■ 開幕カード②2008年はJ1で16位。チーム史上最低の成績で入替戦に回り、新鋭MF松浦の3ゴールの活躍で仙台を下してJ1残留を決めたジュビロ磐田。最低限の「残留」という使命を果たしたハンス・オフト監督は退団し、ヘッドコーチだった柳下監督が就任。心機一転を図る。
ホームの磐田は<4-2-2-2>。GK川口。DF加賀、茶野、那須、駒野。MF山本、犬塚、太田、西。FW前田、ジウシーニョ。右アウトサイドにMF太田、左アウトサイドにMF西を起用するサイドアタック重視の戦法。
対するはJ1初挑戦のモンテディオ山形。システムは<4-4-1-1>。GK清水。DF宮本、石井、レオナルド、石川。MF佐藤、秋葉、キム、宮沢。FW古橋、長谷川。
■ 先制はジュビロ前半の立ち上がりは磐田ペース。前半18分にはペナルティエリア内でFWジウシーニョが倒されてPKを獲得。そのPKをFWジウシーニョが自ら決めて先制する。
しかしながら、次第に中盤でのパスミスが多くなっていった磐田は、前半36分にDF石川のフリーキックっからMFキム・ビョンスクに中央で合わされて同点に追いつかれると、さらに、前半38分にも右サイドを崩されてFW古橋がダイビングヘッドでゴールゲット。
前半は、2対1とアウェーの山形リードで折り返す。磐田は右サイドのMF太田とDF加賀の連携から崩しにかかるが、なかなかFW前田遼一にボールが渡らず。嫌なムードで前半を終えた。
■ 怒涛の攻撃後半10分に磐田はボランチのMF犬塚に代えて攻撃的なMF松浦を投入。MF松浦とMF山本のダブルボランチの組み合わせに変更すると、MF松浦のボールキープが効果を発揮して、一時的にリズムをつかみ、前線で厚みのある攻撃が可能となる。
後半18分には、右サイドのMF太田のクロスに対してFW前田が競って、そのこぼれ球をFWジウシーニョがうまく右足で合わせて同点に追い付く。FWジウシーニョはこの試合2ゴール目。
これで磐田ペースになるかと思われたが、ここから山形が素晴らしい力を発揮する。
後半30分に右サイドを崩して最後は中央でフリーのFW長谷川が押し込んで3対2と再びリードを奪うと、さらに後半35分にも途中出場のMF北村がゴールを決めて2点リードとなる。その後は、集中の切れた磐田に対して、DFレオナルドとFW長谷川がヘディングシュートを決めて6ゴール。誰も予想しなかった大勝利で見事なJ1デビューを飾った。
■ 衝撃のデビュー戦シーズン前の順位予想ではほとんど人が「18位」と最下位に予想したモンテディオ山形。クラブの規模を考えると苦しいシーズンになるのは間違いないと思われたが、これ以上無い形でJ1初勝利を飾った。磐田の守備陣やゲームプランに問題があったのは確かだが、自信と勢いのつく最高の試合となった。
大きかったのは、やはり1点目のセットプレーからのMFキムのゴールか。磐田に先制されて嫌な展開になりかけただけに大きなゴールだった。また、その2分後のFW古橋のダイビングヘッドでのゴールは、彼のゴール前の勇気とセンスが生んだ素晴らしいゴールだった。前半のうちにリードを奪ったことで、磐田は前に攻めざる得なくなって、バランスを崩した。
ここ数年、昇格クラブは前年の優勝クラブと対戦することが多かったが、山形にとって、王者の鹿島との対戦ではなく磐田との対戦となったことは非常に幸運だった。次節はホームで名古屋との対戦となるが、地元の盛り上がりは相当のものになるだろう。連勝スタートとなると大変なことになる。
■ 落ち着いたボール回し磐田のボール回しが非常に不安定だったのに対して、山形の落ち着いたボール回しが印象的だった。ダブルボランチはMF佐藤とMF秋葉の二人で、共に抜群にボールテクニックがあるわけでもなく、難しいプレーが出来るわけではないが、シンプルで効果的な展開ができていた。
FW古橋のビルドアップのときの巧みな貢献もチームには大きく、FW古橋らが絡んだ3点目や4点目のボール回しは完璧で、磐田ディフェンスは完全に翻弄されて、やすやすと失点した。
