■ 見て、話して、ともに戦え2013年2月23日に発売された関塚隆監督の「見て、話して、ともに戦え U-23世代をどう育てれば勝利に導けるか」という本を読んだ。文藝春秋から発行されており、価格は1,260円である。「U-23世代をどう育てれば勝利に導けるのか?」というサブタイトルが付けられていることからも分かる通り、管理職の人をメインターゲットにしている節がある。
全部で188ページで構成されているが、
第1章:「U-23の見極め方」
第2章:「U-23の接し方」
第3章:「U-23の育て方」
第4章:「U-23の組織論」
となっており、さらに、それぞれの章にはキーセンテンスがあって、これに基づいて話が進められていく。例えば、第1章は、
1. 人間形成の途上にいる若い世代を色眼鏡で見てはいけない
2. 有言実行型の彼らにはエネルギーの使い道を教えてあげる
3. 個性が輝き出す瞬間を見逃すな
4. 細かなグループの壁を取り払う
5. キャラクターを見極める
6. 「天狗」を作るな
7. ステータスをしっかりと自覚させる
8. 抜擢する際は細心の注意を
の8つから成り立っており、ロンドン五輪でベスト4という結果を残した指揮官が、どのようにして、現代の若者と向き合いながらチームを作っていったかが、まとめられている。個人的には、「もう少し内部の人にしか知られていないエピソードが盛り込まれていたら・・・。」と感じたが、売り上げを伸ばすには、こういう形でビジネスマン向けの本に仕上げるのが、ベターなのだろう。
■ 杉本健勇の抜擢ただ、抽象的な話ばかりではない。興味深く読み進めることができたところがいくつかあったが、1つ目は、第1章の「抜擢するときは細心の注意を」という項目である。ここでは、セレッソ大阪のFW杉本健勇が例に挙げられていて、「若者を抜擢する際は慎重にタイミングを見極めるべきである。」と記されている。そして、FW杉本の抜擢に関しては、うまくいったと綴られている。
川崎F時代にFW我那覇やFW鄭大世を代表クラスに育てた実績のある関塚監督はFW杉本のことを高く評価しているようで、「インターナショナルのレベルまで行ける素質を持った選手」であり、「(五輪代表の)前線の軸となれる選手」と高く評価していた。そのため、早い段階からリストアップして、五輪代表の候補に挙げていたが、『なかなか召集に踏み切ることが出来なかった。』と書かれている。
その理由の1つに挙げられているのは、一番上の学年(=GK権田、FW永井ら1989年の早生まれの学年)から4つ下の学年になるという若さで、さらに、「代表」という肩書きが付くと、注目度が上がって、試合中の相手のマークがきつくなったり、味方に頼られるようになったりして、活躍できなくなるケースもあるので、『タイミングを見極めていた。』と記述している。
イビチャ・オシムさんも、川崎Fの選手を日本代表に初召集するときは、関塚監督に「この選手を日本代表に呼んでもいいか?」という質問をして来たという。日の丸を背負うことで自分の可能性を再認識する選手がいる一方で、プレッシャーに感じて、マイナスに作用することもあるので、タイミングを見極めることは、非常に大事であると語られている。
■ 「外す」という行為その反対で、『(スタメンや代表チームから)選手を外す時も慎重に決断を下した。』と書かれている。チームの流れが悪い時に、1人の選手だけを入れ替えると、「その選手だけの責任」と取られてしまって、選手がダメージを負うことがある。そのため、「特定の選手に責任があるかのようなメンバー変更はしなかった。」と振り返っている。
サポーターは、「○○を代表に呼んだらどうか?」、「○○をなぜ呼ばないのか?」という話をよく口にするが、新たに誰かを日本代表に呼ぶということは、イコール、誰かを外すことにつながる。「外す」という行為に関して、現場の監督は、外野の人間が思っている以上に気を使っているようで、U-23のような若い世代の代表チームになると、なおさら、気を使う必要がある。
今回の五輪代表でいうと、当初はボランチはMF山村が軸になっていたが、アジア最終予選の途中からC大阪のMF扇原が軸となった。MF山村に関しては、傍から見ていても、「かなり気を使っている。」と思うほど、レギュラーから外した後も丁重に扱っていたが、一度はキャプテンを任せた選手ということもあって、関塚監督は相当に扱いに苦心したと想像できる。
■ 代表選手にふさわしい振る舞いそれ以外では、「ステータスをしっかりと自覚させる。」という話も印象に残った。若い世代なので、血の気が盛んで、エネルギーを持ってトレーニングに打ち込んでくることは意味のあることだが、「表現の仕方を間違えてはいけない。」と書かれていて、プロの選手なので、「サッカー以外のところでの言動や振る舞いなども重要である。」と述べている。
実際に五輪代表でも、練習中に選手がヒートアップし過ぎて、言い争いになったことが何度かあったという。川崎Fのときも、こういうことは何度かあったので、『いいチームを作っていく段階では、そのくらいの本気度が必要である』と述べているが、その一方で、『見境なく感情をぶつけていいというわけではない。』とも書かれている。
具体的な時期や選手名は書かれていないので、推測になるが、そういえば、五輪代表の合宿で、練習中に2人の選手が言い争いになったことが、メディアに大きく取り上げられたことがあった。争いになった2人は、能力を高く評価されており、五輪代表の中核になることが期待された時期もあったが、なかなか五輪代表には召集されず、「ようやく呼ばれた。」というときに、イザコザが起きた。
結局、2人とも、この合宿に呼ばれただけで、アジア予選や本大会のメンバーに選ばれることはなかった。「自己主張する選手をうまく扱う自信がないので、関塚監督は五輪代表に呼ばないのではないか?」という憶測もあったが、ここで書かれていることが、彼らのことを指しているであれば、能力的な問題というよりは、振る舞いがNGだった可能性も十分に考えられる。
■ いざという時の団結力関塚監督は鹿島でコーチをしていた時期の長い指導者ということもあって、ジーコという名前が文中によく出てくる。「ジーコスピリット」が全ての根底にある指導者と言えるが、現役時代のジーコは「プロフェッショナルとは何か」をチームに植え付けようとしていたという。「大きくなったら、ああいう選手になりたい。」と思ってもらうことも、プロとして大事なことだと関塚監督は考えている。
もちろん、監督やコーチの言うこと全てを受け入れる必要はない。「いい子たち」ばかりでは強いチームは作れないが、一匹狼のような選手が集まった集団よりも、チームのために頑張れる選手が集まった集団の方が、いざという時に力を発揮できる可能性は高い。関塚監督も「ファミリー」という言葉を使って、五輪代表をファミリーにしようと力を注いだようだ。
ジーコ監督が率いたチームがドイツW杯で内部崩壊を起こして、0勝2敗1分けという不本意な成績でGLを突破できなかったのは、皮肉な感じもするが、2010年の南アフリカW杯しかり、2012年のロンドン五輪しかり、近年の日本代表チームは、サッカー選手としての能力が高いだけでなく、人間的な魅力を持った選手が増えてきて、「団結力」というのが、日本代表チームの強みになっている。
そして、この本を読んでいくと、偶然、同じ時期にそういう選手たちが現れたわけではないことも分かる。若年層の代表の頃から、人間力の高い選手を優遇したり、人間力が高まるようなトレーニングをしたり、地道なところから働き掛けをしてきたことが、精神的に大人な選手を生み出して、近年の日本代表の国際大会での活躍につながっていると考えられる。
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