■ 第29節J2の第29節。13位のザスパ草津と、9位の大分トリニータが前橋市の正田醤油スタジアムで対戦。草津は10勝12敗3分けで勝ち点「33」。大分は9勝8敗8分けで勝ち点「35」。中位争いは熾烈で、草津はこの試合で勝つと、大分を上回ることができる。大分はここ5試合で3勝1敗1分けと好調を維持している。
ホームの草津は「4-2-2-2」。GK北。DF古林、中村、御厨、永田。MF松下、戸田、後藤、熊林。FWアレックス、小林。ストライカーのFWリンコンは怪我のため欠場。FW萬代がスタメン落ちして、FWアレックスが先発復帰。FWアレックスは今シーズン6ゴールを挙げている。
対するアウェーの大分は「3-4-3」。GK清水。DF池田、姜成浩、イ・ドンミョン。MF井上、宮澤、三平、チェ・ジョンハン。FW刀根、森島康、西。マルチプレーヤーのMF土岐田とFW前田俊は出場停止。FW前田俊は合計6試合の出場停止の処分が下されている。日本代表に招集された経験のあるFW森島康はリーグ戦で7ゴールを挙げている。
■ 1対1のドロー前半はアウェーの大分ペースとなる。ボランチのMF宮沢が起点になって攻撃を仕掛けていく。MFチェ・ジョンハンやFW西のドリブルも「いいアクセント」になって、大分が優勢で試合は進んでいく。草津は、7月にチームに加入してきたFW小林がいい形でボールを持ったとき、チャンスになりそうな雰囲気があったが、その回数自体は少なくて、ビッグチャンスは作れなかった。
0対0で迎えた後半開始4分に、劣勢だったホームの草津が先制に成功する。DF古林が右サイドの奥でファールを受けてFKを獲得すると、トリックプレーを実施。MF熊林がグラウンダーのボールをゴール前に供給すると、最初に飛び込んできたDF永田はスルーして、その後ろに入ってきたDF御厨が右足で決めて草津が先制する。DF御厨は今シーズン初ゴールとなった。
ビハインドとなった大分は、MF永芳、MF為田ら技術のある選手を投入に支配率を上げていくと、さらに後半36分にはリオ世代のDF松原を投入。DFイ・ドンミョンのポジションを前に上げて、前線に高さを加える。これが実ったのが、後半40分で大分に同点ゴールが生まれる。
FW西が右サイドで起点になって、MF三平にパスを送ると、MF三平が右足でクロス。これを、DFイ・ドンミョンが草津のMF松下に競り勝って見事なヘディングシュートを突き刺して同点に追いつく。岡山から移籍してきたDFイ・ドンミョンは今シーズン初ゴールとなった。その後も、追いついた大分が決定機を迎えるが、最後のところで、草津のGK北が踏ん張って2点目のゴールは許さず。結局、試合は1対1のドローで終了した。
■ いい時間帯に攻めきれず雨の中で行われた中位チーム同士の対決は、なかなか見応えのある試合となった。
草津は、前節アウェーで京都サンガに1対3で完敗を喫したが、そのメンバーからDF柳川とFW萬代を外して、DF中村とFWアレックスを先発で起用してきた。京都戦では、後半から登場したFWアレックスが前線で起点になって、ようやく厚みのある攻撃が可能となったので、FWアレックスに期待がかかったが、この日はFWアレックスに本来のキレは見られず、FWアレックスに見せ場は訪れなかった。
その代わりに、前半で「いいプレー」を見せたのは2トップの一角で起用されたFW小林で、回数自体は少なかったが、いいところでボールを受けて、前線と中盤の潤滑油になろうと奮闘した。FW小林には、2009年シーズンの後半に見せた「得点力」を期待したいので「シュートチャンス」がほとんどなかったのは残念だったが、動き自体は悪くなかった。
あまり良くなかった前半を0対0でしのぐと、草津は後半4分にDF御厨のゴールで先制する。かなり練習していたと思われるトリックプレーがものの見事に決まると、草津のイレブンにも「エネルギー」が湧いてきて、キーマンのMF熊林にボールが渡る回数が激増した。後半20分あたりまでは、草津がリズムをつかんでいたので、この時間帯にもっと押し込みたかったが、思うように攻めきれなかった。この点が、終盤に追いつかれた一因となった。
■ ザスパのベストの布陣は?草津は、7月にFW小林が加入し、元日本代表のMF戸田も怪我から回復してきたが、エースのFWラフィーニャがG大阪に移籍し、チームを再構築する必要が出てきた。最終ラインは、右SBのDF古林、左SBのDF永田というロンドン世代の二人がまずまずのプレーを見せていて、レギュラーポジションをつかんだが、中盤から前にかけては、定まっていないポジションがいくつか存在する。
当然のことながら、チームの中心であるMF松下、MF熊林、FWアレックスの3人は「ほぼ決まり」なので、残った3つのポジションにどういう選手を起用するかであるが、FWリンコンにしても、MF後藤にしても、FW小林にしても、MF前田にしても、決め手に欠けているので、副島監督もベストの布陣を見つけられないままである。個人的には、ボランチはMF戸田ではなくて、運動量のあるMF櫻田の方がベターで、2トップについても、できればFWアレックスとFWリンコンのコンビで固定したいところであるが、怪我人もいて、試行錯誤の状態が続いている。