同じJ2からの昇格組で、山形以上にボール回しに定評のある広島であるが、開幕戦の横浜FM戦ではリードを奪った後に、ややあわてたプレーが増えて軽率な形でボールを奪われることも多かったが、この試合の山形は安易なボールの失い方をしたケースはほとんどなかった。
■ 187cmの長谷川悠山形の攻撃の軸となるべき存在のFW長谷川は2ゴールと結果を残した。昨シーズンはJ2で13ゴールと開花したが、新しいJ1での戦いでさらなるステップアップが望めるだろう。2ゴール共に完全にフリーとなっていてシュート自体は難しいものではなかったが、あの位置にポジションを取ったということが高く評価できる。
昨シーズンは北京五輪代表だったFW豊田陽平との2トップが多かったが、素晴らしく相性が良かったというわけではなく、FW豊田と2トップを組んだ時は、FW長谷川のゴールは伸びなかった。そして、今シーズンは、C大阪でも活躍したFW古橋が加入。FW古橋がフォワードながら非常に味方を使うのが上手く、経験もあるので2トップのコンビネーションという意味では昨シーズン以上に期待できる。
得点力のあるチームではなく、また、FW古橋とFW長谷川以外のストライカーは完全に未知数であるので、この二人にかかる期待は大きく、二人で合わせて20ゴールは期待したいところ。そうすれば、残留が見えてくるだろう。
■ ダブルボランチの弱さ一方の磐田は懸念されていたダブルボランチの弱さが目についた。MF犬塚とMF山本の二人は能力の高い選手ではあるが、柳下監督の目指すサッカーで求められる仕事を十分にこなせるほどプレーヤーとして成熟しておらず、危険なエリアでボールを奪われるシーンやゴール前の危険なエリアで相手を捕まえ切れないシーンが少なくなかった。
左右の両アウトサイドのMF太田とMF西が大きく開いているため、相手の中盤の真ん中付近に広大なスペースがあり、そのエリアを誰も埋めきれていない。結果的に、山形のダブルボランチにはほとんどプレッシャーをかけられていない状態で、FWジウシーニョやFW前田の守備面での貢献も限界がある。
■ 山本康裕の使い方特にMF山本の使い方については疑問を持たざる得ない。U-20代表で将来の磐田の中心となるべく素材であるが、今のような起用方法では力を発揮させることは難しく、MF山本自身のミスも目立つが、周りが全くカバーできていないので、ミスが失点に直結する難しい役割となっている。
ダブルボランチで起用するのであれば、相方には経験豊富な選手を配置してやれば、MF山本の積極性が威力を発揮するだろうが、現状ではMF犬塚も自分のプレーで精いっぱいであり、このままMF山本を起用していくとミスを恐れて自分のプレーが出せなくなるのではないかと懸念が生まれる。
精度の高いミドルパスや前線への飛び出しには秀でたものがあるだけに、無茶な起用をして個性を殺さずにしたいところである。
■ 松浦の投入1点ビハインドだった磐田が後半10分にMF犬塚に代えてMF松浦を投入。MF松浦の攻撃的な良さも見えて同点に追いついたが、結果的には、ボランチの一角で起用したのは無謀だったといえる。
スタメンのMF山本とMF犬塚のダブルボランチの状況であった時も山形の攻撃を上手くストップできずにいたが、もっとも攻撃的なMF松浦を起用したら、それ以上に守備が苦しくなるのは必然だった。
FW前田やFWジウシーニョ、MF太田ら前線の破壊力は山形を上回るのは間違いなく、相手はJ1初挑戦であり、試合が進むにつれて1点のビハインドであっても、辛抱強く攻めていけば同点ゴールは可能だったのではなかったか。また、2対2に追いついた後、まだ十分に時間があったので、一気に逆転を狙わずに、誰かサブの選手を投入し、元の配置に戻しても良かったのではないか。
心機一転のシーズンであるが、最悪の開幕戦となった。
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