたが、GK鶴田を除くと残るのはDF御厨だけ。戦略を深める事の出来る中盤の駒が1枚もなかった。
2点ビハインドの状況になって、勝つためには残り時間で少なくとも3点以上を取らなければならないが、そのためには、前半のうちに、最低でも1点を返して1点差としなければならない。しかし、糸口はなかなかつかめず。
ベンチには、MF片桐、FW森田、FW松橋というカードはあったが、中盤もしくは最終ラインの誰を外して彼ら3人のうちの1人を起用すれば効果的なのか、判断が非常に難しい状況になっていた。もし、前半25分のFW金信泳のゴールがなければ、前半のうちに1点を返すために無理な交代を強いられていたはず。そういう意味でも、FW金信泳のゴールは大きかった。
#7 ヴァンフォーレのサポーター席
■ 3点目を奪いに行った判断は?2対2に追い付いた後、果敢に攻め込んだ甲府だったが、ロスタイムに失点を喫した。その少し前に、MF林を外してFW松橋を投入。3点目を狙う積極的な交代を見せたが、結果的には裏目に出た。
完全に結果論ではあるが、甲府としては2点ビハインドから追いついたという立場であった。このまま「2対2」のままで試合を終わらせるという選択肢もあった。甲府のホームであったが、「2対2」のままで終わっていれば嫌なムードになったのは2点リードを追い付かれた湘南側であったことは想像できる。
また、2対2のドローであった場合、当面の順位は変わらなかったが、湘南の残り試合は草津(H)と水戸(A)。対して、甲府は岡山(A)と熊本(H)。甲府は岡山に対して、過去1敗1分けと分が悪いが、普通に考えると湘南の残りの対戦相手の方が厳しい相手であり、仮に得失点差での勝負となったとしても、甲府のラストはホームの熊本戦ということで、大量ゴールが奪える可能性が低くはなかった。
イケイケで3点目を目指すのは悪くない選択である。甲府らしい選択だったともいえる。ただ、ドローでも良かった。甲府の立場はそういう状況であった。
■ 正GKの不在湘南の3点目のゴールはMF坂本の執念とポジショニングが実った素晴らしいゴールだったが、失点の大きな要因が甲府のGK阿部の判断ミスであったのは間違いない。FWアジエルの蹴ったボールが際どいコースに飛んで行ってGKが処理できそうなボールであり、GK阿部としてはキャッチすることが出来れば、逆にカウンターの大チャンスになりうる、という考えがあったかもしれないが、軽率であり、飛び出したからには絶対にボールに触らなければならなかった。
GK阿部はもともと甲府の正GKであり、前回の昇格の時の立役者の一人であるが、今シーズンは、GK荻がずっとゴールマウスを守っていて、GK荻の急成長が守備の安定につながっていたという側面がある。大事な終盤戦に向けて、抜群の安定感を誇ったGK荻が腰痛で離脱しているというのは大きなマイナス材料となった。
■ 精彩を欠いた中盤この試合の甲府は<4-4-2>。中盤はMF藤田を前目に置くダイヤモンドに近い形であったが、トップ下のポジションに入ったMF藤田の出来が今一つで、攻撃のブレーキになった感はある。ボール扱いがうまく、動きの量も多いので、中盤でつなぎ役としては最適な選手ではあるが、ゴール前ではイマジネーションを欠いて、手詰まりになるシーンが多かった。
MF藤田の前方には、フォワードのFWマラニョンとFW金信泳がいるが、彼らもどちらかというとサイドに流れるプレーを好む選手であり、トップ下のMF藤田もゴール前に絡んでいくタイプの選手ではない。よって、せっかく、いい形でサイドを突破したとしても中の枚数が足りなくて、湘南のDFに簡単に跳ね返されるシーンが目立った。
また、アンカーで1ボランチ気味に入ったMF林のプレーもこの日は今一つだった。中盤の底でミスの少ない確実なパスワークが持ち味の選手であるが、気負いもあったのか、どうにもパスミスが目立った。前述のように中盤の守備的な選手のバックアッパーはおらず、MF林を引っ張るしかなかったが、本調子ではない事は明らかであったので、もう少し早めに手を打つことが出来るのであれば、手を打ちたかった。