草津は、ここ数年、MF松下、MF熊林、MF櫻田の3人が中盤のコアメンバーになっていて、そこに、FWラフィーニャやFWアレックスといった「個の力」のあるブラジル人選手が加わってきて、彼らが融合しつつあったところで、FWラフィーニャをガンバ大阪に引き抜かれてしまったので、ツライところであるが、お金の問題もあるの仕方がない。「昇格」を考えると厳しい位置であるが、8位のギラヴァンツ北九州との差は「3」のみである。シーズン終盤まで離されずに付いていってほしいところである。
■ 田坂監督の「3-4-3」とは?一方の大分は、6月26日の第18節から「3-4-3」を採用しているが、ここまでは7勝3敗5分けと好成績を残している。シーズン途中にいきなりシステム変更を行ったので、選手達も戸惑ったと思われるが、想像以上にうまく「3-4-3」を機能させている。
「3-4-3」というと、最近では、ザッケローニ監督の日本代表や、ガスペリーニ監督のインテルも、このシステムを用いているが、大分の「3-4-3」は、「3-2-4-1」のように見せるもので、中央にターゲット役のFW森島康がいて、MF三平、FW刀根、FW西、MFチェ・ジョンハンが、その近くでプレーするという感じになっている。4人の中で、FW刀根を除く3人は「ストライカー」あるいは「アタッカー」に分類される選手であるが、右サイドにMF三平、左サイドにMFチェ・ジョンハンを配置しているのが、最大の特徴である。
ザッケローニ監督の「3-4-3」に当てはめると、内田あるいは長友が任されていたポジションにMF三平やMFチェ・ジョンハンを起用しているので、いかに「攻撃重視の陣容」なのかは容易に判断できるが、(意外と言っては失礼だが、)うまくバランスが取れていて、サイドの裏を突かれるシーンは、ほとんどなかった。
持ち味である攻撃のときは、MF三平も、MFチェ・ジョンハンも中に入ってきて、チャンスに絡もうとするので、ゴール前は厚みがある。相手からすると、どこから誰が出てくるのか、分かりにくい配置なので、しっかりとマークするのは大変だと思われる。
■ 大胆なコンバート「3-4-3」にも絡んでくるが、田坂監督のもう一つの特徴は、大胆なコンバートにある。
「3-4-3」に向いた選手を他チームから引っ張って来る「資金力」は無いチームなので、やり繰りする必要があるが、昨シーズンは、最終ラインでプレーすることが多かったユース出身で2年目のFW刀根をフォワードで起用している点が、まず目に付く。高さはあるので、3トップの真ん中に置くならば、まだ理解できるが、FW刀根のポジションは右ウイングがメインになっていて、スタメン表を見ると「ミスマッチ」を感じるが、実際に見ると、それほどの違和感を感じさせない。
もう一つ、フォワードのDFイ・ドンミョンを3バックのストッパーで起用しているのも、普通では考えにくいことである。DFイ・ドンミョンとFW刀根を同時に起用するのであれば、DFイ・ドンミョンをフォワードで起用し、FW刀根をストッパーで起用した方がしっくりくると思うが、田坂監督は適性を考えて違ったポジションで起用していて、DFイ・ドンミョンについては、急造のストッパーとは思えないほどの「守備力」も見せていて、田坂監督によって、新たな一面が引き出されたといえる。
■ 3バックの復活サッカーの世界は「移り変わり」が激しいので、新しいものもすぐに古くなるし、「時代遅れ」とみなされていたものが、「最新のもの」として再登場することも珍しくない。「3バック」と「4バック」の関係は、その典型で、数年前までは「3バックは時代遅れである。」と言われたが、最近では「攻撃的な3バック」を採用するチームが、少しずつ出て来ている。Jリーグでは、サンフレッチェ広島は、ずっと3バックで戦っているが、京都、富山、岡山、大分の4チームも、本格的に3バックにチャレンジしていて「独自性」を出してきている。
4バックの場合は、バリエーションは、それほど多くないと思うが、3バックになると、配置にしても、役割にしても、様々なパターンが考えられるので、「各チームでそれぞれ」となっていくので、同じスタイルのチームを、他に見つけることも容易ではない。90年代後半から00年代の始めにかけて「3バック」は絶滅しかけたが、ちょうど、今、「3バック」が復活しつつあって、時代の変化を感じさせる。サッカー的には「面白い時代」に入ってきている。
関連エントリー 2009/04/27
【草津×東京V】 雨の中のスタンドで・・・ (生観戦記 #4) 2010/11/22
???で理解に苦しむサッカーコラム 2011/02/26
3バックにチャレンジするチーム 2011/06/01
【日本×ペルー】 3-4-3システムは不発 2011/06/08
【日本×チェコ】 生きないMF内田篤人とMF長友佑都 2011/06/08
日本代表のFWの軸は誰がベストだろうか? 2011/09/13
【パレルモ×インテル】 「3-4-3」に挑戦する長友佑都
- 関連記事
-