■ W杯の壮行試合ブラジルW杯に向けた壮行試合で、ザックジャパンにとっては国内ラストマッチとなるキプロス戦が埼玉スタジアムで行われた。日本のFIFAランキングは47位で、キプロスのFIFAランキングは130位となっており、キプロスはブラジルW杯の欧州予選はグループEに組みこまれたが、1勝7敗2分けという成績で、グループEの最下位だった。キプロスはW杯に出場した経験はない。
日本は「4-2-3-1」。GK川島。DF内田、森重、今野、長友。MF山口蛍、遠藤、岡崎、本田圭、香川。FW柿谷。怪我上がりのDF内田はスタメンで起用されたが、DF吉田とMF長谷部はベンチスタートで、FC東京のDF森重とC大阪のMF山口蛍がスタメンに抜擢された。もっともポジション争いが熾烈な1トップはC大阪のFW柿谷が起用された。スタメン11人の中で国内組は5人だった。
■ 1対0で日本が逃げ切る試合の序盤はキプロスがやや優勢となる。予想通り、コンディションの良くない日本の動きが重くて、序盤は流れをつかめない。しかし、前半15分あたりを過ぎるとボールを保持してチャンスを作るようになる。目立ったのは左SBのDF長友の仕掛けとクロスで、左サイドを起点にゴール前のシーンを作っていくが、なかなかゴール前で待っている選手にクロスが合わない。
0対0で終わろうとしていた前半43分にMF山口蛍の縦パスをきっかけに波状攻撃を仕掛けると、ペナルティエリア付近でボールを受けたMF香川が巧みなコントロールからシュートチャンスを作る。MF香川はシュートを打ちきれなかったが、こぼれ球をDF内田がシュートして、相手に当たって跳ね返ったところを自ら押し込んで日本が先制に成功する。DF内田はAマッチでは2ゴール目となった。
1対0で迎えた後半は日本が攻め込む展開となる。後半13分にFW柿谷に代えてFW大久保を投入。FW大久保のミドルシュートなど相手ゴールを脅かすシーンを作るが、相手キーパーや相手CBの頑張りにあって追加点を奪うことはできない。結局、前半43分のDF内田のゴールが唯一のゴールで、この試合の決勝点となった。次は6月3日(火)にコスタリカと対戦する予定になっている。
■ コンディションの悪さは予想通りW杯前の重要な時期で、とにかく、初戦のコートジボワール戦のときにコンディションが120%になるように体を作っている最中である。そのためのテストマッチであり、勝ち負けというのはあまり重要ではないが、勝った方がいいのは当然のことである。1対0で迎えた後半41分にMF香川の裏のスペースを突かれて決定機を作られるなどピンチもあったが、何とか1点リードを守り切った。
この試合は日本テレビ系列で放送されたが、走行距離であったり、ヒートマップであったり、パス成功率であったり、各種のスタッツが出ていた。いい試みだったと思うが、走行距離に関してはあまり見ない数字だった。フル出場したのは4人だけであるが、1位のMF本田圭でも9.35キロで、2位のMF山口蛍が8.99キロで、3位のMF香川が8.79キロで、4位のDF森重が8.19キロだった。
MF香川は運動量に関しては世界でもトップレベルである。UEFA CLでは、常に12.5キロほど走っており、「マンチェスターUの中で一番」という試合も珍しくないが、8.79キロというのは、ありえない少なさである。もちろん、試合展開によって走行距離は変わってきて、相手に攻め込まれる回数が少ないと数字は伸びて来ないが、コンディションが最低レベルだったことは明らかである。
ただ、これは仕方がない話である。そして、想定通りのことである。コンディションが良くない中、大観衆の後押しを受けたり、相手チームの頑張りに刺激を受けて「ちょっと無理をして走ること」が本番のW杯を最高のコンディションを迎えるために必要なことなので、予定通りである。キプロスも非常にいいチームで、最後までよく頑張ってくれたので、有意義なテストマッチになった。
■ 決勝ゴールを決めたのはDF内田篤人コンディションが良くない場合でも、普段に近いプレーができる選手もいるし、コンディションの影響を諸に受けてしまう選手もいる。今シーズンはACL組が4月中旬から5月中旬まで11連戦になるなどタイトな日程で戦っていたが、MF山口蛍などは所属のC大阪でもほとんど疲れを感じさせないプレーを見せているので前者と言えるが、後者の選手もたくさんいる。個人差が大きい。