■ 左サイドバックの吉田豊<3-5-2>から<4-4-2>に変更したことでスタメンに復帰したのが左サイドバックのDF吉田。1990年生まれの19歳である。右サイドのDF杉山は3バックの時は右のアウトサイドに入っていて、出場停止を除くとずっとスタメン出場を続けていたが、DF吉田は43節以来の出場。プレッシャーもあったのか、立ち上がりの入り方は良くなかった。
湘南は<4-1-2-3>であるので、ちょうど右サイドに張るFWアジエルとマッチアップすることになるが、前半はFWアジエルへの対応だけで精いっぱい。ほとんど攻撃に参加できなかったが、1点ビハインドの後半は吹っ切れたのか、左サイドを突破してチャンスメークした。
この左サイドのDF吉田のプレーが起爆剤になって後半の甲府の攻撃は活性化したが、残り時間が10分ほどになった以降は、スタミナが切れてしまったのか、FWアジエルとDF臼井のコンビネーションに手を焼いた。MF坂本の決勝ゴールの前にサイドを切り崩されてDF臼井の決定的なシュートチャンスを作られていたが、相手に上手く2対1の状況を作られていて、どうしようもない状態になった。
#8 試合終了後
■ チーム力は互角幾つかの問題点はあったが、それでも、甲府のイレブンを責めることは出来ない。チームの総合力でみると、湘南ベルマーレとヴァンフォーレ甲府の間に差は全くなかった。もう少しの甲府側に運があれば、そして、湘南のGK野澤の神がかり的なセービングが無ければ、逆に甲府が昇格に王手を賭けていたとしてもおかしくなかった。
J1昇格をかけた難しい試合になったが、ホームのサポーターの大声援を背に甲府のイレブンも100%の力を発揮したと思う。ただ、湘南のイレブンは、この大一番で120%の力を発揮することが出来た。あえて言うと、その差があった。
■ 残りは2試合甲府に残されたのは2試合。まずは、アウェーの岡山戦になるが、残り2試合で2連勝が必須なのは間違いないが、湘南にプレッシャーをかけるためにも、岡山戦で3点ないしは4点くらいの得失点差を奪いたいところ。
もちろん、残り2試合で湘南が勝ち点「4」以上を獲得するとノーチャンスになるが、50節の草津戦は湘南にとって、言葉では表現できないくらいの心理的なプレッシャーがかかる試合になる。51節の水戸戦も同様である。
甲府としては、51節終了時点で勝ち点が並んだ時に得失点差で上回れるような状況を作っていかないといけない。そうなると、湘南の最終節はもっとプレッシャーがかかる。そのためには、岡山戦がラストチャンスとなる。
#9 試合終了後
■ Clap Your Hands甲府は、「世界一、手拍子に満たされたスタジアムへ」という運動を行っているが、この日は世界一の手拍子で満たされたわけではなかった。なぜならば、手拍子をするのも忘れて、ほとんどの観衆はピッチに見いったままの状態であったからである。統制のとれた応援も悪くはないが、結局のところ、本当にチームが大事な場面を迎えているとき、サポーターは、手拍子するのも、歌うのも、何もかも忘れてしまう。そんなことを実感する試合だった。
ホームの小瀬競技場は、サッカー専用のスタジアムでもなく、ごく普通の陸上競技場であるが、そのスタジアム内の雰囲気は他のどのサッカースタジアムでも味わえない独特のものがある。通常、試合前に、アウェーチームのスターティングメンバーが発表されるときは、ホームチームのサポーターから大音量のブーイングが聞こえてくるはずであるが、この日は一切なかった。
意識してそういう柔和な雰囲気を作っているのか、意識せずともそういう雰囲気になっているのかは分からないが、どちらかというと殺伐な雰囲気のスタジアムが増えてきている中では、このスタジアムは貴重である。
MF坂本紘司の決勝ゴールが決まった瞬間の「甲府サポーターの悲鳴」と、「湘南サポーターの歓喜」をずっと忘れないだろう。この日、小瀬競技場で行われた試合は、ヴァンフォーレ甲府とクラブと、湘南ベルマーレというクラブと、16,844人のサポーターのみんなで作った伝説の試合の1つになった。
#10 キックオフ直前
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