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日本代表は32カ国中で19番目 ~ブラジルW杯の走行距離について~ (上) の続き。
■ 日本代表のコンディションは悪かったのか? (
上)で述べたとおり、コートジボワール戦の動きは重かった。「日本代表はコンディション作りに失敗したのか?」と当初は思ったが、高温多湿と言われる地域で行われた試合はどのチームも動きが重かった。欧州のリーグ戦やCLの試合と比べると驚くほど選手の走行距離が伸びなかったが、これは他国も同じで、日本代表のコンディション作りに大きな問題があったとは言えないだろう。
「今大会はどのチームもコンディションが良くないな・・・。」と感じた人が多かったと思う。「元気に走り回っていたのはコスタリカやチリやメキシコなどごく一部の国に限られた。」という印象もあるが、4年前のW杯と比べるとどうなのか?これを調べた結果が表5である。勝手に想像していたのとは違って、4年前の南アフリカW杯と比べると全体の走行距離自体はやや増えている。
表5. 前回大会との走行距離の比較 (2チーム合計)
| 90分の試合 | 120分の試合 |
走行距離(km) | 試合数 | 走行距離(km) | 試合数 |
南アフリカW杯 | 209.420 | 60 | 273.410 | 4 |
ブラジルW杯 | 213.048 | 54 | 276.052 | 6 |
■ 3試合ともDIS値は相手を上回った日本代表 ここからは日本代表の話が中心になるが、表6はGLの3試合の日本代表のDIS値と相手チームのDIS値の比較である。このとおりで3試合とも相手を上回っている。表1のとおり、コートジボワールは全く走らないチームではあったが、「日本の選手の動きが重い。」と感じたコートジボワール戦でさえ、DIS値は相手を大きく上回っている。「相手に走り負けた。」という見方は適切とは言えない。
走行距離というのは攻撃のときにフリーランニングを行う選手が多いチームやカウンターのときに後方からどんどん選手が湧いてくるチームは数字が伸びていくが、一方で、守備のときに相手にボールを回されて走らされたときも数字が伸びていく。したがって、「単純に走った距離が多い方が良い。(=DIS値が高い方が良い。)」とは言えないが、3試合とも相手を上回ったのは事実である。
表2で示した通り、単純にDISの平均値で比較すると32カ国中で19位となる。平均を下回っているので、他チームと比べると、「日本代表が走れていなかった。」のは確かだが、何度も記述している通り、今回のW杯というのは南北に長いブラジルで開催された特殊なW杯である。試合会場によって条件が大きく違ってくるので、単純に走った距離だけで語ろうとするのは間違いの元である。
表6. 日本代表のGLの3試合のDIS値の比較
| 対戦相手 | 試合会場 | DIS値 |
日本 | 相手チーム |
1戦目 | コートジボワール | レシフェ | 109.352 | 98.216 |
2戦目 | ギリシャ | ナタウ | 103.063 | 101.880 |
3戦目 | コロンビア | クイアバ | 108.302 | 105.872 |
■ 相手に走り勝ったチームはスイス 動きやすい環境なのか、否かについては、開催地はもちろんのこと、その日の天候や暑さなどにも大きく左右される。となると、一番、楽に比較できるのは対戦相手との差である。 当然、チームごとに戦い方は異なるので、DIS値が相手を上回っていることが必ずしもいいこととは言えないが、相手チームとのDIS値の平均の差が大きい方から順番に並べると表7のようになる。
1位はスイスで「+9.18」となった。スイスは攻撃的なポジションは若い選手が多くて、両SBも積極的に攻撃に参加してくるチームだったが、同程度だった2戦目のフランス戦以外は相手を大きく上回った。2番目はボスニア・ヘルツェゴビナだったが、初出場のボスニア・ヘルツェゴビナはかなり攻撃的で魅力的なサッカーをしていた。結果は出なかったが、今回のW杯では好印象を抱いた。
3番目はロシアで「+7.06」となった。スイスとボスニア・ヘルツェゴビナとロシアの3チームは相手を大きく上回っており、「非常に運動量の多いチームだった。」と言える。4位以下は混戦になってくるが、4番目は日本で「+4.92」だった。この事実をどう捉えるべきか?というと非常に難しい話になる。「運動量の多さが日本の武器なのでもっと差を付けなければならない。」という見方もできる。
表7. 相手チームとのDIS値の差のランキング
| 国名 | 試合数 | ± | 自チームの平均DIS | 相手チームの平均のDIS値 |
1 | スイス | 4 | 9.18 | 110.135 | 100.957 |
2 | ボスニア・ヘルツェゴビナ | 3 | 7.38 | 113.736 | 106.358 |
3 | ロシア | 3 | 7.06 | 116.988 | 109.928 |
4 | 日本 | 3 | 4.92 | 106.906 | 101.989 |
5 | アメリカ | 4 | 4.47 | 115.669 | 111.199 |
6 | オーストラリア | 3 | 3.88 | 119.306 | 115.425 |
7 | イラン | 3 | 3.74 | 108.922 | 105.183 |
8 | ドイツ | 5 | 3.58 | 110.021 | 106.439 |
9 | チリ | 4 | 3.42 | 112.317 | 108.894 |
10 | メキシコ | 4 | 2.90 | 107.401 | 104.505 |
11 | ギリシャ | 4 | 2.40 | 104.316 | 101.918 |
12 | クロアチア | 3 | 2.24 | 105.886 | 103.650 |
13 | イタリア | 3 | 2.05 | 109.353 | 107.300 |
14 | コスタリカ | 5 | 1.80 | 106.795 | 104.994 |
15 | フランス | 5 | 1.58 | 106.751 | 105.168 |
16 | コロンビア | 5 | 1.58 | 104.356 | 102.774 |
