■ 準決勝第90回となる全国高校サッカー選手権の滋賀大会の準決勝で、7年連続で8度目の「全国」を目指す野洲高校と、15年ぶりの「全国」を目指す水口高校が皇子山で対戦した。今年の滋賀大会は「48チーム」が参加し、野洲、水口、守山、守山北の4チームが準決勝に進んでいる。
2005年大会で、FW青木孝、MF乾、MF楠神らを擁して全国制覇を成し遂げた野洲高校は「第一シード」で、2回戦で八幡商に「3対0」、3回戦で八幡に「4対0」、準々決勝で立命館守山に「3対0」で勝利し、順当に「ベスト4」に進んできた。一方、水口はノーシードで、1回戦は愛知に「19対0」、2回戦は瀬田工業に「4対2」、3回戦は水口東に「2対1」、準々決勝は綾羽に「3対2」で勝利して、3年ぶりに「ベスト4」に進出してきた。
野洲は「2-6-2」。GK細川。DF飯田、中村。MF平山、松田、望月、武田、玉置、布施。FW高野、山口。注目は背番号「10」を背負うボランチのMF望月嶺臣で、今年の7月にメキシコで開催されたU-17W杯の日本代表メンバーで、将来を嘱望されているゲームメーカーである。対する水口は「4-4-2」。GK井澤。DF平山、利田、北大路、堀内。MF夏山、清水、白上、安井。FW中嶋、奥川。13ゴールを挙げているエースのFW井原は出場停止でスタンド観戦となった。
■ 野洲が決勝進出試合は開始早々に水口がビッグチャンスを作る。高い位置でボールを奪ってゴール前にボールを運ぶと、飛び込んできたMF安井が左足でシュートを放つ。このシュートはヒットせず、野洲のGK細川は「枠外」と判断して見送るが、想像以上に際どいコースに飛んでいて、右のポストに直撃。跳ね返ったボールはGK細川が処理するが、野洲にとって「ヒヤッとするシーン」だった。
先制パンチを浴びせることに成功した水口だったが、その後は、ポゼッション力で優る野洲のペースとなる。MF望月を中心にパスを回して相手の守備を崩しにかかると、前半18分に先制ゴールを生まれる。右サイドでボールを持ったMF布施がスピードに乗ったドリブルで二人・三人とDFをかわして、ペナルティエリア内のFW山口にパスを送ると、FW山口もディフェンスをかわしてから左足で決めて先制する。さらに、前半31分にはMF望月の絶妙の裏へのパスを受けたFW高野が左足で豪華に蹴りこんで「2対0」とリードを広げる。前半は「2対0」で野洲がリードして折り返す。
後半になると、水口の運動量が落ちてきて、さらに野洲の支配率が高まって、攻め込む時間が続く。なかなか、追加点は挙げられなかったが、後半35分に左サイドを崩してから、途中出場のFW加藤が決めて3点目を挙げると、後半のロスタイムにも、FW加藤がダメ押しの4点目を挙げる。結局、試合は「4対0」で野洲が勝利。7年連続で決勝進出を決めて、守山北と決勝戦で対戦することになった。
■ 水口は決勝進出ならず・・・ジーコ監督時代に日本代表のフィジカルコーチだった里内猛氏の母校でもある水口高校は「古豪」として知られており、過去、何度も全国大会に出場している。サッカー部も100年以上の歴史を持つということで、伝統のあるサッカー部であるが、序盤は積極的なディフェンスを見せて、野洲がビルドアップするところを狙って、惜しいシーンを作った。
野洲は、「攻」から「守」への切り替えは見事で、プレスも激しいが、守備に人数をかけないチームなので、高い位置でボールを奪うことができると、ビッグチャンスになることが多い。なので、序盤は、水口のプラン通りだったと思うが、徐々にボールを回されるようになって、後手後手になった。後半は「疲れ」も出て来て、ボールを奪えなくなって、チャンスも作れなくなった。
水口は、キャプテンのDF平山は185センチの長身ということで、背の高い選手の少ない野洲が相手ならば、セットプレーでチャンスを作れそうな雰囲気があったが、なかなか、セットプレーの機会を得ることができず、高さ勝負に持ち込む回数は少なかった。優勝候補の1つと言われた綾羽高校を準々決勝で下すなど、旋風を巻き起こしていたが、ここで敗退となった。
■ プレーメーカーのMF望月嶺臣2005年に全国制覇した野洲は、あれから、ずっと冬の高校選手権に出場しており、今年も出場権を得るようだと、県大会は「7連覇」となる。滋賀県の高校というと、草津東、守山北、水口、守山と名の知れた学校は多く、11年前の第79回大会で草津東が決勝に進出している。このときは、決勝戦で、MF大久保嘉人率いる国見に敗れたが「準優勝」に輝いて歴史を作ったが、ここ最近は、野洲の独壇場になっている。
注目のMF望月は、2点目のFW高野のゴールをアシストし、1点目、4点目のゴールも起点となった。身長は165センチしかないが、「センスの塊」のような選手で、野洲の攻撃は、MF望月から始まることがほとんどである。野洲の選手は、みんなテクニックがあって、ドリブルも、パスも上手であるが、その中に入っても、MF望月は「ワンランク上」の次元でプレーしており、彼がボールを持つと、攻撃のリズムが良くなって、スムーズになる。