W杯の本番ではほとんどの選手があと1.5キロほどは多く走ることができるので、スムーズさというのは全く違ってくると思うが、全員がどん底のコンディションである割には内容は悪くなかった。最後の精度を欠くシーンはあったが、前の4人の距離感はなかなか良かったし、サイドの崩しも良かった。そして、(特に)後半になるとボランチの2人もうまく攻撃に絡んできた。形は悪くなかった。
決勝ゴールの場面も何人かが絡んだ崩しから生まれたが、いい形だったと言える。ペナルティエリア内でMF香川が持ち味である技術の高さを発揮して、DF内田もうまい具合に攻撃に絡んできた。DF内田がこの位置に入ってくることは日本代表でも、シャルケでも、あまりなかったが、いいところにポジションを取っていた。辛いリハビリを頑張ったご褒美と言えるだろう。
ただ、まだ全力ではプレーできないのか、スピード感などはあまり感じられなかった。同じ怪我上がりの選手でも、MF長谷部とDF吉田は違和感を感じさせなかったが、DF内田はまだ少し時間がかかりそうだ。ただ、コートジボワール戦まで18日ほどあるので、本番には十分に間に合う。心配されていた怪我人トリオが「大丈夫っぽい。」と分かったことは大きな収穫と言える。
■ DF森重とMF山口蛍が好アピールこの日のキプロス戦のように(敢えて)コンディションを落としている試合もあるし、過密日程の中、キツイ条件で試合をこなさなければならない試合もある。こういうときは、そういった事情を十分に考慮して選手やチームのパフォーマンスを評価する必要がある。そうしないと正しい評価にはならなくて、例えば、本大会の予想をするときにおかしなことになってしまう。
当然、「いい状態の選手」はいなかったが、DF森重、DF長友、MF山口蛍、MF香川などは「このまましっかりと調整してW杯に突入できれば、かなり活躍できるだろう。」と思わせるプレーを見せた。特に、DF森重とMF山口蛍の2人は良かった。結局、DF吉田とMF長谷部も後半スタートから登場して、45分間プレーしたので、スタメンでも問題なかったと思うが、ベンチスタートだった。
ザッケローニ監督の中の序列が変わったのか?否か?という点は気になるところであるが、DF森重とMF山口蛍は日本代表でスタメンを張れる実力があることを示した。ボランチとCBは、MF長谷部とMF遠藤とDF今野とDF吉田の4人でずっと固定されており、なかなか3人目が見つからなかったが、初戦でDF森重やMF山口蛍がスタメンで起用されてもおかしくない状況になった。
DF森重はつなぎの秀逸さが光った。やや難しい体勢でボールをカットせざるえないときでさえ、単純にクリアするのではなくて、確実にボランチにボールを預けることができるので、彼のパスカットからいい展開につながるシーンがいくつもあった。余裕を持ってプレーしている点も好印象で、先のとおり、DF吉田も普通にプレーできる状態に戻った。CBのポジション争いは面白くなってきた。
一方のMF山口蛍はセカンドボールへの反応が見事で、何度も二次攻撃のきっかけを作った。目立たないプレーではあるが、セカンドボールを確保できるか、否かは試合の行方を大きく左右する。また、彼もボールを奪い取るだけでなく、気の利いたパスを出すことができる。セカンドボールを拾って次のパスをどこに出すか?が大事になってくるが、このあたりの判断も非常に的確だった。
■ 不安材料はMF本田圭佑MF岡崎、FW柿谷、FW大久保などは、それほど目立たなかったが、キレあるいは運動量で勝負するタイプはコンディションが悪いときは活躍できない可能性が高くなる。そして、どうしようもないほど悪い状態ではなくて、普通の状態だと思うので、大きな不安は無い。FW大久保については、初めて一緒にプレーする選手も何人かいたと思うが、その割には違和感なくチームに溶け込んでいた。
唯一の大きな不安材料はMF本田圭の状態である。体を追いこんでいるのはみんな同じで、それが原因で発生したミスに関しては、この段階で問題視する意味はない。しかし、MF本田圭については、「コンディションの問題なので、本番になれば大丈夫と言えるミス」ではないミスが多かった。体も、頭も、全く冴えておらず、「状態は悪かった。」と言わざる得ない。
後半の終盤はちょっと持ち直したので、その点は明るい材料と言えなくもないが、軸となる選手であり、替えの利かない選手なので不安は残る。「コンディションさえ良くなれば、パフォーマンスは上がってくる。」と思える内容ではなかったので、気になるところである。ただ、彼は非常に意識の高い選手である。「何とか本番までには合わせてくる。」と信じたいところである。
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