17 | オランダ | 5 | -0.82 | 109.216 | 110.034 |
18 | アルジェリア | 4 | -0.88 | 108.811 | 109.689 |
19 | 韓国 | 3 | -1.45 | 112.127 | 113.579 |
20 | ポルトガル | 3 | -1.56 | 110.715 | 112.276 |
21 | ウルグアイ | 4 | -1.66 | 105.952 | 107.617 |
22 | イングランド | 3 | -1.97 | 107.396 | 109.362 |
23 | ブラジル | 5 | -3.43 | 100.954 | 104.379 |
24 | カメルーン | 3 | -3.57 | 99.962 | 103.535 |
25 | ベルギー | 5 | -3.87 | 110.115 | 113.987 |
26 | ガーナ | 3 | -5.29 | 112.062 | 117.353 |
27 | ホンジュラス | 3 | -5.35 | 98.745 | 104.092 |
28 | ナイジェリア | 4 | -5.49 | 101.553 | 107.043 |
29 | アルゼンチン | 5 | -5.82 | 103.893 | 109.716 |
30 | スペイン | 3 | -6.53 | 109.591 | 116.116 |
31 | エクアドル | 3 | -6.68 | 101.205 | 107.886 |
32 | コートジボワール | 3 | -8.99 | 96.760 | 105.753 |
■ 日本代表はどういうサッカーをすべきか? 個人的には「攻守両面でもっと運動量を生かしたサッカーをするべきだった。」と考える。中盤の選手のテクニックを駆使してショートパスをつなぐプレーも日本の持ち味の1つだとは思うが、運動量の多さも日本の武器である。結局、テクニックと運動量の2つは日本が世界と戦うときの大きな武器となるが、「ザックジャパンは片方の武器しか有効に使おうとしなかった。」という印象である。
例えば、MF香川、MF岡崎、DF長友、MF山口蛍らの運動量は同ポジションの選手の中では世界でも上位クラスと言えるが、ザックジャパンの試合の中で彼らの走力が存分に生かされるシーンがどれだけあったか。W杯の本大会の3試合に限らず、親善試合でもほとんど無かった。個人的には「自分たちのサッカー」と信じたサッカーは「日本が目指すべきサッカー」とは言えないと思う。
ちょうど1年ほど前にザッケローニ監督は日本代表の目指すスタイルに関して、『バルサ型とドルトムント型の中間』と語っていたが、正直なところ、ドルトムントっぽさというのはあまり感じられなかった。中間であるならば「バルサ:5、ドルトムント:5」という比率になってくると思うが、実際には「バルサ:8、ドルトムント:2」あるいは「バルサ:9、ドルトムント:1」だったように感じる。
→→→ 2013/07/04
日本代表とザックジャパンが目指すスタイルは? ■ どんなサッカーが日本のサッカーなのか? 「自分たちのサッカー」あるいは「日本らしいサッカー」という言葉がブラジルW杯を総括するときのキーワードになるが、4年周期のラストがW杯の本大会である。総仕上げの場と言えるが、W杯の本大会で結果を出すことを何よりも優先させるのであれば、今後は「次のW杯の開催地」のことも考慮して、そこに適したスタイルでチームを作り上げていくことも頭に入れるべきなのかもしれない。
例えば、4年後の2018年のW杯の開催地はロシアである。面積は世界一なので、今回以上に移動距離の問題が生じるだろう。一方、南北というよりも東西に長い国なので気候の差はそこまで大きくならない可能性もあるが、そうは言っても1998年のフランスW杯や2006年のドイツW杯や2010年の南アフリカW杯と比べると「気候の差」を気にする必要があるのは確かである。
そして、8年後の2022年はカタールW杯となるが、こちらは1994年のアメリカW杯のように灼熱地獄の中で行われる大会になる可能性が高い。カタールW杯のように「動きにくい環境」で次のW杯が開催されるケースでは、本大会に入って選手たちの動きが不意に重くなることを想定して、堅守速攻型など「省エネスタイル」のサッカーを本格的に取り入れるのも1つの手と言える。
一方で逆の発想もできる。J2で首位を独走する湘南を例に挙げると、「暑くなって動きにくくなっても自分たちは大丈夫。」、「相手の動きは悪くなるが、自分たちは落ちないので、さらに有利になる。」という前向きな考え方をしている。それには十分な根拠と裏付けが必要となるが、走りにくい環境が想定される中、敢えて運動量をベースにしたサッカーに取り組むのも1つの手である。
結局のところ、強豪国といえども、いつも同じスタイルでW杯を戦っているわけではない。ブラジルというとショートパスを主体とした華麗なサッカーをイメージする人が多いと思うが、今大会のブラジルは堅守速攻の現実的なサッカーをしている。その一方で、イタリアはこの4年間、プランデッリ監督の下、攻撃的なチームを作って、ユーロ2012では結果を残したが、W杯では結果が出なかった。
個人的にはマナウスやレシフェのような過酷な環境で試合を行うことになった場合でも、高温多湿であることをマイナスに捉えるのではなくて、プラスに捉えることができるような「走力を生かしたチーム」を作ることが日本代表にとってベストな道ではないかと思う。ここまでに数字で示した通り、決して3試合とも走り負けたわけではないが、相手を走力で圧倒することはできなかった。
付け加えるとショートパスを主体としたバルサ型のサッカーというのは、負けたときは非常に淡泊に感じられるケースが多いが、走り切るサッカーは感動を呼びやすくて、観ている人も共感しやすいところもある。次のロシアW杯のとき、同じように表7で示した「相手チームとのDIS値の差のランキング」を集計したとき、日本代表が他の出場国を数値で圧倒することを個人的には期待したい。
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日本代表は32カ国中で19番目 ~ブラジルW杯の走行距離について~ (上) →
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