相手にとって難しいのは、ここにプレッシャーをかけないとMF望月に好き放題されてしまうが、プレッシャーをかけても、動じないだけの技術があるので、MF望月に意識を集中しすぎると、フリーになった他の選手をうまく使われて、「逆効果」となることということが、容易に想像できる。フリーにするのはダメであるが、徹底マークするのも効果的ではなく、MF望月のところに、どのくらいのプレッシャーをかけるのが適当なのかは、試合をしながら見つけていくしかない。
プレースタイルは、本当に、バルセロナのシャビに似ている。体の大きさも同じくらいであるが、技術だけでなく、判断の早さも、素晴らしいものがあって、体の小ささも、マイナスになっていない。魅力的なのは、ボールを回すだけでなく、相手に隙があれば、ボランチのポジションからゴール前に「ラストパス」を送ることもできる点で、ラストパスのセンスも備えている。まだ2年生なので「進路」が決まるのは「まだ先」であるが、果たしてどういう道を選ぶのか、興味深い。
■ 「2-6-2」へのチャレンジ①野洲高校というと、「セクシー・フットボール」というフレーズが代名詞になっている。優勝したときのチームには、FW青木孝(千葉)、MF乾(ボーフム)、MF楠神(川崎F)、MF荒堀(横浜FC)、DF内野(京都)、DF田中雄(川崎F)、MF村田(C大阪)ら、プロ入りした選手がたくさんいたが、「実践的な選手」が多いのが特徴である。「技術」が高いのはもちろんであるが、試合中に使える技術を備えている選手が多いので、どのチームでも重宝されるのだろう。
毎年、選手権に出ているので、『野洲のサッカーを観るのを楽しみにしている』という人は多いと思われるが、今年は「2-6-2」という特異なシステムにチャレンジしている。「2バック」といっても、サイドバックか、ボランチの誰かが「最終ライン」まで下がってきて、実質、4バックになっていたり、3バックになっているケースがほとんどであるが、今年の野洲は、正真正銘の「2バック」で、ほとんど見たこともない「サッカー」になっている。
もちろん、どうしようもないときは、MF松田が下がってきてCBをサポートするが、基本的には、最終ラインを構成するのは、CBの二人だけで、サイドバックも、ウイングバックも、存在しないに等しい。これで勝てるかどうか?は微妙な気もするが、今年の野洲は、今まで以上に特殊なサッカーをしているので、もし、全国大会への出場が決まったら、是非ともチェックして欲しいところである。
■ 「2-6-2」へのチャレンジ②個人的には、こういう常識から少し外れたようなサッカーは好きなので、全国大会でも結果を出してほしいと思うが、「2-6-2」は、まだ成熟はしていない。右サイドにはMF布施、左サイドにはMF武田という突破力のある選手を置いて、サイド攻撃が武器になっているが、DFラインを2枚にして「超攻撃的なサッカー」をしている割には、ゴール前の人数は少なめで、ゴール前で迫力を欠くシーンが目立つ。「ハイリスク」のサッカーをしているが、「ハイリターン」とまではいかず、現状は、「リターン」よりも、「リスク」の方が大きなサッカーになっていると感じる。
キーになるのは、CBの二人である。野洲らしくテクニックのある選手を前に並べているが、極めてリスクの高いサッカーで、変なところでボールを失うと、「2対2」とか、「3対2」になっていることが多い。どの選手も「守備意識」は高いので、奪われても、すぐに奪い返すだけの力はあるが、数的不利な状況を作られたとき、持ちこたえて時間を稼ぐプレーが必要であり、CBの二人には、「守備力」と「判断力」と「集中力」が高いレベルが要求される。
もちろん、最終ラインからつないでいくサッカーなので、CBには、攻撃の起点になるプレーも期待されている。よって、仕事量の多いポジションになっていて、この試合は、CBが二人とも後半に足を攣ってしまったが、それも仕方がないと思えるほどである。プレーしている選手の立場で考えると、自分のプレーが勝敗に直結する大事な役割を与えてもらっているので、やりがいを感じるだろうが、アンバランスなサッカーになっていて、CBが攻守にわたって「スーパーな活躍」をしないと、全国で勝ち進むのが難しそうなサッカーになっていると感じる。「2バック」という試みは非常に面白いので、もう少し全体のバランスを調整して、モデルチェンジを図ってほしいところである。
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本日、選手権予選準決勝が皇子山陸上競技場で行われました。
第一試合
野洲高校4:0水口高校
前半2:0
後半2:0
第二試合
守山北高校2:1守山高校(延長)
前半1:1
後半0:0
延前0:0
延後1:0
11月19日(土)の決勝戦は 野洲高校vs守山北?..
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